説明

炭化水素の接触部分酸化用の触媒及び合成ガスの製造方法

【課題】耐熱衝撃性の高い炭化水素の接触部分酸化用の触媒及びこの触媒を用いた合成ガスの製造方法を提供する。
【解決手段】炭化水素の接触部分酸化用の触媒は、原料炭化水素に酸素、スチームを添加して原料炭化水素を接触部分酸化し、一酸化炭素と水素とを含む合成ガスを製造するときに用いられ、無機酸化物からなる担体に活性金属を担持してなり、この触媒の全細孔容積に対する細孔直径が1μm以上、10μm未満の範囲の細孔の容積の合計値の容積率A[容積%]、当該触媒において耐熱衝撃性を決定する位置の触媒の厚さB[mm]に対し、以下の条件を満たす。
0<B≦1.5のとき、A≧3.0、
1.5<Bのとき、A≧0.158B−0.467B+3.411

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタン及び炭素数2以上の炭化水素を含む天然ガスや随伴ガス等の軽質炭化水素に対し、酸素を添加して部分酸化を行うことによりGTL、DME、メタノール、アンモニア、水素製造等の原料ガスとなる一酸化炭素と水素とを含む合成ガスを製造するときに用いられる触媒、及び合成ガスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油、石炭等化石燃料の大量消費に起因する地球環境問題や将来の石油資源の枯渇問題が取り上げられていることから、天然ガス等から製造されるクリーンな燃料であるGTL(炭化水素液体燃料)やDME(ジメチルエーテル)が注目されている。GTLやDMEを製造する原料ガスは合成ガスと呼ばれ、一酸化炭素と水素とを含んでいる。
【0003】
このような合成ガスを製造する手法としては、天然ガス等をスチームにより改質するスチーム改質法(SMR)、無触媒下で酸素を用いる部分酸化法(POX)、あるいは酸素バーナーを用いた酸化反応とスチーム改質反応とを同一反応器内で行うオートサーマルリフォーミング法(ATR法)等が従来より知られている。本件出願人は、これら従来法と比較して装置構成が簡素であり、反応中におけるすすの発生や炭素析出等の問題が少ない接触部分酸化法(CPO法:Catalytic Partial Oxidation)を採用した合成ガスの新たな製造プロセスを開発している。
【0004】
CPO法は、天然ガス等より分離された炭化水素ガスと、酸素含有ガスとを触媒の存在下で接触させることにより、炭化水素ガスを部分酸化して合成ガスを得る手法である(特許文献1)。CPO法はバーナーが無いためC2以上の成分が含まれていてもプレリフォーマーを必要としない点において、オートサーマルリフォーミング法に比較して優れている。更に触媒による反応の速度が極めて大きいため、数万〜数百万の高SV条件下でも反応が完結することから反応器が小さくなるという利点がある。
この反応はメタンを例にとれば主として下記の反応が含まれる。
(1) CH+1/2O→2H+CO ΔH298=−36kJ/mol
(2) CH+2O→CO+2HO ΔH298=−879kJ/mol
(3) CO+HO→CO+H ΔH298=−42kJ/mol
(4) CH+HO→CO+3H ΔH298=+206kJ/mol
(5) CH+CO→2CO+2H ΔH298=+248kJ/mol
【0005】
(1)〜(5)の反応は併発あるいは逐次的に進行し、出口ガス組成は平衡に支配されるが、反応全体としては非常に大きな発熱反応である。これらの反応のなかでも(1)と(2)の反応速度は極めて大きく、特に(2)の完全酸化の反応熱が大きいため触媒層入口にて急激に温度が上昇する。図13に示した実線は、反応器の入口側から出口側に至るまでの位置を横軸にとり、縦軸に触媒層の温度をとった温度分布であるが、例えば200℃〜300℃程度の温度で原料ガスが供給されると、前記発熱反応の影響を受けて触媒層入口部の温度は例えば1200℃〜1500℃程度まで急激に上昇する。そして反応速度が比較的小さな例えば(4)、(5)の吸熱反応の影響により触媒層の温度は次第に低下し、やがて約1000℃程度で熱的に平衡な状態となる。
【0006】
こうした触媒層の温度分布は、例えば原料ガスの組成の変化や微小な圧力変動等により急速に変化し、触媒層の温度が極大となる位置もこれらの変化に応じて例えば図13中に破線や一点鎖線にて示すように反応器の上流側や下流側へと移動する。例えば反応器中の温度分布が図13中に実線で示した状態から破線で示した状態へと変化した場合には、横軸にP点で示した位置に充填されている触媒は、例えば数百度から1200℃〜1500℃程度にまで急激に加熱される。そしてこの温度変化は例えば1秒未満〜数秒程度で起きるため当該領域の触媒は例えば250℃/秒〜1300℃/秒程度の急激な温度変化に晒されることになる。一方、実線で示した温度分布が一点鎖線で示した温度分布へと変化した場合には、例えばP点の位置に充填されている触媒は冷却されて既述のP点と同程度に急激な温度変化に晒される。
【0007】
こうした触媒層内温度分布の変化は、反応器の運転中断続的に発生することから、反応器の入口付近に充填されている触媒は常にこのような急激な加熱や冷却を繰り返し受ける。そして反応器に充填されている触媒は、例えば球状、タブレット、円柱状、ハニカム状、リング状、フォーム体等に形成されているため、こうした加熱や冷却に伴う急激な膨張と収縮による応力変化、即ち熱衝撃を受けて触媒が破壊、粉化し、触媒層の目詰まりを引き起こしてしまう。触媒層が目詰まりを起こすと、反応器の圧力損失が上昇して運転を継続できなくなってしまうおそれもあることから、CPO法に用いる触媒には耐熱衝撃性の高いものが求められている。
【0008】
なお特許文献2にはジルコニアを主成分する担体に活性金属を担持することにより耐熱衝撃性能を高めたCPO法に用いる触媒が記載されている。しかしながら当該触媒は800℃〜1200℃の温度範囲に亘って60℃/秒〜100℃/秒の温度変化を適用範囲としており、既述の温度変化と比較して非常に穏和な条件であり、本件出願人の開発しているCPOプロセスには適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−69151号公報:第0038段落〜第0042段落
