説明

白点虫のシスト数計測用プレート及びこれを用いた計測方法

【課題】白点病の生活史を応用し、専門的な技術・経験が無くても、白点虫の発生状況を簡単且つ正確に把握し、数値化するための白点虫の計測プレート及び計測方法を提供する。
【解決手段】平板状のプレートの上面に、白点虫がシストの状態で固着するための孔径450〜550μmの凹部が複数形成されている白点虫のシスト数計測用プレートを用いて、プレート上を洗浄して付着したゴミ等を洗い流し、凹部に収まった状態で被嚢体を形成している白点虫(シスト)を染色し、凹部の数(シストの数)を計測することを特徴とする白点虫寄生状況計測方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚類に寄生する白点虫のシスト数を計測する計測用プレート及びこれを用いた計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
白点病は、原虫類の繊毛虫である淡水産のイクチオフチリウス・ムルチフィリス(Ichthyophthirius multifiliis)(以下「淡水白点虫」という。)やクリプトカリオン・イリタンス(Cryptocaryon irritans)(以下「海水白点虫」という。)が宿主に異常寄生することで発症する病気である。
【0003】
白点病は、魚の鰓や皮膚に寄生して、粘膜過多分泌、上皮増生、崩壊という過程を辿り、最終的には呼吸障害等を引き起こし、放置すると魚を死に至らしめる病気であり、この病気を発症した魚は体表に白い粒が現れることから、この名がつけられた。
【0004】
淡水及び海水白点虫は、セロント(theront)と呼ばれる子虫の状態で海水中を漂ったのち、寄生宿主の魚体に侵入し、魚体内部で成長して、トロホント(trophont)と呼ばれる成虫になる。
【0005】
トロホントは、魚体に数日〜7日間程度寄生した後、魚体から離脱する。
【0006】
魚体から離脱したトロホントは、トモント(tomont)となり、水底へ向かう。
【0007】
水底に到達したトモントは、水底を動き回った後、6〜12時間以内に水底に固着してシスト(cyst)と呼ばれる被嚢体を形成し、シスト内部で分裂して、トーマイト(tomite)と呼ばれる子虫を産出する。
【0008】
トーマイトはシストの中で成長し、その後、シストから海水中に脱出してセロントとなる。
【0009】
セロントは、海中を浮遊し、また魚体に寄生する。
【0010】
このような成長過程を辿る白点虫によって引き起こされる白点病を予防する方法として、一般的には薬剤による駆除が行われている。
【0011】
例えば、飼育水に、硫酸銅を0.2ppmの濃度になるまで投薬し、この濃度を一日6〜8時間保ち、連続して7日から10日間継続する方法が知られている。
【0012】
また、飼育水槽中の飼育水を濾過して、飼育水中を浮遊する白点虫を除去する方法も知られている。
【0013】
飼育水を濾過して白点虫を除去する発明として、例えば、特開平07−213192号公報には、底砂を積載した細穴付き上げ底を有する水槽と、該水槽の上部に載置したフイルターシステム装置を組み合わせて白点虫を濾過除去する海水魚の鑑賞用水槽が開示されている。
【0014】
また、近年の研究では、海水を加熱して水温が40℃の状態を1時間保つことで海水中のトモントが死滅することが分かっており、この加熱による駆除方法を利用した発明として、例えば、特開2003−92955号公報に、養殖水を加熱処理漕にて所要温度、所要時間加熱殺菌した後に所要温度に冷却して飼育水槽に戻す加熱殺菌装置が開示されている。
【0015】
白点病は強い感染力で爆発的に拡大し、また致死率も高いため、魚類飼育においては白点病の予防が重要な課題となっている。
【0016】
従来、白点病を数量的に把握する方法は無く、水中で遊泳している魚体の体表を観察して体表に現れている白点の存在を目視により確認するか、死亡直後の又は感染が疑われる魚体を検鏡して確認するのみであった。
【0017】
そのため、白点病の発症を確認できたときには、既に多くの魚体に白点病が発病していることも少なくなく、近年養殖が盛んになってきているヒラメ、マダイ、トラフグ等の養殖場では、白点病を原因とする大量斃死が頻発している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開平07−213192号公報
