炉の逆傾斜ライニング構造
【課題】炉の直胴部の一部又は全部の内張れんがを逆傾斜積みにすることにより、築炉中のれんがのずれや抜け落ちを防止し、築炉の容易化及び施工時間の短縮化を可能とする炉の逆傾斜ライニング構造を提供する。
【解決手段】炉の逆傾斜ライニング構造は、直胴部6の第1内張れんが6aの第1厚み方向中心軸が、直胴部6の鉄皮面1a上にあって炉底4から炉口8に向かい鉄皮面1aに沿って高さ方向に向かう第1高さ方向軸と鉄皮面1aに対して垂直な垂直方向軸との間に位置するように、第1内張れんが6aを積み上げた構成である。
【解決手段】炉の逆傾斜ライニング構造は、直胴部6の第1内張れんが6aの第1厚み方向中心軸が、直胴部6の鉄皮面1a上にあって炉底4から炉口8に向かい鉄皮面1aに沿って高さ方向に向かう第1高さ方向軸と鉄皮面1aに対して垂直な垂直方向軸との間に位置するように、第1内張れんが6aを積み上げた構成である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉、AOD炉、溶銑予備処理炉、混銑車等の炉に傾斜ライニング構造を適用することにより、れんがの割れおよび脱落防止、安定操業を達成するための新規な改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、転炉等の直胴部の内張れんがは、直胴部鉄皮に垂直にライニングされた水平積みである。一方、絞り部の内張れんがは、直胴部の水平積みライニングと同じ水平積みライニング構造、あるいは、絞り部内張れんがの厚み方向中心軸が、絞り部鉄皮方向と直胴部鉄皮に垂直な方向との間の鈍角側に位置するように積み上げる傾斜積みライニング構造が適用されている。また、水平積み構造では、絞り部の付け根、すなわち、直胴部に寄った絞り部の内張れんがに亀裂が生じ脱落することがある。これは、溶銑や溶鋼を受けた炉において、高温度に曝された内張れんがが膨張し、炉底から炉口に向かって大きな突き上げが起こり、その突き上げが絞り部の内張れんがに集中することが要因になっている。そのために、炉の寿命が短くなり、これを解決するために、その集中を分散させる構造として、傾斜積みライニング構造と逆傾斜積みライニング構造とがこれまでに提案されている。
【0003】
前者の構造に関連して、以下の特許が開示されている。
まず、特許文献1、特許文献2には、傾斜積み構造と水平積み構造が例示されている。
また、特許文献3には、絞り部鉄皮面に対して垂直にれんがを積み上げた傾斜型のライニング構造が例示されている。
また、特許文献4には、水平積みのライニング構造が例示されている。
また、特許文献5には、水平積みライニング構造が例示され、炉の軸線と絞り部鉄皮とのなす角度よりも、軸線と内張れんが表面がなす角度が小さくなるように積み上げることを特徴とする構造が開示されている。
さらに、逆傾斜積みライニング構造として、特許文献6の構造が例示されている。
また、これらに共通して直胴部は水平積みライニングで構成されている。
【0004】
【特許文献1】実開昭61−159357号公報
【特許文献2】特開2003−231910号公報
【特許文献3】実開平3−67050号公報
【特許文献4】特開平5−279719号公報
【特許文献5】特開平7−3321号公報
【特許文献6】特開2006−200824号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のライニング構造は、以上のように構成されていたため、次のような課題が存在していた。すなわち、絞り部を水平積みにしたライニングに比べて、絞り部を傾斜積みにしたライニングは応力軽減が図られ、効果を示しているが、築炉時にれんががずれ落ちたり、使用中にれんがが抜けることがある。また、支障なく築炉できたとしても、炉の稼動中の多くの時間は、絞り部の傾斜積みれんがに重力による下方に落ちる力が常に掛かるため、特に、れんがが損耗し厚みが短くなる稼働末期では、れんがが抜け落ちることがある。さらには、本出願人の研究により、そもそも絞り部の傾斜積みでは、れんがの亀裂に結びつく応力は軽減されるが、絞り部の水平積みに比べて絞り部のれんが間に隙間が生じやすいことがわかった。一方、このような絞り部れんがの短命は、水平積みライニングの直胴部れんがにも影響を与え、直胴部れんがの脱落、早期損傷にも繋がっている。
