説明

無線通信装置

【課題】送受信を時分割で行う無線通信装置において、送信系及び受信系の回路だけでなく、アンテナ側の動作を自己診断できるようにする。
【解決手段】第1診断モードでは、送信系のPA8からの送信信号を、経路切換回路22内の折返し経路を介して、受信系のLNA4に直接入力することで、受信信号の信号レベル及び復調データに基づき、送信系及び受信系のアナログ回路や変調部16及び復調部14が正常に動作しているか否かを判断し、これらが正常に動作していれば、第2診断モードに移行する。このモードでは、経路切換回路22を、PA8からアンテナ2に送信信号が伝送され、その送信信号のアンテナ2からの反射信号がLNA4に入力されるように切り換え、反射信号の信号レベルがしきい値を越えるとアンテナ2若しくはRFSW9に異常があると判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信及び受信を時分割で行う無線通信装置に関し、詳しくは、送信系及び受信系の自己診断機能を有する無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
送信及び受信を時分割で行う無線通信装置には、通常、送信信号の変調・増幅等を行う送信系回路と、受信信号の増幅・復調等を行う受信系回路と、これら2系統の回路の何れかをアンテナに接続することにより送信期間と受信期間とを切り換える送受信切換スイッチとが備えられている。
【0003】
そして、この無線通信装置では、送信系回路から送受信切換スイッチに至る送信信号経路と、送受信切換スイッチから受信系回路に至る受信信号経路との間に、送信系回路からの送信信号を受信系回路に直接入力するための折返し経路を形成し、受信系回路にて送信系回路からの送信信号を受信できているか否かを判断することで、送信系回路及び受信系回路の故障診断を行うことが提案されている(例えば、特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−145499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記無線通信装置においては、送信系回路及び受信系回路が正常に動作していても、送信系回路から経路切換スイッチを介してアンテナに至る送信信号の伝送経路に異常が発生したり、アンテナ自体が故障したりすると、送信系回路から出力された送信信号に対応した送信電波がアンテナから放射されず、無線通信を正常に実行できなくなるという問題がある。
【0006】
しかし、上記提案の無線通信装置では、送信系回路及び受信系回路の故障診断はできるものの、送信系回路から送受信切換スイッチを介してアンテナに至るアンテナ側の故障診断は行うことができない。
【0007】
このため、上記従来の無線通信装置において、アンテナ側の故障診断は、例えば、送信系回路から出力させた送信信号に対応した応答信号が他の無線通信装置から送信されて、受信系回路にてその応答信号を復元できたか否かを判断することにより行うしかなく、無線通信装置周囲に通信相手となる他の無線通信装置が存在しないときには、アンテナ側の故障診断を実施することができないという問題があった。
【0008】
従って、例えば、上記無線通信装置が、移動体に搭載される移動局、若しくは、移動局との間で無線通信を行う固定局、として利用されるとき(換言すれば、車車間通信若しくは路車間通信を行うとき)には、自局の周囲に他の無線通信装置が接近してきた際に、アンテナ側の故障によって自局の情報を他の無線通信装置に送信することができず、車車間通信若しくは路車間通信を正常に実行することができないことがある。
【0009】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたものであり、送信及び受信を時分割で行う無線通信装置において、周囲に他の無線通信装置が存在しない場合でも、送信系回路及び受信系回路の動作に加えて、アンテナからの電波の放射状態を含むアンテナ側の動作を自己診断できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するためになされた請求項1に記載の発明は、
通信用のアンテナと、
送信信号を増幅して前記アンテナに出力する送信手段と、
前記アンテナからの受信信号を増幅して信号処理する受信手段と、
前記アンテナを前記送信手段及び前記受信手段の何れか一方に選択的に接続する送受信切換手段と、
