生体インプラント及びその製造方法
【課題】基材の表面に強固に固定化された生体活性物質を有して生体骨との結合能を発揮する、荷重が掛かる部位にも適用可能な生体インプラント、及び、簡易な方法で基材の表面に生体活性物質を強固に固定化できる生体インプラントの製造方法を提供すること。
【解決手段】熱可塑性樹脂からなる基材の表面に生体活性物質が固定化された生体インプラントの製造方法であって前記生体活性物質が表面に配置された基材を前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度−30℃以上融点未満の加熱温度に加熱する工程を有することを特徴とする生体インプラントの製造方法、並びに、この生体インプラントの製造方法によって製造され、生体活性物質が200Wの超音波を10分照射したときに少なくとも1つの観測領域(100μm2)に10個以上の粒子が残存するように前記基材の表面にのみ分散又は散在した状態に固定化されていることを特徴とする生体インプラント。
【解決手段】熱可塑性樹脂からなる基材の表面に生体活性物質が固定化された生体インプラントの製造方法であって前記生体活性物質が表面に配置された基材を前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度−30℃以上融点未満の加熱温度に加熱する工程を有することを特徴とする生体インプラントの製造方法、並びに、この生体インプラントの製造方法によって製造され、生体活性物質が200Wの超音波を10分照射したときに少なくとも1つの観測領域(100μm2)に10個以上の粒子が残存するように前記基材の表面にのみ分散又は散在した状態に固定化されていることを特徴とする生体インプラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、生体インプラント及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、基材の表面に強固に固定化された生体活性物質を有して生体骨との結合能を発揮する、荷重が掛かる部位にも適用可能な生体インプラント、並びに、簡易な方法で基材の表面に生体活性物質を強固に固定化できる生体インプラントの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
骨が欠損した欠損部に人工骨を移植する治療方法が、欠損部に患者の正常な骨を移植する自家骨を移植する治療方法よりも、患者の身体的な負担が小さく、自家骨を準備する際の問題点等が存在しない点で、近年注目されている。
【0003】
移植する人工骨の材料として水酸アパタイト等のバイオセラミックスが特によく知られており、このようなバイオセラミックスは骨と化学的に結合するといった点で優秀な人工骨材料となっている。しかし、荷重の掛かる部位への適用を考えたとき、バイオセラミックスの持つ強度では衝撃に弱く、そのような部位への適用は困難であると考えられる。
【0004】
したがって、荷重の掛かる部位に移植する人工骨の材料として、バイオセラミックスに代えて非常に高強度な特性を有するチタン合金やコバルトクロム合金等の金属材料が主に用いられている。しかし、この金属材料は、金属アレルギー等を引き起こす可能性があることに加えて、生体骨と比較して非常に大きな弾性率を有する等の特性を有しているから、金属材料で形成された人工骨を欠損部に移植したときに生体骨と金属材料との力学特性の違いによって、この人工骨に応力遮蔽が起こって周囲の骨が吸収され、脆くなってしまう可能性がある。
【0005】
そこで、このような問題点を解消し得る、生体骨とよく似た力学特性を有する材料として、近年、エンジニアリングプラスチック等の樹脂が注目を集めている。例えば、高密度ポリエチレン樹脂は非常に低弾性でしなるので荷重の掛かる部位への適用に適している。ところが、このような樹脂は生体骨と直接結合することがなく、樹脂で形成された人工骨に生体活性能を付与する必要がある。生体骨に類似の力学特性を有する樹脂に生体活性能を付与させる方法として、例えば、このような樹脂を成形した樹脂成形体の表面を生体活性物質である水酸アパタイト等でコーティングする方法、樹脂と生体活性物質を複合化して生体活性能を付与する方法等が提案されている。
【0006】
例えば、樹脂成形体の表面に生体活性物質の被膜を形成する方法等が特許文献1に提案されている。この特許文献1には「プラスチック基材に無機化合物被膜を形成した硬組織補填材料及び硬組織補填材料製造方法」が記載されている。具体的には「弾性を有するプラスチック材料よりなる基材の表面に、生体と調和性を有する無機化合物を、バインダーを介在させることなく直接固着せしめたことを特徴とする硬組織補填材料」(請求項1)、特に「無機化合物の固着層の厚さが20〜1000μmである硬組織補填材料」(請求項4)、及び、「例えば、プラズマ溶射法、真空蒸着(PVD)法、化学蒸着法(CVD)法、スパッタリング法等」で無機化合物被膜を基材表面に固着させる方法」(第3頁右下欄第8行〜第14号、請求項5等)等が記載されている。
【0007】
また、樹脂と生体活性物質を複合化して生体活性能を付与する方法等が特許文献2に提案されている。具体的には、特許文献2には「生体適合性ポリマー及び約500nm以下の平均粒子寸法を有する、生物活性微粒子セラミックの均質な混合体を備える整形外科用組成物」等が記載されている。
【0008】
特許文献3には「アパタイト薄膜を基材表面に強固に固定化させてなるアパタイト複合体」(0008欄)の製造方法が記載されている。具体的には、特許文献3には「少なくともその表面が親水性を有する基材表面にリン酸カルシウムからなるアパタイト核形成剤が固定化されてなる基材とリン酸カルシウム過飽和溶液を接触させることを特徴とするアパタイト複合体の製造方法」が記載されている(請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平4−146762号公報
【特許文献2】特表2004−521685号公報
【特許文献3】特開2005−112716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、特許文献1に記載されている、プラズマ溶射法やスパッタリングを用いて基材の表面に無機化合物被膜を形成する方法では、無機化合物被膜が厚くなりすぎて被膜の亀裂発生、被膜の剥離等の懸念があるうえ、高価な装置も必要となって製造コストが高くなってしまう。
【0011】
また、特許文献2に記載されている熱可塑性樹脂と生体活性物質の複合化による生体活性能付与方法では、生体活性物質を基材に複合化するため、力学特性が生体骨と類似であるという熱可塑性樹脂自体の特長が損なわれ、熱可塑性樹脂を用いる利点を没却してしまう可能性が考えられる。
【0012】
さらに、特許文献3に記載されている製造方法においては、工程の複雑さ、基材の親水化等の前処理が必要になるという問題点がある。
【0013】
この発明の課題は、基材の表面に強固に固定化された生体活性物質を有して生体骨との結合能を発揮する、荷重が掛かる部位にも適用可能な生体インプラントを提供すること、及び、簡易な方法で基材の表面に生体活性物質を強固に固定化できる生体インプラントの製造方法を提供することに、ある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明は、熱可塑性樹脂からなる基材の表面に生体活性物質が固定化された生体インプラントを製造する生体インプラントの製造方法であって、前記生体活性物質が表面に配置された基材を前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度−30℃以上融点未満の加熱温度に加熱する工程を有することを特徴とする。
【0015】
また、この発明は、熱可塑性樹脂からなる基材とその表面に配置された生体活性物質とを有する生体インプラントであって、この発明に係る生体インプラントの製造方法によって製造され、前記生体活性物質は、前記生体インプラントに200Wの超音波を10分照射したときに、100μm2の観測領域において超音波を照射する前に前記基材の表面に配置されていた前記生体活性物質による表面被覆率(面積%)に対して20%以上の表面被覆率(面積%)で残存するように、前記基材の表面にのみ分散又は散在した状態に固定化されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
この発明に係る生体インプラントの製造方法は、生体活性物質が配置された基材を熱可塑性樹脂のガラス転移温度−30℃以上融点未満の加熱温度に加熱する工程を有しているから、高価又は特殊な装置を必要とせずに簡易な方法であるにもかかわらず、基材の表面に分散又は散在した状態で、すなわち被膜を形成しないため被膜剥離が生じるはずのない状態で、生体活性物質を強固に固定化させることができる。
【0017】
また、この発明に係る生体インプラントは、この発明に係る生体インプラントの製造方法で製造され、かつ、生体活性物質が前記生体インプラントに200Wの超音波を10分照射したときに100μm2の観測領域において超音波を照射する前に前記基材の表面に配置されていた前記生体活性物質による表面被覆率(面積%)に対して20%以上の表面被覆率(面積%)で残存するように前記基材の表面にのみ分散又は散在した状態に固定化されているから、基材の持つ力学特性を損なうことなく発揮して荷重が掛かる部位にも適用可能であると共に、生体活性物質が基材から高度に脱落しにくく生体骨(この発明において生体骨には生体歯を含む。)との高い結合能を発揮する。この発明に係る生体インプラントを荷重が掛かる部位に適用可能である理由は、この発明に係る生体インプラントの基材は生体骨と類似の力学特性を持つ材料で形成されているから、荷重が掛かる部位に適用したときに金属とは異なって応力遮蔽を起こさず、骨減少及び骨密度低下等の周囲の生体骨への悪影響を与えることがほとんどないことにある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、実施例1における純水洗浄後の中実基体の表面を観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】図2は、実施例1で製造した生体インプラントの表面を観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】図3は、実施例1で製造した生体インプラントに超音波を照射した後の表面を観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】図4は、実施例2で製造した生体インプラントの表面を観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】図5は、実施例2で製造した生体インプラントに超音波を照射した後の表面を観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図6】図6は、実施例5で製造した生体インプラントの表面を観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図7】図7は、実施例5で製造した生体インプラントに超音波を照射した後の表面を観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図8】図8は、実施例6で製造した生体インプラントの表面を観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図9】図9は、実施例6で製造した生体インプラントに超音波を照射した後の表面を観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図10】図10は、実施例7で製造した生体インプラントの表面を観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図11】図11は、実施例7で製造した生体インプラントに超音波を照射した後の表面を観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図12】図12は、実施例8で製造した生体インプラントの表面を観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図13】図13は、実施例8で製造した生体インプラントに超音波を照射した後の表面を観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図14】図14は、実施例9で製造した生体インプラントの表面を観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図15】図15は、実施例9で製造した生体インプラントに超音波を照射した後の表面を観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図16】図16は、実施例10で製造した生体インプラントに超音波を照射した後の表面を観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図17】図17は、比較例1で製造した生体インプラントの表面を観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図18】図18は、比較例1で製造した生体インプラントに超音波を照射した後の表面を観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図19】図19は、比較例2で製造した生体インプラントの表面を観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図20】図20は、比較例2で製造した生体インプラントに超音波を照射した後の表面を観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図21】図21は、実施例1の生体インプラントの新鮮断面を観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図22】図22は、実施例7〜9に用いた表面発泡基材の表面を低倍(×300)にて観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図23】図23は、実施例7〜9に用いた表面発泡基材の表面を高倍(×10000)にて観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明に係る生体インプラントは熱可塑性樹脂からなる基材とその表面に配置された生体活性物質とを有している。基材は熱可塑性樹脂でほぼ中実に形成された中実基材(実質部と称することがある。)であってもよく、またこの中実基材の外面に配置又は積層された多孔質構造の表面層を有する複層基材であってもよい。多孔質構造の表面層を有する複層基材としては、例えば、表面に開口する気孔径が10μm以下の気孔を有する多孔質構造の表面層を有する複層基材(この発明において「ミクロ多孔基材」と称することがある。)、気孔径が10μm以下の小径気孔と気孔径が10〜200μmの大径気孔との大きさの異なる気孔を有する多孔質構造の表面発泡層を有する複層基材(この発明において「表面発泡基材」と称することがある。)等が挙げられる。例えば、この発明に係る生体インプラントに大きな強度が要求される場合には中実基材が採用され、一方、迅速な生体適合性及び高い生体結合力が要求される場合にはミクロ多孔基材又は表面発泡基材等の複層基材が採用される。
【0020】
この発明において、基材の「表面」は基材の外形を形つける輪郭面であり、具体的には、基材が中実基材である場合にはその外表面であり、基材が複層基材である場合には表面層の表面及び表面層における多孔質構造の孔内表面である。なお、この発明において、基材の力学特性を維持できる点で、生体活性物質は基材の表面にのみ配置されているのが好ましい。ここで、「基材の表面にのみ配置されている」とは生体活性物質が内部にまったく存在しない場合に加えて不可避的に存在する場合をも包含する。
【0021】
この発明に係る生体インプラントは、基材の表面に生体活性物質が分散又は散在した状態に固定化されている。このように、この発明に係る生体インプラントにおいて、生体活性物質は基材内部まで侵入することなく基材の表面に載置された状態で分散又は散在するように固定化されている。
【0022】
この発明に係る生体インプラントにおいて、基材の表面に固定化されている生体活性物質特にその粒子の固定化力は強固であるのが好ましく、この発明においては超音波を10分照射しても基材の表面から脱落せずに固定化されている生体活性物質による基材の表面を被覆する面積率(この発明において表面被覆率と称することがある。)で評価する。生体活性物質の固定化評価は、水中で200Wの超音波を10分照射する前後のこの発明に係る生体インプラントの表面を観測したときに100μm2の観測領域に残存する生体活性物質の粒子による表面被覆率(面積%)で評価する。具体的には、まず、この発明に係る生体インプラントの表面を走査型電子顕微鏡等で例えば倍率10000倍で100μm2の領域を複数例えば3点観測して撮影した顕微鏡写真を例えば二値化処理して基材の表面に配置されている生体活性物質の合計面積を算出し、この合計面積を観測領域の表面積100μm2で除して照射前の表面被覆率(面積%)を算出する。この照射前の表面被覆率(面積%)は複数測定箇所の算術平均値を用いることができる。次いで、この生体インプラントを25℃の純水(生体インプラントの体積150mm3当り100mLとする。)中に無攪拌状態に浸漬させて、純水を介して周波数38kHzで出力200Wの超音波を10分照射し、その後、生体インプラントを純水から取り出して80℃で加熱乾燥する。次いで、この生体インプラントの表面を走査型電子顕微鏡等で同様にして100μm2の領域を同数例えば3点観測して撮影した顕微鏡写真を例えば二値化して基材の表面に残存している生体活性物質の合計面積、次いで照射後の表面被覆率(面積%)を算出する。この照射後の表面被覆率(面積%)は複数測定箇所の算術平均値を用いることができる。このようにして算出された照射後の表面被覆率(面積%)が照射前の表面被覆率(面積%)に対して20%以上であるか否かで、生体活性物質の固定化力を評価する。なお、この評価方法において、超音波の照射前後における観測領域は同じ領域でも異なる領域でもよく、任意に選択される。
【0023】
このように、この発明に係る生体インプラントは、基材の表面に配置された生体活性物質による基材の表面被覆率について200Wの超音波を10分照射したときに照射前の表面被覆率に対して照射後の表面被覆率が20%以上となるように残存する固定力で、基材の表面に生体活性物質が分散又は散在した状態に固定化されている。このように生体活性物質が固定化されていると、生体活性物質は基材の内部に実質的に存在せず基材と複合体を形成せず、かつ基材を被覆してもいないから、熱可塑性樹脂すなわち基材の力学特性を損なうことなく、この発明に係る生体インプラントも熱可塑性樹脂と同様の力学特性を発揮する。したがって、この発明に係る生体インプラントは金属と異なって応力遮蔽を起こさず骨減少及び骨密度低下等の周囲の生体骨への悪影響を与えることがほとんどなく、荷重が掛かからない部位はもちろん荷重が掛かる部位にも適用できる。また、生体活性物質が前記のように固定化されていると、生体活性物質は基材を被覆することはないから亀裂又は剥離等の被膜に特有の問題が存在せず、基材から高度に脱落しにくく生体骨との高い結合能を発揮する。
【0024】
