説明

無機微粒子、無機原料粉末およびそれらの製造方法

粒子径分布がシャープな無機原料粉末を得るために、ジルコニア水和物微粒子スラリー等の原料液体の粉末化の際に、粒子同士の熱による凝集や付着などを抑制する、無機微粒子の新規な製造方法を提供する。また、多成分系の場合にあっては生成する粒子間、さらには粒子内部の化学的組成を均質にすることも可能とする、無機微粒子の新規な製造方法を提供する。原料液体を加熱し、かつ衝撃波を付与する無機微粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、無機微粒子、無機原料粉末およびそれらの製造方法に関する。無機微粒子の製造方法としては、たとえば、ジルコニア水和物微粒子等の製造方法に関するものであり、無機原料粉末の製造方法としては、たとえば、ジルコニア水和物微粒子からジルコニア原料粉末を製造する方法に関する。また、これらの方法で製造される無機微粒子および無機原料粉末に関する。
【背景技術】
セラミックスの粉末は、従来から金属塩の中和水酸化物、中和共沈水酸化物、加水分解物またはそれらの複合物からなる水和物を析出し、その析出物を静置乾燥、噴霧乾燥などの乾燥方法で粉末化した後、仮焼し粉砕して製造されていた。
特開2000−327416号公報には、ジルコニア系微粉末の製造方法として、ジルコニウム塩の水溶液に第2成分としてイットリウムまたはセリウムの塩からなる水溶液などを溶解し、この水溶液を急速乾燥後酸素存在下で焼成し、その焼成体を湿式粉砕し、乾燥して原料粉末を得る方法が開示されている。また、特開平5−246720号公報には、水溶性ジルコニウム塩の加水分解法や中和沈殿法で得られたスラリーを噴霧乾燥し、それを仮焼して原料粉末とする方法が開示されている。しかし、特開2000−327416号公報記載の方法により、ジルコニア系微粉末を得る場合は、ジルコニウム塩水溶液を急速に乾燥し仮焼するために、仮焼時に発生する塩酸ガスによる装置の腐食対策をとる必要があり、さらに仮焼後の湿式粉砕工程が必須である。一方、特開平5−246720号公報記載の方法の場合は、主成分であるジルコニウム化合物と第2成分であるイットリウム化合物などとの間で加水分解や中和沈殿操作時の析出挙動が通常は異なるために組成の均質性を保つのが困難である。また、水溶液中で生成した微細な粒子が、乾燥時の水分の表面張力の影響で凝集するので、微細粒子を製造することは困難であった。そのため、得られた乾燥物を焼成してジルコニア原料粉末を得る場合は、焼成後の粉末を粉砕して細粒化および均一化する必要があった。
このように、噴霧乾燥により製造された乾燥物は、さらに機械的に粉砕すれば微細粒になるが、工程が2段階となり製造コスト面からみても必ずしも満足のいくものではない。このことは、静置乾燥により製造された乾燥物についても同様である。また、粉砕しないまでも、たとえば、噴霧乾燥による乾燥を実施する場合、微細な粒子粉末を得るためには、高圧ノズルや、高速回転するアトマイザーを用いて、無機金属水和物微粒子を含んだ液滴を出来るだけ微細化して乾燥する必要があった。しかし、この場合、ノズルのつまりや、アトマイザーの高速回転による装置の磨粍、水の表面張力による粒子同士の凝集を避けることが困難である。そして、水の表面張力の作用を抑制する為には、界面活性剤などの添加物を加える必要があり、高純度の無機金属水和物を得る事は困難であった。
ところで、特開平9−175812号公報には、珪酸化合物水溶液をパルス衝撃波乾燥して珪酸化合物を製造する方法が開示されている。しかし、この方法は、無定形含水珪酸化合物粉末を加熱焼成する場合に、加熱焼成工程における加熱脱水時間を短くし、焼成工程の熱負荷を軽減することを目的として検討されたものであり、粒子径分布のシャープな粒子を得ることについては検討されていなかった。
【発明の開示】
本発明の目的は、粒子径分布がシャープな無機原料粉末を得るために、ジルコニア水和物微粒子スラリーなど原料液体の粉末化の際に、粒子同士の熱による凝集や付着などを抑制する、新規な無機微粒子、無機原料粉末およびそれらの製造方法を提供することである。さらには、多成分系の場合でも生成する粒子間、粒子内部においても化学的組成を均質にし得る無機微粒子、無機原料粉末およびそれらの製造方法を提供することである。
前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、粒子同士の凝集によって引き起こされる、粒子径分布がシャープな無機原料粉末を得るための種々の問題点や、多成分系の場合において均質な化学的組成を有する微粒子を得るための種々の問題点を、原料液体を加熱し、かつ衝撃波を付与することにより解決できることを見出した。特に、原料液体にパルス燃焼乾燥機に代表される衝撃波を利用した乾燥方式を用いることで、界面活性剤などの添加物を加えることなく解決できることを見出した。
すなわち、本発明は、
原料液体を加熱し、かつ衝撃波を付与する無機微粒子の製造方法に関する。
前記衝撃波が超音波振動であることが好ましい。
原料液体にパルス燃焼ガスを接触せしめることにより前記原料液体の加熱および衝撃波付与を行うことが好ましい。
前記パルス燃焼ガスが、周波数範囲50〜1,000Hz、圧力振幅±0.2kg/cm以上、音圧100〜200デシベルおよび接触ガス温度100〜1,000℃であることが好ましい。