【特許文献2】特許第4020428号公報:請求項1、第0027段落
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような事情の下になされたものであり、その目的は、耐熱衝撃性の高い炭化水素の接触部分酸化用の触媒及びこの触媒を用いた合成ガスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る炭化水素の接触部分酸化用の触媒は、メタンと炭素数2以上の軽質炭化水素との少なくとも一方を含む原料炭化水素に少なくとも酸素及びスチームを添加して原料炭化水素を接触部分酸化し、一酸化炭素と水素とを含む合成ガスを製造するときに用いられ、無機酸化物からなる担体に活性金属を担持してなる炭化水素の接触部分酸化用の触媒であって、
この触媒の全細孔容積に対する細孔直径が1μm以上、10μm未満の範囲の細孔の容積の合計値の容積率A[容積%]、当該触媒において耐熱衝撃性を決定する位置の触媒の厚さB[mm]に対し、以下の条件を満たすことを特徴とする。
0<B≦1.5のとき、A≧3.0、
1.5<Bのとき、A≧0.158B−0.467B+3.411
【0012】
この触媒は、さらに以下の特徴を備えていてもよい。
第1に、前記耐熱衝撃性を決定する位置の触媒の厚さは、以下の値に相当すること。
(a)前記触媒が半径R、長さLの円柱状である場合、
2R≦Lのとき、B=2R、
2R>Lのとき、B=L、
(b)前記触媒がリング幅D、長さLのリング状である場合、
D≦Lのとき、B=D、
D>Lのとき、B=L
(c)前記触媒が半径Rの球状である場合、
B=2R
第2に、前記触媒の比表面積が0.5m/g以上、7.0m/g以下であること。
第3に、前記触媒の全細孔容積が0.05cm/g以上、0.3cm/g以下であること。
【0013】
第4に、前記無機酸化物からなる担体の第1の構成元素はAlであり、前記担体は単位重量あたりにAl換算で30重量%以上、90重量%以下のAlを含むこと。
第5に、前記無機酸化物からなる担体は、前記第1の構成元素に加え、アルカリ土類金属に属する元素、希土類金属に属する元素、Sc、Bi、Zr、Si及びTiからなる元素群から選択される少なくとも2種類の元素の酸化物を含むこと。
第6に、前記アルカリ土類金属に属する元素は、Mg、Ca、Sr及びBaであり、前記希土類金属に属する元素は、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er及びYbであること。
第7に、前記無機酸化物からなる担体はY、Ce、Ca、Mg、Sc、Smから選択される1種類以上の元素により安定化されたジルコニアを含むこと。
第8に、前記安定化されたジルコニアはイットリアにより安定化されたイットリア安定化ジルコニアであること。
第9に前記イットリア安定化ジルコニアは、イットリアを2モル%以上、10モル%以下の範囲で含有すること。
第10に、前記活性金属は、周期律表VIII族の元素から選択された1種類以上の金属であること。
第11に、前記周期律表VIII族の元素は、Ru、Pt、Rh、Pd、Os及びIrであること。
第12に、前記活性金属を、触媒の単位重量当たり0.05重量%以上、5.0重量%以下含むこと。
【0014】
次いで他の発明に係わる合成ガスの製造方法は、メタンと炭素数2以上の軽質炭化水素との少なくとも一方を含む原料炭化水素に酸素及びスチームを添加してなる原料ガスであって、原料炭化水素に水素が含まれていることにより及び/または水素を添加することにより水素が含まれる原料ガスを、反応器内に供給する工程と、
前記反応器内に設けられた前記炭化水素の接触部分酸化用の触媒と前記原料ガスとを加熱状態で接触させて、原料炭化水素を接触部分酸化し、一酸化炭素と水素とを含む合成ガスを製造する工程と、を含むことを特徴とする。
【0015】
この合成ガスの製造方法は、さらに下記の特徴を備えていてもよい。
第1に、前記合成ガスを製造する工程において、前記触媒と原料ガスとが加熱状態で接触する領域には、当該触媒が200℃〜1500℃の温度範囲に亘って250℃/秒〜1300℃/秒の温度変化を受ける領域が含まれていること。
第2に、前記原料ガスを200℃〜500℃に予備加熱した後に、圧力が常圧〜8MPa、空間速度(GHSV)が5.0×10(NL/L/Hr)〜1.0×10(NL/L/Hr)の条件で反応器内に供給し、断熱反応条件下で触媒と接触させること。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、全細孔容積に対する細孔直径が1μm以上、10μm未満の範囲の細孔の容積の合計値の容積率に対する触媒の耐熱衝撃性を決定する位置における当該触媒の厚さが、所定の関係式を満たしている触媒を用いることにより、熱衝撃を受けても破壊、粉化しにくい炭化水素の接触部分酸化用の触媒を得ることができる。これによりCPOプロセスの反応器の入口など稼動中に繰り返し熱衝撃を受ける領域に当該触媒を充填しても、触媒の破壊、粉化による触媒層の目詰まりといったトラブルが発生しにくくなり信頼性の高いプロセスとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施の形態に係る接触部分酸化用の触媒の外観構成を表す説明図である。
【図2】前記接触部分酸化用の触媒の外観構成を表す第2の説明図である。
【図3】前記第2の説明図に係る触媒の平面図である。
【図4】前記接触部分酸化用の触媒の外観構成を表す第3の説明図である。
【図5】前記接触部分酸化用の触媒の外観構成を表す第4の説明図である。
【図6】前記接触部分酸化用の触媒の外観構成を表す第5の説明図である。
【図7】本発明の合成ガスの製造方法に用いられる装置を示す概略図である。
【図8】実施例に係る触媒の各種変数と耐熱衝撃性能との関係を表す説明図である。
【図9】実施例に係る担体の熱衝撃実験の結果を示す外観写真である。
【図10】他の実施例に係る担体の熱衝撃実験の結果を示す外観写真である。
【図11】比較例に係る担体の熱衝撃実験の結果を示す外観写真である。
