説明

火災・消火状況シミュレーションシステム

【課題】
火災現象が起こるため種々のファクターを考慮しながら火災・消火現象を数値解析し、実験では不可能な現象も視覚的に確認する。
【解決手段】
火災・消火状況シミュレーションシステム10は、演算処理装置12に、表示装置14,入力装置16,プログラムメモリ18,データメモリ30が接続されている。プログラムメモリ18には、タンク火災用シミュレーションプログラム20が格納されており、シミュレーション用データ40を取得するためのデータ取得プログラム22A,取得データ及び既知のデータに基づいて各種数値計算を行う状況解析プログラム22B,解析結果に基づいて、火災・消火状況を表示装置14に表示する火災・消火状況表示処理プログラム22Cが含まれている。シミュレーション結果50を表示装置14に表示することにより、個々のケースに応じた火災・消火状況を視覚的に確認できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火災・消火状況のシミュレーションシステムに関し、更に具体的には、タンク火災のように、実際の火災状況の想定や訓練が困難な大規模火災に好適な火災・消火状況シミュレーションシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
2003年9月に発生した十勝沖地震に伴う長周期振動により、出光興産株式会社の北海道製油所の浮き屋根式タンク(FRT:Floating Roof Tank)の浮き屋根がスロッシングにより沈下し、続いて発生した火災は、大型のタンクの全面火災となった。前記浮き屋根式タンクの場合は、通常、タンク全面火災に発展することなく、浮き屋根とタンク内壁との間のリング状のシール部分が燃えるリング火災に留まることを前提に、リング火災を消火できる程度の固定消火設備が設けられている。また、石油コンビナート等災害防止法では、大型タンクの所有者等に、大型高所放水車,大型化学消防車,泡消火原液搬送車からなる3台セットを使って消火活動を行う自衛防災組織を設置することを義務づけているが、浮き屋根式タンクの場合は、1セットあればよいこととなっている。しかしながら、上述のような大規模なタンク火災は過去に経験がなく、国内の法令で定める消防体制では消火することができなかった。
【0003】
前記長周期振動に伴う浮き屋根式タンクの大規模火災は、起こりうる危険として看過できない状況となったが、このような大規模火災は、世界的に見ても希であり、消火の実績が少ないため、実際に火災が発生したらどのような状況になるか,如何にして消火するのかは、専門の消防士にとっても未知の領域である。また、大規模な火災実験は、あまりにも周囲に与える影響が大きいため、実現は極めて困難である。浮き屋根式タンクの全面火災は、前記十勝沖地震での火災後、国会でも問題となり、2004年6月頃に法の改正が国会を通過した。これに伴い、大規模火災の消火に対してより有効だと考えられる大容量泡放射砲による消火設備・消火方法の導入がすすむものと考えられる。
【0004】
ところで、国外で提案されたタンク火災の消火方法としては、以下の特許文献1に示す手法がある。当該技術によれば、泡消火剤面を確立し、その後、内側および/または外側タンク壁部を冷却し、残留火炎に乾燥粉末を噴霧することとなっている。
【特許文献1】特表2001−500397公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1に記載の技術では、実際に火災が発生したらどのような現象が起こるのか,どのような消防訓練をすればよいのかという疑問を解消することはできない。実際の火災は、燃料の種類,タンクの大きさや配置,利用する消火設備,天候,周囲構造物の有無など、多数の要素によって状況が大きく左右されるものと考えられるため、個々のタンク毎に最適な消火条件が異なってくるからである。上述した通り、実際には、大規模な火災訓練や実験は極めて困難である。従って、個々のタンクや製油所ごとに想定される火災状況・消火状況などを、シミュレーションによって事前に検討でき、更には視覚的に確認することができれば、消火設備の配置や準備,消火剤の貯蔵量,あるいは、消火訓練など、各方面での対策を立てるために非常に都合がよい。
【0006】
