説明

熱間プレス加工装置及び熱間プレス加工方法

【課題】充分な加圧力を提供して、高精度な加工がなされたプレス加工品を得ることができ、しかも加熱された金属板材に対し、切除加工及び焼入れを一連の工程として短時間で効率的に施すことが可能な熱間プレス加工装置及び熱間プレス加工方法を提供する。
【解決手段】熱間プレス加工装置は、下型基体12及び上型基体13と、サーボモータ11と、上型基体13に対し接近離間方向に移動可能に支持された上型3と、下型基体12に支持された下型2と、金属板材の切除加工手段とを備えている。上型基体13は更に、バックサポート部9と、可動スペーサ5とを備えている。可動スペーサ5は、可動スペーサ駆動手段6によって、バックサポート部9と上型3との間に介在する介在位置とバックサポート部9と上型3との間から離脱した離脱位置との間で切替え配置される。可動スペーサが介在位置に配置されるとき、上型3は上型基体13に向けて後退不能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱されて高温の状態となった金属板材に対して、プレス成形、切除加工及び焼入れを一連の工程として施すための、熱間プレス加工装置及び熱間プレス加工方法に関する。特に、鋼板に充分な加圧力を加えて高い精度で加工することが可能な、熱間プレス加工装置及び熱間プレス加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属加工の分野で、出発材となる金属板材をその焼入温度まで加熱し、高温状態にある金属板材を相対的に低温の金型でプレスすることにより、プレス成形と型冷却による焼入れとを同時に行うホットプレス加工法(熱間プレス加工法)が知られている。但し多くの場合、単純な熱間プレス加工だけで所望形状の金属製品が得られるわけではないので、熱間プレス加工で得られた一次成形品に対しトリミングや孔あけ等の機械的な切除加工を施して最終製品を得るのが一般的であった。このため、実質的には一次成型と最終加工のための異なる加工手段が必要となっており、工程間の搬送時間も含めて加工に要する時間が長くなっていた。またプレス成形後の切除加工は、プレス成形と同時の焼入れによって硬度を増した一次成形品に対するものであったため、トリム刃等の切除加工具が非常に傷み易く、切除加工具の寿命が短縮傾向にあるという問題があった。
【0003】
ホットプレス加工における工具短命化の問題を解決するための対策として、特許文献1は鋼材のホットプレス加工方法及び装置を開示する。特許文献1の加工装置では、上型(可動型)に対向する下型をダイクッションで浮動支持することにより、型合わせ後も上下両型を幾分の相対移動可能に構成すると共に、下型の側に切除加工手段としての加工刃(22)及びトリム刃(26)を設けている。そして、ホットプレス加工に際しては、焼入温度まで加熱された鋼材を上下型でプレスする過程において、加工刃及びトリム刃による穿孔及びトリミングを同時進行的に施すと共に、その穿孔等の後で、上型がダイクッションの反発力に抗して下型を押圧し、ダイクッションが縮みきった位置で上型が下型を押圧し続けて鋼材を急冷することにより、切除加工直後の鋼材に対して焼入れを施している。特許文献1の加工方法によれば、上下型間に挟まれた高温の鋼材が、本格的な焼入れを受ける前の実質的に未硬化な状態で穿孔及びトリミングを施されるため、加工刃及びトリム刃の負担を軽減してこれら切除加工具の寿命の大幅短縮を防止できる、とのことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−248253号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のホットプレス加工装置及び方法は、大型の金属板材に対する成型や、複雑な形状を成形する場合には適さない可能性がある。なぜなら、特許文献1のホットプレス加工装置は、下型がダイクッションで支持されているために、プレス加工する初期の段階で、ダイクッションの伸縮に伴って、下型の保持力が弱くなる場合がある。寸法の小さな金属板材を加工するときには、下型の保持力が短時間低下したとしても、大きな問題とならないことが多い。しかしながら、より大型の金型を用いて大型の金属板材を加工する場合や、複雑な形状を加工する場合、下型の保持力の低下が、加圧力の低下の原因となる場合がある。つまり、特許文献1に開示されるダイクッションを備えたホットプレス加工装置及びこの装置を用いたホットプレス加工方法は、より大型の金属板材のプレス成形や、より複雑な形状のプレス加工を行う場合に必要な加工精度が得られない恐れがある。
