説明

特定分散剤を含有する外水相を利用する二段階乳化法によるリポソームの製造方法、ならびに当該リポソームの製造方法を用いるリポソーム分散液またはその乾燥粉末の製造方法およびそれにより製造されるリポソーム分散液またはその乾燥粉末

【課題】長期的な保存に対しても、内包薬剤等のリポソームからの漏えいを抑制でき、長期的に安定して利用することができるリポソーム分散液およびその乾燥粉末が得られる添加剤(分散剤)を用いた、二段階乳化法によるリポソームないしリポソーム分散液またはその乾燥粉末の製造方法を提供する。
【解決手段】二次乳化工程において、自己による分子集合体を形成しない分散剤または自己による分子集合体を形成するがその体積平均粒径が10nm以下である分散剤(以下「特定分散剤」という。)を含有する外水相を用いることを特徴とする、二段階乳化法によるリポソームの製造方法ならびにこの製造方法を用いたリポソーム分散液およびその乾燥粉末の製造方法。上記特定分散剤としては、たとえば、ゼラチン、アルブミン、デキストランまたはポリアルキレンオキサイド系化合物の少なくとも1種を含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品、化粧品、食品などの分野で用いられるリポソームないしリポソーム分散液またはその乾燥粉末の二段階乳化法による製造方法、また、二段階乳化法により製造されるリポソーム分散液またはその乾燥粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
リポソームは、単層または複数層の脂質二重膜(脂質二分子膜)からなる閉鎖小胞体であり、内水相および脂質二重膜内部にそれぞれ水溶性の薬剤類および疎水性の薬剤類を保持させることができ、またリポソームの脂質二重膜は生体膜と類似しているため生体内での安全性が高いことなどから、たとえばDDS(ドラック・デリバリー・システム)用の医薬品など、各種の用途が注目され研究開発が進められている。
【0003】
リポソームの製造方法の一つとして二段階乳化法を用いるものが知られているが、たとえば非特許文献1には、W/Oエマルションを分散相、トリス塩酸緩衝液を外水相としてマイクロチャネル乳化法によりW/O/Wエマルションを作製する際に、その外水相にカゼインナトリウムを乳化剤として配合することにより、リポソーム(脂質カプセル)へのカルセインの内包率を80%程度に高めることができたことが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】黒岩崇,中嶋光敏,市川創作「多相エマルションを基材とした脂質カプセル作製における水相組成の影響」化学工学会 第74回年会(2009年3月)要旨集
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1に記載された発明で用いられているカゼインナトリウムは、食品添加物(安定剤、乳化剤)としては一般的であるが、注射剤等の添加物としては使用されておらず、抗原性の問題も懸念される物質である。また、カゼインナトリウムは長期的にリポソームの外水相に存在することで、リポソームの脂質二重膜に対する影響が顕在化し、内包薬剤の漏えいを加速する傾向を示すことがわかった。したがって、そのような物質はリポソームの調製後に極力除去することが望ましい。ところが、カゼインナトリウムは水性溶媒中で体積平均粒径15nm程度の分子集合体(サブミセル)を形成し、さらに分子集合体同士が会合して体積平均粒径100〜200nm程度の粒子を形成する。そのような分子集合体あるいは分子集合体が会合した粒子は注射剤等の医薬用のリポソームの体積平均粒径に近いため、調製されたリポソーム分散液から分離除去することが難しいという問題がある。
【0006】
本発明は、長期的な保存に対しても内包薬剤等のリポソームからの漏えいを抑制でき、長期的に安定して利用することができるリポソーム分散液およびその乾燥粉末が得られる添加剤(分散剤)を用いた、二段階乳化法によるリポソームないしリポソーム分散液およびその乾燥粉末の製造方法およびそれにより製造されたリポソーム分散液およびその乾燥粉末を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、多糖類、ゼラチンなどの特定分散剤を二次乳化工程の外水相に配合した場合、これらの物質はリポソームないしリポソーム水溶液の長期的な安定化に寄与することができる、好適な分散剤となることを見出し、本発明を完成させるに至った。また、リポソーム形成後に、当該特定分散剤を分離除去することにより、さらなるリポソームないしリポソーム分散液の長期的な安定化に寄与することができることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明に係るリポソームの製造方法は、一次乳化物を得る一次乳化工程と、前記一次乳化物と外水相とを乳化する二次乳化工程と、溶媒除去工程とを有する二段階乳化法によるリポソームの製造方法において、前記二次乳化工程における前記外水相は、自己による分子集合体を形成しない分散剤または自己による分子集合体を形成するがその分子集合体の体積平均粒径が10nm以下である分散剤(以下「特定分散剤」という。)を含有することを特徴とする。
【0009】
前記特定分散剤の重量平均分子量は、1,000以上100,000以下であることが好ましい。また、前記特定分散剤は、タンパク質、多糖類、イオン性界面活性剤または非イオン性界面活性剤の少なくとも1種を含有すること、たとえば、ゼラチン、アルブミン、デキストランまたはポリアルキレンオキサイド系化合物の少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0010】
前記リポソームの体積平均粒径は、50nm以上300nm以下であることが好ましい。
【0011】
前記二次乳化工程の乳化方法としては、撹拌乳化法、マイクロチャネル乳化法またはSPG膜を用いた膜乳化を用いることが好ましい。
【0012】
前記リポソームは、単胞リポソームであることが好ましい。さらに、前記リポソームに内包される物質として、医療用の薬剤類を用いることが好ましい。
【0013】
また、このような二段階乳化法によるリポソームの製造方法は、必要に応じてさらに前記二次乳化工程により得られたリポソームと前記特定分散剤とを分離する分離工程と組み合わせて、リポソーム分散液またはその乾燥粉末の製造方法に用いることができる。
【0014】
本発明に係るリポソーム分散液またはその乾燥粉末は、そのような製造方法により製造されたことを特徴とするものであり、ゼラチン、アルブミン、デキストランまたはポリアルキレンオキサイド系化合物の少なくとも1種を含有していてもよい。
【発明の効果】
【0015】
特定分散剤を用いる本発明の製造方法により、長期的な保存に対しても内包薬剤等のリポソームからの漏えいを抑制でき、長期的に安定した医薬品用等として好適なリポソームないしリポソーム分散液またはその乾燥粉末を効率的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
− リポソームの製造に用いる物質 −
・特定分散剤
本発明では、二次乳化工程において「特定分散剤」(自己による分子集合体を形成しない分散剤または自己による分子集合体を形成するがその体積平均粒径が10nm以下である分散剤)を含有する外水相を用いる。
【0017】
