説明

炭素材料の製造方法

【課題】炭素材料を作製する際の焼成時間を短縮しつつ、得られる炭素材料における膨れや割れの発生や、曲げ強度等の物性のバラつきを抑制し得る炭素材料の製造方法を提供する。
【解決手段】炭素材料を製造する方法であって、反応触媒の存在下、フェノール類とアルデヒド類とを黒鉛粉末と混合しつつ付加縮合反応して得られるフェノール樹脂付着炭素粉末100質量部と、残炭率40質量%以上の熱硬化性樹脂10〜40質量部とを、混練した後、乾燥、粉砕することにより成形用粉末を作製し、該成形用粉末を射出成形、射出圧縮成形またはトランスファ成形した後、非酸化性雰囲気下800℃以上の温度で焼成処理することを特徴とする炭素材料の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素材料(炭素成形体焼成物)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素材料は、非酸化性雰囲気において優れた耐熱性や高温強度を有し、また導電性、熱伝導性および化学的安定性も高いことから、所望形状に成形された状態で、各種工業材料として、電気、電子、機械、冶金、化学など幅広い分野で使用されている。
【0003】
従来このような目的で使用される炭素材料は、コークス粉末等の炭素質粉末を骨材として、ピッチ、タール等の結合材を配合して加熱混練したのち、得られた混練物を粉砕処理して原料粉を成し、この原料粉を押し出し成形や冷間静水圧プレスして得た成形物を、さらに、焼成処理、ピッチ含浸処理、再焼成処理を繰り返し、必要に応じて黒鉛化することにより、中間材料であるブロック状物を作製して、このブロック状物を機械加工することにより作製されている。
【0004】
上記炭素材料の製造方法においては、焼成工程で多量の揮発性ガスが発生し、発生したガスが成形物から円滑に揮散、排出されないと、膨れなどの変形や割れを生じ易い。このため、焼成工程における昇温速度を緩やかにする必要があり、通常、焼成サイクルには1ヶ月以上もの長期間を要している。また、上記炭素材料の製造方法は、製造工程が複雑である上に、上記ブロック状物から所定の形状に切り出して加工する工程が必要であることから、必然的に高コストなものになる。
【0005】
このような問題を解消するために、黒鉛などの炭素粉末とバインダーである熱硬化性樹脂とを混練した後、乾燥、粉砕して成形用粉末とし、該成形用粉末を射出成形、射出圧縮成形またはトランスファ成形し、次いで、焼成処理して炭化し、必要に応じ黒鉛化する方法が提案されている。
【0006】
このような炭素材料の製造方法として、例えば、特開昭59−195515号公報(特許文献1)には、炭素微粉末と熱硬化性樹脂(バインダー)とを強力なせん断力のある混練機等でよく混練し、メカノケミカル現象によりバインダー成分を炭素微粉末に結着させてペースト状組成物を得、このペースト状組成物を注型成形或いは射出成形し、不融化処理後に焼成処理する方法が提案されている。
【0007】
また、特開平8−113668号公報(特許文献2)には、メソカーボン粉末と有機バインダーとの均一混合物を加熱し、射出成形するメソカーボン粉末成形体の製造方法が開示されている。
【0008】
さらに、特開平1−115869号公報(特許文献3)には、炭素材料の製造方法として、炭素粉末100質量部にベンジリックエーテル型フェノール樹脂10〜50質量部を添加混練し、この混練物を射出成形または押出成形した後、焼成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭59−195515号公報
【特許文献2】特開平8−113668号公報
【特許文献3】特開平1−115869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特開昭59−195515号公報(特許文献1)記載の方法では、成形時におけるペースト状組成物の流動性が重要であり、特に射出成形時に流動性を高く保持する必要があるためにペースト状組成物中の熱硬化性樹脂量が多くならざるを得ない。このため、特許文献1記載の方法では、ペースト状組成物から得られる注型成形物や射出成形物は、表面に樹脂リッチ層を形成し、成形物の肉厚が3mm以上になると、焼成時に発生する揮発性ガスの排出が円滑に行われないことから、得られる炭素材料に割れや膨れを生じてしまう。このような現象は、特に、炭素粉末の粒径が小さく、成形物が肉厚である場合に生じるケースが多く、焼成時においてバインダーである熱硬化性焼成樹脂が分解しているときに炭素粉末との結合力が低下する結果、熱硬化性樹脂が揮発性ガスの圧力に耐え切れず、割れや膨れを生じると考えられる。
【0011】
また、特開平8−113668号公報(特許文献2)は、有機バインダーや射出成形性を高める成形助剤を用いる方法を開示するものであるが、カーボン焼結体を得るために、射出成形物を高温で焼成すると、有機バインダーや成形助剤が一度に分解し、揮発してしまうことから、射出成形体が肉厚である場合には、膨れや割れを生じる場合が多い。加えて、上記有機バインダー等の揮発に起因して、得られるカーボン焼成体中に気孔を生じ、密度が局所的に低下するために、多孔質、低強度なものしか得られず、物性にばらつきを生じてしまう。
【0012】
