説明

無線起爆雷管、親ダイ、無線起爆システム、及び無線起爆方法

【課題】切羽面近傍における作業時間をより短くすることができる無線起爆雷管、親ダイ、無線起爆システム、及び無線起爆方法を提供する。
【解決手段】起爆部10Aと、起爆部に接続されて起爆部に点火する制御部10Bと、制御部が無線通信にて使用するアンテナである起爆側アンテナ30と一方端が制御部に接続されて他方端が起爆側アンテナに接続された導電線31とを有するアンテナ部10Cと、を備えている無線起爆雷管10であって、制御部10Bは、起爆側アンテナ30と導電線31を介して100KHz以上500KHz以下の周波数である操作周波数の送信信号を受信し、起爆側アンテナ30はループ形状であり、ループ径は30cm以下である、無線起爆雷管10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルの掘削等にて使用する無線起爆雷管、親ダイ、無線起爆システム、及び無線起爆方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、トンネルの掘削現場等における爆破作業では、掘削面である切羽面において掘削方向に向けて、例えば径が数cm、深さが数m程度の装薬孔を複数削孔し、各装薬孔に無線で起爆させることができる爆薬を装填し、切羽面から離れた遠隔位置から起爆信号を無線で送信して爆破する発破工法が開示されている。
例えば特許文献1に記載された従来技術には、磁界エネルギーが小さくても、切羽面の装薬孔に装填された無線起爆雷管の全てが安定したエネルギーを受信することが可能となるように、起爆信号の送信機のループアンテナを、全周にわたって洞壁面に近接配置する、遠隔無線起爆システム用送信アンテナが開示されている。
また、特許文献2に記載された従来技術には、送信機から個々の無線雷管に対して電気エネルギーの蓄積状態を示す返信信号を要求する制御信号を送信し、全ての無線雷管の充電完了を確認した後、個々の無線雷管に対して起爆準備指令信号を送信し、全ての無線雷管から起爆準備完了信号を受信した後、個々の無線雷管に起爆信号を送信する、遠隔無線起爆装置が開示されている。
また、特許文献3に記載された従来技術には、トンネル内の地盤に固定して設置された遠隔無線起爆システム用アンテナが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−127511号公報
【特許文献2】特許第4309001号公報
【特許文献3】特許第4416274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された従来技術では、送信アンテナを洞壁面の全周にわたってコイル状に複数回巻いており、送信機から送信される周波数が10KHz以下であるため、50巻き以下、好ましくは30巻き以下とすることが開示されている。全周にわたって洞壁面に近接配置するループアンテナを30回も巻いて張る作業は非常に手間がかかるとともに、送信アンテナの設置のために切羽面の近傍での作業時間が長くなり、切羽面近傍の落石や崩落等に遭遇する可能性が高まるので、好ましくない。また、無線起爆雷管のアンテナとなる受信コイルも、10KHz以下の周波数の信号を受信してより大きなエネルギーを取り出すために、後述するように、フェライトコアにコイルを多数回巻いた複雑なものが必要となる。
また特許文献2に記載された従来技術も、送信機からの送信の周波数は、10KHz未満の周波数を使用しているため、特許文献1と同様の送信アンテナを必要とすると推定される。従って、特許文献1と同様、送信アンテナの設置のために切羽面の近傍での作業時間が長くなると推定されるので、好ましくない。
【0005】
また、特許文献1〜3に記載された従来技術から想定される操作機と無線起爆雷管では、以下の課題が残る。
操作機から無線で送信される送信信号を無線起爆雷管で受信して、無線起爆雷管にてより大きなエネルギーを取り出すには、操作機からの送信信号のエネルギーをより大きくすることと、無線起爆雷管で送信信号を受信する際、より効率的に受信することが必要である。
操作機からの送信信号をより大きなエネルギーで出力する方法としては、操作機の側のアンテナへの電流をより大きくすることと、当該アンテナの巻回数をより多くすること、が挙げられる。しかし、電流を大きくしていくとジュール熱によるロスが増加し、最悪の場合は焼損してしまう。また、アンテナ線をより抵抗値の小さな、より太い線にする必要があり、実際には数A程度までしか電流を大きくすることができない。また、トンネルの内壁に沿って巻回する巻回数は、せいぜい40回〜500回程度が現実的である。これにより、特許文献1に記載されているように、40〜500AT[アンペアターン]が実用的な値である。
