説明

生分解性素材光を用いたケーブル

【課題】伝送損失の少ないプラスチック光ケーブルを自然循環に沿ったもので構成する。
【解決手段】コア部、クラッド部、被覆部を含む光ファイバであって、コア材に生分解性バイオプラスチックを用い、クラッド材に前記生分解性バイオプラスチックと同じ材料あるいは添加剤を用いて屈折率を抑制した生分解性バイオプラスチックを用いる。コア部を、断面を円形あるいは矩形とする。また、コア部は、生分解性バイオプラスチックのクラッド部の中に設けられた複数のコアで構成する。また、クラッド部の中に設けるコア部の断面が、低屈折率領域に挟まれた領域、または、低屈折率領域に囲まれた領域となるようにすることで、コア部に光を閉じ込める。空洞は、円形あるいは矩形であって、コアを中心とする中心対称性を備えるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自然循環を考慮し、生分解性素材光を用いた光ケーブルで、特にそれを構成するプラスチック光ファイバに関している。
【背景技術】
【0002】
光ファイバには、大別すると石英系光ファイバとプラスチック光ファイバとがある。石英系光ファイバはマルチモードやシングルモードで用いられ、特に後者は伝送損失が小さく長距離の伝送に用いられるが、曲げに弱いという欠点がある。また、プラスチック光ファイバは、通常ファイバ径が0.1から3mm程度であって、マルチモードで使用されることもあり、伝送損失が大きく近距離の伝送に用いられる。しかし比較的曲げに強く、加工が容易で利用し易いという特徴があり、また、製造コストを低減し易いことから、将来、大量に使われることが予想されている。
【0003】
一般に、光ファイバは、屈折率が大きく光を伝搬させるコアと、屈折率が小さく光を反射させるクラッドと、これらの部分を保護するための被覆から構成されている。プラスチック光ファイバは、1964年にポリメタクリル酸メチル(PMMA)をコア材として開発され、その後、ステップインデックス型やグレーデッドインデックス型のマルチモード光ファイバが開発されている。
【0004】
これまでに、コア材としては、PMMA、ポリスチレン、ポリカーボネート、含重水素化ポリマー、フッ素系ポリマー、シリコン系ポリマー、ノルボルネン系ポリマーなどが従来検討されてきた。また、クラッドには、フッ素系ポリマーが一般に使用されている。また、被覆材として低密度ポリエチレンや軟質ポリ塩化ビニルなどが使われている。
【0005】
将来、近距離光接続に光ケープルが利用されたときに、そのケーブル使用量は膨大となることが予想されている。しかしながら、従来、光ファイバには石英やPMMAなどこれらの素材や複合素材構造の光ケーブルはゴミとして廃棄された後の自然循環が期待できず、環境破壊に直結してしまう。そこで本発明では、光ケーブルに生分解性プラスチックかつバイオプラスチックであるものを用い、石英系光ケープルで主として使われる赤外波長光の伝播にこの光ケーブルを利用することにより、自然循環を考慮した近距離光接続を実現するものである。
【0006】
ここで、生分解性プラスチックは生分解性があることが特徴であり、生物資源(バイオマス)由来のバイオプラスチックのものと、石油由来のものがある。主な生分解性プラスチックの成分として、ポリ乳酸、ポリカプロラクタム、変性ポリビニルアルコール、カゼイン等が知られている。また、石油から作られたものとしては、PET共重合体がある。
【0007】
また、バイオプラスチック(Bioplastic)とは、生物資源(バイオマス)から作られたプラスチックである。バイオプラスチックには生分解性を備えないものもあるが、その多くは生分解性プラスチックとしての性質を持つことが知られている。例えば、植物が二酸化炭素を元に光合成によってデンプンを作り出すが、そのデンプンから生分解性プラスチックの原料が作られる。この生分解性プラスチックは、微生物によって水と二酸化炭素に分解される。
【0008】
このようなバイオプラスチックであるポリ乳酸系樹脂について、特許文献1(特開2001−281450号公報)には、ポリ乳酸系樹脂を含むフィルム又はシート又はファイバの形状を有する光学素子が開示されている。ここでいう光学素子には、光ファイバや光ファイバの被覆材料が含まれている。また、特許文献2(特開2001‐281449号公報)には、ポリ乳酸の加工性能に基づいた光学素子作製の提案がなされている。
【0009】
