説明

潜熱蓄熱貯湯槽及び給湯装置

【課題】貯湯タンク内に温度成層を形成でき、かつ潜熱蓄熱材の蓄熱能力を十分に利用して、貯湯タンクを小型化する。
【解決手段】貯湯タンク2と、貯湯タンク2の底部に加圧水が供給される給水口3と、貯湯タンク2の頂部の高温水を給湯場所に出湯する出湯口4と、貯湯タンクの底部の低温水を抜き出して加熱して頂部に戻す循環管5a、5bとを備え、貯湯タンク2は、出湯口から給水口に向かって高温から低温に転移温度が異なる複数の潜熱蓄熱材8a,8bが層状に充填され、出湯口と給水口との間で貯湯タンク内に流通される水が潜熱蓄熱材8a,8bと熱交換可能に形成されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、給湯装置の貯湯槽に潜熱蓄熱材を充填した潜熱蓄熱貯湯槽に関する。
【背景技術】
【0002】
給湯装置の貯湯槽は、一般に、縦型円筒状の貯湯タンクの底部から貯湯タンク内の水を抜き出して、加熱源であるヒートポンプ装置や太陽熱集熱装置に導いて加熱し、加熱した高温水を貯湯タンクの頂部に戻して貯湯するように構成されている。また、洗面所や風呂などの使用場所への給湯は、貯湯タンク底部に接続された上水道の給水管の水圧により、貯湯タンク頂部の高温水を押し出して供給するようにしている。
【0003】
このような貯湯タンクにおいては、風呂や洗面などの使用場所への給湯温度は通常、40〜60℃であり、上水道の給水温度は普通、0〜20℃である。したがって、中間の20〜40℃の温水(以下、中温水という。)は、高温水を混ぜるなどして加熱しないと、給湯することができないから、貯湯タンク内の中温水の量をできるだけ少なくすることが望ましい。
【0004】
そこで、従来から、貯湯タンクの上下方向に積極的に「温度成層」と称される温度分布を形成し、その温度勾配を急激にする工夫が行われている。例えば、貯湯タンク下部に高温水があると自然対流が発生して、上下間の温度が均一化してしまうため、上部が高温で、下部が低温になるように、貯湯する場合は下部から低温水を取り出して加熱し、上部へ高温水を流し込むようにしている。これにより、上部と下部の温水が混じり合うのが抑制され、中温水の発生量を少なくすることができる。さらに、貯湯タンク内の中温水を取出して高温水に混ぜて給湯温度を調整することにより、できるだけ早く中温水を消費することも提案されている(特許文献1)。
【0005】
一方、潜熱蓄熱材を貯湯タンク内に充填して蓄熱密度を高めて、貯湯タンクの容積を小型化することが提案されている(特許文献2)。ここで、同文献の潜熱蓄熱材は、貯湯温度範囲で融解・凝固する物質であり、その相転移の際に吸収・放出する転移熱を利用して蓄熱するものである。同文献によれば、潜熱蓄熱材を非水溶性の容器(例えば、カプセル)に内包させて球のような塊状に形成して貯湯タンク内に充填し、潜熱蓄熱材の充填層に温水を流通させて蓄熱ないし放熱させるようにしている。
【0006】
さらに、同特許文献2には、給湯の際に貯湯タンク上部から出湯される高温水の温度を下げるために混合する上水道の給水温度が冬季よりも夏季が高いことに鑑み、夏季には貯湯タンク上部の高温水の設定温度を下げることが記載されている。この場合にも潜熱蓄熱材の蓄熱能力を発揮させるため、転移温度である融点が低い潜熱蓄熱材を貯湯タンクの上部側に充填し、下部側に融点が高い潜熱蓄熱材を充填することを提案している。これにより、夏季、冬季に拘わらず潜熱蓄熱材の蓄熱能力を有効に利用できるとしている。
【0007】
一方、貯湯槽ではないが、潜熱蓄熱材を用いた蓄熱槽が提案されている(特許文献3、4)。特に、特許文献4には、空調機の冷熱又は温熱を蓄熱する蓄熱槽に、転移温度が高・低2種類のカプセル状の潜熱蓄熱材を混合して充填しておき、冷熱蓄熱時は冷凍機により冷却したブラインを蓄熱槽に循環させて冷熱を蓄熱し、冷熱利用時は蓄熱槽内のブラインを空調機の熱交換器に循環させて空調機の冷熱媒を冷却するようにしている。また、温熱蓄熱・利用は、冷凍機を加熱機に代えて、同様にブラインを蓄熱槽に循環させて蓄熱するようにしている。特許文献5にも、特許文献4と同様の空調機の冷熱、温熱の蓄熱槽が記載されている。
【0008】
ここで、本明細書において用いる潜熱蓄熱材は、物質の転移にともなう熱(転移熱)を利用して蓄熱する蓄熱材をいうものとする。転移は物質に固有な一定又は一定範囲の温度、圧力のもとで現れる。これらの温度、圧力はそれぞれ転移温度、転移圧力と呼ばれ、両者を組み合わせて転移点という。また、物質の転移は、温度、圧力、外部磁場、成分比などの変数の変化によって物質が異なる相に移る現象で、原子、分子、などのミクロの構成要素の相互作用による協力現象である。物質の転移には様々な態様があり、第1種相転移、第2種相転移、分解融解、相分離、変態、多形などの転移が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−198708号公報
【特許文献2】特開2000-121158号公報
【特許文献3】特公昭58−56080号公報
【特許文献4】特開平11−63578号公報
【特許文献5】特開2001−241706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、特許文献2に記載の従来技術は、貯湯タンクに充填する潜熱蓄熱材の蓄熱能力を十分に利用することについて配慮されていないという問題がある。すなわち、貯湯タンクに形成する温度成層は、貯湯タンク上部は高温(例えば、60〜90℃)、下部は温度を低く(例えば、35℃未満に)維持するようにしている。このように、貯湯タンク下部の温度を低くする理由は、給湯装置の加熱源であるヒートポンプ装置の通常運転の成績係数(COP)を高くするためである。例えば、炭酸ガス式ヒートポンプ装置では、貯湯タンク下部より低温水を取り出し、取出した低温水を炭酸ガス式ヒートポンプ装置で加熱して高温水にして、貯湯タンクの頂部に戻しており、その加熱される低温水の温度が30℃未満であれば、COPを3以上とすることができるが、貯湯タンク下部の低温水の温度が40℃以上になるとCOPが1未満に低下してしまうとされている。
