説明

産業用ロボット

【課題】潤滑剤の漏れに対してなるべく速やかに対処できるようにする。
【解決手段】産業用ロボット1が、関節部Jの間隙45を仕切るようにして潤滑剤が封入される封入空間46を形成する主シール部材41と、主シール部材41から外部に向かって順に間隙45を仕切るようにして間隔をおいて配置された1以上の補助シール部材42,43と、封入空間46から隣り合う2つのシール部材41,42の間の空間47内へと潤滑剤が漏れ出していることを検知するための漏れ検知装置50とを備える。漏れ検知装置50は、空間47から潤滑剤を吸い出す吸出し機構51を備え、吸出し機構51は、空間47内に連通する吸出し配管61と、吸出し配管61を介して空間47内に負圧を印加する負圧印加装置62とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、関節部に2以上のシール部材を設けた産業用ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
産業用ロボットの一例として、多関節ロボットが広く知られている。多関節ロボットは、順次に回転可能に連結された複数のアーム部材を備えている。アーム部材を基台部材に回転可能に連結する部分、及び隣り合う2本のアーム部材のうち先端側のアーム部材を基台側のアーム部材に回転可能に連結する部分(以下、「関節部」)には、減速機及びベアリング等の機械要素が組み込まれている。これら機械要素を円滑に動作させるため、関節部には、潤滑剤を密封するためオイルシールが設けられる。
【0003】
ロボット外部の流体や塵芥がロボット内部に侵入したり、ロボット内部の流体や塵芥がロボット外部に排出されたりするのは、ロボットの動作信頼性の確保や、ロボットが設置されている環境の清浄性の維持の面で好ましくない。そこで、特許文献1に開示されるように、ロボット内部を外部から密閉するため、関節部には、潤滑剤の密封用とは別のオイルシールが設けられる場合がある。以下、潤滑剤密封用のオイルシールを「主シール」、それとは別のオイルシールを「補助シール」と称する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−254787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
主シール及び補助シールは、磨耗による劣化を避けられず、交換を要する消耗品である。主シールの磨耗進行により主シールでの密封が破れると、主シールと補助シールとの間の空間に潤滑剤が漏れ出す。しかし、特許文献1に開示されたロボットでは、主シールでの密封が破れて潤滑剤が漏れ出しても、これを生産工場の作業員又はロボットメンテナンスの作業員が容易に認識することができない。
【0006】
補助シールでの密封も破れてしまい、潤滑剤が主シールと補助シールとの間の前記空間からロボット外部にまで漏れ出してはじめて、作業員は主シールでの密封が破れていることを認識する。このため、潤滑剤がロボット外部に漏れ出すまでは、作業員に主シールを交換する強い動機付けが働きにくく、それまでの間に、潤滑を必要とする機械要素が円滑に動作しづらくなるおそれがある。
【0007】
また、潤滑剤がロボット外部に漏れ出すと、ロボットが設置された環境の清浄性を担保しづらい。特許文献1は、ロボットを食品工場に設置する場合に、潤滑剤に食用油を適用することを開示しているが、例えば、清浄性に対して特別に敏感な医薬品工場では、潤滑剤の漏れが製品の品質に重大な影響を及ぼすおそれがある。このため、医薬品工場では、食品工場とは事情が異なり、潤滑剤の成分の如何に関わらず、潤滑剤の漏れ自体が許されない。もちろん、食品その他の生産工場でも、潤滑剤の漏れ自体を抑制又は防止することができれば、ロボットが設置された環境の清浄性の維持に資するので有益である。
【0008】
そこで本発明は、潤滑剤の漏れに対してなるべく速やかに対処できるようにし、それによりロボットが設置された環境の清浄性の維持、ロボットの動作信頼性の確保、シールの適切な交換を可能にすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記目的を達成すべくなされたものである。本発明に係る産業用ロボットは、基台部材に順次に連結される1以上のアーム部材と、前記基台部材及び前記アーム部材における隣り合う2つの部材のうちの先端側部材を、当該2つの部材のうちの基端側部材に回転可能に連結する関節部と、前記関節部に組み込まれた機械要素と、前記先端側部材と前記基端側部材との間に形成された間隙であって前記機械要素が露出し且つ外部に連通する間隙を仕切るようにして、当該機械要素を潤滑する潤滑剤が封入される封入空間を形成する主シール部材と、前記主シール部材から外部に向かって順に前記間隙を仕切るようにして間隔をおいて配置された1以上の補助シール部材と、前記封入空間から前記主シール部材及び前記補助シール部材のうち隣り合う2つのシール部材の間の空間内へと潤滑剤が漏れ出していることを検知するための漏れ検知装置と、を備え、前記漏れ検知装置は、漏れの検知のため前記空間から潤滑剤を吸い出す吸出し機構を備え、前記吸出し機構が、前記空間内に連通する吸出し配管と、前記吸出し配管を介して前記空間内に負圧を印加する負圧印加装置と、を備える。
【0010】
前記構成によれば、主シール部材及び補助シール部材の全ての密封が破れて潤滑剤がロボットの外部に漏れ出すよりも前に、負圧印加装置の作用によって潤滑剤を吸い出すことができ、潤滑剤を吸い出したことに基づいて潤滑剤が封入空間から漏れ出していることを検知することができる。したがって、清浄性に対して敏感な環境にロボットが設置されている場合であっても、潤滑剤で当該環境を汚すことなく、主シール部材をなるべく速やかに交換することができる。このため、産業用ロボットを清浄性に対して敏感な環境にも好適に適用することができる。また、潤滑剤の漏れ出しが比較的少ないうちに、主シール部材をメンテナンスすることができるので、機械要素が円滑に動作する状態を維持することができる。
【0011】
前記隣り合う2つのシール部材の間の前記空間が、前記主シール部材とこれに隣り合う補助シール部材との間の空間であってもよい。
