説明

生分解性形状保持材料

【課題】本発明の目的は、成形体を構成する成分がいずれも生分解する安全な材料であり、物性安定性に優れ、かつ小さな力で変形、造形でき、しかも力を除いた後はその変形ないし造形を維持することができる生分解性形状保持材料を提供することにある。
【解決手段】乳酸系脂肪族ポリエステル(A)に対し、添加剤(B)を含む樹脂組成物を延伸することにより得られる生分解性の形状保持材料であって、該添加剤(B)が、アスパラギン酸またはこはく酸イミド骨格を主体とするセグメント(b−1)、および乳酸系脂肪族ポリエステルを主体とするセグメント(b−2)を有する樹脂であり、かつ前記樹脂組成物を少なくとも一軸方向に延伸したことを特徴とする生分解性形状保持材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性形状保持材料に関する。詳しくは分解する速度が速く、小さな力で変形、造形でき、しかも力を除いた後はその変形ないし造形を維持することができる生分解性形状保持材料に関する。特に針金や金網に変わる結束材、ネット、保型線材等として好適な繊維状又は帯状生分解性形状保持材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、折り曲げたり捻ったりした場合に元に戻らない塑性変形性が要求される結束材料やネット、保型線材、たとえば植木の結束、果樹の保護袋、果実棚の作成、電気配線の結束、食品袋包装用ツイストタイ、産業用マスクの鼻金材等には、捻ることで簡単に止着できることから針金や金網が使用されている。しかしこれらは材質が金属のため錆が発生しやすいことや、導電性を有するため電気配線等への利用は使用範囲が限られること、さらに端部が鋭利なため結束時に負傷する場合があるなどの欠点があった。このような金属材料を使用することによる欠点を回避するものとして、鋼線を2枚の合成樹脂フィルム間に挟持させたものや合成樹脂で被覆したものが利用されている。これらは廃棄物として処理する際に分別収集ができないこと、土中や水中に放出された場合、分解されずに環境中に残留すること、製造に複数の工程を要し価格が高くなること、食品中への金属性異物混入を検知するため使用される金属探知機が、結束紐を異物として検出してしまい、探知機の誤動作の原因となるなどの欠点があった。さらに、合成樹脂製の塑性変形性材料が提案されている。例えば特開昭61−282416号公報(特許文献1)や特開平2−293407号公報(特許文献2)の各公報において、超高分子量ポリオレフィンを組成変形可能な程度に延伸させて得られるプラスチックワイヤーが提案されている。また、特開平7−238417号公報(特許文献3)では通常分子量のポリエチレンを延伸して得られる塑性変形性の糸状又は帯状の材料が提案されている。さらに特開2004−182761号公報(特許文献4)では塑性変形性を発現する最適なポリエチレン材料が提案されている。これらの提案で具体的に示されているものは、塑性変形性が優れ、形状保持性が優れることが示されているが、土中や水中に放出された場合分解されずに環境中に残留するという欠点は解決できない。
【0003】
特開平10−264961号公報(特許文献5)には充填材を含有した生分解性脂肪族ポリエステル樹脂を原料とした充填材含有芯材を、生分解性脂肪族ポリエステルを主材とするテープ部材にて被覆した生分解性結束紐が開示されている。特許文献5の実施例に記載されている結束紐は、土中において3か月経過した後にも完全に分解されなかったことが記載されているように、分解速度は原料の生分解性脂肪族ポリエステル樹脂に依存して調整できないこと、充填材の混合に際しては、表面処理剤の使用や充填材の種類により好適な粒径が異なることが記載されているように、混合に複数の工程を要し生産性に劣ること、無機質の充填材の場合は環境下での分解は期待されない等の欠点がある。また、例えば、食品袋包装用ツイストタイ、産業用マスクの鼻金材等、使用分野によっては、結束力として塑性変形性だけでなく変形の保持力が要求されるが、該発明においては、結束紐の塑性変形性には言及しているものの定量的でなく、形状保持性に関する記載も無い。
【0004】
さらに、特開2003−73531号公報(特許文献6)には脂肪族ポリエステルを主材とし、可塑剤および充填剤を含む生分解性結束材が開示されている。該可塑剤は液体または低融点成分が使用されており、生分解性脂肪族ポリエステル樹脂からのブリードアウトが発生し、それに伴って使用中にも物性に経時変化が生じるという問題が懸念される。
