説明

点火装置及び点火システム

【課題】着火性の向上を図りつつ、点火プラグにおいて十分な耐久性を確保する。
【解決手段】点火装置31は、一次コイル42と点火プラグ1に接続される二次コイル43とを有するとともに、一次コイル42に流れる一次電流を遮断することで二次コイル43に二次電圧を発生させる点火コイル41と、二次コイル43及び点火プラグ1間において点火プラグ1と並列に接続され、二次電圧が印加されることで充電されるとともに、自身の放電により点火プラグ1で火花放電を生じさせるコンデンサ61とを備える。点火装置31は、コンデンサ61における充電及び放電の繰り返しに伴い、点火プラグ1で複数回の火花放電を生じさせる。火花放電停止部に相当する通電制御部51は、一次コイル42に再通電することで、点火プラグ1における複数回の火花放電を途中で停止させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、点火プラグに火花放電を生じさせるための点火装置及び点火システムに関する。
【背景技術】
【0002】
点火プラグは、例えば、内燃機関(エンジン)に取付けられ、燃焼室内の混合気への着火のために用いられる。一般に点火プラグは、軸孔を有する絶縁碍子と、軸孔の先端側に挿通される中心電極と、絶縁碍子の外周に設けられる主体金具と、主体金具の先端部に接合される接地電極とを備えており、接地電極と中心電極との間には火花放電間隙が形成される。また、点火プラグに対して電圧を印加することで、点火プラグや通電用のケーブル等に電荷が蓄えられ、電圧の印加に伴い火花放電間隙が絶縁破壊されることで、蓄えられた電荷が火花放電間隙に流れ込み、火花放電間隙において火花放電が生じる。
【0003】
また、点火プラグの点火装置としては、点火コイルを有するものが一般に知られている。このような点火コイルを有する一般的な点火装置から点火プラグに対して電圧を印加した場合、点火プラグ(火花放電間隙)には、電流値が急激に変動する容量電流に続いて、微小な誘導電流が流れる。ここで、容量電流を増大させることが着火性の向上に寄与する点に着目し、点火プラグと点火コイルとの間において、点火プラグと並列にコンデンサを接続し、火花放電の直後にコンデンサに蓄えられた電荷を放電させることで、容量電流を増大させ、着火性の向上を図る技術が提案されている(例えば、特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−68149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記技術では、コンデンサや点火プラグの有する静電容量が比較的小さい場合には、上述した一般的な点火装置と同様に、容量電流に続いて誘導電流が流れる。一方で、コンデンサ等の静電容量が比較的大きい場合には、容量放電後に誘導電流が流れず、火花放電が一旦停止する。そして、誘導電流分の電気エネルギーによりコンデンサ等が再度充電され、充電されたコンデンサ等の放電により火花放電が再度生じることとなる。すなわち、点火プラグと並列にコンデンサを接続することで、火花放電を複数回生じさせることができ、着火性の向上を図ることができる。
【0006】
しかしながら、火花放電を常に複数回生じさせていると、火花放電間隙を形成する中心電極や接地電極が急激に消耗してしまい、点火プラグの耐久性が不十分となってしまうおそれがある。
【0007】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、複数回の火花放電を発生可能である一方で、複数回の火花放電を途中で停止させることができ、着火性の向上を図りつつ、点火プラグにおいて十分な耐久性を確保することができる点火装置及び点火システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記目的を解決するのに適した各構成につき、項分けして説明する。なお、必要に応じて対応する構成に特有の作用効果を付記する。
【0009】
構成1.本構成の点火装置は、一次コイルと点火プラグに接続される二次コイルとを有するとともに、前記一次コイルに流れる一次電流を遮断することで、前記二次コイルに二次電圧を発生させる点火コイルと、
前記二次コイル及び前記点火プラグ間において前記点火プラグと並列に接続され、前記二次電圧が印加されることで充電されるとともに、自身の放電により前記点火プラグで火花放電を生じさせるコンデンサとを備え、
前記コンデンサにおける充電及び放電の繰り返しに伴い、前記点火プラグで複数回の火花放電を生じさせる点火装置であって、
前記一次コイルに再通電することで、前記点火プラグにおける複数回の火花放電を途中で停止させる火花放電停止部を備えることを特徴とする。
【0010】
