説明

界面活性有機化合物を乳化剤として用いた水系エマルションの調製方法

【課題】
有機溶媒をまったく使用せずに、各種被乳化物をエマルション化してO/Wエマルションを得、また該O/Wエマルションを乾燥粉末化する方法を提供する。
【解決手段】
被乳化物を、界面活性有機化合物を乳化剤として、有機溶媒の非存在下で、該被乳化物の融点以上であって、かつ該界面活性有機化合物の自己集合体の相転移温度以上に加温し、加圧下においてエマルション化するO/Wエマルションの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水または水溶媒中で界面活性有機化合物と被乳化物を高温、加圧処理により、有機溶媒を必要とせず、O/Wエマルション化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被乳化物をO/Wエマルション化する場合、その被乳化物を溶解できる有機溶媒を使用し溶解させる必要がある。また、安定なエマルションを得るためには、被乳化物の有機溶媒溶液の物理化学特性を考慮した上で、適切な界面活性剤を乳化剤として選択し、エマルション化する必要がある。
例えば、特開平3−50279号公報では、ヘキサン、酢酸エチル、またはトルエン存在下でポリアミンの水溶液とアルキルイソシアネートを混合攪拌し、反応させて得られる長鎖アルキルグラフトポリマーの水分散体からなることを特徴とする水性剥離剤が記載されている。また、特開平11−172225号公報では、EVAと炭素数8〜30のアルキルイソシアネートの反応物を、石油系溶剤またはデシルアルコール、および高いHLBを有する界面活性剤と低いHLBを有する界面活性剤とを組合せた界面活性剤でエマルション化した剥離剤が記載されている。また、特開2002−363289号公報には、トルエンに溶解した分散質と分散媒の混合物を注入圧力6.5×10Pa以上で噴射することにより乳化分散させるポリマー水分散体の製造方法が記載されている。さらに、特開2002−129031号公報には、ポリマー水分散体およびその製造方法として、炭素数が8以上の長鎖アルキル基を有する剥離性ポリマーをトルエンに溶解し、炭素数が15以上の長鎖炭化水素基を少なくとも1個以上有する乳化剤を用いて水中に乳化分散する製造方法が記載されている。そして、特開2003−221448号公報では、炭素数が8以上の長鎖アルキル基を有する剥離性ポリマーを含む分散質のトルエン溶液を、両性界面活性剤とノニオン系界面活性剤の併用系である乳化剤により水中に、体積平均粒径が0.1μm以下のマイクロエマルションとして乳化分散させることを特徴とするポリマー水分散体の製造方法が記載されている。
【0003】
ただし、有機溶媒に難溶性の被乳化物などについては、安定なエマルションとして調製することは難しく、唯一の方法としては、被乳化物の融点以上の高温において、界面活性剤と共にエマルション化する溶融乳化法がある。例えば、特開平11−70733号公報には、顕色剤を密閉容器内で融点以上に加熱し、エマルション化して塗布する方法が記載されている。しかし、いずれの実施例でも使用されているマレイン酸ジエチルが、実際には顕色剤を溶解する有機溶媒として機能し得ることに留意する必要がある。また、唯一高温条件のままエマルション化している実施例2では、高温高圧条件でドデシルベンゼンスルホン酸ソーダおよびラウリル硫酸ソーダのような一般的な界面活性剤を用いてディゾルバーによりエマルション化しているが、該条件のような単純な攪拌混合条件では高回転するディゾルバーによって界面活性剤が発泡し、被乳化物の乳化のためには働かなくなり、安定してエマルションを形成することは不可能であることから、その結果には疑問が残る。また、特開2001−55302号公報では、連続的に固体を溶融し界面活性剤もしくは分散剤を添加し、密閉チャンバー内で高剪断条件によりサスペンション化する生成方法が記載されているが、剪断する前に、溶解状態の固体がチャンバー滞留中に結晶化するほどの低温の溶媒流を合流させており、高温下の固体が十分溶解しているままでエマルション化しているとは言えず、被乳化物の種類に関わり無く粒径の小さいエマルションを安定して得ることは難しい。
【0004】
一般に、この溶融乳化法では、被乳化物の融点以上の高温処理が必要となり、融点が高い被乳化物では処理温度が100℃を大幅に越え、常圧では水が沸騰するため、かなりの加圧により水の沸騰を抑える必要がある。そうした高温高圧処理を行なっても分解など起こさずに安定なエマルションを形成しうる乳化剤を用い、かつ物理的な撹乱を避けてその高温高圧下で安定してエマルション化できる分散方法を用いるO/Wエマルションの製造方法が必要となる。しかし、ほとんどの乳化剤は、せいぜい相転移温度が60〜80℃、融点が50〜60℃程度であり、そうした温度レベル以下で安定なエマルションを形成するO/Wエマルションの製造方法が報告されているに過ぎない。分散方法についても、溶融した被乳化物に対し相転移温度や融点が高い乳化剤を組み合わせて、安定的にO/Wエマルションを形成するような製造方法は知られていない。医薬、化粧品、樹脂材料などの分野においては、環境対応や安全性の面から水系製剤が望まれており、本質的に有機溶媒を排除したエマルションの製造方法が求められている。
【0005】
また、従来のエマルションは、分散媒である水分がなくなるとエマルション粒子同士が融着するため、乾燥等により粉末化することはできない。このため、分散媒である大量の水との共存が必須となり、どうしても重量が大きくなること、また加水分解に弱い被乳化物では長期間の保存に問題が出ることなどの課題がある。エマルション化したものを、そのまま乾燥・粉末化でき、場合によっては使用時に容易にエマルションに戻せれば、輸送コストや長期保存に有利であり、そうしたエマルションが求められている。
【0006】
また、有機ナノチューブを用いる例としては、特開2004−261885号公報には、糖と炭化水素からなる有機ナノチューブへ機能性物質を導入する方法が記載されており、またUS5492696号公報には、リン脂質から形成されるナノチューブを凍結乾燥させた後に、該ナノチューブに機能性物質を導入し放出制御を行う方法が記載されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明は、高温、加圧条件下において、界面活性有機化合物を乳化剤として利用し、全く有機溶媒を必要とせず、融点を持つ被乳化物をエマルション化してO/Wエマルションを得るとともに、該O/Wエマルションを乾燥させて粉末化できる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、