前記原料液体が、無機金属化合物と溶媒との混合物、および/または無機金属化合物の溶液であることが好ましい。
前記無機金属化合物と溶媒との混合物は、溶媒に不溶の無機金属化合物であれば特に限定されるものではないが、無機金属水和物と溶媒との混合物であって、得られる無機粒子が無機金属水和物微粒子であることが好ましい。
前記溶媒に不溶の無機金属水和物と溶媒との混合物が、ジルコニア水和物微粒子スラリー、セリア水和物微粒子スラリー、チタニア水和物微粒子スラリー、含水珪酸化合物微粒子スラリーまたはアルミナ水和物微粒子スラリーの少なくともいずれかを含むことが好ましい。
前記溶媒に不溶の無機金属水和物と溶媒との混合物が、中和水酸化物、中和共沈水酸化物、加水分解物またはこれらの複合物からなることが好ましい。
前記溶媒に不溶の無機金属水和物と溶媒との混合物中の無機金属水和物微粒子が、0.01〜50μmであることが好ましい。
前記無機金属化合物の溶液が、水に可溶な無機金属塩の水溶液であって、得られる無機粒子が無機金属塩微粒子またはその変性物であることが好ましい。
前記水に可溶な無機金属塩の水溶液が、塩化ジルコニル水溶液、硫酸ジルコニル水溶液、硝酸ジルコニル水溶液、塩化セリウム水溶液、四塩化チタン水溶液、三塩化チタン水溶液、塩化アルミニウム水溶液、塩化マグネシウム水溶液、塩化カルシウム水溶液または珪酸化合物水溶液の少なくともいずれかを含むことが好ましい。
また、本発明は、前記製造方法によって得られる無機微粒子を仮焼および粉砕する無機原料粉末の製造方法に関する。
さらに、本発明は、光学的な測定によって得られる粒度分布から求められる算術平均径に対する算術標準偏差の比率が0.8以下である無機微粒子および無機原料粉末に関する。
本発明によれば、水の表面張力の影響による凝集作用を界面活性剤などの添加物を用いることなく、従来の乾燥方法で得られた無機金属水和物と同程度のかさ密度を有し、粒子径が小さく、非常にシャープな粒子径分布を有する無機微粒子を得ることができる。また、多成分系の場合には微視的に見た場合でも組成的に均質な無機微粒子を得ることができる。さらに、無機原料粉末の製造において、無機微粒子の焼成後に行う粉砕工程を、極めて少ない時間で行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、ジルコニア水和物微粒子の加水分解スラリーを、パルス燃焼乾燥、静置乾燥または噴霧乾燥して得たジルコニア水和物粉末の粒子径分布である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の無機微粒子の製造方法は、原料液体を加熱し、かつ衝撃波を付与するものである。ここで原料液体とは、得ようとする無機微粒子の無機金属化合物を含むか、あるいは変性などによって得ようとする無機微粒子に変換されるもので液状であれば特に限定されず、例えば、テトラエチルオルソシリケートやチタニウムイソプロポキシドなどの各種アルコキシドや、四塩化チタンなどの常温で液体状態を呈する無機金属化合物と溶媒との混合物、または無機金属化合物が溶解した溶液などを用いることができる。
ここで無機金属化合物と溶媒との混合物とは、得ようとする無機金属化合物が水和物、酸化物、炭酸塩、硫酸塩等の化合物として、溶媒中に混合されているものをいう。具体的には、水和物としては、ジルコニア水和物、セリア水和物、チタニア水和物、含水珪酸化合物、アルミナ水和物などが挙げられる。また、酸化物としては、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化チタン等が挙げられ、炭酸塩としては、炭酸ジルコニウム、炭酸セリウム、炭酸カルシウム等が挙げられる。また、硫酸塩としては、硫酸セリウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウムなどが挙げられる。
ここで溶媒としては水、エタノール、メチルエチルケトン、トルエン等が好適に用いられる。
なかでも、無機金属化合物として無機金属水和物、溶媒として水を用いたジルコニア水和物微粒子スラリー、セリア水和物微粒子スラリー、チタニア水和物微粒子スラリー、含水珪酸化合物微粒子スラリー、アルミナ水和物微粒子スラリーは排水の処理のしやすさや防爆などの特別の設備を必要としない点で好ましく用いられる。特にジルコニア水和物微粒子スラリーは化学的に安定な点で好ましい。
上記無機金属化合物は単独でも異なる種類を混合して用いてもかまわない。
たとえば、ジルコニア水和物とは、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウムをそれぞれ単独もしくはこれらの混合物と、酸化イットリウム、水酸化イットリウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化セリウムおよび/または水酸化セリウムとを含んだ水和物(以下、これを「複合ジルコニア水和物」という)であってもよい。
酸化ジルコニウムもしくは水酸化ジルコニウム、酸化イットリウムもしくは水酸化イットリウム、酸化アルミニウムもしくは水酸化アルミニウム、または酸化セリウムもしくは水酸化セリウムは、ジルコニウム塩、イットリウム塩、アルミニウム塩またはセリウム塩の水溶液の、加水分解またはアルカリもしくはアンモニアの添加によって生成することができる。
