説明

燃料電池システム

【課題】アイドルストップ中に再起動に備えて空気供給を行う際に、各セルに過不足なく空気を供給する。
【解決手段】セル電圧またはセル群電圧を検出する電圧検出部11と、電圧検出部の検出結果に基づいて電圧状態を演算するセル電圧演算部21と、セル電圧演算部21の演算結果に基づいてアイドルストップ中にカソードへ間欠供給する空気供給量の前回値が過多、不足、または適当のいずれかを判定する演算結果判定部22と、演算結果判定部22の判定結果に応じて空気供給量を予め設定した固定値または前回供給量に対して減量、増量、または維持するよう決定する供給空気量決定部23と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムの空気供給制御に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池と二次電池を搭載し、これらを適宜使い分けて走行用モータへ電力供給を行い走行する燃料電池車両が知られている。このような燃料電池車両において、燃料ガスを効率的に利用するために、例えば低負荷走行時等に、燃料電池による発電を停止して二次電池のみによってモータを駆動する、いわゆるアイドルストップを実行する場合がある。
【0003】
しかし、アイドルストップ中に燃料電池への空気供給を停止し続けると、燃料電池の電圧が低下する。電圧の低下代が大きいほど、負荷増大等により燃料電池を再起動する際に要求された電圧まで昇圧するのに時間を要することになる。
【0004】
そこで、特許文献1では、アイドルストップ中に燃料電池の電圧が所定値まで低下したら空気供給を行い、燃料電池の電圧を回復させている。この空気供給は、タイマ等により予め設定した期間だけ行う構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4182732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のように空気供給期間を予め設定する構成では、フィルタ詰まりによる圧損増大等といった経時的な変化に対応できない。このため、アイドルストップ中の電圧回復に必要な空気量を流せなくなる場合が生じ得る。
【0007】
ところで、従来は、アイドルストップのために空気供給を停止した後の電圧低下速度のバラツキは、セル間の空気分配のバラツキが主な要因と考えられていた。しかし、実際には、空気供給量が不足している場合に電圧低下速度のバラツキが大きくなることが出願人らによって見出された。
【0008】
したがって、特許文献1のような構成により空気供給量が不足すると、空気供給停止後の、セル間の電圧低下速度のバラツキが大きくなる。そして、電圧が大きく低下したところで負荷増大に応じて再起動して、さらなる電圧低下を引き起こすと、特に電圧低下速度が大きなセルが過剰に電圧低下したと診断されてフェイルセーフモードに陥るおそれがある。
【0009】
一方、特許文献1のような構成では、製造工程でのバラツキ等による個体差によって過剰な量の空気を供給することになる場合も生じ得る。例えば上限電圧を超えないよう制御する場合には、上限電圧を維持するために電流が流れる時間が長くなる。その結果、余分に発電することになって、水素の消費量が無駄に増加する。一方、アイドルストップ中の電流値を一定に維持するよう制御する場合には、過剰に空気を流すことによって、総電圧が上昇し、または高電圧状態が長く続くので、高電位劣化が進行してしまう。
【0010】
そこで、本発明では、アイドルストップ中に再起動に備えて空気供給を行う際に、各セルに過不足なく空気を供給し得る燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の燃料電池システムは、セル電圧またはセル群電圧を検出する電圧検出部と、電圧検出部の検出結果に基づいて電圧状態を演算するセル電圧演算部と、その演算結果に基づいてアイドルストップ中にカソードへ間欠供給する空気供給量の前回値が過多、または不足か否かを判定する演算結果判定部を備える。さらに、演算結果判定部の判定結果に応じて空気供給量を予め設定した固定値または前回供給量に対して減量、または増量するよう決定する供給空気量決定部を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、セル電圧の挙動に基づいて、アイドルストップ中の空気供給量が過多、または不足か否かを判定し、判定結果に応じて空気供給量を補正するので、より適切な空気供給量とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1実施形態に係るシステム構成図である。
