説明

生物共生用護岸パネル材及び生物共生型護岸

【課題】短い工期で経済的に構築できる生物共生型護岸及びその護岸に適した生物共生用護岸パネル材を提供する。
【解決手段】複数の生物出入孔12を有するパネル材10の裏面10bの生物出入孔12の周囲に、生物出入孔12に連なる袋状空間を形成するようにポケット14を密着させて取り付け、そのポケット14の袋状空間内に裏込め材15を充填封入する。そのパネル材10の裏面10bを護岸3の接水面に所要間隔dで対向させて設置し、パネル材10を型枠として護岸3との間にコンクリート、土その他の充填材18を埋め込むことにより、パネル材10と護岸3とを一体化させる。好ましくは、ポケット14をゴム製、合成樹脂製、布製、紙製、木材製、又は金属製等とし、ポケット14の上端に封止可能な裏込め材投入口14aを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生物共生用護岸パネル材及び生物共生型護岸に関し、とくに近隣水域で生活する小動物の生息場所を確保してその共生・定着を図る生物共生用護岸パネル材及びそのパネル材を用いた生物共生型護岸に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、海や河川、運河、水路等の流水と接する護岸や桟橋、橋台、橋脚等の構造物(以下、これらを纏めて単に護岸という)の多くは、鋼矢板やコンクリート矢板、コンクリートパネル・ブロック等を用いて建設・構築されてきた。しかし、近年は、そのような護岸によって近隣水域の生物の生息環境が失われて生態系が影響を受ける問題が指摘され、新規に構築する場合は環境や生態系に与える影響の小さい護岸とすることが求められている。また、従来工法で構築された鋼矢板製の護岸に生物の生息環境を創出・回復する方法として、鋼矢板の接水面の凹部に透水性の蓋体(穴開き鋼板やエキスパンドメタル等)を取り付け、鋼矢板と蓋体とで囲まれた空間に砕石、礫その他の裏込め材を充填して生物の生息空間とする工法等が提案されている(特許文献1〜4参照)。
【0003】
また、従来工法で構築された既存護岸が老朽化又は劣化して補修や補強の必要が生じた場合に、既存護岸の前面(接水面)側に生物共生を図るための新たな護岸を造成することも提案されている。例えば、既存護岸を簡易的に補強する場合に、既存護岸の前面に鋼矢板で連壁を造り、既存護岸と鋼矢板との間の空間又は上述した鋼矢板の凹部の空間に砕石等の裏込め材を充填して生物の生息空間とする。ただし、このように鋼矢板の周辺空間に裏込め材を配置する工法では、近隣水域の生態系にとって重要な生物、とくに高次の動物の餌となりうるカニやエビ、ゴカイ等の護岸内部の空間を利用する生物の定着を図ることができず、近隣水域に多様性に富んだ生態系を創造・回復することは難しい。また、耐震性等を考慮して新たにコンクリート等を用いて強固な護岸を構築する場合には適用することができない。
【0004】
これに対し本発明者らは、コンクリート護岸等においても生態系で重要な小動物の共生・定着を図ることができる生物共生型護岸構造を開発し、特許文献5〜6に開示した。この護岸構造は、護岸の前面に空隙を介してパネル材を取り付け、パネル材と護岸との間の空隙に生物のすみかとなる栗石、砂、土砂、シルト、良質土、貝殻、コンクリート廃材等の裏込め材を詰め込んだものである。パネル材の表面(接水面)には多数の細かい窪みのある凹凸石積模様が形成され、その石積模様の凹部に表面から裏面に貫通する生物出入孔が穿たれている。石積模様のひさし状凸部が生物出入孔に比較的広い日陰部分を作ると共に雨水の流入を防ぎ、生物出入孔を小動物の生息に適した乾燥しにくい環境に維持する。また、生物出入孔からの流水の適度な出入によって裏込め材が湿潤し、保温された状態となる。カニやエビ、ゴカイ等の小動物は、パネル材の表面の細かい窪みを利用して這い上がり、生物出入孔を介して流水側から裏込め材に入り込み、裏込め材の隙間を生息場所として定着する。
【0005】
本発明者らは、特許文献5〜6に提案した護岸構造を実際に東京湾沿岸の既設コンクリート護岸に適用したところ、護岸にカニ、ゴカイ等を共生・定着させる共に護岸の近隣水域においてこれらを餌とするハゼやウナギ等の数を増やすことができ、提案した護岸構造が多様性に富んだ水陸境界域の創造・回復に有効であることを確認することができた。例えば従来工法で構築された既存護岸を補修・補強する際に、既存護岸の前面に新たな護岸を構築すると共に上述したパネル材及び裏込め材を付加して生物共生型護岸構造とすれば、従来工法の護岸によって失われた近隣の多様性に富んだ生態系を創造・回復することが期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平7−034031号公報
