説明

特定のスピン、慣性モーメント、揚力及び抗力の関係を有するゴルフボール

【課題】すべての種類のゴルファーのスイング速度、能力又は技術に対して、ゴルフボール飛行特性を最適化するゴルフボールを提供する。
【解決手段】本発明は、スピン速度、揚力係数、抗力係数、及び選択的に慣性モーメントの新規な組合せを有するゴルフボールに関する。本発明によるゴルフボールは、低スピン速度、大きい揚力係数、大きい抗力係数、及び選択的に大きい慣性モーメントを有する。また、本発明による別のゴルフボールは、高スピン速度、小さい揚力係数、小さい抗力係数、及び選択的に小さい慣性モーメントを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の空力特性の間に独自の関係を有するゴルフボールに関する。特に、本発明のゴルフボールは、ボールのスピン速度、慣性モーメント、揚力及び抗力の間の特定の関係を有する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフボールのスピン速度は、種々の変量の最終結果であり、種々の変量の1つは、ボール内の密度又は比重の分布である。スピン速度は、上級ゴルファーにとっても趣味のゴルファーに取っても、ゴルフボールの重要な特性である。速いスピン速度により、PGA参加プロゴルファー及びハンディキャップの少ないプレーヤー等の上級プレーヤーがゴルフボールのコントロールを最大にすることを可能にする。スピン速度が速いゴルフボールは、グリーンへのアプローチショットにも有利である。ボールをグリーン上に停止させるためのバックスピン及びボールをドロー又はフェードさせるためのサイドスピンを生じさせ且つコントロールする能力は、ボール上へのプレーヤーのコントロールを実質的に向上させる。従って、上級プレーヤーは、一般的には、スピン速度が速いゴルフボールを好む。
【0003】
一方、ボールのスピンを意図的にコントロールすることができない趣味のプレーヤーは、一般的には、スピン速度が速いゴルフボールを好まない。これらのプレーヤーにとって、スライス及びフックが当面の障害である。クラブヘッドでボールを打つとき、しばしば、意図的でないサイドスピンをボールに与え、ボールをその意図したコースから外れるように送り出す。サイドスピンは、ボールへのプレーヤーのコントロール並びにボールが移動する距離を減少させる。ショットがクラブフェースに正面からヒットしないとき、スピンが遅いゴルフボールは、不規則にラインから外れるようにドリフトしない傾向がある。スピンが遅いボールは、フック又はスライスを矯正しないけれども、サイドスピンの悪い効果を減少させる。従って、趣味のプレーヤーは、スピン速度が遅いゴルフボールを好む。
【0004】
ゴルフボールに作用する空気力学的な力は、典型的には、揚力及び抗力の直交成分に分解される。揚力は、飛行経路と垂直な方向に作用する空気力学的力成分として定義される。揚力は、ボールのバックスピンによって引起される空気流のひずみによって生じる圧力差によって生じる。図1に示すように、ボールのよどみ箇所Bのところに境界層が形成され、次いで、成長し、箇所S1、S2のところで剥離する。ボールのバックスピンにより、ボールの頂部は、空気流の方向に移動し、境界層の剥離を遅らせる。これとは対照的に、ボールの底部は、空気流の方向に対抗するように移動し、かくして、ボールの底部における境界層の剥離を前進させる。従って、ボールの頂部における境界層の剥離位置S1は、ボールの底部における境界層の剥離位置S2よりも後方になる。この非対称な剥離により、流れパターンを弧状にし、ボールの頂部の上の空気がより速く移動すること、かくして、ボールの下の空気よりも低い圧力を有することを要求する。
【0005】
抗力は、ボールの飛行方向と平行に作用する空気力学的力成分として定義される。ボールが空気中を移動するとき、ボールを包囲している空気は、異なる速度、従って、異なる圧力を有する。この空気は、図1に示すように、ボールの前面の淀み点Bのところで、最大の圧力を及ぼす。次いで、空気は、ボールの側面にわたって流れ、速度を増大させ、圧力を減少させる。空気は、箇所S1、S2のところでボールの表面から剥離し、低圧力の大きい乱流領域、即ち、後流(wake)を放出する。ボールの前側の高圧力とボールの後側の低圧力との間の差は、ボール速度を減少させ、ゴルフボールの抗力の一次的な供給源として作用する。
【0006】
平均的なプロゴルファーは、一般的には、ゴルフボールを約235フィート/秒(ft/s)、即ち、160マイル/時(mph)(257.9km/時)の速度でドライブさせ、即ち、打つ。しかしながら、ほとんどのアマチュアゴルファーは、プロゴルファーと比較して、「より遅いスイング速度」、即ち、インパクトのときに遅いクラブヘッド速度しか有しておらず、約130mph(209.2km/時)の速度で、約200〜約240ヤード(182.9〜219.5メートル)よりも短い距離のボールを打つ。高スイング速度のプレーヤーが打つボールと比較するとき、低スイング速度のプレーヤーが打った同様のボールは、ツアークラスのプレーヤーが典型的に達成する弾道軌跡よりも大きい弾道軌跡に沿って移動する。
【0007】
例えば、プレーヤーがボールを打つとき、クラブヘッドからのエネルギーの一部分は、ボール速度としてボールに伝達され、エネルギーの他の部分は、ボールスピンとしてボールに伝達される。低スイング速度しか有しないプレーヤーは、ボール速度及びボールスピンの両方に伝達させるのに利用できるエネルギーが少ししかない。クラブ速度が非常に小さくなるとき、それにより生じるボール速度は、ボールスピンの効果が揚力(FL)を著しくは増大させることがないほど遅いことがあり、即ち、低ボール速度(V)及び小さい揚力(FL)しか生じさせない。かくして、高スピン及び大きい揚力等の有利な飛行特性を有するようにデザインされたゴルフボールの利点は、低スイング速度のプレーヤーがボールを打つときに最小になる。
【0008】
ゴルフボールの重量に対する揚力の比を増大させることにより、ボール軌跡上の揚力の効果を増大させる試み、また、重いボールよりもインパクトのときの初速を増大させる試みとして、軽量ゴルフボールが作られた。軽量ゴルフボールは、より速い速度で大きくなる抗力のため、通常の重量のゴルフボールよりも早く減速することが一般的に知られている。結果として、これらの軽量ボールは、抗力の効果を減少させるように効果的にデザインされていなかった。抗力を最小にするいくつかの試みが過去に行われたが、これらの試みは、より速いスイング速度を有するプレーヤーとの組合せだけに焦点を当てていた。
【0009】
