説明

熱剥離型シート

【課題】 高温での耐久性に優れる熱剥離型シートを提供すること。
【解決手段】 熱硬化率が80%以上である熱剥離型シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱剥離型シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品等の製造・加工工程では、各種材料等の仮止めや、金属板等の表面保護等が行われおり、このような用途に用いられるシート部材は、使用目的を終えた後に被着体から容易に剥離除去できることが要求されている。従来、このようなシート部材として、加熱処理により剥離できる感熱性粘着剤が開示されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、当該感熱性粘着剤が180℃までの温度で使用することが可能であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第7202107号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、熱剥離型シートに関して、より高い温度においても劣化しないものが切望されている。本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、高温での耐久性に優れる熱剥離型シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、下記の構成を採用することにより、前記の課題を解決できることを見出して本発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち、本発明に係る熱剥離型シートは、熱硬化率が80%以上であることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る熱剥離型シートは、熱硬化率が80%以上である。従って、高温環境で使用した際に、さらなる熱硬化は起こり難い。その結果、高温での耐久性に優れる。前記熱硬化率は、DSC(示差走査熱量測定)を用い、発熱量を測定して求める。具体的な方法は、後に詳述する。
【0008】
また、本発明に係る熱剥離型シートは、ポリイミド樹脂を含み、イミド化率が80%以上である。従って、高温環境で使用した際に、さらなるイミド化は起こり難い。その結果、高温での耐久性に優れる。前記イミド化率は、1H−NMR(プロトン核磁気共鳴)を用い、イミド基のピーク強度を測定して求める。具体的な方法は、後に詳述する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高温での耐久性に優れる熱剥離型シートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る熱剥離型シートは、(a)熱硬化率が80%以上であるか、又は、(b)ポリイミド樹脂を含み、イミド化率が80%以上である。
【0011】
前記(a)の場合、本発明に係る熱剥離型シートは、熱硬化率が80%以上であり、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。また、前記熱剥離型シートの前記熱硬化率の上限としては、大きいほど好ましく、100%、99.9%を挙げることができる。前記熱剥離型シートの熱硬化率が80%以上(例えば、80〜100%)であるため、高温環境で使用した際に、さらなる熱硬化は起こり難い。その結果、高温での耐久性に優れる。本発明において、「熱硬化されている」とは、当該熱剥離型シートを構成する樹脂が、熱によって化学反応を起こし、分子間に3次元の架橋結合を生じて硬化していることをいい、酸化による劣化や分解を含まない。
【0012】
前記熱硬化率は、DSC(示差走査熱量測定)を用い、発熱量を測定して求める。具体的には、熱剥離型シートの製造用溶液(ポリアミド酸を含む溶液)を塗布して乾燥(条件:120℃で10分間)させた状態ものを用い、室温(23℃)から昇温速度10℃/分の条件で、500℃(熱硬化反応が完全に完了したと想定される温度)まで昇温した際の発熱量(全発熱量)を測定する。また、熱剥離型シートの製造用溶液を塗布して乾燥させた後、所定の加熱により熱剥離型シートとしての製造が完了したものを用い、室温(23℃)から昇温速度10℃/分の条件で、500℃(熱硬化反応が完全に完了したと想定される温度)まで昇温した際の発熱量(熱剥離型シート製造後からの発熱量)を測定する。その後、以下の式(1)により得る。
式(1):
[1−((熱剥離型シート製造後からの発熱量)/(全発熱量))]×100(%)
なお、発熱量は、示差走査熱量計にて測定される反応発熱ピーク温度の±5℃の温度範囲における反応発熱量を用いる。
【0013】