1)有機ナノチューブを構成する分子が、石鹸分子のように1つの分子中に水に溶けやすい部分(親水部)と油に溶けやすい部分(疎水部)を併せ持った両親媒性分子であり、基本的に界面活性剤の機能を有する界面活性有機化合物であること、2)この分子が水中で自発的に集まって(以下、「自己集合」と呼称する)ナノチューブ構造を形成すること、3)さらに、この界面活性有機化合物の融点は140℃以上であり、該界面活性有機化合物が融点以上の高温においても安定して界面活性効果を示すこと、4)また、該界面活性有機化合物により形成された有機ナノチューブの相転移温度が30℃〜90℃であり、水中でこの温度以上に加温すると、ナノチューブ構造が球状の小胞体(ベシクル)構造に瞬間に形態変化を起こすこと、を見出し、さらに、この物理化学的特性を利用し、所望の被乳化物を、水中において、界面活性有機化合物を用い、なんら有機溶媒を使用することなく、高温、加圧条件下においてエマルション化を行い、安定なO/Wエマルションを調製できることを見出した。5)また、有機ナノチューブを形成する界面活性有機化合物に近い化学構造を有する有機化合物が、擬似的な有機ナノチューブ・ベシクル構造を形成し、該有機化合物も、有機ナノチューブを形成する界面活性有機化合物よりもやや劣るが同様のエマルション化効果を有する(以後、有機ナノチューブ・ベシクル構造を形成する界面活性有機化合物と、擬似的な有機ナノチューブ・ベシクル構造を形成する界面活性有機化合物を総称して「界面活性有機化合物」と呼称する)こと、6)さらに、これら界面活性有機化合物を用いて製造されたエマルションは、乾燥により容易に乾燥粉末化すること、7)そして該乾燥粉末を再度水に添加分散させれば、ただちにエマルションに戻ること、を見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明は、次の内容で構成されている。
【0009】
被乳化物と界面活性有機化合物を、水に予備分散させた後、該予備分散液を有機溶媒の非存在下で、前記被乳化物の融点以上であって、かつ前記界面活性有機化合物の自己集合体の相転移温度以上の温度に加温し、加圧下においてエマルション化することを特徴とするO/Wエマルションの製造方法。
【0010】
前記界面活性有機化合物を乳化剤として前記被乳化物のエマルション化に用いることを特徴とするO/Wエマルションの製造方法。
【0011】
前記界面活性有機化合物が、炭素数6〜50の炭化水素鎖を有しており、また糖鎖、ペプチド鎖および金属塩から選択される少なくとも1種の親水基を有しており、該炭化水素鎖と該親水基が直接に結合するか、またはアミド結合、アリーレン基もしくはアリーレンオキシ基を介して結合している界面活性有機化合物であることを特徴とするO/Wエマルションの製造方法。
【0012】
前記界面活性有機化合物が1−グルコサミド−オレイン酸、グリシルグリシン−ラウリン酸、グリシルグリシン−ミリスチン酸、2−グルコサミド−ラウリン酸、2−グルコサミド−ミリスチン酸、2−グルコサミド−オレイン酸、および2−グルコサミド−ステアリン酸から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とするO/Wエマルションの製造方法。
【0013】
前記界面活性有機化合物が1−グルコサミド−オレイン酸であることを特徴とするO/Wエマルションの製造方法。
【0014】
前記界面活性有機化合物の自己集合体が、実態的に内孔径が5nm以上の有機ナノチューブからなることを特徴とするO/Wエマルションの製造方法。
【0015】
前記界面活性有機化合物が、該界面活性有機化合物の自己集合体と非自己集合体の混合物からなることを特徴とするO/Wエマルションの製造方法。
【0016】
または、前記界面活性有機化合物が、該界面活性有機化合物の自己集合体のみからなることを特徴とするO/Wエマルションの製造方法。
【0017】
もしくは、前記界面活性有機化合物が、該界面活性有機化合物の非自己集合体のみからなることを特徴とするO/Wエマルションの製造方法。
【0018】
前記エマルション化が、0.01MPa以上、300MPa以下の加圧下で行われることを特徴とするO/Wエマルションの製造方法。
【0019】
前記予備分散を大気圧下かつ常温下で行うことを特徴とするO/Wエマルションの製造方法。
【0020】
前記被乳化物が、剥離剤、トナー剤、農薬、医薬品、化粧品、樹脂材料、または食品であることを特徴とするO/Wエマルションの製造方法。
【0021】
前記O/Wエマルションを、乾燥させることにより粉末化することを特徴とする乾燥エマルションの製造方法。
【0022】
前記乾燥エマルションを水に分散させて、再度O/Wエマルションを生成させることを特徴とするO/Wエマルションの製造方法。
【0023】
被乳化物と界面活性有機化合物を、大気圧下かつ常温下で水に予備分散させた後、該予備分散液を有機溶媒の非存在下で、前記被乳化物の融点以上であって、かつ前記界面活性有機化合物の自己集合体の相転移温度以上の温度に加温し、加圧下においてエマルション化して製造されるO/Wエマルション。
【0024】
前記界面活性有機化合物を乳化剤として前記被乳化物のエマルション化に用いることを特徴とするO/Wエマルション。
【0025】
前記界面活性有機化合物が、炭素数6〜50の炭化水素鎖を有しており、また糖鎖、ペプチド鎖および金属塩から選択される少なくとも1種の親水基を有しており、該炭化水素鎖と該親水基が直接に結合するか、またはアミド結合、アリーレン基もしくはアリーレンオキシ基を介して結合している界面活性有機化合物であることを特徴とするO/Wエマルション。
【0026】
前記界面活性有機化合物が1−グルコサミド−オレイン酸、グリシルグリシン−ラウリン酸、グリシルグリシン−ミリスチン酸、2−グルコサミド−ラウリン酸、2−グルコサミド−ミリスチン酸、2−グルコサミド−オレイン酸、および2−グルコサミド−ステアリン酸から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とするO/Wエマルション。