本発明において「自己による分子集合体を形成しない分散剤」を含有する外水相とは、濃度をいくら高めても分子集合体(典型的にはミセル)を形成することのない物質が分散剤として外水相に配合されている場合、および一定の濃度以上で分子集合体を形成する物質(典型的には臨界ミセル濃度を有する界面活性剤)がそれに達しない濃度で分散剤として外水相に配合されている場合、これら両方の場合を指す。また、「自己による分子集合体を形成するがその体積平均粒径が10nm以下である分散剤」を含有する外水相とは、分子集合体を形成しうるもののその体積平均粒径が10nm以下である物質が分散剤として外水相に配合された場合を指す。
【0018】
特定分散剤は作用の面から大きく2つのタイプに分類することもできると考えられる。一つは、多糖類のように、一次乳化物(W1/O)と外水相(W2)の界面への配向性が比較的小さいため外水相(W2)全体に分布し、W1/O/W2同士がくっつかないようにすることでリポソームを安定化する作用を有するものである。もう一つは、タンパク質や非イオン性界面活性剤のように、W1/O/W2エマルションの界面への配向性が比較的高く、保護コロイドのようにエマルションを取り囲むことで安定化する作用を有するものである。
【0019】
また、W1/O/W2同士が合一して粒径が大きくなると、液中乾燥法等による溶媒除去が不均一になり内包薬剤が漏れ出しやすくなるなど、リポソームが不安定化してしまうが、特定分散剤はそのようなW1/O/W2同士が合一して粒径が大きくなることを防ぎ、リポソームの不安定化を抑制することができるので、単胞のリポソームの形成効率および薬剤の内包率の向上に寄与する。なお、W1/O/W2エマルションの界面に特定分散剤が配向すれば、溶媒の除去にともないリポソームが形成されてゆく際に個々のリポソームが解けやすくなり、やはり単胞のリポソームの形成効率および薬剤の内包率の向上に寄与する。
【0020】
リポソームの形態についてはいくつかの分類方法が知られているが、以下3つのタイプで論じられるのが主流であるので、本発明でもこれを用いる。「多胞リポソーム(multivesicular liposomes)(MVL)」という用語は、複数の非同心円状の内水相を包囲する脂質膜を含んでなる、人工の微小な脂質小胞体を意味する。これに対して、「多重膜リポソーム(MLV)」は、複数の「タマネギの皮」のような同心円状の膜を有し、その間に殻様の同心円状の水系コンパートメントがある。多胞リポソームおよび多重膜リポソームの特徴は、体積平均粒径がマイクロメーターの範囲であり、通常は0.5〜25μmである。本発明で用いられる「単胞リポソーム(ULV)」という用語は単核リポソームと同義であり、単一の内水相を有するリポソーム構造物をいい、通常は体積平均粒径の範囲が約20〜500nmである。
【0021】
特定分散剤は上記のようにリポソーム形成の際に所定の機能を果たすが、水和能を持つリン脂質を中心として構成される混合脂質成分は自己組織能力を有するため、リポソーム形成後は分散剤がなくても分散状態を維持することができる。
【0022】
本発明における特定分散剤としては、代表的には、タンパク質、多糖類、イオン性界面活性剤および非イオン性界面活性剤が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、特定分散剤としての所定の機能を有するその他の物質を用いてもよい。なお、特定分散剤がこれまでに医薬品等における添加物として認可されている(体内に投与しても人体に重大な影響を及ぼさないことが保証されている)物質であれば、濾過工程によっても一部がリポソーム分散液中に残存したとしても臨床上実質的な問題はない。
【0023】
上記タンパク質としては、ゼラチン(コラーゲンを加熱により変性させた可溶性のタンパク質)、アルブミンやトリプシンなどが挙げられる。ゼラチンは通常、数千〜数百万の分子量分布を有するが、たとえば重量平均分子量が1,000〜100,000であるものが好ましい。医療用ないし食品用として市販されているゼラチンを用いることができる。アルブミンには、卵アルブミン(分子量約45,000)、血清アルブミン(分子量約66,000…ウシ血清アルブミン)、乳アルブミン(分子量約14,000…α−ラクトアルブミン)などが含まれ、たとえば卵アルブミンである乾燥脱糖卵白が好ましい。
【0024】
上記多糖類としては、デキストラン、デンプン、グリコーゲン、アガロース、ペクチン、キトサン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グァーガム、マルトトリオース、アミロース、プルラン、ヘパリン、デキストリンなどが挙げられ、たとえば重量平均分子量が1,000〜100,000のデキストランが好ましい。
【0025】
上記イオン性界面活性剤としては、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0026】
上記非イオン性界面活性剤としては、オクチルグルコシド等のアルキルグリコシド、ポリアルキレンオキサイド系の化合物、たとえば「Tween 80」(東京化成工業株式会社,ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート,分子量1309.68)や「Pluronic F-68」(BASF、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール、数平均分子量9600)の製品や、重量平均分子量が1000〜100000のポリエチレングリコール類などが挙げられる。ポリエチレングリコール(PEG)類は、製品として「ユニルーブ」(日油株式会社)、GL4-400NP、GL4-800NP(日油株式会社)、PEG200,000(和光純薬)、マクロゴール(三洋化成工業株式会社)などが挙げられる。
【0027】
特定分散剤が外水相中で自己による分子集合体を形成しているか否か、または形成されている分子集合体の体積平均粒径が10nm以下であるかどうか(つまり、外水相に添加した物質が特定分散剤としての要件を満たしているか否か)は、たとえば動的光散乱式の粒度分布計や、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた凍結割断法などにより確認することが可能である。
【0028】
特定分散剤の外水相への添加量(特定分散剤の濃度)は、種類に応じて適切な範囲で調整すればよい。ある濃度で自己による分子集合体(体積平均粒径が10nmを超えるもの)を形成する物質を特定分散剤として添加する場合、添加量はその濃度に達しない範囲で調節される。また、特定分散剤の種類によっては、濃度が高すぎると粒度分布系による測定に支障をきたすこともあるので、そのような支障をきたさない低めの範囲で濃度を調整することが好ましい。
【0029】
リポソームと特定分散剤を濾過工程により分離することを考慮すれば、特定分散剤の自己による分子集合体ないしそれらの集合物の体積平均粒径はリポソームの体積平均粒径の1/10以下が好ましく、1/100以下がより好ましい。
【0030】
特定分散剤の分子量は、小さすぎると脂質膜中に混入しやすくなってリポソームの形成を阻害するおそれがあり、逆に大きすぎるとW1/O/W2エマルションの外水相中への分散や界面への配向の速度が遅れてリポソームの合一や多胞リポソームの形成につながるおそれがある。そのため、特定分散剤の重量平均分子量は1,000以上100,000以下の範囲内にあることが好ましい。また、この範囲の重量平均分子量であると、リポソームの薬剤の内包率が良い。
【0031】
・混合脂質成分(F1)・(F2)
一次乳化工程で用いる混合脂質成分(F1)は主としてリポソームの脂質二重膜の内膜を構成する。混合脂質成分(F2)は主として外膜を構成する。混合脂質成分(F1)および(F2)は、同一の組成であっても、異なる組成であってもよい。