【図12】他の比較例に係る担体の熱衝撃実験の結果を示す外観写真である。
【図13】反応器内のガス流れ方向における位置と触媒層の温度との関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係わる触媒において、無機酸化物である担体の製造は、例えば先ずベーマイト、擬ベーマイトあるいは水酸化アルミニウム等のアルミナ前駆体の粉末又はγ,η,χ,α-アルミナ等のアルミナ粉末を用意し、これら粉末に例えばバリウムの塩、例えば硝酸塩や酢酸バリウム等の有機酸塩の粉末あるいはその水溶液等とYSZ(イットリア安定化ジルコニア)の粉末等と、必要に応じて成型助剤としてのバインダーとを混合し、その混合物に水を添加して水分を調整する方法などにより行う。次いで、適宜水分調整を行った後例えば押し出し成型、打錠成型、プレス等、加圧により成型することで例えば円柱状、タブレット、ハニカム、リング状等の成型体を形成する。
【0019】
得られた成型体群は、必要に応じ加熱乾燥した後、焼成炉にて例えば900℃〜1800℃で例えば24時間焼成を行うことにより、アルミナを主成分とし、副成分としてBaOやYSZ及び一部がBaとAlとの複合酸化物(例えばスピネル化合物であるBaAl2やバリウムヘキサアルミネート(BaAl1119)等)、又はBaとZrとの複合酸化物(例えばBaZrO等)のバリウム酸化物を含む無機酸化物担体が得られる。この担体中におけるアルミニウムの含有量は、好ましくはアルミナ換算で30重量%〜90重量%、より好ましくは40重量%〜80重量%、更に好ましくは50重量%〜80重量%である。バリウムの含有量は好ましくはBaO換算で5重量%〜30重量%、更に好ましくは5重量%〜20重量%である。またYSZの含有量は、例えばイットリア(Y)を2モル%〜10モル%の範囲で含むYSZの重量換算で好ましくは5重量%〜40重量%、更に好ましくは10重量%〜30重量%である場合が好適である。
【0020】
ここでアルミナに副成分(BaやYSZ)を添加する方法は既述の方法に限られるものではなく、例えば副成分の添加割合に応じて周知の含浸法や沈殿法やゾルゲル法等、一般に良く知られた各種の調製法を用いてもよいことは勿論である。また、当該担体中に含まれるAl以外の成分はこれらに限定されるものではなく、例えばMg、Ca、Sr及びBa等のアルカリ土類金属に属する元素、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er及びYb等の希土類金属に属する元素、Sc、Bi、Zr、Si及びTiからなる元素群から選択される少なくとも2種類の元素の酸化物及びYSZ以外の安定化ジルコニアが含まれていてもよい。また更には、これらの元素群に含まれていない元素を含んでいてもよい。
【0021】
以上に述べた手法により調製された担体は、従来用いられているアルミナ系の担体が備えている0.1μm〜1.0μmの範囲(以下、第1の範囲という)の細孔直径を持つ細孔に加えて、1.0μm〜10μmの範囲(以下、第2の範囲という)の細孔直径を持つ細孔を比較的多く含んでいる。そして、この第2の範囲の細孔直径を持つ細孔の容積の合計値が、当該触媒の全細孔容積に占める割合は、本触媒の耐熱衝撃性能を示す指標の一つとなっているが、その詳細については後述する。
【0022】
焼成された担体は、種々の成型法により、円柱状、円筒状、球状など種々の形状に成型される。担体の成型方法は、例えば押し出し成型法、打錠成型法、プレス法等のように、加圧しながら成型を行う加圧成型法を用いると、前記第2の範囲の細孔径を持つ細孔を比較的多く含む触媒が得られることを発明者らは把握している。
【0023】
以上に説明した手法により調製された担体に対して、活性金属である周期律表VIII族の元素の塩、例えばRu(ルテニウム)、Pt(白金)、Rh(ロジウム)、Pd(パラジウム)、Os(オスミウム)及びIr(イリジウム)の塩、例えばRuの場合には硝酸ルテニウム水溶液などを噴霧し、当該担体に含浸させる。続いてこの担体を乾燥した後、電気炉内にて例えば600℃で3時間焼成を行うことにより、前記担体にルテニウムなどのVIII族の元素が担持された本発明の触媒を得る。なお活性金属の担持方法はこの例に限定されるものではなく、VIII族の元素の水溶液又は溶液を担体にコーティングするかまたはポアフィリング法あるいは担体に選択吸着させるなどの方法を採用してもよい。
【0024】
ここで既述のように第2の範囲の細孔径を持つ細孔を比較的多く含む担体に活性金属を担持することによって当該触媒の細孔径分布が変化してしまうようにも思われる。この点において、耐熱衝撃性の高い触媒は、活性金属を担持する前の担体の段階にて第2の範囲の細孔径を持つ細孔を比較的多く含んでいればよい。但し、後述のように触媒に担持される活性金属は全触媒重量の0.05重量%〜5.0重量%程度に過ぎず、活性金属を担持した後であってもこれらの指標値は大きく変化しないこと、また一度担持した活性金属を除去してこれらの指標値を計測することは現実的でないことから、活性金属を担持した後の触媒であっても上述の各指標値を満たす触媒は、高い耐熱衝撃性を備えるといえる。なお、全触媒重量の0.05重量%〜5.0重量%程度の活性金属を担持する前後で前述の各指標値が殆ど変化しないことについては、本発明者らは実験により確認している。
【0025】
以上に説明した構成を備えた本実施の形態に係る炭化水素の接触部分酸化用の触媒は、担体の単位重量当たりの全細孔容積V[cm/g]に対する第2の範囲の細孔直径を持つ細孔の容積の合計値V[cm/g]の容積率をA[容積%]、成型された触媒における耐熱衝撃性を決定する位置の触媒の厚さ(以下、触媒厚さという)をB[mm]とするとき、以下の条件を満たす場合に高い耐熱衝撃性能を示すことを、本発明者らは実験的に確認した。
0<B≦1.5のとき、
A≧3.0 …(6)
1.5<Bのとき、
A≧0.158B−0.467B+3.411 …(7)
【0026】