ジルコニウム塩としては、オキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニル、硫酸ジルコニルなどがあげられる。その他に水酸化ジルコニウムと酸(硫酸、塩酸、硝酸など)との混合物を使用してもよい。これらのなかでも、経済性、取り扱いの容易性、後処理の容易性から、オキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニルまたは水酸化ジルコニウムと塩酸または硝酸との混合物を用いるのが好ましい。
イットリウム塩としては、塩化イットリウム、硝酸イットリウム、硫酸イットリウムなどがあげられる。その他に水酸化イットリウムと酸(硫酸、塩酸、硝酸など)との混合物を使用してもよい。これらのなかでも、経済性、取り扱いの容易性、後処理の容易性から、塩化イットリウム、硝酸イットリウムまたは水酸化イットリウムと塩酸または硝酸との混合物を用いるのが好ましい。
セリウム塩としては、塩化セリウム、硝酸セリウム、硫酸セリウムなどがあげられる。その他に水酸化セリウムと酸(硫酸、塩酸、硝酸など)との混合物を使用してもよい。これらのなかでも、経済性、取り扱いの容易性、後処理の容易性から、塩化セリウム、硝酸セリウムまたは水酸化セリウムと塩酸または硝酸との混合物を用いるのが好ましい。
酸化イットリウムの含有量は、いわゆる高強度ジルコニアを得る場合には、ジルコニアに対して、好ましくは1.0〜10重量%、より好ましくは2〜6重量%、さらに好ましくは4.5〜5.5重量%である。この含有量が1.0重量%未満であると、正方晶ジルコニア粒子の安定性が低下する傾向がある。また、10重量%を超えると、立方晶ジルコニア粒子の割合が増加し、これを原料に用いた焼結体の靭性などが低下する傾向がある。
酸化セリウムの含有量は、ジルコニアに対して、好ましくは1.0〜77重量%、より好ましくは13〜68重量%、さらに好ましくは26〜68重量%である。この含有量が1.0重量%未満であると、正方晶ジルコニアの安定性が低下する傾向がある。また、77重量%を超えると、硬さや熱的安定性などが低下する傾向がある。
さらに、ジルコニア水和物には、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウムなどのアルミニウム化合物を含有してもよい。
これらを混合したスラリー中の複合無機金属水和物微粒子の粒子径は、好ましくは0.01〜50μmであり、より好ましくは0.05〜50μm、さらに好ましくは0.1〜20μm、特に好ましくは0.3〜15μmである。この粒子径が0.01μm未満であると、パルス燃焼乾燥を実施しても凝集により粒子径が増大する傾向がある。また、50μmを超えると、パルス燃焼ガスによる粒子の破砕効果が小さくなり、乾燥後の粒子径が大きくなる傾向がある。
スラリー中の複合無機金属水和物微粒子の、中和水酸化物、中和共沈水酸化物、加水分解物またはこれらの複合物の濃度は、乾燥物換算で、好ましくは5〜50重量%であり、より好ましくは5〜45重量%であり、さらに好ましくは10〜40重量%であり、特に好ましくは10〜30重量%である。濃度が5重量%未満であると、乾燥後の粒子径が細かくなりすぎ、捕集が困難となる傾向がある。また、濃度が50重量%を超えると、スラリーの輸送などの操作が困難となり、さらに乾燥後の粒子径が大きくなり、かつ粒子径分布がブロードとなる傾向がある。
複合無機金属水和物微粒子、たとえば、ジルコニア粒子の複合物の混合方法としては、可溶ジルコニウム塩類および可溶性第2成分の塩類(および可溶性アルミニウム塩類)を水に溶解して混合溶液を作製後、加水分解し、ジルコニウム塩類を水和ジルコニアとする方法、ジルコニウム塩類を水和ジルコニアとした後、中和処理した複合ジルコニア水和物を得る方法、上記混合溶液を中和共沈して複合水酸化物として、複合ジルコニア水和物を得る方法、ジルコニア粒子と酸化イットリウム粒子および/または酸化セリウム粒子をそれぞれ単独で溶媒中に懸濁させた後、それらを混合する方法、ならびにジルコニア粒子と酸化イットリウム粒子および/または酸化セリウム粒子を混合した後に溶媒中に懸濁させる方法などがあげられるが、これらに限定されるものではない。
スラリー調製時に使用される溶媒としては、水、アルコール、水/アルコール混合溶液、メチルエチルケトン/水混合溶液、トルエンなどをあげることができる。これらのなかでも、経済性、安全性の点から、水または水/アルコール混合溶液が好ましい。
複合ジルコニア水和物微粒子は、複合ジルコニア水和物微粒子スラリーを加熱すると共に衝撃波に接触させることで製造することができる。
また、本発明の無機金属化合物微粒子の製造方法において原料液体としては、無機金属化合物の溶液を用いることもできる。かかる溶液に使用される溶媒としは、水、アルコール、水/アルコール混合溶液などを挙げることができる。これらのなかでも経済性、安全性の点から水または水/アルコール混合溶液が好ましい。