【特許文献2】特開平11−229342号公報
【特許文献3】特開平11−229343号公報
【特許文献4】特開平2003−253647号公報
【特許文献5】特開平11−293646号公報
【特許文献6】特開2000−336625号公報
【特許文献7】特開平11−293643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述したように既存護岸を新たな護岸に補修・補強した上でパネル材及び裏込め材を付加して生物の共生・定着を図る工法は、通常の補修・補強に加えて生物定着機能を付加する2段階の工事が必要となるため工程が長くなり、それに応じて工事費用が嵩む問題点がある。既存の護岸のなかには築後20年以上経過して老朽化や劣化の進んだものがあり、耐震性も含めて補修や補強工事が必要とされるものも増えているが、そのような既存護岸の補修・補強工事に際して工程が長く費用も嵩む工法を採用することは、たとえ生物の共生・定着が図れるという付加価値があっても避けられる傾向にある。既存護岸の生物共生型護岸への移行を促進して多様性のある生態系の創造・回復を図るためには、上述した生物共生型護岸構造の有効性を損なうことなく、通常の補修・補強工事と同程度の工期・費用で施工できる生物共生型護岸の工法を開発する必要がある。
【0008】
そこで本発明の目的は、短い工期で経済的に構築できる生物共生型護岸及びその護岸に適した生物共生用護岸パネル材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
図1の実施例を参照するに、本発明による生物共生用護岸パネル材は、表面10aから裏面10bに貫通する複数の生物出入孔12を有し且つその裏面10bを護岸3(又は2、図2及び図6参照)の接水面に所要間隔dで対向させて設置するパネル材10、パネル材10の裏面10bの生物出入孔12の周囲に密着させて生物出入孔12に連なる袋状空間を形成するように取り付けたポケット14、及びポケット14の袋状空間内に充填封入した裏込め材15を備えてなるものである。
【0010】
好ましくは、パネル材10と護岸3(又は2)との間に両者を一体化させるコンクリート18a(図2参照)、土18b(図6参照)その他の充填材18を埋め込む。パネル材10の裏面10bには、図3に示すように、充填材18中に埋め込んで固定する突起部10eを設けることができる。ポケット14は、ゴム製、合成樹脂製、布製、紙製、木材製、又は金属製等とすることができる。ポケット14の上端には、図1(A)に示すように、封止可能な裏込め材投入口14aを設けることができる。また、図1に示すように、ポケット14をパネル材10の各生物出入孔12の周囲を個別に覆うように取り付けることができるが、図3に示すようにポケット14をパネル材10の2以上の生物出入孔12の周囲を共通に覆うように取り付けることもできる。望ましくは、図1(A)の楕円D部分に示すように、ポケット14の少なくとも一部の袋状空間内に生物出入孔12の口径よりも小粒径の裏込め材16を充填封入し、そのポケット14の袋状空間に連なる生物出入孔12を一時的に閉塞する仮栓17を設ける。
【0011】
また、図1及び図2の実施例を参照するに、本発明による生物共生型護岸は、流水と接する護岸3(又は2、図2及び図6参照)、表面10aから裏面10bに貫通する複数の生物出入孔12を有し且つその裏面10bを護岸3(又は2)の接水面に所要間隔dで対向させて設置したパネル材10、パネル材10の裏面10bの生物出入孔12の周囲に密着させて生物出入孔12に連なる袋状空間を形成するように取り付けたポケット14、ポケット14の袋状空間内に充填封入した裏込め材15、及びパネル材10と護岸3(又は2)との間に埋め込んで両者を一体化させるコンクリート18a(図2参照)、土18b(図6参照)その他の充填材18を備えてなるものである。
【0012】
例えば、図1及び図3に示すように、護岸3を鋼管矢板3a又は水平断面が凹凸の鋼矢板3cとし、パネル材10の裏面10bのポケット14の突出が鋼管矢板3aの鋼管継ぎ手部3bと嵌合するように矢板3aとパネル材10との対向位置を揃え、又は図5(A)に示すようにパネル材10の裏面10bのポケット14の突出が鋼矢板3cの凹部3dと嵌合するように矢板3cとパネル材10との対向位置を揃えることができる。図2に示すように、パネル材14の天端を護岸3の天端以上の高さとし、護岸3の上方にも充填材18を埋め込んで護岸3を充填材18中に埋設してもよい。
