説明

爆発物に対する抗体およびその製作方法

【課題】対象の過酸化物誘導体型の爆薬に対して、選択的な結合能を有するモノクローナル抗体、あるいはポリクローナル抗体と、該モノクローナル抗体、あるいはポリクローナル抗体を製造する方法を提供する。
【解決手段】免疫原性を示さない過酸化物誘導体型の爆薬に対する結合能を有する抗体として、前記過酸化物誘導体型の爆薬における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物に対する抗体の群から、該過酸化物誘導体型の爆薬に対して交叉反応性を有する抗体を選別して、該交叉反応性を有する抗体を利用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、爆薬として使用される、過酸化物誘導体に対する結合能を有するモノクローナル抗体、ならびにポリクローナル抗体、および、該該モノクローナル抗体、ならびにポリクローナル抗体の製造方法に関する。さらには、本発明は、前記抗体の創製の際、その免疫原の抗原決定基として利用される、有機過酸化物とその製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
爆薬として使用される有機化合物、例えば、TNT(2,4,6-トリニトロトルエン)、RDX(ヘキソーゲン;1,3,5-トリニトロ-1,3,5-トリアジナン)、ペンスリット(四硝酸ペンタエリスリット:C(CH2ONO2)4)は、その分子内にニトロ基を有している。これら爆薬に利用される、各種のニトロ化合物の検出には、前記特徴を利用して、ニトロ基形状の窒素を検出する手法が採用されている。各種のニトロ化合物を対象とする、爆発物検出用スキャナーは、前記の測定原理を応用している。
【0003】
一方、分子内にニトロ基を有していない、有機過酸化物型の爆薬も知られている。例えば、過酸化アセトン、特には、三量体型のTATP(C9186:トリアセトントリペルオキシド)、あるいは、ヘキサメチレントリペルオキシドジアミン(HMTD)など、分子内にジオキシ結合(−O−O−)を具えている、過酸化物誘導体が、古くから知られている。これら有機過酸化物型の爆薬は、その分子内にニトロ基を有していないため、各種のニトロ化合物を対象とする、爆発物検出用スキャナーでは検出できない。
【0004】
なかでも、過酸化アセトン、特には、下記の式(I)に示す構造を有する、三量体型のTATP(C9186:トリアセトントリペルオキシド)は、比較的に入手が容易な原料、アセトンと過酸化水素水、ならびに、酸触媒として利用する、硫酸、塩酸を使用して、実験室的規模で合成ができる。また、結晶性がよく、融点91℃の白色結晶として、単離、精製ができる。
【0005】
【化1】

【0006】
上記の特徴が災いして、三量体型のTATP(C9186:トリアセトントリペルオキシド)を初めとする、有機過酸化物型の爆薬は、過去に、爆発物テロ事件において、爆薬として使用されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Analytical Chemistry, Vol. 75, No.4, p.731-735 (2003)
【非特許文献2】Chemistry Letters, Vol.35, No.10, p.1126-1127(2006)
【非特許文献3】Organic & Biomolecular Chemistry Vol.4, p.4431-4436 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
有機過酸化物型の爆薬を使用する、爆発物テロを未然に防止するためには、上記の有機過酸化物型の爆薬を検知し、有機過酸化物型の爆薬を使用する、爆発物を見つけ出すことは必要である。有機過酸化物型の爆薬、例えば、過酸化アセトンは、C,H,Oで構成される低分子化合物である。そのため、従来、その検知技術として、UV照射とフルオレッセンス検出を合わせた高速液体クロマトグラフィー法が用いられてきた(非特許文献1:Analytical Chemistry, Vol. 75, No.4, p.731-735 (2003))。しかしながら、対象物質は、爆薬であるため、測定時の安全性を考慮した、適正な濃度範囲へと濃度調整する操作を始めとして、測定操作が複雑であることから、誰にでも簡便に利用可能な測定手段ではなかった、その上、一回あたりの測定コストが高く、測定時間も10分以上を必要とし、多数の試料について、測定を行う上での、課題となっている。
【0009】
有機過酸化物型の爆薬についても、各種のニトロ化合物を対象とする、爆発物検出用スキャナーと同程度の簡便さで、多数の試料について、選択的に検出を行うことが可能な爆発物検出用センサの開発が望まれている。
【0010】
溶液試料中に含まれる、低分子化合物を検出する方法として、対象の低分子化合物に対する結合能を有する抗体を利用して、抗原抗体反応を応用して、対象の低分子化合物の濃度を測定する免疫測定法が、一部の低分子化合物では成功している。例えば、式(I)に示す構造を有する、三量体型のTATPを初めとする、有機過酸化物型の爆薬化合物自体は、免疫原性を示さないため、該有機過酸化物型の爆薬化合物に特異的な抗体は、これまで報告されていない。仮に、該有機過酸化物型の爆薬化合物に対して選択的な結合能を有する抗体が入手できれば、この選択的な結合能を有する抗体を利用する、免疫測定法は、該有機過酸化物型の爆薬化合物検出用センサの開発に利用できる可能性が高い。従って、免疫測定法を応用する、該有機過酸化物型の爆薬化合物の検出に利用可能な、選択的な結合能を有する抗体の創製が望まれている。
【0011】
本発明は、前記の課題を解決するものである。すなわち、本発明の目的は、対象となる過酸化物誘導体型の爆薬に対する結合能を有するモノクローナル抗体、あるいはポリクローナル抗体を新たに創製し、創製された抗体のうち、特に、試料溶液中に含有されている、対象の過酸化物誘導体型の爆薬に対して、選択的な結合能を有するモノクローナル抗体、あるいはポリクローナル抗体と、該モノクローナル抗体、あるいはポリクローナル抗体を製造する方法を提供することにある。
【0012】
また、本発明の更なる目的は、対象となる過酸化物誘導体型の爆薬に対する結合能を有するモノクローナル抗体、あるいはポリクローナル抗体を新たに創製する際、その免疫原として利用可能な、新規な有機過酸化物とその製造方法を提供することにある。
【0013】
本発明の目的は、特には、対象の過酸化物誘導体型の爆薬として、下記の式(I)に示される三量体型の過酸化アセトンに対する結合能を有するモノクローナル抗体、あるいはポリクローナル抗体を新たに創製し、創製された抗体のうち、特に、試料溶液中に含有されている、式(I)の過酸化物誘導体型の爆薬に対して、選択的な結合能を有するモノクローナル抗体、あるいはポリクローナル抗体と、該モノクローナル抗体、あるいはポリクローナル抗体を製造する方法を提供することにある。
【0014】
三量体型の過酸化アセトン(C9186:TATP;トリアセトントリペルオキシド):
【0015】
【化2】

【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、先ず、対象の過酸化物誘導体型の爆薬に対する結合能を有する抗体を新たに創製する手法を検討した。
【0017】
対象の過酸化物誘導体型の爆薬自体は免疫原性を示さないことは、既に判明している。一方、免疫原性を持たない低分子量化合物であっても、キャリア・タンパク質上に該低分子量化合物を結合させ、該低分子量化合物により修飾された修飾タンパク質とすると、免疫原として機能する場合がある(非特許文献2:Chemistry Letters, Vol.35, No.10, p.1126-1127(2006))。この手法を利用して、免疫原性を持たない低分子量化合物に対して特異的な反応性を示す抗体を作製した事例は少なくないが、全ての低分子量化合物に対して有効というものではない。すなわち、修飾タンパク質において、該低分子量化合物が結合されている部位が、実際に、免疫原性を示すか否かは、その部位の立体構造に依存するため、全ての低分子量化合物に対して有効というものではない。
【0018】
但し、例えば、式(I)に示す構造を有する、三量体型の過酸化アセトン(TATP)自体は、キャリア・タンパク質上に結合させ、修飾タンパク質を作製する際に利用可能な官能基を有してなく、前記の手法を適用できない。
【0019】
さらに、本発明者らは、抗原抗体反応においては、抗体は、本来の抗原と類似する構造を有する物質に対しても反応性を示す現象、所謂、交叉反応性を示す場合があることに着目した。すなわち、対象の低分子量化合物に代えて、該低分子量化合物と類似する構造を有する抗原に対する特異的な抗体を多数種創製すると、この多数種の抗体群のうちに、対象の低分子量化合物に対して、交叉反応性を示す抗体が存在する可能性があることに想到した。
【0020】
本発明者らは、実際に、式(I)に示す構造を有する、三量体型の過酸化アセトン(TATP)において、特徴的な構造は、その環構造であり、該環構造と構造的な類似性を有する低分子量化合物多数種のうち、キャリア・タンパク質上に結合された際、得られる修飾タンパク質が免疫原性を示すものを探索した。次いで、探索された、修飾タンパク質を免疫原として、ラットを免疫することで創製される抗体多数種のうち、式(I)の三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対して、交叉反応性を示す抗体が存在するか、否かについて、探索を行った。
【0021】
まず、式(I)に示す構造を有する、三量体型の過酸化アセトン(TATP)と類似する環構造を具え、修飾タンパク質を作製する際に利用可能な官能基として、カルボキシル基(−COOH)を有している、公知の低分子量化合物を探索したところ、下記の式(IIa)に示す化合物が見出された(非特許文献3:Organic & Biomolecular Chemistry Vol.4, p.4431-4436 (2006))。
【0022】
3-[12-(2-カルボキシエチル)-9,12-ジメチル-7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデック-9-イル]-プロピオン酸(3-[12-(2-carboxyethyl)-9,12-dimethyl-7,8,10,11,13,14-hexaoxa-spiro-[5.8]tetradec-9-yl]-propanoic acid)
【0023】
【化3】

【0024】
本発明者らは、該式(IIa)に示すジカルボン化合物と同様に、9,12-ジメチル-7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデカンの環構造を具え、その環上の9位と12位に、2−カルボキシエチル基(−CH2CH2COOH)に代えて、カルボキシルメチル基(−CH2COOH)が置換する、下記式(II)に示すジカルボン化合物を新規に合成した。そして、式(II)に示すジカルボン化合物は、キャリア・タンパク質上に結合された際、得られる修飾タンパク質が免疫原性を示すか否かの検証を行った。
【0025】
[12-(2-カルボキシメチル)-9,12-ジメチル-7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデック-9-イル]-酢酸([12-(2-carboxymethyl)-9,12-dimethyl-7,8,10,11,13,14-hexaoxa-spiro-[5.8]tetradec-9-yl]-acetic acid)
【0026】
【化4】

【0027】
検証の結果、式(II)に示すジカルボン化合物は、キャリア・タンパク質上に結合された際、得られる修飾タンパク質が免疫原性を示すことが確認された。次いで、該修飾タンパク質を免疫原として、ラットを免疫することで創製される抗体多数種のうち、式(I)の三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対して、交叉反応性を示す抗体が存在するか、否かについて、探索を行った。その探索の結果、該修飾タンパク質を免疫原として、ラットを免疫することで創製される抗体多数種のうちに、式(I)の三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示す抗体が存在することが見出された。
【0028】
具体的には、式(II)に示すジカルボン酸化合物をキャリア・タンパク質上に結合させて得られる修飾タンパク質を免疫原として、ラットを免疫することで創製された、式(II)に示す化合物に対する抗体を産生する、一群のハイブリドーマ細胞株が作製できた。そして、この一群のハイブリドーマ細胞株から、式(I)の三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対して、交叉反応性を示す抗体を産生する、ハイブリドーマ細胞株数種を選別することができた。
【0029】
この選別されたハイブリドーマ細胞株数種が産生するモノクローナル抗体は、少なくとも、免疫動物として利用したラットの内因性物質とは、交叉反応性を示さないが、式(II)に示すジカルボン酸化合物と、式(I)の三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する反応性を具えていることが確認された。
【0030】
以上の一連の知見に加えて、本発明者らは、該選別されたハイブリドーマ細胞株数種が産生するモノクローナル抗体を固定化した上で、式(I)の三量体型の過酸化アセトン(TATP)と抗原抗体反応を行わせた際、該モノクローナル抗体に結合される式(I)の三量体型の過酸化アセトン(TATP)の量は、試料溶液中の式(I)の三量体型の過酸化アセトン(TATP)の濃度と比例しており、定量的な検出に利用できることも確認した。
【0031】
特に、該選別されたハイブリドーマ細胞株数種が産生するモノクローナル抗体に結合された、式(I)の三量体型の過酸化アセトン(TATP)は、周囲の溶液中に含有される式(I)の三量体型の過酸化アセトン(TATP)の濃度を零とすると、すなわち、洗浄処理を施すと、凡そ、4分間のうちに、実質的に結合されていた式(I)の三量体型の過酸化アセトン(TATP)の解離が完了することも確認した。すわなち、抗原抗体反応を利用する免疫センサに応用した際、該選別されたハイブリドーマ細胞株数種が産生するモノクローナル抗体に一旦結合された式(I)の三量体型の過酸化アセトン(TATP)を、洗浄処理によって、解離する際、その処理時間として、4分間を選択することができることが確認された。換言すると、抗原抗体反応を利用する免疫センサに応用した際、前記の処理時間の洗浄処理を行うことで、該免疫センサの再利用が可能であることの確認がなされた。
【0032】
実際に、抗原抗体反応を利用する免疫センサの定量性を検証する上では、該免疫センサの抗体に結合されている抗原物質の量を別途に測定する必要がある。その際、前記の処理時間の洗浄処理を行うことで、該免疫センサのモノクローナル抗体に結合されていた式(I)の三量体型の過酸化アセトン(TATP)について、実質的に全量を解離させ、回収することができる。回収された式(I)の三量体型の過酸化アセトン(TATP)の量を別途定量することで、該抗原抗体反応を利用する免疫センサの定量性を検証することが可能となる。
【0033】
以上の一連の検証を行うことで、該選別されたハイブリドーマ細胞株数種が産生するモノクローナル抗体は、式(I)の三量体型の過酸化アセトン(TATP)の定量的な検出に利用可能な、抗原抗体反応を利用する免疫センサに好適に使用することが可能であることを確認した。
【0034】
さらに、本発明者らは、上記の式(I)の三量体型の過酸化アセトン(TATP)と、該式(I)の三量体型の過酸化アセトン(TATP)における特徴的構造と類似性を具えた構造を持つ式(II)に示すジカルボン酸化合物に対するモノクローナル抗体の組み合わせのみならず、対象の過酸化物誘導体型の爆薬自体は免疫原性を示さない場合、該過酸化物誘導体型の爆薬における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物に対するモノクノーナル抗体を同様の手法で創製することが可能であることも見出した。その際、該過酸化物誘導体型の爆薬における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物に対するモノクノーナル抗体多数種のうち、対象の過酸化物誘導体型の爆薬に対して交叉反応性を示す抗体を選別することが可能であり、選別される交叉反応性を示す抗体は、上記の抗原抗体反応を利用する免疫センサの作製に必要な特質を具えていることも見出した。
【0035】
なお、前記修飾タンパク質を免疫原として、ラットを免疫すると、該ラットの血液中には、式(II)に示す化合物に対する特異的な抗体が複数種存在している。この免疫を施したマウスから採取した血液から調製される血漿は、式(II)に示す化合物に対する特異的なポリクローナル抗体を含有している。前記の式(II)に示す化合物に対する特異的なポリクローナル抗体も、式(I)の三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示すことも確認された。結論として、先に選別されたハイブリドーマ細胞株数種が産生するモノクローナル抗体に加えて、前記の式(II)に示す化合物に対する特異的なポリクローナル抗体も、式(I)の三量体型の過酸化アセトン(TATP)を選択的に結合でき、免疫測定法に利用可能であることが確認された。
【0036】
加えて、本発明者らは、上述の抗体の創製において、免疫原の抗原決定基として利用する、式(II)に示すジカルボン酸化合物を新規に合成するため、その合成方法を予め開発した。具体的には、文献(非特許文献2:Chemistry Letters, Vol.35, No.10, p.1126-1127(2006))に報告されている、式(IIa)に示すジカルボン酸化合物の合成方法とは異なる反応機構を採用して、式(II)に示すジカルボン酸化合物を合成する方法を開発した。該式(II)に示すジカルボン酸化合物の新規な合成プロセスは、下記の三つの工程から構成されている。
【0037】
(シクロヘキサン-1,1-ジイル ビス-ヒドロパーオキシドの合成工程)
まず、出発原料のシクロヘキサノンにギ酸(HCOOH)を作用させ、反応中間体を形成し、過酸化水素(HOOH)を利用し、該反応中間体から、中間原料のシクロヘキサン-1,1-ジイル ビス-ヒドロパーオキシドを合成する。
【0038】
(式(II’)に示すジカルボン酸化合物のジアリルエステルの合成工程)
次いで、ルイス酸触媒の存在下、中間原料のシクロヘキサン-1,1-ジイル ビス-ヒドロパーオキシドと、ケトン(アセト酢酸アリル)とのカチオン付加反応を利用して、環形成を行い、式(II’)に示すジカルボン酸化合物のジアリルエステルを作製する。
【0039】
【化5】

【0040】
(ジアリルエステルからジカルボン酸化合物への変換工程)
最終的に、パラジウム触媒(Pd{P(C6534)を利用する、アリル基の転位反応を利用することで、該ジアリルエステルを、式(II)に示すジカルボン酸化合物に変換する。
【0041】
本発明者らは、上述する一連の知見、ならびに、検証結果に基づき、本発明を完成させた。
【0042】
すなわち、本発明にかかる過酸化物誘導体型の爆薬の抗体は、
下記の式(I)に示す構造を有する過酸化アセトンに対する結合能を有する抗体である。
【0043】
【化6】

【0044】
特には、前記式(I)に示す構造を有する過酸化アセトンに対する結合能を有する抗体は、
前記式(I)に示す過酸化アセトンにおける特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物に対する抗体であり、該式(I)に示す過酸化アセトンに対して交叉反応性を有する
ことを特徴とする抗体である。
【0045】
その際、前記式(I)に示す過酸化アセトンにおける特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物は、特には、下記の式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物:[12-(2-カルボキシメチル)-9,12-ジメチル-7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデック-9-イル]-酢酸([12-(2-carboxymethyl)-9,12-dimethyl-7,8,10,11,13,14-hexaoxa-spiro-[5.8]tetradec-9-yl]-acetic acid)である。
【0046】
【化7】

【0047】
上記の構成において、
本発明の第一の形態では、
前記式(I)に示す過酸化アセトンに対する結合能を有する抗体は、
前記式(I)に示す過酸化アセトンにおける特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ、上記式(II)に示すジカルボン酸化合物を、キャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質を免疫原として、ヒト以外の哺乳動物を免疫することで創製される、該式(II)に示すジカルボン酸化合物に対するポリクローナル抗体であり、該式(I)に示す過酸化アセトンに対して交叉反応性を有する抗体である
ことを特徴とする過酸化物誘導体型の爆薬の抗体である。
【0048】
本発明の第二の形態では、
前記式(I)に示す過酸化アセトンに対する結合能を有する抗体は、
前記式(I)に示す過酸化アセトンにおける特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ、上記式(II)に示すジカルボン酸化合物を、キャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質を免疫原として、ヒト以外の哺乳動物を免疫することで創製される、該式(II)に示すジカルボン酸化合物に対するモノクローナル抗体であり、該式(I)に示す過酸化アセトンに対して交叉反応性を有する抗体である
ことを特徴とする過酸化物誘導体型の爆薬の抗体である。
【0049】
本発明の第一の形態、ならびに、第二の形態にかかる抗体においては、
前記ヒト以外の哺乳動物は、ラットであることが好ましい。
【0050】
前記式(II)に示すジカルボン酸化合物を、キャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質において、該キャリア・タンパク質として、キーホールリンペツトヘモシアニン(Keyhole Limpet Hemocyanin)を選択することが好ましい。
【0051】
前記式(II)に示すジカルボン酸化合物を、キャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質は、該ジカルボン酸化合物のカルボキシル基(−COOH)と前記キャリア・タンパク質上のアミノ基(−NH2)との間でアミド結合(−CO−NH−)を介して、前記式(II)に示すジカルボン酸化合物の結合がなされていることが望ましい。その際、該カルボキシル基(−COOH)と前記キャリア・タンパク質上のアミノ基(−NH2)との間でアミド結合(−CO−NH−)の形成は、カルボジイミド法を利用してなされていることが好ましい。
【0052】
なお、本発明の第二の形態においては、
前記式(I)に示す過酸化アセトンに対する結合能を有する抗体として、
ハイブリドーマ細胞株:P3−RZZ−16−11E(FERM BP−11260)が産生するモノクローナル抗体を選択することがより好ましい。
【0053】
さらに、本発明の第一の形態にかかる過酸化物誘導体型の爆薬の抗体の製造方法は、
下記の式(I)に示す構造を有する過酸化アセトンに対する結合能を有する抗体を製造する方法であって、
【0054】
【化8】