触媒あるいは担体(以下の触媒厚さの説明においては、これらをまとめて触媒という)が形状を維持するために必要な耐熱衝撃性は、当該触媒の中心部と外表面との間の伝熱、特に固体触媒中の熱伝導による伝熱に依存している。つまり、これらの部位の熱流量が大きくなるにつれ、その耐熱衝撃性が低くても、触媒が破砕されなくなる傾向を示す。
【0027】
また、触媒形状としては肉厚なものよりも薄いものの方が熱流量が大きくなり、触媒中心部から外表面へ速やかに伝熱(放熱)され、中心部と外表面との間の温度差が生じにくくなるため、形状を維持するための耐熱衝撃性は高くなる(破壊されにくくなる)。そのため、触媒形状を加味して耐熱衝撃性を決定する触媒の厚さを定義する必要がある。一般に熱伝導による伝熱において、熱流量を支配する因子として、伝熱面積、熱伝導率、温度差、厚さ(伝熱距離)が挙げられる。当該触媒の中心部のある点と外表面との間の三次元物体の非定常状態における熱伝導(放熱)を考えると、当該間の厚さ(伝熱距離)が小さいほど熱流量が大きくなり、触媒中心部から外表面へ速やかに放熱されることになる。本発明では、触媒厚さは、固体触媒の構成体内部のすべての位置のうち、外表面までの最短距離が最大となる位置における当該最短距離の2倍の距離と定義する。言い替えると、触媒厚さは、触媒の表面で覆われる空間に内接する球のうち、最大の径を持つ球の直径であるということができる。
【0028】
具体的な例をあげてみると、円柱形状の触媒においては、触媒の耐熱衝撃性は、図1(a)のように2R≦Lとなる場合には、直径方向の長さ(2R[mm])の方が、上下方向(L[mm])の厚さよりも薄く、触媒中心部から上下面への伝熱(放熱)に対して側面からの伝熱(放熱)の方が多くなり、この触媒中心部から側面方向への距離が伝熱(放熱)を支配する。従って、この場合には触媒中心部と側面の距離の2倍の距離である2Rが耐熱衝撃性を決定する触媒厚さとなる。
【0029】
一方、図1(b)のように2R>Lのタブレット状の触媒の場合には、上下方向の厚さ(L)の方が、直径方向の長さ(2R)よりも薄く、触媒中心部から側面への伝熱(放熱)に対して上下面からの伝熱(放熱)の方が多くなるため、触媒中心から上下面への距離が伝熱(放熱)を支配する。従って、触媒中心部と上下面の距離Lが、既述の最短距離の2倍の距離に相当し、耐熱衝撃性を決定する触媒厚さとなる。
このように触媒形状によって耐熱衝撃性を決定する触媒厚さは異なる。
【0030】
また、図1(c)、図1(d)に示すように、同心円の内径と外径とを有し、これら内径と外径との差(以下、リング幅という)がD[mm]、上下方向の高さL[mm]のリング形状の場合には、D≦Lならばリングの側面(内面及び外面)からの伝熱(放熱)の方が上下面からの伝熱(放熱)より大きく、触媒の内部ではリングの径方向への距離が伝熱(放熱)を支配する。よってこの場合には、リング幅Dが既述の最短距離の2倍の距離に相当し、耐熱衝撃性を決定する触媒厚さとなる。そしてこれとは反対に、D>Lならば最短距離の2倍の距離、即ち触媒厚さは触媒の上下方向の高さLとなる。 また図1(e)に示すように触媒が半径Rの球状の場合には、触媒の中心から表面までの半径は一定であるから、この半径が既述の最短距離に相当し、球の直径2Rが触媒厚さとなる。
【0031】
多孔質の部材は細孔が歪むことなどによってこれに加わる応力をある程度緩和することができ、触媒の靭性を高めることができると考えられる。一方、熱応力を受けて触媒に生じる変形量は、触媒が大きくなるにつれて増大するので、熱衝撃に起因して当該触媒に加わる応力も触媒の大型化に伴って増大する。このため、触媒が大型化するほど熱衝撃による破壊が発生しやすくなると考えられるので、その分だけ耐熱衝撃性の観点における触媒の機械的強度を向上させる必要がある。そこで本例に係る炭化水素の接触部分酸化用の触媒では、第2の範囲の細孔直径を持つ細孔の容積の割合を増やすことにより、耐熱衝撃性を向上させている。
【0032】
一方で触媒がそれほど大きくない場合には、熱応力を受けて触媒に生じる変形量も小さいので、第2の範囲の細孔直径を持つ細孔の容積の割合をそれほど増やさなくても触媒の破壊を抑えることができる。
こうした考え方に基づき、種々のサイズ及び形状に形成された触媒の耐熱衝撃性能を調べたところ、後述の担体組成としてAl、Zr、Y、Baを含む実施例に示すように、触媒厚さBと、全細孔容積に対する第2の範囲の細孔直径を持つ細孔の容積の割合Aとの関係で整理すると、上述の(6)、(7)式の条件を満たす領域にて耐熱衝撃性能の高い触媒が得られることが確認された。
【0033】
ここで(6)、(7)式の条件を満たす本実施の形態に係わる触媒は、従来用いられているアルミナ系の担体が備えている0.1μm〜1.0μmの範囲(第1の範囲)の細孔直径を持つ細孔に加えて、1.0μm〜10μmの範囲(第2の範囲)の細孔直径を持つ細孔を比較的多く含んでいる。そしてこれら広い細孔範囲に亘って形成された細孔が歪むことなどにより触媒に加わる熱衝撃を吸収することができるのではないかと考えられる。この結果、細孔直径の分布が第1の範囲に集中している場合に比べてより柔軟に応力を吸収することができ、その結果、破壊、粉化されにくい触媒となっているのではないかと考えられる。また、第2の範囲は200℃〜300℃程度から1200℃〜1500℃程度までの急激な温度変化によって生じる熱衝撃を吸収するのに適した細孔直径範囲となっている可能性もある。更に本発明の如くに担体としてアルミナ以外に2種以上の金属酸化物を添加した場合、単一成分と違い熱膨張率の異なる酸化物が複合していることにより急激な熱膨張や熱収縮による応力を吸収しているとも考えられる。
【0034】
このような特徴を備えた担体の調製法は、例えば予備実験により上述の調製法を組み合わせて種々の担体群を調製し、水銀ポロシメータなどを用いた水銀圧入法により細孔容積分布を計測して、各調製法の中から上述の条件を満たす担体をスクリーニングすることによって特定する。そしてスクリーニングの結果残った担体の中から、例えば耐熱衝撃性能の最も高い担体の調製法やコストの安価な調製法を選定し、当該調製法により耐熱衝撃性の高い担体を工業的規模で製造するとよい。ここで水銀圧入法による細孔分布測定においては、一般的に0.003μm〜500μmの範囲の直径を有する細孔の細孔容積及びその分布曲線を計測することができる。0.003μmよりも小さな細孔容積は、例えばガス吸着法などにより計測することができるが、本実施の形態に係わる担体には殆ど含まれていないと考えられる。