【0006】
前述の各特許文献の中で、特許文献6の構成は、かなりの効果を示し、絞り部れんがの脱落は見られなくなったが、絞り部れんがの脱落がなく炉の寿命が延長されると、次に問題として浮上するのが直胴部れんがの損傷である。例えば、スラグや溶鉄による損傷、あるいは転炉などに見られる上吹き処理の影響による損傷により直胴部れんがが他の部位のれんがよりも大きく損傷されることになる。この直胴部れんがの損傷の特徴は、前記損傷の継続により厚みが徐々に少なくなり、あるところである程度の厚みをもって一気に脱落することがあった。
本発明は上記事情に鑑み、前述の特許文献6の構造のさらなる補強、改良を目指し、直胴部れんががある程度の厚みをもって一気に脱落するような状態を防止することができるような炉の逆傾斜ライニング構造を得ることを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による炉の逆傾斜積みライニング構造は、直胴部を有する炉に形成されてなる炉の逆傾斜ライニング構造において、前記直胴部の一部または全部の内側に施工する第1内張れんがの第1厚み方向中心軸が、前記直胴部の鉄皮面上にあって炉底から炉口に向かい前記鉄皮面に沿って高さ方向に向かう第1高さ方向軸と前記直胴部の前記鉄皮面に対して垂直な垂直方向軸との間に位置するように、前記第1内張れんがを積み上げた構成であり、また、前記直胴部よりも上方に位置する絞り部の内側に施工する第2内張れんがの第2厚み方向中心軸が、前記絞り部の前記鉄皮面上にあって前記炉底から炉口に向かい前記鉄皮面に沿って高さ方向に向かう第2高さ方向軸と前記直胴部の前記鉄皮面に垂直な前記垂直方向軸との間の鋭角内に位置するように、前記第2内張れんがを積み上げて前記絞り部を形成する構成であり、また、前記第1、第2厚み方向中心軸が、前記垂直方向軸に対して5〜30度の逆傾斜角度をなす構成であり、また、前記第1、第2内張れんがの第1、第2炉内面に段差がない構成であり、また、前記炉が、転炉、AOD炉、混銑車、溶銑予備処理炉の何れかである構成である。
【発明の効果】
【0008】
本発明による炉の逆傾斜ライニング構造は以上のように構成されているため、次のような効果を得ることができる。すなわち、転炉、AOD炉、溶銑予備処理炉、混銑車等の炉の内張れんが積み構造を逆傾斜積にすることにより、築炉中にれんががずれたり抜け落ちることなく、容易に築炉できるので、施工時間を大幅に短縮する効果を得ることができ、また、使用中にれんがの膨張による応力集中が生じることなくれんがの割れ防止が図られ、さらに、各れんが間に隙間が生じることなく、また、れんがの損耗が進み残厚が薄くなっても一気に脱落することがないので、炉寿命の延長と安定操業が可能になる。また、れんがの損傷または抜け落ちに対して従来実施されていた補修作業、それに伴う補修材が必要ないので、炉寿命の延長効果と相まって炉の操業コストを従来よりも大幅に削減できるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、炉の内張れんが積み構造を逆傾斜積みとすることにより、築炉中のれんががずれたり抜け落ちることなく、容易に築炉できるライニングであること、使用時にれんがの膨張による応力集中が生じることなくれんがの割れ防止が図られるライニングであること、さらに、使用中に各れんが間に隙間が生じることがなく、れんがの損耗が進み残厚が薄くなっても一気に脱落することがないようにした構造を有する炉の逆傾斜ライニング構造を得ることを目的とする。
【実施例】
【0010】
以下、図面と共に本発明による炉の逆傾斜ライニング構造の好適な実施の形態について説明する。
通常、炉20のれんが積施工は、炉20の底部20aから上方に向かって行われる。一例として、図1を使用して説明する。図1は、鉄皮1の内側に、パーマライニング2、ウェアーライニング3が施工されている。このパーマライニング2は、定形耐火物であるれんがでも、不定形耐火物であるキャスタブル、スタンプ材、充填材等でも、いずれでも良い。一方、ウェアーライニング3は所定の形状を持ったれんがである。これらのパーマライニング2、ウェアーライニング3は、炉20を図1のように立てた状態で、炉底4から施工され、炉底4、下部コーナー部5と順番に下から上方に施工される。この下部コーナー部5まで施工したところで、直胴部6の施工となる。ここで、前記直胴部6または直胴部6及びこの直胴部6の上方の絞り部7のウェアーライニング3の第1内張れんが6aないし第2内張れんが7aは、本発明の逆傾斜積ライニングで施工される。さらに、その上方が炉口8になる。