生体活性物質がより一層基体から脱落せずに生体骨とのより一層高く迅速な結合能を発揮する点で、この発明に係る生体インプラントの生体活性物質は、生体活性物質による照射後の表面被覆率(面積%)が照射前の表面被覆率(面積%)に対して25%以上であるのが好ましく、30%以上であるのが特に好ましい。照射後の表面被覆率(面積%)の上限値は、理想的には100%すなわち照射前の表面被覆率(面積%)と一致するのがよいが、現実的には50%程度である。この発明において、複数の観測領域のうち少なくとも1箇所において照射後の表面被覆率(面積%)が照射前の表面被覆率(面積%)の20%以上であればよいが、生体活性物質が生体骨により一層強固かつ迅速に結合する点で、2以上の観測領域において照射後の表面被覆率(面積%)が20%以上であるのが好ましく、また複数の観測領域の平均値において照射後の表面被覆率(面積%)が20%以上であるのが好ましい。
【0025】
この発明に係る生体インプラントの一例である生体インプラントを以下に説明する。この生体インプラントは、中実基材と生体活性物質とを有し、中実基材の表面に生体活性物質が固定化されている。
【0026】
中実基材は、熱可塑性樹脂でほぼ中実に形成されており、その形状及び寸法等は適用する部位に応じて適宜に選択される。中実基材を形成する熱可塑性樹脂は生体骨に類似又は近似する力学特性を有しているのが、適用可能な欠損部として荷重が掛かからない部位はもちろん荷重が掛かる部位にも適用できる点で、好ましい。したがって、中実基材も熱可塑性樹脂と同様に生体骨に類似又は近似する力学特性を有している。生体骨に類似又は近似する力学特性としては、例えば、10〜50GPaの弾性率、100MPa以上の曲げ強度等が挙げられ、熱可塑性樹脂はこれら特性の少なくとも一方を有していればよい。
【0027】
このような熱可塑性樹脂としては、例えば、繊維が混合されていない熱可塑性樹脂(繊維無含有熱可塑性樹脂とも称する。)、繊維が混合された繊維強化熱可塑性樹脂等が挙げられる。繊維無含有熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリフェニリンオキサイド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリスルホン、シンジオタクチックポリスチレン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリイミド、フッ素樹脂、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリメチルペンテン、ジアリルフタレート樹脂、ポリオキシメチレン、ポリ四フッ化エチレン等のエンジニアリングプラスチックが挙げられる。
【0028】
繊維強化熱可塑性樹脂のマトリックスとなる熱可塑性樹脂としては、前記エンジニアリングプラスチックに加えて、例えば、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、EVA樹脂、EEA樹脂、4−メチルペンテン−1樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、ACS樹脂、メタクリル酸メチル樹脂、エチレン塩化ビニル共重合体、プロピレン塩化ビニル共重合体、塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリアビニルアセトアセタール、ポリフッ化エチレンプロピレン、ポリ三フッ化塩化エチレン、メタクリル樹脂、ノリル樹脂、ポリアリルエーテルケトン、ポリケトンスルフィド、ポリスチレン、イソフタル酸系樹脂、ポリウレタン、アルキルベンゼン樹脂、ポリジフェニルエーテル等が挙げられる。
【0029】
繊維強化熱可塑性樹脂に含有される繊維としては、例えば、カーボンナノチューブを含む炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、金属繊維又は有機繊維が挙げられる。前記ガラス繊維としては、例えば、ホウケイ酸ガラス(Eガラス)の繊維状物、高強度ガラス(Sガラス)の繊維状物、高弾性ガラス(YM−31Aガラス)の繊維状物等が挙げられ、前記セラミック繊維としては、例えば、炭化ケイ素の繊維状物、窒化ケイ素の繊維状物、アルミナの繊維状物、チタン酸カリウムの繊維状物、炭化ホウ素の繊維状物、酸化マグネシウムの繊維状物、酸化亜鉛の繊維状物、ホウ酸アルミニウムの繊維状物、ホウ素の繊維状物等が挙げられ、前記金属繊維としては、例えば、タングステンの繊維状物、モリブデンの繊維状物、ステンレスの繊維状物、スチールの繊維状物、タンタルの繊維状物等が挙げられ、前記有機繊維としては、例えば、ポリビニルアルコールの繊維状物、ポリアミドの繊維状物、ポリエチレンテレフタレートの繊維状物、ポリエステルの繊維状物、アラミドの繊維状物等が挙げられる。繊維は1種単独で又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0030】
熱可塑性樹脂は、これらの中でも、力学特性が生体骨と近く、生体適合性の高いポリエーテルエーテルケトン(PEEK)が特に好ましい。
【0031】
中実基材は、熱可塑性樹脂に加えて、必要に応じて、帯電防止剤、酸化防止剤、ヒンダードアミン系化合物等の光安定剤、滑剤、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、無機充填剤、顔料等の着色料等の各種添加剤を含有していてもよい。
【0032】
生体活性物質は、中実基材の表面に固定されている。この生体活性物質は、生体との親和性が高く、生体骨を含む骨組織又は生体歯を含む歯組織(以下、骨組織という。)と化学的に反応する性質を有する物質であれば特に限定されず、例えば、リン酸カルシウム化合物、生体活性ガラス、炭酸カルシウム等が挙げられる。リン酸カルシウム化合物としては、例えば、リン酸水素カルシウム、リン酸水素カルシウム水和物、リン酸二水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム水和物、α型リン酸三カルシウム、β型リン酸三カルシウム、ドロマイト、リン酸四カルシウム、リン酸八カルシウム、水酸アパタイト、フッ素アパタイト、炭酸アパタイト及び塩素アパタイト等が挙げられる。生体活性ガラスは、バイオガラス、結晶化ガラス(ガラスセラミックスとも称する。)等を含み、バイオガラスとしては、例えば、SiO2−CaO−Na2O−P2O5系ガラス、SiO2−CaO−Na2O−P2O5−K2O−MgO系ガラス、及び、SiO2−CaO−Al2O3−P2O5系ガラス等が挙げられ、結晶化ガラスとしては、例えば、SiO2−CaO−MgO−P2O5系ガラス(アパタイトウォラストナイト結晶化ガラスとも称する。)、及び、CaO−Al2O3−P2O5系ガラス等が挙げられる。これらのリン酸カルシウム化合物、バイオガラス及び結晶化ガラスは、例えば、「化学便覧 応用化学編 第6版」(日本化学会、平成15年1月30日発行、丸善株式会社)、「バイオセラミックスの開発と臨床」(青木秀希ら編著、1987年4月10日、クインテッセンス出版株式会社)等に詳述されている。
【0033】
生体活性物質は、これらの中でも生体活性に優れる点で、リン酸カルシウム化合物及び生体活性ガラスの少なくとも1種であるのが好ましく、さらに、生体骨と組成や構造、性質が似ており体内環境における安定性が優れ体内で顕著な溶解性を示さない点で、水酸アパタイト又はリン酸三カルシウムが特に好ましい。
【0034】
この生体活性物質は、高結晶性又は低結晶性であっても非結晶性であってもよく、また複数の結晶性を有していてもよい。中実基材の表面に固定化される生体活性物質の結晶性によって生体活性物質の溶解性すなわち生体結合性を調整できる。例えば、生体活性物質の結晶性を高結晶性とすると、生体活性物質の溶解速度が小さく中実基材に長期間固定化され、生体骨が形成されにくい部分に適用されても生体骨を形成できる。一方、生体活性物質の結晶性を非結晶質とすると、生体活性物質の溶解速度が大きく生体インプラントと生体骨とが速やかに結合する。したがって、この発明においては生体骨の形成速度等に応じて生体活性物質の結晶性を適宜に選択できる。
【0035】
ここで、低結晶性とは結晶の発達程度が低い状態を意味し、水酸アパタイトを例にすると粉末X線回折測定において2θ=25.878°、面間隔(d値)=3.44Åの回折線における半価幅が0.2°以上のものをいい、高結晶性とは結晶の発達程度が高い状態を意味し、水酸アパタイトを例にすると前記半価幅が0.2°未満のものをいう。生体骨の水酸アパタイトは低結晶性(上記条件下における半価幅:0.4°程度)であることから、同様の結晶性(同条件下における半価幅:0.2〜1.0°)又は非結晶性にすることによって生体インプラントと生体骨とが速やかに結合する。また、非結晶性とは粉末X線回折測定において2θ=30°付近にブロードなピークが観察され、500℃以上の温度で焼成することで水酸アパタイトとなるという特性を有するものをいう。
【0036】
生体活性物質の結晶性は、後述する「生体活性物質を配置する工程」によって適宜に調整することができ、例えば、生体活性物質の懸濁液に基材を浸漬させる工程を採用する場合には懸濁させる生体活性物質の結晶性に依存し、一方、基材をカルシウムイオンを含有する溶液及びリン酸イオンを含有する溶液に交互に浸漬する工程を採用する場合にはこれらの溶液の組成成分の種類、組成比率及び/又は浸漬温度により調整することができる。
【0037】
高結晶性又は低結晶性の生体活性物質の形状は、中実基材の表面に分散又は散在可能な粒状、顆粒状、粉末状であればよく、また凝集物であってもよく、例えば、球状、楕円球状、針状、柱状、棒状、板状、多角形状等が挙げられる。そして、中実基材に固定化された生体活性物質の粒子径は、後述する観測領域(100μm2)よりも小さければ特に限定されないが、中実基材の表面により強固に固定化される点で、例えば、0.001〜10μmであるのが好ましく、0.01〜5μmであるのが特に好ましい。なお、本明細書中に記載している「粒子」及び「粒子径」とは、特に付記がない場合はそれぞれ「一次粒子」及び「一次粒子径」のことであり、中実基材に固定されている生体活性物質が凝集物である場合は、その凝集物を構成している最小単位である一次粒子及びその径のことである。粒子径は、インターセプト法により算出することができる。具体的には、走査型電子顕微鏡にて写真撮影を行い、少なくとも15以上の粒子に交わる直線を引き、この直線と粒子とが交わっている部分の長さの平均値から算出することができる。球状粒子以外の形状である場合にはその面積換算直径を算出する。
【0038】
この生体インプラントは、生体活性物質の粒子が中実基材の表面に分散又は散在した状態に固定化されている。生体活性物質の粒子が固定化される表面は前記した通り中実基材の外表面である。そして、生体活性物質の粒子は中実基材の表面に分散又は散在した状態に固定化されている。したがって、生体活性物質の粒子は、中実基材の輪郭を形作る表面上にそれぞれ散り散りに積載又は載置された状態に付着されているから、散在した粒子の大部分が中実基材に埋設されることなく露出している。このように大部分が露出した生体活性物質の粒子が分散又は散在した状態に固定化されていると、生体インプラントと生体骨とが迅速かつ均一に結合される。なお、生体活性物質の粒子は分散又は散在した状態にあるが、複数粒子の凝集物の存在を完全に除外するものではなく、生体活性物質の粒子のほんどが分散又は散在していればよく、その一部が凝集していてもよい。
【0039】
生体インプラントにおいて、生体活性物質の粒子は分散又は散在した状態に固定化されており被膜を形成していないから、この粒子が中実基材の表面を覆う被覆率等は100%未満であればよく、前記固定化評価を満たす限り特に限定されない。また、生体活性物質の粒子の中実基材に対する体積割合も前記固定化評価を満たす限り特に限定されない。
【0040】
中実基材の表面に固定化されている生体活性物質の粒子の固定化力は前記固定化評価を満たしており、具体的には、生体インプラントにおいて、200Wの超音波を10分照射したときに、100μm2の観測領域において超音波を照射する前に中実基材の表面に配置されていた前記生体活性物質による表面被覆率(面積%)に対して20%以上の表面被覆率(面積%)で残存するように、中実基材の表面にのみ分散又は散在した状態に生体活性物質の粒子が固定化されている。
【0041】
生体活性物質の固定化力は、例えば、生体活性物質と中実基材との接触状態によって調整することができ、その一例として、例えば後述するように、生体活性物質を配置した熱可塑性樹脂の加熱温度、加熱時間等によって調整することができる。
【0042】
この生体インプラントは、中実基材の表面に前記固定化評価を満たすように生体活性物質が固定化される製造方法で製造されればよく、その製造方法として、例えば、後述するこの発明に係る生体インプラントの製造方法等が挙げられる。したがって、この生体インプラントは、この発明に係る生体インプラントの製造方法で製造され、生体活性物質が前記固定化評価を満たすように中実基材の表面に分散又は散在した状態に強固に固定化されている。この製造方法は、基材を熱可塑性樹脂のガラス転移温度−30℃以上、融点未満の加熱温度に加熱する工程を有する。
【0043】
この発明に係る生体インプラントの別の一例である生体インプラントを以下に説明する。この生体インプラントは、ミクロ多孔基材と生体活性物質とを有し、ミクロ多孔基材の表面層の表面に生体活性物質が固定化されている。生体活性物質は生体インプラントの生体活性物質と基本的に同様である。
【0044】
ミクロ多孔基材は、中実の実質部と、実質部の表面に配置又は積層され、表面に開口する気孔径が10μm以下の気孔を有する多孔質構造の表面層(この発明において「ミクロ表面層」と称することがある。)とを有している。すなわち、このミクロ多孔基材は実質部全体がミクロ表面層で被覆されている。実質部はその表面に生体活性物質が実質的に固定化されていない点以外は生体インプラントの中実基材と基本的に同様である。なお、このミクロ多孔基材は、実質部の表面全体にミクロ表面層が配置されていてもよく、生体骨との結合が必要な表面のみに、すなわち、実質部の表面一部にミクロ表面層が配置されていてもよい。
【0045】
ミクロ表面層は、実質部上に配置されており、実質部と同様の熱可塑性樹脂で多孔質構造に形成されている。ミクロ表面層の多孔質構造は、ミクロ表面層の表面に開口する気孔及びミクロ表面層の内部に形成された気孔を多数有していればよく、複数の気孔が連通してなる連通孔によって網目構造を形成しているのが好ましい。ミクロ表面層が多孔質構造であると、生体内においてタンパク質等が付着しやすく、骨を形成する細胞にとって好適な足場となるからである。
【0046】
ミクロ表面層における多孔質構造における気孔の気孔径としては、後述する走査型電子顕微鏡を用いた測定方法による、表面層の表面に開口する気孔径(以下、開口径と称する。)が10μm以下であるのが好ましく、5μm以下であるのが特に好ましい。ミクロ表面層が多層構造を有していると生体インプラントと生体骨との結合が強固になるが、さらに開口径が10μm以下であると、生体インプラント特にミクロ表面層の力学特性を大きく低下させることなく生体インプラントと生体骨とをより一層強固に結合させることができる。また、後述する走査型電子顕微鏡を用いた測定方法による、表面層の内部に形成される気孔径(以下、内部径と称する。)は0.1〜10μmであるのが好ましい。その理由は生体内においてタンパク質等が付着しやすく、骨を形成する細胞にとって好適な足場となるからである。さらに、後述する走査型電子顕微鏡を用いた測定方法による連通孔の長径は10μm以下であるのが好ましい。その理由は前記開口径と同様である。
【0047】
また、後述する走査型電子顕微鏡を用いた測定方法による、表面層の表面に開口する気孔の気孔率(以下、開口気孔率と称する。)10〜90%が好ましく、20〜80%が特に好ましい。この開口気孔率が10〜90%の範囲内にあると、新たな生体骨が形成される空間が十分に確保されるので、この空間を埋めるように新たな生体骨が形成され、また連通孔にも新たな生体骨が形成されて、生体インプラントと生体骨との結合がより一層強固になる。後述する走査型電子顕微鏡を用いた測定方法による、表面層の断面の気孔の気孔率(以下、断面気孔率と称する。)は10〜90%が好ましく、20〜80%が特に好ましい。その理由は開口気孔率と同様である。
【0048】
開口径、内部径、連通孔の長径、開口気孔率及び断面気孔率は、通常の方法で算出することができる。例えば、この発明における算出方法として、開口径、内部径及び連通孔の長径は表面層の表面及び断面を走査型電子顕微鏡で観察し、表面層の表面及び断面の写真における気孔径及び連通孔の長径を測定することにより、求めることができる。また、気孔率は、表面層の表面及び断面の走査型電子顕微鏡により撮影した写真を、画像解析ソフトを使用して、気孔とそれ以外の部分とに2値化する。次に、写真全体の面積に対する気孔の面積の割合を算出することにより、気孔率を求めることができる。他の方法としては、水銀ポロシメーターを使用して、開口径、内部径、開口気孔率及び断面気孔率を求めることができる。
【0049】
このような多孔質構造からなるミクロ表面層の厚さは、1〜1000μmであるのが好ましく、20〜200μmであるのが特に好ましい。ミクロ表面層の厚さが前記範囲内にあると、生体インプラント特にミクロ表面層の力学特性を大きく低下させることなく生体インプラントと生体骨とをより一層強固に結合させることができる。
【0050】
ミクロ表面層の厚さ、開口径、内部径、連通孔の長径、開口気孔率及び断面気孔率はミクロ表面層の形成工程における条件等によって調整できる。例えば、熱可塑性樹脂からなる中実体を濃硫酸等の腐食性溶液に浸漬して表面層を形成する場合には、ミクロ表面層の厚さは中実体を腐食性溶液に浸漬する時間及び/又は温度によって調整することができ、また、開口径、内部径、連通孔の長径、開口気孔率及び断面気孔率は中実体を腐食性溶液に浸漬した後に洗浄する洗浄用溶液の種類、洗浄温度及び洗浄時間の少なくとも1つによって調整することができる。また、低分子水溶性有機物質又は低分子水溶性無機物質を用いてミクロ表面層を形成する場合には、ミクロ表面層の厚さ、開口径、内部径、連通孔の長径、開口気孔率及び断面気孔率は低分子水溶性有機物質又は低分子水溶性無機物質の種類、使用量等によって調整できる。
【0051】
生体活性物質は、ミクロ表面層の表面、すなわち、ミクロ表面層の外表面及び多孔質構造の孔内表面に分散又は散在した状態に固定化されている。すなわち、生体活性物質の粒子は、ミクロ表面層の輪郭を形作る表面上、及び、孔内表面上に、それぞれ散り散りに積載又は載置された状態に付着されているから、散在した粒子の大部分がミクロ表面層に埋設されることなく露出している。このように大部分が露出した生体活性物質の粒子が分散又は散在した状態に固定化されていると、生体インプラントと生体骨とが迅速かつ均一に結合される。生体活性物質の分散又は散在した状態は生体インプラントで説明した通りである。
【0052】
ミクロ表面層の表面に固定化されている生体活性物質の粒子の固定化力は前記固定化評価を満たしており、具体的には、生体インプラントにおいて、200Wの超音波を10分照射したときに、100μm2の観測領域において超音波を照射する前に前記ミクロ表面層の表面に配置されていた前記生体活性物質による表面被覆率(面積%)に対して20%以上の表面被覆率(面積%)で残存するように、ミクロ多孔基材のミクロ表面層の表面にのみ分散又は散在した状態に生体活性物質の粒子が固定化されている。生体活性物質の固定化力の調整方法は前記した通りである。このような前記固定化評価を満たすように生体活性物質がミクロ表面層の表面に固定化された生体インプラントは、例えば後述するこの発明に係る生体インプラントの製造方法等によって製造される。
【0053】
この発明に係る生体インプラントのまた別の一例である生体インプラントを以下に説明する。この生体インプラントは、表面発泡基材と生体活性物質とを有し、表面発泡基材の表面層の表面に生体活性物質が固定化されている。生体活性物質は生体インプラントの生体活性物質と基本的に同様である。