【0027】
前記界面活性有機化合物が1−グルコサミド−オレイン酸であることを特徴とするO/Wエマルション。
【0028】
前記被乳化物が、剥離剤、トナー剤、農薬、医薬品、化粧品、樹脂材料、または食品であることを特徴とするO/Wエマルション。
【0029】
前記O/Wエマルションを乾燥させることにより、粉末化して得られる乾燥エマルション。
【0030】
前記乾燥エマルションを水に分散させて、再度O/Wエマルションを生成させて得られるO/Wエマルション。
【発明の効果】
【0031】
界面活性有機化合物を乳化剤として利用し、水中で、全く有機溶媒を使用せず、各種被乳化物をエマルション化することにより、また該エマルションを乾燥粉末化させることにより、被乳化物の性質に応じた各種の応用が可能である。例えば、医薬、化粧品、農薬、樹脂材料などの有効成分を水系エマルションとすることにより、人体安全性の向上および環境汚染の軽減を大幅に図ることができる。また、乾燥し粉末化することにより長期安定保存ならびに輸送コスト低減を達成することができる。さらに、該粉末が水への添加で再度エマルションになることから、被乳化物のエマルションをいつでも容易に調整することが出来る。こうした点から、加水分解し易い、大量の水が必要で重量が大きくなる等の理由で、今まで導入できなかった被乳化物を新たなステージへと展開することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明でエマルション化する被乳化物は、融点を有し、水に不溶なものであれば、医薬、化粧品、食品、農薬、電子材料、樹脂材料など特に制限はなく、目的に応じ適宜選択すればよい。該被乳化物の濃度は、その特性や目的によって適宜設定すればよい。常温で液状のものでも、水に不溶で水と界面を形成するものであればよい。
【0033】
本発明で用いる界面活性有機化合物は、疎水性の炭化水素基と親水基から成り、そのまま(非自己集合状態)で用いることができる。また、少なくとも部分的に自己集合して(擬似)有機ナノチューブを形成した状態でも、乳化剤として用いることができる。また、(擬似)有機ナノチューブを形成させた後に凍結乾燥した界面活性有機化合物でも用いることができる。該炭化水素基は、炭素数6〜50の炭化水素鎖が好ましく、直鎖であることが好ましく、飽和でも不飽和でも良い。不飽和の場合には3個以下の二重結合を有することが好ましい。該親水基は、糖鎖、ペプチド、金属塩からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これら親水基と炭化水素基は、直接、アミド結合、アリーレン基、もしくはアリーレンオキシ基を介して結合する。
【0034】
界面活性有機化合物の種類について、以下に例示するが、これにより特に限定されるものではない。
【0035】
(a)下記一般式
【0036】
【化1】

【0037】
(式中、Gは糖残基を表し、Rは炭素数6〜25の炭化水素を表す。)で表される構造を有するO−グリコシド型糖脂質(これらは、特開2002−80489号公報、特開2003−259893号公報にも記載されているものである)。
【0038】
(b)下記一般式
R’−NHCO−(CH2)n−COOH
(式中、R’はアルドピラノースの還元末端水酸基を除いた残基、nは6〜20を表す。)で表される非対称双頭型脂質(これらは、特開2002−322190号公報にも記載されているものである)。
【0039】
(c)下記一般式
G’−NHCO−R”
(式中、G’は糖のアノマー炭素原子に結合するヘミアセタール水酸基を除いた糖残基を表し、R”は炭素数10〜39の不飽和炭化水素基を表す。)で表されるN−グリコシド型糖脂質(これらは、特開2004−224717号公報にも記載されているものである)。
【0040】
(d)下記一般式
R’’’−CO(NHCH2CO)mOH
(式中、R’’’は炭素数6〜18の炭化水素基、mは1〜3の整数を表す。)で表されるペプチド脂質と遷移金属とから成る化合物(これらは、特開2004−250797号公報にも記載されているものである)。
【0041】
こうした界面活性有機化合物のうち、好ましいものは1−グルコサミド−オレイン酸、グリシルグリシン−ラウリン酸、グリシルグリシン−ミリスチン酸、2−グルコサミド−ラウリン酸、2−グルコサミド−ミリスチン酸、2−グルコサミド−オレイン酸、および2−グルコサミド−ステアリン酸から選ばれる1種または2種以上である。特に好ましいものは有機ナノチューブを形成する1−グルコサミド−オレイン酸である。
【0042】
有機ナノチューブを形成する界面活性有機化合物の場合、後述する特定の条件で水に溶解させると、自己集合して中空構造の有機ナノチューブ構造を形成する。擬似的な有機ナノチューブ構造を形成する界面活性有機化合物の場合、同様の条件で自己集合して、擬似的な有機ナノチューブ構造を形成する。これら(擬似)有機ナノチューブは、水中で昇温していくと、それぞれに固有の相転移温度で(擬似)ナノチューブ構造から球状の(擬似)ベシクル構造に形状変化し、また逆に降温していくとそれぞれの相転移温度で(擬似)ベシクル構造から(擬似)ナノチューブ構造に形状変化する。
【0043】
次にO/Wエマルションの製造方法について述べる。
所望の被乳化物は、これを界面活性有機化合物と合わせて水にエマルション化する。エマルション化に先立ち、常温・大気圧下で、水にできるだけ均一に添加・分散するのが好ましい。エマルション化の際の温度条件および加圧条件は、該被乳化物、および該界面活性有機化合物の物理化学的特性によって適宜選択すればよい。このとき、温度条件および加圧条件が設定できる高圧乳化装置を使用してエマルション化するのが好ましい。
【0044】
前記温度条件は、前記被乳化物の融点以上であって、かつ前記界面活性有機化合物の相転移温度以上の温度に設定する必要がある。乳化剤として、まったく自己集合していない界面活性有機化合物を使用する場合であっても、該界面活性有機化合物の相転移温度を考慮して同様に温度条件を設定する必要がある。擬似有機ナノチューブ・ベシクル構造を形成する界面活性有機化合物も、その相転移温度は、有機ナノチューブ・ベシクル構造を形成する界面活性有機化合物と同じく30℃〜90℃である。該温度条件まで加温し加圧すると、該界面活性有機化合物はその中に該被乳化物を取り込む形でベシクル構造を形成する。擬似ベシクル構造をとる界面活性有機化合物の場合、被乳化物を取り込んだほうがより安定し、ベシクル構造に近い構造になる。その後冷却し、該相転移温度より低温になっても、該界面活性有機化合物は(擬似)有機ナノチューブに構造転移することなく、該(擬似)ベシクル構造が安定して維持され、該構造物表面は親水性を有するため、結果として該被乳化物の安定したエマルションが形成される。
