説明

燃料電池およびその運転方法

【課題】燃料電池において、温度が過度に低い領域が生じることによる性能低下を抑制する。
【解決手段】実施形態によれば、冷却溶媒流路9b、10bを、燃料極セパレータ9および/または酸化剤極セパレータ10の燃料極2および/または酸化剤極3を積層する領域に配置すると共に、前記燃料極2または酸化剤極3を積層する領域の外側であって前記ガス出口マニホールドおよび/または前記ガス入口マニホールドの周囲の少なくとも一部にも配置した燃料電池が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、燃料電池およびその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムは、水素等の燃料と空気等の酸化剤を電気化学的に反応させることにより、燃料の持つ化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換して外部へ取り出す発電装置である。この燃料電池システムは、比較的小型であるにもかかわらず高効率で、環境性に優れている。また、発電に伴う発熱を温水や蒸気として回収することにより、コージェネレーションシステムとしての適用も可能である。従って、業務用(工場、病院等)、一般家庭用、自動車用など、幅広い用途への採用が期待されている。
【0003】
燃料電池は一般的に、発電反応を行うと共に、冷却溶媒を流すことにより発電反応で生じた熱を回収し、温度を最適に維持する。冷却溶媒は、冷却溶媒流路を流れながらその周辺部の熱を回収していくため、冷却溶媒流路の下流を流れる冷却溶媒の温度は上流を流れる冷却溶媒の温度よりも高くなる。従って、燃料電池において、冷却溶媒流路の上流側に位置する領域は比較的温度が低く、下流側に位置する領域は比較的温度が高いという温度分布が形成される。燃料電池において温度が過度に低い領域が生じると、その領域における発電反応の速度が低下し、燃料電池全体の性能が低下するという問題が生じる。
【0004】
炭化水素系燃料を原燃料として使用する燃料電池システムでは、水蒸気を用いた改質反応により原燃料を水素リッチガスに改質し、得られた改質ガスを燃料電池に導入することで発電する。この改質ガスには一酸化炭素(以下、COとも称する)が含まれるが、COが燃料極内の金属粒子に吸着すると、燃料電池の出力が大幅に低下するという問題が生じる。このCOによる燃料電池の出力低下は、燃料電池の運転温度に依存し、燃料電池の運転温度が低い方がCOによる出力低下が顕著となることが知られている。
【0005】
上記のような問題を解決するために、燃料電池において温度が過度に低い領域が生じるのを防ぐための種々の工夫がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−47395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、燃料電池において、温度が過度に低い領域が生じることによる性能低下を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態によれば、燃料極と、酸化剤極と、前記燃料極と前記酸化剤極との間に配置された高分子電解質膜と、前記燃料極および前記酸化剤極の外側にそれぞれ配置された燃料極セパレータおよび酸化剤極セパレータと、燃料電池から排出されるガスを回収するガス出口マニホールドと、燃料電池にガスを供給するガス入口マニホールドとを具備する燃料電池が提供される。前記燃料極セパレータおよび前記酸化剤極セパレータの少なくとも一方は、冷却溶媒を流す冷却溶媒流路を具備し、前記冷却溶媒流路は、前記燃料極セパレータおよび/または酸化剤極セパレータの前記燃料極および/または酸化剤極を積層する領域に配置されると共に、前記燃料極または酸化剤極を積層する領域の外側であって前記ガス出口マニホールドおよび/または前記ガス入口マニホールドの周囲の少なくとも一部にも配置される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施形態に係る燃料電池の断面図である。
【図2】第1の実施形態に係るセパレータの平面概略図である。
【図3】燃料電池スタックにおける燃料ガス、酸化剤ガスおよび冷却溶媒の流れを示す概念図である。
