説明

無電解ニッケルめっき溶液にニッケルを電解溶解させる方法

【課題】プロセスにおける不所望のアニオンの増加を避けることにより無電解ニッケルめっき浴の寿命を延ばす方法、及び浴のpH安定性を改善し、pH調整添加剤の添加を最小限に抑える方法。
【解決手段】該方法は、(a)無電解ニッケルめっき浴から無電解ニッケルを基材上に析出させる工程であって、前記無電解ニッケルめっき浴が好ましくはニッケル源及び次亜リン酸イオン源を含有している工程と、(2)ニッケルアノードを前記めっき浴に浸漬する工程と、(3)イオン交換膜により前記ニッケル浴から分離されているカソードを利用し、酸或いはその塩を含むカソード液を用いることにより回路を完成させる工程と、(4)前記浴に電流を流す工程と、を含む。ニッケルがめっき浴に溶解することによりニッケル濃度が維持され、水素はカソードから放出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解ニッケルめっき浴のニッケル濃度を補充して、不所望のアニオンが系に導入されるのを避ける改良法に関する。
【背景技術】
【0002】
無電解めっきとは、水溶液中の金属イオンが自己触媒或いは化学還元により金属として基材上に析出することを指す。典型的な無電解めっき浴としては無電解ニッケル及び無電解銅が挙げられるが、これは1例であり限定するものではない。無電解めっき浴の成分としては、金属イオンの水溶液、還元剤、錯化剤、浴安定剤、並びに特定の金属イオン濃度で、特定の温度及び特定のpH範囲内の系で機能する触媒剤が挙げられる。金属めっきされる基材は、通常自然状態で触媒作用を有する。したがって好ましい調製法により触媒化表面を有する基材が得られ、該基材を無電解溶液に導入すると、均一な析出が始まる。基材上に析出する微量の金属、即ちニッケルが、反応を更に触媒する。元来の表面が金属でコーティングされた後、析出物が自己触媒となる。金属イオン及び還元剤が補充され、浴のpHが適切に維持される限り無電解析出は続く。
【0003】
無電解ニッケルめっきでは一般に、ニッケルイオンと溶液中のニッケルイオンを金属ニッケルに還元することができる好適な化学還元剤とを含有しているプロセス溶液から、ニッケル合金の析出を触媒することができる基材上にニッケル合金が析出する。これら還元剤としては典型的には、水素化ホウ素イオン及び次亜リン酸イオンが挙げられる。典型的には無電解ニッケルめっきは、還元剤として次亜リン酸イオンを用いて行われる。次亜リン酸が触媒表面でニッケルを還元すると、幾つかのリンがニッケルと共に析出し、約1%〜約13%のリンを含有するニッケルリン合金が得られる。この合金は、耐腐食性、(熱処理後の)硬度、耐磨耗性の点で独自の性質を有する。無電解ニッケルめっきの一般的な用途としては、電子機器、コンピュータ、弁、飛行機の部品、コピー機の部品、及びタイプライターの部品が挙げられるが、これらは1例であり限定するものではない。ニッケルリン合金の独自の性質に加えて、電気化学的方法ではなく化学的方法を用いてこれら合金を作製することは、析出物の厚さ分布の点で有利であり、電気化学的方法により作製されたコーティングに比べて非常に均一なコーティングが得られる。
【0004】
無電解めっきでは、化学還元剤の作用により金属イオンが金属に還元される。還元剤は、プロセス中で酸化される。触媒は、基材であってもよく、該基材上の金属表面であってもよいため、最終的に該基材上への金属の析出と共に還元−酸化反応を生じさせることが可能になる。
【0005】
金属イオンと還元剤との適切な比を維持し、めっき浴内の全体の化学的平衡を維持するために、金属イオン及び還元剤の濃度をモニタし、綿密に管理しなければならない。無電解めっき析出速度は、適切な温度、pH、及び金属イオン/還元剤濃度を選択することにより制御される。錯化剤を触媒阻害剤として用いて、無電解浴が自然分解する可溶性を低減することもできる。
【0006】
無電解めっきで最も一般的に用いられている化学還元剤は次亜リン酸ナトリウムであり、これを用いるとニッケルリン合金が生じる。他の化学還元剤としては、ニッケルボラン合金が得られる水素化ホウ素ナトリウム、ジメチルアミンボラン、及びN−ジエチルアミンボラン;純ニッケル合金が得られるヒドラジン及び水素が挙げられる。無電解ニッケルめっき浴は、一般的に以下の4種で、(1)アルカリ性ニッケルリン、(2)酸性ニッケルリン、(3)アルカリ性ニッケルホウ素、及び(4)酸性ニッケルホウ素である。次亜リン酸塩、ボラン、及びヒドラジン還元浴には、数多くの配合が実際に存在し、他の配合も存在し得る。しかし全ての場合において、ニッケルイオンはニッケル金属に還元され、還元剤はほとんど酸化されるが、僅かにニッケル析出物の一部になる場合もある。
