説明

無病化種子

【課題】環境汚染や安全性の問題を有する農薬を使用することなく、農作物の病害の発生率が極めて低く、種子伝染性病害の発生を効果的に防除することができるとともに、発芽率が高く、発芽した種子の根の張りが良い無病化種子を提供する。
【解決手段】本発明の無病化種子は、外皮を剥離した裸出種子表面に、乳酸系ポリマーエマルジョンにより形成された被膜が形成され、更に該被膜に天然物由来の粉体が付着していることを特徴とする。乳酸系ポリマーエマルジョンは造膜温度80℃以下のものが好ましく、乳酸系ポリマーがポリ乳酸であるものが好ましい。また天然物由来の粉体としては、活性炭、タルク、珪藻土、ゼオライトより選ばれた粉体が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は種子伝染性病害の発生し難い無病化種子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、イネ、野菜、果物、花卉等の農作物の品種改良が進み、食味良好な品種や収穫量の多い品種、大きく美しい花の品種等、多くの品種が普及している。また農作物の栽培法も、より品質の優れた農作物を効率良く得ることを目的として改良が進められ、近年の栽培環境は大きく変化してきた。このような品種改良や栽培環境の変化に伴い、農作物の病害発生も増加しており、水稲病害では、いもち病抵抗性の弱い良食味品種の普及と、機械移植に伴う箱育苗、栽培管理作業の簡略化が主原因と言われている。また野菜、花卉類においても、小さな育苗箱を使った栽培法の普及により病害発生が増加している。
【0003】
近年増加している農作物の病害の多くは種子伝染性病害であり、従来、種子伝染性病害を防除するために、合成または生物由来の農薬が用いられていた。これらの農薬処理による病害防除効果は非常に高いものの、農薬処理をした種子を用いても充分に病害発生を防止することは困難であった。また農薬による環境汚染の問題や安全性の問題等があり、農薬使用量の低減化が求められている。種子伝染性病害の病原菌は、イネでは籾殻に、野菜、果物や花卉の種子では果肉や種皮部分に潜在していることが多く、このため籾殻や果肉、種皮を除去することにより、病害の発生を抑えることができると考えられる。このため農薬を用いずに種子伝染性病害を防除する方法として、脱ぷしたイネ玄米の外表面に、カルボキシメチルセルロースや水溶性ポリアクリル樹脂等の水性粘結剤および、粉末活性炭やタルク等の固体粒子による被膜を形成する方法が提案されている(特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特許第2866921号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載の方法は、農薬処理する方法に比べて安全性が高く、病害防除効果も優れてはいるが、種子の発芽率が低くなるとともに、発芽した種子の根の張りもあまり良くないという問題があった。また水溶性ポリアクリル樹脂等の水性粘結剤は、農薬ほどではないにしても多量に使用すると環境汚染を生じる虞があった。さらに、水溶性ポリアクリル樹脂等を用いた種子は、現今盛んになりつつある有機農業についての農林省の基準に当てはまらず、現在の農業の趨勢に合致しないもので多くの農民にとって受け入れがたい物であった。本発明は上記従来の課題を解決した、安全で環境保全的な優れた無病化種子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち本発明は、
(1)外皮を剥離した裸出種子表面に、乳酸系ポリマーエマルジョンにより形成された被膜が形成され、更に該被膜に天然物由来の粉体が付着していることを特徴とする無病化種子、
(2)乳酸系ポリマーエマルジョンが、造膜温度80℃以下のものである上記(1)の無病化種子、
(3)乳酸系ポリマーがポリ乳酸である上記(1)または(2)の無病化種子、
(4)天然物由来の粉体が、活性炭、タルク、珪藻土、ゼオライトより選ばれた1種又は2種以上である上記(1)〜(3)のいずれかの無病化種子、
を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0007】
