説明

炭化ケイ素焼結体とその製造方法

【課題】
Al焼結助剤は低温焼結の点から優れた焼結助剤であるが、炭化ケイ素焼結体の塑性加工を考慮した場合、1750℃よりも低温で高密度焼結体を得られる焼結技術の開発が必要であった。
【解決手段】
AlSiC化合物を焼結助剤とすることにより、14.5×10℃以上の温度で焼結することにより、高密度の焼結体を作製することができた。また、この焼結体を高温で圧縮変形したところ、初期ひずみ速度1×10−4毎秒、15.0×10℃で良好な塑性変形することを確認した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化ケイ素粉末を焼結した炭化ケイ素焼結体に関し、ウェハーステージ、静電チャック、ダミーウェハー等の半導体製造用装置用部品、機械加工用精密機械部品、耐化学腐食雰囲気メカニカルシール、原子炉用特殊部品等耐摩耗部品に利用されている炭化ケイ素(SiC)焼結体およびその製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
SiC焼結体は高温構造材料や耐摩耗材料などとして多用されている。焼結方法には、再結晶法、反応焼結法、微粉末の液相焼結法と固相焼結法など多くがある。近年応用が拡大した半導体製造部品用SiC焼結体は、上記の技術分野に挙げた焼結方法で最後者の固相焼結法によっている。
SiC粉末の固相焼結法を初めて開発したのは米国GE社のProchazkaで[非特許文献1]、それ以後、多くの研究と技術開発がなされ、現在のSiCが工業材料として確立された。工業的に利用されている焼結法はSiC粉末に焼結助剤としてホウ素(B)と炭素(C)を加え、2100℃前後で焼結するものである。一方、アルミニウム(Al)、BとC元素を加える方法も開発され、さらに、3元素から焼結中にAl化合物を生成させ、SiCの間に発生する液相を利用する方法が開発された[特許文献1]。これによれば、当初開発されたB−C焼結助剤を添加する方法より1750℃という低温で容易に焼結できるようになった。
炭化ケイ素焼結体は、硬度が高く靱性が低いため、切削加工が難しく、焼結体の塑性加工が可能であれば複雑形状部品を容易に作製できる。炭化ケイ素の塑性変形については1700℃での変形が報告されているが[非特許文献2]、変形温度が高いと、変形中に粒成長が起こり、変形が阻害される。また、変形用の治具は高温強度の点から、高荷重部には炭化ケイ素焼結体を用いることとなるため、1600℃以下で良好な塑性変形能をもつことが望ましく、そのためには、粒子径の小さな焼結体を低温で焼結する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、低温での高密度の焼結体を得ることができ、また、良好な塑性変形能をもつ焼結体とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明1の炭化ケイ素焼結体は、焼結助剤として、Al、Si、及びCを含有する粉末を用いて焼成する炭化ケイ素焼結体であって、前記焼結助剤のAl:Si:Cの比率(モル比)が4:1:4であることを特徴とする。
【0005】
発明2の炭化ケイ素焼結体は、発明1の炭化ケイ素焼結体において、前記焼結助剤がAlSiC化合物粉末を含有していることを特徴とする
発明3の炭化ケイ素焼結体は、発明2の炭化ケイ素焼結体において、焼成温度が14.5×10℃以上で焼結体の相対密度が95%以上であることを特徴とする。
発明4の炭化ケイ素焼結体は、発明3の炭化ケイ素焼結体において、15.0×10℃以上、16.5×10℃以下の温度で、ひずみ速度1×10−4毎秒以上で、−0.5以上のひずみまで塑性変形することを特徴とする。
発明5の炭化ケイ素焼結体の製造方法は、焼結助剤として、Al、Si、及びCを含有する粉末を用いて焼成する炭化ケイ素焼結体の製造方法であって、前記焼結助剤のAl:Si:Cの比率(モル比)が4:1:4であることを特徴とする。
発明6の炭化ケイ素焼結体の製造方法は、発明5に記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法において、前記焼結助剤がAlSiC化合物粉末を含有していることを特徴とする。
発明7の炭化ケイ素焼結体の製造方法は、発明6に記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法において、焼成温度が14.5×10℃以上であり、焼結体の相対密度が95%以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するためAl−Si−C系化合物を添加して炭化ケイ素焼結体の焼結を精査した結果、AlSiCを添加し、放電プラズマ焼結法により焼結したところ、1450℃で、理論密度95%程度以上の焼結体が得られることを発見した。焼結温度1550℃以上ではほぼ理論密度の焼結体が得られ、塑性加工の可能性を検討するため、この焼結体を圧縮により1500℃で塑性変形したところ、1×10−4毎秒のひずみ速度で変形した。
以上から、AlSiCを添加して低温で焼結したSiC焼結体、およびその焼結技術を完成した。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実験番号101−109、201,202の加圧焼結時の焼結温度と焼結体密度の関係を示すグラフ。
【図2】実験番号107−111、203の放電プラズマ焼結時の焼結温度と焼結体密度の関係を示すグラフ。
【図3】実験番号113の圧縮変形時の応力とひずみの関係に及ぼす変形温度の影響を示すグラフ。
【図4】実験番号112の圧縮変形時の応力とひずみの関係におけるひずみ速度の影響を示すグラフ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において、焼結助剤としてあらかじめ合成したAlSiCを2〜20重量%、炭化ケイ素原料粉末に混合する。混合は、ボールミル、遊星ミル等で湿式により行うことで均一な混合が可能である。混合を終えた粉末は、十分乾燥する。十分緻密な焼結体を作製するためには最低2重量%の添加が必要であり、20重量%を超えて添加すると、炭化ケイ素セラミックスとしての特性を発揮することが難しい。
【0009】
乾燥した粉末を、カーボンダイスに入れ、1Pa以下の真空中で、1450〜1900℃で、加圧焼結(Hot−press,以下HPと記す。)や放電プラズマ焼結(Spark−Plasma−Sintering、以下SPSと記す。)を利用して焼結する。