を備え、前記送受信切換手段を介して前記アンテナへの接続経路を切り換えることにより、無線送信及び受信を時分割で行う無線通信装置において、
前記送信手段と前記送受信切換手段との間の送信信号経路、及び、前記送受信切換手段と前記受信手段との間の受信信号経路を導通させて、前記送信手段からの送信信号を前記受信手段に入力する折返し経路を形成する、第1の経路切換手段と、
前記送信手段と前記送受信切換手段との間の送信信号経路に設けられ、当該送信信号経路に流れる前記アンテナからの反射信号を抽出する方向性結合器と、
前記方向性結合器にて抽出された反射信号を前記受信手段に入力する反射信号入力経路を形成する、第2の経路切換手段と、
当該無線通信装置の動作モードが、無線送信及び受信を時分割で行う通常モードから、故障診断モードに切り換えられると、前記第1の経路切換手段を介して前記折返し経路を形成し、前記送信手段から故障診断用にレベル調整された第1送信信号を出力させた後、前記受信手段から受信信号の信号レベル若しくは該受信信号の信号処理結果を取り込み、該受信信号の信号レベル若しくは該受信信号の信号処理結果に基づき、前記送信手段からの送信信号が前記受信手段にて正常に受信されているか否かを判断する第1故障診断手段と、
前記第1故障診断手段にて前記送信手段からの送信信号が前記受信手段にて正常に受信されていると判断されると、前記第1の経路切換手段による前記折返し経路の形成を終了させて、前記第2の経路切換手段に前記反射信号入力経路を形成させ、前記送信手段から故障診断用にレベル調整された第2送信信号を出力させた後、前記方向性結合器から前記受信手段に入力される前記アンテナからの反射信号の信号レベルを取り込み、該反射信号の信号レベルに基づき、前記アンテナから送信電波が正常に放射されているか否かを判断する第2故障診断手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の無線通信装置において、前記折返し経路には、前記受信手段への送信信号の入力レベルを調整するための減衰器が設けられていることを特徴とする。
【0012】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の無線通信装置において、前記第2の経路切換手段には、前記反射信号入力経路の非形成時に、前記方向性結合器の反射信号の出力端を適正インピーダンスにて終端させる終端抵抗が設けられていることを特徴とする。
【0013】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の無線通信装置において、前記第1故障診断手段及び前記第2故障診断手段による診断結果を報知する報知手段を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の無線通信装置によれば、当該無線通信装置の動作モードが通常モードである場合には、送受信切換手段を介して、アンテナへの接続経路が送信手段側又は受信手段側に交互に切り換えることにより、他の無線通信装置との間で、所謂半二重による無線通信が行われる。
【0015】
次に、当該無線通信装置の動作モードが通常モードから故障診断モードに切り換えられると、第1故障診断手段が、第1の経路切換手段を介して折返し経路を形成し、送信手段から、故障診断用にレベル調整された第1送信信号を出力させる。この結果、上述した従来装置と同様、送信手段から出力された第1送信信号が受信手段に入力される。
【0016】
そして、第1故障診断手段は、この状態で、受信手段から受信信号の信号レベル若しくはその受信信号の信号処理結果(例えば受信データ)を取り込み、その取り込んだ信号レベル若しくは信号処理結果に基づき、送信手段からの送信信号が受信手段にて正常に受信されているか否か、つまり、送信手段及び受信手段が共に正常動作しているか否かを判断する。
【0017】
また、第1故障診断手段にて送信手段からの送信信号が受信手段にて正常に受信されている(つまり、送信手段及び受信手段が共に正常動作している)と判断されると、第2故障診断手段が、第1の経路切換手段による折返し経路の形成を終了させて、第2の経路切換手段に反射信号入力経路を形成させ、送信手段から、故障診断用にレベル調整された第2送信信号を出力させる。
【0018】
この結果、送信手段から出力された第2送信信号はアンテナまで伝送され、その伝送経路やアンテナが正常であれば、第2送信信号に対応した送信電波がアンテナから低損失で放射される。逆に、その伝送経路若しくはアンテナに異常があれば、第2送信信号がアンテナから送信されないか、送信されても送信電波は低レベルとなり、アンテナから送信手段側に反射される反射信号が高レベルとなる。