【0013】
好ましくは、図7に示すように、パネル材10の表面10a側の水底Eに、潮間帯又は潮間帯以下に窪み22のある又は窪み22のない平場21を有する階段状構造20を設ける。階段状構造20は、例えば図7(A)、図7(C)又は図7(E)に示すような窪み22のある又は窪み22のない平場21を設けた石積構造とし、或いは図7(G)に示すように窪み22のある又は窪み22のない頂面25を有する台座24a、24b、24cの積層構造とすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明による生物共生用護岸パネル材及び生物共生型護岸は、複数の生物出入孔12を有するパネル材10の裏面10bの生物出入孔12の周囲に生物出入孔12に連なる袋状空間を形成するようにポケット14を密着させて取り付け、そのポケット14の袋状空間内に裏込め材15を充填封入すると共に、パネル材10の裏面10bを護岸3の接水面に所要間隔dで対向させて設置し、パネル材10と護岸3との間に充填材18を埋め込んで両者を一体化させるので、次の有利な効果を奏する。
【0015】
(イ)ポケット14及び裏込め材15が付加されたパネル材10を一種の型枠として用いることにより、パネル材10と護岸3との間に充填材18を埋め込んで両者を一体化する1段階の工事で生物共生型護岸を施工することができ、2段階の工事を必要とする従来の生物共生型護岸の施工法に比して工期の短縮、工費の削減を図ることができる。
(ロ)また、パネル材10の裏面10bにポケット14が取り付けてあるので、裏込め材15を生物の定着にとって適切な位置に配置することができ、パネル材10の裏側全体に裏込め材15を詰め込む従来工法に比して、裏込め材15の施工を簡単化すると共に裏込め材15の使用量を削減することができる。
(ハ)生物生息空間となるポケット14を充填材18中に埋め込むので、そのポケット14の突出に応じた間隔dを護岸3とパネル材10との間に確保する必要はあるが、例えば凹部(例えば、鋼管矢板3aの継ぎ手部3b)を有する矢板3を用いてポケット14の突出を嵌合させることにより、護岸3に対するパネル材10の突き出し幅(護岸法線の変更幅)を小さく抑えることができる。
(ニ)新たに生物共生型護岸を構築する場合だけでなく、例えば補修や補強が必要とされる既存護岸に生物共生用護岸パネル材を適用し、既設護岸を補修・補強すると同時に生物の共生・定着機能を付与することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
以下、添付図面を参照して本発明を実施するための形態及び実施例を説明する。
【図1】本発明の生物共生用護岸パネル材の一実施例の説明図である。
【図2】本発明の生物共生型護岸の一実施例の説明図である。
【図3】本発明の生物共生用護岸パネル材の他の実施例の説明図である。
【図4】本発明の生物共生型護岸の構築工法の説明図である。
【図5】生物共生型護岸パネル材と矢板との対向位置揃え方法の説明図である。
【図6】本発明の生物共生型護岸の他の実施例の説明図である。
【図7】生物共生用護岸パネル材の前面側水底に設ける階段状構造の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1及び図3は、本発明の生物共生用護岸パネル材10の実施例を示す。図示例のパネル材10は、例えば幅2m、高さ3.5m、厚さ10〜20cm程度のコンクリート二次製品(防錆鉄筋を使用したプレキャストパネル等)であり、表面10aには凹凸石積模様11を形成し、その石積模様の凹部に表面10aから裏面10bに貫通する複数の生物出入孔12を形成したものである。特許文献5及び6に開示されたパネル材と同様に、石積模様11の表面にはカニ等の生物の足場及び/又は藻類等の植物の付着場となる多数の小さな窪みを形成することが望ましく、生物出入孔12は雨水が浸入しにくい形状(例えば中間に縮径部を有する出入孔)とすることが望ましい。ただし、パネル材10の材質、形状、大きさは図示例に限定されるものではなく、例えば図4に示すように、パネル材接合部10c、10dを介して複数枚のパネル材10を幅方向及び/又は高さ方向に連結して形状、大きさを自由に調整することができる。
【0018】