前記熱剥離型シートは、熱硬化率が80%以上であれば、その形成材料は、特に限定されないが、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ゴム樹脂等を挙げることができる。
【0014】
前記(b)に係る熱剥離型シートは、ポリイミド樹脂を含み、イミド化率が80%以上である。前記熱剥離型シートは、ポリイミド樹脂を含んでいれぱよい。すなわち、前記熱剥離型シートは、ポリイミド樹脂以外の他の樹脂を含んていてもよく、ポリイミド樹脂のみからなるものであてもよい。前記熱剥離型シートが、ポリイミド樹脂を含む場合、又は、ポリイミド樹脂のみからなる場合、イミド化率は、80%以上であり、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。前記熱剥離型シートのイミド化率は、中でも、98%以上(とりわけ99%以上)であることがさらに好ましい。また、前記熱剥離型シートのイミド化率の上限としては、大きいほど好ましく、100%、99.9%を挙げることができる。前記熱剥離型シートのイミド化率が80%以上(例えば、80〜100%)であると、高温環境で使用した際に、さらなるイミド化は起こり難い。その結果、高温での耐久性に優れる。
【0015】
前記イミド化率は、1H−NMR(プロトン核磁気共鳴、日本電子製、LA400)を用い、イミド基のピーク強度を測定して求める。具体的には、熱剥離型シートの製造用溶液(ポリアミド酸を含む溶液)を塗布して乾燥(乾燥条件:50−150℃で5−30分間)し、イミド化(イミド化条件:200−450℃で1−5時間)させる。この状態で、O−Rプロトン由来のピーク面積A(ポリアミド酸のジアミンと酸無水物とが閉環していない状態にあるときのO−Rプロトン由来のピーク面積)とイミド基N−Rプロトン由来のピーク面積B(ポリアミド酸のジアミンと酸無水物とが閉環した状態にあるときのN−Rプロトン由来のピーク面積)を求め、式(2)よりイミド化率(%)を求めた。
式(2):
[(B)/(A+B)]×100(%)
【0016】
以下では、特に断らない限り、前記(a)に係る熱剥離型シートと前記(b)に係る熱剥離型シートとの両方に関して説明する。
【0017】
前記ポリイミド樹脂は、一般的に、その前駆体であるポリアミド酸をイミド化(脱水縮合)することにより得ることができる。ポリアミド酸をイミド化する方法としては、例えば、従来公知の加熱イミド化法、共沸脱水法、化学的イミド化法等を採用することができる。なかでも、加熱イミド化法が好ましい。加熱イミド化法を採用する場合、ポリイミド樹脂の酸化による劣化を防止するため、窒素雰囲気下や、真空中等の不活性雰囲気下にて加熱処理を行なうことが好ましい。
【0018】
前記ポリアミド酸は、適宜選択した溶媒中で、酸無水物とジアミンとを実質的に等モル比となるように仕込み、反応させて得ることができる。
【0019】
前記ポリイミド樹脂としては、エーテル構造を有するジアミンに由来する構成単位を有することが好ましい。前記エーテル構造を有するジアミンは、エーテル構造を有し、且つ、アミン構造を有する端末を少なくとも2つ有する化合物である限り、特に限定されない。前記エーテル構造を有するジアミンのなかでも、グリコール骨格を有するジアミンであることが好ましい。前記ポリイミド樹脂が、エーテル構造を有するジアミンに由来する構成単位、特に、グリコール骨格を有するジアミンに由来する構成単位を有している場合、熱剥離型シートを加熱すると、剪断接着力を低下させることができる。この現象について、本発明者らは、高温に加熱されることにより、前記エーテル構造、又は、前記グリコール骨格が熱剥離型シートを構成する樹脂から脱離し、この脱離により剪断接着力が低下している推察している。
なお、前記エーテル構造、又は、前記グリコール骨格が熱剥離型シートを構成する樹脂から脱離していることは、例えば、300℃での加熱を30分する前後におけるFT−IR(fourier transform infrared spectroscopy)スペクトルを比較し、2800〜3000cm−1のスペクトルが加熱前後で減少していることにより確認できる。具体的には、ベンゼン環のスペクトル強度(1500cm−1のスペクトル強度)を基準として、加熱前の2800〜3000cm−1のスペクトルピーク強度と、加熱後の2800〜3000cm−1のスペクトルピークとを比較し、減少量を、下記の式(3)により得る。そして、その減少量が、1.0%以上である場合に、前記エーテル構造、又は、前記グリコール骨格が熱剥離型シートを構成する樹脂から脱離していると判断することができる。
式(3):
[(加熱後の2800〜3000cm−1のスペクトルピーク強度)/(加熱後の1500cm−1のスペクトル強度)]/[(加熱前の2800〜3000cm−1のスペクトルピーク強度)/(加熱前の1500cm−1のスペクトル強度)]×100(%)
【0020】