【実施例1】
【0010】
アルミニウム金属、金属シリコン、カーボンブラックを、モル比で4:1:4の割合で秤量し、エタノール中で10分間、超音波分散した。これを真空乾燥器中で60℃にて24時間乾燥後、カーボンルツボに入れ、17.0×10℃で2時間アルゴン気流中で熱処理した。この操作により、単相のAlSiCが得られた。得られたAlSiCと高純度炭化ケイ素粉末を重量比で1:9の割合で混合し、エタノールを分散媒として、24時間、遊星ミル混合した。これを真空乾燥器中で60℃にて24時間乾燥後、目開き150μmのふるいにて篩分した。
【0011】
この混合粉末をカーボンダイスに入れ、ホットプレス装置を用い、真空雰囲気(10−4Torr以下、以下同じ)で、17.0×10℃で2時間焼成した。その結果、密度3.08Mg/m(理論密度99%)のSiC焼結体が得られた。このときの加圧は60MPaであるが、使用するカーボンダイスの強度、ホットプレス装置の容量に制約がなければ、高いことが望ましい。(実験番号101)
実験番号101のホットプレス焼結の温度を18.0×10℃、19.0×10℃で焼結したところ、焼結体密度は3.06Mg/m、3.10Mg/mと緻密な焼結体が得られた。(実験番号102,103)
実験番号101〜103の焼結は真空中で行ったが、雰囲気を大気圧のアルゴン(Ar)とすると、焼結体密度は17.0×10℃で3.02Mg/m、18.0×10℃で3.05Mg/m、19.0×10℃で3.08Mg/mとなり(実験番号104〜106)、真空中の方が、高密度化には有効であった。ホットプレス焼結における、焼結温度と焼結体密度の関係、およびその焼結雰囲気依存性を図1に示す。
実験番号101〜103では、ホットプレス法を用いて焼結を行ったが、放電プラズマ焼結装置を用いて高密度化を行うと、焼結温度14.5×10℃、焼結時間30分で焼結体密度は2.94Mg/m(相対密度95.0%)となった。放電プラズマ焼結の場合は、ホットプレス焼結の場合と比較すると低温で高密度の焼結体が得られているが、これは、放電プラズマ焼結の方が高圧で加圧していることが一因と考察される。放電プラズマ焼結においても加圧は高い方が高密度化に有利であるが、カーボンダイスの強度の点から、120MPaがほぼ上限である。(実験番号107)
焼結温度を高くすると、焼結温度15.0×10℃では焼結体密度3.07Mg/m、焼結温度15.5×10℃では焼結体密度は3.1Mg/m以上となった。(実験番号108〜111)
放電プラズマ焼結における焼結温度と焼結体密度の関係を図2に示す。
表1に実験番号101〜111の焼結条件と焼結体密度をまとめる。
実験番号113の焼結体から大きさ約2mm×2.5mm×5mmの試験片を切り出し、高温測定用の材料試験機を用いて、アルゴン雰囲気中、圧縮試験を行った。初期ひずみ速度を1×10−4毎秒としたとき、15.0×10℃の温度でひずみ量の絶対値が0.5以上の大きな塑性変形を示した。(図3)
同様の圧縮試験において、実験番号112の焼結体について、試験温度を16.0×10℃と一定とし、初期ひずみ速度を1×10−4毎秒、5×10−4毎秒と変形させたとき、ひずみ量の絶対値が0.5以上の大きな塑性変形を示した。(図4)
【0012】
【表1】