【0045】
前記加圧条件は、前記温度条件が常圧における水の沸点を超える場合には、少なくとも水の沸点を上昇させて水の沸騰を抑えるほどの高圧に設定しなくてはならない。別の効果として、圧力に応じてエマルションの粒径を制御でき、高い圧力をかけると、エマルションの粒径をより小さくし安定したエマルションを得ることが可能である。こうした点を考慮し、0.01MPa〜300MPaの加圧を行うことが好ましい。
【0046】
本発明では、前記加圧により、被乳化物を含む分散質と、界面活性有機化合物を含む水系分散媒を超高圧、超高速度流体として相互に接触させるため、被乳化物を保存安定性のよい微細粒子として水中に分散させることができる。また、超高圧、超高速度で、該分散質と該水系分散媒の混合物を噴射しているため、高いエネルギーを効率よく水分散体の製造に費やすことが可能となり、非常に少ない界面活性有機化合物でサブミクロン以下の平均粒子径の微細なO/Wエマルションを得ることができる。
【0047】
前記エマルションの製造方法において、添加剤として、イオン系界面活性剤および/またはノニオン系界面活性剤を添加しても良い。こうした添加剤を添加すると、得られるエマルション中の被分散体の体積平均粒子径をさらに小さくし、かつエマルションの保存安定性を改善するのに効果的である。また、界面活性有機化合物の水和性・構造形成性を改善するためにも有効である。ただし、乳化剤として用いる界面活性有機化合物の種類によっては、特段の効果がないこともある。
【0048】
本発明における、被乳化物を、界面活性有機化合物を用いてエマルション化するために用いる機器としては、圧力および温度が調整、設定できる高圧乳化装置が好ましい。具体的には、超高圧ジェット流反転式乳化分散機NANO3000((株)美粒)、CLEARMIX/W−MOTION(エム・テクニック(株))、ナノメーカーLSU−2010(アドバンスト・ナノ・テクノロジー(株))、湿式微粒化装置スターバースト((株)スギノマシン)、BUPS−200(吉田機械興業(株))、マイクロフルイダイザーM−140k((株)みづほ工業)を挙げることができる。
【0049】
前記超高圧、超高速度で噴射することにより乳化分散したのち、減圧−加熱処理などを行なってもよく、所望のエマルションとすることができる。得られたエマルションの乾燥重量濃度は特に限定されないが、通常、5〜70重量%程度が好ましく、特に10〜60重量%であることが好ましい。
【0050】
前記エマルション中のベシクル構造物は、従来のエマルション粒子と異なり、有機ナノチューブ同様、物理的安定性が高くマイクロカプセル的な特徴も有するため、乾燥し粉末化することができる。乾燥する方法は、特に限定されないが、吸引濾過により濾別し、または遠心して沈殿物として回収し、自然乾燥および/または適度な温風により乾燥させてもよい。乾燥して粉末化したベシクル構造物は、その状態で長期間安定であり、再度水に添加分散させて容易にエマルションに戻すことができる。
【0051】
界面活性有機化合物が自己集合し、有機ナノチューブを形成する条件について、その調製条件の例を示す。最初に、該界面活性有機化合物を水に溶解させ、該界面活性有機化合物の溶液を調製する。ここで用いる水としては、蒸留水、精製水、超純粋などの水などを挙げることができる。溶媒中の界面活性有機化合物の濃度は、好ましくは0.001w/v%〜0.02w/v%である。次に、該溶液を所定温度(40〜100℃)まで加熱し、その後所定の冷却速度(5℃/分以下)で所定温度(水溶液の凍結温度〜30℃)まで冷却し、その温度のまま所定期間(1日以上)静置する。この工程により、形成される中空の有機ナノチューブのサイズは、条件によっても異なるが、通常内孔径は実態的には5nm以上、好ましくは500nm以下、特に好ましいのは10nm〜200nmであり、かつ、外径が実態的には1000μm以下、特に好ましいのは50〜300nmである。本発明で有機ナノチューブを用いる場合、内孔径の範囲は特に特定されるものではない。
【0052】
形成した有機ナノチューブから水分を除去したい場合は、該有機ナノチューブを凍結乾燥させればよい。非自己集合状態の界面活性有機化合物が混在した有機ナノチューブを凍結乾燥させてもよい。凍結乾燥の凍結温度は、好ましくは−70℃以下であり、液体窒素を用いることが簡便である。凍結乾燥の真空度は、好ましくは20Pa以下、より好ましくは1.0Pa以下である。凍結乾燥の時間は、好ましくは24時間以上、より好ましくは72時間以上である。
該有機ナノチューブは、乾燥状態でも構造的に安定であり、構造を維持したまま水に再度分散させることが出来る。
【実施例1】
【0053】
以下、実施例にて本発明を例証するが、これにより本発明を限定するものではない。なお、有機ナノチューブと記載していない実施例においては、非自己集合状態の界面活性有機化合物を用いた。
[剥離剤]
1−グルコサミド−オレイン酸から形成された有機ナノチューブ(相転移温度70℃、融点154℃)1gと被乳化物ポリビニルオクタデシルカーバメート(融点87〜93℃)5gを水94gに懸濁した。
この懸濁液を高圧乳化装置NANO3000((株)美粒)により、165℃、168MPaの条件下、1循環処理することにより、O/Wエマルションを得た。このO/Wエマルションの平均粒径を測定した結果は1.0μmであった。測定条件は次のとおりである。サンプル500mgを水50mlへ懸濁分散させ、それより1mlを分取しマイクロトラックMT3300(日機装(株))へ投入した。マイクロトラックMT3000の設定を、体積分布表示、粒子屈折率1.81、溶媒屈折率1.333とし、平均粒径を測定した。さらにこのO/Wエマルションを、電子顕微鏡を使用して写真撮影した。結果を図1に示す。測定条件は次のとおりである。サンプルを適量取り、それをグラファイト基板上で乾燥させ、超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡S−4800((株)日立ハイテクノロジーズ)を用いて観察・測定した。