【0054】
表面発泡基材は、中実の実質部と、実質部の表面に配置又は積層され、気孔径が10μm以下の小径気孔と気孔径が10〜200μmの大径気孔との大きさの異なる気孔を有する多孔質構造の表面層(この発明において「表面発泡層」と称することがある。)とを有している。すなわち、この表面発泡基材は実質部全体が表面発泡層で被覆されている。実質部はその表面に生体活性物質が実質的に固定化されていない点以外は生体インプラントの中実基材と基本的に同様である。なお、この表面発泡基材は、実質部の表面全体に表面発泡層が配置されていてもよく、生体骨との結合が必要な表面のみに、すなわち、実質部の表面一部に表面発泡層が配置されていてもよい。
【0055】
表面発泡層は、実質部上に配置されており、実質部と同様の熱可塑性樹脂で多孔質構造に形成されている。表面発泡層の多孔質構造は、表面発泡層の表面に開口する大きさの異なる気孔及び表面発泡層の内部に形成された気孔を多数有していればよく、複数の気孔が連通してなる連通孔によって網目構造を形成しているのが好ましい。表面発泡層がこのような多孔質構造であると、所謂アンカー効果によって生体インプラント生体骨との結合が強固になる。具体的には、生体インプラントを生体内に埋設した場合に表面発泡層に含まれる生体活性物質を起点として生体骨との結合が進む際に、表面発泡層に多数の微細な空間が存在するので、この空間にも新たな骨を容易に生成することができる。したがって、生体インプラントと生体骨との結合が表面発泡層の内部であってその表面から離れた気孔内部で進行するとともに、表面発泡層の内部へと樹枝状に広がって結合することができるので生体インプラントと生体骨との結合が強固になる。
【0056】
表面発泡層における多孔質構造における小径気孔の気孔径としては、前記走査型電子顕微鏡を用いた測定方法による、表面発泡層の表面に開口する気孔径(以下、開口径と称する。)が10μm以下であるのが好ましく、5μm以下であるのが特に好ましく、同様に、大径気孔の前記測定方法による気孔径としては、10〜200μmであるのが好ましく、30〜150μmであるのが特に好ましい。表面発泡層が大きさの異なる少なくとも2種の気孔を有する多層構造になっていると生体インプラントと生体骨との結合が強固になるが、さらに小径気孔及び大径気孔の開口径が前記範囲内にあると生体インプラント特に表面発泡層の力学特性を大きく低下させることもないうえ、骨を形成する細胞が表面発泡層の内部に進入しやすくなって生体インプラントと生体骨とをより一層強固に結合させることができる。表面発泡層において、走査型電子顕微鏡を用いた測定方法による、表面層の内部に形成される気孔径(以下、内部径と称する。)、走査型電子顕微鏡を用いた測定方法による連通孔の長径、走査型電子顕微鏡を用いた測定方法による気孔率(以下、開口気孔率と称する。)及び走査型電子顕微鏡を用いた測定方法による断面気孔率、並びに、表面発泡層の厚さは、ミクロ多孔基材のミクロ表面層におけるそれらと基本的に同様であるのが好ましい。表面発泡層の厚さ、小径気孔の開口径、内部径、連通孔の長径、開口気孔率及び断面気孔率はミクロ表面層と基本的に同様にして調整でき、表面発泡層における大径気孔の開口径は、後述する、発泡剤の種類及び濃度、発泡溶液の種類及び濃度、発泡溶液への浸漬時間、凝固溶液の種類及び濃度、凝固溶液への浸漬時間、各工程における温度などを適宜選択することにより調整することができる。
【0057】
生体活性物質は、ミクロ多孔基材と基本的に同様に、表面発泡層の表面に分散又は散在した状態で埋設されることなく固定化されている。そして、この生体活性物質の粒子の固定化力は前記固定化評価を満たしており、具体的には、生体インプラントにおいて、200Wの超音波を10分照射したときに、100μm2の観測領域において超音波を照射する前に前記表面発泡層の表面に配置されていた前記生体活性物質による表面被覆率(面積%)に対して20%以上の表面被覆率(面積%)で残存するように、表面発泡基材の表面発泡層の表面にのみ分散又は散在した状態に生体活性物質の粒子が固定化されている。生体活性物質の固定化力の調整方法は前記した通りである。このような前記固定化評価を満たすように生体活性物質が表面発泡層の表面に固定化された生体インプラントは、例えば後述するこの発明に係る生体インプラントの製造方法等によって製造される。
【0058】
この発明に係る生体インプラントの製造方法は、生体活性物質が表面に配置された基材を熱可塑性樹脂のガラス転移温度−30℃以上融点未満の加熱温度に加熱する工程を有し、前記固定化評価を満たすように生体活性物質が基材の表面に固定化されたこの発明に係る生体インプラントを製造できる。このような生体活性物質が表面に配置された熱可塑性樹脂をそのガラス転移温度−30℃以上融点未満の加熱温度に加熱すると、熱可塑性樹脂の表面近傍の一部が軟化して生体活性物質とより強固に密着して生体インプラントとしたときに前記固定化評価を満足することができる。この発明に係る生体インプラントの製造方法は、基材を加熱する工程で生体活性物質を固定化できるから、高価又は特殊な装置を必要とせずに簡易に実施できるにもかかわらず、基材の表面に分散又は散在した状態で生体活性物質を強固に固定化させることができる。
【0059】
この発明に係る生体インプラントの製造方法の一例として中実基材を有する生体インプラントを製造する方法(この発明に係る製造方法と称する。)を以下に説明する。この発明に係る製造方法で製造される生体インプラントは前記した通りであり、具体的には、熱可塑性樹脂からなる中実基材とその表面に前記固定化評価を満足するように分散又は散在した状態に固定化された生体活性物質とを有している。
【0060】
この発明に係る製造方法においては、中実基材及び生体活性物質を準備する。中実基材は前記熱可塑性樹脂を用いて適宜の方法で任意形状又は所望形状に成形することによって作製される。作製された中実基材は所望によりその表面をサンドペーパー等で調整されてもよく、また、純水等で浸漬洗浄又は超音波洗浄されてもよい。生体活性物質は前記生体活性物質の市販品を用いることもできる。
【0061】
この発明に係る製造方法においては、次いで、準備した中実基材の表面に生体活性物質を配置する工程を実施する。この配置する工程は、中実基材の表面に生体活性物質を配置できる工程を有していればよく、例えば、生体活性物質を中実基材の表面に散布する工程、生体活性物質形成液に中実基材を浸漬させて中実基材の表面に生体活性物質を生成させる工程、生体活性物質の懸濁液に中実基材を浸漬させる工程等が挙げられる。これらの方法の中でも、複雑な表面形状を持つ中実基材であってもその複雑な表面に生体活性物質を均一な分散又は散在した状態に簡易に配置できる点で、生体活性物質の懸濁液に中実基材を浸漬させる工程が好ましい。生体活性物質の懸濁液に中実基材を浸漬させる工程は、この浸漬させる工程の他に、所望により、生体活性物質の懸濁液を調製するサブ工程、中実基材を懸濁液から取り出した後に洗浄するサブ工程、洗浄後の中実基材を乾燥するサブ工程等を有している。
【0062】
この浸漬させる工程を実施するには、まず、生体活性物質の懸濁液を調製するサブ工程を実施する。生体活性物質を懸濁させる媒体は、中実基材及び生体活性物質を溶解させない媒体であれば特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール、水、アセトン、ヘキサン等が挙げられる。生体活性物質は前記範囲の粒子径及び前記形状を有する粒子であるのが好ましい。準備した生体活性物質を媒体中に投入して、攪拌機等によって攪拌することによって、所望により例えば周波数38kHzで出力200Wの超音波を照射すること、又は、超音波ホモジナイザーで均質化すること等によって、生体活性物質を媒体中に均一に懸濁させる。このときの生体活性物質の投入量は中実基材の表面積、その表面に生体活性物質を配置する量に応じて適宜に調整されればよく、例えば、媒体100mLに対して0.01〜100gとすることができる。また、超音波の照射時間は生体活性物質を均一に分散可能な時間に調整され、例えば、5〜180分とすることができる。
【0063】
次いで、このようにして調製した懸濁液に準備した中実基材を浸漬させる工程を実施する。この浸漬させる工程は、中実基材を懸濁液に浸漬させて所望により懸濁液を攪拌して、実施される。このときの懸濁液の液温すなわち浸漬温度及び浸漬時間は特に限定されず、中実基材の表面に生体活性物質を配置する量に応じて適宜に調整されればよく、例えば、浸漬温度は中実基材を形成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度−30℃未満、具体的には溶媒の沸点以下の温度、浸漬時間は1分以上24時間以下とすることができる。懸濁液に浸漬される中実基材の体積は特に限定されないが懸濁液の液量が十分でないと配置される生体活性物質の配置量が少なくなることがあるので、懸濁液100mLに対して0.001〜50cm3とすることができる。
【0064】
浸漬させる工程においては、所望により、中実基材を懸濁液から取り出した後に洗浄するサブ工程を実施する。中実基材を洗浄する洗浄液は中実基材及び生体活性物質を溶解させない媒体であれば特に限定されず、例えば、水、懸濁液の媒体と同じ媒体が挙げられ、水又は純水であるのが好ましい。浸漬させる工程においては、所望により、洗浄後の中実基材を乾燥するサブ工程を実施する。乾燥方法は、公知の乾燥方法を特に限定されることなく採用でき、例えば、風乾、送風乾燥、加熱乾燥等が挙げられる。この乾燥するサブ工程において加熱する場合の加熱温度は中実基材を形成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度未満である。
【0065】
このようにして生体活性物質の懸濁液に中実基材を浸漬させる工程が実施される。この浸漬させる工程において中実基材の表面に配置された生体活性物質は中実基材の表面に付着しており、洗浄するサブ工程及び乾燥するサブ工程においても、その殆どが中実基材の表面から脱落しない。
【0066】
この発明に係る製造方法においては、このようにして実施された配置する工程に次いで、生体活性物質が表面に配置された中実基材を熱可塑性樹脂のガラス転移温度−30℃以上融点未満の加熱温度に加熱する工程を実施する。中実基材の加熱温度は中実基材を形成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)−30℃以上、すなわち、ガラス転移温度よりも30℃低い温度(Tg−30)℃以上、その熱可塑性樹脂の融点未満である。この温度範囲に中実基材を加熱すると中実基材の表面近傍の一部が軟化して配置された生体活性物質と強固に密着する。加熱温度の下限は、(Tg−30)℃であり、中実基材と生体活性物質とをさらに強固に密着させることができる点で、ガラス転移温度(Tg)以上であるのが好ましく、ガラス転移温度(Tg)+40℃であるのが特に好ましく、加熱温度の上限は、熱可塑性樹脂の融点未満であり、中実基材と生体活性物質とをさらに強固に密着させることができる点でガラス転移温度(Tg)+80℃であるのが好ましい。なお、この発明において、熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)は熱可塑性樹脂が複数のガラス転移温度を有している場合には最も低いガラス転移温度である。
【0067】
この加熱する工程において、中実基材を加熱する時間すなわち前記加熱温度に保持する時間は、中実基材の表面近傍を軟化可能な時間であればよく、中実基材と生体活性物質とをさらに強固に密着させることができる点で、1時間以上であるのが好ましく、3時間以上であるのが特に好ましい。加熱する時間の上限値は、特に限定されず、大幅に長くしても生体活性物質の基材に対する密着度の向上は見込めないので経済的又は作業効率等を考慮すると、例えば、24時間とすることができる。中実基材の加熱方法は公知の加熱方法を適宜に採用できる。このようにして中実基体の表面に配置された生体活性物質を固定化することができる。
【0068】
このようにして生体活性物質が固定化された中実基材をそのまま用いることができるし、また、所望形状に成形又は整形して用いることもできる。生体活性物質が固定化された中実基材をそのまま用いる場合には、中実基材の準備時に所望形状に成形されているのが好ましく、前記加熱する工程によって得られた、生体活性物質が固定化された中実基材が生体インプラントとなる。一方、加熱する工程によって得られた、生体活性物質が固定化された中実基材を成形する場合には、成形して得られた成形体が生体インプラントとなる。この発明においては、固定化された生体活性物質が脱落する懸念があるので生体活性物質が固定化された中実基材をそのまま用いるのが好ましい。
【0069】
この発明に係る製造方法において、外形を所望形状に成形又は整形する工程は、生体活性物質を固定化させた後、好ましくは中実基材の準備時に実施される。この成形する工程は、公知の成形方法等によって、熱可塑性樹脂又は生体活性物質が固定化された中実基材を、生体内の適用部位に適合する形状、粒子状、繊維状、ブロック状、フィルム状等に成形する。生体内の適用部位に適合する形状は、具体的には、骨欠損部又は歯欠損部等の形状と同様の形状、骨欠損部又は歯欠損部等の形状に相当する形状、例えば、相似形等が挙げられる。
【0070】
このようにしてこの発明に係る製造方法が実施され、中実基体を有する生体インプラントが製造される。
【0071】
この発明に係る生体インプラントの製造方法の別の一例として複層基材を有する生体インプラントを製造する方法(この発明に係る別の製造方法と称する。)を以下に説明する。この発明に係る別の製造方法で製造される生体インプラントは、前記した通りであり、具体的には、熱可塑性樹脂からなる実質部及び表面層を有する複層基材と表面層の表面に前記固定化評価を満足するように分散又は散在した状態に固定化された生体活性物質とを有している。
【0072】
この発明に係る別の製造方法は、複層基材の表面層の表面に生体活性物質を配置する工程の前に、表面層を形成する工程を実施すること以外はこの発明に係る製造方法と基本的に同様である。したがって、この発明に係る別の製造方法においては複層基材及び生体活性物質を準備する。
【0073】
例えば、ミクロ多孔基材を準備する場合には、ミクロ表面層を形成する工程として、例えば、(1)熱可塑性樹脂で形成した中実基材を濃硫酸又は濃硝酸、クロム酸等の腐食性溶液に浸漬する工程、(2)ショ糖等の低分子水溶性有機物質又は塩化ナトリウム等の低分子水溶性無機物質を熱可塑性樹脂に分散させて溶融成形し、次いで、得られた成形体を低分子水溶性有機物質又は低分子水溶性無機物質が溶出する水等の溶媒に所定時間浸漬する工程、(3)熱可塑性樹脂と共に発泡剤等を使用する工程、(4)熱可塑性樹脂の粒子の表面を溶着させて多孔体を形成する工程等の公知の工程が挙げられる。これら工程のうちいずれかの工程によって実質部とミクロ表面層とを有するミクロ多孔基材を作製する。したがって、ミクロ表面層を形成する工程は実質部とミクロ表面層とを有するミクロ多孔基材、すなわち、熱可塑性樹脂で多孔質構造のミクロ表面層を有するミクロ多孔基材を作製する工程ということもできる。
【0074】
一方、表面発泡基材を準備する場合には、表面発泡層を形成する工程として、例えば、(5)熱可塑性樹脂で形成した中実基材を濃硫酸又は濃硝酸、クロム酸等の腐食性溶液に浸漬した後、さらに発泡剤に含漬させた後発泡溶液に浸漬する工程等の公知の工程が挙げられる。この工程によって実質部と表面発泡層とを有する表面発泡基材を作製する。したがって、表面発泡層を形成する工程は実質部と表面発泡層とを有する表面発泡基材、すなわち、熱可塑性樹脂で多孔質構造の表面発泡層を有する表面発泡基材を作製する工程ということもできる。前記(1)及び(5)は、例えば国際公開第2009/095960号パンフレット等に記載された方法と基本的に同様である。具体的には、前記(5)の工程は、熱可塑性樹脂で形成した中実基材を腐食性溶液に浸漬して小径気孔を形成することにより微小径気孔基材を得るサブ工程1(前記(1)の工程に相当する。)と、前記サブ工程1で得られたミクロ多孔基材(微小気孔基材とも称する。)を発泡剤を含有する溶液に浸漬することにより発泡剤保持基材を得るサブ工程2と、前記サブ工程2で得られた発泡剤保持基材を、プラスチックを膨潤させ、かつ発泡剤を発泡させる発泡溶液に浸漬することにより発泡基材を得るサブ工程3と、前記サブ工程3で得られた発泡基材を膨潤したプラスチックを凝固させる凝固溶液に浸漬するサブ工程4とを有している。なお、この複層基材は、中実基材と同様に成形する工程、表面を調整する工程及び洗浄する工程を経て、作製されてもよい。
【0075】
この発明に係る別の製造方法においては、次いで、準備した複層基材の表面に生体活性物質を配置する工程を実施する。この配置する工程は、この発明に係る製造方法における配置する工程と基本的に同様である。この発明に係る別の製造方法においては、好適な「生体活性物質の懸濁液に中実基材を浸漬させる工程」に代えて、「生体活性物質形成液に中実基材を浸漬させて中実基材の表面に生体活性物質を生成させる工程」について説明する。この生成させる工程は、好適例として、表面層を有する複層基材を、少なくとも10mMのカルシウムイオンを含む溶液及び少なくとも10mMのリン酸イオンを含む溶液の両方にいずれか先に浸漬する工程が挙げられる。この発明においては、前記した加熱する工程を実施するから、カルシウムイオン及びリン酸イオンの濃度はこれらが基材の表面に析出する程度の濃度であればその下限は10mM程度の低濃度にすることができる。なお、この生成させる工程は中実基体にも適用できる。
【0076】
この生成させる工程においては、複層基材を2種類の溶液に浸漬する順序は特に限定されないが、例えば生体活性物質として水酸アパタイトを表面層内に生成させる場合は、水酸アパタイトの溶解度がより低いアルカリ域で生成反応が進むことが生成量の面から好ましく、そのため、後半に浸漬する溶液のpHがpH8〜10のアルカリ域であることが好ましい。したがって、この生成させる工程は、複層基材を少なくとも10mMのカルシウムイオンを含む溶液に所定時間浸漬するCa浸漬サブ工程を実施した後に、複層基材を少なくとも10mMのリン酸イオンを含む溶液に浸漬するP浸漬サブ工程を実施するのが好ましい。
【0077】
この生成される工程において、複層基材を少なくとも10mMのカルシウムイオンを含む溶液に所定時間浸漬するCa浸漬サブ工程を実施する。このカルシウムイオンを含む溶液は、少なくともカルシウムイオンを含んでいればよく、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、炭酸イオン、ケイ酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、塩素イオン、水素イオン等を含んでいてもよいが、リン酸イオンは実質的に含んでいない方が好ましい。カルシウムイオンを含む溶液としては、通常、水溶性が高く人体に悪影響を与えないカルシウム化合物の水溶液を挙げることができ、例えば、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、硝酸カルシウム、蟻酸カルシウム、酢酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、酪酸カルシウム、乳酸カルシウム及びこれらの混合物の水溶液が挙げられ、塩化カルシウムの水溶液が好適に挙げられる。
【0078】
