説明

生物付着防止方法及び生物付着防止装置

【課題】簡便に生物の付着を防止し、人手作業による除去作業を省略し、コストの低減を図る。
【解決手段】カソードとされる生物付着防止部分11と、該生物付着防止部分に対して配置されたアノードとしての電極12と、生物付着防止実施環境に於ける前記生物付着防止部分の表面での電気分解反応が遷移域となる様、前記生物付着防止部分と前記電極間に常時直流電流を通電する電力供給装置13とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は淡水中、海水中、汽水域に浸漬した水門等の構造物に対して、生物が付着することを防止する生物付着防止方法及び生物付着防止装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
淡水中、海水中、汽水域に浸漬して建設される水門等の構造物には、ふじつぼ等の海洋生物が付着する。
【0003】
海洋生物が付着すると、外観を損い、定期的に、或は付着状態に応じて海洋生物を除去する必要がある。又、海洋生物が戸当り部に付着すると、水密ゴムを損傷してしまうので、頻繁に海洋生物の除去が必要となる。
【0004】
従来、海洋生物の除去は人手作業によっているので、工期が長くなると共に大きなコストが掛る。
【0005】
尚、特許文献1には、海水中に浸漬した鋼板をカソードとし、該鋼板に対峙して配置したアノードとの間に電流密度130〜250mA/m2 で通電して鋼板にエレクトロコーティングし、更に電流密度が1〜5A/m2 の電気を1〜5ヶ月間通電して、エレクトロコーティングに付着した海洋生物をエレクトロコーティングと共に剥離して除去する生物付着防止方法が開示されている。
【0006】
又、特許文献2には、生物付着防止の対象がコンクリートであった場合に、コンクリート表面に鋼板を固定し、特許文献1と同様にして生物付着防止を行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4126513号公報
【特許文献2】特許第4438158号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「火力発電所における海生生物対策実態調査報告書」、社団法人火力原子力発電技術協会 環境対策技術調査委員会、平成5年5月、p.97,99
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は斯かる実情に鑑み、より簡便に生物の付着を防止し、人手作業による除去作業を省略し、コストの低減を図るものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、水中に浸漬された生物付着防止部分をカソードとし、前記生物付着防止部分に対してアノードとしての電極を配置し、前記生物付着防止部分表面での電気分解反応が遷移域となる様な電流密度で、前記生物付着防止部分と前記電極との間に直流電流を常時通電する生物付着防止方法に係るものである。
【0011】
又本発明は、生物付着防止実施環境に対応する前記遷移域についての電流密度のデータを予め取得してデータベース化し、前記電流密度の設定は前記実施環境に適応した値を前記データベースより選択する生物付着防止方法に係るものである。
【0012】
又本発明は、前記実施環境を所定期間毎に測定し、実施環境の変動に対応させ、前記データベースに基づき前記電流密度を設定する生物付着防止方法に係るものである。
【0013】
又本発明は、実施環境の変動サイクルに合わせて、前記電流密度の設定を変化させる生物付着防止方法に係るものである。
【0014】
又本発明は、カソードとされる生物付着防止部分と、該生物付着防止部分に対して配置されたアノードとしての電極と、生物付着防止実施環境に於ける前記生物付着防止部分の表面での電気分解反応が遷移域となる様、前記生物付着防止部分と前記電極間に常時直流電流を通電する電力供給装置とを具備する生物付着防止装置に係るものである。
【0015】
又本発明は、前記電力供給装置による通電状態を制御する制御装置を更に具備し、該制御装置は、生物付着防止実施環境に対応する前記遷移域についての電流密度のデータをデータベースとして有し、前記制御装置は前記電流密度を実施環境に適合する様に前記データベースに基づき設定する生物付着防止装置に係るものである。
【0016】
又本発明は、実施環境を検出する実施環境検出部を更に具備し、前記制御装置は該実施環境検出部からの検出結果に基づき所定期間毎に電流密度の再設定を行う生物付着防止装置に係るものである。