【0012】
前記構成によれば、隣り合う2つのシール部材の間に形成される空間のうち、前記主シール部材に最も近い空間への潤滑剤の漏れ出しを検知できる。このため、潤滑剤が漏れ出たことを速やかに検知することができる。
【0013】
前記漏れ検知装置が、前記関節部の外側において、吸い出された潤滑剤を貯留するための潤滑剤溜まりを有し、前記潤滑剤溜まりが、その内部を視認可能にする窓部を有していてもよい。
【0014】
前記構成によれば、ロボットメンテナンスの作業員やロボットが設置されている生産工場の作業員が、窓部を通して吸い出された潤滑剤の量を確認可能になる。よって、作業員は、潤滑剤が漏れ出していることを容易に検知することができ、作業員にシール部材を適切に交換するよう促すことができる。
【0015】
前記漏れ検知装置が、前記吸出し配管の内圧を検出する圧力センサと、前記圧力センサにより検出される内圧が上昇すると前記潤滑剤が漏れ出していると判断する検知制御部と、を更に備えていてもよい。
【0016】
潤滑剤が吸出し配管に入り込めば、吸出し配管の内圧は上昇する。前記構成によれば、これを利用して、潤滑剤が漏れ出していることを自動的に検知することができる。
【0017】
前記吸出し配管の内部に濾材が設けられていてもよい。
【0018】
前記構成によれば、吸い出された潤滑剤によって濾材の目地が詰まれば、内圧を顕著に上昇させることができる。このため、圧力センサを用いて潤滑剤が漏れ出しているか否かを精度よく検出することができる。
【0019】
前記吸出し配管は、第1配管と、前記第1配管とは独立した通路を構成して前記第1配管を外囲する第2配管とを有する複合管構造をなしており、前記第1配管及び前記第2配管はどちらも前記空間に連通しており、前記負圧印加装置は、前記第1配管を介して前記空間に負圧を印加するように構成され、前記吸出し機構は、前記負圧印加装置の動作中に、前記第2配管を介して流体を前記空間内に供給してもよい。
【0020】
前記構成によれば、第2配管を介して潤滑剤が漏れ出した空間に送り込まれた流体によって、当該空間から第1配管の通路へと円滑な流れを生み出すことができ、当該空間内の潤滑剤を良好に吸い出しやすくなる。第1配管及び第2配管が複合管構造をなしているので、吸出し配管の取り回しがコンパクトになる。
【0021】
前記吸出し配管は、その一端部に、2以上に分岐された複数の分岐部を有し、前記複数の分岐部それぞれに開口が設けられており、前記開口が、前記空間を規定する前記隣り合う2つのシール部材のうち前記封入空間に近い側のシール部材の周方向に間隔をおいて配置されていてもよい。
【0022】
前記構成によれば、漏れ出た潤滑剤を、周方向における漏れ位置に関わらず良好に吸い出すことができる。なお、吸出し配管が第1配管及び第2配管を備える場合では、第1配管及び第2配管の少なくとも一方が、複数の分岐部を有していればよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、潤滑剤の漏れに対してなるべく速やかに対処することができ、それによりロボットが設置された環境の清浄性を維持することができ、ロボットの動作信頼性を確保することができ、シール部材を適切に交換することができる。本発明の上記及び他の目的、特徴及び利点は、添付図面参照の下、以下の好適な実施態様の詳細な説明から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施形態に係る産業用ロボットの全体構成を示す側面図である。
【図2】図1に示す産業用ロボットの関節部及び漏れ検知装置の構成を示す模式図である。
【図3】図3(a)は、本発明の第2実施形態に係る産業用ロボットの関節部及び漏れ検知装置の構成を示す模式図である。図3(b)は、図3(a)のb−b線に沿って切断して示す吸出し配管の断面図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係る産業用ロボットの関節部及び漏れ検知装置の構成を示す模式図である。
【図5】図5(a)は、本発明の第4実施形態に係る産業用ロボットの関節部及び漏れ検知装置の構成を示す模式図である。図5(b)は、図5(a)のb−b線に沿って切断して示す関節部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、全ての図を通じて同一又は対応する要素には、同一の符号を付して重複する詳細な説明を省略する。
【0026】
[第1実施形態]
(産業用ロボットの全体構成)
図1は、本発明の第1実施形態に係る産業用ロボットの全体構成を示す側面図である。図1に示すように、産業用ロボット1は、基台部材2と、基台部材2から順次に連結される複数のアーム部材3〜8とを備えている。これら部材3〜8の先端には、所要の作業を行うためのツール9が取外し可能に取り付けられる。ツール9には、ピッキング作業を行うための把持具又は吸着具等のほか、溶接作業を行うためのトーチやガン、塗装作業を行うためのガンを適用することができる。なお、図1では、本実施形態に係る産業用ロボット1として、いわゆる垂直多関節式の6軸ロボットを例示しているが、これは単なる一例に過ぎず、本発明は他の様式のロボットにも好適に適用可能である。
【0027】
基台部材2は、食品工場、医薬品工場等の生産工場内の作業現場に設置される。なお、図1では、基台部材2が作業現場の水平な床面上に固定される場合を例示しているが、非水平面上に設置されていてもよいし、上から吊り下げられていてもよいし、移動可能に設置されていてもよい。複数のアーム部材3〜8には、第1アーム部材3、第2アーム部材4、第3アーム部材5、第4アーム部材6、第5アーム部材7及び第6アーム部材8が含まれており、この順でアーム部材3〜8が基台部材2から順次に連結されている。すなわち、第1アーム部材3が、基端部で基台部材2に連結され、第2アーム部材4が、基端部で第1アーム部材3の先端部に連結され、以下同様に、第6アーム部材8が、基端部で第5アーム部材7の先端部に連結されている。ツール9は、第6アーム部材8の先端部に取外し可能に取り付けられる。
【0028】