【0011】
一方、ヒートポンプ装置は、急激な加熱が苦手であるから、湯切れを防止するために貯湯タンク上部の所定量(例えば、数十リッター(L))の温水を高温に保持するようにしている。つまり、貯湯タンクでは、上部の所定量を高温に維持しながら、下部の温水を低温(例えば、35℃以下)に維持し、さらに中温水量を少なくするように、急激な温度勾配を有する温度成層を形成することが望まれている。
【0012】
しかし、特許文献2に記載のように、単一の潜熱蓄熱材を充填した貯湯タンクの場合は、上部の潜熱蓄熱材は導入される高温水により融解して蓄熱するが、下部に向かうに従って温水の温度が低下して潜熱蓄熱材の転移温度よりも低下する。そのため、特許文献3に記載のように、下部側の潜熱蓄熱材が融解しないと、潜熱による蓄熱効果が生じないので、貯湯タンク内に充填された潜熱蓄熱材の蓄熱能力を十分に利用できないという問題がある。
【0013】
なお、特許文献2には、貯湯タンクの上部側に転移温度が低い潜熱蓄熱材を充填し、下部側に転移温度が高い潜熱蓄熱材を充填することが記載されている。しかし、転移温度が高い潜熱蓄熱材の温度よりも低下する下部側では、潜熱による蓄熱効果を期待できないから、充填した潜熱蓄熱材の蓄熱能力を十分に利用できないという問題に変わりはない。
【0014】
一方、特許文献4、5に記載の空調機用の蓄熱槽は、転移温度が高・低2種類のカプセル状の潜熱蓄熱材を混在させて充填し、低温又は高温のブラインを切り替えて蓄熱槽に循環させることにより冷熱又は温熱を蓄熱することができる。しかし、給湯装置の貯湯槽の技術とは異なり、それら文献4、5に記載の蓄熱槽は、冷熱又は温熱の蓄熱を1つの蓄熱槽で共用しているから、低温と高温の2種類の潜熱蓄熱材の蓄熱能力を十分に利用できないという問題がある。つまり、低温と高温の2種類の潜熱蓄熱材の転移温度(凝固点)を冷熱蓄熱に合わせて低い温度に設定すると、その低い温度で温熱蓄熱時に転移(融解)してしまうから、温熱蓄熱に潜熱を利用できない。逆に、低温と高温の2種類の潜熱蓄熱材の転移温度(融点)を温熱蓄熱に合わせて高くすると、冷熱蓄熱時には潜熱蓄熱材が高温で転移(凝固)してしまうので、冷熱蓄熱に潜熱を利用できない。このように、特許文献4、5に記載の技術によれば、1つの蓄熱槽で冷熱又は温熱の潜熱蓄熱を行うために、低温の潜熱蓄熱材を冷熱の蓄熱用、高温の潜熱蓄熱材を温熱の蓄熱用として使い分けなければならず、結果的に蓄熱槽が大型化するという問題がある。
【0015】
本発明が解決しようとする課題は、貯湯タンクに潜熱蓄熱材を充填してなる潜熱蓄熱貯湯槽において、貯湯タンク内に温度成層を形成でき、かつ潜熱蓄熱材の蓄熱能力を十分に利用して、貯湯タンクを小型化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するため、本発明の潜熱蓄熱貯湯槽は、貯湯タンクと、該貯湯タンクの底部に加圧水が供給される給水口と、前記貯湯タンクの頂部の高温水を給湯場所に出湯する出湯口と、前記貯湯タンクの前記給水口側の低温水を抜き出して加熱して頂部に戻す循環管とを備えてなり、前記貯湯タンクは、前記出湯口から給水口に向かって高温から低温に転移温度が異なる複数の潜熱蓄熱材が層状に充填され、前記出湯口と前記給水口との間で前記貯湯タンク内に流通される水が前記潜熱蓄熱材と熱交換可能に形成されてなることを特徴とする。
【0017】
このように、本発明によれば、貯湯タンクの出湯口から給水口に向かって高温から低温に転移温度が異なる複数の潜熱蓄熱材を層状に充填したことから、貯湯タンク内に形成する温度成層の温度分布に応じて、転移温度が高温から低温の複数の潜熱蓄熱材を選定して充填層を形成することにより、貯湯タンク内の温度成層を効果的に形成できる。また、熱交換により出湯口から給水口に向かって温水の温度が低下しても、給水口側に転移温度が低い潜熱蓄熱材の充填層が順次設けられているから、給水口側の低温の潜熱蓄熱材が転移して潜熱による蓄熱効果を発揮することができる。したがって、各充填層の潜熱蓄熱材の蓄熱能力を十分に利用することができるから、蓄熱密度を高めて貯湯タンクを小型化することができる。
【0018】
この場合において、貯湯タンクの最も出湯口側に近い部位に充填する潜熱蓄熱材としては、給湯の需要温度範囲(例えば、40〜60℃)の転移温度で、かつ、可能な限り高い転移温度(例えば、58℃)のものが好ましい。なお、給湯の需要温度よりも高い転移温度(例えば、60〜90℃)でもよいが、加熱源から導入される高温水の最低温度(ヒートポンプの場合は、約70℃)よりも高い転移温度の潜熱蓄熱材は、潜熱蓄熱を利用できない場合があるから好ましくない。一方、貯湯タンクの最も給水口側に近い部位に充填する低温の潜熱蓄熱材の転移温度は、効果的な貯湯をするために設定される給水口部の上限温度(限界入水温度ともいう。例えば、30〜40℃、通常は35℃)より低くなければならない。また、給水温度(例えば、20℃)よりもできるだけ転移温度の高いものが、潜熱蓄熱を利用できるので好ましい。
【0019】
前記潜熱蓄熱材として、それぞれ潜熱蓄熱材の素材を非水溶性の伝熱材からなる殻に封じ込めて塊状又は粒状に形成したものを用い、前記貯湯タンク内に流通される水を塊状又は粒状に形成された前記潜熱蓄熱材の充填層の空隙に流通させて前記潜熱蓄熱材と熱交換する構成とすることができる。