ゴルフボール上のディンプルは、ゴルフボールの抗力特性及び揚力特性を調整するのに使用され、従って、大部分のゴルフボール製造者は、ゴルフボールの飛距離全体を向上させるために、ディンプルのパターン、形状、容積及び断面を研究する。ディンプルは、薄い乱流境界層をボールの周りに生じさせる。乱流は、境界層にエネルギーを付与し、境界層がボールの周りでボールにくっついていることを維持するのを助け、それにより、後流領域を減少させる。ボールの後側の圧力が増大され、抗力は実質的に減少する。
【0010】
高い程度のディンプル占有率は、ディンプルが合理的な寸法のものである場合にだけ、飛行距離に有利である。スペースを小さいディンプルで埋めることによって得られたディンプル占有率は、小さいディンプルが良好な乱流発生器とならないので、効果的でない。今日のほとんどのボールが、ディンプルとディンプルとの間に多くの大きいスペースを有し、又は、これらのスペースを、平均的なゴルフボール速度において充分な乱流を生じさせない非常に小さいディンプルで占めている。一般的には、ディンプルパターンの揚力が増大するにつれて、抗力も増大する。在来のディンプルデザインは、プレーヤーが達成することができる低スイング速度よりも速いスイング速度に対して空気力学的に最適化される傾向がある。
【0011】
ゴルフボールの構造はまた、ゴルフボールの飛行特性の最適化に重要な役割を果たす。過去の数十年にわたって、コアとカバーの化学的性質及び層構造の進歩は、ゴルフボールにプレイ中の向上した特性、例えば、初速度、スピン速度及び感触をもたらした。ゴルフボールは、典型的には、単一の又は多層のコアで構成され、コアは、中実であってもよいし、糸巻き式であってもよく、ポリマー材料で形成された単一の又は多層のカバーによってぴったり包囲されており、かかるポリマー材料は、例えば、ポリウレタン、バラタゴム、アイオノマー又はそれらの組合せである。例えば、小さい弾性率の熱硬化性ポリウレタンカバーを有するゴルフボールは、固有の高スピン速度、大きい抗力レベル、及び製造の困難性を有している。
【0012】
過去の研究は、ゴルフボールの空気力学特性の最適化、又は、飛行特性に僅かな改善を施すゴルフボールの構造に焦点が当てられていたけれども、ほとんどの進歩は、高スイング速度のプレーヤーにしか利益をもたらさなかった。加えて、最も長距離型の従来技術のゴルフボールは、高い打出し角度において低スピン及び小さい揚力係数を有し、最も短距離形の従来技術のゴルフボールは、低い打出し角度において高スピン及び大きい揚力係数を有していた。両方の種類のゴルフボールは、典型的には、大きい抗力係数を有している。
【0013】
ゴルフボールのための好ましい空力特性を開示する従来技術は少ない。米国特許第5,935,023号(特許文献1)は、スピン速度に関数的に依存する単一の速度についての好ましい揚力係数及び抗力係数を開示する。米国特許第6,213,898号(特許文献2)及び同第6,290,615号(特許文献3)は、高速における抗力を減少させ且つ低速における揚力を増大させるゴルフボールディンプルパターンを開示する。現在、これらの特許の開示とは逆に、高速における小さい抗力及び低速における大きい揚力は、飛行性能を向上させるのに必ずしも必要でないことが分かっている。例えば、高速における過剰な揚力又は低速における過剰な抗力は、望ましくない飛行特性を生じさせる。しかしながら、従来技術は、ゴルフボールの飛行の他の部分に影響を及ぼすいくつかの空気力学的特徴の組合せについてほとんど沈黙しており、かかる他の部分は、例えば、慣性モーメント、飛行の一貫性、異なる寸法及び重量のボールについての空気力学的揚力係数及び抗力係数である。
【0014】
【特許文献1】米国特許第5,935,023号明細書
【特許文献2】米国特許第6,213,898号明細書
【特許文献3】米国特許第6,290,615号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
かくして、すべての種類のゴルファーのスイング速度、能力又は技術に対して、ゴルフボール飛行特性を最適化する要望がある。特に、揚力係数、抗力係数及びスピン速度の独特の組合せを有するゴルフボールの要望が、従来技術に存在する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、コアとカバーとを有するゴルフボールであって、約0.46oz/in2又はそれよりも大きい慣性モーメントを有し、レイノルズ数約145000において、揚力係数が約0.20よりも大きく、抗力係数が約0.22よりも小さいゴルフボールに向けられる。1つの実施形態では、コアは、約90又はそれよりも小さいコンプレッションを有する。他の実施形態では、コアは、約70又はそれよりも小さいコンプレッションを有する。
【0017】
カバーは、約60又はそれよりも大きいショアD硬度を有する。1つの実施形態では、カバーは、約65又はそれよりも大きいショアD硬度を有する。別の実施形態では、カバーは、内カバー層と外カバー層とを有する。本発明のこの側面では、内カバー層は、第1の硬度を有し、外カバー層は、第1の硬度よりも小さい第2の硬度を有する。例えば、1つの実施形態では、第1の硬度は、約60又はそれよりも大きいショアD硬度であり、第2の硬度は、約60又はそれよりも小さいショアD硬度である。これとは逆に、内カバー層は、第1の硬度を有し、外カバー層は、第1の硬度よりも大きい第2の硬度を有する。例えば、第1の硬度は、約60よりも小さい又はそれよりも大きいショアD硬度であり、第2の硬度は、約60又はそれよりも大きいショアD硬度である。
【0018】
本発明はまた、コアとカバーとを有するゴルフボールであって、約0.40oz/in2又はそれよりも小さい慣性モーメントを有し、レイノルズ数約145000において、揚力係数が約0.20よりも小さく、抗力係数が約0.22よりも小さい、ゴルフボールに向けられる。1つの実施形態では、コアは、約70又はそれよりも大きいコンプレッションを有する。他の実施形態では、コアは、約80又はそれよりも大きいコンプレッションを有する。更に別の実施形態では、カバーは、約60又はそれよりも小さい硬度を有し、好ましくは、約55又はそれよりも小さい硬度を有する。
【0019】
本発明のこの側面において、カバーは、内カバー層と外カバー層とを有する。1つの実施形態では、内カバー層は、第1の硬度を有し、外カバー層は、第1の硬度よりも大きい第2の硬度を有する。例えば、第1の硬度は、約60よりも小さい又はそれよりも大きいショアD硬度であり、第2の硬度は、約60又はそれよりも大きいショアD硬度である。別の実施形態では、内カバー層は、第1の硬度を有し、外カバー層は、第1の硬度よりも小さい第2の硬度を有する。例えば、第1の硬度は、約60又はそれよりも大きいショアD硬度であり、第2の硬度は、約60よりも小さいショアD硬度である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、スピン速度、揚力係数及び抗力係数の新規な組合せを有するゴルフボールに向けられる。特に、本発明は、スピン速度、揚力係数、抗力係数及び慣性モーメントの間の独自の関係を有するゴルフボールに向けられる。本発明のゴルフボールは、様々なゴルファーのスイング速度、能力及び技術に使用される。