【0011】
前記下部コーナー部5のウェアーライニング3と直胴部6のウェアーライニング3との角度は逆傾斜角度なら同じでもよく、異なる場合は、下部コーナー部5のすぐ上に、前記直胴部6の逆傾斜積れんがを施工することができない。また、同様のことは前記直胴部6と絞り部7との間も同様である。そこで、前記下部コーナー部5と直胴部6との間に第1切替れんが9aを、前記直胴部6と絞り部7との間に第2切替れんが9bを用いることになる。この各切替れんが9aないし9bは、図2に示すように、1個または複数個を用いて、2つの部位間の角度の違いを調整している。また、前記絞り部7の上部まで第2内張れんが7aを積み上げ、炉口8で、再度水平に戻し、炉口8の鉄皮1に接するようにする戻しれんが10が設けられている。尚、図1は最後の1個で上部戻しれんが10としている例であるが、複数個を用いても良い。
【0012】
前記直胴部6ないし絞り部7の逆傾斜積になっているウェアーライニング3の各内張れんが6aないし7aは、図2、図3のように、第1炉内面6aA(稼働面)ないし第2炉内面7aA(稼働面)、第1背面6aBないし第2背面7aBともに滑らかに積み上げても良く、あるいは、図4〜図6のように、各背面6aB,7aBに、段差を付けて積み上げても良い。しかし、段の飛び出た箇所が使用中に割れやすいので、望ましくは、直胴部6ないし絞り部7に施工した第1内張れんが6aないし第2内張れんが7aの第1炉内面6aAないし第2炉内面7aAに段差がない図2、図3の施工がより良好である。
【0013】
前記直胴部6ないし絞り部7に形成した各内張れんが6aないし7aによる逆傾斜ライニングにおける逆傾斜角度は次のようにして決める。すなわち、図9のように前記直胴部6の鉄皮1に対して垂直に第1炉内面6aAないし第2炉内面7aAに向かう垂直方向軸11と直胴部6ないし絞り部7の鉄皮1に沿って高さ方向に向かう第1、第2高さ方向軸12,12aとがなす鋭角13の間を、直胴部6ないし絞り部7に配設する各内張れんが6aないし7aの第1、第2厚み方向中心軸14,14Aが通る配設の仕方が逆傾斜積みである。
【0014】
尚、各高さ方向軸12,12aの逆方向と垂直方向軸11との間を各内張れんが6a,7aの各厚み方向中心軸14,14Aが通る施工は傾斜積になる。また、図10、図11の各内張れんが6aないし7aの各厚み方向中心軸14,14Aと垂直方向軸11とのなす角度である逆傾斜角度16については、逆傾斜であれば任意の角度で効果を発揮するが、望ましくは5〜30度のときが最適である。5度よりも小さいと、本発明の目的である各内張れんが6aないし7aの割れ、各内張れんが6aないし7a間の隙間生成を抑制する効果が減じられ、各内張れんが6aないし7aの抜け落ちが生じやすくなる。しかし、30度を超えても、稼働時に内張れんが6aないし7aが抜けないように、例えば、各内張れんが6aないし7aの上下面の両面または片面に図示しないダボを設け、抜け落ち防止を図っても良い。
なお、本発明の施工方法は、直胴部ないし絞り部構造を有する転炉、AOD炉、混銑車、溶銑予備処理炉等に用いることで効果を発揮する。
【0015】
次に、本発明による直胴部ないし絞り部構造を有する炉の逆傾斜ライニング構造を適用した複数種の炉を用いて実験した結果を表1の第1表に示している。
【0016】
【表1】
【0017】
【表2】
【0018】
第1表中の施工時間割合は、本発明と同じ炉で比較例として水平積みないし傾斜積施工を実施したときの直胴部ないし絞り部における準備を含めた施工時間で、本発明の同部位における準備を含めた施工時間を除したときの割合である。割合が100のとき、比較例と同等、数値の小さいものほど施工時間が短く良好であることを示す。
第1表中の直胴部ないし絞り部れんが割れ損傷度合は、本発明と同じ炉で比較例として水平積みないし傾斜積施工を実施したときの直胴部ないし絞り部れんがの割れ損傷に起因した損傷速度(mm/ch)で、本発明の直胴部ないし絞り部れんがの割れ損傷速度を除したときの度合表示である。度合が100のとき、比較例と同等、数値の小さいものほど割れ損傷速度が小さく良好であることを示している。
