説明

潤滑油組成物及び慣らし運転方法

【課題】最近の高出力、高効率の低速2サイクルディーゼル内燃機関の慣らし運転用潤滑油として、スカッフィングを発生させることなく適度に摩耗させてなじみ効果をもたせることができるとともに、清浄性が高く銅系材料に対する腐食抑制効果のあるディーゼル内燃機関慣らし運転用潤滑油組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の潤滑油組成物は、基油と、全塩基価30〜350mgKOH/gの金属系清浄剤(A)と、ヒドロカルビル亜リン酸金属塩及び/又はヒドロカルビルリン酸金属塩からなる摩耗防止剤(B)と、を含有し、全塩基価が10〜70mgKOH/g、100℃動粘度が12.5〜26.1mm2/sである。従って、ディーゼル内燃機関において、優れたなじみ効果を発揮し、且つ良好な高温清浄性や銅系材料に対する腐食防止性が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼル内燃機関、特に高出力、高効率のディーゼル内燃機関の慣らし運転用潤滑油組成物及び該組成物を用いたディーゼル内燃機関の慣らし運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大型船舶に使用されるディーゼル内燃機関は、実際に就航させる前に短時間の慣らし運転が行なわれる。この慣らし運転は、真新しいピストンリングとシリンダライナーの表面とを接触させてなじみ効果を持たせる目的と、機関の性能を確認する目的で行われる。この慣らし運転が良好に行われなかった場合には、就航時にリング及びライナーの過大摩耗を引き起こすことがある。従来、この慣らし運転時には、就航時のシリンダ油と異なる組成の、慣らし油(ブレークイン油)といわれる潤滑油が使用されている。このような慣らし油としては、基油に金属系清浄剤及びジチオリン酸亜鉛などを含有させた、全塩基価20mgKOH/g以下の潤滑油が一般に使用されている。
近年、低燃費化を目的として熱効率を高めた高出力高効率のディーゼル内燃機関が開発されている。しかし、このような機関は、熱負荷が高まり、慣らし運転油が従来よりも高温に曝される傾向にある。
そこで、特許文献1には、高出力機関の慣らし運転に適したなじみ効果の高い、基油に、過塩基性カルシウムスルホネートと非金属系有機硫黄化合物とを含有させた潤滑油組成物が提案されている。
しかし、機関の運転条件が過酷化し、慣らし運転油が従来よりも高温に曝されるようになると、ピストン清浄性の悪化や銅系材料を使用しているクロスヘッドシューの腐食の増大をもたらすことも懸念されるため、なじみ効果とともに高温清浄性や銅系材料腐食防止性も求められている。
【特許文献1】特開2002−241780号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、高出力、高効率のディーゼル内燃機関、特に低速2サイクルディーゼル内燃機関の慣らし運転用潤滑油として、スカッフィングを発生させることなく適度に摩耗させてなじみ効果をもたせるとともに、清浄性が高く銅系材料に対する腐食抑制効果に優れたディーゼル内燃機関慣らし運転用潤滑油組成物及び該組成物を用いたディーゼル内燃機関の慣らし運転方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、全塩基価30〜350mgKOH/gの金属系清浄剤(A)と、ヒドロカルビル亜リン酸金属塩及び/又はヒドロカルビルリン酸金属塩からなる摩耗防止剤(B)とを含有し、全塩基価が10〜70mgKOH/g、100℃動粘度が12.5〜26.1mm2/sである潤滑油組成物が、優れた慣らし運転効果を発揮し、摩耗防止性を従来油と同等に維持しつつ、しかも清浄性が高く銅系材料に対する腐食抑制効果があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち、本発明によれば、鉱油及び/又は合成油からなる基油と、全塩基価30〜350mgKOH/gの金属系清浄剤(A)と、ヒドロカルビル亜リン酸金属塩及び/又はヒドロカルビルリン酸金属塩からなる摩耗防止剤(B)と、を含有し、全塩基価が10〜70mgKOH/g、100℃動粘度が12.5〜26.1mm2/sであるディーゼル内燃機関慣らし運転用潤滑油組成物が提供される。
また本発明によれば、全塩基価30〜350mgKOH/gの金属系清浄剤(A)を組成物全量基準で5〜30質量%と、ヒドロカルビル亜リン酸金属塩及び/又はヒドロカルビルリン酸金属塩からなる摩耗防止剤(B)を、リン元素含有量として組成物全量基準で0.02〜0.2質量%とを含み、鉱油及び/又は合成油からなる基油により全量を100質量%とした、全塩基価が10〜70mgKOH/g、100℃動粘度が12.5〜26.1mm2/sである潤滑油組成物を、慣らし運転するためのディーゼル内燃機関に用いて慣らし運転することを特徴とする、ディーゼル内燃機関の慣らし運転方法が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明の組成物は、清浄性が高く銅系材料に対する腐食抑制効果を有し、最近の高出力、高効率の低速2サイクルディーゼル内燃機関の慣らし運転においてもスカッフィングを発生させることなく適度に摩耗させてなじみ効果を発揮させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について詳述する。
本発明の潤滑油組成物における基油は、特に制限はなく、通常の潤滑油に使用される鉱油及び/又は合成油が使用できる。