【図2】第1実施形態に係るアイドルストップ中の空気供給制御の制御ブロック図である。
【図3】第1実施形態における空気供給量の制御のフローチャートである。
【図4】増量補正量決定に用いるテーブルである。
【図5】第1実施形態に係るシステムの構成図の他の例である。
【図6】図3の制御ルーチンを実行した場合のタイムチャートである。
【図7】上限電圧制御を行う場合の本実施形態の効果を説明するためのタイムチャートである。
【図8】一定電流制御を行う場合の本実施形態の効果を説明するためのタイムチャートである。
【図9】第2実施形態における空気供給量の制御のフローチャートである。
【図10】第3実施形態に係るアイドルストップ中の空気供給制御の制御ブロック図である。
【図11】第3実施形態における空気供給量の制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係るシステムの構成図である。
【0016】
燃料電池スタック1は、直流電源であり、電解質膜4をアノード2とカソード3で挟持した単セルが複数積層された構造を有する。なお、図1では単セルのみを示している。
【0017】
アノード2には、水素供給通路7から燃料としての水素ガスが供給される。カソード3には空気供給通路8から酸化剤ガスとしての空気が供給される。
【0018】
水素供給通路7には、図示しない圧力調整弁が介装されている。これにより、水素タンク5内の高圧水素は、所定の圧力まで減圧されてからアノード2に供給される。
【0019】
空気は、コンプレッサ6により空気供給通路8からカソード3に供給される。なお、カソード3内の空気圧は、図示しない空気圧調整弁により制御される。
【0020】
コンプレッサ6の駆動は、コンプレッサ6の回転数を検出する回転数センサ10の検出値等に基づいて、コントローラ9により制御される。
【0021】
コントローラ9は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。コントローラ9を複数のマイクロコンピュータで構成することも可能である。
【0022】
また、コントローラ9は、電圧検出部として各セルに設けた電圧センサ11の検出値に基づいて、燃料電池スタック1の電圧及び単セルの平均電圧の算出、さらには最低電圧の特定等を行う。なお、電圧センサを各セルではなく、複数の単セルの集合であるセル群毎に設置し、セル群電圧に基づいて燃料電池スタック1の電圧及びセル群の平均電圧の算出、そして最低電圧の特定等を算出するようにしてもよい。
【0023】
上記のような構成の燃料電池システムを、電動モータを駆動源として走行する車両に搭載する。また、この車両には、燃料電池スタック1の他に二次電池も搭載する。燃料電池スタック1で発電した電力は、電動モータの駆動に用いられる他に、二次電池に充電される。そして、コントローラ9が、運転状態に応じて燃料電池システム又は二次電池から電動モータへの電力供給を制御する。
【0024】
コントローラ9は、例えば低負荷走行時のように要求電力が低い場合には、燃料電池スタック1の発電を一時的に停止して二次電池の電力だけで電動モータや補機類等を駆動する、いわゆるアイドルストップを実行する。アイドルストップは、二次電池の充電量が所定の閾値を下回った場合や、加速要求等によって要求電力が増大した場合に終了する。
【0025】
アイドルストップ中は、カソード3への空気供給が停止されるが、カソード3内に残留している酸素がカソード3に透過してきた水素と反応することで消費され、スタック総電圧は徐々に低下する。このため、アイドルストップ継続時間が延びるほど、アイドルストップからの復帰時にスタック総電圧が回復するまでに要する時間が長くなり、加速要求等に対する応答遅れが大きくなる。
【0026】
そこで、コントローラ9は、アイドルストップ中に燃料電池スタック1の平均電圧が予め設定した電圧V0まで低下したら、電圧を回復させるためにカソード3への空気供給を行う。なお、総電圧を算出し、これが所定電圧まで低下したら空気供給を行なうようにしてもよい。
【0027】
ところで、燃料電池スタック1への空気供給量が不足すると、単セル間の電圧低下速度のバラツキが大きくなり、スタック内の最低電圧と平均セル電圧の低下速度の差が大きくなる。つまり、スタック内の残存酸素量とセル電圧とには強い相関がある。そこで、コントローラ9はセル電圧に基づいてアイドルストップ中の空気供給制御を行なう。
【0028】
図2は、コントローラ9がアイドルストップ中に実行する空気供給制御の概要を示す制御ブロック図である。
【0029】
