説明

燃料電池

【課題】カソード出口側で生じた水分を、アノードガス流路を介してカソード入口側へ効率的に運搬・供給して循環させることができ、電解質膜の湿潤状態を良好に維持して出力低下を抑止することが可能な燃料電池を提供する。
【解決手段】燃料電池スタック1の単位セルは、導電性金属材料からなるカソードセパレータ10と、同じくアノードセパレータ20との間に、MEA30が挟持され、そのMEA30の両面並びにカソードセパレータ10及びアノードセパレータ20に対向するように、ガス拡散層40,40が一体に設けられたものである。また、アノードセパレータ20とガス拡散層40との間には、アノードガスがアノード入口21からアノード出口22に向かうU字状流路であるアノードガス流路23,24が画成されており、アノードガス流路23の圧損が、アノードガス流路24の圧損よりも小さくされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関し、特に、燃料電池の内部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質膜がカソード及びアノードの両電極間に挟持された構造を有しており、空気等の酸素を含むカソードガス(酸化ガス)がカソードに接触する一方、水素を含むアノードガス(燃料ガス)がアノードに接触することにより、両電極で電気化学反応が生じ、その結果、両電極間に電圧が生起されるように構成されている。
【0003】
かかる燃料電池の構造としては、種々のものが提案されており、例えば、特許文献1には、ガス流の方向が互いに逆向きになるように形成されたサーペンタイン型のアノードガス流路及びカソードガス流路を有する燃料電池が記載されている。この燃料電池は、カソードのフラッディングを防止するために、ガス流路の途中に排水路が設けられており、また、カソードガスの入口付近の乾燥を防止するために、ガス流路の上流側の幅よりも下流側の幅が狭められ、下流に向かってガス流速が増大するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−198069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、燃料電池においては、一般に、カソード出口(カソードガスが流出する部位)側にアノード入口(アノードガスが流入する部位)を配置し、且つ、アノード出口(アノードガスが流出する部位)側にカソード入口(カソードガスが流入する部位)を配置し、カソード側で生じる水を、カソード出口(アノード入口)からアノード出口(カソード入口)へ運搬することにより、電解質膜の湿潤状態、すなわち、燃料電池における水バランスを保持する方法が広く採用されており、特許文献1に記載された燃料電池においても同様である。
【0006】
しかし、特許文献1に記載された従来の燃料電池では、サーペンタイン流路がリブ状の仕切壁で画定されており、その仕切壁を挟んで隣接するガス流路が互いに逆向きに構成されているので、ガス流がその隣接するガス流路間をパスカット(短絡)してしまうおそれがある。特にアノードガス流にパスカットが生じると、カソード出口(アノード入口)付近の水分をアノード出口(カソード入口)へ十分に運搬することが困難となる。
【0007】
また、ガス流速が入口側で比較的遅く出口側で比較的速いため、アノードガス中の水蒸気量がアノード入口付近で飽和に達し易くなり、アノードガスによってカソード出口の水分を取り去り難くなるので、却って、カソードのフラッディングを誘発するおそれもある。さらに、ガス流速が入口側で比較的遅いため、水分を受け取ったアノードガスが流路下流に到達する前に乾燥してしまい、アノード出口(カソード入口)付近に十分な水分を供給できないことも想定され得る。これらの懸念は、高温無加湿運転と呼ばれるような高温運転時において、特に顕著となるおそれがある。
【0008】
そこで、本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、カソード出口側で生じた水分を、アノードガス流路を介してカソード入口側へ効率的に運搬・供給して循環させることができ、これにより、高温運転時においても、電解質膜の湿潤状態を良好に維持して出力低下を抑止することが可能な燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明による燃料電池は、電解質膜の両面にカソード及びアノードが配置された膜電極接合体と、膜電極接合体に対向して設けられたセパレータと、互いに直交又は略直交するように設けられており、アノード入口がカソード出口近傍に配置され、且つ、アノード出口がカソード入口近傍に配置されるように構成されたカソードガス流路及びアノードガス流路とを備え、アノードガス流路は、リブによってU字状に転回(Uターン)するように画成されており、且つ、そのU字状流路の外周側(外側)の圧損が同内周側(内側)の圧損よりも小さくなるように構成されている。
【0010】
このように構成された本発明による燃料電池においては、カソードガス流路及びアノードガス流路が互いに直交又は略直交するように設けられており、アノードガス流路がU字状に転回してU字状流路が画成されているので、そのU字状流路の外周側部分が、最もフラッディングし易いカソード出口端側(最下流)と最も乾燥し易いカソード入口端側(最上流)のそれぞれに対抗する部位を経由するように延在する。そして、アノード入口及びアノード出口がそれぞれカソード出口近傍及びカソード入口近傍に配置され、また、アノードガス流路を流れるアノードガスの大部分は、圧損が比較的小さいU字状流路の外周側を流通するので、アノードガスによって、カソード出口側からより多くの水分を奪い去ることができ、且つ、そうして奪取した多くの水分をカソード入口側へ供給することができる。
【0011】
