説明

潤滑油組成物

【課題】ベルト式CVT油に要求される高い金属間摩擦係数とスリップ制御機構に対するシャダー防止性を両立する無段変速機用潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】 鉱油及び/又は合成油からなる潤滑油基油に、有機酸金属塩(A)、摩耗防止剤(B)、及びホウ素含有コハク酸イミド(C)を配合してなる自動変速機用潤滑油組成物であって、該有機酸金属塩(A)が、少なくとも一個の鎖状炭化水素基を有するCa、Mg又はBaのスルホネート又はフェネートであり、炭素核磁気共鳴(13C−NMR)測定により求めた該鎖状炭化水素基中のアルキル基直鎖度が25〜60%であり、該摩耗防止剤(B)が酸性りん酸エステル又はジアルキルジチオりん酸亜鉛であることを特徴とするプッシュベルト式無段変速機用潤滑油組成物など。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機用潤滑油組成物に関し、詳しくは、無段変速機用潤滑油組成物に関し、更に詳しくは、ロックアップクラッチ付きトルクコンバーターを有するプッシュベルト式無断変速機に用いられる潤滑油組成物に関する。特に、ロックアップクラッチ付きトルクコンバーターを有するプッシュベルト式無段変速機において、大きい伝達トルク容量と優れたシャダー防止性を満足する潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
プッシュベルト式無段変速機(以下、ベルト式CVTということもある)は、自動車の燃費向上とドライバビリティの向上に有効であることから、近年急速に販売台数が増えている。しかし、ベルト式CVTは、大きな伝達トルク容量を得ることが難しいため、従来は、排気量1600cc以下の小型車にしか搭載できなかった。近年ベルトの改良により排気量2000ccの車に搭載が可能になったが、依然として伝達トルク容量の向上は、ベルト式CVTにとって重要な課題である。
【0003】
ベルト式CVTでは、ベルトエレメントとプーリー間の摩擦力によりトルクが伝達される。そのため伝達トルク容量は、ベルトエレメントとプーリーの金属間摩擦係数とプーリーの押付け力によって決定される。この金属間摩擦係数は、潤滑油の性能によって左右され、金属間摩擦係数が不足すると、ベルトとプーリー間にすべりを生じたり、ベルトが破断するという不具合を生じる恐れがある。
一方、ベルト式CVTの発進機構には、従来、電磁クラッチが使用されていたが、大排気量化による伝達トルクの増大に対する対応と、運転性向上のため、湿式クラッチやロックアップクラッチ付きのトルクコンバーターが使用されるようになってきている。これらの湿式クラッチ、トルクコンバーター及びCVTには、共通の潤滑油を使用しているため、CVT油には、これら湿式クラッチやトルクコンバーターとの適合性も重要になってきている。
【0004】
こうした中で従来CVT油には、自動変速機油(以下、ATFということもある。)を流用することが多かった。これは、従来の小排気量の車では伝達トルクが小さく、要求される金属間摩擦係数のレベルがあまり高くないため、ATFの中で比較的金属間摩擦係数の高いものを選択すれば性能を満足することができたからである。ATFを流用することの利点としては、湿式摩擦材との適合性や他の材料との適合性に実績があることが挙げられる。しかし、ベルト式CVTが排気量2000ccの車に搭載されるようになると、必要とされる金属間摩擦係数のレベルが高くなって、ATFの流用では、性能を満足することができないため、CVT専用油が必要になってきている。
【0005】
更に、ロックアップクラッチの機構によっては、従来のCVT油を使用することは、全くできなくなる。この点について、更に詳細に説明する。発進機構にロックアップクラッチ付きトルクコンバーターを有し、前・後進切替機構に湿式クラッチを用いた排気量2000cc車用のベルト式CVTは、既に市販されている。しかし、将来はロックアップ速度域の拡大による更なる燃費向上や、ロックアップ係合時のショックを和らげる目的で、ロックアップクラッチの押付け圧を制御することにより、意図的にロックアップクラッチをスリップさせる機能(以下スリップ制御と呼ぶ)を持つロックアップクラッチ付きトルクコンバーターを有するベルト式CVTが開発されると予想されている。このようなスリップ制御を行うと、潤滑油の種類によってはシャダーと呼ばれる自励振動が発生するため、CVT油には、シャダー防止性とその機能の持続性が必要になる。しかし、シャダー防止性を満足するためには、摩擦調整剤を中心とする特殊な添加剤配合技術が必要で、ATFの中でも特にスリップ制御ATF用に調整されたATF以外には、十分なシャダー防止性を示さない。また、シャダー防止性を付与する添加剤として配合される摩擦調整剤と呼ばれる添加剤の多くは、金属間摩擦係数を下げる傾向があるため、シャダー防止性を有する市販ATFは、金属間摩擦係数が低くCVTには使用できない。そこで、金属間摩擦係数とシャダー防止性を両立するためには、新規の添加剤配合技術が必要となってくる。