産業用ロボット1は、複数の関節部J1〜J6を備えている。各関節部J1〜J6は、順次に連結された基台部材2及びアーム部材3〜8の中で隣り合う2つの部材のうちの先端側部材を、当該2つの部材のうちの基端側部材に対して回転可能に連結する。「先端側部材」は、隣り合う2つの部材のうちツール9側に配設された部材である。「基端側部材」は、その反対側に配設された部材である。なお、本実施形態では、基台部材2及びアーム部材3〜8の総数が7であるため、隣り合う基端側部材及び先端側部材のペア数が6であり、関節部J1〜J6の個数も6である。ただし、産業用ロボット1が6軸ロボットに限定されないのと同様に、関節部J1〜J6の個数も特に限定されない。
【0029】
例えば、第1関節部J1は、先端側部材(第1アーム部材3)を第1回転軸線A1周りに回転可能に基端側部材(基台部材2)に連結している。第2関節部J2は、先端側部材(第2アーム部材4)を第2回転軸線A2周りに回転可能に基端側部材(第1アーム部材3)に連結しており、第3〜第6関節部J3〜J6もこれと同様である。図1中、参照符号A3は、第3関節部J3における先端側部材(第3アーム部材5)の回転中心となる第3回転軸線である。参照符号A4は、第4関節部J4における先端側部材(第4アーム部材6)の回転中心となる第4回転軸線である。参照符号A5は、第5関節部J5における先端側部材(第5アーム部材7)の回転中心となる第5回転軸線である。参照符号A6は、第6関節部J6における先端側部材(第6アーム部材8)の回転中心となる第6回転軸線である。第1〜第6アーム部材3〜8は、第1〜第6関節部J1〜J6それぞれで先端側部材となり、対応する回転軸線A1〜A6周りに互いに独立して回転可能である。なお、本実施形態では、各関節部J1〜J6が、先端側部材に1軸周りの回転を許容するが、先端側部材に2軸又は3軸周りの回転を許容してもよい。
【0030】
図2は、図1に示す産業用ロボット1の関節部J及び漏れ検知装置50の構成を示す概念図である。図2では、6個の関節部J1〜J6のうち、基台部材2が基端側部材11となり第1アーム部材3が先端側部材21となる第1関節部J1を代表的に図示しているが、他の関節部J2〜J6も同様の構成を有している。そこで以降では、第1〜第6関節部J1〜J6のいずれにも該当し得る事項について、図2に示された関節部に付す参照符号「J」を用いて説明する。回転軸線についても同様に参照符号「A」を用いて説明する。漏れ検知装置50は、関節部Jに適用された潤滑剤の漏れ出しを検知するための装置である。漏れ検知装置50は、全部の関節部J1〜J6に対応して設けられていてもよいし、1又は複数の一部の関節部のみに対応していてもよい。
【0031】
(関節部)
図2に示すように、関節部Jは、先端側部材21の基端部に設けられた先端連結部22を、基端側部材11の先端部に設けられた基端連結部12に回転可能に連結するように構成される。例えば、2つの連結部12,22は、軸線方向の端部に開口をそれぞれ有した円筒状に形成されている。これら連結部12,22は、同軸状に、また、2つの開口を軸線方向に互いに向き合わせるようにして嵌め合わされている。なお、図2では、先端連結部22が基端連結部12の外側に嵌め合わされている場合を例示しているが、内と外を逆にしてもよい。
【0032】
このようにして連結部12,22を嵌め合わせることにより、2つの連結部12,22の間に間隙45が形成される。先端連結部22は、内周面から突出する内壁23を有しており、内壁23は、先端連結部22の開口よりも軸線方向に奥まった位置に設けられている。間隙45内には、内壁23から見て基端側に、先端側部材21を回転駆動するための機械要素が収容されている。
【0033】
機械要素には、例えば、モータユニット31、減速機ユニット32及び出力軸33が含まれる。出力軸33は、その一端部において内壁23の中心部に連結されており、内壁23から基端連結部12の内側に向かって延びている。減速機ユニット32は、概略円筒状に形成され、出力軸33を外囲するように配置されている。モータユニット31は、減速機ユニット32から基端連結部12の内側に向かって延びている。モータユニット31が動作すると、モータユニット31の回転が減速機ユニット32を介して出力軸33に伝達され、出力軸33の回転が内壁23に伝達される。これにより、出力軸33の中心軸線が先端側部材21の回転軸線Aとなり、先端側部材21が当該回転軸線A周りに回転する。詳細に図示しないが、この他の機械要素には、出力軸33を回転可能に支持するベアリング(図示せず)等も含まれる。
【0034】
間隙45は、連結部12,22が軸線方向に向き合う部分、基端連結部12に設置された減速機ユニット32と先端連結部22とが半径方向にオーバーラップしている部分、又は連結部12,22が半径方向にオーバーラップしている部分を介し、産業用ロボット1の外部に連通(開口)している。また、上記機械要素は、間隙45に収容されることで、間隙45に露出する状態で関節部Jに組み込まれている。
【0035】
一方、機械要素を円滑に動作させて先端側部材21を円滑に回転させるため、減速機ユニット32や、出力軸33を支持するベアリング等を潤滑する必要がある。そこで関節部Jには主シール部材41が設けられている。主シール部材41は、間隙45を仕切るようにして、密閉された封入空間46を形成している。封入空間46内には、機械要素を潤滑するための潤滑剤が封入される。主シール部材41は、例えば円環状のオイルシールであり、出力軸33が回転するのを許容しながら、密閉された封入空間46を形成する。主シール部材41にオイルシールを適用するときには、オイルシールはどのような形態でもよく、バネを有していても有していなくてもよいし、塵よけを有していても有していなくてもよいし、外周面をゴム製としても金属製としても樹脂製としてもよい。封入空間46の潤滑剤も、機械要素を潤滑することができるのであれば、どのような形態であってもよい。例えば、潤滑剤を染み込ませた海綿体が封入空間46内で封入されてもよいし、液状の潤滑剤がそのまま封入空間46内で封入されてもよい。潤滑剤は、鉱物油系の潤滑油であってもよいし、食用の潤滑油であってもよいし、その他の成分の潤滑油であってもよい。
【0036】