かかる無機金属化合物の溶液において使用される無機金属化合物としては水酸化物、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、アルコキシド化合物などを挙げることができる。なかでも、経済性、安全性の点から、水に可溶な無機金属塩が好ましい。水に可溶な無機金属塩としては、塩化物、硫酸塩、硝酸塩が挙げられる。かかる無機金属塩の水溶液として具体的には、塩化ジルコニル水溶液、硫酸ジルコニル水溶液、硝酸ジルコニル水溶液、塩化セリウム水溶液、四塩化チタン水溶液、三塩化チタン水溶液、塩化アルミニウム水溶液、塩化マグネシウム水溶液、塩化カルシウム水溶液などを挙げることができる。中でも塩化物水溶液は経済性、取り扱いの容易さの点で好ましい。
本発明の無機微粒子の製造方法において、衝撃波とは圧縮性流体中において圧力、密度、温度などが急激に上昇下降を繰り返す状態をいい、超音波、爆発に伴う圧縮波、物体の高速移動、などを用いることができる。中でも超音波振動は経済性、安全性の点で好ましい。原料液体の加熱手段は特に限定されない。抵抗発熱体を用いる電気加熱、可燃ガスの燃焼によるガス加熱、ジャケットなどを介した間接加熱などの手段をとることができる。
前記衝撃波の付与および加熱の手段として、パルス燃焼ガスへの接触は単一の手段で衝撃波の付与と加熱との両者を同時に達成できるので特に好ましい。
パルス燃焼ガスを発生するパルス燃焼システムとしては、たとえば、特開平8−40720号公報に記載された乾燥装置があげられる。このシステムは、パルス燃焼器、乾燥室、サイクロン、バグフィルターを備えている。
パルス燃焼ガスとは、通常毎秒50〜1000回のサイクルで脈動する燃焼ガスである。この燃焼ガスはパルス燃焼器により発生する。その燃焼ガス雰囲気中へ送られる原料液体は、熱風乾燥効果ならびに音圧や圧力を含む脈動作用による物理的衝撃特性によって、微細でしかも粒子径分布のシャープな液滴に分割されて瞬時に乾燥される。その機構は明確ではないが、通常のノズル先端や回転円盤から噴射される原料液体の液柱あるいは液柱が分裂した後の液滴の表面に衝撃波が作用し、液柱や液滴の表面に発生した複数の波同士の衝突により液柱が均等な大きさの液滴に分裂する、あるいは液滴が均等な大きさの液滴に再分裂するために、単にノズルや回転円盤などの噴霧手段のみを用いる場合には得られない微細で粒径分布がシャープな液滴が生成するものと推量される。こうして得られた無機微粒子は物質の種類によっては一部変性作用を受けるものの、通常は成分の化学変化などを生じず、多成分系の場合でも原料液体の段階での化学組成の均質性が保持されるので、パルス燃焼システムは衝撃波の付与および加熱の手段として効果的である。化学的な均質性が保持される機構は明確になってはいないが、上述の理由によって、得られる液滴径が微細なために液滴内部での溶質成分などの移動距離が小さくなる、さらに加熱温度が低いために液滴内部での溶質成分などの移動速度が低く抑えられることなども均質性が保たれる原因の1つと推量されるが、それだけでは十分に説明できず、衝撃波の急速な脈動作用による、音波力を含む物理的衝撃作用が液滴からの溶媒等の除去に大きく関与していると推量される。
パルス燃焼ガスの周波数範囲は、好ましくは50〜1,000Hz、より好ましくは100〜900Hz、さらに好ましくは125〜550Hzである。周波数が50Hz未満であると、低周波数による振動障害を生じる恐れがある。また、周波数が1,000Hzを超えると、十分な乾燥効果を得ることができない傾向がある。
パルス燃焼ガスの圧力振幅は、好ましくは±0.2kg/cm以上、より好ましくは±0.4kg/cm以上、さらに好ましくは±0.6kg/cm以上である。圧力振幅が±0.2kg/cm未満であると、微細な液滴への分割が十分ではなく、生成する粒子の分散効果が十分に得られない傾向がある。
パルス燃焼ガスの音圧は、好ましくは100〜200デシベル、より好ましくは120〜160デシベル、さらに好ましくは140〜150デシベルである。音圧が100デシベル未満であると、分散した粒子近傍での音波による空気の繰返し減圧作用による十分な撹拝作用や乾燥作用が得られない傾向がある。また、音圧が、200デシベルを超えると、防音対策に多大の費用を要する傾向がある。
パルス燃焼ガスの接触ガス温度は、好ましくは100〜1,000℃、より好ましくは150〜700℃、さらに好ましくは200〜500℃である。接触ガス温度が100℃未満であると、粒子が十分に乾燥されない傾向がある。また、接触ガス温度が1,000℃を超えると、粒子が熱による変性を受けやすい傾向がある。
パルス燃焼システムの装置材料としてはステンレスが経済性、保守性の面から好適に使用されるが、液体原料の乾燥に伴って腐食性のガスが発生する場合には、テフロン(登録商標)などの樹脂や、耐食性のあるセラミックスで乾燥室内面を被覆することも可能である。樹脂で被覆する場合には乾燥室温度をテフロン(登録商標)などの樹脂の耐熱温度以下に保つように、パルス燃焼ガスの流量と温度、液体原料の流量と溶媒などの揮発成分の濃度を設定することが可能である。
前記原料液体を、加熱し、かつ衝撃波を付与することで得られる無機微粒子を、仮焼、粉砕、および必要に応じて造粒することで、無機原料粉末を製造することができる。例えば前述のジルコニア水和物微粒子スラリーを加熱し、かつ衝撃波を付与することで得られる複合ジルコニア水和物微粒子を仮焼、粉砕、および造粒することでジルコニア原料粉末を製造することができるのである。仮焼装置としては、昇温速度、温度および特に非酸化物や金属系の無機原料粉末を目的とする場合には焼成雰囲気を制御することができる電気炉、真空焼成炉、雰囲気焼成炉、ガス炉および電磁誘導加熱炉等があげられるが、これらに限定されるものではない。