【0017】
又本発明は、前記生物付着防止部分が水門ゲートの戸当りであり、該戸当りに沿って電極が設置され、前記戸当りは前記電力供給装置の−極に接続され、前記電極は前記電力供給装置の+極に接続された生物付着防止装置に係るものである。
【0018】
又本発明は、前記生物付着防止部分が金属製導水路の内面であり、該導水路の軸心に沿って電極部材が設けられ、前記導水路は前記電力供給装置の−極に接続され、前記電極は前記電力供給装置の+極に接続された生物付着防止装置に係るものである。
【0019】
又本発明は、非金属製導水路の内面に金属層を形成し、前記生物付着防止部分が前記金属層であり、前記導水路の軸心に沿って電極部材が設けられ、前記金属層は前記電力供給装置の−極に接続され、前記電極は前記電力供給装置の+極に接続された生物付着防止装置に係るものである。
【0020】
又本発明は、前記生物付着防止部分が少なくとも浮体の浸漬部表面であり、該浸漬部表面に対向させ電極を配置し、前記浸漬部表面は前記電力供給装置の−極に接続され、前記電極は前記電力供給装置の+極に接続された生物付着防止装置に係るものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、水中に浸漬された生物付着防止部分をカソードとし、前記生物付着防止部分に対してアノードとしての電極を配置し、前記生物付着防止部分表面での電気分解反応が遷移域となる様な電流密度で、前記生物付着防止部分と前記電極との間に直流電流を常時通電するので、前記生物付着防止部分の表面が酸欠状態となり、生物活動が抑制され、生物の付着が防止される。
【0022】
本発明によれば、生物付着防止実施環境に対応する前記遷移域についての電流密度のデータを予め取得してデータベース化し、前記電流密度の設定は前記実施環境に適応した値を前記データベースより選択するので、最適な状態に、迅速確実に、又無駄なく電流密度の設定が可能となる。
【0023】
本発明によれば、前記実施環境を所定期間毎に測定し、実施環境の変動に対応させ、前記データベースに基づき前記電流密度を設定するので、実施環境の変動があった場合でも、確実に生物付着が防止できる。
【0024】
本発明によれば、実施環境の変動サイクルに合わせて、前記電流密度の設定を変化させるので、確実に、而も余剰の電流を流すことなく生物付着が防止でき、ランニングコストの低減が図れる。
【0025】
本発明によれば、カソードとされる生物付着防止部分と、該生物付着防止部分に対して配置されたアノードとしての電極と、生物付着防止実施環境に於ける前記生物付着防止部分の表面での電気分解反応が遷移域となる様、前記生物付着防止部分と前記電極間に常時直流電流を通電する電力供給装置とを具備するので、前記生物付着防止部分の表面を酸欠状態とし、生物活動を抑制し、生物の付着を防止する。
【0026】
又本発明によれば、前記電力供給装置による通電状態を制御する制御装置を更に具備し、該制御装置は、生物付着防止実施環境に対応する前記遷移域についての電流密度のデータをデータベースとして有し、前記制御装置は前記電流密度を実施環境に適合する様に前記データベースに基づき設定するので、最適な状態に、迅速確実に、又無駄なく電流密度の設定が可能となる。
【0027】
又本発明によれば、実施環境を検出する実施環境検出部を更に具備し、前記制御装置は該実施環境検出部からの検出結果に基づき所定期間毎に電流密度の再設定を行うので、実施環境に変動があった場合も、確実に、又無駄なく電流密度の設定が可能となる。
【0028】
又本発明によれば、前記生物付着防止部分が水門ゲートの戸当りであり、該戸当りに沿って電極が設置され、前記戸当りは前記電力供給装置の−極に接続され、前記電極は前記電力供給装置の+極に接続されたので、戸当りに生物が付着することが防止され、水密ゴムの破損が防止でき、又付着生物除去のメンテナンスが不要となり、メンテナンス費用が軽減できる。
【0029】
又本発明によれば、前記生物付着防止部分が金属製導水路の内面であり、該導水路の軸心に沿って電極部材が設けられ、前記導水路は前記電力供給装置の−極に接続され、前記電極は前記電力供給装置の+極に接続されたので、導水路内面に生物が付着することが防止され、又付着生物除去のメンテナンスが不要となり、メンテナンス費用が軽減できる。
【0030】
又本発明によれば、非金属製導水路の内面に金属層を形成し、前記生物付着防止部分が前記金属層であり、前記導水路の軸心に沿って電極部材が設けられ、前記金属層は前記電力供給装置の−極に接続され、前記電極は前記電力供給装置の+極に接続されたので、導水路内面に生物が付着することが防止され、又付着生物除去のメンテナンスが不要となり、メンテナンス費用が軽減できる。