しかしながら一般に光ケーブル作製では、その構成素材および応用分野に適した光波長、形状を述べない限り光ファイバを光ケーブルとして情報やエネルギー伝送に利活用することは困難であり、先行する特許のみでは産業上有益な光ケーブル作製が難しい。
【特許文献1】特開2001−281450号公報
【特許文献2】特開2001‐281449号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
低光伝送損失の光ケーブルを自然循環に沿った素材・形状で構成する。
【発明の効果】
【0011】
本発明を用いることによって、光通信に広く利用される赤外光波長帯域で低光損失、かつ自然循環に沿った光ケーブルを構成することができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、繊維状の形状をもち、コア部、クラッド部、被覆部を備える光ファイバを用いる光ケーブルであって、上記のコア部、クラッド部、被覆部は生分解性素材で構成されることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明は、上記コア部を構成するコア材に生分解性素材を用い、上記クラッド部を構成するクラッド材に前記生分解性素材と同じ材料あるいは添加剤を用いてコア/クラッド間屈折率を制御した前記生分解性素材を用いる。これによって生分解性素材を用いた光ケーブルを実現できる。
【0014】
上記コア材に生分解性素材を用い、上記クラッド材に添加剤を用いて屈折率を低減した生分解性素材を用いる光ケーブルである場合上記コア部は、断面が円形あるいは矩形とすると、他の形状の場合よりも製造が容易である。
【0015】
また、上記コア部は、クラッド部の中に設けられた複数のコアで構成することもできる。
【0016】
さらに、上記コア材に生分解性素材を用い、上記クラッド材に前記生分解性素材と同じ材料を用いた光ケーブルであって、 クラッド部には生分解性素材を用い、コア部の断面が、クラッド部の中に、低屈折率領域に挟まれた領域、または、低屈折率領域に囲まれた領域となるような断面とすることで、コア部に光を閉じ込めることが出来る。
【0017】
特に、上記低屈折率領域は空洞でよい。この場合、コア部は、少なくとも3以上の複数の空洞に囲まれているようにする。
【0018】
また、上記の空洞は、円形あるいは矩形であって、コアを中心として配置されれば良い。
【0019】
ここで、生分解性素材とは、ポリ乳酸、酢酸セルロース、澱粉ポリエステル、澱粉脂肪酸エステル、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート・アジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリテトラメチレンアジペート・コ・テレフタレート、ポリエチレンセバケート、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸/ジオール・ジカルボン酸共重合体、ポリ乳酸/ポリエーテル共重合体、ポリエチレンサクシネートアジペート共重合体、あるいはポリエチレンテレフタレート共重合体のいずれかであればよい。
【0020】
上記の光ケーブルは、可視光あるいは、1.0、1.3、1.55ミクロン帯の近赤外光で、光ファイバまたは光ケーブルとして用いる。より詳しくは、900から1150nm、1200から1350nm、1450から1600nmが望ましい。また、400から850nm帯で用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下では、生分解性素材として生分解性バイオプラスチックを用いた例を示す。以下の説明においては、同じ機能をもった部分に、特別な理由がない場合には、同じ符号を用いるものとする。
【実施例1】
【0022】
図1は、本発明の生分解性のバイオプラスチックを用いたプラスチック光ファイバを示す図である。コア部1、クラッド部2、被覆部3を含む光ファイバであって、例えば、コア材に生分解性バイオプラスチックを用い、クラッド材に前記生分解性バイオプラスチックと同じ材料あるいは添加剤を用いて屈折率を抑制した前記生分解性バイオプラスチックを用いる。これによって生分解性バイオプラスチックを用いたプラスチック光ファイバを実現できる。
【0023】
コア部1とクラッド部2とに用いる材料の可能な組み合わせを示すと、次の様になる。
組み合わせ例1