護岸パネル材10の裏面10bには、各生物出入孔12の周囲に密着して出入孔12に連なる袋状空間を形成するようにポケット14を取り付ける。このポケット14は、袋状空間内に生物の生息に適した裏込め材15を充填封入し、後述するようにパネル材10の裏側にコンクリートや土等の充填材18を埋め込む際に、生物出入孔12の裏側に充填材18の充填されない袋状空間を確保するためのものである。ポケット14の形状は、図1のように各生物出入孔12の周囲を個別に覆うもの、或いは図3のように2以上の生物出入孔12の周囲を共通に覆うものとすることができる。生物出入孔12を覆うポケット14は、図3に示すように、ポケット14の底面近傍を出入孔12の少なくとも1つ(例えばパネル材10の最低位の出入孔12)と位置合せして取り付け、更にポケット14の底面を当該出入孔12に向かって低くなるように傾斜させることにより、ポケット14内の底面に堆積した泥等を当該出入孔12から排出可能とすることが望ましい。図1のような個別ポケット14は、生物出入孔12毎に異なる種類の裏込め材15を充填封入する場合に適しているが、裏込め材15の充填作業が若干面倒になる。これに対し図3のような共通ポケット14とすれば、複数の生物出入孔12に共通の裏込め材15を充填封入することになるが、裏込め材15の充填作業の効率化が図れる。図1の個別ポケット14と図3の共通ポケット14とを、パネル材10の裏面10bに適宜分散して配置することも可能である。
【0019】
ポケット12の材質は、充填材18の透過しないものであって袋状空間内に生息させる生物の嫌わないものであればとくに制限はなく、例えば様々な形状の裏込め材15を充填できるように可撓性のあるゴム製、合成樹脂製、布製、又はダンボール等の紙製とすることができる。可撓性のあるポケット12は、裏込め材15を充填するまで畳み込んでおくことができるので、施工前のパネル材10の搬送・保管時にスペースをとらない利点もある。ただし、ポケット12を剛性の木材製、プラスチック製とすることも可能であり、防錆処理されていればポケット12を金属製としてもよい。
【0020】
ポケット14の周縁は、袋状空間内に充填材18が浸入しないように生物出入孔12の周囲に密着して接着剤等で固定するが(図1及び図3の点線ハッチングで示した部分を参照)、図1(A)に示すように上端の一部に封止可能な投入口14aを設けることが望ましい。例えば工場等でパネル材10を製作する際に裏面10bのポケット14を併せて設置・固定するが、ポケット14の一部に封止可能な投入口14aを設けておくことにより、パネル材10を護岸の施工現場に搬入したのち、現場で生息する生物の特性の応じた裏込め材15をポケット14に充填することが可能となる。ただし、施工現場で裏込め材15を調整する必要のない場合は、予め工場等でポケット14内に裏込め材15を充填封入し、パネル材10とポケット14と裏込め材15とを一体型の製品としてもよい。
【0021】
ポケット14に埋設封入する裏込め材15は、生息させる生物の特性に応じて例えば土砂、砂利、砕石、貝殻、コンクリート廃材等を適宜選択することができ、とくに天然のカルシウムを主成分とする素材が望ましい。また、生物の生育に適した現地浚渫土等を含めてもよい。本発明者の実験によれば、図3のような共通ポケット14に様々な大きさの砕石と貝殻(カキ殻)とからなる裏込め材3を充填封入しておけば、その裏込め材3の間隙に入り込むカニやエビ、ゴカイ等の小動物に生息場所を提供することができる。加えて、貝類、エビ・カニ等の甲殻類、サンゴ等のカルシウムで外骨格を形成する生物に対し、貝殻や粒状石灰石等のカルシウムを主成分とする裏込め材15を用いることで、護岸周辺の水中にカルシウムを溶出させて供給し、生物の骨格形成を促すことができる。また、炭酸カルシウム(CaCO)の外骨格を形成する際、カルシウム(Ca)とともに水中に溶存する二酸化炭素(CO)も生物体内に取り込まれるので、地球温暖化に伴う水域の酸性化の防止にもつながる効果が期待できる。図1のように個別ポケット14を設けた場合は、生物出入孔12毎に高さ(潮位)に応じた異なる種類の裏込め材15を充填封入しておくことにより、更に多様な生物に提供することができる。
【0022】
また、図1(A)の楕円D部分に示すように、少なくとも一部のポケット14に連なる生物出入孔12を仮栓17で一時的に閉塞したうえで、そのポケット14の袋状空間内に生物出入孔12の口径よりも小粒径の裏込め材16を充填封入し、パネル材10の裏側に充填材18を打設したのち仮栓17を解除して裏込め材16を生物出入孔12から流出させ又は吸い出すことにより、例えばハゼやウナギ等の生物の生息空間に適した裏込め材のない空隙を充填材18中に形成することも可能である。