【0019】
そして、このとき、アンテナから送信手段側に反射される反射信号は、方向性結合器から反射信号入力経路を介して受信手段に入力されることから、送信手段からアンテナへの送信信号の伝送経路やアンテナが正常であれば、受信手段への反射信号の入力レベルは低レベルとなり、その伝送経路若しくはアンテナに異常があれば、受信手段への反射信号の入力レベルは高レベルとなる。
【0020】
そこで、第2故障診断手段は、第2の経路切換手段に反射信号入力経路を形成させて、送信手段から第2送信信号を出力させた後は、方向性結合器から受信手段に入力される反射信号の信号レベルを取り込み、この反射信号の信号レベルに基づき、アンテナから送信電波が正常に放射されているか否か(換言すれば、送信手段からアンテナへの送信信号の伝送経路及びアンテナ自身が正常か否か)を判断する。
【0021】
従って、本発明の無線通信装置によれば、第1故障診断手段により、送信手段及び受信手段が正常に動作しているか否かを自己診断することができるだけでなく、第2故障診断手段により、送信手段から送受信切換手段を介してアンテナに至る送信信号の伝送経路及びアンテナが正常か否かを自己診断することができる。
【0022】
そして、第2故障診断手段による診断は、アンテナから送信手段側に反射された送信信号の反射信号を方向性結合器にて抽出し、その抽出した反射信号を受信手段に入力して、その信号レベルを検出することにより行われることから、送信手段からアンテナに至る送信信号の伝送経路及びアンテナ自体の故障を診断するのに、他の無線通信装置からの受信信号を利用する必要がない。
【0023】
このため、本発明によれば、例えば、車車間通信若しくは路車間通信を行う無線通信装置において、周囲に通信相手となる他の無線通信装置が存在しない場合であっても、送信手段からアンテナに至る送信信号の伝送経路及びアンテナ自体の故障診断を実施することができ、無線通信装置の信頼性を向上することができる。
【0024】
次に、請求項2に記載の無線通信装置によれば、折返し経路に、受信手段への送信信号の入力レベルを調整するための減衰器が設けられているので、第1故障診断手段が送信手段及び受信手段を故障診断する際、送信手段の故障時等に、受信手段へ著しく高レベルの送信信号が入力されて、受信手段が破損するのを防止できる。
【0025】
また、減衰器を可変減衰器にて構成し、第1故障診断手段による故障診断時に、送信手段から受信手段へ入力される送信信号の信号レベルを変化させるようにすれば、故障診断を異なるレベル条件下で複数回実施して、その診断精度を高めることもできる。
【0026】
次に、請求項3に記載の無線通信装置によれば、第2の経路切換手段には、反射信号入力経路の非形成時に、方向性結合器の反射信号の出力端を適正インピーダンスにて終端させる終端抵抗が設けられている。
【0027】
従って、請求項3に記載の無線通信装置によれば、第2故障診断手段が故障診断を行わないとき(つまり、通常の無線通信を行う通常モード時や、第1故障診断手段の動作時)に、方向性結合器の出力側が開放されて、アンテナからの反射信号がその開放端から放射されたり、送信手段からアンテナに至る信号経路の伝送インピーダンスが適正インピーダンスからずれて、無線通信装置の送信特性が低下したりするのを防止できる。
【0028】
また、請求項4に記載の無線通信装置においては、第1故障診断手段及び第2故障診断手段による診断結果を報知する報知手段が備えられているので、送信手段若しくは受信手段の故障、或いは、送信手段からアンテナに至る送信信号の伝送経路若しくはアンテナ自体の故障を、無線通信装置の管理者(使用者等)に通知して、当該装置の修理を促すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施形態の無線通信装置の構成を表すブロック図である。
【図2】実施形態の制御部にて実行される故障診断処理を表すフローチャートである。
【図3】図2に示す故障診断処理の実行に伴い切り換えられる経路切換回路の状態を表す説明図である。
【図4】変形例の無線通信装置の構成を表すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