【0006】
本発明の目的は、大型の金属板材をプレス加工する場合、又は複雑な形状をプレス加工する場合であっても、充分な加圧力を提供して、高精度な加工がなされたプレス加工品を得ることのできる熱間プレス加工装置及び熱間プレス加工方法を提供することにある。そして、加熱された金属板材に対し、切除加工及び焼入れを一連の工程として短時間で効率的に施すことが可能な熱間プレス加工装置及び熱間プレス加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の熱間プレス加工装置は、加熱された金属板材を型締めしてプレス加工する熱間プレス加工装置であって、相対接近離間可能に設けられた第1の基体及び第2の基体と、前記第1及び第2の基体の少なくとも一方を駆動するための基体駆動手段と、前記第1の基体に対し両基体の接近離間方向に移動可能に支持された第1の金型と、前記第2の基体に支持された第2の金型と、前記第1の基体に固定的に設けられたバックサポート部と、前記バックサポート部と前記第1の金型との間に介在可能な可動スペーサと、前記可動スペーサを、それが前記バックサポート部と前記第1の金型との間に介在する介在位置と、前記バックサポート部と前記第1の金型との間から離脱した離脱位置の二位置間で切替え配置するための可動スペーサ駆動手段とを備えている。本発明の熱間プレス加工装置は、前記可動スペーサが前記介在位置に配置されるとき、前記第1の金型は前記第1の基体に向けて後退不能となり、前記第1及び第2の基体の少なくとも一方には、前記可動スペーサが前記離脱位置に配置された状態で両基体が相対接近するときに、両金型間に保持された金属板材に対して切除加工を施すための切除加工手段が設けられていることを特徴とする。
【0008】
本発明の熱間プレス加工装置は、可動スペーサが介在位置にあることで第1の金型が第1の基体に向けて後退不能となり、両基体の相対接近に伴う両金型の型締め時に、加圧力が金属板材に対して確実に伝わり、プレス成形(付形)を正確且つ確実に行うことができる。他方で、型締め後に可動スペーサを介在位置から離脱位置に切替えることで、バックサポート部と第1の金型との間に隙間ができ、第1の金型は第1の基体に向けて後退可能になる。基体駆動手段は、この隙間を解消するように、両基体を更に相対接近させることにより焼入れ途中の金属板材に対して切除加工手段による切除加工を施すことができる。つまり、可動スペーサの介在位置から離脱位置への切替えに伴って、強い加圧力による型締めとその直後の切除加工とを一連の工程として迅速に遂行することができる。
【0009】
より好ましくは、本発明の熱間プレス加工装置の基体駆動手段は、サーボモータを具備している。本明細書において「サーボモータ」とは、金型を支持する基体の位置(往復移動範囲における上死点・下死点間の任意の位置)、移動方向および移動速度等を制御可能なサーボアクチュエータ(servo actuator)を意味するものであり、具体例として、ACサーボモータ、DCサーボモータ、ステッピングモータを例示することができる。
【0010】