仮焼の温度としては、化学反応や固溶など、目的とする化合物への変換が達成される温度とすることが必要であり、さらには生成する粒子の粒径、凝集の度合いなどが好ましい範囲となるよう適宜選択される。例えば複合ジルコニア水和物から複合ジルコニア酸化物微粒子を得る場合には、好ましくは600〜1,100℃であり、より好ましくは800〜1,000℃である。仮焼温度が600℃未満であると、複合ジルコニア水和物の酸化によって得られる酸化ジルコニウムと第2成分との固溶が十分ではなくなる上、水分の吸着量が多くなり成形品の焼結時に灼熱減量が大きくなる傾向がある。また、1,100℃を超えると、生成した粒子が粒成長し過ぎて焼結性が悪くなる傾向がある。
仮焼の場合の雰囲気としては、酸化物系の原料粉末を目的とする場合には、通常の大気圧雰囲気、加熱用の燃焼ガスの雰囲気が好適に使用されるが、非酸化物系あるいは金属系の原料粉末を目的とする場合には、目的に応じて窒素ガス雰囲気や真空雰囲気、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気が好適に用いられる。この場合、例えば炭化物系原料粉末を目的とする場合には、焼成炉中に炭素源を共存させた状態で焼成することが可能であるが、原料液体中に炭素やフェノール樹脂などの炭素源となる物質を予め溶解ないし分散させておくことももちろん可能である。
本発明の無機微粒子は、光学的方法によって測定される二次粒子の粒度分布から求められる算術平均径に対する算術標準偏差の比率(以下、「変動係数」という)が、好ましくは0.8以下であり、より好ましくは0.7以下、さらに好ましくは0.5以下である。この比率が0.8を超えると、近年、とくに精度要求が高まっているような分野において、無機原料粉末や最終製品のバラツキの原因となり問題となる場合や、目的とする無機微粒子がある特定の粒径範囲に入っていることが要求される場合に、粗大な粒子や微細な粒子を排除する必要があり、収率が低下する場合がある。また、原料粉末を製造する目的などで粉砕処理を施す場合に、粗大な粒子と微細な粒子が混在しているので、たとえば、前処理や粗粉砕と微粉砕のように二段で粉砕する必要があるなど、操作が複雑となる場合がある。かかる変動係数は、小さければ小さいほど好ましく、実質的に0であることが好ましいが、0.2程度であれば本発明の目的としては十分な場合が多い。また、本発明の無機微粒子は、目的に応じて大きさを設定することができるが、原料粉末への加工のしやすさなどに鑑みると、その二次粒子の算術平均径が0.1〜20μmであることが好ましく、0.2〜5μmであることがより好ましく、0.3〜1μmであることがさらに好ましい。
本発明の無機原料粉末は、光学的な方法によって測定される二次粒子の粒度分布から求められる変動係数が、好ましくは0.6以下であり、より好ましくは0.5以下であり、さらに好ましくは0.4以下である。この比率が0.6を超えると、これを原料とする最終製品のバラツキの原因となったり、あるいは粒度をそろえるための別工程が必要となり収率が低下したり、操作が複雑となる場合がある。かかる変動係数は、小さければ小さいほど好ましく、実質的に0であることが好ましいが、0.2程度であれば本発明の目的としては十分な場合が多い。また、本発明の無機原料粉末の二次粒子の算術平均径はとくに限定されず、目的に応じて粉砕などにより粒子径を制御することができるが、0.01〜1μmであることが好ましく、0.03〜0.8μmであることがより好ましく、0.05〜0.5μmであることがさらに好ましい。
なお、上記でいうところの光学的方法とは、レーザー回折法をいい、レーザー回折式粒度分布測定装置としては、たとえば、島津製作所社製SALD−2000などがあげられる。
本発明の製造方法により得られる無機原料粉末は粒子径分布がシャープなので、均一性が要求されるような種々の用途に好適に用いられる。
たとえば、ジルコニア原料粉末は、その後の焼成および加工によって、高強度・高靭性を有する刃物や治具、粉砕ボール、摺動部材、機械部品、光通信用部材などのさまざまな構造材料として使用することができる。また、焼成はせずに、研磨剤、化粧品などに添加して使用することができる。
また、酸化チタン原料粉末は、光触媒として使用することができる。
また、酸化ジルコニウムと酸化セリウムの固溶体および該固溶体と酸化アルミニウムとの混合粉末は、自動車の排ガス用の三元触媒の担体として使用することができる。
以下で、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
(ジルコニア水和物の調製)
加水分解スラリー
オキシ塩化ジルコニウム94.2モル%と塩化イットリウム5.8モル%を含む水溶液を煮沸して加水分解した後、28%アンモニア水で中和して、沈殿物を得た。得られた沈殿物をイオン交換水で洗浄液が硝酸銀水溶液による白濁がなくなるまで水洗いした。水洗い後の沈殿物を乾燥物換算で20重量%になるように調整し、加水分解スラリーを得た。このスラリー中の複合ジルコニア水和物微粒子は、0.1μmであった。
中和共沈スラリー