【0031】
又本発明によれば、前記生物付着防止部分が少なくとも浮体の浸漬部表面であり、該浸漬部表面に対向させ電極を配置し、前記浸漬部表面は前記電力供給装置の−極に接続され、前記電極は前記電力供給装置の+極に接続されたので、浮体の浸漬部に生物が付着することが防止され、又付着生物除去のメンテナンスが不要となり、メンテナンス費用が軽減できるという優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】カソードに対して微弱電流を通電した場合の電気分解反応を解析して得られた、電気分解反応曲線を示すグラフである。
【図2】静水環境でカソード(SS400)に対して微弱電流を通電した場合の実測で得られた電気分解反応曲線を示すグラフである。
【図3】静水環境でカソード(SUS304)に対して微弱電流を通電した場合の実測で得られた電気分解反応曲線を示すグラフである。
【図4】静水環境でカソード(SUS316)に対して微弱電流を通電した場合の実測で得られた電気分解反応曲線を示すグラフである。
【図5】静水環境、流水環境で得られた遷移域に対応する電流密度の上限、下限値を示す表である。
【図6】本発明の実施例を示す概略構成図である。
【図7】本発明が実施されるライジングセクタゲートの全体斜視図である。
【図8】図7のA矢視斜視図である。
【図9】図7のA矢視断面図である。
【図10】前記ライジングセクタゲートの戸当り部の拡大図である。
【図11】本発明が実施される代表的なゲートを示し、(A)はマイタゲート、(B)はセクタゲートをそれぞれ示す斜視図である。
【図12】本発明が実施される代表的なゲートを示し、(A)は起伏ゲート、(B)はローラゲートをそれぞれ示す斜視図である。
【図13】本発明が実施された導水管を示し、(A)は立断面図、(B)は側断面図、(C)は電極部材の他の例を示す側断面図である。
【図14】本発明が実施された導水路を示し、(A)は立断面図、(B)は側断面図、(C)は電極部材の他の例を示す側断面図である。
【図15】本発明が実施された浮体設備の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施例を説明する。
【0034】
先ず、図1に於いて、本発明の原理を説明する。
【0035】
淡水中、海水中、汽水域(以下、淡水、海水、汽水を総称する場合は単に水と表現する)に例えば海中に浸漬された構造物、例えば扉体について生物の付着を防止する場合、金属製扉体の生物付着防止部分(例えば戸当り部)をカソードとし、戸当り部に対向した位置にアノードを配置し、該アノードと前記カソード間に微弱電流を常時通電する。
【0036】
尚、ステンレス製の扉体等、全面で金属が露出している場合は、扉体全面が生物付着防止部分となる。
【0037】
図1は、カソードに対して微弱電流を通電した場合の電気分解反応を解析して得られた、電気分解反応曲線Fを示すものであり、横軸は電流密度(mA/m2 )、縦軸はカソード表面での負の電位(mV)を示している。
【0038】
図示される様に、電流密度を増大させた場合、領域Aでは電位が徐々に低下し、領域Bで急激に低下し、次に領域Cで徐々に低下する変化を示す。
【0039】
領域Aでは、微弱電流を通電することで、生物付着防止部分表面で電気分解反応(2H2 O+O2 +4e→4OH- )(以下、酸素消費電気分解)が起き、カソード表面で酸素が消費される。
【0040】
又、領域Cでは酸素が全て消費されており、酸素の供給がなく、電気分解反応は水の電気分解(2H2 O+2e→2OH- +H2 )となる。
【0041】
領域Bは、カソード表面で酸素が消費され尽し、水の電気分解反応が始り、水の電気分解の領域Cに至る遷移域1である。即ち、領域Aから遷移域1に移行する境界2で、カソード表面は酸素が無い状態となる。
【0042】
ところで、扉体に生物が付着する生物活動には酸素が必要であり、扉体をカソードとして扉体に前記境界2以上の電流密度で通電することで、表面を無酸素状態(酸欠状態)とすることができ、生物活動を抑制し、扉体に生物が付着することを防止できる。
【0043】
尚、遷移域1と領域Cとの境界3での電流密度以上で通電しても、扉体表面の無酸素状態は維持できるが、電流の消費量が多くなるだけであり、非効率であり、又不経済であるので、無酸素状態を維持する電流密度としては、遷移域1に対応する前記境界2と前記境界3との間に相当する電流密度とすればよい。