外皮を剥離した裸出種子表面に、乳酸系ポリマーエマルジョンにより形成された被膜を有する本発明の無病化種子は、環境汚染や安全性の問題を有する農薬を使用することなく、農作物の病害の発生率が極めて低く、種子伝染性病害の発生を効果的に防除することができる。また本発明の無病化種子は、発芽率が大きく低下することはなく発芽した種子は根の張りが良いため苗の成長が優れ、さらに、特開2004−290033号公報に記載されているように、イネ種子においては播種後覆土としてスギ等針葉樹のチップやチップダスト等を用いるとさらに根の張りが良くなる。また水溶性ポリアクリル樹脂等で被覆した従来の無病化種子は、有機栽培の基準に合致しないのに対し、本発明の無病化種子は生分解性を有する乳酸系ポリマーエマルジョンや、活性炭、タルク、珪藻土、ゼオライト等の天然物由来の粉体等の、自然や環境に極めて優しい資材を使用したことにより、有機栽培にも適用できるものである。また被膜に更に天然物由来の粉体を付着させることにより、外力による種子の傷つきを防止できるとともに、種子の保存性が向上する効果がある。本発明の無病化種子は籾殻や果肉、種皮に潜在している種子伝染性の病原菌の除去はできても、土壌中等に生存する苗立枯病菌等まで除去できるものではないが、病原菌未汚染等の土壌の汚染、再汚染、重複汚染の防止には大きな効果を有する機能を持つ種子である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において、外皮を剥離した裸出種子としては、種子から栽培される農園芸作物の種子又は果肉を除いた種子の種皮を剥離した裸出種子が挙げられ、例えば穀類、野菜、小麦、大麦、イネ、ソバ等の穀類の種子の籾殻、種皮を剥離した裸出種子、ほうれんそう、だいこん、にんじん、大豆、小豆、いんげん、枝豆、ごま、落花生、きゅうり、めろん、すいか、とまと、野菜や果物類の種子又は果肉を除いた種子の種皮を剥離した裸出種子、朝顔、スイートピー、パンジー等の花卉の種子の種皮を剥離した裸出種子等が挙げられる。種子の種皮を剥離する方法としては、穀類等は胚等を傷つけないように種籾を脱ぷ機によって剥離する方法が挙げられ、胚等に傷を付けにくい脱ぷ機としては大竹製作所製のインペラもみすり機オータケミニダップ等が挙げられる。穀類以外の種子の果肉、種皮を剥離する方法としては、ピンセット等人力で剥離する方法、板もしくはカッター部材を備えた軸を回転させ種子同士を衝突させるなどの種皮に機械的衝撃を与え種皮を破壊し除去する方法、種子の皮を薬品処理により侵食除去する方法、種子をセラミックス等の研磨粒と混合し攪拌し種皮を破壊し除去する方法、異なる周速度で回転もしくは対向して回転している2本の弾力のあるロールの間隙に種子を通過させ種皮を破砕し剥離する方法が挙げられる。さらにこれらの方法により種皮を剥離するに当たって、あらかじめ、種子を5分〜数時間水に浸漬して種皮を湿潤する、種子を加熱乾燥処理する、あるいは種皮の脆化温度以下例えば30℃以下に冷却するなどの前処理を行い、種皮が剥がれ易くした後種皮を剥離することが好ましい。種皮を剥離した裸出種子には、直ちに乳酸系ポリマーエマルジョンの被膜を形成しても良いが、被膜を形成する前に、裸出種子表面に付着している籾殻や果肉、種皮断片や、それらと共に付着している病原菌を充分に除去するために、裸出種子を流水で洗浄することが好ましい。被膜形成前に裸出種子を流水で洗浄処理することにより、玄米や種子に付着している病原菌が残渣と共に洗浄除去されるため、病害の発生を更に低減化できるとともに、吸水により発芽揃いを良くすることができる。流水による洗浄は10分〜18時間程度行うことが好ましい。洗浄処理した裸出種子は陰干し、脱水処理等を行って余分の水分を除去した後、裸出種子表面が湿っているうちに、被膜形成のための処理を行う。