現状では、CG化されたシミュレーションプログラムは、火災に限らずほとんど普及していない。これまでは、CGといえば、殆どがゲームである。しかしながら、ゲームは、予め作成されたシナリオに基づいて進められており、用意されていないファクターを人為的に入力することができない。火災などのシミュレーションプログラムの既存品がない理由としては、(1)国内での大規模火災は、前記十勝沖地震のときが初めてであり、議論が煮詰まっていない,(2)シミュレーションプログラムを開発するためには、CGやプログラミングなどのコンピュータ技術だけでは足りず、流体力学,化学工学,安全工学など各種分野にわたる知識が必要になる,(3)泡による消火のプロセスのデータが、ごく最近得られたばかりである,(4)実際に消火する防消火機器の知識も上記と併せ持っている必要がある,などが考えられる。
【0007】
本発明は、以上の点に着目したもので、その目的は、火災現象が起こるための様々なファクターを考慮しながら火災・消火現象を数値解析し、実験では不可能な現象も視覚的に確認することができる火災・消火状況のシミュレーションシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明の火災・消火状況シミュレーションシステムは、火災・消火現象を数値解析するためのデータを取得するデータ取得手段,該データ取得手段によって取得したデータ及び既知のデータに基づいて、火災・消火現象を数値解析する状況解析手段,該状況解析手段によって得られた結果に基づいて、火災・消火状況を視覚的に表示する表示処理手段,を備えるとともに、前記状況解析手段は、少なくとも、消火対象物に関するデータ,消火設備に関するデータ,消火環境に関するデータ,天候に関するデータに基づいて解析を行うことを特徴とする。
【0009】
主要な形態の一つは、前記表示処理手段は、前記火災・消火状況を経時的に表示することを特徴とする。他の形態は、前記消火対象物が燃料タンクであるときに、前記消火対象物に関するデータが、タンク及び燃料に関するデータを含み,消火設備に関するデータが、泡消火剤及びその水溶液放射用設備ないし機器に関するデータを含み,前記消火環境に関するデータが、前記燃料タンクの周囲構造物に関するデータを含み,前記天候に関するデータが、温度,湿度,風向き,風速に関するデータを含む,ことを特徴とする。
【0010】
更に他の形態は、前記状況解析手段は、水の輸送の水力計算,消火用泡の放射軌跡の計算,火炎サイズの計算,火災による上昇気流の計算,スイートスポットの判定,消火時間の計算,泡消火剤原液の残量計算を行うとともに、前記表示処理手段は、前記状況解析手段による計算結果の少なくともいずれかを表示することを特徴とする。
【0011】
好ましくは、前記状況解析手段は、更に、任意地点での輻射熱の計算,前記燃料タンクの周囲構造物の温度上昇の計算,前記周囲構造物への冷却用散水量の計算,散水後の周囲構造物の温度計算を行うとともに、前記表示処理手段は、前記状況解析手段による計算結果の少なくともいずれかを表示することを特徴とする。本発明の前記及び他の目的,特徴,利点は、以下の詳細な説明及び添付図面から明瞭になろう。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、火災現象に関する様々なファクターを考慮しながら、火災・消火現象を数値解析し、解析結果に基づいて視覚的に火災・消火状況を表示することで、実験不可能な現象も含めて、火災・消火の状況を容易に確認できるという効果が得られる。また、シミュレーション結果を、消火設備機器などの準備や消火訓練などの参考にすることで、シミュレーション結果の有効活用を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0014】
最初に、図1〜図8を参照しながら、本発明の実施例1を説明する。本実施例の火災・消火状況シミュレーションシステムは、本発明のシステムを大型タンク(例えば、浮き屋根式タンクなど)の火災・消火状況のシミュレーションに利用したものである。なお、以下の説明では、前記タンク火災の消火に、大容量泡放射砲,フロロプロテイン泡(Fluoroprotein Foam),大口径ホース,移動式消火ポンプからなるヨーロッパ方式を適用したものとする。図1は、本実施例のシステム構成を示すブロック図,図2は、タンクとノズル(泡放射砲)の位置関係を示す図である。図3〜図5は、シミュレーション用入力データの一例を示す図,図6及び図7は、シミュレーション結果の表示例である。図8は、シミュレーション時の計算サブルーチンの一例を示すフロー図である。
