発電装置、携帯型電気機器および携帯型時計
【課題】発電効率に優れた発電装置10を提供する。
【解決手段】第1基板50と、第1基板50に対向配置された状態で第1基板50に対して相対回動する回動錘40と、第1基板50の内面に形成されたエレクトレット膜56と、回動錘40の内面に形成された電極44と、を備え、回動錘40は、渦巻きバネ30を介して支持され、第1基板50に対して往復周期回動する。
【解決手段】第1基板50と、第1基板50に対向配置された状態で第1基板50に対して相対回動する回動錘40と、第1基板50の内面に形成されたエレクトレット膜56と、回動錘40の内面に形成された電極44と、を備え、回動錘40は、渦巻きバネ30を介して支持され、第1基板50に対して往復周期回動する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電装置、携帯型電気機器および携帯型時計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エレクトレット材料による静電誘導を利用した発電装置が提案されている。
特許文献1には、複数のエレクトレット電極2を表面に有する不動基板1と、複数の可動電極5を表面に有する可動基板4と、が離れて配置された発電装置が提案されている。可動電極5及び可動基板4は、不動基板1上に設けられた固定構造体3a,3bにバネ駆動体6a,6bのような弾性部材を介して連結されている。外部から発電装置70に外部振動が加わったときに、可動基板4は移動し、エレクトレット電極2と可動電極5との重なり面積は初期面積から増加又は減少する。この重なり面積の変化によって、可動電極5に電荷の変化が生じる。発電装置70は、この電荷の変化を電気エネルギーとして取り出すことにより発電する。
【0003】
また特許文献2には、時計モジュール6に設けられた平板状の基板である地板15の平面上を回転する回転板17に、その回転中心部である軸孔17aから放射状に形成された放射状部24を備えた第1電極22と、電荷保持体であるエレクトレット膜25とを配置する一方で、この第1電極22の放射状部24と対向するように地板15上に、放射状に形成された放射状部27を備えた第2電極26を配置した発電装置が提案されている。これにより、回転板17の機械的な回転運動エネルギーを効率良く電気エネルギーに変換することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4229970号公報
【特許文献2】特開2010−279192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の発電装置では、限られたスペースの中で可動基板5が水平移動するため、不動基板1に対する可動基板5の移動距離が限定的となる。そのため、エレクトレット電極2と可動電極5との重なり面積の変化量が限定的となり、発電効率の向上に限界がある。
一方で、発電効率を向上させるには、発電装置を励振する外部振動として、環境振動を利用することが望ましい。ただし、環境振動は低周波振動が支配的であるため、可動基板4の共振周波数を小さくする必要がある。共振周波数を小さくするには、バネ駆動体6a,6bのバネ定数を小さくする必要がある。ところが、可動基板5と固定構造体3a,3bとの狭い隙間にバネ駆動体6a,6bが設けられているので、バネ駆動体6a,6bのバネ定数を小さくすることが困難である。そのため、外部振動として環境振動を効率よく利用することができず、発電効率の向上に限界がある。
【0006】
これに対して、特許文献2の発電装置では、環境振動に合わせて回転板17を回転させることができる。ところが、その回転量は環境振動の振幅に比例するため、エレクトレット膜25と第2電極26との重なり面積の変化量が限定的となり、発電効率の向上に限界がある。
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、発電効率に優れた発電装置、携帯型電気機器および携帯型時計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る発電装置は、基体と、前記基体に対向配置された状態で前記基体に対して相対回動する回動体と、前記基体および前記回動体のうち、一方の対向面に形成された電荷保持部材と、他方の対向面に形成された電極と、を備え、前記回動体は、弾性体を介して支持され、前記基体に対して往復周期回動することを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、回動体が回動するので、特許文献1発明のように可動基板が水平移動する場合に比べて、基体に対する回動体の移動距離が大きくなる。したがって、電荷保持部材と電極との重なり面積の変化量が大きくなり、発電量が増大する。したがって、発電効率を向上させることができる。
また、回動体が弾性体を介して支持されているので、回動体は共振し、基体に対して往復周期回動する。その共振周波数の外部振動が、本発明の発電装置に対して入力された場合の回動体の共振回動振幅は、特許文献2発明のように弾性体を持たない発電装置に対して入力された場合の回動体の回動振幅よりも、極めて大きくなる。回動体の回動振幅が大きくなることで、電荷保持部材と電極との重なり面積の変化量が大きくなり、発電量が増大する。したがって、発電効率を向上させることができる。
【0009】
また前記弾性体は、渦巻きバネであることが望ましい。
渦巻きバネは自由長が長いので、ねじりバネ定数が小さくなり、回動体の共振周波数を低くすることができる。これにより、外部振動として環境振動を効率よく利用することが可能になり、発電効率を向上させることができる。
【0010】
また前記渦巻きバネは、導電材料で形成され、前記回動体に形成された前記電荷保持部材または前記電極は、前記渦巻きバネを介して外部に電気的接続されることが望ましい。
この構成によれば、特許文献2発明のように回動体の回動軸とその軸受機構との間の摺動部を介して回動体の電極を外部に電気的接続する場合と比べて、電気的接続の安定性を確保することができる。
【0011】
また前記回動体の回動軸は、耐振軸受を介して支持されていることが望ましい。
回動体の慣性モーメントを確保するには相当の質量が必要であるため、回動体の回動軸には衝撃力が作用する可能性がある。この構成によれば、回動体の回動軸が耐振軸受を介して支持されているので、回動軸に作用する衝撃力を吸収して、回動軸の破損を防止することができる。
【0012】
また前記回動体は、前記基体に対向配置された扇板状の本体部と、前記本体部の周囲円弧部に設けられ、前記本体部より厚肉に形成された重錘と、を備えていてもよい。
この構成によれば、回動体は周囲円弧部に重錘を備えているので、慣性モーメントが大きくなり、回動体の共振周波数を低くすることができる。これにより、外部振動として環境振動を効率よく利用することが可能になり、発電効率を向上させることができる。
【0013】
また前記回動体は、前記基体に対向配置された円板状の本体部と、前記本体部の周囲の一部のみに設けられ、前記本体部より厚肉に形成された重錘と、を備えていてもよい。
この構成によれば、回動体は円板状の本体部を備えているので、電荷保持部材または電極の形成面積を広く確保することができる。これにより、回動体が回動したときに、電荷保持部材と電極との重なり面積の変化量が大きくなり、発電量が増大する。したがって、発電効率を向上させることができる。
加えて、回動体は周囲に重錘を備えているので、慣性モーメントが大きくなり、回動体の共振周波数を低くすることができる。これにより、外部振動として環境振動を効率よく利用することが可能になり、発電効率を向上させることができる。また、回動体は周囲の一部のみに重錘を備えているので、外部振動の入力により回動体にモーメントが作用し、回動体を回動させることができる。
【0014】
また前記回動体は、導電材料で形成され、対向面の一部のみに絶縁膜が形成されて、前記絶縁膜の非形成部が前記電極として機能するようにしてもよい。
この構成によれば、回動体そのものが電極として機能するので、別途電極を形成する必要がなく、製造コストを低減することができる。
【0015】
また、前記基体に形成された第1の前記電荷保持部材と、前記回動体に形成された第1の前記電極とが、対向配置されて形成された第1発電部と、前記基体に形成された第2の前記電極と、前記回動体に形成された第2の前記電荷保持部材とが、対向配置されて形成された第2発電部と、を備えていてもよい。
この構成によれば、基体の対向面および回動体の対向面の大部分を発電部として利用することができるので、発電効率を向上させることができる。
【0016】
一方、本発明に係る携帯型電気機器は、上述した発電装置を備えたことを特徴とする。
また、本発明に係る携帯型時計は、上述した発電装置を備えたことを特徴とする。
この構成によれば、発電効率に優れた発電装置を備えているので、電力供給の信頼性に優れた携帯型電気機器および携帯型時計を提供することができる。
携帯型電気機器および携帯型時計を携帯した人が歩行すると、歩行振動が発電装置に入力される。上述した発電装置では、回動体の共振周波数が低くなるので、歩行振動により回動体を共振回動させることができる。これにより、歩行振動を利用して効率的に発電することができるので、電力供給の信頼性に優れた携帯型電気機器および携帯型時計を提供することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る発電装置によれば、回動体が回動するので、特許文献1発明のように可動基板が水平移動する場合に比べて、基体に対する回動体の移動距離が大きくなる。したがって、電荷保持部材と電極との重なり面積の変化量が大きくなり、発電量が増大する。したがって、発電効率を向上させることができる。