【0021】
スピン速度が遅く且つ打出し角度が大きいときの従来技術のゴルフボールは、典型的には、大きい慣性モーメントと結合した小さい揚力係数及び小さい抗力係数しか有していない。空力特性のこの組合せは、ティーからの長い飛距離を望むプレーヤーには有利であるが、プレーヤーは、ボールの飛行をあまり制御していない。
【0022】
本発明の第1の実施形態は、図2に示すように、スピン速度が遅く、揚力係数が大きく、且つ抗力係数が大きいゴルフボールに向けられる。この実施形態によるよる大きい揚力係数は、種々のスイング速度、種々のレイノルズ数及びスピン速度に対応している。ここで使用するように、「遅いスピン速度」は、約10度よりも大きい打出し角度における約3100rpm又はそれよりも小さい最初のドライバースピン速度を称する。ゴルフボールのスピン速度は、当業者に既知の種々の方法を使用して測定される。例えば、スピン速度は、ストップアクションストロボ写真撮影を使用して、飛行中のボールの回転を観察することによって測定される。スピン速度は、クラブヘッド速度、打出し角度、及び初速度の関数であり、かくして、これらのパラメータを調整することによって制御される。ゴルフボールの慣性モーメントはまた、ゴルフボールのスピン速度を制御することを助ける。例えば、後で詳細に説明するように、大きい慣性モーメントは、遅いゴルフボールのスピン速度を達成することを助ける。
【0023】
本発明のこの側面では、大きい揚力及び小さい抗力が、低〜中スイング速度及び低スピンと結合される。例えば、低〜中スイング速度において、例えば、レイノルズ数(NRe)が約145000であり且つ低スピン速度(ω)が約3100rpmにおいて、揚力係数(CL)が約0.20よりも大きく、抗力係数(CD)が約0.22よりも小さい。
【0024】
好ましくは、この実施形態によるゴルフボールはまた、より遅いスピンしか有しないゴルフボールのデザインを容易にするのを助ける大きい慣性モーメントを有する。例えば、1つの実施形態では、スピン速度が遅いゴルフボールは、好ましくは、約0.46oz/in2(2.02g/cm2)又はそれよりも大きい慣性モーメントを有する。1つの実施形態では、慣性モーメントは、約0.48oz/in2(2.11g/cm2)又はそれよりも大きい。他の実施形態では、慣性モーメントは、約0.49oz/in2(2.15g/cm2)又はそれよりも大きい。表1は、本発明のこの実施形態による大きい揚力及び小さい抗力を有する低スピンゴルフボールの全体的な空力特性を示す。
【0025】
【表1】

【0026】
速いスピン速度及び低い打出し角度のところで在来のディンプルパターンを有する従来技術のゴルフボールは、典型的には、小さい慣性モーメントと結合された大きい揚力係数及び大きい抗力係数を有する。空力特性のこの組合せは、強い逆風においてゴルフボールを強制的にクラブヘッドから鉛直方向に離れさせ、短い飛距離になり、これは、グリーン内又はその周りにおいて有用である。
【0027】
本発明の第2の実施形態は、上述した従来技術のゴルフボールと対照的に、高スピン速度を有するゴルフボールの軌道を低くすることに向けられる。これは、図3に示すように、高スピン速度、小さい揚力係数及び小さい抗力係数を有するゴルフボールをデザインすることによって達成される。この実施形態に従う小さい揚力係数は、種々のスイング速度及び種々のレイノルズ数及びスピン速度に適合する。低〜中のスイング速度、例えば、レイノルズ数(NRe)が約145000であり且つボール速度120m/hにおける高スピン速度(ω)が約3700において、例えば、揚力係数(CL)は、約0.20よりも小さく、抗力係数(CD)は、約0.22よりも小さい。
【0028】
好ましくは、この実施形態によるゴルフボールはまた、小さい慣性モーメントを有し、この小さい慣性モーメントは、これらの空力特性を有するゴルフボールのデザインを容易にするのを助ける。例えば、1つの実施形態では、低スピン速度のゴルフボールは、好ましくは、約0.4oz/in2(1.76g/cm2)又はそれよりも小さい慣性モーメントを有する。他の実施形態では、慣性モーメントは、約0.38oz/in2(1.67g/cm2)又はそれよりも小さい。更に別の実施形態では、慣性モーメントは、約0.36oz/in2(1.58g/cm2)又はそれよりも小さい。表2は、本発明のこの実施形態による、小さい揚力及び小さい抗力を有する高スピンゴルフボールのための一般的な空力特性を示す。
【0029】
【表2】

【0030】
第1の実施形態又は第2の実施形態の何れかによるゴルフボールは、空気力学と構造の独自の組合せを使用して、デザインされるのがよい。スピン速度、揚力係数、抗力係数、及び慣性モーメントの間の特定の関係を達成するために、本発明によって種々の組合せが考えられ、かかる組合せを後で詳細に説明する。しかしながら、当業者は、後述する例が限定すべきものではなく、本発明の範囲及び精神から逸脱することなしに本発明によって意図されるゴルフボールを構成する空気力学及び構造の追加の組合せがあることを認識すべきである。
【0031】
〔空気力学〕
飛行中のゴルフボールに作用する空気力学的力は、式1によって計算され、かかる空気力学的力を図4に示す。
F=FL+FD+FG ・・・(式1)
この式において、Fは、ゴルフボールに作用する力であり、FLは、揚力であり、FDは、抗力であり、FGは、重力である。
【0032】
揚力(FL)は、スピンベクトルと速度ベクトルの外積によって示される方向に作用する。抗力(FD)は、速度ベクトルと正反対の方向に作用する。式1の揚力と抗力はそれぞれ、式2及び式3によって計算される。
L=0.5CLρAV2 ・・・(式2)
D=0.5CDρAV2 ・・・(式3)
これらの式において、ρは、空気の密度(lb/ft3)であり、Aは、ゴルフボールの投影面積(ft2)(=(π/4)*Dp2)であり、CLは、無次元の揚力係数であり、CDは、無次元の抗力係数である。
【0033】
揚力係数及び抗力係数は、飛行中のボールに付与される力を定量化するために用いられ、空気密度、空気速度、ボール速度、及びスピン速度に依存する。揚力係数及び抗力係数は、次のように、式4及び式5から得られる。
L=2FL/ρAV2 ・・・(式4)
D=2FD/ρAV2 ・・・(式5)
【0034】
