説明

熱交換装置および熱交換装置の制御方法

【課題】冷媒との熱交換により被温度調節部の温度を適切に調節することのできる、熱交換装置を提供する。
【解決手段】冷媒と被温度調節部31との間で熱交換を行なう熱交換装置1は、冷媒を循環させるための圧縮機12と、冷媒と外気との間で熱交換する第一熱交換器14と、冷媒と空調用空気との間で熱交換する第二熱交換器18と、第一熱交換器14と被温度調節部31との間の冷媒の経路の開度を調整可能な開度調整弁40と、被温度調節部31と第二熱交換器18との間の冷媒の経路に配置され、冷媒を減圧する膨張弁16と、開度調整弁40の開度を制御するECU80と、を備える。ECU80は、開度調整弁40の開度を増大して被温度調節部31を加熱し、開度調整弁40の開度を減少して被温度調節部31を冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換装置に関し、特に、蒸気圧縮式冷凍サイクルを流通する冷媒と、温度を調節される被温度調節部との間で熱交換を行なう、熱交換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題対策の一つとして、モータの駆動力により走行するハイブリッド車、燃料電池車、電気自動車などが注目されている。このような車両において、モータ、ジェネレータ、インバータ、コンバータおよびバッテリなどの電気機器は、電力の授受によって発熱する。そのため、これらの電気機器を冷却する必要がある。そこで、車両用空調装置として使用される蒸気圧縮式冷凍サイクルを利用して、電気機器を冷却する技術が提案されている。
【0003】
たとえば特開平11−23081号公報(特許文献1)には、冷凍サイクルの中間圧力の冷媒が発熱機器を冷却するように構成された冷却器と、この冷却器の上流側および下流側にそれぞれ配置され、外部信号により弁開度が制御可能な電気膨張弁を設け、中間圧力の冷媒で発熱機器の冷却を行なう装置が開示されている。
【0004】
特開2005−90862号公報(特許文献2)には、空調用の冷凍サイクルの減圧器、蒸発器および圧縮機をバイパスするバイパス通路に、発熱体を冷却するための発熱体冷却手段を設けた、冷却システムが開示されている。
【0005】
国際公開第2009/127292号(特許文献3)には、冷却回路内の冷媒を液化するための凝縮装置の下流にエバポレータが配置され、電気部品ユニットの熱をエバポレータに供給して電気部品ユニットを冷却する、冷却装置が開示されている。
【0006】
ところで、電池の温度が低下すると、電池内部での化学変化が抑制されて出力密度が低下するので、電池温度が低いときには電池出力が確保できない虞がある。そのため電池は、適度に加温されることが望ましい。上記特許文献1〜3では、冷却対象部品である電気機器を冷凍サイクルの冷媒により冷却することで、低コストで電気機器を冷却できる装置が提案されているが、電気機器を加温する思想は述べられていない。
【0007】
車両に搭載された電池を加温する技術に関し、例えば特開2009−257254号公報(特許文献4)には、車両走行時に化学蓄熱材に蓄熱し、車両始動時に化学蓄熱材が蓄熱していた熱によって電池を加熱するシステムが開示されている。特開平10−12286号公報(特許文献5)には、車室内の暖房用の加熱流体をバッテリの加熱に活用する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−23081号公報
【特許文献2】特開2005−90862号公報
【特許文献3】国際公開第2009/127292号
【特許文献4】特開2009−257254号公報
【特許文献5】特開平10−12286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1〜5には、上述した通り、電気機器を冷却または加温する技術が開示されているものの、電気機器の冷却が必要なときと加熱が必要なときとの両方に対応して電気機器を温度制御する思想は述べられていない。そのため、外気温度などの条件に従って選択的に冷却または加温を必要とする、たとえば電池のような機器の温度を調整する技術としては不十分である。
【0010】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、冷媒との熱交換により被温度調節部の温度を適切に調節することのできる、熱交換装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る熱交換装置は、冷媒と被温度調節部との間で熱交換を行なう熱交換装置であって、冷媒を循環させるための圧縮機と、冷媒と外気との間で熱交換する第一熱交換器と、冷媒と空調用空気との間で熱交換する第二熱交換器と、第一熱交換器と被温度調節部との間の冷媒の経路の開度を調整可能な開度調整弁と、被温度調節部と第二熱交換器との間の冷媒の経路に配置され、冷媒を減圧する膨張弁と、開度調整弁の開度を制御する制御部と、を備える。制御部は、開度調整弁の開度を増大して被温度調節部を加熱し、開度調整弁の開度を減少して被温度調節部を冷却する。
【0012】
上記熱交換装置において好ましくは、被温度調節部の温度を検出する検出部を備え、制御部は、検出部により検出された被温度調節部の温度に基づいて、開度調整弁の開度を制御する。
【0013】
上記熱交換装置において好ましくは、制御部は、検出部により検出された被温度調節部の温度が目標温度範囲を下回ると開度調整弁の開度を増大し、検出部により検出された被温度調節部の温度が目標温度範囲を上回ると開度調整弁の開度を減少する。
【0014】
上記熱交換装置において好ましくは、制御部は、被温度調節部の温度に基づいて膨張弁の開度を制御する。
【0015】
上記熱交換装置において好ましくは、制御部は、被温度調節部の温度に基づいて第一熱交換器における冷媒と外気との間の熱交換量を制御する。
【0016】
本発明に係る熱交換装置の制御方法は、冷媒と被温度調節部との間で熱交換を行なう熱交換装置の制御方法である。熱交換装置は、冷媒を循環させるための圧縮機と、冷媒と外気との間で熱交換する第一熱交換器と、冷媒と空調用空気との間で熱交換する第二熱交換器と、第一熱交換器と被温度調節部との間の冷媒の経路の開度を調整可能な開度調整弁と、被温度調節部と第二熱交換器との間の冷媒の経路に配置され、冷媒を減圧する膨張弁と、を備える。制御方法は、被温度調節部の温度を判断するステップと、判断するステップにおいて被温度調節部の温度が目標温度範囲を下回ると判断されたとき、開度調整弁の開度を増大して被温度調節部を加熱するステップと、判断するステップにおいて被温度調節部の温度が目標温度範囲を上回ると判断されたとき、開度調整弁の開度を減少して被温度調節部を冷却するステップと、を備える。