【0020】
また、これに代えて、前記潜熱蓄熱材として、それぞれ潜熱蓄熱材の素材を用い、各潜熱蓄熱材の充填層をそれぞれ前記貯湯タンクの上下方向を仕切る仕切り部材により隔離し、前記出湯口と前記給水口とに連通された熱交換器を前記貯湯タンク内の前記複数の潜熱蓄熱材に接して設け、前記塊状又は粒状に形成された前記潜熱蓄熱材相互及び前記熱交換器との間に形成される隙間に伝熱性の液体を充填し、前記貯湯タンク内に流通される水を前記熱交換器に流通させて前記潜熱蓄熱材と熱交換する構成とすることができる。これによれば、各潜熱蓄熱材の充填層は、それぞれ貯湯タンクの上下方向を仕切る仕切り部材により隔離されているから、転移温度が異なる潜熱蓄熱材が混じり合うのを防止できる。また、潜熱蓄熱材相互及び前記熱交換器との間に形成される隙間に伝熱性の液体を充填することにより、潜熱蓄熱材と熱交換器との接触が密になるから、伝熱率を高くすることができる。
【0021】
さらに、熱交換器を用いたものによれば、潜熱蓄熱材が融解しても貯湯中に混入するのを防止できる。これにより、給湯を使用する人に対する安全性を確保できる。また、上水道の給水圧は熱交換器に加わるが、貯湯タンクの外殻には加わらないので、貯湯タンクの外殻の耐圧を低くでき、金属製の場合は肉厚を薄くできる。また、貯湯タンクの外殻を樹脂により形成することもでき、さらに円筒状に限らず、角筒状など任意の形状のものを用いることもできる。
【0022】
なお、潜熱蓄熱材の素材を非水溶性の伝熱材からなる殻に封じ込めて塊状又は粒状に形成し、かつ塊状又は粒状に形成された潜熱蓄熱材に接して上記の熱交換器を設けることができる。この場合は、塊状又は粒状に形成された潜熱蓄熱材相互及び熱交換器との間に形成される隙間に伝熱性の液体を充填することが好ましい。万一、非水溶性の伝熱材からなる殻が損傷して融解した潜熱蓄熱材が漏れ出しても、熱交換器により潜熱蓄熱材と隔離されているから、給湯を使用する人に対する安全性を確保できる。
【0023】
また、上記のいずれかの潜熱蓄熱貯湯槽において、前記複数の潜熱蓄熱材は、転移温度が高い高温潜熱蓄熱材と該高温潜熱蓄熱材よりも転移温度が低い低温潜熱蓄熱材の2種類とすることができる。この場合、前記貯湯タンクは、前記高温潜熱蓄熱材が充填された高温貯湯タンクと、前記低温潜熱蓄熱材が充填された低温貯湯タンクとに分割して並べて設置され、前記高温貯湯タンクの頂部に前記出湯口が設けられ、前記低温貯湯タンクの底部に前記給水口が設けられ、前記高温貯湯タンクの底部を前記低温貯湯タンクの頂部に連通する連通管を設けることができる。これによれば、高さが同じ貯湯タンクを用いて貯湯容量が同じ貯湯槽を形成する場合は、2本の貯湯タンクの径又は横幅と奥行きをそれぞれ小さくできる。通常、貯湯タンクは直方体の筐体内に断熱材で包囲して収納されるため、2本の貯湯タンクを並べて設置すると、筐体の設置スペースを横長の長方形にできるから、貯湯槽の設置場所の制限を緩和できる。
【0024】
また、高温潜熱蓄熱材と低温潜熱蓄熱材の容積比率は40%:60%が好ましいが、潜熱蓄熱材の潜熱蓄熱能力などの物性値に依存するので、高温と低温の2種類の容積比率の決め方は一概に言えない。物性値がほぼ同等の場合は40%:60%が適している。
【0025】
本発明の潜熱蓄熱貯湯槽を備えて給湯装置を構成する場合、前記貯湯タンクの底部の低温水を抜き出して加熱する加熱源としては、ヒートポンプ装置、太陽熱集熱装置、ガス又は灯油の給湯器のうちの少なくとも1つを適用することができる。つまり、ヒートポンプ装置、太陽熱集熱装置、ガス又は灯油の給湯器を、単独又は組み合わせて加熱源を構成することができる。ここで、ガス又は灯油の給湯器には、高効率の潜熱回収型ガス又は灯油の給湯器を適用できる。
【0026】
上記のいずれかの潜熱蓄熱貯湯槽において、前記貯湯タンクの前記給水口側の最下部に充填する前記潜熱蓄熱材の転移温度を、前記加熱源に応じて設定される限界入水温度以下に設定することが好ましい。
【0027】
また、上記のいずれかの潜熱蓄熱貯湯槽において、前記貯湯タンクの前記給水口側の充填層に充填される前記潜熱蓄熱材の転移温度を、前記給水口に供給される前記加圧水である上水道の水温よりも高い温度に設定することが好ましい。
【0028】
さらに、上記のいずれかの潜熱蓄熱貯湯槽において、前記貯湯タンクの前記出湯口側の充填層に充填される前記潜熱蓄熱材の転移温度を、前記出湯口から出湯する高温水の最低設定温度以上に設定することが好ましいが、少なくとも出湯口から出湯する高温水の最高設定温度以下に設定することが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、貯湯タンクに潜熱蓄熱材を充填してなる潜熱蓄熱貯湯槽において、貯湯タンク内に温度成層を形成でき、かつ潜熱蓄熱材の蓄熱能力を十分に利用して、貯湯タンクを小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態1の潜熱蓄熱貯湯槽を備えた給湯装置の系統構成図である。
【図2】図1の潜熱蓄熱貯湯槽に転移温度が異なる2種類の潜熱蓄熱材を充填した実施例1の貯湯時の貯湯タンクの温度分布の変化を示す図である。
【図3】図1の潜熱蓄熱貯湯槽に転移温度が異なる2種類の潜熱蓄熱材の組み合わせ及び容積比率を変えて充填した実施例1〜3と、単味の潜熱蓄熱材を充填した比較例1、2の貯湯終了時と給湯終了時の貯湯タンクの温度分布を示す図である。
【図4】図1の潜熱蓄熱貯湯槽に単味の潜熱蓄熱材を充填した比較例1、2、3の貯湯終了時と給湯終了時の貯湯タンクの温度分布を示す図である。
