炭素系微細構造物群、炭素系微細構造物の集合体、その利用およびその製造方法
強い相互作用にて互いに引き合った状態の複数の炭素系微細構造物が集合した集合体であって、その取り扱い性や加工性を向上させることができる程度の長さの集合体を提供する。本発明の炭素系微細構造物の集合体は、複数の炭素系微細構造物が集合したものであり、各炭素系微細構造物が同一方向に配向している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素系微細構造物群、炭素系微細構造物の集合体、その利用およびその製造方法に関するものである。より詳しくは、例えば、カーボンナノチューブ等の炭素系微細構造物が群をなす炭素系微細構造物群と、炭素系微細構造物がファンデルワールス力等による強い相互作用で互いに結合した集合体と、それを用いた種々の用途と、製造する方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素系微細構造物の1つであるカーボンナノチューブ(以下、CNTと称する)は、直径が約0.5nmから10nm程度、長さが約1μm程度のパイプ状のカーボン素材であり、1991年にNECの飯島氏によって発見された新しい炭素材料である。また、CNTには、1層構造のシングルウォールナノチューブ、多層構造のマルチウォールチューブの存在が確認されている。
【0003】
しかしながら、CNTは微細な構造を有するため、その取り扱い性や加工性が悪い。このため、肉眼で確認しながら取り扱うことが可能な大きさのCNTを製造することが試みられている(例えば、非特許文献1・2参照)。
【0004】
非特許文献1および2には、長さが従来の1μm程度よりも長いCNTが報告されている。非特許文献1で得られたCNTの長さは、10cm〜20cm程度であり、非特許文献2で得られたCNTの長さは、25cm〜30cm程度となっている。このため、いずれのCNTも肉眼で確認できている。
【0005】
また、CNTは、組成の違いにより、金属の性質を示すものや、半導体の性質を示すもの等が存在するため、応用製品の開発や製造方法の開発などが盛んに行われている。また、その水素吸蔵素材としての性能も注目されており、燃料電池への応用も検討されている。
【0006】
CNTを素材として利用した例として、CNTを用いた織布やシートが開示されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、CNTを繊維あるいは糸の一部またはそのものとして、その一部あるいは全部に用いた織布やシートが記載されている。
【0007】
【特許文献1】特開平7−138838号公報(平成7年(1995)5月30日公開)
【非特許文献1】H.W.Zhu、外5名、「Direct Synthesis of Long Single−Walled Carbon Nanotube Strands」、Science、2002年5月3日、Vol 296、p.884−886
【非特許文献2】Kaili Jiang、外2名、「Spinning continuous carbon nanotube yarns」、Nature、2002年10月24日、Vol 419、p.801
【0008】
しかしながら、上記非特許文献1に記載のCNTは、10cm〜20cm程度の長さを有するものの、連続的な形成が困難である。
【0009】
また、上記非特許文献2に記載のCNTは、いわゆるブラシ状に形成したCNTを用いて製造している。具体的には、まず、基板上に、基板に対して垂直方向に配向するCNTを複数形成させる。そして、これら複数のCNTからなる束を基板から剥離させ、引っ張ることによって製造している。
【0010】
このように、長いCNTの集合体は、ブラシ状のCNTを引っ張ることによって隣接するCNTが絡み合った状態となっている。従って、ブラシ状のCNTは、基板上に形成するCNTの長さがある程度長いものであるとともに、CNTが高密度で形成されている必要がある。
【0011】
ところが、従来のブラシ状CNTを製造する方法では、基板上にCNTを成長させる速度が遅く、長いCNTを配向させたブラシ状CNTを得ることができていない。また、CNTの成長速度が遅いため、生産性という観点からも不利である。
【0012】
さらに、従来の方法では、高密度にCNTを形成させることができない。このため、隣接するCNTが互いに絡み合うことができる程度の相互作用を有するブラシ状CNTを得ることはできていない。その結果、ロープ状CNTを得ることは困難である。
【0013】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、複数の炭素系微細構造物が群をなす炭素系微細構造物群と、複数の炭素系微細構造物が強い相互作用にて互いに引き合った状態の炭素系微細構造物の集合体であって、その取り扱い性や加工性を向上させることができる程度の長さを有する炭素系微細構造物の集合体と、それを用いた種々の用途と、製造する方法とを提供することにある。
【発明の開示】
【0014】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、高密度かつ長いCNTが林立したブラシ状CNTを形成することにより、強い相互作用にて互いに引き合うCNTが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち、本発明に係る炭素系微細構造物の集合体は、炭素系微細構造物が複数集合した炭素系微細構造物の集合体であって、上記複数の炭素系微細構造物は、同一方向に配向しているとともに、該配向方向に沿って集合していることを特徴としている。
【0016】
上記の構成によれば、炭素系微細構造物の集合体は、炭素系微細構造物が複数集合したものであるため、高い強度を有している。また、炭素系微細構造物が同一方向に配向しているため、その集合体は高配向性を有することとなる。ここで、「同一方向に配向する」とは、全ての炭素系微細構造物が、各長手方向が同一の方向となるように集合していることを意味している。なお、炭素系微細構造物は、必ずしも直線的な構造を有しているのではなく、多少湾曲した状態となっていることが多いが、長手方向とはその両端部を結んだ方向であればよく、炭素系微細構造物の実質的な方向を意味する。
【0017】
さらに、炭素系微細構造物が配向方向に沿って集合しているため、その長さを長くすることが可能となる。これにより、目に見える程度の大きさの集合体とすることができ、その取り扱い性や加工性が向上する。
【0018】
本発明に係る炭素系微細構造物の集合体は、以上のように、複数の炭素系微細構造物が同一方向に配向しているとともに、該配向方向に沿って集合している構成である。それゆえ、高配向性かつ高強度の集合体とすることができるという効果を奏する。
【0019】
また、本発明に係る炭素系微細構造物群は、基板上に、該基板に対して略垂直方向に配向するように複数の炭素系微細構造物が設けられた炭素系微細構造物群であって、上記基板1cm2当たりに存在する炭素系微細構造物が1×1011本以上であることを特徴としている。
【0020】
炭素系微細構造物群は、基板上に設けられた複数の炭素系微細構造物が群をなしているものであり、これら複数の炭素系微細構造物は、基板に対して略垂直方向に配向している。このため、各炭素系微細構造物が密集して群をなすことが可能になる。
【0021】
上記炭素系微細構造物群では、基板1cm2当たりに存在する炭素系微細構造物が1×1011本以上である。すなわち、炭素系微細構造物が非常に高密度に設けられた炭素系微細構造物群とすることができる。なお、略垂直方向とは、ほぼ垂直方向のことであり、完全な垂直方向の他に、単に基板から離れていく方向をも含む。
【0022】
また、上記炭素系微細構造物の集合体を製造するために、本発明に係る炭素系微細構造物の集合体の製造方法は、基板上に、基板に対して垂直方向に配向した複数の炭素系微細構造物を形成する形成工程と、上記炭素系微細構造物の少なくとも1つを引っ張る引張工程とを有することを特徴としている。
【0023】
上記の構成によれば、基板に対して垂直方向に配向した複数の炭素系微細構造物を形成し、その少なくとも1つを引っ張る構成である。すなわち、同一方向に配向した炭素系微細構造物を引っ張っているため、一方向に配向させることができる。また、引っ張る際に、隣接する炭素系微細構造物が束状になって集合している。従って、高配向性かつ高束性の集合体とすることができる。その結果、高い強度を有するとともに、長さの長い集合体を得ることができる。
【0024】
本発明に係る炭素系微細構造物の集合体の製造方法は、以上のように、複数の炭素系微細構造物を形成し、その少なくとも1つを引っ張る構成である。それゆえ、高配向性、高束性かつ高強度を有するとともに、長さの長い集合体を製造することができるという効果を奏する。
【0025】
本発明のさらに他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分わかるであろう。また、本発明の利益は、添付図面を参照した次の説明で明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1(a)】本発明の実施の一形態を示すものであり、CNTロープを示す写真(画像)である。
【図1(b)】本発明の実施の一形態を示すものであり、CNTロープを示す写真(画像)である。
【図2】本発明の実施の一形態を示すものであり、ブラシ状CNTを作製する装置の概略構成を示す断面図である。
【図3】本発明の実施の一形態を示すものであり、ブラシ状CNTを作製する工程を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施の一形態を示すものであり、キャリアガスと原料ガスとの流量の関係を示す図である。
【図5】本発明の実施の一形態を示すものであり、原料ガス濃度と成長速度との相関を示すグラフである。
【図6(a)】本発明の実施の一形態を示すものであり、ブラシ状CNTの走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す写真(画像)である。
【図6(b)】本発明の実施の一形態を示すものであり、ブラシ状CNTの走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す写真(画像)である。
【図7(a)】本発明の実施の一形態を示すものであり、CNTロープを示す写真(画像)である。
【図7(b)】本発明の実施の一形態を示すものであり、CNTロープを示す写真(画像)である。
【図8】本発明の実施の一形態を示すものであり、(a)〜(d)はCNTロープの走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す写真(画像)である。
【図9】本発明の実施の一形態を示すものであり、CNTシートを示す写真(画像)である。
【図10(a)】本発明の実施の一形態を示すものであり、ブラシ状CNTの走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す写真(画像)である。
【図10(b)】本発明の実施の一形態を示すものであり、ブラシ状CNTの走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す写真(画像)である。
【図10(c)】本発明の実施の一形態を示すものであり、CNTロープの走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す写真(画像)である。
【図10(d)】本発明の実施の一形態を示すものであり、CNTロープの走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す写真(画像)である。
【図11(a)】本発明の実施の一形態を示すものであり、CNTロープを持ち上げている写真(画像)である。
【図11(b)】本発明の実施の一形態を示すものであり、CNTロープを持ち上げている写真(画像)である。
【図12】本発明の実施の一形態を示すものであり、電気的特性を測定するための試料を示す写真(画像)である。
【図13(a)】本発明の実施の一形態を示すものであり、プリプレグおよび積層体を作製する工程を示す図である。
【図13(b)】本発明の実施の一形態を示すものであり、プリプレグおよび積層体を作製する工程を示す図である。
【図13(c)】本発明の実施の一形態を示すものであり、プリプレグおよび積層体を作製する工程を示す図である。
【図14】本発明の実施の一形態を示すものであり、CNTロープを巻きつけたコイル状構造物を示す写真(画像)である。
【図15(a)】本発明の実施の一形態を示すものであり、ブラシ状CNTの走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す写真(画像)である。
【図15(b)】従来のブラシ状CNTの走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す写真(画像)である。
【図16(a)】本発明の実施の一形態を示すものであり、ブラシ状CNTの透過型電子顕微鏡(TEM)像を示す写真(画像)である。
【図16(b)】本発明の実施の一形態を示すものであり、ブラシ状CNTの透過型電子顕微鏡(TEM)像を示す写真(画像)である。
【図17(a)】本発明の実施の一形態を示すものであり、CNTロープの強度を測定している状態を示す写真(画像)である。
【図17(b)】本発明の実施の一形態を示すものであり、CNTロープの強度を測定している状態を示す写真(画像)である。
【図17(c)】従来のCNTロープの強度を測定している状態を示す写真(画像)である。
【図17(d)】従来のCNTロープの強度を測定している状態を示す写真(画像)である。
【図18】本発明の実施の一形態を示すものであり、ブラシ状CNTのCNT密度とCNTロープの長さとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の実施の一形態について説明すると以下の通りである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【0028】
本発明は、炭素系微細構造物が複数集合した炭素系微細構造物の集合体(以下、単に「集合体」と称する)であり、この複数の炭素系微細構造物が同一方向に配向しているとともに、配向方向に沿って集合しているものである。また、本発明の集合体は、炭素系微細構造物が、配向方向に対して直角方向にも集合しているものも含む。これら集合体は、基板上に、この基板に対して略垂直方向に配向するように複数の炭素系微細構造物を形成し、炭素系微細構造物の少なくとも1つを引っ張ることにより製造される。以下、具体的に説明する。
【0029】
〔炭素系微細構造物〕
炭素系微細構造物とは、炭素原子から構成されるナノサイズの物質であり、炭素原子同士の結合により生じた網目構造を基本骨格とするナノスケール構造物である。より詳しくは、炭素系微細構造物は、グラファイト型結合からなる骨格が3次元構造を有しているものである。3次元構造とは、好ましくは筒状である。
【0030】
炭素系微細構造物は、具体的には、例えば、カーボンナノチューブ(以下、単に「CNT」と称する)である。また、CNTにビーズが形成されたビーズ付きCNT、CNTが捩れを有したカーボンナノツイスト、コイル状のカーボンナノコイル、球殻状のフラーレン等も炭素系微細構造物に含まれる。なお、上記炭素系微細構造物であるCNTが多数林立した、いわゆるブラシ状CNTを炭素系微細構造物群と称する場合もある。
【0031】
本発明の集合体は、後述するようにブラシ状CNTを用いて製造される。このため、以下では、炭素系微細構造物としてCNTを、炭素系微細構造物群としてブラシ状CNTを例に挙げて説明する。
【0032】
〔炭素系微細構造物群〕
ブラシ状CNTは、基板上に、基板に対して略垂直方向に配向した複数のCNTを林立させたものである。基板としては、Siウエハ上に、触媒としてFe薄膜を形成したものを用いることができる。また、略垂直方向とは、ほぼ垂直方向であること意味し、完全に垂直方向であることが好ましいが、基板面から離れていく方向をも含む。
【0033】
本発明のブラシ状CNTとしては、基板上に形成されたCNTの長さ(基板からの高さ)がある程度の長さ(高さ)を有しており、かつ、複数のCNTが高密度に形成されたものが好ましく用いられる。基板上に形成されたCNTがある程度の長さを有することにより、集合体を作製する際により長い集合体を得ることができる。具体的には、ブラシ状CNTとして形成されたCNTの長さは、数μm以上であることが好ましい。
【0034】
また、複数のCNTを高密度に形成することにより、隣接するCNT間でファンデルワールス力等の強い相互作用が生じるため、集合体の作製が容易となる。このようなブラシ状CNTとしては、例えば、基板の1μm四方に10本以上のCNTが形成されているものであることが好ましい。すなわち、CNTの密度が10本/1μm2以上(1×109本/cm2以上)であることが好ましい。
【0035】
また、上述のように、本発明の集合体はブラシ状CNTを用いて形成される。詳細は後述するものの、ブラシ状CNTにおけるCNTの密度がより高いほど長い集合体を形成することができる。従って、ブラシ状CNTにおけるCNTの密度は1×1010本/cm2以上であることがより好ましく、1×1011本/cm2以上であることが特に好ましい。
【0036】