【0032】
これらの混合脂質成分の配合組成は特に限定されるものではないが、一般的にはリン脂質(動植物由来のレシチン;ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸またはそれらの脂肪酸エステルであるグリセロリン脂質;スフィンゴリン脂質;これらの誘導体等)と、脂質膜の安定化に寄与するステロール類(コレステロール、フィトステロール、エルゴステロール、これらの誘導体等)とを中心に構成され、さらに糖脂質、グリコール、脂肪族アミン、長鎖脂肪酸(オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸等)、その他各種の機能性を賦与する化合物が配合されていてもよい。本発明では、上記リン脂質としてジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジオレイルホスファチジルコリン(DOPC)等の中性リン脂質が慣用される。また、F2にはPEG化リン脂質などDDSとしての機能性の付与に必要な脂質成分を含むことで、リポソーム表面に効率的な修飾が可能となる。混合脂質成分の配合比も、脂質膜の安定性やリポソームの生体内での挙動などの性状を考慮しながら、用途に応じて適切に調整すればよい。
【0033】
・水性溶媒(W1)・(W2)、有機溶媒(O)
水性溶媒(W1)および(W2)ならびに有機溶媒(O)は公知の一般的なものを用いることができる。一次乳化工程で用いられる水性溶媒(W1)および有機溶媒(O)は、それぞれW1/Oエマルションの水相および油相をなし、二次乳化工程で用いられる水性溶媒(W2)は、W1/O/W2エマルションの外水相をなす。水性溶媒としては、たとえば純水に必要に応じて水と混合する他の溶媒、浸透圧調整のための塩類・糖類、pH調整のための緩衝液などを配合したものが挙げられる。有機溶媒としては、たとえばヘキサン(n−ヘキサン)やクロロホルムなど、水性溶媒と混合しない化合物からなるものが挙げられるが、ヘキサンを主成分(50体積%以上)とする有機溶媒は、得られるナノサイズのW1/Oエマルションの単分散性が良好であるため好ましい。
【0034】
・内包させるべき物質
本発明において、リポソームに内包させるべき物質(薬剤類と総称する)は特に限定されるものではなく、リポソームの用途に応じて医薬品、化粧品、食品などの分野で知られている各種の物質を用いることができる。
【0035】
薬剤類のうち医療用の水溶性のものとしては、たとえば、造影剤(X線造影用の非イオン性ヨード化合物、MRI造影用のガドリニウムとキレート化剤とからなる錯体等)、抗がん剤(アドリアマイシン、ビラルビシン、ビンクリスチン、タキソール、シスプラチン、マイトマイシン、5−フルオロウラシル、イリノテカン、エストラサイト、エピルビシン、カルボプラチン、イントロン、ジェムザール、メソトレキセート、シタラビン、アイソボリン、テガフール、シスプラチン、エトポシド、トポテシン、ビラルビシン、ネダプラチン、シクロホスファミド、メルファラン、イホスファミド、テスパミン、ニムスチン、ラニムスチン、ダカルバチン、エノシタビン、フルダラビン、ペントスタチン、クラドリビン、ダウノマイシン、アクラルビシン、イビルビシン、アムルビシン、アクチノマイシン、タキソテール、トラスツブマブ、リツキシマブ、ゲムツズマブ、レンチナン、シゾフィラン、インターフェロン、インターロイキン、アスパラギナーゼ、ホスフェストロール、ブスルファン、ボルテゾミブ、アリムタ、ベバシズマブ、ネララビン、セツキシマブ等)、抗菌剤(マクロライド系抗生物質、ケトライド系抗生物質、セファロスポリン系抗生物質、オキサセフェム系抗生物質、ペニシリン系抗生物質、ベータラクタマーゼ配合剤、アミノグリコシド系抗生物質、テトラサイクリン系抗生物質、ホスホマイシン系抗生物質、カルバペネム系抗生物質、ペネム系抗生物質)、MRSA・VRE・PRSP感染症治療剤、ポリエン系抗真菌剤、ピリミジン系抗真菌剤、アゾール系抗真菌剤、キャンディン系抗真菌剤、ニューキノロン系合成抗菌剤、抗酸化性剤、抗炎症剤、血行促進剤、美白剤、肌荒れ防止剤、老化防止剤、発毛促進性剤、保湿剤、ホルモン剤、ビタミン類、核酸(DNAもしくはRNAのセンス鎖もしくはアンチセンス鎖、プラスミド、ベクター、mRNA、siRNA等)、タンパク質(酵素、抗体、ペプチド等)、ワクチン製剤(破傷風などのトキソイドを抗原とするもの;ジフテリア、日本脳炎、ポリオ、風疹、おたふくかぜ、肝炎などのウイルスを抗原とするもの;DNAまたはRNAワクチン等)などの薬理的作用を有する物質や、色素・蛍光色素(カルセイン)、キレート化剤、安定化剤、保存剤などの製薬助剤が挙げられる。
【0036】
− リポソームの製造方法 −
本発明の二段階乳化法によるリポソームの製造方法は、下記工程(1)〜(3)を有する。この製造方法は、特定分散剤を含有する外水相中でリポソームを形成するので、自ずとリポソームの分散液の製造方法となる。さらに、必要に応じて分離工程(4)および乾燥粉末化工程等のその他の工程(5)を適宜組み合わせることにより、リポソームの分散液またはその乾燥粉末の製造方法とすることができる。
【0037】
(1)一次乳化工程
一次乳化工程は、有機溶媒(O)、水性溶媒(W1)、および混合脂質成分(F1)を乳化してW1/Oエマルションを調製する工程である。
【0038】
W1/Oエマルションの調製方法は特に限定されるものではなく、超音波乳化機、撹拌乳化機、膜乳化機、高圧ホモジナイザーなどの装置を用いて行うことができる。膜乳化では、あらかじめ大きな粒径のW1/Oエマルションを調製した後に、孔径の小さな膜を通過させることでより小さな粒径のW1/Oエマルションを調製するようなプレミックス膜乳化法を用いてもよい。
【0039】
水性溶媒(W1)のpHは通常3〜10の範囲であり、混合脂質成分に応じて好ましい範囲に調整することができる。たとえば、混合脂質成分にオレイン酸を用いる場合、pHは6〜8.5とすることが好ましい。pHの調整には適切な緩衝液を用いればよい。
【0040】
一次乳化工程における、W1/Oエマルションの体積平均粒子径、有機溶媒(O)に添加する混合脂質成分(F1)の割合、有機溶媒(O)と水性溶媒(W1)の体積比、その他の操作条件は、続く二次乳化工程の条件や最終的に調製するリポソームの態様などを考慮しながら、採用する乳化方法に応じて適宜調整することができる。通常、混合脂質成分(F1)の割合は有機溶媒(O)に対して1〜50質量%であり、有機溶媒(O)と水性溶媒(W1)の体積比は100:1〜1:2である。
【0041】
なお、本発明では、リポソームに水溶性薬剤類を内包させるために、(i)一次乳化工程の水性溶媒(W1)に水溶性薬剤類をあらかじめ溶解または懸濁させておき、二次乳化工程終了時点でそれを内包するリポソームが得られるようにする方法、(ii)水溶性薬剤類を内包しない(空の)リポソームを得た後に、そのリポソームの分散液に水溶性薬剤類を添加し、あるいは一旦凍結乾燥粉末化したものを水性溶媒に再分散させる際に水溶性薬剤類を添加し、撹拌するなどして、リポソームにそれを取り込ませる方法、いずれを用いることもできる。脂溶性薬剤類についても、上記(i)のように一次乳化工程の時点であらかじめ添加しておくか、上記(ii)のように空のリポソームを得た後に添加することにより、リポソームに内包させることができる。
【0042】
(2)二次乳化工程
二次乳化工程は、上記工程(1)により得られたW1/Oエマルションを用いて、W1/O/W2エマルションを調製する工程である。