【0015】
図1に示すように、火災・消火状況シミュレーションシステム10は、演算処理装置12に、表示装置14,入力装置16,プログラムメモリ18,データメモリ30が接続されており、一般的なコンピュータを利用して構成することが可能となっている。また、必要に応じて、プリンタなどの出力装置17も接続される。前記演算処理装置12は、CPU,RAM,ROMを含んでいる。また、前記表示装置14は、例えば、液晶パネルなどを用いたディスプレイであり、シミュレーション結果50などが表示される。前記入力装置16には、キーボードやマウスが含まれており、シミュレーション用データ40などの入力に用いられる。前記出力装置17は、シミュレーション結果や、その結果に基づく検討内容などを必要に応じて印刷するものである。なお、シミュレーション結果等の出力は、印刷などに限定されるものではなく、一般的な記録媒体に記録するような形態であってもよい。前記プログラムメモリ18やデータメモリ30は、例えば、ハードディスクによって構成されている。
【0016】
プログラムメモリ18には、タンク火災用シミュレーションプログラム20が格納されており、該タンク火災用シミュレーションプログラム20には、データ取得プログラム22A,状況解析プログラム22B,火災・消火状況表示処理プログラム22Cなどが含まれている。前記データ取得プログラム22Aは、オペレータが入力装置16を用いてシミュレーション用データ40を入力するための画面を表示し、取得したデータを、前記データメモリ30に格納する。状況解析プログラム22Bは、前記データ取得プログラム22Aによって取得したデータ及び既知のデータに基づいて、火災・消火現象を数値解析し、その計算結果をデータメモリ30に格納する。火災・消火状況表示処理プログラム22Cは、前記数値解析によって得られた結果に基づいて、火災・消火状況を、前記表示装置14で表示できるように処理を行う。
【0017】
一方、データメモリ30には、データ取得プログラム22Aによって取得された取得データ32,前記解析処理プログラム22Bによって得られた解析データ34のほか、シミュレーション結果を表示する際に利用される画像データなどの表示用データ36が含まれている。前記取得データ32は、前記シミュレーション用データ40と同じ内容である。
【0018】
図3(A)〜(G)には、シミュレーション用データ40の一例が示されている。なお、これらのシミュレーション用データ40を入力するための画面は、前記データ取得プログラム22Aにより、表示装置14上に表示される。また、以下のシミュレーション用データ40で用いる位置・方位などは、図2に示すタンク60とノズル62の位置関係などを含んでいる。具体的な入力例としては、例えば、図3(A)〜(G)に示すように、
(A)タンク中心:位置X,位置Y,高さZ,半径
(B)天候:空気(外気)の温度,湿度,風速,風向X,風向Z(X,Y,Z軸は、図2に基づく)
(風向X:0〜90deg,0=Y軸上の下から上への風,90=X軸上の右から左への風)
(風向Z:0〜90deg,0=Z軸上の水平の風,90=Z軸上の下から上への風)
(C)展開計算用:油密度,油粘度,(水密度,水粘度),有効泡投入ロス(放出量×(1−ロス))
(D)ノズル:ノズル口径,ノズル圧力,放出量
(E)泡特性:発泡倍率
(F)シミュレーション環境:流体口径,連続流体長さ,放射キザミ時間,展開キザミ時間,スイートスポット半径率,スイートスポット上限高さ,ノズル絶対位置X,ノズル絶対位置Y,ノズル絶対位置Z,仮想タンク直径
(G)着地時損失:油の種類,油の比熱,真発熱量,蒸発潜熱,密度,泡着地半径R0,着地範囲内rate,攪拌層の厚さ,攪拌層の初期温度,K値
に関するデータなどがある。
【0019】
このほか、図4に一例を示すように、
(H)輻射熱計算用:タンク又は矩形地の選択,油の物性,タンクのサイズ,矩形地のサイズ,大気,受熱面,
のデータも入力される。なお、図3及び図4は一例であり、入力項目に重複がある場合には、いずれか一方に入力したデータが他方に自動的に反映されるようにしてもよい。