【0017】
上記方法において好ましくは、判断するステップにおいて被温度調節部の温度が目標温度範囲を下回ると判断されたとき、第一熱交換器における冷媒と外気との間の熱交換量を調整するステップを備える。
【0018】
上記方法において好ましくは、判断するステップにおいて被温度調節部の温度が目標温度範囲を上回ると判断されたとき、膨張弁の開度を増大するステップを備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明の熱交換装置によると、冷媒と被温度調節部との間で熱交換を行なうことにより、被温度調節部の温度を適切に調節することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施の形態の熱交換装置の構成を示す模式図である。
【図2】ECUの構成の詳細を示すブロック図である。
【図3】電池の目標温度範囲を示すグラフである。
【図4】熱交換装置の制御方法の一例を示すフローチャートである。
【図5】蒸気圧縮式冷凍サイクルを循環する冷媒の状態の第一の例を示すモリエル線図である。
【図6】蒸気圧縮式冷凍サイクルを循環する冷媒の状態の第二の例を示すモリエル線図である。
【図7】蒸気圧縮式冷凍サイクルを循環する冷媒の状態の第三の例を示すモリエル線図である。
【図8】本実施の形態に従った電池温度の時間変化を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面に基づいてこの発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において、同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0022】
図1は、本実施の形態の熱交換装置1の構成を示す模式図である。図1に示すように、熱交換装置1は、蒸気圧縮式冷凍サイクル10を備える。蒸気圧縮式冷凍サイクル10は、圧縮機12と、第一熱交換器としての熱交換器14と、膨張弁16と、第二熱交換器としての熱交換器18と、を含む。蒸気圧縮式冷凍サイクル10は、たとえば、車両の車内の冷房を行なうために、車両に搭載される。蒸気圧縮式冷凍サイクル10を用いた冷房は、たとえば、冷房を行なうためのスイッチがオンされた場合、または、自動的に車両の室内の温度を設定温度になるように調整する自動制御モードが選択されており、かつ、車室内の温度が設定温度よりも高い場合に行なわれる。
【0023】
圧縮機12は、車両に搭載されたモータまたはエンジンを動力源として作動し、冷媒ガスを断熱的に圧縮して過熱状態冷媒ガスとする。圧縮機12は、蒸気圧縮式冷凍サイクル10の作動時に熱交換器18から流通する冷媒を吸入圧縮して、冷媒通路21に高温高圧の気相冷媒を吐出する。圧縮機12は、冷媒通路21に冷媒を吐出することで、蒸気圧縮式冷凍サイクル10に冷媒を循環させる。
【0024】
熱交換器14は、圧縮機12において圧縮された過熱状態冷媒ガスを、外部媒体へ等圧的に放熱させて冷媒液とする。圧縮機12から吐出された高圧の気相冷媒は、熱交換器14において周囲に放熱し冷却されることによって、凝縮(液化)する。熱交換器14は、冷媒を流通するチューブと、チューブ内を流通する冷媒と熱交換器14の周囲の空気との間で熱交換するためのフィンと、を含む。
【0025】
熱交換器14は、冷却風と冷媒との間で、熱交換を行なう。冷却風は、車両の走行によって発生する自然の通風によって熱交換器14に供給されてもよい。または冷却風は、コンデンサファン42もしくはエンジン冷却用のラジエータファンなどの冷却ファンからの強制通風によって熱交換器14に供給されてもよい。熱交換器14における熱交換によって、冷媒の温度は低下し冷媒は液化する。
【0026】
膨張弁16は、冷媒通路25を流通する高圧の液相冷媒を小さな孔から噴射させることにより膨張させて、低温・低圧の霧状冷媒に変化させる。膨張弁16は、熱交換器14によって凝縮された冷媒液を減圧して、気液混合状態の湿り蒸気とする。
【0027】
熱交換器18は、その内部を流通する霧状冷媒が気化することによって、熱交換器18に接触するように導入された周囲の空気の熱を吸収する。熱交換器18は、膨張弁16によって減圧された冷媒を用いて、冷媒の湿り蒸気が蒸発して冷媒ガスとなる際の気化熱を、車両の室内へ流通する空調用空気から吸収して、車両の室内の冷房を行なう。熱が熱交換器18に吸収されることによって温度が低下した空調用空気が車両の室内に再び戻されることによって、車両の室内の冷房が行なわれる。冷媒は、熱交換器18において周囲から吸熱し加熱される。
【0028】
熱交換器18は、冷媒を流通するチューブと、チューブ内を流通する冷媒と熱交換器18の周囲の空気との間で熱交換するためのフィンと、を含む。チューブ内には、湿り蒸気状態の冷媒が流通する。冷媒は、チューブ内を流通する際に、フィンを経由して車両の室内の空気の熱を蒸発潜熱として吸収することによって蒸発し、さらに顕熱によって過熱蒸気になる。気化した冷媒は、冷媒通路26を経由して圧縮機12へ流通する。圧縮機12は、熱交換器18から流通する冷媒を圧縮する。
【0029】
蒸気圧縮式冷凍サイクル10はまた、圧縮機12と熱交換器14とを連通する冷媒通路21と、熱交換器14と膨張弁16とを連通する冷媒通路22,23,24と、膨張弁16と熱交換器18とを連通する冷媒通路25と、熱交換器18と圧縮機12とを連通する冷媒通路26と、を含む。
【0030】
冷媒通路21は、冷媒を圧縮機12から熱交換器14に流通させるための通路である。冷媒は、冷媒通路21を経由して、圧縮機12と熱交換器14との間を、圧縮機12の出口から熱交換器14の入口へ向かって流れる。冷媒通路22〜24は、冷媒を熱交換器14から膨張弁16に流通させるための通路である。冷媒は、冷媒通路22〜24を経由して、熱交換器14と膨張弁16との間を、熱交換器14の出口から膨張弁16の入口へ向かって流れる。
【0031】
冷媒通路25は、冷媒を膨張弁16から熱交換器18に流通させるための通路である。冷媒は、冷媒通路25を経由して、膨張弁16と熱交換器18との間を、膨張弁16の出口から熱交換器18の入口へ向かって流れる。冷媒通路26は、冷媒を熱交換器18から圧縮機12に流通させるための通路である。冷媒は、冷媒通路26を経由して、熱交換器18と圧縮機12との間を、熱交換器18の出口から圧縮機12の入口へ向かって流れる。
【0032】
蒸気圧縮式冷凍サイクル10は、圧縮機12、熱交換器14、膨張弁16および熱交換器18が、冷媒通路21〜26によって連結されて構成される。なお、蒸気圧縮式冷凍サイクル10の冷媒としては、たとえば二酸化炭素、プロパンやイソブタンなどの炭化水素、アンモニア、フロン類または水などを用いることができる。