【0006】
また受信側でより効率的に受信する方法としては、送信信号の波長λに対してλ/2の長さにより近いアンテナで受信すること、及びアンテナを多数巻きにして取り出したエネルギーを増幅すること、高透磁率コアを用いて送信信号を集約すること、が挙げられる。特許文献1〜3に記載された従来技術では、送信信号の周波数が10KHzであるので、λ=v/f=(30*107)[m]/(10*103)=30[Km]であり、λ/2=15[Km]となり、この長さのアンテナを無線起爆雷管に取り付けるのは現実的でない。そこで、実際には50mm径程度の高透磁率コアにコイルを100〜100000巻回し、円筒状の爆薬の径とほぼ同径のコイルコアをアンテナとして用いている。この場合、コイルコアが野球のボール程度の大きさとなり、重量も数100gであり、導電線で装薬孔の外に垂らすと導電線が切れる可能性があり、コイルコアを装薬孔の外に垂らすことは好ましくない。従って、特許文献1のコア及び受信コイルに記載されているように、無線起爆雷管の先頭部に配置することが好ましい。しかし、その場合、受信アンテナであるコイルコアが装薬孔の最も奥に配置されることになるので、送信信号が届きにくく、受信効率を向上させることが困難である。
このように、特許文献1〜3から想定される操作機と無線起爆雷管では、操作機の側から送信信号を送信するためのアンテナを40〜500回程度に巻回する必要があり、無線起爆雷管の側にて送信信号を受信するためのアンテナであるコイルコアを装薬孔の奥に配置し、コイルを100〜100000回、巻回する必要がある。
【0007】
また特許文献1〜3に記載された従来技術では、無線起爆雷管から操作機へ無線で送信する応答信号の周波数は10MHz〜60MHzと記載されている。ここで応答信号の周波数を10MHzとした場合、操作機の側で受信するアンテナにおいて最も効率良く受信できる長さはλ/2=[(30*107)/(10*106)]/2=15[m]である。なお、λよりも長いアンテナを用いると定在波が発生しやすいので好ましくない。ところが、操作機から送信信号を送信するアンテナは、上述したように、トンネル内壁に沿って40〜500巻回しているので、λ(この場合、30[m])を軽くオーバーしてしまっている。よって、操作機にて応答信号を受信するためのアンテナは、特許文献3に記載されているように、受信専用の半波長ダイポールアンテナが必要となる。また、無線起爆雷管から応答信号を送信する際、上記のコイルコアを用いると、装薬孔の一番奥から応答信号を発信することになり、操作機に届くエネルギーが非常に小さくなってしまう。そこで特許文献3に記載されているように、無線起爆雷管は、応答信号の送信専用の線状アンテナを装薬孔の外に垂らしている。
このように、特許文献1〜3に記載された従来技術から想定される操作機と無線起爆雷管では、無線起爆雷管については、受信専用のアンテナとして大型のコイルコアが必要であり、送信専用のアンテナとして線状アンテナが必要である。また操作機については、送信専用のアンテナとしてトンネル内壁に沿って40〜500巻回したアンテナが必要であり、受信専用のダイポールアンテナが必要である。従って、操作機に必要なアンテナを設置する時間がかかり、切羽面近傍における作業時間が長くなるので好ましくない。
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、切羽面近傍における作業時間をより短くすることができる無線起爆雷管、親ダイ、無線起爆システム、及び無線起爆方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明に係る無線起爆雷管、親ダイ、無線起爆システム、及び無線起爆方法は次の手段をとる。
まず、本発明の第1の発明は、起爆部と、前記起爆部に接続されて前記起爆部に点火する制御部と、前記制御部が無線通信にて使用するアンテナである起爆側アンテナと、一方端が前記制御部に接続されて他方端が前記起爆側アンテナに接続された導電線と、を有するアンテナ部と、を備えている無線起爆雷管である。
そして、前記制御部は、前記起爆側アンテナと前記導電線を介して100KHz以上500KHz以下の周波数である操作周波数の送信信号を受信し、前記起爆側アンテナはループ形状であり、ループ径は30cm以下である。
【0009】