揚力係数及び抗力係数は、飛行中のボールに付与される力を定量化するために用いられ、空気密度、空気速度、ボール速度、及びスピン速度に依存し、これらのパラメータのすべての影響は、2つの無次元パラメータ、即ち、スピン比率(SR)及びレイノルズ数(NRe)によって代表される。スピン比率は、ボールの回転表面速度をボール速度によって割り算したものである。レイノルズ数は、空気中を移動するゴルフボールに作用する粘性力に対する慣性力の比を定量化する。SR及びNReは、以下の式6及び式7によって計算される。
SR=ω(D/2)/V ・・・(式6)
Re=DVρ/μ ・・・(式7)
これらの式において、ωは、ボールの回転速度(ラジアン/s)(=2π(RPS))であり、RPSは、ボールの回転数(速度)(回転/s)であり、Vは、ボール速度(ft/s)であり、Dは、ボール直径(ft)であり、ρは、空気密度(slugs/ft3)であり、μは、空気の絶対粘度(lb/ft・s)である。
【0035】
与えられた範囲のSR及びNReのための揚力係数及び抗力係数を決定するのに適当な多数の方法があり、かかる方法は、弾道スクリーン技術を備えた屋内テストレンジの使用を含み、米国特許第6,729,976号により詳細に説明され、この米国特許の記載をここに援用する。米国特許第5,682,230号は、揚力係数及び抗力係数を得るために、一連の弾道スクリーンの使用を教示し、この米国特許の記載をここに援用する。米国特許第6,186,002号及び同第6,285,445号は、与えられた範囲の速度及びスピン速度のために揚力係数及び抗力係数を、屋内テストレンジを使用して決定するための方法を開示し、これらの米国特許をここに援用する。CL及びCDの値は、各ショットについてSR及びNReに関連する。ゴルフボール空気力学テストの当業者は、屋内テストレンジを使用することにより、揚力係数及び抗力係数を容易に決定することができる。
【0036】
〔慣性モーメント〕
慣性モーメントもまた、上述したように、ボールのスピン速度、及び、最終的には本発明によって記載される空力特性を制御する際に重要な役割を果たす。当業者は、慣性モーメントの種々のレベルを得る際の方法を知っている。例えば、大きい慣性モーメントは、ゴルフボールの周囲に重量を追加することによって達成され、ボールの慣性モーメントによるより大きい抵抗により、ボールのスピン速度を遅くする傾向がある。大きい慣性モーメントを達成する方法の例は、米国特許第6,902,498号及び同第6,902,402号に開示され、その開示全体を本明細書に援用する。これに対して、小さい慣性モーメントは、ゴルフボールの中心により多くの重量が存在するゴルフボールに見られ、それにより、ボールの容易な回転、かくして、ボールがクラブから離れるときの容易なスピン加速を可能にする。米国特許公開第2005/0059510号は、小さい慣性モーメントを達成する方法を示し、この開示全体を本明細書に援用する。
【0037】
密度の再配分の結果として、慣性モーメントが増大から減少に切替わるところのボールの中心又は外カバーからの半径方向距離、即ち、重心半径は、ゴルフボールのデザインの重要なファクタである。中心から重心半径までの間のボールの容積に、より多くのボールの質量又は重量が再配分されるとき、慣性モーメントは減少し、それにより、高スピンボールを生じさせる。重心半径と外カバーとの間の容積に、より多くのボールの質量又は重量が再配分されるとき、慣性モーメントは増大し、それにより、低スピンボールを生じさせる。重心半径は、式8から決定され、その手順を以下に説明する。

(a)ボールの外径r0を、平均寸法のボールの直径1.68インチ(4.267センチメートル)の半分に定める。
(b)ボールの重量を、USGAで定められた重量である1.62オンス(45.93g)に定める。
(c)任意の重量配分の前に、均一に配分された密度を有するボールの慣性モーメント(MOI)を決定する。ここで、慣性モーメントMOIは、式9によって表される。
MOI=2/5Mt02 ・・・(式9)
この式において、Mtは、ボールの全重量(質量)(オンス)である。ベースラインMOI値である0.4572oz/in2(2.00g/cm2)は、1976年に発行されたCRCスタンダード・マスマティカル・テーブルズ第24版第20頁に記載されているような任意の直径、及び、球のためのMOIの式を介して得られる。
(d)予め定められた重量をボールから一様に取り、この重量を、ボールのセンターに近い箇所に薄いシェルの形態で再配分し、再配分されたボールの重量の新しいMOIを計算する。
(e)ステップ(d)で決定された新しいMOIを、ステップ(c)で決定されたベースラインMOI値と比較し、例えば、新しいMOIからベースラインMOIを引き算して、MOIが重量再配分により増大したか減少したかどうかを決定する。
(f)予め定められた同じ重量で且つボールのセンターから増分式に離れるようにして、ステップ(d)及び(e)を、再配分される予め定められた重量がボールの外面に達するまで繰返す。
(g)重心半径を、MOIが増加から減少に変わる半径方向箇所として決定する。
(h)ステップ(d)、(e)、(f)及び(g)を、予め定められた異なる重量で繰返し、予め定められた重量の各々について重心半径が同じであることを確認する。
【0038】
式8及び式9及びステップ(a)〜(h)の種々の適用例が、米国特許第6,602,498号、同第6,908,402号、同第6,464,795号及び米国特許出願公報第2005/0059510号に記載されている。
【0039】
層硬さ及びコンプレッションは、特性の所望の全体的なバランスを得るために調整されることもよい。その場合、種々の異なる構成が、本発明によるゴルフボールを達成するために使用される。これらの構成は、後で詳細に説明する。
【0040】
ボールコアの比重は、所望の慣性モーメントを得るために調整されるのがよい。例えば、低比重センター、例えば、液体センター及びフォームセンターは、典型的には、大きい慣性モーメントを生じさせる。1つの実施形態では、ボールは、1つよりも多い低比重層を有する。例えば、ボールの中間層は、約0.9よりも小さい、より好ましくは、約0.8よりも小さい比重を有する。
【0041】