【0054】
該エマルションをNo.5Cの濾紙(アドヴァンテック東洋(株))で吸引濾過して濾紙上にベシクル構造物を回収し、風乾1日後60℃の温風で7時間乾燥し粉末を得た。
【実施例2】
【0055】
[トナー]
1−グルコサミド−オレイン酸から形成された有機ナノチューブ(相転移温度70℃、融点154℃)1gと被乳化物トナー用ポリエステル樹脂(軟化点140℃)5gを水94gに懸濁した。
この懸濁液を高圧乳化装置NANO3000((株)美粒)により、168℃、168MPaの条件下、1循環処理することにより、O/Wエマルションを得た。平均粒径を測定した結果は5.0μmであった。測定条件は実施例1と同様である。さらにこのO/Wエマルションを、電子顕微鏡を使用して写真撮影した結果を図2に示す。測定条件は実施例1と同様である。
【0056】
該エマルションをNo.5Cの濾紙(アドヴァンテック東洋(株))で吸引濾過して濾紙上にベシクル構造物を回収し、風乾1日後60℃の温風で7時間乾燥し粉末を得た。
【実施例3】
【0057】
[農薬]
1−グルコサミド−オレイン酸から形成された有機ナノチューブ(相転移温度70℃、融点154℃)1gと被乳化物クロロ−IPC(融点38〜40℃)5gを水94gに懸濁した。
この懸濁液を高圧乳化装置NANO3000((株)美粒)により、165℃、168MPaの条件下、1循環処理することにより、O/Wエマルションを得た。平均粒径を測定した結果は0.3μmであった。測定条件は実施例1と同様である。さらにこのO/Wエマルションを、電子顕微鏡を使用して写真撮影した結果を図3に示す。測定条件は実施例1と同様である。
【0058】
該エマルションをNo.5Cの濾紙(アドヴァンテック東洋(株))で吸引濾過して濾紙上にベシクル構造物を回収し、風乾1日後60℃の温風で7時間乾燥し粉末を得た。
【実施例4】
【0059】
[農薬(相転移温度処理)]
1−グルコサミド−オレイン酸から形成された有機ナノチューブ(相転移温度70℃、融点154℃)1gと被乳化物クロロ−IPC(融点38〜40℃)5gを水94gに懸濁した。
この懸濁液を高圧乳化装置NANO3000((株)美粒)により、70℃、0.01MPaの条件下、1循環処理することにより、O/Wエマルションを得た。平均粒径を測定した結果は3.0μmであった。測定条件は実施例1と同様である。
【0060】
該エマルションをNo.5Cの濾紙(アドヴァンテック東洋(株))で吸引濾過して濾紙上にベシクル構造物を回収し、風乾1日後60℃の温風で7時間乾燥し粉末を得た。
【実施例5】
【0061】
[剥離剤]
1−グルコサミド−オレイン酸(相転移温度70℃、融点154℃)1gと被乳化物ポリビニルオクタデシルカーバメート(融点87〜93℃)5gを水94gに懸濁した。
この懸濁液を高圧乳化装置NANO3000((株)美粒)により、165℃、168MPaの条件下、1循環処理することにより、O/Wエマルションを得た。平均粒径を測定した結果は1.0μmであった。測定条件は実施例1と同様である。さらにこのO/Wエマルションを、電子顕微鏡を使用して写真撮影した結果を図4に示す。測定条件は実施例1と同様である。
【0062】
該エマルションをNo.5Cの濾紙(アドヴァンテック東洋(株))で吸引濾過して濾紙上にベシクル構造物を回収し、風乾1日後60℃の温風で7時間乾燥し粉末を得た。
【実施例6】
【0063】
[トナー]
1−グルコサミド−オレイン酸(相転移温度70℃、融点154℃)1gと被乳化物トナー用ポリエステル樹脂(軟化点140℃)5gを水94gに懸濁した。
この懸濁液を高圧乳化装置NANO3000((株)美粒)により、168℃、168MPaの条件下、1循環処理することにより、O/Wエマルションを得た。平均粒径を測定した結果は5.0μmであった。測定条件は実施例1と同様である。
【0064】
該エマルションをNo.5Cの濾紙(アドヴァンテック東洋(株))で吸引濾過して濾紙上にベシクル構造物を回収し、風乾1日後60℃の温風で7時間乾燥し粉末を得た。
【実施例7】
【0065】
[農薬]
1−グルコサミド−オレイン酸(相転移温度70℃、融点154℃)1gと被乳化物クロロ−IPC(融点38〜40℃)5gを水94gに懸濁した。
この懸濁液を高圧乳化装置NANO3000((株)美粒)により、165℃、168MPaの条件下、1循環処理することにより、O/Wエマルションを得た。平均粒径を測定した結果は0.3μmであった。測定条件は実施例1と同様である。
【0066】
該エマルションをNo.5Cの濾紙(アドヴァンテック東洋(株))で吸引濾過して濾紙上にベシクル構造物を回収し、風乾1日後60℃の温風で7時間乾燥し粉末を得た。
【実施例8】
【0067】
[農薬(相転移温度処理)]
1−グルコサミド−オレイン酸(相転移温度70℃、融点154℃)1gと被乳化物クロロ−IPC(融点38〜40℃)5gを水94gに懸濁した。
この懸濁液を高圧乳化装置NANO3000((株)美粒)により、70℃、0.01MPaの条件下、1循環処理することにより、O/Wエマルションを得た。平均粒径を測定した結果は3.0μmであった。測定条件は実施例1と同様である。
【0068】
該エマルションをNo.5Cの濾紙(アドヴァンテック東洋(株))で吸引濾過して濾紙上にベシクル構造物を回収し、風乾1日後60℃の温風で7時間乾燥し粉末を得た。
【実施例9】
【0069】
[剥離剤]
1−グルコサミド−オレイン酸から形成された有機ナノチューブ(相転移温度70℃、融点154℃)と1−グルコサミド−オレイン酸の8:1の混合物1gと被乳化物ポリビニルオクタデシルカーバメート(融点87〜93℃)5gを水94gに懸濁した。
この懸濁液を高圧乳化装置NANO3000((株)美粒)により、165℃、168MPaの条件下、1循環処理することにより、O/Wエマルションを得た。平均粒径を測定した結果は1.0μmであった。測定条件は実施例1と同様である。
【0070】
該エマルションをNo.5Cの濾紙(アドヴァンテック東洋(株))で吸引濾過して濾紙上にベシクル構造物を回収し、風乾1日後60℃の温風で7時間乾燥し粉末を得た。
【実施例10】
【0071】
[トナー]