電圧センサ11の検出値は、セル電圧演算部21に読み込まれ、ここで燃料電池スタック1の平均電圧及びスタック内で最も電圧が低いセルの電圧(以下、これを最低電圧という)を求める。セル電圧演算部21での演算結果に基づいて、演算結果判定部22ではアイドルストップ中の空気供給による充填量が過多、不足、又は適当のいずれかを判定する。
【0030】
一方、空気供給量演算部24では、回転数センサ10の検出値に基づいてアイドルストップ中の空気供給量を演算する。
【0031】
そして、供給空気量決定部23では、過多、不足、又は適当の判定結果と、空気供給量演算部24の演算結果とに基づいて、次の空気供給量を決定し、コンプレッサ6を制御する。つまり、前回の空気供給量が適当であったか否かをアイドルストップ中の電圧に基づいて判断し、今回の空気供給量を補正する。具体的な演算等については、図3に従って説明する。
【0032】
図3は、アイドルストップ時の空気供給停止期間中にコントローラ9が実行する、空気供給量決定のための制御ルーチンを示すフローチャートである。本制御ルーチンは、空気供給停止期間中に燃料電池スタック1の平均電圧または総電圧が空気供給開始判定用の下限値まで低下したとき、つまり空気供給開始直前に実行する。
【0033】
ステップS100、S110で、コントローラ9は電圧センサ11の検出値を読み込み、燃料電池スタック1の平均電圧AveCV、最低電圧MinCVを演算する。
【0034】
ステップS120で、コントローラ9は最低電圧MinCVが閾値Vb以上か否かを判定する。閾値Vbは空気供給量が不足しているか否かの境界値である。最低電圧MinCVが閾値Vb以上の場合はステップS130の処理を実行し、閾値Vbより低い場合、つまり空気供給量が不足している場合はステップS150の処理を実行する。
【0035】
なお、ここでは最低電圧MinCVと閾値Vbを比較しているが、ステップS110で最低電圧MinCVの次に低いセル電圧も求めておき、このN番目に低い電圧と閾値Vbとを比較するようにしてもよい。すなわち、空気供給量の過不足を判定し得るセル電圧であればよい。後述するステップS130についても同様である。
【0036】
ステップS130で、コントローラ9は最低電圧MinCVが閾値Vaより小さいか否かを判定する。閾値Vaは空気供給量が過多であるか否かの境界値である。最低電圧MinCVが閾値Vaより高ければステップS140の処理を実行し、閾値Va以下の場合、つまり空気供給量が過多の場合はステップS160の処理を実行する。
【0037】
ステップS140で、コントローラ9は空気供給量を現状維持する。これは、前回の空気供給量が適正であったためである。
【0038】
なお、システム起動後の初回演算時には、空気供給量を少なくともカソードアクティブエリア容積より大きい値に設定する。アクティブエリア容積とは、各単セルの発電に寄与する反応面の面積に、反応面に接する空気流路の高さを乗じ、これをセル積層数分だけ合計したものであり、ガス拡散層の空孔容積も含む。アクティブエリア容積以上の空気を供給すれば、全ての単セルに十分な量の空気が供給され、単セル間の電圧低下速度のバラツキを抑制することができる。その結果、特定の単セルの電圧低下によってフェイルセーフモードに切り替わる可能性を低減することができる。
【0039】
ステップS150で、コントローラ9は供給量を増量する。具体的には、不足か否かを判定したときの平均電圧AveCVと最低電圧MinCVとの差を算出し、例えば図4に示すようなテーブルを検索することによって増量割合を設定し、この増量割合を用いて前回の空気供給量を補正する。図4の縦軸は増量割合、横軸は平均電圧AveCVと最低電圧MinCVとの差を示している。図4に示すように、平均電圧AveCVと最低電圧MinCVとの差が大きくなるほど増量割合も大きくなる。
【0040】
なお、平均電圧AveCVと最低電圧MinCVとの差が極小さい領域では、増量割合が負の値、つまり減量することになる。この領域は、最低電圧MinCVが閾値Vaより高い場合、つまり後述するステップS160で使用する減量領域である。最低電圧MinCVが閾値Vbより低い場合には、減量領域となることはない。
【0041】
ステップS160で、コントローラ9は供給量を減量する。具体的には、例えば図4に示すようなテーブルを検索することによって減量割合を設定し、この減量割合を用いて前回の空気供給量を補正する。
【0042】
なお、上記制御ルーチンは、制御精度向上の観点からは空気供給開始直前に行うのが望ましいが、空気供給停止期間中であればいつ実行してもかまわない。この場合、閾値Va、Vbは、実行するタイミングに応じた値を設定する必要がある。
【0043】