この生成させる工程においては、次いで、複層基材を少なくとも10mMのリン酸イオンを含む溶液に浸漬するP浸漬サブ工程を実施する。このリン酸イオンを含む溶液は、少なくともリン酸イオンを含んでいればよく、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、炭酸イオン、ケイ酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、塩素イオン、水素イオン等を含んでいてもよいが、カルシウムイオンは実質的に含んでいない方が好ましい。リン酸イオンを含む溶液としては、通常、水溶性が高く人体に悪影響を与えないリン酸化合物の水溶液を挙げることができ、例えば、リン酸、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム及びこれらの混合物の水溶液が挙げられ、リン酸水素二カリウムの水溶液が好適に挙げられる。
【0079】
Ca浸漬サブ工程及びP浸漬サブ工程において、浸漬時間はそれぞれ1分〜5時間であるのが好ましく、3分〜3時間であるのが特に好ましい。浸漬時間を1分〜5時間の範囲内にすると、十分にカルシウムイオン又はリン酸イオンが表面層の内部まで染み込み、また、生体活性物質が十分生成されることにより表面層に生体活性物質が強固に固定化される。Ca浸漬サブ工程及びP浸漬サブ工程において、浸漬温度はそれぞれ複層基材を形成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度−30℃未満、具体的には10〜50℃とされるのが好ましく、浸漬される複層基材の体積はこれら溶液100mLに対して0.01〜20cm3とすることができる。
【0080】
この生成させる工程においては、生体活性物質が配置された複層基材を超音波照射しつつ純水に浸漬して洗浄するサブ工程、乾燥するサブ工程等を実施することができる。
【0081】
このようにしてCa浸漬サブ工程及びP浸漬サブ工程を実施すると、複層基材の表面層の多孔質構造を有する全ての部分又は多孔質構造を有する部分の中でもさらに表面に生体活性物質が付着生成し、洗浄するサブ工程及び乾燥するサブ工程を実施しても、その殆どが複層基材の表面から脱落しない。このようにして複層基材における表面層の表面に生体活性物質を配置することができる。この「生成させる工程」において生成される生体活性化合物は前記条件を満足する低結晶性の生体活性化合物である。
【0082】
この発明に係る別の製造方法においては、このようにして実施された配置する工程に次いで、生体活性物質が表面に配置された複層基材を熱可塑性樹脂のガラス転移温度−30℃以上融点未満の加熱温度に加熱する工程を実施する。この加熱する工程はこの発明に係る製造方法における加熱する工程と基本的に同様にして実施される。なお、表面層は加熱する工程においても多孔質構造が破壊されることはない。このようにして複層基材の表面に配置された生体活性物質を固定化することができる。
【0083】
このようにして生体活性物質が固定化された複層基材は、前記中実基材と同様に、そのまま用いられることができるし、また、所望形状に成形又は整形して用いられることもできる。したがって、この発明に係る別の製造方法における外形を所望形状に成形又は整形する工程はこの発明に係る製造方法における外形を所望形状に成形又は整形する工程基本的に同様である。なお、この発明に係る別の製造方法において、中実基体を所望の形状成形、整形及び/又は調製した後に表面層を形成することもできるし、中実基体に表面層を形成した後に所望形状に成形、整形及び/又は調製することもできる。
【0084】
このようにして、この発明に係る別の製造方法が実施され、複層基体を有する生体インプラントが製造される。
【0085】
この発明に係る生体インプラント及び生体インプラントの製造方法は、前記した例に限定されることはなく、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。
【実施例】
【0086】
(実施例1)
ポリエーテルエーテルケトン(ガラス転移温度143℃、融点340℃、弾性率4.2GPa、曲げ強度170MPa)で形成された円盤体(直径10mm、厚さ2mm、Victrex製450G)の表面をサンドペーパー(#4000)で研磨した後に、純水中に浸漬させて超音波照射して洗浄し、中実基材を準備した。また、エタノール200mLにHAP(水酸アパタイト)(太平化学株式会社、HAP−200、粒子形状:柱状、粒子径0.1〜1μm(インターセプト法)、前記半価幅0.2°)3.0gを投入して、周波数20kHzで出力200Wのホモジナイザーで10分処理して、水酸アパタイトの粒子をエタノールに分散させ、エタノール懸濁液を調製した。
【0087】
作製したエタノール懸濁液200mLに中実基体を投入して1時間激しく撹拌した後に、中実基体をエタノール懸濁液から取り出して純水で洗浄した。この中実基材を220℃で3時間加熱した後に常温まで降温して実施例1の生体インプラントを製造した。この生体インプラントに固定化された水酸アパタイトの粒子は使用した粒子の粒子形状、粒子径及び前記半価幅を維持していた。
【0088】
(実施例2)
前記中実基材の加熱温度を180℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして実施例2の生体インプラントを製造した。
【0089】
(実施例3)
前記中実基材の加熱時間を1時間に変更したこと以外は実施例1と同様にして実施例3の生体インプラントを製造した。
【0090】
(実施例4)
前記中実基材の加熱時間を24時間に変更したこと以外は実施例1と同様にして実施例4の生体インプラントを製造した。
【0091】
(実施例5)
水酸アパタイト粒子として、リン酸水素カルシウム二水和物(関東化学株式会社製)と炭酸カルシウム(キシダ化学株式会社製)をCa/P比1.67に調整し、ポットを用い水中で粉砕混合した後、900℃で仮焼して得られた(メカノケミカル合成法)水酸アパタイト粒子(粒子形状:球状、粒子径0.05〜0.5μm、前記半価幅0.17)を用いたこと以外は実施例1と同様にして実施例5の生体インプラントを製造した。
【0092】
(実施例6)
前記基材の加熱温度を120℃としたこと以外は実施例5と同様にして実施例6の生体インプラントを製造した。
【0093】
(実施例7)
前記中実基材に代えて下記方法で作製した表面発泡基材(第1表において「発泡」と表記する。)を用いたこと以外は実施例5と同様にして実施例7の生体インプラントを製造した。
【0094】
<表面発泡基材の作製>
PEEKで形成される円盤体(直径10mm、厚さ2mm、Victrex社製450G)の表面をサンドペーパー(#1000)で研磨し、濃硫酸(濃度:97%)に5分間浸漬した。濃硫酸から引き上げた円盤体を純水に5分間浸漬し、その後純水のpHが中性になるまで繰り返し洗浄し、多孔質構造のミクロ表面層を有するミクロ多孔基材を得た(サブ工程1)。このミクロ表面層の表面を走査型電子顕微鏡にて観察したところ、多数の気孔を有し、これらの気孔の気孔径は1〜2μmであり、内部は網目構造となっていた。
【0095】
次いで、このミクロ多孔基材を炭酸カリウム水溶液(濃度:3M)に60分間浸漬することにより、ミクロ表面層の表面に炭酸カリウムを保持させて発泡剤保持基材を得た(サブ工程2)。この発泡剤保持基材を発泡溶液である濃硫酸(濃度:97%)に1分間浸漬することにより、発泡剤保持基材におけるPEEKの表面を膨潤させるのと同時に発泡剤保持基材における炭酸カリウムを発泡させて発泡基材を得た(サブ工程3)。
【0096】
この発泡基材を濃硫酸から引き上げて濃度が86%の硫酸に5分間浸漬した。次いで、この発泡基材を硫酸から引き上げて純水に10分間浸漬することによりPEEKの表面を凝固させ(サブ工程4)、純水のpHが中性になるまで繰り返し洗浄した後に、80℃で3時間乾燥させて表面発泡基材を得た。得られた表面発泡基材の表面を300倍の低倍率及び10000倍の高倍率で撮影した走査型電子顕微鏡写真をそれぞれ図22及び図23に示す。
【0097】
拡大率300倍で撮影した各写真を利用して、上述したように大径気孔の各長径及び短径を測定し、これらの測定値の算術平均を算出したところ、大径気孔の平均気孔径は92μmであった。
【0098】
表面発泡体の表面を走査型電子顕微鏡により撮影した写真を画像解析ソフト(Scion社製 Scion Image)を使用して、大径気孔とそれ以外の部分とに2値化することにより、写真全体の面積に対する気孔径10〜200μmの大径気孔の面積割合を算出したところ、65%であった。
【0099】
(実施例8)
前記水酸アパタイト粒子として、メカノケミカル合成法にて合成し、700℃で仮焼して得られた粒子(粒子形状:球状、粒子径0.01〜0.1μm、前記半価幅0.26)を用いたこと以外は実施例7と同様にして実施例8の生体インプラントを製造した。
【0100】
(実施例9)
前記水酸アパタイト粒子として、メカノケミカル合成法にて合成し、1100℃で仮焼して得られた粒子(粒子形状:球状、粒子径0.1〜5μm、前記半価幅0.15)を用いたこと以外は実施例7と同様にして実施例9の生体インプラントを製造した。
【0101】
(実施例10)
実施例7で作製したミクロ多孔基材を用いたこと以外は実施例5と同様にして実施例10の生体インプラントを製造した。
【0102】
(比較例1)
前記中実基材の加熱温度を80℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして比較例1の生体インプラントを製造した。
【0103】
(比較例2)
前記中実基材の加熱温度を80℃に変更したこと以外は実施例5と同様にして比較例2の生体インプラントを作製した。
【0104】
(生体インプラントの表面観察)
実施例1において、純水で洗浄した後の中実基体の表面を走査型電子顕微鏡(拡大率3000及び10000倍)で観察したときの走査型電子顕微鏡写真を図1に示す。図1において白色の部分が水酸アパタイトである。図1に示されるように、エタノール懸濁液に浸漬させて純水で洗浄しても水酸アパタイトは中実基材の表面に付着していることが分かった。
【0105】
実施例1、2、5〜9並びに比較例1及び2で製造した生体インプラントそれぞれの表面を走査型電子顕微鏡(拡大率10000倍)で観察したときの走査型電子顕微鏡写真をそれぞれ、図2、図4、図6、図8、図10、図12及び図14並びに図17及び図19に示す。これらの図面において白色の部分が水酸アパタイトである。
【0106】
実施例1及び2並びに比較例1の生体インプラントは、図2及び図4並びに図17に示されるように、その表面に水酸アパタイトが付着していることが分かった。また、水酸アパタイトとして実施例1等のHAP−200に代えて「900℃で仮焼して得られた水酸アパタイト(メカノケミカル合成、900℃仮焼)」を用いた実施例5及び6並びに比較例2の生体インプラントも、図6及び図8並びに図19に示されるように、その表面に水酸アパタイトが付着していることが分かった。さらに、基材として実施例1等の中実基材に代えて表面発泡基材を用いた実施例7〜9の生体インプラントも、図10及び図12並びに図14に示されるように、その表面発泡基材の表面に水酸アパタイトが付着していることが分かった。
【0107】
(照射前の被覆率)
実施例1〜10並びに比較例1及び2で製造した生体インプラントそれぞれの、水酸アパタイトによる照射前の被覆率(面積%)をその表面における3箇所を観測領域(100μm2)として前記のようにして撮影した顕微鏡写真を用いて算出し、これら3点の算術平均値を得た。その結果を「被覆率(%) 照射前」として第1表に示す。
【0108】
(照射後の被覆率)
実施例1〜10並びに比較例1及び2で製造した生体インプラントそれぞれに周波数38kHzで出力200Wの超音波を水中で10分照射した後の、水酸アパタイトによる被覆率(面積%)を前記のようにして算出し、これら3点の算術平均値を得た。その結果を「被覆率(%) 照射後」として第1表に示す。このようにして照射後の被覆率(面積%)を算出するときに撮影した、実施例1、2、5〜10並びに比較例1及び2それぞれの超音波照射後の走査型電子顕微鏡写真を、図3、図5、図7、図9、図11、図13及び図15、図16並びに図18及び図20に示す。これらの図面において白色の部分が水酸アパタイトである。
【0109】
(水酸アパタイトの固定化評価)
前記固定化評価による水酸アパタイトの固定化力として、前記のようにして算出した照射後の被覆率(面積%)を照射前の被覆率(面積%)で除した値(%)を算出し、第1表に「残存率(%)」として示した。
【0110】
その結果、実施例1〜10の生体インプラントは、第1表に示されるように、水酸アパタイトの「残存率(%)」が20%を超えていた。特に、実施例1〜3の生体インプラントは、第1表並びに例えば図3及び図5に示されるように、水酸アパタイトの「残存率(%)」が20%を大きく超えていた。また、実施例1における図2及び図3、実施例2における図4及び図5をそれぞれ対比すると、各実施例において、超音波照射前と後とでは中実基材の表面に配置された水酸アパタイトの数は大きく変化していなかった。このように、実施例1〜3の生体インプラントは水酸アパタイトが中実基材の表面に強固に固定化されていることが確認でき、生体骨との高い結合能を発揮することが十分に推測される。
【0111】
一方、比較例1の生体インプラントは、第1表及び図18に示されるように、水酸アパタイトの「残存率(%)」が20%未満であった。また、比較例1における図17及び図18を対比すると、中実基材の表面に配置された水酸アパタイトが大幅に減少しており、水酸アパタイトが中実基材の表面に固定化されてなく脱落したことが分かった。
【0112】
また、水酸アパタイトとして実施例1等のHAP−200(第1表において「HAP1」と表記されている。)に代えて「900℃で仮焼して得られた水酸アパタイト(メカノケミカル合成、900℃仮焼)」(第1表において「HAP2」と表記されている。)を用いた実施例5及び6の生体インプラントも、第1表並びに図7及び図9に示されるように、水酸アパタイトの「残存率(%)」が20%を大きく超えていた。さらに、実施例5における図6及び図7、実施例7における図8及び図9をそれぞれ対比すると、各実施例において、超音波照射前と後とでは中実基材の表面に配置された水酸アパタイトの数は大きく変化していなかった。このように、このように水酸アパタイトの種類を変化させても本願発明の生体インプラント、具体的には実施例5及び6の生体インプラントは、水酸アパタイトが中実基材の表面に強固に固定化されていることが確認でき、生体骨との高い結合能を発揮することが十分に推測される。
【0113】
一方、比較例2の生体インプラントは、第1表及び図20に示されるように、水酸アパタイトの「残存率(%)」が20%には遠く及ばなかった。また、比較例2における図19及び図20を対比すると、中実基材の表面に配置された水酸アパタイトが大幅に減少しており、水酸アパタイトが中実基材の表面に固定化されてなく脱落したことが分かった。
【0114】
さらに、基材として実施例1等の中実基材に代えて表面発泡基材を用いた実施例7〜9の生体インプラントもミクロ多孔基材を用いた実施例10の生体インプラントも、第1表並びに図11、図13、図15及び図16に示されるように、水酸アパタイトの「残存率(%)」が20%を大きく超えていた。さらに、実施例7における図10及び図11、実施例8における図12及び図13並びに実施例9における図14及び図15をそれぞれ対比すると、各実施例において、超音波照射前と後とでは表面発泡基材の表面に配置された水酸アパタイトの数は大きく変化していなかった。このように、このように基材の種類を表面発泡基材に代えてもまたミクロ多孔基材に代えても、本願発明の生体インプラント、具体的には実施例7〜10の生体インプラントは、水酸アパタイトが表面発泡基材及びミクロ多孔基材の表面に強固に固定化されていることが確認でき、生体骨との高い結合能を発揮することが十分に推測される。
【0115】
(水酸アパタイトの固定状態)
実施例1で製造した生体インプラントを樹脂埋めした後にCP加工して新鮮断面を露出させ、この新鮮断面を走査型電子顕微鏡(拡大率10000倍)で観察した。このときの走査型電子顕微鏡写真を図21に示す。図21において白色の部分が水酸アパタイトである。その結果、中実基材に固定化されている水酸アパタイトの粒子は中実基材内に埋入せず表面に付着した状態にあってその大部分が露出していたが確認された。
【0116】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0117】
この発明に係る生体インプラントは、基材の持つ力学特性を損なうことなく発揮して荷重が掛かる部位にも適用可能であると共に、生体活性物質が基材から高度に脱落しにくく生体骨との高い結合能を発揮するから、骨が欠損した欠損部、特に荷重の掛かる欠損部を治療する際の医療部材、例えば、骨補填材、人工関節部材、骨接合材、人工椎体、椎体間スペーサ、椎体ケージ及び人工歯根等として、好適に利用することができる。
【0118】
この発明に係る生体インプラントの製造方法は、高価又は特殊な装置を必要とせずに簡易な方法であるにもかかわらず、基材の表面に分散又は散在した状態で生体活性物質を強固に固定化させることができるから、この発明に係る生体インプラントの製造に好適に利用できる。
【技術分野】
【0001】
この発明は、生体インプラント及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、基材の表面に強固に固定化された生体活性物質を有して生体骨との結合能を発揮する、荷重が掛かる部位にも適用可能な生体インプラント、並びに、簡易な方法で基材の表面に生体活性物質を強固に固定化できる生体インプラントの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
骨が欠損した欠損部に人工骨を移植する治療方法が、欠損部に患者の正常な骨を移植する自家骨を移植する治療方法よりも、患者の身体的な負担が小さく、自家骨を準備する際の問題点等が存在しない点で、近年注目されている。
【0003】
移植する人工骨の材料として水酸アパタイト等のバイオセラミックスが特によく知られており、このようなバイオセラミックスは骨と化学的に結合するといった点で優秀な人工骨材料となっている。しかし、荷重の掛かる部位への適用を考えたとき、バイオセラミックスの持つ強度では衝撃に弱く、そのような部位への適用は困難であると考えられる。
【0004】
したがって、荷重の掛かる部位に移植する人工骨の材料として、バイオセラミックスに代えて非常に高強度な特性を有するチタン合金やコバルトクロム合金等の金属材料が主に用いられている。しかし、この金属材料は、金属アレルギー等を引き起こす可能性があることに加えて、生体骨と比較して非常に大きな弾性率を有する等の特性を有しているから、金属材料で形成された人工骨を欠損部に移植したときに生体骨と金属材料との力学特性の違いによって、この人工骨に応力遮蔽が起こって周囲の骨が吸収され、脆くなってしまう可能性がある。
【0005】
そこで、このような問題点を解消し得る、生体骨とよく似た力学特性を有する材料として、近年、エンジニアリングプラスチック等の樹脂が注目を集めている。例えば、高密度ポリエチレン樹脂は非常に低弾性でしなるので荷重の掛かる部位への適用に適している。ところが、このような樹脂は生体骨と直接結合することがなく、樹脂で形成された人工骨に生体活性能を付与する必要がある。生体骨に類似の力学特性を有する樹脂に生体活性能を付与させる方法として、例えば、このような樹脂を成形した樹脂成形体の表面を生体活性物質である水酸アパタイト等でコーティングする方法、樹脂と生体活性物質を複合化して生体活性能を付与する方法等が提案されている。
【0006】
例えば、樹脂成形体の表面に生体活性物質の被膜を形成する方法等が特許文献1に提案されている。この特許文献1には「プラスチック基材に無機化合物被膜を形成した硬組織補填材料及び硬組織補填材料製造方法」が記載されている。具体的には「弾性を有するプラスチック材料よりなる基材の表面に、生体と調和性を有する無機化合物を、バインダーを介在させることなく直接固着せしめたことを特徴とする硬組織補填材料」(請求項1)、特に「無機化合物の固着層の厚さが20〜1000μmである硬組織補填材料」(請求項4)、及び、「例えば、プラズマ溶射法、真空蒸着(PVD)法、化学蒸着法(CVD)法、スパッタリング法等」で無機化合物被膜を基材表面に固着させる方法」(第3頁右下欄第8行〜第14号、請求項5等)等が記載されている。