図1に示す本実施形態の無線通信装置は、例えば、自動車等の移動体に搭載されて、他の移動体に搭載された無線通信装置や、走行路近傍に路側機として設置された無線通信装置との間で、CSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access/Collision Avoidance)方式による無線通信(車車間通信、路車間通信)を行うものであり、通信用のアンテナ2を備える。
【0031】
また、CSMA/CA方式では、1つの通信チャンネルを利用して送受信を行うことから、アンテナ2には、送受信切換用の高周波スイッチ(以下、RFSWという)9を介して、受信系のアナログ回路と送信系のアナログ回路との何れか一方が選択的に接続される。
【0032】
受信系のアナログ回路は、アンテナ2からの受信信号を増幅するローノイズアンプ(以下、LNAという)4と、LNA4にて増幅された受信信号をベースバンドの受信信号に周波数変換(ダウンコンバート)する周波数変換部5とから構成されている。
【0033】
そして、周波数変換部5にて周波数変換されたベースバンドの受信信号は、ベースバンドプロセッサ10に入力される。
ベースバンドプロセッサ10には、この受信信号をデジタル信号に変換するA/D変換部12、及び、A/D変換部12にてA/D変換されたデジタル信号を処理して受信データを復元する復調部14、が備えられている。
【0034】
そして、復調部14にて復元された受信データは、MAC層に関する規定動作を行うMAC部(Media Access Control:メディアアクセス制御部)20に出力され、このMAC部20にて処理された後、移動体に搭載された電子制御装置(ECU:例えば、運転支援用のナビゲーション装置等)に出力される。
【0035】
また、この電子制御装置(ECU)からMAC部20には、送信データが入力され、MAC部20は、その入力データを処理して、キャリアセンスに基づき設定される送信タイミングングで、ベースバンドプロセッサ10に出力する。
【0036】
ベースバンドプロセッサ10内には、MAC部20からの入力データを予め設定された変調方式にて送信信号(デジタル信号)に変調する変調部16、及び、この変調部16からのデジタル信号をアナログ信号に変換するD/A変換部18、が備えられている。
【0037】
そして、D/A変換部18にてアナログ信号に変換された送信信号は、送信系のアナログ回路を介して、RFSW9に出力される。
なお、送信系のアナログ回路は、ベースバンドプロセッサ10のD/A変換部18から出力されるベースバンドの送信信号を無線送信用の高周波信号に周波数変換(アップコンバート)する周波数変換部7と、この周波数変換部7にて周波数変換された送信信号を増幅するパワーアンプ(以下、PAという)8とから構成されている。
【0038】
また、受信系及び送信系の周波数変換部5、7には、LNA4やPA8のゲインコントロール等に用いられる受信信号及び送信信号の信号レベルを検出する、レベル検出部5a、7aが設けられている。
【0039】
また、受信系のLNA4及び送信系のPA8とRFSW9とをそれぞれ接続する受信信号経路及び送信信号経路には、経路切換回路22が設けられている。
この経路切換回路22は、無線通信装置が通常の通信モードにあるときには、LNA4及びPA8とRFSW9との間の受信信号経路及び送信信号経路を導通させ、故障診断用の故障診断モードにあるときには、その信号経路を故障診断用に変更して、故障診断できるようにするためのものであり、信号経路切換用の4個の高周波スイッチ(以下、切換スイッチという)SW1〜SW4と、減衰器(アッテネータ)ATTと、信号経路の伝送インピーダンスに対応する抵抗値を有する終端抵抗RTと、方向性結合器24とから構成されている。
【0040】
ここで、切換スイッチSW1は、送信系のPA8とRFSW9との間の送信信号経路に設けられて、この送信信号経路を導通・遮断させるものであり、切換スイッチSW2は、RFSW9と受信系のLNA4との間の受信信号経路に設けられて、この受信信号経路を導通・遮断させるものである。
【0041】
そして、これら切換スイッチSW1、SW2は、送信信号経路及び受信信号経路を遮断した状態では、PA8の出力をLNA4の入力に接続するよう、送信信号経路及び受信信号経路のアンプ側を折返し経路側に接続する。
【0042】
また、この折返し経路には、減衰器(アッテネータ)ATTと、切換スイッチSW3と、が設けられている。減衰器ATTは、折返し経路の切換スイッチSW2側に設けられており、切換スイッチSW3は、減衰器ATTの切換スイッチSW2とは反対側を、切換スイッチSW1側に接続するか、切換スイッチSW4側に接続するかを切り換え可能に設けられている。