オキシ塩化ジルコニウム94.2モル%と塩化イットリウム5.8モル%を含む水溶液に28%アンモニア水を添加して、中和して、沈殿物を得た。得られた沈殿物をイオン交換水で洗浄液が硝酸銀水溶液による白濁がなくなるまで水洗いした。水洗い後の沈殿物を乾燥物換算で10重量%になるように調整し、中和共沈スラリーを得た。このスラリー中の複合ジルコニア水和物微粒子は、19.2μmであった。
(ジルコニア水和物微粒子の焼成および粉砕)
複合ジルコニア水和物微粒子スラリーを乾燥して得た複合ジルコニア水和物微粒子を、電気炉を用いて800〜1,000℃で焼成した。焼成後の粉末をアイメックス社製連続式レディーミル(タイプSLG−03)で所定時間粉砕する。
(粉末物性測定)
1)粒子測定方法
測定装置:レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製SALD−2000)
測定試料の調製:0.3%ヘキサメタリン酸ナトリウム溶液に乾燥物濃度0.2%となるように試料を加え、100Wの超音波発生装置に2分間供して、試料を分散させた。その後、粒子径を測定した。得られた各粒径区分毎の頻度データから、次式によって変動係数を求めた。

ここで、Daは算術平均径(μm)、Qiは区分iにおける頻度分布値(%)、Xiは区分iにおける代表粒子径(μm)、Σiは区分iに関する総和、σは算術標準偏差(μm)、Rは変動係数である。
2)BET比表面積
測定装置:Gemini2360(島津製作所社製)
測定気体:チッ素
測定試料の調製および測定方法:サンプルセルに一定量の試料を入れてチッ素を流し、200℃で30分間加熱して脱ガスを行い、サンプルセルとバランスセルとに同時に吸着ガス(チッ素)を流し、両方のセル間の圧力差を検出してサンプルの表面積を計算する。
3)粉末のみかけ比重測定
測定装置:パウダーテスター(ホソカワミクロン社製)
測定試料の調製および測定方法:一定容量の空カップの重量を測定しておき、そこへ振動により250μmのふるいを通したサンプルを落とし入れて、カップに入ったサンプルの重量から比重を計算する。
4)結晶相の同定
測定装置:X線回折計RAD−Cシステム(理学電機社製)
粉末X線回折法による各結晶相の回折ピークから面積強度を求め、次式に当てはめることにより各結晶相を求めた。

ここで、Mは単斜晶系ジルコニアモル%、Cは立方晶系ジルコニアモル%、Tは正方晶ジルコニアモル%であり、添字のmは単斜晶系ジルコニア、cは立方晶系ジルコニア、tは正方晶ジルコニアおよびc+tは立方晶系ジルコニアと正方晶ジルコニアの両者を表し、また()の中は各面指数であり、それら添字が添えられたIは各結晶相の各面指数における面積強度を表す。
【実施例1】
前記で得られた加水分解スラリーをパルス燃焼乾燥した。パルス燃焼乾燥装置としては、パルテック社製ハイパルコン(登録商標)25型を使用した。パルス燃焼乾燥装置により発生するパルス燃焼ガスは、周波数550HZ、圧力振幅±0.8kg/cm、音圧145デシベル、接触ガス温度280℃とした。スラリーを入口温度190〜200℃、出口温度80℃になるような条件で乾燥し、乾燥物を200メッシュステンレス金網で箭い分けた。その箭い分けた微粒子の粒子径を測定した。かかる粒子の粒子径分布に関する変動係数は0.45であった。次いで、この粉末を800℃および1,000℃で焼成した。その焼成体の粒子径およびBET比表面積を測定した。次いで、この焼成体を所定の時間粉砕し、粉砕物を得た。その粉砕物について粒子径を測定した。結果を表1、表2および図1に示す。
【実施例2】
前記で得られた中和共沈スラリーをパルス燃焼乾燥した。使用したパルス燃焼乾燥装置およびそれにより発生するパルス燃焼ガスは、実施例1と同様にした。得られた乾燥物を、前記のように200メッシュステンレス金網で箭い分けた。その箭い分けた微粒子の粒子径を測定した。変動係数は0.63であった。次いで、この粉末を800℃および1,000℃で焼成した。その焼成体の粒子径およびBET比表面積を測定した。次いで、この焼成体を所定の時間粉砕し、粉砕物を得た。その粉砕物について粒子径を測定した。結果を表1および表2に示す。
【実施例3】
加水分解スラリー中の沈殿物の濃度を乾燥物換算で40重量%にした以外は、実施例1と同様にした。得られた微粒子の粒径の変動係数は0.77であった。
比較例1
前記で得られた加水分解スラリーを、ステンレス製のパレットに入れ、105℃の熱風乾燥機で水分を蒸発させ、静置乾燥した。乾燥後、乳鉢で乾燥物を粉砕し、200メッシュステンレス金網で箭い分けた。その箭い分けた粉末の粒子径を測定した。得られた粉末の変動係数は0.91であった。次いで、この粉末を800℃および1,000℃で焼成した。その焼成体の粒子径およびBET比表面積を測定した。次いで、この焼成体を所定の時間粉砕し、粉砕物を得た。その粉砕物について粒子径を測定した。結果を表1、表2および図1に示す。
比較例2
前記で得られた加水分解スラリーを噴霧乾燥した。噴霧乾燥装置としては、大川原製作所社製L−12タイプを使用した。スラリーを、二流体ノズルを用いて入口温度180℃、出口温度80℃になるような条件で乾燥し、乾燥物を290メッシュステンレス金網で箭い分けた。その箭い分けた粉末の粒子径を測定した。変動係数は1.01であった。次いで、この粉末を800℃および1,000℃で焼成した。その焼成体の粒子径およびBET比表面積を測定した。次いで、この焼成体を所定の時間粉砕し、粉砕物を得た。その粉砕物について粒子径を測定した。結果を表1、表2および図1に示す。
