説明

画像読取装置、記録装置、および画像読取方法

【課題】画像読取装置において、正しく画像を読み取ることができる画像読取装置、およびこの画像読取装置を備えた記録装置を提供する。
【解決手段】イメージセンサー15が配列されるとともに、その配列方向と交差する方向へ移動することによって読取原稿Sの画像を読み取るキャリッジ16と、キャリッジを画像の読取範囲において移動させる移動手段20と、キャリッジの移動方向に対するイメージセンサーの配列方向Yの傾き角をキャリッジの移動位置に対応して記録する角度記録部32と、読取範囲の途中でキャリッジが停止し、読取範囲の途中から再び画像の読み取りを継続する際に、移動手段の動作を制御し、イメージセンサーの配列方向Yの傾き角を、キャリッジが停止した位置において角度記録部が記録した傾き角と同じ角度にしてキャリッジを移動させる制御部31と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像読取装置、この画像読取装置を備える記録装置、および画像読取方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、画像を読み取る画像読取装置(例えばスキャナー装置)が知られている。画像読取装置は、透明なガラス板等から構成される原稿台上に読取り対象となる読取原稿を載置し、原稿台を挟んで配置される画像読取手段となるキャリッジを原稿台に沿って走査し、この走査によって印刷などによって形成された読取原稿の画像を読み取るようになっている。すなわち、キャリッジには走査方向と交差する方向に配列された画像を読み取る複数のイメージセンサーが画像読取部材として設けられ、キャリッジを移動手段によって原稿台に沿って移動(走査)させることによって読取原稿の画像全体をイメージセンサーが読み取るように構成されている。
【0003】
画像読取装置では、移動手段として、ベルトによってキャリッジを移動させる構成が採用されている。すなわち、移動手段は、キャリッジが一部に固定された環状のベルトと、ベルトが掛け渡された2つのプーリーと、一方のプーリーを回転させる駆動源(例えば直流モーター)等から構成される機構を備えている。そして、ベルトをプーリーの回転に伴って直線移動させることによって、ベルトに固定されたキャリッジを、走査方向に延設されたガイド軸に沿って摺動させながら往復移動させるようになっている。なお、キャリッジにおいてベルトが固定された位置とガイド軸の位置とを一致させることは構造的に困難なことから、通常、これらの位置は、互いに原稿台に沿う方向において離間した位置になっている。
【0004】
このため、ベルトによって直線移動させられるキャリッジは、原稿台と平行な面において回転を伴いながら走査方向へ移動する状態になる。そして、この移動に際してベルトが有する弾性やガイド軸との間の摺動抵抗などに起因して、キャリッジに作用するベルトの張力が変動する場合がある。このような場合、この張力の変動によってキャリッジを走査方向へ移動させる力が変動するため、キャリッジに備えられたイメージセンサーは、走査方向に対するその配列方向の傾き角がキャリッジの移動とともに変動しながら読取原稿の画像を読み取ることになる。
【0005】
ところで、画像読取装置では、例えば読み取った画像の画像データを記録する記録容量が画像の読取り途中で不足したとき、キャリッジを画像の読取り途中で停止させる場合がある。そして、このような場合、記録された画像データを他のメモリーに移して記録容量の不足を解消した後、再びキャリッジを走査して、停止させた位置から継続して画像の読み取りを行うようになっている。
【0006】
この画像の継続読取において、キャリッジを走査方向と反対方向に少し戻してから再び走査方向に移動させることになる。このとき、従来は、キャリッジの走査方向への移動に際して生ずる回転を調節するようにはなっていないため、イメージセンサーの配列方向の傾き角が、停止時と継続時とで異なる場合が生じる。このため、イメージセンサーが読み取れない画像が存在することになり、画像を正しく読み取れなくなってしまうという課題がある。
【0007】
この課題に対して、最初に読み取りを開始する初期位置までキャリッジを戻して再びキャリッジを初期位置から移動させれば、キャリッジの移動状態が同一になると想定され、継続時のイメージセンサーの配列方向の傾き角が停止時と同一になる確率が高いと想定される。そこで、初期位置までキャリッジを戻してから再びキャリッジを移動させるようすることが考えられるが、キャリッジの移動状態が想定と異なった場合は、イメージセンサーの配列方向の傾き角が停止時と継続時とで異なるため、同様に画像を正しく読み取ることができなくなってしまう。また、イメージセンサーの傾き角が停止時と継続時とで同一になっても、キャリッジを初期位置まで戻すため、画像の読み取りが終了するまでに時間を要することになる。
【0008】
従って、継続時に画像を正しく読み取るためには、イメージセンサーの配列方向の傾き角を把握して制御する必要がある。その一つの方法として、傾きセンサーなどの検出装置を用いてイメージセンサーの配列方向の傾き角を実際に計測して把握することが考えられる。しかしながら、画像読取装置では、薄型化などによって構造上スペースが限られており、イメージセンサーの配列方向の傾き角を実際に計測することは困難である。
【0009】
そこで、実測することが困難なキャリッジの挙動を予測する技術として、特許文献1にはモーターの回転とキャリッジの移動とが同期しなくても、正確な位置・速度制御ができるキャリッジ駆動システムが提案されている。すなわち、特許文献1は、キャリッジ駆動機構を等価モデルに置き換え、等価モデルの状態変数を用いてキャリッジ機構を状態フィードバック制御するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−232898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に開示された技術は、このように回転するキャリッジの挙動を予測するものではなかった。従って、画像読取装置において、イメージセンサーの傾き角を把握して画像を正しく読み取ることができる技術が望まれていた。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためなされたものであり、画像読取装置において、正しく画像を読み取ることができる画像読取装置、およびこの画像読取装置を備えた記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の画像読取装置は、画像を読み取る画像読取部材が配列されるとともに、該画像読取部材の配列方向と交差する方向へ移動することによって読取原稿の画像を読み取る画像読取手段と、前記画像読取手段を前記画像の読取範囲において移動させる移動手段と、前記画像読取手段の移動方向に対する前記画像読取部材の配列方向の傾き角を前記画像読取手段の移動位置に対応して記録する角度記録部と、前記読取範囲の途中で前記画像読取手段が停止し、前記読取範囲の途中から再び前記画像の読み取りを継続する際に、前記移動手段を制御し、前記画像読取部材の配列方向の傾き角を、前記画像読取手段が停止した位置において前記角度記録部が記録した前記傾き角と同じ角度にして前記画像読取手段を移動させる制御部と、を備えた。