【0043】
本発明では、この二次乳化工程において、特定分散剤を含有する外水相(W2)を用いる。通常は、外水相をなす水性溶媒と特定分散剤とを混合して外水相(W2)を先に調製しておき、そこにW1/Oエマルションを分散させるようにする。
【0044】
二次乳化工程でW1/O/W2エマルションを調製するための方法は特に限定されるものではなく、膜乳化法(SPG膜を用いた乳化法など)、マイクロチャネル乳化法、撹拌乳化法、液滴法、接触法などが挙げられるが、好ましくは、膜乳化法、マイクロチャネル乳化法及び撹拌乳化法である。マイクロチャネル乳化法およびSPG膜を用いた膜乳化法に関しては他の乳化法と比べて均一粒径のW1/O/W2エマルションを調製できる点に特徴があり、さらに、乳化処理に機械的剪断力を必要としないため、乳化操作時の液滴の崩壊および液滴からの内包物質の漏出を抑えることができる観点から好適である。マイクロチャネル基板のテラス長、チャネル深さおよびチャネル幅やSPG膜の細孔径は、形成しようとするW1/O/W2エマルションのサイズに応じて適宜調整することができるが、たとえばSPG膜の細孔径は通常は0.1〜100μmである。
【0045】
なお、膜乳化法では、あらかじめ大きな粒径のW1/O/W2エマルションを調製した後に、孔径の小さな膜を通過させることでより小さな粒径のW1/O/W2エマルションを調製するようなプレミックス膜乳化法等の膜透過法を用いてもよい。プレミックス膜乳化法は、必要とされるエネルギーが小さく、また処理量が多く、リポソームの調製を迅速化することができるため好適である。
【0046】
また、撹拌乳化については二液以上の流体を混合するために用いられる方法・装置を用いることができる。たとえば攪拌装置にはいろいろな形状の物が存在する。単に棒・板・プロペラ状の攪拌子を槽内で一定速度・一方向に回転させるものが多いが、攪拌子を間欠回転させたり逆回転させる場合もある。特殊な状況では複数の攪拌子を並べ交互に逆回転させたり、槽側に攪拌子と組合された突起あるいは板を取り付けて攪拌子が発生するせん断応力を増強させるなどの様々な工夫がなされる。攪拌子への動力伝達方法も様々であり、回転軸を介して攪拌子を回転させるものが殆どであるが、磁石を封入しテフロン(登録商標)等でコーティングした攪拌子を容器の外部から回転する磁界で動力を伝達するマグネチックスターラーも存在する。
【0047】
さらに、小型観賞用水槽のエアレーション装置や工業用スプレードライ装置等、粘度の低い流体では攪拌子を使わずに、槽の流体や外気を槽外に設置したポンプで加圧して槽内にいきよい良く吹き込むことで槽内を攪拌する装置も存在する。また、ミルと呼ばれる粉砕機としてハンマーミル、ピンミル、オングミル、コボルミル、アスペックミル、ボールミル、ジェットミル、ロールミル、コロイドミル、ディスパーミルなどがあるが、これらは、圧縮力・圧搾力・膨張力・せん断力・衝撃力・キャビテーション力などの機械的な力の作用により流体を混合するものである。さらに、こうした機械的な方法以外にも、電気的な撹拌方法を使用することもできる。
【0048】
上記水性溶媒(W2)、W1/Oエマルション、混合脂質成分(F2)および特定分散剤の混合態様(添加順序等)は特に限定されるものではなく、適切な態様を選択すればよい。たとえば、F2が主として水溶性脂質からなる場合、あらかじめそのようなF2および特定分散剤をW2に添加しておき、それにW1/Oエマルションを添加して乳化処理を行うことができる。一方、F2が主として脂溶性脂質からなる場合、あらかじめW1/Oエマルション調製後に、そのようなF2をW1/Oエマルションの油相に添加しておき、それを特定分散剤が添加されているW2に添加して乳化処理を行うことができる。
【0049】
二次乳化工程における、W1/O/W2エマルションの体積平均粒子径、水性溶媒(W2)ないしW1/Oエマルションの有機溶媒(O)に添加する混合脂質成分(F2)の割合、W1/Oエマルションと水性溶媒(W2)の体積比、特定分散剤の添加量、その他の操作条件は、最終的に調製するリポソームの用途などを考慮しながら適宜調節することができる。
【0050】
(3)溶媒除去工程
溶媒除去工程は、上記二次乳化工程(2)により得られたW1/O/W2エマルションに含まれる有機溶媒相(O)を除去し、リポソームの分散液を形成させる工程である。溶媒除去の方法としては、たとえばエバポレータで蒸発させる方法や液中乾燥法などが挙げられる。
【0051】
液中乾燥法は、W1/O/W2エマルションを回収し、開放容器内に移して静置あるいは撹拌することで、W1/O/W2エマルションに含まれる有機溶媒(O)を蒸発除去する方法であり、このような操作により、混合脂質膜成分(F1)および(F2)からなる脂質膜を内水相の周囲に形成し、リポソームの分散液を得ることができる。この際、さらに加温や減圧によって溶媒の留去を促進することができる。温度条件や減圧条件は、常法に従って、用いる有機溶媒の種類などに応じて適宜調整すればよい。温度条件は、溶媒が突沸することのない範囲に設定され、たとえば0〜60℃の範囲が好ましく、0〜25℃がより好ましい。また、減圧条件は溶媒の飽和蒸気圧〜大気圧の範囲内に設定されることが好ましく、溶媒の飽和蒸気圧の+1%〜10%の範囲内に設定されることがより好ましい。異なる溶媒を混合して用いる場合、より飽和蒸気圧の高い溶媒種に合わせた条件が好ましい。これらの除去条件は、溶媒が突沸しない範囲で組み合わせてもよく、例えば、熱に弱い薬剤を使用する際は、より低温側でかつ減圧条件で溶媒を留去することが好ましい。また、溶媒除去の際にW1/O/W2エマルションを攪拌すれば、より均一に溶媒除去が進む。上記工程(2)において撹拌乳化法によりW1/O/W2エマルションを調製した後、撹拌をさらに継続して溶媒を除去するといったように、工程(2)および(3)を連続的に行うこともできる。
【0052】
なお、本発明の製造方法により得られるリポソームには、W1/O/W2エマルション由来の多胞リポソームがある程度の割合含まれることがあるが、これを減じるために、撹拌または減圧、好ましくはそれらを組み合わせて行うことが効果的である。重要なのは、溶媒の大半が抜ける時間より長く減圧と撹拌を行なうことにある。このことによりリポソームを構成する脂質の水和が進み、多胞リポソームが解けて、単胞のリポソーム状態にばらばらになると考えている。さらに驚くべきことに、これらの操作をおこなっても内包物の漏出は起こらない。このような操作をしても残った多胞リポソームがある場合には、粒径の違いを利用してフィルターにより多胞リポソームを除去することもできる。
【0053】
以上のような製造方法(必要により後述する整粒工程を用いてもよい)により最終的に得られるリポソームの体積平均粒径は特に限定されるものではないが、医療用のリポソーム製剤として用いる場合は、好ましくは50nm以上1,000nm以下であり、より好ましくは50nm以上300nm以下である。このようなサイズのリポソームは、毛細血管を閉塞するおそれがほとんどなく、またがん組織近辺の血管にできる間隙を通過することもできるため、医薬品等として人体に投与されて使用する上で好都合である。
【0054】
(4)分離工程
分離工程は、特定分散剤とリポソームとを分離し、リポソーム分散液中から特定分散剤を除去するための工程である。たとえば、精密濾過膜(MF膜,孔径50nm〜10μm程度)または限外濾過膜(UF膜,孔径2〜200nm程度)の特定孔径のものを用いれば、リポソームと自己による分子集合体(たとえば体積平均粒径10nm以下)を形成した特定分散剤とを効率よく分離することができる。なお、製品の用途に鑑みて、特定分散剤とリポソームとを分離しなくとも問題がない場合には、この分離工程は設けなくともよい。分離工程を設けることで、内包薬剤等のリポソームからの漏えいをさらに抑制でき、長期的に安定したリポソームが形成できる。