【図5】図1の実施形態の潜熱蓄熱貯湯槽に実施例1の潜熱蓄熱材を充填して中温水取り出しを行った場合の貯湯終了時と給湯終了時の貯湯タンクの温度分布を示す図である。
【図6】図1の潜熱蓄熱貯湯槽に転移温度が異なる2種類の潜熱蓄熱材の組み合わせ及び充填比を変えた実施例1〜3と、単味の潜熱蓄熱材を充填した比較例1、2の貯湯タンクの容積比率を対比して示す図である。
【図7】本発明の実施形態2の潜熱蓄熱貯湯槽を備えた給湯装置の系統構成図である。
【図8】本発明の実施形態3の潜熱蓄熱貯湯槽を備えた給湯装置の系統構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の潜熱蓄熱貯湯槽を備えた給湯装置の実施形態を説明する。
(実施形態1)
本発明の実施形態1の潜熱蓄熱貯湯槽を備えた給湯装置は、図1に示すように構成されている。図1に示すように、潜熱蓄熱貯湯槽1は、縦型円筒状の貯湯タンク2と、貯湯タンク2の底部に加圧水が供給される給水口3と、貯湯タンク2の頂部の高温水を給湯場所に出湯する出湯口4と、貯湯タンク2の底部の低温水を抜き出して加熱源6に導き、加熱された高温水を貯湯タンク2の頂部に戻す循環管5a,5bを備えて構成されている。縦型円筒状の貯湯タンク2は、貯湯容量に対して表面積が小さいから放熱を抑えることができるので有利である。しかし、貯湯タンク2は、縦型円筒状に限られるものではなく、多角形を含む角筒状、あるいは任意の形状のものであってもよい。角筒状の貯湯タンクの場合は、貯湯容量に対する設置面積を相対的に小さくできるので有利である。また、放熱を抑えるための断熱材を均一に配置するためには、断面長方形の貯湯タンクの方が都合がよく、特に、平板状の真空断熱材を適用できる。
【0032】
また、本実施形態では、加熱源6にヒートポンプ給湯装置を適用するものとして説明するが、加熱源6はこれに限られるものではなく、ヒートポンプ装置、太陽熱集熱装置、ガス又は灯油の給湯器のうちの少なくとも1つ、あるいはそれらを適宜組み合わせて用いることができる。ここで、ガス又は灯油の給湯器には、高効率の潜熱回収型ガス又は灯油の給湯器を適用できる。潜熱回収型ガス又は灯油の給湯器とは、ガス又は灯油の燃焼熱により水を加熱するだけでなく、給水直後の低温(例えば、35℃以下)の水を、燃焼熱利用後の排ガスに含まれる水蒸気が凝縮するときの潜熱と熱交換させて予熱することにより、通常のガス又は灯油の給湯器の熱効率を向上させた給湯器である。このような給湯器の場合も、限界入水温度が設定される。
【0033】
貯湯タンク2は、仕切り板7によって上部側と下部側に区分されている。貯湯タンク2の上部側には転移温度が高温の高温潜熱蓄熱材8aが素材のまま充填され、貯湯タンク2の下部側には転移温度が高温潜熱蓄熱材8aよりも低温の低温潜熱蓄熱材8bが素材のまま充填されている。また、貯湯タンク2内には、出湯口4と給水口3とに連通させて水が流通される熱交換器9が高温潜熱蓄熱材8aと低温潜熱蓄熱材8bに接して設けられている。熱交換器9は、例えば伝熱管をコイル状に多重に卷回したものなどを用いることができるが、特に水平方向の伝熱ができるだけすばやく行われる構成にするのが望ましい。
【0034】
なお、本実施形態では、転移温度が高温と低温の2種類の潜熱蓄熱材を貯湯タンク2の上部側と下部側に分けて充填した例を示したが、本発明は、これに限らず、貯湯タンク2の上部から下部に向かって高温から低温に転移温度が異なる複数の潜熱蓄熱材を、それぞれ仕切り板7で隔離して層状に充填することができる。
【0035】
また、貯湯タンク2の底部の給水口3に上水道などの給水管10が連通され、給水管10を介して水が補給されるようになっている。貯湯タンク2の頂部の給湯口4は給湯管11が連通され、給湯管11を介して高温水を使用場所に給湯するようになっている。一方、貯湯タンク2に収容された熱交換器9の途中に中温水取出し管12が連通されている。中温水取出し管12の取出し口は、貯湯タンク2の頂部から貯湯タンク2の例えば30%の位置に設けることができる。この場合、高温潜熱蓄熱材8aが占める割合は、貯湯タンク2の容積の20〜40%が適している。但し、取出し口の位置は、高温潜熱蓄熱材8aと低温潜熱蓄熱材8bの転移温度の組み合わせにより異なる貯湯タンク2内の温水の温度分布に基づいて定める。
【0036】
中温水取出し管12により抜き出される中温水は給湯管11から出湯される高温水に混合され、給湯温度を要求給湯温度(例えば43℃)以上に調整するようになっている。もし、給湯温度より給湯管11出口の給湯温度が高ければ、例えば、上水道からの低温の給水を混合して要求給湯温度に調整される。なお、図1には示していないが、給水管10には仕切り弁、循環管5にはポンプ、貯湯タンク2の頂部の給湯口4と循環管5及び給湯管11との連結部には流量調整可能な三方弁、中温水取出し管12と給湯管11の合流部には設定温度に基づいて流量調整可能な混合弁が、必要に応じて適宜設けられる。
【0037】