【0033】
熱交換器14の出口から膨張弁16の入口へ向かって流れる冷媒が流通する経路は、熱交換器14の出口側から開度調整弁40へ至る冷媒通路22と、開度調整弁40から熱交換部30へ至る冷媒通路23と、熱交換部30の出口側から冷媒を膨張弁16へ流通させる冷媒通路24と、を含む。冷媒通路23を経由して、開度調整弁40から熱交換部30へ冷媒液が流れる。熱交換部30を通過した冷媒は、冷媒通路24を経由して、膨張弁16へ流れる。熱交換部30は、熱交換器14から膨張弁16へ向けて流れる冷媒の経路上に設けられている。
【0034】
熱交換部30は、車両に搭載された蓄電池である電池31と、冷媒が流通する配管である冷却通路32とを含む。電池31は、熱交換装置1によって温度を調節される被温度調節部の一例である。冷却通路32の一方の端部は、冷媒通路23に接続される。冷却通路32の他方の端部は、冷媒通路24に接続される。
【0035】
開度調整弁40と膨張弁16との間の冷媒の経路は、熱交換部30よりも上流側(開度調整弁40に近接する側)の冷媒通路23と、熱交換部30に含まれる冷却通路32と、熱交換部30よりも下流側(膨張弁16に近接する側)の冷媒通路24と、を含む。冷媒通路23は、開度調整弁40から熱交換部30に冷媒を流通させるための通路である。冷媒通路24は、熱交換部30から膨張弁16に冷媒を流通させるための通路である。
【0036】
熱交換部30へ流通し、冷却通路32を経由して流れる冷媒は、発熱源としての電池31から熱を奪って、電池31を冷却させる。熱交換部30は、冷媒通路23を経由して冷却通路32へ流れる冷媒を用いて、電池31を冷却する。熱交換部30において、冷却通路32内を流通する冷媒と、電池31と、が熱交換を行なうことにより、電池31は冷却され、冷媒は加熱される。冷媒はさらに冷媒通路24を経由して熱交換部30から膨張弁16へ至る。
【0037】
熱交換部30は、冷却通路32において電池31と冷媒との間で熱交換が可能な構造を有するように設けられる。本実施の形態においては、熱交換部30は、たとえば、電池31の筐体に冷却通路32の外周面が直接接触するように形成された冷却通路32を有する。冷却通路32は、電池31の筐体と隣接する部分を有する。当該部分において、冷却通路32を流通する冷媒と、電池31との間で、熱交換が可能となる。
【0038】
電池31は、蒸気圧縮式冷凍サイクル10の熱交換器14から膨張弁16に至る冷媒の経路の一部を形成する冷却通路32の外周面に直接接続されて、冷却される。冷却通路32の外部に電池31が配置されるので、冷却通路32の内部を流通する冷媒の流れに電池31が干渉することはない。そのため、蒸気圧縮式冷凍サイクル10の圧力損失は増大しないので、圧縮機12の動力を増大させることなく、電池31を冷却することができる。
【0039】
代替的には、熱交換部30は、電池31と冷却通路32との間に介在して配置された任意の公知のヒートパイプを備えてもよい。この場合電池31は、冷却通路32の外周面にヒートパイプを介して接続され、電池31から冷却通路32へヒートパイプを経由して熱伝達することにより、冷却される。電池31をヒートパイプの加熱部とし冷却通路32をヒートパイプの冷却部とすることで、冷却通路32と電池31との間の熱伝達効率が高められるので、電池31の冷却効率を向上できる。たとえばウィック式のヒートパイプを使用することができる。
【0040】
ヒートパイプによって電池31から冷却通路32へ確実に熱伝達することができるので、電池31と冷却通路32との間に距離があってもよく、電池31に冷却通路32を接触させるために冷却通路32を複雑に配置する必要がない。その結果、電池31の配置の自由度を向上することができる。
【0041】
電池31は、蓄電装置であり、電力の授受によって発熱する電気機器に含まれる。電池31は、リチウムイオン電池またはニッケル水素電池等の二次電池である。電池31に代えてキャパシタが用いられてもよい。
【0042】
熱交換部30は、温度センサ63,64を含む。温度センサ63,64は、電池31の温度を検出するための検出部として機能する。図1に示すように、電池31の複数箇所の温度を検出するための複数の温度センサが設けられてもよく、または電池31の温度の代表値を検出可能な位置に一つの温度センサが設けられてもよい。複数の温度センサを設ける場合、電池31の温度をより正確に計測でき、電池31の温度に基づく制御の信頼性を向上できるので望ましい。
【0043】
開度調整弁40は、熱交換器14の出口と、被温度調節部としての電池31を含む熱交換部30と、の間に設けられている。熱交換器14と開度調整弁40とは、冷媒通路22によって連結される。冷媒は、冷媒通路22を経由して、熱交換器14から開度調整弁40へ向かって流れる。開度調整弁40と熱交換部30とは、冷媒通路23によって連結される。冷媒は、冷媒通路23を経由して、開度調整弁40から熱交換部30へ向かって流れる。
【0044】
開度調整弁40は、その弁開度を調整することで、熱交換器14と熱交換部30との間の冷媒の経路の開度を調整可能に、設けられている。開度調整弁40は、熱交換器14から熱交換部30へ流れる冷媒の流量を調整可能である。開度調整弁40の開度を小さくすると、熱交換部30へ流れる冷媒の流量が減少し、電池31を冷却する冷却能力が減少する。開度調整弁40の開度を大きくすると、熱交換部30へ流れる冷媒の流量が増大し、電池31の冷却能力が増大する。
【0045】
熱交換器18は、冷媒と空調用空気との間で熱交換して、空調用空気の温度を調節する。空調用空気は、外気であってもよく、車両の室内の空気であってもよい。冷房運転時には、熱交換器18において空調用空気が冷却され、冷媒は空調用空気からの熱伝達を受けて加熱される。
【0046】
冷媒は、圧縮機12と熱交換器14と膨張弁16と熱交換器18とが冷媒通路21〜26によって順次接続された冷媒循環流路を通って、蒸気圧縮式冷凍サイクル10内を循環する。蒸気圧縮式冷凍サイクル10内を、図1に示すA点、B点、C点、D点、E点およびF点を順に通過するように冷媒が流れ、圧縮機12と熱交換器14と膨張弁16と熱交換器18とに冷媒が循環する。
【0047】
冷房運転時に、熱交換器18は、その内部を流通する霧状冷媒が気化することによって、熱交換器18に接触するように導入された周囲の空気の熱を吸収する。熱交換器18は、膨張弁16によって絞り膨張され減圧された低温低圧の冷媒を用いて、冷媒の湿り蒸気が蒸発して冷媒ガスとなる際の気化熱を、車両の室内へ流通する空調用空気から吸収して、車両の室内の冷房を行なう。熱が熱交換器18に吸収されることによって温度が低下した空調用空気が車両の室内に流入することによって、車両の室内の冷房が行なわれる。