【0020】
更に、図5(A)及び(B)に示すように、
(I)配置:タンク基数,防油提,周囲道路,消火栓,泡消火設備,冷却散水設備,海又は川,長距離泡放射砲,可搬式ポンプ,大口径ホース,可搬式泡原液ホルダー,可搬式泡原液ポンプ,(必要に応じて、火災報知設備,泡原液貯槽,消防隊などの項目も含む),
(J)放射(泡放射砲の放射角度):放射方位,放射角度,放射位置高さ
(放射方位:0〜90deg,0=Y軸上,90=X軸上)
(放射角度:0〜90deg,0=水平,90=真上)
などが入力される。前記配置データは、個々のタンクや製油所などの実情に合わせて実際の配置を入力し、カスタマイズが可能となっている。また、前記泡放射砲(ノズル62)の放射角度は、この入力データを操作することで、消火用泡が、スイートスポットに入るか否かをシミュレートすることができる。なお、スイートスポットとは、泡を投入するのに最適な場所であって、例えば、上昇気流1m以下のところをスイートスポットとする。スイートスポットについては、上述した特許文献1でも説明されている。
【0021】
次に、前記状況解析プログラム22Bでは、以下のような各種数値計算が行われる。
(a)大口径ホースによる水の輸送の水力計算:海からポンプで海水を取水し、ホースを通して放射砲(ノズル)まで送水する際に、ポンプで必要になる圧力を計算する。既存のデータに基づき計算を行う。
(b)スイートスポットの計算:タンクの上昇気流との関係から、消火剤を投入する有効なポイントを計算する。
【0022】
(c)泡消火剤の放射軌跡(飛行曲線)の擬似計算とスイートスポットの判定:ノズルまで届いた水は、泡消火剤原液と混合して泡としてノズルから放出されるが、その際の泡の軌跡を計算する。泡の放射軌跡は、液体の泡を擬似的に特定の形状に見立て、重力と空気の慣性抵抗のみを考慮して計算し、実際のデータに合わせた補正を行う。この際、取得データ32(シミュレーション用データ40)に含まれる風向・風速の影響も計算のファクターとして含む。この計算によって、泡消火剤が燃えているタンク60に入るか否かを確認する。入らなければ、例えば、図5(B)において、入力値を変更して放射砲(ノズル)の向きを変え、入るように調整する。ここで、スイートスポットに入るか否かの判定も行う。
【0023】
(d)実質消火時間の計算:(d-1)泡の展開開始時間の計算と、(d-2)泡の展開時間(消火時間)の計算が行われる。タンク60に入った泡は、蒸発などによりなかなかタンクの液面上に溜まらないが、どの程度の時間が経過すれば溜まり始めるか,すなわち、実際の消火のために泡が展開し始めるまでの時間(泡展開開始時間)を計算する。着地した泡が広がり始めると、泡で覆われた部分は消火されたことになる。この泡の広がる経時変化の計算を行い、泡の展開時間を求める。実質消火時間は、泡の展開開始時間+泡が100%展開する時間(消火時間),すなわち、泡がタンクに入り始めてから消火に至るまでの時間となる。
【0024】
(e)火炎サイズの計算
(f)タンク内の油面高さの計算
(g)泡原液残量計算
【0025】
(f)輻射熱の計算:液面が泡で覆われ始めると、火炎の大きさが変化し、それに応じ周りに対する輻射熱も変化する。輻射熱は、地面からの高さや火災からの距離によっても変化するため、ある位置において受ける火災からの輻射熱を計算する。輻射熱の計算は、例えば、世界的に通用するIP及びNFPAの方法による。
【0026】
(g)隣接タンクの冷却散水量と散水後の温度計算:前記輻射熱をタンク60の隣接タンク64(図2参照)が受けると、該隣接タンク64の温度が上昇してきて発災する危険性がでてくるため、隣接タンク64の温度上昇を計算する。また、隣接タンク64の温度上昇が危険なレベルに達すると、水をかけて冷却しなければならないため、その際の散水量を計算する。更に、散水後の隣接タンク64の温度も計算する。
【0027】
次に、火災・消火状況表示処理プログラム22Cによって、表示装置14に表示されるシミュレーション結果の具体例について説明する。図6(A)〜(C)は、大容量泡放射砲(ノズル)から放出された泡の飛行軌跡を示す図であり、図6(A)は、前記図2にXYZ軸で示す3次元の上方から見たもので、XY座標で示される図である。図6(B)は、前記3次元を側方から見たもので、YZ座標により示されており、図6(C)は、前記3次元を正面から見たもので、XZ座標により示されている。このようなグラフは、前記図3及び図5(B)に示すデータを入力すると表示されるものであって、泡の放射軌跡を表示装置14上で視覚的に確認することができる。