このように構成される実施形態の基本的な貯湯動作及び給湯動作を説明する。まず、給水管10を介して貯湯タンク2内の熱交換器9に水を張る。次いで、加熱源6を駆動し、熱交換器9の底部の給水口から循環管5aを介して水(例えば、0〜20℃)を抜き出して加熱源6に流通して加熱する。加熱された高温水(例えば、60〜90℃)は循環管5bを介して貯湯タンク2の頂部の出湯口4から熱交換器9に流れ込む。貯湯タンク2内の熱交換器9の上部に流入された高温水により、上部の高温潜熱蓄熱材8aに熱を移動させ、最初は熱容量による顕熱蓄熱が、続いて転移による潜熱蓄熱が行われ、潜熱蓄熱が終了すると、また顕熱蓄熱が行われる。潜熱蓄熱が行われている箇所の上部はすぐに貯湯タンク2に流入された高温水の温度に達し、その下部では下部に向かって低温になるようになだらかな温度分布が発生する。低温潜熱蓄熱材8bが充填されているところでも同様な状況になるため、同様な温度分布が発生する。貯湯タンク2の最下部の低温潜熱蓄熱材8bの潜熱蓄熱が終了し、最下部温度が設定上限温度に達したとき蓄熱が終了する。すなわち、加熱源6に流通する水の温度は設定上限温度以上にはならない。また、設定上限温度は低温潜熱蓄熱材8bの転移温度よりやや高めに設定されているので、高温潜熱蓄熱材8a及び低温潜熱蓄熱材8bの両方の潜熱蓄熱を伴って蓄熱される。また、この設定上限温度は、加熱源6にヒートポンプ給湯装置を用いた場合は、COPが1以下にならないように設定される。
【0038】
このようにして貯湯された湯は、貯湯タンク2の頂部の給湯口4に連通された給湯管11を介して使用場所に給湯される。このとき、給湯管11から出湯される高温水に、給水管10の低温の給水を混合して要求給湯温度(例えば43℃)以上に調整される。また、給水を混合することに代えて、中温水取出し管12により抜き出される中温水を、給湯管11から出湯される高温水に混合して給湯温度を要求給湯温度以上に調整するようにすることができる。なお、給湯温度の調整は、図1には示していないが、給湯管11と給水管10及び給湯管11と中温水取出し管12の合流部に設けられた流量調整可能な混合弁によって行うことができる。
【実施例】
【0039】
ここで、転移温度が異なる複数の潜熱蓄熱材、及び、高低2種類の潜熱蓄熱材を組み合わせて容積比率を異ならせた実施例1〜3に基づいて、実施形態1の蓄熱動作を説明する。なお、比較のために、表1にそれぞれ単味の潜熱蓄熱材の例を比較例1〜3として示す。また、潜熱蓄熱材の例として、酢酸ナトリウム三水和物(以下、酢酸ソーダと略称する。)、チオ硫酸ナトリウム五水和物(以下、チオ硫酸ソーダと略称する。)、硫酸ナトリウム十水和物(以下、ボウ硝と略称する。)を示したが、転移温度に応じて、これら以外にも水和物系の化合物を適用できることは言うまでもない。ここで、酢酸ナトリウム三水和物や硫酸ナトリウム十水和物などの水和物は殆ど包晶物質であり、低温から高温への変化のときに相分離に相当する分解融解を起こして転移する。
【表1】

【0040】
図2に、実施形態1の潜熱蓄熱貯湯槽の貯湯タンク2に充填する潜熱蓄熱材として実施例1の高温潜熱蓄熱材8aとして酢酸ソーダ、低温潜熱蓄熱材8bとしてボウ硝を組み合わせて用い、それらの容積比率を1:1(50%:50%)とした場合について、貯湯時の貯湯タンクの温度分布の変化を示す。なお、図2の温度分布の変化は熱計算により求めたものであり、横軸は熱交換器9(貯湯タンク2)の上部から下部までの位置を示し、縦軸はその位置における温水の温度を示している。図2において、蓄熱を開始する際、貯湯タンク2の熱交換器9の下部から冷水(例えば、10℃)を取出し、加熱源6により加熱して熱交換器9の上部に高温水(例えば、80℃)を流し込む。図2の曲線(1)に示すように、最初に蓄熱を開始する際、貯湯タンク2の上部の高温潜熱蓄熱材8aは低温(0〜20℃)であるため、高温潜熱蓄熱材8aである酢酸ソーダの熱容量により蓄熱(顕熱蓄熱)され、酢酸ソーダの転移温度(58℃)まで上昇する。この熱交換の作用は上部から下部に向かって高温水の温度を徐々に下げながら行われていくので、貯湯タンク上部になだらかな温度分布を発生させる。
【0041】
次に図2の曲線(2)に示すように、貯湯タンク最上部の温度が高温潜熱蓄熱材8aの転移温度になると、高温潜熱蓄熱材8aによる潜熱蓄熱が始まり、最上部の狭い範囲では転移温度を保持する。最上部のすぐ下部では温水は転移温度に達していないので、上述した熱交換による顕熱蓄熱の作用により、さらになだらかな温度分布を貯湯タンク上部に発生させる。
【0042】
次に、最上部の高温蓄熱材8aの潜熱蓄熱が終了すると、図2の曲線(3)、(4)に示すように、最上部では高温潜熱蓄熱材8aの顕熱蓄熱が始まり、温水温度は潜熱蓄熱温度より高くなるので、最上部のすぐ下部の狭い範囲で高温潜熱蓄熱材8aによる潜熱蓄熱が始まり、その部分の狭い範囲で温水温度は転移温度を保持する。転移温度を保持している箇所の上部では顕熱蓄熱による温度上昇があるため、熱交換器9に流れ込んでいる高温水の温度に比較的早く到達する。そのため、潜熱蓄熱が行われている箇所よりも上部で高温の温度成層が発生する。
【0043】
さらに、図2の曲線(5)に示すように、なだらかな温水の温度分布が低温潜熱蓄熱材8bであるボウ硝が充填されている層の最上部に到達し、ボウ硝による顕熱蓄熱が始まって、ボウ硝が充填されている層の最上部における温度が低温潜熱蓄熱材8bの転移温度(32℃)に達すると、低温潜熱蓄熱材8bの最上部で潜熱蓄熱が始まり、この狭い部分で低温潜熱蓄熱材8bの転移温度を保持する。
【0044】
次いで、図2の曲線(6)に示すように、高温潜熱蓄熱材8aと同様に、低温潜熱蓄熱材8bの転移温度を保持している箇所の下部では低温潜熱蓄熱材8bの転移温度より低い温度でなだらかな温度分布が発生し、すぐ上部では温度成層を発生する。このときの温度成層の温度は高温潜熱蓄熱材8aの転移温度となる。つまり、貯湯タンクの上部から高温水温度の温度成層、高温潜熱蓄熱材8aの転移温度の温度成層、低温潜熱蓄熱材8bの転移温度より低くなだらかな温度分布の層の3つの温度層になる。
【0045】