また、回動体が弾性体を介して支持されているので、回動体は共振し、基体に対して往復周期回動する。その共振周波数の外部振動が、本発明の発電装置に対して入力された場合の回動体の共振回動振幅は、特許文献2発明のように弾性体を持たない発電装置に対して入力された場合の回動体の回動振幅よりも、極めて大きくなる。回動体の回動振幅が大きくなることで、電荷保持部材と電極との重なり面積の変化量が大きくなり、発電量が増大する。したがって、発電効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施形態に係る発電装置の分解斜視図である。
【図2】図1のA−A線における側面断面図である。
【図3】(a)は回動錘の底面図であり、(b)は第1基板の平面図である。
【図4】第1実施形態に係る発電装置の回路図であり、図2のB−B線における断面図である。
【図5】耐振軸受の側面断面図である。
【図6】第2実施形態に係る発電装置の説明図であり、図1のA−A線に相当する部分における側面断面図である。
【図7】回動錘の底面図である。
【図8】第3実施形態に係る発電装置の説明図であり、図1のA−A線に相当する部分における側面断面図である。
【図9】(a)は回動板の底面図であり、(b)は第1基板の平面図である。
【図10】第3実施形態に係る発電装置の回路図であり、図8のC−C線における断面図である。
【図11】クオーツ式腕時計のムーブメントの構造図である。
【図12】回動錘の中立位置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。本願では、対向配置された一対の部材(第1部材および第2部材)のうち、第1部材における第2部材側を「内側」と呼び、内側の面を「内面」または「対向面」と呼ぶ。また、第1部材における第2部材とは反対側を「外側」と呼び、外側の面を「外面」と呼ぶ。
【0020】
(第1実施形態)
図1は第1実施形態に係る発電装置の分解斜視図であり、図2は図1のA−A線における側面断面図である。図1に示すように、第1実施形態に係る発電装置10は、第1基板(基体)50と、第1基板50に対向配置された状態で第1基板50に対して相対回動する回動錘(回動体)40と、第1基板50の内面に形成されたエレクトレット膜(電荷保持部材)56と、回動錘40の内面に形成された電極44と、を備え、回動錘40は、渦巻きバネ(弾性体)30を介して支持され、第1基板50に対して往復周期回動するものである。
【0021】
第1基板50は、真鍮などの金属材料や、シリコンなどのセラミック材料、ガラスエポキシなどの樹脂材料等により形成することができる。本実施形態の第1基板50は、ガラスエポキシにより円板状に形成されている。
第2基板15は、第1基板50に対向配置されている。第2基板15も、第1基板と同様の材料により円板状に形成されている。
【0022】
図2に示すように、第1基板50と第2基板15との間には回動軸11が配置されている。本願では、回動軸11の軸方向を単に「軸方向」という。
回動軸11は、導電性を有する金属材料等により形成されている。回動軸11は、第1基板50および第2基板15の内面の中心を通る法線上に配置されている。回動軸11の軸方向の両端部には、軸方向の中央部より小径のホゾ12が形成されている。
【0023】
図2に示すように、回動軸11のホゾ12を回動可能に支持するため、第1基板50および第2基板15に軸受機構20が設けられている。以下、第2基板15の軸受機構20を例にして説明するが、第1基板50の軸受機構20も同様に形成されている。
軸受機構20は、ホゾ12の外周を覆うように配置された穴石22と、ホゾ12の軸方向端部を覆うように配置された受石24とを備えている。穴石22および受石24は、耐摩耗性に優れた絶縁材料であるルビーやダイヤモンドなどにより形成されている。穴石22の中央部には貫通孔が形成されている。穴石22および受石24は、第2基板15の外面中央部に形成された座繰り穴16に圧入されている。座繰り穴16の底面中央部にも貫通孔が形成されている。そして、第2基板15の内側から、第2基板15の貫通孔および穴石22の貫通孔にホゾ12が挿入され、ホゾ12が回転可能に支持されている。
【0024】
図5は、耐振軸受の側面断面図である。図2に示す軸受機構20に代えて、図5に示す耐振軸受120を採用することも可能である。
耐振軸受120は、ベースとなる軸受体115を備えている。後述するように軸受体115は回動軸121と当接する場合があるため、軸受体115を絶縁材料で形成するか、軸受体115の表面に絶縁膜を形成することが望ましい。軸受体115の座繰り穴には穴石122および受石124が順に挿入されている。穴石122および受石124は、座繰り穴の底部に形成されたテーパ面116上に配置されている。また穴石122および受石124は、ばね128により座繰り穴の底部側に向けて付勢されている。
【0025】
回動軸121に軸方向の衝撃力が作用すると、ばね128が撓んで回動軸121の変位を許容し、衝撃力を吸収する。なお回動軸121の過大な変位は、回動軸121の肩部121sと軸受体115との当接によって規制される。一方、回動軸121に軸直角方向の衝撃力が作用すると、穴石122がテーパ面116に沿って移動することで回動軸121の変位を許容し、衝撃力を吸収する。なお回動軸121の過大な変位は、回動軸121の首部121nと軸受体115の貫通孔との当接によって規制される。
【0026】
後述するように、回動軸121に固定される回動錘は、慣性モーメントを確保するため相当の質量を有している。そのため、回動軸には衝撃力が作用する可能性がある。これに対して、上述したように回動軸121が耐振軸受を介して支持されていれば、回動軸121に作用する衝撃力を吸収して、回動軸121の破損を防止することができる。
【0027】
図1に示すように、第1基板50に対向配置された状態で第1基板50に対して相対回動する回動錘40が設けられている。
回動錘40は、真鍮などの金属材料や、シリコンなどのセラミック材料、ガラスエポキシなどの樹脂材料等により形成することができる。本実施形態の回動錘40は、真鍮により扇板状に形成されている。回動錘40は、第1基板50に対向配置された扇板状の本体部42と、本体部42の周囲円弧部に設けられ本体部42より厚肉に形成された重錘48と、を備えている。本実施形態の本体部42および重錘48は一体形成されている。本体部42の中心部には貫通孔41(図2参照)が形成され、その貫通孔41に回動軸11が圧入されている。
【0028】
なお、本体部42および重錘48を別体形成し、締結部材や接着剤等を用いて接続してもよい。本体部42および重錘48を別体形成する場合には、本体部42より比重の大きい材料で重錘48を形成することが望ましい。例えば、本体部42を真鍮で形成し、重錘48をプラチナや金、タングステン等で形成する。これにより、回動錘40の大幅な重量増加を抑制しながら、回動錘40の慣性モーメントを増加させることができる。
【0029】
(エレクトレット膜)
図2に示すように、第1基板50の内面にエレクトレット膜56が設けられている。
エレクトレット膜56は、フッ素樹脂などの高分子材料やシリコン酸化物などの無機材料で形成されている。フッ素樹脂としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PFA(テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体)、ETFE(テトラフルオロエチレン/エチレン共重合体)、脂肪族環構造を有する含フッ素重合体等が挙げられる。脂肪族環構造を有する含フッ素重合体としては、特開2006−180450号公報に記載の重合体等が挙げられる。なお、脂肪族環構造を有する含フッ素重合体の市販品としては、CYTOP(登録商標、旭硝子社製)等が挙げられる。さらに、エレクトレット膜12としては、国際公開第2008/114489号公報、国際公開第2010/032759号公報に記載のエレクトレット等が挙げられる。エレクトレット膜56は、高電圧を印加しつつ冷却・固化させたり、コロナ放電により電子を打ち込んだりすることで、所定の電荷を半永久的に保持することができる。本実施形態では、コロナ放電により電子を打ち込むことで、エレクトレット膜56の表面に負電荷を保持させている。
【0030】
また本実施形態では、第1基板50が絶縁材料で形成されているため、第1基板50の内面全体に導電性の金属材料で集電材54が形成され、集電材54の内面にエレクトレット膜56が形成されている。なお、第1基板50の内面全体に導電材料が存在しなくても、少なくともエレクトレット膜56の下層に導電材料が存在し、なおかつ、全ての導電材料が連結されていれば、集電材54として機能する。また、第1基板50が導電材料で形成されている場合には、第1基板50自体を集電材として機能させることができる。
【0031】
図3(b)は、第1基板の平面図である。
エレクトレット膜56は、第1基板50の径方向に連続形成され、第1基板50の周方向に所定ピッチで間欠形成されて、放射状にパターニングされている。なお、第1基板50の中央貫通孔の周囲では、エレクトレット膜56が第1基板50の周方向に連続形成されている。このようなエレクトレット膜56のパターンが、円板状の第1基板50の周方向全体に形成されている。
【0032】
図2に示すように、回動錘40の内面に電極44が形成されている。
電極44は、扇板状の本体部42の内面に形成されているが、重錘48の内面まで延設されていてもよい。本実施形態では回動錘40が導電材料で形成され、回動錘40の内面の一部のみに絶縁膜46が形成されて、回動錘40の内面における絶縁膜46の非形成部が電極44として機能する。なお、回動錘40が絶縁材料で形成されている場合には、回動錘40の内面に導電材料で電極44を形成すればよい。本実施形態では、回動錘40そのものが電極44として機能するので、別途電極を形成する必要がなく、製造コストを低減することができる。
【0033】
図3(a)は、回動錘40の底面図である。