【0028】
また、図7(A)及び(B)には、前記図3〜図5に示すデータを入力した際に表示される他のシミュレーション結果の表示例が示されている。図7(A)に示す例では、スポットの判定,消火時間(秒),泡展開開始時間(分),実質消火時間(分)が示されている。図示の例では、スポットの判定が「HIT」となっているが、ここが「OUT」の場合は、前記図5(B)に示す入力画面で、放射方位・角度・高さなどを変更して、スイートスポットに入るように設定を調整する。なお、上述したように、実質消火時間とは、泡展開開始時間と消火時間(泡展開開始から100%展開までに要する時間)の和で表わされている。図7(A)の場合では、消火時間213秒+泡展開開始時間16.49分(約16分29秒)=実質消火時間20.04分(約20分02秒)となる。
【0029】
図7(B)は、前記図7(A)に示された消火に関する時間をグラフ化したものであって、横軸は泡がタンクに入り始めてからの時間(分),縦軸は、泡展開面積(%)となっている。すなわち、泡がタンク内に入り始めてから、溜まり始めるまで(泡展開面積0%)が16.49分,泡が溜まり始めてから液面を100%覆うまでの時間(消火時間)が213秒であるため、実質消火にかかった時間が、20.04分であることを示している。
【0030】
なお、前記図6及び図7に示した表示例は、全て同一の画面に表示するようにしてもよいし、データ入力用フォームとともに表示するようにしてもよい。例えば、図5(B)に示すシミュレーション用データを入力するフォームと、図7(A)及び(B)の表示及びグラフを同一の画面に同時に表示することにより、ノズル62の放射方位などの設定を変更しながら、その効果を確認することができるので好都合である。上述した表示内容のほか、前記表示装置14には、火災・消火状況表示処理プログラム22Cによって、タンク60の周辺の任意の地点での受熱強度,隣接タンク64内の温度などが表示される。更に、タンク60の火炎サイズの大きさや、隣接タンク64の温度の経時変化を示すイメージ画像などが、必要に応じて表示される。
【0031】
次に、図8も参照して、本実施例の作用を説明する。図8は、前記タンク火災用シミュレーションプログラム20の計算サブルーチンを示す図である。なお、以下で示す火災・消火状況のシミュレーション時には、プログラムメモリ18中のタンク火災用シミュレーションプログラム20が実行されているものとする。所定の操作により、シミュレーションの開始が指示されると、データ取得プログラム22Aにより、シミュレーション用データの入力画面が表示装置14に表示される。オペレータは、入力装置16を利用して、シミュレーション用データ40を入力する(ステップS10)。ここで、入力されるシミュレーション用データ40は、例えば、前記図3〜図5に示すものである。入力されたシミュレーション用データ40は、データメモリ30中に取得データ32として記憶され、これに基づいて、状況解析プログラム22Bによって所定の数値計算が行われ、その結果がデータメモリ30に解析データ34として記憶される。火災・消火状況表示処理プログラム22Cは、前記解析データ34や表示用データ36に基づいて、適宜タイミングでシミュレーション結果50を表示装置14に表示する。また、必要に応じて出力装置17によって出力される。
【0032】
シミュレーション用データ40が入力されると、まず、状況解析プログラム22Aは、泡放射率や大容量泡放射砲の定格流量に基づいて、大口径ホースの圧力損失及び供給圧力の計算と、泡原液の残量計算を行う(ステップS12,S14)。同時に、風速,風向,泡の種類,発泡倍率などに基づいて、泡の放射飛行距離を計算する(ステップS16)。その後、油の物性に基づく火炎サイズの計算(ステップS18),上昇気流とスイートスポットの計算(ステップS20),油の物性及び泡の種類や発泡倍率に基づく泡の着地時間の計算(ステップS22)を行う。泡の着地時間が計算されたら、泡の展開面積の計算(ステップS24)が行われる。なお、泡の展開面積が変化するにつれて火炎サイズも変わるため、泡の展開面積が計算されたら、その結果をもとにして、再び火炎サイズの計算(ステップS18)から泡の展開面積の計算(ステップS24)までを繰り返す。これらの計算結果は、例えば、図6及び図7に示すような形態で表示装置14に表示される。