【0044】
上記した様に、カソードに対して電流を通電し、電流密度を増加させる過程で、最初に酸素消費電気分解が起り、次に水の電気分解へと移行する。然し、酸素消費電気分解から水の電気分解に移行する過程である前記遷移域1は、電流密度と固定的な関係はなく、実施環境に応じて変動する。尚、実施環境を決定する要因としては、水質(水、海水:塩分濃度等)、流動状態(静水、流水等)、季節、水温、カソード、アノードの材料等が挙げられる。
【0045】
例えば、電極の材料が異なる場合、実施環境が静水、流水であった場合、水質、季節が異なる場合等で、前記遷移域1に対応する電流密度は変化する。
【0046】
図2は、実施環境が自然海水、水温20℃、静水、カソードの材料がSS400の場合の電気分解反応曲線F1を示している。
【0047】
該電気分解反応曲線F1には、電流密度の変化に対応して急激な変化を示す遷移域1が顕在し、該遷移域1に対応する電流密度は約0.4〜0.6A/m2 となっている。
【0048】
又、図3は、実施環境が自然海水、水温23℃、静水、カソードの材料がSUS304の場合の電気分解反応曲線F2を示している。該電気分解反応曲線F2に於いても、遷移域1が顕在しており、該遷移域1に対応する電流密度は約0.05〜0.1A/m2 となっている。
【0049】
又、図4は、実施環境が自然海水、水温24℃、静水、カソードの材料がSUS316の場合の電気分解反応曲線F3を示している。該電気分解反応曲線F3に於いても、遷移域1が顕在しており、該遷移域1に対応する電流密度は約0.1〜0.2A/m2 となっている。
【0050】
電気分解反応曲線F1〜F3は、いずれも遷移域1が顕在することを示しており、又実施環境に応じて遷移域1に対応する電流密度が異なることを示している。尚、電気分解反応曲線F1〜F3は、主にカソードの材料が異なった場合を示したが、カソードに対して自然海水が流速を有している場合も、流速が変ることで遷移域1に対応する電流密度が変っている。
【0051】
又、図5は、カソードの材料が変った場合、流速の有無の場合の、遷移域に対する電流密度の上限、下限を示している。
【0052】
例えば、カソードの材料がSUS304で、流速が0(m/s)の場合は、遷移域1の下限電流密度が0.05(A/m2 )、上限電流密度が0.1(A/m2 )であるのに対し、流速が0.5(m/s)の場合は、遷移域1の下限電流密度が0.1(A/m2 )、上限電流密度が2(A/m2 )に変化する。
【0053】
又、カソードの材料がSUS316で、流速が0(m/s)の場合は、遷移域1の下限電流密度が0.02(A/m2 )、上限電流密度が0.3(A/m2 )に、
流速が0.5(m/s)の場合は、遷移域1の下限電流密度が0.02(A/m2 )、上限電流密度が1(A/m2 )に、
又流速が5(m/s)の場合は、遷移域1の下限電流密度が0.02(A/m2 )、上限電流密度が1(A/m2 )に、
又流速が15(m/s)の場合は、遷移域1の下限電流密度が0.02(A/m2 )、上限電流密度が2(A/m2 )にそれぞれ変化する。
【0054】
尚、流速が3m/sを超える場合は、生物は付着しないことが分っている(非特許文献1参照)。従って、本発明を実施する場合の実施環境としては流速が3m/s以下を対象とすればよい。
【0055】
又、季節の変化、或は水温の変化があると、溶存酸素量が変化するので、やはり遷移域1に対応する電流密度が異なることも分っている。
【0056】
上記した様に、本発明を実施する場合に、実施環境に拘らず、電流密度を変化させた場合に酸素消費電気分解から水の電気分解へ移行し、移行過程で遷移域1が存在する。更に、実施環境の相違により、遷移域1に対する電流密度も異なる。従って、予め種々の実施環境に対応して、それぞれの遷移域1に対する電流密度のデータを取得しておき、データベース化する。本発明を実施する場合に、実施環境に合わせカソードに通電する電流密度を設定する。更に、季節の変化、水温の変化に合わせて、最適な電流密度に変更する。
【0057】
而して、実施環境に合わせ最適な電流密度を設定することで、効果的にカソード表面の酸欠状態が実現できる。又、消費電流に無駄がなく、ランニングコストを最小に抑えられる。
【0058】
次に、図6は、本発明の実施例に係る生物付着防止装置を示しており、図6中、11は水中に設置した金属製構築物、例えばゲートであり、12はアノード電極、13はゲート11とアノード電極12との間に直流の微弱電流を通電する電力供給装置、14は該電力供給装置13に電気的に接続された制御装置、15は実施環境を検出する実施環境検出部、16は操作部を示す。