さらに、特開平1−115869号公報(特許文献3)に記載の方法は、混練物の流動性を向上させるためにベンジリックエーテル型フェノール樹脂を用いるものであるが、混練物成形後の離型性が悪い上、焼成時に生成する揮発性ガスが通常のフェノール樹脂に比べて多量であるために、特許文献1や特許文献2に記載の方法と同様に得られる炭素材料に割れや膨れを生じてしまう。加えて、引用文献3に記載の方法においては、混練物中の樹脂量を射出流動し得る最低限の量としているため、混練物を金型キャビティに充填する(射出する)際に、混練物が広がりながら充填されることによりエアを抱き込んでしまい、さらに後から充填されてくる混練物によって一旦抱き込んだエアを押しつぶすように充填されていってしまうため、射出成形物を焼成処理して得られる炭素材料に、射出流れ方向に強度が低く(電気抵抗が高く)、その直角方向に強度が高い(電気抵抗が低い)という物性異方性が現れてしまう。そればかりか、上記射出成形物は、混練物が高圧で強引に金型内に充填され成形されたものであるために大きな残留応力を有しており、この射出成形物を後硬化処理、焼成処理すると、残留応力が開放されてスプリングバックによって射出流れ方向には大きく膨張し、ゆがみを生じて得られる炭素材料に割れを生じる場合がある。
【0013】
このような状況下、本発明は、炭素材料を作製する際の焼成時間を短縮しつつ、得られる炭素材料における膨れや割れの発生や、曲げ強度や固有抵抗等の物性のバラつきを抑制し得る炭素材料の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記技術課題を解決するために、本発明者等が鋭意検討したところ、反応触媒の存在下、フェノール類とアルデヒド類とを炭素粉末と混合しつつ付加縮合反応して得られるフェノール樹脂付着炭素粉末100質量部と、残炭率40質量%以上の熱硬化性樹脂10〜40質量部とを、混練した後、乾燥、粉砕することにより成形用粉末を作製し、該成形用粉末を射出成形、射出圧縮成形またはトランスファ成形した後、非酸化性雰囲気下800℃以上の温度で焼成処理して炭素材料を作製する方法により、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、
(1)炭素材料を製造する方法であって、
反応触媒の存在下、フェノール類とアルデヒド類とを炭素粉末と混合しつつ付加縮合反応して得られるフェノール樹脂付着炭素粉末100質量部と、残炭率40質量%以上の熱硬化性樹脂10〜40質量部とを、混練した後、乾燥、粉砕することにより成形用粉末を作製し、
該成形用粉末を射出成形、射出圧縮成形またはトランスファ成形した後、
非酸化性雰囲気下800℃以上の温度で焼成処理する
ことを特徴とする炭素材料の製造方法、
(2)前記炭素粉末の平均粒径が30μm〜1000μmである上記(1)に記載の炭素材料の製造方法、
(3)前記フェノール樹脂付着炭素粉末100質量部に対する、該フェノール樹脂付着炭素粉末を構成するフェノール樹脂量が3〜20質量部である上記(1)または(2)に記載の炭素材料の製造方法、
(4)前記フェノール樹脂付着炭素粉末および熱硬化性樹脂とともに、熱硬化性樹脂100質量部に対して、0.1〜5質量部の成形助剤を混練する上記(1)〜(3)のいずれかに記載の炭素材料の製造方法、
(5)前記フェノール樹脂付着炭素粉末および熱硬化性樹脂とともに、熱硬化性樹脂100質量部に対して、0.5〜10質量部の焼成助剤を混練する上記(1)〜(4)のいずれかに記載の炭素材料の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、炭素粉末として、反応触媒の存在下、フェノール類とアルデヒド類とを炭素粉末と混合しつつ付加縮合反応してなるフェノール樹脂付着炭素粉末を用い、このフェノール樹脂付着炭素粉末と所定量の熱硬化性樹脂から得られる成形用粉末に射出成形等の成形処理を施すことにより、熱硬化性樹脂と炭素粉末との結合力を向上させている。このように、本発明によれば、成形物を構成する炭素粉末同士または熱硬化性樹脂と炭素粉末との結合力を向上させることによって、曲げ強度や固有抵抗等の物性のバラつきを抑制しつつ、焼成時における歪みの発生を低減して膨れや割れの発生を抑制し、短時間で焼成処理することが可能な炭素材料の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の炭素材料の製造方法は、反応触媒の存在下、フェノール類とアルデヒド類とを炭素粉末と混合しつつ付加縮合反応して得られるフェノール樹脂付着炭素粉末100質量部と、残炭率40質量%以上の熱硬化性樹脂10〜40質量部とを、混練した後、乾燥、粉砕することにより成形用粉末を作製し、該成形用粉末を射出成形、射出圧縮成形またはトランスファ成形した後、非酸化性雰囲気下800℃以上の温度で焼成処理して炭素材料を作製することを特徴とするものである。
【0018】
本発明において、フェノール樹脂付着炭素粉末の製造材料となるフェノール類としては、フェノール及びフェノールの誘導体を意味し、フェノール類としては、例えば、フェノールの他に、m−クレゾール、レゾルシノール、3,5-キシレノールなどの3官能性のもの、ビスフェノールA、ジヒドロキシジフェニルメタンなどの4官能性のもの、o−クレゾール、p−クレゾール、p−terブチルフェノール、p−フェニルフェノール、p−クミルフェノール、p−ノニルフェノール、2,4キシレノール又は2,6-キシレノールなどの2官能性のo−又はp−置換のフェノール類などを挙げることができ、これらのフェノール類から選ばれる2種以上を用いてもよい。