【図4】第1の実施形態に係るセパレータの第1変形例を示す平面概略図である。
【図5】第1の実施形態に係るセパレータの第2変形例を示す平面概略図である。
【図6】第1の実施形態に係るセパレータの第3変形例を示す平面概略図である。
【図7】第2の実施形態に係るセパレータの平面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、実施形態に係る燃料電池の断面図である。
【0011】
燃料電池1は、高分子電解質膜4の両面に燃料極2および酸化剤極3を接合した膜電極接合体を、燃料極セパレータ9および酸化剤極セパレータ10でそれぞれ挟持した構造を有する。燃料電池1は、さらに、セパレータ9,10を貫通して燃料電池1の発電部の外側に配置されたガス入口マニホールド11,13およびガス出口マニホールド12,14を有する。
【0012】
燃料極2は、電解質膜4と接する側から、燃料極触媒層5、燃料極拡散層6をこの順番に積層したものからなる。一方、酸化剤極3は、電解質膜4と接する側から、酸化剤極触媒層7、酸化剤極拡散層8をこの順番に積層したものからなる。燃料極2および酸化剤極3の周囲には、燃料極ガスケット18および酸化剤極ガスケット19をそれぞれ設け、燃料極2および酸化剤極3内のガスと外部のガスとの混合を遮断する。
【0013】
実際に発電を行う際には、一般的に、単電池である燃料電池1を厚み方向に複数個積層して燃料電池スタックとしたものを使用する。そのため、ガス入口マニホールド11,13およびガス出口マニホールド12,14は、複数の単電池に渡って燃料極セパレータ9および酸化剤極セパレータ10を貫通して配置される。
【0014】
燃料極セパレータ9には、燃料極2と接する面に燃料ガスを導入する燃料ガス流路9aが設けられ、その反対側の面には冷却溶媒が通過する冷却溶媒流路9bが設けられている。酸化剤極セパレータ10には、酸化剤極3と接する面に酸化剤ガスを導入する酸化剤ガス流路10aが設けられ、その反対側の面には冷却溶媒が通過する冷却溶媒流路10bが設けられている。図1では、燃料極セパレータ9および酸化剤極セパレータ10の両方に冷却溶媒流路が設けられているが、冷却溶媒流路は、燃料極セパレータ9および酸化剤極セパレータ10のいずれか一方に設けられてもよい。
【0015】
燃料電池1において、燃料極セパレータ9の燃料ガス流路9aからは、燃料ガスが導入され、燃料ガスは燃料極拡散層6内を拡散し、燃料極触媒層5に到達する。燃料極触媒層5では、燃料ガス中の水素の酸化反応により、プロトンと電子が生成する。一方、酸化剤極セパレータ10の酸化剤ガス流路10aからは、酸化剤としての空気が導入され、空気は酸化剤極拡散層8内を拡散し、酸化剤極触媒層7に到達する。酸化剤極触媒層7では、空気中の酸素の還元反応が起こり、燃料極触媒層5から供給されるプロトンおよび電子との反応により、水が生成する。
【0016】
以下、上記燃料電池におけるセパレータについて、図2を参照しながら説明する。図2は、第1の実施形態に係るセパレータの平面概略図である。以下の図2〜図7においては、図示されているセパレータが燃料極セパレータであるものとして説明するが、燃料極セパレータに限定されるものではなく、酸化剤極セパレータおよび燃料極セパレータの少なくとも一方がこのような構造であればよい。
【0017】
セパレータは、各単電池を直列に電気的に接続する機能に加え、燃料ガス、酸化剤ガスおよび冷媒といった流体を流す機能、さらには燃料電池スタックの機械的強度を維持する機能も有する。また、セパレータを通って流通する燃料ガス(または酸化剤ガス)と、そのセパレータを介して隣接して配置された他のセルのセパレータを通って流通する酸化剤ガス(または燃料ガス)とが、セパレータを貫通して混合することを防止する反応ガス遮断機能も有している。さらに、セパレータに設けられた冷媒体流路を介して冷媒体を流すことにより、セル発電に伴う発熱を除去することもできる。セパレータの材料は、導電性を有していれば特に限定されない。
【0018】