関節部Jには、主シール部材41から外部に向かって順に間隙45を仕切るようにして間隔をおいて配置された1以上の補助シール部材42,43が設けられる。本実施形態では、このような1以上の補助シール部材として、第1補助シール部材42と第2補助シール部材43とが、主シール部材41から外部に向かってこの順で設けられている。このように2つの補助シール部材42,43が設けられているので、間隙45は、前述した封入空間46と、主シール部材41及び第1補助シール部材42の間に形成された第1空間47と、第1補助シール部材42及び第2補助シール部材43の間に形成された第2空間48とに仕切られる。封入空間46、第1空間47及び第2空間48は、この順で外部へと近付いていく。別の言い方をすれば、封入空間46は、主シール部材41を介して第1空間47と隣接し、第1空間47は、第1補助シール部材42を介して第2空間48と隣接し、第2空間48は第2補助シール部材43を介して外部と隣接している。
【0037】
本実施形態では、減速機ユニット32が、基端連結部12の開口の縁部に設置され、それにより減速機ユニット32の外周面が先端連結部22の内周面と近接して対向している。よって間隙45が、当該外周面と内周面との間のリング状のクリアランスを介して外部に連通(開口)している。そこで、第1補助シール部材42及び第2補助シール部材43はどちらも、先端連結部22の内周面と減速機ユニット32の外周面との間のリング状のクリアランスに嵌め込まれている。なお、減速機ユニット32が基端連結部12の内側に配置されているような場合、間隙45が、先端連結部22の内周面と基端連結部12の外周面との間のクリアランスを介して外部に連通する。このような場合、第1補助シール部材42又は第2補助シール部材43が、基端連結部12の外周面に密着するようにして設けられていてもよい。第1補助シール部材42も第2補助シール部材43も、例えばO型のオイルシールであり、リング状のクリアランスに好適に嵌め込まれる。主シール部材41と同様、第1補助シール部材42にも第2補助シール部材43にもどのような形態のオイルシールが適用されていてもよい。
【0038】
このように主シール部材41及び補助シール部材42,43を設けていると、機械要素が封入空間46内に封入された潤滑剤で常時潤滑され、先端側部材21が円滑に動作する。また、機械要素から磨耗粉等の塵芥が間隙45へと放出されても、塵芥を封入空間46、第1空間47又は第2空間48内に捕捉可能になる。よって、産業用ロボット1の内部で発生した塵芥が外部に放出されるのを抑制することができ、作業現場を清浄に保つことができる。逆に、産業用ロボット1の清浄作業を行う場合においても、第2補助シール部材43の密封作用により、水分、洗剤又は塵芥が産業用ロボット1の外部から内部へと侵入するのを抑制することができる。
【0039】
主シール部材41及び補助シール部材42,43は、パッキンとして機能するので、先端側部材21の回転に伴って磨耗する。主シール部材41の磨耗進行により主シール部材41での密封が破れてしまうと、封入空間46が第1空間47と不所望に連通してしまい、潤滑剤が第1空間47へと漏れ出す可能性がある。第1補助シール部材42での密封も破れれば、潤滑剤が第1空間47から第2空間48へと漏れ出す可能性があるし、更に第2補助シール部材43での密封も破れれば、潤滑剤が第2空間48から外部へと漏れ出す可能性がある。このような事態になるべく速やかに対処することができるように、本実施形態に係る産業用ロボット1は、潤滑剤の漏れ出しを検知するための漏れ検知装置50を備えている。以降では、本実施形態に係る漏れ検知装置50の構成と作用について説明する。
【0040】
(漏れ検知装置)
漏れ検知装置50は、封入空間46から、主シール部材41及び補助シール部材42,43のうち隣り合う2つのシール部材の間の空間47(又は48)内へと潤滑剤が漏れ出していることを検知するための装置である。本実施形態では、隣り合う2つのシール部材が、主シール部材41及び第1補助シール部材42であり、隣り合う2つのシール部材の間の空間が、前述した第1空間47となっている。
【0041】
漏れ検知装置50は、漏れの検知のため、第1空間47から潤滑剤を吸い出す吸出し機構51を備えている。この吸出し機構51は、吸出し配管61と、負圧印加ポンプ62とを備えている。吸出し配管61は、可撓性を有する材料で製作された円管であり、一端部に開口61aを有している。吸出し配管61の開口61aは、第1空間47内に配置されており、これにより吸出し配管51の内部は第1空間47に連通している。吸出し配管61の他端部は、産業用ロボット1の外部に引き出されている。このように取り回すため、本実施形態では、モータユニット31、減速機ユニット32及び出力軸33を軸線方向に貫通する貫通孔34が設けられている。また、内壁23が、その中心部に、貫通孔34と連通する中心口23aを有している。更に、内壁23が、中心口23aと半径方向に離れた部分に、第1空間47に臨む配管挿通口23bを有している。配管挿通口23bは、第1空間47に臨ませるため、出力軸33の外周面よりも半径方向外側に位置している。一方、基端側部材11にも、配管挿通口13が設けられている。
【0042】
吸出し配管61を産業用ロボット1の外部から見ていくと、まず、吸出し配管61は、配管挿通口13を通って基端側部材11の内部に入り、関節部Jへと向かっている。吸出し配管61は、基端連結部12内で、貫通孔34の内部に内壁23とは反対側の端部から進入し、貫通孔34を通過して内壁23の中心口23aから先端側部材21の内部に入っている。更に、吸出し配管61は、先端側部材21の内部で折り返され、内壁23の配管挿通口23bを通って第1空間47の内部に入っている。この第1空間47内で吸出し配管61の一端部が開放されている。このように、吸出し配管61は、貫通孔34内を延び、回転軸線A上又はその近傍に配置される。このため、先端側部材21が回転軸線A周りに回転しても、吸出し配管61が大きく振れ回るのを抑制することができる。また、吸出し配管61は可撓性を有しているので、先端側部材21の動きに容易に追従する。
【0043】
