説明

熱交換器用アルミニウムクラッド材

【目的】疲労特性に優れ、且つ優れた耐食性をそなえ、アルミニウム合金製熱交換器のチューブ材、プレート材の素材として好適に使用することができる熱交換器用アルミニウムクラッド材を提供する。
【構成】心材の片面に、該心材に対して犠牲陽極効果を有するろう材1をクラッドしてなるアルミニウムの2層クラッド材であって、心材が、質量%で、アルミニウム純度99.0%以上、不可避的不純物の合計含有量が1.0%未満であり、不可避的不純物のうちのCu、Mn、Mgの含有量がそれぞれ0.05%以下の純アルミニウムからなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジエータやインバータ冷却器などのアルミニウム合金製熱交換器を製造する場合、特に、弗化物系フラックスを用いるろう付け、または真空ろう付けなどの、ろう付け接合により製造される熱交換器において、その構成部材であるチューブ材やプレート材として好適に使用される熱交換器用アルミニウムクラッド材に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金製熱交換器のチューブ材は、Al−Mn系合金を心材とし、心材の片面にAl−Si系合金ろう材をクラッドした二層構造のアルミニウム合金クラッド材、心材の一方の面にろう材をクラッドし、他方の面にAl−Zn系合金またはAl−Zn−Mg系合金の犠牲陽極材をクラッドした三層構造のアルミニウム合金クラッド材が用いられている。
【0003】
アルミニウム合金製熱交換器において、クラッド材の心材は、構造部材としての形状を保ち、熱交換器に負荷される振動、圧力変動、熱応力に対し応力緩和効果を有し、疲労耐久性を発揮する。また、Al−Si系ろう材は、アルミニウム合金製熱交換器を製作するとき、各部材同士をろう付け接合するためにクラッドされている。さらに、犠牲陽極材は、例えばチューブの内面や外面に使用され、作動流体や外気と接して犠牲陽極作用を発揮し、心材の孔食発生を防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−293371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特に自動車用のアルミニウム合金製熱交換器において、熱交換器に負荷される振動などの応力による疲労に耐える疲労特性を有することは重要であり、チューブ材やプレート材についても、疲労耐久性に優れたものが望まれている。発明者らは、優れた疲労特性を有するとともに、耐食性にも優れたチューブ材を得るために、クラッド材を構成する心材とろう材の組成とその組み合わせを見直し、クラッド材の疲労特性との関連について試験、検討を行った結果、心材として成分元素の添加量を抑制した純アルミニウムを使用し、成分元素により生成する金属間化合物の生成を抑え、且つCu、Mn、Mgの固溶度を低下させることが、疲労寿命の向上、特に低サイクル疲労寿命の向上に有効であることを見出した。
【0006】
本発明は、上記の知見に基づいてさらに試験、検討を重ねた結果としてなされたものであり、その目的は、疲労特性に優れ、且つ優れた耐食性をそなえ、アルミニウム合金製熱交換器のチューブ材、プレート材の素材として好適に使用することができる熱交換器用アルミニウムクラッド材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための請求項1による熱交換器用アルミニウムクラッド材は、心材の片面に、該心材に対して犠牲陽極効果を有するろう材1をクラッドしてなるアルミニウムの2層クラッド材であって、心材が、質量%で、アルミニウム純度99.0%以上、不可避的不純物の合計含有量が1.0%未満であり、不可避的不純物のうちのCu、Mn、Mgの含有量がそれぞれ0.05%以下の純アルミニウムからなることを特徴とする。以下、合金成分値は全て質量%で示す。
【0008】
請求項2による熱交換器用アルミニウムクラッド材は、請求項1において、前記心材が、アルミニウム純度99.9%以上、不可避的不純物の合計含有量が0.1%未満であり、不可避的不純物のうちのCu、Mn、Mgの含有量がそれぞれ0.005%以下の純アルミニウムからなることを特徴とする。