本発明の熱間プレス加工方法は、相対接近離間可能に設けられた第1の基体及び第2の基体と、前記基体駆動手段と、前記第1の金型及び前記第2の金型と、前記バックサポート部と、前記可動スペーサと、前記可動スペーサ駆動手段と、を備えた熱間プレス加工装置を用いた熱間プレス加工方法である。本発明の熱間プレス加工方法は、離間した前記第1及び第2の金型間に加熱された金属板材を配置する工程と、前記可動スペーサが前記バックサポート部と前記第1の金型との間に介在する介在位置に配置された状態で前記第1及び第2の基体を相対接近させ、前記第1及び第2の金型で金属板材を型締めする工程と、前記型締め後に前記可動スペーサを介在位置から離脱位置に切替える工程と、前記可動スペーサが前記バックサポート部と前記第1の金型との間から離脱した離脱位置に配置された状態で前記第1及び第2の基体を更に相対接近させ、両金型間に保持された金属板材に対する焼入れが完了する前に、前記切除加工手段で当該焼入れ途中の金属板材に対して切除加工を施す工程と、を順次実行することを特徴とする。
【0011】
本発明の熱間プレス加工方法は、可動スペーサが介在位置に配置された状態で第1及び第2の金型で金属板材を型締めすることで、第1の金型が第1の基体に向けて後退不能となり、両基体の相対接近に伴う両金型の型締め時に、加圧力が金属板材に対して確実に伝わり、プレス成形(付形)を正確且つ確実に行うことができる。次に、可動スペーサをバックサポート部と第1の金型との間から離脱位置に離脱させることで、バックサポート部と第1の金型との間に隙間ができ、第1の金型が第1の基体に向けて後退可能になる。基体駆動手段は、この隙間を解消するように第1及び第2の基体を更に相対接近させて、両金型間に保持された金属板材に対する焼入れが完了する前に、前記切除加工手段で当該焼入れ途中の金属板材に対して切除加工を施す。つまり、可動スペーサを介在位置から離脱位置に切替えた後に、基体駆動手段が強い加圧力による型締めとその直後の切除加工とを一連の工程として迅速に遂行することができる。
【0012】
より好ましくは、本発明の熱間プレス加工方法は、前記可動スペーサを介在位置から離脱位置に切替えるに先立ち、前記第1及び第2の基体を僅かに相対離間させる工程を備えている。この僅かな相対離間により、バックサポート部と第1の金型とによる可動スペーサの高圧挟着状態を解消して、可動スペーサの介在位置からの離脱を容易にする。
【発明の効果】
【0013】
以上詳述したように本発明の熱間プレス加工装置及び熱間プレス加工方法によれば、大型の金属板材をプレス加工する場合、又は複雑な形状をプレス加工する場合であっても、充分な加圧力を提供して、高精度な加工がなされたプレス加工品を得ることのできる熱間プレス加工装置及び熱間プレス方法を提供することができる。そして、加熱された金属板材に対し、切除加工及び焼入れを一連の工程として短時間で効率的に施すことが可能な熱間プレス加工装置及び熱間プレス加工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】一実施形態に従う熱間プレス加工装置の概略を示す正面図。
【図2】熱間プレス加工装置によるプレス成形工程を示す正面図。
【図3】熱間プレス加工装置の可動スペーサが離脱位置に切替えられた状態を示す正面図。
【図4】熱間プレス加工装置の切除加工手段によって金属板材を切除する工程を示す正面図。
【図5】サーボモータの回転角度と上型基体との位置の関係を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1に示すように、本実施形態の熱間プレス加工装置は、固定土台である下型基体12と、その下型基体12の上方に配設された上型基体13とを備えている。上型基体13は、サーボモータ11によって垂直方向(図1に示される上下方向)に移動可能に支持されており、下型基体12に対して接近及び離間可能となっている。
【0016】