負圧印加ポンプ62は、例えば、産業用ロボット1の外部に設置され、吸出し配管61の他端部に接続されている。負圧印加ポンプ62が動作したときには、吸出し配管61を介して第1空間47内に負圧を印加することができる。ここで、「負圧」とは、大気圧よりも小さい圧力であってもよいし、封入空間46の内圧よりも小さい圧力であってもよい。
【0044】
仮に主シール部材41での密封が破れていて潤滑剤が封入空間から第1空間47内に漏れ出していると、吸出し配管61を介して第1空間47に負圧が印加されているので、第1空間47内のエアと共に潤滑剤が開口61aを通って吸出し配管61の内部へと導かれる。第1空間47から吸い出された潤滑剤は、吸出し配管61に沿って関節部Jの外部(すなわち、産業用ロボット1の外部)へと流出する。このように本実施形態に係る産業用ロボット1では、主シール部材41及び補助シール部材42,43の全てが破れて潤滑剤が産業用ロボット1の外部に漏れ出すよりも前に潤滑剤を吸い出すことができる。このため、清浄性に対して敏感な環境に産業用ロボット1が設置されている場合であっても、潤滑剤で当該環境が汚れない。
【0045】
そして、漏れ検知装置50は、潤滑剤の漏れ出しを自動検知し又は検知支援するため、潤滑剤溜まり52、圧力センサ53、検知制御部54、警報器55及びフィルタ56を更に備えている。潤滑剤溜まり52は、関節部Jの外側(すなわち、産業用ロボット1の外側)に設けられており、吸出し機構51によって吸い出された潤滑剤を貯留する。潤滑剤溜まり52は、例えば密閉された容器状に形成されており、吸出し配管61に接続されている。潤滑剤溜まり52は、側壁の一部又は全部に、光透過性を有する材料から製作された窓部62aを有している。
【0046】
このような潤滑剤溜まり52が設けられていると、作業員が、産業用ロボット1を分解することなく産業用ロボット1の作業現場にいながら、窓部62aを通して潤滑剤溜まり52の内部を視認することができ、それによりどれくらいの量の潤滑剤が吸い出されているのかを容易に把握することができる。よって、作業員は、潤滑剤溜まり52に貯留されている潤滑剤の量に基づいて、封入空間46から潤滑剤が漏れ出しているか否かを適切に判断することができる。このようにして、作業員に、潤滑剤が第2補助シール42での密封を破って関節部Jの外部に漏れ出すよりも前に、主シール部材41を交換する動機付けを働かせ、主シール部材41の適切な交換を促すことができる。
【0047】
圧力センサ53は、吸出し配管61の内圧を検出する。検知制御部54は、CPU、メモリ及び入出力インターフェイスを有している。検知制御部54は、負圧印加ポンプ623と接続され、所要のタイミングで負圧印加ポンプ62が起動及び停止するように、所要の期間負圧印加ポンプ62が稼動するように、負圧印加ポンプ62を制御する。負圧印加ポンプ62は、産業用ロボット1が稼動しているときに常時作動してもよく、産業用ロボット1が稼動している間に間欠作動してもよい。また、産業用ロボット1を停止しているときに作動してもよいし、産業用ロボット1が稼動しているか停止しているかに関わらず、間欠作動してもよい。検知制御部54には、負圧印加ポンプ62の起動タイミング及び停止タイミングを制御するため、産業用ロボット1が稼動していることを示すロボット動作信号、あるいは、負圧印加ポンプ62の起動指令及び停止指令が入力されるようになっていてもよい。
【0048】
前述のとおり、負圧印加ポンプ62が動作すると、第1空間47内に負圧が印加される。主シール部材41での密封が破れていて第1空間47内に潤滑剤が漏れ出していると、潤滑剤が、第1空間47から吸出し配管61の開口61aを通って吸出し配管61内へと導かれ、吸出し配管61内を他端部に向かって流れていく。このように吸出し配管61内を潤滑剤が流れていると、吸出し配管61の内圧が上昇する。検知制御部54は、負圧供給ポンプ62が動作しているときに、圧力センサ53から送られる吸出し配管61の内圧を監視する。そして、検知制御部54は、圧力センサ53から送られる内圧の値が上昇すると、これに基づいて第1空間47内に潤滑剤が漏れ出したと判断する。検知制御部54は、第1空間47内に潤滑剤が漏れ出していると判断すると、警報器55を動作させる。
【0049】
このように、漏れ検知装置50が、圧力センサ53及び検知制御部54を備えていると、潤滑剤の漏れ出しを自動的に検知することができる。このため、作業員の作業負担の軽減に資する。また、潤滑剤の漏れ出しを自動検知すると警報器55が自動的に作動して作業員にその旨を警報することができる。このため、作業員に主シール部材41の適切な交換を促すことができる。警報器55は、例えばブザー又は音声案内によって作業員の聴覚に訴えるものであってもよいし、表示器上での交換を促す表示によって作業員の視覚に訴えるものであってもよい。
【0050】
本実施形態では、吸出し配管61の内部にフィルタ56が設けられている。フィルタ56を設けていれば、第1空間47から吸い出された潤滑剤によってフィルタ56の目地が詰まったときに、吸出し配管61の内圧を顕著に上昇させることができる。これにより、圧力センサ53を用いて潤滑剤が漏れ出しているか否かを精度よく検出することができる。なお、フィルタ56はどのような形態のものが適用されてもよく、焼結金属製であってもよいし、油吸着性を有した不織布製であってもよいし、多孔性を有した高分子化合物製であってもよい。
【0051】
このように、本実施形態に係る漏れ検知装置50によれば、吸い出した潤滑剤に基づいて潤滑剤の漏れを自動検知可能になり、また、作業員が漏れを検知するのを十分に支援することができる。したがって、産業用ロボット1の作業現場を潤滑剤で汚すことなく、主シール部材41を適切に交換することができる。よって、産業用ロボット1を清浄性に対して敏感な環境にも好適に適用することができる。
【0052】
また、潤滑剤が第1空間47及び第2空間48を通過して外部に漏れ出すよりも前に、潤滑剤の漏れ出しを検知することができるので、結果として、漏れ出した量が比較的少ないうちに主シール部材41の交換を行うことができる。よって、機械要素が円滑に動作する状態を維持したまま、主シール部材41の交換を行うことができる。特に、本実施形態では、主シール部材41とこれに隣り合う第1補助シール部材42との間の第1空間46から潤滑剤を吸い出す。このため、間隙45のうち、主シール部材41に近い空間への潤滑剤の漏れ出しを検知することができ、潤滑剤が漏れ出たことを速やかに検知することができる。