また、ブラシ状CNTにおけるCNTは、より高い結晶性を有するCNTであることが好ましい。結晶性が高いほどCNTは直線的になり、CNTが直線的であるほど集合体の作成が容易になる。すなわち、理想的なCNTは直線状のCNTであり、CNTの結晶構造に欠陥があると屈曲したCNTとなるため好ましくない。
【0037】
ここで、欠陥とは、CNTを構成する規則的な結晶配列において、不規則な結晶配列が存在する場合におけるその不規則な結晶配列部分を指す。CNTは、炭素原子の六員環が連なった(六角板状結晶の)グラフェンシートからなっており、六員環以外の例えば五員環や七員環が存在場合にはこの部分が欠陥部分となる。
【0038】
CNTは、六員環が規則的に連なっている場合には直線的になる。一方で、CNTは、一部分に五員環や七員環が含まれている場合、その部分(欠陥部分)では結晶性が低下して屈曲することとなる。このため、CNTの直線性を高めるためには欠陥部分の少ないCNTとすることが好ましい。なお、欠陥部分の少ないCNTとは、例えば、長さ1μmの部分に存在する欠陥部分が10個以下のCNTである。
【0039】
また、CNTの結晶中にアモルファス炭素が含まれていたり、またはCNTの周囲にアモルファス炭素の層が形成されている場合にもCNTの結晶性は悪くなる。従って、アモルファス炭素の少ないCNTであるほど結晶性は高くなる。
【0040】
ここで、図15(a)は、本発明のCNTのSEM像を示す写真であり、図15(b)は、従来のCNTのSEM像を示す写真である。図15(a)および図15(b)に示すように、本発明のCNTでは、CNTの周囲に存在するアモルファス炭素が非常に少なく、従来のCNTでは、CNTの周囲に存在するアモルファス炭素が非常に多くなっている。このため、従来のCNTでは、グラフェンシートが不規則に湾曲した直線性の低いCNTとなっているのに対して、本発明のCNTでは、グラフェンシートがきれいな層状構造となっており、非常に直線性の高いCNTとなっている。
【0041】
なお、CNTの周囲に形成されたアモルファス炭素層の厚さは、CNTの直径に対して10%以下であることが好ましい。この場合、より直線性の高いCNTとすることができる。
【0042】
このように結晶性の高いCNTは直線性の高いCNTとなる。CNTの直線性が高くなるとCNT間の相互作用が強くなる。このため、このような結晶性の高いCNTを含むブラシ状CNTを用いることにより、強度の高い集合体を容易に作成することが可能になる。なお、結晶性の高い直線的なCNTは、後述する本発明に係る製造方法を用いることによって製造することができる。
【0043】
また、上記CNTは、グラフェンシートの層数が2層以上20層以下であることが好ましい。グラフェンシートの層数が多くなると、後に生成する集合体の強度を高くすることができる。一方、グラフェンシートの層数が20層を超えると、逆に集合体に柔軟性がなくなり、一定の力が負荷されたときに折れてしまう可能性がある。
【0044】
〔炭素系微細構造物群の製造方法〕
本発明のブラシ状CNTは、触媒化学気相成長法(CCVD法;Catalyst Chemical Vapor Deposition)により作製することができる。CCVD法は、反応室内に触媒体を配置し、反応室内にキャリアガスおよび原料ガスを供給して、この触媒体の表面にCNTを成長させる方法である。以下、CCVD法によりCNTを成長させ、ブラシ状CNTを作製する方法について説明する。
【0045】
図2は、ブラシ状CNTを作製する装置1の概略構成を示す図である。図2に示すように、反応室2内には触媒体3が配置されている。触媒体3は触媒を表面に形成した基体であり、その基体の形状は基板、多層基板、筒体、多面体、ペレット、粉体など種々の形態がある。また、使用される触媒としては、例えば鉄、コバルト、ニッケル、鉄合金、コバルト合金、ニッケル合金、鉄酸化物、コバルト酸化物、ニッケル酸化物、またはこれらの組み合わせなど各種の公知の触媒を使用することができる。
【0046】
そして、反応室2内にキャリアガスおよび原料ガスを供給する。図3は、キャリアガスおよび原料ガスを反応室2へ供給する工程を示す図である。キャリアガスは、第1容器4および第2容器5に格納されている。第1容器4内のキャリアガスは、マスフローコントローラからなる第1流量制御器6により基本流量に調節され反応室2に供給される。また、第2容器5内のキャリアガスは、マスフローコントローラからなる第2流量制御器7により所定流量に調節され、電磁式三方バルブ8を介して反応室2に供給される。
【0047】
キャリアガスとしては、He、Ne、Ar、N2、H2などのガスを使用することができる。キャリアガスは原料ガスを搬送するガスであり、原料ガスが反応により消耗されるのに対して、キャリアガスは全く無反応で消耗しないガスである。
【0048】
原料ガスは、第3容器9に格納されている。第3容器9内の原料ガスは、マスフローコントローラからなる第3流量制御器10により所定流量に調節され、電磁式三方バルブ11を介して反応室に供給される。
【0049】
原料ガスとしては、炭化水素、硫黄含有有機ガス、リン含有有機ガスなどの有機ガスを使用することができる。原料ガスは、生成するCNTの構造に合わせて適宜選択すればよい。これら有機ガスの中でも余分な物質を生成しない利点から炭化水素が好適に用いられる。
【0050】
上記炭化水素としては、メタン、エタンなどのアルカン化合物、エチレン、ブタジエンなどのアルケン化合物、アセチレンなどのアルキン化合物、ベンゼン、トルエン、スチレンなどのアリール炭化水素化合物、インデン、ナフタリン、フェナントレンなどの縮合環を有する芳香族炭化水素、シクロプロパン、シクロヘキサンなどのシクロパラフィン化合物、シクロペンテンなどのシクロオレフィン化合物、ステロイドなどの縮合環を有する脂環式炭化水素化合物などを使用することができる。また、以上の炭化水素化合物を2種以上混合した混合炭化水素ガスを使用することも可能である。上記炭化水素化合物の中でも、特に、アセチレン、アリレン、エチレン、ベンゼン、トルエンが好適に用いられる。
【0051】
上記電磁式三方バルブ8・11は、自動バルブ制御器の作用により遮断状態と供給状態との2方向に制御される。すなわち、キャリアガスや原料ガスは、遮断状態では補助排気管を介して排気され、供給状態では反応室に供給されるようになっている。電磁式三方バルブ8が供給状態である場合には、電磁式三方バルブ11が遮断状態となっている。一方、電磁式三方バルブ8が遮断状態である場合には、電磁式三方バルブ11が供給状態となっている。
【0052】
また、これら電磁式三方バルブ8・11は、0.1s以下の応答時間を有している。さらに、第1容器から反応室2に供給されるキャリアガスの流量は、常に基本流量となるように制御されていると共に、第2容器5から反応室2に供給されるキャリアガスの流量および第3容器9から反応室2に供給される原料ガスの流量は、常に同じ流量となるように制御されている。従って、遮断状態と供給状態の切換えは瞬時に行われ、常に一定流量のガスが反応室2へ供給されることとなる。
【0053】
例えば、第1容器4から供給されるキャリアガスの基本流量をX(cm3/s(normal))とし、第2容器5から供給されるキャリアガスの流量、および第3容器9から供給される原料ガスの流量をY(cm3/s(normal))とする。
【0054】
図4に示すように、反応室2には、第1容器4から供給されたキャリアガスが常にX(cm3/s(normal))供給されている。また、ブラシ状CNTを製造しない間は、電磁式三方バルブ8が供給状態になっており、電磁式三方バルブ11が遮断状態になっている。従って、第2容器5から流量Y(cm3/s(normal))でキャリアガスが供給されている。この場合、反応室2内には、流量X+Y(cm3/s(normal))のガスが供給されていることとなる。
【0055】
一方、ブラシ状CNTを製造する間は、電磁式三方バルブ8が遮断状態になっており、電磁式三方バルブ11が供給状態になっている。従って、第3容器9から流量Y(cm3/s(normal))で原料ガスが供給されている。この場合においても、反応室2内には、流量X+Y(cm3/s(normal))のガスが供給されていることなる。すなわち、反応室2には常に一定流量のガスが供給されている。
【0056】
なお、反応室2は、CNTを最も成長しやすい温度領域に加熱されており、原料ガスは触媒体3の近傍で熱分解する。そして、分解物が触媒体3の表面からCNTとして成長する。
【0057】
次に、上記装置1を用いてブラシ状CNTを作製する方法について具体的に説明する。触媒体(基板)3として、表面に4nmの鉄触媒膜が形成されたSi基板用いる。キャリアガスとしてHeガスを用い、原料ガスとしてC2H2ガスを用いる。第1容器4のHeガスの基本流量を0.93cm3/s(normal)とし、第2容器5のHeガスおよび第3容器9のC2H2ガスの所定流量を3.11cm3/s(normal)とする。
【0058】
まず、上記基板3を反応室2の中央へ配置する。そして、反応室2を700℃まで加熱する。この際、電磁式三方バルブ8が供給状態となっており、反応室2内には4.04cm3/s(normal)のHeガスが供給されている。その後、電磁式三方バルブ8を遮断状態にし、同時に電磁式三方バルブ11を供給状態とする。これにより、反応室2内には3.11cm3/s(normal)のC2H2ガスと0.93cm3/s(normal)のHeガスとが供給される。すなわち、この場合のC2H2ガスの濃度は76.9%である。また、C2H2ガスの供給時間は0.8秒とする。C2H2ガス供給後、ガスが反応室2を通過する5分後に降温する。これにより、C2H2中の炭素原子が基板3上で成長し、ブラシ状CNTが作製される。
【0059】
ここで、ブラシ状CNTを作製する際におけるCNTの成長速度と原料ガスの濃度との関係について図5に基づいて説明する。図5に示すように、原料ガスの濃度を上昇させるほどCNTの成長速度は増加する。これは、原料ガスが基板へ到達した際の、原料ガスの濃度変化がより急峻になっているためであると考えられる。CNTの成長速度が速いことにより、作製時間を短縮できるとともに、長いCNTを形成することができる。
【0060】
一方、CNTの密度は、原料ガスの濃度を23%から76.9%まで上昇させると、2×1010本/cm2〜7×1011本/cm2まで変化する。従って、原料ガスの濃度が高いほど高密度のCNTを形成できることがわかる。
【0061】
これらのことから、ブラシ状CNTを作製する際の原料ガスの濃度は、数十%以上であることが好ましい。具体的には、23%以上望ましくは70%以上であることが好ましい。この場合、CNTを長く成長させることができると共に高密度に形成することができる。
【0062】
また、原料ガスの供給時間を長くした場合には、CNTの成長時間を長くすることができる。このため、原料ガスの供給時間を制御することによって、より長いCNTを形成することが可能となる。ただし、この場合、CNTの径も太くなる。従って、原料ガスの供給時間は、原料ガスの濃度や、CNTの長さおよび太さを考慮して適宜設定すればよいが、0.001秒〜60秒の範囲内であることが好ましい。
【0063】
作製したブラシ状CNTの走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す写真(画像)を図6(a)および図6(b)に示す。図6(b)は、図6(a)を拡大した像である。図6(a)および図6(b)に示すように、ブラシ状CNTの各CNTは、極めて直線性が高く、長さが170μm程度にまで成長していることがわかる。また、CNTの密度は、少なくとも1×1010本/cm2以上であると見積もられる。
【0064】
本実施の形態において、上記CNTの密度の測定は、SEM像およびTEM像を観察することによって、以下のようにして行われる。
【0065】
まず、図6(a)または図6(b)に示すような、ブラシ状CNTのSEM像の中から同一コントラスト部分のCNTに着目する。ここで、同一コントラスト部分とは、SEM像中に示されるCNTの濃さがほぼ一定の部分を指す。この部分は、CNTの密度がほぼ一定であると推測される部分である。
【0066】
そして、上記同一コントラスト部分のCNTの幅を測定する。これにより、同一コントラスト部分のCNTの直径を見積もることができる。さらに、この部分に存在するCNTの本数を測定する。これにより、同一コントラスト部分におけるCNTの密度を見積もることができる。なお、SEM像で観察されるCNTは、複数のCNTがバンドルした(束になった)状態のものである(バンドル状CNT)。このため、SEM像で見積もられた密度は、単位面積当たりに存在するバンドル状CNTの本数を示している。
【0067】
次に、上記直径および密度を見積もった部分のCNTをTEM像にて観察する。図16(a)および図16(b)は、上記CNTのTEM像を示す写真である。このTEM像では、上記SEM像で観察されたバンドル状CNTにおける、バンドルしている各CNTを観察することができる。このため、TEM像を観察することにより、上記SEM像にて1本として観察されたバンドル状CNTに、何本のCNTが含まれているかを測定する。
【0068】
上記SEM像の観察において、同一コントラスト部分のCNTの直径と、この部分に存在するバンドル状CNTの本数とが測定されているため、TEM像の観察にてバンドル状CNTに含まれるCNTの本数を測定することにより、単位面積当たりに存在するCNTの本数を測定することができる。すなわち、CNTの密度を測定することができる。
【0069】
また、本発明に係る製造方法を用いることにより、上述した高い結晶性を有するCNTを作成することが可能となると共に、高い結晶性のCNTからなるブラシ状CNTを作成することができる。
【0070】
〔炭素系微細構造物の集合体〕
次に、本発明に係る炭素系微細構造物の集合体について説明する。本発明の集合体は、複数のCNTが同一方向に配向しているとともに、該配向方向に沿って集合したものである。ここで、「同一方向に配向する」とは、全ての炭素系微細構造物が、各長手方向が同一の方向となるように集合していることを意味している。なお、炭素系微細構造物は、必ずしも直線的な構造を有しているのではなく、多少湾曲した状態となっていることが多いが、長手方向とはその両端部を結んだ方向であればよく、炭素系微細構造物の実質的な方向を意味する。
【0071】
また、本発明の集合体は、複数のCNTが互いに絡み合って束状になっている。従って、本発明の集合体は、同一方向に配向した複数のCNTが束状になって長手方向に伸びた構成を有している。以下では、説明の便宜上、この構成を有する集合体を「CNTロープ」と称する。
【0072】
さらに、本発明の集合体は、上記配向方向に対して直角方向にも集合した集合体も含む。配向方向に対して直角方向とは、いわゆるCNTロープの長手方向に対して直角方向(短手方向)である。従って、この場合、長手方向に配向したCNTロープがさらに短手方向に集合した構成を有しており、平面的な広がりを有する集合体となる。この構成は、CNTロープがさらに辺方向にも集合した構成とも表現できる。以下では、説明の便宜上、この構成を有する集合体を「CNTシート」と称する。
【0073】
図1(a)・図1(b)および図7(a)・図7(b)に本発明のCNTロープを示す。図1(a)・図1(b)は約20cm程度の長さのCNTロープであり、図7(a)・図7(b)は約30cm程度の長さのCNTロープである。これらの図に示すように、本発明のCNTロープは、肉眼でも十分確認できる糸状の物質である。
【0074】
このCNTロープの詳細な構成について説明する。図8は、図1(a)・図1(b)に示すCNTロープのSEM像である。図8の(b)および(c)は、図8の(a)に示すCNTロープの一部分を拡大したSEM像であり、図8の(d)は、図8の(c)に示すCNTロープの一部分を拡大したSEM像である。
【0075】
図8に示すように、CNTロープは、複数のCNTが束になっている。すなわち、個々のCNTがバンドルする(束になる)ことによって構成されている。このCNTロープの平均直径は約50μm程度である。また、CNTロープを構成する1本の繊維状の構造物の直径は約50nmである。これに対して、これまで透過型電子顕微鏡(TEM)で観察されたブラシ状CNTにおける各CNTの直径は、10nm〜20nm程度である。従って、CNTロープは、個々のCNTがバンドルすることによって形成されていることがわかる。
【0076】
また、ブラシ状CNTにおける個々のCNTの平均長さは、数十μm程度であるのに対して、本発明のCNTロープは20cmまたは30cmの長さとすることができ、ブラシ状CNTにおけるCNTの密度を制御することにより50cm以上の長さのCNTロープとすることもできる。これは、個々のCNTが同一方向に配向しながら長手方向に連続的にバンドルしているからである。すなわち、本発明のCNTロープは、個々のCNTがバンドルしているとともに、同一方向に配向した構成を有している。
【0077】
バンドルしているCNTは、互いにファンデルワールス力により結合している部分もある。これにより、CNTは強い相互作用によって結合する。このため、CNTロープは高い強度を有することとなる。さらにバンドルしているCNTを物理的または化学的に結合させれば、より一層高い強度を有するCNTロープとすることができる。
【0078】