コア部 :バイオプラスチック
クラッド部:フッ化物添加バイオプラスチック
組み合わせ例2
コア部 :無機材添加バイオプラスチック
クラッド部:バイオプラスチック
組み合わせ例3
コア部 :バイオプラスチック
クラッド部:無機材添加バイオプラスチック
ここで、バイオプラスチックとは、例えば、ポリ乳酸、酢酸セルロース、澱粉ポリエステル、澱粉脂肪酸エステル、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート・アジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリテトラメチレンアジペート・コ・テレフタレート、ポリエチレンセバケート、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸/ジオール・ジカルボン酸共重合体、ポリ乳酸/ポリエーテル共重合体、ポリエチレンサクシネートアジペート共重合体、あるいはポリエチレンテレフタレート共重合体である。また、無機材料とはアルミナ、シリカ、半導体などの近赤外透明の粒状物質である。
【0024】
上記の例において、被覆材としては、従来のプラスチック光ファイバと同様に、低密度ポリエチレンや軟質ポリ塩化ビニルなどを用いることができる。
【0025】
上記の組み合わせ例1から3において、上記コア部を、断面を円形あるいは矩形とすると、コア部の形成が容易になり、他の形状の場合よりも製造が容易である。また、コア部におけるコアの数は、図1(b)に示す様に複数であってもよい。
【実施例2】
【0026】
コア部とクラッド部に、同じあるいは異なる生分解性バイオプラスチックを用いた光ファイバであってもよい。例えば、コア部の断面の構造として、クラッド部の中に、低屈折率領域4に挟まれた領域となるようにする。あるいは、コア部のそれぞれのコアが低屈折率領域に囲まれた領域となるように設けるようにする。
【0027】
例えば、上記低屈折率領域4は空洞とする。この場合、コア部は、少なくとも3以上の複数の空洞に囲まれているようにすることで、光路を閉じ込めることが出来る。また、上記の空洞は、円形あるいは矩形とする。さらに、空洞の配置は、コアを中心とする中心対称性を備えるようにする。これによって、曲げに対する光の伝搬特性を均一にできる。
【0028】
図2(a)は、クラッド部の断面が円形の光ファイバの例を示す。光導波部分5は、断面が円形の4つの空洞で囲まれた部分である。この空洞部分は、正四辺形の頂点に配置している。その他、一般に正n(3以上の自然数)角形の頂点に配置するようにしてもよい。また、空洞の形状は、四角形であってもよい。
【0029】
図2(b)は、クラッド部の断面が矩形の光ファイバの例を示す。光導波部分5は、断面が正四角形の4つの空洞で囲まれた部分である。この空洞部分は、ひし形の頂点に配置している。また、左右の光導波部分5は、1つの空洞を共有している。このように、隣り合う光導波部分で、空洞を共有する構成であっても良い。
【0030】
図2(a)、(b)における材料としては、次のものを用いることができる。
組み合わせ例4
クラッド部 :バイオプラスチック
低屈折率領域:空孔
組み合わせ例5
クラッド部 :バイオプラスチック
低屈折率領域:シリカファイバ
【実施例3】
【0031】
図3(a)に2.5mm厚のPLA(Poly lactic acid:ポリ乳酸)の光吸収率の波長依存性を示す。また、図3(b)に、光透過率の波長依存性を示す。この特性は、図4に示す測定装置で測定したものである。図3(a)あるいは図3(b)の特性から、1.0、1.3、1.55ミクロン帯の近赤外光で、光ファイバまたは光ケーブルとして用いることができることがわかる。より詳しくは、900から1150nm、1200から1350nm、1450から1600nmが望ましい。また、図3は、900〜1650nmの測定データであるが、図には示していないが、他の測定結果から、400から850nmでも使用できることが分かっている。
【実施例4】
【0032】
また、PLA光ファイバを製造する方法の原理を図5の断面図に示す。この図は、ホットプレート上の容器に溶融したPLAを設けて、繊維状のPLA光ファイバを連続して引き上げることで製造することを示している。
【産業上の利用可能性】
【0033】