比較例3
前記で得られた中和共沈スラリーを静置乾燥した。乾燥方法は比較例1と同様にした。得られた微粒子の粒径の変動係数は0.95であった。
比較例4
前記で得られた中和共沈スラリーを噴霧乾燥した。乾燥装置および乾燥方法は、比較例2と同様にした。得られた微粒子の粒径の変動係数は0.98であった。
次に別の実施例として、塩化ジルコニル水溶液を用いた例を示す。
【実施例4】
(塩化ジルコニル水溶液の調製)
純度95%のオキシ塩化ジルコニウム8水塩6252.8gと、酸化イットリウム換算で18.35%のイットリウムを含有する塩化イットリウム6水塩の水溶液702gおよび試薬特級の塩化アルミニウム6水塩34.2gとを12.135kgのイオン交換水に撹拌させながら溶解させた。
上記方法で得られたジルコニウム塩水溶液をパルス燃焼ガス衝撃波システムで処理した。パルス燃焼ガス衝撃波システムとしては、パルテック社製ハイパルコンHP−2型を使用した。パルス燃焼ガス衝撃波システムにより発生するパルス燃焼ガスの周波数は900Hz、圧力振幅±0.25kg/cm、音圧120デシベル、接触ガス温度150℃とした。水溶液を処理室および出口温度が70℃になるような条件で処理し、得られた粉末状の固形物粒子を550℃および1000℃で1時間加熱処理していわゆる高強度酸化ジルコニウム粉末を得た。従来技術のように各金属原子が均一に分布していない場合、イットリウムの分布に着目するとイットリウムが少ないあるいは存在しない部分の粉末からは単斜晶系ジルコニアの回折ピークが得られるが、本実施例で得られた粉末の結晶相は何れの温度で加熱処理した場合でも正方晶単相であり、単斜晶系ジルコニアの回折ピークは発現せず、得られた粉末は、微視的に見ても化学的組成が均質であることが確認できた。
比較例5
実施例4と同様のジルコニウム塩水溶液を、東京理化機械社製スプレードライヤーSD−2を用いて、乾燥温度110℃で噴霧乾燥した。得られた乾燥物粒子を550℃で1時間加熱処理して高強度ジルコニア粉末を得た。得られた粉末の結晶相は正方晶および単斜晶系を示しており、単斜晶系ジルコニアの量は21.8モル%であった。従って、得られた粉末は、微視的には化学的組成が異なっている部分があり、均質性に劣るものであった。
【実施例5】
(塩化ジルコニル水溶液の調製)
オキシ塩化ジルコニウム8水塩(含遊離塩化水素5重量%)を蒸留水に溶解して、1.5モル%/リットルの水溶液を調製した。この水溶液をパルテック社製の小型パルス燃焼ガス衝撃波システム、ハイパルコンHP−2型機を用いて乾燥した。パルス燃焼乾燥装置により発生するパルス燃焼ガスは、周波数125Hz、圧力振幅±0.5kg/cm、音圧160デシベル、接触ガス温度500℃として、平均処理量1.5リットル/時、乾燥室温度60℃で処理した。得られた粉末の水分および塩素量を分析したところ、水分濃度は16.9%、塩素分濃度は32.8%であった。すなわち、乾燥温度が100℃以下であるにも関わらず、原料であるZrOCl.8HOから結晶水および非遊離の塩素の一部までも除去されていることが確認され、化学組成がZrO1.01Cl1.98・2HOと見積もられる粉末を得ることができた。
比較例6
実施例3と同様の水溶液を東京理化機械社製小型スプレードライヤーSD−2を用いて、乾燥温度110℃で噴霧乾燥した。得られた粉末の水分および塩素量は、各々44.7%および22.0%であった。すなわち、100℃以上の温度で乾燥したにも関わらず、自由水、遊離塩化水素以外のものは除去されておらず、得られた乾燥粉末は、原料粉末と同じ化学組成がZrOCl・8HOであった。


図1から、本発明のパルス燃焼ガスでスラリー中の複合ジルコニア水和物微粒子を乾燥させることによって、水の表面張力の影響による凝集作用などを界面活性剤などの添加物を添加することなく抑制して、乾燥物の粒子径を小さくできることが明らかとなった。また、この粒子は、極めてシャープな粒子径分布を有していた。
表1から、本発明によって得られたジルコニア水和物微粉末の充填かさ密度は、静置乾燥または噴霧乾燥することで得られたジルコニア水和物粉末の粒子と同程度であることが明らかとなった。また、本発明によって得られたジルコニア水和物微粉末の粒子径を、加水分解スラリーを用いた場合は、約5μm以下にすることができ、中和共沈スラリーを用いた場合は、約20μm以下にすることができた。
また、パルス燃焼乾燥においては、スプレーのつまりや高速回転による装置の摩粍を生じることはなかった。
表2から、本発明によって得られたジルコニア水和物微粒子を焼成した後に行う粉砕工程において、粒子径を揃えるための粉砕時間を極めて少ない時間で行えることが明らかとなった。
実施例4と比較例5との比較から、本発明によって得られた高強度酸化ジルコニウム粉末は、巨視的にも、微視的にも、酸化ジルコニウムに対する酸化イットリウムの比率が一定の範囲に収まっており、極めて化学的均質性の高い粉末であるということが明らかになった。