鉱油としては、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製等の処理を1つ以上行って精製したもの、あるいはワックス異性化鉱油、フィッシャートロプシュプロセス等により製造されるGTL WAX(ガストゥリキッドワックス)を異性化する手法で製造される基油が例示できる。
【0008】
鉱油の全芳香族分は特に制限はないが、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。全芳香族分は0質量%でも良いが、添加剤の溶解性の点で1質量%以上が好ましく、5質量%以上がさらに好ましく、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上が特に好ましい。基油の全芳香族分が40質量%を越える場合は、酸化安定性が劣る恐れがある。
なお、上記全芳香族分とは、ASTM D2549に準拠して測定した芳香族留分(aromatic fraction)含有量を意味する。通常この芳香族留分には、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンの他、アントラセン、フェナントレン、これらのアルキル化物、ベンゼン環が四環以上縮合した化合物、及びピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ芳香族を有する化合物が含まれる。
【0009】
鉱油中の硫黄分は特に制限はないが、1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がさらに好ましい。硫黄分は0質量%でも良いが、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上である。鉱油が硫黄分をある程度含むことにより、添加剤の溶解性を十分に高めることができる。
【0010】
合成油としては、例えば、ポリブテン又はその水素化物;1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリα−オレフィン又はその水素化物;ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等のジエステル;トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等のポリオールエステル;マレイン酸ジブチル等のジカルボン酸類と炭素数2〜30のα−オレフィンとの共重合体、アルキルナフタレン、アルキルベンゼン、芳香族エステル等の芳香族系合成油又はこれらの混合物が挙げられる。
【0011】
本発明では基油として、鉱油及び/又は合成油が使用できる。例えば、1種以上の鉱油、1種以上の合成油、1種以上の鉱油と1種以上の合成油との混合油が挙げられる。
基油の動粘度は特に制限はないが、その100℃での動粘度は6〜60mm2/sが好ましく、より好ましくは8〜50mm2/s、特に好ましくは10〜40mm2/sである。基油の100℃での動粘度が60mm2/sを越える場合は、低温粘度特性が悪化する恐れがある。一方、その動粘度が6mm2/s未満の場合は、潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣り、また基油の蒸発損失が大きくなる恐れがある。
【0012】
本発明の組成物は、100℃での動粘度が4〜17mm2/s未満の基油及び/又は100℃での動粘度が17〜50mm2/sの基油を含有することが好ましい。100℃における動粘度が4〜17mm2/s未満の基油としては、例えば、SAE10〜40等の鉱油系基油や合成系基油が挙げられる。その好ましい動粘度は、5.6mm2/s以上、より好ましくは9.3mm2/s以上であり、好ましくは14mm2/s以下、より好ましくは12.5mm2/s以下である。また、100℃における動粘度が17〜50mm2/sの基油としては、例えば、SAE50、ブライトストック等の鉱油系基油や合成系基油が挙げられ、その好ましい動粘度は、20mm2/s以上、より好ましくは25mm2/s以上であり、好ましくは40mm2/s以下、より好ましくは35mm2/s以下である。
本発明においては、100℃での動粘度が4〜17mm2/s未満の基油を主成分、例えば、基油全量基準で50質量%以上、より好ましくは70質量%以上含有させ、必要に応じて100℃での動粘度が17〜50mm2/sの基油を配合することができる。
【0013】
基油の蒸発損失量は、NOACK蒸発量で20質量%以下が好ましく、16質量%以下がさらに好ましく、10質量%以下が特に好ましい。基油のNOACK蒸発量が20質量%を超える場合、潤滑油組成物における蒸発損失が大きく、粘度増加の原因となる恐れがある。
なお、ここでいうNOACK蒸発量とは、ASTM D 5800に準拠して測定される潤滑油の蒸発量を測定したものである。
【0014】
基油の粘度指数は特に制限はないが、低温から高温まで優れた粘度特性が得られるようにその値は好ましくは85以上、より好ましくは90以上、更に好ましくは100以上である。粘度指数の上限については特に制限はなく、ノルマルパラフィン、スラックワックスやGTLワックス等、あるいはこれらを異性化したイソパラフィン系鉱油のような135〜180程度のものや、コンプレックスエステル系基油やHVI-PAO系基油のような150〜250程度のものも使用することができる。添加剤の溶解性や貯蔵安定性の点からは、粘度指数の上限は120以下が好ましく、110以下がより望ましい。
【0015】