【0014】
例えば高解像の画像の読み取りに際して、読取原稿における画像の読取範囲の途中で、読み取った画像データを記録する記録容量が不足して画像読取手段が停止する場合がある。このような場合、この構成によれば、画像読取手段を戻したのち停止した位置から読み取りを継続する際に、移動手段の動作を制御して、前記画像読取部材の配列方向の傾き角を、停止時と継続時とにおいて画像読取部材の配列方向の傾き角を同一にすることができる。この結果、読取原稿の画像を正しく読み取ることができる。
【0015】
本発明の画像読取装置において、前記移動手段および前記画像読取手段を等価モデルに置き換え、置き換えた前記等価モデルに基づいて表現した状態方程式によって、前記画像読取手段の移動位置における前記傾き角を予測する傾き角予測部を備え、前記角度記録部は、前記傾き角予測部が予測した傾き角を前記画像読取部材の配列方向の傾き角として記録する。
【0016】
この構成によれば、置き換えられた等価モデルに基づいて状態方程式を表現することによって、画像読取部に備えられた画像読取部材の配列方向の傾き角を予測することができる。従って、例えば、移動手段の動作を制御して画像読取手段の移動位置における画像読取部材の配列方向の傾き角を適切に制御することが可能になる。この結果、画像の読み取りの継続時における画像読取部材の配列方向の傾き角を、停止時における傾き角と同じ角度にすることができるので、読取原稿の画像を正しく読み取ることができる。
【0017】
本発明の画像読取装置において、前記移動手段は、駆動回転する駆動回転体と、従動回転する従動回転体と、前記駆動回転体と前記従動回転体とに掛け渡されたベルトとを有し、前記ベルトの一部に前記画像読取手段を固定して前記ベルトの回動に従って前記画像読取手段を移動させるとともに、前記駆動回転体の回転挙動値および前記従動回転体の回転挙動値の少なくとも一つを検出回転挙動値として検出する検出手段を備え、前記傾き角予測部は、前記状態方程式によって前記駆動回転体の回転挙動値および前記従動回転体の回転挙動値の少なくとも一つを予測回転挙動値として求め、前記傾き角予測部によって求められた前記予測回転挙動値と前記検出手段によって検出された前記検出回転挙動値との差異を前記状態方程式にフィードバックして、前記画像読取手段の移動位置における前記画像読取部材の配列方向の傾き角を予測する。
【0018】
この構成によれば、状態方程式で求められた駆動回転体ないし従動回転体の予測回転挙動値と、検出された実際の駆動回転体ないし従動回転体の検出回転挙動値との差異が、状態方程式においてフィードバックされることから、状態方程式を用いることによって、画像読取部材の配列方向の傾き角を実際の値に近い値で予測することができる。従って、例えば、移動手段の動作を制御して画像読取部材の配列方向の傾き角を適切に制御することが可能になる。
【0019】
本発明の画像読取装置において、前記画像読取部は、予め定められた解像度以上の高解像度で前記画像を読み取る。
この構成によれば、画像読取部の移動が途中で停止する可能性がある高解像度での画像の読み取りに限定して状態方程式による演算処理を用いる。従って、高解像度でない状態での画像の読み取りにおいて演算などの処理負荷が軽減されるとともに、高解像度での読み取りにおいて画像を正しく読み取ることができる。
【0020】
本発明の記録装置は、上記構成の画像読取装置と、媒体に画像を記録する画像記録部と、を備えた。
この構成によれば、読取原稿の画像を正しく読み取ることができる画像読取装置を備えた記録装置を提供できる。従って、例えば、読取原稿の画像を、媒体に読取原稿の画像を記録して複製する場合、読取原稿の画像を正しく記録して複製することができる。
【0021】
上記目的を達成するために、本発明の画像読取方法は、画像を読み取る画像読取部材が配列された画像読取手段を該画像読取部材の配列方向と交差する方向へ移動させることによって、読取原稿の読取範囲における画像を読み取る画像読取方法であって、前記画像読取手段の移動方向に対する前記画像読取部材の配列方向の傾き角を前記画像読取手段の移動位置に対応して記録する工程と、前記読取範囲の途中で前記画像読取手段が停止し、前記読取範囲の途中から再び前記画像の読み取りを継続する際に、前記画像読取部材の配列方向の傾き角を、前記画像読取手段が停止した位置において記録した前記傾き角と同じ角度にして前記画像読取手段を移動させる工程と、を備えた。
【0022】
この方法によれば、画像読取手段を戻したのち停止した位置から画像の読み取りを継続する際に、移動手段の動作を制御して、前記画像読取部材の配列方向の傾き角を、停止時と継続時とにおいて画像読取部材の配列方向の傾き角を同一にすることができる。この結果、読取原稿の画像を正しく読み取ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施形態の画像読取装置を備えた記録装置の概略構成を示す斜視図。
【図2】実施形態の画像読取装置の構成を示す斜視図。
【図3】画像読取装置の等価モデルを示す模式図。
【図4】状態フィードバックの演算手順を示すブロック図。
【図5】(a)は通常駆動、(b)は状態フィードバック駆動を示すブロック図。
【図6】キャリッジの走査方向への移動時における制御処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明を、画像を読み取る画像読取装置と、液体を噴射する液体噴射ヘッドを備え媒体に液体を噴射して画像を記録する画像記録部と、を備えた記録装置において具体化した実施形態について、図を参照して説明する。なお、以下の説明において用いる「上下方向」、「前後方向」及び「左右方向」については、特に説明をしない場合、各図において矢印で示す「上下方向」、「左右方向」及び「前後方向」をそれぞれ示すものとする。また、図1に示すように、この場合における「上下方向」は鉛直方向に相当するとともに、「左右方向」はキャリッジ16が移動する走査方向Xに相当する。なお、「前後方向」は左右方向と直交する方向である。
【0025】
図1に示すように、記録装置100は、その外郭を形成する略矩形箱状の装置ケース51内において、上側に画像読取装置11と下側に画像記録部40とが内装されて備えられている。装置ケース51の上面部52には、画像が読み取られる対象物の一例としての読取原稿S(図2参照)を載置する領域に相当する矩形形状の開口部54が設けられている。そして、この開口部54に対して下側から透明部材としてのガラス板53が取付けられている。ガラス板53は、開口部54によって露出する上面領域が読取原稿Sの載置面(原稿台)となっている。なお、図1では示していないが、カバー部材が装置ケース51の後端上部面52aにおいて回転自在に取り付けられ、載置面の上方から読取原稿Sを押さえるようになっている。
【0026】
ガラス板53の下側には、画像読取装置11が組み込まれている。画像読取装置11には、画像を読み取る画像読取部材の一例としてのイメージセンサー15が、前後方向に沿う方向を配列方向Yとして所定の長さで延びるように配設されている。イメージセンサー15は、装置ケース51内に架設されたガイド軸17に沿って左右方向に移動するキャリッジ16に設けられている。そして、イメージセンサー15は、キャリッジ16の左右方向すなわち走査方向Xへの移動によってガラス板53上に載置された読取原稿Sの画像を、ガラス板53を介して読み取るようになっている。