低比重層は、層に耐久性があり且つボールに望ましくない特性を付与しない限り、多数の適当な材料で作られる。適当な材料は、限定するわけではないが、エポキシ、ウレタン、ポリエステル又は任意適当な熱硬化性バインダのポリマーマトリックス内で中空の球形フィラー又はマイクロスフィアを発泡させた熱硬化性合成フォーム(foam)を含み、硬化後の組成は、約0.9よりも小さい比重を有する。適当な材料はまた、同じ組成物の発泡基材の上にポリウレタンの中実の膜を形成するポリウレタンフォーム又は一体膜ポリウレタンを含む。その他の適当な材料は、RIM成形(reaction injection moulding)可能な中和されたポリウレタン又はポリ尿素を含み、ここで、全部の反応が行われる閉じた型内への成分射出の前、窒素等のガスを、本質的にはポリウレタンの少なくとも1つの成分、普通はプレポリマーの中でホイップさせ又は泡立たせ、その結果、減少させた比重を有する硬化ポリマーを生じさせる。更に、型成形又はRIM成形したポリウレタン又はポリ尿素は、フィラー又は中空のスフィアを追加することによって更に減少した比重を有する。米国特許第5,824,746号及び同第6,025,442号は、発泡又はその他の方法によって比重を減少させた多数の熱可塑性ポリマー組成物、例えば、本発明に使用するメタロセン触媒作用ポリマーを記載し、その記載を本明細書に援用する。米国特許第5,919,100号、同第6,152,834号、及び同第6,149,535号は、本発明のゴルフボールに組み入れるのに適当であり且つ比重を減少させた追加の材料を記載している。これらに記載を本明細書に援用する。低比重層は、型成形、噴霧、滴下、射出成形又は圧縮成形によって製造される。
【0042】
〔ディンプルデザイン〕
ディンプルデザインは、本発明によるゴルフボールのデザインを助ける。ゴルフボールを特定の空力特性、例えば、表1及び表2に概略的に示した特性を用いてデザインする1つの方法は、異なるディンプルパターン及び幾何学的形状を介する方法である。用語「ディンプル」は、ここで使用しているように、ゴルフボールの表面上の任意の凹凸を含み、例えば、凹部又は突部を含む。凹部及び突部のいくつかの非制限的な例は、限定するわけではないが、球形凹部、メッシュ、隆起リッジ及びブランブルを含む。凹部及び突部は、種々のプラットフォーム形状を有し、この形状は、例えば、円形、多角形、楕円又は不規則である。多レベル形態を有するディンプル、つまり、ディンプル内のディンプルも、所望の空力特性を得るために、本発明によって考えられる。
【0043】
高パーセントの表面占有率を構成するディンプルパターンが好ましく、従来技術でよく知られており、好ましくは、約70パーセント又はそれよりも大きい、更に好ましくは、約80パーセント又はそれよりも大きい表面占有率を有する。例えば、米国特許第5,562,552号、同第5,575,477号、同第5,957,787号、同第5,249,804号及び同第4,925,193号は、ディンプルをゴルフボール上に位置決めするための幾何学的形状パターンを開示する。本発明の1つの実施形態では、ディンプルパターンは、少なくとも部分的に、米国特許第6,338,684号等に開示されている葉序ベースのパターンによって構成され、この米国特許の全体を本明細書に援用する。米国特許第6,290,615号等に開示されている管状ラティスパターンを本発明のゴルフボールに使用してもよく、この特許の全体を本明細書に援用する。
【0044】
種々の寸法のディンプルを有するディンプルパターンのいくつかの追加の非限定的な例はまた、米国特許出願第09/404,164号及び米国特許第6,213,898号に記載され、それらの開示全体を本明細書に援用する。図5〜図7に示すように、1つの実施形態では、ディンプルパターンは、約5つの異なる寸法のディンプルを有する。例えば、図5及び図6は、ゴルフボール20上の2つの異なる20面体ディンプルパターンを示し、この20面体ディンプルパターンにおいて、5つの異なる寸法のディンプルA〜Eがある。ディンプルE(DE)は、ディンプルD(DD)よりも大きく、ディンプルD(DD)は、ディンプルC(DC)よりも大きく、ディンプルC(DC)は、ディンプルB(DB)よりも大きく、ディンプルB(DB)は、ディンプルA(DA)よりも大きく、従って、DE>DD>DC>DB>DAである。図7は、8面体ディンプルパターンを示し、この8面体ディンプルパターンにおいて、6つの異なる寸法のディンプルA〜Fがある。ディンプルF(DF)は、ディンプルE(DE)よりも大きく、ディンプルE(DE)は、ディンプルD(DD)よりも大きく、ディンプルD(DD)は、ディンプルC(DC)よりも大きく、ディンプルC(DC)は、ディンプルB(DB)よりも大きく、ディンプルB(DB)は、ディンプルA(DA)よりも大きく、従って、DF>DE>DD>DC>DB>DAである。
図8は、7つの異なる寸法のディンプルA〜Gを有するディンプルパターンを示し、このディンプルパターンにおいて、ディンプルG(DG)は、ディンプルF(DF)よりも大きく、ディンプルF(DF)は、ディンプルE(DE)よりも大きく、ディンプルE(DE)は、ディンプルD(DD)よりも大きく、ディンプルD(DD)は、ディンプルC(DC)よりも大きく、ディンプルC(DC)は、ディンプルB(DB)よりも大きく、ディンプルB(DB)は、ディンプルA(DA)よりも大きく、従って、DG>DF>DE>DD>DC>DB>DAである。
【0045】
〔パーティングライン〕
ゴルフボールの赤道の周りのパーティングライン又は環状領域は、ゴルフボールが飛行している間の空気の流れプロファイルを2つのはっきりとした半部に分離するために、及び、圧力回復と関連した空気力学的力を減少させ、かくして、飛行距離及びロールを向上させるために見出された。パーティングラインは、ボールの回転軸線と一致しなければならない。ゴルフボールをパーティングラインなしに製造することも可能であるが、ほとんどのボールは、容易に製造するために、例えば、成形後にゴルフボールをバフするために、パーティングラインを有し、多くのプレーヤーは、パッティングのためのパーティングラインを有することを好む。
【0046】
本発明の1つの実施形態では、ゴルフボールは、少なくとも1つのパーティングライン又は環状領域を包含するディンプルパターンを有する。別の実施形態では、図5に示すゴルフボールで示すように、どのディンプルとも交差しないパーティングラインは存在しない。これは、ディンプルによって占有された外面の割合を増大させるけれども、パーティングラインの欠如は、製造をより困難にする。
【0047】
更に別の実施形態では、パーティングラインは、ディンプルがない領域又は浅いディンプルの領域を含み、かかる領域は、米国特許第5,566,943号に開示され、その全体を本明細書に援用する。例えば、いかなるディンプルとも交差しないパーティングラインを形成するために、多くの20面体パターンは、一般的には、中間部分の周りに修正された三角形を有する。特に図6を参照すれば、この実施形態のゴルフボールは、パーティングライン27を形成する修正20面体パターンを有し、パーティングライン27は、ディンプルの特別の列を挿入することによって達成される。かくして、この実施形態の修正20面体パターンは、図5に示す実施形態の未修正20面体パターンよりも多いディンプルを有する。
【0048】
別の実施形態では、いずれのディンプルとも交差せず且つ2本よりも多いパーティングラインがある。例えば、図7に示す8面体ゴルフボールは、いずれのディンプルとも交差しない3本のパーティングライン38を含む。これにより、図5と比較して、外面ディンプル占有率のパーセントを減少させるが、製造を容易にする。