電極44は、絶縁膜46の非形成部に形成されている。絶縁膜46は、回動錘40の径方向に連続形成され、回動錘40の周方向に所定ピッチで間欠形成されて、放射状にパターニングされている。これに伴って、電極44は、回動錘40の径方向に連続形成され、回動錘40の周方向に所定ピッチで間欠形成されて、放射状にパターニングされている。このような電極44のパターンが、扇板状(半円板状)の回動錘40の周方向全体に形成されている。すなわち電極44は、エレクトレット膜56の半分程度の領域に形成されている。ただし、エレクトレット膜56および電極44は、回動錘40の周方向に同一ピッチで形成されている。
【0034】
図4は、第1実施形態に係る発電装置の回路図であり、図2のB−B線における断面図である。図4に示すように、発電装置10の回路90は、ブリッジ式整流回路92と、平滑回路94とを備えている。
ブリッジ式整流回路92は、4個のダイオードを備え、その入力側にはエレクトレット膜56の集電材54および電極44が接続されている。ブリッジ式整流回路92の出力側は、平滑コンデンサを備えた平滑回路94を介して、様々な電気機器1に接続される。
【0035】
エレクトレット膜56の内面には負電荷が保持されているので、対向配置された電極44の内面には、静電誘導により正電荷が引き寄せられる。第1基板50に対して回動錘40が相対回動すると、軸方向から見た場合におけるエレクトレット膜56と電極44との重なり面積(本願では、単に「重なり面積」という。)が増減し、これに伴って電極44の正電荷が増減する。静電誘導型の発電装置10では、この電荷の変化を電気エネルギーとして取り出すことにより発電を行う。すなわち、回路90を備えた発電装置10は直流電源として機能する。
【0036】
本実施形態では、回動錘40が回動するので、特許文献1発明のように可動基板が水平移動する場合に比べて、第1基板50に対する回動錘40の移動距離が大きくなる。したがって、エレクトレット膜56と電極44との重なり面積の変化量が大きくなり、発電量が増大する。したがって、発電効率を向上させることができる。
【0037】
(渦巻きバネ)
図1に示すように、回動錘40は、渦巻きバネ30を介して支持されている。
渦巻きバネ30は、細長い薄板を渦巻き状に湾曲させたバネ部32と、バネ部32の中心側の端部に接続された連結部材31と、バネ部32の外周側の端部に接続された固定部材38と、を備えている。バネ部32は、ステンレス、リン青銅、ニッケル合金、コバルト基合金などの金属材料や、シリコン等のセラミック材料、パリレン等の高分子材料等で形成することができる。本実施形態のバネ部32は、コバルト基合金で形成されている。連結部材31は、導電材料によりリング状に形成され、その中央孔に回動軸11が圧入されている。一方、固定部材38は、導電材料によりピン状に形成され、第2基板15の内面に形成された固定孔18に圧入されている。
【0038】
このように、回動軸11、連結部材31、バネ部32および固定部材38がすべて導電材料で形成されているので、これらの各部材を介して、回動錘40の電極44を外部に電気的接続することができる。この構成によれば、特許文献2発明のように回動体の回動軸とその軸受機構との間の摺動部を介して回動体の電極を外部に電気的接続する場合と比べて、電気的接続の安定性を確保することができる。
【0039】
渦巻きバネ30は、回動錘40の慣性モーメント(イナーシャモーメント)とともにバネ・マス系を構成するので、回動錘40は共振し、第1基板50に対して往復周期回動する。渦巻きバネ30は自由長が長いのでねじりバネ定数が小さくなり、回動錘40は周囲円弧部に重錘を備えているので慣性モーメントが大きくなるので、回動錘40の共振周波数を低くすることができる。これにより、外部振動として環境振動を効率よく利用することが可能になる。本実施形態では、回動錘40の共振周波数が、人の歩行に伴う振動の周波数(1〜2Hz)に一致するように、渦巻きバネ30のねじりバネ定数および/または回動錘40の慣性モーメントが調整されている。これにより、発電装置10を携帯した人が歩行すると、歩行振動が発電装置10に入力されて、回動錘40が共振回動する。
【0040】
共振周波数より低周波数の振動が、本実施形態の発電装置10に対して入力された場合の回動錘40の回動振幅は、特許文献2発明のように渦巻きバネ30を持たない発電装置に対して入力された場合の回動錘40の回動振幅と、ほぼ同程度になる。これに対して、共振周波数の振動が、本実施形態の発電装置10に対して入力された場合の回動錘40の共振回動振幅は、特許文献2発明のように渦巻きバネ30を持たない発電装置に対して入力された場合の回動錘40の回動振幅よりも、極めて大きくなる。回動錘40の回動振幅が大きくなることで、エレクトレット膜56と電極44との重なり面積の増減回数が多くなるので、発電装置10の発電量が増大する。したがって、発電効率を向上させることができる。
【0041】
なお、発電装置を用いて蓄電装置を充電する場合、蓄電装置の充電効率には周波数特性がある。特許文献2発明の発電装置は、様々な周波数の電気エネルギーを出力するので、蓄電装置を効率よく充電することが困難である。これに対して、本実施形態に係る発電装置10は、回動錘40の共振回動により所定周波数の電気エネルギーを出力するので、その所定周波数に合せて蓄電装置(充電効率の周波数特性)を設計すれば、蓄電装置を効率よく充電することができる。
【0042】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る発電装置について説明する。
図6は、第2実施形態に係る発電装置の説明図であり、図1のA−A線に相当する部分における側面断面図である。
図7は、第2実施形態に係る発電装置の回動錘の底面図である。
【0043】
第1実施形態に係る発電装置では、図3(a)に示すように回動錘40の本体部42が扇板状に形成されていたが、第2実施形態に係る発電装置では、図7に示すように回動錘240の本体部242が円板状に形成されている点で相違している。なお、第1実施形態と同様の構成となる部分については、その詳細な説明を省略する。
【0044】
図6に示すように、回動錘240は、第1基板50に対向配置された円板状の本体部242と、本体部242の周囲の一部のみに設けられ本体部242より厚肉に形成された重錘248と、を備えている。本体部242および重錘248は一体形成されているが、別体形成した後に締結部材や接着剤等を用いて接続してもよい。
【0045】
図7に示すように、円板状の本体部242の内面に電極244が形成されている。第2実施形態でも、回動錘240が導電材料で形成され、回動錘240の内面の一部のみに絶縁膜246が形成されて、回動錘240の内面における絶縁膜246の非形成部が電極244として機能する。
電極244は、回動錘240の径方向に連続形成され、回動錘240の周方向に所定ピッチで間欠形成されて、放射状にパターニングされている。このような電極244のパターンが、円板状の本体部242の周方向全体に形成されている。すなわち電極244は、エレクトレット膜56(図6参照)と同程度の領域に形成されている。
【0046】
図6に示すように、第2実施形態では円板状の本体部242を備えているので、扇板状の本体部を備えた第1実施形態と比べて、電極244の形成面積を広く確保することができる。これにより、回動錘240が第1基板50に対して相対回動したときに、エレクトレット膜56と電極244との重なり面積の変化量が大きくなり、発電量が増大する。したがって、発電効率を向上させることができる。
【0047】
図7に示すように、回動錘240は周囲に重錘248を備えているので、慣性モーメントが大きくなり、回動錘240の共振周波数を低くすることができる。これにより、外部振動として環境振動を効率よく利用することが可能になり、発電効率を向上させることができる。また、回動錘240は周囲の一部のみに重錘248を備えているので、外部振動の入力により回動錘240にモーメントが作用し、回動錘240を回動させることができる。
【0048】
(第3実施形態)
第3実施形態に係る発電装置について説明する。
図8は、第3実施形態に係る発電装置の説明図であり、図1のA−A線に相当する部分における側面断面図である。
図9(a)は回動板の底面図であり、図9(b)は第1基板の平面図である。
図10は、第3実施形態に係る発電装置の回路図であり、図8のC−C線における断面図である。
【0049】
第1実施形態に係る発電装置では、図2に示すように、回動錘(回動体)40が電極44として機能したが、第3実施形態に係る発電装置では、図8に示すように、回動錘に代えて錘体340および回動板(回動体)360を備え、回動板360に第1電極364が形成されている点で相違している。また第1実施形態に係る発電装置では、図4に示すように、第1基板50に形成されたエレクトレット膜56および回動錘40に形成された電極44のみで発電を行っていた。これに対して、第3実施形態に係る発電装置では、図10に示すように、第1基板350に形成された第1エレクトレット膜356と、回動板360に形成された第1電極364とが、対向配置されて形成された第1発電部371と、第1基板350に形成された第2電極354と、回動板360に形成された第2エレクトレット膜366とが、対向配置されて形成された第2発電部372と、を備える点で相違している。なお、第1実施形態と同様の構成となる部分については、その詳細な説明を省略する。
【0050】
図8に示すように、錘体340は、第1実施形態の回動錘と同様の材料により半円形状に形成されている。錘体340の内面には、電極および絶縁膜が形成されていない。
一方、錘体340と第1基板350との間に、第1基板350に対向配置された状態で第1基板350に対して相対回動する回動板360を備えている。
回動板360は、シリコンなどのセラミック材料や、ガラスエポキシなどの樹脂材料等により形成することができる。本実施形態の回動板360は、ガラスエポキシにより円板状に形成されている。回動板360の中心部には貫通孔361が形成され、その貫通孔361に回動軸11が圧入されている。
