説明

燃料電池用の膜、該膜の製造方法およびこの種の膜を使用する燃料電池の製造

均一な吸収およびドーピング剤の良好な保持を特徴とし、ドーピングされる場合に高温での高い機械的安定性を保証する、燃料電池用膜。そのような膜は、少なくとも1種のポリマーからなり、その窒素原子は、多塩基性無機オキソ酸の誘導体の中心原子に化学的に結合されている。膜は、水のないポリマー溶液とオキソ酸誘導体とから、膜鋳型内に導入された溶液を、自己支持膜が形成されるまで加熱し、次いで後者を温度調整することによって、製造される。本発明の膜と、ドーピング剤としてリン酸とを含む、膜電極ユニット(MEA)を有する本発明の燃料電池は、例えば、測定周波数1000Hz、動作温度160℃、水素のガス流170mL/minおよび空気に対して570mL/minにおいて、0.5〜1Ωcmのインピーダンスを有する。これらは、高温高分子電解質膜燃料電池として、少なくとも250℃までの動作温度で使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、国際出願日付け2005年1月28の国際出願PCT/EP2005/000838の継続であり、本国際出願はPCT条項21(2)の下に独国において公開されており、その開示を参照により本願に組み入れてある。
【背景技術】
【0002】
本発明は、有機ポリマーおよび多塩基性無機オキソ酸の誘導体の膜、該膜を製造する方法、およびそのような膜を使用する高温高分子電極膜燃料電池に関する。
【0003】
米国特許第6099988号は、直接メタノール燃料電池に使用するための、リン酸でドーピングしたPBIの膜を記載している。それは、改善された導電率および安定性を特徴とする。欠点の1つは、低温での燃料電池動作におけるドーパントの放出が防止されないことであり、膜は、リン酸およびトリフルオロ酢酸内のポリマーの溶液から製造され、これらの酸は、その毒性、腐食性および高蒸気圧のために、製造工程において制御することは困難である。
【0004】
米国特許第5525436号、WO01/18894A2およびDE101 55543C2は、ポリベンズイミダゾール(PBI)を基材とする高分子電極膜(PEM)を包含する、高温高分子電極膜燃料電池を記載している。これらの膜は、リン酸でドープされている。これらの高分子電極膜(PEM)の導電率は、必ずしも系内における水の存在に依存しないので、これらのPEM燃料電池は、100℃から200℃の間で動作させることができる。これらの燃料電池の欠点は、特に100℃より低い温度における、生成水による洗い出しによる、リン酸の放出である。このような温度範囲は、特に移動用途においては、そのような燃料電池の暖機および冷却時が必然的に該当し、システムにおける電力損失が生じることになる。PBIの温度安定性は、リン酸による低度のドーピングによってさらに向上する。しかしながら、PBI膜の機械的安定性は、高度のドーピングによって低下する。
【0005】
PBI膜は、通常、その機械的安定性を高めるために、化学的に架橋される(WO00/44816A1、DE10110752A1、DE10140147A1)。ポリベンズイミダゾールのNH基と反応することのできるイソシアネート基およびエポキシ基を含む化合物が、架橋剤として使用される。この架橋剤は、ポリマー溶液に添加して、膜形成工程中に温度を上げることによって、溶媒が同時に蒸発する間に、反応させることができる。架橋剤としての使用に好適な化合物の基準としては、ポリマー溶液における良好な溶解度、高い架橋速度、および燃料電池の動作条件下での架橋部位の化学的および熱的な安定性が挙げられる。HPOドーパントによる膜の膨潤能力は、この架橋によって影響を受ける。具体的には、達成可能な最大のドーピング程度が低下する。ドーパントの取り込み時に生じる膨潤圧力は、高度のドーピングにおいては膜の破壊につながることがある。ポリベンズミダゾールは、このようにして、それをジエポキシド類および/またはジイソシアネート類と反応させることによって使用することができるが、これには、ドーパントによる膜のドーピングに関する欠点がある。
【0006】