【0009】
請求項3による熱交換器用アルミニウムクラッド材は、請求項1において、前記心材が、アルミニウム純度99.99%以上、不可避的不純物の合計含有量が0.01%未満であり、不可避的不純物のうちのCu、Mn、Mgの含有量がそれぞれ0.0005%以下の純アルミニウムからなることを特徴とする。
【0010】
請求項4による熱交換器用アルミニウムクラッド材は、請求項1において、前記心材が、アルミニウム純度99.999%以上、不可避的不純物の合計含有量が0.001%未満であり、不可避的不純物のうちのCu、Mn、Mgの含有量がそれぞれ0.00005%以下の純アルミニウムからなることを特徴とする。
【0011】
請求項5による熱交換器用アルミニウムクラッド材は、心材の片面に、該心材に対して犠牲陽極効果を有するろう材1をクラッドしてなるアルミニウムの2層クラッド材であって、心材が、Ti:0.3%未満(0%を含まず、以下同じ)を含有し、アルミニウム純度99.0%以上、不可避的不純物の合計含有量が0.7%未満であり、不可避的不純物のうちのCu、Mn、Mgの含有量がそれぞれ0.05%以下のアルミニウムからなることを特徴とする。以下、合金成分のうち、不純物を除く合金成分の含有量はいずれも0%を含まない。
【0012】
請求項6による熱交換器用アルミニウムクラッド材は、請求項5において、前記心材が、Ti:0.05%未満を含有し、アルミニウム純度99.9%以上、不可避的不純物の合計含有量が0.05%未満であり、不可避的不純物のうちのCu、Mn、Mgの含有量がそれぞれ0.005%以下のアルミニウムからなることを特徴とする。
【0013】
請求項7による熱交換器用アルミニウムクラッド材は、請求項5において、前記心材が、Ti:0.005%未満を含有し、アルミニウム純度99.99%以上、不可避的不純物の合計含有量が0.005%未満であり、不可避的不純物のうちのCu、Mn、Mgの含有量がそれぞれ0.0005%以下のアルミニウムからなることを特徴とする。
【0014】
請求項8による熱交換器用アルミニウムクラッド材は、請求項5において、前記心材が、Ti:0.0005%未満を含有し、アルミニウム純度が99.999%以上、不可避的不純物の合計含有量が0.0005%未満であり、不可避的不純物のうちのCu、Mn、Mgの含有量がそれぞれ0.00005%以下の純アルミニウムからなることを特徴とする。
【0015】
請求項9による熱交換器用アルミニウムクラッド材は、請求項1〜8のいずれかにおいて、前記ろう材1が、Si:2.5〜14%を含み、さらに、Zn:0.5〜10%、In:0.001〜0.1%、Sn:0.001〜0.1%、Mg:2.5%以下(0%を含まず、以下同じ)のうちの1種または2種以上を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金で構成されることを特徴とする。
【0016】
請求項10による熱交換器用アルミニウムクラッド材は、請求項9において、前記ろう材1が、さらに、Mn:0.1〜2.0%、Fe:0.1〜2.0%、Ni:0.1〜2.0%、Cr:0.01〜0.3%、Zr:0.01〜0.3%、Ti:0.01〜0.35%、Sr:0.001〜0.1%、Na:0.001〜0.1%、Sb:0.001〜0.1%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする。
【0017】
請求項11による熱交換器用アルミニウムクラッド材は、請求項1〜10のいずれかに記載の熱交換器用アルミニウムクラッド材のろう材1と反対側の心材面に、Al−Si系合金ろう材あるいはAl−Si−Mg系合金ろう材からなるろう材2をクラッドして3層クラッド材としたことを特徴とする。
【0018】
請求項12による熱交換器用アルミニウムクラッド材は、請求項11において、前記ろう材2が、Si:2.5〜14%を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金ろう材で構成されることを特徴とする。
【0019】
