説明

点火装置、及びその点火制御方法

【課題】バッテリ外れにより、交流発電機からの出力電圧のみによりエンジン点火を行う場合に、エンジンのキック始動特性を向上させる点火装置を提供する。
【解決手段】点火装置1は、バッテリ14及び発電機11の出力電力により充電される電源用のコンデンサC1と、1次巻線W1及び2次巻線W2を有する点火コイル16と、バッテリ14及びコンデンサC1の充電電圧を電圧源とする1次巻線W1への1次側電流の通電と遮断とを制御することにより2次巻線W2に点火用高電圧を発生させる点火制御回路101とを備え、点火制御回路101は、コンデンサC1の、1次巻線W1への通電開始時における第1の電圧と通電遮断時における第2の電圧とを検出する電圧検出部112と、検出された第1の電圧と第2の電圧との差分電圧に応じて1次巻線W1に流れる1次側電流の通電時間を変化させる通電時間制御部115とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両(例えば、二輪車等)のエンジンを点火させる点火装置に関し、特に、バッテリ外れ或いはバッテリ容量の低下により、交流発電機からの出力電圧のみによりエンジン点火を行う場合において、エンジンのキック始動特性を向上させることができる、点火装置、及びその点火制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のエンジン(例えば、2輪車用のエンジン)の点火装置としてトランジスタ点火装置が知られている。このトランジスタ式点火装置は、1次巻線及び2次巻線を有する点火コイル(「イグニッションコイル」とも呼ばれる)の1次側にスイッチング回路を接続し、そのスイッチング回路の急激な電流遮断によって、点火コイルに電圧を誘起し、2次コイルに昇圧された高い点火電圧を発生させるものである。
【0003】
図9は、一般的なトランジスタ式の点火装置の構成を示したものである(例えば、特許文献1を参照)。図9に示す点火装置1Aは、交流発電機11と、バッテリ14と、点火制御装置100と、点火コイル16とを主要な要素として備えている。また、点火制御装置100は、ダイオードD1と、電解コンデンサC1(単に「コンデンサC1」とも呼ぶ)と、点火制御回路101と、を有している。なお、このトランジスタ式点火装置の構成とその動作については、後述する本発明の実施形態において詳細に説明するため、ここでは、その構成について簡単に説明する。
【0004】
図9に示す点火装置1Aにおいて、交流発電機11は、エンジン(図示せず)により回転駆動される交流発電機(例えば、単相交流発電機)であり、この交流発電機11にはエンジンの点火のタイミングを検出する回転センサ、すなわち、エンジンの特定の回転角度位置でパルス信号を発生する回転センサ(例えば、パルサーコイル等)12が付設されている。この交流発電機11内のコイル11Aに誘導される交流電圧は、レギュレータ13により整流及び電圧調整(位相制御)された直流電圧に変換されて出力され、この直流電圧によりバッテリ14を充電する。このバッテリ14の+側端子はイグニッションスイッチ(SW)15を介して点火制御装置100に接続される。
【0005】
また、点火コイル16は一端が共通接続された1次巻線W1及び2次巻線W2を有する点火コイルである。点火コイル16の2次巻線W2の他端は点火プラグ17の一端(高圧側端子)に接続され、点火プラグ17の他端は接地される。点火制御装置100内のトランジスタQ1は1次側電流制御用スイッチとなるトランジスタであり、トランジスタQ1のエミッタは接地され、そのコレクタは点火コイルの1次巻線W1の他端に接続されている。
【0006】
点火制御装置100は、トランジスタQ1をスイッチングすることにより点火コイル16の1次巻線W1に駆動電流(1次側電流)を流す制御装置である。この点火制御装置100おいて、点火電源用のコンデンサC1は、バッテリ14及びレギュレータ13からダイオードD1を介して充電される電解コンデンサであり、このコンデンサC1の充電電圧Vc及びバッテリ14を電源として、点火コイル16の1次巻線W1に1次側電流i1を流す。また、このコンデンサC1の充電電圧Vcは電源回路102の入力電圧となり、この電源回路102から一定の直流電圧Vdcが出力される。この電源回路102の出力電圧Vdcは制御用CPU110の電源電圧となる。また、波形整形回路103は、回転センサ12の出力を波形整形して制御用CPU110に与える。点火駆動回路104は、制御用CPU110から与えられる点火指令信号に応じてトランジスタQ1にベース電流(点火指令信号)を与える。
【0007】
また、コンデンサC1の+側端子と接地間には、抵抗R1及びR2の直列回路からなる抵抗分圧回路が接続され、この抵抗R1及びR2の接続点の電圧が、制御用CPU110内に設けられたA/Dコンバータ111を介して該制御用CPU110内に入力される。点火装置1Aでは、このA/Dコンバータ111によりコンデンサC1の充電電圧Vcを検出することにより、コンデンサC1の電圧上昇時において点火コイル16の1次巻線W1に過大な電流が流れないようにして保護している。
【0008】
また、図10は、図9に示す点火装置における交流発電機出力の位相と通電及び点火タイミングとを示す波形図である。この図10は、横方向に時間tの経過を示し、縦方向に、図10(A)のエンジン回転パルス信号の波形と、図10(B)の交流発電機出力(半波整流)の波形と、図10(C)のトランジスタQ1の駆動信号の波形と、を並べて示したものである。
【0009】
図10(A)に示すように、回転センサ12は、エンジンの回転角度位置が上死点TDCの付近に設定された第1の回転角度位置に一致すると正波形の第1のパルス信号VS1を発生し、エンジンの回転角度位置が、同じく上死点TDC付近に設定された第2の回転角度位置に一致すると負波形の第2のパルス信号VS2を発生する。なお図10(A)では、第1のパルス信号VS1が発生するタイミングをt1とし、第2のパルス信号VS1が発生するタイミングをt2としている。回転センサ12から出力されるパルス信号VS1及びVS2は、波形整形回路103により制御用CPU110の入力信号レベルに適合するように調整された信号に変換されて制御用CPU110に入力される。
【0010】
制御用CPU110は、パルス信号VS1が発生する(パルス信号VS1が立ち上がる)タイミングt1から、エンジンが1回転した後の次のタイミングt1(次のパルス信号VS1が立ち上がるタイミング)までの回転周期時間Tnを計測して、この回転周期時間Tnからエンジンの回転数Nを演算する。あるいは、制御用CPU110は、パルス信号VS2が発生する(パルス信号VS2が立ち下がる)タイミングt2から、エンジンが1回転した後の次のタイミングt2(次のパルス信号VS2が立ち下がるタイミング)までの回転周期時間Tnを計測して、この回転周期時間Tnからエンジンの回転数Nを演算する。
【0011】
また、制御用CPU110は、例えば、負波形のパルス信号VS2が立ち下がるタイミングt1を固定の点火タイミング(通電終了タイミング)Tigとし、図10(C)に示すように、エンジンの回転数Nに応じた通電時間Tonを算出し、この通電時間Tonに対応する通電開始タイミング(点火コイル16の1次巻線W1に通電を開始するタイミング)Tstを算出する。制御用CPU110は、点火駆動回路104に通電開始指令を与えて、該点火駆動回路104からトランジスタQ1にベース電流(点火制御信号)を供給する。これによりトランジスタQ1を通電時間Tonの間、オン状態にして、点火コイル16の1次巻線W1に1次側電流i1を流す。
【0012】
なお、上述したトランジスタ式点火装置の例として、例えば、関連するトランジスタ式点火装置がある(特許文献2を参照)。この特許文献2に記載のトランジスタ式点火装置は、点火用の電源を供給するバッテリ外れが発生し、交流発電機出力のみによりエンジンの点火を行う場合に点火エネルギー不足が生じる問題を解決することを目的としている。この特許文献2に記載のトランジスタ式点火装置では、バッテリ外れが発生した場合は、発電機出力波形が発生している期間を検出し、この期間において通電時間を調整して所要の点火エネルギーを確保するようにしている。また、高回転時において、発電機出力波形の周期が短く(通電時間が短く)なり、通電エネルギーが不足する場合はサブコイルを用いてエネルギー加算をすることで点火エネルギー不足を解消するようにしている。
【0013】
また、関連するエンジンの点火装置がある(特許文献3を参照)。この特許文献3に記載の点火装置は、エンジンの最低回転時における点火コイルへの電流の通電時間が長くなり過ぎることをなくし、イグナイタを構成するパワートランジスタの発熱を減少させることを目的としている。このために、エンジンが極低回転の場合には、各気筒の上死点直前乃至上死点での回転角信号に同期して点火コイルの通電が開始され、所定時間経過後に、通電が終了するように構成されている。