【0027】
読み取った画像データは、画像読取装置11もしくは記録装置100内に設けられた画像データメモリー(不図示)に記録されるようになっている。なお、本実施形態の記録装置100では、イメージセンサー15が読み取った画像データを画像記録部40に供給することによって、画像データを用紙Pに印刷することができるようになっている。
【0028】
具体的に、画像記録部40は、画像読取装置11の下部(図面下方向)に配設され、インク滴を噴射する液体噴射ヘッド42を備えた移動体41を有し、プリンターとして機能するようになっている。すなわち、移動体41は、図示しないモーターによって駆動され、装置ケース51内に架設された案内軸43に沿って左右方向に移動するようになっている。また、記録装置100においては、液体噴射ヘッド42に対して供給する液体としてのインクを収容したインクカートリッジ(不図示)が備えられ、インクカートリッジから供給されたインクを、移動体41の左右方向の移動に際して液体噴射ヘッド42から噴射するようになっている。
【0029】
また、液体噴射ヘッド42と対向する下方において、インクの噴射対象物となる媒体としての用紙Pが配置されている。配置された用紙Pは、装置ケース51に配設された図示しない紙送りモーターが駆動されることにより、同じく図示しない搬送ローラーが回転駆動されて、左右方向と交差する前方向へ所定の紙送り量にて搬送されるようになっている。この用紙Pの搬送中に、液体噴射ヘッド42から用紙Pに向けて、画像データに応じた液量のインクを噴射することで、読み取られた画像データに応じた画像が用紙Pに形成されて印刷される。なお、印刷された用紙Pは、紙送りモーターによって駆動される図示しない排紙ローラーによって、装置ケース51の前面に形成された排紙口55から排出されるようになっている。
【0030】
次に、本実施形態の画像読取装置11の構成について、図2を参照して詳しく説明する。図2に示すように、画像読取装置11は、イメージセンサー15が前後方向に配列されて設けられた画像読取手段としてのキャリッジ16と、キャリッジ16を移動させる移動手段20と、移動手段20の動作を制御する制御装置30と、を備えている。
【0031】
移動手段20は、駆動回転体としての駆動プーリー12と、従動回転体としての従動プーリー13とを有している。駆動プーリー12は、駆動手段としてのモーター(ここでは直流モーター)12mの回転軸に固定され、モーター12mと一体で回転する。なお、駆動プーリー12は、図示しない歯車機構を介してモーター12mによって駆動されて回転するように構成されてもよい。
【0032】
駆動プーリー12と従動プーリー13間には、駆動プーリー12の回転を伝達するベルト(無端状のベルト)14が、弛みのない張られた状態で掛け渡されている。また、ベルト14の内周面14dと、少なくともベルト14と当接する駆動プーリー12の外周面とに、回転伝達性能を向上するため凹凸形状(ギザ)が設けられ、互いに噛み合うことによって回転が安定して伝達されるように構成されている。もとより、ベルトとプーリーとの間において、滑りがなく回転が安定して伝達されれば、凹凸形状は必ずしも設けられなくてもよい。また、掛け渡されたベルト14も必ずしも張られた状態でなくてもよい。
【0033】
また移動手段20には、駆動プーリー12の回転挙動を検出する検出手段としてのエンコーダー(ロータリーエンコーダー)EDが備えられている。エンコーダーEDは、回転方向に沿って一定ピッチで多数の開口部が設けられた円盤状の符号板19と、この符号板19に対して射光するとともに、その開口部を通過する光を検出する光検出器18とによって構成されている。符号板19は駆動プーリー12に固定もしくは一体で形成され、駆動プーリー12と一体となって回転する。従って、エンコーダーEDは、検出された光を符号化すなわちパルス化し、単位時間当たりのパルス数や累積パルス数を検出信号として出力する。そして、制御装置30は、出力された検出信号によって、少なくとも駆動プーリー12の回転角あるいは角速度を回転挙動値として検出できるようになっている。
【0034】
キャリッジ16は、イメージセンサー15が設けられた配列方向Y(前後方向に沿う方向)に延設する略角柱形状のセンサー部16aと、略直方体形状の基台部16bと、を有している。基台部16bには、その後方の一部に設けられた固定部16dにおいてベルト14の一部が固定される。また、基台部16bの前方において左右方向に貫通して設けられたガイド孔16cに、走査方向X(左右方向)に延設するガイド軸17が挿通されている。
【0035】
このような構成により、キャリッジ16は、モーター12mによって回転する駆動プーリー12の回転に伴って移動するベルト14によって、ガイド軸17から後方に離間した位置において走査方向Xへの力を受け、ガイド軸17に案内されながら左右方向に移動する。このため、キャリッジ16は、ベルトによってガイド軸を支点とする回転力を受けながら走査方向Xへ移動することになり、キャリッジ16のセンサー部16aは載置面(原稿台)と平行な面において回転を伴って走査方向Xに移動する。この結果、イメージセンサー15は、キャリッジ16の移動に伴って前後方向に対するその配列方向Yの傾き角を変動させながら走査方向Xに沿って左から右へ移動して、読取原稿Sの画像全体を読み取ることになる。
【0036】
なお、イメージセンサー15が読み取った画像データは、図示しない配線を通してキャリッジ16から画像データメモリーに送られるようになっている。また、キャリッジ16のベルト14への固定によって、ベルト14は、基台部16bの右側のベルト部位14aと左側のベルト部位14bに分離されるとともに、キャリッジ16が固定されない後側は分離されない一本のベルト部位14cとなっている。
【0037】
制御装置30は、図示しない基板上に実装されたCPU(中央演算処理装置)やメモリー、あるいはASIC(集積回路)などの電子部品で構成された回路を有している。そして、制御装置30は、プログラムで動作したり、ハード的な回路構成によって動作したりすることによって、制御部31、角度記録部32、傾き角予測部33として機能する。
【0038】
すなわち、制御部31は、モーター12mに所定の電流を流して回転駆動させる際に流す電流を調節することによってモーター12mの回転挙動(例えば回転トルクの大きさ)を制御して移動手段20を動作させる。傾き角予測部33は、後述する状態方程式などの演算を行って、キャリッジ16に設けられたイメージセンサー15の配列方向Yの傾き角を予測する。角度記録部32は、エンコーダーEDから出力される検出信号を、必要に応じて図示しないインターフェイスを介して入力し、入力した検出信号を用いてキャリッジ16の移動位置(移動距離)を検出するとともに、傾き角予測部33が予測した傾き角を移動位置(移動距離)と対応付けて記録する。
【0039】
さて、このように構成された画像読取装置11において、制御装置30は、キャリッジ16を走査方向Xに移動させて読取原稿Sの画像を読み取る画像読取処理を司る。そしてこの画像読取処理において、制御装置30は、2つの駆動方法すなわち「通常駆動」と「状態フィードバック駆動」でキャリッジ16を移動させるように作用する。以下、この2つの駆動を説明するとともに制御装置30の作用について説明する。