【0035】
ここで(6)、(7)式を用いて選別される耐熱衝撃性能の高い炭化水素の接触部分酸化用の触媒の形状は、図1(a)、図1(b)に示した円柱状(タブレット状)、図1(c)、図1(d)に示した円筒状、図1(e)に示した球状の各例に限定されるものではない。例えば三つ葉状の断面を押し出し形成して得られるトリローブ状(図2(a))や四つ葉状の断面を例えば押し出し形成して得られるクワードローブ状(図2(b))であってもよい。この場合の触媒厚さは、具体的には、たとえば次のように求められる。図3(a)、図3(b)に例えば三つ葉の場合の平面図の例を示すように、断面の中心位置から、葉状の突起が重なりあって形成される「くびれ」までの長さをD、葉状の突起内に内接する円の最大半径をDとしたとき、これらD、Dのいずれか大きい方をD[mm]とし、押し出し形成した場合の押し出し方向(軸方向)の長さをL[mm]とする。この場合には図2に示すように、「2D≦L」のとき既述の最短距離の距離はDとなり、「2D>L」のとき最短距離の距離は「L」となり、各々2D、及びLが触媒厚さとなる。
【0036】
また、図4(a)に示すように。円柱状の触媒に同一形状の空洞を複数個形成したり、図4(b)に示すように、円柱状の触媒に径の異なる空洞を複数個形成したりしてもよい。これらの場合は、空洞間および空洞と外表面および外表面間の距離がD(図4中にD〜Dと記してある)、触媒の上下方向の高さがLであれば、D≦Lならば、当該距離Dが触媒の構成体のすべての位置のうち、空洞または外表面までの最短距離の2倍の距離、即ち触媒厚さに相当し、L<DならばLが触媒厚さに相当する。
【0037】
さらにこれらの考え方を拡張して、例えば図5に示すように、フォーム体状に形成された触媒の空洞間の距離、または空洞と触媒側面までの距離が最小となる位置の厚さDの最大の値を触媒の構成体のすべての位置のうち、空洞または外表面までの最短距離の2倍の距離と考えて、当該距離Dを触媒厚さとしてもよい。また、図6に示すように例えば高さLの角柱内に高さ方向に伸びる例えば角柱状の空洞を有するハニカム形状に成された触媒において、空洞間および空洞と外表面および外表面間の空洞間の最短距離D(図6(b)にD〜Dと示してある)とすると、D≦Lならば触媒厚さはDに相当し、L<Dならば触媒厚さはLに相当する。
【0038】
次に本実施の形態に係る炭化水素の接触部分酸化用の触媒が適用されるプロセスについて説明する。図7は本例の触媒を用いて合成ガスを製造するための装置を概略的に示した図である。4は円筒状の反応器であり、この中に本発明の触媒を充填した触媒層5が形成されている。この装置では、原料である軽質炭化水素に酸素、スチーム、二酸化炭素を添加してなる原料ガスを反応器4の上部の入口41から供給し、触媒層5を通過させて部分酸化反応を行わせ、反応器4の下方側の出口42から合成ガスが取り出される。
【0039】
さらに特願2004−298971に開示された如く、脱硫後の原料炭化水素をスチームで低温水蒸気改質し、炭素数2以上の炭化水素をメタンと水素に変換した後で当該原料を反応器4に導入し接触部分酸化してもよい。
【0040】
CPO反応では出口ガス組成は入口温度、圧力、及び原料ガス組成によって決まる平衡組成で支配される。このため求める合成ガスのHとCOの比によって原料ガス中の酸素濃度を決める必要があるがGTLやDME、メタノール、アンモニア用合成ガスの場合、酸素の含有量については、酸素のモル数/炭化水素中の炭素のモル数が0.2〜0.8であることが好ましい。スチームは炭素析出を防止するだけでなく上記した合成ガス組成を支配する因子であることからスチームの含有量については、スチームのモル数/炭化水素中の炭素のモル数は0.2〜3.0であることが好ましい。
【0041】
また、GTLやDME、メタノール用合成ガスの場合、求める合成ガスのHとCOの比を調整するために、原料ガス中に二酸化炭素を含有させることが好ましい。二酸化炭素の含有量については、二酸化炭素のモル数/炭化水素中の炭素のモル数が好ましくは0.01〜0.6であり、より好ましくは0.1〜0.3である。
【0042】
原料ガスは200℃〜500℃の範囲内の例えば200℃〜300℃に予備加熱されて反応器4内に供給され、反応器4の入口41における圧力は例えば常圧〜8MPaである。また空間速度(GHSV)は、例えば5.0×10(NL/L/Hr)〜1.0×10(NL/L/Hr)であり、より好ましくは2.0×10(NL/L/Hr)〜2.0×10(NL/L/Hr)である。
【0043】
反応器4内に原料ガスを供給すると、触媒により背景技術の項目の(1)式、(2)式に示した酸化反応が起こり、図13にて説明したように触媒層5の入口では大きな発熱が生じるので当該部位の温度が上昇する。こうした領域において背景技術にて説明したように当該温度上昇の発生する位置が触媒層5の上流側や下流側へと移動した場合には、この移動する領域に充填されている触媒は200℃〜300℃程度の温度から1200℃〜1500℃程度までの急激な温度変化に伴う熱衝撃に晒されることになる。しかし本実施の形態に係わる触媒は、後述の実施例に示すように高い耐熱衝撃性能を備えていることから、熱衝撃を受けても破壊、粉化されにくくなっている。
【0044】
そして前記の急激に温度が上昇する領域よりも下流側の触媒層5では、既述の(1)〜(5)式が同時に進行し平衡組成に到達するので、触媒層5の温度は原料ガスの組成と反応圧力によって決定される出口ガス組成の平衡温度、例えばGTL用合成ガスの場合は1000℃程度の温度に安定する。この場合、反応器4の出口42では、1000℃における平衡で決まる組成のガス、即ちGTL用合成ガスに適した割合の一酸化酸素及び水素を含む合成ガスが得られる。
【0045】