【0055】
該抗体は、
前記式(I)に示す過酸化アセトンにおける特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ、上記式(II)に示すジカルボン酸化合物に対するポリクローナル抗体であり、該式(I)に示す過酸化アセトンに対して交叉反応性を有する、ヒト以外の哺乳動物由来の抗体であり、
該ヒト以外の哺乳動物由来のポリクローナル抗体の作製プロセスは、少なくとも、
上記式(II)に示すジカルボン酸化合物を、キャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質を免疫原として、前記ヒト以外の哺乳動物を免疫する工程;
前記修飾タンパク質を免疫原とする免疫の確立がなされた後、免疫された前記ヒト以外の哺乳動物から血液を採取し、採取した血液から抗血清を調製する工程;
調製された抗血清中に、前記式(I)に示す過酸化アセトンに対する交叉反応性を有する抗体が存在することを、前記式(I)に示す過酸化アセトンを抗原とする、抗原抗体反応によって、検証する工程
を含んでいる
ことを特徴とする抗体の製造方法である。
【0056】
また、本発明の第二の形態にかかる過酸化物誘導体型の爆薬の抗体の製造方法は、
下記の式(I)に示す構造を有する過酸化アセトンに対する結合能を有する抗体を製造する方法であって、
【0057】
【化9】

【0058】
該抗体は、
前記式(I)に示す過酸化アセトンにおける特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ、上記式(II)に示すジカルボン酸化合物に対するモノクローナル抗体であり、該式(I)に示す過酸化アセトンに対して交叉反応性を有する、ヒト以外の哺乳動物由来の抗体であり、
該ヒト以外の哺乳動物由来のモノクローナル抗体の作製プロセスは、少なくとも、
上記式(II)に示すジカルボン酸化合物を、キャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質を免疫原として、前記ヒト以外の哺乳動物を免疫する工程;
前記修飾タンパク質を免疫原とする免疫の確立がなされた後、免疫された前記ヒト以外の哺乳動物から脾臓細胞を採取し、採取した脾臓細胞からモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ細胞を作製する工程;
作製された抗体産生ハイブリドーマ細胞が産生するモノクローナル抗体の群から、前記式(I)に示す過酸化アセトンに対する交叉反応性を有するモノクローナル抗体を、前記式(I)に示す過酸化アセトンを抗原とする、抗原抗体反応によって、選別する工程
を含んでいる
ことを特徴とする抗体の製造方法である。
【0059】
なお、本発明の第一の形態、ならびに、第二の形態にかかる抗体の製造方法において利用される、下記式(II)に示すジカルボン酸化合物:[12-(2-カルボキシメチル)-9,12-ジメチル-7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデック-9-イル]-酢酸([12-(2-carboxymethyl)-9,12-dimethyl-7,8,10,11,13,14-hexaoxa-spiro-[5.8]tetradec-9-yl]-acetic acid)は、新規な化合物である。
【0060】
【化10】

【0061】
本発明の第一の形態、ならびに、第二の形態にかかる抗体の製造方法においては、
前記ヒト以外の哺乳動物は、ラットであることが好ましい。
【0062】
前記式(II)に示すジカルボン酸化合物を、キャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質において、該キャリア・タンパク質として、キーホールリンペツトヘモシアニン(Keyhole Limpet Hemocyanin)を選択することが望ましい。
【0063】
前記式(II)に示すジカルボン酸化合物を、キャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質は、該式(II)に示すジカルボン酸化合物中のカルボキシル基(−COOH)と前記キャリア・タンパク質上のアミノ基(−NH2)との間でアミド結合(−CO−NH−)を介して、前記式(II)に示すジカルボン酸化合物の結合がなされていることが好ましい。その際、該カルボキシル基(−COOH)と前記キャリア・タンパク質上のアミノ基(−NH2)との間でアミド結合(−CO−NH−)の形成は、カルボジイミド法を利用してなされていることが望ましい。
【0064】
なお、本発明の第二の形態にかかる抗体の製造方法おいては、
前記式(I)に示す過酸化アセトンに対する結合能を有する抗体として、
ハイブリドーマ細胞株:P3−RZZ−16−11E(FERM ABP−11260)が産生するモノクローナル抗体を選択することがより好ましい。
【0065】
加えて、本発明は、上記の本発明にかかる過酸化物誘導体型の爆薬の抗体の創製の際、免疫原の抗原決定基として利用する、式(II)に示すジカルボン酸化合物の合成方法の発明を提供している。
【0066】
すなわち、本発明が提供する式(II)に示すジカルボン酸化合物の合成方法は、
下記式(II)に示すジカルボン酸化合物を合成する方法であって、
【0067】
【化11】

【0068】
該合成方法は、下記の工程A〜工程Cを含む
工程A:
水溶液中において、ギ酸(HCOOH)と過酸化水素(HOOH)を利用して、シクロヘキサノンから、下記式(III)に示すシクロヘキサン-1,1-ジイル ビス-ヒドロパーオキシドを合成する工程;
【0069】
【化12】

【0070】
工程B:
ルイス酸触媒の存在下、式(III)に示すシクロヘキサン-1,1-ジイル ビス-ヒドロパーオキシドと、アセト酢酸アリルとの付加反応を利用して、環形成を行い、下記式(II’)に示すジカルボン酸化合物のジアリルエステルを合成する工程;
【0071】
【化13】

【0072】
工程C:
パラジウム触媒の存在下、アリル基の転位反応を利用して、式(II’)に示すジカルボン酸化合物のジアリルエステルから、式(II)に示すジカルボン酸化合物に変換する工程;
ことを特徴とする、式(II)に示すジカルボン酸化合物の合成方法である。
【0073】
その際、前記工程Cでは、
パラジウム触媒として、テトラキス・トリフェニルホスフィン・パラジウム(Pd{P(C6534)を使用し、
テトラヒドロフラン中、N−メチルアニリンと該パラジウム触媒を式(II)に示すジカルボン酸化合物のジアリルエステルに作用させ、式(II)に示すジカルボン酸化合物に変換することが好ましい。
【0074】
工程Bにおいては、ルイス酸触媒として、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(BF3:O(CH2CH32)を使用することが好ましい。
【0075】
本発明の提供する上記の合成方法により合成される、式(II)に示すジカルボン酸化合物: [12-(2-カルボキシメチル)-9,12-ジメチル-7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデック-9-イル]-酢酸は、その7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデカンの環上、9位と12位の炭素原子は、不斉炭素原子となっている。
【0076】
本発明では、特には、式(II)に示すジカルボン酸化合物のうち、
その7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデカンの環上、9位と12位の炭素原子上の立体配置は、(9R、12S)と表記可能なメソ体型のジカルボン酸化合物を利用することが望ましい。
【発明の効果】
【0077】
本発明にかかる過酸化物誘導体型の爆薬に対する結合能を有する抗体は、該過酸化物誘導体型の爆薬における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物に対する抗体のうちから、該過酸化物誘導体型の爆薬に対する交叉反応性を示す抗体として選別されたものであり、抗原抗体反応を介して、対象の過酸化物誘導体型の爆薬を検出する用途に利用できる。例えば、対象の過酸化物誘導体型の爆薬が、三量体型の過酸化アセトン(TATP)である際には、該三量体型の過酸化アセトン(TATP)と類似性を具えた構造を持つ、式(II)のジカルボン酸化合物:[12-(2-カルボキシメチル)-9,12-ジメチル-7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデック-9-イル]-酢酸([12-(2-carboxymethyl)-9,12-dimethyl-7,8,10,11,13,14-hexaoxa-spiro-[5.8]tetradec-9-yl]-acetic acid)に対する抗体のうちから、該三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示す抗体として選別されたものであり、抗原抗体反応を介して、該三量体型の過酸化アセトン(TATP)を検出する用途に利用できる。特には、本発明にかかる過酸化物誘導体型の爆薬に対する結合能を有するモノクローナル抗体を利用することで、抗原抗体反応を介して、溶液試料中に含有される、対象の過酸化物誘導体型の爆薬の検出を簡便に行うことが可能となる。
【0078】
特に、対象となる過酸化物誘導体型の爆薬自体は、免疫原性を示さない場合、本発明にかかる過酸化物誘導体型の爆薬に対する結合能を有する抗体の製造方法を利用することで、対象となる過酸化物誘導体型の爆薬に対する結合能を有する抗体を高い再現性で取得することが可能である。
【0079】
加えて、本発明が提供する式(II)に示すジカルボン酸化合物の合成方法は、上記の本発明にかかる過酸化物誘導体型の爆薬に対する結合能を有する抗体の創製の際、免疫原の抗原決定基として利用される、該式(II)に示すジカルボン酸化合物を良好な収率で作製することを可能としている。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の第一の実施形態にかかる過酸化物誘導体型の爆薬の抗体として選択される、[12-(2-カルボキシメチル)-9,12-ジメチル-7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデック-9-イル]-酢酸([12-(2-carboxymethyl)-9,12-dimethyl-7,8,10,11,13,14-hexaoxa-spiro-[5.8]tetradec-9-yl]-acetic acid)に対するポリクローナル抗体(第一の実施態様のポリクローナル抗体)の、対象の過酸化物誘導体型の爆薬、三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性をELISA法により評価した結果を示すグラフである。また、マウスを免疫して創製した、3-[12-(2-カルボキシエチル)-9,12-ジメチル-7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデック-9-イル]-プロピオン酸(3-[12-(2-carboxyethyl)-9,12-dimethyl-7,8,10,11,13,14-hexaoxa-spiro-[5.8]tetradec-9-yl]-propanoic acid)に対する、ポリクローナル抗体の、対象の過酸化物誘導体型の爆薬、三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性をELISA法により評価した結果を、対比結果(「参考例1のポリクローナル抗体」)として示す。
【図2】本発明の第二の実施形態にかかる過酸化物誘導体型の爆薬の抗体として選択される、[12-(2-カルボキシメチル)-9,12-ジメチル-7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデック-9-イル]-酢酸([12-(2-carboxymethyl)-9,12-dimethyl-7,8,10,11,13,14-hexaoxa-spiro-[5.8]tetradec-9-yl]-acetic acid)に対するモノクローナル抗体:16−11Eの、対象の過酸化物誘導体型の爆薬、三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性をELISA法により評価した結果を示すグラフである。また、3-[12-(2-カルボキシエチル)-9,12-ジメチル-7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデック-9-イル]-プロピオン酸(3-[12-(2-carboxyethyl)-9,12-dimethyl-7,8,10,11,13,14-hexaoxa-spiro-[5.8]tetradec-9-yl]-propanoic acid)に対するマウス・モノクローナル抗体の、対象の過酸化物誘導体型の爆薬、三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性をELISA法により評価した結果を、対比結果(「参考例2のモノクローナル抗体」)として示す。
【図3】本発明の第一の実施形態において、本発明にかかる合成方法に基づき合成される式(II)に示すジカルボン酸化合物のLS−MS分析結果の一例を示すチャートである。
【図4】本発明の第一の実施形態において、本発明にかかる合成方法に基づき合成される式(II)に示すジカルボン酸化合物の1H−NMRの測定結果の一例を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0081】
以下に、本発明にかかる過酸化物誘導体型の爆薬に対する結合能を有する抗体と、その製造方法に関して、より詳しく説明する。
【0082】
低分子量の有機化合物に対する抗体を創製する手段として、対象の低分子量の有機化合物自体は免疫原性を示さない場合、キャリア・タンパク質上に対象の低分子量の有機化合物を結合させ、得られる修飾キャリア・タンパク質を免疫原に利用する手法がある(非特許文献2:Chemistry Letters, Vol.35, No.10, p.1126-1127(2006))。
【0083】
具体的には、低分子量の有機化合物が反応性の官能基、例えば、アミノ基(−NH2)、ヒドロキシル基(−OH)、スルファニル基(−SH)、カルボキシル基(−COOH)を具えている場合、該反応性の官能基を利用して、他の反応性官能基を有する有機化合物を共有結合的に連結することが可能である。キャリア・タンパク質は、複数のアミノ酸残基が連結されてなるペプチド鎖で構成される、三次元構造を有しているが、その表面には、側鎖上に反応性官能基を有するアミノ酸残基が複数個存在している。従って、三次元構造を有している、キャリア・タンパク質の表面に存在する、アミノ酸残基の側鎖上の反応性官能基を利用して、反応性の官能基を具えている、低分子量の有機化合物を結合させることが可能である。この表面に低分子量の有機化合物に因る修飾が施された、修飾キャリア・タンパク質は、非天然型タンパク質分子であり、哺乳動物自体の内因性タンパク質分子と相違する、異質な物質として、認識される頻度が高い。特に、低分子量の有機化合物に因る修飾が施された部位は、免疫原性を発揮する頻度が高い。修飾キャリア・タンパク質表面の、低分子量の有機化合物に因る修飾が施された部位が、免疫原性を発揮する場合、該修飾キャリア・タンパク質を用いて、哺乳動物を免疫すると、該修飾キャリア・タンパク質に対する、特異的な抗体が創製される。
【0084】
該修飾キャリア・タンパク質の表面において、免疫原性を発揮する部位(抗原決定基)が複数存在する可能性がある。その場合、前記複数の免疫原性を発揮する部位(抗原決定基)のそれぞれに特異的な抗体複数種が創製される。創製された、修飾キャリア・タンパク質に特異的な抗体複数種のうちには、その修飾に利用した低分子量の有機化合物自体を、免疫原性を発揮する部位(抗原決定基)とする抗体が存在する頻度が高い。修飾に利用した低分子量の有機化合物自体に対する結合能に基づき、スクリーニングを行うことで、修飾に利用した低分子量の有機化合物自体を、免疫原性を発揮する部位(抗原決定基)とする抗体を選別することが可能である。
【0085】
但し、修飾キャリア・タンパク質の表面に存在する抗原決定基に対して、高い交叉反応性を示す抗体を、免疫対象の哺乳動物が既に保持している場合には、この交叉反応性を示す抗原決定基に対する、新たな抗体の創製は起こらない。すなわち、免疫対象の哺乳動物が既に保持している抗体が示す高い交叉反応性を利用して、該修飾キャリア・タンパク質に対する免疫反応が可能である場合、この交叉反応性を示す抗原決定基に対する、新たな抗体の創製は起こらない。
【0086】
さらには、修飾が施された部位が、免疫原性を発揮する部位(抗原決定基)として機能する場合であっても、該抗原決定基に特異的な抗体は、修飾に利用した低分子量の有機化合物自体に対する結合能は高くない場合も、少なくない。
【0087】
すなわち、前記のキャリア・タンパク質上に対象の低分子量の有機化合物を結合させ、得られる修飾キャリア・タンパク質を免疫原に利用する手法を利用して、修飾に利用した低分子量の有機化合物自体に特異的な抗体を創製できる、否かは、下記の要因に依存している。具体的には、対象の低分子量の有機化合物自体の立体構造、利用するキャリア・タンパク質との組み合わせ、ならびに、該キャリア・タンパク質上への結合形態、その修飾部位の選択、以上4つの要因に依存している。
【0088】
実際には、対象の低分子量の有機化合物自体の立体構造は既に決定されているため、残る3つの要因に関して、適切な組み合わせを選択できるか、否かは、多分に偶然性に依存したものである。すなわち、キャリア・タンパク質上への結合形態、その修飾部位は、利用するキャリア・タンパク質の種類に依存しており、また、対象の低分子量の有機化合物が有する反応性官能基の種類によって、制限される。対象の低分子量の有機化合物自体の立体構造によっては、残る3つの要因に関して、適切な組み合わせが選択できない場合もある。
【0089】
一方、過酸化物誘導体型の爆薬は、その分子内に反応性官能基を保持していないため、上記の前記のキャリア・タンパク質上に対象の低分子量の有機化合物を結合させ、得られる修飾キャリア・タンパク質を免疫原に利用する手法を適用できない。勿論、過酸化物誘導体型の爆薬は、低分子量の有機化合物であり、それ自体は免疫原性を示さない。
【0090】
そのため、本発明では、対象の過酸化物誘導体型の爆薬における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物に対する抗体多数を創製し、その類似性を具えた構造を持つ低分子化合物に対する抗体多数のうち、対象の過酸化物誘導体型の爆薬に対して交叉反応性を有する抗体を選別する方法を採用している。
【0091】
以下に、対象の過酸化物誘導体型の爆薬として、下記の式(I)に示す構造を有する過酸化アセトンを例に採り、本発明をより具体的に説明する。
【0092】
【化14】

【0093】
式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(C9186:TATP;トリアセトントリペルオキシド)の構造的特徴は、その環構造そのものである。この環構造の特徴を具え、分子内に反応性官能基を有する、公知の低分子量の過酸化物型化合物のうち、哺乳動物自体に対する毒性は高くなく、また、キャリア・タンパク質上に結合させる際、その環構造を保持可能なものを探索した。
【0094】
その探索の結果、毒性が低い抗マラリア薬剤としての利用が検討されている、低分子量の過酸化物型化合物の一群のうち、下記の式(IIa)に示す構造を有するジカルボン酸化合物:3-[12-(2-カルボキシエチル)-9,12-ジメチル-7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデック-9-イル]-プロピオン酸(3-[12-(2-carboxyethyl)-9,12-dimethyl-7,8,10,11,13,14-hexaoxa-spiro-[5.8]tetradec-9-yl]-propanoic acid)が前記の要件を満足する候補として、検索された。
【0095】
【化15】