【0006】
従来、無段変速機用潤滑油には、例えば、特許文献1では、摩耗防止剤、金属清浄剤及びカルボキシル基を有する摩擦調整剤を配合した潤滑油組成物、特許文献2では、硫黄系極圧剤、りん系極圧剤及び金属系清浄剤を配合した無段変速機用組成物、特許文献3では、無灰分散剤、硫黄系極圧剤及びりん系極圧剤を配合した潤滑油組成物、及び特許文献4では、全塩基価が特定範囲のCaスルホネート及び亜リン酸エステル類等を配合したベルト式CVT自動変速機用潤滑油組成物などが提案されている。しかし、これらの提案にも拘わらず、未だ充分な、高レベルの金属間摩擦係数、すなわち大きい伝達トルク容量と、スリップ制御機構に対する優れたシャダー防止性を満足するものは無かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2−175794号公報
【特許文献2】特開平9−100487号公報
【特許文献3】特開平10−8081号公報
【特許文献4】特開平10−306292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記のような開発状況に鑑み、ベルト式CVT油に要求される高い金属間摩擦係数とスリップ制御機構に対するシャダー防止性を両立する無段変速機用潤滑油組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に対し鋭意研究を重ねた結果、潤滑油基油に、特定の構造を有する有機酸金属塩(A)、摩耗防止剤(B)、及びホウ素含有コハク酸イミド(C)の少なくとも3種類の添加剤を必須成分として配合することにより、無段変速機用潤滑油として要求される高い金属間摩擦係数とスリップ制御機構に対するシャダー防止性を両立する無段変速機用潤滑油組成物が得られることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、鉱油及び/又は合成油からなる潤滑油基油に、有機酸金属塩(A)、摩耗防止剤(B)、及びホウ素含有コハク酸イミド(C)を配合してなる自動変速機用潤滑油組成物であって、該有機酸金属塩(A)が、少なくとも一個の鎖状炭化水素基を有するCa、Mg又はBaのスルホネート又はフェネートであり、炭素核磁気共鳴(13C−NMR)測定により求めた該鎖状炭化水素基中のアルキル基直鎖度が25〜60%であり、該摩耗防止剤(B)が酸性りん酸エステル又はジアルキルジチオりん酸亜鉛であることを特徴とするプッシュベルト式無段変速機用潤滑油組成物が提供される。
【0011】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、有機酸金属塩(A)の配合量が組成物全量基準で金属量として100〜1000ppmであることを特徴とするプッシュベルト式無段変速機用潤滑油組成物が提供される。
さらに、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、無段変速機がロックアップクラッチ付きトルクコンバーターを有するプッシュベルト式であることを特徴とするプッシュベルト式無段変速機用潤滑油組成物が提供される。
【0012】
本発明は、上記した如く、潤滑油基油に、少なくとも3種類の特定の化合物を配合した潤滑油組成物に係るものであるが、その好ましい態様としては、次のものが包含される。
(i)摩耗防止剤は、アルキル基が一級、二級若しくはそれらの混合物であるジアルキルジチオりん酸亜鉛であることを特徴とする上記のプッシュベルト式無段変速機用潤滑油組成物。
(ii)摩耗防止剤の配合量が組成物全量基準でりん(P)量として200〜500ppmであることを特徴とする上記のプッシュベルト式無段変速機用潤滑油組成物。
(iii)ホウ素含有コハク酸イミドの配合量が組成物全量基準で0.1〜10重量%であることを特徴とする上記のプッシュベルト式無段変速機用潤滑油組成物。
(iv)有機酸金属塩の全塩基価が400mgKOH/g以下であることを特徴とする上記のプッシュベルト式無段変速機用潤滑油組成物。