【0043】
また、方向性結合器24は、送信系のPA8からRFSW9に至る送信信号経路で、切換スイッチSW1よりもRFSW9側に配置されており、この送信信号経路を逆方向(RFSW9からPA8に向かう方向)に流れる高周波信号(換言すれば送信信号がアンテナ2で反射した反射信号)を取り出すためのものである。
【0044】
そして、切換スイッチSW4は、方向性結合器24の反射信号の出力端を、終端抵抗RTを介して終端するか、或いは、切換スイッチSW3(延いては減衰器ATT)に接続するかを切換可能に設けられている。
【0045】
次に、ベースバンドプロセッサ10には、受信信号及び送信信号をデジタル処理するためのA/D変換部12、復調部14、変調部16、及びD/A変換部18に加えて、無線通信時に、MAC部20によるアクセス制御に連動して、RFSW9による送受信の切り換え、受信系LNA4及び送信系PA8のゲインコントロール(GC)、受信系及び送信系の周波数変換部5、7の制御等、無線通信用の各種制御を実行する制御部30が設けられている。
【0046】
そして、本実施形態では、無線通信装置の出荷時や検査時等に自己診断指令が入力されると、この制御部30が、図2に示す手順で、送受信系回路やアンテナ2の故障診断を行う。
【0047】
以下、このように制御部30にて実行される故障診断処理について、図2を用いて説明する。なお、この故障診断処理を実行するに当たって、制御部30には、診断結果を報知するための表示部32が接続されている。
【0048】
図2に示すように、故障診断処理が開始されると、まずS110(Sはステップを表す)にて、経路切換回路22を介して送信信号及び受信信号の経路を切り換えることにより、無線通信装置の動作モードを、無線通信を行う通常モードから、送受信系回路(詳しくは、LNA4、周波数変換部5、7、PA8、復調部14、変調部16等)の故障診断を行う第1診断モードに切り換える。
【0049】
つまり、本実施形態では、無線通信を行う通常モードでは、図1に示すように、切換スイッチSW1、2が、送信信号経路及び受信信号経路を導通する側に設定され、切換スイッチSW3が切換スイッチSW4側に設定され、切換スイッチSW4が終端抵抗RT側に設定される。
【0050】
そして、S110では、図3(a)に示すように、切換スイッチSW1、2を、送信信号経路及び受信信号経路を遮断する側(換言すれば折返し経路側)に切り換え、切換スイッチSW3を、切換スイッチSW1側に切り換える。
【0051】
この結果、第1診断モードでは、PA8の出力が、減衰器ATTが設けられた折返し経路を介して、LNA4の入力に接続されることになる。
次に、S120では、MAC部20を介して送受信系回路の故障診断用の送信データを変調部16に出力することで、送信系の各回路部を動作させて、PA8からLNA4に、予め設定された信号レベルの第1送信信号を一定期間送信させる。
【0052】
なお、この送信時には、第1送信信号が受信系のLNA4に適正レベルで入力されるように、送信系周波数変換部7内のレベル検出部7aにて検出される送信信号の信号レベルに基づきPA8の利得を調整(ゲインコントロール)する。
【0053】
そして、S130では、その第1送信信号の送信期間内に、受信系周波数変換部5に設けられたレベル検出部5aから、第1送信信号の受信信号の信号レベルを読み込み、S140にて、その信号レベルが、適正範囲内にあるか否かを判断する。
【0054】
S140にて、レベル検出部5aから読み込んだ信号レベルが適正範囲内にないと判断されると、S150にて、送受信系回路(ここでは、LNA4、周波数変換部5、7、及びPA8のアナログ回路)に異常があると判定して、後述のS260に移行し、逆に、その信号レベルが適正範囲内にあると判断されると、S160に移行する。
【0055】
次にS160では、復調部14から、受信信号を復調した受信データを読み込む。そして、S170では、その読み込んだ受信データが正常か否か(具体的には、S120にてMAC部20を介して送信させた故障診断用の送信データと一致しているか否か)、を判断する。
【0056】
S170にて、受信データが正常ではないと判断されると、S180にて、ベースバンドプロセッサ10内の送受信系回路である変調部16若しくは復調部14に異常があると判定して、後述のS260に移行し、逆に、受信データが正常であると判断されると、S190に移行する。