【0019】
また、直胴部ないし絞り部れんが抜け落ち度合は、同様に本発明と同じ炉で比較例として水平積みないし傾斜積施工を実施したときの1炉代に渡る、絞り部れんがの抜け落ち本数で、本発明の絞り部れんがの抜け落ち本数を除したときの度合表示である。度合が100のとき、比較例と同等、数値の小さいものほど抜け落ち損傷速度が小さく良好であることを示している。
従って、第1表から分るように、本発明の実施例は、いずれも比較例よりも優れている。
本発明による直胴部ないし絞り部構造を有する炉の逆傾斜ライニング構造は、内張煉瓦を用いる全ての炉に適用が可能である。
尚、図12は本発明を混銑車30のライニングに適用した構造を示す断面図であり、図1と同一部分には同一符号を付し、その説明は省略する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明による炉の逆傾斜ライニング構造を示す要部の断面図である。
【図2】図1の要部の拡大断面図である。
【図3】図1の要部の拡大断面図である。
【図4】図2の他の形態を示す断面図である。
【図5】図2の他の形態を示す断面図である。
【図6】図2の他の形態を示す断面図である。
【図7】図1の切替れんがを示す拡大断面図である。
【図8】図7の他の形態を示す断面図である。
【図9】図1の要部の逆傾斜積の逆傾斜角度の決め方を示す全体構成図である。
【図10】図9の要部の拡大図である。
【図11】図9の要部の拡大図である。
【図12】図1の構造を適用した混銑車の構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0021】
1 鉄皮
1a 鉄皮面
2 パーマライニング
3 ウェアーライニング
4 炉底
5 下部コーナー部
6 直胴部
6a 第1内張れんが
6aA 第1炉内面
6aB 第1背面
7 絞り部
7a 第2内張れんが
7aA 第2炉内面
7aB 第2背面
8 炉口
9a 第1切替れんが
9b 第2切替れんが
10 戻しれんが
11 垂直方向軸
12 第1高さ方向軸
12a 第2高さ方向軸
13 垂直方向軸11と第1、第2高さ方向軸12,12aとの間の鋭角
14 第1厚み方向中心軸
14A 第2厚み方向中心軸
16 逆傾斜角度
20 炉
30 混銑車
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉、AOD炉、溶銑予備処理炉、混銑車等の炉に傾斜ライニング構造を適用することにより、れんがの割れおよび脱落防止、安定操業を達成するための新規な改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、転炉等の直胴部の内張れんがは、直胴部鉄皮に垂直にライニングされた水平積みである。一方、絞り部の内張れんがは、直胴部の水平積みライニングと同じ水平積みライニング構造、あるいは、絞り部内張れんがの厚み方向中心軸が、絞り部鉄皮方向と直胴部鉄皮に垂直な方向との間の鈍角側に位置するように積み上げる傾斜積みライニング構造が適用されている。また、水平積み構造では、絞り部の付け根、すなわち、直胴部に寄った絞り部の内張れんがに亀裂が生じ脱落することがある。これは、溶銑や溶鋼を受けた炉において、高温度に曝された内張れんがが膨張し、炉底から炉口に向かって大きな突き上げが起こり、その突き上げが絞り部の内張れんがに集中することが要因になっている。そのために、炉の寿命が短くなり、これを解決するために、その集中を分散させる構造として、傾斜積みライニング構造と逆傾斜積みライニング構造とがこれまでに提案されている。
【0003】
前者の構造に関連して、以下の特許が開示されている。
まず、特許文献1、特許文献2には、傾斜積み構造と水平積み構造が例示されている。
また、特許文献3には、絞り部鉄皮面に対して垂直にれんがを積み上げた傾斜型のライニング構造が例示されている。
また、特許文献4には、水平積みのライニング構造が例示されている。
また、特許文献5には、水平積みライニング構造が例示され、炉の軸線と絞り部鉄皮とのなす角度よりも、軸線と内張れんが表面がなす角度が小さくなるように積み上げることを特徴とする構造が開示されている。