この第1の発明によれば、無線起爆雷管が無線通信にて受信する周波数を100KHz以上500KHz以下の周波数とすることで、起爆側アンテナをループ径30cm以下で数回巻いたループアンテナとすることができる。
これにより、非常に簡素で小径のループアンテナを用いることが可能となり、無線起爆雷管に起爆側アンテナを接続した状態で装薬孔に装填できるので、切羽面の装薬孔への無線起爆雷管の装填時間をより短くすることができる。
従って、切羽面近傍における作業時間を、より短くすることができる。
【0010】
次に、本発明の第2の発明は、上記第1の発明に係る無線起爆雷管と爆薬とで構成された親ダイであって、前記無線起爆雷管は前記爆薬に取り付けられており、前記導電線の長さは、前記親ダイが被爆破個所に削孔された装薬孔に装填された際に、前記導電線の他方端に接続された前記起爆側アンテナが、前記装薬孔の外に達することができる長さに設定されている。
【0011】
この第2の発明によれば、無線起爆雷管を装薬孔に装填した際に起爆側アンテナが適切に装薬孔の外に配置される。
これにより、装薬孔に無線起爆雷管を装填後、起爆側アンテナの位置を調整する必要がなく、切羽面の装薬孔への無線起爆雷管の装填時間をより短くすることができる。
従って、切羽面近傍における作業時間を、より短くすることができる。
【0012】
次に、本発明の第3の発明は、上記第2の発明に係る親ダイと、前記装薬孔から離れた遠隔位置に配置されて前記無線起爆雷管に前記送信信号を無線で送信し、前記無線起爆雷管からの応答信号を無線で受信する起爆操作機と、前記起爆操作機が無線通信にて使用するアンテナである操作側アンテナと、にて構成された無線起爆システムである。
そして、前記操作側アンテナはループ形状であり、前記制御部は、前記起爆操作機から前記送信信号を受信すると、受信した前記送信信号に対応する応答信号を作成し、作成した前記応答信号を、前記操作周波数よりも高い周波数である応答周波数にて、前記導電線と前記起爆側アンテナを介して送信し、前記応答周波数は、前記操作側アンテナのループ長さよりも長い波長となる周波数に設定されている。
【0013】
この第3の発明によれば、起爆操作機から無線起爆雷管に送信する信号の周波数を100KHz以上500KHz以下とすることで、10KHzの場合と比較して、操作側アンテナの巻き数を1/10あるいはそれ以下まで少なくすることができる。
これにより、切羽面近傍における操作側アンテナを張る作業時間をより短くすることができる。
従って、切羽面近傍における作業時間を、より短くすることができる。
また、無線起爆雷管からの応答周波数を、操作側アンテナの長さよりも長い波長の周波数とすることで、定在波の発生を防止し、送受信の信頼性を高めることができる。
【0014】
次に、本発明の第4の発明は、上記第3の発明に係る無線起爆システムであって、前記応答周波数は、1MHz以上10MHz以下である。
【0015】
この第4の発明によれば、定在波の発生を防止する応答周波数を、適切な周波数とすることが可能であり、送受信の信頼性を高めることができる。
【0016】
次に、本発明の第5の発明は、起爆部と、前記起爆部に接続されて前記起爆部に点火する制御部と、前記制御部が無線通信にて使用するアンテナであって30cm以下の径のループ形状を有する起爆側アンテナと一方端が前記制御部に接続されて他方端が前記起爆側アンテナに接続された導電線とを有するアンテナ部と、を備えている無線起爆雷管が、爆薬に取り付けられた親ダイと、前記無線起爆雷管に送信信号を無線で送信し、前記無線起爆雷管からの応答信号を無線で受信する起爆操作機と、を用いて被爆破個所を爆破する無線起爆方法である。
そして、前記被爆破個所に装薬孔を削孔する装薬孔削孔ステップと、前記起爆側アンテナが前記装薬孔の外に達するように前記装薬孔に前記親ダイを装填する装填ステップと、前記起爆操作機が無線通信にて使用するアンテナであって前記応答信号の周波数である応答周波数に対応する波長よりも短い長さに設定した操作側アンテナを、前記被爆破個所から所定距離だけ離れた位置に略ループ形状に張る操作側アンテナ張りステップと、前記操作側アンテナを介して前記起爆操作機から100KHz以上500KHz以下の周波数である操作周波数にて前記無線起爆雷管に起爆準備を開始させる送信信号である準備開始信号を送信する準備開始送信ステップと、前記起爆側アンテナを介して前記準備開始信号を受信した制御部にて起爆準備を開始させ、準備が完了した場合に準備完了を示す応答信号である準備完了信号を、前記操作側アンテナの長さよりも長い波長となる前記応答周波数にて前記起爆側アンテナを介して前記制御部から前記起爆操作機に送信する準備完了応答ステップと、前記操作側アンテナを介して前記準備完了信号を受信した前記起爆操作機から起爆の実行を指示する送信信号である起爆実行信号を送信する起爆実行送信ステップと、前記起爆側アンテナを介して前記起爆実行信号を受信した制御部にて前記起爆部に点火して前記起爆部及び前記爆薬を起爆する起爆ステップと、を有する。