請求項13による熱交換器用アルミニウムクラッド材は、請求項12において、前記ろう材2が、さらにMg:0.1〜2.0 %、Fe:0.1〜2.0%、Mn:0.1〜2.0%、Ti:0.01〜0.3%、Zn:0.5〜5.0%、Cu:0.1〜5.0%、Sr:0.001〜0.1%、Na:0.001〜0.1%、Sb:0.001〜0.1%、Bi:0.001〜0.2 %、Be:0.001〜0.1 %のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする。
【0020】
請求項14による熱交換器用アルミニウムクラッド材は、請求項1〜13のいずれかにおいて、前記心材のマトリックス中の金属間化合物のうち、粒子径が円相当直径で1μm以上の金属間化合物が、合計数として1mm当たり3×10個以下存在することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、疲労特性、特に低サイクル疲労特性に優れ、且つ優れた耐食性をそなえたアルミニウムクラッド材、特に、アルミニウム合金製熱交換器の構成部材であるチューブ材やプレート材の素材として好適に使用することができる熱交換器用アルミニウム合金クラッド材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】アルミニウムクラッド材の曲げ疲労試験機の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明による熱交換器用アルミニウムクラッド材における合金成分の意義および限定理由について説明する。
(心材)
心材として、不可避的不純物の合計含有量が1.0%未満で、アルミニウム純度が99.0%以上の純アルミニウムを用いることにより、疲労寿命、特に低サイクル疲労寿命の向上が有効に達成できる。
【0024】
すなわち、上記の純アルミニウムからなる心材は、一般的な心材合金であるAl−Mn系の3003合金に対し、成分元素濃度が低く抑えられることにより金属間化合物の生成が少なく、金属間化合物周辺から発生する疲労亀裂の進展が遅延するため、優れた疲労特性、特に優れた低サイクル疲労特性が得られる。金属間化合物が多い場合は、金属間化合物周辺にひずみが集積して亀裂に至る。さらに、不純物としてのCu、Mn、Mgの含有量を低く抑えることにより、Cu、Mn、Mgの固溶量が低下するため、マトリックスの延性が増し、金属間化合物周辺のひずみをさらに緩和できて、より優れた疲労特性を得ることができる。
【0025】
優れた低サイクル疲労特性を得るためには、マトリックス中の金属間化合物のうち、粒子径で円相当直径で1μm以上の金属間化合物が、合計数として1mm当たり3×10個以下であることが好ましい。より好ましくは3×10 個以下、さらに好ましくは3×10個以下、最も好ましくは3×10個以下である。
【0026】
アルミニウム純度が99.0%未満では、上記の効果が十分でなく、疲労寿命、特に低サイクル疲労寿命が低下する。上記の効果を達成するためのより好ましいアルミニウム純度は99.9%以上(不可避的不純物の含有量:0.1%未満)、さらに好ましいアルミニウム純度は99.99%以上(不可避的不純物の含有量:0.01%未満)、最も好ましいアルミニウム純度は99.999%以上(不可避的不純物の含有量:0.001%未満)である。
【0027】
また、上記純アルミニウムにおいて、アルミニウムを除く残余の成分は、不可避的不純物であり、精錬方法に応じて、各種の元素が不可避的に存在することとなるが、このような不可避的不純物は、上記のように、合計量において、好ましくは1.0%未満、より好ましくは0.1%未満、更に好ましくは0.01%未満、最も好ましくは0.001%未満となるように調整される。
【0028】
上記の不可避的不純物は、アルミニウム純度99.0%の純アルミニウムにおいては、通常、Fe、Si、Mn、Zn、V、Zr、Gaなどが500ppm程度あるいはそれ以下の割合で含有されている。アルミニウム純度99.9%の純アルミニウムにおいては、Fe、Si、V、Zr、Gaなどが10ppm程度あるいはそれ以下の割合で含有され、さらにMnやZnなどが数ppm程度もしくはそれ以下の割合で含有されている。
【0029】