【0040】
「通常駆動」
まず通常駆動について説明する。前述するように、駆動プーリー12の回転挙動(回転角や角速度)はエンコーダーEDによって実測される。従って、本実施形態における通常駆動は、モーター12mに流す電流から理論的に設定されたキャリッジ16の移動に関する設定値と、エンコーダーEDによる実測値とに基づいて、制御装置30がモーター12mに流す電流値を制御して駆動プーリー12を回転駆動する。
【0041】
この駆動によって、ベルト14を介して走査方向Xへ移動するキャリッジ16について、その走査方向Xへの移動時における移動挙動(移動距離あるいは移動速度)の変動を抑制し、走査方向Xにおいてキャリッジ16を安定して移動させる。このように、制御装置30が、エンコーダーEDによって検出される検出移動挙動値を用いてモーター12mの回転挙動を制御し、キャリッジ16の移動挙動を制御することが通常駆動である。
【0042】
なお、通常駆動において、制御装置30がキャリッジ16の移動挙動を安定させるように作用することによって、キャリッジ16の移動位置(移動距離)に応じたイメージセンサー15の配列方向Yの傾き角が毎回の走査で同一になる確率も高くなる。
【0043】
もとより、本実施形態において、通常駆動として、モーター12mに流す電流値をエンコーダーEDの実測値を用いて制御することなく、例えば予め定められた値の電流をモーターに出力して駆動プーリー12を回転駆動させるようにしてもよい。
【0044】
「状態フィードバック駆動」
次に、状態フィードバック駆動について説明する。上記構成の画像読取装置11において、イメージセンサー15の配列方向Yの傾き角を検出する検出装置(例えばロータリーエンコーダー)を設けることは構造上困難であり、その傾き角を実測することができない。そこで、駆動プーリー12の回転によってベルト14を介して移動するキャリッジ16に設けられたイメージセンサー15の配列方向Yの傾き角を、状態方程式を用いて実際に近い値で予測する。そして、キャリッジ16が一度左方向に戻ってから右方向に移動して再び同一の移動位置になったとき、イメージセンサー15の配列方向Yの予測した傾き角が同一の移動位置において同一になるようにモーター12mの回転挙動を制御してキャリッジ16を駆動する。このとき行われるキャリッジ16の駆動が状態フィードバック駆動である。以下、この状態フィードバック駆動について、その駆動手順を説明する。
【0045】
《等価モデル化》
まず、実際の画像読取装置11(これを「実モデル」と言う)を等価モデルに置き換える。置き換えた等価モデルMDを図3に示す。図3に示すように、本実施形態では、駆動プーリー12、従動プーリー13、およびキャリッジ16との間に張り渡されたベルト14について、それぞれのべルト部位14a,14b,14cを、バネ(バネ定数K,K,K)とダンパー(ダンパー定数C,C,C)とで置き換える。
【0046】
そして、移動挙動の状態を示す状態パラメーターとして、走査方向Xにおいてキャリッジ16が基準位置から移動した距離を示す移動位置をxとする。このように、本実施形態ではキャリッジ16の位置を、固定された基準位置からの距離で表した絶対座標系を用いている。ちなみに、本実施形態では、移動位置xは、画像の読取開始位置である初期位置からの距離を示している。なお、キャリッジ16の位置を、移動するキャリッジ16において設けられた基準位置からの距離で表した相対座標系を用いてもよい。
【0047】
また、本実施形態では、回転挙動の状態を示す状態パラメーターとして、駆動プーリー12の回転角をθ、従動プーリー13の回転角をθとする。なお、回転角θと回転角θは、回転開始位置つまりキャリッジ16が基準位置に位置する状態からの回転角であるとともに、上方から見て反時計方向を正回転としている。
【0048】
また、基準方向に対するキャリッジ16の傾き角(すなわちセンサー部16aの傾き角)をθとする。なお、本実施形態では、キャリッジ16の傾き角θはイメージセンサー15の配列方向Yの傾き角にもなっている。また、本実施形態では、傾き角θは、走査方向X(左右方向)と直交する前後方向を基準方向とし、この基準方向から傾いた角度であるとともに、上方から見て時計方向を正回転としている。
【0049】
さらに、モーター12mの回転駆動によって回転する駆動プーリー12に加わる回転トルクをτとする。なお、エンコーダーEDを構成する符号板19を図中二点鎖線で示している。
【0050】
《状態方程式の作成》
次に、等価モデルMDを用いて、駆動プーリー12、従動プーリー13、およびのキャリッジ16の回転に関する運動方程式と、キャリッジ16の走査方向Xの移動に関する運動方程式とを作成し、作成した運動方程式を変換して状態方程式を作成する。以下、その作成手順を説明する。
【0051】
図3に示すように、等価モデルMDにおいて、駆動プーリー12とキャリッジ16との間のベルト14(ベルト部位14a)の張力をF、従動プーリー13とキャリッジ16との間のベルト14(ベルト部位14b)の張力をF、駆動プーリー12と従動プーリー13との間のベルト14(ベルト部位14c)の張力をFとする。また、等価モデルMDにおいて、キャリッジ16におけるベルト14の固定位置とガイド軸17との間の前後方向の距離をLとする。
【0052】
まず、駆動プーリー12についての回転に関する運動方程式は、駆動プーリー12のイナーシャをJ、粘性摩擦をD、半径をRとすると、張力Fと張力Fとの関係から次式(イ)で表される。
【0053】
・dθ/dt+D・dθ/dt=R(F−F)+τ …(イ)
ここで、dθ/dtは駆動プーリー12の角加速度、dθ/dtは駆動プーリー12の角速度である。またdx/dtはキャリッジ16の走査方向Xへの移動速度である。
【0054】
次に、従動プーリー13についての回転に関する運動方程式は、従動プーリー13のイナーシャをJ、粘性摩擦をD、半径をRとすると、張力Fと張力Fとの関係から次式(ロ)で表される。
【0055】
・dθ/dt+D・dθ/dt=R(F−F) …(ロ)
ここで、dθ/dtは従動プーリー13の角加速度、dθ/dtは従動プーリー13の角速度である。
【0056】
次に、キャリッジ16についての回転に関する運動方程式は、キャリッジ16のイナーシャをJ、粘性摩擦をD、回転剛性をKとすると、張力Fと張力Fとの関係から次式(ハ)で表される。
【0057】
・dθ/dt+D・dθ/dt+K・θ=L(F−F) …(ハ)
ここで、dθ/dtはキャリッジ16の角加速度、dθ/dtはキャリッジ16の角速度である。
【0058】
次に、キャリッジ16の走査方向Xにおける移動に関する運動方程式は、キャリッジ16の質量をMとすると、張力Fと張力Fとの関係から次式(ニ)で表される。
・d/dt=F−F …(ニ)
ここで、d/dtはキャリッジ16の走査方向Xにおける加速度である。
【0059】
なお、上記の式(イ)〜(ニ)における張力F、張力F、および張力Fは、それぞれ次式(ホ),(ヘ),(ト)で表される。
=K(Rθ−x−Lθ)+C(R・dθ/dt−dx/dt−L・dθ/dt)…(ホ)
=K(Lθ+x−Rθ)+C(L・dθ/dt+dx/dt−R・dθ/dt)…(ヘ)