(v)該無段変速機が、ロックアップクラッチの押付け油圧を制御することによりスリップ速度を制御する機能を持つ、ロックアップクラッチ付きトルクコンバーターを有するプッシュベルト式であることを特徴とする上記のプッシュベルト式無段変速機用潤滑油組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明の自動変速機用潤滑油組成物、特に無段変速機用潤滑油組成物は、潤滑油基油に、特定の3種類の添加剤を配合させることにより、高い金属間摩擦係数とスリップ制御機構に対するシャダー防止性を両立するという優れた性能を有する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
(1)潤滑油基油
本発明の自動変速機用潤滑油組成物に用いられる基油は、特に限定されるものではなく、一般に潤滑油基油として用いられているものならば何でも使用することができる。すなわち、これらに該当するものとしては、鉱油、合成油、或いはそれらの混合油がある。
本発明で使用する基油は、100℃において、0.5〜200mm/sの動粘度を有し、好適な動粘度は、2〜25mm/sの範囲であり、更に好適な動粘度は、3.5〜8mm/sの範囲である。基油の動粘度が高すぎると、低温粘度が悪化し、逆に動粘度が低すぎると、自動変速機の摺動部において摩耗が生じたり、引火点が低くなるという難点が生じる。
鉱油としては、潤滑油粘度を有する炭化水素油留分であり、例えば、減圧蒸留留出油をフェノール、フルフラール、N−メチルピロリドンの如き芳香族抽出溶剤で処理して得られるラフィネートを、プロパンやメチルエチルケトン等の溶剤で脱蝋処理した後、必要に応じて、更に水素化精製を行って得られる炭化水素油、又はこの炭化水素留出油と溶剤抽出、溶剤脱蝋及び溶剤脱れき処理を行った残渣油との混合物を使用することができる。酸化安定性の観点からは、芳香族炭素数の全炭素に対する割合、%C(ASTM D3238法)が20以下のものが好ましく、10以下のものが特に好ましい。また、流動点の観点からは、流動点が−10℃以下のものが好ましく、−15℃以下のものが特に好ましい。これらの精製鉱油は、組成上、パラフィン系、ナフテン系などで、単独又はこれらの混合系炭化水素であっても良い。鉱油の具体例としては、軽質ニュートラル油、中質ニュートラル油、重質ニュートラル油及びブライトストック等が挙げられ、要求性能を満たすように適宜混合することにより基油を調整することができる。
【0015】
本発明に使用する合成油としては、オレフィンオリゴマー、二塩基酸エステル、ポリオールエステル、ポリアルキレングリコール、ポリエーテル、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等を挙げることができる。
オレフィンオリゴマーとしては、炭素数2〜14、好ましくは4〜12の範囲である直鎖又は分岐のオレフィン炭化水素の中から選択された任意の1種の単独、又は2種以上の共重合により得られるものであり、平均分子量が100〜約3,000、好ましくは200〜約1,000の生成物から選択されるが、特に水素化によって不飽和結合を除去したものが好ましい。好ましい具体的なオレフィンオリゴマーとしては、例えばポリブテン、α−オレフィンオリゴマー、エチレン・α−オレフィンオリゴマー等である。
二塩基酸エステルとしては、炭素数4〜14の脂肪族二塩基酸と、炭素数4〜14の脂肪族アルコールとのエステルが挙げられる。ポリオールエステルとしては、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールと、炭素数4〜18の脂肪酸とのエステルが挙げられる。又ヒドロキシピバリン酸等のヒドロキシ酸と脂肪酸及びアルコールとのエステル等も使用することができる。
ポリオキシアルキレングリコールの例としては、炭素数2〜4のアルキレンオキサイドの重合物が使用でき、アルキレンオキサイドは、単独の重合でも、混合物の重合でも良い。またアルキレンオキサイドの混合物による重合体は、ブロック重合体でも、ランダム重合体でも良い。またアルキレングリコールの末端基は、片末端又は両末端が、エーテル封鎖されていても良く、エステル封鎖されていても良い。ポリエーテルとしては、フェニルエーテル等が使用できる。
これらの基油は、それぞれ単独で、あるいは二種以上を組み合わせて使用することができ、鉱油と合成油を組み合わせて使用してもよい。
【0016】
(2)添加剤成分