【0057】
S190では、無線通信装置の動作モードを、第1診断モードからLNA4及びPA8よりもアンテナ側(つまり、アンテナ2、RFSW9等)の故障診断を行う第2診断モードに切り換える。
【0058】
なお、この第2診断モードへの切り換えは、図3(a)、(b)から明らかなように、切換スイッチSW1を、送信信号経路を導通させる側に切り換え、切換スイッチSW3を、切換スイッチSW4側に切り換え、切換スイッチSW4を、切換スイッチSW3側に切り換えることにより行われる。
【0059】
この結果、第2診断モードでは、PA8の出力が、RFSW9(延いてはアンテナ2)に接続され、方向性結合器24にて抽出されたアンテナ2側からの反射信号を、減衰器ATTを介してLNA4に入力する、反射信号入力経路が形成されることになる。
【0060】
次に、S200では、MAC部20を介してアンテナ側故障診断用の送信データを変調部16に出力することで、送信系の各回路部を動作させて、PA8から予め設定された信号レベルの第2送信信号を一定期間送信させる。
【0061】
なお、S200では、第2送信信号をアンテナ2まで伝送して、アンテナ2から送信させるために、RFSW9を送信側に切り換える。また、第2診断モードでの送信データは他の無線通信装置に届くので、送信データのデータ内容及びPA8から出力される送信信号の信号レベルは、他の無線通信装置との通信に影響を与えることのないように設定される。
【0062】
次に、S210では、第2送信信号の送信期間内に、受信系周波数変換部5に設けられたレベル検出部5aから、アンテナ2側からの反射信号の信号レベルを読み込み、S220にて、その信号レベルが、予め設定されたしきい値(上限値)を越えたか否か(つまり、アンテナ2からの反射が大きいか否か)を判断する。
【0063】
そして、S220にて、レベル検出部5aから読み込んだ信号レベルがしきい値を越えたと判断されると、S230にて、アンテナ側(つまり、アンテナ2、RFSW9等)に異常がある判定して、後述のS260に移行し、逆に、その信号レベルがしきい値以下であると判断されると、S240に移行する。
【0064】
S240では、上述の故障診断の結果、無線通信装置の送受信系回路やアンテナ2には異常はない(セルフチェックOK)として、その旨をメモリに記憶する。
そして、続くS250では、無線通信装置の動作モードを、第2診断モードから通常モードに切り換え、当該故障診断処理を終了する。
【0065】
なお、S250では、切換スイッチSW2を、受信信号経路を導通させる側に切り換え、切換スイッチSW4を、終端抵抗RT側に切り換えることで、経路切換回路22を図1に示した状態に設定する。
【0066】
また、S150、S180、S230にて異常判定された際には、S260に移行し、その異常判定された異常内容に応じたエラーメッセージを表示部32に表示することで、運転者等の無線通信装置の異常(故障)を報知し、S270に移行して、当該無線通信装置の電源を遮断する。
【0067】
なお、表示部32は、自動車のインストルメントパネル等、移動体の運転者が目視で確認できる位置に設けられており、制御部30からエラーメッセージの表示指令を受けると、無線通信装置の電源遮断後も継続してエラーメッセージを表示する。
【0068】
以上説明したように、本実施形態の無線通信装置によれば、制御部30に自己診断指令が入力されると、無線通信装置の動作モードが、通常モードから第1診断モード、第1診断モードから通常モードへと順次切り換えられる。
【0069】
そして、第1診断モードでは、制御部30により、経路切換回路22が、送信系のPA8からの送信信号を、折返し経路を介して受信系のLNA4に直接入力するよう切り換えられ、レベル検出部5aにて検出された受信信号の信号レベル、及び、復調部14にて復調された復調データに基づき、送受信系のアナログ回路やベースバンドプロセッサ10内の変調部16及び復調部14が正常に動作しているか否かが判断される。
【0070】
また、第1診断モードで送受信系が正常に動作していると判断されると、第2診断モードに移行し、制御部30によって、送信系のPA8からアンテナ2に送信信号が伝送され、その送信信号のアンテナ2からの反射信号を受信系のLNA4に入力する反射経路入力経路が形成されるように、経路切換回路22が切り換えられる。
【0071】