【特許文献2】特開2003−92955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
このように、魚類飼育において白点病対策は緊急の課題となっているところ、前記の飼育水槽内の硫酸銅濃度を一定に保つことで白点病を駆除する方法は、セロントに対する駆除方法としては非常に効果的ではあるが、シストに対しては効果が無いとされている。
【0020】
また、近年は観賞魚の飼育水槽に生きたサンゴ類が付着した岩石等を入れて海中の風景を再現することが広く行われているが、サンゴ類のような無脊椎動物は硫酸銅に極めて弱く、サンゴ類を入れた飼育水槽では硫酸銅による白点病治療は実施できないという問題がある。
【0021】
また、特許文献1に記載された鑑賞用水槽は、飼育水中に浮遊するセロントを濾過除去することは期待できるが、シストは水槽の底の底砂内に残るので、白点虫を完全に駆除するのは難しい。
【0022】
なお、特許文献2に記載された加熱殺菌装置は、水温を40℃の状態で1時間保つ条件で運転すれば、いずれの状態の白点虫に対しても効果的に駆除することが期待できるが、大がかりな装置なので、観賞魚用の水槽には適用しにくいという問題がある。
【0023】
また、そもそも水槽の底に敷いた砂の中に潜り込んでしまったシストまでをも完全に駆除することは極めて難しい。
【0024】
このように、効果的な白点病の治療方法や予防方法は未だ確立されていないのが現状であるが、白点病の被害を無くすためには、早期発見と素早い対処はもちろんのこと、より効果的な予防・治療方法の確立が必要であり、そのためには、白点虫の発生状況を正確に把握する手法が求められている。
【0025】
そこで、本発明は、これらの課題を解決するため、専門的な技術・経験が無くても、白点虫の発生状況を簡単且つ正確に把握し、数値化するための白点虫の計測プレート及び計測方法を提供するものである。
具体的には、白点虫の生活史を利用して、魚体から離脱した白点虫のトモントを定量的に捕らえ、トモントから変体したシストの数を計測するというものである。
【0026】
白点虫の発生状況を正確に計測して数量的に把握することにより、飼育魚類の被害状況との相関関係を明らかにすることができる。
つまり、計測した白点虫の数(本発明ではシストの数)から、計測時における白点虫の発生状況と、飼育魚類の被害状況を客観的に評価することができるようになる。
【0027】
例えば、白点虫の発生状況を数値化して、白点病の被害予測を立てたり、白点病への対処の効果的なタイミングを計るのに役立つ。
また、シストの数を継続して計測することにより、白点病発症の予兆を予測でき、将来の白点病の調査、研究にも寄与する。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明者は、多数の白点虫が、飼育水槽内のサンゴの孔などに入り込んで、被嚢体を形成したシストの状態で固着していたのを見て、白点虫は自ら好んで孔に収まる性質があると考え、凹部が複数形成された平板状のプレートを水底に静置して凹部内にシストの状態で白点虫を固着させ、凹部の数を白点虫の数とみなして計測する方法を発明した。
【0029】
しかし、例えば、凹部が無い表面が滑らかなプレートを使用した場合には、宿主である魚体から離脱したトモントの状態の白点虫は、プレート上に着床しても同じ場所に長く留まることがなく、多くは被嚢体を形成して固着する場所を求めて移動し、プレート外にまで移動してしまうこともある。
そこで、本発明者は、プレートの縁に立ち上がり部を設けて底浅のプレートを使用することで、白点虫がプレート外へ移動することを防ぐという方法を試みたが、複数の白点虫がプレートの縁の内側の隅にゴミ等と一緒に塊となって被嚢体を形成して固着してしまったため、白点虫を計測することができないという問題が生じた。
【0030】
上記課題を解決するため、本発明者は、上面に凹部を複数形成した平板状のプレートを用いた次の技術的手段を講じた。
【0031】
請求項1に係る発明は、
平板状のプレートの上面に、
白点虫がシストの状態で固着するための孔径450〜550μmの凹部が複数形成されている
ことを特徴とする白点虫のシスト数計測用プレートである。
【0032】
本発明は、シストの状態の白点虫の数を計測することを目的とした計測用プレートに関し、特に、凹部の孔径を、白点虫1個体が1つの凹部に収まる最適な大きさにすることで、凹部の数を白点虫の数とみなして計測できるようにしたことを特徴とする。