【0049】
更に別の実施形態では、本発明によるゴルフボールは、いずれのディンプルとも交差せず且つ4本よりも少ないパーティングラインがあるように構成されたディンプルを有する。
【0050】
〔ディンプル総数〕
1つの実施形態では、本発明によるゴルフボールは、全部で約300〜約500のディンプルを有している。他の実施形態では、ディンプルパターンは、全部で約350〜約450のディンプルを有する20面体パターンである。例えば、図5、図6及び図8のゴルフボールは、約362〜約392のディンプルを有し、図7に示すゴルフボールでは、440のディンプルを有する。
【0051】
〔ディンプル直径〕
1つの実施形態では、少なくとも約80%のディンプルが、約0.11インチ(2.79ミリメートル)又はそれよりも大きい直径を有し、その結果、ほとんどのディンプルは、乱流境界層を生じさせることを助けるのに十分に大きい。他の実施形態では、少なくとも約90%のディンプルが、約0.11インチ(2.79ミリメートル)又はそれよりも大きい直径を有する。更に別の実施形態では、少なくとも約95%のディンプルが、約0.11インチ(2.79ミリメートル)又はそれよりも大きい直径を有する。例えば、図6に示すボールでは、すべてのディンプルが、約0.11インチ(2.79ミリメートル)又はそれよりも大きい直径を有する。
【0052】
図8に示す別の実施形態では、約85%のディンプルが、0.075インチ(1.90ミリメートル)よりも大きい直径を有し、約5%のディンプルが、約0.065インチ(1.65ミリメートル)又はそれよりも小さい直径を有する。
【0053】
〔ディンプル輪郭〕
ディンプルの輪郭はまた、本発明の第1の実施形態によって概略的に示すように、ゴルフボールのデザインを助ける。例えば、浅い深さのディンプルを有する米国特許第5,566,943号等のゴルフボールは、大きい揚力係数及び小さい抗力係数を得るために、本発明のゴルフボールと共に使用されるのがよい。これに対して、比較的深いディンプル深さは、小さい揚力係数及び小さい抗力係数を有するゴルフボールを得る助けになる。
【0054】
加えて、すべてのディンプルが固定された半径及び深さを有しているが形状が異なるディンプルパターンは、本発明に有用である。例えば、ディンプル形状の変化は、縁半径及び縁角度として、又は、懸垂線形状ファクタ及び縁半径によって定められる。ディンプルは、米国特許第6,796,912号及び同第6,729,976号に記載されたディンプル輪郭のように、軸線を中心とする懸垂線曲線の回転によって定められ、上記米国特許の記載全体を本明細書に援用する。
【0055】
〔構造〕
材料の選択は、本発明のゴルフボールを達成する際の重要な要因である。本発明は、概略的には、コアとカバーとを有する2部品ゴルフボール、又は、中実の、液体の、ゲルの、発泡の又は糸巻き式のセンターを有する多層ゴルフボールに関する。多層ゴルフボールでは、少なくとも1つの中間層が、センター及びカバーに隣接してそれらと同心に配置される。糸巻き式のコアは、一般的には、多層中実センターボールよりも速いスピン速度に関連している。
【0056】
コア硬さに対するカバー硬さの比は、ボールのスピンを制御するのに使用される一次変数である。一般的には、コアを硬くすればするほど、スピンを大きくし、また、カバーを軟らかくすればするほど、スピンを大きくする。例えば、ソフトコア及びハードカバー外層を有するように形成され且つ上述した空気力学に加えて高反発係数を有するゴルフボールは、大きい揚力係数、小さい抗力係数、低スピン、及び選択的に大きい慣性モーメントを有するゴルフボールを達成するのを助ける。加えて、ソフトコア及びソフトカバーで形成され且つ高反発係数、例えば、約0.80よりも大きい高反発係数を有するゴルフボールは、本発明の第2の実施形態によるゴルフボール、即ち、小さい揚力係数、小さい抗力係数、高スピン、及び選択的に小さい慣性モーメントを有するゴルフボールを得るのに有用である。
【0057】
〔センター〕
本発明のゴルフボールのセンターは、好ましくは、約65又はそれよりも小さいショアD硬度を有する。別の実施形態では、センターは、好ましくは、約55又はそれよりも小さい硬度を有する。本発明のコアは、好ましくは、低スピン速度を助けるために、小さいコンプレッションを有する。低スピンの実施形態では、コンプレッションは、約90ポイント又はそれよりも小さい。ここで使用するように、用語「ポイント」又は「コンプレッションポイント」は、ATTIエンジニアリングコンプレッションテスターに基づく標準コンプレッションスケールをいう。1つの実施形態では、コアのコンプレッションは、約70ポイント又はそれよりも小さい。これに対して、所望のゴルフボールが高スピンを有するとき、コアコンプレッションは、好ましくは、約70ポイント又はそれよりも大きい。本発明のこの側面では、コアコンプレッションは、約80ポイント又はそれよりも大きい。
【0058】
本発明のゴルフボールのセンター、コア、又はコア層に有用な在来の材料は、限定するわけではないが、ベースゴム、シスからトランスにする(cis-to-trans)触媒、架橋剤、遊離基源およびフィラーを含む。ベースゴムは、典型的には、天然ゴム又は合成ゴムを含む。好ましいベースゴムは、少なくとも40%のシス構造を有する1,4−ポリブタジエンである。天然ゴム、ポリイソプレンゴム、及び/又はスチレンブタジエンゴムが、1,4−ポリブタジエンに選択的に追加される。本発明のゴルフボールはまた、エラストマー巻線で包囲された流体、中実又は中空のセンターを有する在来の糸巻き式コアを有するのがよい。
【0059】
遊離基源は、典型的には、過酸化物であり、好ましくは、有機過酸化物である。適当な遊離基源は、ジ−t−アミル過酸化物、ジ(2−t−ブチルペロキシイソプロピル)ベンゼン過酸化物、1,1−ビス(t−ブチルペロキシ)−3,3,5−トリメチルシクロへキサン、ジクミル過酸化物、ジ−t−ブチル過酸化物、2,5−ジ−(t−ブチルペロキシ)−2,5−ジメチルへキサン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルペロキシ)吉草酸塩、ラウリル過酸化物、ベンゾイル過酸化物、t−ブチルヒドロ過酸化物等、及びそれらの混合物を含む。
【0060】
適当な架橋剤は、不飽和α,β脂肪酸又はモノカルボン酸の1つ又は2つ以上の金属塩、例えば、亜鉛、カルシウム又はマグネシウムのアクリレート(acrylate)塩、及びそれらの混合物を含む。好ましいアクリレートは、亜鉛アクリレート、亜鉛ジアクリレート(diacrylate)、亜鉛メタクリレート(methacrylate)、亜鉛ジメタクリレート(dimethacrylate)、及びそれらの混合物を含む。架橋剤は、弾性ポリマー成分中のポリマー鎖の一部分を架橋させるのに十分な量存在しなければならない。例えば、所望のコンプレッションは、架橋剤の種類及び量を変更することによって得られる。架橋剤は、使用される反応生成物の硬度を増大させるために、ボールの他の層に含まれてもよい。