上記構成1によれば、二次コイル及び点火プラグ間には、点火プラグと並列に接続されたコンデンサが設けられている。そして、コンデンサにおいて、点火コイル(二次コイル)から印加される二次電圧による充電と、蓄えられた電荷の放電とを繰り返し生じさせることで、点火プラグにおいて複数回の火花放電を生じさせることができる。その結果、着火性の向上を図ることができる。
【0011】
一方で、上述の通り、火花放電を常に複数回生じさせる場合には、点火プラグの耐久性が不十分となってしまうおそれがあるが、上記構成1によれば、火花放電停止部により、一次コイルに再通電することで、点火プラグにおける複数回の火花放電を途中で停止させることができる。そのため、火花放電を常に複数回生じさせる場合と比較して、点火プラグの耐久性を飛躍的に高めることができる。
【0012】
以上のように、上記構成1によれば、火花放電を複数回生じさせることで、例えば、混合気への着火が比較的困難な場合であっても、混合気へとより確実に着火することができ、一方で、例えば、混合気への着火が比較的容易な場合には、火花放電を途中停止させることで、点火プラグの耐久性を向上させることができる。すなわち、上記構成1によれば、着火性の向上を図りつつ、点火プラグにおいて十分な耐久性を確保することができる。
【0013】
構成2.本構成の点火装置は、上記構成1において、前記点火プラグにおける火花放電の回数を計測する放電回数計測部を備え、
前記火花放電停止部による火花放電の停止タイミングは、前記放電回数計測部により計測された火花放電の回数に基づいて決定されることを特徴とする。
【0014】
上記構成2によれば、火花放電が過度に多数生じてしまうことをより確実に防止することができ、耐久性をより確実に向上させることができる。
【0015】
構成3.本構成の点火装置は、上記構成1において、前記点火プラグに投入された電気エネルギーの積算値、及び、当該電気エネルギーに対応する値の積算値の少なくとも一方を計測する積算値計測部を備え、
前記火花放電停止部による火花放電の停止タイミングは、前記積算値計測部により計測された前記積算値に基づいて決定されることを特徴とする。
【0016】
尚、「電気エネルギーに対応する値の積算値」とあるのは、各火花放電において点火プラグを流れる電流の最大値を積算したものや、各火花放電において点火プラグに加わる電圧の最大値を積算したもの、各火花放電において電流チャートで囲まれる面積を積算したもの等を挙げることができる。
【0017】
上記構成3によれば、点火プラグに対する投入エネルギーが過度に大きくなってしまうことをより確実に防止できる。その結果、耐久性をより確実に向上させることができる。
【0018】
構成4.本構成の点火装置は、上記構成1乃至3のいずれかにおいて、前記コンデンサの静電容量が、50pF以上200pF以下とされることを特徴とする。
【0019】
上記構成4によれば、コンデンサの静電容量が50pF以上とされている。そのため、コンデンサの充電に時間を要することとなり、コンデンサの充電が完了するまでに、火花放電を途切れやすくすることができる(すなわち、点火プラグに誘導電流が流れてしまい、火花放電が継続してしまうという事態をより確実に防止できる)。
【0020】
さらに、上記構成4によれば、コンデンサの静電容量が200pF以下とされている。そのため、点火コイルからの供給エネルギーによって、コンデンサをより確実に複数回充電することができる。その結果、静電容量が50pF以下とされ、火花放電の継続を防止できることと相俟って、複数回の火花放電をより確実に生じさせることができる。
【0021】
構成5.本構成の点火装置は、上記構成1乃至4のいずれかにおいて、前記火花放電停止部による火花放電の停止タイミングは、前記一次電流の遮断から100μs以上経過した後とされることを特徴とする。
【0022】
上記構成5によれば、火花放電の停止タイミングは、一次電流の遮断(すなわち、点火プラグに対する二次電圧の印加)から100μs以上経過した後とされている。従って、点火プラグに対する電圧の印加時間を十分に確保することができ、火花放電をより確実に生じさせることができる。
【0023】
構成6.本構成の点火システムは、上記構成1乃至5のいずれかに記載の点火装置と、
前記点火装置に接続される点火プラグとを備えることを特徴とする点火システム。
【0024】
上記構成6によれば、上記構成1等と同様の作用効果が奏されることとなる。
【0025】
構成7.本構成の点火システムは、上記構成6において、前記コンデンサ及び前記点火プラグ間を接続する導線の抵抗と、前記点火プラグの内部抵抗との合計が、1Ω以下とされることを特徴とする。
【0026】