【0055】
(5)その他の工程
必要に応じて行われるその他の工程としては、たとえば整粒工程や乾燥粉末化工程が挙げられる。
【0056】
整粒工程により、調製されたリポソームの粒径を所望の範囲に調整することができる。たとえば、孔径0.1〜0.4μmのポリカーボネート膜またはセルロース膜をフィルターとして装着した静圧式押出し装置(日油リポソーム社製「エクストルーダー」、野村マイクロサイエンス社製「リポナイザー」など)を用いることにより、中心粒径が50〜500nm程度のリポソームが効率よく得られる。上記「エクストルーダー」等を用いれば、W1/O/W2エマルションから副次的に形成された多胞リポソームをばらして単胞リポソームにすることができる。
【0057】
また、リポソームの分散液を凍結乾燥などにより乾燥粉末化し、使用するまでの間の保管に適した形態にすることも望ましい。凍結乾燥は従来のリポソームを製造する場合と同様の手段や装置を用いて行うことができる。たとえば、間接加熱凍結方法、冷媒直膨方法、熱媒循環方法、三重熱交換方法、重複冷凍方法などに従い、適切な条件下(温度:−120〜−20℃、圧力:1〜15Pa、時間:16〜26時間など)で凍結乾燥を行えばよい。このようにして得られた凍結乾燥物を水中に投入すれば、再びリポソームの分散液を調製することができる。
【実施例】
【0058】
(体積平均粒径の測定方法)
以下に述べる実施例および比較例におけるリポソームの体積平均粒径は、下記の方法に従って測定した。
【0059】
W1/Oエマルションをクロロホルム/ヘキサン混合溶媒(体積比:4/6、内水相と比重を同じくした)で10倍に希釈し、動的光散乱式ナノトラック粒度分析計(UPA−EX150、日機装株式会社)を用いて粒度分布を測定し、これに基づき体積平均粒径を算出した。
【0060】
また、分子集合体を形成する特定分散剤の体積平均粒径は、同装置を用いて、下記実施例で作製したリポソーム分散液(以下、懸濁液とも言う)をそのまま測定した。すなわち、作製したリポソーム粒子の懸濁液をリン酸緩衝食塩水(PBS)で25倍に希釈し、動的光散乱式ナノトラック粒度分析計(UPA−EX150、日機装株式会社)を用いて粒度分布を測定しこれに基づき体積平均粒径を算出した。
【0061】
実施例1
(一次乳化工程によるW1/Oエマルションの製造)
ホスファチジルコリン含量が95%である卵黄レシチン「COATSOME NC-50」(日油株式会社)0.3g、コレステロール(Chol)0.152gおよびオレイン酸(OA)0.108gを含むヘキサン15mLを有機溶媒相(O)とし、カルセイン(0.4mM)を含むトリス−塩酸緩衝液(pH8、50mmol/L)5mLを内水相用の水分散相(W1)とした。50mLのビーカーにこれらの混合液を入れ、直径20mmのプローブをセットした超音波分散装置(UH−600S、株式会社エスエムテー)により、25℃にて15分間超音波を照射し(出力5.5)、乳化処理を行った。上記方法に従って測定したところ、この一次乳化工程で得られたW1/Oエマルションは体積平均粒径約220nmの単分散W/Oエマルションであることが確認された。
【0062】
(二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造)
続いて、上記一次乳化工程により得られたW1/Oエマルションを分散相とし、実験用デッドエンド型マイクロチャネル乳化装置モジュールを使用して、マイクロチャネル乳化法によるW1/O/W2エマルションの製造を行った。
【0063】
上記モジュールのマイクロチャネル基板はシリコン製であり、マイクロチャネル基板のテラス長、チャネル深さおよびチャネル幅はそれぞれ約60μm、約11μmおよび約16μmであった。上記マイクロチャネル基板にガラス板を圧着させてチャネルを形成し、このチャネルの出口側に外水相溶液(W2)である3%のアルカリ処理ゼラチン(等電点約5)を含むトリス−塩酸緩衝液(pH8、50mmol/L)を満たしておき、チャネルの入口側から前記W1/Oエマルションを供給して、W1/O/W2エマルションを製造した。
【0064】
(有機溶媒相の除去によるリポソームの製造)
次に、上記W1/O/W2エマルションを蓋のない開放ガラス製容器に移し替え、室温下で約20時間、撹拌子により撹拌し、ヘキサンを揮発させた。微細なリポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはカルセインが含まれていることが確認された。
【0065】
実施例2
実施例1において、二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造で、外水相の分散剤をアルカリ処理ゼラチンから「Tween 80」(東京化成工業株式会社,ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート,分子量1309.68)に変更し、その濃度を1%とすることを除いては、実施例1と同様にして、製造を実施した。微細なリポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはカルセインが含まれていることが確認された。
【0066】
実施例3
実施例1において、二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造で、外水相の分散剤をアルカリ処理ゼラチンからアルブミン(キューピー株式会社,別名:乾燥脱糖卵白)に変更することを除いては、実施例1と同様にして、製造を実施した。微細なリポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはカルセインが含まれていることが確認された。
【0067】
実施例4
実施例1において、二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造で、外水相の分散剤をアルカリ処理ゼラチンからカルボキシデキストランに変更することを除いては、実施例1と同様にして、製造を実施した。微細なリポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはカルセインが含まれていることが確認された。
【0068】
実施例5
実施例1において、二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造で、外水相の分散剤をアルカリ処理ゼラチンから精製ゼラチン(株式会社ニッピ,ニッピ ハイグレードゼラチンタイプAP)に変更することを除いては、実施例1と同様にして、製造を実施した。微細なリポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはカルセインが含まれていることが確認された。
【0069】
実施例6