本発明の無病化種子は、上述の、現日本農業が抱える多くの問題点を解決する多くの利点を持った種子であるが、本発明の無病化種子を作成するために用いる種子としては、病害による被害が極度に進み、病原菌が種子本体内部まで侵入した種子や、通常の場合種子として通用できないような状態の稔実等が劣化した物は利用できない。通常、発病は種子として合格した物を播種しても発生し、その防除に農薬等を用いているもので、問題となる種子伝染性病害は種子が完全に無病であれば発病はしないはずである。そのため、本発明の無病化種子の作成源として用いる種子は、種子として合格しているが病原菌による侵害程度が軽微な、また表皮等に付着のみしているような、外見からは簡単に判別できない侵害程度の病原菌が潜在している通常の種子である必要がある。本発明の無病化種子は、これらの潜在病原菌をも除去し、病原菌を根絶して病害発生を完全に抑えるか、発病があっても農薬等の散布を要しない程度のものに抑えることを目的としたものであるため、通常種子として合格している種子、すなわち病原菌による汚染、侵害程度が軽微な種子を必ず使用することが必要である。
【0009】
裸出種子の表面の被膜を形成する乳酸系ポリマーエマルジョンとしては、ポリ乳酸や乳酸系共重合体等の乳酸系ポリマー、乳酸系ポリマーと他の生分解性樹脂とを混合した乳酸系ポリマーアロイを、単独で、または2種以上を水分散させたエマルジョンが挙げられる。乳酸系共重合体としては、乳酸と他のヒドロキシカルボン酸との共重合体等が挙げられる。乳酸と共重合可能な他のヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、2−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシバレリン酸、2−ヒドロキシカプロン酸、2−ヒドロキシヘプタン酸、2−ヒドロキシオクタン酸、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸、2−ヒドロキシ−2−メチル酪酸、2−ヒドロキシ−2−エチル酪酸、2−ヒドロキシ−2−メチルバレリン酸、2−ヒドロキシ−2−エチルバレリン酸、2−ヒドロキシ−2−プロピルバレリン酸、2−ヒドロキシ−2−ブチルバレリン酸、2−ヒドロキシ−2−メチルカプロン酸、2−ヒドロキシ−2−エチルカプロン酸、2−ヒドロキシ−2−プロピルカプロン酸、2−ヒドロキシ−2−ブチルカプロン酸、2−ヒドロキシ−2−ペンチルカプロン酸、2−ヒドロキシ−2−メチルヘプタン酸、2−ヒドロキシ−2−エチルヘプタン酸、2−ヒドロキシ−2−プロピルヘプタン酸、2−ヒドロキシ−2−ブチルヘプタン酸、2−ヒドロキシ−2−メチルオクタン酸、3−ヒドロキシプロピオン酸、4−ヒドロキシ酪酸、5−ヒドロキシバレリン酸、6−ヒドロキシカプロン酸、7−ヒドロキシヘプタン酸等が挙げられる。上記乳酸及びヒドロキシカルボン酸は、D体、L体、D/L体のいずれでも良い。乳酸と他のモノマーとの共重合体の場合、乳酸モノマーの割合が50重量%以上のものが種子の被覆性がより優れたものとなるため好ましい。
【0010】
本発明において、ポリ乳酸や、乳酸系共重合体と混合して用いられる他の生分解性樹脂としては、脂肪族ポリエステル系生分解性樹脂、脂肪族・芳香族ポリエステル系生分解性樹脂、アセチルセルロース系生分解性樹脂、化学変性澱粉系生分解性樹脂、ポリアミノ酸系生分解性樹脂、ポリエステルポリカーボネート系生分解性樹脂等が挙げられ、これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。乳酸系ポリマーアロイにおける他の生分解性樹脂の割合は5〜95重量%が好ましい。脂肪族ポリエステル系生分解性樹脂としては、例えば、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート等の二塩基酸ポリエステル、ポリカプロラクトン、カプロラクトンと他のヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシブチレートと他のヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ酪酸と他のヒドロキシカルボン酸との共重合体等が挙げられ、これらは単独又は2種以上を混合して用いることができる。脂肪族・芳香族ポリエステル系生分解性樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート・アジペート、ポリエチレンテレフタレート・サクシネート等が挙げられ、これらは単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0011】