被覆材としては、生分解性バイオプラスチック以外のものを用いることが望ましいことは明らかである。本発明の生分解性バイオプラスチックを用いたプラスチック光ファイバを廃棄する場合には、被覆材を全部あるいは一部を除去するか、その被覆材を切開することによって自然還元を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】(a)は、本発明の生分解性のバイオプラスチックを用いたプラスチック光ファイバを示す図であり、コア部におけるコアの数は、(b)に示す様に複数あってもよい。
【図2】クラッド部の中に、低屈折率領域4に挟まれた領域を形成する例を示す図であり、(a)は、クラッド部の断面が円形の光ファイバの例を示し、(b)は、クラッド部の断面が矩形の光ファイバの例を示す。
【図3】PLA(Poly lactic acid:ポリ乳酸)の光吸収率の波長依存性を示す図である。
【図4】光吸収率の測定装置を示すブロック図である。
【図5】PLA光ファイバを製造する方法の原理の断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1 コア部
2 クラッド部
3 被覆部
4 低屈折率領域
5 光導波部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維状の形状をもち、コア部、クラッド部、被覆部を備える光ファイバを用いる光ケーブルであって、上記のコア部、クラッド部、被覆部は生分解性素材で構成されることを特徴とする生分解性素材を用いた光ケーブル。
【請求項2】
請求項1の光ケーブルであって、
上記コア部を構成するコア材に生分解性素材を用い、上記クラッド部を構成するクラッド材に前記生分解性素材と同じ材料あるいは添加剤を用いてコア/クラッド間屈折率を制御した前記生分解性素材を用いることを特徴とする生分解性素材を用いた光ケーブル。
【請求項3】
上記コア材に生分解性素材を用い、上記クラッド材に添加剤を用いて屈折率を低減した生分解性素材を用いる光ケーブルであって、
上記コア部は、断面が円形あるいは矩形であることを特徴とする請求項2に記載の生分解性素材を用いた光ケーブル。
【請求項4】
上記コア部は、クラッド部の中に設けられた複数のコアを備えることを特徴とする請求項2に記載の生分解性素材を用いた光ケーブル。
【請求項5】
上記コア材に生分解性素材を用い、上記クラッド材に前記生分解性素材と同じ材料を用いた光ケーブルであって、
クラッド部には生分解性素材を用い、コア部の断面が、クラッド部の中に、低屈折率領域に挟まれた領域、または、低屈折率領域に囲まれた領域となるように設けることを特徴とする請求項1に記載の生分解性素材を用いた光ケーブル。
【請求項6】
上記低屈折率領域は空洞であって、上記コア部は、少なくとも3以上の複数の空洞に囲まれていることを特徴とする請求項5に記載の生分解性素材を用いた光ケーブル。
【請求項7】
上記の空洞は、円形あるいは矩形であって、コアを中心とする中心対称性を備えたことを特徴とする請求項6に記載の生分解性素材を用いた光ケーブル。
【請求項8】
生分解性素材が、ポリ乳酸、酢酸セルロース、澱粉ポリエステル、澱粉脂肪酸エステル、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート・アジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリテトラメチレンアジペート・コ・テレフタレート、ポリエチレンセバケート、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸/ジオール・ジカルボン酸共重合体、ポリ乳酸/ポリエーテル共重合体、ポリエチレンサクシネートアジペート共重合体、あるいはポリエチレンテレフタレート共重合体のいずれかであることを特徴とする請求項1から7のいずれか1つに記載の生分解性素材を用いた光ケーブル。
【請求項9】
可視光あるいは近赤外光で用いることを特徴とする請求項1から8のいずれか1つに記載の生分解性素材を用いた光ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−265251(P2009−265251A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−112675(P2008−112675)
【出願日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【Fターム(参考)】