また、CNTシートは、上記CNTロープが平面的に集合したものであり、いわゆるCNTロープがシート状になったものである。従って、CNTシートは、個々のCNTのバンドルによって構成されている。ただし、CNTシートは、個々のCNTが同一方向に配向しながら長手方向に連続的にバンドルすることに加えて、短手方向にもバンドルしている。図9にCNTシートを示す。図9に示すCNTシートは、幅が4mmとなっており、シート状に形成されていることがわかる。
【0079】
本発明のCNTロープは、結晶性の高いCNTを含むブラシ状CNTを用いて作製されるため、結晶性の高いCNTロープとなる。すなわち、直線性の高いCNTロープとすることができる。さらに、上記ブラシ状CNTは、CNTが高密度に形成されているため、長いCNTロープを作製することができると共に、強度の高いCNTロープを作製することが可能になる。
【0080】
ここで、本発明のCNTロープの強度について説明する。図17(a)および図17(b)は、本発明のCNTロープの強度を測定している状態を示す写真(画像)であり、図17(c)および図17(d)は、従来のCNTロープの強度を測定している状態を示す写真(画像)である。なお、図17(a)・図17(b)および図17(c)・図17(d)ともに、CNTロープの強度(機械的特性)を共振法で測定した状態を示している。
【0081】
図17(a)は静止した状態の本発明のCNTロープを示し、図17(b)はこのCNTロープを共振させた状態を示している。一方、図17(c)は静止した状態の従来のCNTロープを示し、図17(d)はこのCNTロープを共振させた状態を示している。図17(b)および図17(d)に示すように、本発明のCNTロープは、従来のCNTロープと比較して共振する幅が小さく強度が高いことがわかる。また、共振法を用いた場合のヤング率は以下の式(1)で表される。
【0082】
Y=(64π2ρ/1.8754)×(f02L4/d02)……(1)
ただし、f0:共振周波数、ρ:密度、L:長さ、d0:外直径(ただし、>>内直径の二乗値)である。
【0083】
上記式(1)を用いてヤング率を算出すると、従来のCNTロープでは、Y=0.1(TPa)であるのに対して、本発明のCNTロープでは、Y=0.8(TPa)である。すなわち、従来のCNTロープ(欠陥が多く、屈曲の大きいCNTロープ)は、ヤング率が小さく強度が小さいことが機械的特性の検査からもわかる。
【0084】
〔炭素系微細構造物の集合体の製造方法〕
次に、本発明のCNTロープの製造方法について説明する。CNTロープは、ブラシ状CNTから作製することができる。
【0085】
ブラシ状CNTは、上述のようにして基板上に作製される。CNTロープを製造する際には、まずこの基板を劈開する。これにより、劈開された部分の基板に形成されたCNTが露出する。そして、この露出したCNTの少なくとも1本をピンセット等で摘み、引っ張る。これにより、隣接するCNTが連続的に絡み合いながら引き出される。引っ張る方向は、CNTを基板から引き抜く方向であればよい。
【0086】
隣接する1本または数本のCNTはファンデルワールス力により結合している。このうちの少なくとも1本を引っ張ることにより、隣接するCNTがバンドルしながら引っ張られ、これが連続的に起こる。そして、引っ張り続けることにより、複数のCNTが束になったCNTロープとなる。
【0087】
このように、同一方向に成長したブラシ状CNTを引っ張り、連続的にCNTを引き抜くだけで、各CNTが同一方向に配向したCNTロープを得ることができる。このため、CNTの配向制御が容易である。
【0088】
CNTロープの製造に伴って、ブラシ状CNTは、セーターの毛糸を解くように基板の端から順に剥がれていく。図10(a)に、CNTロープを製造した後のブラシ状CNTのSEM像を示す。図10(a)に示すように、CNTが解けて下面のSi基板が剥き出しになっている。
【0089】
また、基板表面に近いブラシ状CNTは、図10(b)に示すように、CNTが基板に対して水平方向に配向し、シート状になっている。CNTロープを製造する際には、これらがバンドルして1本のロープ状になる。この場合のCNTロープのSEM像を図10(c)・図10(d)に示す。
【0090】
なお、CNTシートを製造する場合には、ブラシ状CNTからCNTを引っ張る際に、引っ張るCNTの本数を多くすればよい。上述したように、ブラシ状CNTの基板表面に近い部分では、CNTがシート状になっている。このシート状のCNTを、シート状のまま引っ張ることでCNTシートを製造することができる。従って、引っ張る際に摘むCNTの本数を変えることによって、シートの大きさを適宜変えることができる。
【0091】
また、CNTシートは、基板を劈開した際に、劈開により分裂した基板同士を引っ張ることにより製造することもできる。この場合、基板同士の引っ張りにより各基板に形成されたCNTが引き合う。これにより、CNTが連続的に解けていき、CNTが一方向に並んだCNTシートを製造することができる。
【0092】
なお、ブラシ状CNTにおけるCNTの密度に応じてCNTロープやCNTシートのバンドルの状態を変えることができる。従って、CNTロープやCNTシートの用途等に応じてブラシ状CNTの密度を制御すれば、所望のバンドル状態となったCNTロープやCNTシートを得ることができる。
【0093】
本発明では、CNTが高密度に形成されたブラシ状CNTを用いているため、CNTロープやCNTシートの長さを長くすることができる。ここで、ブラシ状CNTのCNT密度とCNTロープの長さとの関係について説明する。図18は、ブラシ状CNTのCNT密度と、ブラシ状CNTから引き出すことができるCNTロープの長さとの関係を示すグラフである。
【0094】
図18に示すように、ブラシ状CNTのCNT密度が1×109本/cm2程度になると、CNTを引き出すことができるようになる。すなわち、CNTロープを作製することができるようになる。CNT密度が高くなるにつれて作製できるCNTロープの長さも長くなる。CNT密度が1×1010本/cm2を超える程度の密度になると、10cm〜40cm程度の長さのCNTロープを作製することができるようになる。
【0095】
ただし、本発明では上記製造方法を用いることにより、1×1011本/cm2以上のCNT密度を有するブラシ状CNTを作製することが可能であり、図18に示すように、CNT密度が1×1011本/cm2以上になると、50cm以上の長さのCNTロープを作製することができるようになる。
【0096】
すなわち、本発明の製造方法を用いることにより、高密度かつ高結晶性のブラシ状CNTを作製することが可能になり、高密度かつ高結晶性のブラシ状CNTを用いることにより、長くて強いCNTロープを作製することが可能になる。
【0097】
また、CNTロープやCNTシートを製造する際には、複数のCNTを種々の方法にてより強固に結合させてもよい。種々の方法とは、例えば、複数のCNTを物理的または化学的に結合させる方法を挙げることができる。上述のように、隣接するCNTはファンデルワールス力により結合しているものの、より強固に結合させることによって、より一層強度の高いCNTロープやCNTシートを得ることができる。
【0098】
複数のCNTを物理的または化学的に結合させる方法としては、例えば、撚糸処理や、高温アニール処理、化学処理等を挙げることができる。撚糸処理とは、CNTを強く撚りあげる処理方法のことである。また、高温アニール処理とは、CNTを各種ガス中にて高温で加熱する処理方法のことである。化学処理とは、CNT間をフラーレンや官能基の導入により物理的結合や化学的結合をさせる処理方法のことである。
【0099】
〔炭素系微細構造物の集合体の利用〕
本発明に係る炭素系微細構造物の集合体は、上記の構成や物性を有するため種々の用途に用いることができる。例えば、集合体を積層マトリクス状構造体物質、金属担持体、表面修飾物質、撚糸状構造物、布状構造物、コイル状構造物として用いることや、集合体を補強材、電線、導線、センサ、透明導電体、刃物、モータ、透明電磁波吸収材、建材、振動板、摺動材、人工筋肉、衣服、釣り糸、光吸収材、反射板、不織布、人工誘電体用媒体、インク、塗料、耐熱材、または耐磨耗材として用いることができる。以下、具体的に説明する。
【0100】
(積層マトリクス状構造体物質)
本発明のCNTロープやCNTシートは方向性(異方性)を有している。このため、本発明のCNTロープやCNTシートに樹脂等を含浸または混合させることによって、配向したマトリクスを有するシート状成形品(プリプレグ)を製造することができる。
【0101】
プリプレグは、以下の方法により製造することができる。まず、図13(a)に示すように、CNTロープやCNTシートをフィルム状またはシート状にする。そして、図13(b)に示すように、これに液状の樹脂や、溶媒に溶解した樹脂を含浸させ、硬化あるいは溶媒を蒸発させる。これにより、プリプレグが得られる。また、CNTロープやCNTシートに樹脂を含浸させた場合には、成形品として樹脂シートを得ることができる。
【0102】
プリプレグは、カーボンファイバーやグラスファイバーからなる強化樹脂シートへ応用することができる。例えば、軽量かつ高性能が要求される航空宇宙用途や、自動車材料用途、小型船舶用途、スポーツ用途等に用いることができる。
【0103】
また、図13(c)に示すように、得られたプリプレグを積層させることにより、積層体としての積層マトリクス状構造体物質を得ることができる。プリプレグの積層は、各シートにおけるCNTの配向方向が、任意の角度で適宜変更して行うことができる。この配向方向を適宜変更して積層することにより、高強度の積層体や、異方導電性の積層体、高熱伝導性の積層体等種々の用途に応じた積層体を製造することが可能となる。
【0104】
CNTロープやCNTシートを用いた積層体は、従来のガラスファイバーやカーボンファイバーを用いたプリプレグと比較して、著しく薄くすることが可能である。このため、極薄フィルムの強度、電気伝導、熱伝導等の機能が付与できることで、単に高強度材料用途だけではなく、電子デバイス(例えば、ICやCPU等)の積層基板の一部に応用されることが期待できる。近年の電子デバイスは、高集積化と大容量化とが進んでいるため放熱の課題を抱えているが、上記積層体を用いて高熱伝導性を活かした異方性高熱伝導フィルムとすれば、積層基板の放熱性の改善が期待できる。
【0105】
(金属担持体)
また、集合体に金属を担持させることにより、表面積の大きい金属担持体とすることができる。CNTロープやCNTシートは、非常に多数でかつ極細のCNTが同方向に配向して束状になったものである。このため、比表面積(m2/g)が大きく、多量の金属を担持させることができる。これにより、高性能、高効率、高活性な材料を創製することができる。また、CNTロープのチューブ形状(径や長さ)が均一であるため、担持金属の分散性がよいという利点もある。
【0106】
例えば、CNTロープにPt、Pd、Ni等の金属触媒(微粒子形状)を担持させることにより、高性能・高効率・高活性な触媒材料や、ガスフィルタ等のガス反応材料として利用できる。ガスフィルタとして用いた場合には、圧力損失(ガス抵抗)を小さくすることができる。また、例えば、CNTロープにPt等の微粒子金属を担持させることにより、ダイレクトメタノール型の燃料電池の電極材料として利用できる。この場合、エネルギー密度の高い燃料電池とすることができる。
【0107】
ここで、CNTロープにPtを担持させる方法の一例について説明する。白金酸水溶液(H2PtCl6)にH2O2、NaHSO3を加えてPtコロイドを作成する。作成したPtコロイド中にCNTロープを1本づつ浸漬させた後に、温度300℃、時間5〜7時間加熱してC1を取り除く。これにより、CNTロープのPt担持物が得られる。
【0108】
CNTロープやCNTシートの金属担持体は、ガスフィルタの他にも、分子フィルタ、液体フィルタ、遮音用フィルタ、偏光フィルタ等に利用することもできる。また、ガス吸着剤等の種々の吸着剤にも利用することができる。
【0109】
さらに、CNTロープやCNTシートの金属担持体は、電極としても利用できる。この電極は、燃料電池、二次電池、スーパキャパシタ等に用いることができる。表面積の大きいCNTロープ各1本に金属を担持させることで、金属担持量の制御ができる。また、電極材料を作成するに当たって、CNTロープの間隔を制御することで、電極材料中の金属密度の向上や密度の均一化が可能となる。さらに、CNTロープの組み合わせを変更し、ロープの直径を制御することにより、電極材料の設計制御ができるため、担持させる金属量の削減が可能となる。これは、エネルギー密度の高いキャパシタ設計を可能にする。
【0110】
なお、電極は、例えば、金属を担持したCNTロープをPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)膜上に整列させることにより得ることができる。
【0111】
(表面修飾物質)
また、集合体の表面に修飾を施すことにより、表面修飾を施した糸状物質やシート状物質とすることできる。表面修飾とは、CNTロープやCNTシートの表面に有機官能基を結合させたり、何らかの機能性薄膜を付着(塗布)させることである。これにより、CNTロープやCNTシートに対して、CNTロープやCNTシートのみでは発揮できない何らかの機能を持たせることができる。
【0112】
具体的には、CNTロープやCNTシート間に官能基、フラーレン、CNT等を介し、これらを化学的に結合させることにより、強度、電気伝導、熱伝導等の機能をより高めた糸状物質やシート状物質を製造することが可能になる。
【0113】
官能基としては、例えば、ニトロ基(−NO2)、スルホン基(−SO3H)、カルボキシル基(−COOH)、カルボニル基(>C=O)、エーテル基(C−O−C)、フェノール性水酸基(−OH)等を挙げることができる。これらいずれかの官能基を導入したCNTロープやCNTシートを適宜組み合わせることにより、イオン交換膜等に利用することが可能となる。
【0114】
また、例えば、フラーレンはプラズマ、光、電子線、X線、熱により重合することが知られている。本発明のCNTロープやCNTシートのCNT間にフラーレンを介在させ、上記手法により重合させることで、CNTロープやCNTシートの機能を向上させることができる。
【0115】
また、これら糸状物質やシート状物質を含む(または撚り合わせた)ひも状、あるいはシート状構造体を製造することもできる。特に、化学結合を用いて糸状物質を撚り合わせれば、太くすることができるとともに強度を向上させることができる。
【0116】
(撚糸状構造物・布状構造物・コイル状構造物)
本発明のCNTロープやCNTシートの複数を互いに撚り合せることにより撚糸状構造物を作製することができる。撚糸状構造物は、複数のCNTロープやCNTシートを回転させながら互いに撚り合せることにより作製できる。これにより、高強度かつ軽量の撚糸状構造物となる。また、上述のように、表面修飾されたCNTロープやCNTシートを用いることにより、さらに高強度の撚糸状構造物とすることができる。撚糸状構造物としては、例えば、ひもやロープ等を挙げることができる。
【0117】
また、撚糸状構造物をさらに撚ることにより布状構造物を作製することもできる。また、布状構造物は、本発明のCNTロープやCNTシートに、液状の樹脂や溶媒に溶解した樹脂を浸させ、これを撚ることによっても作製できる。このように、布状構造物は、CNTロープやCNTシートからなるひもやロープ、または、樹脂を含浸したCNTロープやCNTシートを編み上げることにより作製される布状または皮状の構造物のことである。
【0118】
また、CNTロープまたはCNTシートを巻き取ることにより、コイル状構造物を作製することができる。コイル状構造物は、図14に示すように、CNTロープまたはCNTシートを、例えばボビン(登録商標)に巻きつけることにより作製できる。
【0119】
(補強材)
本発明のCNTロープやCNTシートは、例えば、シート状やロープ状の補強材、カーボン、FRP(Fiber Reinforced Plastics)、FRM(Fiber Reinforced Metals)、FRC(Fiber Reinforced Ceramics)、C/C(Carbon/Carbon)コンポジット、光ファイバ、タイヤ等の補強材として利用できる。また、セラミックや金属の補強材および複合材等へも利用できる。
【0120】
(電線・導線)
現在、一般に使用されている電線は、銅の糸状線を撚り、太い銅線としたものを用いて作成されている。今まで、長いCNTや、CNT自身を撚った長いCNTを作成することが困難であったが、本発明のCNTロープを撚ることで、CNTロープの長さと太さを制御することが可能となる。このため、本発明のCNTロープやCNTシートは、電線や導線としても利用することができる。
【0121】
CNTの抵抗は、銅の抵抗よりも低い。このため、CNTロープやCNTシートは、高耐電流用の電線や導線として好ましく用いられる。また、CNTロープやCNTシートは、銅と比べて電流密度(単位面積当たりの電流密度)が高い。なかでも多層構造のCNTは、銅の1000倍以上の最大電流密度を有するので、本発明のCNTロープをLSI中の配線へ応用することもできる。さらに、CNTロープで構成された長い導線を作成することにより、高トルク・高出力小型モータなど、細い導線で大きな電流が必要な場合に有用である。また、CNTロープは従来の金属線よりも軽量であるため、従来のモータにおける銅線をCNTロープに置き換えることにより、軽量化が可能である。
【0122】