さらに、逆傾斜積みライニング構造として、特許文献6の構造が例示されている。
また、これらに共通して直胴部は水平積みライニングで構成されている。
【0004】
【特許文献1】実開昭61−159357号公報
【特許文献2】特開2003−231910号公報
【特許文献3】実開平3−67050号公報
【特許文献4】特開平5−279719号公報
【特許文献5】特開平7−3321号公報
【特許文献6】特開2006−200824号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のライニング構造は、以上のように構成されていたため、次のような課題が存在していた。すなわち、絞り部を水平積みにしたライニングに比べて、絞り部を傾斜積みにしたライニングは応力軽減が図られ、効果を示しているが、築炉時にれんががずれ落ちたり、使用中にれんがが抜けることがある。また、支障なく築炉できたとしても、炉の稼動中の多くの時間は、絞り部の傾斜積みれんがに重力による下方に落ちる力が常に掛かるため、特に、れんがが損耗し厚みが短くなる稼働末期では、れんがが抜け落ちることがある。さらには、本出願人の研究により、そもそも絞り部の傾斜積みでは、れんがの亀裂に結びつく応力は軽減されるが、絞り部の水平積みに比べて絞り部のれんが間に隙間が生じやすいことがわかった。一方、このような絞り部れんがの短命は、水平積みライニングの直胴部れんがにも影響を与え、直胴部れんがの脱落、早期損傷にも繋がっている。
【0006】
前述の各特許文献の中で、特許文献6の構成は、かなりの効果を示し、絞り部れんがの脱落は見られなくなったが、絞り部れんがの脱落がなく炉の寿命が延長されると、次に問題として浮上するのが直胴部れんがの損傷である。例えば、スラグや溶鉄による損傷、あるいは転炉などに見られる上吹き処理の影響による損傷により直胴部れんがが他の部位のれんがよりも大きく損傷されることになる。この直胴部れんがの損傷の特徴は、前記損傷の継続により厚みが徐々に少なくなり、あるところである程度の厚みをもって一気に脱落することがあった。
本発明は上記事情に鑑み、前述の特許文献6の構造のさらなる補強、改良を目指し、直胴部れんががある程度の厚みをもって一気に脱落するような状態を防止することができるような炉の逆傾斜ライニング構造を得ることを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による炉の逆傾斜積みライニング構造は、直胴部を有する炉に形成されてなる炉の逆傾斜ライニング構造において、前記直胴部の一部または全部の内側に施工する第1内張れんがの第1厚み方向中心軸が、前記直胴部の鉄皮面上にあって炉底から炉口に向かい前記鉄皮面に沿って高さ方向に向かう第1高さ方向軸と前記直胴部の前記鉄皮面に対して垂直な垂直方向軸との間に位置するように、前記第1内張れんがを積み上げた構成であり、また、前記直胴部よりも上方に位置する絞り部の内側に施工する第2内張れんがの第2厚み方向中心軸が、前記絞り部の前記鉄皮面上にあって前記炉底から炉口に向かい前記鉄皮面に沿って高さ方向に向かう第2高さ方向軸と前記直胴部の前記鉄皮面に垂直な前記垂直方向軸との間の鋭角内に位置するように、前記第2内張れんがを積み上げて前記絞り部を形成する構成であり、また、前記第1、第2厚み方向中心軸が、前記垂直方向軸に対して5〜30度の逆傾斜角度をなす構成であり、また、前記第1、第2内張れんがの第1、第2炉内面に段差がない構成であり、また、前記炉が、転炉、AOD炉、混銑車、溶銑予備処理炉の何れかである構成である。
【発明の効果】
【0008】