【0059】
前記ゲート11、前記アノード電極12は電力供給装置13に、前記構築物11がカソード、前記アノード電極12がアノードとなる様に接続され、前記電力供給装置13は前記構築物11と前記アノード電極12間に直流微弱電流を通電する。
【0060】
前記制御装置14は、前記構築物11表面で遷移域で電気分解反応が生じる様に、前記電力供給装置13を制御し、所定の電流密度となる様に通電電流を制御する。又、前記制御装置14は、種々の実施環境で遷移域での電気分解反応を実現する様、遷移域に対応した電流密度幅(即ち下限電流密度と上限電流密度)をデータベースとして具備し、通電する電流密度が実施環境に対応した電流密度となる様に前記電力供給装置13を制御する。
【0061】
前記実施環境検出部15は、実施環境を検出するものであり、水温、流速、水質等を検出し、前記制御装置14に入力する。
【0062】
前記操作部16は、前記制御装置14にデータベースを入力し、或は前記制御装置14に実施環境の情報等、生物付着防止装置を稼働する為に必要なデータ、指令を入力するものである。
【0063】
以下、作用を説明する。
【0064】
前記実施環境検出部15が実施環境を検出し、検出結果を前記制御装置14に入力し、該制御装置14はデータベースから入力された実施環境に対応する遷移域を選択し、該遷移域を実現する電流密度Iを決定し、前記構築物11、前記アノード電極12間に通電する電流の電流密度がIとなる様に前記電力供給装置13を制御する。
【0065】
例えば、遷移域を実現する電流密度の下限がIL 、上限がIH であったとすると、決定する電流密度Iは、IL ≦I≦IH の範囲で設定する。例えば、I=(IL +IH )/2とする。尚、電流密度が上限を超えた場合でも、前記構築物11表面の酸欠状態は維持されるので、実施環境が変化しても確実に酸欠状態が維持される様、設定する電流密度Iを上限側に、例えば上限近傍に設定してもよい。
【0066】
前記制御装置14は、所定期間毎、例えば1時間毎に、或は1日毎に、或は1週間毎に、或は1ヶ月毎に、前記実施環境検出部15によって実施環境を検出し、前記データベースから検出した実施環境に対応する遷移域及び該遷移域に対応する電流密度幅を検索し、現状の電流密度が検索した電流密度幅に含まれるかどうかを判断し、現状の電流密度が検索した電流密度幅を超える場合は、検索した電流密度幅に基づき通電電流の電流密度を再設定する。
【0067】
尚、前記実施環境検出部15を省略し、管理者が定期的に実施環境を測定し、測定結果を前記操作部16より前記制御装置14に入力してもよい。
【0068】
又、通電電流の電流密度再設定については、管理者が定期的に実施環境を測定して、データベースから実施環境に対応した遷移域、及び該遷移域に対応する電流密度幅を調べ、前記操作部16より通電電流の電流密度を再設定してもよい。この場合も、前記実施環境検出部15は省略することができる。
【0069】
更に、電流密度の設定を実施環境の変動に対応させ、パターン化してもよい。例えば、潮の満干で水又は海水の流れが生じる場所、或は流速に変化を生じる場所では、潮の満干に合わせて電流密度を変更するパターンを用意し、このパターンを前記制御装置14に設定する等である。
【0070】
又、構築物11は全体が金属製である必要はなく、生物付着防止部分のみを金属製とする、構築物表面に金属製の板を固定する等でもよい。
【0071】
次に、図7〜図10は、本発明を港湾等に設備されるライジングセクタゲートに実施した第2の実施例を示している。先ず、ライジングセクタゲート18について略述する。
【0072】
水路19を横断する様に、堰柱21,21との間に扉体22が掛渡って設けられる。該扉体22は円筒曲面を有し、略円筒を中心線に平行な平面で切除した形状をしており、前記扉体22の両端部には円筒曲面と同心に円盤部20が設けられており、該円盤部20が前記堰柱21に設けられた円状の扉体ガイド23に嵌合し、前記円盤部20が前記扉体ガイド23に沿って円筒曲面の中心線を中心として所定の回転角度で往復回転される。
【0073】
前記扉体22の下端には水密ゴム24が設けられ、前記扉体22の全閉状態では、前記水密ゴム24が水路底面29の底部戸当り25(図9参照)に当接し、前記水路19を水密に閉鎖する様になっている。又、前記扉体22の円筒曲面の両端には、側部水密ゴム26が設けられ、該側部水密ゴム26は前記扉体ガイド23のガイド面に設けられた側部戸当り27に摺接する様になっている。尚、図中、28は防塵ゴムを示している。