【0053】
[第2実施形態]
図3(a)は、本発明の第2実施形態に係る産業用ロボット201の関節部J及び漏れ検知装置250の構成を示す概念図である。図3(b)は、図3(a)のb−b線に沿って切断して示す吸出し配管261の断面図である。第2実施形態では、関節部Jの構成が第1実施形態のものと同一である一方、吸出し機構251の構成をはじめとして漏れ検知装置250の構成が第1実施形態のものと相違している。以下、第1実施形態に対する相違点を中心にして、第2実施形態に係る産業用ロボット201について説明する。
【0054】
図3(a)に示すように、第2実施形態に係る漏れ検知装置250は、吸出し機構251と検知制御部254とを備えている。図3(a)では図示省略するが、第2実施形態に係る漏れ検知装置250も、第1実施形態と同様の潤滑剤溜まり、圧力センサ及び警報器を備えている。よって、作業員が潤滑剤溜まりを利用して潤滑剤の漏れ出しを検知することができるし、検知制御部254が圧力センサからの入力に基づいて潤滑剤の漏れ出しを自動的に検知することができ、作業員に潤滑剤の漏れ出しを警報することができる。
【0055】
吸出し機構251は、吸出し配管261と負圧供給ポンプ262と流体供給ポンプ263とを備えている。吸出し配管261は、一端部に開口261aを有し、開口261aは第1空間47内に位置している。本実施形態では、吸出し配管261が、いわゆる二重管構造又は複合管構造をなしている。つまり、吸出し配管261は、小径の第1配管266と、第1配管266を外囲する第2配管267とを有しており、第1配管266及び第2配管267は互いに独立した通路を構成している。
【0056】
図3(b)に示すように、吸出し配管261の中央部には、第1配管266の内周面で囲まれた円形断面の通路が設けられ、その外側には、第1配管266の外周面と第2配管267の内周面とで囲まれた円環形断面の通路が設けられており、これら2つの通路が第1配管266の壁で隔絶されている。吸出し配管261の開口261aには、中央部に配置された第1配管266の開口266aと、その外側に配置された第2配管267の開口267aとが含まれる。どちらの開口266a,267aも第1空間47内に位置しており、第1配管266及び第2配管267はどちらも、第1空間47に連通している。
【0057】
図3(a)に示すように、第1配管266は、他端部で負圧印加ポンプ262に接続されている。第2配管267は、他端部で流体供給ポンプ263が接続されている。検知制御部254は、負圧印加ポンプ262及び流体供給ポンプ263に接続されており、所要のタイミングで負圧印加ポンプ262及び流体供給ポンプ263を同期して起動及び停止させるように、所要の期間負圧印加ポンプ262及び流体供給ポンプ263を同期して稼動させるように、負圧印加ポンプ262及び流体供給ポンプ263を制御する。負圧印加ポンプ262がいつ作動するのかについては、第1実施形態と同様である。流体供給ポンプ263は、負圧印加ポンプ262の動作中に作動するように制御される。
【0058】
流体供給ポンプ263が作動すると、流体が第2配管267を介して他端部から一端部へと流れ、当該流体が、第2配管267の開口267aを介して第1空間47内へと供給される。この流体は、液体でも気体でもよい。流体を液体とする場合、その液体には、機械要素、基端側部材11及び先端側部材21に腐食を発生させず、産業用ロボット201が設置されている環境に照らして清浄性の維持に影響を与えないものが適用される。
【0059】
これと同時に、負圧印加ポンプ262が動作している。すると、第2配管267から供給された流体が、第1配管266の開口266aを介して第1配管266内へと導かれる。これにより、第1配管266の内部には、第1空間47から第1配管266の他端部に向かって、流体の円滑な流れを形成することができる。したがって、仮に主シール部材41での密封が破れて潤滑剤が第1空間47に漏れ出していると、漏れ出した潤滑剤を流体と共に第1配管266内に円滑に吸い込むことができる。
【0060】
このように、本実施形態では、吸出し配管が、流体入れ込み専用の配管と、吸出し専用の配管とを有した二重管構造又は複合管構造をなしており、流体供給ポンプ263とこの管構造とを利用して吸出し専用の配管内に流体の流れが積極的に形成される。これにより、潤滑剤の漏れ出しが微量であっても、その微量の潤滑剤を良好に吸い出すことができるようになり、外部への漏れ出しの未然防止効果が向上し、潤滑剤の漏れ出しをより精度よく検知することができる。
【0061】
なお、流体を液体とする場合、流体供給ポンプ263の吸込み側及び負圧印加ポンプ262の吐出し側を、液体を溜めておくパンに接続しておき、液体を循環させることが好ましい。また、液体は、潤滑剤と混合されることで変色していくものであることが好ましい。すると、作業員は、第1配管266を介して吸い出された液体の変色の有無に基づいて、潤滑剤の漏れ出しの有無を判断することができ、更に、変色の程度に基づいて潤滑剤の漏れ出し量又は主シール部材41の磨耗進行程度を判断することができるようになる。
【0062】
[第3実施形態]
図4は、本発明の第3実施形態に係る産業用ロボット301の関節部J及び漏れ検知装置350の構成を示す概念図である。第3実施形態では、関節部Jの構成が上記実施形態のものと同一である一方、吸出し配管の構成をはじめとして漏れ検知装置350の構成が上記実施形態のものと相違している。以下、上記実施形態に対する相違点を中心に、第3実施形態に係る産業用ロボット301について説明する。
【0063】
図4に示すように、第3実施形態に係る漏れ検知装置350は、吸出し機構351と検知制御部354とを備えている。第3実施形態に係る漏れ検知装置350も、第2実施形態と同様に、潤滑剤溜まり、圧力センサ及び警報器を備えている。
【0064】