また、アルミニウム純度99.99%の純アルミニウムにおいては、Fe、Si、Cuなどが数ppm程度もしくはそれ以下の割合で含有されており、アルミニウム純度99.999%の純アルミニウムにおいては、Si、Fe、Cu、Mn、Mg、Cr、Znなどが、それぞれ1ppm程度あるいはそれ以下の割合で含有されている。
【0030】
上記の純アルミニウムは、公知の各種の精錬手法に従って得ることが可能である。例えば、アルミニウム純度99.9%の純アルミニウムは、通常の電解精錬法で得られたアルミニウム地金を用いて、分別結晶法(ペシネー法)により、その純度を高めることにより得ることができる。また、アルミニウム純度99.99%の純アルミニウムは、通常の電解精錬法で得られたアルミニウム地金を用いて、三層電解法により、その純度を高めることにより得ることができ、アルミニウム純度99.999%の純アルミニウムは、上記の三層電解法で得られた高純度地金を用いて、一方向凝固法やゾーンメルティング法を用いてその純度を高めることにより得ることが可能である。
【0031】
Tiは、心材の結晶粒度を微細化して、低サイクル疲労寿命をさらに向上させるよう機能する。Tiの好ましい含有範囲は、アルミニウム純度99.0%の純アルミニウムの場合は0.3%未満、アルミニウム純度99.9%の純アルミニウムの場合は0.05%未満、アルミニウム純度99.99%の純アルミニウムの場合は0.005%未満、アルミニウム純度99.999%の純アルミニウムの場合は0.0005%未満である。
【0032】
(ろう材1)
犠牲陽極効果を有するろう材1には、通常ろう材として用いられているAl−Si系合金あるいはAl−Si−Mg系合金に、電位を卑にするZn、In、Snが添加される。ろう材の電位を卑にすることで、心材に対する犠牲陽極効果を保持させ、その結果として、心材の孔食が防止される。ろう材中のSiの含有量は2.5〜14%の範囲であり、Mgの含有量は0.1〜2.0%の範囲である。Znの好ましい含有範囲は0.5〜10.0%、さらに好ましい含有範囲は1〜5%、Inの好ましい含有範囲は0.001〜0.1%、さらに好ましい含有範囲は0.01〜0.05%、Snの好ましい含有範囲は0.001〜0.1%、さらに好ましい含有範囲は0.01〜0.05%である。
【0033】
Mnは、Al−Mn系化合物を生成し、Al−Mn系化合物が腐食の起点となり、孔食が分散化される結果、耐食性が向上する。Mnの好ましい含有範囲は0.1〜2.0%であり、2.0%を超えて含有すると、鋳造時に粗大な化合物が生成して圧延加工性が害され、健全な板材が得難くなる。Mnのさらに好ましい含有量は0.5〜1.7%の範囲である。
【0034】
Feは、Al−Fe系化合物を生成し、Al−Fe系化合物が腐食の起点となり、孔食が分散化される結果、耐食性が向上する。Feの好ましい含有範囲は0.1〜2.0%であり、2.0%を超えて含有すると耐食性が低下する。Feのさらに好ましい含有量は0.2〜1.0%の範囲である。
【0035】
Niは、Al−Ni系化合物を生成し、Al−Ni系化合物が腐食の起点となり、孔食が分散される結果、耐食性が向上する。Niの好ましい含有範囲は0.1〜2.0%であり、2.0%を超えて含有すると耐食性が低下する。Niのさらに好ましい含有量は0.2〜1.0%の範囲である。
【0036】
CrとZrは、Al−Cr系化合物、Al−Zr系化合物を生成し、これらの化合物が腐食の起点となり、孔食が分散される結果、耐食性が向上する。CrおよびZrの好ましい含有範囲は、いずれも0.01〜0.3%であり、0.3%を超えて含有しても効果が飽和しそれ以上の改善効果が期待できない。CrおよびZrのさらに好ましい含有量は0.05〜0.2%の範囲である。
【0037】
Tiは、Al−Ti系化合物を生成し、Al−Ti系化合物が腐食の起点となり、孔食が分散される結果、耐食性が向上する。Tiの好ましい含有範囲は0.01〜0.35%であり、0.35%を超えると鋳造が困難となり、また加工性が劣化して健全な材料の製造が困難となる。Tiのさらに好ましい含有量は0.1〜0.2%の範囲である。
【0038】
Sr、Na、Sbは、ろう材中のSi粒子を微細かつ均一に分散させる。粗大なSi粒子が存在した場合、Si粒子の周囲にひずみが集積して亀裂の起点となる。Sr、Na、Sbの含有によりSi粒子が微細化されて、亀裂の起点が生じ難くなり、疲労寿命がさらに向上する。Sr、Na、Sbの好ましい含有範囲はそれぞれ0.001〜0.1%であり、0.1%を超えて含有してもその効果が飽和する。Sr、Na、Sbのさらに好ましい含有量は0.01〜0.05%の範囲である。