この合成ガス中には二酸化炭素が含まれるが、後段の工程にて合成ガスから二酸化炭素が分離され、この二酸化炭素が原料ガスに加えられて反応器4内に供給され、こうして二酸化炭素が再使用(リサイクル)される。また原料ガス中に供給する二酸化炭素はこのようなCPOプロセスからのリサイクルに限られるものではなく、例えば合成ガスを原料としてGTLを合成するフィッシャートロプシュ反応プロセス(FTプロセス)からの未反応ガス中に含まれる二酸化炭素をリサイクルしてもよい。また、この未反応ガスにはCOガスが含まれることからこの未反応ガスを原料ガスとしてリサイクルしたり、GTLの精製過程で得られる軽質炭化水素を含むガス(FT合成オフガスという)を原料ガスとしてリサイクルしたりしてもよい。
【0046】
また本発明に係る接触部分酸化用の触媒を製造する場合、原料ガス中に塩素分が含まれていて、焼成後においても一定濃度で塩素が残留すると反応器下流において露点以下の温度条件になる配管、機器等で応力腐食割れや減肉腐食が起こる。従って本発明の接触部分酸化触媒を製造する原料には塩素を含まない原料を用いるか、或いは塩素を除去することが好ましい。触媒中に残留する塩素はバリウムやVIII族の元素等の原料に起因する。そこで原料として水酸化物および硝酸塩や炭酸塩、有機酸塩他の塩素を含まない原料を用いることにより塩素を含有しない触媒を製造することが出来る。またVIII族の元素の原料として例えば塩化ロジウムや塩化ルテニウム等を使用する場合には、担持工程において塩素を除去する方法を採用してもよい。この塩素除去方法については例えば特開昭60−190240に開示されている方法によっても100ppm以下に除去することが出来るが、アルカリ水溶液で洗浄する等の方法によっても可能である。
【0047】
以上において、本発明の触媒を用いて製造する合成ガスは、GTLやメタノール、DME、水素等の原料として用いられることに限らず、アンモニアガスの合成原料として用いられるガスも含まれる。この場合には、例えば酸素プラントからの純度の高い酸素の代わりに空気や酸素富化空気を用い、空気や酸素富化空気及びスチームを原料炭化水素に添加して、水素、窒素及び一酸化炭素を含む合成ガスが得られる。この合成ガスは、後工程で一酸化炭素および二酸化炭素が除去されてアンモニアの合成原料となる。
【0048】
本実施の形態によれば以下の効果がある。全細孔容積に対する細孔直径が1μm以上、10μm未満の範囲の細孔の容積の合計値の容積率に対する触媒の耐熱衝撃性を決定する位置における当該触媒の厚さが、所定の関係式を満たしている触媒を用いることにより、熱衝撃を受けても破壊、粉化しにくい炭化水素の接触部分酸化用の触媒を得ることができる。これによりCPOプロセスの反応器4の入口など稼動中に繰り返し熱衝撃を受ける領域に当該触媒を充填しても、触媒の破壊、粉化による触媒層5の目詰まりといったトラブルが発生しにくくなり信頼性の高いプロセスとすることができる。
【0049】
ここで本実施の形態に係わる触媒は反応器4内の触媒層5全体に充填する場合に限定されない。例えば既述の急激な温度変化を生じる位置が移動する領域、例えば触媒層5の上流側、全触媒層の5分の1〜2分の1の領域に本実施の形態に係わる触媒を充填し、その下流側には従来型の担体を用いて製造した触媒を充填するようにしてもよい。
【0050】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態に係わる触媒は、アルミナを担体の主成分とし、Ca酸化物、Si酸化物及びMg酸化物を副成分として含んでいる。担体の製造方法については第1の実施の形態に係わる担体の製造方法と同様であるがアルミナ又はアルミナ前駆体の粉末にYSZの代わりにアルミナセメント及びシリカゾルと酸化マグネシウム粉末を添加した。当該担体中のAlの含有量は、Al換算で好ましくは30重量%〜90重量%、より好ましくは40重量%〜80重量%、更に好ましくは50重量%〜80重量%である。カルシウムの含有量はCaO換算で好ましくは5重量%〜30重量%、より好ましくは10重量%〜30重量%である。またケイ素の含有量はSiO換算で好ましくは5重量%〜30重量%、より好ましくは10重量%〜20重量%である。そしてマグネシウムの含有量はMgO換算で好ましくは5重量%〜30重量%、より好ましくは10重量%〜30重量%である。また、当該担体中に含まれる成分はこれらに限定されるものではなくAl、Ca、Si及びMg以外の元素を含んでいてもよい。
【0051】
当該担体においても第1の実施の形態の場合と同様に、例えば種々の調製法にて調製された担体群の中から、上述の(6)、(7)式の条件を満たす担体調製法がスクリーニングなどにより選定される。
【0052】
そして例えばVIII族の元素であるルテニウム等を活性金属として担持し、図7に示すCPOプロセスに適用して合成ガスを製造する点は既述の第1の実施の形態と同様なので説明を省略する。
このように第2の実施の形態に係わる触媒は、第1の実施の形態に係る触媒とは担体の成分が異なっているが、後述の担体組成としてAl、Ca、Si、Mgを含む実施例に示すように高い耐熱衝撃性能を備えていることを確認できた。
【0053】
(第3の実施の形態)
第3の実施の形態に係る触媒は、アルミナを担体の主成分とし、Mg酸化物及びYSZを副成分として含み、アルミニウムの含有量は、アルミナ換算で好ましくは30重量%〜90重量%、より好ましくは40重量%〜80重量%、更に好ましくは50重量%〜80重量%である。またマグネシウムの含有量はMgO換算で好ましくは5重量%〜30重量%、より好ましくは10重量%〜30重量%である。そしてYSZの含有量は、例えばイットリア(Y)を2モル%〜10モル%の範囲で含むYSZの重量換算で好ましくは5重量%〜40重量%、より好ましくは10重量%〜30重量%である。また当該担体の調製方法、活性金属の担持方法、例えばスクリーニングによる担体の調製方法の選定などの細孔直径の調整方法、CPOプロセスへの適用などについては既述の第1の実施の形態と同様なので説明を省略する。また、当該担体中に含まれる成分はこれらに限定されるものではなくAl、MgOやYSZ以外の酸化物を含んでいてもよい。
【0054】