【0048】
蒸気圧縮式冷凍サイクル10の運転中に、冷媒は、蒸発器として作用する熱交換器18において蒸発する際に気化熱を車両の室内の空気から吸収して、車室内の冷房を行なう。加えて、熱交換器14から流出した高圧の液冷媒が熱交換部30へ流通し、電池31と熱交換することで電池31を冷却する。熱交換装置1は、車両に搭載された発熱源である電池31を、車両の室内の空調用の蒸気圧縮式冷凍サイクル10を利用して、冷却する。
【0049】
熱交換器18において被冷却部を冷却するために設けられた蒸気圧縮式冷凍サイクル10を利用して、電池31の冷却が行なわれるので、電池31の冷却のために、専用の水循環ポンプまたは冷却ファンなどの機器を設ける必要はない。そのため、電池31の冷却のために必要な構成を低減でき、装置構成を単純にできるので、熱交換装置1の製造コストを低減することができる。加えて、電池31の冷却のためにポンプや冷却ファンなどの動力源を運転する必要がなく、動力源を運転するための消費動力を必要としない。したがって、電池31の冷却のための消費動力を低減することができる。
【0050】
膨張弁16を通過した後の低温低圧の冷媒を電池31の冷却に使用すると、熱交換器18における車室内の空気の冷却能力が減少して、車室用の冷房能力が低下する。これに対し、本実施の形態の熱交換装置1では、電池31を冷却する熱交換部30は、熱交換器14から膨張弁16に向けて流れる冷媒の経路上に設けられている。冷媒を熱交換器14において十分に冷却することにより、膨張弁16の出口において、冷媒は、車両の室内の冷房のために本来必要とされる温度および圧力を有する。そのため、熱交換器18において冷媒が蒸発するときに外部から受け取る熱量を十分に大きくすることができる。
【0051】
このように、冷媒を十分に冷却できる熱交換器14の放熱能力を定めることにより、車室内の空気を冷却する冷房の能力に影響を与えることなく、電池31を冷却することができる。したがって、電池31の冷却能力と、車室用の冷房能力との両方を、確実に確保することができる。
【0052】
以下、本実施の形態の熱交換装置1の制御について説明する。図1に示す、熱交換装置1を制御する制御部としてのECU(Electric Control Unit)80は、温度センサ63,64から、電池31の温度の測定値を示す信号T1,T2を受ける。ECU80はまた、圧縮機12に対し起動または停止を指令する信号C1と、開度調整弁40、膨張弁16の開度をそれぞれ指令する信号V1,V2と、コンデンサファン42を回転駆動するためのモータ44に対し回転数を指令する信号M1と、を出力する。
【0053】
図2は、ECU80の構成の詳細を示すブロック図である。ECU80は、熱交換装置1の搭載される車両のすべての制御部を統括するEV(Electric Vehicle)_ECU(Electric Control Unit)81を備える。ECU80はまた、圧縮機12の起動および停止を制御する圧縮機制御部82と、膨張弁16および開度調整弁40の開度を制御するバルブ制御部83と、モータ44の回転数を制御するモータ制御部85と、を備える。ECU80はまた、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)などのメモリ84を有する。メモリ84に記憶された制御プログラムに従ってECU80が各種の処理を実行することにより、熱交換装置1が制御される。
【0054】
電池31の温度の測定値を示す信号T1,T2は、EV_ECU81によって受けられる。EV_ECU81は、温度センサ63,64により検出された電池31の現在の温度を、メモリ84に記憶された電池31の温度の上限値および下限値と比較して、電池31の温度が目標とする温度範囲にあるか否かを判断する。この判断結果に従って、EV_EVU81は、圧縮機制御部82、バルブ制御部83およびモータ制御部85に制御信号を伝送する。
【0055】
圧縮機制御部82は、EV_ECU81から伝送された制御命令を受け取り、圧縮機12の起動または停止を指令する信号C1を圧縮機12へ伝送する。バルブ制御部83は、EV_ECU81から伝送された制御命令を受け取り、開度調整弁40の開度を指令する信号V1を開度調整弁40へ伝送し、膨張弁16の開度を指令する信号V2を膨張弁16へ伝送する。モータ制御部85は、EV_ECU81から伝送された制御命令を受け取り、モータ44の回転数を指令する信号M1をモータ44へ伝送する。ECU80は、温度センサ63,64により検出された電池31の温度に基づいて、開度調整弁40および膨張弁16の開度を制御し、またモータ44の回転数を制御する。
【0056】
モータ44の回転数を変更すると、熱交換器14における冷媒と外気との間の熱交換量が制御される。モータ44の回転数を増加しコンデンサファン42の回転速度を大きくすると、熱交換器14へ供給される空気の流量が増加し、熱交換器14における冷媒と外気との熱交換量が増加する。モータ44の回転数を減少しコンデンサファン42の回転速度を小さくすると、熱交換器14へ供給される空気の流量が減少し、熱交換器14における冷媒と外気との熱交換量が減少する。
【0057】
図3は、電池31の目標温度範囲を示すグラフである。図3の横軸は電池31の温度を示し、縦軸は電池31の出力密度を示す。図3に示すように、電池31の温度と出力密度との間には、電池31が低温であれば出力密度は小さく、電池31の温度がある程度高くなると急激に出力密度が大きくなる、という関係がある。電池31の温度が低いときには電池31の出力を確保するのが困難である。そのため、電池31の使用に好適な温度範囲を規定した上で、電池31を使用するのが望ましい。電池31の温度の目標とする範囲が図3の網掛け部分のように定められ、この目標温度範囲の下限値をTa、上限値をTbとする。
【0058】
たとえば、被温度調節部が電池31である場合、目標温度範囲の下限値Taを25℃と定め、目標温度範囲の上限値Tbを45℃と定めてもよい。目標温度範囲は電池31の種類によって異なり、また個々の電池31の特性によっても異なる。そのため、各電池31の個体毎に、最適な目標温度範囲を規定すればよい。
【0059】
図4は、熱交換装置1の制御方法の一例を示すフローチャートである。図4に示すように、熱交換装置1を使用して被温度調節部である電池31の温度制御が開始されると、まずステップ(S10)において、電池31の温度(Tcell)を読み込む。具体的には、電池31に取付けられた温度センサ63,64を用いて、電池31の温度を示す信号T1,T2をECU80が受けることにより、Tcellを読み込む。