前記グリコール骨格を有するジアミンとしては、例えば、ポリプロピレングリコール構造を有し、且つ、アミノ基を両末端に1つずつ有するジアミン、ポリエチレングリコール構造を有し、且つ、アミノ基を両末端に1つずつ有するジアミン、ポリテトラメチレングリコール構造を有し、且つ、アミノ基を両末端に1つずつ有するジアミン等のアルキレングリコールを有するジアミンを挙げることができる。また、これらのグリコール構造の複数を有し、且つ、アミノ基を両末端に1つずつ有するジアミンを挙げることができる。
【0021】
前記エーテル構造を有するジアミンの分子量は、100〜5000の範囲内であることが好ましく、150〜4800であることがより好ましい。前記エーテル構造を有するジアミンの分子量が100〜5000の範囲内であると、低温での接着力が高く、且つ、高温において剥離性を奏する熱剥離型シートをえやすい。
【0022】
前記ポリイミド樹脂の形成には、エーテル構造を有するジアミン以外に、エーテル構造を有さない他のジアミンを併用することもできる。エーテル構造を有さない他のジアミンとしては、脂肪族ジアミンや芳香族ジアミンを挙げることができる。エーテル構造を有さない他のジアミンを併用することにより、被着体との密着力をコントロールすることができる。エーテル構造を有するジアミンと、エーテル構造を有さない他のジアミンとの混合比率(エーテル構造を有するジアミンの重量部数:エーテル構造を有さない他のジアミンの重量部数)としては、15:85〜80:20が好ましく、さらに好ましくは20:80〜70:30である。ここで、エーテル構造を有するジアミンの配合重量部数は、溶媒を除く全配合重量を100重量部としたときのエーテル構造を有するジアミンの配合重量部数である。また、エーテル構造を有さない他のジアミンの配合重量部数は、溶媒を除く全配合重量を100重量部としたときのエーテル構造を有さない他のジアミンの配合重量部数である。
【0023】
前記脂肪族ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,8−ジアミノオクタン、1,10−ジアミノデカン、1,12−ジアミノドデカン、4,9−ジオキサ−1,12−ジアミノドデカン、1,3−ビス(3−アミノプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン(α、ω−ビスアミノプロピルテトラメチルジシロキサン)などが挙げられる。前記脂肪族ジアミンの分子量は、通常、50〜1,000,000であり、好ましくは100〜30,000である。
【0024】
芳香族ジアミンとしては、例えば、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−2,2−ジメチルプロパン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン等が挙げられる。前記芳香族ジアミンの分子量は、通常、50〜1000であり、好ましくは100〜500である。なお、本明細書において、分子量は、GPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)により測定し、ポリスチレン換算により算出された値(重量平均分子量)をいう。
【0025】
前記酸無水物としては、例えば、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物(6FDA)、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ピロメリット酸二無水物、エチレングリコールビストリメリット酸二無水物等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
前記酸無水物と前記ジアミンを反応させる際の溶媒としては、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、シクロペンタノン等を挙げることができる。これらは、単独で使用してもよく、複数を混合して用いてもよい。また、原材料や樹脂の溶解性を調整するために、トルエンや、キシレン等の非極性の溶媒を適宜、混合して用いてもよい。
【0027】
本発明の熱剥離型シートは、200℃以下の温度領域におけるいずれかの温度において1分間保持した後の当該温度におけるシリコンウエハに対する剪断接着力が0.25kg/5×5mm以上であることが好ましく、0.30kg/5×5mm以上であることがより好ましく、0.50kg/5×5mm以上であることがさらに好ましい。また、前記熱剥離型シートは、200℃より大きく500℃以下の温度領域におけるいずれかの温度において3分間保持した後の当該温度におけるシリコンウエハに対する剪断接着力が0.25kg/5×5mm未満であることが好ましく、0.10kg/5×5mm未満であることがより好ましく、0.05kg/5×5mm未満であることがさらに好ましい。