また、特にジイソシアネート類によって架橋された膜の熱的および化学的安定性が、燃料電池用途に不適当であることも欠点である。ジエポキシド化合物との架橋の1つの欠点は、架橋は100℃より下の温度において比較的低速で進行し、これがこの合成工程の技術的な問題につながることである。高度な架橋を達成するためには、反応ゾーンを長くすること、および/または膜注入成形機械上での膜の連続生産における注型速度を大幅に低減することが必須である。100℃より上の温度において、溶媒は、架橋反応が発生させることができるよりも、速い速度で蒸発する。これに関連してポリマー鎖移動度が低下する結果として、低度の架橋、負荷時の低い機械的安定性、および不必要に高い膨潤能力を備える膜を生じる可能性がる。別の欠点は、ジエポキシド類またはジイソシアネート類による架橋により、膜内におけるリン酸の結合に対して影響がなくなることである。低作動条件温度におけるリン酸放出の欠点は、克服されない。
【発明の開示】
【0007】
したがって、本発明の目的は、ドーパントの均一な取り込みおよび保持を特徴とする燃料電池用膜を提供して、少なくとも250℃までの温度においてドーピングされた状態において高い機械的安定性を確保することである。さらに、そのような膜を製造する方法が開示される。本発明の別の目的は、移動用途および定置用途のための、そのような膜を使用する燃料電池を提供することである。
【0008】
これらの目的は、請求項によって定義される本発明によって達成される。本発明の膜は、窒素原子を含む少なくとも1種のポリマーを含み、該ポリマー(複数種を含む)は多塩基性無機オキソ酸またはその誘導体の中心原子に化学的に結合されている。IRスペクトルによって示されるように、この化学的結合は、アミド結合とすることができる。
【0009】
多塩基性無機オキソ酸(Cotton, Wilkinson, Inorganic Chemistry, Verlag Chemie, Weinheim, Deerfeld Beach, Florida, Basel, 1982, 4th edition, pp. 238-239)は、一般式HXOを有する酸であり、ここでn>1、m>2およびXは無機中心原子である(mおよびnは整数)。この中心原子は、リン、硫黄、モリブデン、タングステン、砒素、アンチモン、ビスマス、セレン、ゲルマニウム、スズ、鉛、ボロン、クロムまたはケイ素とすることができる。リン、モリブデン、タングステンおよびケイ素が好ましくは、リンが特に好ましい。
【0010】
ポリマーおよびオキソ酸の中心原子は、好ましくは架橋されて、リン酸などのドーパントを取り込むことのできるネットワークを形成し、プロトン伝導性高分子電解質膜(PEM:polyelectrolyte membranes)を形成する。このネットワークは、少なくとも2次元、好ましくは3次元に設計されるとともに、好ましくはポリマーに対して少ない数のオキソ酸単位を含む。
【0011】
燃料電池での使用に特に好適な膜の架橋度は、ポリマーの少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも90%である。
本発明の膜は、例えば、ポリベンズイミダゾールを、アルコキシ化合物および/またはオキソ酸のエステル、アミド類または酸塩化物と反応させることによって製造することができる。
【0012】
本発明の膜は、燃料電池に好適なプロトン伝導特性を有さない。しかしながら、驚くべきことに、本発明の膜は、リン酸などのドーパントの取り込みと固定に優れている。本発明の膜におけるドーパントの固定は、100℃より下の温度においても強固なままであり、その結果、燃料電池動作の始動および減速の領域においても、ドーパントが放出されることがない。さらに、本発明の膜は、従来のポリベンズイミダゾール膜よりも高い疎水性を有し、したがって本発明の膜は、燃料電池の生成水を吸収せず、そのことによってリン酸の放出を防止または大幅に低減する。
【0013】
本発明での使用に好ましいポリマーは、ポリベンズイミダソール、ポリピリジン、ポリピリミジン、ポリイミダゾール類、ポリベンズチアゾール類、ポリベンズオキサゾール類、ポリオキサジアゾール類、ポリキノサリン類、ポリチアジアゾール類、ポリ(テトラアザピリン類)およびこれらの2種以上の組合せからなる群から選択される。その他の好適なポリマーとしては、アミド結合を形成することのできる反応基を側鎖内に有するポリマー、および1次または2次のアミノ基を有するポリマー、ならびにこれらのポリマーと他のものの混合物が挙げられる。本発明によれば、例えば、アルコキシ化合物、エステル類、アミド類および酸塩化物類の形態の有機誘導体が、オキソ酸誘導体として好ましい。
【0014】
本発明による膜の製造方法は、以下のステップを含む:
a)少なくとも1種の有機ポリマーと多塩基性無機オキソ酸の誘導体の、無水均質溶液を調製するステップであって、前記少なくとも1種のポリマーは、前記オキソ酸の中心原子と化学結合を形成することのできる反応基を有する、前記ステップ、
b)結果として得られる溶液を膜鋳型に注型するステップ、
c)前記膜鋳型に注型された溶液を、50℃から90℃の範囲の温度に加熱して、自己支持膜を形成するステップ、
d)前記膜を、150℃から400℃の範囲の温度において1分から5時間の期間、温度調節するとともに、残留溶媒を除去するステップ。
【0015】
自己支持膜を形成するためには、ポリマーとオキソ酸誘導体の反応を、膜鋳型内に注型された溶液を50℃から90℃の範囲の温度、好ましくは70℃まで加熱する上で、十分に速い速度で進行させることが重要である。次いで、膜を、注入成型基板から機械的な損傷なしに取り外し、次いで、例えば平坦膜の場合には、それを巻き取ることができる。温度調節のために、一部分を、時間遅れをもたせてロールから取り外してもよい。好ましい一態様においては、温度調節は、連続工程で実行される。連続温度調節は、本発明の膜が、従来型膜鋳造機械を使用する製造規模で容易に製造できるという利点がある。好ましい態様においては、温度調節は、200℃から300℃の範囲、より好ましくは230℃から280℃の範囲の温度で、1分から1時間の範囲の期間にわたって実施される。しかしながら、温度調節工程を5時間まで延長することも可能である。均質な溶液を製造し、副反応を防止するためには、この製造工程は、無水条件下で実行され、無水溶媒中で作業し、乾燥試薬を用い、乾燥保護ガス雰囲気下で、当業者であれば周知の方法で実行される。
【0016】
均質なバッチ溶液を製造するために、リン酸エステルは、塩の形態、好ましくは弱い有機塩基、さらに好ましくは弱く高度に揮発性の有機塩基、例えばアミンの形態で使用される。
【0017】
リン、硫黄、モリブデン、タングステン、またはケイ素をオキソ酸の中心原子として含む、有機オキソ酸誘導体を、好ましくは本発明の工程に使用される。使用される有機オキソ誘導体としては、例えば、酸塩化物、アルコキシ化合物、好ましくは中和多塩基性無機酸のエステル類およびアミド類がある。特に好ましい本発明の態様において、リン酸2−(ジエチルヘキシル)、モリブデニルアセチルアセトナート(molybdenyl acetylacetonate)および/またはテトラエトキシシランが、工程における有機誘導体として使用される。本発明の工程に使用されるポリマーは、ポリベンズイミダゾール、ポリピリジン、ポリピリミジン、ポリイミダゾール類、ポリベンズチアゾール類、ポリベンズオキサゾール類、ポリオキサジアゾール類、ポリキノキサリン類、ポリチアジアゾール類、ポリ(テトラアザピリン)類およびそれらの2種以上の組合せからなる群から選択される。その他の好適なポリマーとしては、アミド結合を形成することのできる反応基を側鎖内に有するポリマー類、および1次または2次のアミノ基を有するポリマー類がある。
【0018】
溶液を注型して膜を形成するために、溶液は、溶媒に加えて、ポリマー(複数を含む)およびオキソ酸誘導体を含む。膜を製造するのに使用される溶液用の溶媒には、本質的に、ポリマー(複数を含む)およびオキソ酸誘導体がその中に溶解する、すべての溶媒が含まれる。溶媒は、好ましくは、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DFM)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMAc)およびそれらの混合物からなる群から選択される。ジメチルアセトアミドは特に好ましい。溶液中のポリマー(複数を含む)の濃度は、膜を製造するのに使用される合計溶液の重量に基づいて、4重量%から30重量%、好ましくは10重量%から25重量%、さらに好ましくは15重量%から25重量%の範囲である。ここでの濃度は、ポリマー(複数を含む)の種類、およびその/それらの分子量およびそれぞれの溶媒および/または溶媒混合物中での溶解度に依存する。オキソ酸誘導体の量は、ポリマー含有量に基づいて、5重量%から80重量%、好ましくは10重量%から40重量%、さらに好ましくは15重量%から30重量%の範囲である。
【0019】