【0074】
図9、図10に示される様に、前記水路19はコンクリート製であり、該水路19の水路底面29には段差が形成され、段差を形成する斜面に前記底部戸当り25が埋設されている。該底部戸当り25は金属製、例えばステンレス製であり、電力供給装置(直流電源)13の−極に接続され、カソードとなっている。前記水路底面29の前記底部戸当り25の上流側、下流側にそれぞれ電極31,32が埋設され、該電極31,32は前記電力供給装置13の+極に接続され、アノードとなっている。
【0075】
又、前記扉体ガイド23のガイド面に設けられる前記側部戸当り27は、金属製、例えばステンレス製であり、該側部戸当り27は前記電力供給部13の−極に接続され、カソードとなっている。前記水路19の壁面の前記側部戸当り27に沿った位置に、所定間隔で電極33,34が埋設され、該電極33,34は前記電力供給装置13の+極に接続され、アノードとなっている。
【0076】
前記電極31,32の形状、前記底部戸当り25に対する位置は、前記電極31,32と前記底部戸当り25間に直流微弱電流を通電した場合に、前記底部戸当り25表面の電流密度が、均一(略均一を含む)となる様に設定されている。又、前記電極33,34についても同様であり、該電極33,34の形状、ピッチ、前記側部戸当り27に対する位置は、該側部戸当り27表面の電流密度が、均一(略均一を含む)となる様に設定されている。
【0077】
而して、前記底部戸当り25と前記電極31,32間、及び前記側部戸当り27と前記電極33,34間に、遷移域に対応する微弱電流を常時通電することで、前記底部戸当り25及び前記側部戸当り27の表面を酸欠状態とすることができ、前記底部戸当り25及び前記側部戸当り27に生物が付着することが防止できる。
【0078】
又、長期間微弱電流を通電することで、前記底部戸当り25及び前記側部戸当り27の表面に対して、電着被膜が形成されるので生物付着防止が行われると共に防錆される。
【0079】
図11及び図12は、港湾等に設置される代表的なゲートに実施された場合を示している。尚、図11、図12中で、図7〜図10中で示したものと同等のものには同符号を付し、その説明を省略する。
【0080】
図11(A)はマイタゲートを示しており、金属製であり、平板状の左右対称な扉体22a、22bを有し、該扉体22a、22bを観音開き状に水平方向に回転させて開閉し、開放時には前記扉体22a、22bは堰柱21の凹部35に収納される様にしたものである。この場合、底部戸当り25に対して水路底面29にアノードとしての電極31が設けられ、前記凹部35にはアノードとしての電極33,34が設けられる。又、前記電極31、前記電極33,34は電力供給装置(図示せず)の+極に接続され、前記扉体22a、22bが当接する底部戸当り25及び該扉体22a、22bが収納される前記凹部35壁面の戸当りは、電力供給装置の−極に接続され、該戸当りと前記電極31、前記電極33,34間には遷移域に対応する直流微弱電流が常時通電される。
【0081】
図11(B)はセクタゲートを示しており、金属製であり左右対称な扉体22a、22bを有し、該扉体22a、22bは、略4半円筒形状を有している。前記扉体22a、22bは、アーム36を介して支持され、該アーム36を介して水平方向に回転されるものであり、水路19開放時には堰柱21に形成された凹部35に収納される。セクタゲートについても、円弧状の底部戸当り25に沿ってアノードとしての電極31が設けられ、前記凹部35の壁面にもアノードとしての電極33,34が設けられる。又、戸当りには−極が接続され、カソードとしての該戸当りと、前記電極31、前記電極33,34との間に常時微弱電流が通電される。
【0082】
図12(A)は起伏ゲートを示しており、扉体22は下端を中心に回転して起伏可能となっている。以下は、アノードとしての電極31、電極33,34の配置の一例を説明する。
【0083】
前記扉体22下端の底部戸当り25に対してアノードとしての電極31が埋設され、堰柱21の壁面にはアノードとしての電極33,34が設けられる。
【0084】
図12(B)はローラゲートを示し、金属製であり、平板状の扉体22を有し、堰柱21には側部戸当り37が設けられ、前記扉体22がローラ38を介し、前記側部戸当り37に沿って昇降可能としたものである。電極31は水路底面29の底部戸当り25に沿って設けられ、電極33は堰柱21の壁面に、前記ローラ38の側部戸当り37に沿って設けられる。
【0085】