【0007】
工学的観点から無電解ニッケルめっきには多くの利点があるにもかかわらず、無電解ニッケルの析出では非常に多くの廃棄物が生じる。溶液が老化するにつれて該溶液の粘度が高くなるため、めっき速度及び析出物の光沢が低下する場合がある。ニッケルを還元するために用いられる次亜リン酸塩の大部分はオルト亜リン酸塩に酸化され、これはプロセス溶液中に留まり、浴を交換しなければならなくなるまで濃度が上昇し続ける。
【0008】
可溶性ニッケル塩の添加により溶液中のニッケルが維持され、該可溶性ニッケル塩は典型的には、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、酢酸ニッケル、次亜リン酸ニッケル、或いは前記可溶性ニッケル塩の1以上の組み合わせである。典型的にはオルト亜リン酸塩である還元剤の酸化産物と共に、アニオンが蓄積され、溶液の寿命が制限を受ける。従来の系では、これは塩濃度が溶解限界に達する前に僅か約60g/Lのニッケルしか析出することができないことを意味する。大部分の商業的プロセスでは、ニッケル源が硫酸ニッケルであるため、硫酸イオンもプロセス溶液中に蓄積される。浴の操作中、水素原子の発生によりpHが低下する傾向があるため、アンモニア溶液、水酸化ナトリウム溶液、或いは炭酸カリウム溶液などのアルカリを添加することにより水素原子を中和しなければならない。この場合も浴の操作中にこれらのイオン濃度が上昇する。最終的に浴は飽和に達し(或いは飽和前であっても金属析出速度が遅すぎて商業的操作に適さなくなった場合)、浴を交換しなければならなくなる。
【0009】
浴の寿命を延ばす方法の1つは、硫酸ニッケルではなく次亜リン酸ニッケルとしてニッケルを浴に添加することである。次亜リン酸ニッケルは、炭酸ニッケルを次亜リン酸に溶解させることにより製造できる。しかし次亜リン酸ニッケルは比較的高価な物質であり、溶解度も限られているため、浴の維持に問題が生じる。
【0010】
いずれの無電解浴でも酸化−還元反応が生じ、酸化産物及び金属ニッケルが生じる。ニッケル塩のアニオン或いは錯化剤のアニオン及び還元剤の酸化産物(即ち次亜リン酸塩の場合オルト亜リン酸塩)を残して金属カチオンが除去されるとpHは低下する。ニッケルイオン濃度及び還元剤濃度は析出と共に減少する。浴の自然分解を防ぎ、モニタ及び管理しなければならない化学物質の数を最小化するために、ニッケルが析出しても、錯化剤、浴安定剤、及び他の添加剤が許容できる濃度で浴内に残存することが必要である。
【0011】
したがって現在用いられている無電解めっきの寿命は制限を受けていることが分かる。酸、通常硫酸、或いは塩基、通常水酸化アンモニウムのいずれかを用いて浴のpHを一定に調整しなければならない。オルト亜リン酸塩を生じさせる次亜リン酸塩の酸化と、ニッケルイオンの金属ニッケルへの還元との組み合わせは、通常酸性度が高くなりすぎるため、水酸化アンモニウムを添加して必要なpHを得ることが必要になる。
【0012】
本発明者らは、直接的に或いは選択的イオン膜を用いて間接的にニッケルアノードを無電解ニッケル浴に浸漬させ、浴に電流を流し、好ましくは全フッ素化カチオン交換膜を備える分離セル配置を用いてアノード液とカソード液とを分離することにより、不所望のアニオンが導入されることなしにめっき浴のニッケル含量を維持できることを見出した。これにより従来法で維持される浴よりも多い金属ターンオーバー数、浴を使用することが可能になり、したがって生じる廃棄物量が最小限に抑えられ、めっき速度の不変性が改善される。
【0013】
無電解ニッケル浴のニッケル含量を維持するために本発明のプロセスを用いることによる別の予想外の利点は、浴のpHが遥かに安定になることである。従来法で維持される無電解ニッケル浴では、操作中に浴のpHが低下し、アンモニア、炭酸カリウム、或いは水酸化カリウムの添加が必要となるため、時に局所的に浴が不安定化する場合がある。本発明では、(水素としてカソードで排出される水素イオンを補給するため)カチオン交換膜を通して水素イオンがカソード液に輸送されることにより溶液のイオンバランスが維持されるため、ニッケルの電解溶解により浴が維持され、pHは比較的一定に保持される。これは浴の寿命延長及び安定性上昇にも寄与する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、改善されたニッケルめっき浴溶液を提供することにある。