また、ステップS150またはステップS160で増減補正する対象は、前回供給値に限られるものではない。例えば、基準となる供給量を固定値として設定しておき、これを増減補正するようにしてもよい。この場合、回転数センサ10及び空気供給量演算部24が不要となる。図5に示すように、空気供給通路8に流量計31を配置し、空気流量を直接検出するようにしてもよい。
【0044】
図6は、上記制御を実行した場合のタイムチャートである。
【0045】
ここでは、タイミングT1で前回の空気供給を終了して、タイミングT2までが空気供給停止区間となる。空気供給を停止するとセル電圧の低下が始まり、タイミングT2で平均電圧AveCVが閾値V0になると、空気供給を再開する。このとき、最低電圧MinCVが閾値Vbより低いので、平均電圧AveCVと最低電圧MinCVとの差に基づいて、タイミングT2からの空気供給量を増量補正する。その結果、タイミングT3まで空気供給することになる。
【0046】
なお、前回供給量の過不足の判定は、理想的には空気供給を再開する直前のタイミングT2であるが、これより前に行なってもよい。ただし、タイミングT2より前に行なう場合には、これに合わせた閾値Va、Vbとする必要がある。
【0047】
次に、本実施形態のように空気供給量を制御することによる効果について説明する。
【0048】
燃料電池スタック1への空気供給量が不足すると、単セル間の電圧低下速度のバラツキが大きくなる。つまり、最低電圧MinCVと平均セル電圧AveCVの低下速度の差が大きくなる。
【0049】
このため、電圧が低下した状態でアイドルストップから復帰すると、負荷への電力供給再開による更なる電圧低下によって、最低電圧MinCVが大幅に小さくなる。セル電圧が大幅に低い単セルがあると、セルの診断装置によって異常ありと診断され、フェイルセーフモードに切り替わるおそれがある。
【0050】
これに対して本実施形態では、アイドルストップ中の空気供給量をセル電圧に基づいて制御しているので、各単セルに電圧回復のために必要な空気量を供給し、充填量不足によるセル電圧低下速度のバラツキを抑制することができる。その結果、図6中に示すように、タイミングT3以降の電圧低下速度のバラツキが小さくなり、上述したようなフェイルセーフモードへの切り替わりを防止できる。
【0051】
また、アイドルストップ中の空気供給量を適正化されることにより、燃費性能の向上を図ることもできる。図7は、燃料電池スタック1のスタック電圧が上限値を超えないように制御する場合のタイムチャートである。具体的には、電流の大きさを制御することにより、スタック電圧が上限値を超えないようにする。これを、上限電圧制御と呼ぶ。上限値は、高電位劣化を防止し得る値に設定する。図中の時間T1は、設計時に電圧回復の為に必要な空気供給量に基づいて算出した供給時間である。
【0052】
スタック電圧が下限電圧まで低下したタイミングT1で空気供給を開始し、タイミングT2でスタック電圧が上限電圧に達している。設計通りの空気流量であれば、タイミングT4まで空気供給を継続することで、電圧回復に必要な空気量が供給される。しかし、部品の個体差等の要因により設計よりも多くの空気が流れ、タイミングT3で電圧回復に必要な空気量の供給が終了すると、タイミングT3からタイミングT4までは、無駄に空気を供給して、無駄な発電を行うことになる。その結果、水素を無駄に消費することになる。また、生成水の量も増加し、水詰まりの可能性が高まってしまう。
【0053】
これに対して本実施形態では、セル電圧の挙動に応じて空気供給量が過多、不足、適当のいずれなのかを判定し、判定結果に基づいて空気供給量を補正するので、より適切な空気供給量となる。したがって、上限電圧制御を行う場合に、無駄な水素消費や、余分な生成水による水詰まりの可能性増大といった問題が生じない。
【0054】
図8は、アイドルストップ中の電流値を一定に制御する場合のタイムチャートである。具体的には、発電の有無によらず電流値を一定に保持する。これを一定電流制御と呼ぶ。
【0055】
設計通りの空気流量であれば、タイミングT3まで空気供給を継続することで、電圧回復に必要な空気量が供給される。しかし、部品の個体差等の要因により設計よりも多くの空気が流れ、タイミングT2で電圧回復に必要な空気量の供給が終了すると、タイミングT2からタイミングT3までは、無駄に空気を供給することになる。そして、図8のようにタイミングT2で既に高電位劣化の進行が顕著になる電圧を超えている場合には、タイミングT2からタイミングT3までの空気供給は、燃料電池スタック1の高電位劣化を進行させるだけである。また、無駄な空気供給のためにコンプレッサ6での消費電力が増大してしまう。
【0056】