【0060】
次にステップ(S20)において、電池31の温度(Tcell)が目標温度範囲の下限値Taを下回っているかどうかが判断される。ステップ(S20)でTcell<Ta、すなわち電池31の温度が目標温度範囲を下回っていると判断された場合、次にステップ(S30)において開度調整弁40の開度が増大され、さらにステップ(S70)において熱交換器14における冷媒と外気との間の熱交換量が調整される。
【0061】
つまり、開度調整弁40の開度を増大させることでより多くの冷媒が熱交換部30に供給されるようにするとともに、モータ44の回転数を減少してコンデンサファン42から熱交換器14に送風される空気の量を減少する。熱交換器14における冷媒と外気との熱交換量を減少させることにより、圧縮機12で圧縮された高温の冷媒が熱交換器14で冷却され冷媒の温度が低下することを、抑制する。これにより、より高温の冷媒を熱交換部30へ供給する。被温度調節部としての電池31よりも高温の冷媒を熱交換部30へ流すことにより、熱交換部30において冷媒から電池31への熱伝達が発生する。このとき、熱交換部30の内部では、冷媒が冷却され、電池31が加温される。
【0062】
図5は、蒸気圧縮式冷凍サイクル10を循環する冷媒の状態の第一の例を示すモリエル線図である。図5中の横軸は、冷媒の比エンタルピーを示し、縦軸は、冷媒の絶対圧力を示す。比エンタルピーの単位はkJ/kgであり、絶対圧力の単位はMPaである。図中の曲線は、冷媒の飽和蒸気線および飽和液線である。図5中には、図1に示す蒸気圧縮式冷凍サイクル10中の各点(すなわちA,B,C,D,EおよびF点)における冷媒の熱力学状態が示される。
【0063】
図5に示すように、圧縮機12に吸入された過熱蒸気状態の冷媒(A点)は、圧縮機12において等比エントロピー線に沿って断熱圧縮される。圧縮するに従って冷媒の圧力と温度とが上昇し、高温高圧の過熱度の大きい過熱蒸気になって(B点)、冷媒は熱交換器14へと流れる。圧縮機12から吐出された気相冷媒は、熱交換器14において周囲に放熱し冷却されることによって、凝縮(液化)する。熱交換器14における外気との熱交換によって、冷媒の温度は低下し冷媒は液化する。熱交換器14へ入った高圧の冷媒蒸気は、熱交換器14において等圧のまま過熱蒸気から乾き飽和蒸気になり、凝縮潜熱を放出し徐々に液化して気液混合状態の湿り蒸気になる(C点)。
【0064】
熱交換器14において、冷媒から外気へ放熱することにより冷媒は冷却される。コンデンサファン42を回転駆動するモータ44の回転数を制御することにより、熱交換器14における冷媒と外気との熱交換量が定められる。この場合、熱交換部30において冷媒から電池31へ熱を与えて電池31を加熱する必要があるので、熱交換器14から流出する冷媒の温度が電池31の温度よりも高くなるように、熱交換器14での熱交換量が定められる。熱交換器14における冷媒の冷却を抑制することにより、熱交換器14から流出する冷媒が高温に保たれる。
【0065】
熱交換器14から流出する冷媒は、冷媒通路22、開度調整弁40および冷媒通路23を経由して、熱交換部30へ流れる。このとき、開度調整弁40の開度が増大され、典型的には開度調整弁40が全開(開度100%)とされていることにより、開度調整弁40を通過するときに冷媒の圧力および比エンタルピーはほぼ変化しない。つまり、冷媒通路22を流れる冷媒と、冷媒通路23を流れる冷媒とは、ほぼ等しい圧力および比エンタルピーを有する。図5において、C点は冷媒通路22を流れる冷媒の状態を示し、D点は冷媒通路23を流れる冷媒の状態を示す。C点とD点とは、図5においてほぼ同じ位置に示されている。
【0066】
開度調整弁40を通過した冷媒は、冷媒通路23を経由して熱交換部30の冷却通路32へ流れる。熱交換部30において、冷却通路32内を流れる高温の冷媒から電池31へ熱伝達することで、電池31が加熱される。電池31との熱交換により、冷媒が冷却される。湿り蒸気状態の冷媒は、電池31との熱交換により冷却され、凝縮する。熱交換部30において冷媒の全部が凝縮すると、冷媒は飽和液になり、さらに顕熱を放出して過冷却液になる(E点)。
【0067】
熱交換部30で液化した高圧の液相冷媒は、冷媒通路24を経由して膨張弁16に流入する。膨張弁16において、過冷却液状態の冷媒は絞り膨張され、冷媒の比エンタルピーは変化せず温度と圧力とが低下して、低温低圧の気液混合状態の湿り蒸気となる(F点)。
【0068】
膨張弁16において温度が下げられた湿り蒸気状態の冷媒は、冷媒通路25を経由して熱交換器18へ流入する。熱交換器18のチューブ内には、湿り蒸気状態の冷媒が流入する。冷媒は、熱交換器18のチューブ内を流通する際に、フィンを経由して空調用空気の熱を蒸発潜熱として吸収することによって、等圧のまま蒸発する。全ての冷媒が乾き飽和蒸気になると、さらに顕熱によって冷媒蒸気は温度上昇して、過熱蒸気となる(A点)。気化した冷媒は、冷媒通路26を経由して圧縮機12に吸入される。圧縮機12は、熱交換器18から流通する冷媒を圧縮する。
【0069】
冷媒はこのようなサイクルに従って、圧縮、凝縮、絞り膨張、蒸発の状態変化を連続的に繰り返す。なお、上述した蒸気圧縮式冷凍サイクルの説明では、理論冷凍サイクルについて説明しているが、実際の蒸気圧縮式冷凍サイクル10では、圧縮機12における損失、冷媒の圧力損失および熱損失を考慮する必要があるのは勿論である。
【0070】
温度センサ63,64で電池31の温度を計測し、電池31の温度が低く目標温度範囲を下回る場合には、開度調整弁40の弁開度を増大させるとともに熱交換器14での冷媒の冷却を抑制することで、高温の冷媒を熱交換部30へ供給する。この高温の冷媒を用いて、電池31を加熱する。電池31の暖機が必要なときに、蒸気圧縮式冷凍サイクル10を流れる冷媒を利用して、積極的に電池31を加熱して、早期に電池31の温度を上昇させる。このようにすれば、簡単な構成かつ簡単な制御によって電池31を加熱でき、電池31の温度を早期に目標温度範囲の下限値以上にまで上昇させることができるので、電池31の温度を適切に制御することが容易になる。
【0071】
冷媒は、電池31を加熱した後に膨張弁16において絞り膨張される。そのため、熱交換器18へ流入する冷媒は、車両の車室内の冷房のために本来必要とされる温度および圧力を有する。そのため、車室内の空気を冷却する冷房の能力に影響を与えることなく、電池31を加熱することができる。
【0072】
