説明

甘酒の製造方法

【課題】還元糖の濃度を減少させることなく、製造工程中の加熱殺菌による変色、変質の少ない高品質で風味の優れたレトルト殺菌甘酒及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】甘酒液にグルコン酸又はその塩を添加し、甘酒液のpHを3.8〜4.5に調整する工程及びpH調整された甘酒液を105〜108℃、15〜30分の条件下で加熱する工程を含む、甘酒の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、甘酒の製造方法に関する。詳しくは、良好な白度を有するレトルト甘酒及びその製造方法、さらには良好な白度を有する甘酒の殺菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
甘酒は、本来米麹で米を糖化させたものであり、日本古来より製造、飲用されてきた代表的な伝統的甘味飲料の1つである。現在は(1)米麹、(2)米麹と米との混合物、(3)米麹と酒粕との混合物、(4)酒粕、(5)米麹と米と酒粕との混合物等をもって、甘酒と称することも多い。
一般に、甘酒の製造工程は、例えば米麹及び飯米を混合して50〜60℃程度に保温し、1晩程度かけ醗酵させて得たデンプンの糖化液を煮沸し、酵素を不活性化させた後、所望によりその液に砂糖及び生姜抽出物等のような添加物を配合して調味する等の複雑な多段階の工程から成る。あるいは、より簡便な製造方法として、湯によく砕いた酒粕を溶いて煮込み、甘味に砂糖等を加える方法、又は米麹と酒粕を用いる方法が普及しているが、これらの場合も、一度に大量の甘酒ができてしまう等の理由により、少量の甘酒を手軽に作ることができないというのが現状である。
【0003】
最近、かかる煩雑さを解消するため、いつでもどこでも簡便に飲むことができるレトルト甘酒の製品が市販されている。
【0004】
典型的なレトルト甘酒の製造工程は、長期保存するという特性上、製品を完全殺菌する工程が必須である。一般的に当該工程においては、通常のレトルト製品の殺菌条件、例えば120℃、30分間で加熱する。しかし、室温で長期保存しうるだけの十分な高温殺菌を通常の甘酒に行うと、メイラード反応により変色が起こる。メイラード反応とは、還元糖とアミノ化合物を加熱したときなどに見られる、褐色物質(メラノイジン)を生み出す反応のことである。甘酒はアミノ化合物(主に酒粕や米麹)とカルボニル化合物(主に砂糖由来)を多く含む為、メイラード反応により褐変物質が生成されやすい。メイラード反応は常温でも進行するが、温度の上昇とともに加速され、加熱により短時間で進行する。甘酒は色が白いために変色が目立ち、少しの変色でも商品価値を失ってしまうおそれがある。
【0005】
甘酒の変色防止方法としては、例えば、特許文献1、2及び3が提案されている。
特許文献1には、米麹及び非還元性の甘味成分を含み、エチルアルコール含量が1%以下、還元性糖類の含量が10%以下であり、pHが3.5〜5.0である密封容器入り甘酒飲料が開示されている。特許文献1によれば、pHを低くするとともに還元性糖の含量を減らすことにより甘酒の変色防止をある程度改善できるとするが、風味及び甘味の良い還元性糖の含量減少を伴うことなく、さらに効果的な褐変防止が望まれる。
特許文献2には、甘酒の糖化工程中でアスコルビン酸及び/又はエリソルビン酸を0.01〜0.1重量%添加して混合するレトルト甘酒の製造方法が開示されている。特許文献2では、この製造方法により、褐変防止効果のあるレトルト甘酒を提供するとしているが、十分な褐変防止効果があるとはいえなかった。
特許文献3には、フィチン酸及び/又はその塩を、甘酒の総質量に対してフィチン酸として0.005〜0.2質量%含有することを特徴とする殺菌甘酒が開示されている。特許文献3の甘酒は、加熱殺菌や長時間加温によっても褐変、変質が少ないとされるが、更なる褐変防止が望まれる。
【0006】
【特許文献1】特開平6−343435号公報
【特許文献2】特開平8−322527号公報
【特許文献3】特開2006−191887号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、還元糖の濃度を減少させることなく、製造工程中の加熱殺菌による変色、変質の少ない高品質で風味の優れたレトルト殺菌甘酒及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、甘酒に特定のpH調整剤を添加して特定pHに調整し、さらに殺菌温度及び時間の処理条件を特定することにより、前記目的を達成し得る甘酒、特にレトルト甘酒が得られることを見出し、本発明を完成した。即ち、本発明は、以下に示す通りである。