前記の「200℃以下の温度領域におけるいずれかの温度」は、200℃以下であれば特に限定されないが、例えば、−20〜195℃の温度領域におけるいずれかの温度、0〜180℃の温度領域におけるいずれかの温度、20〜150℃の温度領域におけるいずれかの温度とすることができる。
また、前記熱剥離型シートのシリコンウエハに対する剪断接着力が0.25kg/5×5mm未満(より好ましくは、0.10kg/5×5mm未満、さらに好ましくは、0.05kg/5×5mm未満)となる温度は、200℃より大きく500℃以下の温度領域におけるいずれかの温度であれば、特に限定されないが、好ましくは、205℃を超え、400℃以下であり、より好ましくは、210℃を超え、300℃以下である。
200℃以下の温度領域におけるいずれかの温度において1分間保持した後の当該温度におけるシリコンウエハに対する剪断接着力が0.25kg/5×5mm以上であり、200℃より大きく500℃以下の温度領域におけるいずれかの温度において3分間保持した後の当該温度におけるシリコンウエハに対する剪断接着力が0.25kg/5×5mm未満である場合、200℃より大きく500℃以下の温度領域におけるいずれかの温度に3分間保持すると、200℃以下の温度領域におけるいずれかの温度において1分間保持した後の場合に比して剪断接着力が低下する。熱剥離型シートの前記剪断接着力は、例えば、熱剥離型シートに含まれる官能基数によりコントロールすることができる。
【0028】
なお、前記熱剥離型シートは、200℃以下であっても、長時間(例えば、30分以上)保持すると、シリコンウエハに対する前記剪断接着力は、0.25kg/5×5mm未満となる場合がある。また、前記剥離型シートは、200℃より大きい温度(例えば、210〜400℃)に保持したとしても、短時間(例えば0.1分以内)であれば、シリコンウエハに対する前記剪断接着力は、0.25kg/5×5mm未満とはならない場合がある。
すなわち、「200℃より大きく500℃以下の温度領域におけるいずれかの温度において3分間保持した後の当該温度におけるシリコンウエハに対する剪断接着力が0.25kg/5×5mm未満」は、高温での剥離性を評価する指標であり、「200℃より大きく500℃以下の温度領域におけるいずれかの温度」にすると、直ちに、シリコンウエハに対する剪断接着力が0.25kg/5×5mm未満になることを意味するものではない。また、「200℃より大きく500℃以下の温度領域におけるいずれかの温度」にしなければ、剥離性を発現しないことを意味するものでもない。
【0029】
前記熱剥離型シートは、ダイナミック硬さが10以下であることが好ましく、9以下であることがより好ましく、8以下であることがさらに好ましい。また、前記ダイナミック硬さは、小さいほど好ましいが、例えば、0.001以上である。前記ダイナミック硬さが10以下であると、熱剥離型シートの被着体への接着力を充分なものとすることができる。
【0030】
前記熱剥離型シートは、3重量%の水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液に5分浸漬した後の重量減少率が1重量%未満であることが好ましく、0.9重量%未満であることがより好ましく、0.8重量%未満であることがさらに好ましい。また、前記重量減少率は、小さいほど好ましいが、例えば、0重量%以上、0.001重量%以上である。3%の水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液に5分浸漬した後の重量減少率が1重量%未満であると、3重量%の水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液への溶け出しが少ないため、耐溶剤性(特に、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液に対する耐溶剤性)を高めることができる。熱剥離型シートの前記重量減少率は、例えば、用いるジアミンの組成(ジアミンの水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液に対する溶解性)により、コントロールすることができる。
【0031】
前記熱剥離型シートは、シリコンウエハに貼り合わせた後に剥離した際の、シリコンウエハ面上の0.2μm以上のパーティクルの増加量が、シリコンウエハに貼り合わせる前に対して、1000個/6インチウェハ未満であることが好ましく、900個/6インチウェハ未満であることがより好ましく、800個/6インチウェハ未満であることさらに好ましい。シリコンウエハに貼り合わせた後に剥離した際の、シリコンウエハ面上の0.2μm以上のパーティクルの増加量が、シリコンウエハに貼り合わせる前に対して、1000個/6インチウェハ未満であると、剥離後の糊残りを抑制することができる。
