説明

燃料電池用ガス拡散層の製造方法

【課題】多孔質材料からなる基材とマイクロポーラスレイヤーの2層構造を持つガス拡散層を、より簡単な処理でもって、かつ基材の多孔度を低下させることなく製造する。
【解決手段】撥水処理を施さない基材1の一方面にマイクロポーラスレイヤー構成材である少なくとも導電性材料と撥水剤との混合溶液2を塗布し、塗布した前記混合溶液の乾燥処理を混合溶液の溶剤の蒸散除去割合がマイクロポーラスレイヤー側に比べて基材側で高くするようにして行う。その際に、混合溶液に増粘剤を添加して、導電性材料を凝集(ストラクチャー構造)した状態とするか、あらかじめ凝集した状態にある導電性材料を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の膜電極接合体で用いられるガス拡散層の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の一形態として固体高分子型燃料電池が知られている。固体高分子型燃料電池は他の形態の燃料電池と比較して作動温度が低く(−30℃〜120℃程度)、また、低コスト、コンパクト化が可能なことから、自動車の動力源等として期待されている。
【0003】
固体高分子型燃料電池は、図2に示すように、発電部を構成する膜電極接合体(MEA)50を主要な構成要素とし、それを燃料(水素)ガス流路51aおよび空気ガス流路51bを備えたセパレータ52a、52bで挟持し、加圧締結することで、1つの燃料電池セル53としている。膜電極接合体50は、イオン交換膜である電解質膜55と、その両面に形成した触媒層56,56と触媒層の外側に積層したガス拡散層57,57とからなる電極58,58とで構成される。
【0004】
触媒層56は、白金のような触媒金属をカーボン粒子のような導電性材料の表面に担持させた粒子状の触媒物質と電解質樹脂とを、水または有機溶媒系の溶液内で分散させながら混合溶液(触媒物質含有インク)を作り、この混合溶液を固体高分子電解質膜に塗布した後、加熱乾燥して定着する等の手法により形成される。
【0005】
ガス拡散層57は、ガス透過性と電子伝導性を合わせ備えるものであり、従来から、カーボンペーパーまたはカーボンクロスのような多孔性カーボン支持体が主に用いられている。また、ガス拡散層は発電時に生成する水の排水性を良好にするために高い撥水性を備えることが望ましく、特許文献1に記載のように、カーボンペーパーまたはカーボンクロスのような導電性多孔質材料からなる基材にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の樹脂溶液またはペーストを含浸またはコーティングした後、乾燥させる撥水化処理が施される。
【0006】
他のガス拡散層として、多孔質材料からなる基材(GDL)とマイクロポーラスレイヤー(MPL)の2層構造を持つガス拡散層が知られている(特許文献2など参照)。この拡散層では、多孔質材料からなる基材はセパレータ側に接触し、マイクロポーラスレイヤーは触媒層側に接触する。この2層構造からなるガス拡散層では、多孔質材料からなる基材は主にガス拡散層としての機能を果たし、マイクロポーラスレイヤーは主に集電層としての機能を果たす。いずれの層でも発電時に生成する水の排水性を良好にするために撥水性を備えることは必要であり、双方に適宜の撥水化処理が施される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−71691号公報
【特許文献2】特表2002−529890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記した、多孔質材料からなる基材(GDL)とマイクロポーラスレイヤー(MPL)の2層構造を持つガス拡散層を製造する場合、従来は、多孔質材料からなる基材に対して撥水処理を施しておき、その上に、撥水処理を施したマイクロポーラスレイヤーを積層して圧接するか、または、マイクロポーラスレイヤー構成材である導電性材料と撥水剤との混合溶液を塗布し乾燥させる処理を行っている。すなわち、基材とマイクロポーラスレイヤーとのそれぞれに別個に撥水処理を施しており、大きな作業負担となっている。また、マイクロポーラスレイヤーを基材に圧接する場合に、マイクロポーラスレイヤーを構成する導電性材料が基材表面に埋設して、基材の多孔度を低下させることも起こっている。