凹部の孔径を単に白点虫1個体が収まる大きさとするなら、白点虫の体長を基にすれば良いのだが、例えば、凹部の孔径が、白点虫1個体が確実に収まる大きさの300μmの場合、白点虫は凹部に収まることなく、プレート上を移動して、プレートの縁の内側の隅に集中して固着するという現象が見られた。
これは、プレート上に着床した白点虫が、最適な固着場所を探してプレート上を大きく移動したことが原因であると考えられるが、これでは白点虫の正確な数を計測することができないし、白点虫がプレート上に均等に分散した状態で固着しなければ単位面積当たりの白点虫の発生数を把握することはできない。
これに対して、凹部の孔径が761μmの場合、1つの凹部に白点虫が2〜3個体収まって固着してしまったり、白点虫以外の魚の糞やゴミなども入り込んでしまうという現象が見られた。
凹部の数を白点虫の数とみなして計測するためには、白点虫1個体が1つの凹部に収まって固着することが前提であるため、本発明者は、白点虫が、プレート上に着床したあともプレート上を移動せず、尚且つ、プレート上に均等に分散した状態で、白点虫1個体が1つの凹部に収まって固着する最適な孔径を鋭意研究した結果、最も望ましい孔径は450〜550μm程度であることを見出した。
【0033】
プレートの凹部の形状は、白点虫が入り込む程度の深さに窪んだ形状であれば良い。
例えば、半円球状に窪んだ形状であっても良いし、逆円柱状、逆円錐状、逆三角錐状、逆四角推状に抉られたような形状であっても良い。
また、白点虫が留まって固着することができれば、貫通孔でも良い。この場合は、水底に載置したり、プレートの裏面に何らかの部材を貼り付けるなどの方法によって孔を塞いで白点虫が貫通孔を通過できないようにすることが望ましい。
【0034】
プレートの材質は、水の中に数日程度静置しても変質等が無い材質であれば、いずれの材質でも良い。
例えば、プラスチック、ガラス等の硬質材を用いることもできるし、ゴム等の弾性材を用いることもできる。
なお、プレートの厚さは影響しないため、例えば、薄いシート状のものでも良い。
【0035】
プレートを設置する高さ(深さ)については、必ずしも水底である必要はなく、例えば、宙吊りにしたり台の上に載置する等の方法によって、水底よりも高い位置に設置して使用することも可能である。
遊泳する魚体よりも深い位置、つまり、宿主である魚体から離脱して水底に向かう白点虫が着床すると考えられる深さであれば、設置の高さ(深さ)は問題とはならない。
なお、宙吊りの手段は、どのような手段を用いても良く、例えば、紐で吊り下げても良い。
【0036】
プレート上にゴミや魚の糞が付着した場合でも、プレートの上面を水で洗い流すだけでゴミや魚の糞だけが洗い流され、プレート上にはシストのみを残すことができる。
また、白点虫を計測した後の洗浄は、例えば、次亜塩素酸ナトリウムなどによって漂白や洗浄をすることで、プレートを繰り返し使用することができ、経済的である。
【0037】
請求項2に係る発明は、
前記の凹部が網目状に形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の白点虫のシスト数計測用プレートである。
【0038】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明に関し、特に、凹部が網目状に形成されたプレートであることを特徴とする。
凹部が網目状に規則正しく形成されていることで、単位面積当たりの白点虫の発生数を把握することができ、また、計測も容易にできるため、より簡単且つ的確にシスト数を計測できる。
【0039】
請求項3に係る発明は、
平板状のプレートの上面に、
白点虫がシストの状態で固着するための孔径450〜550μmの網状体が取り付けられている
ことを特徴とする白点虫のシスト数計測用プレートである。
【0040】
請求項3に係る発明は、プレートの上面に凹部が形成されているのではなく、孔径450〜550μmの網状体がプレートとは別体になっており、網状体がプレートの上面に取り付けられていることを特徴とするものである。
網状体の取り付けは、プレート上に網状体を載置するだけでも良いし、接着剤などで貼り付けても良い。
着脱自在であれば、網状体のみを洗浄したり、網状体のみを交換できる。