【0017】
この第5の発明によれば、起爆操作機から無線起爆雷管に送信する操作周波数を100KHz以上500KHz以下とするとともに、径が30cm以下の起爆側アンテナを用いることで、装填ステップと、操作側アンテナ形成ステップにかかる時間、すなわち切羽面近傍における作業時間を、より短くすることができる無線起爆方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】トンネル掘削現場における切羽面41を爆破するための無線起爆システム1、及び切羽面41に削孔した装薬孔40に爆薬ユニット20を装填した状態を説明する図である。
【図2】爆薬ユニット20、無線起爆雷管10、及び制御部10Bの構造の例を説明する図である。
【図3】無線起爆方法の処理手順を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明を実施するための形態を図面を用いて、トンネルの掘削現場を例として説明する。
●[無線起爆システム1の全体構成と、装薬孔40への爆薬ユニット20の装填状態(図1)]
無線起爆システム1は、切羽面41に削孔された装薬孔40に装填される爆薬ユニット20と、装薬孔40から離れた遠隔位置に配置されて爆薬ユニット20に対して無線で送受信を行う起爆操作機50と、切羽面41の近傍に張られた操作側アンテナ60と、にて構成されている。
装薬孔40は、例えば径D1が5cm程度、深さD2が2m程度に削孔された孔であるが、この数値に限定されるものではない。
無線起爆雷管10は、図2に示すように、起爆部10Aと、制御部10Bと、アンテナ部10Cにて構成され、アンテナ部10Cは、略ループ形状の起爆側アンテナ30と、一方端が制御部10Bに接続されて他方端が起爆側アンテナ30に接続された導電線31と、にて構成されている。
そして無線起爆雷管10は、装薬孔40に装填される際の先頭となる爆薬13であって無線起爆雷管10が差し込まれている爆薬13である親ダイ13Aと、親ダイ13Aに対して適宜増減される爆薬13である増しダイ13Bとともに、装薬孔40に装填される。
図2に示すように、爆薬ユニット20は、爆薬13と、無線起爆雷管10とで構成されており、爆薬ユニット20は、親ダイ13Aのみ、あるいは親ダイ13Aに増しダイ13Bが追加された状態の爆薬である。
また、爆薬ユニット20の先端には、ゴム等の弾性体で形成された保護キャップ21が嵌め込まれて装薬孔40に装填され、爆薬ユニット20の後端には、粘土等の込め物22にて蓋がされる。そして、導電線31の長さは、爆薬ユニット20を装薬孔40に装填した際に起爆側アンテナ30が装薬孔40の外に達することができる長さに設定されている。なお、保護キャップ21は、導電線31を保護するとともに装填時のショックを和らげるものであるが、省略しても良い。
【0020】
起爆操作機50には、発破母線62と補助母線61を介して操作側アンテナ60が接続されている。なお、操作側アンテナ60と補助母線61は、爆破する毎に新たに張られる。
操作側アンテナ60は、切羽面41から例えば1m程度の距離L1だけ離れた位置に、洞床42、洞側壁43、洞天井44に沿って張られている。発破母線62の先端から切羽面41までの距離L2は、例えば30m程度である。発破母線62の先端から起爆操作機50までの距離L3は、例えば70m程度である。
起爆操作機50は、発破母線62と補助母線61と操作側アンテナ60を介して無線通信にて送信信号を送信し、送信の周波数である操作周波数は、100KHz以上500KHz以下としている。なお、操作周波数を500KHzより高くすると、トンネル内で定在波が発生しやすいので、あまり好ましくない。
また起爆操作機50は、無線起爆雷管10の制御部10Bからの応答信号を、操作側アンテナ60と補助母線61と発破母線62を介して受信する。なお、無線起爆雷管10からの応答信号の周波数である応答周波数は、1MHz以上10MHzとしている。
【0021】
本実施の形態にて説明する無線起爆システム1では、操作周波数を100KHz以上500KHz以下とすることで、操作側アンテナ60の巻き回数を、1回あるいは数回程度とすることができる。また、当該操作周波数の送信信号にて無線起爆雷管10の制御部10Bに給電するとともに点火用のエネルギーを蓄電させる。制御部10Bの給電及び蓄電のための送信時の電力は、数10W〜数100W程度の比較的小電力で行うことができる。また、起爆側アンテナ30の径も、30cm以下の小径のアンテナとすることが可能であり、目安としては5cm程度〜10cm程度の非常に小径のアンテナとすることができる。