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、多孔質材料からなる基材とマイクロポーラスレイヤーの2層構造を持つガス拡散層を、より簡単な処理でもって、かつ基材の多孔度を低下させることなく製造することのできる新たな製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本出願の第1の発明による燃料電池用ガス拡散層の製造方法は、多孔質材料からなる基材とマイクロポーラスレイヤーの2層構造を持つ燃料電池用ガス拡散層の製造方法であって、撥水処理を施さない基材の一方面に、マイクロポーラスレイヤー構成材である少なくとも導電性材料と撥水剤と導電性材料を凝集させる機能を持つ増粘剤と溶剤との混合溶液を塗布し、塗布した前記混合溶液の乾燥処理を混合溶液の溶剤の蒸散除去割合がマイクロポーラスレイヤー側に比べて基材側で高くするようにして行うことを特長とする。
【0011】
本出願の第2の発明による燃料電池用ガス拡散層の製造方法は、多孔質材料からなる基材とマイクロポーラスレイヤーの2層構造を持つ燃料電池用ガス拡散層の製造方法であって、撥水処理を施さない基材の一方面に、マイクロポーラスレイヤー構成材である少なくとも導電性材料と撥水剤と溶剤との混合溶液であって導電性材料が凝集した状態にある混合溶液を塗布し、塗布した前記混合溶液の乾燥処理を混合溶液の溶剤の蒸散除去割合がマイクロポーラスレイヤー側に比べて基材側で高くするようにして行うことを特長とする。
【0012】
上記のいずれの製造方法でも、基材の一方面に塗布したマイクロポーラスレイヤー用の混合溶液の乾燥処理を、混合溶液の溶剤の蒸散除去割合がマイクロポーラスレイヤー側に比べて基材側で高くするようにして行うようにしており、乾燥処理の過程で、混合溶液中の撥水剤は基材中に染み込んでいく。それにより、基材には所要の撥水処理が施される。すなわち、製造に当たり、基材として撥水処理を施していない基材を用いることができるので、従来の基材に撥水処理を施す工程を省略することができる。
【0013】
上記のような製造方法において、乾燥処理の過程で、マイクロポーラスレイヤー用の混合溶液中の導電性材料が、多孔質材料である基材表面に埋設して、基材の多孔度を低下させる恐れがある。
【0014】
本出願の第1の発明による燃料電池用ガス拡散層の製造方法では、導電性材料を凝集させる機能を持つ増粘剤を混合溶液に添加することで、前記多孔度の低下を阻止している。すなわち、多孔質基材の平均孔径よりも平均粒子径が小さい導電性材料が完全分散した状態で均一に混合溶液中に存在する場合には、前記乾燥処理の過程で、導電性材料が基材表面に埋設して、多孔度を低下させる。しかし、混合溶液中の導電性材料を凝集させる機能を持つ増粘剤を溶液中に添加することにより、複数個の導電性材料粒子は凝集した状態となり、縦横比(アスペクト比)が1以上のストラクチャー構造体となる。縦横比が1以上となった前記ストラクチャー構造体は、前記乾燥処理の過程で導電性材料が基材表面に埋設することはなく、それにより、多孔質基材の多孔度は維持される。
【0015】
上記した複数個の導電性材料粒子が凝集した縦横比が1以上のストラクチャー構造体の大きさは、基材である多孔質材料の種類や平均孔径に応じて、適切な値が選定されるが、現在実用化されている膜電極接合体で使用するガス拡散層においては、メジアン径で1〜20μmの範囲が適切である。
【0016】
上記の発明において、増粘剤は、導電性材料粒子に対して馴染みやすく界面活性剤としての機能を持つものであれば、適宜の材料を用いることができ、また導電性材料の種類によっても最適な増粘剤の種類は変化するが、例として、アルカリ増粘型増粘剤、ウレタン会合型増粘剤などが挙げられる。増粘剤の添加量は、マイクロポーラスレイヤー構成材を構成する他の材料、例えば、導電性材料、撥水剤などの量と種類などによって、また、添加してから塗布するまでの時間によっても変化するが、通常の場合、1〜30容量%である。1容量%より少ないと、導電性材料粒子の所期した凝集が得られず、縦横比が1以上のストラクチャー構造体が形成されない恐れがある。30容量%を超えると、導電性材料粒子の凝集が進行しすぎて、大きな塊を形成してしまい、多孔質材料からなる基材に対する均一な塗布ができなくなる恐れがある。
【0017】