【0014】
また、関連するエンジン用点火装置がある(特許文献4を参照)。この特許文献4に記載のエンジン用点火装置は、点火コイルの1次巻線への印加電圧の変動に依らず点火コイルに蓄積する磁束エネルギーを一定に維持できるエンジン用点火装置を安価に提供することを目的にしている。このために、この特許文献4に記載のエンジン用点火装置では、主制御用トランジスタをオフ状態に維持するためのマイコンを、ECUとは別に備えている。そして、ECUが点火指令信号をハイレベルにしても、マイコンが通電開始遅延信号をハイレベルにしている間は、主制御用トランジスタがオフ状態に維持されて1次側電流は流れない。そして、マイコンは、電源電圧値に応じて算出された通電開始遅延時間だけ1次側電流の通電開始時期を遅延させており、電源電圧の変動が生じても点火コイルに蓄積される磁束エネルギーは一定に制御される。よって、高価なスイッチング素子からなる1次側電流制御用スイッチを設けることなく蓄積する磁束エネルギーを一定に制御できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2001−304083号公報
【特許文献2】特開平11−311172号公報
【特許文献3】特開平1−285661号公報
【特許文献4】特開2001−193616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところで、上述した図9に示す点火装置1Aにおいては、バッテリ外れ(バッテリ14から直流電源線DCLに電力が供給できない状態)が発生した場合のキックによるエンジン始動時において、点火プラグ17の点火エネルギーが不足するという問題がある。これはバッテリ外れが発生した場合に、交流発電機11の出力のみで点火動作を行う必要があることに起因している。交流発電機11から点火制御装置100に入力される電圧は交流発電機11の出力エネルギーや巻き線、着磁の極数にも依存するが、点火動作を正常に行うには、交流発電機11から出力される電圧(より正確にはレギュレータ13から出力される電圧)によりコンデンサC1を充電し、このコンデンサC1の充電電圧により、点火コイル16への通電から点火までに必要な電圧を保持する必要がある。
【0017】
図11は、バッテリ外れが発生した場合における通電及び点火制御の例を示す波形図である。この図11に示す例は、バッテリ外れが発生した場合においても、バッテリ14が接続されているとした場合を基準として設定された通電時間どおりに点火動作を行った場合の例である。この図11では、横方向の時間tの経過を示し、縦方向に、図11(A)のエンジン回転パルス信号の波形と、図11(B)のトランジスタQ1の駆動信号の波形と、図11(C)のコンデンサC1の電圧波形と、図11(D)の点火コイル16の1次側電流の波形と、図11(D)の制御用CPU110の電源電圧波形と、を並べて示している。
【0018】
点火装置1において、一般的な半波整流方式のレギュレータ13が搭載されている場合には、図11(C)の破線aの波形で示すように、点火制御装置100へ電圧供給が行われるのは発電機出力のプラス側半波となる。そして、エンジンのクランク位置に対する発電機巻き線の取り付け角度によっては、この図11(B)及び(C)に示すように、点火コイル16へ通電を行うタイミング(通電開始タイミングTst〜点火タイミングTig)が交流発電機11の出力電圧のマイナス側半波の周期内である場合がある。このマイナス側半波の周期内においてバッテリ外れが発生すると、点火制御装置100は、コンデンサC1に蓄積されたエネルギーのみで点火動作を行うことになる。
【0019】
このバッテリ外れが発生し、かつコンデンサC1に蓄積されたエネルギーのみで点火動作を行う場合において、コンデンサC1の電圧は、図11(C)の波形bに示すように、通電期間(Tst〜Tig)中にコンデンサC1から点火コイル16に1次側電流i1が流れることにより、通電開始タイミングTstにおける電圧から次第に低下し、通電終了タイミング(点火タイミングTig)において最小となる。
【0020】
そして、図11(D)に示すように、バッテリ接続時には、1次巻線W1には波形aで示すように電流i1のレベルまで電流が流れるのに対して、バッテリ外れの場合には、コンデンサC1の充電電圧が低下することにより、波形bで示すように1次側電流が電流i1´まで低下する。このため点火タイミングTigにおいて点火エネルギーが不足することになる。さらには、図(E)に示すように、コンデンサC1の電圧が低下することにより、制御用のCPU111の電源電圧Vdc自体が動作電圧(CPUリセット電圧)を下回ってしまい点火動作が行えなくなるといった問題も発生する。このため、バッテリ外れが発生し交流発電機のみによりエンジン点火を行う場合おいて、特に、交流発電機出力のマイナス側半波の周期内においてコンデンサC1に蓄積されたエネルギーのみにより点火動作を行う場合において、エンジンのキック始動特性を向上させることが望まれていた。
【0021】
なお、上記バッテリ外れ時のキック始動特性の悪化の問題に対して、前述した特許文献2に記載のトランジスタ式点火装置では、発電機が出力電圧を発生している期間(プラス側の半波整流波形が出力されている期間)を検出し、この期間内において通電時間を調整して所要の点火エネルギーを確保するようにしている。また、高回転時において、発電機出力電圧の波形の周期が短く(通電時間が短く)なり、通電エネルギーが不足する場合はサブコイルを用いてエネルギー加算をすることで点火エネルギー不足を解消するようにしている。しかしながら、この特許文献2のトランジスタ式点火装置発電機においては、交流発電機からの出力電圧が発生している期間(プラス側の半波整流波形が出力されている期間)を検出して点火するため制御が複雑化するという問題がある。また、交流発電機の極数が増大するとプラス側の半波整流電圧の出力期間が短くなり点火エネルギーが不足する可能性もあり、さらには、エンジンの高回転時に対応するために点火コイルにサブコイルを付加する必要がありその分コストが上昇するという問題がある。
【0022】
本発明は、斯かる実情に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、バッテリ外れ或いはバッテリ容量の低下により、交流発電機からの出力電圧のみによりエンジン点火を行う場合において、エンジンのキック始動特性を向上させることができる、点火装置、及その点火制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の点火装置は、エンジン駆動される発電機の出力電力により充電されるバッテリと、前記バッテリ及び前記発電機の出力電力により充電される電源用のコンデンサと、前記バッテリ及び前記コンデンサの充電電圧を電圧源として1次側電流が流れる1次巻線と、前記エンジンに装着された点火プラグに点火用高電圧を印加するための2次巻線とを有する点火コイルと、前記1次巻線への前記1次側電流の通電と遮断を制御することにより前記2次巻線に点火用高電圧を発生させ、前記点火プラグに火花放電を発生させる点火制御回路と、を備え、前記点火制御回路は、前記点火コイルの1次巻線への通電開始時における前記コンデンサの第1の電圧と、前記1次巻線への通電遮断時における前記コンデンサの第2の電圧とを検出する電圧検出部と、前記電圧検出部により検出された前記第1の電圧と前記第2の電圧との差分電圧に応じて、前記点火コイルの1次巻線に流れる1次側電流の通電時間を変化させる通電時間制御部と、を備えることを特徴とする。
【0024】
また、本発明の点火装置は、前記電圧検出部は、前記第1の電圧と前記第2の電圧との差分電圧が所定の閾値電圧以上であるか否かを判定し、前記通電時間制御部は、前記電圧検出部により前記第1の電圧と前記第2の電圧との差分電圧が所定の閾値電圧以上であると判定された場合に、前記点火コイルの1次巻線に流す前記1次側電流の通電時間を所定の固定通電時間に設定することを特徴とする。
【0025】
また、本発明の点火装置は、前記通電時間制御部は、前記1次側電流を遮断する点火タイミングにおいて前記点火コイルに流れる1次側電流がピーク値となるように予め設定されている固定通電時間を、前記所定の固定通電時間として設定することを特徴とする。
また、本発明の点火装置は、前記所定の閾値電圧として、複数の所定の閾値電圧が予め設定されており、前記通電時間制御部は、前記複数の所定の閾値電圧それぞれに対応付けられて予め設定されている固定通電時間のうち、前記電圧検出部により判定された所定の閾値電圧に対応付けられている固定通電時間を、前記所定の固定通電時間として設定することを特徴とする。