燃料極セパレータ9の電極積層領域17の周囲には、燃料ガス入口マニホールド11、燃料ガス出口マニホールド12、酸化剤ガス入口マニホールド13および酸化剤ガス出口マニホールド14が配置される。電極積層領域17は、電極を積層する領域、すなわち燃料極セパレータ9と燃料極が接する領域である。燃料ガス入口マニホールド11および酸化剤ガス入口マニホールド13(以下、これらを合わせてガス入口マニホールドとも記載する)は、燃料電池に燃料ガスおよび酸化剤ガスを分配して供給するために設けられる。燃料ガス出口マニホールド12および酸化剤ガス出口マニホールド14(以下、これらを合わせてガス出口マニホールドとも記載する)は、使用されずに燃料電池から排出される燃料ガスおよび酸化剤ガスを回収するために設けられる。
【0019】
また、冷却溶媒についても同様に、冷却溶媒入口マニホールド15および冷却溶媒出口マニホールド16が設けられ、冷却溶媒入口マニホールド15から燃料電池に冷却溶媒が分配され、燃料電池から排出される冷却溶媒は冷却溶媒出口マニホールド16に回収される。冷却溶媒としては、水のみならず、有機溶媒や有機−無機の複合溶媒を使用することができる。
【0020】
燃料電池スタックにおける燃料ガス、酸化剤ガスおよび冷却溶媒の流れを、図3に概念的に示す。各入口マニホールドから導入される燃料ガス、酸化剤ガスおよび冷却溶媒は、燃料電池の平面方向に対して垂直な方向に進みながら、その流れを枝分かれさせて各単電池に入る。これらは、燃料電池内を通過した後、各出口マニホールドへ排出される。
【0021】
図2に示すように、冷却溶媒流路9bは、酸化剤極セパレータ9の電極積層領域17に配置されると共に、電極積層領域17の外側であってガス出口マニホールド12,14およびガス入口マニホールド11,13の少なくとも一方(図2では双方)の周囲にも配置される。冷却溶媒流路9bは、ガス出口マニホールド12,14および/またはガス入口マニホールド11,13の全周に配置されることが好ましいが、マニホールドの周囲の少なくとも一部に配置されてもよい。また、冷却溶媒流路9bは、燃料ガス入口マニホールド11、燃料ガス出口マニホールド12、酸化剤ガス入口マニホールド13および酸化剤ガス出口マニホールド14の4つのマニホールド全ての周囲に配置されることが好ましいが、4つのうち1つ以上のマニホールドの周囲に配置されていればよい。あるいは、燃料ガス入口マニホールド11と酸化剤ガス入口マニホールド13の周囲、もしくは燃料ガス出口マニホールド12と酸化剤ガス出口マニホールド14の周囲に冷却溶媒流路9bを形成してもよい。
【0022】
図2において、冷却溶媒入口マニホールド15から出た冷却溶媒は、最初に酸化剤ガス出口マニホールド14の周囲を流れる。次に、燃料ガス出口マニホールド12の周囲を流れ、その後、電極積層領域17に流れる。電極積層領域17を流れた冷却溶媒は、酸化剤ガス入口マニホールド13および燃料ガス入口マニホールド11の周囲を流れ、最後に冷却溶媒出口マニホールド16に回収される。本実施形態では、冷却溶媒は先に酸化剤ガス出口マニホールド14の周囲を流れ、次に燃料ガス出口マニホールド12の周囲を流れたが、先に燃料ガス出口マニホールド12の周囲を流れた後に酸化剤ガス出口マニホールド14の周囲を流れてもよい。また、本実施形態では、冷却溶媒は先に酸化剤ガス入口マニホールド13の周囲を流れ、次に燃料ガス入口マニホールド11の周囲を流れたが、先に燃料ガス入口マニホールド11の周囲を流れた後に酸化剤ガス入口マニホールド13の周囲を流れてもよい。
【0023】
冷却溶媒入口マニホールド15から冷却溶媒が直接電極積層領域17に流れると、冷却溶媒流路の上流側に位置する電極積層領域17の一部が過度に冷却され、電極反応速度が低下するという問題が生じる。しかし、冷却溶媒流路9bをガス出口マニホールドの周囲に配置した場合、冷却溶媒入口マニホールド15を出た冷却溶媒は、酸化剤ガス出口マニホールド14内の酸化剤ガスおよび燃料ガス出口マニホールド12内の燃料ガスが持つ熱を回収することによって温められた後に電極積層領域17に流れる。その結果として、電極積層領域17に温度が過度に低下した領域が生じるのを抑制することができ、温度低下による電極反応速度の低下を防ぐことができる。また、燃料極の温度が低下するほど、改質ガスに含まれるCOが燃料極における金属触媒に吸着しやすくなり、燃料電池の出力が低下するという問題も生じる。しかし、冷却溶媒流路9bをガス出口マニホールドの周囲に配置することにより、上記のように電極積層領域17に温度が過度に低下した領域が生じるのを抑制することができるため、燃料極の温度低下も抑制でき、このようなCO吸着の問題も解決することができる。また、燃料ガス出口マニホールド12内の燃料ガス及び酸化剤ガス出口マニホールド14内の酸化剤ガスの熱を冷却溶媒が得るため、熱を効率的に回収することができる。