CNTを電子デバイスの配線として使用する場合、サイズが小さく取り扱いが困難であるものの、本発明のように、CNTを一方向に束ねた集合体とすれば、配線としての使用が容易になるとともに、例えば、ボビンに巻きつけた状態で供給することも可能になる。
【0123】
また、現在用いられている細線は、一般に10μのL/Sが限界であると考えられている。しかしながら、方向性を持つCNTロープやCNTシートを使用することで、制御範囲が向上しナノオーダーの細線を生成することが可能になる。
【0124】
(センサ)
本発明のCNTロープやCNTシートは、センサとして用いることができる。センサとしては、流量センサ、圧力センサ、ガスセンサ等を挙げることができる。流量センサは、センサ部の熱量を気体が奪うことで流量を検出している。センサ部にCNTロープやCNTシートを使うことにより、流量センサを小型化することが可能となる。これにより、消費電力を低下できるとともに、微小流量を検出する流量センサも作製できる。
【0125】
また、圧力センサとして用いられるピラニー真空計は、金属線に気体分子が入射し、分子が運び去る熱エネルギーによるフィラメントの温度変化を抵抗変化として検出している。金属線の代わりにCNTロープやCNTシートを使用することで、小型軽量化が可能となる。また、消費電力も低下できる。CNTロープやCNTシートを用いれば、フィラメントの直径を小さくすることができるため、計測圧力領域を広げることができる。このため、広帯域の真空計が作製できる。
【0126】
ガスセンサのセンサ部に単層のCNTからなるものを使用するのが理想的であるものの、層数の少ないCNTからなるCNTロープやCNTシートをセンサ部に利用できる。CNTは、その側面がπ電子で覆われているため、極性のガス分子がCNTに吸着すると、π電子を引きつける。これにより、CNTロープやCNTシートの電気抵抗が変化する。この電気抵抗変化は、ガス分子の極性が異なると異なった電抵抗値を示すことから分子種を検出することができる。また、CNTの表面に特定の化学分子を修飾すれば、検出する分子種を選択できる可能性があり、今後、プローブ(検出器)としての利用が期待できる。
【0127】
(透明導電体)
本発明のCNTロープやCNTシートは、従来のCNTに比べて高い配向性と高い分散性を有しているため、透明な材料として用いることができる。例えば、CNTの密度を制御したCNTロープやCNTシートを、構造体内に保持することにより透明導電体を作製することができる。CNTの密度により構造体の透過率を制御できるとともに、導電率も制御可能となる。また、CNTロープやCNTシートの保持方向を変えて積層することによりデバイス作製も可能となる。なお、構造体としては、ゴム状のものや樹脂状のもの等どの様な材料でも使用可能である。
【0128】
(刃物)
本発明のCNTロープやCNTシートは、その高い強度とナノオーダーの鋭さとを利用した刃物として用いることもできる。
【0129】
(小型モータ・小型電磁石)
上記のように、本発明のCNTロープやCNTシートを用いれば導線を作製することができる。この導線を用いてコイルを作製すれば、モータや電磁石を作製することができる。モータや電磁石における磁界の強さ(モータのトルクの強さに関係)は、コイルの巻き数とコイル中の電流とに比例する。このため、銅線を用いて磁界の強い電磁石を作製すると、銅線の太さおよび重さのために電磁石は大きくまた重くなってしまう。これに対して、細く大電流を流すことができ、軽量なCNTロープやCNTシートを用いれば、モータや電磁石を飛躍的に小型化かつ軽量化することができる。
【0130】
(フィルム・透明電磁波吸収材・建材・振動板・摺動材・人工筋肉・衣服)
本発明のCNTロープやCNTシートを薄く加工することによりフィルムを作製することができる。このフィルムは、透明な電磁波吸収材として使用できる。また、本発明のCNTロープやCNTシートは、高い強度を有するとともに、鉄よりも10倍程度比重が小さい。このため、建材として好ましく用いることができる。強度をさらに高めたものとすれば、スペースエレベータ等の材料になる。
【0131】
また、本発明のCNTロープやCNTシートは、振動板として用いることができる。例えば、CNT自身を振動させることによりスピーカ等に利用できる。また、高い配向性と、高束性を有するため、摺動材として、新幹線(登録商標)のパンタグラフ(登録商標)等に使用することもできる。
【0132】
また、CNTの粉末を両面テープに付けて、両面を電極に取り付け、この状態で食塩水中に入れて、電圧を印加すると両面テープが曲がる。この性質を利用して、2本のCNTロープ、その間に例えば樹脂などで絶縁層を設けて接合すれば、ナノオーダーの径を有する人工筋肉として用いることができる。また、上記性質を利用すれば、圧電素子としても利用できる。
【0133】
さらに、CNTロープやCNTシートは、衣服の材料として利用することもできる。材料として衣服に用いた場合には、例えば、電磁波防止や静電気防止用の効果が得られる。
【0134】
(釣り糸・光吸収材・反射板・不織布・人工誘電体用媒体・インク・塗料・耐熱材・耐磨耗材)
本発明のCNTロープやCNTシートは、上記用途の他にも、釣り糸、光吸収材、反射板、不織布、人工誘電体用媒体、インク、塗料、耐熱材、または耐磨耗材に用いることができる。CNTロープやCNTシートは、高い配向性と高い分散性を有しているため、偏光材料として利用できる。このため、上記偏光フィルタの他にも光吸収材等に用いることができる。
【0135】
また、不織布に用いた場合には、従来の布に比べて薄くできる。インクに用いた場合には、導電性を有するインクとすることができる。塗料に用いた場合には、塗料自体が高い強度を有するという効果を得ることができる。
【0136】
なお、上記のように、本発明に係る炭素系微細構造物の集合体は、炭素系微細構造物が複数集合した炭素系微細構造物の集合体であって、上記複数の炭素系微細構造物は、同一方向に配向しているとともに、該配向方向に沿って集合している構成である。
【0137】
上記炭素系微細構造物の集合体においては、上記複数の炭素系微細構造物は、配向方向に対して直角方向にも集合していることが好ましい。炭素系微細構造物を配向方向に対して直角方向にもさらに集合させているため、平面的にも広がりを有する集合体とすることができる。この場合、取り扱い性や加工性はさらに向上する。
【0138】
上記炭素系微細構造物の集合体においては、上記複数の炭素系微細構造物は、ファンデルワールス力により結合していることが好ましい。また、上記複数の炭素系微細構造物は、物理的または化学的に結合していることが好ましい。これにより、炭素系微細構造物を容易に集合させることができるとともに、得られた集合体はさらに高い強度を有する。
【0139】
また、上記炭素系微細構造物は、上記配向方向の長さ1μm当たりに存在する屈曲部が10個以下であることが好ましい。これにより、炭素系微細構造物の結晶性を高くすることができるので、集合体を長くすることができると共に、集合体の強度を高くすることができる。なお、屈曲部とは、炭素系微細構造物の配向方向に対して屈曲している部分である。例えば、不規則な結晶構造(いわゆる欠陥)である部分が屈曲する部分となる。
【0140】
また、上記炭素系微細構造物は、カーボンナノチューブであることが好ましい。さらに、上記炭素系微細構造物の集合体においては、金属を担持していることが好ましく、表面修飾が施されていることが好ましい。これにより、炭素系微細構造物の集合体に種々の機能を付与することが可能となり、様々な用途に用いることができる。
【0141】
例えば、上記炭素系微細構造物の集合体は、補強材、フィルタ、吸着剤、電極、電線、導線、センサ、透明導電体、刃物、モータ、建材、振動板、摺動材、人工筋肉、衣服、釣り糸、光吸収材、反射板、不織布、人工誘電体用媒体、インク、塗料、耐熱材、または耐磨耗材として用いることができる。
【0142】
また、上記炭素系微細構造物の集合体の他の用途としては、炭素系微細構造物の集合体を複数撚ってなる撚糸状構造物や、樹脂を含浸した炭素系微細構造物の集合体を複数撚ってなる布状構造物、炭素系微細構造物の集合体を巻き取ってなるコイル状構造物を挙げることができる。
【0143】
また、上記炭素系微細構造物の集合体のさらに他の用途としては、炭素系微細構造物の集合体を含んでなる樹脂シートを挙げることができる。この樹脂シートを少なくとも1層以上含み積層することで積層体が得られる。この樹脂シートや積層体は、高熱伝導シートとして用いることができる。また、上記集合体の用途として、炭素系微細構造物の集合体からなるフィルムを挙げることができる。このフィルムは、透明電磁波吸収材として用いることができる。
【0144】
また、上記のように、本発明の炭素系微細構造物群は、基板上に、該基板に対して略垂直方向に配向するように複数の炭素系微細構造物が設けられた炭素系微細構造物群であって、上記基板1cm2当たりに存在する炭素系微細構造物が1×1011本以上である構成を有している。
【0145】
さらに、上記炭素系微細構造物は、上記配向方向の長さ1μm当たりに存在する屈曲部が10個以下であることが好ましい。これにより、炭素系微細構造物群を構成する各炭素系微細構造物の結晶性を高くすることができる。
【0146】
なお、上記炭素系微細構造物の集合体を製造するために、本発明に係る炭素系微細構造物の集合体の製造方法は、基板上に、基板に対して垂直方向に配向した複数の炭素系微細構造物を形成する形成工程と、上記炭素系微細構造物の少なくとも1つを引っ張る引張工程とを有する構成である。
【0147】
また、上記の製造方法においては、上記引張工程の前に、基板を劈開する劈開工程を有することが好ましい。これにより、容易に集合体を製造することが可能となる。また、上記形成工程は、基板に対して、炭素系微細構造物を形成するための原料気体と、該原料気体を搬送するための搬送気体とを供給することによって行われ、全気体の濃度に対する原料気体の濃度の割合が23%以上であることが好ましい。これにより、基板上に形成する炭素系微細構造物の密度を高くすることができる。その結果、高束性をより高めることができるとともに、高強度の集合体とすることができる。
【0148】
さらに、上記の製造方法においては、上記複数の炭素系微細構造物を物理的または化学的に結合させる結合工程を有することが好ましい。これにより、複数の炭素系微細構造物が強固に結合するため、集合体の強度をより一層高めることができる。
【0149】
尚、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様または実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と次に記載する特許請求の範囲内で、いろいろと変更して実施することができるものである。すなわち、特許請求の範囲内で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0150】
以上のように、本発明に係る炭素系微細構造物の集合体は、高強度、高電流密度等種々の特性を有しているとともに、目に見えるため取り扱い性や加工性が高いものである。それゆえ、本発明に係る炭素系微細構造物の集合体は、小型化、軽量化された電子機器やその配線、あるいは各種材料等として特に好適に用いることができる。従って、本発明は、単に、炭素系微細構造物の集合体を製造する産業分野のみならず、化学産業、素材加工産業、樹脂産業、電子・電気機器やその部品を製造する産業分野等の各種産業分野において好適に用いることができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素系微細構造物群、炭素系微細構造物の集合体、その利用およびその製造方法に関するものである。より詳しくは、例えば、カーボンナノチューブ等の炭素系微細構造物が群をなす炭素系微細構造物群と、炭素系微細構造物がファンデルワールス力等による強い相互作用で互いに結合した集合体と、それを用いた種々の用途と、製造する方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素系微細構造物の1つであるカーボンナノチューブ(以下、CNTと称する)は、直径が約0.5nmから10nm程度、長さが約1μm程度のパイプ状のカーボン素材であり、1991年にNECの飯島氏によって発見された新しい炭素材料である。また、CNTには、1層構造のシングルウォールナノチューブ、多層構造のマルチウォールチューブの存在が確認されている。
【0003】
しかしながら、CNTは微細な構造を有するため、その取り扱い性や加工性が悪い。このため、肉眼で確認しながら取り扱うことが可能な大きさのCNTを製造することが試みられている(例えば、非特許文献1・2参照)。
【0004】
非特許文献1および2には、長さが従来の1μm程度よりも長いCNTが報告されている。非特許文献1で得られたCNTの長さは、10cm〜20cm程度であり、非特許文献2で得られたCNTの長さは、25cm〜30cm程度となっている。このため、いずれのCNTも肉眼で確認できている。
【0005】
また、CNTは、組成の違いにより、金属の性質を示すものや、半導体の性質を示すもの等が存在するため、応用製品の開発や製造方法の開発などが盛んに行われている。また、その水素吸蔵素材としての性能も注目されており、燃料電池への応用も検討されている。
【0006】
CNTを素材として利用した例として、CNTを用いた織布やシートが開示されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、CNTを繊維あるいは糸の一部またはそのものとして、その一部あるいは全部に用いた織布やシートが記載されている。
【0007】
【特許文献1】特開平7−138838号公報(平成7年(1995)5月30日公開)
【非特許文献1】H.W.Zhu、外5名、「Direct Synthesis of Long Single−Walled Carbon Nanotube Strands」、Science、2002年5月3日、Vol 296、p.884−886
【非特許文献2】Kaili Jiang、外2名、「Spinning continuous carbon nanotube yarns」、Nature、2002年10月24日、Vol 419、p.801
【0008】
しかしながら、上記非特許文献1に記載のCNTは、10cm〜20cm程度の長さを有するものの、連続的な形成が困難である。
【0009】
また、上記非特許文献2に記載のCNTは、いわゆるブラシ状に形成したCNTを用いて製造している。具体的には、まず、基板上に、基板に対して垂直方向に配向するCNTを複数形成させる。そして、これら複数のCNTからなる束を基板から剥離させ、引っ張ることによって製造している。
【0010】
このように、長いCNTの集合体は、ブラシ状のCNTを引っ張ることによって隣接するCNTが絡み合った状態となっている。従って、ブラシ状のCNTは、基板上に形成するCNTの長さがある程度長いものであるとともに、CNTが高密度で形成されている必要がある。
【0011】
ところが、従来のブラシ状CNTを製造する方法では、基板上にCNTを成長させる速度が遅く、長いCNTを配向させたブラシ状CNTを得ることができていない。また、CNTの成長速度が遅いため、生産性という観点からも不利である。
【0012】
さらに、従来の方法では、高密度にCNTを形成させることができない。このため、隣接するCNTが互いに絡み合うことができる程度の相互作用を有するブラシ状CNTを得ることはできていない。その結果、ロープ状CNTを得ることは困難である。
【0013】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、複数の炭素系微細構造物が群をなす炭素系微細構造物群と、複数の炭素系微細構造物が強い相互作用にて互いに引き合った状態の炭素系微細構造物の集合体であって、その取り扱い性や加工性を向上させることができる程度の長さを有する炭素系微細構造物の集合体と、それを用いた種々の用途と、製造する方法とを提供することにある。
【発明の開示】
【0014】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、高密度かつ長いCNTが林立したブラシ状CNTを形成することにより、強い相互作用にて互いに引き合うCNTが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち、本発明に係る炭素系微細構造物の集合体は、炭素系微細構造物が複数集合した炭素系微細構造物の集合体であって、上記複数の炭素系微細構造物は、同一方向に配向しているとともに、該配向方向に沿って集合していることを特徴としている。
【0016】
上記の構成によれば、炭素系微細構造物の集合体は、炭素系微細構造物が複数集合したものであるため、高い強度を有している。また、炭素系微細構造物が同一方向に配向しているため、その集合体は高配向性を有することとなる。ここで、「同一方向に配向する」とは、全ての炭素系微細構造物が、各長手方向が同一の方向となるように集合していることを意味している。なお、炭素系微細構造物は、必ずしも直線的な構造を有しているのではなく、多少湾曲した状態となっていることが多いが、長手方向とはその両端部を結んだ方向であればよく、炭素系微細構造物の実質的な方向を意味する。
【0017】
さらに、炭素系微細構造物が配向方向に沿って集合しているため、その長さを長くすることが可能となる。これにより、目に見える程度の大きさの集合体とすることができ、その取り扱い性や加工性が向上する。
【0018】