【0026】
また、本発明の点火装置は、前記通電時間制御部は、前記エンジンの始動の際には、前記所定の固定通電時間により前記点火コイルへの1次側電流の通電を行うことを特徴とする。
【0027】
また、本発明の点火制御方法は、エンジン駆動される発電機の出力電力により充電されるバッテリと、前記バッテリ及び前記発電機の出力電力により充電される電源用のコンデンサと、前記バッテリ及び前記コンデンサの充電電圧を電圧源として1次側電流が流れる1次巻線と、前記エンジンに装着された点火プラグに点火用高電圧を印加するための2次巻線とを有する点火コイルと、前記1次巻線への前記1次側電流の通電と遮断を制御することにより前記2次巻線に点火用高電圧を発生させ、前記点火プラグに火花放電を発生させる点火制御回路と、を備える点火装置における点火制御方法であって、前記点火コイルの1次巻線への通電開始時における前記コンデンサの第1の電圧と、前記1次巻線への通電遮断時における前記コンデンサの第2の電圧とを検出する電圧検出手順と、前記電圧検出手順により検出された前記第1の電圧と前記第2の電圧との差分電圧に応じて、前記点火コイルの1次巻線に流れる1次側電流の通電時間を変化させる通電時間制御手順と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明の点火装置においては、通電開始タイミングにおける電源用のコンデンサの第1の電圧と、通電終了タイミングにおけるコンデンサの第2の電圧とを検出し、第1の電圧と第2の電圧との差分電圧に応じて、点火コイルの1次巻線に流れる1次側電流の通電時間を変化させる。
これにより、バッテリ外れ或いはバッテリ容量の低下により、交流発電機からの出力電圧のみによりエンジン点火を行う場合において、エンジンのキック始動特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1の実施形態に係わる点火装置の構成を示すブロック図である。
【図2】バッテリ接続状態の判定方法について説明するための波形図である。
【図3】バッテリ外れ時の固定通電制御について説明するための波形図である。
【図4】バッテリ外れ検出時における点火制御の切替動作について説明するための波形図である。
【図5】入力電圧検出処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】通電開始処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】点火出力処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】本発明の第2の実施形態に係わる点火装置の動作を説明するための状態遷移図である。
【図9】一般的なトランジスタ式点火装置の構成を示すブロック図である。
【図10】図9に示す点火装置における交流発電機出力の位相と通電及び点火タイミングとを示す波形図である。
【図11】バッテリ外れが発生した場合における通電及び点火制御の例を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。なお、以下の説明において、「通常通電」とは、バッテリ外れ(バッテリから電源線に電力を供給できない状態)が発生していない状態を想定して点火コイルに通電を行う通電方法を意味し、この通常通電の場合には、エンジン回転数に応じた通電時間が予め設定されており、このエンジン回転数に応じて設定された通電時間に従い点火コイルに通電を行うものである。また、「固定通電」とは、バッテリ外れが発生した状態において点火コイルに通電を行う場合に用いられる通電方法を意味し、この「固定通電」においては、後述するように点火コイルの1次巻線に流れる1次側電流がピーク値となるタイミングで電流を遮断するように設定される固定(エンジン回転数に依存しない固定)の通電時間で点火コイルに通電を行うものである。また、「バッテリ外れ」とは、バッテリから電源線に電力を供給できない状態に加えて、バッテリ容量が低下しバッテリから電力を供給できない状態も指している。
【0031】
[第1の実施形態]
(点火装置1の全体構成についての説明)
図1は、本発明の第1の実施形態に係わる点火装置の構成を示すブロック図である。なお、図1に示す点火装置1は、前述した図9に示す点火装置1Aと基本的な構成部分が同じであり、点火制御装置100における制御動作が異なるものである。このため同一の構成部分には同一の符号を付している。
【0032】
図1に示す点火装置1は、交流発電機11と、レギュレータ13と、バッテリ14と、イグニッションスイッチ15と、点火制御装置100と、点火コイル16と、を主要な要素として備えている。
交流発電機11は、エンジン(図示せず)により回転駆動される交流発電機(例えば、単相交流発電機)であり、この交流発電機11にはエンジンの点火のタイミングを検出する回転センサ(例えば、パルサーコイル等)12が付設される。この交流発電機11内のコイル11Aに誘導される交流電圧は、レギュレータ13により整流及び電圧調整(位相制御)され、直流電圧に変換されて直流電源線DCLに出力される。
【0033】
また、点火コイル16は1次巻線W1及び2次巻線W2を有する点火コイルである。点火コイル16の1次巻線W1及び2次巻線W2のそれぞれの一端は共通接続されると共に、直流電源線(ダイオードD1のカソードとコンデンサC1の+側端子とを接続する電源線)に接続される。点火コイル16の2次巻線W2の他端はエンジンの点火プラグ17の高圧側端子に接続され、点火プラグ17の低圧側端子は接地される。また、1次巻線W1の他端は、後述する点火制御回路101内のNPN型のトランジスタQ1のコレクタ端子に接続される。このトランジスタQ1は、1次巻線W1に流れる1次側電流i1を導通または遮断するためのスイッチング部となるトランジスタであり、このトランジスタQ1のエミッタ端子は接地され、そのベース端子には、点火制御回路101内の点火駆動回路104から駆動信号(点火指令信号)が入力される。
【0034】
バッテリ14は、+側端子が直流電源線DCLに接続され、−側端子が接地される。このバッテリ14は、エンジン駆動される交流発電機11からの出力電圧によりレギュレータ13を介して充電される。また、バッテリ14の+側端子は、イグニッションスイッチ15を介して点火制御装置100に接続され、点火コイル16及び点火制御装置100に直流電圧を供給する。なお、イグニッションスイッチ15はエンジンを起動する際に接点SWが閉となるスイッチである。
【0035】
点火制御装置100は、ダイオードD1と、点火電源用のコンデンサC1と、点火制御回路101と、を備えており、点火制御回路101内のトランジスタQ1をスイッチングすることにより点火コイル16の1次巻線W1に1次側電流i1を流すための制御装置である。
この点火制御装置100において、ダイオードD1のアノードはイグニッションスイッチ15を介してレギュレータ13の出力端とバッテリ14の+側端子とに接続され、ダイオードD1のカソードは、コンデンサC1の+側端子に接続されると共に、点火コイル16の一端(1次巻線W1と2次巻線W2の共通接続端子)に接続される。このコンデンサC1は、バッテリ14及びレギュレータ13からダイオードD1を介して充電される電解コンデンサであり、後述するように、バッテリ外れ(或いはバッテリ容量の低下)が発生した場合に、点火コイル16の1次巻線W1に1次側電流を供給する点火用電源となるコンデンサである。
【0036】
点火制御回路101は、抵抗R1及びR2の直列回路からなる抵抗分圧回路と、電源回路102と、波形整形回路103と、点火駆動回路104と、制御用CPU110と、トランジスタQ1と、を備えている。
そして、コンデンサC1の充電電圧Vcは点火制御回路101内の電源回路102の入力電圧となり、この電源回路102は定電圧制御された一定の直流電圧Vdcを出力する。電源回路102は、出力電圧Vdcを制御用CPU110に電源電圧として供給する。また、波形整形回路103は、回転センサ12の出力を波形整形して制御用CPU110の入力信号レベルに適合するように変換する回路である。点火駆動回路104は、制御用CPU110から与えられる指令信号に応じてトランジスタQ1にベース電流(点火指令信号)を与える。
【0037】