=K(Rθ−Rθ)+C(R・dθ/dt−R・dθ/dt)…(ト)
なお、エンコーダーEDを構成する符号板19は、駆動プーリー12と一体で回転することから、ここでは、駆動プーリー12のイナーシャJは符号板19のイナーシャを含むものとしている。また駆動プーリー12はここではモーター12mと一体で回転するので、駆動プーリー12の状態パラメーターはモーター12mの状態パラメーターを含むものとしている。
【0060】
次に、得られた駆動プーリー12、従動プーリー13、キャリッジ16の各運動方程式(イ)〜(ニ)において、張力F,F,Fを、式(ホ)〜(ト)の代入によってそれぞれ消去する。こうして得られた方程式から、次の式(チ)と式(リ)とで示される周知の状態方程式に変換して、等価モデルMDを表現する。
【0061】
dx/dt=Ax+Bu …(チ)
y=Cx …(リ)
この状態方程式において、「x」は画像読取装置11における構成要素についての回転および移動に関する挙動状態を表す状態変数(ベクトル)であり、「y」は出力(ベクトル)、「u」は入力(ベクトル)である。本実施形態では、これらは次の値になる。
【0062】
x={dx/dt x dθ/dt θ dθ/dt θ dθ/dt θ}
y=dθ/dt
u=τ
なお、A,B,Cは行列係数であり、以下のようになる。
【0063】
【数1】

《オブザーバーによる状態フィードバック》
このように実モデルを等価モデルMDで表し、この等価モデルMDから作成した状態方程式(式(チ),(リ))によって求まる状態変数の値、つまりキャリッジ16の走査方向Xにおける移動挙動値は予測値である。従って、求まる移動挙動の予測値が、実モデルと同一もしくは近い値であれば、その予測値に基づいてモーター12mを回転駆動し、駆動プーリー12の回転を制御することによって、適切にキャリッジ16の走査方向Xへの移動に際して生ずる傾き角θを調節することができる。
【0064】
このために、まず等価モデルMDを表現した状態方程式から求まる状態変数のうち少なくとも一つの予測挙動値と、実モデルでの実測値との差異を演算し、演算した差異を状態方程式にフィードバックする。これは現代制御における所謂状態観測器(オブザーバー)である。そして、オブザーバーによって演算された状態変数を入力にフィードバック(状態フィードバック)することによって、状態変数の値をそれぞれ収束させる演算処理を行う。ちなみに、この演算処理は、制御装置30(傾き角予測部33)において所定の周期間隔(例えば100μsec〜300μsec)で行われる。
【0065】
なお、本実施形態では、前述したように、駆動プーリー12の回転挙動値(回転角や角速度など)をエンコーダーEDで検出してその実測値つまり検出回転挙動値が得られるようにしている。従って、状態方程式における出力yを、得られる実測値に対応して駆動プーリー12の角速度dθ/dtとしている。また、キャリッジ16の移動に際して駆動プーリー12の回転をモーター12mの回転によって制御することから、入力uを回転トルクτとしている。
【0066】
次に、状態方程式の演算において、状態フィードバック処理が行われる様子を、図4に示したブロック図を参照して説明する。なお、図4の上側において破線で囲んだ枠内のブロック図は、画像読取装置11の実モデルの状態方程式であり、図4の下側において破線で囲んだ枠内のブロック図は画像読取装置11の等価モデルMDの状態方程式を含む状態観測器つまりオブザーバーである。ここで、以下の説明に対する混同を避けるため、等価モデルMDで得られる状態変数には全て括弧〈〉を付して表記する。
【0067】
さて、入力uすなわち駆動プーリー12に回転トルクτを与えたとき、実モデルでは出力yが駆動プーリー12の実際の角速度(dθ/dt)であることを示している。これに対して、等価モデルMDの状態方程式における出力〈y〉は、駆動プーリー12の角速度の予測値(〈dθ/dt〉)であることから、オブザーバーは、実測値の出力yと予測値の出力〈y〉との差異を等価モデルMDの状態方程式にフィードバックする。このとき、この差異に対して所定の係数Gを乗算する。この係数Gは各状態変数に対応するそれぞれの係数を有する係数行列(オブザーバーゲイン行列)である。
【0068】
このように差異がフィードバックされた等価モデルMDの状態方程式において、式(チ)は次式(ヌ)で表されることになる。
d〈x〉/dt=A〈x〉+Bu+G(y−〈y〉) …(ヌ)
なお係数Gは現代制御において周知であり、その値は、一般的に差異の収束性を高めるように設定される。
【0069】
そして、図4に示すように、オブザーバーにおいて実際の値との差異がフィードバックされた等価モデルMDの状態方程式によって求められた状態変数〈x〉を、所定の係数Fを乗算して入力u(=τ)に状態フィードバック(−F〈x〉)する。こうすることによって、各状態変数の値を実際の値もしくは実際の値と近い値に収束させることができるのである。なお、本実施形態において発明の本質ではないので説明は省略するが、係数Fはフィードバックする状態変数を入力uに応じて変換する係数行列(フィードバックゲイン行列)であり、その値は、一般的に等価モデルMDの状態方程式における状態変数の値が収束するように設定される。
【0070】
《状態フィードバック駆動》
このような演算の結果、状態変数の値(予測回転挙動値および予測移動挙動値など)は画像読取装置11における実際の値に近い値になると考えられる。そこで、制御装置30は、実際の値に近い状態変数のうち、キャリッジ16の走査方向Xへの移動距離でもある移動位置xと傾き角θに基づいて、入力uすなわち駆動プーリー12の回転トルクτを制御する。これが状態フィードバック駆動である。この駆動プーリー12の回転トルクτの制御手順について、前述した通常駆動の場合と比較しながら、図5を参照して説明する。
【0071】
図5(a)に示すように、通常駆動では、制御装置30において、駆動プーリー12の角速度dθ/dtについて、エンコーダーEDによって検出された実測値と、予め設定された設定値つまり駆動プーリー12の基準角速度dθ/dt(ref)と、の差異を求める。そして制御部31によって、モーター12mに対して求めた差異に応じた電流を流し、モーター12mに駆動プーリー12の角速度が設定値になる(または近づく)ように回転トルクτを発生させて移動手段20の動作を制御する。すなわち、通常駆動では、制御装置30はキャリッジ16の移動位置に対するその傾き角θを反映させることなく回転トルクτを制御する手順になっている。なお、駆動プーリー12の基準角速度dθ/dt(ref)は、例えば読取原稿Sの種類(原稿の大きさや読取時の解像度など)に応じて、その回転角に対応する値が予め設定されている。すなわち、キャリッジ16の移動位置xに対応するキャリッジ16の移動速度が定められている。
【0072】
これに対して、図5(b)に示すように、状態フィードバック駆動では、制御装置30において、傾き角予測部33がオブザーバーとして機能する。そして、傾き角予測部33は、駆動プーリー12の角速度dθ/dtの実測値と回転トルクτとを用いて等価モデルMDにおける状態変数の予測値が実際の値に近くなるように演算する。この演算において、状態変数のうち本実施形態において制御対象となるキャリッジ16の傾き角〈θ〉の予測値を、係数Fを乗算して回転トルクτにフィードバックさせる。このフィードバックによって、キャリッジ16の傾き角〈θ〉の予測値(演算値)は、実際の値と近い値で収束する。