【0019】
本発明において、フェノール樹脂付着炭素粉末の製造材料となるアルデヒド類としては、ホルムアルデヒドやパラホルムアルデヒドを挙げることができ、ホルムアルデヒドの一部あるいは大部分をフルフラールやフルフリルアルコールに置換したものも挙げることができるが、水溶液状の形態を採るホルマリンがより好適である。
【0020】
本発明において、フェノール樹脂付着炭素粉末を製造する場合、フェノール類とホルムアルデヒド類との配合比率は、フェノール類とアルデヒド類のモル比(フェノール類のモル数:アルデヒド類のモル数)が1:0.6〜1:3.5となるように配合することが好ましく、1:1.0〜1:3.0となるように配合することがより好ましく、1:1.1〜1:1.8となるように配合することがさらに好ましい。
【0021】
本発明において、フェノール樹脂付着炭素粉末の製造材料となる炭素粉末としては、天然黒鉛粉末、人造黒鉛粉末、樹脂を炭化した炭素粉末、ピッチ粉末、カーボンファイバー粉末、コークスを仮焼して得た粉末、あるいはコークスを黒鉛化した黒鉛粉末、製鋼用人造黒鉛電極や押し出し黒鉛材や等方性黒鉛等の粉砕物や加工屑などを再粉砕または篩い分けして得られる黒鉛粉末を挙げることができる。これらの炭素粉末のうち、人造黒鉛粉末や天然黒鉛粉末をはじめとする、黒鉛化度の高い黒鉛粉末が好ましい。炭素粉末は、黒鉛化度が70%〜100%であることが好ましく、80%〜100%であることがより好ましい。黒鉛化度が70%以上である炭素粉末を用いることにより、射出時の流形性がよく、ノズル詰まりやショートショットの発生を抑制することができる。上記各炭素粉末は2種類以上混合して用いてもよい。
【0022】
炭素粉末の平均粒径は、30μm〜1000μmが好ましく、40μm〜500μmがより好ましく、50μm〜200μmがさらに好ましい。
【0023】
炭素粉末の平均粒径が30μm未満であると、成形用粉末を射出成形等して得られる成形物の物性異方性、焼成時の収縮異方性が大きくなって、場合によっては焼成時に割れを生じる場合がある他、成形用粉末の流動性が悪くなり成形が困難になるために樹脂量を増やす必要があるので、結果的に、成形物の表面が緻密になって、焼成中に発生する揮発性ガスによる膨れや割れの原因になる。
【0024】
炭素粉末の平均粒径が1000μmを超えると、フェノール樹脂付着炭素粉末の作製時に、炭素粉末が反応容器内に均一に分散しない(粒子径の大きな炭素粉末は沈殿してしまう)ため、炭素粉末表面へのフェノール樹脂の付着性に偏析を生じたり、得られる成形体の物性に異方性が生じてしまう他、収縮異方性が大きくなって、成形体の形状によっては焼成時に割れを生じる場合がある。
【0025】
なお、本出願において、炭素粉末の平均粒径とは、レーザ回折式粒度分布測定装置により測定した値を意味する。
【0026】
本発明において、フェノール樹脂付着炭素粉末を製造する場合、炭素粉末の配合割合は、フェノール類との質量比(フェノール類の質量:炭素粉末の質量)が100:5〜100:3000となるように配合することが好ましく、100:100〜100:2500となるように配合することがより好ましく、100:500〜100:2200となるように配合することがさらに好ましい。
【0027】
本発明において、フェノール樹脂付着炭素粉末を製造する際に用いられる反応触媒としては、例えば、ヘキサメチレンテトラミン、アンモニアの他、メチルアミン、ジメチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン等の第1級や第2級のアミン類などを用いることができる。さらにこれらとともに、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物や第3級アミンなどのフェノール樹脂の合成時に一般によく使用される塩基性触媒を用いることもできる。
【0028】
本発明において、反応触媒の存在下、フェノール類と炭素粉末とを付加縮合反応させてフェノール樹脂付着炭素粉末を作成する場合、上記付加縮合反応は、反応系を少なくとも撹拌するに足る量の水の存在下、配合成分を攪拌しつつ行うことが好ましい。上記水を一次水とすると、一次水には、媒体として反応系内に加えられる水の他に、アルデヒド類としてホルマリンを用いる場合等、配合成分が水を含む場合には、配合成分に由来する水も含まれる。
【0029】
各配合成分は一次水とともに反応器中に一度に仕込むことが好ましく、攪拌しながら加熱して、常圧還流下で所定時間反応させることが好ましい。
【0030】
この場合、攪拌時間としては、1〜4時間が好ましく、1.5〜2.5時間がより好ましい。また、攪拌速度は100〜1000回転/分(rpm)が好ましく、150〜500回転/分(rpm)がより好ましい。攪拌時の加熱温度は60℃以上が好ましく、80〜105℃がより好ましく、80℃〜95℃がさらに好ましい。
【0031】
このように一次水中で撹拌しつつ炭素粉末の存在下でフェノール類とホルムアルデヒド類とを反応させると、反応当初では反応系は粘稠なマヨネーズ状で撹拌に伴って流動する状態にあるが、反応が進むにつれて次第に炭素粉末を含むフェノール類とホルムアルデヒド類との付加縮合反応物が系中の水と分離し始め、そして反応生成されるフェノール樹脂と炭素粉末とを含有する黒色粒子が突然に反応容器の全体に分散される状態になる。
【0032】