次に、本発明の潤滑油組成物に使用する、基油に配合される必須の(A)〜(C)成分について説明する。
(A)成分の有機酸金属塩としては、アルカリ土類金属の少なくとも一個の鎖状炭化水素基を有するスルホネート又はフェネートであって、具体的には、石油スルホン酸又はアルキルベンゼンやアルキルナフタレンのスルホン酸のアルカリ土類金属塩、又は硫化アルキルフェノールのアルカリ土類金属塩であり、カルシウム(Ca)塩、マグネシウム(Mg)塩、バリウム(Ba)塩が用いられる。
本発明の(A)成分として用いられる少なくとも一個の鎖状炭化水素基を有する有機酸金属塩の鎖状炭化水素基としては、炭素核磁気共鳴(以下、13C−NMRという)測定により求めた該鎖状炭化水素基中のアルキル基直鎖度が25〜60%であることが望ましい。ここで、アルキル基直鎖度とは、アルキル基の末端から炭素数で5個以上又は分岐から4個以上離れた直鎖状部分の炭素数の、アルキル基全炭素数に対する比率を意味するものであって、その大きさは、芳香族基の結合位置及びアルキル基の分岐位置に依存するものである。
本発明において、アルキル基直鎖度は、具体的には13C−NMR測定から次式により求めたものである。
【0017】
【数1】

【0018】
このアルキル基直鎖度が25%に満たないものは、シャダー防止性能の点で不十分であり、一方、60%を超えると金属間摩擦係数を上げる効果が無くなってくる。
【0019】
有機酸金属塩のその他の特徴としては、全塩基価が400mgKOH/g以下のものが好適に使用でき、全塩基価が150〜300mgKOH/gのものが特に好ましい。石鹸分は、20〜50重量%のものが使用できるが、30〜45重量%のものが特に好ましい。有機酸金属塩は、炭素数が4〜24のアルキル基を持ち、モノアルキルでもジアルキルでも良いが、これらの混合物が好適に使用できる。アルキル基の長さは、金属間摩擦係数とシャダー防止性を両立するために、炭素数が12〜20のものが好ましい。有機酸金属塩の配合量としては、組成物全量基準で、金属量として100〜1000ppmが好適で、配合量が金属量として100ppm未満であると金属間摩擦係数の向上作用が小さく、一方、1000ppmを超えると酸化安定性が悪化する。
【0020】
(B)成分の摩耗防止剤としては、酸性りん酸エステル等のりん系摩耗防止剤が使用できる。尚、アルキル基に硫黄(S)を含んでもよい。また、アルキル基が一級、二級又はそれらの混合物であるジアルキルジチオ燐酸亜鉛も使用することができる。中でも好ましくは、酸性りん酸エステル、ジアルキルジチオ燐酸亜鉛又はそれらの混合物が用いられる。摩耗防止剤の配合量としては、組成物全量基準で、りん(P)量として200〜500ppmが好適であり、200ppm未満であると金属間摩擦係数の向上作用が小さく、摩耗防止性も不十分である。一方、配合量が500ppmを超えると材料適合性が悪化する。
【0021】
本発明に使用する(C)成分のホウ素含有コハク酸イミドとしては、コハク酸イミドのモノ体又はビス体をホウ素化合物で処理したものなどが挙げられる。ポリアルキル又はポリアルケニルコハク酸イミドのホウ素含有物が特に好ましい。
ポリアルキル又はポリアルケニルコハク酸イミドは、通常ポリオレフィンと無水マレイン酸との反応で得られるポリアルキル又はポリアルケニルコハク酸無水物を、ポリアルキレンポリアミンと反応させることによって製造することができる。前記のポリアルキル又はポリアルケニルコハク酸イミドのモノ体及びビス体は、ポリアルキル又はポリアルケニルコハク酸無水物とポリアルキレンポリアミンとの反応比率を変えることにより製造することができる。ポリアルキル又はポリアルケニルコハク酸イミドの製造において、原料として用いられるポリオレフィンとしては、炭素数2〜8程度のα−オレフィンを重合して得られたものの中から、適宜選ばれ使用される。また、ポリオレフィンを形成するα−オレフィンは、1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ポリオレフィンとしては、特にポリブテンが好適である。
一方、ポリアルキレンポリアミンとしては、例えば、ポリエチレンポリアミン、ポリプロピレンポリアミン、ポリプチレンポリアミン等が挙げられるが、これらの中でポリエチレンポリアミンが好適である。
また、本発明で用いられるポリアルキル又はポリアルケニルコハク酸イミドのホウ素処理物は、常法により製造することができる。このホウ素処理物中のホウ素の含有量は、ホウ素含有コハク酸イミドの全量基準で、通常0.1〜5重量%の範囲であり、好ましい含有量は1重量%以上である。