【0073】
換言すれば、制御装置30は、状態フィードバック駆動において、制御部31によってキャリッジ16の移動速度を制御する際に、キャリッジ16の傾き角〈θ〉に応じて回転トルクτを調節する手順を備えている。つまり、制御装置30は、実際の値もしくは実際の値と近い値で求められたキャリッジ16の傾き角〈θ〉を反映して回転トルクτを制御することにより、キャリッジ16の傾き角〈θ〉を、定められた移動位置において所望の角度に収束させる、つまり制御することができる。このように、制御装置30が、傾き角予測部33において演算された状態変数の予測挙動値、すなわち移動位置〈x〉において実際の値もしくは実際の値と近い値に収束した傾き角〈θ〉を用い、制御部31によってモーター12mを駆動して駆動プーリー12の回転トルクτを制御する。これが状態フィードバック駆動である。
【0074】
さて、本実施形態の画像読取装置11では、読取原稿Sの画像を読み取る画像読取処理において、制御装置30は、通常駆動と状態フィードバック駆動とを選択してキャリッジ16の走査方向Xへの移動を制御するように作用する。この作用について、図6のフローチャートを参照して説明する。
【0075】
図6に示すように、画像読取処理が開始されると、まず画像の読み取り時の解像度設定処理を行う(ステップS11)。ここでは、記録装置100のユーザーが、記録装置100に備えられた入力装置(不図示)を操作して、読取原稿Sを高解像度で読み取るか否かを選択し、選択したデータを入力する。制御装置30は入力されたデータを取得する。なお、ユーザーは読み取る解像度に加えて、読取範囲を表すデータ(例えば読取原稿Sの大きさ)、つまりキャリッジ16の走査方向Xにおける移動範囲に関するデータも入力する。
【0076】
次に、読取原稿Sの読み取りが、高解像度であるか否かを判定する(ステップS12)。ここでは、制御装置30が、取得したユーザーの入力データに基づいて高解像度であるか否かを判定する。
【0077】
そして、判定の結果、高解像度でない場合は(S12:NO)、通常駆動を行う。すなわち、ステップS30に移行して、キャリッジ16を読取方向つまり走査方向Xへ移動して画像の読取処理を行う。具体的には、制御装置30は、モーター12mを回転駆動して駆動プーリー12を回転させ、キャリッジ16を読取方向(ここでは走査方向Xにおける左から右方向)へ移動させながら、1インチ当たりのライン数(LPI)が高解像よりも少ない低解像度でイメージセンサー15によって画像を読み取る。読み取られた画像データは、画像読取装置11内、もしくは制御装置30内に設けられた不図示の画像データメモリーに記録される。
【0078】
そして、制御装置30は、読取原稿Sの画像全体の読み取りが終了した読取エンドか否かを判定し(ステップS31)、読取エンドでない場合は(ステップS31:NO)、ステップS30に戻って画像読取を継続し、読取エンドになった場合は(ステップS31:YES)、通常駆動による画像読取処理を終了する。
【0079】
一方、ステップS12における判定の結果、高解像度である場合は(YES)、状態フィードバック駆動を行う。すなわち、ステップS13に移行して、キャリッジ16を読取方向つまり走査方向Xにおける左から右方向へ移動して画像の読取処理を行う。具体的には、制御装置30は、モーター12mを回転駆動して駆動プーリー12を回転させ、キャリッジ16を走査方向Xに移動させながら、1インチ当たりの読取ライン数(LPI)が通常駆動よりも多い高解像度でイメージセンサー15によって画像を読み取る。読み取られた画像データは、読取データ用のメモリーである画像データメモリーに記録される。
【0080】
次に、キャリッジ16の移動位置と傾き角を記録する(ステップS14)。制御装置30は、傾き角予測部33において演算される状態変数のうち、キャリッジ16の移動位置と、この移動位置〈x〉におけるキャリッジ16の傾き角〈θ〉とを角度記録部32に記録する。すなわち、キャリッジ16の走査方向Xへの移動において呈するキャリッジ16の傾き角〈θ〉の履歴を記録する。もとより、記録された傾き角〈θ〉は、画像読取装置11において、キャリッジ16の移動に伴ってキャリッジ16が実際に呈する傾き角θと同じ値、もしくは近い値である。なお、本実施形態では、傾き角予測部33において状態方程式の演算が行われる所定の周期間隔(例えば100μsec〜300μsec)で、移動位置〈x〉と傾き角〈θ〉とが角度記録部32に記録されるようになっている。
【0081】
次に、読取データ用のメモリーが不足か否かを判定する(ステップS15)。制御装置30は、画像読取装置11内、もしくは制御装置30内に設けられた画像データメモリーにおいて、記録可能な読取データ用のメモリー容量が不足しているか否かを判定する。
【0082】
そして、記録可能な読取データ用のメモリー容量が不足していない場合は(ステップS15:NO)、再び画像読み取り処理(ステップS13)、およびキャリッジ16の移動位置〈x〉と傾き角〈θ〉の記録処理(ステップS14)を繰り返す。一方、記録可能な読取データ用のメモリー容量が不足した場合は(ステップS15:YES)、読み取り途中か否かを判定する(ステップS16)。制御装置30は、入力データからキャリッジ16の移動範囲を特定し、キャリッジ16がその特定された移動範囲の途中か否かに応じて読み取り途中か否かを判定する。
【0083】
次に、読み取り途中でない場合、つまり読取データ用のメモリー容量がキャリッジ16の移動範囲の終端位置において不足した場合は(ステップS16:NO)、読み取り対象となる全ての画像が読み取られているので、画像読み取り処理を終了する。一方、読み取り途中である場合は(ステップS16:YES)、キャリッジ16を停止し、読取方向と反対方向に所定量キャリッジ16を移動させる(ステップS17)。ここでは制御装置30は、モーター12mを逆転させてキャリッジ16を読み取り開始時の初期位置まで戻すことなく、停止位置から走査方向Xにおける左方向へ所定量(所定の距離)移動させて戻す。
【0084】
次に、メモリー不足解消後、キャリッジ16を読取方向へ移動させる(ステップS18)。制御装置30は、画像データメモリーに記録された画像データが、例えば記録装置100内の画像記録部40側に設けられたメモリーにデータ転送されて容量が回復した後、モーター12mを駆動して駆動プーリー12を回転させ、キャリッジ16を再び読取方向(右方向)に移動させる。
【0085】
そして、キャリッジ16が読み取り途中で停止した位置まで移動したとき、この停止位置において、キャリッジ16の傾き角〈θ〉を停止時の傾き角に調節する(ステップS19)。すなわち、制御装置30は、再び読取方向にキャリッジ16を移動させながら、キャリッジ16の傾き角〈θ〉が停止位置となる移動位置〈x〉において、停止時に記録された傾き角〈θ〉と同一の角度になるように回転トルクτを調節する。具体的には、移動位置〈x〉においてキャリッジ16の傾き角〈θ〉が停止前に記録された角度に収束するように、傾き角予測部33が予測する傾き角〈θ〉に係数Fを乗算して回転トルクτにフィードバックする。そして、制御装置30は、このフィードバックされた回転トルクτによって駆動プーリー12が回転するように流す電流を調節することによってモーター12mを駆動制御する。