ここで、上記反応系の一次水の量と、生成する黒色粒子の形状、特に黒色粒子の大きさとの間には極めて高い相関性がある。すなわち、一次水の量が少ない場合は粒子径の大きなものが、一次水の量が多い場合は粒子径の小さなものが得られる関係にあり、この関係は直線的なものである。従って、反応系の一次水の量を調節することによって所望する任意の粒径でフェノール樹脂と炭素粉末から構成される黒色粒子を製造することができることになる。このとき、大粒径の黒色粒子を得るために反応系の一次水の量を少なくすると、フェノール樹脂と炭素粉末からなる粒状物が分散生成されたのち、反応を進める間に粒子同士が付着し合って、粒子の大きさにばらつきが生じたり粒子形状が変形したりする場合がある。そこでこの場合には、フェノール樹脂と炭素粉末から構成される黒色粒子が分散生成されたのちに反応系に水を追加配合することによって、粒子同士の付着を防止することが好ましい。この追加配合する水を二次水として定義すると、反応系への二次水の添加は、フェノール樹脂と炭素粉末からなる粒状物が分散されたのち撹拌の停止前の間であればいつでもよい。またこのように二次水を反応系に添加するにあたって、二次水に保護コロイドを配合して使用することもできる。
【0033】
保護コロイドとしては、アラビアゴム、ガッチゴム、ヒドロキシアルキル化合物、グアルゴム、ポリビニルアルコールなどの親水性コロイドを用いることができる。保護コロイドは、二次水とは別に反応系に添加してもよいが、フェノール樹脂と炭素粉末から構成される粒状物が分散されたのち撹拌の停止前までに添加する。保護コロイドを使用することによって粒子の分散性を高めて、粒子同士の付着を抑制することができ、フェノール樹脂と炭素粉末から構成される粒状物の粒子径を揃えることができる。保護コロイドの使用量は二次水100質量部に対して0.2〜5.0質量部であることが好ましい。
【0034】
また、上記反応系には、乳化分散剤を加えてもよい。乳化分散剤は、保護コロイドと同様の目的で加えられるものであり、フェノール類、アルデヒド類、フェノール樹脂等を水中に分散させて、球形の黒色粒子を効果的に得るために使用される。
【0035】
乳化分散剤としては、グルコシド結合を有する高分子界面活性剤が好ましく、該高分子界面活性剤としては、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライドエーテル、アルギン酸の金属塩、ムコ多糖類骨格の天然ゴム金属塩から選ばれる1種以上が挙げらることができ、乳化分散剤としては、グルコース単位1モル当たり酸化エチレンが1.0〜3.5モルの割合で付加したものが好適である。乳化分散剤の使用量は、フェノール類100質量部に対して0 .1〜10 .0質量部であることが好ましく、0.5〜7 .0質量%であることがより好ましい。
【0036】
このようにしてフェノール樹脂と炭素粉末から構成される黒色粒子が分散生成されたのち、さらに所望する程度にフェノール樹脂との反応を進めて冷却してから撹拌を停止すると、この黒色粒子は沈澱して水と分離される。この黒色粒子は微小な球状粒体となっており、反応容器から取り出して濾過することによって容易に分離することができる。これを減圧乾燥又は樹脂の硬化反応が進まない程度の温度(例えば、20〜50℃)で温風乾燥することによって、フェノール樹脂付着炭素粉末の粒状物を得ることができる。
【0037】
このようにして得られたフェノール樹脂付着炭素粉末は、炭素粉末表面のフェノール樹脂が、炭素粉末全体を被覆するように付着している場合もあれば、炭素粉末表面の一部にのみ付着している場合もある。また、本出願において、フェノール樹脂付着炭素粉末には、炭素粉末表面にフェノール樹脂が付着した粒子が複数結合してなる複合化粒子も含むものとする。
【0038】
上記フェノール樹脂付着炭素粉末は、炭素粉末を取り囲むようにして、フェノール類とアルデヒド類とが付加縮合反応して、フェノール樹脂の高分子ネットワークが形成されてなるものであり、炭素粉末表面からフェノール樹脂が容易に脱離しにくい構造となっている。このため、炭素粉末表面のフェノール樹脂同士の親和力または炭素粉末表面のフェノール樹脂と熱硬化性樹脂との親和力により、フェノール樹脂付着炭素粉末同士の結合力またはフェノール樹脂付着炭素炭素粉末とフェノール樹脂との結合力が向上し、フェノール樹脂付着炭素粉末と熱硬化性樹脂を含有する成形用粉末成形時におけるエアの抱き込み量が低減するため、その後の焼成処理時における歪みの発生も低減されて、得られる炭素材料において曲げ強度等や固有抵抗等の物性のバラつきを抑制し、膨れや割れの発生を抑制することができる。
【0039】
本発明において、フェノール樹脂付着炭素粉末100質量部に対する、該フェノール樹脂付着炭素粉末を構成するフェノール樹脂量は3〜20質量部であることが好ましく、3〜15質量部であることがより好ましく、5〜10質量部であることがさらに好ましい。フェノール樹脂付着炭素粉末100質量部に対するフェノール樹脂量が3質量部を下回ると、十分な結合力を生じさせ難くなる。フェノール樹脂付着炭素粉末100質量部に対するフェノール樹脂量が20質量部を上回ると、炭素粉末表面に付着したフェノール樹脂の溶融時における粘度が高くなるかまたは熱溶融しなくなって、加熱雰囲気下で成形する際に成形用粉末の流動性が低下するため、成形用粉末中に多量の熱硬化性樹脂量を加えざるを得なくなり、揮発性ガスのガス抜けが悪くなって、成形時に膨れを生じたり、焼成処理時に割れや膨れを生じる場合がある。