【0051】
図8に示すように、回動板360の内面には第1電極364が形成されている。第1電極364は、導電性の金属材料で形成されている。図9(a)に示すように、第1電極364は、回動板360の径方向に連続形成され、回動板360の周方向に所定ピッチで間欠形成されて、放射状にパターニングされている。なお、回動板360の中央貫通孔の周囲では、第1電極364が回動板360の周方向に連続形成されている。
【0052】
図8に示すように、第1基板350の内面には第1集電材355および第1エレクトレット膜356が形成されている。図9(b)に示すように、第1集電材355および第1エレクトレット膜356は、第1基板350の径方向に連続形成され、第1基板350の周方向に所定ピッチで間欠形成されて、放射状にパターニングされている。なお、第1基板350の中央貫通孔の周囲では、第1集電材355および第1エレクトレット膜356が第1基板350の周方向に連続形成されている。
【0053】
図8に示すように、第1基板350の内面には第2電極354が形成されている。第2電極354は、導電性の金属材料で形成されている。図9(b)に示すように、第2電極354は、第1基板350の径方向に連続形成され、第1基板350の周方向に所定ピッチで間欠形成されて、放射状にパターニングされている。上述した第1集電材355および第1エレクトレット膜356と、第2電極354とは、第1基板350の周方向に隙間352を置いて(電気的に絶縁された状態で)、交互に配置されている。なお、第1基板350の周縁部では、第2電極354が第1基板350の周方向に連続形成されている。
【0054】
図8に示すように、回動板360の内面には第2集電材365および第2エレクトレット膜366が形成されている。図9(a)に示すように、第2集電材365および第2エレクトレット膜366は、回動板360の径方向に連続形成され、回動板360の周方向に所定ピッチで間欠形成されて、放射状にパターニングされている。上述した第1電極364と、第2集電材365および第2エレクトレット膜366とは、回動板360の周方向に隙間362を置いて(電気的に絶縁された状態で)、交互に配置されている。なお、回動板360の周縁部では、第2集電材365および第2エレクトレット膜366が回動板360の周方向に連続形成されている。
【0055】
図10に示すように、第1基板350に形成された第1エレクトレット膜356と、回動板360に形成された第1電極364とが対向配置されて、第1発電部371が形成されている。また、第1基板350に形成された第2電極354と、回動板360に形成された第2エレクトレット膜366とが対向配置されて、第2発電部372が形成されている。第1基板350に対して回動板360が相対回動すると、第1エレクトレット膜356と第1電極364との重なり面積が増減する。これに伴って、第1電極364の正電荷が増減するので、第1発電部371から電気エネルギーを取り出すことができる。また、第1基板350に対して回動板360が相対回動すると、第2電極354と第2エレクトレット膜366との重なり面積も増減する。これに伴って、第2電極354の正電荷が増減するので、第2発電部372からも電気エネルギーを取り出すことができる。
【0056】
第3実施形態に係る発電装置によれば、第1基板350の内面および回動板360の内面の大部分を発電部として利用することができるので、発電効率を向上させることができる。
【0057】
(クオーツ式腕時計)
実施形態に係る発電装置を備えた携帯型電気機器および携帯型時計の一例として、クオーツ式腕時計について説明する。
図11は、クオーツ式腕時計のムーブメントの内部構造図である。クオーツ式腕時計1は、実施形態に係る発電装置10と、水晶振動子2と、回路基板3と、コイル4と、ステータ5と、ロータ6と、歯車8とを備えている。そのうち回路基板3は、発振回路と、分周回路と、駆動回路とを備えている。
【0058】
発電装置10から水晶振動子2に電圧が印加されると、圧電効果により水晶振動子2は所定周波数の電気信号を出力する。この電気信号が回路基板3に入力されると、発振回路は所定周波数で安定して発振する。分周回路は、発振回路の出力信号をカウントして所定時間ごとにパルス信号を出力する。駆動回路は、パルス信号をトリガーとしてコイル4の駆動電流を交互に反転させる。この駆動電流によりコイル4は磁界を発生させ、ステータ5の両端からロータ6に磁界を印加して、永久磁石を備えたロータ6を回転させる。このロータ6の回転により歯車8が回転して、クオーツ式腕時計1が駆動される。
【0059】
この構成によれば、発電効率に優れた発電装置10を備えているので、電力供給の信頼性に優れたクオーツ式腕時計1を提供することができる。
すなわち、クオーツ式腕時計1を装着した人が歩行すると、歩行振動が発電装置10に入力される。実施形態に係る発電装置10では、回動錘の共振周波数が低くなるので、歩行振動により回動錘を共振回動させることができる。これにより、歩行振動を利用して効率的に発電することができるので、電力供給の信頼性に優れたクオーツ式腕時計1を提供することができる。なお、実施形態に係る発電装置10を従来のボタン電池と併用すれば、ボタン電池を長持ちさせることができる。
【0060】
図12は、回動錘の中立位置の説明図である。なお図12では、わかりやすくするため回動錘40の大きさおよび配置を誇張している。
歩行者80は前方および後方に腕81を振りながら歩行するが、一般に前方への振り上げ角度は後方への振り上げ角度より大きくなる。腕時計1を装着した歩行者80の腕81が、上述した前後の振り上げ角度範囲の中間点81mにあるとき、回動錘40の重心が回動軸の鉛直下方となる回動錘40の位置を、回動錘40の中立位置に設定する。回動錘40の中立位置とは、渦巻きバネからの復元力が作用していない状態における回動錘40の位置である。腕時計1を左腕に装着する場合、中立位置にある回動錘40の重心は、回動軸から見て2時付近の方向(3時方向から反時計回りに角度θの方向)に配置される。
【0061】
歩行者80は、中間点81mから前後に同じ角度だけ腕を振り上げて歩行するので、回動錘40は、中立位置から渦巻きバネが巻き上がる方向およびほどける方向に同じ角度だけ回動する。これにより、回動錘40の回動振幅が大きくなり、エレクトレット膜と電極との重なり面積の変化量も大きくなる。したがって、発電効率を向上させることができる。
【0062】
なお、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、実施形態で挙げた具体的な材料や層構成などはほんの一例に過ぎず、適宜変更が可能である。
例えば、実施形態におけるエレクトレット膜および電極は放射状にパターニングされていたが、基体に対して回動体が相対回動したときに重なり面積が増減するのであれば、他の形状にパターニングされていてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1…クオーツ式腕時計(携帯型電気機器、携帯型時計) 10,210,310…発電装置 11…回動軸 30…渦巻きバネ(弾性体) 40…回動錘(回動体) 42,242…本体部 44,244…電極 46,246…絶縁膜 48,248…重錘 50,350…第1基板(基体) 56…エレクトレット膜(電荷保持部材) 120…耐振軸受 360…回動板(回動体) 354…第2電極 356…第1エレクトレット膜 364…第1電極 366…第2エレクトレット膜 371…第1発電部 372…第2発電部
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電装置、携帯型電気機器および携帯型時計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エレクトレット材料による静電誘導を利用した発電装置が提案されている。
特許文献1には、複数のエレクトレット電極2を表面に有する不動基板1と、複数の可動電極5を表面に有する可動基板4と、が離れて配置された発電装置が提案されている。可動電極5及び可動基板4は、不動基板1上に設けられた固定構造体3a,3bにバネ駆動体6a,6bのような弾性部材を介して連結されている。外部から発電装置70に外部振動が加わったときに、可動基板4は移動し、エレクトレット電極2と可動電極5との重なり面積は初期面積から増加又は減少する。この重なり面積の変化によって、可動電極5に電荷の変化が生じる。発電装置70は、この電荷の変化を電気エネルギーとして取り出すことにより発電する。
【0003】
また特許文献2には、時計モジュール6に設けられた平板状の基板である地板15の平面上を回転する回転板17に、その回転中心部である軸孔17aから放射状に形成された放射状部24を備えた第1電極22と、電荷保持体であるエレクトレット膜25とを配置する一方で、この第1電極22の放射状部24と対向するように地板15上に、放射状に形成された放射状部27を備えた第2電極26を配置した発電装置が提案されている。これにより、回転板17の機械的な回転運動エネルギーを効率良く電気エネルギーに変換することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4229970号公報
【特許文献2】特開2010−279192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の発電装置では、限られたスペースの中で可動基板5が水平移動するため、不動基板1に対する可動基板5の移動距離が限定的となる。そのため、エレクトレット電極2と可動電極5との重なり面積の変化量が限定的となり、発電効率の向上に限界がある。