本発明に係る炭素系微細構造物の集合体は、以上のように、複数の炭素系微細構造物が同一方向に配向しているとともに、該配向方向に沿って集合している構成である。それゆえ、高配向性かつ高強度の集合体とすることができるという効果を奏する。
【0019】
また、本発明に係る炭素系微細構造物群は、基板上に、該基板に対して略垂直方向に配向するように複数の炭素系微細構造物が設けられた炭素系微細構造物群であって、上記基板1cm2当たりに存在する炭素系微細構造物が1×1011本以上であることを特徴としている。
【0020】
炭素系微細構造物群は、基板上に設けられた複数の炭素系微細構造物が群をなしているものであり、これら複数の炭素系微細構造物は、基板に対して略垂直方向に配向している。このため、各炭素系微細構造物が密集して群をなすことが可能になる。
【0021】
上記炭素系微細構造物群では、基板1cm2当たりに存在する炭素系微細構造物が1×1011本以上である。すなわち、炭素系微細構造物が非常に高密度に設けられた炭素系微細構造物群とすることができる。なお、略垂直方向とは、ほぼ垂直方向のことであり、完全な垂直方向の他に、単に基板から離れていく方向をも含む。
【0022】
また、上記炭素系微細構造物の集合体を製造するために、本発明に係る炭素系微細構造物の集合体の製造方法は、基板上に、基板に対して垂直方向に配向した複数の炭素系微細構造物を形成する形成工程と、上記炭素系微細構造物の少なくとも1つを引っ張る引張工程とを有することを特徴としている。
【0023】
上記の構成によれば、基板に対して垂直方向に配向した複数の炭素系微細構造物を形成し、その少なくとも1つを引っ張る構成である。すなわち、同一方向に配向した炭素系微細構造物を引っ張っているため、一方向に配向させることができる。また、引っ張る際に、隣接する炭素系微細構造物が束状になって集合している。従って、高配向性かつ高束性の集合体とすることができる。その結果、高い強度を有するとともに、長さの長い集合体を得ることができる。
【0024】
本発明に係る炭素系微細構造物の集合体の製造方法は、以上のように、複数の炭素系微細構造物を形成し、その少なくとも1つを引っ張る構成である。それゆえ、高配向性、高束性かつ高強度を有するとともに、長さの長い集合体を製造することができるという効果を奏する。
【0025】
本発明のさらに他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分わかるであろう。また、本発明の利益は、添付図面を参照した次の説明で明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1(a)】本発明の実施の一形態を示すものであり、CNTロープを示す写真(画像)である。
【図1(b)】本発明の実施の一形態を示すものであり、CNTロープを示す写真(画像)である。
【図2】本発明の実施の一形態を示すものであり、ブラシ状CNTを作製する装置の概略構成を示す断面図である。
【図3】本発明の実施の一形態を示すものであり、ブラシ状CNTを作製する工程を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施の一形態を示すものであり、キャリアガスと原料ガスとの流量の関係を示す図である。
【図5】本発明の実施の一形態を示すものであり、原料ガス濃度と成長速度との相関を示すグラフである。
【図6(a)】本発明の実施の一形態を示すものであり、ブラシ状CNTの走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す写真(画像)である。
【図6(b)】本発明の実施の一形態を示すものであり、ブラシ状CNTの走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す写真(画像)である。
【図7(a)】本発明の実施の一形態を示すものであり、CNTロープを示す写真(画像)である。
【図7(b)】本発明の実施の一形態を示すものであり、CNTロープを示す写真(画像)である。
【図8】本発明の実施の一形態を示すものであり、(a)〜(d)はCNTロープの走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す写真(画像)である。
【図9】本発明の実施の一形態を示すものであり、CNTシートを示す写真(画像)である。
【図10(a)】本発明の実施の一形態を示すものであり、ブラシ状CNTの走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す写真(画像)である。
【図10(b)】本発明の実施の一形態を示すものであり、ブラシ状CNTの走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す写真(画像)である。
【図10(c)】本発明の実施の一形態を示すものであり、CNTロープの走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す写真(画像)である。
【図10(d)】本発明の実施の一形態を示すものであり、CNTロープの走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す写真(画像)である。
【図11(a)】本発明の実施の一形態を示すものであり、CNTロープを持ち上げている写真(画像)である。
【図11(b)】本発明の実施の一形態を示すものであり、CNTロープを持ち上げている写真(画像)である。
【図12】本発明の実施の一形態を示すものであり、電気的特性を測定するための試料を示す写真(画像)である。
【図13(a)】本発明の実施の一形態を示すものであり、プリプレグおよび積層体を作製する工程を示す図である。
【図13(b)】本発明の実施の一形態を示すものであり、プリプレグおよび積層体を作製する工程を示す図である。
【図13(c)】本発明の実施の一形態を示すものであり、プリプレグおよび積層体を作製する工程を示す図である。
【図14】本発明の実施の一形態を示すものであり、CNTロープを巻きつけたコイル状構造物を示す写真(画像)である。
【図15(a)】本発明の実施の一形態を示すものであり、ブラシ状CNTの走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す写真(画像)である。
【図15(b)】従来のブラシ状CNTの走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す写真(画像)である。
【図16(a)】本発明の実施の一形態を示すものであり、ブラシ状CNTの透過型電子顕微鏡(TEM)像を示す写真(画像)である。
【図16(b)】本発明の実施の一形態を示すものであり、ブラシ状CNTの透過型電子顕微鏡(TEM)像を示す写真(画像)である。
【図17(a)】本発明の実施の一形態を示すものであり、CNTロープの強度を測定している状態を示す写真(画像)である。
【図17(b)】本発明の実施の一形態を示すものであり、CNTロープの強度を測定している状態を示す写真(画像)である。
【図17(c)】従来のCNTロープの強度を測定している状態を示す写真(画像)である。
【図17(d)】従来のCNTロープの強度を測定している状態を示す写真(画像)である。
【図18】本発明の実施の一形態を示すものであり、ブラシ状CNTのCNT密度とCNTロープの長さとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の実施の一形態について説明すると以下の通りである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【0028】
本発明は、炭素系微細構造物が複数集合した炭素系微細構造物の集合体(以下、単に「集合体」と称する)であり、この複数の炭素系微細構造物が同一方向に配向しているとともに、配向方向に沿って集合しているものである。また、本発明の集合体は、炭素系微細構造物が、配向方向に対して直角方向にも集合しているものも含む。これら集合体は、基板上に、この基板に対して略垂直方向に配向するように複数の炭素系微細構造物を形成し、炭素系微細構造物の少なくとも1つを引っ張ることにより製造される。以下、具体的に説明する。
【0029】
〔炭素系微細構造物〕
炭素系微細構造物とは、炭素原子から構成されるナノサイズの物質であり、炭素原子同士の結合により生じた網目構造を基本骨格とするナノスケール構造物である。より詳しくは、炭素系微細構造物は、グラファイト型結合からなる骨格が3次元構造を有しているものである。3次元構造とは、好ましくは筒状である。
【0030】
炭素系微細構造物は、具体的には、例えば、カーボンナノチューブ(以下、単に「CNT」と称する)である。また、CNTにビーズが形成されたビーズ付きCNT、CNTが捩れを有したカーボンナノツイスト、コイル状のカーボンナノコイル、球殻状のフラーレン等も炭素系微細構造物に含まれる。なお、上記炭素系微細構造物であるCNTが多数林立した、いわゆるブラシ状CNTを炭素系微細構造物群と称する場合もある。
【0031】
本発明の集合体は、後述するようにブラシ状CNTを用いて製造される。このため、以下では、炭素系微細構造物としてCNTを、炭素系微細構造物群としてブラシ状CNTを例に挙げて説明する。
【0032】
〔炭素系微細構造物群〕
ブラシ状CNTは、基板上に、基板に対して略垂直方向に配向した複数のCNTを林立させたものである。基板としては、Siウエハ上に、触媒としてFe薄膜を形成したものを用いることができる。また、略垂直方向とは、ほぼ垂直方向であること意味し、完全に垂直方向であることが好ましいが、基板面から離れていく方向をも含む。
【0033】
本発明のブラシ状CNTとしては、基板上に形成されたCNTの長さ(基板からの高さ)がある程度の長さ(高さ)を有しており、かつ、複数のCNTが高密度に形成されたものが好ましく用いられる。基板上に形成されたCNTがある程度の長さを有することにより、集合体を作製する際により長い集合体を得ることができる。具体的には、ブラシ状CNTとして形成されたCNTの長さは、数μm以上であることが好ましい。
【0034】
また、複数のCNTを高密度に形成することにより、隣接するCNT間でファンデルワールス力等の強い相互作用が生じるため、集合体の作製が容易となる。このようなブラシ状CNTとしては、例えば、基板の1μm四方に10本以上のCNTが形成されているものであることが好ましい。すなわち、CNTの密度が10本/1μm2以上(1×109本/cm2以上)であることが好ましい。
【0035】
また、上述のように、本発明の集合体はブラシ状CNTを用いて形成される。詳細は後述するものの、ブラシ状CNTにおけるCNTの密度がより高いほど長い集合体を形成することができる。従って、ブラシ状CNTにおけるCNTの密度は1×1010本/cm2以上であることがより好ましく、1×1011本/cm2以上であることが特に好ましい。
【0036】
また、ブラシ状CNTにおけるCNTは、より高い結晶性を有するCNTであることが好ましい。結晶性が高いほどCNTは直線的になり、CNTが直線的であるほど集合体の作成が容易になる。すなわち、理想的なCNTは直線状のCNTであり、CNTの結晶構造に欠陥があると屈曲したCNTとなるため好ましくない。
【0037】
ここで、欠陥とは、CNTを構成する規則的な結晶配列において、不規則な結晶配列が存在する場合におけるその不規則な結晶配列部分を指す。CNTは、炭素原子の六員環が連なった(六角板状結晶の)グラフェンシートからなっており、六員環以外の例えば五員環や七員環が存在場合にはこの部分が欠陥部分となる。
【0038】
CNTは、六員環が規則的に連なっている場合には直線的になる。一方で、CNTは、一部分に五員環や七員環が含まれている場合、その部分(欠陥部分)では結晶性が低下して屈曲することとなる。このため、CNTの直線性を高めるためには欠陥部分の少ないCNTとすることが好ましい。なお、欠陥部分の少ないCNTとは、例えば、長さ1μmの部分に存在する欠陥部分が10個以下のCNTである。
【0039】
また、CNTの結晶中にアモルファス炭素が含まれていたり、またはCNTの周囲にアモルファス炭素の層が形成されている場合にもCNTの結晶性は悪くなる。従って、アモルファス炭素の少ないCNTであるほど結晶性は高くなる。
【0040】
ここで、図15(a)は、本発明のCNTのSEM像を示す写真であり、図15(b)は、従来のCNTのSEM像を示す写真である。図15(a)および図15(b)に示すように、本発明のCNTでは、CNTの周囲に存在するアモルファス炭素が非常に少なく、従来のCNTでは、CNTの周囲に存在するアモルファス炭素が非常に多くなっている。このため、従来のCNTでは、グラフェンシートが不規則に湾曲した直線性の低いCNTとなっているのに対して、本発明のCNTでは、グラフェンシートがきれいな層状構造となっており、非常に直線性の高いCNTとなっている。
【0041】
なお、CNTの周囲に形成されたアモルファス炭素層の厚さは、CNTの直径に対して10%以下であることが好ましい。この場合、より直線性の高いCNTとすることができる。
【0042】
このように結晶性の高いCNTは直線性の高いCNTとなる。CNTの直線性が高くなるとCNT間の相互作用が強くなる。このため、このような結晶性の高いCNTを含むブラシ状CNTを用いることにより、強度の高い集合体を容易に作成することが可能になる。なお、結晶性の高い直線的なCNTは、後述する本発明に係る製造方法を用いることによって製造することができる。
【0043】
また、上記CNTは、グラフェンシートの層数が2層以上20層以下であることが好ましい。グラフェンシートの層数が多くなると、後に生成する集合体の強度を高くすることができる。一方、グラフェンシートの層数が20層を超えると、逆に集合体に柔軟性がなくなり、一定の力が負荷されたときに折れてしまう可能性がある。
【0044】
〔炭素系微細構造物群の製造方法〕
本発明のブラシ状CNTは、触媒化学気相成長法(CCVD法;Catalyst Chemical Vapor Deposition)により作製することができる。CCVD法は、反応室内に触媒体を配置し、反応室内にキャリアガスおよび原料ガスを供給して、この触媒体の表面にCNTを成長させる方法である。以下、CCVD法によりCNTを成長させ、ブラシ状CNTを作製する方法について説明する。
【0045】
図2は、ブラシ状CNTを作製する装置1の概略構成を示す図である。図2に示すように、反応室2内には触媒体3が配置されている。触媒体3は触媒を表面に形成した基体であり、その基体の形状は基板、多層基板、筒体、多面体、ペレット、粉体など種々の形態がある。また、使用される触媒としては、例えば鉄、コバルト、ニッケル、鉄合金、コバルト合金、ニッケル合金、鉄酸化物、コバルト酸化物、ニッケル酸化物、またはこれらの組み合わせなど各種の公知の触媒を使用することができる。
【0046】
そして、反応室2内にキャリアガスおよび原料ガスを供給する。図3は、キャリアガスおよび原料ガスを反応室2へ供給する工程を示す図である。キャリアガスは、第1容器4および第2容器5に格納されている。第1容器4内のキャリアガスは、マスフローコントローラからなる第1流量制御器6により基本流量に調節され反応室2に供給される。また、第2容器5内のキャリアガスは、マスフローコントローラからなる第2流量制御器7により所定流量に調節され、電磁式三方バルブ8を介して反応室2に供給される。
【0047】
キャリアガスとしては、He、Ne、Ar、N2、H2などのガスを使用することができる。キャリアガスは原料ガスを搬送するガスであり、原料ガスが反応により消耗されるのに対して、キャリアガスは全く無反応で消耗しないガスである。
【0048】
原料ガスは、第3容器9に格納されている。第3容器9内の原料ガスは、マスフローコントローラからなる第3流量制御器10により所定流量に調節され、電磁式三方バルブ11を介して反応室に供給される。
【0049】
原料ガスとしては、炭化水素、硫黄含有有機ガス、リン含有有機ガスなどの有機ガスを使用することができる。原料ガスは、生成するCNTの構造に合わせて適宜選択すればよい。これら有機ガスの中でも余分な物質を生成しない利点から炭化水素が好適に用いられる。
【0050】
上記炭化水素としては、メタン、エタンなどのアルカン化合物、エチレン、ブタジエンなどのアルケン化合物、アセチレンなどのアルキン化合物、ベンゼン、トルエン、スチレンなどのアリール炭化水素化合物、インデン、ナフタリン、フェナントレンなどの縮合環を有する芳香族炭化水素、シクロプロパン、シクロヘキサンなどのシクロパラフィン化合物、シクロペンテンなどのシクロオレフィン化合物、ステロイドなどの縮合環を有する脂環式炭化水素化合物などを使用することができる。また、以上の炭化水素化合物を2種以上混合した混合炭化水素ガスを使用することも可能である。上記炭化水素化合物の中でも、特に、アセチレン、アリレン、エチレン、ベンゼン、トルエンが好適に用いられる。
【0051】
上記電磁式三方バルブ8・11は、自動バルブ制御器の作用により遮断状態と供給状態との2方向に制御される。すなわち、キャリアガスや原料ガスは、遮断状態では補助排気管を介して排気され、供給状態では反応室に供給されるようになっている。電磁式三方バルブ8が供給状態である場合には、電磁式三方バルブ11が遮断状態となっている。一方、電磁式三方バルブ8が遮断状態である場合には、電磁式三方バルブ11が供給状態となっている。
【0052】