下型基体12の上には、第1の型又は固定型としての下型2が固定設置されている。この下型2は、中央の領域に、上方に向かって開口している窪みを有しており、その窪みが中央ダイ部21として機能している。中央ダイ部21を間に挟んで、中央ダイ部21の左右には、ほぼ同一形状で中央ダイ部21の側壁となる外側凸部22が形成されており、下型2は全体として凹の横断面形状を有している。左右の外側凸部22は下型2の一部をなすものであり、各外側凸部22には水平な上面22a及び垂直な外側面22bがそれぞれ形成されている。下型2の各外側凸部22に形成されている水平な上面22aは、プレス成形時に、中央ダイ部21と共にワーク(加工対象物)としての金属板材1を押圧して金属板材1のプレス成形に関与する付形用の押圧表面である。他方、各外側凸部22に形成されている垂直な外側面22bは、水平上面22aとの間の端辺に下刃4Bが形成されており、以下に述べる上型3側の上刃4と協働して金属板材1の左右端部のトリム加工にかかわる切除加工手段の構成要素として機能する。
【0017】
上型基体13の下側には、第2の型又は可動型としての上型3が、上型基体13に対し垂直方向に相対移動可能に連結支持されている。上型基体13の内部には上型3と対向する位置に、バックサポート部9と可動スペーサ5とが配置されている。バックサポート部9は、上型基体13の上面に固定されており、常時上型基体13と一体で移動する。可動スペーサ5は、可動スペーサ駆動手段6によって、上型3とバックサポート部9との間に介在する介在位置(図1、2参照)と、バックサポート部9と上型3との間から離脱した離脱位置(図3、4参照)の二位置間を移動可能に構成されている。
【0018】
図1に示される可動スペーサ5は、可動スペーサ駆動手段6(例えば駆動シリンダ)によって、上型3とバックサポート部9との間に介在する介在位置に配置されている。一方で、上型3の上部には、ピン10が上型3と一体化するように設けられており、可動スペーサ5が介在位置にあるときには、上型基体13とバックサポート部9と可動スペーサ5とピン10と上型3とが垂直方向において隙間なく配置されるために、上型3は上型基体13に向けて後退不能となる。一方で、図3に示される可動スペーサ5は、可動スペーサ駆動手段6によって水平方向に移動しており、バックサポート部9とピン10の両方に干渉しない離脱位置に再配置されている。このように可動スペーサ5が離脱位置にあるときには、バックサポート部9とピン10との間に隙間ができ、サーボモータ11によって上型3は上型基体13に向けて後退可能となる。
【0019】
図1に示すように、上型3は、中央の領域が下面側に向かって突出している中央凸部31を有している。中央凸部31の左右には、水平な面を有するほぼ同一形状の外周平坦部32が配置されており、上型3は全体として下に凸の横断面形状を有している。上型3の一方の外周平坦部32の水平面から中央凸部31の外周を経て他方の外周平坦部32に至る縦断面の形状は、下型2の一方の外側凸部22の水平な上面22aから中央ダイ部21を経て他方の外側凸部22の水平な上面22aに至る縦断面と相補的な形状となるように形成されている。つまり上型3の外周平坦部32に形成されている水平面は、プレス成形時に、中央凸部31と共に金属板材1を押圧して、金属板材1のプレス成形に関与する付形用の押圧表面として機能する。
【0020】
図1に示すように、上型基体13の下側には更に、切除加工具の構成要素としての左右一対の上刃4が設けられている。両上刃4は上型基体13に固定されているため、上型基体13と共に駆動手段のサーボモータ11によって、下型基体12及び下型2に対し接近及び離間可能である。一方で、上型3は、上型基体13の内部に配置されている可動スペーサ5の位置の変化によって上型基体13に対する垂直方向の相対移動が可能であるために、両上刃4は、上型3の外周の側面32bに沿って垂直方向に相対移動する。
【0021】
上型基体13は、駆動手段のサーボモータ11によって、下型基体12に対する上昇と下降の移動量、即ち垂直方向の移動量が制御されて、上死点と下死点の間の任意の位置に停止することが可能である。本実施形態におけるサーボモータ11は、ACサーボモータ、DCサーボモータ、ステッピングモータのいずれかが適用される。
【0022】