【0061】
フィラーは、ボールの周囲又はセンターからの又はセンターへのボールの重量配分を修正するために使用される。フィラーは、典型的には、処理補助剤、即ち、レオロジー的特性及び混合特性、比重(即ち、密度変更フィラー)、弾性係数、引裂強度、補強等に影響を及ぼす化合物を含む。フィラーは、一般的には、無機であり、適当なフィラーは、多数の金属又は金属酸化物を含み、金属酸化物は、例えば、亜鉛酸化物、スズ酸化物、硫酸バリウム、硫酸亜鉛、カルボン酸カルシウム、カルボン酸バリウム、粘土、タングステン、タングステンカーバイド、シリカのアレイ、硬化したゴムのグラウンド粒子、及びこれらの混合物等である。フィラーは、当業者によって容易に選択される種々の発泡剤を含んでもよい。発泡ポリマー混合物は、当業者によく知られているように、発泡剤とポリマー材料とを混合することによって形成されるのがよい。ポリマーの、セラミックの、金属の、又はガラスのマイクロスフィア、又は、それらの混合物は、与えられた層の密度又はその他の特性を調整するのに使用され、かかるマイクロスフィアは、中実であってもよいし、中空であってもよく、また、充填されていてもよいし、充填されていなくてもよい。フィラーは、典型的には、ゴルフボールの1つの部分又は2つ以上の部分に追加され、それにより、ゴルフボールの密度を修正して、均一なゴルフボール標準に一致させる。
【0062】
液体センターを有するボールでは、コーンシロップ、塩及び水の混合物が使用されるのがよい。コーンシロップ及び塩は、比重及び粘性を増大させるために添加される。別の実施形態では、水は、液体として使用される。更に別の実施形態では、硫酸バリウムペーストが採用されるのがよい。
【0063】
1つの実施形態では、ゴルフボールのセンターは、ポリブタジエン組成物で形成され、このポリブタジエン組成物は、部分的に又は完全に中和されたアイオノマー等の発泡弾性熱可塑性エラストマーからなる周囲層を有するタングステンフィラーを有する。
【0064】
〔ハードカバー〕
本発明の第1の実施形態では、大きい揚力係数、小さい抗力係数及び低スピンを有するゴルフボールを達成するために、カバー硬さは、好ましくは、約60又はそれよりも大きいショアD硬さである。1つの実施形態では、カバー硬さは、約65又はそれよりも大きいショアD硬さである。更に好ましくは、カバーの硬さは、約61〜約67のショアD硬さである。
【0065】
1つの実施形態では、カバーは、約60,000〜約70,000psi(4.14〜4.82×108Pa)の弾性率を有する。大きい弾性率は、スピン速度を減少させること及び増大させた初期速度を得ることを補助し、これは、低スイング速度のプレーヤーへの利益になる。
【0066】
広範なカバー材料が、本発明の第1の実施形態による低スピン速度、大きい揚力係数及び小さい低抗力係数を有するゴルフボールをデザインするのに使用される。1つの実施形態では、カバーは、アイオノマー樹脂によって形成される。酸含有オレフィンコポリマーアイオノマーを含むアイオノマーの混合物を、本発明の第1の実施形態のためのカバーを形成するのに使用してもよい。これらのアイオノマーは、エチレン等のオレフィンと、アクリル酸又はメタクリル酸等のα,β不飽和カルボン酸のコポリマーであり、α,β不飽和カルボン酸は、好ましくは、ポリマーの約5〜約35重量%であり、更に好ましくは、ポリマーの約10〜約35重量%であり、更に好ましくは、ポリマーの約15〜約20重量%であり、ここで、酸成分は、約1〜100%、好ましくは、少なくとも約40、更に好ましくは、少なくとも約60%中和され、アイオノマーをカチオンによって形成し、かかるカチオンは、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、鉛、錫、亜鉛、アルミニウム、又はこれらの混合物であり、リチウム、ナトリウム及び亜鉛が好ましい。特定の酸含有エチレンコポリマーは、例えば、エチレン/アクリル酸、エチレン/メタクリル酸、エチレン/アクリル酸/n−ブチルアクリレート、エチレン/メタクリル酸/n−ブチルアクリレート、エチレン/メタクリル酸/イソブチルアクリレート、エチレン/アクリル酸/イソブチルアクリレート、エチレン/メタクリル酸/n−ブチルメタクリレート、エチレン/アクリル酸/メチルメタクリレート、エチレン/アクリル酸/メチルアクリレート、エチレン/メタクリル酸/メチルアクリレート、エチレン/メタクリル酸/メチルメタクリレート、及びエチレン/アクリル酸/n−ブチルメタクリレートコポリマーを含む。1つの実施形態では、酸含有エチレンコポリマーは、例えば、エチレン/メタクリル酸、エチレン/アクリル酸、エチレン/メタクリル酸/n−ブチルアクリレート、エチレン/アクリル酸/n−ブチルアクリレート、エチレン/メタクリル酸/メチルアクリレート、及びエチレン/アクリル酸/メチルアクリレートのコポリマーを含む。好ましい実施形態では、酸含有エチレンコポリマーは、例えば、エチレン/メタクリル酸、エチレン/アクリル酸、エチレン/(メス(meth))アクリル酸/n−ブチルアクリレート、エチレン/(メス)アクリル酸/エチルアクリレート、エチレン/(メス)アクリル酸/エチルアクリレート、エチレン/(メス)アクリル酸/メチルアクリレートのコポリマーである。
【0067】
これらのアイオノマー樹脂を作る仕方は、例えば、米国特許第3,262,272号に記載されている方法を通じて、従来技術でよく知られており、その記載全体を本明細書に援用する。ハードカバーに適当な混合物の非限定的な例は、アイオノマー樹脂を含む組成物であり、このアイオノマー樹脂は、約80〜約95重量%のエチレン等のオレフィンと約13〜約16重量%のα,β不飽和カルボン酸のコポリマーであり、ここで、約10〜90重量%のカルボン酸基は、金属イオンと中和される。1つの実施形態では、第1のアイオノマーは、リチウムと中和され、第2のアイオノマーは、ナトリウムと中和される。別の実施形態では、混合物は、約10〜約65重量%のリチウムアイオノマー、及び約90〜約45重量%のナトリウムアイオノマーを有する。別の実施形態では、混合物は、50/50の混合物である。商業的に入手できるアイオノマーは、ナトリウムアイオノマーであるSURLYN(登録商標)8140、亜鉛アイオノマーであるSURLYN(登録商標)9910、及び標準リチウムアイオノマーであるSURLYN(登録商標)7940を含む。
【0068】
〔ソフトカバー〕