【0009】
[1]甘酒液をグルコン酸又はその塩にて、pHを3.8〜4.5に調整する工程及びpH調整された甘酒液を105〜108℃、15〜30分の条件下で加熱する工程を含む、甘酒の製造方法。
[2]加熱する工程が105.5〜106.5℃、15〜30分の条件下で行われる、上記[1]記載の方法。
[3]グルコン酸又はその塩の添加量が、グルコン酸換算で甘酒液100重量部に対して0.04〜0.25重量部である、上記[1]又は[2]記載の方法。
[4]グルコン酸又はその塩をグルコン酸換算で0.04〜0.25重量%配合してなる甘酒。
[5]グルコン酸又はその塩をグルコン酸換算で0.04〜0.25重量%含有する甘酒液を105〜108℃、15〜30分の条件下で加熱することを特徴とする甘酒の殺菌方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、製造工程中の加熱殺菌による変色、変質の少ない高品質で風味の優れたレトルト殺菌甘酒の製造方法を提供することができる。
本発明の甘酒によれば、加熱殺菌によっても変色変質を殆ど起こさず、高品質で甘酒本来のコクや風味が優れた甘酒を提供することができる。
本発明の殺菌方法によれば、変色、変質を殆ど起こさず、甘酒液の風味を損なわない殺菌方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において甘酒とは、(1)米麹、(2)米麹と米飯との混合物、(3)米麹と酒粕との混合物、(4)酒粕、(5)米麹と米と酒粕との混合物、特に、米麹と酒粕との混合物、米麹と米飯との混合物などを主原料とし、必要に応じて甘味料等や更に適当量の水を添加混合し、必要に応じて、例えば40〜70℃で0.5〜15時間保持して、少なくとも糖化反応を行わせることにより調製した飲料をいう。水の添加量、加熱の温度・時間、米麹と酒粕などの混合比率は、所望の糖化速度、甘さなどを考慮して、適宜決定することができる。
甘酒液の主原料は、米麹、米麹と米飯との混合物、米麹と酒粕との混合物、酒粕及び米麹と米飯と酒粕との混合物からなる群より選ばれたものであればよい。
甘酒液には、主原料の他、必要に応じて甘味料、酸味料、食塩、生姜などが好ましく用いられる。
甘味料としては、例えば砂糖、ブドウ糖、果糖、異性化糖、水あめ、ハチミツ、ステビア、スクラロースが挙げられる。
酸味料としては、グルコン酸を使用することが必須であるが、従来から使用されてきた、クエン酸、乳酸、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、リン酸、酢などの食用に用いられる酸の他、レモン汁や梅エキスなどの酸性の食品を併用してもよい。
【0012】
メイラード反応はpHが高いほど進行し、pHが低くなると反応が起こりにくくなることが知られている。特に中性〜塩基性の条件下では、褐色色素の生成が促進される。従って、通常の甘酒のpHが5.7前後と高いことが変色を起こし易い要因であると考えられる。
また、殺菌条件はpHによる影響を大きく受ける。pHが低いものは殺菌温度の低下が可能であるが、pHが上昇するに従って加温条件が厳しくなることが知られている。よってpH調整は、殺菌条件の緩和を可能にする上でも、甘酒の変色防止において重要な因子である。
そのため、pH調整剤によるpHの低下が行われている。pH調整剤としては、酸味料として前記したものが挙げられる。しかし、食品衛生法で規定する条件となるように従来から使用されている典型的なpH調整剤を添加すると、酸味が強くなり甘酒本来のコクや風味が減殺されるおそれがある。
【0013】
本発明の甘酒の製造方法では、pH調整剤として、甘酒の製造には従来は用いられないグルコン酸又はその塩を添加することを特徴とする。グルコン酸は、腐食性及び刺激性の少ない有機酸であり、不揮発酸でまるみのある柔らかな酸味を有する。ビフィズス菌を増やすことが知られている唯一の有機酸でもある。グルコン酸の酸味が穏やかなことを利用し、pH調整をグルコン酸又はその塩により行うことにより、甘酒本来の風味を損なうことなく、変色、変質効果を発揮し得る。
グルコン酸塩としては、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、グルコン酸カルシウム等のアルカリ金属塩、グルコン酸第一鉄などが挙げられる。