当該担体においても第1の実施の形態の場合と同様に、例えば種々の調製法にて調製された担体群の中から、上述の(6)、(7)式の条件を満たす担体調製法がスクリーニングなどにより選定される。第3の実施の形態に係わる触媒によれば、後述の担体組成としてAl、Zr、Y、Mgを含む実施例に示すように高い耐熱衝撃性能が確認された。
【0055】
本発明に係わる炭化水素の接触部分酸化用の触媒の成分は、これまでに例示した第1の実施の形態〜第3の実施の形態に限定されるものではなく、副成分である無機酸化物の元素には、Al以外に周期律表のIIA族、IIIA族、IVA族、IIB族、IIIB族、IVB族、及びランタノイドから選択される元素の酸化物、例えばマグネシウム、ケイ素、カルシウム、チタン、バリウム、イットリウム、ジルコニウム、ランタン及びセリウムからなる元素群から選択される少なくとも2種類の元素の酸化物を含んでいるとよい。また本実施の形態に係わる触媒の一般的な指標値として、全細孔容積は0.05cm/g〜0.3cm/g、比表面積は0.5m/g〜7.0m/g程度であることが好ましい。
【実施例】
【0056】
(実験)
担体の単位重量当たりの全細孔容積に対する第2の範囲の細孔直径を持つ細孔の容積の割合A、並びに触媒形状及びその触媒厚さBの値を種々変化させた担体の成型体を各々調製し、これらの成型体に熱衝撃を加えて破壊、粉化の発生状況を確認した。試験は、マッフル炉にて担体5g〜10gを1200℃まで加熱して10分間保持した後、当該担体を炉内から取り出してすぐに20℃に保持した1Lの水中に投入することにより温度差が約1200℃での急冷却による熱衝撃を与えた。その後水中より担体を取り出してマッフル炉に再び投入しこの操作を10回繰り返して急冷却と急加熱による熱衝撃試験を行った。水は原料ガスよりも比熱が大きく、且つ、1200℃といった高温での投入により担体からは水の蒸発潜熱が奪われることから、水の温度上昇を考慮しても、反応器4内で発生する250℃/秒〜1300℃/秒程度の温度変化に匹敵する熱衝撃を当該担体に与えることができる。
【0057】
A.実験条件
担体の単位重量当たりの全細孔容積に対する第2の範囲の細孔直径を持つ細孔の容積の割合A、触媒形状(担体形状)及びその触媒厚さB並びに担体組成が異なる合計44種類の触媒について熱衝撃試験を行い、各担体の耐熱衝撃性能を評価した。
【0058】
B.実験結果
熱衝撃試験の結果、担体の破壊や粉化が殆ど見られず高い耐熱衝撃性能を示した30種類の担体を実施例とし、熱衝撃試験により破壊、粉化した14種類の担体を比較例とした。(表1)に各実施例、比較例に係る担体の触媒厚さB[mm]、第2の範囲の細孔容積割合[vol%]、触媒形状(担体形状)及びそのサイズ並びに担体組成を示す。担体のサイズについては円柱状(タブレット状)の場合は図1(a)、図1(b)に示す2R及びLの値を示し、リング状の場合は図1(c)、図1(d)に示すD及びLの値を示し、また球の場合には図1(e)の2Rの値を示している。ここで(表1)中のグラニュールは、ほぼ球形の粒子状に形成されているので、球状に含まれる。
また図8には、横軸に触媒厚さB[mm]、縦軸に第2の範囲の細孔の容積率A[vol%]を取り、実施例を黒丸「●」、比較例を黒塗りの三角「▲」でプロットした結果を図8に示す。
【0059】
さらに(実施例1〜実施例30)の代表的な実験結果として(実施例10)及び(実施例25)に係わる担体に対してマッフル炉による急加熱、水中への投入による急冷却を10回繰り返した後の外観写真を各々図9、図10に示し、(比較例1〜比較例4)の代表的な実験結果として(比較例4)及び(比較例10)について同様の熱衝撃試験を行った結果の外観写真を各々図11、図12に示す。
【0060】
(表1)

【0061】
図9に示した(実施例10)の実験結果によれば、1200℃から常温までの急激な冷却と加熱に伴う熱衝撃を10回繰り返し受けたにも拘らず、各担体の破壊や粉化は確認されなかった。図10に示した(実施例25)の結果においても同様である。また写真には示していない各実施例に係る実験結果においても図9、図10と同様に、各担体には破壊や粉化は確認されなかった。これに対して図11に示した(比較例4)の結果によれば、球状に形成された担体は、わずか4回の熱衝撃によって元の形状を殆ど留めない程度にまで殆どの担体が破砕及び粉化してしまった。また、図12に示した(比較例10)においてもタブレット状に形成された担体は10回の熱衝撃で全て破壊された。さらに写真には示していない各比較例の実験結果においても図11、図12と同様に各担体は10回以内の熱衝撃性評価において破砕及び粉化してしまった。
【0062】
このような熱衝撃実験の結果をまとめた(表1)及び図8に示した結果によれば、触媒形状、担体組成の違いにかかわらず、耐熱衝撃性の高い担体と熱衝撃に弱い担体とは、触媒厚さBと第2の範囲の細孔容積割合Aとの関係で整理することができる。詳細には、触媒厚さBが大きくなるに伴って、第2の範囲の細孔容積割合Aを高くすれば担体の耐熱衝撃性が高まる一方、触媒厚さBを小さくすると第2の範囲の細孔容積割合Aを低くしても熱衝撃による破壊、粉化が発生しにくくなる。そしてさらに触媒厚さBの小さな領域では、耐熱衝撃性に対する触媒厚さBと第2の範囲の細孔容積割合Aとの相関は小さくなり、第2の範囲の細孔が一定割合存在すれば、その担体には耐熱衝撃性能が備わっていることが分かる。
【0063】
そこで担体の耐熱衝撃性について、触媒厚さBと第2の範囲の細孔容積割合Aとの間の相関が見られるB>1.5の領域では、比較例との境界をなす実施例のデータに基づいて近似曲線を引き、実施例と比較例とが混在する領域に重ならないようにマージンを持たせてこの近似曲線を上方側へ移動させ、A=0.158B−0.467B+3.411の境界線を得た。そして図8に示したグラフでは、この境界線よりも上側の領域(当該境界線を含む)の担体にて熱衝撃試験にて良好な結果が得られているので、(7)式の条件を満たす担体を用いることにより耐熱衝撃性能の高い触媒が得られることが分かる。
【0064】
一方、触媒厚さBと第2の範囲の細孔容積割合Aとの間の相関が低い0<B≦1.5の領域では、前記Aの値が3.0vol%以上であって既述の(6)式を満たしていれば、触媒厚さに係らず高い耐熱衝撃性能を得ることができている。
【符号の説明】