【実施例2】
【0013】
アルミニウム金属、金属シリコン、カーボンブラックを、モル比で4:1:4の割合で秤量し、エタノール中で10分間、超音波分散した。これを真空乾燥器中で60℃にて24時間乾燥後、カーボンルツボに入れ、17.0×10℃で2時間アルゴン気流中で熱処理した。この操作により、単相のAlSiCが得られた。得られたAlSiCと高純度炭化ケイ素粉末を重量比で1:9の割合で混合し、エタノールを分散媒として、24時間、遊星ミル混合した。これを真空乾燥器中で60℃にて24時間乾燥後、目開き150μmのふるいにて篩分した。
この混合粉末をカーボンダイスに入れ、ホットプレス装置を用い、真空雰囲気で、16.0×10℃で2時間焼成した。焼結体密度は2.24Mg/m(理論密度72.4%)にとどまった(実験番号201)
実験番号201では真空中での焼結であったが、これをアルゴン雰囲気とした場合、焼結体密度は2.38Mg/mとわずかに高くなったが、相対密度は76.9%と低い値であった。(実験番号202)
放電プラズマ焼結の場合は、焼結温度14.0×10℃のとき、焼結体密度は2.33Mg/m(相対密度75.5%)と低い値にとどまった。(実験番号203)
実験番号110の焼結体から大きさ約2mm×2.5mm×5mmの試験片を切り出し、高温測定用の材料試験機を用いて、アルゴン雰囲気中、圧縮試験を行った。初期ひずみ速度を1×10−5毎秒、5×10−5毎秒としたとき、16.0×10℃の温度でひずみ量の絶対値が0.5以上の大きな塑性変形を示した。(図4)
【比較例】
【0014】
あらかじめ調製した炭化アルミニウム(Al)を高純度炭化ケイ素粉末を重量比で0.8:9.2の割合で混合し、エタノールを分散媒として、24時間、遊星ミル混合した。これを真空乾燥器中で60℃にて24時間乾燥後、目開き150μmのふるいにて篩分した。
この混合粉末をカーボンダイスに入れ、ホットプレス装置を用い、真空雰囲気で、17.0×10℃で2時間焼成した(実験番号101と同条件)。焼結体密度は、実験番号101と比較すると、2.99Mg/m(理論密度96.8%)にとどまった(実験番号301)。本実験に供した混合粉末のAl含有量は5.9重量%で、これは実験番号101と同じであるが、Alを実験番号101ではAlSiCで添加し、本実験ではAlとして添加している点が異なる。実験番号101の方が高密度が得られていることから、AlSiCとしての添加が焼結助剤とし有効であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明は半導体を製造する機械部品、例えばICウェハーの加工ステージ部品、などに最適である。
現在この部品は金属やアルミナで作られているが、比剛性率(弾性率/密度)が高いものが求められている。SiC焼結体は比剛性率が金属やアルミナより大きく、広く応用されることが期待できる。
塑性変形能を利用し、塑性加工を行うことができると、複雑形状部品を安価に作製することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2005−314157
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Bull. Amer. Ceram. Soc., 52号885−891ページ、1973年
【非特許文献2】Journal of Materials Research 11号 1601−1604ページ 1996年

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結助剤として、Al、Si、及びCを含有する粉末を用いて焼成する炭化ケイ素焼結体であって、前記焼結助剤のAl:Si:Cの比率(モル比)が4:1:4であることを特徴とする炭化ケイ素焼結体。
【請求項2】
請求項1に記載の炭化ケイ素焼結体において、前記焼結助剤がAlSiC化合物粉末を含有していることを特徴とする炭化ケイ素焼結体。
【請求項3】
請求項2に記載の炭化ケイ素焼結体において、焼成温度が14.5×10℃以上で焼結体の相対密度が95%以上の炭化ケイ素焼結体。
【請求項4】
請求項3に記載の炭化ケイ素焼結体において、15.0×10℃以上16.5×10℃以下の温度で、ひずみ速度1×10−4毎秒以上で、−0.5以上のひずみまで塑性変形することを特徴とする炭化ケイ素焼結体。
【請求項5】
焼結助剤として、Al、Si、及びCを含有する粉末を用いて焼成する炭化ケイ素焼結体の製造方法であって、前記焼結助剤のAl:Si:Cの比率(モル比)が4:1:4であることを特徴とする炭化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法において、前記焼結助剤がAlSiC化合物粉末を含有していることを特徴とする炭化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法において、焼成温度が14.5×10℃以上であり、焼結体の相対密度が95%以上であることを特徴とする炭化ケイ素焼結体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−260754(P2010−260754A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−111679(P2009−111679)
【出願日】平成21年5月1日(2009.5.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年11月12日 Shanghai Institute of Ceramics,Chinese Academy of Sciences主催の「The 9th International Symposium on Ceramic Materials and Components for Energy and Environmental Applications」において文書をもって発表
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】