pH調整剤の過剰な添加は風味に影響を与えるため、本発明の甘酒液のpHはグルコン酸又はその塩により3.8〜4.5、好ましくは3.9〜4.4、より好ましくは4.0〜4.3に調整する。
【0014】
甘酒液のpHを3.8〜4.5に調整するためには、グルコン酸又はその塩を他の酸味料と併用しないことが好ましく、その場合の使用量は、グルコン酸換算で甘酒液100重量部に対して0.04〜0.25重量部、好ましくは0.06〜0.2重量部、より好ましくは0.08〜0.15重量部である。もっとも、グルコン酸又はその塩以外の従来使用されてきた酸味料を併用してもよい。
【0015】
次に、pH調整された甘酒を、レトルトパウチなどのレトルト容器に充填する前又は後に加熱殺菌する。加熱殺菌法には特に制限はなく、例えば、熱水・蒸気加熱、UHT滅菌(直接加熱式又は間接加熱方式)、HTST殺菌の他、遠赤外線加熱、マイクロ波加熱などが挙げられる。
【0016】
本発明では、上記のようにpHを3.8〜4.5に調整することにより、加熱条件の緩和が可能となる。本発明の加熱工程における加熱温度は、105〜108℃であり、好ましくは105.5〜106.5℃、より好ましくは106℃である。本発明の加熱工程における加熱時間は、15〜30分、好ましくは17.5〜25分、より好ましくは20分である。
加熱殺菌後は、品質低下を少しでも避けるため、速やかに冷却することが好ましい。
【0017】
本発明の甘酒は、グルコン酸又はその塩をグルコン酸換算で0.04〜0.25重量%、好ましくは0.06〜0.2重量%、より好ましくは0.08〜0.15重量%配合してなる。本発明の甘酒は、加熱殺菌によっても変色、変質を殆ど起こさず、高品質で甘酒本来のコクや風味が優れている。
【0018】
本発明の殺菌方法では、グルコン酸又はその塩をグルコン酸換算で0.04〜0.25重量%、好ましくは0.06〜0.2重量%、より好ましくは0.08〜0.15重量%含有する甘酒液を加熱殺菌する。本発明の殺菌方法における加熱温度は、105〜108℃であり、好ましくは105.5〜106.5℃、より好ましくは106℃である。本発明の殺菌方法における加熱時間は、15〜30分、好ましくは17.5〜25分、より好ましくは20分である。
該条件での殺菌方法では、変色、変質を殆ど起こさず、甘酒液の風味を損なわない。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例により更に詳しく説明するが、本発明はこの例によってなんら限定されるものではない。
【0020】
実施例1
(1)甘酒の調製
酒粕、米麹、ジンジャーペースト、上白糖、ぶどう糖果糖液糖、食塩に水を添加混合して、酒粕10.0重量%(辰馬本家酒造(株))、米麹1.0重量%(辰馬本家酒造(株))、ジンジャーペースト0.3重量%、上白糖10重量%、ぶどう糖果糖液糖2.0重量%、食塩0.1重量%を含む甘酒液を調製した。この甘酒液に50重量%グルコン酸液0.2重量%(グルコン酸換算で0.1重量%)を添加して、pHを4.5に調整した。得られた甘酒液を90℃で煮上げしレトルトパウチに充填して密封した後、106℃で20分間加熱殺菌してレトルト甘酒を得た。
【0021】
(2)甘酒の白度の測定
上記(1)で得られた甘酒を、ミノルタ製の色度色差計(CR-200)を用いて測定したL(明度)、a(赤色度)及びb(黄色度)値、ハンター白度により評価した。測定は2回行った。普遍的にL値が小さいほど黒色度及び褐色度が大きく、a及びb値が増加するほど赤色及び黄色の強度が大きくなる。得られた結果を表1に示す。
【0022】
比較例1
市販の他社レトルト甘酒飲料を用いて、実施例1と同様の方法により白度の評価を行った。該甘酒飲料は、砂糖、米麹、水あめ、酒粕、食塩、酸味料を含む缶入りのストレートタイプであり、グルコン酸を含有しないことが確認された。得られた結果を表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
表1から、実施例1(本発明品)で得られた甘酒は、比較例1(市販の他社製品)に比べて、変色が極めて低く、白度が高いことが分かる。
【0025】
実施例1及び比較例1等について、試験例1〜4の官能試験を実施した。官能試験のパネラーとして5名(A〜E)を対象に行った。評価は5点尺度法による。
◎:非常に良い ○:良い ●:普通 △:やや悪い ×:非常に悪い
【0026】
試験例1
(pH調整の有無)
【0027】
【表2】