【0024】
一方、冷却溶媒流路9bをガス入口マニホールドの周囲に配置した場合、電極積層領域17を流れることで予め温められた冷却溶媒がガス入口マニホールド周囲に到達し、酸化剤ガス入口マニホールド13内の酸化剤ガスおよび燃料ガス入口マニホールド11内の燃料ガスを温めることができる。その結果、予め温められた燃料ガスおよび酸化剤ガスが燃料極および酸化剤極にそれぞれ導入されることになるため、酸化剤極および燃料極の酸化剤ガス入口部及び燃料ガス入口部における温度低下を抑制することができる。従って、冷却溶媒流路9bをガス出口マニホールドの周囲に配置した場合と同様、温度低下による電極反応速度の低下およびCO吸着による燃料電池の出力低下を抑制することができる。
【0025】
このように、ガス出口マニホールドの周囲のみ、もしくはガス入口マニホールドの周囲のみに冷却溶媒流路9bを形成してもよいが、ガス出口マニホールドの周囲とガス入口マニホールドの周囲の両方に形成することが好ましい。ガス出口マニホールドとガス入口マニホールドの両方に冷却溶媒流路9bを設けることにより、上記冷却溶媒流路9bをガス出口マニホールドの周囲に配置した場合の効果と上記冷却溶媒流路9bをガス入口マニホールドの周囲に配置した場合の効果の両方が同時に得られるからである。ここで、冷却溶媒流路9bを配置するガス出口マニホールドは、燃料ガス出口マニホールドおよび酸化剤ガス出口マニホールドのいずれか一方であってもよく、ガス入口マニホールドについても同様である。
【0026】
次に、図1を参照して、セパレータ以外の構成部材について説明する。
【0027】
燃料極触媒層5および酸化剤極触媒層7は、実際に反応が進行する層である。具体的には、燃料極触媒層5では水素の酸化反応が進行し、酸化剤極触媒層7では酸素の還元反応が進行する。燃料極触媒層5および酸化剤極触媒層7は、いずれも、触媒およびプロトン伝導性を有する電解質を含有する。
【0028】
燃料極触媒としては、金属粒子を炭素担体に担持させた担持触媒を使用する。金属粒子は、白金と白金以外の第2金属を含み、第2金属としてはルテニウム、ニッケル等を使用することが好ましい。白金を使用することは、水素酸化反応活性や、耐熱性等の観点から好ましい。酸化剤極触媒としては、少なくとも一元素以上の貴金属または該貴金属の合金触媒を使用することができる。例えば、白金、ルテニウム、パラジウム等の金属、白金−コバルト合金、白金−鉄合金、白金−ニッケル合金等の合金が挙げられる。1種の触媒成分のみが触媒層に含まれてもよいし、2種以上の触媒成分が含まれてもよい。
【0029】
燃料極触媒層5および酸化剤極触媒層7に含まれる触媒成分は、同一であっても異なってもよい。酸素還元反応活性、耐熱性等の観点から、白金を含むものが好ましく用いられるが、酸化剤極触媒は特に限定されるものではなく、触媒活性を有する各種の物質を使用することができる。酸化剤極触媒は、金属粒子を導電性担体に担持させた担持触媒、あるいは金属粒子のみからなる無担持触媒のいずれであってもよいが、担持触媒を使用することが好ましい。導電性担体としては、活性炭や黒鉛等の粒子状のカーボンまたは繊維状のカーボンを使用することができる。
【0030】
燃料極触媒層5および酸化剤極触媒層7に含まれる電解質には、プロトンを輸送可能な有機系材料あるいは無機系材料を使用することができる。触媒層に含まれる電解質は、発電の進行に伴って、燃料極触媒層5から高分子電解質膜4、酸化剤極触媒層7へと移動するプロトンの移動度を向上させる役割を果たす。プロトン伝導性を有する電解質としては、例えばスルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体のようなフッ素系樹脂、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂等の有機系材料、あるいは有機無機複合系材料が挙げられる。電解質は、具体的には、ナフィオン(デュポン社製)、フレミオン(旭硝子社製)、アシプレックス(旭化成工業社製)等により構成されるが、これらに限られるものではなく、プロトンを輸送可能な電解質であれば使用することができる。触媒層は、図1に示すような1層構造である必要はなく、2層以上を有する多層構造であってもよい。