【0086】
従って、ステップS17において読取方向と反対方向にキャリッジ16を移動させる所定量は、ステップS19においてキャリッジ16の傾き角〈θ〉を停止時の角度に調節できる移動距離であって、最短距離とすることが好ましい。
【0087】
次に、キャリッジ16の傾き角〈θ〉が停止位置において停止時と同じ角度になったキャリッジ16を、読取方向へ移動して画像読取を継続する(ステップS20)。制御装置30は、モーター12mを継続して駆動して駆動プーリー12を回転させ、キャリッジ16を読取方向である走査方向Xにおける右方向へ移動させながら、イメージセンサー15によって画像を停止位置から継続して読み取る。この結果、停止位置から再び1インチ当たりの読取ライン数(LPI)が通常駆動よりも多い高解像度で読み取られた読取データは、画像データメモリーに継続して記録される。
【0088】
そして、制御装置30は、読取原稿Sの全ての画像の読み取りが終了した読取エンドか否かを判定し(ステップS21)、読取エンドでない場合は(ステップS21:NO)、ステップS20に戻って画像読取を継続し、読取エンドになった場合は(ステップS21:YES)、状態フィードバック駆動による画像読取処理を終了する。
【0089】
なお、本実施形態の画像読取処理では、キャリッジ16が再び停止することなく読み取りを終了するものとしている。従って、ステップS20以降は、キャリッジ16の傾き角〈θ〉を記録する必要がないので、それに相当する処理ステップは省略している。
【0090】
上記説明した実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)キャリッジ16を戻したのち停止した位置から再び読み取りを継続する際に、移動手段20の動作を制御して、停止時と継続時とにおいてイメージセンサー15の配列方向Yの傾き角を同一にすることができる。この結果、読取原稿Sの画像を正しく読み取ることができる。また、キャリッジ16を読取の開始位置(初期位置)まで戻さなくても済むので、読取原稿Sの画像を短時間で読み取ることができる。
【0091】
(2)置き換えられた等価モデルMDに基づいて状態方程式を表現することによって、キャリッジ16の傾き角すなわちキャリッジ16に備えられたイメージセンサー15の配列方向Yの傾き角を予測することができる。従って、予測した傾き角を用いて、移動手段20の動作を制御してキャリッジ16の移動位置におけるイメージセンサー15の配列方向Yの傾き角を適切に制御することが可能になる。この結果、画像の読み取りの継続時におけるイメージセンサー15の配列方向Yの傾き角を、停止時における傾き角と同じ角度にすることができるので、読取原稿Sの画像を正しく読み取ることができる。
【0092】
(3)状態方程式で求められた駆動プーリー12の予測角速度と、検出された駆動プーリー12の実際の角速度との差異が、状態方程式においてフィードバックされる。従って、状態方程式を用いることによって、キャリッジ16の傾き角〈θ〉すなわちイメージセンサー15の配列方向Yの傾き角を実際の値に近い値で予測することができる。この結果、例えば、移動手段20の動作を制御してイメージセンサー15の配列方向Yの傾き角を適切に制御することが可能になる。
【0093】
(4)キャリッジ16の移動が途中で停止する可能性がある高解像度での画像の読み取りにおいて、状態方程式による演算処理を用いる。従って、高解像度でない状態での画像の読み取りにおいて演算などの処理負荷が軽減されるとともに、高解像度での読み取りにおいて画像を正しく読み取ることができる。
【0094】
(5)読取原稿Sの画像を正しく読み取ることができる画像読取装置11を備えた記録装置100を提供できる。従って、例えば、読取原稿Sの画像を、用紙Pに読取原稿Sの画像を記録する場合、正しく画像を記録して複製することができる。
【0095】
なお、上記実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・上記実施形態の状態フィードバック駆動において、駆動プーリー12の角速度に替えて、従動プーリー13の実際の回転挙動(角速度)をエンコーダーEDで検出して用いてもよい。あるいは、駆動プーリー12の角速度に加えて、従動プーリー13の実際の回転挙動(角速度)をエンコーダーEDで検出して用いてもよい。上述するように、駆動プーリー12および従動プーリー13の回転挙動値となる角速度は、それぞれ状態方程式の状態変数として用いられる。従って、これらの予測値と実測値との差異をフィードバックすることによって、状態変数であるキャリッジ16の傾き角〈θ〉の値を、実際の値に近づけることが可能である。なお、従動プーリー13の実際の回転挙動(角速度)をエンコーダーEDで検出する場合、出力yは従動プーリー13の角速度dθ/dtになる。
【0096】
この変形例によれば、上記実施形態における効果(3)と同様な効果を得る。すなわち、状態方程式で求められた従動プーリー13の予測角速度と、検出された実際の従動プーリー13の角速度との差異が、状態方程式においてフィードバックされる。従って、状態方程式を用いることによって、キャリッジ16の傾き角〈θ〉すなわちイメージセンサー15の配列方向Yの傾き角を実際の値に近い値で予測することができる。従って、例えば、移動手段20の動作を制御してイメージセンサー15の配列方向Yの傾き角を適切に制御することが可能になる。
【0097】
・上記実施形態において、キャリッジ16が複数回停止することとしてもよい。この場合は、図6に示した画像読取処理において、ステップ19以降、再びステップS13からステップS19までの処理を繰り返して実行すればよい。
【0098】
・上記実施形態において、駆動プーリー12の実際の回転角をエンコーダーEDによって測定しなくてもよい。すなわち、傾き角予測部33はオブザーバーとして機能せず、単に状態方程式によるフィードバックのみによって、キャリッジ16の傾き角〈θ〉の値を演算して求めることとしてもよい。こうすれば、予測精度は上記実施形態よりも低下するものの、イメージセンサー15の配列方向Yの傾き角が、状態方程式において予測値として求められる。従って、例えば、移動手段の動作を制御して画像読取部の移動位置における画像読取手段の傾き角を、予測値を用いて制御することができる。
【0099】
・上記実施形態において、低解像度での画像読取処理に際して、通常駆動に替えて状態フィードバック駆動を行うようにしてもよい。例えば、読取原稿Sの画像を読み取る際の解像度に関わらず、例えばキャリッジ16を移動させる移動手段20の動作に起因して読取範囲の途中で停止することが想定される場合は、画像読取処理において、低解像度においても状態フィードバック駆動を行うことが好ましい。
【0100】
