説明

炭素含有不定形耐火物の製造方法

【課題】施工水分量を抑えて低気孔率で緻密な組織でありながらも、耐爆裂性に優れた炭素含有不定形耐火物の製造方法を提供する。
【解決手段】比表面積が5〜35m/gのカーボンブラック原料Aを3〜15質量%、および、DBP(フタル酸ジブチル)吸油量が80ml/100g以上のカーボンブラック原料Bを使用し、かつ、カーボンブラック原料Aとカーボンブラック原料Bとの配合比(B/A)が0.05〜0.5の範囲の炭素含有不定形耐火物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶銑樋、溶銑傾注樋等の内張りに用いられる炭素含有不定形耐火物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高炉出銑孔から出銑された溶銑は、高炉鋳床に設置された高炉溶銑樋、溶銑傾注樋を介して混銑車や高炉鍋といった溶銑運搬容器に至る。高炉溶銑樋、溶銑傾注樋用の内張り用耐火物には、アルミナ原料、スピネル原料、窒化珪素原料、シリカ原料、SiC(炭化珪素)原料、炭素質原料、アルミナセメントといった結合剤、そして各種分散剤などが用いられている。
【0003】
特に炭素質原料は、炭素がもつ高熱伝導性とスラグに対して濡れにくい特性によって、耐食性および耐スポーリング性に優れるという役割がある。しかしながら、炭素質原料は水に濡れにくいという特性もあるので、炭素質原料を不定形耐火物に適用すると、混練するときに多量の水分を必要とし、気孔率が増加し、耐食性や強度が低下するという欠点もある。
【0004】
この欠点に対し、下記の技術が開示されている。
特許文献1(特開2001−253783公報)では、比表面積が10〜30m/gのカーボンブラック原料を3〜15重量%使用した不定形耐火物が開示されている。他の炭素質原料を用いた場合と比較して格段に少ない水分添加量で混練が可能であり、炭素質原料を多量に含有していても施工体が緻密であるので、耐スポーリング性、耐食性に優れている。
【0005】
特許文献2(特開2006−188391公報)ではフタル酸ジブチル(以下、DBP)吸油量が80ml/100g未満であり、平均一次粒子径の異なる2種または3種以上のカーボンブラック原料を特定比率で併用し、かつカーボンブラック原料の合計量が3〜25質量%の範囲内にある、水系炭素含有不定形耐火物が開示されている。こちらも従来よりも施工水分量を低減でき、緻密な組織を形成できる、とある。
【先行技術文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−253783公報
【特許文献2】特開2006−188391公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のようなカーボンブラック原料を多量に使用した場合、施工水分量が少なくても施工体の組織が緻密である一方、施工体組織内に分布する気孔の気孔径が小さく、施工体を養生、乾燥させる際に発生する水分の蒸発に必要な、通気性が損なわれている。スムーズな水分蒸発が妨げられるということは、乾燥時に施工体の内部蒸気圧が過度に上昇することによって、施工体の崩壊(「爆裂現象」ともいう)を招くおそれがある。
【0008】
そこで、施工水分量を抑えて低気孔率で緻密な施工体組織でありながらも、耐爆裂性に優れた炭素含有不定形耐火物の製造方法を提供することが、本発明が解決しようとする課題である。
【発明を解決するための手段】
【0009】
本発明は、従来技術の問題点に対して、次のような構成の炭素含有不定形耐火物の製造方法であることを特徴としている。
【0010】
炭素含有不定形耐火物に用いられるカーボンブラック原料を2種類用いる。一つはカーボンブラック原料Aとする。カーボンブラック原料Aは比表面積が5〜35m/gのカーボンブラック原料である。もう一つはカーボンブラック原料Bとする。カーボンブラック原料BはDBP吸油量が80ml/100g以上のカーボンブラック原料である。
【0011】
そして、炭素含有不定形耐火物全体に対して、カーボンブラック原料Aは3〜15質量%添加する。かつ、カーボンブラック原料Aとカーボンブラック原料Bの配合比がB/A=0.05〜0.5となるようにする。
【0012】
カーボンブラック原料Bは、一次粒子が複雑に絡み合った比較的大きな二次粒子を形成しているため、粒子間に空隙を保ちやすく、通気性を高める効果がある。これによって、乾燥時に施工体組織で発生した水分の蒸気をスムーズに施工体組織外に排出させることができる。