【0033】
一方、前記ステップS18〜S24までの消火状況と平行して、タンク内油面高さの計算(ステップS26)と輻射熱の計算(ステップS28)が行われる。前記輻射熱の計算結果に基づいて、周囲タンク(隣接タンク64)の温度上昇が計算され(ステップS30)、続いて、該周囲タンクを冷却するための冷却散水量の計算が行われる(ステップS32)。その後、再度ステップS30に戻り、散水後の周囲タンクの温度を計算する。これらの計算結果は、タンク周辺の受熱強度,周囲タンク内の温度などとして表示装置14に表示され、冷却用散水が進むにつれて、表示される数値が適宜更新される。
【0034】
なお、実際の消火活動の際には、火災の発生が公設消防署に通報されて消防隊が出動する。その際には、一定時間以内(例えば、5時間以内)に、泡原液,長距離泡放射砲,可搬式ポンプ,大口径ホース,可搬式泡原液ホルダー,可搬式泡原液ポンプなどが現場に搬送されなければならず、現場についたら、例えば、2時間以内に準備して消火作業を開始し、一定時間(例えば、1時間)以内の消火を目標とする。前記シミュレーションを行うことにより、タンクの配置,消火設備機器,天候などの多数の要素を考慮した上での消火時間が算出されるため、上述した一定時間内の消火を実現するための消火設備機器の準備や訓練の参考にすることができる。
【0035】
このように、実施例1によれば、次のような効果がある。
(1)風速・風向などの自然現象に関するファクターも考慮しながら、火災・消火現象を数値解析し、解析結果に基づいて火災・消火状況を表示装置14に表示することとしたので、実験不可能なケースも含めて、火災・消火状況を視覚的に確認することができる。
(2)個々のタンクや製油所ごとなどに、実情に合わせたシミュレーション用データを入力することができるため、シミュレーション結果を参考にして、それぞれに最適な消火設備機器の準備を行うことができる。
(3)火災発生から消火完了までの状況変化を経時的に表示することで、訓練の参考にすることができる。
(4)火災の輻射熱を考慮し、隣接タンク64の温度変化,冷却用散水量の計算などを行うこととしたので、より現実的なシミュレーションを行うことができる。
【0036】
なお、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることができる。例えば、以下のものも含まれる。
(1)前記実施例で示したシステム構成は一例であり、同様の効果を奏するように適宜変更してよい。また、前記実施例で示した火災・消火状況シミュレーションシステム10を、インターネットなどのネットワークに接続し、該ネットワークを介して製油所などからシミュレーション用データを取得するようにしてもよい。
(2)前記実施例で示したシミュレーション用データ40や、表示されるシミュレーション結果50も一例であり、必要に応じて適宜変更してよい。例えば、火災からの輻射熱による消火の困難性をCGで表現することにより、消防士の活動に制限を加えるような機能を設けてもよい。
(3)前記実施例で示した作用も一例であり、同様の効果を奏するように適宜変更してよい。例えば、シミュレーションに用いるパラメータを増やしたり、細かいサブルーチンを増やしたりするなどである。
(4)必要に応じて、実際に近い映像を用いる,新たに発表される実験データを組み込むなどを行うことにより、より現実的なシミュレーションを行うようにしてもよい。
(5)前記実施例では、本発明によるシミュレーション結果を消火設備機器の用意や訓練の参考に活用することとしたが、保険会社などの場合には、前記システムを用いて保険対象の安全性の検討ができるので、リスク評価のツールとして活用できる。また、製油所などの場合には、前記シミュレーションによって対策を検討した後に必要な消火設備機器を購入することでリスクを軽減できる。また、近隣住民に対する安全対策のアピールにも有効である。
(6)前記実施例では、ヨーロッパ式の消火方法を例に挙げて説明したが、例えば、水性膜泡原液とノンアスピレータ型大容量泡放射砲を使用するアメリカ方式などに適用するようにしてもよい。