【0032】
(熱剥離型シートの製造)
本実施形態に係る熱剥離型シートは、例えば、次の通りにして作製される。先ず、前記ポリアミド酸を含む溶液を作製する。前記ポリアミド酸には、適宜、添加剤が含有しされていてもよい。次に、前記溶液を基材上に所定厚みとなる様に塗布して塗布膜を形成した後、該塗布膜を所定条件下で乾燥させる。前記基材としては、SUS304、6−4アロイ、アルミ箔、銅箔、Ni箔などの金属箔や、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリプロピレンや、フッ素系剥離剤、長鎖アルキルアクリレート系剥離剤等の剥離剤により表面コートされたプラスチックフィルムや紙等が使用可能である。また、塗布方法としては特に限定されず、例えば、ロール塗工、スクリーン塗工、グラビア塗工等が挙げられる。また、乾燥条件としては、例えば乾燥温度50〜150℃、乾燥時間3〜30分間の範囲内で行われる。これにより、本実施形態に係る熱剥離型シートが得られる。
【0033】
前記熱剥離型シートは、前記基材から剥離して使用することができる。また、熱剥離型シートは、支持体に転写して支持体付き熱剥離型シートとしてもよい。また、前記熱剥離型シートは、ポリアミド酸を含む溶液を直接、支持体に塗布して塗布膜を形成した後、該塗布膜を所定条件下で乾燥させて作製してもよい。支持体付き熱剥離型シートとして使用した場合、熱剥離型シート単体での使用よりも剛性が強まるため、被着体の補強の点で好ましい。
【0034】
前記支持体としては、特に限定されないが、シリコンウェハ、SiCウェハ、GaAsウェハ等の化合物ウェハ、ガラスウェハ、SUS、6−4Alloy,Ni箔、Al箔等の金属箔等が挙げられる。平面視で、丸い形状を採用する場合は、シリコンウェハ又はガラスウェハが好ましい。また、平面視で矩形の場合は、SUS板、又は、ガラス板が好ましい。
【0035】
前記支持体は、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用しても良い。前記支持体の厚みは、通常100μm〜20mm程度である。
【0036】
前記熱剥離型シートの用途は、特に限定されないが、例えば、半導体装置の製造工程において使用することができる。より具体的には、例えば、半導体チップを一括樹脂封止する工程や、シリコンチップを貫通する導通スルーホール(TSV)を形成する工程において使用することができる。また、樹脂封止に際して、リードフレームの裏側に貼り付け、樹脂漏れを防止する用途に使用することができる。また、ガラス部材(例えば、レンズ)の加工、カラーフィルター、タッチパネル、パワーモジュールの製造の際にも使用することができる。
【0037】
また、前記熱剥離型シートの用途としては、半導体チップが配線回路基板上に実装された構造を有する半導体装置を製造する用途(例えば、特開2010−141126号公報を参照)としても用いることができる。すなわち、下記半導体装置の製造方法における熱剥離型シートとして用いることができる。
半導体チップが配線回路基板上に実装された構造を有する半導体装置の製造方法であって、
熱剥離型シートを有する支持体を準備する工程と、
前記支持体の前記熱剥離型シート上に、配線回路基板を形成する工程と、
前記配線回路基板に半導体チップを実装する工程と、
前記実装の後、前記熱剥離型シートにおける前記支持体とは反対側の面を界面として、前記支持体を前記熱剥離型シートとともに剥離する工程とを有する半導体装置の製造方法。
【実施例】
【0038】
以下に、この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但し、この実施例に記載されている材料や配合量等は、特に限定的な記載がない限りは、この発明の要旨をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0039】
(実施例1)
窒素気流下の雰囲気において、99.16gのN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)中に、ポリエーテルジアミン(ハインツマン製、D−400、分子量:422.6)10.66g、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(DDE、分子量:200.2)4.13g、及び、ピロメリット酸二無水物(PMDA、分子量:218.1)10.0gを70℃で混合して反応させ、ポリアミック酸溶液Aを得た。室温(23℃)にまで冷却した後、ポリアミック酸溶液Aをスピンコーターで8インチシリコンウエハーのミラー面上に塗布し、90℃で20分乾燥後し、ポリアミック酸付き支持体Aを得た。ポリアミック酸付き支持体Aを、窒素雰囲気下(酸素濃度:100ppm以下)、300℃で4時間熱処理して、厚み30μmのポリイミド皮膜(熱剥離型シート)を形成し、熱剥離型シート付き支持体Aを得た。なお、実施例1に係る熱剥離型シートのイミド化率は、99.9%であった。