これに対して本実施形態では、セル電圧の挙動に応じて空気供給量が過多、不足、適当のいずれなのかを判定し、判定結果に基づいて空気供給量を補正するので、より適切な空気供給量となる。したがって、高電位劣化の進行を抑制することができる。また、コンプレッサ6の消費電力の増大を防止できる。
【0057】
また、本実施形態では、コンプレッサ6の回転数に基づいて算出した空気供給量または流量計31により実測した空気供給量を増減補正するので、より高精度でアイドルストップ中の空気供給量を制御することができる。
【0058】
また、スタック内の状態を推定するのに、スタック内の残存酸素量と相関の強いセル電圧を用いるので、高い精度で推定することができる。さらに、その推定結果に基づいて、増量分または減量分を調整するので、空気供給量をより適正に制御することができる。
【0059】
(第2実施形態)
本実施形態は、システムの構成及び基本的な制御ルーチンについては第1実施形態と同様であり、アイドルストップ中の空気供給量の過不足を判定する方法のみが異なる。そこで、この相違点について説明する。
【0060】
図9は本実施形態でコントローラ9が実行する空気供給量決定のための制御ルーチンを示すフローチャートである。
【0061】
ステップS200で、コントローラ9は電圧センサ11の検出値を読み込む。
【0062】
ステップS210で、コントローラ9は最低電圧MinCVの電圧低下速度△CVを演算する。なお、電圧低下速度△CVは速度の絶対値とする。つまり、電圧低下速度△CVの値が大きいほど、より速く電圧が低下することになる。
【0063】
ステップS220で、コントローラ9は電圧低下速度△CVが閾値Vb以下か否かを判定する。閾値Vbは空気供給量が不足するか否かの境界値である。電圧低下速度△CVが閾値Vb以下の場合はステップS230の処理を実行し、閾値Vbより大きい場合、つまり空気供給量が不足している場合はステップS250の処理を実行する。
【0064】
ステップS230で、コントローラ9は電圧低下速度△CVが閾値Vaより大きいか否かを判定する。閾値Vaは、空気供給量が過多となるか否かの境界値である。電圧低下速度△CVが閾値Vaより大きい場合はステップS240の処理を実行し、電圧低下速度△CVが閾値Va以下の場合、つまり空気供給量が過多の場合には、ステップS260の処理を実行する。
【0065】
ステップS240−S260は、図3のステップS140−S160と同様なので説明を省略する。
【0066】
以上説明したように、本実施形態によれば第1実施形態と同様に、アイドルストップ中の空気供給量を適切に制御することができる。
【0067】
なお、電圧低下速度△CVの換わりに、平均電圧AveCVと最低電圧MinCVの偏差の大きさを用いてもよい。この場合、偏差が不足判定用の閾値より大きければ供給量増量、偏差が過多判定用の閾値より小さければ供給量減量、両閾値の間であれば現状維持となる。
【0068】
(第3実施形態)
本実施形態は、基本的なシステム構成は第1実施形態と同様であるが、アイドルストップ中の空気供給量をすべて記憶する構成となっているという相違点がある。
【0069】
図10は、本実施形態における、コントローラ9によるアイドルストップ中の空気供給制御の概要を示す制御ブロック図である。図10に示すように、供給空気量決定部23で空気供給量を決定した後、それを記憶する供給量記憶部40を備える。第1実施形態では、供給空気量決定部23で設定した空気供給量が次回演算時まで保持されるだけであるが、本実施形態では、供給量記憶部40が少なくとも前々回と前回の空気供給量を記憶する。
【0070】
図11は、本実施形態でコントローラ9が実行する空気供給量決定のための制御ルーチンを示すフローチャートである。
【0071】
ステップS300、S310で、コントローラ9は電圧センサ11の検出値を読み込み、平均電圧AveCV、最低電圧MinCVを演算する。
【0072】
ステップS320で、コントローラ9は最低電圧MinCVが閾値Vb以下か否かを判定する。閾値Vbは空気供給量が不足しているか否かの境界値である。最低電圧MinCVが閾値Vb以下の場合、空気供給量が不足している場合はステップS330の処理を実行し、閾値Vbより大きい場合はステップS370の処理を実行する。
【0073】
ステップS330で、コントローラ9は不足カウンタCdownに1を加算し、過多カウンタCupを0にする。
【0074】
ステップS340で、コントローラ9は不足カウンタCdownが1より大きいか否かを判定する。大きい場合はステップS350の処理を実行し、小さい場合はステップS360の処理を実行する。
【0075】