【0022】
本発明の潤滑油組成物において、(C)成分として用いるホウ素含有コハク酸イミドは、組成物全量基準で、通常0.1〜10重量%の範囲であり、0.3〜5重量%の範囲が好適に用いられる。ホウ素含有コハク酸イミドの配合量が、0.1重量%未満であると、所期の効果が十分に発揮されず、一方、配合量が、10重量%を超えても所期の効果が十分に発揮されない。
【0023】
本発明の潤滑油組成物は、これら3種の添加剤を必須成分として含有させることにより、無段変速機油として使用した場合、無段変速機用潤滑油として要求される高い金属間摩擦係数とスリップ制御機構に対するシャダー防止性を両立するという顕著な効果を奏する。
【0024】
(3)その他の添加剤成分
本発明の潤滑油組成物は、潤滑油基油に必須成分として上記の化合物を配合するものであるが、更に必要に応じて、通常のATFに使用する、次に示すような各種添加剤、即ち、摩擦調整剤、無灰分散剤、金属不活性化剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、消泡剤、腐食防止剤、着色剤などを本発明の目的を損なわない範囲で適宜添加することができる。
【0025】
摩擦調整剤としては、アミン系摩擦調整剤やホウ素含有アルコール系摩擦調整剤等が好適に使用できる。また、アミド系化合物、イミド系化合物、ホウ素含有環状カルボン酸イミド等も好適に使用できる。アミン系摩擦調整剤としては、炭素数が4〜36までのアルキルアミン、アルキルジアミン、ジアルキルアミン、又はトリアルキルアミンが使用できる。特にアルキルアミンと、ジアルキルアミンが好適に使用できる。ホウ素含有アルコール系摩擦調整剤としては、脂肪族モノアルコール、脂肪族多価アルコール又はアルキレングリコールとホウ酸との反応物が使用できる。摩擦調整剤の配合量としては、組成物全量基準で、0.01〜5重量%が好適であり、配合量が0.01重量%未満ではシャダー防止性能が不足し、一方、5重量%を超えると金属間摩擦係数が低下する。
【0026】
無灰分散剤としては、モノイミド、ビスイミド等のイミド化合物を挙げることができる。これらは、通常0.1〜10重量%の割合で使用される。
【0027】
金属不活性化剤としては、ベンゾトリアゾールやチアジアゾール及びそれらの誘導体が好適に使用でき、ベンゾトリアゾールタイプとチアジアゾールタイプの併用は、併用することにより優れた酸化安定性を示すために、特に好ましい。これらは、通常0.001〜3重量%の割合で使用される。
【0028】
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系とアミン系が好ましく使用でき、これらを組み合わせて使用することは、酸化安定性が飛躍的に向上するため、特に好ましい。フェノール系酸化防止剤としては、4メチル2,6ジターシャリーブチルフェノール、4,4−メチレンビス2,6ジターシャリーブチルフェノール等が好適に使用できる。アミン系酸化防止剤としては、フェニルαナフチルアミン、アルキルフェニルαジフェニルアミン、ジフェニルアミン、アルキルジフェニルアミン等が好適に使用できる。これらは、通常0.05〜5重量%の割合で使用される。
【0029】
粘度指数向上剤としては、分散型粘度指数向上剤が好適に使用でき、中でもポリメタクリレートが好適で、極性モノマーを5〜20モル%程度含むものが良く、極性モノマーとしては、ジエチルアミノエチルメタクリレート、2−メチル−5−ビニルピリジンなどのアミン、N−ビニルピロリジノンなどの窒素化合物が好適に使用できる。分散型粘度指数向上剤の分子量としては、数平均分子量が5,000〜200,000のものが使用できるが、せん断安定性の面から平均分子量100,000以下のものが好適に使用できる。分散型粘度指数向上剤の配合量は、組成物全量基準で1〜7重量%の範囲が好適であって、1%未満では、酸化安定性の改善効果が少なく、一方、7%を超えると、酸化安定性がかえって悪化することがある。粘度指数向上剤としては、他の粘度指数向上剤を併用することもできる。使用できる粘度指数向上剤は、エチレン−プロピレン共重合体等のオレフィン共重合体、ポリアクリレート、ポリメタクリレートなどであり、低温粘度の点からポリメタクリレートが好ましい。これらは、通常1〜20重量%の割合で使用される。
【0030】