1−グルコサミド−オレイン酸から形成された有機ナノチューブ(相転移温度70℃、融点154℃)と1−グルコサミド−オレイン酸の8:1の混合物1gと被乳化物トナー用ポリエステル樹脂(軟化点140℃)5gを水94gに懸濁した。
この懸濁液を高圧乳化装置NANO3000((株)美粒)により、168℃、168MPaの条件下、1循環処理することにより、O/Wエマルションを得た。平均粒径を測定した結果は5.0μmであった。測定条件は実施例1と同様である。
【0072】
該エマルションをNo.5Cの濾紙(アドヴァンテック東洋(株))で吸引濾過して濾紙上にベシクル構造物を回収し、風乾1日後60℃の温風で7時間乾燥し粉末を得た。
【実施例11】
【0073】
[農薬]
1−グルコサミド−オレイン酸から形成された有機ナノチューブ(相転移温度70℃、融点154℃)と1−グルコサミド−オレイン酸の8:1の混合物1gと被乳化物クロロ−IPC(融点38〜40℃)5gを水94gに懸濁した。
この懸濁液を高圧乳化装置NANO3000((株)美粒)により、165℃、168MPaの条件下、1循環処理することにより、O/Wエマルションを得た。平均粒径を測定した結果は0.3μmであった。測定条件は実施例1と同様である。
【0074】
該エマルションをNo.5Cの濾紙(アドヴァンテック東洋(株))で吸引濾過して濾紙上にベシクル構造物を回収し、風乾1日後60℃の温風で7時間乾燥し粉末を得た。
【実施例12】
【0075】
[農薬(相転移温度処理)]
1−グルコサミド−オレイン酸から形成された有機ナノチューブ(相転移温度70℃、融点154℃)と1−グルコサミド−オレイン酸の8:1の混合物1gと被乳化物クロロ−IPC(融点38〜40℃)5gを水94gに懸濁した。
この懸濁液を高圧乳化装置NANO3000((株)美粒)により、70℃、0.01MPaの条件下、1循環処理することにより、O/Wエマルションを得た。平均粒径を測定した結果は3.0μmであった。測定条件は実施例1と同様である。
【0076】
該エマルションをNo.5Cの濾紙(アドヴァンテック東洋(株))で吸引濾過して濾紙上にベシクル構造物を回収し、風乾1日後60℃の温風で7時間乾燥し粉末を得た。
【実施例13】
【0077】
[剥離剤]
グリシルグリシン−ラウリン酸(MAM−1)(相転移温度49℃、融点162℃)1gと被乳化物ポリビニルオクタデシルカーバメート(融点87〜93℃)5g及びポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル0.1gを水93.9gに懸濁した。
この懸濁液を高圧乳化装置NANO3000((株)美粒)により、165℃、168MPaの条件下、1循環処理することにより、O/Wエマルションを得た。平均粒径を測定した結果は1.0μmであった。測定条件は実施例1と同様である。さらにこのO/Wエマルションを、電子顕微鏡を使用して写真撮影した結果を図5に示す。測定条件は実施例1と同様である。エマルションの生成効率は、1−グルコサミド−オレイン酸から形成された有機ナノチューブおよび/または非自己集合状態の1−グルコサミド−オレイン酸を使用した場合の生成効率より劣っていた。
【実施例14】
【0078】
[剥離剤]
グリシルグリシン−ミリスチン酸(MAM−2)(相転移温度60℃、融点159℃)1gと被乳化物ポリビニルオクタデシルカーバメート(融点87〜93℃)5g及びポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル0.1gを水93.9gに懸濁した。
この懸濁液を高圧乳化装置NANO3000((株)美粒)により、165℃、168MPaの条件下、1循環処理することにより、O/Wエマルションを得た。平均粒径を測定した結果は1.0μmであった。測定条件は実施例1と同様である。さらにこのO/Wエマルションを、電子顕微鏡を使用して写真撮影した結果を図6に示す。測定条件は実施例1と同様である。エマルションの生成効率は、1−グルコサミド−オレイン酸から形成された有機ナノチューブおよび/または非自己集合状態の1−グルコサミド−オレイン酸を使用した場合の生成効率より劣っていた。
【実施例15】
【0079】
[剥離剤]
2−グルコサミド−ラウリン酸(GAM−1)(融点208℃)1gと被乳化物ポリビニルオクタデシルカーバメート(融点87〜93℃)5g及びポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル0.1gを水93.9gに懸濁した。
この懸濁液を高圧乳化装置NANO3000((株)美粒)により、165℃、168MPaの条件下、1循環処理することにより、O/Wエマルションを得た。平均粒径を測定した結果は1.0μmであった。測定条件は実施例1と同様である。さらにこのO/Wエマルションを、電子顕微鏡を使用して写真撮影した結果を図7に示す。測定条件は実施例1と同様である。エマルションの生成効率は、MAM−1、MAM−2を使用した場合の生成効率よりは優れていたが、1−グルコサミド−オレイン酸から形成された有機ナノチューブおよび/または非自己集合状態の1−グルコサミド−オレイン酸を使用した場合の生成効率より劣っていた。
【実施例16】
【0080】
[剥離剤]
2−グルコサミド−ミリスチン酸(GAM−2)(融点198℃)1gと被乳化物ポリビニルオクタデシルカーバメート(融点87〜93℃)5g及びポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル0.1gを水93.9gに懸濁した。
この懸濁液を高圧乳化装置NANO3000((株)美粒)により、165℃、168MPaの条件下、1循環処理することにより、O/Wエマルションを得た。平均粒径を測定した結果は1.0μmであった。測定条件は実施例1と同様である。さらにこのO/Wエマルションを、電子顕微鏡を使用して写真撮影した結果を図8に示す。測定条件は実施例1と同様である。エマルションの生成効率は、MAM−1、MAM−2を使用した場合の生成効率よりは優れていたが、1−グルコサミド−オレイン酸から形成された有機ナノチューブおよび/または非自己集合状態の1−グルコサミド−オレイン酸を使用した場合の生成効率より劣っていた。
【実施例17】
【0081】
[剥離剤]