図4に戻って、ステップ(S20)でTcell≧Ta、すなわち電池31の温度が目標温度範囲の下限値以上であると判断された場合、次にステップ(S40)において、電池31の温度(Tcell)が目標温度範囲の上限値Tbを下回っているかどうかが判断される。ステップ(S40)でTcell<Tb、すなわち電池31の温度が目標温度範囲の上限値を下回り、電池31の温度は目標温度範囲内にあると判断された場合、次にステップ(S50)において、開度調整弁40の開度が維持される。
【0073】
図6は、蒸気圧縮式冷凍サイクル10を循環する冷媒の状態の第二の例を示すモリエル線図である。図6中の横軸は、冷媒の比エンタルピーを示し、縦軸は、冷媒の絶対圧力を示す。比エンタルピーの単位はkJ/kgであり、絶対圧力の単位はMPaである。図中の曲線は、冷媒の飽和蒸気線および飽和液線である。図6中には、図1に示す蒸気圧縮式冷凍サイクル10中の各点(すなわちA,B,C,D,EおよびF点)における冷媒の熱力学状態が示される。
【0074】
図6に示すように、圧縮機12に吸入された過熱蒸気状態の冷媒(A点)は、圧縮機12において等比エントロピー線に沿って断熱圧縮される。圧縮するに従って冷媒の圧力と温度とが上昇し、高温高圧の過熱度の大きい過熱蒸気になって(B点)、冷媒は熱交換器14へと流れる。
【0075】
熱交換器14へ入った高圧の冷媒蒸気は、熱交換器14において外気と熱交換して冷却される。冷媒は、等圧のまま過熱蒸気から乾き飽和蒸気になり、凝縮潜熱を放出し徐々に液化して気液混合状態の湿り蒸気になり、冷媒の全部が凝縮すると飽和液になり、さらに顕熱を放出して過冷却液になる(C点)。熱交換器14は、圧縮機12において圧縮された過熱状態冷媒ガスを、外部媒体へ等圧的に放熱させて冷媒液とする。圧縮機12から吐出された気相冷媒は、熱交換器14において周囲に放熱し冷却されることによって、凝縮(液化)する。熱交換器14における外気との熱交換によって、冷媒の温度は低下し冷媒は液化する。
【0076】
電池31の温度が目標温度範囲内である場合、電池31の過熱を防止できる程度に電池31を冷却する必要がある。そのため、熱交換器14から流出する冷媒の温度が電池31の温度よりも低くなり、熱交換部30における電池31から冷媒への熱伝達により電池31が冷却されるように、熱交換器14での熱交換量が定められる。モータ44の回転数を増大し、コンデンサファン42から熱交換器14への通風の流量を増大することにより、熱交換器14において過冷却域まで冷媒を冷却でき、熱交換器14から流出する冷媒の温度を十分に低くできる。
【0077】
熱交換器14から流出する冷媒は、冷媒通路22、開度調整弁40および冷媒通路23を経由して、熱交換部30へ流れる。開度調整弁40を通過するときに冷媒の圧力および比エンタルピーはほぼ変化しない。つまり、冷媒通路22を流れる冷媒と、冷媒通路23を流れる冷媒とは、ほぼ等しい圧力および比エンタルピーを有する。図6において、C点は冷媒通路22を流れる冷媒の状態を示し、D点は冷媒通路23を流れる冷媒の状態を示す。C点とD点とは、図6においてほぼ同じ位置に示されている。
【0078】
開度調整弁40を通過した冷媒は、冷媒通路23を経由して熱交換部30の冷却通路32へ流れる。熱交換部30において、電池31から冷却通路32内を流れる高温の冷媒へ熱伝達することで、電池31が冷却される。電池31との熱交換により、冷媒が加熱され、冷媒の過冷却度が小さくなる。つまり、電池31から顕熱を受けて過冷却液の状態の冷媒の温度が上昇し、液冷媒の飽和温度に近づき、飽和温度をわずかに下回る温度にまで加熱される(E点)。
【0079】
その後冷媒は、冷媒通路24を経由して膨張弁16に流入する。膨張弁16において、過冷却液状態の冷媒は絞り膨張され、冷媒の比エンタルピーは変化せず温度と圧力とが低下して、低温低圧の気液混合状態の湿り蒸気となる(F点)。
【0080】
膨張弁16において温度が下げられた湿り蒸気状態の冷媒は、冷媒通路25を経由して熱交換器18へ流入する。熱交換器18のチューブ内には、湿り蒸気状態の冷媒が流入する。冷媒は、熱交換器18のチューブ内を流通する際に、フィンを経由して空調用空気の熱を蒸発潜熱として吸収することによって、等圧のまま蒸発する。全ての冷媒が乾き飽和蒸気になると、さらに顕熱によって冷媒蒸気は温度上昇して、過熱蒸気となる(A点)。気化した冷媒は、冷媒通路26を経由して圧縮機12に吸入される。圧縮機12は、熱交換器18から流通する冷媒を圧縮する。冷媒はこのようなサイクルに従って、圧縮、凝縮、絞り膨張、蒸発の状態変化を連続的に繰り返す。
【0081】
温度センサ63,64で電池31の温度を計測し、電池31の温度が目標温度範囲内にある場合には、開度調整弁40の弁開度を維持することで、熱交換器14で冷却された低温の冷媒を熱交換部30へ供給する。この低温の冷媒を用いて、電池31を冷却する。電池31は充電時に発熱するので、電池31の過熱を回避するために冷却する必要がある。本実施の形態では、蒸気圧縮式冷凍サイクル10を流れる冷媒を利用して、簡単な構成かつ簡単な制御によって電池31を冷却でき、電池31の温度を目標温度範囲内に保つことができるので、電池31の温度を適切に制御することが容易になる。
【0082】
冷媒は、電池31を加熱した後に膨張弁16において絞り膨張される。そのため、熱交換器18へ流入する冷媒は、車両の車室内の冷房のために本来必要とされる温度および圧力を有する。そのため、車室内の空気を冷却する冷房の能力に影響を与えることなく、電池31を冷却することができる。
【0083】
図4に戻って、ステップ(S40)でTcell≧Tb、すなわち電池31の温度が目標温度範囲の上限値以上であると判断された場合、次にステップ(S60)において開度調整弁40の開度が減少され、さらにステップ(S80)において膨張弁16の開度が増大される。
【0084】
図7は、蒸気圧縮式冷凍サイクル10を循環する冷媒の状態の第三の例を示すモリエル線図である。図7中の横軸は、冷媒の比エンタルピーを示し、縦軸は、冷媒の絶対圧力を示す。比エンタルピーの単位はkJ/kgであり、絶対圧力の単位はMPaである。図中の曲線は、冷媒の飽和蒸気線および飽和液線である。図7中には、図1に示す蒸気圧縮式冷凍サイクル10中の各点(すなわちA、B,C,D,EおよびF点)における冷媒の熱力学状態が示される。
【0085】
図7に示すように、圧縮機12に吸入された過熱蒸気状態の冷媒(A点)は、圧縮機12において等比エントロピー線に沿って断熱圧縮される。圧縮するに従って冷媒の圧力と温度とが上昇し、高温高圧の過熱度の大きい過熱蒸気になって(B点)、冷媒は熱交換器14へと流れる。熱交換器14へ入った高圧の冷媒蒸気は、熱交換器14において冷却され、等圧のまま過熱蒸気から乾き飽和蒸気になり、凝縮潜熱を放出し徐々に液化して気液混合状態の湿り蒸気になり、冷媒の全部が凝縮すると飽和液になり、さらに顕熱を放出して過冷却液になる(C点)。