また、コンデンサC1の+側端子と接地間には、抵抗R1及びR2の直列回路からなる抵抗分圧回路が接続され、この抵抗R1及びR2の接続点の電圧が、制御用CPU110内に設けられたA/Dコンバータ111を介して該制御用CPU110内に入力される。このA/Dコンバータ111によりコンデンサC1の充電電圧Vcを検出することにより、後述するようにバッテリ外れ(或いはバッテリ容量の低下)の検出を行う。なお、この制御用CPU110内のA/Dコンバータ111は、電源電圧(バッテリ電圧及びコンデンサC1の電圧)の電圧上昇時において点火コイル16の1次巻線W1に過大な電流が流れないようにして保護するために一般的に装備されているものであり、これをそのまま利用することができる。
【0038】
制御用CPU110は、マイクロコンピュータ或いはマイクロコントローラ等で構成されるCPU(演算制御装置)であり、内部にROMやRAMの他に、A/Dコンバータ111や、後述する通電時間制御タイマとして使用されるタイマ(図示せず)や、エンジン回転数を計測するためのカウンタ(図示せず)等を有している。この制御用CPU110内には、前述のA/Dコンバータ111と、電圧検出部112(バッテリ外れ検出部113を含む)と、回転検出部114と、通電時間制御部115と、を有している。また、通電時間制御部115は、後述する固定通電制御部116と、通常通電制御部117とを有している。
【0039】
電圧検出部112は、A/Dコンバータ111の動作を制御し、このA/Dコンバータ111を介して所定のサンプリング周期ごとにコンデンサC1の充電電圧Vcを検出する。また、電圧検出部112内のバッテリ外れ検出部113は、バッテリ14が直流電源線DCLに電源として接続されているか、或いは開放状態であるかを判定する処理を行う。 なお、このバッテリ外れ検出部113における動作については後述する。
回転検出部114は、回転センサ12から出力される信号を波形整形回路103を介して入力し、エンジン回転数と、エンジンの回転角度位置を検出する。例えば、前述したように図10に示すパルス信号VS1が発生するタイミングt1(或いはパルス信号VS2が発生するタイミングt2)を基に、エンジン回転数Nを算出し、また、エンジンの回転角度位置(例えば、点火タイミングTigの位置)を検出する。
【0040】
通電時間制御部115は、回転検出部114から出力されるタイミング信号及びエンジン回転数信号を基に、点火コイル16の点火に必要な点火時期及び通電時間を演算する。通常通電(バッテリ外れが発生していない場合の通電)の場合の通電時間はエンジンの各回転数Nに応じて予め設定されており、例えば、通電時間テーブル(エンジン回転数と通電時間とを対応付けたテーブル)等により保持されている。通電時間制御部115では、この通電時間テーブルを参照してエンジン回転数Nに応じた通電時間Tonを算出する。なお、この通電時間Tonを算出する際には、コンデンサC1の電圧値に応じて通電時間Tonを変化させ、点火コイル16に流れる1次側電流i1のピーク値の大きさを制御することができる。また、例えば、図示しない電流検出回路によりトランジスタQ1に流れる電流を検出することにより、通電時間Tonを変化させて、1次側電流i1の大きさを制御することもできる。
【0041】
また、通電時間制御部115は、不図示の通電時間制御タイマを有しており、この通電時間制御タイマを用いて点火コイル16への通電を制御する。例えば、図10(C)に示すように、通電時間制御部115では、回転周期時間Tnと通電時間Ton(通電開始タイミングTst〜通電終了タイミングTig)とを基に、今回の点火タイミングTigから次のエジンの通電開始タイミングTstまでの通電計測時間(Tn−Ton)を演算し、回転センサ12が今回の点火タイミングTigのパルス信号を発生したときに、通電計測時間(Tn−Ton)の値を通電時間制御タイマに設定してその計測を開始する。そして、通電時間制御タイマが通電計測時間(Tn−Ton)の計測を完了した時に、点火駆動回路104に通電開始指令を出力し、この点火駆動回路104からトランジスタQ1にベース電流(点火指令信号)を供給することにより、点火コイル16への通電を開始する。
【0042】
また、通電時間制御部115は、前述にように固定通電制御部116と、通常通電制御部117とを有しており、通電時間制御部115は、固定通電制御部116と通常通電制御部117と選択することにより、バッテリ外れの発生の有無に応じて点火コイル16に対する通電制御方法を切り替えることができる。
固定通電制御部116は、後述するように、バッテリ外れ検出部113によりバッテリ外れが検出された場合、通常通電の場合の通電時間よりも短い所定の固定通電時間を設定して点火制御を行う。このバッテリ外れが検出された場合、最悪条件下(交流発電機11からの出力電圧のマイナス側半波の周期内で点火を行う場合)では、コンデンサC1の充電電圧のみにより点火を行う必要があり電源に余裕がないため、固定通電制御部116は、点火コイル16へ流す1次側電流の通電時間を所定の固定通電時間に制限して点火を行う。なお、この固定通電制御部116による固定通電制御動作については後述する。
【0043】
一方、通常通電制御部117は、バッテリ外れが発生していない状態において、点火コイル16へ通常通電を行う。この通常通電においては、前述のようにエンジン回転数Nに応じて予め設定された通電時間に従って点火コイル16に通電を行う、この通常通電においては、バッテリ外れが発生しておらず点火コイル16を駆動する電源に余裕があるので、上述の固定通電状態における固定通電時間よりも長い通電時間が設定される。すなわち、通常通電制御部117は、点火コイル16の1次巻線W1へ流れる1次側電流i1が飽和値に達するまでに必要な時間を満たすように十分な通電時間を設定することができる。また、この通常通電においては固定通電のように通電時間を制限する必要がないため、通常通電制御部117では、上述のように、電源電圧(より正確にはコンデンサC1の電圧値)に応じて通電時間Tonを変化させ、点火コイル16に流れる1次側電流i1の大きさを制御することができる。また、例えば、図示しない電流検出回路によりトランジスタQ1に流れる電流を検出することにより、通電時間Tonを変化させて、1次側電流i1の大きさを制御することもできる。
【0044】
なお、上述した制御用CPU110は、CPU、ROM、RAM、A/Dコンバータ、タイマ、及びカウンタ等を有するマイクロコントローラやマイクロコンピュータ等を用いて構成されており、この制御用CPU110において行われる処理の過程は、プログラムの形式でROM等に記憶されており、このプログラムをCPUが読み出して実行することによって、制御用CPU110に必要な機能が実現される。すなわち、電圧検出部112、バッテリ外れ検出部113、回転検出部114、通電時間制御部115、固定通電制御部116、及び通常通電制御部117等における各処理の全部または1部の機能は、CPUがROM等から上記プログラムを読み出して、情報の加工、演算処理を実行することにより、実現されるものである。
【0045】
(バッテリ外れ検出方法についての説明)
上述したように本実施形態の点火装置1においては、制御用CPU110内の電圧検出部112が、コンデンサC1の電圧Vcを所定のサンプリング周期でA/Dコンバータ111により取得する。そして、バッテリ外れ検出部113は、点火コイル16へ通電を開始する通電開始タイミングにおけるコンデンサ電圧Vc1と、通電終了タイミングにおけるコンデンサ電圧Vc2との差分電圧(Vc1−Vc2)が、バッテリ14が接続されている場合と外れている場合とでは違いがあることを利用して、バッテリ14が外れているか否かの判定を行う。
【0046】
以下、このバッテリ外れ検出部113におけるバッテリ外れの検出方法について説明する。図2は、バッテリ接続状態の判定方法について説明するための図である。図2(A)はバッテリ外れが発生した場合、図2(B)はバッテリが接続されている場合を示しており、それぞれの図において、横方向に時間tの経過を示し、縦方向に、トランジスタQ1の駆動信号(点火制御信号)の波形と、コンデンサC1の電圧Vcの波形とを並べて示したものである。
【0047】
この図に示すように、バッテリ外れ検出部113では、通電を開始するタイミングTstにおけるコンデンサ電圧Vc1と、通電終了タイミング(点火タイミング)Tigにおけるコンデンサ電圧Vc2(通電中の最小電圧値)との差分電圧(Vc1−Vc2)を算出し、この差分電圧(Vc1−Vc2)が閾値電圧Vthより大きいか否かを判定する。
【0048】
図2(A)に示すバッテリ外れが発生している場合は、最悪条件下(交流発電機11からの出力電圧のマイナス側半波の周期内で点火を行う場合)では、コンデンサC1の充電電荷のみにより点火コイル16の1次巻線W1に電流が供給されることになる。このため、通電開始タイミングTstおいてトランジスタQ1の駆動信号がオン(高レベル)になり、コンデンサC1から点火コイル16の1次巻線W1に電流が流れるに従い、コンデンサC1の電圧Vcが、通電開始タイミングTst時におけるコンデンサ電圧Vc1から、通電終了タイミングTigのコンデンサ電圧Vc2まで大幅に低下する。