本出願の第2の発明による燃料電池用ガス拡散層の製造方法では、導電性材料が凝集した状態にある混合溶液を、多孔質材料からなる基材に塗布することで、前記多孔質材料の多孔度の低下を阻止している。通常、導電性材料の微粉末は、放置しておくと相互に凝集して塊となる傾向がある。そのために、少なくとも導電性材料と撥水剤と溶剤とを含む混合溶液を作る場合、大きな塊を分散処理しながら混合液中にほぼ均質に分散させる、分散処理が行われる。本出願の第2の発明においては、この分散処理を、集合している導電性材料が完全にあるいはほぼ完全に分離するまでは行わず、複数個の導電性材料粒子が凝集した状態にあり、縦横比が1以上のストラクチャー構造体となる程度まで行う。そして、このように導電性材料が凝集した状態にある混合溶液を、多孔質材料からなる基材に塗布するようにする。この場合も、凝集した状態にある導電性材料の大きさは、基材である多孔質材料の種類や平均孔径に応じて、適切な値に設定されるが、現在実用化されている膜電極接合体で使用するガス拡散層においては、メジアン径で1〜20μmの範囲が適切である。
【0018】
マイクロポーラスレイヤー構成材である少なくとも導電性材料と撥水剤と溶剤との混合溶液を分散処理する方法には、ビーズミル分散処理、ディスパー分散処理、プラネタリーミキサー分散処理などが一般に行われるが、ビーズミル分散処理は、集合している導電性材料をほぼ完全に分離させてしまい、メジアン径が基材の平均孔径よりも大幅に小さくなるために好ましくない。ディスパー分散処理またはプラネタリーミキサー分散処理によって、メジアン径で1〜20μmの範囲のストラクチャー構造体が残るように制御しながら、分散溶液の攪拌を行うことが好ましい。
【0019】
混合溶液を分散処理するときに、処理の都合で、導電性材料の分散が過度に進行してしまった場合には、前記した増粘剤を分散処理後の混合溶液に添加することで、導電性材料が所期の程度に凝集した混合溶液とすることができる。
【0020】
本発明において、多孔質材料からなる基材には、従来のガス拡散層で用いられているガス透過性と導電性を備える任意の材料を用いることができる。例として、導電性無機材料が挙げられる。導電性無機材料としては、黒鉛および膨張黒鉛等の炭素材料やこれらのナノカーボン材料、ステンレススチール、モリブデン、チタン等を挙げることができる。導電性無機材料の形態は特に限定されるものではなく、例えば繊維状あるいは粒子状で用いられるが、ガス透過性の点から無機導電性繊維であって、特に炭素繊維が好ましい。織布あるいは不織布のいずれであってもよく、より具体的には、カーボンペーパーやカーボンクロスが好適な例として挙げられる。前記したように、本発明では、それらの材料は撥水処理を施すことなく、基材として用いられる。
【0021】
本発明において、マイクロポーラスレイヤー構成材である導電性材料には、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、金、銀およびこれらの化合物または合金、さらには、導電性炭素材料などが挙げられる。導電性炭素材料の例として、カーボンブラックが挙げられる。本発明において、水に馴染みやすい導電性炭素材料は、凝集体(ストラクチャー構造体)を作り難いので好ましくない。その例として、水酸基を表面に持つカーボンやBMCBなどが挙げられる。
【0022】
本発明において、撥水剤は、従来のガス拡散層を撥水処理するのに用いられている任意の撥水剤を用いることができる。好ましい例として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などのフッ素樹脂を挙げることができる。
【0023】
本発明において、マイクロポーラスレイヤー構成材である混合溶液は、適宜の溶剤を含む。溶剤は水系であってもよく、有機系溶剤であってもよい。水系溶剤の場合には、例えば一般にカーボンなどの導電性材料は水に濡れ難いことから、適宜の界面活性剤をさらに加えることが好ましい。界面活性剤を加える場合には、製造工程の最後に、ガス拡散層に対して界面活性剤を除去するために焼成処理を施すことが望ましい。有機系溶媒を用いる場合には、界面活性剤の添加は省略できる。
【0024】
本発明において、基材に対する前記混合溶液の塗布は、刷毛塗り、筆塗り、ロールコーター塗布、バーコーター塗布、ダイコーター塗布、スクリーン印刷、スプレー塗布などの方法で行うことができる。
【0025】