例えば操作周波数が200KHzの場合、無線起爆雷管にて最も効率良く受信できるアンテナの長さであるλ/2は、λ/2=[v/f]/2=[(30*107)/(200*103)]/2=750[m]であるが、10cm径程度の1回〜20回に巻回した非常に軽量のループアンテナを装薬孔の外に垂らすことで、充分なエネルギーを取り出すことができる。装薬孔の一番奥にアンテナを配置している従来と比較して、装薬孔の外で受信できるので、非常に効率良くエネルギーを取り出すことができる。また操作周波数が高いので従来と比較して波長λが短く、エネルギーを取り出しやすい。そして無線起爆雷管の側の受信効率が良いので、送信信号の出力エネルギーも、従来ほどのエネルギーを必要とせず、1〜数回程度の巻回の操作側アンテナでよい。
また、無線起爆雷管から起爆操作機へ送信する応答信号の送信用アンテナは、装薬孔の外に垂らしたループアンテナを兼用することができる。そして応答周波数を10MHzとした場合、起爆操作機の受信用のアンテナの長さは、応答周波数の波長λ(この場合、30[m])を超えない長さとすることが好ましく、1〜数回巻きの操作側アンテナを兼用することができる。
【0022】
操作周波数が10KHz以下の従来の方法では、既に説明したように、送信信号を送信するための操作側アンテナの巻き数が40〜500回程度必要であり、無線起爆雷管からの応答信号を受信するためのダイポールアンテナが必要であり、切羽面近傍において非常に長い作業時間が必要であった。
本願では、操作側アンテナ60の巻き数が1回〜数回程度で良く、且つ受信専用のダイポールアンテナも不要であるので、切羽面近傍における操作側アンテナ60を張る作業を、従来と比較して非常に短時間で終わらせることができる。
また、操作周波数が10KHz以下の従来の方法では、既に説明したように、50mm径程度のフェライトコアにコイルを多数回巻いた複雑、且つ重量が大きなものを装薬孔の一番奥に配置し、更に線状アンテナを装薬孔の外に垂らす必要があった。
本願では、10cm径程度の1回〜20回に巻回した非常に軽量のループアンテナを装薬孔の外に垂らすだけで良い。本願では起爆側アンテナ30の径が30cm以下という小さな径であるため、起爆側アンテナが邪魔にならず、起爆側アンテナを取り付けた状態で無線起爆雷管10を装填装置にセットすることができる。そして、装薬孔40への無線起爆雷管10の装填作業を、より短時間で終わらせることができる。
【0023】
●[無線起爆雷管10の構造(図2)と無線起爆方法の処理手順(図3)]
次に図2を用いて、無線起爆雷管10の詳細な構造について説明する。
装薬孔40に装填される際の先頭となる爆薬13には、無線起爆雷管10が差し込まれ、無線起爆雷管10にて直接爆破する親ダイ13Aとなる。装薬孔40に装填される際に親ダイ13Aの後方に配置される爆薬13は、親ダイ13Aの爆破に連動して爆破する増しダイ13Bとなる。増しダイ13Bの数は、所望する爆破エネルギーに応じて適宜増減される。
図2に示す無線起爆雷管10は断面図を示しており、無線起爆雷管10は、管体10X内に起爆部10Aと制御部10Bが収容されて閉塞栓10Zにて密封されている。また起爆部10Aは、絶縁スリーブ11A、点火玉11B、内管11C、起爆薬11D、添装薬11E等を有している。また制御部10Bは、送受信手段12B、CPU12A、蓄電手段12C、蓄電状態検出手段12D、スイッチ手段12E、点火手段12F、ID記憶手段12G等を有している。
以下、図3に示すフローチャートを説明しながら、制御部10Bの各構成要素の動作について説明する。
なお、以下の説明では、起爆操作機50からの送信信号の周波数である操作周波数を200KHzに設定し、無線起爆雷管10からの応答信号の周波数である応答周波数を10MHzに設定した場合の例で説明する。
【0024】
図3に示すように、作業者は、ステップS10の装薬孔削孔ステップにて、削孔機等を用いて切羽面41に複数の装薬孔40を削孔し、ステップS20に進む。
ステップS20の装填ステップにて、作業者は装填装置等を用いて、削孔した装薬孔40のそれぞれに、起爆側アンテナ30が装薬孔40の外に達するように爆薬ユニット20を装填し、ステップS30に進む。