2−グルコサミドーオレイン酸(GAM−3) (融点159℃)1gと被乳化物ポリビニルオクタデシルカーバメート(融点87〜93℃)5g及びポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル0.1gを水93.9gに懸濁した。
この懸濁液を高圧乳化装置NANO3000((株)美粒)により、165℃、168MPaの条件下、1循環処理することにより、O/Wエマルションを得た。平均粒径を測定した結果は1.0μmであった。測定条件は実施例1と同様である。さらにこのO/Wエマルションを、電子顕微鏡を使用して写真撮影した結果を図9に示す。測定条件は実施例1と同様である。エマルションの生成効率は、MAM−1、MAM−2を使用した場合の生成効率よりは優れていたが、1−グルコサミド−オレイン酸から形成された有機ナノチューブおよび/または非自己集合状態の1−グルコサミド−オレイン酸を使用した場合の生成効率より劣っていた。
【実施例18】
【0082】
[剥離剤]
2−グルコサミド−ステアリン酸(GAM−4) (融点194℃)1gと被乳化物ポリビニルオクタデシルカーバメート(融点87〜93℃)5g及びポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル0.1gを水93.9gに懸濁した。
この懸濁液を高圧乳化装置NANO3000((株)美粒)により、165℃、168MPaの条件下、1循環処理することにより、O/Wエマルションを得た。平均粒径を測定した結果は1.0μmであった。測定条件は実施例1と同様である。さらにこのO/Wエマルションを、電子顕微鏡を使用して写真撮影した結果を図10に示す。測定条件は実施例1と同様である。エマルションの生成効率は、MAM−1、MAM−2を使用した場合の生成効率よりは優れていたが、1−グルコサミド−オレイン酸から形成された有機ナノチューブおよび/または非自己集合状態の1−グルコサミド−オレイン酸を使用した場合の生成効率より劣っていた。
【実施例19】
【0083】
[乾燥エマルションの再懸濁]
実施例4で得たクロロ−IPCの乾燥エマルション500mgを、水100mlに添加し、攪拌棒を用いて手動で攪拌分散させ、O/Wエマルションを得た。平均粒径を測定した結果は3.0μmであり、実施例4で乾燥粉末化前に測定した結果と同等であった。測定条件は実施例1と同様である。この結果から、クロロ−IPCの乾燥エマルションが容易に水に分散され、もとのO/Wエマルションに戻ることが示された。
【0084】
[比較例1]
[大豆油]
1−グルコサミド−オレイン酸から形成された有機ナノチューブ(相転移温度70℃、融点154℃)1gと被乳化物大豆油(室温で液状)1gを水98gに懸濁した。
この懸濁液を高圧乳化装置NANO3000((株)美粒)により、室温、168MPaの条件下、1循環処理を行なったが、ベシクル構造によるエマルションは得られず、大豆油の油滴の周囲に有機ナノチューブが付着している状態が観察された。ズームレンズVH−Z450((株)キーエンス)を装着したデジタルマイクロスコープVHX−100((株)キーエンス)を使用して写真撮影した結果を図11に示す。
【0085】
[比較例2]
[剥離剤]
ルノックス1000C(融点150℃)(東邦化学工業(株))1gと被乳化物ポリビニルオクタデシルカーバメート(融点87〜93℃)5gを水94gに懸濁した。
この懸濁液を高圧乳化装置NANO3000((株)美粒)により、165℃、168MPaの条件下、1循環処理したが、エマルションは得られなかった。電子顕微鏡を使用して写真撮影した結果を図12に示す。測定条件は実施例1と同様である。
【0086】
[比較例3]
[剥離剤]
ソルポール5115(融点150℃)(東邦化学工業(株))1gと被乳化物ポリビニルオクタデシルカーバメート(融点87〜93℃)5gを水94gに懸濁した。
この懸濁液を高圧乳化装置NANO3000((株)美粒)により、165℃、168MPaの条件下、1循環処理したが、エマルションは得られなかった。電子顕微鏡を使用して写真撮影した結果を図13に示す。測定条件は実施例1と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0087】
界面活性有機化合物を乳化剤として利用し、水中で、全く有機溶媒を使用せず、各種被乳化物をエマルション化することにより、また該エマルションを乾燥粉末化させることにより、被乳化物の性質に応じた各種の応用が可能である。例えば、医薬、化粧品、農薬、樹脂材料などの有効成分を水系エマルションとすることにより、人体安全性の向上および環境汚染の軽減を大幅に図ることができる。また、乾燥し粉末化することにより長期安定保存ならびに輸送コスト低減を達成することができる。さらに、該粉末が水への添加で再度エマルションになることから、被乳化物のエマルションをいつでも容易に調整することが出来る。こうした点から、加水分解し易い、大量の水が必要で重量が大きくなる等の理由で、今まで導入できなかった被乳化物を新たなステージへと展開することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】実施例1で得たO/WエマルションのSEM写真を示す図である。
【図2】実施例2で得たO/WエマルションのSEM写真を示す図である。
【図3】実施例3で得たO/WエマルションのSEM写真を示す図である。
【図4】実施例5で得たO/WエマルションのSEM写真を示す図である。
【図5】実施例13で得たO/WエマルションのSEM写真を示す図である。
【図6】実施例14で得たO/WエマルションのSEM写真を示す図である。
【図7】実施例15で得たO/WエマルションのSEM写真を示す図である。
【図8】実施例16で得たO/WエマルションのSEM写真を示す図である。
【図9】実施例17で得たO/WエマルションのSEM写真を示す図である。
【図10】実施例18で得たO/WエマルションのSEM写真を示す図である。
【図11】比較例1で得た、NANO3000で処理後の懸濁液のデジタルマイクロスコープ写真を示す図である。
【図12】比較例2で得た、NANO3000で処理後の懸濁液のSEM写真を示す図である。
【図13】比較例3で得た、NANO3000で処理後の懸濁液のSEM写真を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被乳化物と界面活性有機化合物を、水に予備分散させた後、該予備分散液を有機溶媒の非存在下で、前記被乳化物の融点以上であって、かつ前記界面活性有機化合物の自己集合体の相転移温度以上の温度に加温し、加圧下においてエマルション化することを特徴とするO/Wエマルションの製造方法。