【0096】
該式(IIa)に示す構造を有するジカルボン酸化合物では、その7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデカンの環上、9位と12位の炭素原子上に置換している、2−カルボキシルエチル基(−CH2CH2COOH)は、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)の環上の炭素原子を置換しているメチル基(−CH3)と比較すると、炭素鎖が長い。その点を考慮し、本発明では、9,12-ジメチル-7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデカンの環構造を具え、その環上の9位と12位に、2−カルボキシエチル基(−CH2CH2COOH)に代えて、カルボキシルメチル基(−CH2COOH)が置換する、下記式(II)に示すジカルボン化合物を新規に合成し、式(IIa)に示す構造を有するジカルボン酸化合物に代わる、新規な免疫原中における抗原決定基として採用している。
【0097】
本発明で利用する、該式(II)に示すジカルボン化合物の合成方法を説明する。本発明が提供する、式(II)に示すジカルボン化合物の合成方法は、下記の工程A〜工程Cを含んでいる。
【0098】
工程A:(シクロヘキサン-1,1-ジイル ビス-ヒドロパーオキシドの合成工程)
水溶液中において、ギ酸(HCOOH)と過酸化水素(HOOH)を利用して、シクロヘキサノンからシクロヘキサン-1,1-ジイル ビス-ヒドロパーオキシドを合成する工程;
工程B:(式(II)に示すジカルボン酸化合物のジアリルエステルの合成工程)
ルイス酸触媒の存在下、シクロヘキサン-1,1-ジイル ビス-ヒドロパーオキシドと、アセト酢酸アリルとの付加反応を利用して、環形成を行い、式(II)に示すジカルボン酸化合物のジアリルエステルを合成する工程;
工程C:(ジアリルエステルからジカルボン酸化合物への変換工程)
パラジウム触媒の存在下、アリル基の転位反応を利用して、式(II)に示すジカルボン酸化合物のジアリルエステルから、式(II)に示すジカルボン酸化合物に変換する工程;
本発明が提供する、式(II)に示すジカルボン化合物の合成方法でも、文献(非特許文献3:Organic & Biomolecular Chemistry Vol.4, p.4431-4436 (2006))に報告されている、式(IIa)に示すジカルボン酸化合物の合成方法と同様に、出発原料として、シクロヘキサノンを使用している。
【0099】
工程A
工程Aでは、出発原料として、シクロヘキサノンを使用して、中間原料のシクロヘキサン-1,1-ジイル ビス-ヒドロパーオキシドを合成する。該工程Aでは、水溶液中において、反応試薬として、ギ酸(HCOOH)ならびに過酸化水素(HOOH)を利用し、シクロヘキサノンから、式(III)に示すシクロヘキサン-1,1-ジイル ビス-ヒドロパーオキシドを合成している。
【0100】
【化16】

【0101】
まず、過酸化水素(HOOH)の水溶液、例えば、濃度30%の過酸化水素(HOOH)の水溶液と、シクロヘキサノンとを混合し、混合液を調製する。シクロヘキサノン1分子当たり、過酸化水素(HOOH)2分子が反応することで、式(III)に示すシクロヘキサン-1,1-ジイル ビス-ヒドロパーオキシドが合成される。この混合液中もおける、シクロヘキサノンと過酸化水素(HOOH)のモル比率は、シクロヘキサノン1モル当たり、過酸化水素(HOOH)が例えば、3.25モル含まれる比率に選択する。一般に、シクロヘキサノンと過酸化水素(HOOH)のモル比率は、シクロヘキサノン1モル当たり、過酸化水素(HOOH)が、2モル〜10モルの範囲、好ましくは、2モル〜5モルの範囲となるように選択する。
【0102】
該反応液に、ギ酸(HCOOH)を添加することで、下記の反応式(A)で表記される反応を起こさせる。
【0103】
【化17】

【0104】
ギ酸(HCOOH)は、還元性化合物であり、過酸化水素(HOOH)は、酸化性化合物であり、ギ酸と過酸化水素が直接反応することを回避するため、通常、氷冷下(0℃)において、ギ酸を徐々に添加する。ギ酸(HCOOH)の添加量は、シクロヘキサノンに対して、ギ酸が大過剰量となるように選択する。一般に、シクロヘキサノンとギ酸のモル比率は、シクロヘキサノン1モル当たり、ギ酸が、5モル〜100モルの範囲、好ましくは、10モル〜30モルの範囲となるように選択する。例えば、ギ酸(HCOOH)の添加量は、シクロヘキサノン1モル当たり、ギ酸を少なくとも19.9モル添加する条件を選択する。
【0105】
また、過酸化水素(HOOH)は、30%過酸化水素水溶液を利用する。30%過酸化水素水水溶液の密度は、1.095g/ml程度であり、過酸化水素(HOOH)1分子が水4.4分子中に溶解した状態に相当する。換言すると、過酸化水素1モルを含む30%過酸化水素水溶液の量は、約104mlに相当する。一般に、シクロヘキサノンと過酸化水素のモル比率は、シクロヘキサノン1モル当たり、過酸化水素が、2モル〜10モルの範囲、好ましくは、2モル〜5モルの範囲に選択するので、シクロヘキサノン1モル(98.15g)当たり、30%過酸化水素水溶液の使用量を、200ml〜1000mlの範囲、好ましくは、200ml〜500mlの範囲となるように選択する。
【0106】
なお、シクロヘキサノンの水に対する溶解度は、液温により変化するが、5−10g/dlの範囲、室温では、約8g/dlと報告されている。すなわち、反応に使用する量の30%過酸化水素水溶液中に含まれる水溶媒のみでは、シクロヘキサノン全量を溶解することは不可能である。従って、氷冷下(0℃)、30%過酸化水素水溶液中に、ギ酸とシクロヘキサノンを添加し、均一に混合して、上記反応式(A)に示す反応を行う。
【0107】
例えば、後述の実施例1に記載する反応例では、濃度30%の過酸化水素水溶液6.7ml(HOOH 0.065モル+H2O 0.286モル)、シクロヘキサノン1.96g(0.02モル)、ギ酸15ml(0.398モル)を混合した反応液を採用している。なお、ギ酸の融点は、8.4℃であり、また、希薄溶液中においても、一部は、水素結合により会合し、二量体を形成していることが知られている。さらに、ギ酸は、水と共沸混合物(沸点107℃)を形成することも知られている。該水との共沸混合物では、水分子とギ酸分子が、水素結合により会合し、分子化合物(HCOOH:HOH)を形成していると推断される。従って、HOOH、H2O、シクロヘキサノンの分子数の総和より、ギ酸の分子数が過剰である、該反応液中においては、ギ酸の融点よりも低い、氷冷下(0℃)、ギ酸の相当部分は、二量体を形成しており、一部は、水分子とギ酸分子が、水素結合により会合し、分子化合物(HCOOH:HOH)を形成していると推断される。該分子化合物(HCOOH:HOH)は、ヒドロニウムカチオン(H2OH+)の供給原として機能していると推断される。
【0108】
実際に、ギ酸のpKaは3.77であり、ギ酸の水溶液は、酸性を示す。すなわち、水溶液中において、HCOOH+H2O→HCOO-+H2OH+で表記可能な酸解離する。この水溶液中における、ギ酸の酸解離は、下記の過程に因ると理解される。まず、水中にギ酸を溶解させると、ギ酸の二量体の解離が生じ、水分子とギ酸分子が、水素結合により会合し、分子化合物(HCOOH:HOH)が形成される。該分子化合物(HCOOH:HOH)は、ギ酸アニオン(HCOO-)・ヒドロニウムカチオン(H2OH+)の複合体(HCOO-:H2OH+)に変換される。その後、水溶液中において、複合体(HCOO-:H2OH+)は、周囲に存在する溶媒水分子(H2O)を介するプロトン・ジャンプ機構を利用し、水和したギ酸アニオン(HCOO-:H2O)と、ヒドロニウムカチオン(H2OH+)に遊離する。水和したギ酸アニオン(HCOO-:H2O)では、ギ酸アニオン(HCOO-)と水分子(H2O)との間で水素結合が形成されており、水溶液中では、該水和したギ酸アニオン(HCOO-:H2O)は、求核反応性は低い状態となっている。
【0109】
その他、ギ酸は、アルケン(R’−CR=CH2)の二重結合に対して、付加反応性を有しており、該付加反応によって、ギ酸エステル(R’−CR(CH3)−O−CHO)が生成される。さらに、酸触媒の存在下においては、コッホ反応によって、ギ酸がアルケン(R’−CR=CH2)の二重結合に対する付加することで、カルボン酸(R’−CR(CH3)−COOH)が生成される。
【0110】
一方、過酸化水素(HOOH)のpKaは11.62であり、水溶液中では、極く微弱な二塩基酸として存在している。また、2HOOH→H2O+O2で表記可能な分解反応によって、酸素を生成する。該分解反応は、酸が存在すると、抑制されることも知られている。すなわち、酸の存在下においては、HOOH+H2O→HOO-+H2OH+で表記可能な酸解離は進行しないので、HOO-+HOOH→H2O+O2+HO-で表記可能な分解反応は進行しないと推断される。一方、アルカリ性溶液中では、該分解反応は、促進される。すなわち、HOOH+HO-→HOO-+H2Oで表記可能な反応が進行する結果、HOO-+HOOH→H2O+O2+HO-で表記可能な分解反応が促進されると推断される。その際、後段の反応は、HOO-+(HOδ-−Oδ+H)→H2O+O2+HO-と表記可能な反応と推断される。勿論、該前段の反応、後段の反応ともに、発熱反応であるため、全体の反応は、発熱反応となっている。
【0111】
加えて、90%過酸化水素とトリフルオロ酢酸(CF3COOH)から、CF3COOH+HOOH⇔CF3COOOH+H2Oの平衡反応を利用することで、トリフルオロ過酢酸(CF3COOOH)が生成することも知られている。該反応系内に水が存在しており、トリフルオロ酢酸(CF3COOH)の酸解離が生じると、ヒドロニウムカチオン(H2OH+)が生成される。その際、順方向の反応は、酸触媒(H2OH+)の存在下、過酸化水素(HOOH)の求核反応性を利用することで、トリフルオロ酢酸(CF3COOH)からトリフルオロ過酢酸(CF3COOOH)が生成されると見做すことが可能である。一方、その逆方向の反応では、酸触媒(H2OH+)の存在下、トリフルオロ過酢酸(CF3COOOH)の加水分解によって、過酸化水素(HOOH)とトリフルオロ酢酸(CF3COOH)に分解されると見做すことが可能である。
【0112】
上述する特殊な反応における、ギ酸(HCOOH)と過酸化水素(HOOH)の反応性をも考慮に入れ、上記反応式(A)の反応機構について、検討を行った。
【0113】
検討の結果、上記反応式(A)の反応機構は、下記の反応中間体を介すると推定される。
【0114】
素過程(A−1)
まず、下記の素過程(A−1)に示されるように、シクロヘキサノンのカルボニル(>C=O)に対して、酸触媒のギ酸(HCOOH)の存在下、過酸化水素(HOOH)が作用して、下記の反応中間体が形成されると推定される。
【0115】
【化18】

【0116】
該素過程(A−1)では、まず、酸触媒のギ酸からヒドロニウムカチオン(H2OH+)の形状で供給されるプロトン(H+)が、カルボニル(>C=O)の酸素原子に供与され、ヒドロキシル基(−OH)に変換され、その結果、カルボカチオン中心(>C+−OH)が生成される。該カルボカチオン中心に、過酸化水素(HOOH)が近接し、該炭素原子に、パーヒドロキシル基(HOO−)が導入されると推定される。その際、過酸化水素(HOOH)から離脱するプロトン(H+)は、周囲に存在する水分子(H2O)により受容され、ヒドロニウムカチオン(H2OH+)の形状となる。
【0117】
素過程(A−2)
次に、下記の素過程(A−2)に示されるように、上記反応中間体に対して、酸触媒のギ酸(HCOOH)の存在下、過酸化水素(HOOH)が作用して、シクロヘキサン-1,1-ジイル ビス-ヒドロパーオキシドが生成されると推定される。
【0118】
【化19】

【0119】
該素過程(A−2)は、下記の二つの反応に相当すると推定される。
まず、酸触媒のギ酸からヒドロニウムカチオン(H2OH+)の形状で供給されるプロトン(H+)が、ヒドロキシル基(−OH)の酸素原子に供与され、その後、水分子(H2O)に変換され離脱する。その結果、カルボカチオン中心(>C+−OOH)が生成される。該カルボカチオン中心に、過酸化水素(HOOH)が近接し、該炭素原子に、パーヒドロキシル基(HOO−)が導入されると推定される。その際、過酸化水素(HOOH)から離脱するプロトン(H+)は、周囲に存在する水分子(H2O)により受容され、ヒドロニウムカチオン(H2OH+)の形状となる。
【0120】
上記の過酸化水素(HOOH)の求核反応性を利用する二つの素過程で構成される、酸化反応は、全体としては、発熱反応であり、氷冷下(0℃)に保持することで、液温の上昇を抑制する。
【0121】
反応時間は、氷冷下(0℃)において、15分間〜30分間の範囲に選択し、攪拌を行いつつ反応を行う。反応の終了は、反応液の液量に対して、少なくとも、5倍容の氷水を加えて、希釈する手法を利用する。
【0122】
反応産物のシクロヘキサン-1,1-ジイル ビス-ヒドロパーオキシドは、溶媒抽出によって、水層から回収する。例えば、該溶媒抽出には、酢酸エチルを利用することが好ましい。ギ酸(HCOOH)と過酸化水素(HOOH)は、水層に残り、反応産物のシクロヘキサン-1,1-ジイル ビス-ヒドロパーオキシドと未反応のシクロヘキサノンが、有機溶媒層に回収される。回収される有機溶媒層は、純水により洗浄し、さらに、飽和食塩水により洗浄して、僅かに混入しているギ酸を除去する。有機溶媒層に溶存する水を除去するため、無水硫酸ナトリウムを用いて、乾燥処理を行う。
【0123】
前記有機溶媒抽出では、回収効率を高めるため、通常、複数回の抽出を行い、その有機溶媒層を併せて、洗浄と、乾燥処理を行う。従って、併せた有機溶媒層中の反応産物の濃度は低下しており、有機溶媒のみを選択的に蒸散除去して、反応産物の濃縮を行うことが好ましい。例えば、溶媒抽出に酢酸エチルを利用する場合、減圧下、溶媒の酢酸エチルを蒸散させ、濃縮を行う。例えば、濃縮後のシクロヘキサン-1,1-ジイル ビス-ヒドロパーオキシドの濃度を、1wt%〜20wt%の範囲に選択する。通常、濃縮後のシクロヘキサン-1,1-ジイル ビス-ヒドロパーオキシドの濃度を、10wt%とすることが望ましい。
【0124】
工程B
工程Bでは、中間原料のシクロヘキサン-1,1-ジイル ビス-ヒドロパーオキシドと、アセト酢酸アリルから、式(II’)に示すジカルボン酸化合物のジアリルエステルを合成する。該工程Bでは、非プロトン性極性溶媒、例えば、酢酸エチル中において、ルイス酸触媒、例えば、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(BF3:O(CH2CH32)の存在下、シクロヘキサン-1,1-ジイル ビス-ヒドロパーオキシド1分子当たり、アセト酢酸アリル2分子を反応させることにより、下記の式(II’)に示すジカルボン酸化合物のジアリルエステルを形成している。
【0125】
【化20】

【0126】
該工程Bでは、例えば、下記の反応式(B)で表記される反応によって、式(II’)に示すジカルボン酸化合物のジアリルエステルが形成されている。
【0127】
【化21】

【0128】
まず、非プロトン性極性溶媒、例えば、酢酸エチル中に、中間原料のシクロヘキサン-1,1-ジイル ビス-ヒドロパーオキシドを溶解した溶液に、室温(25℃)でアセト酢酸アリルを添加する。該混合液を、氷冷浴で冷却しつつ、攪拌して、液温4℃の均一な混合液を作製する。アセト酢酸アリルの添加量は、中間原料のシクロヘキサン-1,1-ジイル ビス-ヒドロパーオキシド1モルに対して、アセト酢酸アリルが、例えば、2モルを超える過剰量となるように選択する。一般に、シクロヘキサン-1,1-ジイル ビス-ヒドロパーオキシドとアセト酢酸アリルのモル比率は、シクロヘキサン-1,1-ジイル ビス-ヒドロパーオキシド1モル当たり、アセト酢酸アリルが、2モル〜5モルの範囲、好ましくは、2モル〜4モルの範囲となるように選択する。
【0129】
次いで、氷冷浴で冷却しつつ、該均一な混合液に、ルイス酸触媒、例えば、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(BF3:O(CH2CH32)を添加して、反応を開始させる。ルイス酸触媒、例えば、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(BF3:O(CH2CH32)の添加量は、アセト酢酸アリル1モル当たり、ルイス酸触媒、例えば、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体が、好ましくは、1.5モルとなるように選択する。一般に、アセト酢酸アリルとルイス酸触媒、例えば、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯のモル比率は、アセト酢酸アリル1モル当たり、ルイス酸触媒、例えば、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体が、1モル〜5モルの範囲、好ましくは、1モル〜3モルの範囲となるように選択する。
【0130】
ルイス酸触媒、例えば、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体の添加により反応が開始すると、氷冷浴で冷却した状態でも、その反応熱によって、反応液の温度が上昇する。反応の進行とともに、反応熱の発生量が減少し、液温の上昇が停止する。液温の上昇が停止した時点で、氷冷浴を取り除き、液温が室温(25℃)と平衡するに任せる。この間も反応液の攪拌を行い、ルイス酸触媒、例えば、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体の添加後、2時間経過した時点で反応を停止する。反応の停止は、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を添加し、ルイス酸触媒、例えば、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体を失活させることで行う。
【0131】
該ルイス酸触媒、例えば、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体を失活させたものは、水層に溶解する。また、アセト酢酸アリルの相当部分も、水層に溶解する。有機溶媒層には、未反応のシクロヘキサン-1,1-ジイル ビス-ヒドロパーオキシドとアセト酢酸アリル、目的の反応産物である式(II’)に示すジカルボン酸化合物のジアリルエステル、ならびに、その反応中間生成物が溶解している。
【0132】
上記反応式(B)の反応機構は、下記の反応中間体を介すると推定される。
【0133】
素過程(B−1)
まず、下記の素過程(B−1)に示されるように、ルイス酸触媒、例えば、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体の存在下、中間原料のシクロヘキサン-1,1-ジイル ビス-ヒドロパーオキシド1分子と、アセト酢酸アリル2分子から、下記の反応中間生成物が形成されると推定される。
【0134】
【化22】

【0135】
該素過程(B−1)は、アセト酢酸アリルのカルボニル基(>C=O)と、シクロヘキサン-1,1-ジイル ビス-ヒドロパーオキシドのヒドロペルオキシル基(−OOH)との間における、付加反応に相当している。その際、ルイス酸触媒、例えば、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体は、カルボニル基(>C=O)を、「>Cδ+−Oδ-」の形態の分極構造に変換することで、カルボカチオン中心を誘起していると推測される。一方、ヒドロペルオキシル基(HOO−)は、「Hδ+−δ-OO−」の形態の分極構造に変化する結果、上記の付加反応が進行すると推察される。
【0136】
下記の式(IV)で表記可能な反応中間生成物は、シクロヘキサン-1,1-ジイル ビス-ヒドロパーオキシドの二つのヒドロペルオキシル基(−OOH)がともに反応したものである。恐らくは、一方のヒドロペルオキシル基(−OOH)の反応が起こり、その後、他方のヒドロペルオキシル基(−OOH)の反応が起こるという、段階的な過程を経由していると推定される。
【0137】
【化23】