【0031】
高分子電解質膜4は、燃料極触媒層5と酸化剤極触媒層7との間に配置されるプロトン伝導性の膜である。高分子電解質膜4は、燃料極触媒層5で生成したプロトンを膜厚方向に沿って酸化剤極触媒層7へと選択的に透過させる機能を有する。また、高分子電解質膜4は、燃料極側に供給される燃料ガスと酸化剤極側に供給される酸化剤ガスとの混合を防ぐ隔壁としての機能も有する。高分子電解質膜4に含まれる電解質としては、上記で挙げたようなプロトン伝導性を有する電解質を使用することができる。
【0032】
燃料極拡散層6および酸化剤極拡散層8は、電解質膜および触媒層を挟持するように、触媒層の外側にそれぞれ配置される。すなわち、燃料極拡散層6は、燃料極触媒層5の高分子電解質膜4側とは反対側の面に積層される。一方、酸化剤極拡散層8は、酸化剤極触媒層7の高分子電解質膜4とは反対側の面に積層される。
【0033】
燃料極拡散層6は、燃料極触媒層5に燃料を均一に供給する役割を果たしていると共に、燃料極触媒層の集電体としても機能している。酸化剤極拡散層8は、酸化剤極触媒層7に酸化剤を均一に供給する役割を果たすと同時に、酸化剤極触媒層7の集電体としても機能している。
【0034】
拡散層は、一般的に、多孔性の材料からなる。燃料極拡散層6および酸化剤極拡散層8は、カーボンペーパー、カーボンクロス、不織布、炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルトなどからなるシート状材料等で構成される。
【0035】
拡散層は、電子伝導性、撥水性等の機能を示すことが好ましい。拡散層が優れた電子伝導性を有していると、発電反応により生じた電子が効果的に運搬され、燃料電池の発電性能が向上する。また、拡散層が優れた撥水性を有していると、生成した水が効率的に排出される。高い撥水性を確保するために、拡散層を構成する材料を撥水化処理する技術も提案されている。例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系樹脂を含む溶液をカーボンペーパーなどのガス拡散層を構成する材料に塗布し、大気中または窒素等の不活性ガス中で乾燥させる手法がある。この際、撥水性をより向上させるために、溶液中にカーボン粉末を混合してもよい。
【0036】
次に、第1の実施形態の変形例について図4〜図6を参照して説明する。
【0037】
図4は、第1の実施形態に係るセパレータの第1変形例を示す平面外略図である。
第1の実施形態のセパレータでは、マニホールド内壁面は平滑面としたが、図4に示すように、マニホールドを形成することにより生じるセパレータの断面に凹凸を設けてもよい。凹凸を形成することにより、セパレータと燃料ガスおよび酸化剤ガスが接する面積が増加し、マニホールドの周囲を流れる冷却溶媒とマニホールド内の燃料ガスおよび酸化剤ガスとの間の熱交換がより容易となる。
【0038】
図5は、第1の実施形態に係るセパレータの第2変形例を示す平面概略図である。
各マニホールドは、多段にしてもよい。例えば、図5(a)に示すように、燃料ガス入口マニホールド11を3段とし(11a、11b、11c)、燃料ガス出口マニホールド12を3段としてもよい(12a、12b、12c)。マニホールドは燃料電池スタックを構成する複数の単電池間を連通して形成されているが、燃料電池スタックの両端部で折り返し、2段目および3段目のマニホールドとすることで、3段のマニホールドを形成することができる。従って、燃料電池スタックの端部に位置するセパレータは、図5(b)および図5(c)に示すように、一方の端では燃料ガス入口マニホールド11の11bと11cが連結し、燃料ガス出口マニホールド12の12aと12bが連結し、他方の端では燃料ガスマニホールド11の11aと11bが連結し、燃料ガス出口マニホールド12の12bと12cが連結したような構造になる。燃料ガスは、燃料ガス入口マニホールド11aに入った後、燃料電池スタックの積層方向、すなわち燃料電池の平面方向に垂直な方向に進み、燃料ガス入口マニホールド11b、11cを通過して燃料極に供給される。使用されずに排出された燃料ガスは、燃料ガス出口マニホールド12aを燃料電池スタックの積層方向、すなわち燃料電池の平面方向に垂直な方向に進み、燃料ガス出口マニホールド12b、12cを通過して、例えば、燃料改質システムのバーナーにて燃焼される。