【0015】
本発明の別の目的は、プロセスにおける不所望のアニオンの増加を避けることにより、無電解ニッケルめっき浴の寿命を延長することにある。
【0016】
本発明の更に別の目的は、浴のpH安定性を改善し、pH調整添加剤の添加を最小限に抑えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この目的のために、本発明は一般に無電解ニッケルめっき溶液にニッケルを溶解させるための電解セルの使用に関する。本発明はまた一般に、ニッケル溶解中に浴の他の成分を酸化させないために、ニッケルがめっきとして析出しないようニッケルのカソードへの通過を阻止する膜を用いて、カソードとアノードとが分離されているセルの使用に関する。
【0018】
1つの実施形態では本発明は、浴中に浸漬されたニッケルアノードからのニッケルの電解溶解により、作動中の無電解ニッケル浴におけるニッケルイオン濃度を維持する方法であって、鉛、白金めっきチタン、或いはイリジウム/タンタル酸化物でコーティングされているカソードからなる対電極を介してアノードに電流が供給され、(全フッ素化)イオン交換膜を用いて作動中の浴から前記カソードが分離されており、硫酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、硫酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、或いは次亜リン酸塩からなるカソード液を利用する方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、めっき浴内におけるニッケルの電解溶解により無電解ニッケルめっき浴にニッケル含量を補充する方法に関する。
【0020】
無電解ニッケルめっき浴の効率を最大限とするために、不所望のアニオン増加を最小限に抑えることが必要である。
【0021】
1つの実施形態では、本発明は無電解ニッケルめっき浴中のニッケル濃度を補充する方法であって、
a)無電解ニッケルめっき浴から無電解ニッケルを基材上に析出させる工程と、
b)ニッケルアノードを前記めっき浴に浸漬する工程と、
c)イオン交換膜により前記ニッケル浴から分離されているカソードを利用し、酸或いはその塩を含むカソード液を用いることにより回路を完成させる工程と、
d)前記浴に電流を流す工程であって、
電流を流すことにより前記めっき浴にニッケルを溶解させ、浴のニッケル濃度を維持し、カソードから水素を放出する工程と、
を含む方法に関する。
【0022】
1つの実施形態ではニッケルめっき浴は、ニッケルイオン源と次亜リン酸イオン源とを含む。ニッケルイオン源は、例えば次亜リン酸ニッケルを含む任意の好適なニッケルイオン源であってもよいが、好ましくは硫酸ニッケルである。
【0023】
カソード液は典型的には、硫酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、及び可溶性塩からなる群から選択される酸を含む。
【0024】
ニッケルアノードは典型的には、ニッケル金属と、硫黄、リン、及び炭素からなる群から選択される更なる元素を含有しているニッケル金属とからなる群から選択される。好ましい実施形態では、ニッケルアノードはチタンバスケット中にNickel S−roundsを含み、アノード電流密度は好ましくは約30Amps/sq.ft.〜40Amps/sq.ft.である。
【0025】
イオン交換膜は、カチオン交換膜である。好ましい実施形態では、カチオン交換膜は全フッ素化カチオン交換膜であり、例えばNafion(登録商標)イオン交換膜(DuPont de Nemoursから入手可能)或いはIONAC MC 3470(Sybron Chemicals,Inc.Birmingham,NJ,USA製)である。
【0026】
カソードは典型的には、白金めっきチタン、イリジウム/タンタルコーティングが施されているチタン及び鉛からなる群から選択される。他の好適なカソードも本発明のプロセスで有用である。
【0027】
無電解めっき浴は典型的には、約75℃〜約95℃の範囲の温度で操作される。更にカソードの電流密度は典型的には、約20Amps/sq.ft.〜30Amps/sq.ft.で維持される。
【0028】