【特許文献1】特開昭61−282416号公報
【特許文献2】特開平2−293407号公報
【特許文献3】特開平7−238417号公報
【特許文献4】特開2004−182761号公報
【特許文献5】特開平10−264961号公報
【特許文献6】特開2003−73531号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記問題点を解決するため、成形体を構成する成分としていずれも生分解する安全な材料を用い、かつ小さな力で変形、造形でき、しかも力を除いた後はその変形ないし造形を維持することができ、ブリードアウトせず物性安定性に優れる生分解性形状保持材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、添加剤を含む乳酸系脂肪族ポリエステルは、短期間に環境中で分解し、形状保持強度に優れ、かつ分解促進効果を有することを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は下記[1]〜[5]を提供するものである。
[1]
乳酸系脂肪族ポリエステル(A)に対し、添加剤(B)を含む樹脂組成物を延伸することにより得られる生分解性の形状保持材料であって、該添加剤(B)が、アスパラギン酸またはこはく酸イミド骨格を主体とするセグメント(b−1)、および乳酸系脂肪族ポリエステルを主体とするセグメント(b−2)を有する樹脂であり、かつ前記樹脂組成物を少なくとも一軸方向に延伸したことを特徴とする生分解性形状保持材料。
[2]
添加剤(B)のセグメント(b−1)の構成単位のモル数とセグメント(b−2)の構成単位のモル数の合計量が、添加剤(B)を構成する全ての構成単位のモル数の95%以上である[1]記載の生分解性形状保持材料。
[3]
[1]〜[2]のいずれかに記載の生分解性形状保持材料が繊維状又は帯状であり、厚みが0.1〜5.0mmかつ捻り結束力の最大点荷重が0.6kgf以上である成形体。
[4]
[1]〜[3]のいずれかに記載の生分解性形状保持材料からなる結束材。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、材料を構成するすべての成分が生分解性を有し、物性安定性に優れる形状保持材料が得られる。本発明により提供される生分解性の形状保持材料は、優れた形状保持特性を有し、またすべての成分が生分解性を有するため農林水産業をはじめ、様々な用途に用いることが出来る。また、本発明によると液状可塑剤を含有することなく形状保持材が得られるため可塑剤のブリードアウトが発生せず、長期にわたる物性安定性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に本発明について具体的に説明する。
[乳酸系脂肪族ポリエステル(A)]
本発明の生分解性形状保持材料において使用するポリマーは、乳酸系脂肪族ポリエステル(A)であり、乳酸系脂肪族ポリエステル(A)とは、乳酸のホモポリマー(以下、「ポリ乳酸」という)、または乳酸と他の脂肪族ヒドロキシカルボン酸との共重合により得られるコポリマー(以下、「乳酸系コポリマー」という)である。
【0010】
乳酸には、L−体とD−体とが存在するが、本発明において単に乳酸という場合は、特にことわりがない限り、L−体とD−体との両者を指すこととする。また、ポリマーの分子量は特にことわりがない限り、重量平均分子量を指すこととする。
【0011】
本発明に用いるポリ乳酸としては、構成単位がL−乳酸のみからなるポリ(L−乳酸)、D−乳酸のみからなるポリ(D−乳酸)、及びL−乳酸単位とD−乳酸単位とが種々の割合で存在するポリ(DL−乳酸)等が挙げられる。
【0012】
乳酸と他の脂肪族ヒドロキシカルボン酸との共重合により得られるコポリマーの脂肪族ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸等が挙げられる。