【0013】
一方、カーボンブラック原料Aは、カーボンブラック原料Bとは異なり、一次粒子が単独で存在しているケースが多く、二次粒子を形成していることは少ない。
【0014】
カーボンブラック原料Aは比表面積が小さいため、カーボンブラック原料を濡らすために必要な水分やバインダーが比表面積の大きいカーボンブラック原料よりも少なくて済み、少ない水分やバインダーの添加で施工でき、緻密な施工体が得られる。
【0015】
一方、カーボンブラック原料Bは一次凝集体のサイズが大きく、複雑な形状をしている。カーボンブラック原料Bを単独で使用したのではその形状の複雑さと大きさから粒子同士の摩擦が大きく、バインダーや水分を多く添加しないと混練しにくい。しかしながら、本発明は比表面積が小さいカーボンブラック原料Aとカーボンブラック原料Bとを組み合わせることで、カーボンブラック原料A、カーボンブラック原料B同士は、バインダーや水分の添加量を従来技術のものに比べ少なくしても良く混ざり合うことができる。
【0016】
そして、発明者はさらに研究して、カーボンブラック原料Aとの配合比(B/A)を0.05〜0.5となるように使用すれば、流動性及び通気性を保ち施工水分量を最適に抑えられることが分かった。これによって、本発明の炭素含有不定形耐火物は低気孔率で緻密な組織を保つことができる。
【発明の効果】
【0017】
以上の特性によって、従来からの課題であった、耐爆裂性の低下を起こすことなく、耐スポーリング性と耐食性の向上した炭素含有不定形耐火物の製造方法を提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の炭素含有不定形耐火物の製造方法は、上述の通り、特定の比表面積のカーボンブラック原料Aと特定のDBP吸油量のカーボンブラック原料Bを一定の範囲の配合比で不定形耐火物を製造したものである。
【0019】
なお、カーボンブラック原料Aは比表面積が5〜35m/gのものを使用する。比表面積が5m/gを下回るカーボンブラックは一般に入手できない。また、比表面積が35m/gを上回ると流動性を得るために必要な水分量が増えるため、水分が蒸発した後の空隙が増えて緻密な組織の施工体が得られなくなり、耐食性の低下を招くため好ましくない。カーボンブラック原料Aはその比表面積が7〜30m/gのものがより好ましい。
【0020】
次に、カーボンブラック原料BはDBP吸油量が80ml/100g以上のものを使用する。DBP吸油量が80ml/100gを下回ると通気性を高める効果が低下し、耐爆裂性が向上しなくなるため好ましくない。より好ましくは、そのDBP吸油量が90〜500ml/100gの範囲のものである。
【0021】
「DBP吸油量」とは、JIS K6217−4に規定された方法によって測定された値である。
【0022】
炭素含有不定形耐火物全体に対して、カーボンブラック原料Aは3〜15質量%添加する。カーボンブラック原料Aの添加量が3質量%未満であると耐スポーリング性や耐食性の向上効果が極めて限定的になる。一方、15質量%を超えると焼結強度が発現しにくくなり、構造体として必要最低限の強度が得られなくなるため好ましくない。カーボンブラック原料Aは4〜10質量%の範囲がより好ましい。
【0023】
カーボンブラック原料Aとカーボンブラック原料Bは、その配合比B/Aが0.05〜0.5となるようにする。配合比B/Aが0.05を下回ると十分な通気性を確保できなくなり耐爆裂性が低下するため好ましくない。一方、配合比B/Aが0.5を超えると流動性を得るために必要な水分量が増えるため、緻密な組織の施工体が得られなくなり、耐食性の低下を招き好ましくない。前記配合比B/Aは0.1〜0.3の範囲がより好ましい。カーボンブラック原料は粉状のもの、粒状のもの、どちらも使用可能で、配合設計において組み合わせて使用することもできる。
【0024】
カーボンブラック原料以外の耐火原料は、特に限定されるものではなく、炭素含有不定形耐火物の用途に応じて適宜選択することができる。例えば、アルミナ、スピネル、マグネシア、シリカ、カルシア、SiC、カーボンブラック原料以外の炭素質原料、窒化珪素や窒化珪素鉄といった窒化珪素質原料、炭化硼素、ムライト、ジルコン、ジルコニア、そしてシリコン、アルミニウム、フェロシリコン、二硼化マグネシウム(MgB)といった金属粉末などを用いることもできる。
【0025】