【0007】
また、樹脂と生体活性物質を複合化して生体活性能を付与する方法等が特許文献2に提案されている。具体的には、特許文献2には「生体適合性ポリマー及び約500nm以下の平均粒子寸法を有する、生物活性微粒子セラミックの均質な混合体を備える整形外科用組成物」等が記載されている。
【0008】
特許文献3には「アパタイト薄膜を基材表面に強固に固定化させてなるアパタイト複合体」(0008欄)の製造方法が記載されている。具体的には、特許文献3には「少なくともその表面が親水性を有する基材表面にリン酸カルシウムからなるアパタイト核形成剤が固定化されてなる基材とリン酸カルシウム過飽和溶液を接触させることを特徴とするアパタイト複合体の製造方法」が記載されている(請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平4−146762号公報
【特許文献2】特表2004−521685号公報
【特許文献3】特開2005−112716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、特許文献1に記載されている、プラズマ溶射法やスパッタリングを用いて基材の表面に無機化合物被膜を形成する方法では、無機化合物被膜が厚くなりすぎて被膜の亀裂発生、被膜の剥離等の懸念があるうえ、高価な装置も必要となって製造コストが高くなってしまう。
【0011】
また、特許文献2に記載されている熱可塑性樹脂と生体活性物質の複合化による生体活性能付与方法では、生体活性物質を基材に複合化するため、力学特性が生体骨と類似であるという熱可塑性樹脂自体の特長が損なわれ、熱可塑性樹脂を用いる利点を没却してしまう可能性が考えられる。
【0012】
さらに、特許文献3に記載されている製造方法においては、工程の複雑さ、基材の親水化等の前処理が必要になるという問題点がある。
【0013】
この発明の課題は、基材の表面に強固に固定化された生体活性物質を有して生体骨との結合能を発揮する、荷重が掛かる部位にも適用可能な生体インプラントを提供すること、及び、簡易な方法で基材の表面に生体活性物質を強固に固定化できる生体インプラントの製造方法を提供することに、ある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明は、熱可塑性樹脂からなる基材の表面に生体活性物質が固定化された生体インプラントを製造する生体インプラントの製造方法であって、前記生体活性物質が表面に配置された基材を前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度−30℃以上融点未満の加熱温度に加熱する工程を有することを特徴とする。
【0015】
また、この発明は、熱可塑性樹脂からなる基材とその表面に配置された生体活性物質とを有する生体インプラントであって、この発明に係る生体インプラントの製造方法によって製造され、前記生体活性物質は、前記生体インプラントに200Wの超音波を10分照射したときに、100μm2の観測領域において超音波を照射する前に前記基材の表面に配置されていた前記生体活性物質による表面被覆率(面積%)に対して20%以上の表面被覆率(面積%)で残存するように、前記基材の表面にのみ分散又は散在した状態に固定化されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
この発明に係る生体インプラントの製造方法は、生体活性物質が配置された基材を熱可塑性樹脂のガラス転移温度−30℃以上融点未満の加熱温度に加熱する工程を有しているから、高価又は特殊な装置を必要とせずに簡易な方法であるにもかかわらず、基材の表面に分散又は散在した状態で、すなわち被膜を形成しないため被膜剥離が生じるはずのない状態で、生体活性物質を強固に固定化させることができる。
【0017】
また、この発明に係る生体インプラントは、この発明に係る生体インプラントの製造方法で製造され、かつ、生体活性物質が前記生体インプラントに200Wの超音波を10分照射したときに100μm2の観測領域において超音波を照射する前に前記基材の表面に配置されていた前記生体活性物質による表面被覆率(面積%)に対して20%以上の表面被覆率(面積%)で残存するように前記基材の表面にのみ分散又は散在した状態に固定化されているから、基材の持つ力学特性を損なうことなく発揮して荷重が掛かる部位にも適用可能であると共に、生体活性物質が基材から高度に脱落しにくく生体骨(この発明において生体骨には生体歯を含む。)との高い結合能を発揮する。この発明に係る生体インプラントを荷重が掛かる部位に適用可能である理由は、この発明に係る生体インプラントの基材は生体骨と類似の力学特性を持つ材料で形成されているから、荷重が掛かる部位に適用したときに金属とは異なって応力遮蔽を起こさず、骨減少及び骨密度低下等の周囲の生体骨への悪影響を与えることがほとんどないことにある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、実施例1における純水洗浄後の中実基体の表面を観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】図2は、実施例1で製造した生体インプラントの表面を観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】図3は、実施例1で製造した生体インプラントに超音波を照射した後の表面を観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】図4は、実施例2で製造した生体インプラントの表面を観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】図5は、実施例2で製造した生体インプラントに超音波を照射した後の表面を観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図6】図6は、実施例5で製造した生体インプラントの表面を観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図7】図7は、実施例5で製造した生体インプラントに超音波を照射した後の表面を観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図8】図8は、実施例6で製造した生体インプラントの表面を観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図9】図9は、実施例6で製造した生体インプラントに超音波を照射した後の表面を観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図10】図10は、実施例7で製造した生体インプラントの表面を観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図11】図11は、実施例7で製造した生体インプラントに超音波を照射した後の表面を観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図12】図12は、実施例8で製造した生体インプラントの表面を観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図13】図13は、実施例8で製造した生体インプラントに超音波を照射した後の表面を観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図14】図14は、実施例9で製造した生体インプラントの表面を観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図15】図15は、実施例9で製造した生体インプラントに超音波を照射した後の表面を観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図16】図16は、実施例10で製造した生体インプラントに超音波を照射した後の表面を観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図17】図17は、比較例1で製造した生体インプラントの表面を観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図18】図18は、比較例1で製造した生体インプラントに超音波を照射した後の表面を観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図19】図19は、比較例2で製造した生体インプラントの表面を観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図20】図20は、比較例2で製造した生体インプラントに超音波を照射した後の表面を観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図21】図21は、実施例1の生体インプラントの新鮮断面を観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図22】図22は、実施例7〜9に用いた表面発泡基材の表面を低倍(×300)にて観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【図23】図23は、実施例7〜9に用いた表面発泡基材の表面を高倍(×10000)にて観察したときの走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明に係る生体インプラントは熱可塑性樹脂からなる基材とその表面に配置された生体活性物質とを有している。基材は熱可塑性樹脂でほぼ中実に形成された中実基材(実質部と称することがある。)であってもよく、またこの中実基材の外面に配置又は積層された多孔質構造の表面層を有する複層基材であってもよい。多孔質構造の表面層を有する複層基材としては、例えば、表面に開口する気孔径が10μm以下の気孔を有する多孔質構造の表面層を有する複層基材(この発明において「ミクロ多孔基材」と称することがある。)、気孔径が10μm以下の小径気孔と気孔径が10〜200μmの大径気孔との大きさの異なる気孔を有する多孔質構造の表面発泡層を有する複層基材(この発明において「表面発泡基材」と称することがある。)等が挙げられる。例えば、この発明に係る生体インプラントに大きな強度が要求される場合には中実基材が採用され、一方、迅速な生体適合性及び高い生体結合力が要求される場合にはミクロ多孔基材又は表面発泡基材等の複層基材が採用される。
【0020】
この発明において、基材の「表面」は基材の外形を形つける輪郭面であり、具体的には、基材が中実基材である場合にはその外表面であり、基材が複層基材である場合には表面層の表面及び表面層における多孔質構造の孔内表面である。なお、この発明において、基材の力学特性を維持できる点で、生体活性物質は基材の表面にのみ配置されているのが好ましい。ここで、「基材の表面にのみ配置されている」とは生体活性物質が内部にまったく存在しない場合に加えて不可避的に存在する場合をも包含する。
【0021】
この発明に係る生体インプラントは、基材の表面に生体活性物質が分散又は散在した状態に固定化されている。このように、この発明に係る生体インプラントにおいて、生体活性物質は基材内部まで侵入することなく基材の表面に載置された状態で分散又は散在するように固定化されている。
【0022】
この発明に係る生体インプラントにおいて、基材の表面に固定化されている生体活性物質特にその粒子の固定化力は強固であるのが好ましく、この発明においては超音波を10分照射しても基材の表面から脱落せずに固定化されている生体活性物質による基材の表面を被覆する面積率(この発明において表面被覆率と称することがある。)で評価する。生体活性物質の固定化評価は、水中で200Wの超音波を10分照射する前後のこの発明に係る生体インプラントの表面を観測したときに100μm2の観測領域に残存する生体活性物質の粒子による表面被覆率(面積%)で評価する。具体的には、まず、この発明に係る生体インプラントの表面を走査型電子顕微鏡等で例えば倍率10000倍で100μm2の領域を複数例えば3点観測して撮影した顕微鏡写真を例えば二値化処理して基材の表面に配置されている生体活性物質の合計面積を算出し、この合計面積を観測領域の表面積100μm2で除して照射前の表面被覆率(面積%)を算出する。この照射前の表面被覆率(面積%)は複数測定箇所の算術平均値を用いることができる。次いで、この生体インプラントを25℃の純水(生体インプラントの体積150mm3当り100mLとする。)中に無攪拌状態に浸漬させて、純水を介して周波数38kHzで出力200Wの超音波を10分照射し、その後、生体インプラントを純水から取り出して80℃で加熱乾燥する。次いで、この生体インプラントの表面を走査型電子顕微鏡等で同様にして100μm2の領域を同数例えば3点観測して撮影した顕微鏡写真を例えば二値化して基材の表面に残存している生体活性物質の合計面積、次いで照射後の表面被覆率(面積%)を算出する。この照射後の表面被覆率(面積%)は複数測定箇所の算術平均値を用いることができる。このようにして算出された照射後の表面被覆率(面積%)が照射前の表面被覆率(面積%)に対して20%以上であるか否かで、生体活性物質の固定化力を評価する。なお、この評価方法において、超音波の照射前後における観測領域は同じ領域でも異なる領域でもよく、任意に選択される。
【0023】
このように、この発明に係る生体インプラントは、基材の表面に配置された生体活性物質による基材の表面被覆率について200Wの超音波を10分照射したときに照射前の表面被覆率に対して照射後の表面被覆率が20%以上となるように残存する固定力で、基材の表面に生体活性物質が分散又は散在した状態に固定化されている。このように生体活性物質が固定化されていると、生体活性物質は基材の内部に実質的に存在せず基材と複合体を形成せず、かつ基材を被覆してもいないから、熱可塑性樹脂すなわち基材の力学特性を損なうことなく、この発明に係る生体インプラントも熱可塑性樹脂と同様の力学特性を発揮する。したがって、この発明に係る生体インプラントは金属と異なって応力遮蔽を起こさず骨減少及び骨密度低下等の周囲の生体骨への悪影響を与えることがほとんどなく、荷重が掛かからない部位はもちろん荷重が掛かる部位にも適用できる。また、生体活性物質が前記のように固定化されていると、生体活性物質は基材を被覆することはないから亀裂又は剥離等の被膜に特有の問題が存在せず、基材から高度に脱落しにくく生体骨との高い結合能を発揮する。
【0024】
生体活性物質がより一層基体から脱落せずに生体骨とのより一層高く迅速な結合能を発揮する点で、この発明に係る生体インプラントの生体活性物質は、生体活性物質による照射後の表面被覆率(面積%)が照射前の表面被覆率(面積%)に対して25%以上であるのが好ましく、30%以上であるのが特に好ましい。照射後の表面被覆率(面積%)の上限値は、理想的には100%すなわち照射前の表面被覆率(面積%)と一致するのがよいが、現実的には50%程度である。この発明において、複数の観測領域のうち少なくとも1箇所において照射後の表面被覆率(面積%)が照射前の表面被覆率(面積%)の20%以上であればよいが、生体活性物質が生体骨により一層強固かつ迅速に結合する点で、2以上の観測領域において照射後の表面被覆率(面積%)が20%以上であるのが好ましく、また複数の観測領域の平均値において照射後の表面被覆率(面積%)が20%以上であるのが好ましい。
【0025】
この発明に係る生体インプラントの一例である生体インプラントを以下に説明する。この生体インプラントは、中実基材と生体活性物質とを有し、中実基材の表面に生体活性物質が固定化されている。
【0026】
中実基材は、熱可塑性樹脂でほぼ中実に形成されており、その形状及び寸法等は適用する部位に応じて適宜に選択される。中実基材を形成する熱可塑性樹脂は生体骨に類似又は近似する力学特性を有しているのが、適用可能な欠損部として荷重が掛かからない部位はもちろん荷重が掛かる部位にも適用できる点で、好ましい。したがって、中実基材も熱可塑性樹脂と同様に生体骨に類似又は近似する力学特性を有している。生体骨に類似又は近似する力学特性としては、例えば、10〜50GPaの弾性率、100MPa以上の曲げ強度等が挙げられ、熱可塑性樹脂はこれら特性の少なくとも一方を有していればよい。
【0027】
このような熱可塑性樹脂としては、例えば、繊維が混合されていない熱可塑性樹脂(繊維無含有熱可塑性樹脂とも称する。)、繊維が混合された繊維強化熱可塑性樹脂等が挙げられる。繊維無含有熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリフェニリンオキサイド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリスルホン、シンジオタクチックポリスチレン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリイミド、フッ素樹脂、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリメチルペンテン、ジアリルフタレート樹脂、ポリオキシメチレン、ポリ四フッ化エチレン等のエンジニアリングプラスチックが挙げられる。
【0028】
繊維強化熱可塑性樹脂のマトリックスとなる熱可塑性樹脂としては、前記エンジニアリングプラスチックに加えて、例えば、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、EVA樹脂、EEA樹脂、4−メチルペンテン−1樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、ACS樹脂、メタクリル酸メチル樹脂、エチレン塩化ビニル共重合体、プロピレン塩化ビニル共重合体、塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリアビニルアセトアセタール、ポリフッ化エチレンプロピレン、ポリ三フッ化塩化エチレン、メタクリル樹脂、ノリル樹脂、ポリアリルエーテルケトン、ポリケトンスルフィド、ポリスチレン、イソフタル酸系樹脂、ポリウレタン、アルキルベンゼン樹脂、ポリジフェニルエーテル等が挙げられる。
【0029】
繊維強化熱可塑性樹脂に含有される繊維としては、例えば、カーボンナノチューブを含む炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、金属繊維又は有機繊維が挙げられる。前記ガラス繊維としては、例えば、ホウケイ酸ガラス(Eガラス)の繊維状物、高強度ガラス(Sガラス)の繊維状物、高弾性ガラス(YM−31Aガラス)の繊維状物等が挙げられ、前記セラミック繊維としては、例えば、炭化ケイ素の繊維状物、窒化ケイ素の繊維状物、アルミナの繊維状物、チタン酸カリウムの繊維状物、炭化ホウ素の繊維状物、酸化マグネシウムの繊維状物、酸化亜鉛の繊維状物、ホウ酸アルミニウムの繊維状物、ホウ素の繊維状物等が挙げられ、前記金属繊維としては、例えば、タングステンの繊維状物、モリブデンの繊維状物、ステンレスの繊維状物、スチールの繊維状物、タンタルの繊維状物等が挙げられ、前記有機繊維としては、例えば、ポリビニルアルコールの繊維状物、ポリアミドの繊維状物、ポリエチレンテレフタレートの繊維状物、ポリエステルの繊維状物、アラミドの繊維状物等が挙げられる。繊維は1種単独で又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0030】