ステップS30の操作側アンテナ張りステップにて、作業者は切羽面41から距離L1だけ離れた位置の洞床、洞側壁、洞天井に、操作側アンテナ60を張り、操作側アンテナ60と補助母線61と発破母線62と起爆操作機50を接続し、ステップS40に進む。なお、操作側アンテナ60の長さは、無線起爆雷管10の応答周波数に対応する波長よりも短い長さに設定する。例えば応答周波数が10MHzである場合、λ=v/fより、波長=光速/応答周波数=300,000[Km/s]/10*106[/s]=30[m]である。従って、応答周波数が10MHzである場合は、30mよりも短い長さに設定した操作側アンテナ60をループ状に張る。これにより、定在波の発生を抑制し、無線通信の信頼性をより向上させることができる。また、この長さであれば、1回あるいは数回巻くだけで、トンネルの洞床、洞側壁、洞天井と全周にわたって操作側アンテナ60を張ることができるので、非常に短時間に操作側アンテナ張り作業を完了させることができる。なお、応答周波数を決めてから操作側アンテナ60の長さを決めるのではなく、操作側アンテナ60の長さを決めてから応答周波数を決めても良い。
そしてステップS40にて、作業者は起爆操作機50の操作を開始する。
以下、ステップS40の作業者の操作による起爆操作機50の動作と、無線起爆雷管10の制御部10Bの動作について説明する。
【0025】
起爆操作機50は、ステップS110にて、作業者から、全ての無線起爆雷管10に対して起爆準備を開始させる準備開始信号の送信の指示が入力されたか否かを判定する。作業者から指示が入力された場合(Yes)はステップS120に進み、指示が入力されていない場合(No)はステップS110に戻り、入力を待つ。
ステップS120に進んだ場合、起爆操作機50は、発破母線62と補助母線61と操作側アンテナ60を介して、操作周波数(この場合、200KHz)の準備開始信号を無線にて送信し、ステップS130に進む。
以上のステップS110とステップS120が準備開始送信ステップに相当する。
【0026】
無線起爆雷管10の制御部10BのCPU12Aは、ステップS210にて、起爆操作機50からの準備開始信号を受信したか否かを判定する。準備開始信号を受信した場合(Yes)はステップS220に進み、受信していない場合(No)はステップS210に戻り、入力を待つ。この場合、図2に示す送受信手段12Bは、起爆側アンテナ30と導電線31を介して入力された起爆操作機50からの送信信号(この場合、準備開始信号)を検出してCPU12Aに出力する。また送受信手段12Bは、受信した操作周波数(この場合、200KHz)の信号を電力に変換して制御部10B内にて使用する電力と、蓄電手段12Cに蓄電する電力を供給する。
ステップS220に進んだ場合、CPU12Aは、受信した準備開始信号に基づいて、起爆のための準備である蓄電手段12Cへの蓄電を開始してステップS230に進む。蓄電手段12Cはコンデンサ等であり、CPU12Aからの制御信号に基づいて電荷を蓄えることができる。また、CPU12Aは、蓄電状態検出手段12Dを介して蓄電手段12Cの蓄電状態を検出することができる。
ステップS230にて、CPU12Aは、蓄電状態検出手段12Dからの検出信号に基づいて、蓄電手段12Cの蓄電量が、予め設定された蓄電量に達したか否かを判定する。設定された蓄電量に達している場合(Yes)はステップS240に進み、達していない場合(No)はステップS220に戻る。
ステップS240に進んだ場合、CPU12Aは、準備(蓄電)完了を示す情報を含む応答信号である準備完了信号を送受信手段12Bに出力し、ステップS250に進む。なお準備完了信号には、ID記憶手段12Gから読み出したID情報も含まれている。このID情報(予め各制御部10Bに固有に割り付けられたID)を用いることで、起爆操作機50は、どの無線起爆雷管の準備(蓄電)が完了したか、適切に認識することができる。また送受信手段12Bは、CPU12Aからの応答信号を応答周波数(この場合、10MHz)にて、導電線31と起爆側アンテナ30を介して起爆操作機50に向けて出力する。
以上のステップS210〜ステップS240が準備完了応答ステップに相当する。
【0027】
起爆操作機50は、ステップS130にて、無線起爆雷管10からの準備完了信号を受信したか否かを判定する。複数の無線起爆雷管10のそれぞれには、固有のIDが予め割り付けられており、準備完了信号にはID情報が含まれている。起爆操作機50は、全ての無線起爆雷管からの準備完了信号を受信したか否かを判定する。全ての無線起爆雷管10からの準備完了信号を受信した場合(Yes)はステップS140に進み、そうでない場合(No)はステップS130に戻り、全ての無線起爆雷管10から準備完了信号を受信するまで待つ。なお、所定時間経過しても全ての無線起爆雷管からの準備完了信号を受信できない場合は、作業者の操作によって、図示しない中断等の処置が施される。