このため、差分電圧(Vc1−Vc2)が閾値電圧Vthよりも大きくなり、これによりバッテリ外れ検出部113は、バッテリ外れ(或いはバッテリ容量の低下)が発生していると判定する。
【0049】
一方、図2(B)のバッテリが接続されている状態の場合は、バッテリ14とコンデンサC1の両方から点火コイル16の1次巻線W1に電流が供給されることになる。このため、通電開始タイミングTst時におけるコンデンサ電圧Vc1に比べて、通電終了タイミングTigにおけるコンデンサ電圧Vc2は低下の割り合いが少なく、差分電圧(Vc1−Vc2)が閾値電圧Vthよりも小さくなる。これによりバッテリ外れ検出部113は、バッテリが接続されていると判定する。
【0050】
そして、バッテリ外れ検出部113において、バッテリ外れが発生していると判定された場合、通電時間制御部115は、上述の固定通電制御部116を選択し、点火コイル16へ流す1次側電流の通電時間を所定の固定通電時間に制限して点火を行う。一方、バッテリ外れ検出部113において、バッテリが接続されていると判定された場合は、通電時間制御部115は、上述の通常通電制御部117を選択して点火コイル16へ対して通常通電を行う。
【0051】
(バッテリ外れ時における固定通電制御についての説明)
次に、固定通電制御部116において行われる固定通電制御について説明する。図3は、バッテリ外れ発生時の固定通電制御について説明するための図である。この図3では、横方向に時間tの経過を示し、縦方向に、図3(A)のトランジスタQ1の駆動信号の波形と、図3(B)のコンデンサC1の電圧波形と、図3(C)の1次巻線W1の1次側電流波形、図3(D)の制御用CPU110に供給される電源電圧波と、を並べて示している。
【0052】
この図3(C)に示すように、バッテリ外れが発生した状態において、通電時間制御部115は固定通電制御部116を選択して点火コイル16への通電制御を行う。この固定通電制御部116では、図3(C)の実線の波形bで示すように、1次側電流i1がピーク値となるタイミング(点火タイミングTig)で電流を遮断できるように通電開始タイミングTst´を設定する。この場合の通電時間(Tst´〜Tig)は、通常通電の場合の通電時間(Tst〜Tig)に対して短く設定されるため、図3(B)の実線の波形bで示すようにコンデンサC1の電圧もコンデンサ電圧Vc2までしか低下しない。また、図3(D)の実線の波形bで示すように、制御用CPU110に供給される電源電圧ついても、一定値の電圧Vdc1を維持することができる。
【0053】
これに対して、バッテリ外れが発生した状態において、通常通電制御部117により通電制御を行うと、図3(A)に示すように通常通電における通電開始タイミングTstで点火コイル16への通電を開始する。このため、図3(B)の破線の波形aで示すように、コンデンサ電圧Vcは、点火コイル16への通電が進行するに従い次第に低下し、通電終了タイミング(点火タイミング)Tigにおいて最小のコンデンサ電圧Vc2´(Vc2´<Vc2)となる。
【0054】
また、図3(C)の破線の波形で示すように、点火コイル16の1次側電流i1は、通電開始タイミングTstの後、一旦ピーク値を示したのちに次第に低下し、通電終了タイミングTigにおいては、1次側電流i1´(i1´<i1)まで低下する。このため、点火コイル16における通電エネルギーが不足することになる。さらには、図3(D)の破線の波形aで示すように、制御用CPU110の電源電圧ついても、通電終了タイミングTigにおいて電圧Vdc2まで低下することになり、制御用CPU110の動作が停止する可能性がある。
【0055】
上述したように固定通電制御部116は、1次側電流i1がピーク値となるタイミング(点火タイミングTig)で電流を遮断できるように通電開始タイミングTst´を設定する。この通電開始タイミングTst´は、エンジン回転数に依存しない固定通電時間として設定することができる。この固定通電時間は、コンデンサC1の静電容量と点火コイルのインダクタンス成分Lと抵抗成分Rにより決定される既知の値である。従って、固定通電制御部116おいては、予め点火エネルギーがピーク(1次側電流i1がピーク値)となる通電時間Ton´を算出し、この通電時間Ton´と回転周期時間Tn(図10を参照)とにより、前述した通電時間制御タイマに計測時間(Tn−Ton´)設定しておくことで、バッテリ14が外れた場合に入力される電圧(コンデンサ電圧Vc)に対して、最適な通電時間の制御が可能となる。
【0056】
また、通電時間制御部115では、回転検出部114から入力したエンジン回転数Nの信号を基に、所定の回転数以上においては、上述したバッテリ外れ検出動作、及び固定通電動作への切り替え動作を停止することができる。これは、エンジン回転数の上昇に伴い交流発電機11から入力される電圧レベルが上昇するため、上述したような通電時間の切替制御が不要となる中回転数以上になると、上述したバッテリ外れの検出動作と、固定通電制御への切替動作を行わないようにすることができる。
【0057】
図4は、バッテリ外れ検出時における点火制御の切替動作について説明するための波形図であり、上述した、通電時間制御部115における通常通電制御から固定通電制御への切り替え動作について説明するための波形図である。この図4では、横方向に時間tの経過を示し、縦方向に、図4(A)のエンジン回転パルス信号の波形と、図4(B)のトランジスタQ1の駆動信号の波形と、図4(C)のコンデンサC1の電圧波形と、図4(D)のA/Dコンバータ111により入力電圧(コンデンサ電圧Vc)を取り込むためのサンプリングパルスの波形と、を並べて示している。
【0058】
この図4に示す例では、最初の通電期間T1において、通常通電制御部117により通常通電制御を行うことにより、この期間T1においてバッテリ外れが検出され、このバッテリ外れが検出されたことに応じて次の通電期間T2において、固定通電制御部116により固定通電制御を行う例を示している。
【0059】
まず、図4(B)に示すように、最初の通電期間T1において、通常通電制御部117による通常通電制御により通電開始タイミングTstから通電終了タイミング(点火タイミング)Tigまでの時間Tonの間、点火コイル16の1次巻線W1への通電が行われる。電圧検出部112では、通電開始タイミングTstの直前にA/Dコンバータ111によりサンプリングしたデータを、コンデンサ電圧Vc1の確定した電圧として保持する。その後、点火コイル16への通電が進行するに従い、図4(C)に示すように、コンデンサC1の電圧値は次第に低下し、通電終了タイミング(点火タイミング)Tigにおいて最小のコンデンサ電圧となる。電圧検出部112では、この通電終了タイミングTigにおけるコンデンサ電圧Vc2を最小のコンデンサ電圧として確定して保持する。
【0060】
続いて、バッテリ外れ検出部113では、通電開始の直前のコンデンサ電圧Vc1(確定値)と、通電が終了した時点でのコンデンサ電圧Vc2(確定値)とを基に、この電圧Vc1と電圧Vc2との差分電圧(Vc1−Vc2)を算出し、この差分電圧(Vc1−Vc2)が所定の閾値電圧Vthよりも大きいか否かを判定する。この図に示す例では、期間T1の通常通電において差分電圧(Vc1−Vc2)が閾値電圧Vthよりも大きくなるため、バッテリ外れ検出部113では、バッテリ外れ(或いはバッテリ容量の低下)が発生していると判定する。このバッテリ外れ検出部113において判定されたバッテリ外れの検出情報は、通電時間制御部115に出力される。
【0061】
通電時間制御部115は、バッテリ外れ検出部113からバッテリ外れを示す信号が入力されると、点火制御を通常通電制御から固定通電制御に切り替えることを決定し、次の通電期間T2においては固定通電制御部116を選択し、通電時間を固定通電時間に制限して点火コイル16への通電を行う。
【0062】
そして、次の通電期間T2においては、点火コイル16への通電時間Ton´が、通常通電時間Tonに比べて短く設定されることにより通電時間が制限される。すなわち、図4(B)に示すように、通電開始タイミングTstが新たな通電開始タイミングTst´に変更され、点火コイル16への通電時間がTonからTon´に短縮され通電時間が制限された状態になる。そして、固定通電制御部116では、回転周期時間Tnと通電時間Ton´とを基に、期間T1における点火タイミングTigから次の通電開始タイミングTst´までの計測時間(Tn−Ton´)を演算し、期間T1の通電終了タイミングTigにおいて計測時間(Tn−Ton´)の値を通電時間制御タイマに設定してその計測を開始させる。そして、固定通電制御部116は、通電時間制御タイマが計測時間(Tn−Ton´)の計測を完了した時に、すなわち期間T2における通電開始タイミングTst´において、点火駆動回路104を介してトランジスタQ1に駆動信号を供給し、点火コイル16への通電を開始する。