本発明に用いるポリ乳酸および乳酸系コポリマーの製造方法として、L−乳酸、D−乳酸、またはDL−乳酸を直接脱水縮合する方法、これら各乳酸の環状2量体であるラクチドを開環重合する方法等が挙げられる。優れた機械的強度および耐熱性を付与するためには、得られた乳酸系ポリマーは結晶性であることが好ましく、そのためには、L−乳酸とD−乳酸を混合して用いる場合、L−乳酸又はD−乳酸の何れかが75重量%以上であることが好ましい。開環重合は、高級アルコール、ヒドロキシカルボン酸等の水酸基を有する化合物の存在下で行ってもよい。添加剤(B)は乳酸系脂肪族ポリエステルを主体とするセグメント(b−2)を有する樹脂であり、(A)における乳酸単位が多いほど(B)との相溶性に優れる。この結果、延伸加工をすることにより変形または造形しやすく、さらに変形または造形の保持性能に優れた材料を得ることができる。かかる点を考慮すると、共重合体に含まれる乳酸単位の量は少なくとも60モル%であることが好ましい。さらに好ましくは少なくとも70モル%である。
【0013】
乳酸系脂肪族ポリエステル(A)の分子量は、結束材への加工性、得られる結束材の強度及び分解性に影響を及ぼす。分子量が低いと得られる結束材の強度が低下し、使用する際に張力で破断することがある。また、分解速度が早くなる。さらに延伸することも困難である。逆に分子量が高いと加工性が低下し、添加剤(B)との混練性が低下するため、形状保持特性が低下する。かかる点を考慮すると、該脂肪族ポリエステル(A)の分子量は、5万〜50万の範囲が好ましい。さらに好ましい範囲は8万〜25万である。
【0014】
[添加剤(B)]
本発明の添加剤(B)は、アスパラギン酸またはこはく酸イミド骨格を主体とするセグメント(b-1)(以下、「セグメント(b-1)」という)、および乳酸系脂肪族ポリエステルを主体とするセグメント(b-2)(以下、「セグメント(b-2)」という)を有するブロック又はグラフト共重合体である生分解性ポリマーである。
【0015】
セグメント(b-1)の構成成分としては、例えば、アスパラギン酸が挙げられる。
また、セグメント(b-2)の構成成分としては、乳酸系ポリエステル鎖を主成分とし
、さらにポリエステル鎖とポリカーボネート鎖の両方を有していてもよい。
【0016】
セグメント(b-2)の好ましい態様は、乳酸またはラクチドからなる乳酸系ポリエス
テル鎖を主成分とし、さらに下記の二塩基酸及び二価アルコール類、ヒドロキシカルボン酸類、ラクチド類、ラクトン類、カーボネート類に由来する構造単位からなるものである。以下、その具体例を挙げて説明する。
1.二塩基酸及び二価アルコール類
脂肪族二価アルコールの具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレ
ングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナン
ジオール、ネオペンチルグリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4-シクロヘ
キサンジオールなどが挙げられる。
脂肪族二塩基酸の具体例としては、コハク酸、シュウ酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸などが挙げられる。
2.ヒドロキシカルボン酸類
例えば、α-ヒドロキシモノカルボン酸類(例えば、グリコール酸、乳酸、2-ヒドロキシ酪酸、2-ヒドロキシ吉草酸、2-ヒドロキシカプロン酸、2-ヒドロキシカプリン酸)、
ヒドロキシジカルボン酸類(例えば、リンゴ酸)、ヒドロキシトリカルボン酸類(例えば、クエン酸)などが挙げられる。
3.ラクチド類
例えば、グリコリド、ラクチド、p-ジオキサノン、1,4-ベンジルマロラクトナート、
マライトベンジルエステル、3-〔(ベンジルオキシカルボニル)メチル〕-1,4-ジオキサン-2,5-ジオン、テトラメチルグリコリドなどが挙げられる。
4.ラクトン類
例えば、β-プロピオラクトン、β-ブチロラクトン、α、α-ビスクロロメチルプロプオ
ラクトン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、3-n-プロピ
ル-δ-バレロラクトン、6,6-ジメチル-δ-バレロラクトン、3,3,6-トリメチル-1,
4-ジオキサン-ジオン、3,3,6-トリメチル-1,4-ジオキサン-ジオン、ε-カプロラクトン、ジオキセパノン、4-メチル-7-イソプロピル-ε-カプロラクトン、N-ベンジルオキシカルボニル-L-セリン-β-ラクトンなどが挙げられる。
5.カーボネート類
例えば、エチレンカーボネート、テトラメチレンカーボネート、トリメチレンカーボネート、ネオペンチレンカーボネートなどが挙げられる。