網状体の材質は、樹脂製、金属製、繊維製等いずれでも使用できる。
例えば、樹脂製が好ましく、ナイロンプランクトンネット(ミュラーガーゼ)などでも良い。
白点虫を計測した後の洗浄は、例えば、次亜塩素酸ナトリウムなどによって漂白や洗浄をすることで、プレートや網状体を繰り返し使用することができ、経済的である。
【0041】
請求項4に係る発明は、
前記のプレートは、
縁に立ち上がり部が形成されている
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の白点虫のシスト数計測用プレートである。
【0042】
プレート上に着床した白点虫がプレート外へ移動することがないようにすることが望ましく、また、プレートを水中から引き揚げたあとは、固着した白点虫が乾燥しないようにプレートの上面が水で覆われた状態にしておくことが望ましい。
そこで、請求項4に係る発明は、プレートの縁に立ち上がり部を設けてプレートを底浅の容器様の形状にすることで、白点虫がプレート外へ逃げることを防ぎ、また、例えば、水底等からプレートを引き揚げる際に、水を入れたまま引き揚げることで、プレートの上面が水で覆われた状態にしておくこともできる。
立ち上がり部の高さ(深さ)は1cm程度あれば十分であり、水の流れが少ない場所に設置する場合は、1cmより低くても良い(浅くても良い)。
底浅の容器様の形状の例として、例えば、シャーレなどが挙げられるが、シャーレのような円形の形状のほか、四角形や多角形など、いずれの形状のものであても良いし、大きさは設置場所等に合わせて自由に選択できる。
【0043】
請求項5に係る発明は、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の白点虫のシスト数計測用プレートを用いて、
プレート上を洗浄して付着したゴミ等を洗い流し、
凹部に収まった状態で被嚢体を形成している白点虫(シスト)を染色し、
凹部の数(シストの数)を計測する
ことを特徴とする白点虫寄生状況計測方法である。
【0044】
請求項5に係る発明は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の白点虫のシスト数計測用プレートを用いて、プレートを洗浄後、プレートに形成された各凹部に1個体ずつ収まった状態で被嚢体を形成している白点虫(シスト)を染色することによって、白点虫(シスト)を視認しやすくし、染色された凹部の数を計測することにより、白点虫の数を計測することができる計測方法を特徴とする。
より具体的には、白点虫(シスト)が固着したプレートを少量の水が入った状態で水槽から取り出して、プレートを海水で軽く洗浄する。
こうすることで、プレートに固着した白点虫(シスト)を残したまま、プレート上に付着した魚の糞やゴミ等を洗い流すことができる。
その後、プレート上に原虫染色液を滴下して染色液をプレート全体に行き渡らせるため撹拌する。
30分程度静置して染色液を白点虫(シスト)に浸漬させると、白点虫(シスト)が赤みの強いオレンジ色に発色する。
発色は凹部単位で見られ、凹部1つに対して白点虫は1個体収まっているため、この発色箇所(凹部)の数を計測することで、白点虫(シスト)の数を計測できる。
仮に、プレート上に付着したサンゴ砂などの洗い残しがあっても、これらは染色されないため、白点虫(シスト)と誤認することがなく、的確にシストだけを計測できる。
原虫染色液は、市販されているもので良く、例えば、ティシュー・テックエオジン(サクラファインテックジャパン製)などでも良い。
シスト数を計測した後は、例えば、次亜塩素酸ナトリウムなどによって漂白や洗浄をすることで、繰り返しプレートを使用することができるため、経済的である。
【0045】
シスト数を継続して計測することで、白点虫の発生状況と白点病の被害状況の相関関係を明らかにすることができる。
つまり、計測したシスト数から、計測時における白点虫の発生状況、白点病の被害状況を客観的に評価することができる。
例えば、白点虫の発生状況を数値化して、白点病の被害予測を立てたり、白点病への対処の効果的なタイミングを計るのに役立つ。
シストが増加している状況にあれば、薬剤投与やろ過処理、加熱処理などの対策をとることができ、白点虫の発生状況に応じた効果的な白点病対策を講じることも可能となる。
【発明の効果】
【0046】
本発明は以下の効果を奏する。
【0047】