【0063】
この期間T2における固定通電においては、図4(C)に示すようにコンデンサC1の電圧がコンデンサ電圧Vc2´まで低下する。このコンデンサ電圧Vc2´は、期間T1において低下したコンデンサ電圧Vc2と比較して、その低下の割合が少ない。しかしながら、差分電圧(Vc1−Vc2´)が依然として閾値電圧Vthよりも大きい(Vc1−Vc2´>Vth)ため、固定通電制御部116は固定通電状態(固定通電)を維持する。なお、バッテリが接続された状態になると、差分電圧(Vc1−Vc2´)が「Vc1−Vc2´<Vth」となるため、通電時間制御部115は、通常通電制御部117を選択することにより通常通電状態に切り替える。
【0064】
また、図5、図6、及び図7は、上述した点火制御における処理の流れをフローチャートで示したものである。
このうち、図5は、制御用CPU110内の電圧検出部112における入力電圧検出処理の流れを示すフローチャートである。以下、図5を参照して、電圧検出部112における処理の流れについて説明する。
電圧検出部112では、A/Dコンバータ111を介して、所定のサンプリング周期でコンデンサ電圧Vcの電圧値をサンプリングデータとして取得する(ステップS11)。そして、電圧検出部112は、コンデンサ電圧Vc1の更新期間であるか否かを判定する(ステップS12)。すなわち、電圧検出部112は、現在の状態が点火コイル16への通電中でなければ、コンデンサ電圧Vc1の更新期間と判定し(ステップS12:YES)、取得したコンデンサ電圧Vcの電圧データをコンデンサ電圧Vc1として保持する(ステップS13)。
【0065】
一方、ステップS12において更新期間でないと判定された場合(ステップS12:NO)、すなわち点火コイル16への通電中と判定された場合は、電圧検出部112は、コンデンサ電圧Vcのサンプリングデータを取得し、この今回取得したデータ(電圧値)が現在保持している通電中のコンデンサ電圧Vc2よりも小さいか否かを判定する(ステップS14)。そして、電圧検出部112では、今回取得したデータが、現在保持しているコンデンサ電圧Vc2よりも小さい場合は(ステップS14:YES)、今回取得したデータを新たなコンデンサ電圧Vc2の最小電圧値として保持する(ステップS15)。また、電圧検出部112は、今回取得したデータが、現在保持している通電中のコンデンサ電圧Vc2よりも大きい場合は(ステップS14:NO)、現在保持しているコンデンサ電圧Vc2をそのまま最小電圧値として保持する。
【0066】
また、図6は、通電開始処理の流れを示すフローチャートである。点火制御回路101により点火コイル16への通電が開始されると、電圧検出部112では、点火コイル16への通電を開始する前に取得したコンデンサ電圧Vcの電圧をコンデンサ電圧Vc1として確定し、この値を保持する(ステップS21)。その後に、電圧検出部112は、通電中のコンデンサ電圧Vc2の更新期間に移行する(ステップS22)。このステップS22におけるコンデンサ電圧Vc2の更新処理は、図5に示すフローチャートに従って行われる。但し、点火コイル16への通電中でありコンデンサ電圧Vc1の期間ではないため、図5に示すフローチャートにおいてコンデンサ電圧Vc1は更新されず(ステップS13は実行されず)、ステップS14及びステップS15に示すコンデンサ電圧Vc2の更新処理のみが行われる。そして、電圧検出部112では、点火コイル16への通電が終了した時点でのコンデンサ電圧Vcを最小のコンデンサ電圧Vc2として保持する。
【0067】
また、図7は、点火出力処理の流れを示すフローチャートである。以下、図7を参照して、その処理の流れについて説明する。
電圧検出部112では、点火コイル16への通電が終了した時点でのコンデンサ電圧Vcを最小のコンデンサ電圧Vc2として確定する(ステップS31)。続いて、バッテリ外れ検出部113では、通電開始の直前のコンデンサ電圧Vc1と、通電が終了した時点でのコンデンサ電圧Vc2とを電圧検出部112から読み出し、この電圧Vc1と電圧Vc2との差分電圧(Vc1−Vc2)を算出し、この差分電圧(Vc1−Vc2)が所定の閾値電圧Vthよりも大きいか否かを判定する(ステップS32)。
【0068】
そして、差分電圧(Vc1−Vc2)が所定の閾値電圧Vthよりも大きい場合は(ステップS32:YES)、バッテリ外れ検出部113によりバッテリ外れ(或いはバッテリ容量の低下)が発生していると判定されるため、通電時間制御部115では、固定通電制御部116を選択し、点火コイル16に対して固定通電による点火制御を行う(ステップS33)。この後に、図5のフローチャートに示すコンデンサ電圧Vc1の更新期間に移行し、電圧検出部112によりコンデンサ電圧Vc1を検出する(ステップS35)。
【0069】
一方、ステップS32において、差分電圧(Vc1−Vc2)が所定の閾値電圧Vthよりも小さい場合は(ステップS32:NO)、バッテリ外れ検出部113によりバッテリ外れ(またはバッテリ容量の低下)が発生していないと判定されるため、通電時間制御部115は、通常通電制御部117を選択し、点火コイル16に対して通常通電により点火制御を行う(ステップS34)。この後に、図5のフローチャートに示すコンデンサ電圧Vc1の更新期間に移行し、電圧検出部112によりコンデンサ電圧Vc1を検出する(ステップS35)。
【0070】
[第2の実施形態]
上述した第1の実施形態では、点火コイル16の1次巻線W1に1次側電流を供給する電源電圧(より正確にはコンデンサC1の充電電圧Vc)を検出し、バッテリ外れ検出部113によりバッテリ外れ(或いはバッテリ容量の低下)が発生しているか否かを判定した後に、通電時間制御部115が、通常通電により制御を行うか、固定通電により制御を行うかを選択する例について説明した。
【0071】
しかしながら、第1の実施形態ではエンジン起動直後には点火コイル16に対して通常通電を行うことを予定しているため、エンジン起動直後の極低回転の状態においてバッテリ外れが発生している場合は、この通電時間中にコンデンサC1の電圧Vcが大幅に低下することになる。このため、電圧検出部112によりコンデンサ電圧Vcを検出し、バッテリ外れ検出部113によりバッテリ外れの有無の判定を行う前に、制御用CPU110自体の電源電圧Vdcが最低動作作電圧(CPUリセット電圧)以下になり、制御用CPU110の動作が停止してしまう可能性がある。
【0072】
この問題に対処するために、本発明の第2の実施形態として、点火装置1が、エンジン起動直後から、点火コイル16へ通電を固定通電により開始する例について説明する。このように、点火装置1がエンジン始動時において固定通電状態からスタートすることにより、エンジン起動直後の極低回転の状態においてバッテリ外れが発生し、かつ最悪条件下(交流発電機11からの出力電圧のマイナス側半波の周期内で点火を行う場合)においても、コンデンサC1の電圧低下を抑制し、制御用CPU110の電源電圧Vdcを一定値に保持することができる。これにより、点火装置1では、エンジンのキック始動時においてエンジン低回転から確実にエンジン点火制御を行うことが可能になる。
なお、この第2の実施形態における点火装置の構成は、図1に示す点火装置1と同様な構成であり、制御用CPU110内の通電時間制御部115における制御動作の内容が一部異なるだけのものである。
【0073】
図8は、本発明の第2の実施形態に係わる点火装置の動作を説明するための状態遷移図である。以下、この図8を参照して、第2の実施形態における点火装置の動作について説明する。
【0074】
点火装置1においてイグニッションスイッチ15がオンになると、図8(A)に示すように、最初に、点火制御回路101(より正確には制御用CPU110)はリセット状態に移行する(状態ST1)。その後にエンジンを始動すると、このエンジン始動の時点において、点火制御回路101は固定通電状態(状態ST2)に移行する(矢付線S101)。この固定通電状態(状態ST2)においては、通電時間制御部115は固定通電制御部116を選択して点火コイル16へ固定通電により通電を行う。この固定通電状態(状態ST2)において、固定通電制御部116は、図8(B)に示すように、点火コイル16に流れる1次側電流i1がピーク値となるタイミング(点火タイミングTig)で電流を遮断できるように通電開始タイミングTst´を設定する(図3(C)を参照)。