【0040】
(実施例2)
窒素気流下の雰囲気において、67.41gのN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)中に、芳香族ジアミンオリゴマー(イハラケミカル社製、エラスマー1000、分子量:1229.7)14.86g、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(DDE、分子量:200.2)6.76g、及び、ピロメリット酸二無水物(PMDA、分子量:218.1)10.0gを70℃で混合し反応させ、ポリアミック酸付き支持体Bを得た。室温(23℃)にまで冷却した後、ポリアミック酸溶液BをSUS箔(厚み38μm)の上に乾燥後の厚みが50μmとなるように塗布し、90℃で20分乾燥後し、ポリアミック酸付き支持体Bを得た。ポリアミック酸付き支持体Bを、窒素雰囲気下(酸素濃度:100ppm以下)、300℃で2時間熱処理して、厚み50μmのポリイミド皮膜(熱剥離型シート)を形成し、熱剥離型シート付き支持体Bを得た。なお、実施例2に係る熱剥離型シートのイミド化率は、90%であった。
【0041】
(実施例3)
窒素気流下の雰囲気において148.87gのN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)中に、ポリエーテルジアミン(ハインツマン製、D−4000、分子量:4023.5)18.98g、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(DDE、分子量:200.2)8.24g、及び、ピロメリット酸二無水物(PMDA、分子量:218.1)10.0gを70℃で混合して反応させ、ポリアミック酸溶液Cを得た。室温(23℃)にまで冷却した後、ポリアミック酸溶液CをSUS箔(厚み38μm)の上に乾燥後の厚みが50μmとなるように塗布し、90℃で20分乾燥後し、ポリアミック酸付き支持体Cを得た。ポリアミック酸付き支持体Cを、窒素雰囲気下(酸素濃度:100ppm以下)、250℃で1.5時間熱処理して、厚み50μmのポリイミド皮膜(熱剥離型シート)を形成し、熱剥離型シート付き支持体Cを得た。なお、実施例3に係る熱剥離型シートのイミド化率は、80.5%であった。
【0042】
(比較例1)
窒素気流下の雰囲気において、364.42gのN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)中に、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(DDE、分子量:200.2)9.18g、及び、ピロメリット酸二無水物(PMDA、分子量:218.1)10.0gを70℃で混合し反応させ、ポリアミック酸溶液Iを得た。室温(23℃)にまで冷却した後、ポリアミック酸溶液Iをスピンコーターで8インチシリコンウエハーのミラー面上に塗布し、90℃で20分乾燥後し、ポリアミック酸付き支持体Iを得た。ポリアミック酸付き支持体Iを、窒素雰囲気下(酸素濃度:100ppm以下)、300℃で2時間熱処理して、厚み30μmのポリイミド皮膜(熱剥離型シート)を形成し、熱剥離型シート付き支持体Iを得た。なお、比較例1に係る熱剥離型シートのイミド化率は、75%であった。
【0043】
実施例、及び、比較例のイミド化率は、1H−NMR(プロトン核磁気共鳴、日本電子製、LA400)を用い、イミド基のピーク強度を測定して求めた。具体的には、熱剥離型シートの製造用溶液(ポリアミド酸を含む溶液)を塗布して乾燥(乾燥条件:90℃で20分間)し、実施例、比較例記載のイミド化条件にてイミド化させる。この状態で、O−Rプロトン由来のピーク面積A(ポリアミド酸のジアミンと酸無水物とが閉環していない状態にあるときのO−Rプロトン由来のピーク面積)とイミド基N−Rプロトン由来のピーク面積B(ポリアミド酸のジアミンと酸無水物とが閉環した状態にあるときのN−Rプロトン由来のピーク面積)を求め、式(2)よりイミド化率(%)を求めた。
式(2):
[(B)/(A+B)]×100(%)
【0044】
(熱硬化率の測定)
SII社製の示差走査熱量計、製品名「DSC6220」を用いて、以下のようにして、熱硬化率を測定した。
実施例、比較例に係る熱剥離型シートの製造用溶液(ポリアミド酸を含む溶液)を塗布して乾燥(条件:90℃で20分間)させた状態ものを用い、室温(23℃)から昇温速度10℃/分の条件で、500℃(熱硬化反応が完全に完了したと想定される温度)まで昇温した際の発熱量(全発熱量)を測定した。また、実施例、比較例に係る熱剥離型シートとしての製造が完了したものを用い、室温(23℃)から昇温速度10℃/分の条件で、500℃(熱硬化反応が完全に完了したと想定される温度)まで昇温した際の発熱量(熱剥離型シート製造後からの発熱量)を測定した。その後、以下の式(1)により熱硬化率を得た。