流動点降下剤としては、一般にエチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化パラフィンとナフタレンとの縮合物、塩素化パラフィンとフェノールとの縮合物、ポリメタクリレート、ポリアルキルスチレン等が挙げられ、例えば、ポリメタクリレートが好ましく用いられる。これらは、通常0.01〜5重量%の割合で使用される。
【0031】
消泡剤としては、ジメチルポリシロキサン等のシリコーン系化合物、ソルビタンモノラウレート、アルケニルコハク酸誘導体等のエステル系化合物を使用することができる。これらは、通常0.0001〜2重量%の割合で使用される。
更に、本発明の潤滑油組成物には、腐蝕防止剤、着色剤等その他の添加剤も所望に応じて使用することができる。
【0032】
本発明におけるベルト式CVTの例として、Van Doorne’ Transmissie BV社により製造されている金属ベルトを使用したCVTが挙げられるが、本発明におけるベルト式CVTは、必ずしもVan Doorne’ Transmissie BV社により製造されたベルトを使用したCVTに限定されるわけでは無く、同様の機構、つまり、金属間摩擦を利用して動力を伝達するCVTに使用することができる。また、本発明の潤滑油組成物は、スリップ制御ロックアップクラッチ付きトルクコンバーターを有するベルト式CVTに対して、他に類をみない優れた性能を有するが、スリップ制御機構が無いロックアップクラッチや湿式クラッチの摩擦材に対しても安定した性能を示すことや、長期にわたって高い金属間摩擦係数を持続することから、一般のベルト式CVTに対して優れた性能を示し、ベルト式CVT油として、好適に使用することができる。更に通常の自動変速機油(ATF)としても、好適に使用することができる。
【実施例】
【0033】
以下に、本発明について実施例及び比較例を挙げて更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に特に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における有機酸金属塩のアルキル基直鎖度測定方法と金属間摩擦係数測定方法及びシャダー防止性能の評価方法は、次に示す方法で評価した。
【0034】
(1)アルキル基直鎖度
有機酸金属塩を対応する有機酸に変換して次に示す条件で、13C−NMRスペクトルを測定し、アルキル基直鎖度を下記の式により算出した。
測定条件
・使用機器 :EX400(日本電子(株)製)
・観測核 :13
・観測周波数:100.50MHz
・測定モード:ゲーテッドHデカップリング
・内部標準 :TMS(=0ppm)
・緩和試薬 :Cr(acac)
・溶媒 :CDCl
・試料量 :300mg
・温度 :30℃
【0035】
【数2】

【0036】
(2)金属間摩擦係数
試験機としてSRV摩擦試験機(往復動型摩擦試験機)を用い、次の試験条件で試験を実施し、すべり出し金属間摩擦係数(すべり出し直後の金属間摩擦係数最大値)を測定した。この金属間摩擦係数の高いものほど、伝達トルク容量が大きいと判断される。0.15以上の金属間摩擦係数を有するものを可とした。
試験条件
・試験片 :ボール(SUJ2)、プレート(SUJ2)
・試験温度 :100℃
・荷重 :100N
・周波数 :50Hz
・ストローク:1mm
【0037】
(3)シャダー防止性能
シャダー防止性能の試験法は、JASO M349−98の自動変速機油シャダー防止性能試験方法に従った。摩擦材には、JASO M349−98に規定されるフリクションプレート(摩擦材:D−0512)とスチールプレートを使用した。
【0038】
(4)実施例及び比較例
[実施例1(参考例)]
潤滑油基油として、溶剤精製パラフィン系鉱油(100℃での動粘度、4mm/s)を使用し、この鉱油に、組成物全量基準で、(A)成分のCaサリシレートをCa量として500ppm、(B)成分のりん系摩耗防止剤をP量として350ppm、(C)成分のホウ素含有コハク酸イミドを1.0重量%、及びその他の添加剤として酸化防止剤、粘度指数向上剤、金属不活性化剤と消泡剤の各一定量の合計10.0重量%を配合する潤滑油組成物を調製した。配合した添加剤の詳細な説明は、次のとおりである。
(A)成分のCaサリシレートは、サリチル酸基一個あたりのアルキル基平均炭素数が20、アルキル基直鎖度が47.3%、全塩基価が170mgKOH/gのものである。
(B)成分のりん系摩耗防止剤は、炭素数が4のアルキル基を持つモノアルキルアシッドフォスフェートとジアルキルアシッドフォスフェートの混合物である。