上記構成7によれば、コンデンサ及び点火プラグ間を接続する導線の抵抗と、点火プラグの内部抵抗との合計、すなわち、コンデンサから火花放電間隙に対する電流の投入経路の抵抗値が1Ω以下とされている。従って、コンデンサから火花放電間隙に対する電流の投入時におけるエネルギーの損失をより確実に防止することができ、火花放電を一層確実に複数回生じさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】点火システムの概略構成を示すブロック図である。
【図2】点火プラグの構成を示す一部破断正面図である。
【図3】通電信号S1,S2と、一次電流と、放電電圧及び放電電流との相関を示すタイミングチャートである。
【図4】内燃機関における回転数及び負荷と、設定される回数閾値との関係の例を示すグラフである。
【図5】第2実施形態における、通電制御部等の概略構成を示すブロック図である。
【図6】第2実施形態における、通電信号S1,S2と、一次電流と、放電電圧及び放電電流との相関を示すタイミングチャートである。
【図7】第3実施形態における、通電制御部等の概略構成を示すブロック図である。
【図8】第3実施形態における、通電信号S1,S2と、一次電流と、放電電圧及び放電電流との相関を示すタイミングチャートである。
【図9】別の実施形態における、点火システムの概略構成を示すブロック図である。
【図10】別の実施形態における、点火システムの概略構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、実施形態について図面を参照しつつ説明する。
〔第1実施形態〕
図1は、点火システム101の概略構成を示すブロック図である。図1に示すように、点火システム101は、内燃機関ENに取付けられた点火プラグ1と、点火プラグ1に接続され、点火プラグ1に対して電力を供給する点火装置31とを備えている。尚、図1では、点火プラグ1を1つのみ示しているが、実際の内燃機関ENには複数の気筒が設けられ、各気筒に対応して点火プラグ1が設けられる。そして、各点火プラグ1に対応して点火装置31が設けられるようになっている。
【0029】
まず、点火装置31の説明に先立って、点火プラグ1の構成を説明する。
【0030】
点火プラグ1は、図2に示すように、筒状をなす絶縁碍子2、これを保持する筒状の主体金具3などから構成されるものである。尚、図2では、点火プラグ1の軸線CL1方向を図面における上下方向とし、下側を点火プラグ1の先端側、上側を後端側として説明する。
【0031】
絶縁碍子2は、周知のようにアルミナ等を焼成して形成されており、その外形部において、後端側に形成された後端側胴部10と、当該後端側胴部10よりも先端側において径方向外向きに突出形成された大径部11と、当該大径部11よりも先端側においてこれよりも細径に形成された中胴部12と、当該中胴部12よりも先端側においてこれよりも細径に形成された脚長部13とを備えている。加えて、絶縁碍子2のうち、大径部11、中胴部12、及び、大部分の脚長部13は、主体金具3の内部に収容されている。そして、中胴部12と脚長部13との連接部にはテーパ状の段部14が形成されており、当該段部14にて絶縁碍子2が主体金具3に係止されている。
【0032】
さらに、絶縁碍子2には、軸線CL1に沿って延びる軸孔4が貫通形成されており、当該軸孔4の先端側には中心電極5が挿入、固定されている。当該中心電極5は、銅又は銅合金からなる内層5Aと、ニッケル(Ni)を主成分とするNi合金からなる外層5Bとを備えている。また、中心電極5は、全体として棒状(円柱状)をなし、その先端部分が絶縁碍子2の先端から突出している。
【0033】
加えて、軸孔4の後端側には、絶縁碍子2の後端から突出した状態で端子電極6が挿入、固定されている。
【0034】
さらに、中心電極5と端子電極6との間には、円柱状のガラスシール層9が配設されている。当該ガラスシール層9により、中心電極5及び端子電極6が電気的に接続されるとともに、中心電極5と端子電極6とが絶縁碍子2に固定されている。
【0035】
加えて、前記主体金具3は、低炭素鋼等の金属により筒状に形成されており、その外周面にはスパークプラグ1を内燃機関や燃料電池改質器等の燃焼装置に取付けるためのねじ部(雄ねじ部)15が形成されている。また、ねじ部15の後端側には座部16が外周側に向けて突出形成されており、ねじ部15後端のねじ首17にはリング状のガスケット18が嵌め込まれている。さらに、主体金具3の後端側には、主体金具3を燃焼装置に取付ける際にレンチ等の工具を係合させるための断面六角形状の工具係合部19が設けられている。また、主体金具3の後端部には、径方向内側に向けて屈曲する加締め部20が設けられている。
【0036】