熱可塑性樹脂は、これらの中でも、力学特性が生体骨と近く、生体適合性の高いポリエーテルエーテルケトン(PEEK)が特に好ましい。
【0031】
中実基材は、熱可塑性樹脂に加えて、必要に応じて、帯電防止剤、酸化防止剤、ヒンダードアミン系化合物等の光安定剤、滑剤、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、無機充填剤、顔料等の着色料等の各種添加剤を含有していてもよい。
【0032】
生体活性物質は、中実基材の表面に固定されている。この生体活性物質は、生体との親和性が高く、生体骨を含む骨組織又は生体歯を含む歯組織(以下、骨組織という。)と化学的に反応する性質を有する物質であれば特に限定されず、例えば、リン酸カルシウム化合物、生体活性ガラス、炭酸カルシウム等が挙げられる。リン酸カルシウム化合物としては、例えば、リン酸水素カルシウム、リン酸水素カルシウム水和物、リン酸二水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム水和物、α型リン酸三カルシウム、β型リン酸三カルシウム、ドロマイト、リン酸四カルシウム、リン酸八カルシウム、水酸アパタイト、フッ素アパタイト、炭酸アパタイト及び塩素アパタイト等が挙げられる。生体活性ガラスは、バイオガラス、結晶化ガラス(ガラスセラミックスとも称する。)等を含み、バイオガラスとしては、例えば、SiO2−CaO−Na2O−P2O5系ガラス、SiO2−CaO−Na2O−P2O5−K2O−MgO系ガラス、及び、SiO2−CaO−Al2O3−P2O5系ガラス等が挙げられ、結晶化ガラスとしては、例えば、SiO2−CaO−MgO−P2O5系ガラス(アパタイトウォラストナイト結晶化ガラスとも称する。)、及び、CaO−Al2O3−P2O5系ガラス等が挙げられる。これらのリン酸カルシウム化合物、バイオガラス及び結晶化ガラスは、例えば、「化学便覧 応用化学編 第6版」(日本化学会、平成15年1月30日発行、丸善株式会社)、「バイオセラミックスの開発と臨床」(青木秀希ら編著、1987年4月10日、クインテッセンス出版株式会社)等に詳述されている。
【0033】
生体活性物質は、これらの中でも生体活性に優れる点で、リン酸カルシウム化合物及び生体活性ガラスの少なくとも1種であるのが好ましく、さらに、生体骨と組成や構造、性質が似ており体内環境における安定性が優れ体内で顕著な溶解性を示さない点で、水酸アパタイト又はリン酸三カルシウムが特に好ましい。
【0034】
この生体活性物質は、高結晶性又は低結晶性であっても非結晶性であってもよく、また複数の結晶性を有していてもよい。中実基材の表面に固定化される生体活性物質の結晶性によって生体活性物質の溶解性すなわち生体結合性を調整できる。例えば、生体活性物質の結晶性を高結晶性とすると、生体活性物質の溶解速度が小さく中実基材に長期間固定化され、生体骨が形成されにくい部分に適用されても生体骨を形成できる。一方、生体活性物質の結晶性を非結晶質とすると、生体活性物質の溶解速度が大きく生体インプラントと生体骨とが速やかに結合する。したがって、この発明においては生体骨の形成速度等に応じて生体活性物質の結晶性を適宜に選択できる。
【0035】
ここで、低結晶性とは結晶の発達程度が低い状態を意味し、水酸アパタイトを例にすると粉末X線回折測定において2θ=25.878°、面間隔(d値)=3.44Åの回折線における半価幅が0.2°以上のものをいい、高結晶性とは結晶の発達程度が高い状態を意味し、水酸アパタイトを例にすると前記半価幅が0.2°未満のものをいう。生体骨の水酸アパタイトは低結晶性(上記条件下における半価幅:0.4°程度)であることから、同様の結晶性(同条件下における半価幅:0.2〜1.0°)又は非結晶性にすることによって生体インプラントと生体骨とが速やかに結合する。また、非結晶性とは粉末X線回折測定において2θ=30°付近にブロードなピークが観察され、500℃以上の温度で焼成することで水酸アパタイトとなるという特性を有するものをいう。
【0036】
生体活性物質の結晶性は、後述する「生体活性物質を配置する工程」によって適宜に調整することができ、例えば、生体活性物質の懸濁液に基材を浸漬させる工程を採用する場合には懸濁させる生体活性物質の結晶性に依存し、一方、基材をカルシウムイオンを含有する溶液及びリン酸イオンを含有する溶液に交互に浸漬する工程を採用する場合にはこれらの溶液の組成成分の種類、組成比率及び/又は浸漬温度により調整することができる。
【0037】
高結晶性又は低結晶性の生体活性物質の形状は、中実基材の表面に分散又は散在可能な粒状、顆粒状、粉末状であればよく、また凝集物であってもよく、例えば、球状、楕円球状、針状、柱状、棒状、板状、多角形状等が挙げられる。そして、中実基材に固定化された生体活性物質の粒子径は、後述する観測領域(100μm2)よりも小さければ特に限定されないが、中実基材の表面により強固に固定化される点で、例えば、0.001〜10μmであるのが好ましく、0.01〜5μmであるのが特に好ましい。なお、本明細書中に記載している「粒子」及び「粒子径」とは、特に付記がない場合はそれぞれ「一次粒子」及び「一次粒子径」のことであり、中実基材に固定されている生体活性物質が凝集物である場合は、その凝集物を構成している最小単位である一次粒子及びその径のことである。粒子径は、インターセプト法により算出することができる。具体的には、走査型電子顕微鏡にて写真撮影を行い、少なくとも15以上の粒子に交わる直線を引き、この直線と粒子とが交わっている部分の長さの平均値から算出することができる。球状粒子以外の形状である場合にはその面積換算直径を算出する。
【0038】
この生体インプラントは、生体活性物質の粒子が中実基材の表面に分散又は散在した状態に固定化されている。生体活性物質の粒子が固定化される表面は前記した通り中実基材の外表面である。そして、生体活性物質の粒子は中実基材の表面に分散又は散在した状態に固定化されている。したがって、生体活性物質の粒子は、中実基材の輪郭を形作る表面上にそれぞれ散り散りに積載又は載置された状態に付着されているから、散在した粒子の大部分が中実基材に埋設されることなく露出している。このように大部分が露出した生体活性物質の粒子が分散又は散在した状態に固定化されていると、生体インプラントと生体骨とが迅速かつ均一に結合される。なお、生体活性物質の粒子は分散又は散在した状態にあるが、複数粒子の凝集物の存在を完全に除外するものではなく、生体活性物質の粒子のほんどが分散又は散在していればよく、その一部が凝集していてもよい。
【0039】
生体インプラントにおいて、生体活性物質の粒子は分散又は散在した状態に固定化されており被膜を形成していないから、この粒子が中実基材の表面を覆う被覆率等は100%未満であればよく、前記固定化評価を満たす限り特に限定されない。また、生体活性物質の粒子の中実基材に対する体積割合も前記固定化評価を満たす限り特に限定されない。
【0040】
中実基材の表面に固定化されている生体活性物質の粒子の固定化力は前記固定化評価を満たしており、具体的には、生体インプラントにおいて、200Wの超音波を10分照射したときに、100μm2の観測領域において超音波を照射する前に中実基材の表面に配置されていた前記生体活性物質による表面被覆率(面積%)に対して20%以上の表面被覆率(面積%)で残存するように、中実基材の表面にのみ分散又は散在した状態に生体活性物質の粒子が固定化されている。
【0041】
生体活性物質の固定化力は、例えば、生体活性物質と中実基材との接触状態によって調整することができ、その一例として、例えば後述するように、生体活性物質を配置した熱可塑性樹脂の加熱温度、加熱時間等によって調整することができる。
【0042】
この生体インプラントは、中実基材の表面に前記固定化評価を満たすように生体活性物質が固定化される製造方法で製造されればよく、その製造方法として、例えば、後述するこの発明に係る生体インプラントの製造方法等が挙げられる。したがって、この生体インプラントは、この発明に係る生体インプラントの製造方法で製造され、生体活性物質が前記固定化評価を満たすように中実基材の表面に分散又は散在した状態に強固に固定化されている。この製造方法は、基材を熱可塑性樹脂のガラス転移温度−30℃以上、融点未満の加熱温度に加熱する工程を有する。
【0043】
この発明に係る生体インプラントの別の一例である生体インプラントを以下に説明する。この生体インプラントは、ミクロ多孔基材と生体活性物質とを有し、ミクロ多孔基材の表面層の表面に生体活性物質が固定化されている。生体活性物質は生体インプラントの生体活性物質と基本的に同様である。
【0044】
ミクロ多孔基材は、中実の実質部と、実質部の表面に配置又は積層され、表面に開口する気孔径が10μm以下の気孔を有する多孔質構造の表面層(この発明において「ミクロ表面層」と称することがある。)とを有している。すなわち、このミクロ多孔基材は実質部全体がミクロ表面層で被覆されている。実質部はその表面に生体活性物質が実質的に固定化されていない点以外は生体インプラントの中実基材と基本的に同様である。なお、このミクロ多孔基材は、実質部の表面全体にミクロ表面層が配置されていてもよく、生体骨との結合が必要な表面のみに、すなわち、実質部の表面一部にミクロ表面層が配置されていてもよい。
【0045】
ミクロ表面層は、実質部上に配置されており、実質部と同様の熱可塑性樹脂で多孔質構造に形成されている。ミクロ表面層の多孔質構造は、ミクロ表面層の表面に開口する気孔及びミクロ表面層の内部に形成された気孔を多数有していればよく、複数の気孔が連通してなる連通孔によって網目構造を形成しているのが好ましい。ミクロ表面層が多孔質構造であると、生体内においてタンパク質等が付着しやすく、骨を形成する細胞にとって好適な足場となるからである。
【0046】
ミクロ表面層における多孔質構造における気孔の気孔径としては、後述する走査型電子顕微鏡を用いた測定方法による、表面層の表面に開口する気孔径(以下、開口径と称する。)が10μm以下であるのが好ましく、5μm以下であるのが特に好ましい。ミクロ表面層が多層構造を有していると生体インプラントと生体骨との結合が強固になるが、さらに開口径が10μm以下であると、生体インプラント特にミクロ表面層の力学特性を大きく低下させることなく生体インプラントと生体骨とをより一層強固に結合させることができる。また、後述する走査型電子顕微鏡を用いた測定方法による、表面層の内部に形成される気孔径(以下、内部径と称する。)は0.1〜10μmであるのが好ましい。その理由は生体内においてタンパク質等が付着しやすく、骨を形成する細胞にとって好適な足場となるからである。さらに、後述する走査型電子顕微鏡を用いた測定方法による連通孔の長径は10μm以下であるのが好ましい。その理由は前記開口径と同様である。
【0047】
また、後述する走査型電子顕微鏡を用いた測定方法による、表面層の表面に開口する気孔の気孔率(以下、開口気孔率と称する。)10〜90%が好ましく、20〜80%が特に好ましい。この開口気孔率が10〜90%の範囲内にあると、新たな生体骨が形成される空間が十分に確保されるので、この空間を埋めるように新たな生体骨が形成され、また連通孔にも新たな生体骨が形成されて、生体インプラントと生体骨との結合がより一層強固になる。後述する走査型電子顕微鏡を用いた測定方法による、表面層の断面の気孔の気孔率(以下、断面気孔率と称する。)は10〜90%が好ましく、20〜80%が特に好ましい。その理由は開口気孔率と同様である。
【0048】
開口径、内部径、連通孔の長径、開口気孔率及び断面気孔率は、通常の方法で算出することができる。例えば、この発明における算出方法として、開口径、内部径及び連通孔の長径は表面層の表面及び断面を走査型電子顕微鏡で観察し、表面層の表面及び断面の写真における気孔径及び連通孔の長径を測定することにより、求めることができる。また、気孔率は、表面層の表面及び断面の走査型電子顕微鏡により撮影した写真を、画像解析ソフトを使用して、気孔とそれ以外の部分とに2値化する。次に、写真全体の面積に対する気孔の面積の割合を算出することにより、気孔率を求めることができる。他の方法としては、水銀ポロシメーターを使用して、開口径、内部径、開口気孔率及び断面気孔率を求めることができる。
【0049】
このような多孔質構造からなるミクロ表面層の厚さは、1〜1000μmであるのが好ましく、20〜200μmであるのが特に好ましい。ミクロ表面層の厚さが前記範囲内にあると、生体インプラント特にミクロ表面層の力学特性を大きく低下させることなく生体インプラントと生体骨とをより一層強固に結合させることができる。
【0050】
ミクロ表面層の厚さ、開口径、内部径、連通孔の長径、開口気孔率及び断面気孔率はミクロ表面層の形成工程における条件等によって調整できる。例えば、熱可塑性樹脂からなる中実体を濃硫酸等の腐食性溶液に浸漬して表面層を形成する場合には、ミクロ表面層の厚さは中実体を腐食性溶液に浸漬する時間及び/又は温度によって調整することができ、また、開口径、内部径、連通孔の長径、開口気孔率及び断面気孔率は中実体を腐食性溶液に浸漬した後に洗浄する洗浄用溶液の種類、洗浄温度及び洗浄時間の少なくとも1つによって調整することができる。また、低分子水溶性有機物質又は低分子水溶性無機物質を用いてミクロ表面層を形成する場合には、ミクロ表面層の厚さ、開口径、内部径、連通孔の長径、開口気孔率及び断面気孔率は低分子水溶性有機物質又は低分子水溶性無機物質の種類、使用量等によって調整できる。
【0051】
生体活性物質は、ミクロ表面層の表面、すなわち、ミクロ表面層の外表面及び多孔質構造の孔内表面に分散又は散在した状態に固定化されている。すなわち、生体活性物質の粒子は、ミクロ表面層の輪郭を形作る表面上、及び、孔内表面上に、それぞれ散り散りに積載又は載置された状態に付着されているから、散在した粒子の大部分がミクロ表面層に埋設されることなく露出している。このように大部分が露出した生体活性物質の粒子が分散又は散在した状態に固定化されていると、生体インプラントと生体骨とが迅速かつ均一に結合される。生体活性物質の分散又は散在した状態は生体インプラントで説明した通りである。
【0052】
ミクロ表面層の表面に固定化されている生体活性物質の粒子の固定化力は前記固定化評価を満たしており、具体的には、生体インプラントにおいて、200Wの超音波を10分照射したときに、100μm2の観測領域において超音波を照射する前に前記ミクロ表面層の表面に配置されていた前記生体活性物質による表面被覆率(面積%)に対して20%以上の表面被覆率(面積%)で残存するように、ミクロ多孔基材のミクロ表面層の表面にのみ分散又は散在した状態に生体活性物質の粒子が固定化されている。生体活性物質の固定化力の調整方法は前記した通りである。このような前記固定化評価を満たすように生体活性物質がミクロ表面層の表面に固定化された生体インプラントは、例えば後述するこの発明に係る生体インプラントの製造方法等によって製造される。
【0053】
この発明に係る生体インプラントのまた別の一例である生体インプラントを以下に説明する。この生体インプラントは、表面発泡基材と生体活性物質とを有し、表面発泡基材の表面層の表面に生体活性物質が固定化されている。生体活性物質は生体インプラントの生体活性物質と基本的に同様である。
【0054】
表面発泡基材は、中実の実質部と、実質部の表面に配置又は積層され、気孔径が10μm以下の小径気孔と気孔径が10〜200μmの大径気孔との大きさの異なる気孔を有する多孔質構造の表面層(この発明において「表面発泡層」と称することがある。)とを有している。すなわち、この表面発泡基材は実質部全体が表面発泡層で被覆されている。実質部はその表面に生体活性物質が実質的に固定化されていない点以外は生体インプラントの中実基材と基本的に同様である。なお、この表面発泡基材は、実質部の表面全体に表面発泡層が配置されていてもよく、生体骨との結合が必要な表面のみに、すなわち、実質部の表面一部に表面発泡層が配置されていてもよい。
【0055】
表面発泡層は、実質部上に配置されており、実質部と同様の熱可塑性樹脂で多孔質構造に形成されている。表面発泡層の多孔質構造は、表面発泡層の表面に開口する大きさの異なる気孔及び表面発泡層の内部に形成された気孔を多数有していればよく、複数の気孔が連通してなる連通孔によって網目構造を形成しているのが好ましい。表面発泡層がこのような多孔質構造であると、所謂アンカー効果によって生体インプラント生体骨との結合が強固になる。具体的には、生体インプラントを生体内に埋設した場合に表面発泡層に含まれる生体活性物質を起点として生体骨との結合が進む際に、表面発泡層に多数の微細な空間が存在するので、この空間にも新たな骨を容易に生成することができる。したがって、生体インプラントと生体骨との結合が表面発泡層の内部であってその表面から離れた気孔内部で進行するとともに、表面発泡層の内部へと樹枝状に広がって結合することができるので生体インプラントと生体骨との結合が強固になる。
【0056】
表面発泡層における多孔質構造における小径気孔の気孔径としては、前記走査型電子顕微鏡を用いた測定方法による、表面発泡層の表面に開口する気孔径(以下、開口径と称する。)が10μm以下であるのが好ましく、5μm以下であるのが特に好ましく、同様に、大径気孔の前記測定方法による気孔径としては、10〜200μmであるのが好ましく、30〜150μmであるのが特に好ましい。表面発泡層が大きさの異なる少なくとも2種の気孔を有する多層構造になっていると生体インプラントと生体骨との結合が強固になるが、さらに小径気孔及び大径気孔の開口径が前記範囲内にあると生体インプラント特に表面発泡層の力学特性を大きく低下させることもないうえ、骨を形成する細胞が表面発泡層の内部に進入しやすくなって生体インプラントと生体骨とをより一層強固に結合させることができる。表面発泡層において、走査型電子顕微鏡を用いた測定方法による、表面層の内部に形成される気孔径(以下、内部径と称する。)、走査型電子顕微鏡を用いた測定方法による連通孔の長径、走査型電子顕微鏡を用いた測定方法による気孔率(以下、開口気孔率と称する。)及び走査型電子顕微鏡を用いた測定方法による断面気孔率、並びに、表面発泡層の厚さは、ミクロ多孔基材のミクロ表面層におけるそれらと基本的に同様であるのが好ましい。表面発泡層の厚さ、小径気孔の開口径、内部径、連通孔の長径、開口気孔率及び断面気孔率はミクロ表面層と基本的に同様にして調整でき、表面発泡層における大径気孔の開口径は、後述する、発泡剤の種類及び濃度、発泡溶液の種類及び濃度、発泡溶液への浸漬時間、凝固溶液の種類及び濃度、凝固溶液への浸漬時間、各工程における温度などを適宜選択することにより調整することができる。
【0057】
生体活性物質は、ミクロ多孔基材と基本的に同様に、表面発泡層の表面に分散又は散在した状態で埋設されることなく固定化されている。そして、この生体活性物質の粒子の固定化力は前記固定化評価を満たしており、具体的には、生体インプラントにおいて、200Wの超音波を10分照射したときに、100μm2の観測領域において超音波を照射する前に前記表面発泡層の表面に配置されていた前記生体活性物質による表面被覆率(面積%)に対して20%以上の表面被覆率(面積%)で残存するように、表面発泡基材の表面発泡層の表面にのみ分散又は散在した状態に生体活性物質の粒子が固定化されている。生体活性物質の固定化力の調整方法は前記した通りである。このような前記固定化評価を満たすように生体活性物質が表面発泡層の表面に固定化された生体インプラントは、例えば後述するこの発明に係る生体インプラントの製造方法等によって製造される。
【0058】