上記図11(A)、(B)、図12(A)、(B)に示されたいずれのゲートについても、電極と戸当り間に直流微弱電流を常時通電することで、扉体、或は戸当りに生物が付着することを防止し、更に電着被膜が生成されて防錆効果が発揮される。
【0086】
尚、上記実施例では、生物付着防止部分を戸当りとしたが、扉体がステンレス製である場合等は、扉体全体を生物付着防止部分とし、本発明を実施してもよい。
【0087】
図13(A)、(B)は他の実施例であり、本発明を導水管に実施した場合を示している。
【0088】
導水管41は鋼製であり、該導水管41は電力供給装置(図示せず)の−電極に接続されている。前記導水管41の底部から電極支持柱42が立設されており、該電極支持柱42の上端は前記導水管41の中心に位置しており、前記電極支持柱42の上端に電極支持バー43が設けられ、該電極支持バー43は前記導水管41の軸心と一致(略一致を含む)している。前記電極支持バー43に所定間隔で電極部材44が設けられ、該電極部材44は電力供給部(図示せず)の+電極に接続されている。従って、前記導水管41はカソード、前記電極部材44はアノードとなっている。
【0089】
前記電極支持柱42、前記電極支持バー43は、それ自体が絶縁体であるか、一部が絶縁体であり、前記導水管41と前記電極部材44とは、前記電極支持柱42、電極支持バー43によって絶縁されており、該電極支持柱42、該電極支持バー43は前記電極部材44の支持体であると共に前記導水管41と前記電極部材44との絶縁手段となっている。
【0090】
前記導水管41と前記電極部材44間に直流微弱電流を常時通電することで、前記導水管41の表面を酸欠状態にでき、表面に生物が付着することを防止できる。
【0091】
図13(C)は、電極支持体と電極部材の他の例を示しており、上記した電極支持バー43自体を電極部材44としたものである。この場合、前記電極支持バー43は強度は必要ないので、導電性のワイヤとしてもよい。
【0092】
図14(A)、図14(B)は、本発明を非金属製の導水路、例えばコンクリート製の導水路46に実施したものであり、該導水路46の壁面、底面には金属溶射によって金属膜47を形成する。又、前記導水路46の中心には、該導水路46の長手方向全長に亘って電極部材44を設ける。該電極部材44は、図13(B)で示したと同様、電極支持柱42、電極支持バー43によって支持され、前記金属膜47とは絶縁されている。前記金属膜47を電力供給部の−極に接続し、前記電極部材44を電力供給部の+極に接続し、前記金属膜47と前記電極部材44間に直流微弱電流を常時通電することで、前記金属膜47に生物が付着することを防止できる。
【0093】
図14(C)は、電極支持体と電極部材の他の例を示しており、図13(C)で示したと同様、電極支持バー43自体を電極部材44としたものである。この場合も、前記電極支持バー43は強度は必要ないので、導電性のワイヤとしてもよい。
【0094】
図15は、本発明を洋上に設けられた浮体設備に実施した場合を示しており、浮体(デッキ)48は、係留索49によって海底に係留されている。前記デッキ48には所要の設備、例えば風力発電設備(図示せず)が設置され、又前記デッキ48には直流電源装置50が設けられている。該直流電源装置50は前記風力発電設備から得られる電力で駆動される様にしてもよい。
【0095】
前記デッキ48の少なくとも、海水に浸漬している部分(以下、浸漬部)は鉄、ステンレス等の金属製であり、浸漬部は前記直流電源装置50の−電極に接続されている。
【0096】
前記浸漬部の側面には所定距離離反させ、又該浸漬部とは絶縁して電極52aを設け、該電極52aを前記直流電源装置50の+電極に接続する。前記電極52aの数、配置は側面に対して所定の分布となる様に設ける。即ち、該電極52aと前記浸漬部との間に直流微弱電流を通電した場合に、前記浸漬部側面が均一な電流密度となる様な電極52aの配置、分布とする。
【0097】
前記浸漬部の底面にも同様に、所定の距離離反させ、所定の分布で前記浸漬部とは絶縁して電極52bを設ける。該電極52bは、前記直流電源装置50の+電極に接続する。
【0098】
更に、前記係留索49に所定間隔で電極52cを設ける。又、前記係留索49が金属製の場合は、該係留索49と絶縁し、該係留索49は前記直流電源装置50の−電極に接続する。
【0099】