ステップS350で、コントローラ9は図3のステップS150と同様に前回供給量に対して増量補正を行なう。これを式に表すと、下式(1)のようになる。増量分αは可変値であり、第1実施形態と同様に設定する。
【0076】
Q(i)=Q(i−1)+α ・・・(1)
Q(i):i回目の空気供給における空気供給量、α:増量分
【0077】
ステップS360で、コントローラ9はステップS350と同様に空気供給量を増量補正する。ただし、今回の空気供給量が、前回の空気供給量以上かつ前々回の空気供給量以下となるように増量分αを設定する。ステップS360の処理を行なうのは、空気供給量が過多のため空気供給量を減量補正した結果、不足に転じた場合である。すなわち、前々回の空気供給量では不足だが、前回の空気供給量では過多となる。そこで、上述したように空気供給量が前回以上かつ前々回以下となるように増量分αを設定する。
【0078】
ステップS370で、コントローラ9は最低電圧MinCVが閾値Vaより大きいか否かを判定する。大きい場合はステップS380の処理を実行し、小さい場合はステップS420の処理を実行する。
【0079】
ステップS380で、コントローラ9は不足カウンタCdownを0にし、過多カウンタCupに1を加算する。
【0080】
ステップS390で、コントローラ9は過多カウンタCupが1より大きいか否かを判定し、大きい場合はステップS400の処理を実行し、小さい場合はステップS410の処理を実行する。
【0081】
ステップS400で、コントローラ9は図3のステップS160と同様に前回供給量に対して減量補正を行なう。これを式に表すと、下式(2)のようになる。減量分βは可変値であり、第1実施形態と同様に設定する。
【0082】
Q(i)=Q(i−1)−β ・・・(2)
Q(i):i回目の空気供給における空気供給量、β:減量増量分
【0083】
ステップS410で、コントローラ9はステップS400と同様に空気供給量を減量補正する。ただし、今回の空気供給量が、前々回の空気供給量以上かつ前回の空気供給量以下となるように減量分βを設定する。ステップS410の処理を行なうのは、空気供給量が不足しているため空気供給量を増量補正した結果、過多に転じた場合である。すなわち、前々回の空気供給量では不足だが、前回の空気供給量では過多となる。そこで、上述したように空気供給量が前々回以上かつ前回以下となるように減量分βを設定する。
【0084】
ステップS420で、コントローラ9は空気供給量を現状維持する。そしてステップS430でコントローラ9は不足カウンタCdown、過多カウンタCupをいずれも0にする。
【0085】
このように、本制御ルーチンでは、最低電圧MinCVが閾値Vbを下回っている場合は閾値Vaを上回るまで増量補正を繰り返し、上回ったら前回の空気供給量に対して減量する。一方、最低電圧MinCVが閾値Vaを上回っている場合は閾値Vbを下回るまで減量補正を繰り返し、下回ったら前回の空気供給量に対して増量する。
【0086】
これにより、アイドルストップ中の空気供給を繰り返す度に空気供給量が適正値に近づく。
【0087】
なお、本制御ルーチンにより設定された空気供給量は、供給量記憶部40の不揮発性記憶部40aに格納される。つまり、今回の車両運転が終了しても、本制御ルーチンにより増減量補正された空気供給量は記憶されている。そして、次回車両運転時には、記憶しておいた空気供給量を使用する。これにより、次回車両運転時には、今回の車両運転で適正値に近づいた空気供給量を最初から使用することができる。
【0088】
また、本実施形態において、演算結果判定部22ではアイドルストップ中の空気供給による充填量が過多、不足、または適当のいずれかを判定しているが、アイドルストップ中の空気供給による充填量が過多か否かだけ判定しても良く、あるいはアイドルストップ中の空気供給による充填量が不足か否かだけ判定しても良い。
【0089】
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるわけではなく、特許請求の範囲に記載の技術的思想の範囲内で様々な変更を成し得ることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0090】
1 燃料電池スタック
2 アノード
3 カソード
4 電解質膜
5 水素タンク
6 コンプレッサ
7 水素供給通路
8 空気供給通路
9 コントローラ
10 回転数センサ
21 セル電圧演算部
22 演算結果判定部
23 供給空気量決定部
24 空気供給量演算部
31 流量計
40 供給量記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セル電圧またはセル群電圧を検出する電圧検出部と、