【0138】
すなわち、該素過程(B−1)では、下記の式(IV’)で表記可能な反応中間体が生成されると推定される。
【0139】
【化24】

【0140】
さらに、該式(IV’)で表記可能な反応中間体から、下記の式(V)で表記される副次的な反応生成物も形成される可能性がある。
【0141】
【化25】

【0142】
素過程(B−2)
次いで、上記式(IV)で表記可能な反応中間生成物中に、二つのヒドロキシル基(−OH)の間で、酸化的縮合反応が進行し、−O−O−結合が形成され、式(II’)に示すジカルボン酸化合物のジアリルエステルが生成すると推定される。この酸化的縮合反応では、酸化剤として、中間原料のシクロヘキサン-1,1-ジイル ビス-ヒドロパーオキシドが消費されると推定される。
【0143】
従って、回収される有機溶媒層中には、式(II’)に示すジカルボン酸化合物のジアリルエステルに加えて、上述する式(IV)で表記可能な反応中間生成物、式(IV’)で表記可能な反応中間体、式(V)で表記される副次的な反応生成物なども含まれている。回収された有機溶媒層は、溶存している水分を除去するため、無水硫酸ナトリウムを用いて、乾燥処理を行う。回収の際、有機溶媒を加えているため、該有機溶媒層中の反応産物の濃度は低下しており、有機溶媒のみを選択的に蒸散除去して、反応産物の濃縮を行うことが好ましい。例えば、溶媒抽出に酢酸エチルを利用する場合、減圧下、溶媒の酢酸エチルを蒸散させ、濃縮を行う。
【0144】
濃縮された、粗精製の反応生成物を含む有機溶媒溶液中には、上述の反応中間生成物、反応中間体、副次的な反応生成物が混入している。カラムクロマトグラフィーを利用して、これらの化合物を分離し、目的とする、式(II’)に示すジカルボン酸化合物のジアリルエステルを単離し、回収する。
【0145】
工程C
工程Cでは、式(II’)に示すジカルボン酸化合物のジアリルエステルに、脱アリル化処理を施し、式(II)に示すジカルボン酸化合物に変換している。該工程Cでは、非プロトン性極性溶媒、例えば、テトラヒドロフラン中において、パラジウム触媒、例えば、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(Pd{P(C6534)の存在下、N−アルキルアニリン、例えば、N−メチルアニリンを利用して、式(II’)に示すジカルボン酸化合物のジアリルエステルから、アリル基の転位反応を行うことで、該ジアリルエステルを、式(II)に示すジカルボン酸化合物に変換している。該アリル基の転位反応では、アリル基1つ当たり、N−アルキルアニリン1分子が消費される。
【0146】
すなわち、工程Cでは、例えば、下記の反応式(C)で表記される反応によって、式(II’)に示すジカルボン酸化合物の脱アリル化がなされている。
【0147】
【化26】

【0148】
まず、非プロトン性極性溶媒、例えば、テトラヒドロフラン中に、式(II’)に示すジカルボン酸化合物のジアリルエステルと、N−アルキルアニリン、例えば、N−メチルアニリンを溶解する。その際、式(II’)に示すジカルボン酸化合物のジアリルエステル1モルに対して、N−アルキルアニリン、例えば、N−メチルアニリンが2モルを超える過剰量、例えば、2.2モルとなるように選択する。通常、式(II’)に示すジカルボン酸化合物のジアリルエステルとN−アルキルアニリン、例えば、N−メチルアニリンのモル比率は、式(II’)に示すジカルボン酸化合物のジアリルエステル1モル当たり、N−アルキルアニリン、例えば、N−メチルアニリンが、2モル〜10モルの範囲、好ましくは、2モル〜5モルの範囲となるように選択する。
【0149】
次いで、室温(25℃)で、該溶液に、パラジウム触媒、例えば、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(Pd{P(C6534)を添加し、反応を開始する。該パラジウム触媒、例えば、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(Pd{P(C6534)の添加量は、式(II’)に示すジカルボン酸化合物のジアリルエステル1モル当たり、例えば、該パラジウム触媒を0.2モル使用する。一般に、式(II’)に示すジカルボン酸化合物のジアリルエステル1モル当たり、該パラジウム触媒のモル比率を、0.05モル〜1.5モルの範囲、好ましくは、0.1モル〜0.5モルの範囲となるように選択する。該パラジウム触媒の添加後、室温(25℃)で反応液を攪拌し、反応を進行させる。例えば、2.5時間〜3時間程度経過した時点で、反応を停止する。反応の停止は、相当量の純水を反応液に加え、パラジウム触媒、例えば、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(Pd{P(C6534)を失活させることで行う。
【0150】
上記の反応で生成する式(II)に示すジカルボン酸化合物は、水溶性のジカルボン酸化合物であり、イオン化した状態で水層中に溶解している。式(II)に示すジカルボン酸化合物が溶解している水層に対して、例えば、濃度10%の塩酸を滴下し、該水層のpHを1.9に調整する。その結果、pH 1.9では、式(II)に示すジカルボン酸化合物は、イオン化状態から非イオン化状態となる。この非イオン化状態の式(II)に示すジカルボン酸化合物を、非プロトン性極性溶媒、例えば、ジクロロメタンを利用して、溶媒抽出する。該有機溶媒層を分取した後、溶存する塩酸の除去するため、飽和食塩水を用いて、洗浄する。
【0151】
回収される有機溶媒層中には、式(II)に示すジカルボン酸化合物に加えて、脱アリル化処理において、未反応の式(II’)に示すジカルボン酸化合物のジアリルエステル、一方のアリル基が残余している、モノアリルエステルも混入している。回収された有機溶媒層は、溶存している水分を除去するため、無水硫酸ナトリウムを用いて、乾燥処理を行う。回収の際、有機溶媒を加えているため、該有機溶媒層中の反応産物の濃度は低下しており、有機溶媒のみを選択的に蒸散除去して、反応産物の濃縮を行うことが好ましい。例えば、溶媒抽出にジクロロメタンを利用する場合、減圧下、抽出溶媒のジクロロメタンを蒸散させ、濃縮を行う。
【0152】
濃縮された、粗精製の反応生成物を含む有機溶媒溶液中には、式(II)に示すジカルボン酸化合物に加えて、未反応の式(II’)に示すジカルボン酸化合物のジアリルエステル、一方のアリル基が残余している、モノアリルエステルも混入している。カラムクロマトグラフィーを利用して、これらの化合物を分離し、目的とする、式(II)に示すジカルボン酸化合物を単離し、回収する。
【0153】
上記式(II)に示すジカルボン酸化合物は、その7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデカンの環上、9位と12位の炭素原子は、不斉炭素原子である。そのため、9位と12位の炭素原子の立体配置に伴って、(9R、12S)と表記可能なジカルボン酸化合物と、(9R,12R)と表記可能なジカルボン酸化合物の二種の立体異性体が存在している。本発明では、(9R、12S)と表記可能なジカルボン酸化合物を利用することが好ましい。
【0154】
次に、上記の合成方法により作製される式(II)に示すジカルボン酸化合物を抗原決定基とする免疫原の作製と、該式(II)に示すジカルボン酸化合物に対する抗体の創製方法について、より詳しい説明を行う。
【0155】
本発明では、式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物の分子内に存在する反応性官能基である、カルボキシル基(−COOH)を利用して、キャリア・タンパク質表面に存在する反応性官能基、特に、アミノ基(−NH2)との間で、アミド結合(−CO−NH−)を形成させることで、キャリア・タンパク質の表面に結合させる形態を選択することが好ましい。
【0156】
その際、キャリア・タンパク質は、上記のキャリア・タンパク質上に対象の低分子量の有機化合物を結合させ、得られる修飾キャリア・タンパク質を免疫原に利用する手法(非特許文献2:Chemistry Letters, Vol.35, No.10, p.1126-1127(2006))において、既に利用されている、各種のキャリア・タンパク質を利用することができる。キャリア・タンパク質として、ウシ血清アルブミン、ウシサイログロブリン、キーホールリンペツトヘモシアニン(Keyhole Limpet Hemocyanin)などが好適に利用できる。
【0157】
キャリア・タンパク質上に対象の低分子量の有機化合物を結合させ、得られる修飾キャリア・タンパク質を免疫原に利用する場合、免疫操作を施した哺乳動物中では、該修飾キャリア・タンパク質に対する特異的な抗体が創製される。その際、利用するキャリア・タンパク質自体も、一般に、免疫原性を具えているため、該修飾キャリア・タンパク質中の修飾部位に特異的な抗体以外に、キャリア・タンパク質自体の抗原決定基に特異的な抗体の創製もなされる。
【0158】
その点を考慮すると、免疫操作に利用される、修飾キャリア・タンパク質に対して、未修飾のキャリア・タンパク質の混入比率が低いことが好ましい。勿論、未修飾のキャリア・タンパク質の混入が無い、修飾キャリア・タンパク質を使用することがより好ましい。
【0159】
一方、利用されるキャリア・タンパク質上には、対象の低分子量の有機化合物を結合させ、修飾を行うことが可能な部位(修飾可能部位)が、一般に、複数箇所存在している。この修飾可能部位は、それぞれ、反応性官能基が存在しているが、その反応性には、一般に、差違が存在している。従って、反応性の高い修飾可能部位から優先的に、対象の低分子量の有機化合物の結合が進行し、対象の低分子量の有機化合物が消費されるため、反応性の低い修飾可能部位に対して、対象の低分子量の有機化合物の結合が達成される効率は一層低下する傾向がある。キャリア・タンパク質上に存在する、複数の修飾可能部位の全てに、対象の低分子量の有機化合物の結合を達成させるためには、反応に使用する対象の低分子量の有機化合物の量は、複数の修飾可能部位の合計に対して、相当に過剰な量に選択することが望ましい。例えば、キャリア・タンパク質上に存在する、修飾可能部位がN箇所である場合、反応に使用する対象の低分子量の有機化合物の量は、キャリア・タンパク質1分子当たり、最低限、N分子が必要であるが、少なくとも、50分子以上、好ましくは、60分子以上に選択することが望ましい。
【0160】
免疫操作は、該対象の低分子量の有機化合物を結合させた、修飾キャリア・タンパク質の免疫有効量を含む溶液を、例えば、免疫対象の哺乳動物に対して、注射により投与することにより行うことが望ましい。その注射による投与の形態では、皮下注射、皮内注射、静脈注射、または腹腔内投与の形態が利用可能である。通常、皮下注射によって、前記溶液を投与する。その際、前記修飾キャリア・タンパク質の免疫有効量を含む溶液に、各種のアジュバンドを添加することが好ましい。通常、該アジュバンドとしては、従来から免疫操作に利用されているアジュバンドが利用できる。利用可能なアジュバントとしては、フロイント完全アジュバントや水中油中水型乳剤、水中油乳剤、リポソーム、水酸化アルミニウムゲル、シリカアジュバンドがある。フロイント完全アジュバンドは、汎用されており、本発明でも、好適に利用できる。例えば、初回の免疫操作(感作)時には、該アジュバンドとして、フロイント完全アジュバントを利用することが好ましい。
【0161】
また、免疫操作では、初回の免疫操作(感作)後、所定の期間が経過した時点で、追加免疫を行う。この追加免疫においても、修飾キャリア・タンパク質の免疫有効量を含む溶液に、各種のアジュバンドを添加することが好ましい。例えば、追加免疫時にも、該アジュバンドとして、フロイント完全アジュバントを利用することが好ましいが、フロイント不完全アジュバントを利用することでも、相当の効果が得られる。
【0162】
初回の免疫操作(感作)後、実施される追加免疫は、複数回行うことが望ましい。その間隔は、前回の免疫操作(感作)に対する免疫反応に伴う、血液中の抗体濃度が極大を示し、抗体濃度の減少期となった時点で、追加免疫を行うことが望ましい。前回の免疫操作(感作)後、血液中の抗体濃度が極大に達するまでの日数は、通常、用いる免疫原の体内での代謝速度に依存する。従って、追加免疫の間隔は、用いる免疫原の種類、対象の免疫動物の種類、その健康状態に依存する。マウスなどの小動物を免疫動物に利用する際には、初回の免疫操作(感作)後、例えば、2週間、4週間、6週間、8週間後に、追加免疫を実施する形態を選択できる。
【0163】
科学的には、免疫対象の哺乳動物の種類は問わないが、倫理的な観点から、ヒト以外の哺乳動物から選択する。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞を創製する場合、免疫対象の哺乳動物に利用可能な、ヒト以外の哺乳動物としては、マウス、ラット、ヤギなどを選択することができる。
【0164】
免疫対象の哺乳動物としては、該修飾キャリア・タンパク質に対して、交叉反応性を示す抗体を既に保持している哺乳動物は好ましくない。すなわち、当該免疫対象の哺乳動物は、後天的に獲得した免疫が無い個体であることが、一般に好ましい。前記の要件を考慮すると、各種の免疫原性物質に曝される機会が本質的にない環境下において、出産後、生育された哺乳動物を利用することが好ましい。あるいは、出産後、免疫操作を施すことが可能な程度に生育するまでの期間が短い哺乳動物を利用することが好ましい。これらの条件を考慮すると、医学的な研究に利用される、血統的に確立されている小型の哺乳動物を利用することがより好ましい。具体的には、各種の新規な抗体の創製に利用されている、マウス、ラット、ラビットなどが好ましく、特には、マウスまたはラット、更には、ラットを利用することがより好ましい。
【0165】
免疫操作に先立ち、免疫動物として利用される、ヒト以外の哺乳動物において、該修飾キャリア・タンパク質の作製に利用される、キャリア・タンパク質自体の免疫原性と、該キャリア・タンパク質に対する特異的な抗体が創製される免疫条件を予め調査することが望ましい。上記のキャリア・タンパク質上に対象の低分子量の有機化合物を結合させ、得られる修飾キャリア・タンパク質を免疫原に利用する手法(非特許文献2:Chemistry Letters, Vol.35, No.10, p.1126-1127(2006))において、既に利用されている、各種のキャリア・タンパク質に関しては、各種の新規な抗体の創製に利用されている、マウス、ラット、ラビットなどについて、前記の事項は、既に調査されており、その報告が利用できる。
【0166】
また、上記のキャリア・タンパク質上に対象の低分子量の有機化合物を結合させ、得られる修飾キャリア・タンパク質を免疫原に利用する手法(非特許文献2:Chemistry Letters, Vol.35, No.10, p.1126-1127(2006))において、既に報告されている成功例を参照して、各種の新規な抗体の創製に利用されている、マウス、ラット、ラビットなどについて、修飾キャリア・タンパク質の免疫有効量を相当の確度で推定することも可能である。
【0167】
各種の新規な抗体の創製に利用されている、マウス、ラット、ラビットなどに対する、免疫操作の手順は、既に報告されている成功例で利用された手順に沿って、選択することが望ましい。
【0168】
免疫対象の哺乳動物として、マウスまたはラットを選択する場合、初回の免疫操作(感作)を実施する齢は、その後の追加免疫の回数、その間隔を考慮して、選択される。具体的には、複数回の追加免疫を終了した後、当該免疫動物の血液中に、免疫原に特異的な抗体が存在することを検証する必要がある。従って、複数回の追加免疫を終了する時点で、当該免疫動物が抗体を生産する能力が低下する齢に達しないように、初回の免疫操作(感作)を実施する齢を選択することが好ましい。初回の免疫操作(感作)後、複数回の追加免疫を終了するまでの期間を、8週間程度に選択する場合、マウスまたはラットでは、初回の免疫操作(感作)を実施する齢は、10〜15週齢の範囲に選択することが好ましく、通常、12週齢程度に選択することがより好ましい。マウスまたはラットでは、12週齢程度に達すると、十分な抗体を生産する能力を有しており、新規な抗体を創製する能力が最も高くなることが知られている。
【0169】
式(II)に示すジカルボン酸化合物は、室温において、固体であるため、キャリア・タンパク質上に該ジカルボン酸化合物を結合させる反応は、該ジカルボン酸化合物を溶解可能な反応溶媒を利用して実施する必要がある。一方、利用されるキャリア・タンパク質は、溶媒の種類によっては、変性を受ける場合がある。従って、利用されるキャリア・タンパク質の変性を引き起こさず、同時に、該化合物を溶解可能な反応溶媒を選択する必要がある。
【0170】
従来、キャリア・タンパク質上に対象の低分子量の有機化合物を結合させ、修飾キャリア・タンパク質を調製する際に利用された、各種の反応溶媒中から、前記の式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物を溶解可能な反応溶媒を選択することが好ましい。実際に、前記の反応溶媒の選択を進めたところ、特に、好ましい反応溶媒として、ジメチルスルホン(DMSO:(CH32SO)とホウ酸緩衝液が選択された。
【0171】
ジメチルスルホン(DMSO:(CH32SO)は、非水溶媒であるが、キャリア・タンパク質を変性させずに溶解可能であり、また、式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物を相当に高濃度で溶解可能な溶媒である。
【0172】
また、ホウ酸緩衝液は、その緩衝作用が発揮できるpH領域は、6.8〜9.2の範囲であるが、上記の式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物を溶解可能な溶媒系としては、通常、pHを8.2〜8.7の範囲に選択する組成、特には、pHを、8.5前後に調整可能な組成を選択することが好ましい。
【0173】
式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物の分子内に存在する反応性官能基である、カルボキシル基(−COOH)を利用して、キャリア・タンパク質表面に存在する反応性官能基、特に、アミノ基(−NH2)との間で、アミド結合(−CO−NH−)を形成させる場合、カルボジイミドを利用するアミド結合形成法を利用することが好ましい。カルボジイミドを利用するアミド結合形成では、結合剤カルボジイミドとして、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、N−[3-(ジメチルアミノ)プロピル]−N’−エチルカルボジイミド(EDC)、N−[3-(ジメチルアミノ)プロピル]−N’−エチルカルボジイミド塩酸塩(EDAC)などを利用することができる。該結合剤カルボジイミドの量は、式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物1分子当たり、5分子〜20分子の範囲に選択することが好ましい。
【0174】
一方、式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物の使用量は、キャリア・タンパク質の表面に露呈する、アミノ基(−NH2)の総数に基づき、決定する。その際、キャリア・タンパク質1分子の表面に露呈する、アミノ基(−NH2)の総数がN個である場合、式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物の使用量を、該キャリア・タンパク質1分子当たり、N×3分子〜N×10分子の範囲に選択することが好ましい。その結果として、該キャリア・タンパク質1分子当たり、式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物が、1/2×N分子〜N分子の範囲で、結合している、修飾キャリア・タンパク質を調製することが望ましい。
【0175】
本発明では、上記の免疫操作に利用する、免疫原として、キャリア・タンパク質上に対象の低分子量の有機化合物を結合させ、得られる修飾キャリア・タンパク質を利用している。免疫操作によって、新たに創製される、該修飾キャリア・タンパク質に特異的な抗体複数種のうちに、利用したキャリア・タンパク質上に結合していない、該低分子量の有機化合物自体に対しても高い反応性を示す抗体が実際に存在することを、先ず検証する。
【0176】
上記の最終回の追加免疫を終了した後、免疫原として利用する、該修飾キャリア・タンパク質に特異的な抗体の血液中濃度の有意な上昇が見出される時点で、当該免疫動物から採血し、採取した血液から、抗血清を調製する。この抗血清中に含まれる、該修飾キャリア・タンパク質に特異的な抗体複数種のうちに、利用したキャリア・タンパク質上に結合していない、該低分子量の有機化合物自体に対しても高い反応性を示す抗体が実際に存在することを、検証する。
【0177】
すなわち、該式(II)のジカルボン酸化合物自体を抗原決定基とする、ポリクローナル抗体の有無を検証する。複数種の抗体を含有している抗血清中に、特定の抗原決定基に特異的に結合する抗体が存在することを検証する手段としては、酵素免疫測定法(ELISA法)が好適に利用される。酵素免疫測定法(ELISA法)は、特定の抗原決定基に対する抗体の特異的な反応性を利用するため、選択性が高く、特に、抗血清中に含有されている、特定の抗原決定基に対する抗体の濃度が不明な場合に、その抗体価を簡便に評価することが可能である。
【0178】
本発明では、利用したキャリア・タンパク質上に結合していない、該低分子量の有機化合物自体に対しても高い反応性を示す抗体の検出を行うため、酵素免疫測定法(ELISA法)で利用する抗原として、該低分子量の有機化合物を、別種のキャリア・タンパク質の表面に結合させた、別種の修飾キャリア・タンパク質を利用する。勿論、その別種のキャリア・タンパク質自体は、該修飾キャリア・タンパク質に特異的な抗体複数種と反応しないことが必要である。
【0179】
免疫原の作製に利用されるキャリア・タンパク質と、前記の酵素免疫測定法(ELISA法)で利用する抗原の作製に利用される別種のキャリア・タンパク質を、免疫原の作製に好適に利用されるキャリア・タンパク質の群から、互いに相違する二種のキャリア・タンパク質の組み合わせを選択することが好ましい。
【0180】
前記のキャリア・タンパク質の組み合わせでは、該キャリア・タンパク質自体の抗原決定基は、通常、相違しており、該修飾キャリア・タンパク質に特異的な抗体複数種が、前記別種のキャリア・タンパク質自体に反応性を示す可能性を排除できる。また、前記の互いに相違する二種のキャリア・タンパク質の組み合わせでは、該低分子量の有機化合物を結合可能な部位の局所的な構造(部分アミノ酸配列)が実質的に一致する可能性も極めて低い。従って、前記の組み合わせでは、免疫原の修飾キャリア・タンパク質に特異的な抗体複数種のうち、該低分子量の有機化合物を、別種のキャリア・タンパク質の表面に結合させた、別種の修飾キャリア・タンパク質に対して結合能を示す抗体は、該低分子量の有機化合物自体に結合する抗体と見做すことができる。
【0181】
特に、前記の酵素免疫測定法(ELISA法)で利用する抗原の作製に利用される別種のキャリア・タンパク質として、ブロッキング用タンパク質として、汎用されるウシ血清アルブミンを選択し、一方、免疫原の作製に利用されるキャリア・タンパク質として、ウシ血清アルブミン以外の汎用のキャリア・タンパク質、例えば、キーホールリンペツトヘモシアニン(Keyhole Limpet Hemocyanin)を選択することがより好ましい。前記の酵素免疫測定法(ELISA法)で利用する、修飾キャリア・タンパク質型の抗原の作製に利用される別種のキャリア・タンパク質として、ウシ血清アルブミンを選択すると、その修飾キャリア・タンパク質型の抗原の、ウシ血清アルブミン部分に非選択的に抗体分子が結合する現象も排除される。さらに、ウシ血清アルブミンをキャリア・タンパク質とする、該修飾キャリア・タンパク質型の抗原は、ELISAプレート上に、高密度で固定することが可能である。
【0182】
取得された抗血清中に、免疫原の作製に利用している、該低分子量の有機化合物自体に対する反応性を有する抗体が存在することを検証した後、該低分子量の有機化合物自体に対する反応性を有するポリクローナル抗体が、目的とする過酸化物誘導体型の爆薬、例えば、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)自体に対して、交叉反応性を示すか否かを検証する。
【0183】
本発明において、前記抗体の交叉反応性の検証は、二種の抗原の抗体に対する競合反応を利用することが好ましい。
【0184】
目的とする過酸化物誘導体型の爆薬、例えば、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)自体は、低分子量の有機化合物であり、抗体との抗原抗体反応を行う際、その結合は、抗体分子の相補性決定部位の一つにより達成されると考えられる。また、上記の免疫操作に利用される、修飾キャリア・タンパク質の作製に利用される、類似の構造を有する低分子量の有機化合物も、抗体との抗原抗体反応を行う際、その結合は、抗体分子の相補性決定部位の一つにより達成されると考えられる。
【0185】
従って、抗体が交叉反応性を有する場合、免疫原の修飾キャリア・タンパク質の作製に利用される、類似の構造を有する低分子量の有機化合物との結合に関与する、該抗体分子の相補性決定部位と、目的とする過酸化物誘導体型の爆薬、例えば、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)自体の結合に関与する、該抗体分子の相補性決定部位とは一致する可能性が極めて高い。その場合、該抗体分子の相補性決定部位に、目的とする過酸化物誘導体型の爆薬、例えば、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)が結合すると、免疫原の修飾キャリア・タンパク質の作製に利用される、類似の構造を有する低分子量の有機化合物の結合を阻害する。この競争阻害の現象を利用することで、当該抗体分子の特定の相補性決定部位に対して、交叉反応性を示すか否かを検証することができる。
【0186】
具体的には、上記の免疫原の修飾キャリア・タンパク質の作製に利用される、類似の構造を有する低分子量の有機化合物自体に対する反応性に検証に利用した、該類似の構造を有する低分子量の有機化合物を、別種のキャリア・タンパク質の表面に結合させた、別種の修飾キャリア・タンパク質を、ELISAプレート上に固定化する。一方、目的とする過酸化物誘導体型の爆薬、例えば、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)は、該ELISA法において、抗原抗体反応を行わせる反応液中に、ポリクローナル抗体の含む抗血清とともに溶解させる。
【0187】
上記の競合反応が進行すると、前記反応液中に存在する、交叉反応性を示す抗体は、目的とする過酸化物誘導体型の爆薬、例えば、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)と抗原抗体反応する結果、プレート上に固定化されている、修飾キャリア・タンパク質型の抗原との抗原抗体反応を介して、固定化される抗体分子の量が減少する。この競合反応に起因する、プレート上に固定化されている、修飾キャリア・タンパク質型の抗原との抗原抗体反応を介して、固定化される抗体分子量の減少を、酵素免疫測定法(ELISA法)を応用して検出する。
【0188】
この手法を利用することで、抗血清中に含有される、上記の免疫原の修飾キャリア・タンパク質の作製に利用される、類似の構造を有する低分子量の有機化合物自体に対するポリクローナル抗体中、目的とする過酸化物誘導体型の爆薬、例えば、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)と交叉反応性を示す抗体が含まれることを検証することができる。
【0189】
換言すると、前記の検証がなされた抗血清は、目的とする過酸化物誘導体型の爆薬、例えば、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する結合能を有するポリクローナル抗体を含むものである。
【0190】
前記の目的とする過酸化物誘導体型の爆薬、例えば、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)と交叉反応性を示す抗体を産生していることの検証がなされた免疫動物の抗体産生細胞群を採取し、この抗体産生細胞群と、骨髄腫由来の細胞株の細胞とを細胞融合させ、一群のハイブリドーマ細胞を作製する。
【0191】
通常、前記の検証がなされた免疫動物から、その脾臓を摘出して、脾臓細胞群を調製する。この脾臓細胞群と、骨髄腫由来の細胞株の細胞とを細胞融合させ、一群のハイブリドーマ細胞を作製する。
【0192】
前記の細胞融合に利用される、骨髄腫由来の細胞株は、融合対象である、免疫動物由来の脾臓細胞と適合性を有することが必要である。また、細胞融合で創製されるハイブリドーマ細胞の増殖能は、細胞融合に利用される、骨髄腫由来の細胞株に依っており、増殖能力の優れた骨髄腫由来の細胞株を利用することが好ましい。
【0193】
例えば、免疫動物として、マウスを選択する場合、細胞融合に利用される、骨髄腫由来の細胞株として、マウスの骨髄腫由来の細胞株である、P3X63 Ag8.653、P3X63Ag8U、Sp2/O Ag14、FO・1、S194/5.XX0 BU.1等が好適に使用される。特に、細胞株P3X63Ag8Uの利用は、創製されるハイブリドーマ細胞の増殖能が高く、また、該ハイブリドーマ細胞の産生する抗体分子は、適正な組み立てがなされた全抗体であり、組み立ての完了していない抗体分子の断片を含まないので、より好ましい。
【0194】
例えば、免疫動物として、ラットを選択する場合、細胞融合に利用される、骨髄腫由来の細胞株として、ラットの骨髄腫由来の細胞株、210、RCY3.Ag1.2.3、YB2/0などが挙げられる。また、マウスの骨髄腫由来の細胞株を、ラットの脾臓細胞群との細胞融合に利用することもできる。
【0195】
上記のハイブリドーマ細胞を創製するための細胞融合の手法として、例えば、ポリエチレングリコール法、センダイウイルスを用いた方法、電流を利用する方法などが挙げられる。ポリエチレングリコール法は、細胞毒性が少なく、融合操作も容易であり、特に、再現性が高いので、本発明により適している。すなわち、本発明では、免疫原の修飾キャリア・タンパク質に対する特異的なモノクローナル抗体を産生する、一群のハイブリドーマ細胞のうち、目的とする過酸化物誘導体型の爆薬、例えば、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を有するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞を選別する必要がある。創製される、一群のハイブリドーマ細胞のうち、前記の交叉反応性を有するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞が含まれる頻度は、決して高く無いので、スクリーニング対象の一群のハイブリドーマ細胞の細胞株数(母数)を大きくする必要がある。従って、より再現性の高い細胞融合手法を選択することが好ましく、ポリエチレングリコール法は、前記の要請に適合している。
【0196】
創製された、一群のハイブリドーマ細胞は、分散した上で、マイクロプレートに分注して、利用した骨髄腫由来の細胞株に応じて、適宜選択される公知の培養条件で増殖させる。上記の培養により確立される、一群のハイブリドーマ細胞の細胞株について、各ハイブリドーマ細胞の細胞株が産生するモノクローナル抗体について、目的とする過酸化物誘導体型の爆薬、例えば、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)と交叉反応性を示す抗体か否かを検証する。
【0197】
培養により確立される、一群のハイブリドーマ細胞の細胞株について、各ハイブリドーマ細胞の細胞株の培養上清を採取する。各ハイブリドーマ細胞の細胞株の培養上清は、該細胞株の産生するモノクローナル抗体を含んでいる。
【0198】
各ハイブリドーマ細胞の細胞株の培養上清に含まれるモノクローナル抗体が、免疫操作に利用される、修飾キャリア・タンパク質の作製に利用される、類似の構造を有する低分子量の有機化合物自体に対する反応性を有するか、否かを先ず検証する。
【0199】
その検証には、該類似の構造を有する低分子量の有機化合物を、別種のキャリア・タンパク質の表面に結合させた、別種の修飾キャリア・タンパク質を抗原とする、酵素免疫測定法(ELISA法)による検証手法が利用できる。その具体的な測定法は、上記の抗血清中に含まれるポリクローナル抗体の反応性に関する検証と、原理的には同じである。
【0200】
この検証によって、一群のハイブリドーマ細胞の細胞株中から、免疫操作に利用される、修飾キャリア・タンパク質の作製に利用される、類似の構造を有する低分子量の有機化合物自体に対する反応性を有するモノクローナル抗体を産生する、ハイブリドーマ細胞の細胞株が選別される。この一次スクリーニングで選別される、ハイブリドーマ細胞の細胞株の群について、該ハイブリドーマ細胞の細胞株の産生するモノクローナル抗体は、目的とする過酸化物誘導体型の爆薬、例えば、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示す抗体か否かを検証する。
【0201】
この交叉反応性に関する検証は、上記の抗血清中に含まれるポリクローナル抗体の交叉反応性に関する検証と、原理的には同じ手法を適用することで行うが可能である。
【0202】
前記目的とする過酸化物誘導体型の爆薬、例えば、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性の検証(二次スクリーニング)によって、目的とする過酸化物誘導体型の爆薬、例えば、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示すモノクローナル抗体を産生する、ハイブリドーマ細胞の細胞株が選別される。なお、選択されるモノクローナル抗体のタイプは、酵素免疫測定法(ELISA法)に利用される、抗Ig抗体の示す抗体タイプ特異性に依存する。
【0203】
この二次スクリーニングによって、選別されるハイブリドーマ細胞の細胞株を使用して、目的とする過酸化物誘導体型の爆薬、例えば、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する結合能を有するモノクローナル抗体を生産することができる。
【0204】
選別されたハイブリドーマ細胞の細胞株のin vitro細胞培養を行い、その培養上清を回収し、含有されるモノクローナル抗体を精製することができる。また、選別されたハイブリドーマ細胞の細胞株を、免疫に利用したヒト以外の哺乳動物の腹腔内に接種すると、該腹腔内で増殖し、腹水内に産生されたモノクローナル抗体が蓄積される。その後、該腹水を採取して、含有されるモノクローナル抗体を精製することができる。
【0205】
腹水または培養上清中に含まれる、モノクローナル抗体の精製は、例えば、DEAE陰イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、硫安分画法、PEG分画法,エタノール分画法などを、適宜組み合わせ、目的の純度まで精製を施す。望ましい純度は、95%以上、より好ましくは98%以上である。例えば、目的とする過酸化物誘導体型の爆薬、例えば、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する結合能を有するモノクローナル抗体を、当該過酸化物誘導体型の爆薬の検出装置、あるいは、濃度の測定装置に利用する際には、夾雑物に対する反応性を具える抗体が混入すると、その確度を低減させる要因となる。その点を考慮すると、前記の純度まで精製を行うことが望ましい。
【0206】
(受託番号)
なお、
本発明にかかる、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する結合能を有するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞として、
ハイブリドーマ細胞株:P3-RZZ-16-11Eが、ブタペスト条約に基づき、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国 茨城県つくば市東1丁目1番地中央第6、郵便番号305−8566)に、国際寄託(平成22年 6月 8日付け)がなされている。
【0207】
【表1】