添加剤(B)におけるセグメント(b-2)の好ましい態様は、ヒドロキシカルボン酸類
、ラクチド類又はラクトン類に由来する構造単位のものである。具体例としては、前記の各化合物等が挙げられるが、特に、α-ヒドロキシカルボン酸、グリコリド、ラクチド、
p-ジオキサノン、β-プロピオラクトン、β-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-
カプロラクトンに由来する構造単位であることが好ましい。このうち、グリコール酸、乳酸、グリコリド、ラクチド又は、ε-カプロラクトンに由来する構造単位であることがよ
り好ましい。
【0017】
添加剤(B)の好ましい形態は、構造中に、セグメント(b−1)としてアスパラギン酸に由来する構成単位と、セグメント(b−2)として乳酸又はラクチド類を主成分とし、さらに二塩基酸及び二価アルコール類、ヒドロキシカルボン酸類、ラクチド類、ラクトン類又はカーボネート類に由来する共重合体からなる構成単位が共存する。
【0018】
添加剤(B)中には、セグメント(b-1)を構成するアスパラギン酸に由来する構成
単位が1モル%以上及びセグメント(b-2)を構成する構成単位が1モル%以上含まれ
ており、セグメント(b−1)の構成単位のモル数とセグメント(b−2)の構成単位のモル数の合計が添加剤(B)を構成する全ての構成単位のモル数の95%以上であることが好ましい。
添加剤(B)中のセグメント(b-1)のアスパラギン酸由来構成単位とセグメント(b-2)の構成単位とのモル比は、特に限定されるものではないが、好ましくは〔(b-1)の構成単位〕/〔(b-2)の構成単位〕=1/1〜1/50である。添加剤(B)中にはセグメント(b-1)のアスパラギン酸由来構成単位あるいはセグメント(b-2)の構成単位以外の構成要素が共重合により存在していてもよい。ただし、その量は添加剤(B)の性質を大きく損なわない程度であることが必要であり、かかる点を考慮すると、その量はおよそ5モル%以下である。
なお、アスパラギン酸は、脱水縮合してコハク酸イミド単位もつ重合体を生成するが、アスパラギン酸に由来する構成単位とは、コハク酸イミド単位をも含む意味である。また、添加剤(B)の構造に含まれるアスパラギン酸単位は、α-アミド型単量体単位およびβ-アミド型単量体単位が混在し得るものであり、両者の比は特に限定されない。
【0019】
添加剤(B)は、通常はアスパラギン酸と、ヒドロキシカルボン酸類、ラクチド類又はラクトン類との共重合反応により得られ、その製造方法は特に限定されない。一般には、アスパラギン酸とヒドロキシカルボン酸類等とを所望の比で混合し、加熱下に重合することにより得ることができる。
【0020】
添加剤(B)におけるセグメント(b-2)を構成する為に、好ましくは、α-ヒドロキシカルボン酸、グリコリド、ラクチド、p-ジオキサノン、2-ヒドロキシ酪酸、2-ヒド
ロキシ吉草酸、2-ヒドロキシカプロン酸、β-プロピオラクトン、β-ブチロラクトン、
δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトンからなる群より選択された少なくとも1種を用いる。さらに好ましくは、グリコール酸、乳酸、グリコリド、ラクチド、p-ジオキサノン
、2-ヒドロキシ酪酸、2-ヒドロキシ吉草酸、2-ヒドロキシカプロン酸、β-プロピオラクトン、β-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン及びε-カプロラクトンからなる群より
選択された少なくとも1種を用いる。特に好ましくは、グリコール酸、乳酸、グリコリド、ラクチド及びε-カプロラクトンからなる群より選択された少なくとも1種を用いる。
最も好ましくは、乳酸を用いる。
【0021】
添加剤(B)の分子量については、乳酸系脂肪族ポリエステル(A)と良好に混合できる点およびブリードアウトしない程度のガラス転移点(Tg)を有する点から、重量平均分子量がおよそ3000以上10万以下であることが好ましい。4000以上5万以下であることがより好ましく、5000以上2万以下であることがさらに好ましい。
Tgが低い高分子添加剤を成形体中に添加した場合には、使用環境によっては添加剤が成形体表面へブリードアウトする傾向にあり、添加剤がブリードアウトすると成形体の物性が変化するため、初期の良好な物性を保持できないという問題が生じる。したがって、Tgが使用環境より高い添加剤を加えることが好ましい。高分子材料のTgは分子量を上げることで高くすることができる。