一方で、発電効率を向上させるには、発電装置を励振する外部振動として、環境振動を利用することが望ましい。ただし、環境振動は低周波振動が支配的であるため、可動基板4の共振周波数を小さくする必要がある。共振周波数を小さくするには、バネ駆動体6a,6bのバネ定数を小さくする必要がある。ところが、可動基板5と固定構造体3a,3bとの狭い隙間にバネ駆動体6a,6bが設けられているので、バネ駆動体6a,6bのバネ定数を小さくすることが困難である。そのため、外部振動として環境振動を効率よく利用することができず、発電効率の向上に限界がある。
【0006】
これに対して、特許文献2の発電装置では、環境振動に合わせて回転板17を回転させることができる。ところが、その回転量は環境振動の振幅に比例するため、エレクトレット膜25と第2電極26との重なり面積の変化量が限定的となり、発電効率の向上に限界がある。
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、発電効率に優れた発電装置、携帯型電気機器および携帯型時計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る発電装置は、基体と、前記基体に対向配置された状態で前記基体に対して相対回動する回動体と、前記基体および前記回動体のうち、一方の対向面に形成された電荷保持部材と、他方の対向面に形成された電極と、を備え、前記回動体は、弾性体を介して支持され、前記基体に対して往復周期回動することを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、回動体が回動するので、特許文献1発明のように可動基板が水平移動する場合に比べて、基体に対する回動体の移動距離が大きくなる。したがって、電荷保持部材と電極との重なり面積の変化量が大きくなり、発電量が増大する。したがって、発電効率を向上させることができる。
また、回動体が弾性体を介して支持されているので、回動体は共振し、基体に対して往復周期回動する。その共振周波数の外部振動が、本発明の発電装置に対して入力された場合の回動体の共振回動振幅は、特許文献2発明のように弾性体を持たない発電装置に対して入力された場合の回動体の回動振幅よりも、極めて大きくなる。回動体の回動振幅が大きくなることで、電荷保持部材と電極との重なり面積の変化量が大きくなり、発電量が増大する。したがって、発電効率を向上させることができる。
【0009】
また前記弾性体は、渦巻きバネであることが望ましい。
渦巻きバネは自由長が長いので、ねじりバネ定数が小さくなり、回動体の共振周波数を低くすることができる。これにより、外部振動として環境振動を効率よく利用することが可能になり、発電効率を向上させることができる。
【0010】
また前記渦巻きバネは、導電材料で形成され、前記回動体に形成された前記電荷保持部材または前記電極は、前記渦巻きバネを介して外部に電気的接続されることが望ましい。
この構成によれば、特許文献2発明のように回動体の回動軸とその軸受機構との間の摺動部を介して回動体の電極を外部に電気的接続する場合と比べて、電気的接続の安定性を確保することができる。
【0011】
また前記回動体の回動軸は、耐振軸受を介して支持されていることが望ましい。
回動体の慣性モーメントを確保するには相当の質量が必要であるため、回動体の回動軸には衝撃力が作用する可能性がある。この構成によれば、回動体の回動軸が耐振軸受を介して支持されているので、回動軸に作用する衝撃力を吸収して、回動軸の破損を防止することができる。
【0012】
また前記回動体は、前記基体に対向配置された扇板状の本体部と、前記本体部の周囲円弧部に設けられ、前記本体部より厚肉に形成された重錘と、を備えていてもよい。
この構成によれば、回動体は周囲円弧部に重錘を備えているので、慣性モーメントが大きくなり、回動体の共振周波数を低くすることができる。これにより、外部振動として環境振動を効率よく利用することが可能になり、発電効率を向上させることができる。
【0013】
また前記回動体は、前記基体に対向配置された円板状の本体部と、前記本体部の周囲の一部のみに設けられ、前記本体部より厚肉に形成された重錘と、を備えていてもよい。
この構成によれば、回動体は円板状の本体部を備えているので、電荷保持部材または電極の形成面積を広く確保することができる。これにより、回動体が回動したときに、電荷保持部材と電極との重なり面積の変化量が大きくなり、発電量が増大する。したがって、発電効率を向上させることができる。
加えて、回動体は周囲に重錘を備えているので、慣性モーメントが大きくなり、回動体の共振周波数を低くすることができる。これにより、外部振動として環境振動を効率よく利用することが可能になり、発電効率を向上させることができる。また、回動体は周囲の一部のみに重錘を備えているので、外部振動の入力により回動体にモーメントが作用し、回動体を回動させることができる。
【0014】
また前記回動体は、導電材料で形成され、対向面の一部のみに絶縁膜が形成されて、前記絶縁膜の非形成部が前記電極として機能するようにしてもよい。
この構成によれば、回動体そのものが電極として機能するので、別途電極を形成する必要がなく、製造コストを低減することができる。
【0015】
また、前記基体に形成された第1の前記電荷保持部材と、前記回動体に形成された第1の前記電極とが、対向配置されて形成された第1発電部と、前記基体に形成された第2の前記電極と、前記回動体に形成された第2の前記電荷保持部材とが、対向配置されて形成された第2発電部と、を備えていてもよい。
この構成によれば、基体の対向面および回動体の対向面の大部分を発電部として利用することができるので、発電効率を向上させることができる。
【0016】
一方、本発明に係る携帯型電気機器は、上述した発電装置を備えたことを特徴とする。
また、本発明に係る携帯型時計は、上述した発電装置を備えたことを特徴とする。
この構成によれば、発電効率に優れた発電装置を備えているので、電力供給の信頼性に優れた携帯型電気機器および携帯型時計を提供することができる。
携帯型電気機器および携帯型時計を携帯した人が歩行すると、歩行振動が発電装置に入力される。上述した発電装置では、回動体の共振周波数が低くなるので、歩行振動により回動体を共振回動させることができる。これにより、歩行振動を利用して効率的に発電することができるので、電力供給の信頼性に優れた携帯型電気機器および携帯型時計を提供することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る発電装置によれば、回動体が回動するので、特許文献1発明のように可動基板が水平移動する場合に比べて、基体に対する回動体の移動距離が大きくなる。したがって、電荷保持部材と電極との重なり面積の変化量が大きくなり、発電量が増大する。したがって、発電効率を向上させることができる。
また、回動体が弾性体を介して支持されているので、回動体は共振し、基体に対して往復周期回動する。その共振周波数の外部振動が、本発明の発電装置に対して入力された場合の回動体の共振回動振幅は、特許文献2発明のように弾性体を持たない発電装置に対して入力された場合の回動体の回動振幅よりも、極めて大きくなる。回動体の回動振幅が大きくなることで、電荷保持部材と電極との重なり面積の変化量が大きくなり、発電量が増大する。したがって、発電効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施形態に係る発電装置の分解斜視図である。
【図2】図1のA−A線における側面断面図である。
【図3】(a)は回動錘の底面図であり、(b)は第1基板の平面図である。
【図4】第1実施形態に係る発電装置の回路図であり、図2のB−B線における断面図である。
【図5】耐振軸受の側面断面図である。
【図6】第2実施形態に係る発電装置の説明図であり、図1のA−A線に相当する部分における側面断面図である。
【図7】回動錘の底面図である。
【図8】第3実施形態に係る発電装置の説明図であり、図1のA−A線に相当する部分における側面断面図である。
【図9】(a)は回動板の底面図であり、(b)は第1基板の平面図である。
【図10】第3実施形態に係る発電装置の回路図であり、図8のC−C線における断面図である。
【図11】クオーツ式腕時計のムーブメントの構造図である。
【図12】回動錘の中立位置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。本願では、対向配置された一対の部材(第1部材および第2部材)のうち、第1部材における第2部材側を「内側」と呼び、内側の面を「内面」または「対向面」と呼ぶ。また、第1部材における第2部材とは反対側を「外側」と呼び、外側の面を「外面」と呼ぶ。
【0020】
(第1実施形態)
図1は第1実施形態に係る発電装置の分解斜視図であり、図2は図1のA−A線における側面断面図である。図1に示すように、第1実施形態に係る発電装置10は、第1基板(基体)50と、第1基板50に対向配置された状態で第1基板50に対して相対回動する回動錘(回動体)40と、第1基板50の内面に形成されたエレクトレット膜(電荷保持部材)56と、回動錘40の内面に形成された電極44と、を備え、回動錘40は、渦巻きバネ(弾性体)30を介して支持され、第1基板50に対して往復周期回動するものである。
【0021】
第1基板50は、真鍮などの金属材料や、シリコンなどのセラミック材料、ガラスエポキシなどの樹脂材料等により形成することができる。本実施形態の第1基板50は、ガラスエポキシにより円板状に形成されている。
第2基板15は、第1基板50に対向配置されている。第2基板15も、第1基板と同様の材料により円板状に形成されている。
【0022】
図2に示すように、第1基板50と第2基板15との間には回動軸11が配置されている。本願では、回動軸11の軸方向を単に「軸方向」という。
回動軸11は、導電性を有する金属材料等により形成されている。回動軸11は、第1基板50および第2基板15の内面の中心を通る法線上に配置されている。回動軸11の軸方向の両端部には、軸方向の中央部より小径のホゾ12が形成されている。
【0023】