本発明の方法の好ましい一態様においては、好ましくは、0.90dL/g以上の固有粘度を有するN,Nジメチルアセトアミド中のPBIの1重量%溶液を使用して、PBIをリン酸2−(ジエチルヘキシル)と反応させる。これらの値に基づいて、マーク・ホーウインク(Mark-Houwink)式を用いて、数平均分子量60,000g/mol以上を、計算することができる。しかしながら、35,000g/molおよび200,000g/molの範囲の分子量を有するPBIを使用することもできる。
【0020】
本発明の膜の製造方法においては、化学的に安定なリン酸アミド結合が、PBIとリン酸誘導体との間に形成される。ホスホリル基のポリベンズイミダゾールの窒素原子への直接結合は、非常に安定な化合部を生成する。さらに、リン酸アミドを、リン酸ジアミドと、仮に温度調節中にさらに反応させて、その結果、膜がさらに架橋されてネットワークを形成し、それによって機械的性質がさらに向上する。
【0021】
本発明の燃料電池は、本発明の膜をその間にはさんだ2つの平坦ガス拡散電極から組み立てられる、少なくとも1つの膜電極ユニット(MEA)、ならびに膜用のドーパントを含む。本発明の燃料電池は、少なくとも250℃の動作温度に適する、高温高分子電解質膜燃料電池である。ガス拡散電極は、ドーパントを添加されて、膜に対するドーパントリザーバとして作用し、膜は、圧力と温度の影響下で、ドーパントの取り込みによりプロトン伝導性となり、膜は、プロトン伝導性状態で、ガス分配電極に接続される。代替的に、本発明の膜を、それらを組み立ててMEAを形成する前に、直接的にドーパントで含浸させることもできる。リン酸は好ましいドーパントである。燃料電池は、水素/空気運転において、室温から少なくとも250℃の間の温度で動作が可能である。
次いで、本発明を図1から図4および例証的な態様に基づいてより詳細に説明する。
【0022】
実施例1
PBIおよびリン酸2−(ジエチルヘキシル)からの膜の製造
乾燥保護ガスの下で、ジメチルアセトアミド中で0.90dL/gの固有粘度を有し、かつ23重量%のポリマー濃度を有する、PBIの無水溶液300gを、6.9g無水リン酸2−(ジエチルヘキシル)(Sigma Aldrich)と攪拌しながら混合した。粘性は、N,N−ジメチルアセトアミド中にPBIが1重量%である溶液を用いて測定した。マーク・ホーウインク式を使用して、固有粘度からPBIに対して60,000g/molの平均分子量を計算することができる。最初に、リン酸2−(ジエチルヘキシル)をトリエタノールアミンで中和して、pHを7に調節した。結果として得られる溶液を、保護ガス下で平坦な基板上に注型して平坦膜を得た。膜鋳型に注型された溶液は、自己支持膜が形成されるまで、70℃の温度で加熱した。次いで、この膜を、250℃の温度で4時間の期間、温度調節するとともに、残留溶媒を除去した。
【0023】
このようにして生成された膜は、厚さが約45μmであり、膜電極ユニットの製作に直接的に使用可能であった。
リン酸エステルに対するIRスペクトルにおいて、1000cm−1の波数において鋭いピークが観察されることが知られている。そのような信号は、例えば、特許公報DE10155543C2の実施例1によって製造された膜について見られる。しかしながら、図1に示すように、実施例1によって製造された膜のIRスペクトルには、そのようなピークはなく、このことは、リン酸エステルがPBIと完全に反応したことに起因するものとしなければならない。その代わりに、約800cm−1の波数においてピークがあり、これはリン酸アミドのリン‐窒素結合に対応づけることができる。
【0024】
実施例2
引張り応力測定
引張り応力測定は、膜の機械的安定性を評価するために実施した。長さ10cm幅2cmの膜サンプルを、ツビック社(Zwick GmbH & Co.)製のZ2.5測定装置に締結して、5cm/minの速度で引き離した。実施例1によって製造されたポリマー膜は、応力164N/mm、伸び5%で破断する。
【0025】
実施例3
架橋程度の特定
架橋の程度は、実施例1によって製造された膜について、抽出によって特定した。辺長7.5cm×7.5cmで既知の開始重量を有するポリマー膜片のサンプルをパンチ加工して、丸底フラスコ内に入れた。十分なジメチルアセトアミドを、ポリマー片が完全に液で覆われるまで、丸底フラスコに加えた。丸底フラスコは、湯浴内で130℃まで加熱した。非架橋PBI膜は、これらの条件下で完全に溶解することになる。溶媒は、130℃で1時間加熱後にフィルタリングし、次いで室温まで冷却することによって除去した。サンプルは、乾燥室において200℃で一晩乾燥させた。乾燥後に、サンプルはデシケータ中に入れ、このデシケータは乾燥ビーズを充填するとともに、サンプルを室温まで冷却するために100mbarまで真空に引いた。重量分析によって、膜の93%は不溶であり、したがって安定な架橋を有していたことがわかった。