前記電圧検出部の検出結果に基づいて電圧状態を演算するセル電圧演算部と、
前記セル電圧演算部の演算結果に基づいて、アイドルストップ中にカソードへ間欠供給する空気供給量の前回値が過多、または不足か否かを判定する演算結果判定部と、
前記演算結果判定部の判定結果に応じて前記空気供給量を予め設定した固定値または前回供給量に対して減量、または増量するよう決定する供給空気量決定部と、
を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記前回供給量を演算により求める空気供給量演算部を備える請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記前回供給量を直接計測する流量計を備える請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記セル電圧演算部は、空気供給停止中の電圧変動に応じて変化する判定値を算出し、
前記演算結果判定部は、予め設定した閾値と前記判定値とを比較することにより、前記固定値または前記前回供給量が過多、不足、または適当のいずれかを判定し、
前記供給空気量決定部は、不足と判定された場合には前記空気供給量を前記固定値または前記前回供給量に対して増量するよう決定する請求項1から3のいずれかに記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記セル電圧演算部は、空気供給停止中の電圧変動に応じて変化する判定値を算出し、
前記演算結果判定部は、予め設定した閾値と前記判定値とを比較することにより、前記固定値または前記前回供給量が過多、不足、または適当のいずれかを判定し、
前記供給空気量決定部は、過多と判定された場合には前記空気供給量を前記固定値または前記前回供給量に対して減量するよう決定する請求項1から4のいずれかに記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記供給空気量決定部は、前記演算結果判定部の判定結果に応じて前記固定値または前記前回供給量に対する増量分または減量分を変化させる請求項1から5のいずれかに記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記供給空気量決定部は、前記空気供給量を前記固定値または前記前回供給量に対して増量する場合、前記閾値と前記判定値との乖離が大きいほど増量分を大きくする請求項4または6に記載の燃料電池システム。
【請求項8】
アイドルストップ中に行う空気供給の、少なくとも前々回供給量及び前回供給量を記憶する記憶部を備える請求項1から7のいずれかに記載の燃料電池システム。
【請求項9】
前記供給空気量決定部は、前記演算結果判定部が不足と判定したら、判定結果が過多または適当になるまで空気供給量の増量を繰り返す請求項8に記載の燃料電池システム。
【請求項10】
前記供給空気決定部は、前記判定結果が不足から過多へ転じたら空気供給量を前回供給量に対して減量するが、減量後の空気供給量を前々回供給量よりは多く設定する請求項9に記載の燃料電池システム。
【請求項11】
前記供給空気量決定部は、前記演算結果判定部が過多と判定したら、判定結果が不足または適当になるまで空気供給量の減量を繰り返す請求項8から10のいずれかに記載の燃料電池システム。
【請求項12】
前記供給空気量決定部は、前記判定結果が過多から不足へ転じたら空気供給量を前回供給量に対して増量するが、増量後の空気供給量を前々回供給量よりは少なく設定する請求項11に記載の燃料電池システム。
【請求項13】
前記記憶部は不揮発性記憶部を備え、前記不揮発性記憶部に空気供給量を記憶し、前記供給空気決定部は次回運転時に前記不揮発記憶部に記憶した空気供給量を使用する請求項9から12のいずれかに記載の燃料電池システム。
【請求項14】
前記供給空気量決定部は、システム製造後の初回運転時における最初のアイドルストップ中の空気供給量を、燃料電池を構成するセル積層体の発電を行うアクティブエリアに面する空気流路の容積と前記アクティブエリアのガス拡散層の空孔容積との和であるアクティブエリア容積より大きくする請求項1から13のいずれかに記載の燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−105534(P2013−105534A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246628(P2011−246628)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】