本発明に用いる、全塩基価30〜350mgKOH/gの金属系清浄剤(A)としては、スルホネート系清浄剤(A-1)、フェネート系清浄剤(A-2)及びサリシレート系清浄剤(A-3)から選ばれる1種以上の金属系清浄剤を使用することができる。特にこれらを2種以上組み合わせて用いることがその清浄性の点からより好ましい。
【0016】
スルホネート系清浄剤(A-1)としては、例えば、通常分子量1300〜1500、好ましくは400〜700のアルキル芳香族化合物をスルフォン化することによって得られるアルキル芳香族スルフォン酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、これらの(過)塩基性塩、若しくはこれらの2種以上の混合物を用いることができる。また、アルカリ金属又はアルカリ土類金属としては、例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、バリウム、カルシウムが挙げられ、マグネシウム及び/又はカルシウムが好ましく、カルシウムが特に好ましい。
上記アルキル芳香族スルフォン酸としては、例えば、いわゆる石油スルフォン酸や合成スルフォン酸が挙げられる。
ここでいう石油スルフォン酸としては、例えば、一般に鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルフォン化したものやホワイトオイル製造時に副生する、いわゆるマホガニー酸が用いられる。また合成スルフォン酸としては、例えば、洗剤の原料となるアルキルベンゼン製造プラントから副生したり、ポリオレフィンをベンゼンにアルキル化することにより得られる、直鎖状又は分枝状のアルキル基を有するアルキルベンゼンをスルフォン化したもの、あるいはジノニルナフタレン等のアルキルナフタレンをスルフォン化したものが用いられる。またこれらアルキル芳香族化合物をスルフォン化する際のスルフォン化剤としては特に制限はないが、通常、発煙硫酸や無水硫酸が用いられる。
【0017】
フェネート系清浄剤(A-2)としては、例えば、アルキルフェノール、アルキルフェノールサルファイド、アルキルフェノールのマンニッヒ反応物のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、これらの(過)塩基性塩を用いることができる。また、アルカリ金属又はアルカリ土類金属としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、バリウム、カルシウムが挙げられ、マグネシウム及び/又はカルシウムが好ましく、カルシウムが特に好ましく用いられる。
【0018】
サリシレート系清浄剤(A-3)としては、例えば、炭素数1〜19の炭化水素基を1つ有するアルカリ金属サリシレート又はアルカリ土類金属サリシレート、これらの(過)塩基性塩、炭素数20〜40の炭化水素基を1つ有するアルカリ金属サリシレート又はアルカリ土類金属サリシレート、これらの(過)塩基性塩、炭素数1〜40の炭化水素基を2つ又はそれ以上有するアルカリ金属サリシレート若しくはアルカリ土類金属サリシレート、これらの(過)塩基性塩が挙げられ、これらの炭化水素基は同一でも異なっていても良い。これらの中では、低温流動性に優れる点で、炭素数8〜19の炭化水素基を1つ有するアルカリ金属サリシレート又はアルカリ土類金属サリシレート、これらの(過)塩基性塩を用いることが望ましい。また、アルカリ金属又はアルカリ土類金属としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、バリウム、カルシウムが挙げられ、マグネシウム及び/又はカルシウムが好ましく、カルシウムが特に好ましく用いられる。
【0019】
金属系清浄剤(A)の全塩基価は、30〜350mgKOH/gの範囲であることが必要であり、45〜335mgKOH/gの範囲が好ましく、60〜320mgKOH/gの範囲がより好ましい。金属系清浄剤(A)の全塩基価が30mgKOH/g未満の場合は、腐食摩耗が増大するおそれがあり、350mgKOH/gを超える場合は溶解性に問題を生ずるおそれがある。なお、ここでいう全塩基価(TBN)とは、JIS K2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による全塩基価を意味する。
金属系清浄剤(A)の金属比に特に制限はないが、下限は通常0.8以上、好ましくは1.0以上、特に好ましくは1.1以上、上限は好ましくは30以下、より好ましくは25以下、特に好ましくは20以下である。なお、ここでいう金属比とは、金属系清浄剤(A)における金属元素の価数×金属元素含有量(モル%)/せっけん基含有量(モル%)で表され、金属元素とは、カルシウム、マグネシウム等、せっけん基とはスルホン酸基、フェノール基、サリチル酸基等を意味する。
【0020】
本発明の組成物において、金属系清浄剤(A)の含有量は、組成物全量基準で、通常5〜30質量%、好ましくは6〜20質量%、特に好ましくは7〜15質量%である。また、金属系清浄剤(A)のより詳細な含有量は、金属量として、組成物全量基準で、下限は通常0.35質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは0.65質量%以上、特に好ましくは0.70質量%以上である。上限は好ましくは3.0質量%以下、より好ましくは2.5質量%以下、特に好ましくは1.8質量%以下である。金属系清浄剤(A)の金属量としての含有量が0.35質量%未満の場合は、高温清浄性をさらに高めることができないおそれがあり、一方、3.0質量%を越える場合は、添加量に見合う効果が得られないおそれがあるだけでなく、ピストンのトップランドに余剰の金属分が堆積しライナーの過大摩耗を引き起こす恐れがある。