本発明による炉の逆傾斜ライニング構造は以上のように構成されているため、次のような効果を得ることができる。すなわち、転炉、AOD炉、溶銑予備処理炉、混銑車等の炉の内張れんが積み構造を逆傾斜積にすることにより、築炉中にれんががずれたり抜け落ちることなく、容易に築炉できるので、施工時間を大幅に短縮する効果を得ることができ、また、使用中にれんがの膨張による応力集中が生じることなくれんがの割れ防止が図られ、さらに、各れんが間に隙間が生じることなく、また、れんがの損耗が進み残厚が薄くなっても一気に脱落することがないので、炉寿命の延長と安定操業が可能になる。また、れんがの損傷または抜け落ちに対して従来実施されていた補修作業、それに伴う補修材が必要ないので、炉寿命の延長効果と相まって炉の操業コストを従来よりも大幅に削減できるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、炉の内張れんが積み構造を逆傾斜積みとすることにより、築炉中のれんががずれたり抜け落ちることなく、容易に築炉できるライニングであること、使用時にれんがの膨張による応力集中が生じることなくれんがの割れ防止が図られるライニングであること、さらに、使用中に各れんが間に隙間が生じることがなく、れんがの損耗が進み残厚が薄くなっても一気に脱落することがないようにした構造を有する炉の逆傾斜ライニング構造を得ることを目的とする。
【実施例】
【0010】
以下、図面と共に本発明による炉の逆傾斜ライニング構造の好適な実施の形態について説明する。
通常、炉20のれんが積施工は、炉20の底部20aから上方に向かって行われる。一例として、図1を使用して説明する。図1は、鉄皮1の内側に、パーマライニング2、ウェアーライニング3が施工されている。このパーマライニング2は、定形耐火物であるれんがでも、不定形耐火物であるキャスタブル、スタンプ材、充填材等でも、いずれでも良い。一方、ウェアーライニング3は所定の形状を持ったれんがである。これらのパーマライニング2、ウェアーライニング3は、炉20を図1のように立てた状態で、炉底4から施工され、炉底4、下部コーナー部5と順番に下から上方に施工される。この下部コーナー部5まで施工したところで、直胴部6の施工となる。ここで、前記直胴部6または直胴部6及びこの直胴部6の上方の絞り部7のウェアーライニング3の第1内張れんが6aないし第2内張れんが7aは、本発明の逆傾斜積ライニングで施工される。さらに、その上方が炉口8になる。
【0011】
前記下部コーナー部5のウェアーライニング3と直胴部6のウェアーライニング3との角度は逆傾斜角度なら同じでもよく、異なる場合は、下部コーナー部5のすぐ上に、前記直胴部6の逆傾斜積れんがを施工することができない。また、同様のことは前記直胴部6と絞り部7との間も同様である。そこで、前記下部コーナー部5と直胴部6との間に第1切替れんが9aを、前記直胴部6と絞り部7との間に第2切替れんが9bを用いることになる。この各切替れんが9aないし9bは、図2に示すように、1個または複数個を用いて、2つの部位間の角度の違いを調整している。また、前記絞り部7の上部まで第2内張れんが7aを積み上げ、炉口8で、再度水平に戻し、炉口8の鉄皮1に接するようにする戻しれんが10が設けられている。尚、図1は最後の1個で上部戻しれんが10としている例であるが、複数個を用いても良い。
【0012】
前記直胴部6ないし絞り部7の逆傾斜積になっているウェアーライニング3の各内張れんが6aないし7aは、図2、図3のように、第1炉内面6aA(稼働面)ないし第2炉内面7aA(稼働面)、第1背面6aBないし第2背面7aBともに滑らかに積み上げても良く、あるいは、図4〜図6のように、各背面6aB,7aBに、段差を付けて積み上げても良い。しかし、段の飛び出た箇所が使用中に割れやすいので、望ましくは、直胴部6ないし絞り部7に施工した第1内張れんが6aないし第2内張れんが7aの第1炉内面6aAないし第2炉内面7aAに段差がない図2、図3の施工がより良好である。
【0013】
前記直胴部6ないし絞り部7に形成した各内張れんが6aないし7aによる逆傾斜ライニングにおける逆傾斜角度は次のようにして決める。すなわち、図9のように前記直胴部6の鉄皮1に対して垂直に第1炉内面6aAないし第2炉内面7aAに向かう垂直方向軸11と直胴部6ないし絞り部7の鉄皮1に沿って高さ方向に向かう第1、第2高さ方向軸12,12aとがなす鋭角13の間を、直胴部6ないし絞り部7に配設する各内張れんが6aないし7aの第1、第2厚み方向中心軸14,14Aが通る配設の仕方が逆傾斜積みである。
【0014】