【0075】
そして、この固定通電状態(状態ST2)においては、図8(C)に示すように、電圧検出部112により、通電開始タイミングTst´におけるコンデンサ電圧Vc1と、通電終了タイミングTigにおけるコンデンサ電圧Vc2aまたはVc2bを検出する。この図8(C)に示すように、バッテリ14が接続されている場合は、点火タイミングTigにおけるコンデンサ電圧Vcは、コンデンサ電圧Vc1に比べて低下の度合いが小さくコンデンサ電圧Vc2aとなる。一方、バッテリ外れが発生している場合は、点火タイミングTigにおけるコンデンサ電圧Vcは、コンデンサ電圧Vc1に比べて低下の度合いが大きくコンデンサ電圧Vc2bとなる。
【0076】
この固定通電状態(状態ST1)において、バッテリ外れ検出部113は、通電開始タイミングTst´におけるコンデンサ電圧Vc1と、通電終了タイミング(点火タイミング)Tigにおけるコンデンサ電圧Vc2a又はVc2bとの差分電圧を算出して、所定の閾値電圧Vth´よりも大きいか否かを判定する。そして、バッテリ外れが発生している場合は、図8(C)の実線bの波形に示すように、通電終了タイミングTigにおけるコンデンサC1の電圧はコンデンサ電圧Vc2bとなる。従って、差分電圧(Vc1−Vc2b)はVth´よりも大きくなり(Vc1−Vc2b>Vth´)、バッテリ外れ検出部113では、バッテリ外れが発生していると判定し、通電時間制御部115では、固定通電状態(状態ST2)をそのまま継続する。
【0077】
一方、バッテリ外れが発生していない場合は、図8(C)の実線aの波形に示すように、通電終了タイミングTigにおけるコンデンサC1の電圧はコンデンサ電圧Vc2aとなる。従って、差分電圧(Vc1−Vc2a)はVth´よりも小さくなり(Vc1−Vc2a<Vth´)、バッテリ外れ検出部113では、バッテリが接続されていると判定し、通電時間制御部115では、通常通電制御部117を選択して通常通電状態(ST3)に移行する(矢付線S102)。
【0078】
通常通電状態(状態ST3)に移行すると、この通常通電状態(状態ST3)においては、電圧検出部112により、通電開始タイミングTstにおけるコンデンサ電圧Vc1と、通電終了タイミングTigにおけるコンデンサ電圧Vc2とが検出される。また、バッテリ外れ検出部113により、この電圧Vc1とVc2との差分電圧(Vc1−Vc2)が算出され、この差分電圧(Vc1−Vc2)が所定の閾値電圧Vthよりも大きいか否かが判定される。この通常通電状態(状態ST3)は、バッテリ外れが発生しない限りにおいては、そのまま継続される。そして、何らかの理由により、バッテリ外れ(或いはバッテリ容量の低下)が発生した場合は、図8(C)の破線cの波形に示すように、通電終了タイミングTigにおけるコンデンサ電圧Vc2cまで大きく低下する。このため、差分電圧(Vc1−Vc2c)が所定の閾値電圧Vthよりも大きくなり(Vc1−Vc2c>Vth)、バッテリ外れ検出部113は、バッテリ外れが発生したと判定する。
【0079】
通常通電状態(状態ST3)においてバッテリ外れが発生すると、通電時間制御部115は、点火コイル16への点火制御を、通常通電状態(ST3)から固定通電状態(ST2)に切り替える(矢付線S103)。なお、通電時間制御部115は、通常通電状態(状態ST3)において、例えば、エンジン回転が停止するなどしてエンジン回転信号にエラーが発生した場合においても、通常通電状態(ST3)を固定通電状態(ST2)に切り替える。また、固定通電状態(ST2)及び通常通電状態(ST3)において、例えば、イグニッションスイッチ15が開放され、制御用CPU110の電源が切断されるなどの状態が発生した場合は、リセット状態(ST1)に戻ることになる(矢付線S100a及びS100b)。
【0080】
以上、本発明の第1及び第2の実施形態において説明したように、本実施形態の点火装置1では、バッテリ外れ(或いはバッテリ容量の低下)が発生し、かつ点火コイル16への通電期間が交流発電機11のマイナス(負側の半波)の出力期間である場合においても、コンデンサC1に充電されたエネルギーのみによりエンジン点火を行うことができる。これにより、本実施形態の点火装置1では、エンジン点火を行う場合のキック始動特性を向上させることができる。さらに、本実施形態の点火装置1では、交流発電機11の極数や取り付け角度によりプラス(正側の半波)の出力波形が重なって出力される場合においても、点火エネルギーおよび制御用電源保持の状態を事前に検討し、固定通電制御における固定通電時間や、固定通電制御から通常通電制御へ切り替えを行う回転数の最適値を設定することで、始動性の向上を図ることが可能である。
【0081】
なお、ここで本発明と上記実施形態との対応関係について説明しておく。
上記実施形態において、本発明における点火装置は、点火装置1が対応し、本発明における発電機は、交流発電機11が対応し、本発明におけるバッテリは、バッテリ14が対応する。また、本発明における点火コイルは、点火コイル16が対応し、本発明におけるコンデンサは、コンデンサC1が対応する。また、本発明における点火制御回路は、点火制御回路101が対応する。この点火制御回路101は、図1に示すように、点火制御装置100内に含まれ、この点火制御回路101内には、抵抗R1及びR2の抵抗分圧回路と、電源回路102と、制御用CPU110と、波形整形回路103と、点火駆動回路104と、トランジスタQ1とが含まれる。
【0082】
そして、上記実施形態において、点火装置1は、エンジン駆動される交流発電機11の出力電力により充電されるバッテリ14と、バッテリ14及び交流発電機11の出力電力により充電される電源用のコンデンサC1と、バッテリ14及びコンデンサC1の充電電圧を電圧源として1次側電流が流れる1次巻線W1と、エンジンに装着された点火プラグ17に点火用高電圧を印加するための2次巻線W2とを有する点火コイル16と、1次巻線W1への1次側電流の通電と遮断を制御することにより2次巻線W2に点火用高電圧を発生させ、点火プラグ17に火花放電を発生させる点火制御回路101と、を備え、点火制御回路101は、点火コイル16の1次巻線W1への通電開始時におけるコンデンサC1の第1の電圧Vc1と、1次巻線W1への通電遮断時におけるコンデンサC1の第2の電圧Vc2を検出する電圧検出部112と、電圧検出部112により検出された第1の電圧Vc1と第2の電圧Vc2との差分電圧(Vc1−Vc2)に応じて、点火コイル16の1次巻線W1に流れる1次側電流の通電時間を変化させる通電時間制御部115と、を備える。
【0083】
このような構成の点火装置1においては、電圧検出部112により、1次巻線W1への通電開始時(通電開始タイミングTst)におけるコンデンサC1の電圧Vc1と、通電終了時(点火タイミングTig)におけるコンデンサ電圧Vc2(Vc1>Vc2)を検出する。そして、通電時間制御部115は、電圧Vc1と電圧Vc2との差分電圧(Vc1−Vc2)に応じて、点火コイル16の1次巻線W1に流れる1次側電流の通電時間を変化させる。これは、バッテリ14が接続されている場合と外れている場合とでは、電圧Vc1及びVc2の差分電圧(Vc1−Vc2)の大きさに違いがあるため、電圧検出部112では、この違いを利用してバッテリ外れを検出する。通電時間制御部115は、このバッテリ14が接続されている場合と外れている場合とに応じた通電時間を設定して点火コイル16に通電を行う。
これにより、バッテリが外れた場合(或いはバッテリ容量が低下した場合)のエンジンのキック始動時において、点火エネルギー不足の発生を防止し、エンジン始動特性の向上を図ることができる。
【0084】
また、上記実施形態において、電圧検出部112は、第1の電圧Vc1と第2の電圧Vc2との差分電圧(Vc1−Vc2)が所定の閾値電圧以上であるか否かを判定し、通電時間制御部115は、電圧検出部112により第1の電圧Vc1と第2の電圧Vc2との差分電圧(Vc1−Vc2)が所定の閾値電圧Vth以上であると判定された場合に、点火コイル16の1次巻線W1に流す1次側電流の通電時間を所定の固定通電時間に設定する。
【0085】