【0022】
[生分解性材料]
本発明の生分解性材料は、乳酸系脂肪族ポリエステル(A)に対してこのようにして得られた共重合体である添加剤(B)を含有していることが好ましい。その混合比率は、乳酸系脂肪族ポリエステル(A)100重量部に対し、添加剤(B)は5〜40重量部である混合比率であることが好ましい。添加剤(B)の混合比率を高めると生分解性形状保持材料としての強度および形状保持特性が低下するため、好ましくない。
【0023】
乳酸系脂肪族ポリエステル(A)に添加剤(B)を混合した組成物は、成型加工性の点からキャピラリー粘度計により測定される粘度が成形温度において剪断速度102sec-1時に104Pa・s以下であることが好ましい。
【0024】
本発明では添加剤(B)を使用し、上記組成での材料を延伸することで、液状可塑剤を含有することなく形状保持特性を示す材料が得られた。添加剤(B)は乳酸乳脂肪族ポリエステルを主体とするセグメント(b−2)を有する樹脂であり、乳酸系脂肪族ポリエステル(A)との相溶性が良好であるため、(A)中に均一に微分散し、(A)のTgを低下する可塑剤様の効果を示す。そのため、得られた材料は小さな力で変形または造形が可能であり、変形または造形した後は安定した形状保持特性を示す。また、従来の可塑剤のようにブリードアウトが発生しないため、長期にわたる物性安定性に優れるという特徴を
持つ。
該組成物には目的に応じて各種添加剤、例えば、可塑剤、充填剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、難燃剤、離型剤、無機添加剤、結晶核剤、耐電防止剤、顔料、アンチブロッキング剤を付加成分として含有していても良い。ただし可塑剤はブリードアウトが発生しない程度の少量、好ましくは5%未満の添加に限られる。
【0025】
[成形体製造方法]
本発明の生分解性形状保持材料は、上記の添加剤(B)を含む乳酸系脂肪族ポリエステル(A)を、押出機を用いる溶融押出法による成形体を少なくとも一軸方向に延伸することによって得ることができる。該生分解性形状保持材料は、繊維状または帯状であることが好ましい。所望の形状の繊維状あるいは帯状の材料とする原反を得るための溶融押出温度は、好ましくは100〜230℃、より好ましくは180〜210℃の範囲である。成形温度が低いと成形安定性が得難く、また過負荷に陥り易く、また成形安定性を得難い。逆に、成形温度が高いと乳酸系ポリマーからなる脂肪族ポリエステルが分解することがあり、分子量および強度の低下、着色等が起こるため好ましくない。
【0026】
得られた成形体を機械方向(以下、MD方向という)に又はMD方向と直交する方向(以下、TD方向という)に一軸延伸するか、又は、MD方向及びTD方向に二軸延伸する。MD方向の延伸はロール延伸により、TD方向の延伸はテンター延伸によることが好ましい。本発明の生分解性結束材は、機械的強度を考慮すると、MD及びTD方向の少なくとも一軸方向に、2〜7倍延伸することが好ましい。延伸倍率が2倍以上であると、力学物性や寸法精度の経時安定性をもたらす結晶化が進行しやすい点で好ましい。また、7倍以下であると、延伸時に破れ、割れ等が生じることを抑制できる点で好ましい。延伸温度は用いる原料ポリマーのガラス転移温度(Tg)〜(Tg+50)℃の範囲が好ましい。ガラス転移温度未満では延伸が困難であり、ガラス転移温度+50℃を越えると均一な延伸が困難となる。
【0027】
また、寸法安定性や耐熱性を向上させるために延伸後緊張下でガラス転移温度(Tg)以上、融点未満で加熱しアニールを行うと良い。
本発明の生分解性形状保持材料は、目的に応じて工程条件を設定することにより、繊維状または帯状に製造することができる。繊維状物にあっては断面が円形のもののみならず楕円、多角形や異型のものであっても良い。
【0028】
例えば、本発明の生分解性形状保持材料を、先端に、幅20mm、厚み3mmのスリットを有するダイスを備えた押出機を用いて、シリンダー設定温度160〜200℃で溶融、押し出すことにより、幅10mm、厚み1mmの長さ方向(MD方向)に連続した板状物を得る。その後、得られた板状物をMD方向に5倍延伸し、130℃で60秒間熱処理することにより、幅5mm、厚み0.5mmの一軸延伸された帯状の材料が得られる。