(7)前記実施例は、タンク火災などが好適な適用対象であるが、本発明は、高層ビルや大型LNGターミナルなどの他の火災に対しても応用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によれば、火災現象に関する種々のファクターを考慮しながら、火災・消火現象を数値解析し、解析結果に基づいて視覚的に火災・消火状況を表示することとしたので、火災・消火状況のシミュレーションシステムの用途に好適である。特に、実験や訓練が困難なタンク火災などの大規模火災に関するシミュレーションシステムの用途に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施例1のシステム構成を示すブロック図である。
【図2】前記実施例1のシミュレーションにおけるタンクとノズルの位置を示す図である。
【図3】前記実施例1のシミュレーション用入力データの一例を示す図である。
【図4】前記実施例1のシミュレーション用入力データの一例を示す図である。
【図5】前記実施例1のシミュレーション用入力データの一例を示す図である。
【図6】前記実施例1のシミュレーション結果の表示例を示す図である。
【図7】前記実施例1のシミュレーション結果の表示例を示す図である。
【図8】前記実施例1のシミュレーション時の計算サブルーチンの一例を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0039】
10:火災・消火状況シミュレーションシステム
12:演算処理装置
14:表示装置
16:入力装置
17:出力装置
18:プログラムメモリ
20:タンク火災用シミュレーションプログラム
22A:データ取得プログラム
22B:状況解析プログラム
22C:火災・消火状況表示処理プログラム
30:データメモリ
32:取得データ
34:解析データ
36:表示用データ
40:シミュレーション用データ
50:シミュレーション結果
60:タンク
62:ノズル
64:隣接タンク


【特許請求の範囲】
【請求項1】
火災・消火現象を数値解析するためのデータを取得するデータ取得手段,
該データ取得手段によって取得したデータ及び既知のデータに基づいて、火災・消火現象を数値解析する状況解析手段,
該状況解析手段によって得られた結果に基づいて、火災・消火状況を視覚的に表示する表示処理手段,
を備えるとともに、
前記状況解析手段は、少なくとも、消火対象物に関するデータ,消火設備に関するデータ,消火環境に関するデータ,天候に関するデータに基づいて解析を行うことを特徴とする火災・消火状況シミュレーションシステム。
【請求項2】
前記表示処理手段は、前記火災・消火状況を経時的に表示することを特徴とする請求項1記載の火災・消火状況シミュレーションシステム。
【請求項3】
前記消火対象物が燃料タンクであるときに、
前記消火対象物に関するデータが、タンク及び燃料に関するデータを含み,
消火設備に関するデータが、泡消火剤及びその水溶液放射用設備ないし機器に関するデータを含み,
前記消火環境に関するデータが、前記燃料タンクの周囲構造物に関するデータを含み,
前記天候に関するデータが、温度,湿度,風向き,風速に関するデータを含む,
ことを特徴とする請求項1又は2記載の火災・消火状況シミュレーションシステム。
【請求項4】
前記状況解析手段は、水の輸送の水力計算,消火用泡の放射軌跡の計算,火炎サイズの計算,火災による上昇気流の計算,スイートスポットの判定,消火時間の計算,泡消火剤原液の残量計算を行うとともに、
前記表示処理手段は、前記状況解析手段による計算結果の少なくともいずれかを表示することを特徴とする請求項3記載の火災・消火状況シミュレーションシステム。
【請求項5】
前記状況解析手段は、更に、任意地点での輻射熱の計算,前記燃料タンクの周囲構造物の温度上昇の計算,前記周囲構造物への冷却用散水量の計算,散水後の周囲構造物の温度計算を行うとともに、
前記表示処理手段は、前記状況解析手段による計算結果の少なくともいずれかを表示することを特徴とする請求項4記載の火災・消火状況シミュレーションシステム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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