このような構成の点火装置1においては、電圧検出部112により、1次巻線W1への通電開始時(通電開始タイミングTst)におけるコンデンサC1の電圧Vc1と、通電終了時(点火タイミングTig)におけるコンデンサ電圧Vc2を検出する。そして、通電時間制御部115は、電圧Vc1と電圧Vc2との差分の電圧(Vc1−Vc2)の大きさが所定の閾値電圧Vth以上である場合に、点火コイル16の1次巻線W1に流す1次側電流の通電時間を所定の固定通電時間になるように設定する。これは、差分の電圧(Vc1−Vc2)が所定の閾値電圧Vthより大きい場合は、バッテリ外れ(或いはバッテリ容量の低下)が発生している場合であり、このバッテリ外れが発生し、かつ最悪条件下(交流発電機11からの出力電圧のマイナス側半波の周期内で点火を行う場合)では、コンデンサC1に蓄積された電荷のみにより点火コイル16に1次側電流を流すことになる。このため、このコンデンサC1に蓄積された充電エネルギーを最大限有効に活用して点火を行うために、点火コイル16へ流す1次側電流の通電時間を所定の固定通電時間に制限する。
これにより、バッテリが外れた場合(或いはバッテリ容量が低下した場合)のエンジンのキック始動時において、点火エネルギー不足の発生を防止し、エンジン始動特性の向上を図ることができる。
【0086】
また、上記実施形態において、通電時間制御部115は、1次側電流を遮断する点火タイミングにおいて点火コイル16に流れる1次側電流がピーク値となるように予め設定されている固定通電時間を、所定の固定通電時間として設定する。
このような構成の点火装置1では、バッテリ外れ(或いはバッテリ容量の低下)が発生し、かつ最悪条件下(交流発電機11からの出力電圧のマイナス側半波の周期内で点火を行う場合)では、コンデンサC1に蓄積された電荷のみにより点火コイル16に1次側電流を流すことになる。このため、通電時間制御部115は、点火コイル16への通電開始後、1次側電流がピーク値となるタイミングで当該1次側電流を遮断することができるように固定通電時間を設定する。この固定通電時間は、コンデンサC1の静電容量Cと、点火コイルのインダクタンス成分Lおよび抵抗成分Rにより決定される既知の値である。従って、予め点火エネルギーがピークとなる固定通電時間を算出し決定しておくことで、最適な通電時間により点火を行うことが可能になる。
これにより、バッテリが外れた場合(或いはバッテリ容量が低下した場合)のエンジンのキック始動時において、点火エネルギー不足の発生を防止し、エンジン始動特性の向上を図ることができる。
【0087】
また、上記実施形態において、通電時間制御部115は、エンジンの始動の際には、上記所定の固定通電時間により点火コイル16への1次側電流の通電を行う。
このような構成の点火装置1では、エンジン起動直後から点火コイル16への1次側電流の通電時間を固定通電時間に制限した状態からスタートする。このように、点火コイル16への通電時間を固定通電時間に制限した状態からスタートすることにより、バッテリ外れが発生し、かつ最悪条件下(交流発電機11からの出力電圧のマイナス側半波の周期内で点火を行う場合)においても、コンデンサC1における電圧低下を少なくし、制御用CPU110の電源電圧を保持することができるので、エンジンのキック始動時において低回転から確実な点火動作を行うことが可能になる。
【0088】
なお、上記実施形態において、電圧検出部112が検出する際の上記所定の閾値電圧として、複数の所定の閾値電圧が予め設定されており、通電時間制御部115は、これら複数の所定の閾値電圧それぞれに対応付けられて予め設定されている固定通電時間のうち、電圧検出部112により判定された所定の閾値電圧に対応付けられている固定通電時間を、上記所定の固定通電時間として設定してもよい。
例えば、固定通電制御部116は、上記所定の固定通電時間に関して、電圧検出部112において電圧差分の判定に使用される閾値電圧Vthとそれに対応付けられている固定通電時間とを複数個のテーブルとして設ける事により、複数の固定通電時間を設けていてもよい。そして、通電時間制御部115は、固定通電制御部116がこの複数の固定通電時間のうち、電圧検出部112における閾値電圧Vthに基づいて選択した固定通電時間を、所定の固定通電時間として設定する構成としてもよい。これにより、点火装置1において、通電時間制御部115は、コンデンサC1の静電容量C、点火コイルのインダクタンス成分Lおよび抵抗成分Rのばらつき、または、発電機の極数や取り付け角度に左右されず、より安定性の高い通電制御を行うことも可能である。
【0089】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明の点火装置は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0090】
1,1A…点火装置
11…交流発電機
11A…コイル
12…回転センサ
13…レギュレータ
14…バッテリ
15…イグニッションスイッチ
16…点火コイル
17…点火プラグ
100…点火制御装置
101…点火制御回路
102…電源回路
103…波形整形回路
104…点火駆動回路
111…A/Dコンバータ
112…電圧検出部
113…バッテリ外れ検出部
114…回転検出部
115…通電時間制御部
116…固定通電制御部
117…通常通電制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン駆動される発電機の出力電力により充電されるバッテリと、
前記バッテリ及び前記発電機の出力電力により充電される電源用のコンデンサと、
前記バッテリ及び前記コンデンサの充電電圧を電圧源として1次側電流が流れる1次巻線と、前記エンジンに装着された点火プラグに点火用高電圧を印加するための2次巻線とを有する点火コイルと、
前記1次巻線への前記1次側電流の通電と遮断を制御することにより前記2次巻線に点火用高電圧を発生させ、前記点火プラグに火花放電を発生させる点火制御回路と、
を備え、
前記点火制御回路は、
前記点火コイルの1次巻線への通電開始時における前記コンデンサの第1の電圧と、前記1次巻線への通電遮断時における前記コンデンサの第2の電圧とを検出する電圧検出部と、
前記電圧検出部により検出された前記第1の電圧と前記第2の電圧との差分電圧に応じて、前記点火コイルの1次巻線に流れる1次側電流の通電時間を変化させる通電時間制御部と、
を備えることを特徴とする点火装置。
【請求項2】
前記電圧検出部は、
前記第1の電圧と前記第2の電圧との差分電圧が所定の閾値電圧以上であるか否かを判定し、
前記通電時間制御部は、
前記電圧検出部により前記第1の電圧と前記第2の電圧との差分電圧が所定の閾値電圧以上であると判定された場合に、
前記点火コイルの1次巻線に流す前記1次側電流の通電時間を所定の固定通電時間に設定する
ことを特徴とする請求項1に記載の点火装置。
【請求項3】
前記通電時間制御部は、
前記1次側電流を遮断する点火タイミングにおいて前記点火コイルに流れる1次側電流がピーク値となるように予め設定されている固定通電時間を、前記所定の固定通電時間として設定する
ことを特徴とする請求項2に記載の点火装置。
【請求項4】
前記所定の閾値電圧として、複数の所定の閾値電圧が予め設定されており、
前記通電時間制御部は、
前記複数の所定の閾値電圧それぞれに対応付けられて予め設定されている固定通電時間のうち、前記電圧検出部により判定された所定の閾値電圧に対応付けられている固定通電時間を、前記所定の固定通電時間として設定する
ことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の点火装置。
【請求項5】
前記通電時間制御部は、
前記エンジンの始動の際には、前記所定の固定通電時間により前記点火コイルへの1次側電流の通電を行う
ことを特徴とする請求項2から請求項4の何れか1項に記載の点火装置。
【請求項6】
エンジン駆動される発電機の出力電力により充電されるバッテリと、前記バッテリ及び前記発電機の出力電力により充電される電源用のコンデンサと、前記バッテリ及び前記コンデンサの充電電圧を電圧源として1次側電流が流れる1次巻線と、前記エンジンに装着された点火プラグに点火用高電圧を印加するための2次巻線とを有する点火コイルと、前記1次巻線への前記1次側電流の通電と遮断を制御することにより前記2次巻線に点火用高電圧を発生させ、前記点火プラグに火花放電を発生させる点火制御回路と、を備える点火装置における点火制御方法であって、
前記点火コイルの1次巻線への通電開始時における前記コンデンサの第1の電圧と、前記1次巻線への通電遮断時における前記コンデンサの第2の電圧とを検出する電圧検出手順と、
前記電圧検出手順により検出された前記第1の電圧と前記第2の電圧との差分電圧に応じて、前記点火コイルの1次巻線に流れる1次側電流の通電時間を変化させる通電時間制御手順と、
を含むことを特徴とする点火制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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