加えて、主体金具3の内周面には、絶縁碍子2を係止するためのテーパ状の段部21が設けられている。そして、絶縁碍子2は、主体金具3に対してその後端側から先端側に向かって挿入され、自身の段部14が主体金具3の段部21に係止された状態で、主体金具3の後端側の開口部を径方向内側に加締めること、つまり上記加締め部20を形成することによって主体金具3に固定されている。尚、段部14,21間には、円環状の板パッキン22が介在されている。これにより、燃焼室内の気密性を保持し、燃焼室内に晒される絶縁碍子2の脚長部13と主体金具3の内周面との隙間に入り込む燃料ガスが外部に漏れないようになっている。
【0037】
さらに、加締めによる密閉をより完全なものとするため、主体金具3の後端側においては、主体金具3と絶縁碍子2との間に環状のリング部材23,24が介在され、リング部材23,24間には滑石(タルク)25の粉末が充填されている。すなわち、主体金具3は、板パッキン22、リング部材23,24及び滑石25を介して絶縁碍子2を保持している。
【0038】
また、主体金具3の先端部26には、自身の略中間部分にて曲げ返されて、その先端側側面が中心電極5の先端部と対向する接地電極27が接合されている。そして、中心電極5の先端部と接地電極27の先端側側面との間には、火花放電間隙28が形成されており、当該火花放電間隙28において、軸線CL1にほぼ沿った方向で火花放電が行われるようになっている。
【0039】
次いで、図1を参照して、点火装置31の構成について説明する。
【0040】
点火装置31は、点火コイル41と、通電制御部51と、コンデンサ61と、放電回数計測部72とを備える。
【0041】
点火コイル41は、一次コイル42、二次コイル43、及び、コア44を備えている。
【0042】
一次コイル42は、前記コア44を中心に巻回されており、その一端が通電制御部51を介して電力供給用のバッテリVAに接続されるとともに、その他端が自身に対する通電・通電停止を切替えるための後述するトランジスタ56のコレクタに接続されている。また、二次コイル43は、前記コア44を中心に巻回されており、その一端が一次コイル42及び通電制御部51間に接続されるとともに、その他端が点火プラグ1の端子電極6に接続されている。
【0043】
通電制御部51は、点火コイル41及びバッテリVA間に設けられており、トランジスタ52(NPN型)と、トランジスタ53(PNP型)と、ダイオード54と、ダイオード55と、トランジスタ56(NPN型)とを備えている。
【0044】
トランジスタ52は、エミッタが接地され、コレクタがトランジスタ53のベースに接続されている。また、トランジスタ52のベースには、抵抗58を介して所定のECU(電子制御装置)71からの通電信号S2が入力されており、通電信号S2のHigh・Lowを切替えることで、トランジスタ52のオン・オフが切替えられるようになっている。
【0045】
トランジスタ53は、バッテリVA及び点火コイル41間を接続する導線に対して直列的に配置されており、エミッタがバッテリVAに接続され、コレクタが点火コイル41に接続されている。また、トランジスタ53は、前記トランジスタ52に入力される通電信号S2がHighとされた場合にオンとなり、前記トランジスタ52に入力される通電信号S2がLowとされた場合にオフとなるようになっている。すなわち、通電信号S2のHigh・Lowを切替えることで、トランジスタ52を介して、トランジスタ53のオン・オフが切替えられるようになっている。
【0046】
ダイオード54は、トランジスタ53と並列に接続されており、アノードがトランジスタ53のコレクタ側に接続され、カソードがトランジスタ53のエミッタ側に接続されている。また、ダイオード55は、一次コイル42と並列に接続されており、アノードが接地されており、カソードがトランジスタ53及び点火コイル41(一次コイル42)間に接続されている。
【0047】
トランジスタ56は、エミッタが接地されるとともに、ベースに対して自身を駆動するための駆動回路57を介して、ECU71からの通電信号S1が入力されている。そして、トランジスタ56は、通電信号S1がHighとされた場合にオンとなり、通電信号S1がLowとされた場合にオフとなるようになっている。
【0048】
尚、通電制御部51は、点火コイル41から点火プラグ1に対して高電圧(二次電圧)を印加し、点火プラグ1の火花放電間隙28にて火花放電を生じさせる際に、次のように動作する。すなわち、図3に示すように、通電信号S1,S2の双方をHighとし(時刻t1)、トランジスタ53,56の双方をオンとすることで、バッテリVAから一次コイル42に一次電流を流し、コア44の周囲に磁界を形成する。その上で、通電信号S1,S2の双方をLowとし(時刻t2)、トランジスタ53,56をオフとすることで、一次電流を遮断し、前記コア44の磁界を変化させる。これにより、二次コイル43に負極性の二次電圧(例えば、5kV〜30kV)が発生し、この二次電圧が点火プラグ1に印加される。そして、点火プラグ1に対する二次電圧の印加に伴い、火花放電間隙28において火花放電が生じる。尚、本実施形態では、一次電流の遮断に伴い、点火コイル41から点火プラグ1側に供給される電気エネルギーが所定値(例えば、30mJ以上100mJ以下)とされている。