また、そのようにしてアノードガス流路を流れるアノードガスの大部分が、圧損の比較的小さいU字状流路の外周側を流通することにより、従来の燃料電池(特許文献1)で危惧されるアノードガスのパスカットを抑制することができる。
【0012】
さらに、アノードガス流路において、そのU字状流路の外周側と内周側とを隔別するリブのような仕切りを設けることにより、外周側と内周側との圧損差をより高めることができ、且つ、外周側を流れるアノードガスが内周側に拡散することを効果的に抑止することができる。また、その結果、上述したアノードガスのパスカットを更に一層防止することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のことから、本発明の燃料電池によれば、カソード出口側で生じた水分を、アノードガス流路を介してカソード入口側へ効率的に運搬・供給して循環させることができ(カウンターフロー効果の促進)、これにより、通常運転時だけではなく高温運転時においても、電解質膜の湿潤状態を、従来に比して格段に良好に維持して出力低下を効果的に抑止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明による燃料電池の好適な一実施形態の構成の一部を模式的に示す斜視部品分解図である。
【図2】図1に示す燃料電池スタックのアノードセパレータの構成を模式的に示す平面図である。
【図3】アノードガス流路として単一流路を有するアノードセパレータの構成を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。また、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。さらに、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその実施の形態のみに限定する趣旨ではない。またさらに、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。
【0016】
図1は、本発明による燃料電池の好適な一実施形態の構成の一部を模式的に示す斜視部品分解図である。燃料電池スタック1(燃料電池)は、固体電解質膜を備えた固体高分子型の燃料電池(PEMFC)であり、主として燃料電池自動車等に搭載される。この燃料電池スタック1は、単位セルを複数積層したスタック構造を有している(なお、図示においては一単位のみ示す)。その単位セルは、例えばステンレス鋼やチタン等の導電性金属材料からなるカソードセパレータ10と、同じくアノードセパレータ20との間に、電解質膜を挟んでアノードとカソードが配置されたMEA30(膜電極接合体:Membrane Electrode Assembly)が挟持されたものである。また、MEA30の両面並びにカソードセパレータ10及びアノードセパレータ20に対向するように、ガス拡散層40,40がシールガスケット(図示せず)等によって一体に設けられている。
【0017】
一方、カソードセパレータ10の図示下端部には、その長辺に沿って複数のカソード入口11が穿設されており、カソードセパレータ10の同上端部には、その長辺に沿って、それらの複数のカソード入口11に対向する位置に、複数のカソード出口12が穿設されている。これにより、カソードセパレータ10とガス拡散層40との間には、カソードガスがカソード入口11からカソード出口12に向かって略直線的に流通する(図示矢印Yc参照)カソードガス流路13が画成される。このカソードガス流路13は、多孔体流路であって、そこを流れるカソードガスの圧損が全体的に平均化されて略一定に保持され得る。
【0018】
他方、アノードセパレータ20の図示左端部の上段には、アノード入口21が穿設されており、アノードセパレータ20の同左端部の下段には、アノード出口22が穿設されている。また、アノードセパレータ20の長辺に沿って、且つ、アノード入口21とアノード出口22との間の部位近傍を起端として、リブ25が直線状に延在している。これにより、アノードセパレータ20とガス拡散層40との間には、アノードガスがアノード入口21からアノード出口22に向かってU字状に転回(Uターン)して流通する(図示矢印Ya1,Ya2参照)アノードガス流路23,24が画成される。
【0019】
このように、アノードガス流路23,24は、U字状流路であって、ともに多孔体流路であり、そのU字状流路の外周側(外側)流路としてのアノードガス流路23の圧損が、同内周側(内側)流路としてのアノードガス流路24の圧損よりも小さくされている。具体的には、例えば、アノードセパレータ20におけるアノードガス流路23に相当する部位の気孔率が、アノードセパレータ20におけるアノードガス流路24に相当する部位の気孔率よりも大きくなるように構成されている。これにより、アノードガス流路23を流れるアノードガス(図示矢印Ya1参照)の流速は、アノードガス流路24を流れるアノードガス(図示矢印Ya2参照)の流速よりも速く、また、アノードガス流路23を流れるアノードガスの流量は、アノードガス流路24を流れるアノードガスの流量よりも多くなる。
【0020】
このように構成された燃料電池スタック1によれば、カソードガス流路13とアノードガス流路23,24が互いに直交又は略直交するように設けられており、且つ、アノード入口21及びアノード出口22が、それぞれカソード出口12近傍及びカソード入口11近傍に配置されている。よって、アノード入口21付近(アノードガス流路23の図示上段の一方端)で乾燥状態にあるアノードガスが、アノードガス流路23,24を流れるにつれて、MEA30を介してカソードガスの水分を奪い、アノードガス流路23,24の図示上段の他方端(リブ25の先端側)に達するまでに湿度が略飽和となる。こうして高湿度となったアノードガスは、アノードガス流路23,24の図示下段において、MEA30を介してカソードガスへ水分を供給する。
【0021】