【0021】
本発明に用いる摩耗防止剤(B)は、ヒドロカルビル亜リン酸金属塩及び/又はヒドロカルビルリン酸金属塩からなる。
ヒドロカルビル亜リン酸金属塩としては、式(1)で表される亜リン酸化合物の金属塩が挙げられ、ヒドロカルビルリン酸金属塩としては、式(2)で表されるリン酸化合物の金属塩が挙げられる。
【0022】
【化1】

【0023】
式中、R1〜R6は、それぞれ個別に水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を示す。
1〜R6で表される炭素数1〜30の炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキル置換シクロアルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基又はアリールアルキル基が挙げられる。
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等のアルキル基が挙げられ、これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい。
シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数5〜7のシクロアルキル基が挙げられる。
アルキルシクロアルキル基としては、例えば、メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基、メチルエチルシクロペンチル基、ジエチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、メチルエチルシクロヘキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、ジメチルシクロヘプチル基、メチルエチルシクロヘプチル基、ジエチルシクロヘプチル基等の炭素数6〜11のアルキルシクロアルキル基が挙げられ、これら例中のアルキル基のシクロアルキル基への置換位置は任意である。
【0024】
アルケニル基としては、例えば、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基が挙げられ、これらアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよく、また二重結合の位置も任意である。
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基が挙げられる。
アルキルアリール基としては、例えば、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基等の炭素数7〜18のアルキルアリール基が挙げられ、これら例中のアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよく、またアリール基への置換位置も任意である。
アリールアルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基等の炭素数7〜12のアリールアルキル基が挙げられ、これら例中のアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい。
【0025】
上記R1〜R6で表される炭素数1〜30の炭化水素基は、好ましくは炭素数1〜30のアルキル基又は炭素数6〜24のアリール基、更に好ましくは炭素数3〜18のアルキル基、最も好ましくは炭素数4〜12のアルキル基である。
【0026】
式(1)で表される亜リン化合物としては、例えば、上記炭素数1〜30の炭化水素基を1つ有する亜リン酸モノエステル、上記炭素数1〜30の炭化水素基を2つ有する亜リン酸ジエステルが挙げられる。
式(2)で表されるリン化合物としては、例えば、上記炭素数1〜30の炭化水素基を1つ有するリン酸モノエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を2つ有するリン酸ジエステルが挙げられる。
【0027】
式(1)又は(2)で表されるリン化合物の金属塩としては、リン化合物に金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属塩化物等の金属塩基を作用させて、残存する酸性水素の一部又は全部を中和した塩が挙げられる。
上記金属塩基における金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等のアルカリ金属;カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属;亜鉛、銅、鉄、鉛、ニッケル、銀、マンガン、モリブデン等の重金属が挙げられる。これらの中ではカルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属及び亜鉛が好ましく、更に亜鉛がより好ましい。
【0028】
上記リン化合物の金属塩は、金属の価数やリン化合物のOH基の数に応じその構造が異なる。従ってその構造は限定されず、例えば、酸化亜鉛1molとリン酸ジエステル(OH基が1つ)2molを反応させた場合、下記式で表わされる構造の化合物が主成分として得られると考えられるが、ポリマー化した分子も存在していると考えられる。
【化2】

【0029】
また、例えば、酸化亜鉛1molとリン酸モノエステル(OH基が2つ)1molとを反応させた場合、下記式で表わされる構造の化合物が主成分として得られると考えられるが、ポリマー化した分子も存在していると考えられる。