【0208】
上記のハイブリドーマ細胞株は、後述する第二の実施態様に開示する手順によって、創製され、選別されたハイブリドーマ細胞株である。なお、国際寄託されているハイブリドーマ細胞株:P3-RZZ-16-11Eは、後述のモノクローナル抗体:16−11Eを産生するハイブリドーマ細胞株である。
【0209】
本発明にかかる過酸化物誘導体型の爆薬に対する結合能を有する抗体と、その作製方法について、第一の実施態様を例に挙げ、具体的に説明する。
【0210】
以下に例示する第一の実施態様の具体例は、本発明の最良の実施形態の一例であるが、本発明の技術的範囲は、該具体例に例示する形態に限定されるものではない。
【0211】
(第一の実施態様)
以下に説明する、本発明の第一の実施態様では、対象となる過酸化物誘導体型の爆薬として、上記式(I)で示される三量体型の過酸化アセトン(C9186:TATP;トリアセトントリペルオキシド)を選択している。
【0212】
一方、キャリア・タンパク質上に結合し、修飾タンパク質型の免疫原の作製に利用する、該三量体型の過酸化アセトン(TATP)と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物として、下記式(II)に示す[12-(2-カルボキシメチル)-9,12-ジメチル-7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデック-9-イル]-酢酸([12-(2-carboxymethyl)-9,12-dimethyl-7,8,10,11,13,14-hexaoxa-spiro-[5.8]tetradec-9-yl]-acetic acid)(以後、OSAAと略記する)を選択している。
【0213】
【化27】