【0049】
図1に戻り、コンデンサ61は、点火コイル41及び点火プラグ1間において、点火プラグ1と並列に接続されている。そして、コンデンサ61は、点火コイル41(二次コイル43)から供給される電力が充電されるとともに、蓄えられた電荷が放電することで火花放電間隙28において火花放電を生じさせる。すなわち、コンデンサ61における充電及び放電の繰り返しに伴い、点火プラグ1で複数回の火花放電(具体的には、短時間で大電流の流れる容量放電)が生じるようになっている。
【0050】
尚、本実施形態では、コンデンサ61の静電容量が50pF以上200pF以下に設定されている。
【0051】
放電回数計測部72は、ECU71により構成されており、放電回数計測部72(ECU71)には、所定の電流センサ(図示せず)により計測された、コンデンサ61の放電により点火プラグ1を流れる電流の電流値に関する情報が入力されている。そして、放電回数計測部72は、入力された電流値に関する情報に基づいて、点火プラグ1における火花放電の回数を計測するようになっている。具体的には、放電回数計測部72は、点火プラグ1を流れる電流の電流値が予め設定された所定の電流閾値を超えた際に、火花放電が生じたものと判定する。そして、火花放電が生じたものと判定した回数を積算することで放電回数を計測するようになっている。
【0052】
さらに、前記通電制御部51は、放電回数計測部72により計測された火花放電の回数に基づき決定された停止タイミングで、一次コイル42に対して再通電することにより、点火プラグ1における複数回の火花放電を途中で停止可能に構成されている。
【0053】
具体的には、図3に示すように、通電信号S1,S2をHighからLowに切り替え(時刻t2)、点火コイル41から点火プラグ1側に電力が供給されているときにおいて、放電回数計測部72により計測された火花放電の回数が予め設定された所定の回数閾値を上回ったときに、通電信号S2をLowとしたままで、通電信号S1をLowからHighに切替える(時刻t3)。これにより、ダイオード55及びトランジスタ56を通して、一次コイル42に電流が流れる。そして、この一次電流が徐々に増加していき、その電流値が、コア44に残されている磁束によって発生可能な電流値まで到達すると(時刻t4)、二次コイル43に発生していた高電圧とは逆極性の電圧が二次コイル43に発生する。その結果、点火プラグ1における火花放電が途中で強制的に停止させられることとなる。すなわち、本実施形態では、通電制御部51が「火花放電停止部」に相当する。尚、再通電時における一次電流は、その増加後において内部抵抗などの影響により徐々に減少し、最終的には流れなくなる。また、本実施形態では、火花放電をより確実に発生させるべく、火花放電の停止タイミングが、一次コイル42の通電を遮断し、二次コイル43に二次電圧を発生させたとき(時刻t2)から100μs以上経過したときに設定されるようになっている。
【0054】
加えて、本実施形態において、ECU71には、図示しないセンサにより取得された内燃機関ENの回転数や負荷に関する情報が入力されており、ECU71は、当該情報に基づいて、前記回数閾値を設定するように構成されている。具体的には、図4に示すように、内燃機関ENの回転数や負荷が増大するほど、前記回数閾値を小さな値に設定し、内燃機関ENの回転数や負荷が減少するほど、前記回数閾値を大きな値に設定するように構成されている。すなわち、混合気に対して比較的容易に着火可能となる条件では、放電回数を少なくすることで耐久性の向上を図り、一方で、混合気に対する着火が比較的難しい条件(失火の発生しやすい条件)では、放電回数を多くすることで着火確率を増大させ、着火性の向上を図るようになっている。
【0055】
また、ECU71は、内燃機関ENの始動直後から内燃機関ENが十分に暖機されるまでの間、前記回数閾値を設定可能な最大値に設定するようになっている。すなわち、失火の発生が特に懸念される条件では、火花放電を途中で停止させることなく、着火性を最大限向上できるようになっている。尚、回数閾値を設定可能な最大値に設定することに代えて、内燃機関ENの始動直後から内燃機関ENが十分に暖機されるまでの間、火花放電の途中停止機能を一時的に停止させることとしてもよい。
【0056】
さらに、本実施形態では、コンデンサ61及び点火プラグ1間を接続する導線62(図1参照)の抵抗と、点火プラグ1の内部抵抗(より詳しくは、端子電極6の後端から中心電極5の先端までの抵抗)が1Ω以下とされている。