【0040】
本発明においては、上記のとおり作製されたフェノール樹脂付着炭素粉末100質量部と、残炭率40質量%以上の熱硬化性樹脂10〜40質量部とを、混練した後、乾燥、粉砕することにより成形用粉末を作製する。
【0041】
熱硬化性樹脂としては、残炭率が40質量%以上である、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フラン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等を挙げることができ、成形性や価格面から、残炭率が40%以上である、フェノール樹脂またはエポキシ樹脂が好適である。本発明において、熱硬化性樹脂はフェノール樹脂付着炭素粉末のバインダーとして機能するものであるが、硬化処理後、焼成時には固相炭化するので、得られる炭素材料の変形を抑制し、強度を向上することができる。
【0042】
なお、本出願において、残炭率とは、熱硬化性樹脂を非酸化性雰囲気中800℃の温度で焼成したときに残留する炭素分の質量割合を意味する。
【0043】
本発明において、上記熱硬化性樹脂は、フェノール樹脂付着炭素粉末100質量部に対して10〜40質量部配合するが、フェノール樹脂付着炭素粉末100質量部に対して15〜35質量部配合することが好ましく、フェノール樹脂付着炭素粉末100質量部に対して20〜30質量部配合することがより好ましい。上記熱可塑性樹脂の配合量は、熱可塑性樹脂が分散媒等を含むものである場合には、固形分換算した質量を意味するものとする。
【0044】
熱硬化性樹脂の配合量が10質量部未満であると、成形用粉末を射出成形等の成形処理に付したときに流動性が低下して均質な成形体を得ることが困難となる。一方、熱硬化性樹脂の配合量が40質量部を超えると、成形性は良好であるが、成形時に揮発性ガスのガス抜けが悪くなって膨れを生じたり、焼成時に割れや膨れを生じ得る。
本発明においては、成形用粉末の作製材料として、フェノール樹脂付着炭素粉末や熱硬化性樹脂とともに、さらに成形助剤を配合してもよい。
【0045】
成形助剤は、成形用粉末の流動性(成形性)や離型性を向上し得るものであれば特に制限されず、例えば、ステアリン酸、ステアリン酸塩、オレイン酸、ポリエチレンワックス、カルナバワックス等の脂肪族系の化合物、有機リン酸エステル、架橋ポリオレフィン等、またはこれらの混合物から選ばれる1種以上を挙げることができる。
【0046】
成形助剤の配合量は、上記熱硬化性樹脂100質量部に対して、0.1〜5質量部であることが好ましく、0.5〜3.0質量部であることがより好ましく、1.0〜2.0質量部であることがさらに好ましい。成形助剤の配合量が、熱硬化性樹脂100質量部に対して、0.1質量部を下回ると成形用粉末の流動性が低下してショートショットになりやすく、離型性も低下する。成形助剤の配合量が、熱硬化性樹脂100質量部に対して、5質量部を超えると、熱硬化性樹脂の分解成分が多くなり、焼成時に割れや膨れを発生する。
【0047】
また、本発明においては、成形用粉末の作製材料として、フェノール樹脂付着炭素粉末や熱硬化性樹脂とともに、さらに焼成助剤を配合してもよい。
【0048】
焼成助剤は、後述する焼成処理時において、熱硬化性樹脂が焼成分解する前に分解して、熱硬化性樹脂の分解により発生する揮発性ガスを放出しやすくものであれば特に制限されず、例えば、セルロース、レーヨン等の繊維、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、コーンスターチ、クルミ粉等を挙げることができる。
【0049】
焼成助剤の配合量は、上記熱硬化性樹脂100質量部に対して、0.5〜10質量部であることが好ましく、1〜8質量部であることがより好ましく、2〜5質量部であることがさらに好ましい。
【0050】
本発明において、焼成時に割れを生じない場合には、焼成助剤を配合する必要はないが、焼成時に割れを生じる場合には、焼成助剤の配合量が上記熱硬化性樹脂100質量部に対して、0.5質量部未満であると、焼成時の割れを十分に抑制することができなくなり、焼成助剤の配合量が上記熱硬化性樹脂100質量部に対して、10質量部を超えると、成形用粉末の成形後に成形物表面に助剤や熱硬化性樹脂が染み出してしまい、物性が不均一になってしまったり、得られる炭素材料の強度が低下したりしてしまう。
【0051】
本発明において、成形用粉末の作製に際して、2種以上のフェノール樹脂付着炭素粉末を使用する場合には、予めよく混合しておくことが好ましい。混合機としては、フェノール樹脂付着炭素粉末を良好に混合し得るものであれば特に制限されず、万能混合撹拌機、ヘンシェルミキサー、Vブレンダー等の混合機を用いることができる。
また、成形用粉末の作製に際して、熱硬化性樹脂は、予め適当な有機溶剤に溶解し、樹脂溶液とした上で供することが好ましく、有機溶剤としては、メタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン等を挙げることができる。
【0052】
さらに、成形用粉末の作製に際して、成形助剤を用いる場合には、熱硬化性樹脂溶液中に予め添加溶解した上で配合することが好ましく、成形用粉末の作製に際して、焼成助剤を用いる場合には、焼成助剤は、予めミキサーによりフェノール樹脂付着炭素粉末と混合しておくか、または熱硬化性樹脂溶液中に予めカッターミキサー等により分散させておくことが好ましい。成形助剤や焼成助剤をこのような方法で供することにより、これらの助剤を成形用粉末中に均一に混合することができる。