【0214】
該式(II)に示すジカルボン酸化合物は、そのヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデカン環の9位と12位の炭素原子は、ともに、不斉中心(キラル中心)となっている。該9位の炭素原子と、12位の炭素原子の立体配置に関して、(9R、12S)と表記可能なメソ体型のジカルボン酸化合物は、二回回転対称性を有する立体構造を具えている。該9位の炭素原子と、12位の炭素原子の立体配置に関して、(9R、12R)と表記可能なシス体型のジカルボン酸化合物は、対称面を有する立体構造を具えている。
【0215】
本第一の実施態様では、前記二種の立体異性体が混合したものを利用している。
【0216】
(i)式(II)に示すジカルボン酸化合物の合成
(工程i-a)シクロヘキサン-1,1-ジイル ビス-ヒドロパーオキシドの合成工程
水溶液中において、ギ酸(HCOOH)と過酸化水素(HOOH)を利用して、シクロヘキサノンからシクロヘキサン-1,1-ジイル ビス-ヒドロパーオキシドを合成している。
【0217】
濃度30%の過酸化水素水溶液(関東化学(株)社製)6.7mlに、シクロヘキサノン(和光純薬工業(株)社製)1.96gと、ギ酸(和光純薬工業(株)社製)15mlを、氷冷下で2分間かけて添加する。氷冷下で、該反応液を15分間撹拌する。その後、反応液に、氷水100gを加え、反応を停止する。
【0218】
前記反応産物を含む水溶液に、酢酸エチル(和光純薬工業(株)社製)を加え、溶媒抽出を行う。分液される、有機溶媒層と、水層とそれぞれ分離回収する。さらに、水層中に残余する反応産物を、50ml×2の酢酸エチルで溶媒抽出する。分離回収された有機溶媒層を併せて、30ml×10の純水で洗浄し、混入している過酸化水素とギ酸を除去する。続いて、有機溶媒層を、30mlの飽和食塩水で洗浄する。前記の洗浄操作に伴って、有機溶媒層に混入する水分を除去するため、無水硫酸ナトリウムで乾燥する。
【0219】
乾燥処理を施した有機溶媒層を、減圧下濃縮する。該濃縮によって、式(III)に示すシクロヘキサン-1,1-ジイル ビス-ヒドロパーオキシドを含む、24gの酢酸エチル溶液を得た。該酢酸エチル溶液中、シクロヘキサン-1,1-ジイル ビス-ヒドロパーオキシドの濃度は、11.5wt%であった。出発原料のシクロヘキサノンに対する、シクロヘキサン-1,1-ジイル ビス-ヒドロパーオキシドの収率は、93.4%となっている。
【0220】
(工程i-b)式(II’)に示すジカルボン酸化合物のジアリルエステルの合成工程
ルイス酸触媒の存在下、シクロヘキサン-1,1-ジイル ビス-ヒドロパーオキシドと、アセト酢酸アリルとの付加反応を利用して、環形成を行い、式(II’)に示すジカルボン酸化合物のジアリルエステルを合成している。
【0221】
シクロヘキサン-1,1-ジイル ビス-ヒドロパーオキシド2.45gを含む酢酸エチル溶液に、アセト酢酸アリル(和光純薬工業(株)社製)2.35gを、室温(25℃)程度の温度で添加する。氷冷浴中において、該混合液を攪拌して、4℃まで冷却する。
【0222】
氷冷浴中で冷却した混合液中に、3.06mlの三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(森田化学工業(株)社製)を添加し、反応を開始する。反応の開始とともに、反応液の液温が上昇する。液温が13℃に達し、その後、液温の上昇は収束した。この時点で、氷冷浴から取り出し、2時間攪拌を継続する。その間に、液温は、徐々に室温(25℃)まで上昇する。
【0223】
2時間が経過した時点で、反応液に、50ml×2の飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を添加し、反応を停止するとともに、洗浄を行う。該洗浄工程において、分液された有機溶媒層と水層を、分離回収する。水層中に残余する反応産物を、50ml×2の酢酸エチルで溶媒抽出する。分離回収された有機溶媒層を併せて、該有機溶媒層に混入する水分を除去するため、無水硫酸ナトリウムで乾燥する。
【0224】
乾燥処理を施した有機溶媒層を、減圧下濃縮する。該濃縮によって、式(II’)に示すジカルボン酸化合物のジアリルエステルを含む、4.31gの酢酸エチル溶液を得た。
【0225】
該酢酸エチル溶液中に含まれる、式(II’)に示すジカルボン酸化合物のジアリルエステルを、カラムクロマトグラフィー(75gのシリカゲル,n−ヘプタン/酢酸エチル=20/1の展開溶媒)を用いて精製する。該カラム精製によって、0.61gの精製済の式(II’)に示すジカルボン酸化合物のジアリルエステルが、0.61g回収された。中間原料の式(III)に示すシクロヘキサン-1,1-ジイル ビス-ヒドロパーオキシドに対する、精製・回収された式(II’)に示すジカルボン酸化合物のジアリルエステルの収率は、17.1%であった。
【0226】
(工程i-c)ジアリルエステルからジカルボン酸化合物への変換工程
パラジウム触媒の存在下、アリル基の転位反応を利用して、式(II’)に示すジカルボン酸化合物のジアリルエステルから、式(II)に示すジカルボン酸化合物に変換している。
【0227】
精製済の式(II’)に示すジカルボン酸化合物のジアリルエステル100mgと、N−メチルアニリン(純正化学(株)社製)55mgを、脱水処理済のテトラヒドロフラン((株)同仁化学研究所製)6mlを用いて溶解し、混合液を調製する。該混合液に、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(三津和化学薬品(株)社製)53mgを添加し、反応を開始する。該反応液を、室温(25℃)下で、2.5時間撹拌する。
【0228】
その後、反応液に20mlの純水を添加して、反応を停止する。テトラヒドロフラン層と、水層を分液し、それぞれ、分離回収する。濃度10%の塩酸を滴下して、回収される水層のpHを1.9に調整する。式(II)に示すジカルボン酸化合物を、該pH 1.9の水層から、10ml×2の塩化メチレン((株)同仁化学研究所製)で溶媒抽出する。塩化メチレン層を併せて、飽和炭酸水素ナトリウム10mlで洗浄する。該有機溶媒層に混入する水分を除去するため、無水硫酸ナトリウムで乾燥する。
【0229】
乾燥処理を施した有機溶媒層を、減圧下濃縮する。該濃縮によって、式(II)に示すジカルボン酸化合物を含む、0.23gの塩化メチレン溶液を得た。
【0230】
該塩化メチレン溶液中に含まれる、式(II)に示すジカルボン酸化合物を、カラムクロマトグラフィー(10gのシリカゲル,クロロホルム/メタノール=20/1の展開溶媒)を用いて精製する。該カラム精製によって、45mgの精製済の式(II)に示すジカルボン酸化合物が回収された。式(II’)に示すジカルボン酸化合物のジアリルエステルに対する、精製・回収された式(II)に示すジカルボン酸化合物の収率は、55.6%であった。
【0231】
精製・回収された該化合物について、核磁気共鳴装置(日本電子(株)社製JNM-ECX 400WB)を利用して、そのNMRスペクトルを測定し、目的とする式(II)に示すジカルボン酸化合物であることの確認を行った。精製・回収された該化合物のNMRスペクトルと、式(II’)に示すジカルボン酸化合物のジアリルエステルのNMRスペクトルを対比した結果、式(II’)に示すジカルボン酸化合物のジアリルエステル中のアリル基に起因するピークが消失していることが確認された。
【0232】
加えて、図3に、精製・回収された該化合物について、LC−MS分析を行った結果の一例を示す。また、図4に、精製・回収された該化合物について、1H−NMRスペクトルの測定結果の一例を示す。
【0233】
以上の結果から、精製・回収された該化合物は、目的とする式(II)に示すジカルボン酸化合物、[12-(2-カルボキシメチル)-9,12-ジメチル-7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデック-9-イル]-酢酸([12-(2-carboxymethyl)-9,12-dimethyl-7,8,10,11,13,14-hexaoxa-spiro-[5.8]tetradec-9-yl]-acetic acid)であると結論された。
【0234】
(ii) 式(II)に示すジカルボン酸化合物(OSAA)により修飾された、免疫原用修飾キャリア・タンパク質の調製
キャリア・タンパク質として、キーホールリンペツトヘモシアニン(Keyhole Limpet Hemocyanin)を選択している。
【0235】
該キャリア・タンパク質上に、カルボジイミド法により、式(II)に示すジカルボン酸化合物(OSAA)を結合させ、修飾キャリア・タンパク質の調製を行った。本第一の実施態様では、下記の二種の修飾キャリア・タンパク質を調製し、免疫操作に利用する免疫原とした。
【0236】
(ii-a) 修飾キャリア・タンパク質(OSAA−KLH−DMSO免疫原)の調製
反応溶媒として、DMSO((CH32SO:和光純薬工業社製)を用いて、キーホールリンペツトヘモシアニン(Keyhole Limpet Hemocyanin)上に式(II)に示すジカルボン酸化合物(OSAA)をカルボジイミド法によって結合させ、修飾キャリア・タンパク質(OSAA−KLH−DMSO免疫原)を調製する。該カルボジイミド法による結合形成では、結合剤カルボジイミドとして、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl)(和光純薬工業社製)を利用している。
【0237】
DMSOに溶解したOSAA、10mg/0.3mlと、DMSOに溶解したキーホールリンペツトヘモシアニン(シグマアルドリッチジャパン社製)、10mg/1.7mlとを混合する。混合した後、DMSOに溶解した、前記結合剤カルボジイミド、50mg/0.5mlを添加する。
【0238】
該DMSOを反応溶媒とする反応液を、室温に2時間放置し、引き続き、4℃で12時間放置し、反応を行った。pHを8に調整した、1Mのグリシン緩衝液(和光純薬工業社製)0.1mlを添加し、反応を停止させた。そして、該液中に含まれる、修飾キャリア・タンパク質(OSAA−KLH−DMSO免疫原)と、未反応のキャリア・タンパク質は、PBS(和光純薬工業社製)透析を行って、精製した。調製された修飾キャリア・タンパク質(OSAA−KLH−DMSO免疫原)と、未反応のキャリア・タンパク質を含む、タンパク質溶液を、OSAA−DMSO(OSAA−KLH−DMSO免疫原)溶液とした。
【0239】
上記の結合剤カルボジイミドを利用する反応条件では、キャリア・タンパク質の表面に露呈するアミノ基(−NH2)に対して、式(II)に示すジカルボン酸化合物(OSAA)のカルボキシル基(−COOH)を利用して、アミド結合(−CO−NH−)を形成することで、式(II)に示すジカルボン酸化合物(OSAA)が結合される。
【0240】
なお、上記の反応条件で調製された修飾キャリア・タンパク質(OSAA−KLH−DMSO免疫原)上には、式(II)に示すジカルボン酸化合物(OSAA)が、平均して、150〜200箇所結合している。
【0241】
(ii-b) 修飾キャリア・タンパク質(OSAA−KLH−ホウ酸バッファー免疫原)の調製
反応溶媒として、pH8.5のホウ酸バッファーを用いて、キーホールリンペツトヘモシアニン(Keyhole Limpet Hemocyanin)上に式(II)に示すジカルボン酸化合物(OSAA)をカルボジイミド法によって結合させ、修飾キャリア・タンパク質(OSAA−KLH−ホウ酸バッファー免疫原)を調製する。該カルボジイミド法による結合形成では、結合剤カルボジイミドとして、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl)(和光純薬工業社製)を利用している。pH8.5のホウ酸バッファーは、0.992gのホウ酸(和光純薬工業社製)、1.906gのホウ砂(和光純薬工業社製)、および2.628gのNaCl(和光純薬工業社製)を180mlの純水に溶解させ、NaOHを加えて、pHを8.5に調整した緩衝溶液である。
【0242】
ホウ酸バッファーとDMSOの混合液に溶解したOSAA、10mg/(0.3mlDMOS+0.2mlホウ酸バッファー)と、ホウ酸バッファーに溶解したキーホールリンペツトヘモシアニン、10mg/1.5mlとを混合する。混合した後、ホウ酸バッファーに溶解した、前記結合剤カルボジイミド、50mg/0.5mlを添加する。
【0243】
該ホウ酸バッファーを反応溶媒とする反応液を、室温に2時間放置し、引き続き、4℃で12時間放置し、反応を行った。pHを8に調整した、1Mのグリシン緩衝液(和光純薬工業社製)0.1mlを添加し、反応を停止させた。そして、該液中に含まれる、修飾キャリア・タンパク質(OSAA−KLH−ホウ酸バッファー免疫原)と、未反応のキャリア・タンパク質は、PBS(和光純薬工業社製)透析を行って、精製した。調製された修飾キャリア・タンパク質(OSAA−KLH−ホウ酸バッファー免疫原)と、未反応のキャリア・タンパク質を含む、タンパク質溶液を、OSAA−ホウ酸バッファー(OSAA−KLH−ホウ酸バッファー免疫原)溶液とした。
【0244】
上記の結合剤カルボジイミドを利用する反応条件では、キャリア・タンパク質の表面に露呈するアミノ基(−NH2)に対して、式(II)に示すジカルボン酸化合物(OSAA)のカルボキシル基(−COOH)を利用して、アミド結合(−CO−NH−)を形成することで、式(II)に示すジカルボン酸化合物(OSAA)が結合される。
【0245】
なお、上記の反応条件で調製された修飾キャリア・タンパク質(OSAA−KLH−ホウ酸バッファー免疫原)上には、式(II)に示すジカルボン酸化合物(OSAA)が、平均して、150〜200箇所結合している。すなわち、キャリア・タンパク質KLH表面のリジン残基側鎖のアミノ基に対して、OSAAが結合されている状態に相当する。
【0246】
(iii) 式(II)に示すジカルボン酸化合物(OSAA)により修飾された、抗原用修飾キャリア・タンパク質の調製
キャリア・タンパク質として、牛血清アルブミン(BSA)を選択している。
【0247】
該キャリア・タンパク質上に、カルボジイミド法により、式(II)に示すジカルボン酸化合物(OSAA)を結合させ、修飾キャリア・タンパク質の調製を行った。本第一の実施態様では、下記の修飾キャリア・タンパク質を調製し、抗体の反応性の確認に利用する抗原とした。
【0248】
抗原用修飾キャリア・タンパク質(OSAA−BSA抗原)の調製
反応溶媒として、pH8.5のホウ酸バッファーを用いて、牛血清アルブミン(BSA)上に式(II)に示すジカルボン酸化合物(OSAA)をカルボジイミド法によって結合させ、修飾キャリア・タンパク質(OSAA−BSA抗原)を調製する。該カルボジイミド法による結合形成では、結合剤カルボジイミドとして、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl)(和光純薬工業社製)を利用している。pH8.5のホウ酸バッファーは、0.992gのホウ酸(和光純薬工業社製)、1.906gのホウ砂(和光純薬工業社製)、および2.628gのNaCl(和光純薬工業社製)を180mlの純水に溶解させ、NaOHを加えて、pHを8.5に調整した緩衝溶液である。
【0249】
DMSOに溶解したOSAA、10mg/0.1mlと、純水に溶解した牛血清アルブミン(BSA)、30mg/1.5mlと、ホウ酸バッファー0.9mlを混合する。混合した後、ホウ酸バッファーに溶解した、前記結合剤カルボジイミド、50mg/0.25mlを添加する。
【0250】
該ホウ酸バッファーを反応溶媒とする反応液を、室温に5時間放置し、反応を行った。pHを8に調整した、1Mのグリシン緩衝液(和光純薬工業社製)0.3mlを添加し、反応を停止させた。そして、該液中に含まれる、修飾キャリア・タンパク質(OSAA−BSA抗原)と、未反応のキャリア・タンパク質は、PBS(和光純薬工業社製)透析を行って、精製した。調製された修飾キャリア・タンパク質(OSAA−BSA抗原)と、未反応のキャリア・タンパク質を含む、タンパク質溶液を、OSAA−BSA(OSAA−BSA抗原)溶液とした。
【0251】
(iv) 免疫原用修飾キャリア・タンパク質を用いる免疫操作
対象のヒト以外の哺乳動物に対して、上記の二種の免疫原用修飾キャリア・タンパク質を用いて、感作を行う。本第一の実施態様では、免疫操作を施す、ヒト以外の哺乳動物として、ラット(Slc:Wistar)を選択している。
【0252】
また、免疫には、上記の二種の免疫原用修飾キャリア・タンパク質を混合し、フロイント完全アジュバント(フナコシ社製)を添加した溶液を用いる。該溶液の組成は、0.01mlのOSAA−DMSO(OSAA−KLH−DMSO免疫原)溶液、0.01mlのOSAA−ホウ酸バッファー(OSAA−KLH−ホウ酸バッファー免疫原)溶液、0.07mlのPBS、およびは0.01mlのフロイント完全アジュバント(フナコシ社製)を均一に混合したものである。
【0253】
感作(免疫操作)は、前記溶液1.0mlを、12週齢のラット(Slc:Wistar)に皮下注射を行うことで行った。初回感作(初日)後、22日目、35日目、および49日目に、それぞれ、前記溶液1.0mlを皮下注射し、追加免疫を実施した。
【0254】
初回感作(初日)後、66日目に、該免疫したラットから採血を行った。採血された血液から、抗血清を調製した。
【0255】
(v) 取得された抗血清中に含まれるポリクローナル抗体の交叉反応性の検証
取得された抗血清中に含まれるポリクローナル抗体が、式(I)で示される三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示すことを、競合ELISA法を利用して検証する。
【0256】
取得された抗血清中に含まれるポリクローナル抗体は、免疫操作に利用した、上記二種の免疫原用修飾キャリア・タンパク質に特異的な抗体複数種が混在していると推定される。該ポリクローナル抗体中に、式(II)に示すジカルボン酸化合物(OSAA)自体に特異的な反応性を示す抗体が存在することを先ず検証する。
【0257】
具体的には、キャリア・タンパク質として、キーホールリンペツトヘモシアニン(Keyhole Limpet Hemocyanin)に代えて、牛血清アルブミン(BSA)を用いて作製した、前記抗原用修飾キャリア・タンパク質(OSAA−BSA抗原)に対する反応性を有する抗体が存在することを、ELISA法を利用して検証する。
【0258】
1000倍に希釈したOSAA−BSA(OSAA−BSA抗原)溶液を用い、ELISA測定用のプレートに自然吸着法で、該OSAA−BSA(OSAA−BSA抗原)を固定化する。未吸着のタンパク質を洗浄、除去した後、ELISA測定用のプレートに、PBSを50μl加える。次いで、取得された抗血清を、PBSで100倍に希釈した液、50μlを加える。室温で2時間放置し、該OSAA−BSA(OSAA−BSA抗原)に抗体を反応させる。
【0259】
反応終了後、ELISA測定用のプレート上の液を除去し、各PBS100μlを用いて、3回洗浄する。前記洗浄後、プレート上に、2000倍に希釈した抗ラットIgG−POD標識抗体(フナコシ社製)液、50μlを加える。室温で1時間放置し、プレート上の抗原用修飾キャリア・タンパク質(OSAA−BSA抗原)と反応した抗体に、抗ラットIgG−POD標識抗体を反応させる。
【0260】
反応終了後、ELISA測定用のプレート上の液を除去し、各PBS100μlを用いて、4回洗浄する。前記洗浄後、プレート上に、ELISA用ペルオキシダーゼ基質(TMBZ,フナコシ社製)液、50μlを加える。抗ラットIgG−POD標識抗体の標識酵素ペルオキシダーゼによる、酵素反応を60分間行った後、1Nの硫酸(和光純薬工業社製)50μlを添加し、反応を停止させる。前記酵素反応による反応産物の濃度を、450nmの吸光度を測定することで決定する。図1中に、「Buffer」と表記する測定結果は、OSAA−BSA(OSAA−BSA抗原)に対して、反応した抗体の量に相当している。
【0261】
上記のOSAA−BSA(OSAA−BSA抗原)に対する反応性を有する抗体は、牛血清アルブミン(BSA)上に結合されている、式(II)に示すジカルボン酸化合物(OSAA)自体に反応している抗体である。従って、取得された抗血清中に含まれるポリクローナル抗体中に、式(II)に示すジカルボン酸化合物(OSAA)自体に特異的な反応性を示す抗体が存在することが検証された。
【0262】
次に、取得された抗血清のポリクローナル抗体中に含まれる、式(II)に示すジカルボン酸化合物(OSAA)自体に反応性を示す抗体複数種のうちに、式(I)で示される三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示す抗体が存在することを、競合ELISA法を利用して検証する。
【0263】
1000倍に希釈したOSAA−BSA(OSAA−BSA抗原)溶液を用い、ELISA測定用のプレートに自然吸着法で、該OSAA−BSA(OSAA−BSA抗原)を固定化する。未吸着のタンパク質を洗浄、除去した後、ELISA測定用のプレートに、終濃度が200ppmとなるように、TATP(アキュースタンダード社製)PBS溶液を50μl加える。次いで、取得された抗血清を、PBSで100倍に希釈した液、50μlを加える。室温で2時間放置し、該OSAA−BSA(OSAA−BSA抗原)に抗体を反応させる。なお、反応液中に含まれるTATPの終濃度200ppmは、0.9mMに相当している。
【0264】
前記の反応時、プレート上の液中に、添加されている、TATPと抗体との間で抗原抗体反応が進行すると、プレート上に固定化されている、OSAA−BSA(OSAA−BSA抗原)との抗原抗体反応と、競合が生じる。結果的に、プレート上に固定化されている、OSAA−BSA(OSAA−BSA抗原)との抗原抗体反応を介して、プレート上に固定化される抗体の量が減少する。
【0265】
反応終了後、ELISA測定用のプレート上の液を除去し、各PBS100μlを用いて、4回洗浄する。前記洗浄後、プレート上に、ELISA用ペルオキシダーゼ基質(TMBZ,フナコシ社製)液、50μlを加える。抗ラットIgG−POD標識抗体の標識酵素ペルオキシダーゼによる、酵素反応を60分間行った後、1Nの硫酸(和光純薬工業社製)50μlを添加し、反応を停止させる。前記酵素反応による反応産物の濃度を、450nmの吸光度を測定することで決定する。図1中に、「200ppm TATP」と表記する測定結果は、上記のTATPが共存している状況において、OSAA−BSA(OSAA−BSA抗原)に対して、反応した抗体の量に相当している。
【0266】
図1に示す結果は、前記の反応時、プレート上の液中に、添加されている、TATPと抗体との間で抗原抗体反応が進行するため、プレート上に固定化されている、OSAA−BSA(OSAA−BSA抗原)との抗原抗体反応と、競合が生じていることを明確に示している。すなわち、該ポリクローナル抗体中に含まる、式(II)に示すジカルボン酸化合物(OSAA)自体に特異的な反応性を示す抗体複数種のうちに、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示す抗体が存在していることが検証された。
【0267】
従って、取得された抗血清のポリクローナル抗体中には、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示す抗体が存在していることが検証された。
【0268】
また、前記抗ラットIgG−POD標識抗体は、ラットIgG1型抗体に特異性を有しており、前記式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示す抗体のタイプは、IgG1型であることが確認された。
【0269】
(第二の実施態様)
以下に説明する、本発明の第二の実施態様でも、対象となる過酸化物誘導体型の爆薬として、上記式(I)で示される三量体型の過酸化アセトン(C9186:TATP;トリアセトントリペルオキシド)を選択している。
【0270】
本第二の実施態様では、上記の第一の実施態様において、取得された抗血清のポリクローナル抗体中には、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示す抗体が存在していることが検証された、ラットの抗体生産細胞群を利用して、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示すモノクローナル抗体を生産するハイブリドーマ細胞の作製を行っている。
【0271】
上記第一の実施態様に記載する手順に従って、初回感作(初日)後、66日目に、該免疫したラットから採血を行い、採血された血液から、抗血清を調製し、該抗血清のポリクローナル抗体中には、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示す抗体が存在していることを検証する。この検証がなされた、初回感作(初日)後、66日目のラットから、脾臓を摘出し、脾臓細胞を調製する。
【0272】
調製されたラットの脾臓細胞と、P3−X63−Ag8−Uマウスミエローマ細胞とを、細胞数5:1の比率で、RPMI1640培地(インビトロジェン社製)中、重合度1500の50%ポリエチレングリコール(和光純薬工業社製)存在下で、37℃、2分間混合し、細胞融合させる。前記細胞融合処理後、得られるハイブリドーマ細胞は、HAT培地(20%牛胎児血清)に懸濁した後、マイクロプレートに分注する。該マイクロプレートに分注した、ハイブリドーマ細胞を、炭酸ガスインキュベータ中、37℃、5%CO2の条件で培養する。前記培養中、4日に1回の割合で、培地の半量を、新しいHT培地(10%牛胎児血清)に交換する。
【0273】
HAT培地は、RPMI1640培地に、HATサプリメント(インビトロジェン社製)を適量添加したものである。本第二の実施態様では、RPMI1640培地1ml当たり、HATサプリメント20μgを添加している。
【0274】
HT培地は、RPMI1640培地に、HTサプリメント(インビトロジェン社製)を適量添加したものである。本第二の実施態様では、RPMI1640培地1ml当たり、HTサプリメント20μgを添加している。
【0275】
上記の培養条件で、マイクロプレートに分注した、ハイブリドーマ細胞を、2週間培養して、それぞれハイブリドーマ細胞株を確立した。
【0276】
次に、各ハイブリドーマ細胞株の培養上清中に産生されているモノクローナル抗体が、式(II)に示すジカルボン酸化合物(OSAA)自体に特異的な反応性を示すモノクローナル抗体であるか、否かの確認を行った。さらに、式(II)に示すジカルボン酸化合物(OSAA)自体に特異的な反応性を示すモノクローナル抗体であることの検証がなされたもののうち、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示す抗体の選別を行った。
【0277】
(a) 式(II)に示すジカルボン酸化合物(OSAA)自体に特異的な反応性を示すモノクローナル抗体であるか、否かの検証
具体的には、各ハイブリドーマ細胞株の培養上清中に含まれるモノクローナル抗体が、牛血清アルブミン(BSA)を用いて作製した、前記抗原用修飾キャリア・タンパク質(OSAA−BSA抗原)に対する反応性を有するモノクローナル抗体であるか、否かを、ELISA法を利用して検証する。
【0278】
1000倍に希釈したOSAA−BSA(OSAA−BSA抗原)溶液を用い、ELISA測定用のプレートに自然吸着法で、該OSAA−BSA(OSAA−BSA抗原)を固定化する。未吸着のタンパク質を洗浄、除去した後、ELISA測定用のプレートに、PBSを50μl加える。次いで、各ハイブリドーマ細胞株の培養上清を、PBSで100倍に希釈した液、50μlを加える。室温で2時間放置し、該OSAA−BSA(OSAA−BSA抗原)に、モノクローナル抗体を反応させる。
【0279】
反応終了後、ELISA測定用のプレート上の液を除去し、各PBS100μlを用いて、3回洗浄する。前記洗浄後、プレート上に、2000倍に希釈した抗ラットIgG−POD標識抗体(フナコシ社製)液、50μlを加える。室温で1時間放置し、プレート上の抗原用修飾キャリア・タンパク質(OSAA−BSA抗原)と反応した抗体に、抗ラットIgG−POD標識抗体を反応させる。
【0280】
反応終了後、ELISA測定用のプレート上の液を除去し、各PBS100μlを用いて、4回洗浄する。前記洗浄後、プレート上に、ELISA用ペルオキシダーゼ基質(TMBZ,フナコシ社製)液、50μlを加える。抗ラットIgG−POD標識抗体の標識酵素ペルオキシダーゼによる、酵素反応を60分間行った後、1Nの硫酸(和光純薬工業社製)50μlを添加し、反応を停止させる。前記酵素反応による反応産物の濃度を、450nmの吸光度を測定することで決定する。
【0281】
上記のOSAA−BSA(OSAA−BSA抗原)に対する反応性を有するモノクローナル抗体は、牛血清アルブミン(BSA)上に結合されている、式(II)に示すジカルボン酸化合物(OSAA)自体に反応しているモノクローナル抗体である。
【0282】
このスクリーニング手順に従って、各ハイブリドーマ細胞株の培養上清中に式(II)に示すジカルボン酸化合物(OSAA)自体に特異的な反応性を示すモノクローナル抗体が存在するか、否かの検証を行った。その結果、ハイブリドーマ細胞株合計80クローン中、24クローンが式(II)に示すジカルボン酸化合物(OSAA)自体に反応しているモノクローナル抗体を産生していることが確認された。
【0283】
(b) 式(I)で示される三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示すモノクローナル抗体の選別
前記(a)の一次スクリーニングで選別された、式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)自体に反応性を示すモノクローナル抗体複数種から、式(I)で示される三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示すモノクローナル抗体を、競合ELISA法を利用して選別する。
【0284】
1000倍に希釈したOSAA−BSA(OSAA−BSA抗原)溶液を用い、ELISA測定用のプレートに自然吸着法で、該OSAA−BSA(OSAA−BSA抗原)を固定化する。未吸着のタンパク質を洗浄、除去した後、ELISA測定用のプレートに、終濃度が200ppmとなるように、TATP(アキュースタンダード社製)PBS溶液を50μl加える。次いで、選別された各ハイブリドーマ細胞株の培養上清を、PBSで100倍に希釈した液、50μlを加える。室温で2時間放置し、該OSAA−BSA(OSAA−BSA抗原)に抗体を反応させる。なお、反応液中に含まれるTATPの終濃度200ppmは、0.9mMに相当している。
【0285】
前記の反応時、プレート上の液中に、添加されている、TATPと抗体との間で抗原抗体反応が進行すると、プレート上に固定化されている、OSAA−BSA(OSAA−BSA抗原)との抗原抗体反応と、競合が生じる。結果的に、プレート上に固定化されている、OSAA−BSA(OSAA−BSA抗原)との抗原抗体反応を介して、プレート上に固定化される抗体の量が減少する。
【0286】
反応終了後、ELISA測定用のプレート上の液を除去し、各PBS100μlを用いて、4回洗浄する。前記洗浄後、プレート上に、ELISA用ペルオキシダーゼ基質(TMBZ,フナコシ社製)液、50μlを加える。抗ラットIgG−POD標識抗体の標識酵素ペルオキシダーゼによる、酵素反応を60分間行った後、1Nの硫酸(和光純薬工業社製)50μlを添加し、反応を停止させる。前記酵素反応による反応産物の濃度を、450nmの吸光度を測定することで決定する。
【0287】
抗原抗体反応時に、プレート上の液中に、TATPを添加していない場合と比較し、TATPを添加した際に、前記酵素反応による反応産物の濃度が減少を示す結果が得られると、TATPを添加した際に、競合が生じていると判断される。すなわち、かかる競合が生じている場合、そのハイブリドーマ細胞株の培養上清中に含まれるモノクローナル抗体は、TATPに対する交叉反応性を示すモノクローナル抗体と判断できる。
【0288】
このスクリーニング手順に従って、(a)の一次スクリーニングで選別された、式(II)に示すジカルボン酸化合物(OSAA)自体に反応性を示すモノクローナル抗体複数種から、式(I)で示される三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示すモノクローナル抗体の選別を行った。
【0289】
その結果、式(I)で示される三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示すモノクローナル抗体が複数種選別された。図2に、この二次スクリーニングによる選別結果のうち、1種のモノクローナル抗体:16−11Eについて測定した結果を、一例として示す。
【0290】
図2中に、「Buffer」と表記する測定結果は、上記(a)の一次スクリーニングにおけるELISA法による測定結果、すなわち、TATPが存在していない状況において、OSAA−BSA(OSAA−BSA抗原)に対して、反応したモノクローナル抗体の量に相当している。図2中に、「200ppm TATP」と表記する測定結果は、上記のTATPが共存している状況において、OSAA−BSA(OSAA−BSA抗原)に対して、反応したモノクローナル抗体の量に相当している。図2中、上記モノクローナル抗体:16−11Eについての測定結果は、「モノクローナル抗体:16−11E」として表記し、また、後述の参考例2に記載するモノクローナル抗体についての測定結果は、「参考例2のモノクローナル抗体」として表記されている。
【0291】
図2に示す結果は、前記の反応時、プレート上の液中に、添加されている、TATPとモノクローナル抗体との間で抗原抗体反応が進行するため、プレート上に固定化されている、OSAA−BSA(OSAA−BSA抗原)との抗原抗体反応と、競合が生じていることを明確に示している。すなわち、前記モノクローナル抗体:16−11Eは、式(II)に示すジカルボン酸化合物(OSAA)自体に反応性を示すモノクローナル抗体であり、さらに、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示すモノクローナル抗体でもあることを検証する結果である。
【0292】
従って、前記の(a)の一次スクリーニングと、(b)の二次スクリーニングによって、選別されるモノクローナル抗体は、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示すモノクローナル抗体であることが確認された。
【0293】
なお、図2に示す結果は、抗原抗体反応を行う反応液中に、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)を終濃度0.9mMとなるように添加すると、
16−11Eでは、少なくとも、その35%程度がTATPと結合している
ことを示唆する結果である。
【0294】
全抗体型のモノクローナル抗体は、二価であり、その一方にTATPが結合しても、OSAA−BSA(OSAA−BSA抗原)との反応性は本質的に低下しないと仮定すると、
図2に示す結果は、抗原抗体反応を行う反応液中に、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)を終濃度0.9mMとなるように添加すると、
16−11Eでは、少なくとも、その35%程度がTATPを2分子結合している
ことを示唆する結果である。
【0295】
その際、全抗体型のモノクローナル抗体は、二価であり、その一方にTATPが結合する確率をPとすると、モノクローナル抗体にTATPが2分子結合する確率は、P2と推定することが可能である。
【0296】
図2に示す対比結果は、本発明にかかる「モノクローナル抗体:16−11E」と後述する参考例2で取得された「参考例2のモノクローナル抗体」とを比較すると、本発明にかかる「モノクローナル抗体:16−11E」は、TATPに対する結合能が優れていることを示している。
【0297】
(参考例1)
参考例1では、キャリア・タンパク質上に結合し、修飾タンパク質型の免疫原の作製に利用する、該三量体型の過酸化アセトン(TATP)と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物として、式(IIa)に示す3-[12-(2-カルボキシエチル)-9,12-ジメチル-7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデック-9-イル]-プロピオン酸(TATP3)を選択している。
【0298】
【化28】