また、これら電磁式三方バルブ8・11は、0.1s以下の応答時間を有している。さらに、第1容器から反応室2に供給されるキャリアガスの流量は、常に基本流量となるように制御されていると共に、第2容器5から反応室2に供給されるキャリアガスの流量および第3容器9から反応室2に供給される原料ガスの流量は、常に同じ流量となるように制御されている。従って、遮断状態と供給状態の切換えは瞬時に行われ、常に一定流量のガスが反応室2へ供給されることとなる。
【0053】
例えば、第1容器4から供給されるキャリアガスの基本流量をX(cm3/s(normal))とし、第2容器5から供給されるキャリアガスの流量、および第3容器9から供給される原料ガスの流量をY(cm3/s(normal))とする。
【0054】
図4に示すように、反応室2には、第1容器4から供給されたキャリアガスが常にX(cm3/s(normal))供給されている。また、ブラシ状CNTを製造しない間は、電磁式三方バルブ8が供給状態になっており、電磁式三方バルブ11が遮断状態になっている。従って、第2容器5から流量Y(cm3/s(normal))でキャリアガスが供給されている。この場合、反応室2内には、流量X+Y(cm3/s(normal))のガスが供給されていることとなる。
【0055】
一方、ブラシ状CNTを製造する間は、電磁式三方バルブ8が遮断状態になっており、電磁式三方バルブ11が供給状態になっている。従って、第3容器9から流量Y(cm3/s(normal))で原料ガスが供給されている。この場合においても、反応室2内には、流量X+Y(cm3/s(normal))のガスが供給されていることなる。すなわち、反応室2には常に一定流量のガスが供給されている。
【0056】
なお、反応室2は、CNTを最も成長しやすい温度領域に加熱されており、原料ガスは触媒体3の近傍で熱分解する。そして、分解物が触媒体3の表面からCNTとして成長する。
【0057】
次に、上記装置1を用いてブラシ状CNTを作製する方法について具体的に説明する。触媒体(基板)3として、表面に4nmの鉄触媒膜が形成されたSi基板用いる。キャリアガスとしてHeガスを用い、原料ガスとしてC2H2ガスを用いる。第1容器4のHeガスの基本流量を0.93cm3/s(normal)とし、第2容器5のHeガスおよび第3容器9のC2H2ガスの所定流量を3.11cm3/s(normal)とする。
【0058】
まず、上記基板3を反応室2の中央へ配置する。そして、反応室2を700℃まで加熱する。この際、電磁式三方バルブ8が供給状態となっており、反応室2内には4.04cm3/s(normal)のHeガスが供給されている。その後、電磁式三方バルブ8を遮断状態にし、同時に電磁式三方バルブ11を供給状態とする。これにより、反応室2内には3.11cm3/s(normal)のC2H2ガスと0.93cm3/s(normal)のHeガスとが供給される。すなわち、この場合のC2H2ガスの濃度は76.9%である。また、C2H2ガスの供給時間は0.8秒とする。C2H2ガス供給後、ガスが反応室2を通過する5分後に降温する。これにより、C2H2中の炭素原子が基板3上で成長し、ブラシ状CNTが作製される。
【0059】
ここで、ブラシ状CNTを作製する際におけるCNTの成長速度と原料ガスの濃度との関係について図5に基づいて説明する。図5に示すように、原料ガスの濃度を上昇させるほどCNTの成長速度は増加する。これは、原料ガスが基板へ到達した際の、原料ガスの濃度変化がより急峻になっているためであると考えられる。CNTの成長速度が速いことにより、作製時間を短縮できるとともに、長いCNTを形成することができる。
【0060】
一方、CNTの密度は、原料ガスの濃度を23%から76.9%まで上昇させると、2×1010本/cm2〜7×1011本/cm2まで変化する。従って、原料ガスの濃度が高いほど高密度のCNTを形成できることがわかる。
【0061】
これらのことから、ブラシ状CNTを作製する際の原料ガスの濃度は、数十%以上であることが好ましい。具体的には、23%以上望ましくは70%以上であることが好ましい。この場合、CNTを長く成長させることができると共に高密度に形成することができる。
【0062】
また、原料ガスの供給時間を長くした場合には、CNTの成長時間を長くすることができる。このため、原料ガスの供給時間を制御することによって、より長いCNTを形成することが可能となる。ただし、この場合、CNTの径も太くなる。従って、原料ガスの供給時間は、原料ガスの濃度や、CNTの長さおよび太さを考慮して適宜設定すればよいが、0.001秒〜60秒の範囲内であることが好ましい。
【0063】
作製したブラシ状CNTの走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す写真(画像)を図6(a)および図6(b)に示す。図6(b)は、図6(a)を拡大した像である。図6(a)および図6(b)に示すように、ブラシ状CNTの各CNTは、極めて直線性が高く、長さが170μm程度にまで成長していることがわかる。また、CNTの密度は、少なくとも1×1010本/cm2以上であると見積もられる。
【0064】
本実施の形態において、上記CNTの密度の測定は、SEM像およびTEM像を観察することによって、以下のようにして行われる。
【0065】
まず、図6(a)または図6(b)に示すような、ブラシ状CNTのSEM像の中から同一コントラスト部分のCNTに着目する。ここで、同一コントラスト部分とは、SEM像中に示されるCNTの濃さがほぼ一定の部分を指す。この部分は、CNTの密度がほぼ一定であると推測される部分である。
【0066】
そして、上記同一コントラスト部分のCNTの幅を測定する。これにより、同一コントラスト部分のCNTの直径を見積もることができる。さらに、この部分に存在するCNTの本数を測定する。これにより、同一コントラスト部分におけるCNTの密度を見積もることができる。なお、SEM像で観察されるCNTは、複数のCNTがバンドルした(束になった)状態のものである(バンドル状CNT)。このため、SEM像で見積もられた密度は、単位面積当たりに存在するバンドル状CNTの本数を示している。
【0067】
次に、上記直径および密度を見積もった部分のCNTをTEM像にて観察する。図16(a)および図16(b)は、上記CNTのTEM像を示す写真である。このTEM像では、上記SEM像で観察されたバンドル状CNTにおける、バンドルしている各CNTを観察することができる。このため、TEM像を観察することにより、上記SEM像にて1本として観察されたバンドル状CNTに、何本のCNTが含まれているかを測定する。
【0068】
上記SEM像の観察において、同一コントラスト部分のCNTの直径と、この部分に存在するバンドル状CNTの本数とが測定されているため、TEM像の観察にてバンドル状CNTに含まれるCNTの本数を測定することにより、単位面積当たりに存在するCNTの本数を測定することができる。すなわち、CNTの密度を測定することができる。
【0069】
また、本発明に係る製造方法を用いることにより、上述した高い結晶性を有するCNTを作成することが可能となると共に、高い結晶性のCNTからなるブラシ状CNTを作成することができる。
【0070】
〔炭素系微細構造物の集合体〕
次に、本発明に係る炭素系微細構造物の集合体について説明する。本発明の集合体は、複数のCNTが同一方向に配向しているとともに、該配向方向に沿って集合したものである。ここで、「同一方向に配向する」とは、全ての炭素系微細構造物が、各長手方向が同一の方向となるように集合していることを意味している。なお、炭素系微細構造物は、必ずしも直線的な構造を有しているのではなく、多少湾曲した状態となっていることが多いが、長手方向とはその両端部を結んだ方向であればよく、炭素系微細構造物の実質的な方向を意味する。
【0071】
また、本発明の集合体は、複数のCNTが互いに絡み合って束状になっている。従って、本発明の集合体は、同一方向に配向した複数のCNTが束状になって長手方向に伸びた構成を有している。以下では、説明の便宜上、この構成を有する集合体を「CNTロープ」と称する。
【0072】
さらに、本発明の集合体は、上記配向方向に対して直角方向にも集合した集合体も含む。配向方向に対して直角方向とは、いわゆるCNTロープの長手方向に対して直角方向(短手方向)である。従って、この場合、長手方向に配向したCNTロープがさらに短手方向に集合した構成を有しており、平面的な広がりを有する集合体となる。この構成は、CNTロープがさらに辺方向にも集合した構成とも表現できる。以下では、説明の便宜上、この構成を有する集合体を「CNTシート」と称する。
【0073】
図1(a)・図1(b)および図7(a)・図7(b)に本発明のCNTロープを示す。図1(a)・図1(b)は約20cm程度の長さのCNTロープであり、図7(a)・図7(b)は約30cm程度の長さのCNTロープである。これらの図に示すように、本発明のCNTロープは、肉眼でも十分確認できる糸状の物質である。
【0074】
このCNTロープの詳細な構成について説明する。図8は、図1(a)・図1(b)に示すCNTロープのSEM像である。図8の(b)および(c)は、図8の(a)に示すCNTロープの一部分を拡大したSEM像であり、図8の(d)は、図8の(c)に示すCNTロープの一部分を拡大したSEM像である。
【0075】
図8に示すように、CNTロープは、複数のCNTが束になっている。すなわち、個々のCNTがバンドルする(束になる)ことによって構成されている。このCNTロープの平均直径は約50μm程度である。また、CNTロープを構成する1本の繊維状の構造物の直径は約50nmである。これに対して、これまで透過型電子顕微鏡(TEM)で観察されたブラシ状CNTにおける各CNTの直径は、10nm〜20nm程度である。従って、CNTロープは、個々のCNTがバンドルすることによって形成されていることがわかる。
【0076】
また、ブラシ状CNTにおける個々のCNTの平均長さは、数十μm程度であるのに対して、本発明のCNTロープは20cmまたは30cmの長さとすることができ、ブラシ状CNTにおけるCNTの密度を制御することにより50cm以上の長さのCNTロープとすることもできる。これは、個々のCNTが同一方向に配向しながら長手方向に連続的にバンドルしているからである。すなわち、本発明のCNTロープは、個々のCNTがバンドルしているとともに、同一方向に配向した構成を有している。
【0077】
バンドルしているCNTは、互いにファンデルワールス力により結合している部分もある。これにより、CNTは強い相互作用によって結合する。このため、CNTロープは高い強度を有することとなる。さらにバンドルしているCNTを物理的または化学的に結合させれば、より一層高い強度を有するCNTロープとすることができる。
【0078】
また、CNTシートは、上記CNTロープが平面的に集合したものであり、いわゆるCNTロープがシート状になったものである。従って、CNTシートは、個々のCNTのバンドルによって構成されている。ただし、CNTシートは、個々のCNTが同一方向に配向しながら長手方向に連続的にバンドルすることに加えて、短手方向にもバンドルしている。図9にCNTシートを示す。図9に示すCNTシートは、幅が4mmとなっており、シート状に形成されていることがわかる。
【0079】
本発明のCNTロープは、結晶性の高いCNTを含むブラシ状CNTを用いて作製されるため、結晶性の高いCNTロープとなる。すなわち、直線性の高いCNTロープとすることができる。さらに、上記ブラシ状CNTは、CNTが高密度に形成されているため、長いCNTロープを作製することができると共に、強度の高いCNTロープを作製することが可能になる。
【0080】
ここで、本発明のCNTロープの強度について説明する。図17(a)および図17(b)は、本発明のCNTロープの強度を測定している状態を示す写真(画像)であり、図17(c)および図17(d)は、従来のCNTロープの強度を測定している状態を示す写真(画像)である。なお、図17(a)・図17(b)および図17(c)・図17(d)ともに、CNTロープの強度(機械的特性)を共振法で測定した状態を示している。
【0081】
図17(a)は静止した状態の本発明のCNTロープを示し、図17(b)はこのCNTロープを共振させた状態を示している。一方、図17(c)は静止した状態の従来のCNTロープを示し、図17(d)はこのCNTロープを共振させた状態を示している。図17(b)および図17(d)に示すように、本発明のCNTロープは、従来のCNTロープと比較して共振する幅が小さく強度が高いことがわかる。また、共振法を用いた場合のヤング率は以下の式(1)で表される。
【0082】
Y=(64π2ρ/1.8754)×(f02L4/d02)……(1)
ただし、f0:共振周波数、ρ:密度、L:長さ、d0:外直径(ただし、>>内直径の二乗値)である。
【0083】
上記式(1)を用いてヤング率を算出すると、従来のCNTロープでは、Y=0.1(TPa)であるのに対して、本発明のCNTロープでは、Y=0.8(TPa)である。すなわち、従来のCNTロープ(欠陥が多く、屈曲の大きいCNTロープ)は、ヤング率が小さく強度が小さいことが機械的特性の検査からもわかる。
【0084】
〔炭素系微細構造物の集合体の製造方法〕
次に、本発明のCNTロープの製造方法について説明する。CNTロープは、ブラシ状CNTから作製することができる。
【0085】
ブラシ状CNTは、上述のようにして基板上に作製される。CNTロープを製造する際には、まずこの基板を劈開する。これにより、劈開された部分の基板に形成されたCNTが露出する。そして、この露出したCNTの少なくとも1本をピンセット等で摘み、引っ張る。これにより、隣接するCNTが連続的に絡み合いながら引き出される。引っ張る方向は、CNTを基板から引き抜く方向であればよい。
【0086】
隣接する1本または数本のCNTはファンデルワールス力により結合している。このうちの少なくとも1本を引っ張ることにより、隣接するCNTがバンドルしながら引っ張られ、これが連続的に起こる。そして、引っ張り続けることにより、複数のCNTが束になったCNTロープとなる。
【0087】
このように、同一方向に成長したブラシ状CNTを引っ張り、連続的にCNTを引き抜くだけで、各CNTが同一方向に配向したCNTロープを得ることができる。このため、CNTの配向制御が容易である。
【0088】
CNTロープの製造に伴って、ブラシ状CNTは、セーターの毛糸を解くように基板の端から順に剥がれていく。図10(a)に、CNTロープを製造した後のブラシ状CNTのSEM像を示す。図10(a)に示すように、CNTが解けて下面のSi基板が剥き出しになっている。
【0089】
また、基板表面に近いブラシ状CNTは、図10(b)に示すように、CNTが基板に対して水平方向に配向し、シート状になっている。CNTロープを製造する際には、これらがバンドルして1本のロープ状になる。この場合のCNTロープのSEM像を図10(c)・図10(d)に示す。
【0090】
なお、CNTシートを製造する場合には、ブラシ状CNTからCNTを引っ張る際に、引っ張るCNTの本数を多くすればよい。上述したように、ブラシ状CNTの基板表面に近い部分では、CNTがシート状になっている。このシート状のCNTを、シート状のまま引っ張ることでCNTシートを製造することができる。従って、引っ張る際に摘むCNTの本数を変えることによって、シートの大きさを適宜変えることができる。
【0091】
また、CNTシートは、基板を劈開した際に、劈開により分裂した基板同士を引っ張ることにより製造することもできる。この場合、基板同士の引っ張りにより各基板に形成されたCNTが引き合う。これにより、CNTが連続的に解けていき、CNTが一方向に並んだCNTシートを製造することができる。
【0092】
なお、ブラシ状CNTにおけるCNTの密度に応じてCNTロープやCNTシートのバンドルの状態を変えることができる。従って、CNTロープやCNTシートの用途等に応じてブラシ状CNTの密度を制御すれば、所望のバンドル状態となったCNTロープやCNTシートを得ることができる。
【0093】
本発明では、CNTが高密度に形成されたブラシ状CNTを用いているため、CNTロープやCNTシートの長さを長くすることができる。ここで、ブラシ状CNTのCNT密度とCNTロープの長さとの関係について説明する。図18は、ブラシ状CNTのCNT密度と、ブラシ状CNTから引き出すことができるCNTロープの長さとの関係を示すグラフである。
【0094】
図18に示すように、ブラシ状CNTのCNT密度が1×109本/cm2程度になると、CNTを引き出すことができるようになる。すなわち、CNTロープを作製することができるようになる。CNT密度が高くなるにつれて作製できるCNTロープの長さも長くなる。CNT密度が1×1010本/cm2を超える程度の密度になると、10cm〜40cm程度の長さのCNTロープを作製することができるようになる。
【0095】
ただし、本発明では上記製造方法を用いることにより、1×1011本/cm2以上のCNT密度を有するブラシ状CNTを作製することが可能であり、図18に示すように、CNT密度が1×1011本/cm2以上になると、50cm以上の長さのCNTロープを作製することができるようになる。
【0096】
すなわち、本発明の製造方法を用いることにより、高密度かつ高結晶性のブラシ状CNTを作製することが可能になり、高密度かつ高結晶性のブラシ状CNTを用いることにより、長くて強いCNTロープを作製することが可能になる。