【0057】
以上詳述したように、本実施形態によれば、二次コイル43及び点火プラグ1間には、点火プラグ1と並列に接続されたコンデンサ61が設けられている。そして、コンデンサ61において、点火コイル41(二次コイル43)から印加される二次電圧による充電と、蓄えられた電荷の放電とを繰り返し生じさせることで、点火プラグ1において複数回の火花放電を生じさせることができる。その結果、着火性の向上を図ることができる。
【0058】
また、本実施形態においては、通電制御部51により、一次コイル42に再通電することで、点火プラグ1における複数回の火花放電を途中で停止させることができる。そのため、火花放電を常に複数回生じさせる場合と比較して、点火プラグ1の耐久性を飛躍的に高めることができる。
【0059】
加えて、本実施形態では、火花放電の停止タイミングが、放電回数計測部72により計測された火花放電の回数に基づいて決定されている。従って、火花放電が過度に多数生じてしまうことをより確実に防止することができ、点火プラグ1の耐久性をより確実に向上させることができる。
【0060】
さらに、コンデンサ61の静電容量が50pF以上とされているため、コンデンサ61の充電に時間を要することとなり、コンデンサの充電が完了するまでに、火花放電を途切れやすくすることができる。また、コンデンサ61の静電容量が200pF以下とされているため、点火コイル41からの供給エネルギーによって、コンデンサ61をより確実に複数回充電することができる。その結果、火花放電の継続を防止できることと相俟って、複数回の火花放電をより確実に生じさせることができる。
【0061】
併せて、火花放電の停止タイミングは、一次電流の遮断から100μs以上経過した後とされている。従って、点火プラグ1に対する電圧の印加時間を十分に確保することができ、火花放電をより確実に生じさせることができる。
【0062】
また、本実施形態では、導線62の抵抗と点火プラグ1の内部抵抗との合計、すなわち、コンデンサ61から火花放電間隙28に対する電流の投入経路の抵抗値が1Ω以下とされている。従って、コンデンサ61から火花放電間隙28に対する電流の投入時におけるエネルギーの損失をより確実に防止することができ、火花放電を一層確実に複数回生じさせることができる。
〔第2実施形態〕
次いで、第2実施形態について、上記第1実施形態との相違点を中心に説明する。本第2実施形態において、通電制御部81は、図5に示すように、アノードが一次コイル42及びトランジスタ88間に接続され、カソードが一次コイル42及びバッテリVA間に接続されたサイリスタ82を備えている。また、サイリスタ82のゲートには、サイリスタ駆動用の駆動回路83や抵抗84、コンデンサ85を介して、ECU71からの通電信号S2が入力されている。さらに、一次コイル42及びバッテリVA間の導線が、並列に接続された抵抗86及びコンデンサ87を介して、サイリスタ82のゲートに対して電気的に接続されている。尚、トランジスタ88及び当該トランジスタ88を駆動するための駆動回路89は、第1実施形態におけるトランジスタ56及び駆動回路57と同様の構成とされている。
【0063】
通電制御部81において、点火コイル41から点火プラグ1へと高電圧(二次電圧)を印加する場合には、図6に示すように、通電信号S2をLowとしたままで、通電信号S1をHighからLowに切替えることで(時刻t2)、二次コイル43に二次電圧を発生させる。そして、火花放電を途中で停止させる際には、通電信号S2をLowからHighに切替えることで(時刻t3)、サイリスタ82がオンとされ、一次コイル42及びサイリスタ82により形成される閉ループに一次電流が流れる(一次コイル42が再通電される)。そして、この一次電流が徐々に増加していき、その電流値がコア44に残されている磁束によって発生可能な電流値まで到達すると(時刻t4)、二次コイル43に発生していた高電圧とは逆極性の電圧が二次コイル43に誘導される。その結果、点火プラグ1における火花放電が途中で強制的に停止させられることとなる。すなわち、本第2実施形態では、通電制御部81が「火花放電停止部」に相当する。尚、再通電時における一次電流は、その増加後において、内部抵抗などの影響により徐々に減少し、一次電流が流れなくなったときに、サイリスタ82はオフとされる。
【0064】
以上、本第2実施形態によれば、上記第1実施形態と同様の作用効果が奏されることとなる。
〔第3実施形態〕
次いで、第3実施形態について、上記第1、第2実施形態との相違点を中心に説明する。本第3実施形態において、通電制御部91は、図7に示すように、トランジスタ92(NPN型)と、ダイオード93と、抵抗94と、ダイオード95と、コンデンサ96とを備えている。
【0065】