ステップS140に進んだ場合、起爆操作機50は、作業者からの起爆の実行の指示の入力がされたか否かを判定する。作業者からの起爆実行の指示入力がある場合(Yes)はステップS150に進み、指示入力がされていない場合(No)はステップS140に戻り、入力を待つ。
ステップS150に進んだ場合、起爆操作機50は、起爆の実行を指示する送信信号である起爆実行信号を、発破母線62と補助母線61と操作側アンテナ60を介して、操作周波数にて送信する。
以上のステップS130〜ステップS150が起爆実行送信ステップに相当する。
【0028】
それぞれの無線起爆雷管10のCPU12Aは、ステップS250にて、起爆実行信号を受信したか否かを判定する。この場合、送受信手段12Bが起爆側アンテナ30と導電線31を介して入力された起爆操作機50からの送信信号(この場合、起爆実行信号)を検出してCPU12Aに出力し、CPU12Aは送受信手段から受け取った信号が起爆実行信号であるか否かを判定する。起爆実行信号を受信した場合(Yes)はステップS260に進み、受信していない場合(No)はステップS250に戻り、起爆実行信号が送信されるのを待つ。なお、所定時間経過しても起爆実行信号が送信されてこない場合は、タイムアウトと判定して蓄電手段12Cに蓄電したエネルギーを破棄して終了する。
ステップS260に進んだ場合、CPU12Aは、起爆部10Aに点火して無線起爆雷管10を起爆する。この場合、CPU12Aは、スイッチ手段12Eを操作して蓄電手段12Cに蓄えたエネルギーを点火手段12Fに供給して起爆部10Aを起爆させ、親ダイ13A及び増しダイ13Bを起爆する。
【0029】
以上、本実施の形態の図1及び図2にて説明した無線起爆雷管10、親ダイ13A、無線起爆システム1では、起爆操作機50から送信する信号の周波数を100KHz以上500KHz以下としているので、起爆側アンテナ30の構造を簡素なループアンテナとすることが可能であり、装薬孔の外に垂らしたループ径30cm以下のループアンテナとすることができる。また、当該ループアンテナにて送信信号の受信と応答信号の送信を兼用させることが可能であり、従来のように送信信号の受信専用アンテナ及び応答信号の送信専用アンテナを必要としない。これにより、無線起爆雷管10を備えた親ダイ13Aを、装薬孔40に装填する作業時間を、より短くすることができる。
また、無線起爆雷管10からの応答する信号の周波数を1MHz以上10MHz以下に設定し、操作側アンテナ60の長さも、洞床、洞側、洞天井に沿って1回あるいは数回巻く程度の長さで良い。また、操作側アンテナ60にて、送信信号の送信と応答信号の受信を兼用させることが可能であり、従来のように送信信号の送信専用アンテナ及び応答信号の受信専用のダイポールアンテナを必要としない。
これにより、操作側アンテナを張る作業時間も、より短くすることができる。
なお、操作側アンテナ60は、発破によって眼に見えない損傷が内部に発生する可能性があるので、安全のために発破毎に張り直している。そのため、本願のように1回〜数回巻きの簡素な操作側アンテナ60は、従来の40〜500回巻きのアンテナ+ダイポールアンテナと比較して、アンテナを張る作業時間を非常に短時間にすることが可能であり、発破作業の安全性をより向上させることができる。
また本実施の形態の図3にて説明した無線起爆方法を用いることで、切羽面近傍における作業時間をより短くすることが可能であり、より安全に切羽面を爆破することができる。
【0030】
本発明の無線起爆雷管10、親ダイ13A、無線起爆システム1、及び無線起爆方法は、本実施の形態にて説明した外観、構造、構成、処理等に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。
また本実施の形態にて説明した無線起爆雷管10、親ダイ13A、無線起爆システム1、及び無線起爆方法は、トンネルの掘削現場に限定されず、種々の現場の爆破に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0031】
1 無線起爆システム
10 無線起爆雷管
10A 起爆部
10B 制御部
10C アンテナ部
12A CPU
12B 送受信手段
12C 蓄電手段
12D 蓄電状態検出手段
12F 点火手段
12G ID記憶手段
13 爆薬