【0097】
また、CNTロープやCNTシートを製造する際には、複数のCNTを種々の方法にてより強固に結合させてもよい。種々の方法とは、例えば、複数のCNTを物理的または化学的に結合させる方法を挙げることができる。上述のように、隣接するCNTはファンデルワールス力により結合しているものの、より強固に結合させることによって、より一層強度の高いCNTロープやCNTシートを得ることができる。
【0098】
複数のCNTを物理的または化学的に結合させる方法としては、例えば、撚糸処理や、高温アニール処理、化学処理等を挙げることができる。撚糸処理とは、CNTを強く撚りあげる処理方法のことである。また、高温アニール処理とは、CNTを各種ガス中にて高温で加熱する処理方法のことである。化学処理とは、CNT間をフラーレンや官能基の導入により物理的結合や化学的結合をさせる処理方法のことである。
【0099】
〔炭素系微細構造物の集合体の利用〕
本発明に係る炭素系微細構造物の集合体は、上記の構成や物性を有するため種々の用途に用いることができる。例えば、集合体を積層マトリクス状構造体物質、金属担持体、表面修飾物質、撚糸状構造物、布状構造物、コイル状構造物として用いることや、集合体を補強材、電線、導線、センサ、透明導電体、刃物、モータ、透明電磁波吸収材、建材、振動板、摺動材、人工筋肉、衣服、釣り糸、光吸収材、反射板、不織布、人工誘電体用媒体、インク、塗料、耐熱材、または耐磨耗材として用いることができる。以下、具体的に説明する。
【0100】
(積層マトリクス状構造体物質)
本発明のCNTロープやCNTシートは方向性(異方性)を有している。このため、本発明のCNTロープやCNTシートに樹脂等を含浸または混合させることによって、配向したマトリクスを有するシート状成形品(プリプレグ)を製造することができる。
【0101】
プリプレグは、以下の方法により製造することができる。まず、図13(a)に示すように、CNTロープやCNTシートをフィルム状またはシート状にする。そして、図13(b)に示すように、これに液状の樹脂や、溶媒に溶解した樹脂を含浸させ、硬化あるいは溶媒を蒸発させる。これにより、プリプレグが得られる。また、CNTロープやCNTシートに樹脂を含浸させた場合には、成形品として樹脂シートを得ることができる。
【0102】
プリプレグは、カーボンファイバーやグラスファイバーからなる強化樹脂シートへ応用することができる。例えば、軽量かつ高性能が要求される航空宇宙用途や、自動車材料用途、小型船舶用途、スポーツ用途等に用いることができる。
【0103】
また、図13(c)に示すように、得られたプリプレグを積層させることにより、積層体としての積層マトリクス状構造体物質を得ることができる。プリプレグの積層は、各シートにおけるCNTの配向方向が、任意の角度で適宜変更して行うことができる。この配向方向を適宜変更して積層することにより、高強度の積層体や、異方導電性の積層体、高熱伝導性の積層体等種々の用途に応じた積層体を製造することが可能となる。
【0104】
CNTロープやCNTシートを用いた積層体は、従来のガラスファイバーやカーボンファイバーを用いたプリプレグと比較して、著しく薄くすることが可能である。このため、極薄フィルムの強度、電気伝導、熱伝導等の機能が付与できることで、単に高強度材料用途だけではなく、電子デバイス(例えば、ICやCPU等)の積層基板の一部に応用されることが期待できる。近年の電子デバイスは、高集積化と大容量化とが進んでいるため放熱の課題を抱えているが、上記積層体を用いて高熱伝導性を活かした異方性高熱伝導フィルムとすれば、積層基板の放熱性の改善が期待できる。
【0105】
(金属担持体)
また、集合体に金属を担持させることにより、表面積の大きい金属担持体とすることができる。CNTロープやCNTシートは、非常に多数でかつ極細のCNTが同方向に配向して束状になったものである。このため、比表面積(m2/g)が大きく、多量の金属を担持させることができる。これにより、高性能、高効率、高活性な材料を創製することができる。また、CNTロープのチューブ形状(径や長さ)が均一であるため、担持金属の分散性がよいという利点もある。
【0106】
例えば、CNTロープにPt、Pd、Ni等の金属触媒(微粒子形状)を担持させることにより、高性能・高効率・高活性な触媒材料や、ガスフィルタ等のガス反応材料として利用できる。ガスフィルタとして用いた場合には、圧力損失(ガス抵抗)を小さくすることができる。また、例えば、CNTロープにPt等の微粒子金属を担持させることにより、ダイレクトメタノール型の燃料電池の電極材料として利用できる。この場合、エネルギー密度の高い燃料電池とすることができる。
【0107】
ここで、CNTロープにPtを担持させる方法の一例について説明する。白金酸水溶液(H2PtCl6)にH2O2、NaHSO3を加えてPtコロイドを作成する。作成したPtコロイド中にCNTロープを1本づつ浸漬させた後に、温度300℃、時間5〜7時間加熱してC1を取り除く。これにより、CNTロープのPt担持物が得られる。
【0108】
CNTロープやCNTシートの金属担持体は、ガスフィルタの他にも、分子フィルタ、液体フィルタ、遮音用フィルタ、偏光フィルタ等に利用することもできる。また、ガス吸着剤等の種々の吸着剤にも利用することができる。
【0109】
さらに、CNTロープやCNTシートの金属担持体は、電極としても利用できる。この電極は、燃料電池、二次電池、スーパキャパシタ等に用いることができる。表面積の大きいCNTロープ各1本に金属を担持させることで、金属担持量の制御ができる。また、電極材料を作成するに当たって、CNTロープの間隔を制御することで、電極材料中の金属密度の向上や密度の均一化が可能となる。さらに、CNTロープの組み合わせを変更し、ロープの直径を制御することにより、電極材料の設計制御ができるため、担持させる金属量の削減が可能となる。これは、エネルギー密度の高いキャパシタ設計を可能にする。
【0110】
なお、電極は、例えば、金属を担持したCNTロープをPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)膜上に整列させることにより得ることができる。
【0111】
(表面修飾物質)
また、集合体の表面に修飾を施すことにより、表面修飾を施した糸状物質やシート状物質とすることできる。表面修飾とは、CNTロープやCNTシートの表面に有機官能基を結合させたり、何らかの機能性薄膜を付着(塗布)させることである。これにより、CNTロープやCNTシートに対して、CNTロープやCNTシートのみでは発揮できない何らかの機能を持たせることができる。
【0112】
具体的には、CNTロープやCNTシート間に官能基、フラーレン、CNT等を介し、これらを化学的に結合させることにより、強度、電気伝導、熱伝導等の機能をより高めた糸状物質やシート状物質を製造することが可能になる。
【0113】
官能基としては、例えば、ニトロ基(−NO2)、スルホン基(−SO3H)、カルボキシル基(−COOH)、カルボニル基(>C=O)、エーテル基(C−O−C)、フェノール性水酸基(−OH)等を挙げることができる。これらいずれかの官能基を導入したCNTロープやCNTシートを適宜組み合わせることにより、イオン交換膜等に利用することが可能となる。
【0114】
また、例えば、フラーレンはプラズマ、光、電子線、X線、熱により重合することが知られている。本発明のCNTロープやCNTシートのCNT間にフラーレンを介在させ、上記手法により重合させることで、CNTロープやCNTシートの機能を向上させることができる。
【0115】
また、これら糸状物質やシート状物質を含む(または撚り合わせた)ひも状、あるいはシート状構造体を製造することもできる。特に、化学結合を用いて糸状物質を撚り合わせれば、太くすることができるとともに強度を向上させることができる。
【0116】
(撚糸状構造物・布状構造物・コイル状構造物)
本発明のCNTロープやCNTシートの複数を互いに撚り合せることにより撚糸状構造物を作製することができる。撚糸状構造物は、複数のCNTロープやCNTシートを回転させながら互いに撚り合せることにより作製できる。これにより、高強度かつ軽量の撚糸状構造物となる。また、上述のように、表面修飾されたCNTロープやCNTシートを用いることにより、さらに高強度の撚糸状構造物とすることができる。撚糸状構造物としては、例えば、ひもやロープ等を挙げることができる。
【0117】
また、撚糸状構造物をさらに撚ることにより布状構造物を作製することもできる。また、布状構造物は、本発明のCNTロープやCNTシートに、液状の樹脂や溶媒に溶解した樹脂を浸させ、これを撚ることによっても作製できる。このように、布状構造物は、CNTロープやCNTシートからなるひもやロープ、または、樹脂を含浸したCNTロープやCNTシートを編み上げることにより作製される布状または皮状の構造物のことである。
【0118】
また、CNTロープまたはCNTシートを巻き取ることにより、コイル状構造物を作製することができる。コイル状構造物は、図14に示すように、CNTロープまたはCNTシートを、例えばボビン(登録商標)に巻きつけることにより作製できる。
【0119】
(補強材)
本発明のCNTロープやCNTシートは、例えば、シート状やロープ状の補強材、カーボン、FRP(Fiber Reinforced Plastics)、FRM(Fiber Reinforced Metals)、FRC(Fiber Reinforced Ceramics)、C/C(Carbon/Carbon)コンポジット、光ファイバ、タイヤ等の補強材として利用できる。また、セラミックや金属の補強材および複合材等へも利用できる。
【0120】
(電線・導線)
現在、一般に使用されている電線は、銅の糸状線を撚り、太い銅線としたものを用いて作成されている。今まで、長いCNTや、CNT自身を撚った長いCNTを作成することが困難であったが、本発明のCNTロープを撚ることで、CNTロープの長さと太さを制御することが可能となる。このため、本発明のCNTロープやCNTシートは、電線や導線としても利用することができる。
【0121】
CNTの抵抗は、銅の抵抗よりも低い。このため、CNTロープやCNTシートは、高耐電流用の電線や導線として好ましく用いられる。また、CNTロープやCNTシートは、銅と比べて電流密度(単位面積当たりの電流密度)が高い。なかでも多層構造のCNTは、銅の1000倍以上の最大電流密度を有するので、本発明のCNTロープをLSI中の配線へ応用することもできる。さらに、CNTロープで構成された長い導線を作成することにより、高トルク・高出力小型モータなど、細い導線で大きな電流が必要な場合に有用である。また、CNTロープは従来の金属線よりも軽量であるため、従来のモータにおける銅線をCNTロープに置き換えることにより、軽量化が可能である。
【0122】
CNTを電子デバイスの配線として使用する場合、サイズが小さく取り扱いが困難であるものの、本発明のように、CNTを一方向に束ねた集合体とすれば、配線としての使用が容易になるとともに、例えば、ボビンに巻きつけた状態で供給することも可能になる。
【0123】
また、現在用いられている細線は、一般に10μのL/Sが限界であると考えられている。しかしながら、方向性を持つCNTロープやCNTシートを使用することで、制御範囲が向上しナノオーダーの細線を生成することが可能になる。
【0124】
(センサ)
本発明のCNTロープやCNTシートは、センサとして用いることができる。センサとしては、流量センサ、圧力センサ、ガスセンサ等を挙げることができる。流量センサは、センサ部の熱量を気体が奪うことで流量を検出している。センサ部にCNTロープやCNTシートを使うことにより、流量センサを小型化することが可能となる。これにより、消費電力を低下できるとともに、微小流量を検出する流量センサも作製できる。
【0125】
また、圧力センサとして用いられるピラニー真空計は、金属線に気体分子が入射し、分子が運び去る熱エネルギーによるフィラメントの温度変化を抵抗変化として検出している。金属線の代わりにCNTロープやCNTシートを使用することで、小型軽量化が可能となる。また、消費電力も低下できる。CNTロープやCNTシートを用いれば、フィラメントの直径を小さくすることができるため、計測圧力領域を広げることができる。このため、広帯域の真空計が作製できる。
【0126】
ガスセンサのセンサ部に単層のCNTからなるものを使用するのが理想的であるものの、層数の少ないCNTからなるCNTロープやCNTシートをセンサ部に利用できる。CNTは、その側面がπ電子で覆われているため、極性のガス分子がCNTに吸着すると、π電子を引きつける。これにより、CNTロープやCNTシートの電気抵抗が変化する。この電気抵抗変化は、ガス分子の極性が異なると異なった電抵抗値を示すことから分子種を検出することができる。また、CNTの表面に特定の化学分子を修飾すれば、検出する分子種を選択できる可能性があり、今後、プローブ(検出器)としての利用が期待できる。
【0127】
(透明導電体)
本発明のCNTロープやCNTシートは、従来のCNTに比べて高い配向性と高い分散性を有しているため、透明な材料として用いることができる。例えば、CNTの密度を制御したCNTロープやCNTシートを、構造体内に保持することにより透明導電体を作製することができる。CNTの密度により構造体の透過率を制御できるとともに、導電率も制御可能となる。また、CNTロープやCNTシートの保持方向を変えて積層することによりデバイス作製も可能となる。なお、構造体としては、ゴム状のものや樹脂状のもの等どの様な材料でも使用可能である。
【0128】
(刃物)
本発明のCNTロープやCNTシートは、その高い強度とナノオーダーの鋭さとを利用した刃物として用いることもできる。
【0129】
(小型モータ・小型電磁石)
上記のように、本発明のCNTロープやCNTシートを用いれば導線を作製することができる。この導線を用いてコイルを作製すれば、モータや電磁石を作製することができる。モータや電磁石における磁界の強さ(モータのトルクの強さに関係)は、コイルの巻き数とコイル中の電流とに比例する。このため、銅線を用いて磁界の強い電磁石を作製すると、銅線の太さおよび重さのために電磁石は大きくまた重くなってしまう。これに対して、細く大電流を流すことができ、軽量なCNTロープやCNTシートを用いれば、モータや電磁石を飛躍的に小型化かつ軽量化することができる。
【0130】
(フィルム・透明電磁波吸収材・建材・振動板・摺動材・人工筋肉・衣服)
本発明のCNTロープやCNTシートを薄く加工することによりフィルムを作製することができる。このフィルムは、透明な電磁波吸収材として使用できる。また、本発明のCNTロープやCNTシートは、高い強度を有するとともに、鉄よりも10倍程度比重が小さい。このため、建材として好ましく用いることができる。強度をさらに高めたものとすれば、スペースエレベータ等の材料になる。
【0131】
また、本発明のCNTロープやCNTシートは、振動板として用いることができる。例えば、CNT自身を振動させることによりスピーカ等に利用できる。また、高い配向性と、高束性を有するため、摺動材として、新幹線(登録商標)のパンタグラフ(登録商標)等に使用することもできる。
【0132】
また、CNTの粉末を両面テープに付けて、両面を電極に取り付け、この状態で食塩水中に入れて、電圧を印加すると両面テープが曲がる。この性質を利用して、2本のCNTロープ、その間に例えば樹脂などで絶縁層を設けて接合すれば、ナノオーダーの径を有する人工筋肉として用いることができる。また、上記性質を利用すれば、圧電素子としても利用できる。
【0133】
さらに、CNTロープやCNTシートは、衣服の材料として利用することもできる。材料として衣服に用いた場合には、例えば、電磁波防止や静電気防止用の効果が得られる。
【0134】
(釣り糸・光吸収材・反射板・不織布・人工誘電体用媒体・インク・塗料・耐熱材・耐磨耗材)
本発明のCNTロープやCNTシートは、上記用途の他にも、釣り糸、光吸収材、反射板、不織布、人工誘電体用媒体、インク、塗料、耐熱材、または耐磨耗材に用いることができる。CNTロープやCNTシートは、高い配向性と高い分散性を有しているため、偏光材料として利用できる。このため、上記偏光フィルタの他にも光吸収材等に用いることができる。
【0135】
また、不織布に用いた場合には、従来の布に比べて薄くできる。インクに用いた場合には、導電性を有するインクとすることができる。塗料に用いた場合には、塗料自体が高い強度を有するという効果を得ることができる。
【0136】
なお、上記のように、本発明に係る炭素系微細構造物の集合体は、炭素系微細構造物が複数集合した炭素系微細構造物の集合体であって、上記複数の炭素系微細構造物は、同一方向に配向しているとともに、該配向方向に沿って集合している構成である。
【0137】
上記炭素系微細構造物の集合体においては、上記複数の炭素系微細構造物は、配向方向に対して直角方向にも集合していることが好ましい。炭素系微細構造物を配向方向に対して直角方向にもさらに集合させているため、平面的にも広がりを有する集合体とすることができる。この場合、取り扱い性や加工性はさらに向上する。
【0138】
上記炭素系微細構造物の集合体においては、上記複数の炭素系微細構造物は、ファンデルワールス力により結合していることが好ましい。また、上記複数の炭素系微細構造物は、物理的または化学的に結合していることが好ましい。これにより、炭素系微細構造物を容易に集合させることができるとともに、得られた集合体はさらに高い強度を有する。