本発明において、塗布した前記混合溶液の乾燥処理を混合溶液の溶剤の蒸散除去割合がマイクロポーラスレイヤー側に比べて基材側で高くするようにして行う方法は、任意であり、適宜の方法を採用することができる。例えば、マイクロポーラスレイヤー側を高い湿度環境(例えば飽和状態)におき、基材側を比較して低い湿度環境におく方法や、マイクロポーラスレイヤー側をシールド(密閉)し、基材側を開放した環境におく方法や、基材側から吸引する方法、等を挙げることができる。湿度差を与える方法の具体例として、マイクロポーラスレイヤーの表面に水蒸気を含む空気を走らせ、基材の表面に乾燥した空気を走らせるような方法が挙げられる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、多孔質材料からなる基材とマイクロポーラスレイヤーの2層構造を持つガス拡散層を、より簡単な処理でもって、かつ基材の多孔度を低下させることなく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明による製造方法を説明する図。
【図2】固体高分子型燃料電池の一例を説明する図。
【実施例】
【0028】
以下、実施例と比較例により本発明を説明する。
[実施例1]
(a)多孔質材料からなる基材として、多孔度が80%である撥水処理を施さないカーボンペーパーを用いた。マイクロポーラスレイヤー(MPL)構成材として、縦横比がほぼ1であるカーボンブラック粒子と撥水剤としてのPTFEと水と界面活性剤との混合溶液を用い、それをディスパー分散処理して、カーボンブラック粒子がメジアン径5μm程度に凝集して縦横比が1以上の状態となっている混合溶液とした。
【0029】
(b)図1(a)に示すように基材1を平坦面上に置き、図1(b)に示すようにその表面に前記分散処理後のカーボンブラック粒子3と撥水剤としてのPTFE4と水と界面活性剤との混合溶液2をダイコーター法により塗布した。その後、塗布した混合溶液2側をシールドした状態で一定時間放置して乾燥処理を行った。それにより、図1(c)に示すように、塗布した混合溶液2の溶剤の蒸散除去割合を、混合溶液(マイクロポーラスレイヤー)2側に比べて基材1側で高くした状態で、乾燥処理が進行し、塗布した混合溶液2中のPTFE4の一部が基材1側に移動した。蒸散割合は、基材側がほぼ10であり、マイクロポーラスレイヤー側はほぼ0であった。
【0030】
(c)乾燥後、界面活性剤を除去するために焼成処理を行い、多孔質材料からなる基材とマイクロポーラスレイヤーの2層構造を持つ燃料電池用ガス拡散層を得た。
【0031】
(d)得られた燃料電池用ガス拡散層における、基材1側の多孔度を水銀ポロシ法(島津製作所製 オートポアIV9500)で測定したところほぼ80%であった。また、撥水性を確認するために、13wt%のエタノール水溶液を用いて基材面の転落角を測定したところ、52度であった。目視観察したところ、拡散層のマイクロポーラスレイヤーにクラックの発生は見られなかった。
【0032】
[実施例2]
(a)実施例1と同様、多孔質材料からなる基材として、多孔度が80%である撥水処理を施さないカーボンペーパーを用いた。マイクロポーラスレイヤー(MPL)構成材として、縦横比がほぼ1であるカーボンブラック粒子と撥水剤としてのPTFEと水と界面活性剤との混合溶液を用い、それをビーズミル分散処理により、カーボンブラック粒子の凝集が分散してストラクチャー構造がほぼ完全に破壊した状態の混合溶液とした。その混合溶液に、アルカリ増粘型増粘剤ASE60(ローム&ハース社製)を3容量%添加し、ディスパーで混合し1時間放置したものを塗布用の混合溶液とした。
【0033】
(b)前記混合溶液を、実施例1と同様にして基材1に塗布した。その後、塗布した混合溶液側をシールドした状態で一定時間放置して乾燥処理を行った。実施例1と同じように、塗布した混合溶液2の溶剤の蒸散除去割合を、混合溶液(マイクロポーラスレイヤー)2側に比べて基材1側で高くした状態で、乾燥処理が進行した。蒸散割合は、基材側がほぼ10であり、マイクロポーラスレイヤー側はほぼ0であった。
【0034】
(c)乾燥後、界面活性剤を除去するために焼成処理を行い、多孔質材料からなる基材とマイクロポーラスレイヤーの2層構造を持つ燃料電池用ガス拡散層3を得た。
【0035】
(d)実施例1と同様にして、得られた燃料電池用ガス拡散層3における、基材1側の多孔度を測定したところほぼ80%であった。また、撥水性を確認するために、13wt%のエタノール水溶液を用いて基材面の転落角を測定したところ、52度であった。目視観察したところ、拡散層のマイクロポーラスレイヤーにクラックの発生は見られなかった。
【0036】
[比較例1]