図2に示すように、可動スペーサ5が介在位置にある状態で、下型2と上型3とが接合又は最接近するように上型基体13が移動した状態では、下型2の中央ダイ部21に対して上型3の中央凸部31が嵌合すると共に、下型2の左右の外側凸部22の上面22aに対して上型3の左右の外周平坦部32の水平面がそれぞれ当接することができる。このとき、上型基体13とバックサポート部9と可動スペーサ5とピン10と上型3とは垂直方向において隙間なく配置されている。つまり上型3は可動スペーサ5によって垂直方向の上昇が阻止されているために、上型基体13に向けた更なる後退が不可能である。このように可動スペーサ5が介在位置にある状態で下型2と上型3との間で金属板材1が型締めされている時には、加圧力が金属板材1に対して確実に伝わり、プレス成形(付形)を正確且つ確実に行うことができる。また、上型3の左右に配置されている上刃4は、可動スペーサ5の介在によってその下端が上型3の外周平坦部32よりも上方となるような相対位置に保持される。このため、下型2の外側凸部22に形成されている下刃4Bとは接触しない。
【0023】
一方、図4に示すように、可動スペーサ5が離脱位置にあり、且つ下型2と上型3とが接合又は最接近するように上型基体13が移動した場合には、バックサポート部9とピン10との間に可動スペーサ5の垂直方向の厚みに相当する隙間が予め形成されていることから、上型3が上型基体13に向けて更に後退可能であるために、下型基体12と上型基体13とが更に相対接近することができる。この結果、上型3の左右に配置されている上刃4は、その下端が上型3の外周平坦部32よりも下方となるような相対位置まで下降することができる。上刃4は、下型2の外側凸部22の外側面22bを摺動する場合、下刃4Bと協働して、下型2と上型3との間に挟圧されて保持された金属板材1の左右端部(切除対象部位)に対し、下型2の外側凸部22の外側面22bに沿ったトリム加工(具体的には垂直切断)を施すための切除加工を施して摺動することができる。
【0024】
次に、鉄製の高張力鋼板である金属板材1を熱間プレス加工して、その左右端部を切除加工する場合について、実施形態の熱間プレス加工装置を用いた加工方法を、図1乃至図5を参照しながら説明する。
【0025】
熱間プレス加工の開始に先立ち、上型3の内部の可動スペーサ5は、図1に示すように、可動スペーサ駆動手段6によってバックサポート部9と上型3に一体化したピン10との間に介在する介在位置に配置される。サーボモータ11は、下型2から上型3を離間させ、上型基体13、上刃4及び上型3を上方に待機させておく。次に、金属板材1を図示しない加熱装置で850〜1050℃の温度に加熱して、高温状態にある金属板材1を加熱装置から熱間プレス加工装置に高速搬送し、図1に示すように、下型2の外周凸部22上に載置することで下型2及び上型3間に配置する。金属板材1の配置完了後間髪を入れず上型基体13を下動させて下型基体12に相対接近させ、図2に示すように、下型2及び上型3で金属板材1を挟圧することにより、金属板材1をプレス成形する。このとき上型3は、バックサポート部9とピン10との間に可動スペーサ5が介在することによって上型基体13にむけた更なる後退が不可能となっている。このために、上型3からの加圧力は金属板材1に対して確実に伝えられている。また上型3の左右に配置されている上刃4の刃面の垂直方向の位置は、上型3の外周平坦部32の垂直方向の位置よりも高く保持される。プレス成型時に、上刃4と下型2の外側凸部22に形成されている下刃4Bとは接触しない。
【0026】
このプレス成形工程での上下型の付形作用により、金属板材1は下型2及び上型3の接合時形状に応じた所定形状にプレス成形される。そして、下型2及び上型3によって押圧されている金属板材1には、プレス成形と同時に焼入れが施される。これに対し、挟圧されている金属板材1の左右端部(即ち切除対象部位)付近では、顕著な温度低下が無いために焼きが入らない。それ故この段階では、金属板材1の下型2及び上型3に挟圧されている部位は左右端部に先行して焼入れによる硬化が始まるが、金属板材1の左右端部は600℃以上の温度を保っており硬化は始まらない。
【0027】