またアセチルセルロース系生分解性樹脂としては、アセチルセルロース、アセチルブチルセルロース、アセチルプロピオニルセルロース等が挙げられ、アロイ化が、樹脂の強度を向上させる目的である場合にはアセチルセルロースが好ましい。
【0012】
化学変性澱粉系生分解性樹脂としては、例えば高置換度エステル化澱粉、エステル化ビニルエステルグラフト重合澱粉、エステル化ポリエステルグラフト重合澱粉等の澱粉エステル、エーテル化ビニルエステルグラフト重合澱粉、エーテル化ポリエステルグラフト重合澱粉等の澱粉エーテル、ポリエステルグラフト重合澱粉等が挙げられるが、これらの中でもエステル化ビニルエステルグラフト澱粉、エステル化ポリエステルグラフト重合澱粉が好ましい。これらエステル化ビニルエステルグラフト澱粉、エステル化ポリエステルグラフト重合澱粉に用いられるエステル化試薬としては、アシル基の炭素数2〜18のビニルエステル、又は酸無水物、酸塩化物が好ましく、グラフト試薬としては、アシル基の炭素数2〜18のビニルエステル、環員数2〜12のラクトンが好ましい。これら化学変性澱粉系生分解性樹脂は2種以上を併用することができる。
【0013】
ポリアミノ酸系生分解性樹脂としては、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ポリリジン等が挙げられる。またポリエステルポリカーボネート系生分解性樹脂としては、1,3−ブタンジオールとコハク酸の縮重合物等の脂肪族ポリエステルとトリメチレンカーボネート、テトラメチレンカーボネート等の炭酸エステルとの共重合体や環状のエチレンカーボネート、トリメチレンカーボネート、2,2−ジメチルトリメチレンカーボネートとε−カプロラクトン、ピバロラクトンとの開環共重合体等が挙げられる。ポリエステルポリカーボネート系生分解性樹脂は、樹脂物性の改善や分散特性の向上のために、他の生分解性樹脂構成モノマーをグラフト重合等の方法により共重合したものでも良い。ポリアミノ酸系生分解性樹脂やポリエステルポリカーボネート系生分解性樹脂は2種以上を併用することができる。
【0014】
本発明において上記生分解性樹脂は同一種類の生分解性樹脂から選択した1種又は2種以上を用いるのみならず、異なる種類の生分解性樹脂から選択した2種以上の樹脂を適宜混合して用いることもできる。
【0015】
乳酸系ポリマーエマルジョンは、造膜温度が80℃以下であるものが好ましく、特に.60℃以下のものが、種子を安定的に保護できるため好ましい。乳酸系ポリマーエマルジョンの造膜温度は、エマルジョンに可塑剤を添加することによって調整することができる。可塑剤としては、クエン酸トリエチル、クエン酸トリブチル、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチル等のクエン酸誘導体、ジエチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールジプロピオネート等のエーテルエステル誘導体、グリセリントリアセテート、グリセリントリプロピオネート、グリセリントリブチレート、グリセリンジアセトモノラウレート等のグリセリン誘導体、エチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート等のフタル酸誘導体、ビス[2−(メトキシ−エトキシ)エチル]アジペート、メチルジグリコールベンジルアジペート等のアジピン酸誘導体、ポリカプロラクトン、ポリプロピオラクトン等のポリヒドロキシカルボン酸等が挙げられる。これらのうちアジピン酸誘導体、フタル酸誘導体が、造膜性向上効果が高い点で好ましい。可塑剤の使用量は生分解性樹脂100重量部あたり5から40重量部が好ましい。5重量部未満となると可塑化効果が発揮できなくなる虞れがあり、40重量部を超えると可塑剤のブリードアウトが発生する虞れがある。造膜温度は、乳酸系ポリマーの種類、可塑剤の添加量、エアマルジョン粒子の粒径によって異なるが、乳酸系ポリマーがポリ乳酸で、エマルジョン粒子のメジアン径が3ミクロンの場合、可塑剤未添加の場合には造膜温度は160℃程度であるが、可塑剤として、例えばメチルジグリコールベンジルアジペートを用いた場合、10重量部の添加で造膜温度は約90℃、15重量部の添加で造膜温度は約20℃となる。