1)1つの凹部(孔)に対して、1個体の白点虫(シスト)を固着させることができる。
【0048】
2)簡単且つ確実に、シスト数を計測できる。
【0049】
3)シストを染色することで、洗い残ったサンゴ砂などと誤認することがなく、的確にシストだけを計測できる。
【0050】
4)白点虫の発生状況や被害状況との相関関係を明らかにすることができる。
【0051】
5)白点病の新規治療方法の開発に際して、その効果を計測する際に利用できる。
【0052】
6)継続して計測することにより、白点病発症の予兆を把握できる。
【0053】
7)白点病の生活史の解明に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施例としてシャーレに紐を巻き付けた状態を撮影した写真である。
【図2】孔径300μmのナイロンプランクトンネットを貼り付けたシャーレを撮影した写真である。
【図3】図2の一部を拡大した写真である。
【図4】図3のシスト部分を拡大した写真である。
【図5】孔径475μmのナイロンプランクトンネットを貼り付けたシャーレを撮影した写真である。
【図6】図5の一部を拡大した写真である。
【図7】図6のシスト部分を拡大した写真である。
【図8】孔径761μmのナイロンプランクトンネットを貼り付けたシャーレを撮影した写真である。
【図9】図8の一部を拡大した写真である。
【図10】図9のシスト部分を拡大した写真である。
【図11】サンゴ砂が固着したシストを撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0056】
本発明の計測用プレートの一実施例として、浅底の直径100mmの円形のプラスチックシャーレ(以下「シャーレ」という。)を用いて、計測した。
シャーレ内には、上面にナイロンプランクトンネットを接着剤で貼り付けた。
ナイロンプランクトンネットは、目開き(孔径)が300、475、761μmの異なる3種類を選択した。
この3種類の孔径のナイロンプランクトンネットを、それぞれ同じ大きさのシャーレに1つずつ貼り付けた(以下、「300μmのシャーレ」、「475μmのシャーレ」、「761μmのシャーレ」という。)。
各シャーレは、外周に樹脂製の紐を巻き付け、この紐にさらに吊り下げ用の紐を取り付け、水中に宙吊りに設置した。
図1は、紐を巻き付けた状態のシャーレを撮影した写真である。
【0057】
次の手順で、孔径の違いによる白点虫(以下「シスト」という。)の固着状況を確認した。
まず、ナイロンプランクトンネットを貼り付けたシャーレを魚を飼育している水槽内に入れた。
シャーレは、水平にしたまま3つとも同じ深さで水槽内に24時間宙吊り状態で静置した。
24時間経過した後、シャーレ内に少量の水を残して水槽からシャーレを取り出した。
少量の水が溜まっているシャーレ内に、ティシュー・テックエオジンの原液を滴下した。
シャーレを軽く振ってシャーレ内の水を攪拌して、染色液がシャーレ内に満遍なく行き渡るようにしたのち、約30分静置した。
約30分経過後、シストがこぼれ出ないように注意しながらシャーレ内の水を捨てた。
シャーレ内に海水を入れてシャーレを軽く振り、シャーレ内の水を攪拌してシャーレ内を洗浄したのち海水を捨てた。
シャーレ内に入れた海水が透明になるまで、洗浄を数回繰り返した。
シャーレ内に貼り付けたナイロンプランクトンネットを検鏡し、染色された網目(凹部)の数を計測した。
【0058】
図2乃至4は、300μmのシャーレを撮影した写真である。
図5乃至7は、475μmのシャーレを撮影した写真である。
図8乃至10は、761μmのシャーレを撮影した写真である。
各写真中の黒い小さい点がナイロンプランクトンネットの網目部分に被嚢体を形成して固着しているシストである。
通常、白点虫は、水槽の底部に堆積しているサンゴ砂や魚の糞、海水中のゴミなどを取り込んで、また、複数の白点虫同士が集まって、被嚢体を形成してシストの状態になる。
そのため、シストを染色して顕微鏡で観察しても、砂等の無機物は染色されないものの、図11に示すように、サンゴ砂などのゴミにシストが固着してしまっているためにゴミとシストとを見分けることが極めて困難であるし、複数のシストが集まって固着している場合は正確な計測が不可能である。
そこで、1つの凹部(本実施例では、1つの網目)に1個体のシストが固着する最適な孔径を求めることが重要になる。
【0059】