続いて、可動スペーサ駆動手段6は、図3に示すように可動スペーサ5を介在位置から離脱位置に移動させる。これに先だって、サーボモータ11は、上型3を図3の矢印Aで示される方向に移動させ、下型2から僅かに相対離間させる。これにより、可動スペーサ駆動手段6は、より小さな駆動力によって迅速に可動スペーサ5を離脱位置に切替えることができる。可動スペーサ5が離脱位置に移動したことで、上型基体13と一体的に移動可能なバックサポート部9と、上型3と一体的に形成されているピン10との間には、可動スペーサ5の垂直方向の厚みに相当する隙間が形成されている。
【0028】
可動スペーサ5の離脱位置への移動が完了すると、サーボモータ11は、上型基体13を図4の矢印Bの方向に下降させて、上型基体13を下型基体12に更に相対接近させる。上型基体13と上型3との間には可動スペーサ5の移動に伴う垂直方向の隙間が形成されているために、上型3は上型基体13に対して更なる後退が可能であり、結果的に上型3の下型2に対する相対位置を変化させることなく上型基体13と下型基体12を更に相対接近させることができる。図4に示すように、上刃4は、下型2の外側凸部22の外側面22bを摺動するにあたり、下刃4Bと協働して、下型2と上型3との間に挟圧されて保持された金属板材1の左右端部に対して、外側凸部22の外側面22bに沿ったトリム加工を施す。このようにして、下型2と上型3の間に保持された金属板材1は、焼入れが完了する前に、上刃4と下刃4Bとからなる切除加工手段によって、切除加工が迅速に施される。
【0029】
上記実施形態に示した熱間プレス加工方法において、サーボモータ11が行った上型基体3の具体的な駆動内容について、図5を用いて説明する。図5には、サーボモータ11の回転角度とこれに対応する上型基体3の位置関係を模式的に示している。図5(a)は、上型3が下型2から離間するように上型基体13を上死点で保持している時の、サーボモータ11の回転角度と下型基体12に対する上型基体13の相対位置を示している。サーボモータ11の回転角度は0°である。図5(b)は、可動スペーサ5が介在位置にある場合に、下型2及び上型3で金属板材1を挟圧しプレス加工を開始した時の、サーボモータ11の回転角度と下型基体12に対する上型基体13の相対位置を示している。プレス加工開始時のサーボモータ11の回転角度は、時計回りで160°〜170°回転するように制御されている。図5(c)は、可動スペーサ5を離脱位置に移動させる前に上型基体13を下型基体12からわずかに離間させる時の、サーボモータ11の回転角度と下型基体12に対する上型基体13の相対位置を示している。サーボモータ11の回転角度は、プレス開始時に対して反時計回りで1〜2°戻されて静止する。図5(d)は、可動スペーサ5が離脱位置にあって、金属板材1の切除加工を行う時の、上型基体13を下死点まで移動させるときのサーボモータ11の回転角度と下型基体12に対する上型基体13の相対位置を示している。サーボモータ11の回転角度は、180°回転している。このように本実施形態におけるサーボモータ11は、上型基体13を移動範囲の上死点に保持する時にその回転角度が0°となり、上型基体13を移動範囲の下死点に保持する時にその回転角度が180°となるように構成されている。サーボモータ11を基体駆動手段として用いることで、上型基体13の上昇と下降の速度を任意に制御し、しかも所定の位置で正確に停止させて保持することができる。なお、本実施形態の熱間プレス加工装置は、上型3を保持する上型基体13がサーボモータ11によって上死点・下死点間の任意の位置に配置可能であることから、「サーボプレス機」に分類されるものである。
【0030】
このように本実施形態の熱間プレス加工装置によれば、可動スペーサ5と可動スペーサ駆動手段とを備えることで、プレス加工時の加圧力を金属板材1に対して確実に伝えて、プレス成形(付形)を正確且つ確実に行うことができる。しかも、サーボモータ11の駆動による独自の熱間プレス加工方法を採用することにより、加熱された金属板材に対し、切除加工及び焼入れを一連の工程として短時間で効率的に施すことが可能である。