【0026】
実施例4
燃料電池の製造
燃料電池を製造するために、実施例1によって製造された膜を104.04cmの大きさの正方形片に切断した。E−TEK社製の、2.0mg/cmでPt添加され、50cmの面積を有する、市販のELAT電極に、リン酸15mg/cmを添加した。このようにして含浸させた電極は、膜とともに、フューエル・セル・テクノロジー社(Fuel Cell Technologies, Inc.)の試験燃料電池内に、膜電極ユニット(MEA)として設置した。試験燃料電池は、15バールの接触圧でシールして、圧力のない状態で160℃の窒素流中で16時間、調整した。
【0027】
実施例5
実施例4による燃料電池の電力パラメータの特定
図2は、160℃における、MEAを備える実施例4に従って製造された燃料電池に対する電圧‐電流密度曲線を示す。H流速は738smL/minであり、空気流速は2486smL/minであった。電力パラメータは、ハイドロジェニックス社(Hydrogenics, Inc.)製のFCATSアドバンスド・スクリーナ(Advanced Screener)によって特定した。3bar absにおいて、最大電力密度0.44W/cmと、電流密度1.3A/cmが測定された。この場合には、乾燥ガスを使用した。これらの試験条件下において、燃料電池は、1689Hzの計測周波数において、450mΩcmのインピーダンスを有した。
【0028】
実施例6
PBIおよび2−モリブデニルアセチルアセトナートの膜の製造
乾燥保護ガス下で、ジメチルアセトアミド中で、0.90dL/gの固有粘度と23重量%のポリマー濃度とを有する、PBIの溶液300gを、6.9gの無水2−モリブデニルアセチルアセトナート(Sigma Aldrich)と攪拌しながら混合した。粘度は、N,N−ジメチルアセトアミド中で、1重量%のPBI溶液を用いて、特定した。マーク・ホーウインク(Mark Houwink)の式を用いて、固有粘度から、PBIに対して平均分子量60,000g/molを計算することができる。結果として得られる溶液は、保護ガスの下で基板上に注型して平坦膜を形成した。膜鋳型に注型された溶液は、70℃の温度まで加熱して、自己支持膜を形成させた。次いで、膜を4時間、温度250℃で温度調節して、残留溶媒を除去した。膜の厚さは約44μmであり、製造後に膜電極ユニットを製作するのに直接的に使用することができた。
【0029】
実施例7
引張り応力測定
実施例6に従って製造された膜の機械的安定性を評価するために、実施例2に説明したように、引張り応力測定を実施した。実施例6に従って製造された膜は、応力199N/mm、伸び5%で破断する。
【0030】
実施例8
架橋程度の特定
実施例6に従って製造された膜について、実施例3で説明したにように、抽出によって架橋程度を特定した。重量的に、膜の98%は不溶であり、したがって安定な架橋を有することがわかった。
【0031】
実施例9
燃料電池の製造
燃料電池の製造のために、実施例6に従って製造された膜を、約104.04cmの大きさの正方形片に切断した。E−TEK社製の、2.0mg/cmでPt添加され、50cmの面積を有する、市販のELAT電極に、リン酸17mg/cmを添加し、フューエル・セル・テクノロジーズ社(Fuel Cell Technologies, Inc.)製の試験燃料電池内に膜電極ユニットとして従来式配設で設置した。この電池は、15barの接触圧でシールして、圧力のない状態で160℃の窒素流中で調整した。
【0032】
実施例10
実施例9による燃料電池の電力パラメータの特定
図3は、160℃における、実施例9に従って製造された燃料電池に対する、電流‐電圧曲線を示す。H流速は、783smL/minであり、空気流速は2486smL/minであった。電力パラメータは、ハイドロジェニクス社(Hydrogenics, Inc.)製のFCATSアドバンスド・スクリーナ(FCATS Advanced Screener)について特定した。乾燥ガスを使用して、最大電力密度0.28W/cmと電流密度1.0A/cmが、3bar absにおいて計測された。記述試験条件下で、このMEAのインピーダンスは、2664Hzの計測周波数において、950mΩcmであった。