吸出し機構351は、吸出し配管361と負圧供給ポンプ362とを備えている。吸出し配管361は、第2実施形態のものと類似している。つまり、吸出し配管361は、小径の第1配管366と、第1配管366を外囲する第2配管367とを有し、いわゆる二重管構造又は複合管構造をなしている。第1配管366及び第2配管367は互いに独立した通路を構成している。吸出し配管361は、一端部に開口361aを有し、当該開口361aには、中央部に配置された第1配管366の開口366aと、その外側に配置された第2配管367の開口367aとが含まれる。どちらの開口366a,367aも第1空間47内に位置しており、第1配管366及び第2配管367はどちらも、第1空間47に連通している。
【0065】
第1配管366は、他端部で負圧印加ポンプ362に接続されている。第2配管367は、他端部に大気に開放された流体供給口367bを有している。検知制御部354は、負圧印加ポンプ362に接続されており、第1実施形態と同様に負圧印加ポンプ362を制御する。
【0066】
負圧印加ポンプ362が作動すると、第1配管366を介して第1空間47内に負圧が印加される。これにより、大気が流体供給口367bから第2配管367を介して第1空間47内へと引き込まれる。第1空間47内に引き込まれたエアは、第1配管366の開口366aを介して第1配管366内へと導かれる。これにより、第1配管366の内部には、第1空間47から第1配管366の他端部に向かって、円滑なエアフローを形成することができる。したがって、仮に主シール部材41での密封が破れて潤滑剤が第1空間47に漏れ出していると、漏れ出した潤滑剤が、第1空間47内に引き込まれたエアと共に第1配管366内に円滑に吸い込まれていく。これにより、第2実施形態と同様に、漏れ出した潤滑剤が微量であったとしても、その微量の潤滑剤を良好に吸い出すことができるようになる。
【0067】
本実施形態では、流体に大気を利用しているので、流体を溜めるパンを設置する必要がないし、漏れ出した潤滑剤を潤滑剤溜まりに好適に溜めることができる。また、ポンプのような流体を圧送する専用の装置を備えておらず、産業用ロボット1全体の装置構成を簡略化することが可能である。大気を利用するにあたり、吸出し配管361をいわゆる二重管構造又は複合管構造とし、大気に連通する流体供給口367bが、関節部Jの外部に引き出された第2配管367の他端部に設けられている。基端連結部12又は先端連結部22に大気連通用の穴を設けるのを避けることができ、このような穴を介してロボット内外間で塵芥や水分が行き来するのを防ぐことができる。
【0068】
[第4実施形態]
図5(a)は、本発明の第4実施形態に係る産業用ロボット401の関節部J及び漏れ検知装置450の構成を示す概念図である。図5(b)は、図5(a)のb−b線に沿って切断して示す関節部Jの断面図である。第4実施形態では、関節部Jの構成は上記実施形態のものと概ね同一である一方、吸出し配管461をはじめとする漏れ検知装置450の構成が上記実施形態のものと相違しており、これに伴い先端連結部22の構造が上記実施形態のものと相違している。以下、上記実施形態に対する相違点を中心に、第4実施形態に係る産業用ロボット401について説明する。
【0069】
図5(a)に示すように、第4実施形態に係る漏れ検知装置450は、吸出し機構451、潤滑剤溜まり52及びフィルタ56を備えている。図5(a)では図示省略するが、第4実施形態に係る漏れ検知装置450も、第1実施形態と同様の圧力センサ、検知制御部及び警報器を備えており、検知制御部が圧力センサからの入力に基づいて潤滑剤の漏れ出しを自動的に検知することができ、作業員に潤滑剤の漏れ出しを警報することができる。
【0070】
吸出し機構451は、吸出し配管461と、負圧供給ポンプ462とを備えている。本実施形態に係る吸出し配管461は、第1実施形態と同様に(第2及び第3実施形態とは異なり)一重管構造をなしている。吸出し配管461は、共通部471と、共通部471の一端部から2以上に分岐された複数の分岐部472とを有している。各分岐部472は、一端部に開口472aを有しており、各開口472aは、第1空間47内に位置している。
【0071】
吸出し配管461を産業用ロボット1の外部から見ていくと、まず、共通部471が、基端側部材11の配管挿通口13を通って基端側部材11の内部に入り、関節部Jへと向かっている。共通部471は、貫通孔34の内部に内壁23とは反対側の端部から進入し、貫通孔34を通過して内壁23の中心口23aから先端側部材21の内部に入っていく。
【0072】
複数の分岐部472は、この先端側部材21の内部で共通部471から枝分かれしている。内壁23は、中心口23aから半径方向外側に離れた部分に、複数の配管挿通口23bを有している。これら複数の配管挿通口23bが、回転軸線Aを中心とする円周方向に等間隔をおいて配置されている。各分岐部472は、対応する配管挿通口23bを通って第1空間47内へと入り、各開口472aが第1空間47内で開放されている。
【0073】
図5(b)に示すように、複数の分岐部472は、第1空間47を規定する主シール部材41と第1補助シール部材42のうち、封入空間46に近い側である主シール部材41の周方向に等間隔をおいて配置されている。図5(b)では図示省略するが、開口472aの配置もこれと同様になる。なお、本実施形態では、分岐部472の個数が4である場合を例示しているが、分岐部472の個数は特に限定されない。
【0074】
図5(a)に示すように、負圧印加ポンプ472は、例えば産業用ロボット1の外部に設置され、吸出し配管461の共通部471の他端部に接続されている。負圧印加ポンプ462が動作すると、吸出し配管461を介して第1空間47内に負圧を印加することができる。本実施形態では、吸出し配管461が、一端部に複数の分岐部472を有しており、各分岐部472の開口472aが第1空間47内に位置している。このため、封入空間46から第1空間47内に潤滑剤が漏れ出ている場合に、主シール部材41での密封が破れた場所が周方向においてどの位置であるのかに左右されることなく、漏れ出した潤滑剤を複数の分岐部472のいずれかを介して吸い出すことができる。
【0075】
[変形例]
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。