・上記実施形態において、キャリッジ16(センサー部16a)の傾き角θを測定器によって測定(実測)し、その測定値を予め記録しておくこととしてもよい。例えば、記録装置100の製造時にキャリッジ16を移動させ、キャリッジ16の走査方向Xの移動距離に対応するキャリッジ16の傾き角θを予め専用の測定器(たとえばカメラ)を用いて実測し、その実測データを角度記録部32に記録しておくようにしてもよい。こうすれば、キャリッジ16が途中から移動した場合において、等価モデルMDによる状態方程式を用いて予測演算することなく、記録された実測データを用いて、キャリッジ16の移動距離に対応するキャリッジ16の傾き角を予測することができる。従って、この予測される傾き角がキャリッジ16の停止時の移動位置におけるキャリッジの傾き角と同一になる距離分、キャリッジ16を読取開始位置の方向へ移動させて戻すことによって、上記実施形態における効果(1)と同様な効果を奏する。
【0101】
・上記実施形態では、記録装置100において画像記録部40を、液体としてのインクを噴射する液体噴射ヘッドを備えたプリンターとして具体化したが、画像記録部40をインク以外の他の液体を噴射したり吐出したりする液体噴射装置として具体化してもよい。微小量の液滴を吐出させる液体噴射ヘッド等を備える各種の液体噴射装置に流用可能である。なお、液滴とは、上記液体噴射装置から吐出される液体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう液体とは、液体噴射装置が噴射させることができるような材料であればよい。例えば、物質が液相であるときの状態のものであればよく、粘性の高い又は低い液状体、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状態、また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散又は混合されたものなどを含む。また、液体の代表的な例としては上記実施形態で説明したようなインクや液晶等が挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インク及び油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種液体組成物を包含するものとする。液体噴射装置の具体例としては、例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルタの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散又は溶解のかたちで含む液体を噴射する液体噴射装置がある。あるいは、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置、捺染装置やマイクロディスペンサ等であってもよい。さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置を採用してもよい。そして、これらのうちいずれか一種の液体噴射装置に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0102】
11…画像読取装置、14…ベルト、15…画像読取部材としてのイメージセンサー、16…画像読取手段としてのキャリッジ、20…移動手段、30…制御装置、31…制御部、32…角度記録部、33…傾き角予測部、40…画像記録部、100…記録装置、P…媒体としての用紙、S…読取原稿、M…画像読取部の質量、MD…等価モデル、θ…傾き角、C〜C…ダンパー定数、K〜K…バネ定数、K…キャリッジの回転剛性、dx/dt…移動速度、x…移動位置、X…走査方向、Y…配列方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像を読み取る画像読取部材が配列されるとともに、該画像読取部材の配列方向と交差する方向へ移動することによって読取原稿の画像を読み取る画像読取手段と、
前記画像読取手段を前記画像の読取範囲において移動させる移動手段と、
前記画像読取手段の移動方向に対する前記画像読取部材の配列方向の傾き角を前記画像読取手段の移動位置に対応して記録する角度記録部と、
前記読取範囲の途中で前記画像読取手段が停止し、前記読取範囲の途中から再び前記画像の読み取りを継続する際に、前記移動手段の動作を制御し、前記画像読取部材の配列方向の傾き角を、前記画像読取手段が停止した位置において前記角度記録部が記録した前記傾き角と同じ角度にして前記画像読取手段を移動させる制御部と、
を備えたことを特徴とする画像読取装置。
【請求項2】
請求項1に記載の画像読取装置において、
前記移動手段および前記画像読取手段を等価モデルに置き換え、置き換えた前記等価モデルに基づいて表現した状態方程式によって、前記画像読取手段の移動位置における前記傾き角を予測する傾き角予測部を備え、
前記角度記録部は、前記傾き角予測部が予測した傾き角を前記画像読取部材の配列方向の傾き角として記録することを特徴とする画像読取装置。
【請求項3】
請求項2に記載の画像読取装置において、
前記移動手段は、
駆動回転する駆動回転体と、従動回転する従動回転体と、前記駆動回転体と前記従動回転体とに掛け渡されたベルトとを有し、前記ベルトの一部に前記画像読取手段を固定して前記ベルトの回動に従って前記画像読取手段を移動させるとともに、前記駆動回転体の回転挙動値および前記従動回転体の回転挙動値の少なくとも一つを検出回転挙動値として検出する検出手段を備え、
前記傾き角予測部は、
前記状態方程式によって前記駆動回転体の回転挙動値および前記従動回転体の回転挙動値の少なくとも一つを予測回転挙動値として求め、前記傾き角予測部によって求められた前記予測回転挙動値と前記検出手段によって検出された前記検出回転挙動値との差異を前記状態方程式にフィードバックして、前記画像読取手段の移動位置における前記画像読取部材の配列方向の傾き角を予測する
ことを特徴とする画像読取装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の画像読取装置において、
前記画像読取手段は、予め定められた解像度以上の高解像度で前記画像を読み取ることを特徴とする画像読取装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載の画像読取装置と、
媒体に画像を記録する画像記録部と、
を備えたことを特徴とする記録装置。
【請求項6】
画像を読み取る画像読取部材が配列された画像読取手段を該画像読取部材の配列方向と交差する方向へ移動させることによって、読取原稿の読取範囲における画像を読み取る画像読取方法であって、
前記画像読取手段の移動方向に対する前記画像読取部材の配列方向の傾き角を前記画像読取手段の移動位置に対応して記録する工程と、
前記読取範囲の途中で前記画像読取手段が停止し、前記読取範囲の途中から再び前記画像の読み取りを継続する際に、前記画像読取部材の配列方向の傾き角を、前記画像読取手段が停止した位置において記録した前記傾き角と同じ角度にして前記画像読取手段を移動させる工程と、
を備えたことを特徴とする画像読取方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−244547(P2012−244547A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115034(P2011−115034)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】