実施例1で用いたカーボンペーパーにPTFEによる撥水処理を予め施した材料を基材として用いた。その基材の表面に、マイクロポーラスレイヤー(MPL)構成材として、縦横比がほぼ10である気相成長法で得られたカーボンファイバー(VGCF)とPTFEと水と界面活性剤との混合溶液を塗布した。その後、通常の方法で乾燥処理と焼成処理を行って多孔質材料からなる基材とマイクロポーラスレイヤーの2層構造を持つ燃料電池用ガス拡散層を得た。得られた燃料電池用ガス拡散層における、基材1側の多孔度を実施例1と同様にして測定したところほぼ80%であった。また、13wt%のエタノール溶液を用いて基材面の転落角を測定したところ、52度であった。目視観察したところ、拡散層のマイクロポーラスレイヤーにクラックの発生は見られなかった。
【0037】
[比較例2]
実施例1で用いた撥水処理を施さないカーボンペーパーを基材として用いた。マイクロポーラスレイヤー構成材として、縦横比がほぼ1であるカーボンブラック粒子と撥水剤としてのPTFEと水と界面活性剤との混合溶液を用い、それをビーズミル分散処理により、カーボンブラック粒子の凝集が分散してストラクチャー構造がほぼ完全に破壊した状態の混合溶液とした。破壊後の混合溶液を前記基材の表面に実施例1と同様にして塗布した後、塗布した混合溶液側をシールドした状態で一定時間放置して乾燥処理を行った。実施例1と同じように、塗布した混合溶液2の溶剤の蒸散除去割合を、混合溶液(マイクロポーラスレイヤー)2側に比べて基材1側で高くした状態で、乾燥処理が進行した。蒸散割合は、基材側がほぼ10であり、マイクロポーラスレイヤー側はほぼ0であった。
この場合には、マイクロポーラスレイヤー用の混合溶液が基材側に含浸してしまい、マイクロポーラスレイヤーが形成されなかった。
【0038】
焼成処理を行って燃料電池用ガス拡散層を得た。得られた燃料電池用ガス拡散層における、基材側の多孔度を実施例1と同様にして測定したところほぼ75%に低下していた。基材面の撥水性を確認するために、13wt%のエタノール溶液を用いて基材面の転落角を測定したところ、52度であった。
【0039】
[比較例3]
乾燥処理を、基材側をシールドした状態で一定時間放置することにより行った以外は、比較例2と同様にして、多孔質材料からなる基材とマイクロポーラスレイヤーの2層構造を持つ燃料電池用ガス拡散層を得た。蒸散割合は、基材側がほぼ0であり、マイクロポーラスレイヤー側はほぼ10であった。得られた燃料電池用ガス拡散層における、基材側の多孔度を測定したところほぼ80%であった。また、撥水性を確認するために、13wt%のエタノール溶液を用いて基材面の転落角を測定したところ、65度であった。目視観察したところ、拡散層のマイクロポーラスレイヤーにクラックが生じていた。
【0040】
[参考例]
多孔質材料からなる基材として、実施例1と同じ撥水処理を施さないカーボンペーパーを用いた。マイクロポーラスレイヤー(MPL)構成材として、縦横比がほぼ10である気相成長法で得られたカーボンファイバー(VGCF)とPTFEと水と界面活性剤との混合溶液を用いた。
【0041】
前記混合溶液を前記基材の表面に実施例1と同様にして塗布した後、塗布した混合溶液側をシールドした状態で一定時間放置して乾燥処理を行った。乾燥後、焼成処理を行って多孔質材料からなる基材とマイクロポーラスレイヤーの2層構造を持つ燃料電池用ガス拡散層を得た。得られた燃料電池用ガス拡散層における、基材側の多孔度を実施例1と同様にして測定したところほぼ80%であった。基材面の撥水性を確認するために、13wt%のエタノール溶液を用いて基材面の転落角を測定したところ、52度であった。目視観察したところ、拡散層のマイクロポーラスレイヤーにクラックの発生は見られなかった。
[考察]
上記の結果を表1にまとめて示した。
【0042】
【表1】

【0043】
[考察]
実施例1および2に示すように、本発明の製造方法により製造したガス拡散層は、比較例1である従来法によって製造したガス拡散層とおなじレベルの撥水性と多孔度を有している。また、表面乾きがないことから、マイクロポーラスレイヤーにクラックが発生することもない。このことは、本発明による製造方法では、基材に撥水処理を別途の処理として施すことを省略できることを示しており、本発明の優位性が示される。
【0044】
比較例2では、マイクロポーラスレイヤー(MPL)側のカーボンとして縦横比がほぼ1であるカーボンを用いたことから、基材側から蒸散させたときに、マイクロポーラスレイヤー用の混合溶液がカーボンも含めて基材側に含浸してしまい、マイクロポーラスレイヤーが形成されなかった。また、カーボンが基材表面に押し込められてしまい、結果として多孔度が低下してしまった。