【0065】
4 反応器
5 触媒層
41 入口
42 出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタンと炭素数2以上の軽質炭化水素との少なくとも一方を含む原料炭化水素に少なくとも酸素及びスチームを添加して原料炭化水素を接触部分酸化し、一酸化炭素と水素とを含む合成ガスを製造するときに用いられ、無機酸化物からなる担体に活性金属を担持してなる炭化水素の接触部分酸化用の触媒であって、
この触媒の全細孔容積に対する細孔直径が1μm以上、10μm未満の範囲の細孔の容積の合計値の容積率A[容積%]、当該触媒において耐熱衝撃性を決定する位置の触媒の厚さB[mm]に対し、以下の条件を満たすことを特徴とする炭化水素の接触部分酸化用の触媒。
0<B≦1.5のとき、A≧3.0、
1.5<Bのとき、A≧0.158B−0.467B+3.411
【請求項2】
前記耐熱衝撃性を決定する位置の触媒の厚さは、以下の値に相当することを特徴とする請求項1に記載の接触部分酸化用の触媒。
(a)前記触媒が半径R、長さLの円柱状である場合、
2R≦Lのとき、B=2R、
2R>Lのとき、B=L、
(b)前記触媒がリング幅D、長さLのリング状である場合、
D≦Lのとき、B=D、
D>Lのとき、B=L
(c)前記触媒が半径Rの球状である場合、
B=2R
【請求項3】
前記触媒の比表面積が0.5m/g以上、7.0m/g以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の炭化水素の接触部分散化用の触媒。
【請求項4】
前記触媒の全細孔容積が0.05cm/g以上、0.3cm/g以下であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載の炭化水素の接触部分酸化用の触媒。
【請求項5】
前記無機酸化物からなる担体の第1の構成元素はAlであり、前記担体は単位重量あたりにAl換算で30重量%以上、90重量%以下のAlを含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一つに記載の炭化水素の接触部分酸化用の触媒。
【請求項6】
前記無機酸化物からなる担体は、前記第1の構成元素に加え、アルカリ土類金属に属する元素、希土類金属に属する元素、Sc、Bi、Zr、Si及びTiからなる元素群から選択される少なくとも2種類の元素の酸化物を含むことを特徴とする請求項5に記載の炭化水素の接触部分酸化用の触媒。
【請求項7】
前記アルカリ土類金属に属する元素は、Mg、Ca、Sr及びBaであり、前記希土類金属に属する元素は、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er及びYbであることを特徴とする請求項6に記載の炭化水素の接触部部分酸化用の触媒。
【請求項8】
前記無機酸化物からなる担体はY、Ce、Ca、Mg、Sc、Smから選択される1種類以上の元素により安定化されたジルコニアを含むことを特徴とする請求項6または7に記載の炭化水素の接触部分酸化用の触媒。
【請求項9】
前記安定化されたジルコニアはイットリアにより安定化されたイットリア安定化ジルコニアであることを特徴とする請求項8に記載の炭化水素の接触部分酸化用の触媒。
【請求項10】
前記イットリア安定化ジルコニアは、イットリアを2モル%以上、10モル%以下の範囲で含有することを特徴とする請求項9に記載の炭化水素の接触部分酸化用の触媒。
【請求項11】
前記活性金属は、周期律表VIII族の元素から選択された1種類以上の金属であることを特徴とする請求項1ないし10のいずれか一つに記載の炭化水素の接触部分酸化用の触媒。
【請求項12】
前記周期律表VIII族の元素は、Ru、Pt、Rh、Pd、Os及びIrであることを特徴とする請求項11に記載の炭化水素の接触部分酸化用の触媒。
【請求項13】
前記活性金属を、触媒の単位重量当たり0.05重量%以上、5.0重量%以下含むことを特徴とする請求項1ないし12のいずれか一つに記載の炭化水素の接触部分酸化用の触媒。
【請求項14】
メタンと炭素数2以上の軽質炭化水素との少なくとも一方を含む原料炭化水素に酸素及びスチームを添加してなる原料ガスであって、原料炭化水素に水素が含まれていることにより及び/または水素を添加することにより水素が含まれる原料ガスを、反応器内に供給する工程と、
前記反応器内に設けられた請求項1ないし13のいずれか一つに記載の触媒と前記原料ガスとを加熱状態で接触させて、原料炭化水素を接触部分酸化し、一酸化炭素と水素とを含む合成ガスを製造する工程と、を含むことを特徴とする合成ガスの製造方法。
【請求項15】
前記合成ガスを製造する工程において、前記触媒と原料ガスとが加熱状態で接触する領域には、当該触媒が200℃〜1500℃の温度範囲に亘って250℃/秒〜1300℃/秒の温度変化を受ける領域が含まれていることを特徴とする請求項14に記載の合成ガスの製造方法。
【請求項16】
前記原料ガスを200℃〜500℃に予備加熱した後に、圧力が常圧〜8MPa、空間速度(GHSV)が5.0×10(NL/L/Hr)〜1.0×10(NL/L/Hr)の条件で反応器内に供給し、断熱反応条件下で触媒と接触させることを特徴とする請求項14または15に記載の合成ガスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−152498(P2011−152498A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14719(P2010−14719)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度石油天然ガス・金属鉱物資源機構「石油・天然ガス開発・利用促進型特別研究」共同研究、産業技術力強化法19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000004411)日揮株式会社 (94)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】