従って、前記デッキ48の浸漬部、又前記係留索49がカソードとなり、前記電極52a,52b,52cがアノードとなり、該電極52a,52bと前記浸漬部、及び係留索49間に、及び前記係留索49と前記電極52c間に直流微弱電流を通電することで、前記浸漬部及び前記係留索49に生物が付着することを防止でき、又長期間通電することで浸漬部、係留索49表面に電着被膜が生成され、防食される。
【0100】
上記実施例では、デッキ48が浮体である場合を説明したが、デッキ48は海底に立設した杭上に固定的に設けられたものでもよい。
【0101】
尚、前記電極52(アノード側)への直流電流の供給は、前記風力発電設備とは別途波力発電装置、或は/及び太陽光発電装置を設け、これら発電装置から前記電極52に電流を供給する様にしてもよい。
【符号の説明】
【0102】
1 遷移域
2 境界
3 境界
11 構築物
12 アノード電極
13 電力供給装置
14 制御装置
15 実施環境検出部
16 操作部
19 水路
22 扉体
23 扉体ガイド
24 水密ゴム
25 底部戸当り
26 側部水密ゴム
27 側部戸当り
29 水路底面
31 電極
32 電極
33 電極
34 電極
41 導水管
44 電極部材
46 導水路
47 金属膜
48 デッキ
49 係留索

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に浸漬された生物付着防止部分をカソードとし、前記生物付着防止部分に対してアノードとしての電極を配置し、前記生物付着防止部分表面での電気分解反応が遷移域となる様な電流密度で、前記生物付着防止部分と前記電極との間に直流電流を常時通電することを特徴とする生物付着防止方法。
【請求項2】
生物付着防止実施環境に対応する前記遷移域についての電流密度のデータを予め取得してデータベース化し、前記電流密度の設定は前記実施環境に適応した値を前記データベースより選択する請求項1の生物付着防止方法。
【請求項3】
前記実施環境を所定期間毎に測定し、実施環境の変動に対応させ、前記データベースに基づき前記電流密度を設定する請求項2の生物付着防止方法。
【請求項4】
実施環境の変動サイクルに合わせて、前記電流密度の設定を変化させる請求項3の生物付着防止方法。
【請求項5】
カソードとされる生物付着防止部分と、該生物付着防止部分に対して配置されたアノードとしての電極と、生物付着防止実施環境に於ける前記生物付着防止部分の表面での電気分解反応が遷移域となる様、前記生物付着防止部分と前記電極間に常時直流電流を通電する電力供給装置とを具備することを特徴とする生物付着防止装置。
【請求項6】
前記電力供給装置による通電状態を制御する制御装置を更に具備し、該制御装置は、生物付着防止実施環境に対応する前記遷移域についての電流密度のデータをデータベースとして有し、前記制御装置は前記電流密度を実施環境に適合する様に前記データベースに基づき設定する請求項5の生物付着防止装置。
【請求項7】
実施環境を検出する実施環境検出部を更に具備し、前記制御装置は該実施環境検出部からの検出結果に基づき所定期間毎に電流密度の再設定を行う請求項6の生物付着防止装置。
【請求項8】
前記生物付着防止部分が水門ゲートの戸当りであり、該戸当りに沿って電極が設置され、前記戸当りは前記電力供給装置の−極に接続され、前記電極は前記電力供給装置の+極に接続された請求項5の生物付着防止装置。
【請求項9】
前記生物付着防止部分が金属製導水路の内面であり、該導水路の軸心に沿って電極部材が設けられ、前記導水路は前記電力供給装置の−極に接続され、前記電極は前記電力供給装置の+極に接続された請求項5の生物付着防止装置。
【請求項10】
非金属製導水路の内面に金属層を形成し、前記生物付着防止部分が前記金属層であり、前記導水路の軸心に沿って電極部材が設けられ、前記金属層は前記電力供給装置の−極に接続され、前記電極は前記電力供給装置の+極に接続された請求項5の生物付着防止装置。
【請求項11】
前記生物付着防止部分が少なくとも浮体の浸漬部表面であり、該浸漬部表面に対向させ電極を配置し、前記浸漬部表面は前記電力供給装置の−極に接続され、前記電極は前記電力供給装置の+極に接続された請求項5の生物付着防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−36614(P2012−36614A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176611(P2010−176611)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(509338994)株式会社IHIインフラシステム (104)
【Fターム(参考)】