【0016】
乳酸系ポリマーエマルジョンによる裸出種子表面の被膜は、裸出種子を乳酸系ポリマーエマルジョン中に浸漬したり、裸出種子に乳酸系ポリマーエマルジョンを噴霧する等により、乳酸系ポリマーエマルジョンを裸出種子表面に付着させた後、乾燥させることにより形成することができる。また室温で乳酸系ポリマーエマルジョンを一定量裸出種子に滴下し、攪拌機でよく攪拌することにより満遍なく被膜を形成することもできる。裸出種子に乳酸系ポリマーエマルジョンの被膜を形成する際に、造膜温度が80℃以下の乳酸系ポリマーエマルジョンを用いると、裸出種子を外皮が付いた通常の種子とほぼ同等の状態に保つことができる。乳酸系ポリマーエマルジョンとしては、乳酸系ポリマーの濃度が0.01〜50重量%のものを用いることが好ましく、室温下で種子の種類により裸出種子100g当たり、乳酸系ポリマーエマルジョンを0.1〜10g付着させることが好ましい。
【0017】
本発明の無病化種子は、上記乳酸系ポリマーエマルジョンによって形成した被膜に、更に粉体を付着せしめると、外力による種子の傷付きを防止できるとともに、種子の保存性が向上するため好ましい。粉体としては、活性炭、タルク、珪藻土、ゼオライト等の1種又は2種以上を用いることができるが、活性炭、タルク、珪藻土が好ましい。これらの粉体は平均粒径0.5〜250μm程度のものが好ましく、特に5〜100μmのものが好ましい。裸出種子表面に乳酸系ポリマーエマルジョンを付着させた後、更に粉体を付着させ、乳酸系ポリマーエマルジョンを造膜させることにより、粉体を付着させた乳酸系ポリマーエマルジョンの被膜を形成することができる。粉体の使用量は、粉体の種類、粒径によっても異なるが、裸出種子100g当たりに対し、活性炭2〜20g、タルク10〜30g、珪藻土5〜25g、ゼオライト1〜10gであり、より好ましくは活性炭5〜10g、タルク16〜23g、珪藻土8〜18g、ゼオライト2〜7gである。
【0018】
裸出種子表面に形成した乳酸系ポリマーエマルジョンによる被膜は、形成直後の被膜強度が弱く剥離し易いため、室温で1〜2日放置するか、40℃〜50℃程度の乾燥器で2時間以上〜一晩程度乾燥させて被膜強度を高めることが好ましい。
【実施例】
【0019】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
実施例1
無消毒の病害汚染イネ種子を摩擦型籾すり機で脱ぷして得た玄米を流水により12時間洗浄した後、樹脂100重量部当たり、可塑剤としてメチルジグリコールベンジルアジペートを15重量部加えて調製した、平均粒子径がメジアン径で3ミクロンのポリ乳酸エマルジョン(ポリマー濃度20重量%)を、玄米100g当たりの付着量が3gとなるように玄米表面に散布し、攪拌し裸出種子表面に満遍なく付着させた後、同じ攪拌機で珪藻土をその表面に付着させ、40〜50℃で15時間乾燥処理し、玄米表面に、珪藻土を付着した乳酸系ポリマーの被膜を形成して無病化種子を作成した。得られた無病化種子を育苗箱に播種し、約30日後に中苗を得た。同様にして、対照として実施例1で用いたと同様の病害汚染イネ種子の、もみ殻のついたままの種子(もみ種子)、同様のもみ種子をベンレートTの200倍で24時間浸漬処理した種子消毒種子も播種し中苗を得た。その後、育苗中に、もみ枯細菌病、ばか苗病の発病率を調べた。その後約10aの試験田に無病化種子、対照のもみ種子、種子消毒種子の苗を条間30cm、株間15cm間隔で各区をほぼ同面積に区分し移植、移植後約2ヵ月後の7月中旬に、各区における、いもち病の発生率を調べた。結果を表1に示す。一方育苗後期に、もみ種子と本発明無病化種子の苗立率および根の張り具合を測定し、もみ種子の苗と比較して評価した。結果を表1に併せて示す。尚、種子消毒種子のもみ枯細菌病の発生率は、ベンレートTの代わりにコサイドSDの200倍液で24時間浸漬処理した種子消毒種子を用いた時の結果である。