トランジスタ92は、そのベースに対して、ECU71からの通電信号S1が自身を駆動させるための駆動回路97を介して入力されており、通電信号S1のHigh・Lowを切替えることで、自身のオン・オフが切替えられるようになっている。また、ダイオード93は、トランジスタ92と並列に接続されており、アノードが接地され、カソードがトランジスタ92及びコンデンサ96間に接続されている。
【0066】
抵抗94及びダイオード95は、それぞれ並列に接続されるとともに、コンデンサ96に対して直列的に設けられ、一次コイル42及びトランジスタ98間に接続されている。また、ダイオード95は、アノードが一次コイル42及びトランジスタ98間に接続され、カソードがコンデンサ96に接続されている。尚、トランジスタ98及び当該トランジスタ98を駆動させるための駆動回路99は、第1実施形態におけるトランジスタ56及び駆動回路57と同様の構成とされている。
【0067】
通電制御部91において、点火コイル41から点火プラグ1へと高電圧(二次電圧)を印加する場合には、図8に示すように、通電信号S2をLowとしたままで、通電信号S1をHighからLowに切替えることで(時刻t2)、二次コイル42に二次電圧を発生させる。そして、火花放電を途中で停止させる際には、通電信号S1をLowとしたままで、通電信号S2をLowからHighに切替えることで(時刻t3)、トランジスタ92がオンとされ、ダイオード95及びコンデンサ96を介して、一次コイル42に一次電流が流れる(一次コイル42が再通電される)。そして、この一次電流が徐々に増加していき、その電流値がコア44に残されている磁束によって発生可能な電流値まで到達すると(時刻t4)、二次コイル43に発生していた高電圧とは逆極性の電圧が二次コイル43に誘導される。その結果、点火プラグ1における火花放電が途中で強制的に停止させられることとなる。すなわち、本第3実施形態では、通電制御部91が「火花放電停止部」に相当する。尚、コンデンサ96に所定量の電荷が蓄えられると、コンデンサ96に電流が流れなくなり、一次電流は遮断される。また、コンデンサ96に蓄えられた電荷は、トランジスタ98がオンとされた際に、ダイオード93及び抵抗94を介して放電する。
【0068】
以上、本第3実施形態によれば、上記第1、第2実施形態と同様の作用効果が奏されることとなる。
【0069】
尚、上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。勿論、以下において例示しない他の応用例、変更例も当然可能である。
【0070】
(a)上記実施形態では、火花放電を途中で停止させるタイミングが、放電回数計測部72により計測された放電回数に基づいて決定されている。これに対して、図9に示すように、ECU71により構成され、点火プラグ1に投入された電気エネルギーの積算値を計測する積算値計測部112を設け、当該積算値計測部112により計測された電気エネルギーの積算値に基づいて、火花放電の停止タイミングを決定することとしてもよい。具体的には、点火プラグ1に流れる電流を計測可能なセンサ(図示せず)を設け、当該センサにより計測された電流値に基づいて、点火コイル41から点火プラグ1に投入された電気エネルギーの積算値を求める。そして、例えば、求められた積算値が予め設定された所定の積算値閾値を上回ったときに、火花放電を途中で停止させる。この場合には、点火プラグ1に対する投入エネルギーが過度に大きくなってしまうことをより確実に防止でき、耐久性をより確実に向上させることができる。尚、積算値計測部112を、放電回数計測部72とともに設けてもよい。そして、積算値計測部112により計測された電気エネルギーの積算値が前記積算値閾値を上回ったとき、又は、放電回数計測部72により計測された放電回数が前記回数閾値を上回ったときに、火花放電を途中で停止させてもよい。
【0071】
また、前記電気エネルギーの積算値とともに、又は、前記電気エネルギーの積算値に代えて、積算値計測部112が、前記電気エネルギーに対応する値(例えば、各火花放電において点火プラグを流れる電流の最大値や、各火花放電において点火プラグに加わる電圧の最大値、各火花放電において電流チャートで囲まれる面積など)の積算値を計測し、この積算値に基づいて(例えば、前記積算値が、所定の閾値を上回ったときに)、火花放電を途中で停止させることとしてもよい。この場合には、電気エネルギーの積算値を計測対象とする場合と比べて、計測が容易となり、積算値計測部112における処理負担の軽減を図ることができる。
【0072】
(b)上記実施形態において、放電回数計測部72や積算値計測部112は、ECU71により構成されているが、放電回数計測部72や積算値計測部112をECU71とは別体で設けることとしてもよい。例えば、放電回数計測部72や積算値計測部112をマイクロコンピュータにより構成することとしてもよい。