さらに高温水を流し込むと、図2の曲線(7)に示すように、高温潜熱蓄熱材8aへの潜熱蓄熱が終了し、高温の温度成層と高温潜熱蓄熱材8aの転移温度の温度成層の温度境界が崩れ始めながら貯湯タンク下部へ移っていき、高温潜熱蓄熱材8aの転移温度の温度成層がなくなっていく。そして、図2の曲線(8)に示すように、最下部の低温潜熱蓄熱材8bへの潜熱蓄熱が終了すると、熱交換器の底部の給水口から抜き出される低温水が設定上限温度(例えば、35℃)に達すると、この貯湯タンクへの蓄熱が終了する。加熱源6に導入する低温水の設定上限温度は、例えば加熱源6にヒートポンプ給湯装置を用いた場合は、COPが1以下にならないように設定されている。
【0046】
なお、貯湯タンク2に蓄えられた湯を給湯場所で使う際、温度が逆転した形で同様な温度分布の変化が発生する。但し、貯湯タンク2の上部の数十L(リッター)分は、急激な給湯需要のため高温潜熱蓄熱材8aへ残しておくのが普通である。
【0047】
図3に、実施例1〜3の組み合わせの潜熱蓄熱材と、比較例1、3の単味の潜熱蓄熱材を充填した貯湯終了時と給湯終了時の貯湯タンク内の温度分布を示す。図3の横軸及び縦軸は図2と同様である。図中の曲線(12)は、実施例1の貯湯終了時の温度分布である。実施例1の潜熱蓄熱材を充填した熱交換器9(貯湯タンク2)において出湯を続けていくと、貯湯時とは逆の現象が起きるので、最終的には図3の曲線(22)に示す温度分布となる。なお、図3の曲線(22)は、給湯開始時に速やかな給湯を可能にするために、熱交換器9の上部に数十Lの高温水を残した場合の温度分布である。つまり、酢酸ソーダは、給湯温度以上の転移温度であるから、高温水を少し残しておけば、急な給湯需要に対応することができる。
【0048】
図3において、実施例2の低温潜熱蓄熱材8bのボウ硝を多くした組み合わせの場合には、曲線(13)に示すように、貯湯終了時の蓄熱量は下部の顕熱蓄熱分が多くなっている。しかし、給湯終了時の温度分布は、曲線(23)に示すように、中温水の残量が多くなる。同様に、実施例3の、さらに低温潜熱蓄熱材8bのボウ硝を多くした組み合わせの場合には、曲線(14)に示すように、貯湯終了時の蓄熱量がさらに多くなるが、給湯終了時の温度分布は、曲線(24)に示すように、中温水の残量がさらに多くなる。
【0049】
なお、比較例1の酢酸ソーダ単味の場合は、図3の曲線(11)に示すように、貯湯終了時において潜熱蓄熱材の転移温度(58℃)より低い温度領域が多く発生して、その領域での潜熱蓄熱がされていないことが理解できる。これは、低温潜熱蓄熱材が存在しないために、潜熱蓄熱が行われている箇所よりも転移温度(58℃)からなだらかに低下していく温度分布が発生して、最下部の温度が設定上限温度に達する状態までなだらかな温度分布の状態のままでいるためである。なお、給湯終了時には、図3の曲線(21)に示すように、中温水の残量がほとんどなく、蓄熱できた熱量はすべて使い切ることができている。しかし、給湯需要温度以下の温水が少ないが、蓄熱量は図3において、曲線(11)と(21)に挟まれる領域の面積に相当する顕熱蓄熱量と、曲線(11)のうち潜熱蓄熱材の転移温度より高い温度で蓄熱されている領域での潜熱蓄熱量との合計に相当するから、曲線(11)のうち転移温度(58℃)未満の領域の潜熱蓄熱材の蓄熱能力を十分に利用できていないことが分かる。
【0050】
また、比較例2のボウ硝単味の場合は、図3の曲線(15)に示すように、貯湯終了時において、実施例1の下部の状態と同様に、貯湯タンクのほとんどで加熱された高温水の温度(80℃)まで達していて、潜熱蓄熱材の全てで潜熱蓄熱ができている。しかし、図3の曲線(25)に示すように、給湯終了時には、酢酸ソーダの蓄熱時の状況と逆の状況が発生するため、転移温度(32℃)より高い中温水の残量が多くなる。つまり、蓄熱量は図3において、曲線(15)と(25)に挟まれる領域の面積相当する顕熱蓄熱量と、曲線(25)のうち潜熱蓄熱材の転移温度よりも低い温度で使い切った領域での潜熱蓄熱量との合計に相当するから、曲線(25)のうち転移温度(32℃)より高い領域の潜熱蓄熱材の蓄熱能力を十分に利用できていない。そのため、貯湯タンクの容積を小型化する効果が得られない。
【0051】
また、比較例3のチオ硫酸ソーダ単味の場合は、図4の曲線(16)と曲線(26)に示すように、潜熱蓄熱材の蓄熱能力を十分に利用できていないことが理解できる。すなわち、蓄熱終了条件は、上述したように、貯湯タンク2の最下部の温度が設定上限温度に達するときであり、チオ硫酸ソーダや酢酸ソーダの場合、ボウ硝と違って、転移温度が設定上限温度より高いので、チオ硫酸ソーダや酢酸ソーダの潜熱蓄熱が始まる前に蓄熱が終了することになり、潜熱蓄熱材の蓄熱能力を十分に利用できない。一方、給湯終了条件は、同様に、例えば貯湯タンク2の頂部から数十リットルの箇所の温度が設定下限温度に達したときになる。この設定下限温度は、ふろの追炊き需要に基づいて設定するが、酢酸ソーダの転移温度(58℃)より低く設定できるが、チオ硫酸ソーダの転移温度(48℃)やボウ硝の転移温度(32℃)では難しくなり、潜熱蓄熱材の蓄熱能力を十分に利用できない。
【0052】
図5を参照して、上述した実施例1の組み合わせの潜熱蓄熱材を用いて、中温水取り出しを行うことにより、貯湯タンクの容積を一層小型化できることについて説明する。図5は、図3と同様、貯湯終了時と給湯終了時の熱交換器9の上下方向の温度分布をそれぞれ曲線(12)、(22′)で示している。図から明らかなように、貯湯終了時の温度分布は、中温水取出しを行わない場合の温度分布曲線(22)と比較して、中温水の残量が少なくなっている。これにより、貯湯タンク及び熱交換器9の容積を一層小型化できるという効果が得られる。
【0053】