【0086】
液化した冷媒は、冷媒通路22を経由して開度調整弁40に流入する。このとき、開度調整弁40の開度が減少していることにより、開度調整弁40において過冷却液状態の冷媒は絞り膨張され、冷媒の比エンタルピーは変化せず温度と圧力とが低下する(D点)。図7において、C点は冷媒通路22を流れる冷媒の状態を示し、D点は冷媒通路23を流れる冷媒の状態を示す。図7において、C点とD点とは、比エンタルピーがほぼ同じであり、C点よりもD点の圧力が低下していることを示す位置に図示される。
【0087】
開度調整弁40において圧力および温度が下げられた中間圧力の冷媒は、冷媒通路23を経由して熱交換部30の冷却通路32へ流れ、電池31を冷却する。電池31との熱交換により、冷媒の過冷却度が小さくなり、過冷却液の状態の冷媒の温度が上昇して、液冷媒の飽和温度に近づく(E点)。
【0088】
開度調整弁40で絞り膨張することにより温度が低下した冷媒を使用して電池31を冷却できるので、電池31をより効率よく冷却できる。開度調整弁40の開度を最適に制御することにより、熱交換部30で電池31を冷却する冷媒の温度を任意に調整することができる。温度センサ63,64で電池31の温度を計測し、電池31の温度が高く目標温度範囲以上である場合には、開度調整弁40で絞り膨張されたより低い温度の冷媒を熱交換部30に供給して、電池31をより効率よく冷却することができる。したがって、電池31の温度を早期に目標温度範囲の上限値未満にまで低下させることができるので、電池31の温度を適切に制御することが容易になる。
【0089】
その後冷媒は、膨張弁16に流入する。膨張弁16において、過冷却液状態の冷媒は絞り膨張され、比エンタルピーは変化せず温度と圧力とが低下して、低温低圧の気液混合状態の湿り蒸気となる(F点)。膨張弁16から出た湿り蒸気状態の冷媒は、熱交換器18において、外部から熱を吸収して蒸発潜熱によって等圧のまま蒸発する。全ての冷媒が乾き飽和蒸気になると、さらに顕熱によって冷媒蒸気は温度上昇して、過熱蒸気となり(A点)、圧縮機12に吸入される。冷媒はこのようなサイクルに従って、圧縮、凝縮、絞り膨張、蒸発の状態変化を連続的に繰り返す。
【0090】
冷媒は、熱交換器14において過冷却液になるまで冷却され、電池31から顕熱を受けて飽和温度をわずかに下回る温度にまで加熱される。その後膨張弁16を通過することで、冷媒は低温低圧の湿り蒸気になる。膨張弁16の出口において、冷媒は、車両の室内の冷房のために本来必要とされる温度および圧力を有する。熱交換器14は、冷媒を十分に冷却できる程度に、その放熱能力が定められている。
【0091】
熱交換器14における冷媒と外気との熱交換量は、熱交換器14を通過した後の液相冷媒の温度が車室内の冷房のために必要とされる温度よりも低下するように、定められる。熱交換器14における熱交換量は、電池31を冷却しない場合よりも、冷媒が電池31から受け取ると想定される熱量分だけ大きいように、定められる。このように熱交換器14の熱交換量を定めることにより、熱交換装置1は、車両の室内の冷房性能を維持しつつ、圧縮機12の動力を増加させることなく、電池31を適切に冷却できる。
【0092】
冷媒は、電池31を加熱した後に膨張弁16において絞り膨張される。そのため、熱交換器18へ流入する冷媒は、車両の車室内の冷房のために本来必要とされる温度および圧力を有する。そのため、車室内の空気を冷却する冷房の能力に影響を与えることなく、電池31を冷却することができる。
【0093】
図4に示すステップ(S50)、ステップ(S70)またはステップ(S80)の後に、制御フローはリターンされ、再度ステップ(S10)の電池31の温度の読み込みに戻る。
【0094】
図8は、本実施の形態に従った電池温度の時間変化を示すタイムチャートである。図8の横軸は電池31の起動以来の経過時間を示し、縦軸は電池31の温度を示す。図8に示すように、電池31を起動した直後の電池31の温度が目標温度範囲の下限値Taを下回るときには、図5を参照して説明したように電池31を加熱することで、早期に電池31の温度を上昇させることが可能になる。電池31の温度が上昇を続け、目標温度範囲の上限値Tb以上になると、図7を参照して説明したように電池31の冷却能力を増大することで、電池31の温度を早期に低下させることができる。その後、電池31の温度が目標温度範囲内にあるときには、図6を参照して説明したように電池31を冷却することで、安定した電池31の冷却が可能になる。
【0095】
以上説明したように、本実施の形態の熱交換装置1では、温度センサ63,64により電池31の温度を検出し、検出された電池31の温度に基づいて開度調整弁40の開度を制御する。より具体的には、電池31の温度が目標温度範囲を下回るとき、開度調整弁40の開度を増大して電池31を加熱する。一方、電池31の温度が目標温度範囲内にあるとき、開度調整弁40の開度を維持して電池31を冷却する。さらに、電池31の温度が目標温度範囲を上回るとき、開度調整弁40の開度を減少して電池31の冷却能力をより高める。
【0096】
このようにすれば、電池31の温度が高く電池31の冷却が必要なときには電池31を冷却し、かつ、電池31の温度が低く電池31の暖機が必要なときには電池31を加熱するように、電池31の温度を制御できる。電池31の温度を監視して、電池31の温度に従って開度調整弁40の開度を調整することにより、電池31と熱交換するための熱交換部30に流入する冷媒の温度を最適に制御することができるので、電池31の温度制御を安定して行なうことができる。電池31が低温のときには早期に電池31を暖機することができるので、電池31の出力を向上できる。電池31が高温の時には冷媒温度を下げ、低温の冷媒を用いて電池31を冷却することにより、電池31の冷却性能を確保できるので、より安定した電池31の冷却が可能になる。
【0097】
電池31の加温と冷却との両方を、蒸気圧縮式冷凍サイクル10を循環する冷媒を用いて行なうことができるので、簡単な構成で電池31の加温および冷却ができる熱交換装置1を提供できる。電池31の加熱のために電気ヒータなどの追加の装置が必要ないため、熱交換装置1の装置コストの低減および小型化を達成でき、加えて、電池31の加熱のための消費動力を低減できるので、車両の燃費を向上することができる。
【0098】
電池31の温度に基づいて熱交換器14における冷媒と外気との間の熱交換量を制御し、電池31の温度が目標温度範囲を下回るとき、熱交換器14における冷媒と外気との間の熱交換量を減少させる。このようにすれば、熱交換部30により高温の冷媒を供給することができるので、電池31の暖機のための所要時間をより短縮でき、早期に電池31の出力を向上させることができる。