【化3】

【0030】
本発明に用いる摩耗防止剤(B)は、炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基を2個有する亜リン酸ジエステルと亜鉛又はカルシウムとの塩、炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基を1個有するリン酸のモノエステルと亜鉛又はカルシウムとの塩、あるいは炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基を2個有するリン酸のジエステルと亜鉛又はカルシウムとの塩、であることが好ましい。これらの摩耗防止剤(B)は、1種類あるいは2種類以上を任意に配合することができる。特に式(2)におけるR4、R5及びR6の2つが炭素数3〜18の炭化水素基であり、1つが水素原子であるリン化合物の亜鉛塩であることが、ブレークイン効果の点から好ましい。
【0031】
本発明の組成物において摩耗防止剤(B)の含有量は、リン元素換算量として組成物全量基準で好ましくは0.02質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、特に好ましくは0.10質量%以上であり、好ましくは0.2質量%以下、より好ましくは0.18質量%以下、さらに好ましくは0.16質量%以下である。摩耗防止剤(B)の含有量が、リン元素として0.02質量%未満の場合は、内燃機関部品の耐摩耗性を低下させるおそれがあり、一方、0.2質量%を超える場合は、基油への溶解性が低下するおそれがある。
【0032】
本発明の組成物は、基油、金属系清浄剤(A)及び摩耗防止剤(B)に加え、ホウ素変性無灰分散剤(C)を含有させることができる。
ホウ素変性無灰分散剤(C)としては、例えば、以下の(C-1)成分〜(C-3)成分から選択される化合物のホウ素変性物の1種又は2種以上を用いることができる。
(C-1)炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミド、あるいはその誘導体、
(C-2)炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミン、あるいはその誘導体、
(C-3)炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミン、あるいはその誘導体。
【0033】
(C-1)成分としては、式(3)又は(4)で示される化合物が例示できる。
【化4】

【0034】
式(3)中、R20は炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、hは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。一方、式(4)中、R21及びR22は、それぞれ個別に炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、特に好ましくはポリブテニル基である。またiは0〜4、好ましくは1〜3の整数を示す。
【0035】
(C-1)成分には、ポリアミンの一端に無水コハク酸が付加した式(3)で表される、いわゆるモノタイプのコハク酸イミドと、ポリアミンの両端に無水コハク酸が付加した式(4)で表される、いわゆるビスタイプのコハク酸イミドとが含まれるが、本発明の組成物には、それらのいずれも、あるいはこれらの混合物が含まれていても良い。
(C-1)成分であるコハク酸イミドの製法は特に制限はなく、例えば、炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を有する化合物を、無水マレイン酸と100〜200℃で反応させて得たアルキルコハク酸又はアルケニルコハク酸をポリアミンと反応させることにより得られる。
ポリアミンとしては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミンが例示できる。
【0036】
(C-2)成分としては、式(5)で表される化合物が例示できる。
【化5】

【0037】
式(5)中、R23は炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、jは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。
(C-2)成分であるベンジルアミンの製法は特に制限はなく、例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、又はエチレン−α−オレフィン共重合体等のポリオレフィンを、フェノールと反応させてアルキルフェノールとした後、これにホルムアルデヒドと、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、又はペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンとをマンニッヒ反応により反応させることにより得られる。
【0038】
(C-3)成分としては、以下の式で表される化合物が例示できる。
24‐NH−(CH2CH2NH)k−H
式中、R24は炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、kは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。