さらに、アルミナセメント、粘土質原料などの常温硬化性結合剤、珪酸塩、燐酸塩などの周知の熱硬化性結合剤を配合する。これら結合剤は、耐火原料に対し外掛けで0.1〜10質量%、好ましくは0.5〜5.0質量%の範囲内で添加する。ここで、結合剤の添加量が0.1質量%未満であると、強度発現が不十分なため好ましくなく、また、結合剤の添加量が10質量%を超えると、耐食性が低下するために好ましくない。
【0026】
また、必要に応じて通常の流し込み材に用いられる分散剤を用いることもできる。分散剤としては、例えばアルカリ金属燐酸塩、アルカリ金属カルボン酸塩、アルカリ金属フミン酸塩、ナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、ポリカルボン酸ナトリウムなどや、これらと同様の効果が得られる物質の1種または2種以上を用いることができる。分散剤の配合割合は、耐火原料と結合剤の合計量100質量%に対して外掛けで0.005〜2質量%、好ましくは0.05〜0.5質量%(外掛け)の範囲内である。ここで、分散剤の配合割合が0.005質量%未満だと、その添加効果がないために好ましくなく、また、2質量%を超えると、耐食性が低下するために好ましくない。
【0027】
なお、本発明で得られた炭素含有不定形耐火物は、流し込み施工のみならず、圧送ポンプを使用した湿式吹付け施工などにも適用することができ、同様の耐用性を示すことが期待される。
【実施例】
【0028】
以下に実施例および比較例をあげて本発明の炭素含有不定形耐火物の製造方法をさらに説明する。
【0029】
表1に示す配合割合で原料を配合し、さらに、表1に示す添加水分量の水を添加してミキサーで混練することにより本発明例および比較例の不定形耐火物を調製した。得られた不定形耐火物について、乾燥後見掛け気孔率、耐スラグ溶損性、爆裂限界温度を測定し、これらの数値を同じく表1に併記する。表1中の◎、○、△、×の記号は、耐スラグ溶損性、爆裂限界温度の2項目を評価したものである。◎は「とても良い」、○は「良い」、△は「いま一つ」、そして×は「不良」を示している。
【0030】
(1)乾燥後見掛け気孔率の測定方法:
流し込み成形した供試体(40mm×40mm×160mm)を105℃で24時間乾燥した後、見掛け気孔率(%)を測定した。見掛気孔率の測定方法はJIS R 2205:1992に従った。
【0031】
(2)耐スラグ溶損性の測定方法:
流し込み成形した供試体(45mm×51mm×165mm)を12個用意し、侵食剤として高炉スラグを使用し、温度1550℃で5時間にわたり回転ドラム侵食試験を行った。加熱方法はアーク加熱による。前記侵食試験終了後、供試体の溶損深さを測定し、比較例1の溶損深さを100として指数表示したものであり、数値が小さいほど耐食性に優れていることを示す。
【0032】
(3)爆裂限界温度の測定方法:
φ80mm×80mmの円柱形状の枠に流し込み成形して、25℃で24時間養生した供試体を一定の温度に保持した電気炉に入れて急加熱し、電気炉に入れてから20分経過するまでの間に爆裂が発生するか否かを観察した。試験温度は400℃から900℃までの100℃ごととし、爆裂が発生しなかった最高温度を爆裂限界温度とした。爆裂限界温度が高いほど耐爆裂性が高い。
【0033】
【表1】

【0034】
カーボンブラック▲1▼及び▲2▼はカーボンブラックAに、カーボンブラック▲3▼はカーボンブラックBに該当する。一方、カーボンブラック▲4▼はいずれにも該当しない。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によって、耐スポーリング性、耐食性に優れ、なおかつ、乾燥時の爆裂現象を起こしにくい炭素含有不定形耐火物の製造方法を提供することが可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
比表面積が5〜35m/gのカーボンブラック原料Aを3〜15質量%、および、DBP(フタル酸ジブチル)吸油量が80ml/100g以上のカーボンブラック原料Bを使用し、かつ、カーボンブラック原料Aとカーボンブラック原料Bとの配合比(B/A)が0.05〜0.5の範囲であることを特徴とする炭素含有不定形耐火物の製造方法。

【公開番号】特開2012−6818(P2012−6818A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159125(P2010−159125)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(000001971)品川リフラクトリーズ株式会社 (112)
【Fターム(参考)】