図2に示すように、回動軸11のホゾ12を回動可能に支持するため、第1基板50および第2基板15に軸受機構20が設けられている。以下、第2基板15の軸受機構20を例にして説明するが、第1基板50の軸受機構20も同様に形成されている。
軸受機構20は、ホゾ12の外周を覆うように配置された穴石22と、ホゾ12の軸方向端部を覆うように配置された受石24とを備えている。穴石22および受石24は、耐摩耗性に優れた絶縁材料であるルビーやダイヤモンドなどにより形成されている。穴石22の中央部には貫通孔が形成されている。穴石22および受石24は、第2基板15の外面中央部に形成された座繰り穴16に圧入されている。座繰り穴16の底面中央部にも貫通孔が形成されている。そして、第2基板15の内側から、第2基板15の貫通孔および穴石22の貫通孔にホゾ12が挿入され、ホゾ12が回転可能に支持されている。
【0024】
図5は、耐振軸受の側面断面図である。図2に示す軸受機構20に代えて、図5に示す耐振軸受120を採用することも可能である。
耐振軸受120は、ベースとなる軸受体115を備えている。後述するように軸受体115は回動軸121と当接する場合があるため、軸受体115を絶縁材料で形成するか、軸受体115の表面に絶縁膜を形成することが望ましい。軸受体115の座繰り穴には穴石122および受石124が順に挿入されている。穴石122および受石124は、座繰り穴の底部に形成されたテーパ面116上に配置されている。また穴石122および受石124は、ばね128により座繰り穴の底部側に向けて付勢されている。
【0025】
回動軸121に軸方向の衝撃力が作用すると、ばね128が撓んで回動軸121の変位を許容し、衝撃力を吸収する。なお回動軸121の過大な変位は、回動軸121の肩部121sと軸受体115との当接によって規制される。一方、回動軸121に軸直角方向の衝撃力が作用すると、穴石122がテーパ面116に沿って移動することで回動軸121の変位を許容し、衝撃力を吸収する。なお回動軸121の過大な変位は、回動軸121の首部121nと軸受体115の貫通孔との当接によって規制される。
【0026】
後述するように、回動軸121に固定される回動錘は、慣性モーメントを確保するため相当の質量を有している。そのため、回動軸には衝撃力が作用する可能性がある。これに対して、上述したように回動軸121が耐振軸受を介して支持されていれば、回動軸121に作用する衝撃力を吸収して、回動軸121の破損を防止することができる。
【0027】
図1に示すように、第1基板50に対向配置された状態で第1基板50に対して相対回動する回動錘40が設けられている。
回動錘40は、真鍮などの金属材料や、シリコンなどのセラミック材料、ガラスエポキシなどの樹脂材料等により形成することができる。本実施形態の回動錘40は、真鍮により扇板状に形成されている。回動錘40は、第1基板50に対向配置された扇板状の本体部42と、本体部42の周囲円弧部に設けられ本体部42より厚肉に形成された重錘48と、を備えている。本実施形態の本体部42および重錘48は一体形成されている。本体部42の中心部には貫通孔41(図2参照)が形成され、その貫通孔41に回動軸11が圧入されている。
【0028】
なお、本体部42および重錘48を別体形成し、締結部材や接着剤等を用いて接続してもよい。本体部42および重錘48を別体形成する場合には、本体部42より比重の大きい材料で重錘48を形成することが望ましい。例えば、本体部42を真鍮で形成し、重錘48をプラチナや金、タングステン等で形成する。これにより、回動錘40の大幅な重量増加を抑制しながら、回動錘40の慣性モーメントを増加させることができる。
【0029】
(エレクトレット膜)
図2に示すように、第1基板50の内面にエレクトレット膜56が設けられている。
エレクトレット膜56は、フッ素樹脂などの高分子材料やシリコン酸化物などの無機材料で形成されている。フッ素樹脂としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PFA(テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体)、ETFE(テトラフルオロエチレン/エチレン共重合体)、脂肪族環構造を有する含フッ素重合体等が挙げられる。脂肪族環構造を有する含フッ素重合体としては、特開2006−180450号公報に記載の重合体等が挙げられる。なお、脂肪族環構造を有する含フッ素重合体の市販品としては、CYTOP(登録商標、旭硝子社製)等が挙げられる。さらに、エレクトレット膜12としては、国際公開第2008/114489号公報、国際公開第2010/032759号公報に記載のエレクトレット等が挙げられる。エレクトレット膜56は、高電圧を印加しつつ冷却・固化させたり、コロナ放電により電子を打ち込んだりすることで、所定の電荷を半永久的に保持することができる。本実施形態では、コロナ放電により電子を打ち込むことで、エレクトレット膜56の表面に負電荷を保持させている。
【0030】
また本実施形態では、第1基板50が絶縁材料で形成されているため、第1基板50の内面全体に導電性の金属材料で集電材54が形成され、集電材54の内面にエレクトレット膜56が形成されている。なお、第1基板50の内面全体に導電材料が存在しなくても、少なくともエレクトレット膜56の下層に導電材料が存在し、なおかつ、全ての導電材料が連結されていれば、集電材54として機能する。また、第1基板50が導電材料で形成されている場合には、第1基板50自体を集電材として機能させることができる。
【0031】
図3(b)は、第1基板の平面図である。
エレクトレット膜56は、第1基板50の径方向に連続形成され、第1基板50の周方向に所定ピッチで間欠形成されて、放射状にパターニングされている。なお、第1基板50の中央貫通孔の周囲では、エレクトレット膜56が第1基板50の周方向に連続形成されている。このようなエレクトレット膜56のパターンが、円板状の第1基板50の周方向全体に形成されている。
【0032】
図2に示すように、回動錘40の内面に電極44が形成されている。
電極44は、扇板状の本体部42の内面に形成されているが、重錘48の内面まで延設されていてもよい。本実施形態では回動錘40が導電材料で形成され、回動錘40の内面の一部のみに絶縁膜46が形成されて、回動錘40の内面における絶縁膜46の非形成部が電極44として機能する。なお、回動錘40が絶縁材料で形成されている場合には、回動錘40の内面に導電材料で電極44を形成すればよい。本実施形態では、回動錘40そのものが電極44として機能するので、別途電極を形成する必要がなく、製造コストを低減することができる。
【0033】
図3(a)は、回動錘40の底面図である。
電極44は、絶縁膜46の非形成部に形成されている。絶縁膜46は、回動錘40の径方向に連続形成され、回動錘40の周方向に所定ピッチで間欠形成されて、放射状にパターニングされている。これに伴って、電極44は、回動錘40の径方向に連続形成され、回動錘40の周方向に所定ピッチで間欠形成されて、放射状にパターニングされている。このような電極44のパターンが、扇板状(半円板状)の回動錘40の周方向全体に形成されている。すなわち電極44は、エレクトレット膜56の半分程度の領域に形成されている。ただし、エレクトレット膜56および電極44は、回動錘40の周方向に同一ピッチで形成されている。
【0034】
図4は、第1実施形態に係る発電装置の回路図であり、図2のB−B線における断面図である。図4に示すように、発電装置10の回路90は、ブリッジ式整流回路92と、平滑回路94とを備えている。
ブリッジ式整流回路92は、4個のダイオードを備え、その入力側にはエレクトレット膜56の集電材54および電極44が接続されている。ブリッジ式整流回路92の出力側は、平滑コンデンサを備えた平滑回路94を介して、様々な電気機器1に接続される。
【0035】
エレクトレット膜56の内面には負電荷が保持されているので、対向配置された電極44の内面には、静電誘導により正電荷が引き寄せられる。第1基板50に対して回動錘40が相対回動すると、軸方向から見た場合におけるエレクトレット膜56と電極44との重なり面積(本願では、単に「重なり面積」という。)が増減し、これに伴って電極44の正電荷が増減する。静電誘導型の発電装置10では、この電荷の変化を電気エネルギーとして取り出すことにより発電を行う。すなわち、回路90を備えた発電装置10は直流電源として機能する。
【0036】
本実施形態では、回動錘40が回動するので、特許文献1発明のように可動基板が水平移動する場合に比べて、第1基板50に対する回動錘40の移動距離が大きくなる。したがって、エレクトレット膜56と電極44との重なり面積の変化量が大きくなり、発電量が増大する。したがって、発電効率を向上させることができる。
【0037】
(渦巻きバネ)
図1に示すように、回動錘40は、渦巻きバネ30を介して支持されている。
渦巻きバネ30は、細長い薄板を渦巻き状に湾曲させたバネ部32と、バネ部32の中心側の端部に接続された連結部材31と、バネ部32の外周側の端部に接続された固定部材38と、を備えている。バネ部32は、ステンレス、リン青銅、ニッケル合金、コバルト基合金などの金属材料や、シリコン等のセラミック材料、パリレン等の高分子材料等で形成することができる。本実施形態のバネ部32は、コバルト基合金で形成されている。連結部材31は、導電材料によりリング状に形成され、その中央孔に回動軸11が圧入されている。一方、固定部材38は、導電材料によりピン状に形成され、第2基板15の内面に形成された固定孔18に圧入されている。
【0038】
このように、回動軸11、連結部材31、バネ部32および固定部材38がすべて導電材料で形成されているので、これらの各部材を介して、回動錘40の電極44を外部に電気的接続することができる。この構成によれば、特許文献2発明のように回動体の回動軸とその軸受機構との間の摺動部を介して回動体の電極を外部に電気的接続する場合と比べて、電気的接続の安定性を確保することができる。