【0023】
図1及び図3の護岸パネル材10は、例えば図5に示すように、既存護岸3の前面(接水面)に所要間隔dで対向させて係止部材13で係止し、パネル材10を型枠として護岸3との間にコンクリート18a等の充填材18を埋め込むことにより護岸3と一体化させることができる。また、図3に示すようにパネル材10の裏面10bの底部に突起部10eを設け、例えば図6に示すように既設護岸2の前面(接水面)の水底又は基礎30上に突起部10eを載置したうえで、護岸2との間に土18b等の充填材18を埋め込んでパネル材10と護岸2とを一体化させることができる。すなわち、既存護岸2、3を補修・補強した上でパネル材10及び裏込め材15を付加する2段階の工事ではなく、パネル材10を型枠として充填材18を埋め込む1段階の工事で既設護岸2、3を補修・補強すると同時に生物の共生・定着機能を付与することが可能であり、通常の補修・補強工事と同程度の工期・費用で既存護岸2、3を生物共生型護岸にすることができる。
【0024】
図2は、劣化補修又は耐震補強を必要とする既存護岸2の前面(接水面)側に、図1又は図3の護岸パネル材10を用いて新たに構築した本発明の生物共生型護岸1の実施例を示す。以下、図4の流れ図を参照して、図2の生物共生型護岸1の施工手順を説明する。先ず図4(A)に示すように、既存護岸2の前面の水底を掘削し、必要な場合は地盤改良等を施したのち、既存護岸2の前面に沿って鋼管矢板3a等を打ち込んで新たな護岸3を築造する。このような矢板護岸3の施工は、既設護岸2の流水側からクレーン付き台船等を用いて行うことができる。打ち込んだ矢板3aと既存護岸2との間の空間には適当な護岸裏込め工5を施す。矢板3aに対する防食処理は、後述するようにパネル材10及びコンクリート18aで表面を被覆するので基本的には不要であるが、パネル材10及びコンクリート18aで被覆されない干潮汀線以下の2〜3mの部分には重防食塗装4を施すことが望ましい。また、矢板3aの前面側の掘削した水底には、捨石基礎30を設置することが望ましい。なお、図2の実施例では、矢板3aの上方に既存護岸2の天端に連なる天板7を設けて緑地や遊歩道として利用するため、矢板3aの天端を既存護岸2の天端よりも低い位置に揃えて打ち込んでいる。
【0025】
次いで、図4(B)に示すように矢板護岸3の表面(接水面)に護岸パネル材10を所要間隔dで対向させて平行に係止し、図4(C)に示すようにパネル材10の裏面10bのポケット14内に上端から砕石、貝殻(カキ殻)等の裏込め材15、16を充填封入する。或いは、この施工手順を逆転させ、護岸の隣接域でパネル材10のポケット14に裏込め材15、16を充填封入したうえで、そのパネル材10を矢板護岸3の前面に係止してもよい。矢板護岸3とパネル材10との間にはポケット14の突出に応じた間隔dを確保しなければならないが、例えば図1(C)及び図3(C)に示すように鋼管矢板3aを用いた場合は、ポケット14の突出が鋼管矢板3aの鋼管継ぎ手部3bと嵌合するように鋼管矢板3aとパネル材10との対向位置を揃えることにより、生物を生息させるに充分な大きさのポケット14の袋状空間を確保しつつ、護岸3に対するパネル材10の突き出し幅(護岸法線の変更幅)を小さく抑えることができる。このような位置揃えは、例えば工場等でパネル材10を製作する際に、鋼管矢板3aの径(継ぎ手部3bの間隔)に応じて生物出入孔12及びポケット14の設置位置を調整することにより比較的容易に対応可能である。
【0026】
また、図5(A)のように水平断面が凹凸の鋼矢板(U型鋼矢板、Z型鋼矢板等)3cを用いた場合も、ポケット14の突出が鋼矢板3cの凹部3dと嵌合するように矢板3cとパネル材10とを位置揃えすることで、護岸3に対するパネル材10の突き出し幅を小さく抑えることが可能である。図5(B)のような直線形鋼矢板3eを用いた場合は、パネル材10のポケット14を鋼矢板3eに押し当てることにより、突き出し幅を最小限に抑えることができる。更に、鋼管矢板3aを用いた場合は、必要に応じて鋼管の径を小さくすることによって突き出し幅を調整することも可能である。
【0027】
なお、図1(C)及び図3(C)の実施例では、護岸3の前面の地盤又は水底に複数本のH鋼等の係止杭13を打ち込み、腹起こし材等で係止杭13を固定したうえで、一対の係止杭13の間にパネル材10の幅方向両端の溝を嵌合させて落とし込むことにより、パネル材10を護岸3に対向させて係止している。ただし、パネル材10の係止方法はこの実施例に限定されるものではなく、例えば図4(B)に示すように鋼管矢板3a等にスタッド9を溶接等によって取り付け、そのスタッド9にパネル材10を係止して護岸3と対向させてもよい。