実施例5において、二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造をマイクロチャネル乳化法からSPG膜を用いた膜乳化に変更した以外は、実施例5と同様にして、製造を実施した。微細なリポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはカルセインが含まれていることが確認された。すなわち、一次乳化工程により得られたW1/Oエマルションを分散相とし、SPG膜乳化法によるW1/O/W2エマルションの製造を行った。SPG膜乳化装置(SPGテクノ社製、商品名「外圧式マイクロキット」)に直径10mm、長さ20mm、細孔径2.0μmの円筒形SPG膜を用い、装置出口側に外水相溶液(W2)である精製ゼラチン(株式会社ニッピ,ニッピ ハイグレードゼラチンタイプAP)を含むトリス−塩酸緩衝液(pH8、50mmol/L)を満たしておき、装置入口側から上記W1/Oエマルションを供給して、W1/O/W2エマルションを製造した。膜乳化に必要とした圧力は約25kPaであった。
【0070】
実施例7
実施例5において、二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造をマイクロチャネル乳化法から撹拌乳化法に変更した以外は、実施例5と同様にして、製造を実施した。微細なリポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはカルセインが含まれていることが確認された。すなわち、撹拌乳化は、スターラーによりW2を強く撹拌しているところに、上記W1/Oエマルションを供給し、W1/O/W2エマルションを製造した。
【0071】
実施例8
実施例1において、二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造で、外水相の分散剤をアルカリ処理ゼラチンからコール酸ナトリウム(分子量430)に変更し、その濃度を0.1%とすることを除いては、実施例1と同様にして、製造を実施した。微細なリポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはカルセインが含まれていることが確認された。
【0072】
実施例9
実施例6において、二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造で外水相の分散剤を精製ゼラチンからコール酸ナトリウム(分子量430)に変更し、その濃度を0.1%とすることを除いては、実施例6と同様にして、製造を実施した。微細なリポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはカルセインが含まれていることが確認された。
【0073】
実施例10
実施例7において、二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造で外水相の分散剤を精製ゼラチンからコール酸ナトリウム(分子量430)に変更し、その濃度を0.1%とすることを除いては、実施例7と同様にして、製造を実施した。微細なリポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはカルセインが含まれていることが確認された。
【0074】
実施例11
実施例1において、二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造で、外水相の分散剤をアルカリ処理ゼラチンからオクチルグルコシド(分子量292)に変更し、その濃度を1%とすることを除いては、実施例1と同様にして、製造を実施した。微細なリポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはカルセインが含まれていることが確認された。
【0075】
実施例12
実施例6において、内包する薬剤をカルセインからシタラビンに変更した以外は、実施例6と同様にして、製造を実施した。微細なリポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはシタラビンが含まれていることが確認された。
【0076】
実施例13
実施例7において、内包する薬剤をカルセインからシタラビンに変更した以外は、実施例6と同様にして、製造を実施した。微細なリポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはシタラビンが含まれていることが確認された。
【0077】
実施例14〜23
実施例1において、二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造で、外水相の分散剤をアルカリ処理ゼラチンから各々表1に記載の特定分散剤に変更することを除いては、実施例1と同様にして、実施例14〜23の製造を実施した。微細なリポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはカルセインが含まれていることが確認された。
【0078】
実施例24
実施例23において、二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造をマイクロチャネル乳化法からSPG膜を用いた膜乳化に変更した以外は、実施例23と同様にして、製造を実施した。微細なリポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはカルセインが含まれていることが確認された。
【0079】
実施例25
実施例23において、二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造をマイクロチャネル乳化法から撹拌乳化法に変更した以外は、実施例23と同様にして、製造を実施した。微細なリポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはカルセインが含まれていることが確認された。
【0080】
実施例26〜30
実施例1において、二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造で、外水相の分散剤をアルカリ処理ゼラチンから各々表1に記載の特定分散剤に変更することを除いては、実施例1と同様にして、実施例26〜30の製造を実施した。微細なリポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはカルセインが含まれていることが確認された。
【0081】
実施例31
実施例30において、二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造をマイクロチャネル乳化法からSPG膜を用いた膜乳化に変更した以外は、実施例30と同様にして、製造を実施した。微細なリポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはカルセインが含まれていることが確認された。
【0082】
実施例32
実施例2において、二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造をマイクロチャネル乳化法からSPG膜を用いた膜乳化に変更した以外は、実施例2と同様にして、製造を実施した。微細なリポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはカルセインが含まれていることが確認された。
【0083】
実施例33〜35
実施例32において、二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造で、外水相の分散剤をTween 80から各々表1に記載の特定分散剤に変更することを除いては、実施例1と同様にして、実施例33〜35の製造を実施した。微細なリポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはカルセインが含まれていることが確認された。