この発明に係る生体インプラントの製造方法は、生体活性物質が表面に配置された基材を熱可塑性樹脂のガラス転移温度−30℃以上融点未満の加熱温度に加熱する工程を有し、前記固定化評価を満たすように生体活性物質が基材の表面に固定化されたこの発明に係る生体インプラントを製造できる。このような生体活性物質が表面に配置された熱可塑性樹脂をそのガラス転移温度−30℃以上融点未満の加熱温度に加熱すると、熱可塑性樹脂の表面近傍の一部が軟化して生体活性物質とより強固に密着して生体インプラントとしたときに前記固定化評価を満足することができる。この発明に係る生体インプラントの製造方法は、基材を加熱する工程で生体活性物質を固定化できるから、高価又は特殊な装置を必要とせずに簡易に実施できるにもかかわらず、基材の表面に分散又は散在した状態で生体活性物質を強固に固定化させることができる。
【0059】
この発明に係る生体インプラントの製造方法の一例として中実基材を有する生体インプラントを製造する方法(この発明に係る製造方法と称する。)を以下に説明する。この発明に係る製造方法で製造される生体インプラントは前記した通りであり、具体的には、熱可塑性樹脂からなる中実基材とその表面に前記固定化評価を満足するように分散又は散在した状態に固定化された生体活性物質とを有している。
【0060】
この発明に係る製造方法においては、中実基材及び生体活性物質を準備する。中実基材は前記熱可塑性樹脂を用いて適宜の方法で任意形状又は所望形状に成形することによって作製される。作製された中実基材は所望によりその表面をサンドペーパー等で調整されてもよく、また、純水等で浸漬洗浄又は超音波洗浄されてもよい。生体活性物質は前記生体活性物質の市販品を用いることもできる。
【0061】
この発明に係る製造方法においては、次いで、準備した中実基材の表面に生体活性物質を配置する工程を実施する。この配置する工程は、中実基材の表面に生体活性物質を配置できる工程を有していればよく、例えば、生体活性物質を中実基材の表面に散布する工程、生体活性物質形成液に中実基材を浸漬させて中実基材の表面に生体活性物質を生成させる工程、生体活性物質の懸濁液に中実基材を浸漬させる工程等が挙げられる。これらの方法の中でも、複雑な表面形状を持つ中実基材であってもその複雑な表面に生体活性物質を均一な分散又は散在した状態に簡易に配置できる点で、生体活性物質の懸濁液に中実基材を浸漬させる工程が好ましい。生体活性物質の懸濁液に中実基材を浸漬させる工程は、この浸漬させる工程の他に、所望により、生体活性物質の懸濁液を調製するサブ工程、中実基材を懸濁液から取り出した後に洗浄するサブ工程、洗浄後の中実基材を乾燥するサブ工程等を有している。
【0062】
この浸漬させる工程を実施するには、まず、生体活性物質の懸濁液を調製するサブ工程を実施する。生体活性物質を懸濁させる媒体は、中実基材及び生体活性物質を溶解させない媒体であれば特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール、水、アセトン、ヘキサン等が挙げられる。生体活性物質は前記範囲の粒子径及び前記形状を有する粒子であるのが好ましい。準備した生体活性物質を媒体中に投入して、攪拌機等によって攪拌することによって、所望により例えば周波数38kHzで出力200Wの超音波を照射すること、又は、超音波ホモジナイザーで均質化すること等によって、生体活性物質を媒体中に均一に懸濁させる。このときの生体活性物質の投入量は中実基材の表面積、その表面に生体活性物質を配置する量に応じて適宜に調整されればよく、例えば、媒体100mLに対して0.01〜100gとすることができる。また、超音波の照射時間は生体活性物質を均一に分散可能な時間に調整され、例えば、5〜180分とすることができる。
【0063】
次いで、このようにして調製した懸濁液に準備した中実基材を浸漬させる工程を実施する。この浸漬させる工程は、中実基材を懸濁液に浸漬させて所望により懸濁液を攪拌して、実施される。このときの懸濁液の液温すなわち浸漬温度及び浸漬時間は特に限定されず、中実基材の表面に生体活性物質を配置する量に応じて適宜に調整されればよく、例えば、浸漬温度は中実基材を形成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度−30℃未満、具体的には溶媒の沸点以下の温度、浸漬時間は1分以上24時間以下とすることができる。懸濁液に浸漬される中実基材の体積は特に限定されないが懸濁液の液量が十分でないと配置される生体活性物質の配置量が少なくなることがあるので、懸濁液100mLに対して0.001〜50cm3とすることができる。
【0064】
浸漬させる工程においては、所望により、中実基材を懸濁液から取り出した後に洗浄するサブ工程を実施する。中実基材を洗浄する洗浄液は中実基材及び生体活性物質を溶解させない媒体であれば特に限定されず、例えば、水、懸濁液の媒体と同じ媒体が挙げられ、水又は純水であるのが好ましい。浸漬させる工程においては、所望により、洗浄後の中実基材を乾燥するサブ工程を実施する。乾燥方法は、公知の乾燥方法を特に限定されることなく採用でき、例えば、風乾、送風乾燥、加熱乾燥等が挙げられる。この乾燥するサブ工程において加熱する場合の加熱温度は中実基材を形成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度未満である。
【0065】
このようにして生体活性物質の懸濁液に中実基材を浸漬させる工程が実施される。この浸漬させる工程において中実基材の表面に配置された生体活性物質は中実基材の表面に付着しており、洗浄するサブ工程及び乾燥するサブ工程においても、その殆どが中実基材の表面から脱落しない。
【0066】
この発明に係る製造方法においては、このようにして実施された配置する工程に次いで、生体活性物質が表面に配置された中実基材を熱可塑性樹脂のガラス転移温度−30℃以上融点未満の加熱温度に加熱する工程を実施する。中実基材の加熱温度は中実基材を形成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)−30℃以上、すなわち、ガラス転移温度よりも30℃低い温度(Tg−30)℃以上、その熱可塑性樹脂の融点未満である。この温度範囲に中実基材を加熱すると中実基材の表面近傍の一部が軟化して配置された生体活性物質と強固に密着する。加熱温度の下限は、(Tg−30)℃であり、中実基材と生体活性物質とをさらに強固に密着させることができる点で、ガラス転移温度(Tg)以上であるのが好ましく、ガラス転移温度(Tg)+40℃であるのが特に好ましく、加熱温度の上限は、熱可塑性樹脂の融点未満であり、中実基材と生体活性物質とをさらに強固に密着させることができる点でガラス転移温度(Tg)+80℃であるのが好ましい。なお、この発明において、熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)は熱可塑性樹脂が複数のガラス転移温度を有している場合には最も低いガラス転移温度である。
【0067】
この加熱する工程において、中実基材を加熱する時間すなわち前記加熱温度に保持する時間は、中実基材の表面近傍を軟化可能な時間であればよく、中実基材と生体活性物質とをさらに強固に密着させることができる点で、1時間以上であるのが好ましく、3時間以上であるのが特に好ましい。加熱する時間の上限値は、特に限定されず、大幅に長くしても生体活性物質の基材に対する密着度の向上は見込めないので経済的又は作業効率等を考慮すると、例えば、24時間とすることができる。中実基材の加熱方法は公知の加熱方法を適宜に採用できる。このようにして中実基体の表面に配置された生体活性物質を固定化することができる。
【0068】
このようにして生体活性物質が固定化された中実基材をそのまま用いることができるし、また、所望形状に成形又は整形して用いることもできる。生体活性物質が固定化された中実基材をそのまま用いる場合には、中実基材の準備時に所望形状に成形されているのが好ましく、前記加熱する工程によって得られた、生体活性物質が固定化された中実基材が生体インプラントとなる。一方、加熱する工程によって得られた、生体活性物質が固定化された中実基材を成形する場合には、成形して得られた成形体が生体インプラントとなる。この発明においては、固定化された生体活性物質が脱落する懸念があるので生体活性物質が固定化された中実基材をそのまま用いるのが好ましい。
【0069】
この発明に係る製造方法において、外形を所望形状に成形又は整形する工程は、生体活性物質を固定化させた後、好ましくは中実基材の準備時に実施される。この成形する工程は、公知の成形方法等によって、熱可塑性樹脂又は生体活性物質が固定化された中実基材を、生体内の適用部位に適合する形状、粒子状、繊維状、ブロック状、フィルム状等に成形する。生体内の適用部位に適合する形状は、具体的には、骨欠損部又は歯欠損部等の形状と同様の形状、骨欠損部又は歯欠損部等の形状に相当する形状、例えば、相似形等が挙げられる。
【0070】
このようにしてこの発明に係る製造方法が実施され、中実基体を有する生体インプラントが製造される。
【0071】
この発明に係る生体インプラントの製造方法の別の一例として複層基材を有する生体インプラントを製造する方法(この発明に係る別の製造方法と称する。)を以下に説明する。この発明に係る別の製造方法で製造される生体インプラントは、前記した通りであり、具体的には、熱可塑性樹脂からなる実質部及び表面層を有する複層基材と表面層の表面に前記固定化評価を満足するように分散又は散在した状態に固定化された生体活性物質とを有している。
【0072】
この発明に係る別の製造方法は、複層基材の表面層の表面に生体活性物質を配置する工程の前に、表面層を形成する工程を実施すること以外はこの発明に係る製造方法と基本的に同様である。したがって、この発明に係る別の製造方法においては複層基材及び生体活性物質を準備する。
【0073】
例えば、ミクロ多孔基材を準備する場合には、ミクロ表面層を形成する工程として、例えば、(1)熱可塑性樹脂で形成した中実基材を濃硫酸又は濃硝酸、クロム酸等の腐食性溶液に浸漬する工程、(2)ショ糖等の低分子水溶性有機物質又は塩化ナトリウム等の低分子水溶性無機物質を熱可塑性樹脂に分散させて溶融成形し、次いで、得られた成形体を低分子水溶性有機物質又は低分子水溶性無機物質が溶出する水等の溶媒に所定時間浸漬する工程、(3)熱可塑性樹脂と共に発泡剤等を使用する工程、(4)熱可塑性樹脂の粒子の表面を溶着させて多孔体を形成する工程等の公知の工程が挙げられる。これら工程のうちいずれかの工程によって実質部とミクロ表面層とを有するミクロ多孔基材を作製する。したがって、ミクロ表面層を形成する工程は実質部とミクロ表面層とを有するミクロ多孔基材、すなわち、熱可塑性樹脂で多孔質構造のミクロ表面層を有するミクロ多孔基材を作製する工程ということもできる。
【0074】
一方、表面発泡基材を準備する場合には、表面発泡層を形成する工程として、例えば、(5)熱可塑性樹脂で形成した中実基材を濃硫酸又は濃硝酸、クロム酸等の腐食性溶液に浸漬した後、さらに発泡剤に含漬させた後発泡溶液に浸漬する工程等の公知の工程が挙げられる。この工程によって実質部と表面発泡層とを有する表面発泡基材を作製する。したがって、表面発泡層を形成する工程は実質部と表面発泡層とを有する表面発泡基材、すなわち、熱可塑性樹脂で多孔質構造の表面発泡層を有する表面発泡基材を作製する工程ということもできる。前記(1)及び(5)は、例えば国際公開第2009/095960号パンフレット等に記載された方法と基本的に同様である。具体的には、前記(5)の工程は、熱可塑性樹脂で形成した中実基材を腐食性溶液に浸漬して小径気孔を形成することにより微小径気孔基材を得るサブ工程1(前記(1)の工程に相当する。)と、前記サブ工程1で得られたミクロ多孔基材(微小気孔基材とも称する。)を発泡剤を含有する溶液に浸漬することにより発泡剤保持基材を得るサブ工程2と、前記サブ工程2で得られた発泡剤保持基材を、プラスチックを膨潤させ、かつ発泡剤を発泡させる発泡溶液に浸漬することにより発泡基材を得るサブ工程3と、前記サブ工程3で得られた発泡基材を膨潤したプラスチックを凝固させる凝固溶液に浸漬するサブ工程4とを有している。なお、この複層基材は、中実基材と同様に成形する工程、表面を調整する工程及び洗浄する工程を経て、作製されてもよい。
【0075】
この発明に係る別の製造方法においては、次いで、準備した複層基材の表面に生体活性物質を配置する工程を実施する。この配置する工程は、この発明に係る製造方法における配置する工程と基本的に同様である。この発明に係る別の製造方法においては、好適な「生体活性物質の懸濁液に中実基材を浸漬させる工程」に代えて、「生体活性物質形成液に中実基材を浸漬させて中実基材の表面に生体活性物質を生成させる工程」について説明する。この生成させる工程は、好適例として、表面層を有する複層基材を、少なくとも10mMのカルシウムイオンを含む溶液及び少なくとも10mMのリン酸イオンを含む溶液の両方にいずれか先に浸漬する工程が挙げられる。この発明においては、前記した加熱する工程を実施するから、カルシウムイオン及びリン酸イオンの濃度はこれらが基材の表面に析出する程度の濃度であればその下限は10mM程度の低濃度にすることができる。なお、この生成させる工程は中実基体にも適用できる。
【0076】
この生成させる工程においては、複層基材を2種類の溶液に浸漬する順序は特に限定されないが、例えば生体活性物質として水酸アパタイトを表面層内に生成させる場合は、水酸アパタイトの溶解度がより低いアルカリ域で生成反応が進むことが生成量の面から好ましく、そのため、後半に浸漬する溶液のpHがpH8〜10のアルカリ域であることが好ましい。したがって、この生成させる工程は、複層基材を少なくとも10mMのカルシウムイオンを含む溶液に所定時間浸漬するCa浸漬サブ工程を実施した後に、複層基材を少なくとも10mMのリン酸イオンを含む溶液に浸漬するP浸漬サブ工程を実施するのが好ましい。
【0077】
この生成される工程において、複層基材を少なくとも10mMのカルシウムイオンを含む溶液に所定時間浸漬するCa浸漬サブ工程を実施する。このカルシウムイオンを含む溶液は、少なくともカルシウムイオンを含んでいればよく、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、炭酸イオン、ケイ酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、塩素イオン、水素イオン等を含んでいてもよいが、リン酸イオンは実質的に含んでいない方が好ましい。カルシウムイオンを含む溶液としては、通常、水溶性が高く人体に悪影響を与えないカルシウム化合物の水溶液を挙げることができ、例えば、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、硝酸カルシウム、蟻酸カルシウム、酢酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、酪酸カルシウム、乳酸カルシウム及びこれらの混合物の水溶液が挙げられ、塩化カルシウムの水溶液が好適に挙げられる。
【0078】
この生成させる工程においては、次いで、複層基材を少なくとも10mMのリン酸イオンを含む溶液に浸漬するP浸漬サブ工程を実施する。このリン酸イオンを含む溶液は、少なくともリン酸イオンを含んでいればよく、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、炭酸イオン、ケイ酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、塩素イオン、水素イオン等を含んでいてもよいが、カルシウムイオンは実質的に含んでいない方が好ましい。リン酸イオンを含む溶液としては、通常、水溶性が高く人体に悪影響を与えないリン酸化合物の水溶液を挙げることができ、例えば、リン酸、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム及びこれらの混合物の水溶液が挙げられ、リン酸水素二カリウムの水溶液が好適に挙げられる。
【0079】
Ca浸漬サブ工程及びP浸漬サブ工程において、浸漬時間はそれぞれ1分〜5時間であるのが好ましく、3分〜3時間であるのが特に好ましい。浸漬時間を1分〜5時間の範囲内にすると、十分にカルシウムイオン又はリン酸イオンが表面層の内部まで染み込み、また、生体活性物質が十分生成されることにより表面層に生体活性物質が強固に固定化される。Ca浸漬サブ工程及びP浸漬サブ工程において、浸漬温度はそれぞれ複層基材を形成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度−30℃未満、具体的には10〜50℃とされるのが好ましく、浸漬される複層基材の体積はこれら溶液100mLに対して0.01〜20cm3とすることができる。
【0080】
この生成させる工程においては、生体活性物質が配置された複層基材を超音波照射しつつ純水に浸漬して洗浄するサブ工程、乾燥するサブ工程等を実施することができる。
【0081】
このようにしてCa浸漬サブ工程及びP浸漬サブ工程を実施すると、複層基材の表面層の多孔質構造を有する全ての部分又は多孔質構造を有する部分の中でもさらに表面に生体活性物質が付着生成し、洗浄するサブ工程及び乾燥するサブ工程を実施しても、その殆どが複層基材の表面から脱落しない。このようにして複層基材における表面層の表面に生体活性物質を配置することができる。この「生成させる工程」において生成される生体活性化合物は前記条件を満足する低結晶性の生体活性化合物である。
【0082】
この発明に係る別の製造方法においては、このようにして実施された配置する工程に次いで、生体活性物質が表面に配置された複層基材を熱可塑性樹脂のガラス転移温度−30℃以上融点未満の加熱温度に加熱する工程を実施する。この加熱する工程はこの発明に係る製造方法における加熱する工程と基本的に同様にして実施される。なお、表面層は加熱する工程においても多孔質構造が破壊されることはない。このようにして複層基材の表面に配置された生体活性物質を固定化することができる。
【0083】
このようにして生体活性物質が固定化された複層基材は、前記中実基材と同様に、そのまま用いられることができるし、また、所望形状に成形又は整形して用いられることもできる。したがって、この発明に係る別の製造方法における外形を所望形状に成形又は整形する工程はこの発明に係る製造方法における外形を所望形状に成形又は整形する工程基本的に同様である。なお、この発明に係る別の製造方法において、中実基体を所望の形状成形、整形及び/又は調製した後に表面層を形成することもできるし、中実基体に表面層を形成した後に所望形状に成形、整形及び/又は調製することもできる。
【0084】
このようにして、この発明に係る別の製造方法が実施され、複層基体を有する生体インプラントが製造される。
【0085】
この発明に係る生体インプラント及び生体インプラントの製造方法は、前記した例に限定されることはなく、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。
【実施例】
【0086】
(実施例1)
ポリエーテルエーテルケトン(ガラス転移温度143℃、融点340℃、弾性率4.2GPa、曲げ強度170MPa)で形成された円盤体(直径10mm、厚さ2mm、Victrex製450G)の表面をサンドペーパー(#4000)で研磨した後に、純水中に浸漬させて超音波照射して洗浄し、中実基材を準備した。また、エタノール200mLにHAP(水酸アパタイト)(太平化学株式会社、HAP−200、粒子形状:柱状、粒子径0.1〜1μm(インターセプト法)、前記半価幅0.2°)3.0gを投入して、周波数20kHzで出力200Wのホモジナイザーで10分処理して、水酸アパタイトの粒子をエタノールに分散させ、エタノール懸濁液を調製した。
【0087】
作製したエタノール懸濁液200mLに中実基体を投入して1時間激しく撹拌した後に、中実基体をエタノール懸濁液から取り出して純水で洗浄した。この中実基材を220℃で3時間加熱した後に常温まで降温して実施例1の生体インプラントを製造した。この生体インプラントに固定化された水酸アパタイトの粒子は使用した粒子の粒子形状、粒子径及び前記半価幅を維持していた。
【0088】
(実施例2)