【0053】
本発明においては、成形用粉末の製造材料として、上述したように、成形助剤や焼成助剤を適宜含んでなる、フェノール樹脂付着炭素粉末や熱硬化性樹脂溶液を用い、上記フェノール樹脂付着炭素粉末に熱硬化性樹脂溶液を添加していき、ニーダー、加圧型ニーダー、2軸スクリュー式混練機など適宜な混練機により、両者が十分に混合するまで、混練することが好ましい。混練時における攪拌速度は20〜500回転/分(rpm)であることが好ましく、攪拌時間は10〜120分であることが好ましい。
【0054】
本発明において、得られた混練物は、真空乾燥機或いは風乾等によって乾燥処理が施され有機溶剤分が除去された後、奈良式粉砕機、カッティングミル、ハンマーミル、フェザーミル、フレーククラッシャー等によって好ましくは5mm以下の粒径になるように粉砕処理され、これらの処理が施されることにより、成形用粉末が作製される。
【0055】
本発明において、上記成形用粉末は、射出成形、射出圧縮成形、またはトランスファ成形等、金型キャビティ内に成形用粉末を圧入する方法により成形されるが、生産性や金型構造を考慮すると射出成形が好適である。
【0056】
成形に用いる金型は、得ようとする成形体に対応したスプール部形状及びゲート部形状を有する最適なものを選択すればよい。また、成形時における金型温度は130〜200℃であることが好ましく、150〜170℃であることがより好ましい。また、シリンダの温度は成形用粉末に使用している熱硬化性樹脂が軟化或いは溶融する温度にする必要があり、70〜110℃であることが好ましく、80〜95℃であることがさらに好ましい。
【0057】
成形用粉末の流動性が低く、ショート成形になりやすい場合には、成形材料にメタノールやアセトン等、熱硬化性樹脂と相溶する有機溶媒を添加し成形時の樹脂粘度を低下させて流動性あげることにより成形性を向上させることも有効である。しかし、上記有機溶媒の添加量が6%を超えると、有機溶媒が気化してガスが発生するため、成形時または焼成時に膨れを生じてしまうため、添加量を6%以下にすることが好ましい。
【0058】
本発明においては、炭素粉末として、フェノール樹脂付着炭素粉末を用いていることから、炭素粉末間の密着性ないしは炭素粉末と熱硬化性樹脂との密着性が向上する。このため、成形時において、フェノール樹脂付着炭素粉末を含む成形用粉末を金型キャビティに充填する(射出する)際に、成形用粉末の広がりが抑制され、成形時におけるエアの抱きこみ量が少なくなり、成形物に生じる異方性を抑制することができるとともに、成形時または焼成時における歪みの発生を低減して、膨れや割れの発生を抑制することができる。
【0059】
得られた成型物には、表面に樹脂リッチな緻密層(表面樹脂リッチ層)が形成されるため、この表面樹脂リッチ層を除去してから後述する硬化、焼成処理を施すことが望ましい。表面樹脂リッチ層の除去は、サンドペーパーやサンドブラストなどによる研磨や研削による方法、あるいはバーナーなどで表面樹脂層を焼き飛ばすなどの方法で行うことができる。表面樹脂リッチ層を除去することにより、硬化、焼成中に発生する揮発性ガスの揮散、拡散が行われやすくなり、膨れを生じにくくなる。
【0060】
射出成形等の成形処理によっても熱硬化性樹脂の硬化が十分でない場合には、成形物を加熱処理して十分に熱硬化性樹脂を硬化させた後、焼成処理することが好ましい。上記硬化処理は、180℃〜280℃で行うことが好ましく、成形物が焼成助剤を含むものである場合には、焼成助剤の除去(熱揮散除去)に適当な温度を選択して、熱硬化と共に焼成助剤の除去を行うことが好ましい。
【0061】
本発明において、焼成処理は、非酸化雰囲気下、800℃以上の温度で行われる。
【0062】
非酸化性雰囲気としては、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気または真空雰囲気を挙げることができ、焼成処理は800℃以上の温度で行うが、得られる炭素材料の用途目的に応じ、例えば3000℃程度までの温度で加熱処理が行われる。焼成処理時間は、30分〜20時間程度であることが好ましい。
【0063】
上記焼成処理により、熱硬化性樹脂が十分に黒鉛化されてなる炭素材料(炭素成形体焼成物)を得ることができる。
【0064】
本発明においては、炭素粉末としてフェノール樹脂付着炭素粉末を用い、残炭率40質量%以上の熱硬化樹脂を所定量用いることにより、曲げ強度や固有抵抗等の物性のバラつきを抑制しつつ、焼成時における歪みの発生を低減して膨れや割れの発生を抑制し、短時間で焼成処理することが可能な炭素材料の製造方法を提供することができる。
【実施例】
【0065】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例により何等限定されるものではない。
(実施例1)
(1)フェノール樹脂付着炭素粉末の作製
先ず、以下に示す方法により、フェノール樹脂付着炭素粉末を作製した。
炭素粉末として、人造黒鉛(オリエンタル産業社製)をサイクロンミルにより粉砕処理して、平均粒径が60μmになるように粒度調整したものを用意した。なお、上記炭素粉末の粒径は、レーザ回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製、SALD−2100)により測定した。