(C)成分のホウ素含有コハク酸イミドは、分子量(MW)が1600のホウ素含有ポリブテニルコハク酸イミドであり、ホウ素の重量割合が全有効成分重量基準として4.7重量%のものである。
この調製した潤滑油組成物について、金属間摩擦係数の測定と、シャダー防止性能の評価を実施した。これらの結果を表1に示す。実施例1の金属間摩擦係数は、0.175であり、シャダー防止性能、すなわちdμ/dvは、正であって、良好である。
【0039】
[実施例2〜5]
実施例1と同様に、表1に示す潤滑油基油成分と添加剤成分を同表に示す割合で配合し、潤滑油組成物を調製した。この調製した潤滑油組成物について、金属間摩擦係数の測定とシャダー防止性能の評価を実施した。これらの結果を表1に示す。実施例1と同様に、実施例2〜5の評価結果は、良好である。
【0040】
【表1】

【0041】
[比較例1〜5]
表2に示す潤滑油基油成分と各種添加剤成分を同表に示す割合で配合し、潤滑油組成物を調製した。この調製した潤滑油組成物について、金属間摩擦係数の測定とシャダー防止性能の評価を実施した。これらの結果を表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
[実施例6、7(6、7は参考例)、比較例6]
表3に示す潤滑油基油成分と各種添加剤成分を同表に示す割合で配合し、潤滑油組成物を調製した。この調製した潤滑油組成物について、金属間摩擦係数の測定とシャダー防止性能の評価を実施した。これらの結果を表3に示す。
【0044】
【表3】

【0045】
上記の実施例及び比較例から、本発明において必須成分である3種の添加剤、有機酸金属塩(A)、摩耗防止剤(B)、及びホウ素含有コハク酸イミド(C)を各特定量配合することにより、いずれの実施例においても無段変速機用潤滑油としての目標を満足し、高品質のものが得られることが明らかになった。
一方、(A)成分の有機酸金属塩を配合していない比較例1では、金属間摩擦係数が低く、シャダー防止性能も不合格である。同様に、(B)成分の摩耗防止剤を配合していない比較例2では、金属間摩擦係数が低い。(C)成分のホウ素含有コハク酸イミドを配合していない比較例3では、金属間摩擦係数が低い。有機酸金属塩のアルキル基直鎖度が25%より低い比較例4では、シャダー防止性が不足し、また、比較例4のシャダー防止性を満足するために、アミン系摩擦調整剤を配合した比較例5では、金属間摩擦係数が低い。実施例3〜5の結果より、有機酸金属塩のアルキル基直鎖度が増加するに伴い、金属間摩擦係数が低下しており、アルキル基直鎖度が大きすぎると、金属間摩擦係数が不足することを示唆している。一方、実施例1、実施例6及び比較例6をみると、ホウ素含有コハク酸イミドの有効成分中のホウ素の重量が低下すると、金属間摩擦係数が低下していることが判る。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱油及び/又は合成油からなる潤滑油基油に、有機酸金属塩(A)、摩耗防止剤(B)、及びホウ素含有コハク酸イミド(C)を配合してなる自動変速機用潤滑油組成物であって、該有機酸金属塩(A)が、少なくとも一個の鎖状炭化水素基を有するCa、Mg又はBaのスルホネート又はフェネートであり、炭素核磁気共鳴(13C−NMR)測定により求めた該鎖状炭化水素基中のアルキル基直鎖度が25〜60%であり、該摩耗防止剤(B)が酸性りん酸エステル又はジアルキルジチオりん酸亜鉛であることを特徴とするプッシュベルト式無段変速機用潤滑油組成物。
【請求項2】
有機酸金属塩(A)の配合量が組成物全量基準で金属量として100〜1000ppmであることを特徴とする請求項1に記載のプッシュベルト式無段変速機用潤滑油組成物。
【請求項3】
無段変速機がロックアップクラッチ付きトルクコンバーターを有するプッシュベルト式であることを特徴とする請求項1に記載のプッシュベルト式無段変速機用潤滑油組成物。

【公開番号】特開2011−6705(P2011−6705A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221259(P2010−221259)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【分割の表示】特願2000−145134(P2000−145134)の分割
【原出願日】平成12年5月17日(2000.5.17)
【出願人】(000108317)東燃ゼネラル石油株式会社 (22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】