【0076】
例えば、潤滑剤溜まりを省略し、検知制御部による自動検知のみを行ってもよい。逆に、検知制御部を省略し、潤滑剤溜まりを利用した作業員による検知のみが行われてもよい。いずれにしても、吸出し機構を用いて潤滑剤を吸い出すことにより、潤滑剤の漏れ出しを検知することが可能になる。潤滑剤溜まりと検知制御部とを両方とも備える場合、漏れ検知装置が、潤滑剤溜まりの液位が所定位を超えていることを検出する液位センサを備えていてもよい。このとき、検知制御部は、液位センサからの入力に基づいて潤滑剤の漏れ出しを自動的に判断することができる。このとき、圧力センサが併用されてもよいし省略されてもよい。また、負圧を印加するための装置はポンプに限定されず、コンプレッサ等、他の装置でもよい。
【0077】
吸出し配管が第1配管及び第2配管を有する場合においても、当該吸出し配管が、一端部に複数の分岐部を有していてもよい。この場合、第1配管及び第2配管の両方が分岐部を構成していてもよいし、いずれか一方のみが分岐部を構成していてもよい。
【0078】
補助シール部材の個数も特に限定されない。1個の補助シール部材を設ける場合には、吸出し配管の開口は、主シール部材と当該1個の補助シール部材との間に形成される空間内に配置される。複数個の補助シール部材を設ける場合には、吸出し配管の開口が、隣接する補助シール部材の間に形成される空間内に配置されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、潤滑剤の漏れに対してなるべく速やかに対処することができ、それによりロボットが設置された環境の清浄性の維持、ロボットの動作信頼性の確保、シールの適切な交換が可能になるとの作用効果を奏し、潤滑を要する機械要素が組み込まれた関節部を備えた産業用ロボットに適用すると有益である。
【符号の説明】
【0080】
1,201,301,401 産業用ロボット
2 基台部材
3〜8 アーム部材
11 基端側部材
21 先端側部材
31 モータユニット
32 減速機ユニット
33 出力軸
41 主シール部材
42 第1補助シール部材
43 第2補助シール部材
45 間隙
46 封入空間
47 第1空間
48 第2空間
50,250,350,450 漏れ検知装置
51,251,351,451 吸出し機構
52 潤滑剤溜まり
52a 窓部
53 圧力センサ
54,254,354 検知制御部
55 警報器
56 フィルタ
61,261,361,461 吸出し配管
61a,261a,361a,461a 開口
62,262,362,462 負圧印加ポンプ
263 流体供給ポンプ
266,366 第1配管
266a,366a 開口
267,367 第2配管
267a,367a 開口
367b 流体供給口
471 共通部
472 分岐部
472a 開口
J 関節部
A 回転軸線


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台部材から順次に連結される1以上のアーム部材と、
前記基台部材及び前記アーム部材における隣り合う2つの部材のうちの先端側部材を、当該2つの部材のうちの基端側部材に回転可能に連結する関節部と、
前記関節部に組み込まれた機械要素と、
前記先端側部材と前記基端側部材との間に形成された間隙であって前記機械要素が露出し且つ外部に連通する間隙を仕切るようにして、当該機械要素を潤滑する潤滑剤が封入される封入空間を形成する主シール部材と、
前記主シール部材から外部に向かって順に前記間隙を仕切るようにして間隔をおいて配置された1以上の補助シール部材と、
前記封入空間から前記主シール部材及び前記補助シール部材のうち隣り合う2つのシール部材の間の空間内へと潤滑剤が漏れ出していることを検知するための漏れ検知装置と、を備え、
前記漏れ検知装置は、漏れの検知のため前記空間から潤滑剤を吸い出す吸出し機構を備え、前記吸出し機構が、前記空間内に連通する吸出し配管と、前記吸出し配管を介して前記空間内に負圧を印加する負圧印加装置と、を備える、産業用ロボット。
【請求項2】
前記隣り合う2つのシール部材の間の前記空間が、前記主シール部材とこれに隣り合う補助シール部材との間の空間である、請求項1に記載の産業用ロボット。
【請求項3】
前記漏れ検知装置が、吸い出された潤滑剤を貯留するための潤滑剤溜まりを有し、前記潤滑剤溜まりが、前記関節部の外側に設けられ、その内部を視認可能にする窓部を有する、請求項1又は2に記載の産業用ロボット。
【請求項4】
前記漏れ検知装置が、前記吸出し配管の内圧を検出する圧力センサと、前記圧力センサにより検出される内圧が上昇すると前記潤滑剤が漏れ出していると判断する検知制御部と、を更に備える、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の産業用ロボット。
【請求項5】
前記吸出し配管の内部に濾材が設けられている、請求項4に記載の産業用ロボット。
【請求項6】
前記吸出し配管は、第1配管と、前記第1配管とは独立した通路を構成して前記第1配管を外囲する第2配管とを有する複合管構造をなしており、前記第1配管及び前記第2配管はどちらも前記空間に連通しており、
前記負圧印加装置は、前記第1配管を介して前記空間に負圧を印加するように構成され、
前記吸出し機構は、前記負圧印加装置の動作中に、前記第2配管を介して流体を前記空間内に供給する、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の産業用ロボット。
【請求項7】
前記吸出し配管は、その一端部に、2以上に分岐された複数の分岐部を有し、前記複数の分岐部それぞれに開口が設けられており、前記開口が、前記空間を規定する前記隣り合う2つのシール部材のうち前記封入空間に近い側のシール部材の周方向に間隔をおいて配置されている、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の産業用ロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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