【0073】
(c)上記実施形態における点火プラグ1の構成は例示であって、本発明の技術思想を適用可能な点火プラグの構成はこれに限定されるものではない。従って、点火プラグとして、例えば、絶縁碍子の先端部にキャビティ部(空間)を有し、キャビティ部においてプラズマを生成可能なプラズマジェット点火プラグを用いることとしてもよい。
【0074】
(d)上記実施形態では特に記載していないが、点火プラグ1における失火を検知した際に、前記回数閾値を比較的大きくすることで、放電回数を増やすこととしてもよい。具体的には、点火プラグ1に対する通電開始タイミングから予め設定された所定時間内(すなわち、火花放電を生じさせる予定の期間内)において、ECU71等により、例えば、点火プラグ1を流れる電流の電流値と前記電流閾値とを比較することで、火花放電が生じているか否かを判定する。そして、火花放電が生じていない(つまり、失火が発生しており、混合気への着火が難しい条件となっている)と判定されたときに、回数閾値を増大させ、放電回数を増やしてもよい。この場合には、着火確率が高められ、着火の難しい条件であっても、混合気に対してより確実に着火することができる。また、絶縁碍子2に対するカーボン等の付着により失火が生じている場合には、放電回数を増大させることで、カーボン等を効果的に焼失することができ、点火プラグ1を正常な状態へと回復させることができる。
【0075】
(e)上記実施形態において、放電回数計測部72は、コンデンサ61の放電により点火プラグ1に流れる電流に基づいて、点火プラグ1の火花放電の回数を計測するように構成されている。これに対して、図10に示すように、放電回数計測部72が、点火プラグ1に流れる電流や電圧に基づいて、点火プラグ1における火花放電の回数を計測することとしてもよい。
【符号の説明】
【0076】
1…点火プラグ、31…点火装置、51…通電制御部(火花放電停止部)、41…点火コイル、42…一次コイル、43…二次コイル、61…コンデンサ、62…導線、72…放電回数計測部、101…点火システム、112…積算値計測部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次コイルと点火プラグに接続される二次コイルとを有するとともに、前記一次コイルに流れる一次電流を遮断することで、前記二次コイルに二次電圧を発生させる点火コイルと、
前記二次コイル及び前記点火プラグ間において前記点火プラグと並列に接続され、前記二次電圧が印加されることで充電されるとともに、自身の放電により前記点火プラグで火花放電を生じさせるコンデンサとを備え、
前記コンデンサにおける充電及び放電の繰り返しに伴い、前記点火プラグで複数回の火花放電を生じさせる点火装置であって、
前記一次コイルに再通電することで、前記点火プラグにおける複数回の火花放電を途中で停止させる火花放電停止部を備えることを特徴とする点火装置。
【請求項2】
前記点火プラグにおける火花放電の回数を計測する放電回数計測部を備え、
前記火花放電停止部による火花放電の停止タイミングは、前記放電回数計測部により計測された火花放電の回数に基づいて決定されることを特徴とする請求項1に記載の点火装置。
【請求項3】
前記点火プラグに投入された電気エネルギーの積算値、及び、当該電気エネルギーに対応する値の積算値の少なくとも一方を計測する積算値計測部を備え、
前記火花放電停止部による火花放電の停止タイミングは、前記積算値計測部により計測された前記積算値に基づいて決定されることを特徴とする請求項1に記載の点火装置。
【請求項4】
前記コンデンサの静電容量が、50pF以上200pF以下とされることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の点火装置。
【請求項5】
前記火花放電停止部による火花放電の停止タイミングは、前記一次電流の遮断から100μs以上経過した後とされることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の点火装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の点火装置と、
前記点火装置に接続される点火プラグとを備えることを特徴とする点火システム。
【請求項7】
前記コンデンサ及び前記点火プラグ間を接続する導線の抵抗と、前記点火プラグの内部抵抗との合計が、1Ω以下とされることを特徴とする請求項6に記載の点火システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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