【0033】
実施例11
PBIとテトラエトキシシランとから膜の製造
保護ガス下で、ジメチルアセトアミド中で0.90dL/gの固有粘度と、23重量%のポリマー濃度を有する、300gのPBI溶液を、2,76gテトラエトキシシラン(Wacker社製のシリケートTES28)と攪拌しながら混合した。結果として得られる溶液を、保護ガスの下で平坦基板上に注型して、平坦膜を形成した。膜形態に変換された溶液は、自己支持膜が発達するまで、70℃までの温度まで加熱した。次いで、膜を、250℃の温度で4時間、次いで350℃で30分間、温度調節して残留溶媒を除去した。膜の厚さは約36μmであり、製造後に、膜電極ユニットを製作するのに直接的に使用することができた。
【0034】
実施例12
引張り応力測定
実施例11に従って製造された膜の機械的安定性を、実施例2において説明したように、引張り応力測定によって分析した。実施例11に従って製造された膜は、応力175N/mm、伸び5%において破断する。
【0035】
実施例13
架橋程度の特定
実施例11に従って製造された膜の、架橋程度を、実施例3において説明したように、抽出によって特定した。
重量的に、膜の99%は不溶であり、したがって安定な架橋を有することが分かった。
【0036】
実施例14
燃料電池の製造
燃料電池の製造のために、実施例11に従って製造された膜を、約56.25cmの大きさの正方形片に切断した。E−TEK社製の、2.0mg/cmでPt添加され、10cmの面積を有する、市販のELAT電極に、リン酸13mg/cmを添加し、フューエル・セル・テクノロジーズ社(Fuel Cell Technologies, Inc.)製の試験燃料電池内に膜電極ユニット(MEA)として従来式配設で設置した。この電池は、15barの接触圧でシールされ、圧力のない状態において160℃で16時間、窒素流中で調整した。
【0037】
実施例15
実施例14による燃料電池の電力パラメータの特定
図4は、180℃における、実施例14に従って製造された燃料電池に対する、電流‐電圧曲線を示す。Hのガス流は170smL/minであり、空気に対しては570smL/minであった。湿気のないガスを使用した。電力パラメータは、ハイドロジェニクス社(Hydrogenics, Inc.)製のFCATSアドバンストスクリーナ(FCATS Advanced Screener)について特定した。3bar abs、1.0A/cmの電流密度において測定された最大電力は、0.34W/cmであった。記述試験条件下で、このMEAのインピーダンスは、1314Hzの計測周波数において、280mΩcmであった。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の膜のIRスペクトルを示す図である。
【図2】実施例1に従って製造される膜を備える、本発明の燃料電池の電流‐電圧特性を示す図である。
【図3】実施例6に従って製造される膜を備える、本発明の燃料電池の電流‐電圧特性を示す図である。
【図4】実施例11に従って製造される膜を備える、本発明の燃料電池の電流‐電圧特性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素原子を有する少なくとも1種のポリマーを含む燃料電池用の膜であって、該窒素原子が多塩基性無機オキソ酸又はその誘導体の中心原子に化学的に結合している、前記膜。
【請求項2】
化学的な結合がアミド結合である、請求項1に記載の膜。
【請求項3】
ポリマーおよびオキソ酸誘導体が架橋されて、プロトン伝導特性の発達の下にドーパントを取り込むことのできるネットワークを形成している、請求項1に記載の膜。
【請求項4】
ネットワークが、少なくとも2次元に形成されている、請求項3に記載の膜。
【請求項5】
ドーパントがリン酸である、請求項3に記載の膜。
【請求項6】
少なくとも70%のポリマーが架橋されている、請求項3に記載の膜。
【請求項7】
ポリマーが、ポリベンズイミダゾール、ポリピリジン、ポリピリミジン、ポリイミダゾール類、ポリベンズチアゾール類、ポリベンズオキサゾール類、ポリオキサジアゾール類、ポリキノキサリン類、ポリチアジアゾール類、ポリ(テトラアザピリン)類からなる群から選択されるものであるか、あるいは前記ポリマーは、アミド結合を形成することのできる反応基を側鎖内に有するか、または第1及び第2アミノ基を有する、請求項1に記載の膜。