本発明の利点の1つは、従来のニッケルアノードによりニッケルが補充されることであり、該ニッケルアノードは、アノード電流が流れているタンク内で直接用いてもよく、膜により溶液から分離されていてもよい。ニッケルを電解的に補充する能力は多くの利点をもたらすことができ、例えば(1)ユーザが負担すべきコストを低減する、(2)アニオンがニッケルと共に導入されないため、浴の寿命が2倍〜3倍に増加する、及び(3)ニッケルが電解溶解するとき浴内のpHが上昇するため、pHを調整する必要性及び潜在的に有害なアルカリを導入する必要性が低下するなどである。
【0029】
セルは、例えばステンレススチール、ポリプロピレン、及びチタンなどを含む一般的に用いられている全てのタンクで使用するよう適合させることができる。更に析出物中のリンが約1重量%〜13重量%で変動し得るか、或いは析出物中のホウ素が約0.1重量%〜5重量%で変動し得るかの少なくともいずれかである。
【0030】
更に生成する析出物は、消費者の要求に応じて光沢があってもよく、曇って(dull)いてもよい。
【0031】
本発明の特定の実施形態を参照し本発明について記載したが、本明細書に開示される本発明の概念から逸脱することなく多くの変更、修正、及び交換を行い得ることは明らかである。したがって本発明は、添付の特許請求の範囲の趣旨及び広義の範囲内のかかる変更、修正、及び交換を全て包含することを意図する。本明細書に引用される全ての特許出願、特許、及び他の刊行物は全文を参照することにより援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無電解ニッケルめっき浴中のニッケル濃度を補充する方法であって、
a)無電解ニッケルめっき浴から無電解ニッケルを基材上に析出させる工程と、
b)ニッケルを含むアノードを前記めっき浴に浸漬する工程と、
c)イオン交換膜により前記無電解ニッケルめっき浴から分離されているカソードを利用し、酸或いは塩の水溶液を含むカソード液を用いることにより回路を完成させる工程と、
d)前記浴に電流を流し、前記無電解ニッケルめっき浴にニッケルを溶解させる工程と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
無電解ニッケルめっき浴が、ニッケルイオン源と、次亜リン酸イオン源とを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
カソード液が、硫酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、及び可溶性塩からなる群から選択される酸を含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ニッケルイオン源が硫酸ニッケルである請求項2に記載の方法。
【請求項5】
ニッケルアノードが、ニッケル金属と、硫黄、リン、及び炭素からなる群から選択される更なる元素を含有しているニッケル金属とからなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ニッケルアノードがNickel S−roundsを含む請求項5に記載の方法。
【請求項7】
イオン交換膜が全フッ素化カチオン交換膜を含む請求項1に記載の方法。
【請求項8】
カソードが、白金めっきチタン、イリジウム/タンタルコーティングが施されているチタン、及び鉛からなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項9】
無電解めっき浴が、約75℃〜約95℃の温度で操作される請求項1に記載の方法。
【請求項10】
カソード電流密度が、約20Amps/sq.ft.〜30Amps/sq.ft.で維持される請求項1に記載の方法。
【請求項11】
アノードが第2のイオン交換膜により無電解ニッケルめっき浴から分離されている請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2011−514936(P2011−514936A)
【公表日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−550712(P2010−550712)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【国際出願番号】PCT/US2009/032547
【国際公開番号】WO2009/114217
【国際公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(591069732)マクダーミッド インコーポレーテッド (38)
【氏名又は名称原語表記】MACDERMID,INCORPORATED
【Fターム(参考)】