実施例5と比較例6との比較から、本発明によって得られたオキシ塩化ジルコニウム微粒子は、比較例の場合より低温で処理しているにも拘わらず、通常はより高温に曝されなければ除去できない結晶水および非遊離の塩素の一部が除去されている。このことは結晶水よりも結合力の弱い自由水が、実施例よりもさらに低い温度ですでに除去されていることを含意している。衝撃波の急速な脈動作用による液滴表面の撹拌効果、あるいは圧力変動の中の低圧部分による自由水の蒸発促進効果などがその理由として推定されるが、明確にはなっていない。本発明の製造方法により、通常の方法と比較してより低い温度で粉末合成が可能であることが明らかとなった。本発明の方法を用いれば、実施例4、5で例示した強酸性物質などの高腐食性物質を取り扱う場合でも、加熱温度が低くて済むために、テフロン(登録商標)などの樹脂の使用も可能となるので、装置材料の選択幅が広くなり経済的である。
【産業上の利用可能性】
本発明は、チタン酸バリウムなどの電子セラミックス原料の合成、酸化チタン光触媒や自動車排ガス用の三元触媒担体、窒化物、炭化物や硼化物などの非酸化物セラミックス原料の合成、さらには粉末治金などで用いられる金属材料、樹脂や繊維の充填剤などにも応用することができるが、その応用範囲が、これらに限られるものではない。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料液体を加熱し、かつ衝撃波を付与する無機微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記衝撃波が超音波である請求の範囲第1項記載の無機微粒子の製造方法。
【請求項3】
原料液体にパルス燃焼ガスを接触せしめることにより、該原料液体の加熱および衝撃波付与を行う請求の範囲第1項または第2項記載の無機微粒子の製造方法。
【請求項4】
前記パルス燃焼ガスが、周波数範囲50〜1,000Hz、圧力振幅±0.2kg/cm以上、音圧100〜200デシベルおよび接触ガス温度100〜1,000℃である請求の範囲第3項記載の無機微粒子の製造方法。
【請求項5】
前記原料液体が、無機金属化合物と溶媒との混合物、および/または無機金属化合物の溶液である請求の範囲第1項、第2項、第3項または第4項記載の無機微粒子の製造方法。
【請求項6】
前記無機金属化合物と溶媒との混合物が、溶媒に不溶の無機金属水和物と溶媒との混合物であって、得られる無機粒子が無機金属水和物微粒子である請求の範囲第5項記載の無機微粒子の製造方法。
【請求項7】
前記溶媒に不溶の無機金属水和物と溶媒との混合物が、ジルコニア水和物微粒子スラリー、セリア水和物微粒子スラリー、チタニア水和物微粒子スラリー、含水珪酸化合物微粒子スラリーまたはアルミナ水和物微粒子スラリーの少なくともいずれかを含む請求の範囲第6項記載の無機微粒子の製造方法。
【請求項8】
前記溶媒に不溶の無機金属水和物と溶媒との混合物が、中和水酸化物、中和共沈水酸化物、加水分解物またはこれらの複合物からなる請求の範囲第6項または第7項記載の無機微粒子の製造方法。
【請求項9】
前記溶媒に不溶の無機金属水和物と溶媒との混合物中の無機金属水和物微粒子が0.01〜50μmである請求の範囲第6項、第7項または第8項記載の無機微粒子の製造方法。
【請求項10】
前記無機金属化合物の溶液が、水に可溶な無機金属塩の水溶液であって、得られる無機粒子が無機金属塩微粒子またはその変性物である請求の範囲第5項記載の無機微粒子の製造方法。
【請求項11】
前記水に可溶な無機金属塩の水溶液が、塩化ジルコニル水溶液、硫酸ジルコニル水溶液、硝酸ジルコニル水溶液、塩化セリウム水溶液、四塩化チタン水溶液、三塩化チタン水溶液、塩化アルミニウム水溶液、塩化マグネシウム水溶液、塩化カルシウム水溶液または珪酸化合物水溶液の少なくともいずれかを含む請求の範囲第10項記載の無機微粒子の製造方法。
【請求項12】
請求の範囲第1項、第2項、第3項、第4項、第5項、第6項、第7項、第8項、第9項、第10項または第11項記載の製造方法によって得られる無機微粒子を仮焼および粉砕する無機原料粉末の製造方法。
【請求項13】
光学的方法によって測定される二次粒子径の粒度分布から求められる算術平均径に対する算術標準偏差の比率が、0.8以下である無機微粒子。
【請求項14】
光学的方法によって測定される二次粒子径の粒度分布から求められる算術平均径に対する算術標準偏差の比率が、0.6以下である無機原料粉末。
【請求項15】
二次粒子の算術平均径が0.1〜20μmである請求の範囲第13項記載の無機微粒子。
【請求項16】
二次粒子の算術平均径が0.01〜1μmである請求の範囲第14項記載の無機原料粉末。

【国際公開番号】WO2004/041427
【国際公開日】平成16年5月21日(2004.5.21)
【発行日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−549619(P2004−549619)
【国際出願番号】PCT/JP2003/014128
【国際出願日】平成15年11月6日(2003.11.6)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【出願人】(302010884)パルテック株式会社 (5)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】