【0039】
なお、ろう材1には、公知の犠牲陽極材に添加される元素、例えば、Cu:0.5%以下、V:0.3%以下、Co:0.3%以下、Ce:0.3%以下、Y:0.3%以下、La:1.0%以下、Nd:1.0%以下、Pr:1.0%以下が含まれていてもよい。
【0040】
(ろう材2)
本発明のアルミニウムクラッド材においては、ろう材1と反対側の心材面に、ろう材2としてろう材をクラッドして、3層の構造とすることもできる。ろう材2としては、通常ろう材として用いられているAl−Si系合金あるいはAl−Si−Mg系合金が使用される。Siの好ましい含有範囲は2.5〜14%であり、Mgの好ましい含有範囲は0.1〜2.0%である。
【0041】
Al−Si系合金、Al−Si−Mg系合金には、必要に応じて、Fe:0.1〜2.0%、Mn:0.1〜2.0%、Ti:0.01〜0.3%、Zn:0.5〜5.0%、Cu:0.1〜5.0%、Sr:0.001〜0.1%、Na:0.001〜0.1%、Sb:0.001〜0.1%、Bi:0.001〜0.2 %、Be:0.001〜0.1 %のうちの1種または2種以上を含有していてもよい。その他、ろう材2には、公知のろう材に添加される元素、例えば、V:0.3%以下、Co:0.3%以下、Ce:0.3%以下、Y:0.3%以下、La:1.0%以下、Nd:1.0%以下、Pr:1.0%以下、Cr:0.3%以下、Zr:0.3%以下が含まれていてもよい。
【0042】
本発明によるアルミニウムクラッド材は、DC鋳造により心材用合金、ろう材1用合金およびろう材2用合金を造塊し、例えば、得られた鋳塊のうち、心材用合金については均質化処理を行い、ろう材1用合金およびろう材2用合金を熱間圧延して所定の厚さとし、これらと心材用合金の鋳塊を組み合わせて熱間圧延してクラッド材とする。その後、クラッド材を冷間圧延、最終焼鈍して所定厚さのアルミニウムクラッド材(例えば質別O)とする。途中の工程で中間焼鈍を施したり、最終焼鈍後にさらに冷間圧延して質別H1nとしてもよい。
【0043】
本発明のアルミニウムクラッド材においては、2層構造の場合も3層構造の場合も、心材のマトリックス中の金属間化合物のうち、粒子径が円相当直径で1μm以上の金属間化合物が、合計数として1mm当たり3×10個以下であることにより、より優れた低サイクル疲労特性を得ることができ、このような金属間化合物分布形態は、心材として、不可避的不純物量を抑制した前記の純アルミニウムまたは微量のTiを含むアルミニウムを用いることにより達成することができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明し、その効果を実証する。これらの実施例は、本発明の一実施態様を示すものであり、本発明はこれらに限定されない。
【0045】
実施例1
連続鋳造により表1に示す組成を有する心材用アルミニウム、表2に示す組成を有するろう材1用アルミニウム合金、および表3に示すろう材2用アルミニウム合金を造塊し、得られた鋳塊のうち、心材用アルミニウムについて均質化処理を行い、ろう材1用アルミニウム合金およびろう材2用アルミニウム合金を熱間圧延して所定の厚さとし、これらと心材用アルミニウムの鋳塊とを組み合わせて熱間圧延し、2層と3層のクラッド材を得た。なお、表1に示す心材用アルミニウムにおいて、表1に示す元素以外の不可避的不純物量は、A1、A5はいずれも500ppm以下、A2、A6はいずれも10ppm以下、A3、A7はいずれも5ppm以下、A4、A8はいずれも1ppm以下であった。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
ついで、クラッド材を冷間圧延、最終焼鈍して厚さ0.40mmのクラッド板材(質別O)を得た。クラッドの構成は、ろう材1のクラッド率が10%(厚さ0.040mm)、ろう材2のクラッド率が10%(厚さ0.040mm)、残りを心材とした。なお、板厚とクラッド率は実施例に限定されるものではなく、適宜調整して使用される。例えば、板厚は0.10〜2.00mm、クラッド率は2〜30%程度とすることができる。