【0084】
実施例36
実施例1において、内包する薬剤をカルセインからシタラビンに変更した以外は、実施例1と同様にして、製造を実施した。微細なリポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはシタラビンが含まれていることが確認された。
【0085】
実施例37
実施例2において、内包する薬剤をカルセインからシタラビンに変更した以外は、実施例2と同様にして、製造を実施した。微細なリポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはシタラビンが含まれていることが確認された。
【0086】
実施例38
実施例3において、内包する薬剤をカルセインからシタラビンに変更した以外は、実施例3と同様にして、製造を実施した。微細なリポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはシタラビンが含まれていることが確認された。
【0087】
実施例39
実施例4において、内包する薬剤をカルセインからシタラビンに変更した以外は、実施例4と同様にして、製造を実施した。微細なリポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはシタラビンが含まれていることが確認された。
【0088】
実施例40
実施例5において、内包する薬剤をカルセインからシタラビンに変更した以外は、実施例5と同様にして、製造を実施した。微細なリポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはシタラビンが含まれていることが確認された。
【0089】
比較例1
(一次乳化工程によるW1/Oエマルションの製造)
ホスファチジルコリン含量が95%である卵黄レシチン「COATSOME NC-50」(日油株式会社)0.3g、コレステロール(Chol)0.152gおよびオレイン酸(OA)0.108gを含むヘキサン15mLを有機溶媒相(O)とし、カルセイン(0.4mM)を含むトリス−塩酸緩衝液(pH8、50mmol/L)5mLを内水相用の水分散相(W1)とした。50mLのビーカーにこれらの混合液を入れ、直径20mmのプローブをセットした超音波分散装置(UH−600S、株式会社エスエムテー)により、25℃にて15分間超音波を照射し(出力5.5)、乳化処理を行った。上記方法に従って測定したところ、この一次乳化工程で得られたW1/Oエマルションは体積平均粒径約220nmの単分散W/Oエマルションであることが確認された。
【0090】
(二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造)
続いて、上記一次乳化工程により得られたW1/Oエマルションを分散相とし、実験用デッドエンド型マイクロチャネル乳化装置モジュールを使用して、マイクロチャネル乳化法によるW1/O/W2エマルションの製造を行った。
【0091】
上記モジュールのマイクロチャネル基板はシリコン製であり、マイクロチャネル基板のテラス長、チャネル深さおよびチャネル幅はそれぞれ約60μm、約11μmおよび約16μmであった。上記マイクロチャネル基板にガラス板を圧着させてチャネルを形成し、このチャネルの出口側に外水相溶液(W2)である3%のカゼインナトリウムを含むトリス−塩酸緩衝液(pH8、50mmol/L)を満たしておき、チャネルの入口側から前記W1/Oエマルションを供給して、W1/O/W2エマルションを製造した。
【0092】
(有機溶媒相の除去によるリポソームの製造)
次に、上記W1/O/W2エマルションを蓋のない開放ガラス製容器に移し替え、室温下で約20時間静置し、ヘキサンを揮発させた。微細なリポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはカルセインが含まれていることが確認された。
【0093】
比較例2
二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造において、外水相溶液(W2)である3%のカゼインナトリウムを含むトリス−塩酸緩衝液(pH8、50mmol/L)をトリス−塩酸緩衝液(pH8、50mmol/L)にすることを除いては、比較例1と同様にして、製造を実施した。しかし、W1/O/W2エマルションが一旦は形成するものの、すぐに合一してしまい、安定なW1/O/W2エマルションは得られなかった。そのため、次の工程に実験を進めることができなかった。
【0094】
比較例3
二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造において、外水相溶液(W2)である3%のカゼインナトリウムを含むトリス−塩酸緩衝液(pH8、50mmol/L)を3%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを含むトリス−塩酸緩衝液(pH8、50mmol/L)にすることを除いては、比較例1と同様にして、製造を実施し、懸濁した液を得た。
【0095】
比較例4
比較例1において、二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造をマイクロチャネル乳化法からSPG膜を用いた膜乳化に変更した以外は、比較例1と同様にして、製造を実施した。微細リポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはカルセインが含まれていることが確認された。
【0096】
比較例5
比較例4において、内包する薬剤をカルセインからシタラビンに変更した以外は、比較例4と同様にして、製造を実施した。微細なリポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはシタラビンが含まれていることが確認された。
【0097】
比較例6
比較例1において、二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造をマイクロチャネル乳化法から撹拌乳化法に変更した以外は、比較例1と同様にして、製造を実施した。微細リポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはカルセインが含まれていることが確認された。
【0098】
(リポソームの安定性の評価)
上記実施例1〜40、比較例1〜6について、リポソーム形成時、及び1ヶ月後の内包率を求め、1ヵ月後のリポソームの安定性を評価した。結果を表1に示す。
【0099】
なお、1ヵ月後のリポソームの安定性の評価に関しては、下記式を用いて評価した;
内包の低下率(%)=100−(1ヵ月後内包率/リポソーム形成時内包率)×100
◎:内包の低下率が0%以上5%未満
○:内包の低下率が5%以上15%未満
△:内包の低下率が15%以上35%未満
×:内包の低下率が35%以上100%以下
【0100】
(リポソームの内包率(%))
上記実施例1〜40および比較例1〜6で得られたリポソームの形成時、及び1ヶ月後の内包率は、下記の方法に従って測定した。結果は表1に示した。
【0101】
(内包物がカルセインの場合の内包率の測定方法)
リポソーム粒子の懸濁液(3mL)全体の蛍光強度(Ftotal)を分光光度計(U−3310、日本分光株式会社)により測定した。次に0.01M,CoCl2トリス塩酸緩衝液30μLを加えて外水相に漏出した内包薬剤カルセインの蛍光をCo2+により消光することで、リポソーム内の蛍光強度(Fin)を測定した。さらに、カルセインを加えないでサンプルと同じ条件でリポソームを作製し、脂質自身が発する蛍光(Fl)を測定した。内包率は下記式より算出した;