【0029】
本成形体において繊維状あるいは帯状においては厚み(最大厚み、繊維状物にあっては直径)0.1〜5.0mm、特に0.2〜2mmであることが好ましい。
本発明の脂肪族ポリエステル製の生分解性結束材は、必要に応じて表面に帯電防止性、防曇性、粘着性、ガスバリヤー性、密着性および易接着性等の機能を有する層をコーティングにより形成することができる。例えば、結束材の片面あるいは両面に、帯電防止剤を含む水性塗工液を塗布、乾燥することによって帯電防止層を形成することができる。水性塗工液を塗布する方法は、公知の方法が適用できる。すなわち、スプレーコート方式、エアーナイフ方式、リバースコート方式、キスコート方式、グラビアコート方式、マイヤーバー方式、ロールブラッシュ方式等が適用できる。また、アクリル樹脂系粘着剤、例えば、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等を主成分とし、他のビニル系モノマーを共重合せしめたコポリマーを、有機溶剤中に均一に溶解した溶剤系および水中に粒子状に分散させた水エマルジョン系の塗布液を公知の方法でフィルムに塗布、乾燥させ、粘着性を付与することができる。
【0030】
また、本発明の脂肪族ポリエステル製の生分解性結束材は、必要に応じて、他樹脂およびフィルムをラミネートすることにより、帯電防止性、防曇性、粘着性、ガスバリヤー性、密着性および易接着性等の機能を有する層を形成することができる。その際、押出ラミ、ドライラミ等の公知の方法を用いることができる。
【0031】
本発明に関わる生分解性形状保持材料は、上記のようにして製造される。主たる特性として、捻り結束力の最大点荷重が0.6kgf以上であることが挙げられる。更に、生分解性を有することから使用後の廃棄処理が容易である。
【実施例】
【0032】
以下、実施例を示して本発明についてさらに詳細に説明する。この実施例における評価方法は、以下の通りである。
[1]捻り結束力の最大点荷重
10cmに切断した形状保持材料を図(a)に示すように3回捻り結束部を形成した後、図示する部位で切断し(b)に示すように広げ図示する方向に300mm/分の速度で引っ張ることにより結束力の最大点荷重〔kgf〕が測定される。
[2]形状保持性
10mmφの丸棒に形状保持材料を10回巻き付けて1分間保持した後開放し、そのまま5分間放置する。5分後の巻き回数を数えた結果から(式1)に従って形状保持性が測定される。
(式1)(開放5分後の巻き回数)/10(最初の巻き数)×100=形状保持率(%)[3]dtex
形状保持材料1万メートルあたりの重さを測定した。
[4]ポリマーの重量平均分子量(Mw)
ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(以下「GPC」という)により、ポリマーの重量平均分子量(以下「Mw」という)を求めた。標準物質にはポリスチレンを用いた。
【0033】
[添加剤(B)の合成]
[調製例1]
撹拌装置、脱気口をつけたガラス製反応器にL-アスパラギン酸13.3g(0.1モル
)および90%L-乳酸水溶液50g(乳酸0.5モル)を装入し、窒素気流下、180
℃で25時間反応させた。生成物を取り出して冷却固化させ、得られた固体を粉砕し、粉末状ポリマーとしてアスパラギン酸−乳酸共重合体(PAL)を得た。クロロホルム系GPCによるMwは9000であった。
【0034】
[実施例1]
ポリL-乳酸(PLA)(三井化学(株)製、LACEA H−400)95gに、調製
例1で得られたアスパラギン酸−乳酸共重合体(PAL)を5g添加し、先端に3.5mmΦの穴を10個有するダイスを備えた押出機により、シリンダー設定温度170〜190℃で溶融し、長さ方向に連続した棒状物を得た。得られた棒状物を60℃水槽にて冷却した後、80℃の延伸機にて長さ方向に3.5倍延伸し、90℃〜120℃で熱処理を行った後、20℃の水槽にて冷却し、0.66mmΦの生分解性結束材を得た。なお延伸倍率は、棒状成形体を延伸機へ導入するときの速度と延伸部分の引き取り速度の比より算出した。得られた生分解性結束材の評価結果を[表1]に示す。また、得られた生分解性結束材を40℃の空気中に放置したが、1週間後経過後も表面に変化は観察されなかった。
【0035】
[実施例2]