【0039】
このようにマニホールドを多段にすることにより、燃料ガスがセパレータのマニホールドを形成する断面と接する時間が長くなり、マニホールドの周囲を流れる冷却溶媒とマニホールド内の燃料ガスとの間の熱交換がより効率的に行われる。
【0040】
図5では、燃料ガス入口マニホールド11および燃料ガス出口マニホールド12を多段にしたが、酸化剤ガス入口マニホールド13および酸化剤ガス出口マニホールド14を含め、いずれのマニホールドを多段にしてもよい。また、図5では、燃料ガス入口マニホールド11および燃料ガス出口マニホールド12を3段としたが、2段あるいは4段以上としてもよい。さらに、図6に示すように、多段マニホールドの各段の間には冷却溶媒流路10bを設けず、構成を簡略化してもよい。
【0041】
次に、第2の実施形態について図7を参照して説明する。
【0042】
図7は、第2の実施形態に係るセパレータの平面概略図である。第2の実施形態は、燃料極セパレータ9が多孔質材料で構成され、また冷却溶媒流路9bを通る冷却溶媒の圧力を、燃料ガス入口マニホールド11および燃料ガス出口マニホールド12を通る燃料ガスの圧力よりも低く運転していること以外は、第1の実施形態と同様である。多孔質材料としては、例えば多孔質カーボン板、発泡金属等を使用することができるが、多孔質であって導電性を有する材料であれば特に限定されない。
【0043】
図7において、矢印は、セパレータ平面方向の水移動を示す。矢印で示すように、酸化剤ガス出口マニホールド14および燃料ガス出口マニホールド12内で凝縮した水は、冷却溶媒の圧力が燃料極流路内の燃料ガスの圧力よりも低いことから圧力差によって、燃料極セパレータ9のこれらマニホールドを形成する断面を介して、冷却溶媒流路9bに吸収される。その結果として、酸化剤ガス出口マニホールド14および燃料ガス出口マニホールド12において凝集水による水つまりを抑制できる。また、酸化剤ガス入口マニホールド13および燃料ガス入口マニホールド11では、その周囲の冷却溶媒流路9bを流れる冷却溶媒が、多孔質材料で構成される燃料極セパレータ内を移動してマニホールドに移動し、マニホールド内にある酸化剤ガスおよび燃料ガスを加湿する。ガスを加湿してから電極に導入することにより、電極積層領域17で潜熱が生じることによるガスの温度低下を抑制することができる。その結果、温度低下による電極反応速度の低下およびCO吸着による燃料電池の出力低下をさらに抑制することができる。
【0044】
上記効果は、第1の実施形態における効果に加えて得られる効果であり、第1の実施形態に記載したのと同様の効果も奏する。また、第1の実施形態と同様の変形例を作製することも可能であり、その変形例も上記第2の実施形態の効果と同様の効果を奏する。
【0045】
図7においては、燃料極セパレータが多孔質材料で構成されるものとして記載したが、酸化剤極セパレータを多孔質材料で構成してもよく、燃料極セパレータおよび酸化剤極セパレータの両方を多孔質材料で構成してもよい。燃料極セパレータおよび酸化剤極セパレータの両方を多孔質材料で構成することにより、酸化剤ガス入口マニホールドおよび燃料ガス入口マニホールドの内壁における多孔質が占める面積が増加し、酸化剤ガス及び燃料ガスの加湿がより容易となる点で好ましい。また、冷却溶媒流路9bを通る冷却溶媒の圧力を、燃料ガス入口マニホールド11および燃料ガス出口マニホールド12を通る燃料ガスの圧力よりも低く運転するとしたが、酸化剤極セパレータを多孔質材料で構成している場合は、冷却溶媒9bを通る冷却溶媒の圧力を、酸化剤ガス入口マニホールド13および酸化剤ガス出口マニホールド14を通る酸化剤ガスの圧力よりも低く運転する。また、燃料極セパレータおよび酸化剤極セパレータの両方を多孔質材料で構成する場合には、冷却溶媒の圧力を燃料ガス入口マニホールドおよび燃料ガス出口マニホールドを通る燃料ガスの圧力および、酸化剤ガス入口マニホールドおよび酸化剤ガス出口マニホールドを通る酸化剤ガスの圧力よりも低く運転する。また、好ましくは冷却溶媒の圧力は、酸化剤ガス出口マニホールドを通る酸化剤ガスに対して−5kPa以下とする。
【0046】