尚、各高さ方向軸12,12aの逆方向と垂直方向軸11との間を各内張れんが6a,7aの各厚み方向中心軸14,14Aが通る施工は傾斜積になる。また、図10、図11の各内張れんが6aないし7aの各厚み方向中心軸14,14Aと垂直方向軸11とのなす角度である逆傾斜角度16については、逆傾斜であれば任意の角度で効果を発揮するが、望ましくは5〜30度のときが最適である。5度よりも小さいと、本発明の目的である各内張れんが6aないし7aの割れ、各内張れんが6aないし7a間の隙間生成を抑制する効果が減じられ、各内張れんが6aないし7aの抜け落ちが生じやすくなる。しかし、30度を超えても、稼働時に内張れんが6aないし7aが抜けないように、例えば、各内張れんが6aないし7aの上下面の両面または片面に図示しないダボを設け、抜け落ち防止を図っても良い。
なお、本発明の施工方法は、直胴部ないし絞り部構造を有する転炉、AOD炉、混銑車、溶銑予備処理炉等に用いることで効果を発揮する。
【0015】
次に、本発明による直胴部ないし絞り部構造を有する炉の逆傾斜ライニング構造を適用した複数種の炉を用いて実験した結果を表1の第1表に示している。
【0016】
【表1】
【0017】
【表2】
【0018】
第1表中の施工時間割合は、本発明と同じ炉で比較例として水平積みないし傾斜積施工を実施したときの直胴部ないし絞り部における準備を含めた施工時間で、本発明の同部位における準備を含めた施工時間を除したときの割合である。割合が100のとき、比較例と同等、数値の小さいものほど施工時間が短く良好であることを示す。
第1表中の直胴部ないし絞り部れんが割れ損傷度合は、本発明と同じ炉で比較例として水平積みないし傾斜積施工を実施したときの直胴部ないし絞り部れんがの割れ損傷に起因した損傷速度(mm/ch)で、本発明の直胴部ないし絞り部れんがの割れ損傷速度を除したときの度合表示である。度合が100のとき、比較例と同等、数値の小さいものほど割れ損傷速度が小さく良好であることを示している。
【0019】
また、直胴部ないし絞り部れんが抜け落ち度合は、同様に本発明と同じ炉で比較例として水平積みないし傾斜積施工を実施したときの1炉代に渡る、絞り部れんがの抜け落ち本数で、本発明の絞り部れんがの抜け落ち本数を除したときの度合表示である。度合が100のとき、比較例と同等、数値の小さいものほど抜け落ち損傷速度が小さく良好であることを示している。
従って、第1表から分るように、本発明の実施例は、いずれも比較例よりも優れている。
本発明による直胴部ないし絞り部構造を有する炉の逆傾斜ライニング構造は、内張煉瓦を用いる全ての炉に適用が可能である。
尚、図12は本発明を混銑車30のライニングに適用した構造を示す断面図であり、図1と同一部分には同一符号を付し、その説明は省略する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明による炉の逆傾斜ライニング構造を示す要部の断面図である。
【図2】図1の要部の拡大断面図である。
【図3】図1の要部の拡大断面図である。
【図4】図2の他の形態を示す断面図である。
【図5】図2の他の形態を示す断面図である。
【図6】図2の他の形態を示す断面図である。
【図7】図1の切替れんがを示す拡大断面図である。
【図8】図7の他の形態を示す断面図である。
【図9】図1の要部の逆傾斜積の逆傾斜角度の決め方を示す全体構成図である。
【図10】図9の要部の拡大図である。
【図11】図9の要部の拡大図である。
【図12】図1の構造を適用した混銑車の構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0021】
1 鉄皮
1a 鉄皮面
2 パーマライニング
3 ウェアーライニング
4 炉底
5 下部コーナー部
6 直胴部
6a 第1内張れんが
6aA 第1炉内面
6aB 第1背面
7 絞り部
7a 第2内張れんが
7aA 第2炉内面
7aB 第2背面
8 炉口
9a 第1切替れんが
9b 第2切替れんが
10 戻しれんが
11 垂直方向軸
12 第1高さ方向軸
12a 第2高さ方向軸
13 垂直方向軸11と第1、第2高さ方向軸12,12aとの間の鋭角
14 第1厚み方向中心軸
14A 第2厚み方向中心軸
16 逆傾斜角度
20 炉
30 混銑車