図6に、実施例1〜3と比較例1〜3の潜熱蓄熱材を用いた貯湯タンクについて、中温水取り出し無しの場合(薄色のバーチャート)と、中温水取り出し有りの場合(濃色のバーチャート)の貯湯タンク2の容積の比較を示す。図において、縦軸は43℃換算給湯量(貯湯タンク容積比率)を示す。また、図中に示した閾値線L1は現状の貯湯タンクの43℃換算給湯量を示し、L2は開発目標である貯湯タンクの容積を3/4に小型化する43℃換算給湯量を示す。図から明らかなように、実施例1〜3はいずれも現状よりも貯湯タンクの容積を小さくできることが分かる。特に中温取り出し有りの場合は、実施例1〜3のいずれもが開発目標のL2に達している。また、転移温度が低い比較例2のボウ硝単味の場合で、中温取り出し有りの場合は、現状のL1を越えているが、比較例1,3は、いずれも現状のL1に達していない。
【0054】
(実施形態2)
図7に実施形態2の本発明の潜熱蓄熱貯湯槽を備えた給湯装置の構成を示す。図1の実施形態1では、複数の潜熱蓄熱材として、それぞれ潜熱蓄熱材を素材のまま貯湯タンク2内に充填する例を説明した。したがって、実施形態1によれば、融解した潜熱蓄熱材が給湯に混入するのを防止するため、熱交換器9を介して温水と潜熱蓄熱材との熱交換をするようにしている。
【0055】
これに対して、本実施形態2は、潜熱蓄熱材の素材を非水溶性の伝熱材からなる殻に封じ込めて塊状又は粒状に形成した高温潜熱蓄熱材18aと低温潜熱蓄熱材18bを貯湯タンク2内に充填した点が異なる。また、潜熱蓄熱材の素材を非水溶性の伝熱材からなる殻に封じ込めたことから、融解した潜熱蓄熱材が給湯に混入するのを防止できる。そのため、実施形態1のような熱交換器9を設ける必要がなく、出湯口4と給水口3の間に流通させる温水を高温潜熱蓄熱材18a及び低温潜熱蓄熱材18bの隙間に流通させることができ、熱交換器9に比べて熱交換速度を高めることができる。
【0056】
なお、実施形態2において、高温潜熱蓄熱材18aと低温潜熱蓄熱材18bが混じり合うのを防止するため、金網あるいはパンチングメタル等の板材下なる仕切り板19を設けることが好ましい。また、中温水取出し管12は、貯湯タンク2の低温潜熱蓄熱材18bの充填層の上部に開口させて、中温水を取り出すようにする。
【0057】
さらに、実施形態2において、実施形態1と同様に、熱交換器9を設けてもよい。この場合は、非水溶性の殻に封じ込めて塊状又は粒状に形成された潜熱蓄熱材18a又は18b相互及び熱交換器9との間に形成される隙間に伝熱性の液体を充填することが好ましい。潜熱蓄熱材18a又は18b相互、及び潜熱蓄熱材18a又は18bと熱交換器9との間の熱交換の効率を向上できる。また、貯湯タンク2には給水圧が加わらないので、貯湯タンク2の肉厚を薄くでき、あるいは、貯湯タンク2を樹脂で形成することができる。さらに、貯湯タンク2の断面を多角形を含む角筒状、あるいは任意の形状に形成することができる。
【0058】
(実施形態3)
図8に実施形態3の本発明の潜熱蓄熱貯湯槽を備えた給湯装置の構成を示す。 同図に示すように、本実施形態3は、実施形態1の貯湯タンク2を、高温潜熱蓄熱材8aが充填された高温貯湯タンク2aと、低温潜熱蓄熱材8bが充填された低温貯湯タンク2bとに分割して並べて設置するようにしたことを特徴とする。また、高温貯湯タンク2aの頂部に出湯口4が設けられ、低温貯湯タンク2bの底部に給水口3が設けられている。高温貯湯タンク2aの底部は、連通管20を介して低温貯湯タンク2bの頂部に連通されている。
【0059】
また、高温貯湯タンク2aと低温貯湯タンク2b内に、実施形態1と同様に熱交換器9a、9bが分割して設けられている。これに代えて、実施形態2と同様に、潜熱蓄熱材の素材を非水溶性の伝熱材からなる殻に封じ込めて塊状又は粒状に形成した高温潜熱蓄熱材18aと低温潜熱蓄熱材18bを、高温貯湯タンク2aと低温貯湯タンク2bに分けて充填してもよい。この場合、高温貯湯タンク2aと低温貯湯タンク2b内に伝熱性を有する液体を充填することが好ましい。
【0060】
このように構成される実施形態3によれば、潜熱蓄熱貯湯槽としての貯湯容量が同じであれば、高温貯湯タンク2aと低温貯湯タンク2bの水平面上の断面積を小さくできる。したがって、高温貯湯タンク2aと低温貯湯タンク2bを並べて設置すると、設置スペースを横長の長方形にできるから、潜熱蓄熱貯湯槽の設置場所の制限が緩和される。また、高温貯湯タンク2aと低温貯湯タンク2bの横断面を矩形又は多角形として角筒状に形成すれば、設置スペースを一層小さくできる。
【0061】
上述した各実施形態において、加熱源6としてヒートポンプ装置を用いた例で説明した。本発明は、これに限らず、加熱源6として太陽熱集熱装置を用いることができる。さらに、ヒートポンプ装置、太陽熱集熱装置、ガス又は灯油の給湯器のうちの少なくとも1つ、あるいは複数を組み合わせて用いることができる。ここで、ガス又は灯油の給湯器には、高効率の潜熱回収型ガス又は灯油の給湯器を適用できる。
【0062】
太陽熱集熱装置を用いた場合、循環管5aにより給水する水温度が低い方が集熱能力が高い。また、早朝から昼にかけて日射量が多く、高温集熱が可能になるが、昼から夕方にかけて日射量が減っていき、集熱温度が下がっていく。したがって、貯湯タンク2内に温度成層を形成しない場合は、貯湯タンク2の給水口側の温度が高くなり、夕方の太陽熱集熱ができなくなる場合がある。そこで、本発明のように、貯湯タンク2の給水口側に低温潜熱蓄熱材8b、18bを充填し、貯湯タンク2の給水口側の温水温度を下げた温度成層を形成することにより、太陽熱集熱を増やすことができる。
【0063】
また、夕方の太陽熱集熱の低下により高温水の温度が低下し、高温潜熱蓄熱材8a,18aの転移温度よりも低下した場合は、貯湯タンク2の中間部に加熱水の中間入口を設けて、そこから温度が低下した高温水を戻すことにより、低温潜熱蓄熱材8b、18bの潜熱蓄熱能力を利用して、効率的に集熱を行わせることができる。