13A 親ダイ
13B 増しダイ
20 爆薬ユニット
21 保護キャップ
22 込め物
30 起爆側アンテナ
31 導電線
40 装薬孔
41 切羽面
42 洞床
43 洞側壁
44 洞天井
50 起爆操作機
60 操作側アンテナ
61 補助母線
62 発破母線



【特許請求の範囲】
【請求項1】
起爆部と、
前記起爆部に接続されて前記起爆部に点火する制御部と、
前記制御部が無線通信にて使用するアンテナである起爆側アンテナと、一方端が前記制御部に接続されて他方端が前記起爆側アンテナに接続された導電線と、を有するアンテナ部と、
を備えている無線起爆雷管であって、
前記制御部は、前記起爆側アンテナと前記導電線を介して100KHz以上500KHz以下の周波数である操作周波数の送信信号を受信し、
前記起爆側アンテナはループ形状であり、ループ径は30cm以下である、
無線起爆雷管。
【請求項2】
請求項1に記載の無線起爆雷管と爆薬とで構成された親ダイであって、
前記無線起爆雷管は前記爆薬に取り付けられており、
前記導電線の長さは、前記親ダイが被爆破個所に削孔された装薬孔に装填された際に、前記導電線の他方端に接続された前記起爆側アンテナが、前記装薬孔の外に達することができる長さに設定されている、
親ダイ。
【請求項3】
請求項2に記載の親ダイと、
前記装薬孔から離れた遠隔位置に配置されて前記無線起爆雷管に前記送信信号を無線で送信し、前記無線起爆雷管からの応答信号を無線で受信する起爆操作機と、
前記起爆操作機が無線通信にて使用するアンテナである操作側アンテナと、にて構成された無線起爆システムであって、
前記操作側アンテナはループ形状であり、
前記制御部は、前記起爆操作機から前記送信信号を受信すると、受信した前記送信信号に対応する応答信号を作成し、作成した前記応答信号を、前記操作周波数よりも高い周波数である応答周波数にて、前記導電線と前記起爆側アンテナを介して送信し、
前記応答周波数は、前記操作側アンテナのループ長さよりも長い波長となる周波数に設定されている、
無線起爆システム。
【請求項4】
請求項3に記載の無線起爆システムであって、
前記応答周波数は、1MHz以上10MHz以下である、
無線起爆システム。
【請求項5】
起爆部と、
前記起爆部に接続されて前記起爆部に点火する制御部と、
前記制御部が無線通信にて使用するアンテナであって30cm以下の径のループ形状を有する起爆側アンテナと、一方端が前記制御部に接続されて他方端が前記起爆側アンテナに接続された導電線と、を有するアンテナ部と、
を備えている無線起爆雷管が、爆薬に取り付けられた親ダイと、
前記無線起爆雷管に送信信号を無線で送信し、前記無線起爆雷管からの応答信号を無線で受信する起爆操作機と、を用いて被爆破個所を爆破する無線起爆方法において、
前記被爆破個所に装薬孔を削孔する装薬孔削孔ステップと、
前記起爆側アンテナが前記装薬孔の外に達するように前記装薬孔に前記親ダイを装填する装填ステップと、
前記起爆操作機が無線通信にて使用するアンテナであって前記応答信号の周波数である応答周波数に対応する波長よりも短い長さに設定した操作側アンテナを、前記被爆破個所から所定距離だけ離れた位置に略ループ形状に張る操作側アンテナ張りステップと、
前記操作側アンテナを介して前記起爆操作機から100KHz以上500KHz以下の周波数である操作周波数にて前記無線起爆雷管に起爆準備を開始させる送信信号である準備開始信号を送信する準備開始送信ステップと、
前記起爆側アンテナを介して前記準備開始信号を受信した制御部にて起爆準備を開始させ、準備が完了した場合に準備完了を示す応答信号である準備完了信号を、前記操作側アンテナの長さよりも長い波長となる前記応答周波数にて前記起爆側アンテナを介して前記制御部から前記起爆操作機に送信する準備完了応答ステップと、
前記操作側アンテナを介して前記準備完了信号を受信した前記起爆操作機から起爆の実行を指示する送信信号である起爆実行信号を送信する起爆実行送信ステップと、
前記起爆側アンテナを介して前記起爆実行信号を受信した制御部にて前記起爆部に点火して前記起爆部及び前記爆薬を起爆する起爆ステップと、を有する、
無線起爆方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−19605(P2013−19605A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153627(P2011−153627)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)