そして、第2診断モードでは、制御部30は、受信系の周波数変換部5に設けられたレベル検出部5aにて検出された反射信号の信号レベルが、所定のしきい値を越えると(つまり、アンテナ2側からの反射が大きくなると)、アンテナ2若しくはRFSW9に異常があると判断する。
【0072】
従って、本実施形態の無線通信装置によれば、第1診断モードで、送受信系のアナログ回路や変調部16及び復調部14が正常に動作しているか否かを自己診断することができるだけでなく、第2診断モードで、送信系のPA8からアンテナ2に至る送信信号の伝送経路及びアンテナ2が正常か否かを自己診断することができる。
【0073】
そして、第2診断モードでの診断は、アンテナ2側から反射された反射信号を方向性結合器24にて抽出し、その抽出した反射信号の信号レベルを、受信系の周波数変換部5に設けられたレベル検出部5aを介して検出することにより行われるので、アンテナ2側の故障を診断するのに、他の無線通信装置からの受信信号を利用する必要がない。
【0074】
このため、本実施形態の無線通信装置によれば、周囲に他の無線通信装置が存在しない場合であっても、アンテナ2側の故障診断を実施することができ、無線通信装置の信頼性を向上することができる。
【0075】
また、経路切換回路22において、LNA4に送信信号や反射信号を入力する折返し経路には、減衰器ATTが設けられているので、PA8の故障等によりPA8から高レベルの送信信号が出力されて、LNA4に高レベルの信号が入力されるのを防止できる。なお、減衰器ATTは、可変減衰器にて構成し、その減衰量を調整することで、LNA4への信号入力レベルを変化させるようにしてもよい。
【0076】
また、本実施形態の無線通信装置によれば、第1、第2診断モードで異常を検出すると、その検出した異常内容を表示部32に表示して、電源を遮断することから、運転者に無線通信装置の異常を通知して、修理を促すことができると共に、無線通信装置から他の無線通信装置の無線通信の妨げとなる異常電波が送信されるのを防止できる。
【0077】
また、通常モードでは、経路切換回路22内の切換スイッチSW4が終端抵抗RT側に切り換えられて、方向性結合器24の反射信号の出力端が、終端抵抗RTにて終端されることから、無線通信時に、アンテナ2側から反射してきた送信信号の反射信号が方向性結合器24の反射信号の出力端から放射されて、無線通信に影響を与えるのを防止できる。
【0078】
ここで、本実施形態においては、送信系の周波数変換部7、PA8や変調部16が、本発明の送信手段に相当し、受信系のLNA4、周波数変換部5や復調部14が、本発明の受信手段に相当し、RFSW9が、本発明の送受信切換手段に相当し、経路切換回路22内の切換スイッチSW1、SW2、SW3が、本発明の第1の経路切換手段に相当し、同じく切換スイッチSW4、SW3が、本発明の第2の経路切換手段に相当する。
【0079】
また、図2に示した故障診断処理において、S110〜S180の処理は、本発明の第1故障診断手段に相当し、S190〜S230の処理は、本発明の第2故障診断手段に相当し、S260の処理及び表示部32は、本発明の報知手段に相当する。
【0080】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内にて種々の態様をとることができる。
例えば、上記実施形態では、故障診断処理は、ベースバンドプロセッサ10内に設けられた通信制御用の制御部30にて実行されるものとして説明したが、例えば、図4に示すように、ベースバンドプロセッサ10内の制御部30とは別に、故障診断処理を実行するためのセルフチェック部(マイクロコンピュータ)40を設けるようにしてもよい。
【0081】
また、上記実施形態では、無線通信装置は、自動車等の移動体に搭載されるものとして説明したが、例えば、路側機等、移動体に搭載された無線通信装置との間で無線通信を行う固定局として利用するようにしても、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0082】
一方、上記実施形態では、図2の故障診断処理において、S150、S180、S230で異常判定され、S260で異常内容に応じたエラーメッセージを表示すると、S270に移行して、当該無線通信装置の電源を遮断するものとして説明したが、S270では、送信系回路(少なくともPA8)の電源を遮断し、受信系回路への電源供給は継続するようにしてもよい。
【0083】