そして、アノードガス流路23,24がU字状に転回してU字状流路が画成されているので、そのU字状流路の外周側部分であるアノードガス流路23が、最もフラッディングし易いカソード出口12端側(カソード流路13の最下流)と最も乾燥し易いカソード入口11端側(カソード流路13の最上流)のそれぞれに対向する部位を経由するように延びている。
【0022】
したがって、アノードガスによってカソード出口12側からより多くの水分を奪い去ることができ、且つ、その多くの水分をカソード入口11側へ効率よく供給することができるので、湿度分布のばらつきに起因するフラッディングや過度の乾燥を効果的に防止することが可能となる。換言すれば、カソード出口12側で生じた水分(反応生成水)を、アノードガス流路23,24を介してカソード入口11側へ効率的に運搬・供給して循環させることができ(カウンターフロー効果の促進)、これにより、通常運転時だけではなく高温運転時においても、電解質膜の湿潤状態を従来に比して格段に良好に維持し、燃料電池スタック1の出力低下を効果的に抑止することが可能となる。
【0023】
さらに、そのようにしてアノードガス流路23,24を流れるアノードガスの大部分が、圧損の比較的小さいアノードガス流路23を流通するので、従来の燃料電池で危惧され得るアノードガスのパスカットを抑制し易くなり、その結果、上述したカウンターフロー効果を更に一層促進させることができる。
【0024】
ここで、図2及び図3は、それぞれ、燃料電池スタック1のアノードセパレータ20、及び、アノードガス流路として単一流路を有するアノードセパレータ200の構成を模式的に示す平面図である。アノードセパレータ200は、アノードセパレータ20のアノード入口21及びアノード出口22並びにリブ25と同等に設けられたアノード入口221及びアノード出口222並びにリブ225を有している。また、アノードセパレータ200は、アノードセパレータ20と異なり、アノードガスの圧損が全体として平均化された多孔体流路としてのアノードガス流路226を備えている。
【0025】
このように構成されたアノードセパレータ20のアノードガス流路23に相当する部位の気孔率を83%、及び、アノードセパレータ20のアノードガス流路24に相当する部位の気孔率を78%とし、且つ、アノードセパレータ200のアノードガス流路226に相当する部位の気孔率を78%として、3A/cm2発電時における圧損を評価した。その結果、アノードガス流路23における圧損は30kPaであり、アノードガス流路24,226における圧損は44kPaであった。
【0026】
かかるアノードセパレータ20,200をそれぞれ備える燃料電池スタックを運転したところ、アノードセパレータ20のアノードガス流路23(外側流路)を流れるアノードガスの流量は10%向上され、アノードガス流路23,24全体の平均的な水素ストイキが1.25のとき、アノードガス流路23には水素ストイキ1.5相当のアノードガスが流れ、カソード入口11付近への水分供給量が十分に増加して乾燥が抑制されることが確認された。また、このように水素ストイキが1.25から1.5へ増大する場合、アノード出口22(カソード入口11)付近の湿度が1.8〜4.1%増加し、これにより、単位セルの電圧(セル電圧)が40mV増加することが推算評価された。
【0027】
なお、上述したとおり、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない限度において様々な変形が可能である。例えば、燃料電池スタック1のアノードセパレータ20に、U字状流路であるアノードガス流路23,24を隔別するリブのような仕切りを追設してもよい。そうすることにより、アノードガス流路23,24間の圧損差を更に高めることができ、且つ、アノードガス流路23を流通するアノードガスがアノードガス流路24へ拡散することを効果的に抑止することができる。また、それにより、アノードガス流路23からアノードガス流路24へのアノードガスのパスカットを更に一層防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
以上説明したとおり、本発明は、燃料電池における電解質膜の湿潤状態を良好に維持して燃料電池の出力低下を有効に防止することができるので、燃料電池全般、燃料電池を備える機器、システム、設備等、及び、それらの製造に広く且つ有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0029】
1…燃料電池スタック(燃料電池)、10…カソードセパレータ、11…カソード入口、12…カソード出口、13…カソードガス流路、20…アノードセパレータ、21…アノード入口、22…アノード出口、23,24…アノードガス流路、25…リブ、30…MEA、40…ガス拡散層、200…アノードセパレータ、221…アノード入口、222…アノード出口、225…リブ、226…アノードガス流路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の両面にカソード及びアノードが配置された膜電極接合体と、
前記膜電極接合体に対向して設けられたセパレータと、
互いに直交又は略直交するように設けられており、アノード入口がカソード出口近傍に配置され、且つ、アノード出口がカソード入口近傍に配置されるように構成されたカソードガス流路及びアノードガス流路と、
を備え、
前記アノードガス流路は、リブによってU字状に転回するように画成されており、且つ、該U字状流路の外周側の圧損が該U字状流路の内周側の圧損よりも小さくされたものである、
燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−54858(P2013−54858A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190979(P2011−190979)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】