【0299】
(i) 式(IIa)に示す構造を有するジカルボン酸化合物の合成
式(IIa)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)は、公知の化合物であり、その合成方法は、文献に既に報告されている(非特許文献3:Organic & Biomolecular Chemistry Vol.4, p.4431-4436 (2006))。
【0300】
前記文献に記載する合成法に従って、式(IIa)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)の合成を行った。そして、精製を行い、式(IIa)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)を回収した。
【0301】
(ii) 式(IIa)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)により修飾された、免疫原用修飾キャリア・タンパク質の調製
キャリア・タンパク質として、キーホールリンペツトヘモシアニン(Keyhole Limpet Hemocyanin)を選択している。
【0302】
該キャリア・タンパク質上に、カルボジイミド法により、式(IIa)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)を結合させ、修飾キャリア・タンパク質の調製を行った。本第一の実施態様では、下記の二種の修飾キャリア・タンパク質を調製し、免疫操作に利用する免疫原とした。
【0303】
(ii-a) 修飾キャリア・タンパク質(TATP3−KLH−DMSO免疫原)の調製
反応溶媒として、DMSO((CH32SO:和光純薬工業社製)を用いて、キーホールリンペツトヘモシアニン(Keyhole Limpet Hemocyanin)上に式(IIa)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)をカルボジイミド法によって結合させ、修飾キャリア・タンパク質(TATP3−KLH−DMSO免疫原)を調製する。該カルボジイミド法による結合形成では、結合剤カルボジイミドとして、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl)(和光純薬工業社製)を利用している。
【0304】
DMSOに溶解したTATP3、10mg/0.3mlと、DMSOに溶解したキーホールリンペツトヘモシアニン(シグマアルドリッチジャパン社製)、10mg/1.7mlとを混合する。混合した後、DMSOに溶解した、前記結合剤カルボジイミド、50mg/0.5mlを添加する。
【0305】
該DMSOを反応溶媒とする反応液を、室温に2時間放置し、引き続き、4℃で12時間放置し、反応を行った。pHを8に調整した、1Mのグリシン緩衝液(和光純薬工業社製)0.1mlを添加し、反応を停止させた。そして、該液中に含まれる、修飾キャリア・タンパク質(TATP3−KLH−DMSO免疫原)と、未反応のキャリア・タンパク質は、PBS(和光純薬工業社製)透析を行って、精製した。調製された修飾キャリア・タンパク質(TATP3−KLH−DMSO免疫原)と、未反応のキャリア・タンパク質を含む、タンパク質溶液を、TATP3−DMSO(TATP3−KLH−DMSO免疫原)溶液とした。
【0306】
上記の結合剤カルボジイミドを利用する反応条件では、キャリア・タンパク質の表面に露呈するアミノ基(−NH2)に対して、式(IIa)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)のカルボキシル基(−COOH)を利用して、アミド結合(−CO−NH−)を形成することで、式(IIa)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)が結合される。
【0307】
なお、上記の反応条件で調製された修飾キャリア・タンパク質(TATP3−KLH−DMSO免疫原)上には、式(IIa)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)が、平均して、150〜200箇所結合している。
【0308】
(ii-b) 修飾キャリア・タンパク質(TATP3−KLH−ホウ酸バッファー免疫原)の調製
反応溶媒として、pH8.5のホウ酸バッファーを用いて、キーホールリンペツトヘモシアニン(Keyhole Limpet Hemocyanin)上に式(IIa)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)をカルボジイミド法によって結合させ、修飾キャリア・タンパク質(TATP3−KLH−ホウ酸バッファー免疫原)を調製する。該カルボジイミド法による結合形成では、結合剤カルボジイミドとして、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl)(和光純薬工業社製)を利用している。pH8.5のホウ酸バッファーは、0.992gのホウ酸(和光純薬工業社製)、1.906gのホウ砂(和光純薬工業社製)、および2.628gのNaCl(和光純薬工業社製)を180mlの純水に溶解させ、NaOHを加えて、pHを8.5に調整した緩衝溶液である。
【0309】
ホウ酸バッファーとDMSOの混合液に溶解したTATP3、10mg/(0.3mlDMOS+0.2mlホウ酸バッファー)と、ホウ酸バッファーに溶解したキーホールリンペツトヘモシアニン、10mg/1.5mlとを混合する。混合した後、ホウ酸バッファーに溶解した、前記結合剤カルボジイミド、50mg/0.5mlを添加する。
【0310】
該ホウ酸バッファーを反応溶媒とする反応液を、室温に2時間放置し、引き続き、4℃で12時間放置し、反応を行った。pHを8に調整した、1Mのグリシン緩衝液(和光純薬工業社製)0.1mlを添加し、反応を停止させた。そして、該液中に含まれる、修飾キャリア・タンパク質(TATP3−KLH−DMSO免疫原)と、未反応のキャリア・タンパク質は、PBS(和光純薬工業社製)透析を行って、精製した。調製された修飾キャリア・タンパク質(TATP3−KLH−ホウ酸バッファー免疫原)と、未反応のキャリア・タンパク質を含む、タンパク質溶液を、TATP3−ホウ酸バッファー(TATP3−KLH−ホウ酸バッファー免疫原)溶液とした。
【0311】
上記の結合剤カルボジイミドを利用する反応条件では、キャリア・タンパク質の表面に露呈するアミノ基(−NH2)に対して、式(IIa)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)のカルボキシル基(−COOH)を利用して、アミド結合(−CO−NH−)を形成することで、式(IIa)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)が結合される。
【0312】
なお、上記の反応条件で調製された修飾キャリア・タンパク質(TATP3−KLH−ホウ酸バッファー免疫原)上には、式(IIa)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)が、平均して、150〜200箇所結合している。すなわち、キャリア・タンパク質KLH表面のリジン残基側鎖のアミノ基に対して、TATP3が結合されている状態に相当する。
【0313】
(iii) 式(IIa)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)により修飾された、抗原用修飾キャリア・タンパク質の調製
キャリア・タンパク質として、牛血清アルブミン(BSA)を選択している。
【0314】
該キャリア・タンパク質上に、カルボジイミド法により、式(IIa)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)を結合させ、修飾キャリア・タンパク質の調製を行った。本第一の実施態様では、下記の修飾キャリア・タンパク質を調製し、抗体の反応性の確認に利用する抗原とした。
【0315】
抗原用修飾キャリア・タンパク質(TATP3−BSA抗原)の調製
反応溶媒として、pH8.5のホウ酸バッファーを用いて、牛血清アルブミン(BSA)上に式(IIa)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)をカルボジイミド法によって結合させ、修飾キャリア・タンパク質(TATP3−BSA抗原)を調製する。該カルボジイミド法による結合形成では、結合剤カルボジイミドとして、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl)(和光純薬工業社製)を利用している。pH8.5のホウ酸バッファーは、0.992gのホウ酸(和光純薬工業社製)、1.906gのホウ砂(和光純薬工業社製)、および2.628gのNaCl(和光純薬工業社製)を180mlの純水に溶解させ、NaOHを加えて、pHを8.5に調整した緩衝溶液である。
【0316】
DMSOに溶解したTATP3、10mg/0.1mlと、純水に溶解した牛血清アルブミン(BSA)、30mg/1.5mlと、ホウ酸バッファー0.9mlを混合する。混合した後、ホウ酸バッファーに溶解した、前記結合剤カルボジイミド、50mg/0.25mlを添加する。
【0317】
該ホウ酸バッファーを反応溶媒とする反応液を、室温に5時間放置し、反応を行った。pHを8に調整した、1Mのグリシン緩衝液(和光純薬工業社製)0.3mlを添加し、反応を停止させた。そして、該液中に含まれる、修飾キャリア・タンパク質(TATP3−BSA抗原)と、未反応のキャリア・タンパク質は、PBS(和光純薬工業社製)透析を行って、精製した。調製された修飾キャリア・タンパク質(TATP3−BSA抗原)と、未反応のキャリア・タンパク質を含む、タンパク質溶液を、TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)溶液とした。
【0318】
(iv) 免疫原用修飾キャリア・タンパク質を用いる免疫操作
対象のヒト以外の哺乳動物に対して、上記の二種の免疫原用修飾キャリア・タンパク質を用いて、感作を行う。本第一の実施態様では、免疫操作を施す、ヒト以外の哺乳動物として、マウス(SLC:C57BL/6)を選択している。
【0319】
また、免疫には、上記の二種の免疫原用修飾キャリア・タンパク質を混合し、フロイント完全アジュバント(フナコシ社製)を添加した溶液を用いる。該溶液の組成は、0.01mlのTATP3−DMSO(TATP3−KLH−DMSO免疫原)溶液、0.01mlのTATP3−ホウ酸バッファー(TATP3−KLH−ホウ酸バッファー免疫原)溶液、0.07mlのPBS、およびは0.01mlのフロイント完全アジュバント(フナコシ社製)を均一に混合したものである。
【0320】
感作(免疫操作)は、前記溶液1.0mlを、12週齢のマウス(SLC:C57BL/6)に皮下注射を行うことで行った。初回感作(初日)後、22日目、35日目、および49日目に、それぞれ、前記溶液1.0mlを皮下注射し、追加免疫を実施した。
【0321】
初回感作(初日)後、66日目に、該免疫したマウスから採血を行った。採血された血液から、抗血清を調製した。
【0322】
(v) 取得された抗血清中に含まれるポリクローナル抗体の交叉反応性の検証
取得された抗血清中に含まれるポリクローナル抗体が、式(I)で示される三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示すことを、競合ELISA法を利用して検証する。
【0323】
取得された抗血清中に含まれるポリクローナル抗体は、免疫操作に利用した、上記二種の免疫原用修飾キャリア・タンパク質に特異的な抗体複数種が混在していると推定される。該ポリクローナル抗体中に、式(IIa)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)自体に特異的な反応性を示す抗体が存在することを先ず検証する。
【0324】
具体的には、キャリア・タンパク質として、キーホールリンペツトヘモシアニン(Keyhole Limpet Hemocyanin)に代えて、牛血清アルブミン(BSA)を用いて作製した、前記抗原用修飾キャリア・タンパク質(TATP3−BSA抗原)に対する反応性を有する抗体が存在することを、ELISA法を利用して検証する。
【0325】
1000倍に希釈したTATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)溶液を用い、ELISA測定用のプレートに自然吸着法で、該TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)を固定化する。未吸着のタンパク質を洗浄、除去した後、ELISA測定用のプレートに、PBSを50μl加える。次いで、取得された抗血清を、PBSで100倍に希釈した液、50μlを加える。室温で2時間放置し、該TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)に抗体を反応させる。
【0326】
反応終了後、ELISA測定用のプレート上の液を除去し、各PBS100μlを用いて、3回洗浄する。前記洗浄後、プレート上に、2000倍に希釈した抗マウスIgG−POD標識抗体(フナコシ社製)液、50μlを加える。室温で1時間放置し、プレート上の抗原用修飾キャリア・タンパク質(TATP3−BSA抗原)と反応した抗体に、抗マウスIgG−POD標識抗体を反応させる。
【0327】
反応終了後、ELISA測定用のプレート上の液を除去し、各PBS100μlを用いて、4回洗浄する。前記洗浄後、プレート上に、ELISA用ペルオキシダーゼ基質(TMBZ,フナコシ社製)液、50μlを加える。抗マウスIgG−POD標識抗体の標識酵素ペルオキシダーゼによる、酵素反応を60分間行った後、1Nの硫酸(和光純薬工業社製)50μlを添加し、反応を停止させる。前記酵素反応による反応産物の濃度を、450nmの吸光度を測定することで決定する。図1中に、「Buffer」と表記する測定結果は、TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)に対して、反応した抗体の量に相当している。
【0328】
上記のTATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)に対する反応性を有する抗体は、牛血清アルブミン(BSA)上に結合されている、式(IIa)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)自体に反応している抗体である。従って、取得された抗血清中に含まれるポリクローナル抗体中に、式(IIa)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)自体に特異的な反応性を示す抗体が存在することが検証された。
【0329】
次に、取得された抗血清のポリクローナル抗体中に含まれる、式(IIa)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)自体に反応性を示す抗体複数種のうちに、式(I)で示される三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示す抗体が存在することを、競合ELISA法を利用して検証する。
【0330】
1000倍に希釈したTATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)溶液を用い、ELISA測定用のプレートに自然吸着法で、該TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)を固定化する。未吸着のタンパク質を洗浄、除去した後、ELISA測定用のプレートに、終濃度が200ppmとなるように、TATP(アキュースタンダード社製)PBS溶液を50μl加える。次いで、取得された抗血清を、PBSで100倍に希釈した液、50μlを加える。室温で2時間放置し、該TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)に抗体を反応させる。なお、反応液中に含まれるTATPの終濃度200ppmは、0.9mMに相当している。
【0331】
前記の反応時、プレート上の液中に、添加されている、TATPと抗体との間で抗原抗体反応が進行すると、プレート上に固定化されている、TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)との抗原抗体反応と、競合が生じる。結果的に、プレート上に固定化されている、TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)との抗原抗体反応を介して、プレート上に固定化される抗体の量が減少する。
【0332】
反応終了後、ELISA測定用のプレート上の液を除去し、各PBS100μlを用いて、4回洗浄する。前記洗浄後、プレート上に、ELISA用ペルオキシダーゼ基質(TMBZ,フナコシ社製)液、50μlを加える。抗マウスIgG−POD標識抗体の標識酵素ペルオキシダーゼによる、酵素反応を60分間行った後、1Nの硫酸(和光純薬工業社製)50μlを添加し、反応を停止させる。前記酵素反応による反応産物の濃度を、450nmの吸光度を測定することで決定する。図1中に、「参考例1のポリクローナル抗体」と表記する結果は、該参考例1で取得された抗血清のポリクローナル抗体に対する測定結果である。図1中に、「200ppm TATP」と表記する測定結果は、上記のTATPが共存している状況において、TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)に対して、反応した抗体の量に相当している。
【0333】
図1に示す結果は、前記の反応時、プレート上の液中に、添加されている、TATPと抗体との間で抗原抗体反応が進行するため、プレート上に固定化されている、TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)との抗原抗体反応と、競合が生じていることを明確に示している。すなわち、該ポリクローナル抗体中に含まる、式(IIa)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)自体に特異的な反応性を示す抗体複数種のうちに、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示す抗体が存在していることが検証された。
【0334】
従って、取得された抗血清のポリクローナル抗体中には、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示す抗体が存在していることが検証された。
【0335】
また、前記抗マウスIgG−POD標識抗体は、マウスIgG1型抗体に特異性を有しており、前記式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示す抗体のタイプは、IgG1型であることが確認された。
【0336】
(参考例2)
参考例2では、上記の参考例1において、取得された抗血清のポリクローナル抗体中には、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示す抗体が存在していることが検証された、マウスの抗体生産細胞群を利用して、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示すモノクローナル抗体を生産するハイブリドーマ細胞の作製を行っている。
【0337】
上記参考例1に記載する手順に従って、初回感作(初日)後、66日目に、該免疫したマウスから採血を行い、採血された血液から、抗血清を調製し、該抗血清のポリクローナル抗体中には、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示す抗体が存在していることを検証する。この検証がなされた、初回感作(初日)後、66日目のマウスから、脾臓を摘出し、脾臓細胞を調製する。
【0338】
調製されたマウスの脾臓細胞と、P3−X63−Ag8−Uマウスミエローマ細胞とを、細胞数5:1の比率で、RPMI1640培地(インビトロジェン社製)中、重合度1500の50%ポリエチレングリコール(和光純薬工業社製)存在下で、37℃、2分間混合し、細胞融合させる。前記細胞融合処理後、得られるハイブリドーマ細胞は、HAT培地(20%牛胎児血清)に懸濁した後、マイクロプレートに分注する。該マイクロプレートに分注した、ハイブリドーマ細胞を、炭酸ガスインキュベータ中、37℃、5%CO2の条件で培養する。前記培養中、4日に1回の割合で、培地の半量を、新しいHT培地(10%牛胎児血清)に交換する。
【0339】
HAT培地は、RPMI1640培地に、HATサプリメント(インビトロジェン社製)を適量添加したものである。本参考例2では、RPMI1640培地1ml当たり、HATサプリメント20μlを添加している。
【0340】
HT培地は、RPMI1640培地に、HTサプリメント(インビトロジェン社製)を適量添加したものである。本参考例2では、RPMI1640培地1ml当たり、HTサプリメント20μlを添加している。
【0341】
上記の培養条件で、マイクロプレートに分注した、ハイブリドーマ細胞を、2週間培養して、それぞれハイブリドーマ細胞株を確立した。
【0342】
次に、各ハイブリドーマ細胞株の培養上清中に産生されているモノクローナル抗体が、式(IIa)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)自体に特異的な反応性を示すモノクローナル抗体であるか、否かの確認を行った。さらに、式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)自体に特異的な反応性を示すモノクローナル抗体であることの検証がなされたもののうち、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示す抗体の選別を行った。
【0343】
(a) 式(IIa)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)自体に特異的な反応性を示すモノクローナル抗体であるか、否かの検証
具体的には、各ハイブリドーマ細胞株の培養上清中に含まれるモノクローナル抗体が、牛血清アルブミン(BSA)を用いて作製した、前記抗原用修飾キャリア・タンパク質(TATP3−BSA抗原)に対する反応性を有するモノクローナル抗体であるか、否かを、ELISA法を利用して検証する。
【0344】
1000倍に希釈したTATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)溶液を用い、ELISA測定用のプレートに自然吸着法で、該TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)を固定化する。未吸着のタンパク質を洗浄、除去した後、ELISA測定用のプレートに、PBSを50μl加える。次いで、各ハイブリドーマ細胞株の培養上清を、PBSで100倍に希釈した液、50μlを加える。室温で2時間放置し、該TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)に、モノクローナル抗体を反応させる。
【0345】
反応終了後、ELISA測定用のプレート上の液を除去し、各PBS100μlを用いて、3回洗浄する。前記洗浄後、プレート上に、2000倍に希釈した抗マウスIgG−POD標識抗体(フナコシ社製)液、50μlを加える。室温で1時間放置し、プレート上の抗原用修飾キャリア・タンパク質(TATP3−BSA抗原)と反応した抗体に、抗マウスIgG−POD標識抗体を反応させる。
【0346】
反応終了後、ELISA測定用のプレート上の液を除去し、各PBS100μlを用いて、4回洗浄する。前記洗浄後、プレート上に、ELISA用ペルオキシダーゼ基質(TMBZ,フナコシ社製)液、50μlを加える。抗マウスIgG−POD標識抗体の標識酵素ペルオキシダーゼによる、酵素反応を60分間行った後、1Nの硫酸(和光純薬工業社製)50μlを添加し、反応を停止させる。前記酵素反応による反応産物の濃度を、450nmの吸光度を測定することで決定する。
【0347】
上記のTATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)に対する反応性を有するモノクローナル抗体は、牛血清アルブミン(BSA)上に結合されている、式(IIa)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)自体に反応しているモノクローナル抗体である。
【0348】
このスクリーニング手順に従って、各ハイブリドーマ細胞株の培養上清中に式(IIa)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)自体に特異的な反応性を示すモノクローナル抗体が存在するか、否かの検証を行った。その結果、ハイブリドーマ細胞株合計13クローン中、13クローンが式(IIa)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)自体に反応しているモノクローナル抗体を産生していることが確認された。
【0349】
(b) 式(I)で示される三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示すモノクローナル抗体の選別
前記(a)の一次スクリーニングで選別された、式(IIa)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)自体に反応性を示すモノクローナル抗体複数種から、式(I)で示される三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示すモノクローナル抗体を、競合ELISA法を利用して選別する。
【0350】
1000倍に希釈したTATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)溶液を用い、ELISA測定用のプレートに自然吸着法で、該TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)を固定化する。未吸着のタンパク質を洗浄、除去した後、ELISA測定用のプレートに、終濃度が200ppmとなるように、TATP(アキュースタンダード社製)PBS溶液を50μl加える。次いで、選別された各ハイブリドーマ細胞株の培養上清を、PBSで100倍に希釈した液、50μlを加える。室温で2時間放置し、該TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)に抗体を反応させる。なお、反応液中に含まれるTATPの終濃度200ppmは、0.9mMに相当している。
【0351】
前記の反応時、プレート上の液中に、添加されている、TATPと抗体との間で抗原抗体反応が進行すると、プレート上に固定化されている、TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)との抗原抗体反応と、競合が生じる。結果的に、プレート上に固定化されている、TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)との抗原抗体反応を介して、プレート上に固定化される抗体の量が減少する。
【0352】
反応終了後、ELISA測定用のプレート上の液を除去し、各PBS100μlを用いて、4回洗浄する。前記洗浄後、プレート上に、ELISA用ペルオキシダーゼ基質(TMBZ,フナコシ社製)液、50μlを加える。抗マウスIgG−POD標識抗体の標識酵素ペルオキシダーゼによる、酵素反応を60分間行った後、1Nの硫酸(和光純薬工業社製)50μlを添加し、反応を停止させる。前記酵素反応による反応産物の濃度を、450nmの吸光度を測定することで決定する。
【0353】
抗原抗体反応時に、プレート上の液中に、TATPを添加していない場合と比較し、TATPを添加した際に、前記酵素反応による反応産物の濃度が減少を示す結果が得られると、TATPを添加した際に、競合が生じていると判断される。すなわち、かかる競合が生じている場合、そのハイブリドーマ細胞株の培養上清中に含まれるモノクローナル抗体は、TATPに対する交叉反応性を示すモノクローナル抗体と判断できる。
【0354】
このスクリーニング手順に従って、(a)の一次スクリーニングで選別された、式(IIa)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)自体に反応性を示すモノクローナル抗体複数種から、式(I)で示される三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示すモノクローナル抗体の選別を行った。
【0355】
その結果、式(I)で示される三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示すモノクローナル抗体が複数種選別された。図2に、この二次スクリーニングにより、選別されたモノクローナル抗体複数種のうち、1種のマウス・モノクローナル抗体(「参考例2のモノクローナル抗体」)について、測定結果を一例として、示す。
【0356】
図2中に、「Buffer」と表記する測定結果は、上記(a)の一次スクリーニングにおけるELISA法による測定結果、すなわち、TATPが存在していない状況において、TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)に対して、反応したモノクローナル抗体の量に相当している。図2中に、「200ppm TATP」と表記する測定結果は、上記のTATPが共存している状況において、TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)に対して、反応したモノクローナル抗体の量に相当している。
【0357】
図2に示す結果は、前記の反応時、プレート上の液中に、添加されている、TATPとモノクローナル抗体との間で抗原抗体反応が進行するため、プレート上に固定化されている、TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)との抗原抗体反応と、競合が生じていることを明確に示している。すなわち、該モノクローナル抗体は、式(IIa)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)自体に反応性を示すモノクローナル抗体であり、さらに、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示すモノクローナル抗体でもあることを検証する結果である。
【0358】
従って、前記の(a)の一次スクリーニングと、(b)の二次スクリーニングによって、選別されるモノクローナル抗体は、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する交叉反応性を示すモノクローナル抗体であることが確認された。
【0359】
なお、図2に示す結果は、抗原抗体反応を行う反応液中に、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)を終濃度0.9mMとなるように添加すると、
該1種のマウス・モノクローナル抗体(「参考例2のモノクローナル抗体」)では、少なくとも、その25%程度がTATPと結合している
ことを示唆する結果である。
【0360】
全抗体型のモノクローナル抗体は、二価であり、その一方にTATPが結合しても、TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)との反応性は本質的に低下しないと仮定すると、
図2に示す結果は、抗原抗体反応を行う反応液中に、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)を終濃度0.9mMとなるように添加すると、
該1種のマウス・モノクローナル抗体(「参考例2のモノクローナル抗体」)では、少なくとも、その25%程度がTATPを2分子結合している
ことを示唆する結果である。
【産業上の利用可能性】
【0361】
本発明にかかる過酸化物誘導体型の爆薬に対する結合能を有する抗体は、当該過酸化物誘導体型の爆薬の検出に利用できる。
【受託番号】
【0362】
本発明にかかる、式(I)に示す三量体型の過酸化アセトン(TATP)に対する結合能を有するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞として、
ハイブリドーマ細胞株:P3-RZZ-16-11Eが、ブタペスト条約に基づき、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国 茨城県つくば市東1丁目1番地中央第6、郵便番号305−8566)に、国際寄託(平成22年 6月 8日付け)がなされている。
【0363】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(I)に示す構造を有する過酸化アセトンに対する結合能を有する抗体であって、
【化1】