(C-3)成分であるポリアミンの製法は特に制限はなく、例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、及びエチレン−α−オレフィン共重合体等のポリオレフィンを塩素化した後、これにアンモニアやエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、又はペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンを反応させることにより得られる。
【0039】
上記(C-1)成分〜(C-3)成分の化合物をホウ素変性する際に用いられるホウ酸又はその誘導体としては、ホウ酸、ホウ酸塩、ホウ酸エステル類が挙げられる。
ホウ酸としては、例えば、オルトホウ酸、メタホウ酸、テトラホウ酸が挙げられる。ホウ酸塩としては、例えば、ホウ酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩又はアンモニウム塩が挙げられる。より具体的には、例えば、メタホウ酸リチウム、四ホウ酸リチウム、五ホウ酸リチウム、過ホウ酸リチウム等のホウ酸リチウム;メタホウ酸ナトリウム、二ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、五ホウ酸ナトリウム、六ホウ酸ナトリウム、八ホウ酸ナトリウム等のホウ酸ナトリウム;メタホウ酸カリウム、四ホウ酸カリウム、五ホウ酸カリウム、六ホウ酸カリウム、八ホウ酸カリウム等のホウ酸カリウム;メタホウ酸カルシウム、二ホウ酸カルシウム、四ホウ酸三カルシウム、四ホウ酸五カルシウム、六ホウ酸カルシウム等のホウ酸カルシウム;メタホウ酸マグネシウム、二ホウ酸マグネシウム、四ホウ酸三マグネシウム、四ホウ酸五マグネシウム、六ホウ酸マグネシウム等のホウ酸マグネシウム;メタホウ酸アンモニウム、四ホウ酸アンモニウム、五ホウ酸アンモニウム、八ホウ酸アンモニウム等のホウ酸アンモニウムが挙げられる。
ホウ酸エステルとしては、例えば、ホウ酸と好ましくは炭素数1〜6のアルキルアルコールとのエステルが挙げられる。より具体的には例えば、ホウ酸モノメチル、ホウ酸ジメチル、ホウ酸トリメチル、ホウ酸モノエチル、ホウ酸ジエチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸モノプロピル、ホウ酸ジプロピル、ホウ酸トリプロピル、ホウ酸モノブチル、ホウ酸ジブチル、ホウ酸トリブチルが挙げられる。
【0040】
本発明の(C)成分の製造方法としては、例えば、(C-1)成分〜(C-3)成分の化合物と前記ホウ酸又はこれらの誘導体との反応量比率を任意に調整し、分子中のアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化する方法が挙げられるが、特に限定されない。具体的には、例えば、(C-1)成分〜(C-3)成分の化合物1molに対し、ホウ酸又はこれらの誘導体を0.4×N mol以上(ここでNは、(C-1)成分〜(C-3)成分を表す上記式中のそれぞれh、i、j又はkの数値を示す。)、好ましくは0.6×N mol以上、特に好ましくは0.9×N mol以上の割合で窒素雰囲気下にて加熱しながら反応させることにより得られる。
(C-1)成分〜(C-3)成分の化合物1molに対する、ホウ酸又はこれらの誘導体の反応割合が0.4×N mol以上の場合、耐熱性を向上させることができ、一方、該反応割合が0.4×N molに満たない場合、耐熱性向上の効果が得られない恐れがある。
【0041】
本発明に用いるホウ素変性無灰分散剤(C)を製造する方法として、式(4)で示される(C-1)成分のホウ素変性物、例えば、式(6)で示される化合物の製造方法を以下に具体的に示す。式(6)で示される化合物は、例えば、まず、ジエチレントリアミンビスイソオクタデセニルコハク酸イミド1molと、微粉化したホウ酸1molとを合成容器に取り、窒素雰囲気下、通常80〜150℃、好ましくは90〜130℃で5〜12時間、生成水を分離しながら、未反応のホウ酸粉が全て消失するまで攪拌しながら反応させる。続いて、反応物をトルエンで希釈した溶液を1μmのテフロン(登録商標)フィルタで加圧ろ過し、さらにろ液を70〜110℃、減圧下において、トルエンを完全に除去することにより得ることができる。
【0042】
【化6】

【0043】
本発明の組成物において、ホウ素変性無灰分散剤(C)を含有させる場合の含有割合は、組成物全量基準で、ホウ素元素換算量として、その下限値は通常0.004質量%以上、好ましくは0.007質量%以上、特に好ましくは0.01質量%以上であり、一方、その上限値は通常0.05質量%以下、好ましくは0.04質量%以下、さらに好ましくは0.03質量%以下である。この含有割合が、0.004質量%未満の場合は、摩耗防止性に悪影響を与えるおそれがある。一方、0.05質量%を超える場合は、添加量に見合う効果が得られないおそれがある。
【0044】
本発明の組成物は、上記構成に加え、その性能を更に向上させるため又は他に要求される性能を付加するために、その目的に応じて潤滑油に一般的に使用されている任意の添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、例えば、酸化防止剤、(B)成分以外の摩耗防止剤、摩擦調整剤、粘度指数向上剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤、着色剤等の添加剤を挙げることができる。