【0039】
渦巻きバネ30は、回動錘40の慣性モーメント(イナーシャモーメント)とともにバネ・マス系を構成するので、回動錘40は共振し、第1基板50に対して往復周期回動する。渦巻きバネ30は自由長が長いのでねじりバネ定数が小さくなり、回動錘40は周囲円弧部に重錘を備えているので慣性モーメントが大きくなるので、回動錘40の共振周波数を低くすることができる。これにより、外部振動として環境振動を効率よく利用することが可能になる。本実施形態では、回動錘40の共振周波数が、人の歩行に伴う振動の周波数(1〜2Hz)に一致するように、渦巻きバネ30のねじりバネ定数および/または回動錘40の慣性モーメントが調整されている。これにより、発電装置10を携帯した人が歩行すると、歩行振動が発電装置10に入力されて、回動錘40が共振回動する。
【0040】
共振周波数より低周波数の振動が、本実施形態の発電装置10に対して入力された場合の回動錘40の回動振幅は、特許文献2発明のように渦巻きバネ30を持たない発電装置に対して入力された場合の回動錘40の回動振幅と、ほぼ同程度になる。これに対して、共振周波数の振動が、本実施形態の発電装置10に対して入力された場合の回動錘40の共振回動振幅は、特許文献2発明のように渦巻きバネ30を持たない発電装置に対して入力された場合の回動錘40の回動振幅よりも、極めて大きくなる。回動錘40の回動振幅が大きくなることで、エレクトレット膜56と電極44との重なり面積の増減回数が多くなるので、発電装置10の発電量が増大する。したがって、発電効率を向上させることができる。
【0041】
なお、発電装置を用いて蓄電装置を充電する場合、蓄電装置の充電効率には周波数特性がある。特許文献2発明の発電装置は、様々な周波数の電気エネルギーを出力するので、蓄電装置を効率よく充電することが困難である。これに対して、本実施形態に係る発電装置10は、回動錘40の共振回動により所定周波数の電気エネルギーを出力するので、その所定周波数に合せて蓄電装置(充電効率の周波数特性)を設計すれば、蓄電装置を効率よく充電することができる。
【0042】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る発電装置について説明する。
図6は、第2実施形態に係る発電装置の説明図であり、図1のA−A線に相当する部分における側面断面図である。
図7は、第2実施形態に係る発電装置の回動錘の底面図である。
【0043】
第1実施形態に係る発電装置では、図3(a)に示すように回動錘40の本体部42が扇板状に形成されていたが、第2実施形態に係る発電装置では、図7に示すように回動錘240の本体部242が円板状に形成されている点で相違している。なお、第1実施形態と同様の構成となる部分については、その詳細な説明を省略する。
【0044】
図6に示すように、回動錘240は、第1基板50に対向配置された円板状の本体部242と、本体部242の周囲の一部のみに設けられ本体部242より厚肉に形成された重錘248と、を備えている。本体部242および重錘248は一体形成されているが、別体形成した後に締結部材や接着剤等を用いて接続してもよい。
【0045】
図7に示すように、円板状の本体部242の内面に電極244が形成されている。第2実施形態でも、回動錘240が導電材料で形成され、回動錘240の内面の一部のみに絶縁膜246が形成されて、回動錘240の内面における絶縁膜246の非形成部が電極244として機能する。
電極244は、回動錘240の径方向に連続形成され、回動錘240の周方向に所定ピッチで間欠形成されて、放射状にパターニングされている。このような電極244のパターンが、円板状の本体部242の周方向全体に形成されている。すなわち電極244は、エレクトレット膜56(図6参照)と同程度の領域に形成されている。
【0046】
図6に示すように、第2実施形態では円板状の本体部242を備えているので、扇板状の本体部を備えた第1実施形態と比べて、電極244の形成面積を広く確保することができる。これにより、回動錘240が第1基板50に対して相対回動したときに、エレクトレット膜56と電極244との重なり面積の変化量が大きくなり、発電量が増大する。したがって、発電効率を向上させることができる。
【0047】
図7に示すように、回動錘240は周囲に重錘248を備えているので、慣性モーメントが大きくなり、回動錘240の共振周波数を低くすることができる。これにより、外部振動として環境振動を効率よく利用することが可能になり、発電効率を向上させることができる。また、回動錘240は周囲の一部のみに重錘248を備えているので、外部振動の入力により回動錘240にモーメントが作用し、回動錘240を回動させることができる。
【0048】
(第3実施形態)
第3実施形態に係る発電装置について説明する。
図8は、第3実施形態に係る発電装置の説明図であり、図1のA−A線に相当する部分における側面断面図である。
図9(a)は回動板の底面図であり、図9(b)は第1基板の平面図である。
図10は、第3実施形態に係る発電装置の回路図であり、図8のC−C線における断面図である。
【0049】
第1実施形態に係る発電装置では、図2に示すように、回動錘(回動体)40が電極44として機能したが、第3実施形態に係る発電装置では、図8に示すように、回動錘に代えて錘体340および回動板(回動体)360を備え、回動板360に第1電極364が形成されている点で相違している。また第1実施形態に係る発電装置では、図4に示すように、第1基板50に形成されたエレクトレット膜56および回動錘40に形成された電極44のみで発電を行っていた。これに対して、第3実施形態に係る発電装置では、図10に示すように、第1基板350に形成された第1エレクトレット膜356と、回動板360に形成された第1電極364とが、対向配置されて形成された第1発電部371と、第1基板350に形成された第2電極354と、回動板360に形成された第2エレクトレット膜366とが、対向配置されて形成された第2発電部372と、を備える点で相違している。なお、第1実施形態と同様の構成となる部分については、その詳細な説明を省略する。
【0050】
図8に示すように、錘体340は、第1実施形態の回動錘と同様の材料により半円形状に形成されている。錘体340の内面には、電極および絶縁膜が形成されていない。
一方、錘体340と第1基板350との間に、第1基板350に対向配置された状態で第1基板350に対して相対回動する回動板360を備えている。
回動板360は、シリコンなどのセラミック材料や、ガラスエポキシなどの樹脂材料等により形成することができる。本実施形態の回動板360は、ガラスエポキシにより円板状に形成されている。回動板360の中心部には貫通孔361が形成され、その貫通孔361に回動軸11が圧入されている。
【0051】
図8に示すように、回動板360の内面には第1電極364が形成されている。第1電極364は、導電性の金属材料で形成されている。図9(a)に示すように、第1電極364は、回動板360の径方向に連続形成され、回動板360の周方向に所定ピッチで間欠形成されて、放射状にパターニングされている。なお、回動板360の中央貫通孔の周囲では、第1電極364が回動板360の周方向に連続形成されている。
【0052】
図8に示すように、第1基板350の内面には第1集電材355および第1エレクトレット膜356が形成されている。図9(b)に示すように、第1集電材355および第1エレクトレット膜356は、第1基板350の径方向に連続形成され、第1基板350の周方向に所定ピッチで間欠形成されて、放射状にパターニングされている。なお、第1基板350の中央貫通孔の周囲では、第1集電材355および第1エレクトレット膜356が第1基板350の周方向に連続形成されている。
【0053】
図8に示すように、第1基板350の内面には第2電極354が形成されている。第2電極354は、導電性の金属材料で形成されている。図9(b)に示すように、第2電極354は、第1基板350の径方向に連続形成され、第1基板350の周方向に所定ピッチで間欠形成されて、放射状にパターニングされている。上述した第1集電材355および第1エレクトレット膜356と、第2電極354とは、第1基板350の周方向に隙間352を置いて(電気的に絶縁された状態で)、交互に配置されている。なお、第1基板350の周縁部では、第2電極354が第1基板350の周方向に連続形成されている。
【0054】
図8に示すように、回動板360の内面には第2集電材365および第2エレクトレット膜366が形成されている。図9(a)に示すように、第2集電材365および第2エレクトレット膜366は、回動板360の径方向に連続形成され、回動板360の周方向に所定ピッチで間欠形成されて、放射状にパターニングされている。上述した第1電極364と、第2集電材365および第2エレクトレット膜366とは、回動板360の周方向に隙間362を置いて(電気的に絶縁された状態で)、交互に配置されている。なお、回動板360の周縁部では、第2集電材365および第2エレクトレット膜366が回動板360の周方向に連続形成されている。
【0055】
図10に示すように、第1基板350に形成された第1エレクトレット膜356と、回動板360に形成された第1電極364とが対向配置されて、第1発電部371が形成されている。また、第1基板350に形成された第2電極354と、回動板360に形成された第2エレクトレット膜366とが対向配置されて、第2発電部372が形成されている。第1基板350に対して回動板360が相対回動すると、第1エレクトレット膜356と第1電極364との重なり面積が増減する。これに伴って、第1電極364の正電荷が増減するので、第1発電部371から電気エネルギーを取り出すことができる。また、第1基板350に対して回動板360が相対回動すると、第2電極354と第2エレクトレット膜366との重なり面積も増減する。これに伴って、第2電極354の正電荷が増減するので、第2発電部372からも電気エネルギーを取り出すことができる。