【請求項2】
前記界面活性有機化合物を乳化剤として前記被乳化物のエマルション化に用いることを特徴とする請求項1に記載のO/Wエマルションの製造方法。
【請求項3】
前記界面活性有機化合物が、炭素数6〜50の炭化水素鎖を有しており、また糖鎖、ペプチド鎖および金属塩から選択される少なくとも1種の親水基を有しており、該炭化水素鎖と該親水基が直接に結合するか、またはアミド結合、アリーレン基もしくはアリーレンオキシ基を介して結合している界面活性有機化合物であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のO/Wエマルションの製造方法。
【請求項4】
前記界面活性有機化合物が1−グルコサミド−オレイン酸、グリシルグリシン−ラウリン酸、グリシルグリシン−ミリスチン酸、2−グルコサミド−ラウリン酸、2−グルコサミド−ミリスチン酸、2−グルコサミド−オレイン酸、および2−グルコサミド−ステアリン酸から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかの項に記載のO/Wエマルションの製造方法。
【請求項5】
前記界面活性有機化合物が1−グルコサミド−オレイン酸であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかの項に記載のO/Wエマルションの製造方法。
【請求項6】
前記界面活性有機化合物の自己集合体が、実態的に内孔径が5nm以上の有機ナノチューブからなることを特徴とする請求項5に記載のO/Wエマルションの製造方法。
【請求項7】
前記界面活性有機化合物が、該界面活性有機化合物の自己集合体と非自己集合体の混合物からなることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかの項に記載のO/Wエマルションの製造方法。
【請求項8】
前記界面活性有機化合物が、該界面活性有機化合物の自己集合体のみからなることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかの項に記載のO/Wエマルションの製造方法。
【請求項9】
前記界面活性有機化合物が、該界面活性有機化合物の非自己集合体のみからなることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかの項に記載のO/Wエマルションの製造方法。
【請求項10】
前記エマルション化が、0.01MPa以上、300MPa以下の加圧下で行われることを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれかの項に記載のO/Wエマルションの製造方法。
【請求項11】
前記予備分散を、大気圧下かつ常温下で行うことを特徴とする請求項1〜請求項10のいずれかの項に記載のO/Wエマルションの製造方法。
【請求項12】
前記被乳化物が、剥離剤、トナー剤、農薬、医薬品、化粧品、樹脂材料、または食品であることを特徴とする請求項1〜請求項11のいずれかの項に記載のO/Wエマルションの製造方法。
【請求項13】
請求項1に記載のO/Wエマルションを、乾燥させることにより粉末化することを特徴とする乾燥エマルションの製造方法。
【請求項14】
前記乾燥エマルションを水に分散させて、再度O/Wエマルションを生成させることを特徴とするO/Wエマルションの製造方法。
【請求項15】
被乳化物と界面活性有機化合物を、大気圧下かつ常温下で水に予備分散させた後、該予備分散液を有機溶媒の非存在下で、前記被乳化物の融点以上であって、かつ前記界面活性有機化合物の自己集合体の相転移温度以上の温度に加温し、加圧下においてエマルション化して製造されるO/Wエマルション。
【請求項16】
前記界面活性有機化合物を乳化剤として前記被乳化物のエマルション化に用いることを特徴とする請求項15に記載のO/Wエマルション。
【請求項17】
前記界面活性有機化合物が、炭素数6〜50の炭化水素鎖を有しており、また糖鎖、ペプチド鎖および金属塩から選択される少なくとも1種の親水基を有しており、該炭化水素鎖と該親水基が直接に結合するか、またはアミド結合、アリーレン基もしくはアリーレンオキシ基を介して結合している界面活性有機化合物であることを特徴とする請求項15または請求項16に記載のO/Wエマルション。
【請求項18】
前記界面活性有機化合物が1−グルコサミド−オレイン酸、グリシルグリシン−ラウリン酸、グリシルグリシン−ミリスチン酸、2−グルコサミド−ラウリン酸、2−グルコサミド−ミリスチン酸、2−グルコサミド−オレイン酸、および2−グルコサミド−ステアリン酸から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする請求項15〜請求項17のいずれかの項に記載のO/Wエマルション。
【請求項19】
前記界面活性有機化合物が1−グルコサミド−オレイン酸であることを特徴とする請求項15〜請求項18のいずれかの項に記載のO/Wエマルション。
【請求項20】
前記被乳化物が、剥離剤、トナー剤、農薬、医薬品、化粧品、樹脂材料、または食品であることを特徴とする請求項15〜請求項19のいずれかの項に記載のO/Wエマルション。
【請求項21】
請求項15に記載のO/Wエマルションを乾燥させることにより、粉末化して得られる乾燥エマルション。
【請求項22】
前記乾燥エマルションを水に分散させて、再度O/Wエマルションを生成させて得られるO/Wエマルション。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2009−195885(P2009−195885A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−43426(P2008−43426)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(000005315)保土谷化学工業株式会社 (107)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】