本実施形態に係るセパレータを使用した燃料電池は、設置面と平行に単電池を積層して設置し、使用することができる。このように設置することにより、冷却溶媒流路内のクランク部に気泡ができても、冷却溶媒の流れと共に冷却溶媒出口マニホールドに気泡を排出することができる。また、燃料ガス流路内に凝縮水が溜まっても、冷却溶媒の圧力が燃料極流路内の圧力よりも低いことから圧力差によって、燃料極セパレータが吸い取り、冷却溶媒流路に凝縮水を移動させることができる。
【0047】
上記実施形態によれば、燃料電池において、温度が過度に低い領域が生じることによる性能低下を抑制することができる。
【0048】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。例えば、燃料ガス流路もしくは酸化剤ガス流路の途中にマニホールド(中間マニホールド)を別途設けても良い。この場合、冷却溶媒流路は、上記で説明したようにガス出口マニホールドおよびガス入口マニホールドの少なくとも一方の周囲に配置すると共に、中間マニホールドの外側にも設けても良い。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0049】
1…燃料電池、2…燃料極、3…酸化剤極、4…電解質膜、5…燃料極触媒層、6…燃料極拡散層、7…酸化剤極触媒層、8…酸化剤極拡散層、9…燃料極セパレータ、9a…燃料ガス流路、9b…冷却溶媒流路、10…酸化剤極セパレータ、10a…酸化剤ガス流路、11a、11b、11c…燃料ガス入口マニホールド、12a、12b、12c…燃料ガス出口マニホールド、13…酸化剤ガス入口マニホールド、14…酸化剤ガス出口マニホールド、15…冷却溶媒入口マニホールド、16…冷却溶媒出口マニホールド、17…電極積層領域、18…燃料極ガスケット、19…酸化剤極ガスケット、30…燃料電池スタック。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料極と、
酸化剤極と、
前記燃料極と前記酸化剤極との間に配置された高分子電解質膜と、
前記燃料極および前記酸化剤極の外側にそれぞれ配置された燃料極セパレータおよび酸化剤極セパレータと
燃料電池から排出されるガスを回収するガス出口マニホールドと、
燃料電池にガスを供給するガス入口マニホールドと
を具備する燃料電池であって、
前記燃料極セパレータおよび前記酸化剤極セパレータの少なくとも一方は、冷却溶媒を流す冷却溶媒流路を具備し、
前記冷却溶媒流路は、前記燃料極セパレータおよび/または酸化剤極セパレータの前記燃料極および/または酸化剤極を積層する領域に配置されると共に、前記燃料極または酸化剤極を積層する領域の外側であって前記ガス出口マニホールドおよび/または前記ガス入口マニホールドの周囲の少なくとも一部にも配置されることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記冷却溶媒流路は、前記ガス出口マニホールドおよび/または前記ガス入口マニホールドの全周に配置されることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記ガス出口マニホールドは、前記ガス入口マニホールドよりも前記冷却溶媒流路の上流側に位置することを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記燃料極セパレータおよび前記酸化剤極セパレータの少なくとも一方は、多孔質材料で構成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項5】
請求項4に記載の燃料電池の運転方法であって、前記冷却溶媒流路を通る冷却溶媒の圧力を、前記ガス入口マニホールドおよび前記ガス出口マニホールドを通るガスの圧力よりも低くすることを特徴とする燃料電池の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−73850(P2013−73850A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213385(P2011−213385)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(301060299)東芝燃料電池システム株式会社 (358)
【Fターム(参考)】