【0028】
護岸3の前面に係止した護岸パネル材10のポケット14に裏込め材3を充填封入したのち、図4(D)に示すように、そのパネル材10を型枠として矢板護岸3との間にコンクリート18aを打設することにより、図4(E)に示すように矢板護岸3とパネル材10とが一体化された生物共生型護岸1を構築する。好ましくは、図2に示すようにパネル材10の天端を矢板護岸3の天端以上の高さとし、護岸3の裏側(岸側)に仮設型枠19(図1(C)及び図3(C)参照)を設けたうえで、パネル材10と仮設型枠19との間にコンクリート18aを打設して護岸3をコンクリート18a中に埋設する。矢板護岸3をコンクリート18a中に埋設することにより、矢板護岸3の海水等による腐食を防止すると共に、護岸3の上方を既存護岸2の天端に連なる緑地や遊歩道等として利用することが可能となる。図示例の符号7及び8は、遊歩道とする天板及びその転落防止柵を示す。仮設型枠19を撤去したコンクリート18aと既設護岸2との間の空間には適当な整理工6を施す。
【0029】
本発明の生物共生型護岸1は、ポケット14及び裏込め材15が付加された生物共生用護岸パネル材10を護岸3の接水面に設置し、そのパネル材10を一種の型枠として護岸3との間にコンクリート18a等の充填材を埋め込む1段階の工事によって護岸3とパネル材10とが一体化された生物共生型護岸を施工することができ、2段階の工事を必要とする従来の施工法に比して工期の短縮、工費の削減を図ることができる。また、パネル材10に取り付けたポケット14に裏込め材15を充填封入するので、パネル材10の裏側全体に裏込め材15を詰め込む従来工法に比して裏込め材15の施工を簡単化することができ、裏込め材15の使用量も削減することができる。更に、新たに生物共生型護岸を構築する場合だけでなく、既設護岸3を補修・補強する工事に併せて同時に生物の共生・定着機能を付与することが可能であり、既存護岸の生物共生型護岸への移行を促進して多様性のある生態系の創造・回復を図るためにも有効利用が期待できる。なお、本発明で用いるコンクリート18aには、流動化処理土、軽焼マグネシアを主成分とする土壊硬化剤組成物、その他のセメント系固結性流動物を含めることができる。
【0030】
こうして本発明の目的である「短い工期で経済的に構築できる生物共生型護岸及びその護岸に適した生物共生用護岸パネル材」の提供が達成できる。
【実施例1】
【0031】
図6は、海や湖沼に桟橋状に突出した既存護岸2を補修・補強する工事に際して、併せて生物の共生・定着機能を付与するため、図3の護岸パネル材10を用いて構築した本発明の生物共生型護岸1の他の実施例を示す。この工事においても、図4(B)の場合と同様に、護岸2の片側表面(接水面)の水底を掘削し、必要に応じて捨石基礎30を設置したうえで、護岸2の表面と所要間隔dで対向するように護岸パネル材10を設置する。図示例のパネル材10は、図3に示すように裏面10bの底部に充填材18中へ埋め込んで固定する突起部10eを有しており、その突起部10eを掘削した水底又は基礎30上に載置することでパネル材10を安定的に護岸3と平行に対向させることができる。また、パネル材10から突出する突起部10eの角度を調整する(例えば鋭角とする)ことにより、護岸3に対してパネル材10を傾斜させることができる。
【0032】
次いで、図4(C)〜(D)と同様に、設置したパネル材10の裏面10bのポケット14内に適当な裏込め材15を充填封入したのち、パネル材10と護岸2との間に土18bを埋め込み、パネル材10の突起部10eを土18b中に埋め込むことにより、護岸2と一体化された生物共生型護岸1を構築する。図示例のように、埋め込んだ土18bの上方に更に天板7を設置し、遊歩道とすることもできる。図6の生物共生型護岸1も、ポケット14及び裏込め材15が付加された生物共生用護岸パネル材10を護岸2の接水面に設置して土18bを埋め込む1段階の工事によって施工することができ、生物共生型護岸の工期の短縮、工費の削減を図ることができる。
【実施例2】
【0033】