そして、このようにすれば、無線通信装置から他の無線通信装置に無線通信の妨げとなる異常電波が送信されるのを防止できるだけでなく、受信系回路が正常であれば、他の無線通信装置からの送信信号を受信して、他の無線通信装置からの情報を取得することができるようになる。
【符号の説明】
【0084】
2…アンテナ、4…LNA(ローノイズアンプ)、5…周波数変換部、5a…レベル検出部、7…周波数変換部、7a…レベル検出部、8…PA(パワーアンプ)、9…RFSW(高周波スイッチ)、10…ベースバンドプロセッサ、12…A/D変換部、14…復調部、16…変調部、18…D/A変換部、20…MAC部、22…経路切換回路、SW1〜SW4…切換スイッチ、ATT…減衰器、RT…終端抵抗、24…方向性結合器、30…制御部、32…表示部、40…セルフチェック部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信用のアンテナと、
送信信号を増幅して前記アンテナに出力する送信手段と、
前記アンテナからの受信信号を増幅して信号処理する受信手段と、
前記アンテナを前記送信手段及び前記受信手段の何れか一方に選択的に接続する送受信切換手段と、
を備え、前記送受信切換手段を介して前記アンテナへの接続経路を切り換えることにより、無線送信及び受信を時分割で行う無線通信装置において、
前記送信手段と前記送受信切換手段との間の送信信号経路、及び、前記送受信切換手段と前記受信手段との間の受信信号経路を導通させて、前記送信手段からの送信信号を前記受信手段に入力する折返し経路を形成する、第1の経路切換手段と、
前記送信手段と前記送受信切換手段との間の送信信号経路に設けられ、当該送信信号経路に流れる前記アンテナからの反射信号を抽出する方向性結合器と、
前記方向性結合器にて抽出された反射信号を前記受信手段に入力する反射信号入力経路を形成する、第2の経路切換手段と、
当該無線通信装置の動作モードが、無線送信及び受信を時分割で行う通常モードから、故障診断モードに切り換えられると、前記第1の経路切換手段を介して前記折返し経路を形成し、前記送信手段から故障診断用にレベル調整された第1送信信号を出力させた後、前記受信手段から受信信号の信号レベル若しくは該受信信号の信号処理結果を取り込み、該受信信号の信号レベル若しくは該受信信号の信号処理結果に基づき、前記送信手段からの送信信号が前記受信手段にて正常に受信されているか否かを判断する第1故障診断手段と、
前記第1故障診断手段にて前記送信手段からの送信信号が前記受信手段にて正常に受信されていると判断されると、前記第1の経路切換手段による前記折返し経路の形成を終了させて、前記第2の経路切換手段に前記反射信号入力経路を形成させ、前記送信手段から故障診断用にレベル調整された第2送信信号を出力させた後、前記方向性結合器から前記受信手段に入力される前記アンテナからの反射信号の信号レベルを取り込み、該反射信号の信号レベルに基づき、前記アンテナから送信電波が正常に放射されているか否かを判断する第2故障診断手段と、
を備えたことを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
前記折返し経路には、前記受信手段への送信信号の入力レベルを調整するための減衰器が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記第2の経路切換手段には、前記反射信号入力経路の非形成時に、前記方向性結合器の反射信号の出力端を適正インピーダンスにて終端させる終端抵抗が設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の無線通信装置。
【請求項4】
前記第1故障診断手段及び前記第2故障診断手段による診断結果を報知する報知手段を備えたことを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の無線通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−85084(P2013−85084A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223018(P2011−223018)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(000113665)マスプロ電工株式会社 (395)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】