【0050】
得られたアルミニウムクラッド材を試験材とし、クラッド材にフラックスを塗布することなく、窒素ガス中、600℃(材料温度)で3分間加熱し、その後、平面曲げ疲労試験により疲労寿命を測定した。平面曲げ疲労試験は、ろう付け加熱後のクラッド材を切断後、端面を切削して5mm幅の短冊状の試験片を作製し、試験片について、図1に示す曲げ疲労試験機を用いて、ひずみ範囲を0.67と固定し、両振りの曲げ疲労試験を実施した。周波数は0.5Hzで室温にて実施し、破断に至るまでのサイクル数を測定した。疲労寿命は破断回数が10程度の低サイクル域で評価し、疲労寿命が1×10を超えた場合を良好(〇)とした。結果を表4に示す。
【0051】
また、試験材の心材中の粒子径(円相当直径)が1μm以上の金属間化合物粒子の1mm当たりの粒子数を測定した。心材中の粒子径が1μm以上の金属間化合物粒子の数の測定方法は以下のとおりである。心材を、倍率200倍で光学顕微鏡により5視野(面積合計0.15mm)撮影し、画像解析装置により、粒子径(円相当直径)で1μm以上のサイズの金属間化合物の粒子数を測定した。結果を表4に示す。
【0052】
【表4】

【0053】
表4に示すように、本発明に従う試験材1〜54はいずれも、疲労寿命が1×10を超える優れた疲労特性をそなえていた。
【0054】
比較例1
連続鋳造により表5に示す組成を有する心材用アルミニウムを造塊し、得られた鋳塊について均質化処理を行い、実施例1で用いたろう材1用アルミニウム合金およびろう材2用アルミニウム合金の熱間圧延材を組み合わせて熱間圧延し、アルミニウムクラッド材を得た。
【0055】
【表5】

【0056】
ついで、クラッド材を冷間圧延、最終焼鈍して厚さ0.40mmのクラッド板材(質別O)を得た。クラッドの構成は、ろう材1のクラッド率が10%(厚さ0.040mm)、ろう材2のクラッド率が10%(厚さ0.040mm)、残りを心材とし、得られたアルミニウムクラッド材を試験材として、実施例1と同じ方法で疲労寿命および金属間化合物粒子の数を測定した。結果を表6に示す。
【0057】
【表6】

【0058】
表6に示すように、試験材101は、心材のアルミニウム純度が低いため、不純物量が多く、従って、繰返し応力が負荷された場合、金属間化合物周辺にひずみが集積して亀裂に至り、疲労寿命が劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心材の片面に、該心材に対して犠牲陽極効果を有するろう材1をクラッドしてなるアルミニウムの2層クラッド材であって、心材が、アルミニウム純度99.0%(質量%、以下同じ)以上、不可避的不純物の合計含有量が1.0%未満であり、不可避的不純物のうちのCu、Mn、Mgの含有量がそれぞれ0.05%以下の純アルミニウムからなることを特徴とする熱交換器用アルミニウムクラッド材。
【請求項2】
前記心材が、アルミニウム純度99.9%以上、不可避的不純物の合計含有量が0.1%未満であり、不可避的不純物のうちのCu、Mn、Mgの含有量がそれぞれ0.005%以下の純アルミニウムからなることを特徴とする請求項1記載の熱交換器用アルミニウムクラッド材。
【請求項3】
前記心材が、アルミニウム純度99.99%以上、不可避的不純物の合計含有量が0.01%未満であり、不可避的不純物のうちのCu、Mn、Mgの含有量がそれぞれ0.0005%以下の純アルミニウムからなることを特徴とする請求項1記載の熱交換器用アルミニウムクラッド材。
【請求項4】
前記心材が、アルミニウム純度99.999%以上、不可避的不純物の合計含有量が0.001%未満であり、不可避的不純物のうちのCu、Mn、Mgの含有量がそれぞれ0.00005%以下の純アルミニウムからなることを特徴とする請求項1記載の熱交換器用アルミニウムクラッド材。
【請求項5】
心材の片面に、該心材に対して犠牲陽極効果を有するろう材1をクラッドしてなるアルミニウムの2層クラッド材であって、心材が、Ti:0.3%未満(0%を含まず、以下同じ)を含有し、アルミニウム純度99.0%以上、不可避的不純物の合計含有量が0.7%未満であり、不可避的不純物のうちのCu、Mn、Mgの含有量がそれぞれ0.05%以下のアルミニウムからなることを特徴とする熱交換器用アルミニウムクラッド材。