最初に、300μmと761μmのシャーレを使って、上記の手順によって実験をした。
そして、シストを染色したシャーレを観察した結果、固着したシスト数は、それぞれ以下のとおりであった。
300μmのシャーレ・・・26個
761μmのシャーレ・・・29個
【0060】
上記の結果から、孔径の違いによって、固着したシスト数に大きな違いはなかった。
しかし、シストが固着していた範囲を観察すると、以下のとおりであった。
300μmのシャーレは、図2及び3に示すとおり、シストがシャーレの隅に集まって固着しており、シャーレの中央付近にはシストの固着が見られなかった。
761μmのシャーレは、図8及び9に示すとおり、シストはシャーレ内に均等に分散して固着していたが、シストが網目内の隅に固着して網目に隙間があり、1つの網目に複数のシストの固着が見られた。
【0061】
この結果から考察すると、300μmのシャーレは、シストが最適な固着場所を求めてナイロンプランクトンネットの網目を乗り越えてシャーレ上を移動してしまったと考えられ、また、761μmのシャーレは、シストがシャーレ内で均等に分散して固着していたものの、1つの網目に2個以上のシストが固着してしまう可能性があると考えられた。
【0062】
そこで、今度は、475μmのシャーレを使って、再度、上記の手順によって実験をした。
そして、シストを染色したシャーレを観察した結果、固着したシスト数は、以下のとおりであった。
孔径475μm・・・156個
(300μm、761μmのシャーレを使った実験のときと比較して、固着したシスト数に大きな違いがあるが、これは実験をした際に水槽中に発生している白点虫の数が異なることによるものである。)
【0063】
シストが固着していた範囲を観察すると、図5及び6に示すとおり、シストはシャーレ内に均等に分散して固着し、1つの網目に対して1つのシストが固着していた。
この結果から考察すると、ナイロンプランクトンネットの1個の網目に対してシスト1個体が固着し、シャーレ内で均等に分散して固着する最適な孔径は、実験で用いた孔径475μm前後であることが分かった。
【0064】
このようなことから、孔径が450〜550μmであれば、ナイロンプランクトンネットの1個の網目に対してシスト1個体が固着すると考えられ、ナイロンプランクトンネットの1個の網目に対して、シスト1個体が固着することで、シストの数を簡単に且つ正確に計測できる。
また、シストがシャーレ内で均等に分散して固着することで、単位面積当たりの白点虫の発生数を把握することができる。
【0065】
計測が終了したあとは、ナイロンプランクトンネットを貼り付けたシャーレを次亜塩素酸ナトリウムに浸けておくことで、固着したシストを簡単に除去することができ、シャーレ内を漂白することもできるため、シャーレはナイロンプランクトンネットを貼り付けた状態で複数回繰り返して使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状のプレートの上面に、
白点虫がシストの状態で固着するための孔径450〜550μmの凹部が複数形成されている
ことを特徴とする白点虫のシスト数計測用プレート。
【請求項2】
前記の凹部が網目状に形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の白点虫のシスト数計測用プレート。
【請求項3】
平板状のプレートの上面に、
白点虫がシストの状態で固着するための孔径450〜550μmの網状体が取り付けられている
ことを特徴とする白点虫のシスト数計測用プレート。
【請求項4】
前記のプレートは、
縁に立ち上がり部が形成されている
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の白点虫のシスト数計測用プレート。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の白点虫のシスト数計測用プレートを用いて、
プレート上を洗浄して付着したゴミ等を洗い流し、
凹部に収まった状態で被嚢体を形成している白点虫(シスト)を染色し、
凹部の数(シストの数)を計測する
ことを特徴とする白点虫寄生状況計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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