95℃の延伸機にて長さ方向に4倍延伸し、95℃〜120℃で熱処理を行ったこと以外は実施例1と同様にして生分解性結束材を得た。得られた生分解性結束材の評価結果を[
表1]に示す。
【0036】
[実施例3]
100℃の延伸機にて長さ方向に5倍延伸し、95℃〜120℃で熱処理を行ったこと以外は実施例1と同様にして生分解性結束材を得た。得られた生分解性結束材の評価結果を[表1]に示す。
【0037】
[実施例4]
ポリL-乳酸(PLA)(三井化学(株)製、LACEA H−400)90gに、調製
例1で得られたアスパラギン酸−乳酸共重合体(PAL)を10g添加し、90℃の延伸機にて長さ方向に4倍延伸し、90℃〜120℃で熱処理を行ったこと以外は実施例1と同様にして生分解性結束材を得た。得られた生分解性結束材の評価結果を[表1]に示す。
【0038】
[実施例5]
ポリL-乳酸(PLA)(三井化学(株)製、LACEA H−400)85gに、調製
例1で得られたアスパラギン酸−乳酸共重合体(PAL)を15g添加し、82℃の延伸機にて長さ方向に4倍延伸し、87℃〜120℃で熱処理を行ったこと以外は実施例1と同様にして生分解性結束材を得た。得られた生分解性結束材の評価結果を[表1]に示す。
【0039】
[比較例1]
ポリL-乳酸(PLA)(三井化学(株)製、LACEA H−400)100gを使用
して実施例1と同様にして生分解性結束材を得た。得られた生分解性結束材の評価結果を[表1]に示す。
【0040】
[比較例2]ポリL-乳酸(PLA)(三井化学(株)製、LACEA H−400)
100gに対して炭酸カルシウム粒子((株)同和カルファイン製、ACE−25)100重量部、およびアセチルクエン酸トリブチル(協和発酵(株)製)20重量部を使用して、実施例1と同様にして生分解性結束材を得た。得られた生分解性結束材を40℃の空気中に放置したところ、1週間後には表面にべたつきが発生した。
【0041】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0042】
上記実施例より、本発明に用いる生分解性結束材は特定量のブリードアウトの恐れがない添加剤を含有し、物性安定性、加水分解性および生分解性に優れ、また優れた形状保持性と結束力、並びに適度の柔軟性を有する。使用後に環境中へ放置しても速やかに崩壊および生分解が進行するため、また分解物は環境に対して無害な材料であるため、廃棄処理が容易である。従って、パン、菓子等の食品包装袋の開封部の結束材、栽培植物のつる・茎等の支柱への結束材、野菜類の結束材、果実保護袋の結束材、電線等線状物の結束材、等の生分解性結束材として、極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】捻り結束力の最大点荷重の測定方法の説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸系脂肪族ポリエステル(A)に対し、添加剤(B)を含む樹脂組成物を延伸することにより得られる生分解性の形状保持材料であって、該添加剤(B)が、アスパラギン酸またはこはく酸イミド骨格を主体とするセグメント(b−1)、および乳酸系脂肪族ポリエステルを主体とするセグメント(b−2)を有する樹脂であり、かつ前記樹脂組成物を少なくとも一軸方向に延伸したことを特徴とする生分解性形状保持材料。
【請求項2】
添加剤(B)のセグメント(b−1)の構成単位のモル数とセグメント(b−2)の構成単位のモル数の合計量が、添加剤(B)を構成する全ての構成単位のモル数の95%以上である請求項1記載の生分解性形状保持材料。
【請求項3】
請求項1〜2のいずれかに記載の生分解性形状保持材料が繊維状又は帯状であり、厚みが0.1〜5.0mmかつ捻り結束力の最大点荷重が0.6kgf以上である成形体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに生分解性形状保持材料からなる結束材。

【図1】
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【公開番号】特開2009−7489(P2009−7489A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−170757(P2007−170757)
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】