式(1):
[1−((熱剥離型シート製造後からの発熱量)/(全発熱量))]×100(%)
なお、発熱量は、示差走査熱量計にて測定される反応発熱ピーク温度の±5℃の温度範囲における反応発熱量を用いる。
結果を表1に示す。
【0045】
(シリコンウエハに対する剪断接着力の測定)
支持体(シリコンウエハー、SUS箔、又は、ガラスウエハー)上に形成した熱剥離型シート上に、5mm角(厚さ500μm)のシリコンウェハチップをのせ、60℃、10mm/sの条件にてラミネートした後、せん断試験機(Dage社製、Dage4000)を用いて、熱剥離型シートとシリコンウェハチップとのせん断接着力を測定した。せん断試験の条件は、以下の2通りとした。結果を表1に示す。
<せん断試験の条件1>
ステージ温度:200℃
ステージに保持してからせん断接着力測定開始までの時間:1分
測定速度:500μm/s
測定ギャップ:100μm
<せん断試験の条件2>
ステージ温度:260℃
ステージに保持してからせん断接着力測定開始までの時間:3分
測定速度:500μm/s
測定ギャップ:100μm
【0046】
(水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液へ浸漬した際の重量減少率の測定)
まず、実施例、及び、比較例に係る熱剥離型シート付き支持体から、支持体を剥離した。次に、剥離した熱剥離型シートを100mm角に切り出し、その重量を測定した。次に、23℃の3重量%の水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液(TMAH)に5分浸漬した。水洗を十分に行った後、150℃で30分間、乾燥を行った。その後、重量を測定し、浸漬後の重量とした。
重量減少率は、下記式により求めた。結果を表1に示す。
(重量減少率(重量%))=[1−((浸漬後の重量)/(浸漬前の重量))]×100
【0047】
(糊残り評価)
まず、実施例、及び、比較例に係る熱剥離型シート付き支持体から、支持体を剥離した。次に、直径6インチサイズに実施例、及び、比較例の熱剥離型シートを加工し、直径8インチのウェハに、60℃、10mm/sの条件にてラミネートした。その後、1分間放置し、剥離した。パーティクルカウンター(SFS6200、KLA製)を用い、直径8インチウェハの面上の0.2μm以上のパーティクル数を測定した。また、ラミネート前と比較して、剥離後のパーティクル増加量が1000個/6インチウェハ未満である場合を○、1000個/6インチウェハ以上である場合を×として評価した。結果を表1に示す。
【0048】
(剥離温度)
実施例、及び、比較例に係る熱剥離型シートについて、30mm角の大きさとし、その熱剥離型シートの上に、10mm角(厚さ:2mm)のガラスをラミネータを用いて貼りつけた。このサンプルを用いて、山陽精工製の高温度観察装置、(製品名:SK−5000)にて、昇温速度:4℃/分、測定温度:20〜350℃の条件で加温し、ガラスが熱剥離型シートから剥離する温度を確認した。結果を表1に示す。
【0049】
(ガス目視温度)
実施例、及び、比較例に係る熱剥離型シートについて、30mm角の大きさとし、その熱剥離型シートの上に、10mm角(厚さ:2mm)のガラスをラミネータを用いて貼りつけた。このサンプルを用いて、山陽精工製の高温度観察装置、(製品名:SK−5000)にて、昇温速度:4℃/分、測定温度:20〜350℃の条件で加温し、白煙が発生する温度を確認した。結果を表1に示す。
【0050】
(ダイナミック硬さ)
実施例に係る熱剥離型シートについて、島津製作所製の硬度計(製品名:DUH−210)、圧子(商品名:Triangular115、株式会社島津製作所製)を用い、荷重0.5mNにて負荷-除荷試験を行い、ダイナミック硬さの測定を行なった。結果を表1に示す。
【0051】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化率が80%以上であることを特徴とする熱剥離型シート。
【請求項2】
ポリイミド樹脂を含み、
イミド化率が80%以上であることを特徴とする熱剥離型シート。

【公開番号】特開2013−100451(P2013−100451A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−143320(P2012−143320)
【出願日】平成24年6月26日(2012.6.26)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】