【0099】
電池31の温度に基づいて膨張弁16の開度を制御し、電池31の温度が目標温度範囲を上回るとき、膨張弁16の開度を増大する。このようにすれば、電池31の冷却のために開度調整弁40で冷媒を絞り膨張させる場合に、膨張弁16での冷媒の圧力低下が抑制される。そのため、熱交換器18へ流入する冷媒の圧力および比エンタルピーを変化させずに、熱交換部30へ供給される冷媒の温度を下げることができる。したがって、蒸気圧縮式冷凍サイクル10を用いた車室内の冷房能力に影響を与えることなく、電池31の冷却能力を自在に向上させることができる。
【0100】
なお、これまでの説明においては、電池31を例として車両に搭載された被温度調節部の温度を最適に調節する熱交換装置1について説明した。本発明の熱交換装置1により温度を調節される被温度調節部は、電池31に限られるものではない。たとえば、車両に搭載されるトランスアクスルを冷却するためのATF(Automatic Transmission Fluid)を冷却するATF冷却器を、被温度調節部としてもよい。
【0101】
ATFは、トランスアクスルを構成するモータジェネレータやギヤなどの発熱部材で発生した熱を回収して、ATF冷却器で冷却されることにより、トランスアクスルを冷却する。ATFは、モータジェネレータのコイルや磁石などの部品保護、ATFの劣化抑制などの目的のために、冷却が必要とされる。しかし、ATFを冷やし過ぎると、ATFの粘度が増大し、ギヤの潤滑不足やフリクションロスの増大を招くため、ATFは適度に加温されることが望ましい。そこで、本実施の形態の熱交換装置1にATF冷却器を適用し、熱交換部30においてATFを冷却および加熱してもよい。
【0102】
また、被温度調節部は、車両に搭載された車載機器に限られず、外気温などの諸条件に従って冷却または加熱されることを必要とする任意の機器、または任意の機器の発熱する一部分であってもよい。
【0103】
以上のように本発明の実施の形態について説明を行なったが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の熱交換装置は、冷却または加熱を必要とする電池などの被温度調節部の、車両における車内の冷暖房を行なうための蒸気圧縮式冷凍サイクルを使用した温度調節に、特に有利に適用され得る。
【符号の説明】
【0105】
1 熱交換装置、10 蒸気圧縮式冷凍サイクル、12 圧縮機、14,18 熱交換器、21〜26 冷媒通路、30 熱交換部、31 電池、32 冷却通路、40 開度調整弁、42 コンデンサファン、44 モータ、63,64 温度センサ、80 ECU、82 圧縮機制御部、83 バルブ制御部、84 メモリ、85 モータ制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒と被温度調節部との間で熱交換を行なう熱交換装置であって、
前記冷媒を循環させるための圧縮機と、
前記冷媒と外気との間で熱交換する第一熱交換器と、
前記冷媒と空調用空気との間で熱交換する第二熱交換器と、
前記第一熱交換器と前記被温度調節部との間の前記冷媒の経路の開度を調整可能な開度調整弁と、
前記被温度調節部と前記第二熱交換器との間の前記冷媒の経路に配置され、前記冷媒を減圧する膨張弁と、
前記開度調整弁の開度を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記開度調整弁の開度を増大して前記被温度調節部を加熱し、前記開度調整弁の開度を減少して前記被温度調節部を冷却する、熱交換装置。
【請求項2】
前記被温度調節部の温度を検出する検出部を備え、
前記制御部は、前記検出部により検出された前記被温度調節部の温度に基づいて、前記開度調整弁の開度を制御する、請求項1に記載の熱交換装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記検出部により検出された前記被温度調節部の温度が目標温度範囲を下回ると前記開度調整弁の開度を増大し、前記検出部により検出された前記被温度調節部の温度が目標温度範囲を上回ると前記開度調整弁の開度を減少する、請求項2に記載の熱交換装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記被温度調節部の温度に基づいて前記膨張弁の開度を制御する、請求項1から請求項3のいずれかに記載の熱交換装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記被温度調節部の温度に基づいて前記第一熱交換器における前記冷媒と外気との間の熱交換量を制御する、請求項1から請求項4のいずれかに記載の熱交換装置。
【請求項6】
冷媒と被温度調節部との間で熱交換を行なう熱交換装置の制御方法であって、
前記熱交換装置は、
前記冷媒を循環させるための圧縮機と、
前記冷媒と外気との間で熱交換する第一熱交換器と、
前記冷媒と空調用空気との間で熱交換する第二熱交換器と、
前記第一熱交換器と前記被温度調節部との間の前記冷媒の経路の開度を調整可能な開度調整弁と、
前記被温度調節部と前記第二熱交換器との間の前記冷媒の経路に配置され、前記冷媒を減圧する膨張弁と、を備え、
前記被温度調節部の温度を判断するステップと、
前記判断するステップにおいて前記被温度調節部の温度が目標温度範囲を下回ると判断されたとき、前記開度調整弁の開度を増大して前記被温度調節部を加熱するステップと、
前記判断するステップにおいて前記被温度調節部の温度が目標温度範囲を上回ると判断されたとき、前記開度調整弁の開度を減少して前記被温度調節部を冷却するステップと、を備える、熱交換装置の制御方法。
【請求項7】
前記判断するステップにおいて前記被温度調節部の温度が目標温度範囲を下回ると判断されたとき、前記第一熱交換器における前記冷媒と外気との間の熱交換量を調整するステップを備える、請求項6に記載の熱交換装置の制御方法。
【請求項8】
前記判断するステップにおいて前記被温度調節部の温度が目標温度範囲を上回ると判断されたとき、前記膨張弁の開度を増大するステップを備える、請求項6または請求項7に記載の熱交換装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−61099(P2013−61099A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198283(P2011−198283)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)