本発明の第2の実施形態では、小さい揚力係数、小さい抗力係数及び低スピンを有するゴルフボールは、好ましくは、ソフトカバーを有する。この実施形態のカバーは、ショアD硬度が、約60又はそれよりも小さく、好ましくは、約55又はそれよりも小さく、更に好ましくは、約45〜約55である。ソフトカバー層に適当な材料は、限定するわけではないが、バラタ(balata)、非常に小さい弾性係数のアイオノマー、及びそれらの混合物を含む。1つの実施形態では、ソフトカバー層のための材料は、約65,000psi(4.48×108Pa)又はそれよりも小さい弾性率を有する材料を含む。ソフトカバー層と共に使用される他の材料の非限定的な例は、米国特許第5,298,571号、同第5,120,791号、同第5、068,151号、同第5,000,549号、同第3,819,768号、同第4,264,075号、同第4,526,375号、同第4,911,451号、同第5,197,740号、及び同第3,264,272号に記載されている材料を含む。
【0069】
本発明のゴルフボール構成要素に追加される追加構成要素は、限定するわけではないが、UV安定剤、光安定剤、酸化防止剤、色素、蛍光増白剤、白色、色付き及び/又は蛍光性顔料、バイオレット剤(violet agent)、柔軟剤、ワックス、界面活性剤、内部可塑剤及び外部可塑剤を含む可塑剤、衝撃改質剤、強化剤、補強材料、及びチタン粉、タングステン粉及び銅粉等の金属粉を含む。従来技術でよく知られているこれらの材料のすべては、当業者によく知られているように、かかる材料の使用目的のために典型的な量だけ追加される。
【0070】
或る好ましい実施形態を参照して上述した本発明を説明したけれども、本発明の範囲がこれらの実施形態に限定されないことに留意すべきである。当業者は、本発明の精神及び範囲から逸脱することなしに、本明細書に説明した実施形態の多数の変形例を認識するであろう。加えて、1つの実施形態の特徴は、他の実施形態の特徴と組合されてもよい。当業者は、好ましい実施形態の他の変形例を本発明の精神の範囲内に見つけてもよく、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって定められる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】飛行中のゴルフボール上の空気流を示す図である。
【図2】本発明の1つの実施形態のゴルフボールの空力特性を示すグラフである。
【図3】本発明の他の実施形態のゴルフボールの空力特性を示すグラフである。
【図4】飛行中のゴルフボールに作用する力を示す図である。
【図5】本発明の実施形態によるゴルフボールに使用される20面体ディンプルパターンの斜視図である。
【図6】本発明の実施形態によるゴルフボールに使用される20面体ディンプルパターンの斜視図である。
【図7】本発明の実施形態によるゴルフボールに使用される8面体ディンプルパターンの球面三角形領域を示す図である。
【図8】本発明の実施形態によるゴルフボールに使用されるゴルフボールディンプルパターンの極方向から見た図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアとカバーとを有するゴルフボールであって、
約0.46oz/in2又はそれよりも大きい慣性モーメントを有し、
レイノルズ数約145000において、揚力係数が約0.20よりも大きく、抗力係数が約0.22よりも小さい、ゴルフボール。
【請求項2】
コアは、約90又はそれよりも小さいコンプレッションを有する、請求項1に記載のゴルフボール。
【請求項3】
コアは、約70又はそれよりも小さいコンプレッションを有する、請求項2に記載のゴルフボール。
【請求項4】
カバーは、約60又はそれよりも大きいショアD硬度を有する、請求項1に記載のゴルフボール。
【請求項5】
カバーは、約65又はそれよりも大きいショアD硬度を有する、請求項4に記載のゴルフボール。
【請求項6】
カバーは、内カバー層と外カバー層とを有する、請求項1に記載のゴルフボール。
【請求項7】
内カバー層は、第1の硬度を有し、外カバー層は、第1の硬度よりも小さい第2の硬度を有する、請求項6に記載のゴルフボール。
【請求項8】
第1の硬度は、約60又はそれよりも大きいショアD硬度であり、第2の硬度は、約60又はそれよりも小さいショアD硬度である、請求項7に記載のゴルフボール。
【請求項9】
内カバー層は、第1の硬度を有し、外カバー層は、第1の硬度よりも大きい第2の硬度を有する、請求項6に記載のゴルフボール。
【請求項10】
第1の硬度は、約60よりも小さい又はそれよりも大きいショアD硬度であり、第2の硬度は、約60又はそれよりも大きいショアD硬度である、請求項9に記載のゴルフボール。
【請求項11】
コアとカバーとを有するゴルフボールであって、
約0.40oz/in2又はそれよりも小さい慣性モーメントを有し、
レイノルズ数約145000において、揚力係数が約0.20よりも小さく、抗力係数が約0.22よりも小さい、ゴルフボール。
【請求項12】
コアは、約70又はそれよりも大きいコンプレッションを有する、請求項11に記載のゴルフボール。
【請求項13】
コアは、約80又はそれよりも大きいコンプレッションを有する、請求項12に記載のゴルフボール。
【請求項14】
カバーは、約60又はそれよりも小さい硬度を有する、請求項11に記載のゴルフボール。
【請求項15】
カバーは、約55又はそれよりも小さい硬度を有する、請求項14に記載のゴルフボール。
【請求項16】
カバーは、内カバー層と外カバー層とを有する、請求項11に記載のゴルフボール。
【請求項17】
内カバー層は、第1の硬度を有し、外カバー層は、第1の硬度よりも大きい第2の硬度を有する、請求項16に記載のゴルフボール。
【請求項18】
第1の硬度は、約60よりも小さい又はそれよりも大きいショアD硬度であり、第2の硬度は、約60又はそれよりも大きいショアD硬度である、請求項17に記載のゴルフボール。
【請求項19】
内カバー層は、第1の硬度を有し、外カバー層は、第1の硬度よりも小さい第2の硬度を有する、請求項6に記載のゴルフボール。
【請求項20】
第1の硬度は、約60又はそれよりも大きいショアD硬度であり、第2の硬度は、約60よりも小さいショアD硬度である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−190391(P2007−190391A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−8876(P2007−8876)
【出願日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(390023593)アクシュネット カンパニー (155)
【氏名又は名称原語表記】ACUSHNET COMPANY