図2の実施例では、既存護岸2の前面(接水面)の水底に捨石基礎30を敷設し、その捨石基礎30に護岸パネル材10を打ち込んで設置すると共に、パネル材10の前面側の水底Eに、潮間帯(満潮位HWLと干潮位LWLとの間の地帯)又は潮間帯以下に窪み22のある又は窪み22のない平場21を有する階段状構造20を設け、その水底の階段状構造20と護岸パネル材10とを含めた生物共生型護岸1としている。
【0034】
従来から、護岸等の前面に潮位に応じて水面上に現れる潮だまりやテラス(干出干潟造成台)等を階段状に設け、その潮だまりやテラスを利用して護岸近隣の生物の多様性を図る工法が提案されている(特許文献7参照)。また、本発明者らは、上述した生物共生型護岸1の前面に階段状の潮だまりやテラスを一体的に構築すれば、護岸近隣の多様性に富んだ生態系を創造するために極めて有効であることを確認している。例えば図7(A)に示すように、護岸1の前面の平均潮位MWL前後に窪み22を有する平場21を設け、その窪み22に砂泥28等を載置して「干出干潟構造」20aとすれば、ゴカイ、二枚貝、カニ類等の砂泥質内で生活する生物の繁殖を図ることができる。また、図7(C)に示すように、平均潮位MWL前後の干出干潟構造20aより低い部位に、水29の溜まる窪み22を有する平場21を設けて「潮だまり構造」20bとすれば、マハゼ、ウナギ、エビ、カニ類等の繁殖に有効である。更に、図7(E)に示すように、低潮位LWL以下に窪み22のない平場21を設けて「かけ上がり」構造20cとすれば、藻類の繁殖に伴う光合成により酸素生産が促進され、マハゼ、エビ、カニ類等の良好な生育環境とすることができる。
【0035】
しかし、生物共生型護岸1の前面に干出干潟構造20aや潮だまり構造20bを一体的に構築する従来の工法は、護岸1の構築工事を完了した上でその前面に石積構造を敷設して潮だまりやテラスを構築する必要があるので工期が長くなり、施工費用が嵩む原因となっていた。上述したように本発明によれば、生物共生型護岸1を短工期で構築することが可能であり、干出干潟構造20aや潮だまり構造20bを含む生物共生型護岸1を従来工法に比して短時間で経済的に構築することが可能である。ただし、石積構造により潮だまりやテラスを施工する従来の施工方法では、通常の護岸の補修・補強工事と比べると工程が長く費用も嵩むものとならざるを得ない。
【0036】
図2の実施例は、石積構造の干出干潟構造20a、潮だまり構造20b、かけ上がり構造20cに代えて、窪み22のある又は窪み22のない頂面25を有する台座24a、24b、24cを用い、干出干潟や潮だまりを含む生物共生型護岸1の施工の工期の短縮、工費の削減を可能としたものである。例えば図7(B)に示すように、窪み22のある頂面25を有する台座(例えばコンクリート製の台座)24を用い、その窪み22に砂泥28等を載置すれば、図7(A)と同様の「干出干潟構造部材」24aとすることができる。また、図7(D)のように窪み22のある頂面25を有する台座24を用いて図7(C)と同様の「潮だまり構造部材」24bとし、図7(F)のように窪み22のない頂面25を有する台座24を用いて図7(E)と同様の「かけ上がり構造部材」24cとすることができる。このような台座24a、24b、24cは、施工する護岸前面の広さや水深等を考慮して、予め工場等でコンクリート等の製品として製作しておくことができる。また、台座24a、24bには適当な切欠き26又は水抜き孔27を設けて、従来の石積構造と同様の透水性を与えることも可能である。
【0037】
図2の生物共生型護岸1は、例えば矢板3とパネル10との間にコンクリート18を打設する際(図4(D)参照)に、予め工場等で製作した台座24a、24b、24cの何れかを捨石基礎30上の潮間帯又は潮間帯以下に望ましい部位に配置することにより、実質上1段階の工事で干出干潟や潮だまり、かけ上がりを含む生物共生型護岸1を施工することができ、実質的に通常の補修・補強工事と同程度の工期・費用で構築することができる。また、複数の台座24a、24b、24cを用いて、複数の干出干潟、潮だまり、かけ上がりを同時に施工することも可能である。更に、図7(G)及び図7(H)に示すように、適当な柱又は壁状の積層部材24dを用いて複数の台座24a、24b、24cを任意に組み合わせて積層し、比較的狭い敷設面積上に干出干潟構造、潮だまり構造、かけ上がり構造を積み重ねて設置することにより、従来の石積構造では実現できなかった生物の生息環境を創出することも可能であり、既存護岸の生物共生型護岸への移行を促進して多様性のある生態系の創造・回復を図るために有効利用が期待できる。
【符号の説明】
【0038】
1…生物共生型護岸 2…既設護岸
3…護岸(矢板護岸) 3a…鋼管矢板