【0045】
比較例3では、比較例2とは蒸散方向を逆(MPL:マイクロポーラスレイヤー側)としたために、基材側の多孔度の低下はないが、基材側への撥水剤の移動がないために、基材の撥水性が低下している。また、マイクロポーラスレイヤーの表面乾きが起こるために、クラックが発生した。
【0046】
参考例では、マイクロポーラスレイヤー(MPL)構成材として、縦横比がほぼ10であるカーボンファイバーを含む混合溶液を用いたことから、基材側から蒸散させたときに、カーボンファイバーの基材側への移動はなく、多孔質である基材の多孔度の低下を招いていない。また、撥水処理を施さないカーボンペーパーを基材として用いながら、混合溶液の撥水剤(PTFE)が当該基材側に移動したことから、基材は、本発明による実施例1および2と同様の撥水性が得られている。
【0047】
本発明では、縦横比がほぼ1であるカーボン粒子を用いていながら、カーボン粒子を凝集させる機能を持つ増粘剤を混合溶液に添加したことにより(実施例1)、また、カーボン粒子が凝集した状態にある混合溶液を用いたことにより、多孔質である基材の多孔度の低下がなく、かつ基材が撥水性を備えている燃料電池用ガス拡散層が得られることがかわる。
【符号の説明】
【0048】
1…多孔質材料からなる基材、
2…マイクロポーラスレイヤー構成材を含む混合溶液、
3…多孔質材料からなる基材とマイクロポーラスレイヤーの2層構造を持つ燃料電池用ガス拡散層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質材料からなる基材とマイクロポーラスレイヤーの2層構造を持つ燃料電池用ガス拡散層の製造方法であって、
撥水処理を施さない基材の一方面に、マイクロポーラスレイヤー構成材である少なくとも導電性材料と撥水剤と導電性材料を凝集させる機能を持つ増粘剤と溶剤との混合溶液を塗布し、塗布した前記混合溶液の乾燥処理を混合溶液の溶剤の蒸散除去割合がマイクロポーラスレイヤー側に比べて基材側で高くするようにして行うことを特長とする燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
【請求項2】
多孔質材料からなる基材とマイクロポーラスレイヤーの2層構造を持つ燃料電池用ガス拡散層の製造方法であって、
撥水処理を施さない基材の一方面に、マイクロポーラスレイヤー構成材である少なくとも導電性材料と撥水剤と溶剤の混合溶液であって導電性材料が凝集した状態にある混合溶液を塗布し、塗布した前記混合溶液の乾燥処理を混合溶液の溶剤の蒸散除去割合がマイクロポーラスレイヤー側に比べて基材側で高くするようにして行うことを特長とする燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
【請求項3】
基材としてカーボンペーパーまたはカーボンクロスを用いることを特長とする請求項1または2に記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
【請求項4】
マイクロポーラスレイヤー構成材である導電性材料として縦横比がほぼ1であるカーボン粒子を用いることを特長とする請求項1または2に記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
【請求項5】
マイクロポーラスレイヤー構成材である撥水剤としてPTFEを用いることを特長とする請求項1または2に記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
【請求項6】
前記塗布した前記混合溶液の乾燥処理をマイクロポーラスレイヤー側をシールドした状態で行うことを特長とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
【請求項7】
前記塗布した前記混合溶液の乾燥処理をマイクロポーラスレイヤー側を高湿度環境とし基材側を比較して低湿度環境として行うことを特長とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−267539(P2010−267539A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118946(P2009−118946)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【Fターム(参考)】