【0031】
[変更例]上記実施形態では、上型3の側に上刃4を設けたが、下型2の側に同様のトリム刃を設けてもよい。また、切除加工具として上刃4と下刃4Bを使用する熱間プレス加工装置及び方法を説明したが、切除加工具として孔あけ加工用のパンチ又はピアスを使用する熱間プレス加工装置及び方法に本発明を適用することもできる。
【0032】
[変更例]上記実施形態では、第1の基体として上型基体を移動可能に構成し、第2の基体として下型基体を固定した構成について説明したが、基体の配置及び移動形態は相対的なものであり、その上下左右の位置関係或いは、移動と固定の態様を適宜交換することができる。
【符号の説明】
【0033】
1…金属板材、2…下型、3…上型、4…上刃(切除加工手段)、4B…下刃(切除加工手段)、5…可動スペーサ、6…可動スペーサ駆動手段、9…バックサポート部、10…ピン、11…サーボモータ(基体駆動手段)、12下型基体、13…上型基体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱された金属板材を型締めしてプレス加工する熱間プレス加工装置であって、
相対接近離間可能に設けられた第1の基体及び第2の基体と、
前記第1及び第2の基体の少なくとも一方を駆動するための基体駆動手段と、
前記第1の基体に対し両基体の接近離間方向に移動可能に支持された第1の金型と、
前記第2の基体に支持された第2の金型と、
前記第1の基体に固定的に設けられたバックサポート部と、
前記バックサポート部と前記第1の金型との間に介在可能な可動スペーサと、
前記可動スペーサを、それが前記バックサポート部と前記第1の金型との間に介在する介在位置と、前記バックサポート部と前記第1の金型との間から離脱した離脱位置の二位置間で切替え配置するための可動スペーサ駆動手段とを備え、
前記可動スペーサが前記介在位置に配置されるとき、前記第1の金型は前記第1の基体に向けて後退不能となり、
前記第1及び第2の基体の少なくとも一方には、前記可動スペーサが前記離脱位置に配置された状態で両基体が相対接近するときに、両金型間に保持された金属板材に対して切除加工を施すための切除加工手段が設けられている、
ことを特徴とする熱間プレス加工装置。
【請求項2】
前記基体駆動手段はサーボモータを具備することを特徴とする請求項1に記載の熱間プレス加工装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の装置を用いた熱間プレス加工方法であって、
離間した前記第1及び第2の金型間に加熱された金属板材を配置する工程と、
前記可動スペーサが前記バックサポート部と前記第1の金型との間に介在する介在位置に配置された状態で前記第1及び第2の基体を相対接近させ、前記第1及び第2の金型で金属板材を型締めする工程と、
前記型締め後に前記可動スペーサを介在位置から離脱位置に切替える工程と、
前記可動スペーサが前記バックサポート部と前記第1の金型との間から離脱した離脱位置に配置された状態で前記第1及び第2の基体を更に相対接近させ、両金型間に保持された金属板材に対する焼入れが完了する前に、前記切除加工手段で当該焼入れ途中の金属板材に対して切除加工を施す工程と、
を順次実行することを特徴とする熱間プレス加工方法。
【請求項4】
前記可動スペーサを介在位置から離脱位置に切替えるに先立ち、前記第1及び第2の基体を僅かに相対離間させる、ことを特徴とする請求項3に記載の熱間プレス加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−92946(P2011−92946A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246220(P2009−246220)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(000100805)アイシン高丘株式会社 (202)