【0066】
反応容器中に、上記平均粒径60μmの人造黒鉛粉末100質量部と、フェノール8.3質量部と、37%ホルマリン9.7質量部と、反応触媒であるヘキサメチレンテトラミン(ヘキサミン)0.8質量部と、水150質量部とをそれぞれ仕込み、これ等をプロペラ式撹拌機を用いて、攪拌速度400rpmで撹拌混合しつつ85℃まで昇温し、この加熱温度を維持した。
【0067】
上記攪拌混合物は、当初は粘稠なマヨネーズ状で、撹拌に伴って流動する状態であったが、反応が進むにつれて次第に黒鉛粉末を含むフェノールとホルムアルデヒドとの反応物が反応系中の水から分離し始め、加熱温度が85℃に達してから約15分間経過後、突然、黒鉛粉末とフェノール樹脂とからなる黒色粒状物が反応容器内全体に分散する状態になった。
【0068】
この後さらに撹拌混合しつつ85℃の加熱を60分間維持したのち、反応容器の内容物を40℃以下に冷却し、撹拌を停止すると、黒色粒状物は沈降して水と分離される状態となった。
【0069】
次いで反応容器内から黒色粒状物を取り出して水洗した後、これを濾過して水から分離し、流動床型乾燥機を用いて熱風温度40℃、滞留時間5時間の乾燥処理を施すことによって、フェノール樹脂付着炭素粉末を得た。このフェノール樹脂付着炭素粉末は、フェノール樹脂付着炭素粉末100質量部に対して、該フェノール樹脂付着炭素粉末を構成するフェノール樹脂量が10質量部であるものであった。
【0070】
このフェノール樹脂付着炭素粉末製造時における製造材料の配合量(質量部)と炭素粉末表面に付着したフェノール樹脂量(質量部)を表1に示す。
【0071】
(2)成形用粉末の作製
次に、以下に示す方法により成形用粉末を作製した。
焼成助剤であるセルロース製の微小極細繊維(ダイセル化学工業(株)製 セリッシュPC−110A)を、熱硬化性樹脂である下記フェノール樹脂100質量部に対して1質量部に相当する量、ミキサーにより攪拌混合することにより、焼成助剤含有フェノール樹脂付着炭素粉末を調製した。
【0072】
一方、熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂(群栄化学工業株式会社製、レヂトップPG−2411、残炭率50%)を、(1)で作製したフェノール樹脂付着炭素粉末100質量部に対して20質量部に相当する量採取し、このフェノール樹脂を、樹脂固形分が50質量%になるようにアセトンに溶解するとともに、さらに成形助剤であるステアリン酸(融点80℃)を、熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂100質量部に対して1質量部に相当する量上記アセトン中に添加するとともに、焼成助剤であるセルロース製の微小極細繊維を、熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂100質量部に対して1質量部に相当する量上記アセトン中に添加し、60分間撹拌することにより、十分に相溶させて、成形助剤含有熱硬化性樹脂溶液を調整した。
【0073】
上記各調整に用いた熱硬化性樹脂量(質量部)、成形助剤量(質量部)、焼成助剤量(質量部)を表2に示す。
【0074】
上記焼成助剤含有フェノール樹脂付着炭素粉末に対して、上記成形助剤含有熱硬化性樹脂溶液を加えるとともに、熱硬化性樹脂の硬化剤であるヘキサミンを熱硬化性樹脂固形分に対して10質量%に相当する量加え、2軸ニーダーで、60分間混練した後、室温で風乾してアセトンや揮発性成分を除去した後、得られた乾燥物をカッターミルで粒度3mm以下に粉砕し、成形用粉末とした。
【0075】
(3)成形処理
(2)で得た成形用粉末を、以下に示す方法により射出成形した。
すなわち、射出成形機として、150t汎用型のもの(名機製作所社製M150BL−TS)を用いるとともに、金型として縦150mm×横150mm×深さ5mmの平板1枚取りを用い、シリンダ温度90℃、金型温度170℃、射出圧力及び速度は成形粉の組成に合せて最適条件を選択し、射出成形を行うことにより、良好な成形を行いつつ平板状の射出成形物を得ることができた。
【0076】
(4)焼成処理
(3)で得られた射出成形物を、一度常温まで冷却した後、#600の紙やすりを用いて表面樹脂リッチ層の除去処理を行い、次いで窒素雰囲気下1000℃で5時間加熱して焼成処理を行うことにより、縦148mm×横148mm×高さ5mm平板状の炭素材料を作製した。
【0077】
得られた炭素成形物の外観を目視観察するとともに、嵩密度、曲げ強度、固有抵抗を以下の方法により測定した。結果を表3に示す。
【0078】
(嵩密度)
アルキメデス法により、室温(25℃)での乾燥質量及び水中での試料質量を測定して、以下の式から算出した。
嵩密度(g/cm)=(乾燥質量(g)×水の密度(g/cm))/(乾燥質量(g)−水中試料質量(g))
(曲げ強度)
面内の曲げ強度のバラつきを評価するため、得られた炭素材料の面内から成形用粉末流動方向のテストピース(縦90mm×横10mm×厚さ5mm)と、成形用粉末流動方向に対して垂直方向のテストピース(縦90mm×横10mm×厚さ5mm)をそれぞれ切り出した。
これらのテストピースを用いて、JIS K7203に従い、支点間距離80mm、クロスヘッドスピード0.5mm/minで室温にて3点曲げ試験を行った。
(固有抵抗)