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直胴部(6)を有する炉(20)に形成されてなる炉の逆傾斜ライニング構造において、前記直胴部(6)の一部または全部の内側に施工する第1内張れんが(6a)の第1厚み方向中心軸(14)が、前記直胴部(6)の鉄皮面(1a)上にあって炉底(4)から炉口(8)に向かい前記鉄皮面(1a)に沿って高さ方向に向かう第1高さ方向軸(12)と前記直胴部(6)の前記鉄皮面(1a)に対して垂直な垂直方向軸(11)との間に位置するように、前記第1内張れんが(6a)を積み上げた構成よりなることを特徴とする炉の逆傾斜ライニング構造。
【請求項2】
前記直胴部(6)よりも上方に位置する絞り部(7)の内側に施工する第2内張れんが(7a)の第2厚み方向中心軸(14A)が、前記絞り部(7)の前記鉄皮面(1a)上にあって前記炉底(4)から炉口(8)に向かい前記鉄皮面(1a)に沿って高さ方向に向かう第2高さ方向軸(12a)と前記直胴部(6)の前記鉄皮面(1a)に垂直な前記垂直方向軸(11)との間の鋭角(13)内に位置するように、前記第2内張れんが(7a)を積み上げて前記絞り部(7)を構成することを特徴とする請求項1記載の炉の逆傾斜ライニング構造。
【請求項3】
前記第1、第2厚み方向中心軸(14,14A)が、前記垂直方向軸(11)に対して5〜30度の逆傾斜角度(16)をなすことを特徴とする請求項1または2記載の炉の逆傾斜ライニング構造。
【請求項4】
前記第1、第2内張れんが(6a,7a)の第1、第2炉内面(6aA,7aA)に段差がないことを特徴とする請求項1ないし3の何れかに記載の炉の逆傾斜ライニング構造。
【請求項5】
前記炉(20)が、転炉、AOD炉、混銑車、溶銑予備処理炉の何れかであることを特徴とする請求項1ないし4の何れかに記載の炉の逆傾斜ライニング構造。
【請求項1】
直胴部(6)を有する炉(20)に形成されてなる炉の逆傾斜ライニング構造において、前記直胴部(6)の一部または全部の内側に施工する第1内張れんが(6a)の第1厚み方向中心軸(14)が、前記直胴部(6)の鉄皮面(1a)上にあって炉底(4)から炉口(8)に向かい前記鉄皮面(1a)に沿って高さ方向に向かう第1高さ方向軸(12)と前記直胴部(6)の前記鉄皮面(1a)に対して垂直な垂直方向軸(11)との間に位置するように、前記第1内張れんが(6a)を積み上げた構成よりなることを特徴とする炉の逆傾斜ライニング構造。
【請求項2】
前記直胴部(6)よりも上方に位置する絞り部(7)の内側に施工する第2内張れんが(7a)の第2厚み方向中心軸(14A)が、前記絞り部(7)の前記鉄皮面(1a)上にあって前記炉底(4)から炉口(8)に向かい前記鉄皮面(1a)に沿って高さ方向に向かう第2高さ方向軸(12a)と前記直胴部(6)の前記鉄皮面(1a)に垂直な前記垂直方向軸(11)との間の鋭角(13)内に位置するように、前記第2内張れんが(7a)を積み上げて前記絞り部(7)を構成することを特徴とする請求項1記載の炉の逆傾斜ライニング構造。
【請求項3】
前記第1、第2厚み方向中心軸(14,14A)が、前記垂直方向軸(11)に対して5〜30度の逆傾斜角度(16)をなすことを特徴とする請求項1または2記載の炉の逆傾斜ライニング構造。
【請求項4】
前記第1、第2内張れんが(6a,7a)の第1、第2炉内面(6aA,7aA)に段差がないことを特徴とする請求項1ないし3の何れかに記載の炉の逆傾斜ライニング構造。
【請求項5】
前記炉(20)が、転炉、AOD炉、混銑車、溶銑予備処理炉の何れかであることを特徴とする請求項1ないし4の何れかに記載の炉の逆傾斜ライニング構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−108363(P2009−108363A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−280720(P2007−280720)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(000001971)品川白煉瓦株式会社 (112)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(000001971)品川白煉瓦株式会社 (112)
【Fターム(参考)】
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