3b…鋼管継ぎ手部 3c…U型又はZ型鋼矢板
3d…凹部 3e…直線形鋼矢板
4…防食塗装 5…護岸裏込め工
6…整理工 7…天板
8…転落防止柵 9…スタッド
10…パネル材 10a…パネル材表面
10b…パネル材裏面 10c、10d…パネル材接合部
10e…突起部 11…石積模様
12…生物出入孔 13…係止部材
14…ポケット 14a…投入口
15…裏込め材 16…小粒径の裏込め材
17…仮栓 18…充填材
18a…コンクリート 18b…土
19…仮設型枠
20…階段状構造 20a…干出干潟構造
20b…潮だまり構造 20c…かけ上がり構造
21…平場 22…窪み
24…台座 24a…干出干潟構造部材
24b…潮だまり構造部材 24c…かけ上がり構造部材
24d…積層部材 25…頂面
26…切欠き 27…水抜き穴
28…砂泥 29…水
30…捨石基礎

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面から裏面に貫通する複数の生物出入孔を有し且つその裏面を護岸 の接水面に所要間隔で対向させて設置するパネル材、前記パネル材裏面の生物出入孔の周囲に密着させて出入孔に連なる袋状空間を形成するように取り付けたポケット、及び前記袋状空間内に充填封入した裏込め材を備えてなる生物共生用護岸パネル材。
【請求項2】
請求項1のパネル材において、前記パネル材と護岸との間に両者を一体化させるコンクリート、土その他の充填材を埋め込んでなる生物共生用護岸パネル材。
【請求項3】
請求項2のパネル材において、前記パネル材の裏面に、前記充填材中に埋め込んで固定する突起部を設けてなる生物共生用護岸パネル材。
【請求項4】
請求項1から3の何れかのパネル材において、前記ポケットの上端に封止可能な裏込め材投入口を設けてなる生物共生用護岸パネル材。
【請求項5】
請求項1から4の何れかのパネル材において、前記ポケットをゴム製、合成樹脂製、布製、紙製、木材製、又は金属製としてなる生物共生用護岸パネル材。
【請求項6】
請求項1から5の何れかのパネル材において、前記ポケットをパネル材の各生物出入孔の周囲を個別に覆うように取り付け又は2以上の生物出入孔の周囲を共通に覆うように取り付けてなる生物共生用護岸パネル材。
【請求項7】
請求項1から6の何れかのパネル材において、前記ポケットの少なくとも一部の袋状空間内に生物出入孔の口径よりも小粒径の裏込め材を充填封入し、そのポケットの袋状空間に連なる生物出入孔を一時的に閉塞する仮栓を設けてなる生物共生用護岸パネル材。
【請求項8】
流水と接する護岸、表面から裏面に貫通する複数の生物出入孔を有し且つその裏面を前記護岸の接水面に所要間隔で対向させて設置したパネル材、前記パネル材裏面に出入孔の周囲に密着させて出入孔に連なる袋状空間を形成するように取り付けたポケット、前記袋状空間内に充填封入した裏込め材、及び前記パネル材と護岸との間に埋め込んで両者を一体化するコンクリート、土その他の充填材を備えてなる生物共生型護岸。
【請求項9】
請求項8のパネル材において、前記パネル材の裏面に、前記充填材中に埋め込んで固定する突起部を設けてなる生物共生用護岸パネル材。
【請求項10】
請求項8又は9の護岸において、前記護岸を岸に沿って打ち込んだ鋼管矢板又は水平断面が凹凸の鋼矢板とし、前記パネル材裏面のポケットの突出が鋼管矢板の鋼管継ぎ手部又は鋼矢板の凹部と嵌合するように矢板とパネル材との対向位置を揃えてなる生物共生型護岸。
【請求項11】
請求項8から10の何れかの護岸において、前記パネル材の天端を前記護岸の天端以上の高さとし、護岸を充填材中に埋設してなる生物共生型護岸。
【請求項12】
請求項8から11の何れかの護岸において、前記パネル材の接水面側の水底に、潮間帯又は潮間帯以下に窪みのある又は窪みのない平場を有する階段状構造を設けてなる生物共生型護岸。
【請求項13】
請求項12の護岸において、前記階段状構造を、石積構造又は窪みのある又は窪みのない頂面を有する台座の積層構造としてなる生物共生型護岸。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−179204(P2011−179204A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43511(P2010−43511)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(000230010)ジオスター株式会社 (77)
【Fターム(参考)】