該抗体は、
前記式(I)に示す過酸化アセトンにおける特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ、下記の式(II)に示すジカルボン酸化合物:[12-(2-カルボキシメチル)-9,12-ジメチル-7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデック-9-イル]-酢酸([12-(2-carboxymethyl)-9,12-dimethyl-7,8,10,11,13,14-hexaoxa-spiro-[5.8]tetradec-9-yl]-acetic acid)に対する抗体であり、前記式(I)に示す過酸化アセトンに対して交叉反応性を有する
【化2】

ことを特徴とする、過酸化物誘導体型の爆薬の抗体。
【請求項2】
前記式(I)に示す過酸化アセトンに対する結合能を有する抗体は、
前記式(II)に示すジカルボン酸化合物を、キャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質を免疫原として、ヒト以外の哺乳動物を免疫することで創製される、該低分子化合物に対するモノクローナル抗体であり、該式(I)に示す過酸化アセトンに対して交叉反応性を有する抗体である
ことを特徴とする請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
前記ヒト以外の哺乳動物は、ラットである
ことを特徴とする請求項2に記載の抗体。
【請求項4】
前記式(I)に示す過酸化アセトンに対する結合能を有する抗体として、
ハイブリドーマ細胞株:P3−RZZ−16−11E(FERM BP−11260)が産生するモノクローナル抗体を選択する
ことを特徴とする請求項3に記載の抗体。
【請求項5】
下記の式(I)に示す構造を有する過酸化アセトンに対する結合能を有する抗体を製造する方法であって、
【化3】

該抗体は、
前記式(I)に示す過酸化アセトンにおける特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ、下記の式(II)に示すジカルボン酸化合物に対するモノクローナル抗体であり、該式(I)に示す過酸化アセトンに対して交叉反応性を有する、ヒト以外の哺乳動物由来の抗体であり、
【化4】

該ヒト以外の哺乳動物由来のモノクローナル抗体の作製プロセスは、少なくとも、
前記式(II)に示すジカルボン酸化合を、キャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質を免疫原として、前記ヒト以外の哺乳動物を免疫する工程;
前記修飾タンパク質を免疫原とする免疫の確立がなされた後、免疫された前記ヒト以外の哺乳動物から脾臓細胞を採取し、採取した脾臓細胞からモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ細胞を作製する工程;
作製された抗体産生ハイブリドーマ細胞が産生するモノクローナル抗体の群から、前記式(I)に示す過酸化アセトンに対する交叉反応性を有するモノクローナル抗体を、前記式(I)に示す過酸化アセトンを抗原とする、抗原抗体反応によって、選別する工程
を含んでいる
ことを特徴とする抗体の製造方法。
【請求項6】
前記ヒト以外の哺乳動物は、ラットである
ことを特徴とする請求項5に記載の抗体の製造方法。
【請求項7】
前記式(I)に示す過酸化アセトンに対する結合能を有する抗体として、
ハイブリドーマ細胞株:P3−RZZ−16−11E(FERM BP−11260)が産生するモノクローナル抗体を選択する
ことを特徴とする請求項6に記載の抗体の製造方法。
【請求項8】
下記の式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物:[12-(2-カルボキシメチル)-9,12-ジメチル-7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデック-9-イル]-酢酸([12-(2-carboxymethyl)-9,12-dimethyl-7,8,10,11,13,14-hexaoxa-spiro-[5.8]tetradec-9-yl]-acetic acid)。
【化5】

【請求項9】
下記の式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物:[12-(2-カルボキシメチル)-9,12-ジメチル-7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデック-9-イル]-酢酸([12-(2-carboxymethyl)-9,12-dimethyl-7,8,10,11,13,14-hexaoxa-spiro-[5.8]tetradec-9-yl]-acetic acid)を合成する方法であって、
【化6】

該合成方法は、下記の工程A〜工程Cを含む
工程A:
水溶液中において、ギ酸(HCOOH)と過酸化水素(HOOH)を利用して、シクロヘキサノンから、下記式(III)に示すシクロヘキサン-1,1-ジイル ビス-ヒドロパーオキシドを合成する工程;
【化7】

工程B:
ルイス酸触媒の存在下、式(III)に示すシクロヘキサン-1,1-ジイル ビス-ヒドロパーオキシドと、アセト酢酸アリルとの付加反応を利用して、環形成を行い、下記式(II’)に示すジカルボン酸化合物のジアリルエステルを合成する工程;
【化8】

工程C:
パラジウム触媒の存在下、アリル基の転位反応を利用して、式(II’)に示すジカルボン酸化合物のジアリルエステルから、式(II)に示すジカルボン酸化合物に変換する工程;
ことを特徴とする、式(II)に示すジカルボン酸化合物の合成方法。
【請求項10】
前記工程Cでは、
パラジウム触媒として、テトラキス・トリフェニルホスフィン・パラジウム(Pd{P(C6534)を使用し、
テトラヒドロフラン中、N−メチルアニリンと該パラジウム触媒を式(II)に示すジカルボン酸化合物のジアリルエステルに作用させ、式(II)に示すジカルボン酸化合物に変換する
ことを特徴とする、請求項9に記載の式(II)に示すジカルボン酸化合物の合成方法。
【請求項11】
工程Bにおいては、ルイス酸触媒として、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(BF3:O(CH2CH32)を使用する
ことを特徴とする、請求項9または10に記載の式(II)に示すジカルボン酸化合物の合成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−97021(P2012−97021A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245544(P2010−245544)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【出願人】(503420833)学校法人常翔学園 (62)
【Fターム(参考)】