内包率E(%) = (Fin−Fl)/(Ftotal−Fl)×100
【0102】
(内包物がシタラビンの場合の内包率の測定方法)
リポソーム粒子の懸濁液を超遠心条件のもと超遠心装置を用い成分分離し、固形分(リポソーム)と上澄溶液とに含まれるシタラビンの量をそれぞれHPLC(カラム:VarianPolaris C18-A(3μm,2×40mm))で定量した。固形分(リポソーム)の定量値、すなわちリポソームに内包されているシタラビンの量と、上澄溶液の定量値、すなわちリポソームに内包されていないシタラビンの量との合計値で、前者のリポソームに内包されているシタラビンの量を除した値に100を乗じて、シタラビンの内包率(%)を算出した。
【0103】
(1ヶ月後のリポソーム)
1ヵ月間、リポソーム粒子の懸濁液を恒温器中(20℃)にて、静置し保存した。
【0104】
【表1−1】

【0105】
【表1−2】

【0106】
表1より、本発明の特定分散剤を用いて製造されたリポソームは、1ヵ月後でも内包薬剤の内包率の低下がほとんどなく、長期間安定であることがわかる。一方、本発明の特定分散剤以外で製造されたリポソームは、内包率の低下が著しく、リポソームの安定性に欠けることがわかる。なお、上記表1に記載されたリポソームは全て単胞のリポソームであった。
【0107】
実施例41〜49
上記実施例1,2,3,4,6,11,19,23、及び30で製造したリポソーム粒子の懸濁液から、後述の精密/限外ろ過工程を行い、実施例41〜49のリポソーム懸濁液を製造した。
【0108】
比較例7及び8
上記比較例1及び3で製造したリポソーム粒子の懸濁液から、後述の精密/限外ろ過工程を行い、比較例7及び8のリポソーム懸濁液を製造した。
【0109】
(精密/限外ろ過工程)
精密/限外ろ過による分離は、加圧ろ過装置(デッドエンド型)に適宜設定した孔径のフィルターを装着し、リポソーム粒子の懸濁液を、トリス−塩酸緩衝液(pH=8、50mmol/L)で10倍に希釈した液を処理した。このろ液に含まれる分散剤の量を分析することで分離可能かを調べた。8割以上分離できたものを「分離できた」、1割以下しか分離できなかったものを「ほとんど分離できなかった」とした。また、その間のものはなかった。
【0110】
(リポソームの安定性の評価)
上述したリポソームの安定性の評価と同様にして、実施例41〜49及び比較例7、8で得られたリポソームの安定性を評価した。結果は表2に示した。
【0111】
【表2】

【0112】
表2より、本発明の特定分散剤を用いて製造したリポソーム粒子の懸濁液から、当該特定分散剤を分離したリポソーム懸濁液は、1ヵ月の内包率の低下が、当該特定分散剤を分離しなかったリポソーム懸濁液のそれと比較して、抑制されており、その低下率は5%未満であることがわかる。本発明の特定分散剤を用いていない比較例は、分離除去できなかったために、分離工程を設けても、1ヶ月後の内包率に変化はなかった。分離除去できなかった理由としては、自己による分子集合体の存在であると推測される。実際に、分散剤であるカゼイン及びSDSのみの溶液の体積平均粒径を測定したところ、それぞれカゼインは15nmに、SDSは80nmにメインの粒度分布が観察された。さらに、より高濃度のカゼインのみの溶液の体積平均粒径を測定したところ、15nmのほかに分子集合体同士の会合体と思われる粒度分布が150nmに観察され、これにより高濃度のカゼインをリポソーム製造に用いた場合、リポソームとの分離はさらに困難になるであろうことが容易に推測された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次乳化物を得る一次乳化工程と、前記一次乳化物と外水相とを乳化する二次乳化工程と、溶媒除去工程とを有する二段階乳化法によるリポソームの製造方法において、前記二次乳化工程における前記外水相は、自己による分子集合体を形成しない分散剤または自己による分子集合体を形成するがその分子集合体の体積平均粒径が10nm以下である分散剤(以下「特定分散剤」という。)を含有することを特徴とする二段階乳化法によるリポソームの製造方法。
【請求項2】
前記特定分散剤の重量平均分子量は1,000以上100,000以下であることを特徴とする請求項1に記載の二段階乳化法によるリポソームの製造方法。
【請求項3】
前記特定分散剤は、タンパク質、多糖類、イオン性界面活性剤または非イオン性界面活性剤の少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の二段階乳化法によるリポソームの製造方法。
【請求項4】
前記特定分散剤は、ゼラチン、アルブミン、デキストランまたはポリアルキレンオキサイド系化合物の少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の二段階乳化法によるリポソームの製造方法。
【請求項5】
前記リポソームの体積平均粒径は50nm以上300nm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の二段階乳化法によるリポソームの製造方法。
【請求項6】
前記二次乳化工程の乳化方法として撹拌乳化法を用いることを特徴とする請求項1〜5にいずれかに記載の二次乳化法によるリポソームの製造方法。
【請求項7】
前記二次乳化工程の乳化方法としてマイクロチャネル乳化法を用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の二段階乳化法によるリポソームの製造方法。
【請求項8】
前記二次乳化工程の乳化方法としてSPG膜を用いた膜乳化を用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の二段階乳化法によるリポソームの製造方法。
【請求項9】
前記リポソームに内包されるべき物質として、医療用の薬剤類を用いることを特徴とする請求項1〜8に記載の二段階乳化法によるリポソームの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の二段階乳化法によるリポソームの製造方法を含むことを特徴とするリポソーム分散液またはその乾燥粉末の製造方法。
【請求項11】
前記二次乳化工程により得られたリポソームと前記特定分散剤とを分離する分離工程をさらに有することを特徴とする請求項10に記載のリポソーム分散液またはその乾燥粉末の製造方法。
【請求項12】
請求項10または11に記載のリポソーム分散液またはその乾燥粉末の製造方法により製造されたことを特徴とするリポソーム分散液またはその乾燥粉末。
【請求項13】
ゼラチン、アルブミン、デキストランまたはポリアルキレンオキサイド系化合物の少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項12に記載のリポソーム分散液またはその乾燥粉末。

【公開番号】特開2012−55885(P2012−55885A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204585(P2011−204585)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【分割の表示】特願2011−520844(P2011−520844)の分割
【原出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】