【0139】
また、上記炭素系微細構造物は、上記配向方向の長さ1μm当たりに存在する屈曲部が10個以下であることが好ましい。これにより、炭素系微細構造物の結晶性を高くすることができるので、集合体を長くすることができると共に、集合体の強度を高くすることができる。なお、屈曲部とは、炭素系微細構造物の配向方向に対して屈曲している部分である。例えば、不規則な結晶構造(いわゆる欠陥)である部分が屈曲する部分となる。
【0140】
また、上記炭素系微細構造物は、カーボンナノチューブであることが好ましい。さらに、上記炭素系微細構造物の集合体においては、金属を担持していることが好ましく、表面修飾が施されていることが好ましい。これにより、炭素系微細構造物の集合体に種々の機能を付与することが可能となり、様々な用途に用いることができる。
【0141】
例えば、上記炭素系微細構造物の集合体は、補強材、フィルタ、吸着剤、電極、電線、導線、センサ、透明導電体、刃物、モータ、建材、振動板、摺動材、人工筋肉、衣服、釣り糸、光吸収材、反射板、不織布、人工誘電体用媒体、インク、塗料、耐熱材、または耐磨耗材として用いることができる。
【0142】
また、上記炭素系微細構造物の集合体の他の用途としては、炭素系微細構造物の集合体を複数撚ってなる撚糸状構造物や、樹脂を含浸した炭素系微細構造物の集合体を複数撚ってなる布状構造物、炭素系微細構造物の集合体を巻き取ってなるコイル状構造物を挙げることができる。
【0143】
また、上記炭素系微細構造物の集合体のさらに他の用途としては、炭素系微細構造物の集合体を含んでなる樹脂シートを挙げることができる。この樹脂シートを少なくとも1層以上含み積層することで積層体が得られる。この樹脂シートや積層体は、高熱伝導シートとして用いることができる。また、上記集合体の用途として、炭素系微細構造物の集合体からなるフィルムを挙げることができる。このフィルムは、透明電磁波吸収材として用いることができる。
【0144】
また、上記のように、本発明の炭素系微細構造物群は、基板上に、該基板に対して略垂直方向に配向するように複数の炭素系微細構造物が設けられた炭素系微細構造物群であって、上記基板1cm2当たりに存在する炭素系微細構造物が1×1011本以上である構成を有している。
【0145】
さらに、上記炭素系微細構造物は、上記配向方向の長さ1μm当たりに存在する屈曲部が10個以下であることが好ましい。これにより、炭素系微細構造物群を構成する各炭素系微細構造物の結晶性を高くすることができる。
【0146】
なお、上記炭素系微細構造物の集合体を製造するために、本発明に係る炭素系微細構造物の集合体の製造方法は、基板上に、基板に対して垂直方向に配向した複数の炭素系微細構造物を形成する形成工程と、上記炭素系微細構造物の少なくとも1つを引っ張る引張工程とを有する構成である。
【0147】
また、上記の製造方法においては、上記引張工程の前に、基板を劈開する劈開工程を有することが好ましい。これにより、容易に集合体を製造することが可能となる。また、上記形成工程は、基板に対して、炭素系微細構造物を形成するための原料気体と、該原料気体を搬送するための搬送気体とを供給することによって行われ、全気体の濃度に対する原料気体の濃度の割合が23%以上であることが好ましい。これにより、基板上に形成する炭素系微細構造物の密度を高くすることができる。その結果、高束性をより高めることができるとともに、高強度の集合体とすることができる。
【0148】
さらに、上記の製造方法においては、上記複数の炭素系微細構造物を物理的または化学的に結合させる結合工程を有することが好ましい。これにより、複数の炭素系微細構造物が強固に結合するため、集合体の強度をより一層高めることができる。
【0149】
尚、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様または実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と次に記載する特許請求の範囲内で、いろいろと変更して実施することができるものである。すなわち、特許請求の範囲内で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0150】
以上のように、本発明に係る炭素系微細構造物の集合体は、高強度、高電流密度等種々の特性を有しているとともに、目に見えるため取り扱い性や加工性が高いものである。それゆえ、本発明に係る炭素系微細構造物の集合体は、小型化、軽量化された電子機器やその配線、あるいは各種材料等として特に好適に用いることができる。従って、本発明は、単に、炭素系微細構造物の集合体を製造する産業分野のみならず、化学産業、素材加工産業、樹脂産業、電子・電気機器やその部品を製造する産業分野等の各種産業分野において好適に用いることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素系微細構造物が複数集合した炭素系微細構造物の集合体であって、
上記複数の炭素系微細構造物は、同一方向に配向しているとともに、該配向方向に沿って集合していることを特徴とする炭素系微細構造物の集合体。
【請求項2】
上記複数の炭素系微細構造物は、配向方向に対して直角方向にも集合していることを特徴とする請求項1に記載の炭素系微細構造物の集合体。
【請求項3】
上記複数の炭素系微細構造物は、ファンデルワールス力により結合していることを特徴とする請求項1または2に記載の炭素系微細構造物の集合体。
【請求項4】
上記複数の炭素系微細構造物は、物理的または化学的に結合していることを特徴とする請求項1または2に記載の炭素系微細構造物の集合体。
【請求項5】
上記炭素系微細構造物は、上記配向方向の長さ1μm当たりに存在する屈曲部が10個以下であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の炭素系微細構造物の集合体。
【請求項6】
上記炭素系微細構造物は、カーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の炭素系微細構造物の集合体。
【請求項7】
金属を担持していることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の炭素系微細構造物の集合体。
【請求項8】
表面修飾が施されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の炭素系微細構造物の集合体。
【請求項9】
補強材、電線、導線、センサ、透明導電体、刃物、モータ、建材、振動板、摺動材、人工筋肉、衣服、釣り糸、光吸収材、反射板、不織布、人工誘電体用媒体、インク、塗料、耐熱材、または耐磨耗材として用いられることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載の炭素系微細構造物の集合体。
【請求項10】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の炭素系微細構造物の集合体を複数撚ってなる撚糸状構造物。
【請求項11】
樹脂を含浸した上記請求項1ないし6のいずれか1項に記載の炭素系微細構造物の集合体を複数撚ってなる布状構造物。
【請求項12】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の炭素系微細構造物の集合体を巻き取ってなるコイル状構造物。
【請求項13】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の炭素系微細構造物の集合体を含んでなる樹脂シート。
【請求項14】
請求項13に記載の樹脂シートを少なくとも1層以上含み積層してなる積層体。
【請求項15】
請求項13に記載の樹脂シートまたは請求項14に記載の積層体を用いてなる高熱伝導シート。
【請求項16】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の炭素系微細構造物の集合体からなるフィルム。
【請求項17】
透明電磁波吸収材として用いられることを特徴とする請求項16に記載のフィルム。
【請求項18】
基板上に、該基板に対して略垂直方向に配向するように複数の炭素系微細構造物が設けられた炭素系微細構造物群であって、
上記基板1cm2当たりに存在する炭素系微細構造物が1×1011本以上であることを特徴とする炭素系微細構造物群。
【請求項19】
上記炭素系微細構造物は、上記配向方向の長さ1μm当たりに存在する屈曲部が10個以下であることを特徴とする請求項18に記載の炭素系微細構造物群。
【請求項20】
請求項18または19に記載の炭素系微細構造物群に含まれる炭素系微細構造物の少なくとも1つを引っ張ることによって得られたことを特徴とする炭素系微細構造物の集合体。
【請求項21】
基板上に、基板に対して垂直方向に配向した複数の炭素系微細構造物を形成する形成工程と、
上記炭素系微細構造物の少なくとも1つを引っ張る引張工程とを有することを特徴とする炭素系微細構造物の集合体の製造方法。
【請求項22】
上記引張工程の前に、基板を劈開する劈開工程を有することを特徴とする請求項21に記載の炭素系微細構造物の集合体の製造方法。
【請求項23】
上記形成工程は、基板に対して、炭素系微細構造物を形成するための原料気体と、該原料気体を搬送するための搬送気体とを供給することによって行われ、全気体の濃度に対する原料気体の濃度の割合が23%以上であることを特徴とする請求項21または22に記載の炭素系微細構造物の集合体の製造方法。
【請求項24】
上記複数の炭素系微細構造物を物理的または化学的に結合させる結合工程をさらに有することを特徴とする請求項21ないし23のいずれか1項に記載の炭素系微細構造物の集合体の製造方法。
【請求項1】
炭素系微細構造物が複数集合した炭素系微細構造物の集合体であって、
上記複数の炭素系微細構造物は、同一方向に配向しているとともに、該配向方向に沿って集合していることを特徴とする炭素系微細構造物の集合体。
【請求項2】
上記複数の炭素系微細構造物は、配向方向に対して直角方向にも集合していることを特徴とする請求項1に記載の炭素系微細構造物の集合体。
【請求項3】
上記複数の炭素系微細構造物は、ファンデルワールス力により結合していることを特徴とする請求項1または2に記載の炭素系微細構造物の集合体。
【請求項4】
上記複数の炭素系微細構造物は、物理的または化学的に結合していることを特徴とする請求項1または2に記載の炭素系微細構造物の集合体。
【請求項5】
上記炭素系微細構造物は、上記配向方向の長さ1μm当たりに存在する屈曲部が10個以下であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の炭素系微細構造物の集合体。
【請求項6】
上記炭素系微細構造物は、カーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の炭素系微細構造物の集合体。
【請求項7】
金属を担持していることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の炭素系微細構造物の集合体。
【請求項8】
表面修飾が施されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の炭素系微細構造物の集合体。
【請求項9】
補強材、電線、導線、センサ、透明導電体、刃物、モータ、建材、振動板、摺動材、人工筋肉、衣服、釣り糸、光吸収材、反射板、不織布、人工誘電体用媒体、インク、塗料、耐熱材、または耐磨耗材として用いられることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載の炭素系微細構造物の集合体。
【請求項10】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の炭素系微細構造物の集合体を複数撚ってなる撚糸状構造物。
【請求項11】
樹脂を含浸した上記請求項1ないし6のいずれか1項に記載の炭素系微細構造物の集合体を複数撚ってなる布状構造物。
【請求項12】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の炭素系微細構造物の集合体を巻き取ってなるコイル状構造物。
【請求項13】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の炭素系微細構造物の集合体を含んでなる樹脂シート。
【請求項14】
請求項13に記載の樹脂シートを少なくとも1層以上含み積層してなる積層体。
【請求項15】
請求項13に記載の樹脂シートまたは請求項14に記載の積層体を用いてなる高熱伝導シート。
【請求項16】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の炭素系微細構造物の集合体からなるフィルム。
【請求項17】
透明電磁波吸収材として用いられることを特徴とする請求項16に記載のフィルム。
【請求項18】
基板上に、該基板に対して略垂直方向に配向するように複数の炭素系微細構造物が設けられた炭素系微細構造物群であって、
上記基板1cm2当たりに存在する炭素系微細構造物が1×1011本以上であることを特徴とする炭素系微細構造物群。
【請求項19】
上記炭素系微細構造物は、上記配向方向の長さ1μm当たりに存在する屈曲部が10個以下であることを特徴とする請求項18に記載の炭素系微細構造物群。
【請求項20】
請求項18または19に記載の炭素系微細構造物群に含まれる炭素系微細構造物の少なくとも1つを引っ張ることによって得られたことを特徴とする炭素系微細構造物の集合体。
【請求項21】
基板上に、基板に対して垂直方向に配向した複数の炭素系微細構造物を形成する形成工程と、
上記炭素系微細構造物の少なくとも1つを引っ張る引張工程とを有することを特徴とする炭素系微細構造物の集合体の製造方法。
【請求項22】
上記引張工程の前に、基板を劈開する劈開工程を有することを特徴とする請求項21に記載の炭素系微細構造物の集合体の製造方法。
【請求項23】
上記形成工程は、基板に対して、炭素系微細構造物を形成するための原料気体と、該原料気体を搬送するための搬送気体とを供給することによって行われ、全気体の濃度に対する原料気体の濃度の割合が23%以上であることを特徴とする請求項21または22に記載の炭素系微細構造物の集合体の製造方法。
【請求項24】
上記複数の炭素系微細構造物を物理的または化学的に結合させる結合工程をさらに有することを特徴とする請求項21ないし23のいずれか1項に記載の炭素系微細構造物の集合体の製造方法。
【図1(a)】
【図1(b)】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6(a)】
【図6(b)】
【図7(a)】
【図7(b)】
【図8】
【図9】
【図10(a)】
【図10(b)】
【図10(c)】
【図10(d)】
【図11(a)】
【図11(b)】
【図12】
【図13(a)】
【図13(b)】
【図13(c)】
【図14】
【図15(a)】
【図15(b)】
【図16(a)】
【図16(b)】
【図17(a)】
【図17(b)】
【図17(c)】
【図17(d)】
【図18】
【図1(b)】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6(a)】
【図6(b)】
【図7(a)】
【図7(b)】
【図8】
【図9】
【図10(a)】
【図10(b)】
【図10(c)】
【図10(d)】
【図11(a)】
【図11(b)】
【図12】
【図13(a)】
【図13(b)】
【図13(c)】
【図14】
【図15(a)】
【図15(b)】
【図16(a)】
【図16(b)】
【図17(a)】
【図17(b)】
【図17(c)】
【図17(d)】
【図18】
【国際公開番号】WO2005/102924
【国際公開日】平成17年11月3日(2005.11.3)
【発行日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−512552(P2006−512552)
【国際出願番号】PCT/JP2005/007480
【国際出願日】平成17年4月19日(2005.4.19)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【出願人】(302060306)大塚化学株式会社 (88)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【出願人】(591040292)大研化学工業株式会社 (59)
【Fターム(参考)】
【国際公開日】平成17年11月3日(2005.11.3)
【発行日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2005/007480
【国際出願日】平成17年4月19日(2005.4.19)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【出願人】(302060306)大塚化学株式会社 (88)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【出願人】(591040292)大研化学工業株式会社 (59)
【Fターム(参考)】
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