【0045】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系、アミン系等の無灰酸化防止剤;銅系、モリブデン系等の金属系酸化防止剤が挙げられる。これらを含有させる場合の割合は、組成物全量基準で、通常0.1〜5質量%である。
摩耗防止剤としては、潤滑油に用いられる(B)成分以外の任意の摩耗防止剤が使用でき、例えば、硫黄系、リン系、硫黄−リン系の摩耗防止剤が使用でき、具体的には、例えば、亜リン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類、ジチオ亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類、トリチオリン酸エステル類、これらのアミン塩、これらの金属塩、及びこれらの誘導体、ジチオカーバメート、亜鉛ジチオカーバメート、モリブデンジチオカーバメート、ジスルフィド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類が挙げられる。これらを含有させる場合の割合は、組成物全量基準で、通常0.1〜5質量%である。
摩擦調整剤としては、例えば、脂肪酸エステル系、脂肪族アミン系、脂肪酸アミド系等の無灰摩擦調整剤、モリブデンジチオカーバメート、モリブデンジチオホスフェート等の金属系摩擦調整剤が挙げられる。これらを含有させる場合の割合は、組成物全量基準で、通常0.1〜5質量%である。
【0046】
粘度指数向上剤としては、例えば、ポリメタクリレート系粘度指数向上剤、オレフィン共重合体系粘度指数向上剤、スチレン−ジエン共重合体系粘度指数向上剤、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体系粘度指数向上剤又はポリアルキルスチレン系粘度指数向上剤が挙げられる。これら粘度指数向上剤の重量平均分子量は、通常800〜1000000、好ましくは100000〜900000である。また、粘度指数向上剤を含有させる場合の割合は、組成物全量基準で、通常0.1〜20質量%である。
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、又はイミダゾール系化合物が挙げられる。
【0047】
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、又は多価アルコールエステルが挙げられる。
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、又はポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤が挙げられる。
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、又はβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリルが挙げられる。
消泡剤としては、例えば、シリコーン、フルオロシリコール、又はフルオロアルキルエーテルが挙げられる。
【0048】
これら添加剤を本発明の組成物に含有させる場合には、その割合は組成物全量基準で、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤ではそれぞれ通常0.005〜5質量%、金属不活性化剤では通常0.005〜1質量%、消泡剤では通常0.0005〜1質量%の範囲から選ばれる。
本発明の油用潤滑油組成物は、上記(A)成分及び(B)成分を含む添加剤を必須とし、必要に応じて、(C)成分、上記その他の添加剤の少なくとも1種を、上述の基油に配合することにより得ることができる。
従って、基油は残部となり、本発明の組成物は基油により全量を100質量%とすることができる。
【0049】
本発明の組成物の100℃における動粘度は、12.5〜26.1mm2/sであることが必要であり、好ましくは15〜24mm2/s、より好ましくは16.3〜21.9mm2/sである。100℃における動粘度が12.5mm2/s以下の場合には、潤滑性不良となるおそれがあり、26.1mm2/sを超える場合には流動性に問題を生ずるおそれがある。ここでいう100℃における動粘度とは、ASTM D−445に規定される100℃での動粘度を示す。
【0050】
本発明の組成物の全塩基価は、10〜70mgKOH/gであることが必要であり、下限は好ましくは15mgKOH/g以上、より好ましくは20mgKOH/g以上であり、一方上限は好ましくは60mgKOH/g以下、より好ましくは50mgKOH/g以下である。全塩基価が10mgKOH/g以下の場合には腐食摩耗が増大するおそれがあり、70mgKOH/gを超える場合には塩基価を示す清浄剤に含まれる金属分がピストンランドに堆積するおそれがある。ここで全塩基価とは、ASTM D−2896により測定される塩基価を示す。
【0051】
本発明の組成物の硫酸灰分量は特に制限はないが、下限は好ましくは1.2質量%以上、より好ましくは1.8質量%以上、特に好ましくは2.4質量%以上、一方上限は好ましくは8.5質量%以下、より好ましくは7.3質量%以下、特に好ましくは6.0質量%以下である。なお、ここでいう硫酸灰分とは、JIS K2272の5.「硫酸灰分の試験方法」に規定される方法により測定される値を示し、主として金属含有添加剤に起因するものである。
【0052】
本発明の慣らし運転方法は、上記本発明の組成物を用いてディーゼル内燃機関の慣らし運転を行う。ディーゼル内燃機関として、例えば、低速2サイクルディーゼル内燃機関を用いる場合、加工による摩擦面の粗さやうねりを滑らかにするため、A重油相当の燃料を用いた試運転において、機関の負荷を約25%から始まって、段階的に上昇させ数十時間を費やして機関の負荷100%まで上げることにより慣らし運転を行なう。さらに、機関の性能を確認するため機関の定格負荷の110%程度まで上げた運転を実施するのが通常である。