前記中実基材の加熱温度を180℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして実施例2の生体インプラントを製造した。
【0089】
(実施例3)
前記中実基材の加熱時間を1時間に変更したこと以外は実施例1と同様にして実施例3の生体インプラントを製造した。
【0090】
(実施例4)
前記中実基材の加熱時間を24時間に変更したこと以外は実施例1と同様にして実施例4の生体インプラントを製造した。
【0091】
(実施例5)
水酸アパタイト粒子として、リン酸水素カルシウム二水和物(関東化学株式会社製)と炭酸カルシウム(キシダ化学株式会社製)をCa/P比1.67に調整し、ポットを用い水中で粉砕混合した後、900℃で仮焼して得られた(メカノケミカル合成法)水酸アパタイト粒子(粒子形状:球状、粒子径0.05〜0.5μm、前記半価幅0.17)を用いたこと以外は実施例1と同様にして実施例5の生体インプラントを製造した。
【0092】
(実施例6)
前記基材の加熱温度を120℃としたこと以外は実施例5と同様にして実施例6の生体インプラントを製造した。
【0093】
(実施例7)
前記中実基材に代えて下記方法で作製した表面発泡基材(第1表において「発泡」と表記する。)を用いたこと以外は実施例5と同様にして実施例7の生体インプラントを製造した。
【0094】
<表面発泡基材の作製>
PEEKで形成される円盤体(直径10mm、厚さ2mm、Victrex社製450G)の表面をサンドペーパー(#1000)で研磨し、濃硫酸(濃度:97%)に5分間浸漬した。濃硫酸から引き上げた円盤体を純水に5分間浸漬し、その後純水のpHが中性になるまで繰り返し洗浄し、多孔質構造のミクロ表面層を有するミクロ多孔基材を得た(サブ工程1)。このミクロ表面層の表面を走査型電子顕微鏡にて観察したところ、多数の気孔を有し、これらの気孔の気孔径は1〜2μmであり、内部は網目構造となっていた。
【0095】
次いで、このミクロ多孔基材を炭酸カリウム水溶液(濃度:3M)に60分間浸漬することにより、ミクロ表面層の表面に炭酸カリウムを保持させて発泡剤保持基材を得た(サブ工程2)。この発泡剤保持基材を発泡溶液である濃硫酸(濃度:97%)に1分間浸漬することにより、発泡剤保持基材におけるPEEKの表面を膨潤させるのと同時に発泡剤保持基材における炭酸カリウムを発泡させて発泡基材を得た(サブ工程3)。
【0096】
この発泡基材を濃硫酸から引き上げて濃度が86%の硫酸に5分間浸漬した。次いで、この発泡基材を硫酸から引き上げて純水に10分間浸漬することによりPEEKの表面を凝固させ(サブ工程4)、純水のpHが中性になるまで繰り返し洗浄した後に、80℃で3時間乾燥させて表面発泡基材を得た。得られた表面発泡基材の表面を300倍の低倍率及び10000倍の高倍率で撮影した走査型電子顕微鏡写真をそれぞれ図22及び図23に示す。
【0097】
拡大率300倍で撮影した各写真を利用して、上述したように大径気孔の各長径及び短径を測定し、これらの測定値の算術平均を算出したところ、大径気孔の平均気孔径は92μmであった。
【0098】
表面発泡体の表面を走査型電子顕微鏡により撮影した写真を画像解析ソフト(Scion社製 Scion Image)を使用して、大径気孔とそれ以外の部分とに2値化することにより、写真全体の面積に対する気孔径10〜200μmの大径気孔の面積割合を算出したところ、65%であった。
【0099】
(実施例8)
前記水酸アパタイト粒子として、メカノケミカル合成法にて合成し、700℃で仮焼して得られた粒子(粒子形状:球状、粒子径0.01〜0.1μm、前記半価幅0.26)を用いたこと以外は実施例7と同様にして実施例8の生体インプラントを製造した。
【0100】
(実施例9)
前記水酸アパタイト粒子として、メカノケミカル合成法にて合成し、1100℃で仮焼して得られた粒子(粒子形状:球状、粒子径0.1〜5μm、前記半価幅0.15)を用いたこと以外は実施例7と同様にして実施例9の生体インプラントを製造した。
【0101】
(実施例10)
実施例7で作製したミクロ多孔基材を用いたこと以外は実施例5と同様にして実施例10の生体インプラントを製造した。
【0102】
(比較例1)
前記中実基材の加熱温度を80℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして比較例1の生体インプラントを製造した。
【0103】
(比較例2)
前記中実基材の加熱温度を80℃に変更したこと以外は実施例5と同様にして比較例2の生体インプラントを作製した。
【0104】
(生体インプラントの表面観察)
実施例1において、純水で洗浄した後の中実基体の表面を走査型電子顕微鏡(拡大率3000及び10000倍)で観察したときの走査型電子顕微鏡写真を図1に示す。図1において白色の部分が水酸アパタイトである。図1に示されるように、エタノール懸濁液に浸漬させて純水で洗浄しても水酸アパタイトは中実基材の表面に付着していることが分かった。
【0105】
実施例1、2、5〜9並びに比較例1及び2で製造した生体インプラントそれぞれの表面を走査型電子顕微鏡(拡大率10000倍)で観察したときの走査型電子顕微鏡写真をそれぞれ、図2、図4、図6、図8、図10、図12及び図14並びに図17及び図19に示す。これらの図面において白色の部分が水酸アパタイトである。
【0106】
実施例1及び2並びに比較例1の生体インプラントは、図2及び図4並びに図17に示されるように、その表面に水酸アパタイトが付着していることが分かった。また、水酸アパタイトとして実施例1等のHAP−200に代えて「900℃で仮焼して得られた水酸アパタイト(メカノケミカル合成、900℃仮焼)」を用いた実施例5及び6並びに比較例2の生体インプラントも、図6及び図8並びに図19に示されるように、その表面に水酸アパタイトが付着していることが分かった。さらに、基材として実施例1等の中実基材に代えて表面発泡基材を用いた実施例7〜9の生体インプラントも、図10及び図12並びに図14に示されるように、その表面発泡基材の表面に水酸アパタイトが付着していることが分かった。
【0107】
(照射前の被覆率)
実施例1〜10並びに比較例1及び2で製造した生体インプラントそれぞれの、水酸アパタイトによる照射前の被覆率(面積%)をその表面における3箇所を観測領域(100μm2)として前記のようにして撮影した顕微鏡写真を用いて算出し、これら3点の算術平均値を得た。その結果を「被覆率(%) 照射前」として第1表に示す。
【0108】
(照射後の被覆率)
実施例1〜10並びに比較例1及び2で製造した生体インプラントそれぞれに周波数38kHzで出力200Wの超音波を水中で10分照射した後の、水酸アパタイトによる被覆率(面積%)を前記のようにして算出し、これら3点の算術平均値を得た。その結果を「被覆率(%) 照射後」として第1表に示す。このようにして照射後の被覆率(面積%)を算出するときに撮影した、実施例1、2、5〜10並びに比較例1及び2それぞれの超音波照射後の走査型電子顕微鏡写真を、図3、図5、図7、図9、図11、図13及び図15、図16並びに図18及び図20に示す。これらの図面において白色の部分が水酸アパタイトである。
【0109】
(水酸アパタイトの固定化評価)
前記固定化評価による水酸アパタイトの固定化力として、前記のようにして算出した照射後の被覆率(面積%)を照射前の被覆率(面積%)で除した値(%)を算出し、第1表に「残存率(%)」として示した。
【0110】
その結果、実施例1〜10の生体インプラントは、第1表に示されるように、水酸アパタイトの「残存率(%)」が20%を超えていた。特に、実施例1〜3の生体インプラントは、第1表並びに例えば図3及び図5に示されるように、水酸アパタイトの「残存率(%)」が20%を大きく超えていた。また、実施例1における図2及び図3、実施例2における図4及び図5をそれぞれ対比すると、各実施例において、超音波照射前と後とでは中実基材の表面に配置された水酸アパタイトの数は大きく変化していなかった。このように、実施例1〜3の生体インプラントは水酸アパタイトが中実基材の表面に強固に固定化されていることが確認でき、生体骨との高い結合能を発揮することが十分に推測される。
【0111】
一方、比較例1の生体インプラントは、第1表及び図18に示されるように、水酸アパタイトの「残存率(%)」が20%未満であった。また、比較例1における図17及び図18を対比すると、中実基材の表面に配置された水酸アパタイトが大幅に減少しており、水酸アパタイトが中実基材の表面に固定化されてなく脱落したことが分かった。
【0112】
また、水酸アパタイトとして実施例1等のHAP−200(第1表において「HAP1」と表記されている。)に代えて「900℃で仮焼して得られた水酸アパタイト(メカノケミカル合成、900℃仮焼)」(第1表において「HAP2」と表記されている。)を用いた実施例5及び6の生体インプラントも、第1表並びに図7及び図9に示されるように、水酸アパタイトの「残存率(%)」が20%を大きく超えていた。さらに、実施例5における図6及び図7、実施例7における図8及び図9をそれぞれ対比すると、各実施例において、超音波照射前と後とでは中実基材の表面に配置された水酸アパタイトの数は大きく変化していなかった。このように、このように水酸アパタイトの種類を変化させても本願発明の生体インプラント、具体的には実施例5及び6の生体インプラントは、水酸アパタイトが中実基材の表面に強固に固定化されていることが確認でき、生体骨との高い結合能を発揮することが十分に推測される。
【0113】
一方、比較例2の生体インプラントは、第1表及び図20に示されるように、水酸アパタイトの「残存率(%)」が20%には遠く及ばなかった。また、比較例2における図19及び図20を対比すると、中実基材の表面に配置された水酸アパタイトが大幅に減少しており、水酸アパタイトが中実基材の表面に固定化されてなく脱落したことが分かった。
【0114】
さらに、基材として実施例1等の中実基材に代えて表面発泡基材を用いた実施例7〜9の生体インプラントもミクロ多孔基材を用いた実施例10の生体インプラントも、第1表並びに図11、図13、図15及び図16に示されるように、水酸アパタイトの「残存率(%)」が20%を大きく超えていた。さらに、実施例7における図10及び図11、実施例8における図12及び図13並びに実施例9における図14及び図15をそれぞれ対比すると、各実施例において、超音波照射前と後とでは表面発泡基材の表面に配置された水酸アパタイトの数は大きく変化していなかった。このように、このように基材の種類を表面発泡基材に代えてもまたミクロ多孔基材に代えても、本願発明の生体インプラント、具体的には実施例7〜10の生体インプラントは、水酸アパタイトが表面発泡基材及びミクロ多孔基材の表面に強固に固定化されていることが確認でき、生体骨との高い結合能を発揮することが十分に推測される。
【0115】
(水酸アパタイトの固定状態)
実施例1で製造した生体インプラントを樹脂埋めした後にCP加工して新鮮断面を露出させ、この新鮮断面を走査型電子顕微鏡(拡大率10000倍)で観察した。このときの走査型電子顕微鏡写真を図21に示す。図21において白色の部分が水酸アパタイトである。その結果、中実基材に固定化されている水酸アパタイトの粒子は中実基材内に埋入せず表面に付着した状態にあってその大部分が露出していたが確認された。
【0116】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0117】
この発明に係る生体インプラントは、基材の持つ力学特性を損なうことなく発揮して荷重が掛かる部位にも適用可能であると共に、生体活性物質が基材から高度に脱落しにくく生体骨との高い結合能を発揮するから、骨が欠損した欠損部、特に荷重の掛かる欠損部を治療する際の医療部材、例えば、骨補填材、人工関節部材、骨接合材、人工椎体、椎体間スペーサ、椎体ケージ及び人工歯根等として、好適に利用することができる。
【0118】
この発明に係る生体インプラントの製造方法は、高価又は特殊な装置を必要とせずに簡易な方法であるにもかかわらず、基材の表面に分散又は散在した状態で生体活性物質を強固に固定化させることができるから、この発明に係る生体インプラントの製造に好適に利用できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂からなる基材の表面に生体活性物質が固定化された生体インプラントを製造する生体インプラントの製造方法であって、
前記生体活性物質が表面に配置された基材を前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度−30℃以上、融点未満の加熱温度に加熱する工程を有することを特徴とする生体インプラントの製造方法。
【請求項2】
前記加熱温度は、前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上、融点未満であることを特徴とする請求項1に記載の生体インプラントの製造方法。
【請求項3】
前記加熱する工程は、前記基材を前記加熱温度で1時間以上加熱する工程であることを特徴とする請求項1又は2に記載の生体インプラントの製造方法。
【請求項4】
前記基材の表面に前記生体活性物質を配置する工程を有し、
この配置する工程は生体活性物質の懸濁液に前記基材を浸漬させる工程を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の生体インプラントの製造方法。
【請求項5】
熱可塑性樹脂で多孔質構造の表面層を有する基材を作製する工程を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の生体インプラントの製造方法。
【請求項6】
熱可塑性樹脂からなる基材とその表面に配置された生体活性物質とを有する生体インプラントであって、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の生体インプラントの製造方法によって製造され、
前記生体活性物質は、前記生体インプラントに200Wの超音波を10分照射したときに、100μm2の観測領域において超音波を照射する前に前記基材の表面に配置されていた前記生体活性物質による表面被覆率(面積%)に対して20%以上の表面被覆率(面積%)で残存するように、前記基材の表面にのみ分散又は散在した状態に固定化されていることを特徴とする生体インプラント。
【請求項7】
前記基材は、前記生体活性物質が固定化される多孔質構造の表面層を有していることを特徴とする請求項6に記載の生体インプラント。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂は、エンジニアリングプラスチックであることを特徴とする請求項6又は7に記載の生体インプラント。
【請求項9】
前記エンジニアリングプラスチックは、ポリエーテルエーテルケトンであることを特徴とする請求項8に記載の生体インプラント。
【請求項10】
前記生体活性物質は、リン酸カルシウム化合物及び生体活性ガラスの少なくとも1種であることを特徴とすることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載の生体インプラント。
【請求項11】
前記リン酸カルシウム化合物は、水酸アパタイトであることを特徴とする請求項10に記載の生体インプラント。
【請求項12】
前記リン酸カルシウム化合物は、リン酸三カルシウムである請求項10に記載の生体インプラント。
【請求項1】
熱可塑性樹脂からなる基材の表面に生体活性物質が固定化された生体インプラントを製造する生体インプラントの製造方法であって、
前記生体活性物質が表面に配置された基材を前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度−30℃以上、融点未満の加熱温度に加熱する工程を有することを特徴とする生体インプラントの製造方法。
【請求項2】
前記加熱温度は、前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上、融点未満であることを特徴とする請求項1に記載の生体インプラントの製造方法。
【請求項3】
前記加熱する工程は、前記基材を前記加熱温度で1時間以上加熱する工程であることを特徴とする請求項1又は2に記載の生体インプラントの製造方法。
【請求項4】
前記基材の表面に前記生体活性物質を配置する工程を有し、
この配置する工程は生体活性物質の懸濁液に前記基材を浸漬させる工程を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の生体インプラントの製造方法。
【請求項5】
熱可塑性樹脂で多孔質構造の表面層を有する基材を作製する工程を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の生体インプラントの製造方法。
【請求項6】
熱可塑性樹脂からなる基材とその表面に配置された生体活性物質とを有する生体インプラントであって、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の生体インプラントの製造方法によって製造され、
前記生体活性物質は、前記生体インプラントに200Wの超音波を10分照射したときに、100μm2の観測領域において超音波を照射する前に前記基材の表面に配置されていた前記生体活性物質による表面被覆率(面積%)に対して20%以上の表面被覆率(面積%)で残存するように、前記基材の表面にのみ分散又は散在した状態に固定化されていることを特徴とする生体インプラント。
【請求項7】
前記基材は、前記生体活性物質が固定化される多孔質構造の表面層を有していることを特徴とする請求項6に記載の生体インプラント。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂は、エンジニアリングプラスチックであることを特徴とする請求項6又は7に記載の生体インプラント。
【請求項9】
前記エンジニアリングプラスチックは、ポリエーテルエーテルケトンであることを特徴とする請求項8に記載の生体インプラント。
【請求項10】
前記生体活性物質は、リン酸カルシウム化合物及び生体活性ガラスの少なくとも1種であることを特徴とすることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載の生体インプラント。
【請求項11】
前記リン酸カルシウム化合物は、水酸アパタイトであることを特徴とする請求項10に記載の生体インプラント。
【請求項12】
前記リン酸カルシウム化合物は、リン酸三カルシウムである請求項10に記載の生体インプラント。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
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【図5】
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【図11】
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【図13】
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【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2013−22234(P2013−22234A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159792(P2011−159792)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】
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