【請求項6】
前記心材が、Ti:0.05%未満を含有し、アルミニウム純度99.9%以上、不可避的不純物の合計含有量が0.05%未満であり、不可避的不純物のうちのCu、Mn、Mgの含有量がそれぞれ0.005%以下のアルミニウムからなることを特徴とする請求項5記載の熱交換器用アルミニウムクラッド材。
【請求項7】
前記心材が、Ti:0.005%未満を含有し、アルミニウム純度99.99%以上、不可避的不純物の合計含有量が0.005%未満であり、不可避的不純物のうちのCu、Mn、Mgの含有量がそれぞれ0.0005%以下のアルミニウムからなることを特徴とする請求項5記載の熱交換器用アルミニウムクラッド材。
【請求項8】
前記心材が、Ti:0.0005%未満を含有し、アルミニウム純度99.999%以上、不可避的不純物の合計含有量が0.0005%未満であり、不可避的不純物のうちのCu、Mn、Mgの含有量がそれぞれ0.00005%以下の純アルミニウムからなることを特徴とする請求項5記載の熱交換器用アルミニウムクラッド材。
【請求項9】
前記ろう材1が、Si:2.5〜14%を含み、さらに、Zn:0.5〜10%、In:0.001〜0.1%、Sn:0.001〜0.1%、Mg:2.5%以下(0%を含まず、以下同じ)のうちの1種または2種以上を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金で構成されることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の熱交換器用アルミニウムクラッド材。
【請求項10】
前記ろう材1が、さらに、Mn:0.1〜2.0%、Fe:0.1〜2.0%、Ni:0.1〜2.0%、Cr:0.01〜0.3%、Zr:0.01〜0.3%、Ti:0.01〜0.35%、Sr:0.001〜0.1%、Na:0.001〜0.1%、Sb:0.001〜0.1%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項9記載の熱交換器用アルミニウムクラッド材。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の熱交換器用アルミニウムクラッド材のろう材1と反対側の心材面に、Al−Si系合金ろう材あるいはAl−Si−Mg系合金ろう材からなるろう材2をクラッドして3層クラッド材としたことを特徴とする熱交換器用アルミニウムクラッド材。
【請求項12】
前記ろう材2が、Si:2.5〜14%を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金ろう材で構成されることを特徴とする請求項11記載の熱交換器用アルミニウムクラッド材。
【請求項13】
前記ろう材2が、さらにMg:0.1〜2.0 %、Fe:0.1〜2.0%、Mn:0.1〜2.0%、Ti:0.01〜0.3%、Zn:0.5〜5.0%、Cu:0.1〜5.0%、Sr:0.001〜0.1%、Na:0.001〜0.1%、Sb:0.001〜0.1%、Bi:0.001〜0.2 %、Be:0.001〜0.1 %のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項12記載の熱交換器用アルミニウムクラッド材。
【請求項14】
前記心材のマトリックス中の金属間化合物のうち、粒子径が円相当直径で1μm以上の金属間化合物が、合計数として1mm当たり3×10個以下存在することを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の熱交換器用アルミニウムクラッド材。

【図1】
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【公開番号】特開2012−1748(P2012−1748A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−135810(P2010−135810)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)