面内の固有抵抗のバラつきを評価するため、得られた炭素材料の面内から成形用粉末流動方向のテストピース(縦90mm×横10mm×厚さ5mm)と、成形用粉末流動方向に対して垂直方向のテストピース(縦90mm×横10mm×厚さ5mm)をそれぞれ切り出した。
【0079】
これらのテストピースを用いて、JIS R7202の電圧降下法に従い、室温にて、長手方向に直流電流0.5Aを流して、端子間距離67mmの電圧降下を測定し、固有抵抗を算出した。
(実施例2〜実施例4、比較例1〜比較例2)
以下に示す方法により、実施例2〜実施例4および比較例1〜比較例2に係る炭素材料を作製した。
(1)フェノール樹脂付着炭素粉末の作製
表1に示す平均粒径になるように調製した炭素粉末を用い、炭素粉末100質量部に対する、フェノール量、37%ホルマリン量、ヘキサミン量をそれぞれ表1に示す量になるように仕込んだ以外は、実施例1(1)と同様にして各フェノール樹脂付着炭素粉末を作製した。
得られた各フェノール樹脂付着炭素粉末100質量部に対する、該フェノール樹脂付着炭素粉末を構成するフェノール樹脂量(質量部)を表1に示す。
(2)成形用粉末の作製
フェノール樹脂付着炭素粉末100質量部に対する熱硬化性樹脂量と、熱硬化性樹脂100質量部に対する成形助剤量および焼成助剤量とを、それぞれ表2に示す量になるように変更した以外は、実施例1(2)と同様にして、各成形用粉末を作製した。
(3)成形処理
上記(2)で得た各成形用粉末を、実施例1(3)と同様の方法により射出成形することにより、平板状の各射出成形物を得た。このときの成形性を表3に示す。
(4)焼成処理
上記(3)で得られた各射出成形物を、実施例1(4)と同様の方法により焼成処理を行うことにより、平板状の各炭素材料を作製した。
【0080】
得られた各炭素材料において、実施例1と同様の方法で外観を目視観察するとともに、嵩密度、曲げ強度、固有抵抗を以下の方法により測定した。結果を表3に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
【表2】

【0083】
【表3】

【0084】
表3より、実施例1〜4では、いずれの場合でも成形性が良く、揮発性ガスに起因する膨れや割れの発生が抑制され、曲げ強度や固有抵抗等の物性のバラつき(異方性)も抑制された炭素材料が得られることが分かる。また、実施例1〜実施例4における製造過程においては、短時間で焼成を行うことができ、得られた炭素材料は焼成後におけるさらなる機械加工が殆んど不要なものであった。
【0085】
一方、比較例1では、熱硬化樹脂量を8質量部と少なくしたため、成形用粉末の流動性が悪く、成形物にウエルドラインを生じてしまった。このため、焼成時にウエルドラインに沿って折れやすく、強度が低いために、得られた炭素材料に割れを生じてしまい、実用に供することができなかった。
【0086】
また、比較例2では、熱硬化樹脂量を45質量部と多くしたため、流動性が向上し成形性は良好であったが、射出成形物が緻密になり、焼成時に熱硬化性樹脂の分解に由来する揮発性ガスの透過、揮散が十分に行われなくなったために、多くの膨れが生じた。そのため嵩密度が1.42と小さくなり、強度も低いために、得られた炭素材料は、実用に供することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明によれば、炭素材料を作製する際の焼成時間を短縮しつつ、得られる炭素材料における膨れや割れの発生や、曲げ強度等の物性のバラつきを抑制し得る炭素材料の製造方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素材料を製造する方法であって、
反応触媒の存在下、フェノール類とアルデヒド類とを炭素粉末と混合しつつ付加縮合反応して得られるフェノール樹脂付着炭素粉末100質量部と、残炭率40質量%以上の熱硬化性樹脂10〜40質量部とを、混練した後、乾燥、粉砕することにより成形用粉末を作製し、
該成形用粉末を射出成形、射出圧縮成形またはトランスファ成形した後、
非酸化性雰囲気下800℃以上の温度で焼成処理する
ことを特徴とする炭素材料の製造方法。
【請求項2】
前記炭素粉末の平均粒径が30μm〜1000μmである請求項1に記載の炭素材料の製造方法。
【請求項3】
前記フェノール樹脂付着炭素粉末100質量部に対する、該フェノール樹脂付着炭素粉末を構成するフェノール樹脂量が3〜20質量部である請求項1または請求項2に記載の炭素材料の製造方法。
【請求項4】
前記フェノール樹脂付着炭素粉末および熱硬化性樹脂とともに、熱硬化性樹脂100質量部に対して、0.1〜5質量部の成形助剤を混練する上記請求項1〜請求項3のいずれかに記載の炭素材料の製造方法。
【請求項5】
前記フェノール樹脂付着炭素粉末および熱硬化性樹脂とともに、熱硬化性樹脂100質量部に対して、0.5〜10質量部の焼成助剤を混練する請求項1〜請求項4のいずれかに記載の炭素材料の製造方法。

【公開番号】特開2010−173876(P2010−173876A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−16378(P2009−16378)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(000219576)東海カーボン株式会社 (155)
【Fターム(参考)】