【0020】
比較例1
実施例1と同様の病害汚染イネ種子を用い、乳酸系ポリマーエマルジョンの代わりに、玄米100g当たりポリアクリル酸エマルジョン(ポリマー濃度20重量%)を3g付着させた他は、実施例1と同様にして無病化種子を得た。この種子を用い、実施例1と同様にして病害発生率、発芽率の試験及び根の張り具合の良否の評価を行った。結果を表1に併せて示す。
【0021】
(表1)

【0022】
※1 根の張りは、もみ種子の苗と根の張り具合を比較し、
○・・もみ種子の苗と同等の根の張り。
×・・もみ種子の苗と比べ、根の張りが非常に劣る。
と評価した。
【0023】
実施例2
ホウレンソウべと病汚染率60%以上の通常形態(市販されていると同じ形態の種子)のホウレンソウべと病菌汚染種子から、ピンセットで周辺の果肉を除去して得た裸出種子を流水により5時間洗浄した後、樹脂100重量部当たり、可塑剤としてアセチルクエン酸トリブチルを20重量部加えて調製した、平均粒子径がメジアン径で1ミクロンのポリ乳酸エマルジョン(ポリマー濃度35重量%)を、種子100g当たりの付着量が5gとなるように種子表面に付着させた後、イネ種子と同様の粉体の珪藻土11gをその表面に付着させ、40〜50℃で10時間乾燥処理し、種子表面に乳酸系ポリマーと珪藻土の被膜を形成して無病化種子を得た。この無病化種子を、13cm×25cmのミニプランターに30粒/1箱を等間隔に播種し、対照として無病化処理に使用したと同じ汚染率60%以上の通常形態の種子も同様に別のミニプランターに播種し、各処理区は3反復とした。使用培土は市販のスーパーミックスAを用いた。播種後、昼間20℃(6〜18時)、夜間18℃(18〜6時)、湿度95〜98%の人工気象器に入れ、播種後14日後に、無病化種子、通常種子(対照)の苗立率、べと病菌分生子形成率を調査した。結果を表2に示す。
【0024】
(表2)

【0025】
実施例3
ダイズ紫斑病汚染率100%の通常形態(市販されていると同じ形態の種子)のダイズ紫斑病汚染種子から、ピンセットで種子表皮を除去して得た裸出種子を流水により約5分洗浄した後、ポリ乳酸樹脂100重量部当たり、可塑剤としてアセチルクエン酸トリブチルを20重量部加えて調製した、平均粒子径がメジアン径で1ミクロンのポリ乳酸エマルジョン(ポリマー濃度35重量%)を、種子100g当たりの付着量が5gとなるように種子表面に付着させた後、イネ種子と同様の粉体の珪藻土を裸出種子100g当たりの付着量が20gとなるようにその表面に付着させ、40〜50℃で10時間乾燥処理し、種子表面に、珪藻土を付着させた乳酸系ポリマーの被膜を形成して無病化種子を得た。この無病化種子を培地上に静置し、25℃の定温器中で培養し、紫斑病菌の発生の有無、発芽率を調査した。また、対照として無病化処理に使用したと同じ汚染率100%の通常形態の種子を同様に培養し調査した。結果を表3に示す。
【0026】
(表3)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
外皮を剥離した裸出種子表面に、乳酸系ポリマーエマルジョンにより形成された被膜が形成され、更に該被膜に天然物由来の粉体が付着していることを特徴とする無病化種子。
【請求項2】
乳酸系ポリマーエマルジョンが、造膜温度80℃以下のものである請求項1記載の無病化種子。
【請求項3】
乳酸系ポリマーがポリ乳酸である請求項1または2記載の無病化種子。
【請求項4】
天然物由来の粉体が、活性炭、タルク、珪藻土、ゼオライトより選ばれた1種又は2種以上である請求項1〜3のいずれかに記載の無病化種子。

【公開番号】特開2008−125356(P2008−125356A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−309876(P2006−309876)
【出願日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(000114318)ミヨシ油脂株式会社 (120)
【Fターム(参考)】