【0028】
表2より、実施例1においてpH調整を行わなかった場合、十分な保存性を確保するためには殺菌条件を厳しくする必要があり、そのため、風味、色が悪くなることが分かる。
【0029】
試験例2
(pH調整剤による違い)
【0030】
【表3】

【0031】
表3より、グルコン酸以外の有機酸によりpH調整を行った場合、実施例1(本発明品)と同様のpH4.5になるまで該有機酸を加えると、独特の酸味が強くなり、風味が劣ることが分かる。
【0032】
試験例3
(実施例1の保存性)
実施例1(本発明品)について、常温で4ヶ月保管に相当する条件(35℃、2ヶ月保管)で加速試験を行った。
【0033】
【表4】

【0034】
表4より、長期保存後の色及び風味に顕著な変化は認められず、本発明品が保存性に優れていることが分かる。
【0035】
試験例4
(実施例1と比較例1との保存性の比較)
【0036】
【表5】

【0037】
表5より、長期保存後の実施例1(本発明品)は、比較例1(市販の他社製品)(常温で2ヶ月程度保管と推測)との比較において、風味、色ともに、優れていることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
甘酒液をグルコン酸又はその塩にて、pHを3.8〜4.5に調整する工程及びpH調整された甘酒液を105〜108℃、15〜30分の条件下で加熱する工程を含む、甘酒の製造方法。
【請求項2】
加熱する工程が105.5〜106.5℃、15〜30分の条件下で行われる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
グルコン酸又はその塩の添加量が、グルコン酸換算で甘酒液100重量部に対して0.04〜0.25重量部である、請求項1又は請求項2記載の方法。
【請求項4】
グルコン酸又はその塩をグルコン酸換算で0.04〜0.25重量%配合してなる甘酒。
【請求項5】
グルコン酸又はその塩をグルコン酸換算で0.04〜0.25重量%含有する甘酒液を105〜108℃、15〜30分の条件下で加熱することを特徴とする甘酒の殺菌方法。

【公開番号】特開2008−283886(P2008−283886A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−130488(P2007−130488)
【出願日】平成19年5月16日(2007.5.16)
【出願人】(594027616)辰馬本家酒造株式会社 (7)
【出願人】(301056074)泉万醸造株式会社 (1)
【Fターム(参考)】