【請求項8】
オキソ酸又はその誘導体の中心原子が、リン、硫黄、モリブデン、タングステン、砒素、アンチモン、ビスマス、セレン、ゲルマニウム、スズ、鉛、ボロン、クロム又はケイ素である、請求項1に記載の膜。
【請求項9】
オキソ酸誘導体が、アルコキシ化合物、エステル、アミドまたは酸塩化物のような有機誘導体である、請求項8に記載の膜。
【請求項10】
オキソ酸誘導体が、リン酸2−(ジエチルヘキシル)、モリブデニルアセチルアセトンおよびテトラエトキシシランの内の1種または2種以上である、請求項8又は9に記載の膜。
【請求項11】
請求項1〜10に記載の膜を製造する方法であって、
a)少なくとも1種の有機ポリマーと無機中心原子を有する多塩基性無機オキソ酸の誘導体との無水均質溶液を調製して、前記少なくとも1種のポリマーが、前記オキソ酸の誘導体の中心原子と化学結合を形成することのできる反応基を有するようにすること、
b)得られた溶液を膜鋳型に注型すること、
c)前記膜鋳型に入れられた前記溶液を、50℃から90℃の範囲の温度に加熱して、自己支持膜を形成すること、
d)前記膜を、150℃から400℃の範囲の温度において1分から5時間の間、温度調節するとともに、残留溶媒を除去することを含む、前記方法。
【請求項12】
オキソ酸誘導体が、アルコキシ化合物、エステル、酸塩化物、またはオキソ酸のアミドである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
オキソ酸誘導体が、リン、硫黄、モリブデン、タングステン、砒素、アンチモン、ビスマス、セレン、ゲルマニウム、スズ、鉛、ボロン、クロムおよび/又はケイ素を中心原子として有する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
リン酸2−(ジエチルヘキシル)、モリブデニルアセチルアセトナートおよびテトラエトキシシランがオキソ酸誘導体として用いられる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
有機ポリマーが、ポリベンズイミダゾール、ポリピリジン、ポリピリミジン、ポリイミダゾール類、ポリベンズチアゾール類、ポリベンズオキサゾール類、ポリオキサジアゾール類、ポリキノキサリン類、ポリチアジアゾール類、ポリ(テトラアザピリン)類からなる群から選択されるものであるか、あるいは前記ポリマーが、アミド結合を形成することのできる反応基を側鎖内に有するか、または第1及び第2アミノ基を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
少なくとも1つの膜電極ユニットおよび膜のためのドーパントを含む少なくとも250℃の動作温度まで耐える燃料電池であって、前記膜電極ユニットが、2つの平坦ガス分配電極、請求項1〜10のいずれかに記載のサンドイッチ状に配置された膜から形成されている、前記燃料電池。
【請求項17】
ガス分配電極が、膜のためのドーパントリザーバとして作用するようにドーパントが添加され、
膜は、ドーパントを取り込み、圧力および温度の作用を受けて、プロトン伝導性となり、前記ガス分配電極に、プロトン伝導性で接続される、請求項16に記載の燃料電池。
【請求項18】
ドーパントがリン酸である、請求項16又は17に記載の燃料電池。
【請求項19】
燃料電池は、水素/空気運転において、室温から少なくとも250℃の間の温度で動作可能である、請求項16〜18のいずれかに記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−522615(P2007−522615A)
【公表日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−551774(P2006−551774)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【国際出願番号】PCT/EP2005/000838
【国際公開番号】WO2005/076401
【国際公開日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【出願人】(595142750)ザトーリウス アクチエン ゲゼルシャフト (22)
【Fターム(参考)】