本発明の組成物を用いて上記慣らし運転を行なう場合には、摩擦面の平滑化が促進され、以後の定常運転において摩擦面の損傷や過大摩耗を起こすおそれが低減する。
【実施例】
【0053】
以下、本発明の内容を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
実施例1、2及び比較例1、2
表1に示す組成の本発明の潤滑油組成物(実施例1及び2)並びに比較用の潤滑油組成物(比較例1及び2)をそれぞれ調製した。得られた組成物について、以下の(1)〜(3)の評価を行った。結果を表1に示す。
尚、表1中、基油Aは100℃の動粘度10.8mm2/sのパラフィン系溶剤精製基油で硫黄分は0.6質量%、全芳香族分は32質量%である。基油Bは100℃の動粘度31.7mm2/sのパラフィン系溶剤精製基油で硫黄分は0.45質量%、全芳香族分は36質量%である。基油Cは100℃の動粘度49.7mm2/sのパラフィン系溶剤精製基油で硫黄分は0.95質量%、全芳香族分は44質量%である。また、TBNは全塩基価を示し、数値の単位はmgKOH/gである。(C−1)成分であるホウ素変性ポリブテニルコハク酸イミドは、ホウ素含有量0.45質量%、ホウ素/窒素比(質量比)0.3である。
【0054】
(1)摩耗防止性
試験条件を下記の通り変更した以外はJPI−5S−32−90(潤滑油の耐摩耗性試験方法)にしたがい実施した。
回転数:1500rpm、荷重:400N、油温:室温、試験時間:30分。
摩耗痕径が0.6mm、摩耗痕形状(垂直/摺動方向)が1.0±0.1を目標とした。
(2)銅材料腐食性
JIS K2514 4.(内燃機関用潤滑油酸化安定度試験)に準拠し、165.5℃で72時間酸化させた後、触媒として用いた銅板の腐食状態をJIS 2513(石油製品−銅版腐食試験方法)5.銅版腐食標準により評価し、また油中に溶出した銅量を測定した。腐食評点2以下、銅溶出量10ppm以下を目標とした。
(3)高温清浄性
JPI−5S−5599に準拠し、ホットチューブ試験(320℃、16時間)を行い、試験後評点及び付着物重量による高温清浄性を比較した。320℃において評点6以上、付着物重量5mg以下を目標とした。
【0055】
表1より、本発明の塩基価が30〜350mgKOH/gの金属系清浄剤(A)及びヒドロカルビルリン酸の金属塩(B)を含む潤滑油組成物(実施例1及び2)は、摩耗防止性、銅腐食防止性及び高温清浄性のいずれにも優れ、慣らし運転油として好適であった。これに反し、市販油(比較例1)は高出力機関用としては清浄性が不足であり、また銅材料の腐食を起こすおそれがあった。アルキルリン酸亜鉛を含有しない比較例2では、市販品と比べても摩耗防止性が劣り、実機において過大摩耗を起こすおそれがあるとともに、清浄性、腐食防止性も劣っていた。
【0056】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱油及び/又は合成油からなる基油と、全塩基価30〜350mgKOH/gの金属系清浄剤(A)と、ヒドロカルビル亜リン酸金属塩及び/又はヒドロカルビルリン酸金属塩からなる摩耗防止剤(B)と、を含有し、全塩基価が10〜70mgKOH/g、100℃動粘度が12.5〜26.1mm2/sであるディーゼル内燃機関慣らし運転用潤滑油組成物。
【請求項2】
金属系清浄剤(A)を、組成物全量基準で5〜30質量%、摩耗防止剤(B)を、リン元素含有量として組成物全量基準で、0.02〜0.2質量%含み、前記基油により全量を100質量%とした請求項1記載の組成物。
【請求項3】
ホウ素変性無灰分散剤(C)を、組成物全量基準で、ホウ素含有量として0.004〜0.05質量%更に含む請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
金属系清浄剤(A)が、アルカリ金属スルホネート、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ金属フェネート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ金属サリシレート、アルカリ土類金属サリシレート、及びこれらの(過)塩基性塩からなる群より選ばれた2種以上からなる請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
全塩基価30〜350mgKOH/gの金属系清浄剤(A)を組成物全量基準で5〜30質量%と、ヒドロカルビル亜リン酸金属塩及び/又はヒドロカルビルリン酸金属塩からなる摩耗防止剤(B)を、リン元素含有量として組成物全量基準で0.02〜0.2質量%とを含み、鉱油及び/又は合成油からなる基油により全量を100質量%とした、全塩基価が10〜70mgKOH/g、100℃動粘度が12.5〜26.1mm2/sである潤滑油組成物を、慣らし運転するためのディーゼル内燃機関に用いて慣らし運転することを特徴とする、ディーゼル内燃機関の慣らし運転方法。

【公開番号】特開2009−120735(P2009−120735A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−296633(P2007−296633)
【出願日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】