【0056】
第3実施形態に係る発電装置によれば、第1基板350の内面および回動板360の内面の大部分を発電部として利用することができるので、発電効率を向上させることができる。
【0057】
(クオーツ式腕時計)
実施形態に係る発電装置を備えた携帯型電気機器および携帯型時計の一例として、クオーツ式腕時計について説明する。
図11は、クオーツ式腕時計のムーブメントの内部構造図である。クオーツ式腕時計1は、実施形態に係る発電装置10と、水晶振動子2と、回路基板3と、コイル4と、ステータ5と、ロータ6と、歯車8とを備えている。そのうち回路基板3は、発振回路と、分周回路と、駆動回路とを備えている。
【0058】
発電装置10から水晶振動子2に電圧が印加されると、圧電効果により水晶振動子2は所定周波数の電気信号を出力する。この電気信号が回路基板3に入力されると、発振回路は所定周波数で安定して発振する。分周回路は、発振回路の出力信号をカウントして所定時間ごとにパルス信号を出力する。駆動回路は、パルス信号をトリガーとしてコイル4の駆動電流を交互に反転させる。この駆動電流によりコイル4は磁界を発生させ、ステータ5の両端からロータ6に磁界を印加して、永久磁石を備えたロータ6を回転させる。このロータ6の回転により歯車8が回転して、クオーツ式腕時計1が駆動される。
【0059】
この構成によれば、発電効率に優れた発電装置10を備えているので、電力供給の信頼性に優れたクオーツ式腕時計1を提供することができる。
すなわち、クオーツ式腕時計1を装着した人が歩行すると、歩行振動が発電装置10に入力される。実施形態に係る発電装置10では、回動錘の共振周波数が低くなるので、歩行振動により回動錘を共振回動させることができる。これにより、歩行振動を利用して効率的に発電することができるので、電力供給の信頼性に優れたクオーツ式腕時計1を提供することができる。なお、実施形態に係る発電装置10を従来のボタン電池と併用すれば、ボタン電池を長持ちさせることができる。
【0060】
図12は、回動錘の中立位置の説明図である。なお図12では、わかりやすくするため回動錘40の大きさおよび配置を誇張している。
歩行者80は前方および後方に腕81を振りながら歩行するが、一般に前方への振り上げ角度は後方への振り上げ角度より大きくなる。腕時計1を装着した歩行者80の腕81が、上述した前後の振り上げ角度範囲の中間点81mにあるとき、回動錘40の重心が回動軸の鉛直下方となる回動錘40の位置を、回動錘40の中立位置に設定する。回動錘40の中立位置とは、渦巻きバネからの復元力が作用していない状態における回動錘40の位置である。腕時計1を左腕に装着する場合、中立位置にある回動錘40の重心は、回動軸から見て2時付近の方向(3時方向から反時計回りに角度θの方向)に配置される。
【0061】
歩行者80は、中間点81mから前後に同じ角度だけ腕を振り上げて歩行するので、回動錘40は、中立位置から渦巻きバネが巻き上がる方向およびほどける方向に同じ角度だけ回動する。これにより、回動錘40の回動振幅が大きくなり、エレクトレット膜と電極との重なり面積の変化量も大きくなる。したがって、発電効率を向上させることができる。
【0062】
なお、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、実施形態で挙げた具体的な材料や層構成などはほんの一例に過ぎず、適宜変更が可能である。
例えば、実施形態におけるエレクトレット膜および電極は放射状にパターニングされていたが、基体に対して回動体が相対回動したときに重なり面積が増減するのであれば、他の形状にパターニングされていてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1…クオーツ式腕時計(携帯型電気機器、携帯型時計) 10,210,310…発電装置 11…回動軸 30…渦巻きバネ(弾性体) 40…回動錘(回動体) 42,242…本体部 44,244…電極 46,246…絶縁膜 48,248…重錘 50,350…第1基板(基体) 56…エレクトレット膜(電荷保持部材) 120…耐振軸受 360…回動板(回動体) 354…第2電極 356…第1エレクトレット膜 364…第1電極 366…第2エレクトレット膜 371…第1発電部 372…第2発電部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、
前記基体に対向配置された状態で前記基体に対して相対回動する回動体と、
前記基体および前記回動体のうち、一方の対向面に形成された電荷保持部材と、他方の対向面に形成された電極と、を備え、
前記回動体は、弾性体を介して支持され、前記基体に対して往復周期回動することを特徴とする発電装置。
【請求項2】
前記弾性体は、渦巻きバネであることを特徴とする請求項1に記載の発電装置。
【請求項3】
前記渦巻きバネは、導電材料で形成され、
前記回動体に形成された前記電荷保持部材または前記電極は、前記渦巻きバネを介して外部に電気的接続されることを特徴とする請求項2に記載の発電装置。
【請求項4】
前記回動体の回動軸は、耐振軸受を介して支持されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の発電装置。
【請求項5】
前記回動体は、
前記基体に対向配置された扇板状の本体部と、
前記本体部の周囲円弧部に設けられ、前記本体部より厚肉に形成された重錘と、
を備えていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の発電装置。
【請求項6】
前記回動体は、
前記基体に対向配置された円板状の本体部と、
前記本体部の周囲の一部のみに設けられ、前記本体部より厚肉に形成された重錘と、
を備えていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の発電装置。
【請求項7】
前記回動体は、導電材料で形成され、対向面の一部のみに絶縁膜が形成されて、前記絶縁膜の非形成部が前記電極として機能することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の発電装置。
【請求項8】
前記基体に形成された第1の前記電荷保持部材と、前記回動体に形成された第1の前記電極とが、対向配置されて形成された第1発電部と、
前記基体に形成された第2の前記電極と、前記回動体に形成された第2の前記電荷保持部材とが、対向配置されて形成された第2発電部と、
を備えていることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の発電装置。
【請求項9】
請求項1に記載の発電装置を備えたことを特徴とする携帯型電気機器。
【請求項10】
請求項1に記載の発電装置を備えたことを特徴とする携帯型時計。
【請求項1】
基体と、
前記基体に対向配置された状態で前記基体に対して相対回動する回動体と、
前記基体および前記回動体のうち、一方の対向面に形成された電荷保持部材と、他方の対向面に形成された電極と、を備え、
前記回動体は、弾性体を介して支持され、前記基体に対して往復周期回動することを特徴とする発電装置。
【請求項2】
前記弾性体は、渦巻きバネであることを特徴とする請求項1に記載の発電装置。
【請求項3】
前記渦巻きバネは、導電材料で形成され、
前記回動体に形成された前記電荷保持部材または前記電極は、前記渦巻きバネを介して外部に電気的接続されることを特徴とする請求項2に記載の発電装置。
【請求項4】
前記回動体の回動軸は、耐振軸受を介して支持されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の発電装置。
【請求項5】
前記回動体は、
前記基体に対向配置された扇板状の本体部と、
前記本体部の周囲円弧部に設けられ、前記本体部より厚肉に形成された重錘と、
を備えていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の発電装置。
【請求項6】
前記回動体は、
前記基体に対向配置された円板状の本体部と、
前記本体部の周囲の一部のみに設けられ、前記本体部より厚肉に形成された重錘と、
を備えていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の発電装置。
【請求項7】
前記回動体は、導電材料で形成され、対向面の一部のみに絶縁膜が形成されて、前記絶縁膜の非形成部が前記電極として機能することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の発電装置。
【請求項8】
前記基体に形成された第1の前記電荷保持部材と、前記回動体に形成された第1の前記電極とが、対向配置されて形成された第1発電部と、
前記基体に形成された第2の前記電極と、前記回動体に形成された第2の前記電荷保持部材とが、対向配置されて形成された第2発電部と、
を備えていることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の発電装置。
【請求項9】
請求項1に記載の発電装置を備えたことを特徴とする携帯型電気機器。
【請求項10】
請求項1に記載の発電装置を備えたことを特徴とする携帯型時計。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−59149(P2013−59149A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194750(P2011−194750)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】
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