【0064】
上記のいずれの実施形態においても、給水口側の低温水を抜き出して加熱する加熱源がヒートポンプ装置及び/又は太陽熱集熱装置のとき、貯湯タンクの給水口側の最下部に充填する潜熱蓄熱材の転移温度が、加熱源に応じて設定される限界入水温度以下に設定されることが好ましい。また、加熱源が高効率の潜熱回収型ガス又は灯油の給湯器の場合も同様に、加熱源に応じて設定される限界入水温度以下に設定することが好ましい。また、貯湯タンクの給水口側の充填層に充填される潜熱蓄熱材の転移温度が、給水口に供給される加圧水である上水道の水温よりも高い温度に設定されることが好ましい。さらに、貯湯タンクの出湯口側の充填層に充填される潜熱蓄熱材の転移温度は、出湯口から出湯する高温水の最低設定温度以上に設定されることが好ましいが、少なくとも出湯口から出湯する高温水の最高設定温度以下に設定することが好ましい。
【符号の説明】
【0065】
1 潜熱蓄熱貯湯槽
2 貯湯タンク
3 給水口
4 出湯口
5a、5b 循環管
6 加熱源
7 仕切り板
8a、18a 高温潜熱蓄熱材
8b,18b 低温潜熱蓄熱材
9 熱交換器
10 給水管
11 給湯管
12 中温水取出し管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯湯タンクと、該貯湯タンクの底部に加圧水が供給される給水口と、前記貯湯タンクの頂部の高温水を給湯場所に出湯する出湯口と、前記貯湯タンクの前記給水口側の低温水を抜き出して加熱して頂部に戻す循環管とを備えてなり、
前記貯湯タンクは、前記出湯口から給水口に向かって高温から低温に転移温度が異なる複数の潜熱蓄熱材が層状に充填され、前記出湯口と前記給水口との間で前記貯湯タンク内に流通される水が前記潜熱蓄熱材と熱交換可能に形成されてなる潜熱蓄熱貯湯槽。
【請求項2】
請求項1に記載の潜熱蓄熱貯湯槽において、
前記潜熱蓄熱材は、それぞれ潜熱蓄熱材の素材を非水溶性の伝熱材からなる殻に封じ込めて塊状又は粒状に形成され、
前記貯湯タンク内に流通される水は、塊状又は粒状に形成された前記潜熱蓄熱材の充填層の空隙を流通して、前記潜熱蓄熱材と熱交換することを特徴とする潜熱蓄熱貯湯槽。
【請求項3】
請求項1に記載の潜熱蓄熱貯湯槽において、
前記複数の潜熱蓄熱材は、それぞれ潜熱蓄熱材の素材であり、各潜熱蓄熱材の充填層は、それぞれ前記貯湯タンクの上下方向を仕切る仕切り部材により隔離されてなり、
前記出湯口と前記給水口とに連通された熱交換器が前記貯湯タンク内の前記複数の潜熱蓄熱材に接して設けられ、前記貯湯タンク内に流通される水を前記熱交換器に流通させて前記潜熱蓄熱材と熱交換することを特徴とする潜熱蓄熱貯湯槽。
【請求項4】
請求項1に記載の潜熱蓄熱貯湯槽において、
前記複数の潜熱蓄熱材は、それぞれ潜熱蓄熱材の素材を非水溶性の伝熱材からなる殻に封じ込めて塊状又は粒状に形成されてなり、
前記出湯口と前記給水口とに連通された熱交換器が前記貯湯タンク内の前記複数の潜熱蓄熱材に接して設けられ、前記塊状又は粒状に形成された前記潜熱蓄熱材相互及び前記熱交換器との間に形成される隙間に伝熱性の液体が充填され、前記貯湯タンク内に流通される水を前記熱交換器に流通させて前記潜熱蓄熱材と熱交換することを特徴とする潜熱蓄熱貯湯槽。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の潜熱蓄熱貯湯槽において、
前記複数の潜熱蓄熱材は、転移温度が高い高温潜熱蓄熱材と該高温潜熱蓄熱材よりも転移温度が低い低温潜熱蓄熱材であり、
前記貯湯タンクは、前記高温潜熱蓄熱材が充填された高温貯湯タンクと、前記低温潜熱蓄熱材が充填された低温貯湯タンクとに分割して並べて設置され、
前記高温貯湯タンクの頂部に前記出湯口が設けられ、前記低温貯湯タンクの底部に前記給水口が設けられ、前記高温貯湯タンクの底部を前記低温貯湯タンクの頂部に連通する連通管が設けられてなることを特徴とする潜熱蓄熱貯湯槽。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の潜熱蓄熱貯湯槽を備えてなる給湯装置であって、前記貯湯タンクの前記給水口側の低温水を抜き出して加熱する加熱源が、ヒートポンプ装置、太陽熱集熱装置、ガス又は灯油の給湯器のうちの少なくとも1つである給湯装置。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の潜熱蓄熱貯湯槽において、
前記貯湯タンクの前記給水口側の最下部に充填する前記潜熱蓄熱材の転移温度は、前記加熱源に応じて設定される限界入水温度以下に設定されることを特徴とする潜熱蓄熱貯湯槽。
【請求項8】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の潜熱蓄熱貯湯槽において、
前記貯湯タンクの前記給水口側の充填層に充填される前記潜熱蓄熱材の転移温度は、前記給水口に供給される前記加圧水である上水道の水温よりも高い温度に設定されることを特徴とする潜熱蓄熱貯湯槽。
【請求項9】
請求項1乃至5及び7又は8のいずれか1項に記載の潜熱蓄熱貯湯槽において、
前記貯湯タンクの前記出湯口側の充填層に充填される前記潜熱蓄熱材の転移温度は、前記出湯口から出湯する高温水の最低設定温度以上に設定されることを特徴とする潜熱蓄熱貯湯槽。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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