説明

真空炉の冷却ファン用電動機

【課題】高圧の冷却ガスを循環させて熱処理物品を冷却する方式の真空炉について、装置の大型化を伴うことなく高い冷却能力を発揮できるようにする。
【解決手段】加熱室をほぼ真空の状態にして物品の熱処理を行った後に大気圧よりも高圧の冷却ガスを導入して熱処理後の物品を冷却する方式の真空炉に付設され、所定のガスを導入して冷却ガスと同等の内部圧力にされる圧力容器51とモータを備え、冷却ガス循環用の冷却ファンを回転させるための冷却ファン用電動機5において、その圧力容器51がモータのステーターコア54外側を覆う本体ケーシングを兼ねており、ロータ53及びステーターコア54からなるモータの駆動部がそのまま圧力容器51に内装されていることを特徴とするものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空炉の冷却ファン用電動機に関し、殊に、高圧の冷却ガスを導入して熱処理物品を冷却する方式の真空炉に付設され冷却ガス循環用のファンを回すための電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用の歯車等に熱処理を施す際には、その物品をほぼ真空環境において加熱を行う真空炉を使用することが多い。この場合、例えば特開平5−66090号公報に記載され、図5に示すもののように、加熱室2において真空状態で物品10に加熱を行ない、冷却室3に移し高圧の冷却ガス(窒素)を導入して、冷却ファン41に軸着されたモータ40を圧力容器42に内装してなる冷却ファン用電動機4で冷却ファン41を回すことにより、冷却ガスを循環させながら物品10を冷却するのが一般的である。
【0003】
そのとき、冷却ファン用電動機4内部にも同様に高圧ガスを導入して、炉内と冷却ファン用電動機4内との圧力が均等になるようにしている。そして、回転する冷却ファン41で内部の冷却ガスを循環させながら冷却ガスの圧力を徐々に上げていき、最終的に内部圧力を3MPa程度とした状態で冷却を行い、10〜30分程度の運転で冷却ファン41を停止するようになっている。また、この冷却ファン用電動機4の冷却能力はモータ40の回転数をインバータによる可変操作にて制御されるのが通常である。
【0004】
しかし、上述のように冷却ファン用電動機4側も高圧環境にすることから、図6の縦断面図に示すようにモータ40全体を圧力容器42内に封入することが必要となる。しかし、近年高まっている真空炉における冷却能力の増大化の要求に対応するためにモータ40の高出力化を図る場合には、冷却ファン用電動機4の容積が拡大して真空炉全体の大型化に繋がることから、今度はもう一方の要求である装置の省スペース化に対応することができない。
【特許文献1】特開平5−66090号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のような問題点を解決しようとするものであり、高圧の冷却ガスを循環させて熱処理物品を冷却する方式の真空炉について、装置の大型化を伴うことなく高い冷却能力を発揮できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明は、加熱室をほぼ真空の状態にして物品の熱処理を行った後に大気圧よりも高圧の冷却ガスを導入して熱処理後の物品を冷却する方式の真空炉に付設され、所定のガスを導入して冷却ガスと同等の内部圧力にされる圧力容器とモータを備え、冷却ガス循環用の冷却ファンを回転させるための冷却ファン用電動機において、その圧力容器がモータのステーターコア外側を覆う本体ケーシングを兼ねており、ロータ及びステーターコアからなるモータの駆動部がそのまま圧力容器に内装されている、ことを特徴とする。
【0007】
従来の真空炉に付設する冷却ファン用電動機は、高圧ガスを導入する厚肉の圧力容器の中に、ロータ及びステーターコアを本体ケーシングで覆ってなるモータを内装していた関係で、モータの大きさに制限があり省スペース化と高出力化の両立が困難となるために、高い冷却能力を発揮しにくい状況であったのに対し、本発明において圧力容器がモータの本体ケーシングを兼ねたことで、ロータ及びステーターコアからなるモータ駆動部の大型化が可能となり、装置の容積をそのままに高出力化の実現を容易なものとした。
【0008】
また、この冷却ファン用電動機において、その圧力容器に内装されたステーターコアの外周面に、モータの駆動部で隔てられた圧力容器内の2つの空間部分を互いに連通させるための複数の溝が設けられている、ことを特徴としたものとすれば、冷却ファン用電動機内への高圧ガス注入時に、高圧ガスを注入する負荷側とこれと隔てられた反負荷側との間に圧力差が生じにくくなるため、モータ部品が変形・損傷する心配を解消することが可能である。
【0009】
さらに、上述した真空炉の冷却ファン用電動機において、そのロータを軸支するブラケットに、これにより隔てられた2つの空間を連通させるための連通孔が設けられたことを特徴としたものとすれば、高圧ガス注入時に負荷側と反負荷側との間に生じる圧力差が一層生じにくいものとなる。
【0010】
さらにまた、上述した真空炉の冷却ファン用電動機において、ロータのエンドリング部外周面又は/及びロータコア外周側が、スリット又は凹凸のない滑面とされていることを特徴としたものとすれば、モータの高出力化に伴いロータの回転速度が上がっても、ロータと高圧ガスとの間の抵抗を減らして機械損を最小限に抑えることができるため、高い冷却能力を長時間に亘って発揮しやすい。
【0011】
加えて、上述した真空炉の冷却ファン用電動機は水冷式である場合には、装置容積の大幅な増大を伴うことなく高出力を長時間に亘って発揮することができる。
【発明の効果】
【0012】
圧力容器がモータの本体ケーシングを兼ねた本発明によると、真空炉全体の大型化を伴うことなく冷却ファン用電動機の高出力化を実現して、高い冷却能力を発揮することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0014】
図1は、本実施の形態の真空炉用の冷却ファン用電動機5の縦断面図を示している。この冷却ファン用電動機5の容積は、図6に示した従来の冷却ファン用電動機4の容積とほぼ同等であるが、例えば冷却ファン用電動機4が90kWの出力を発揮するものとすれば、本実施の形態では容積をそのままに300kW程度まで出力を増大させることを想定している。
【0015】
そのため、従来例と本実施の形態との間で構成が最も大きく異なる点は、従来の冷却ファン用電動機4が本体ケーシングを有するモータ40を厚肉の圧力容器42内にさらに内装しているのに対し、本実施の形態の冷却ファン用電動機5においては、圧力容器51がモータの本体ケーシングを兼ねている点を特徴としており、圧力容器51をモータの一部として設計することにより容積面の無駄を削減したものであり、ロータ53及びステーターコア54からなるモータ駆動部の大容量化が達成されたところにある。
【0016】
これにより、本実施の形態の冷却ファン用電動機5は、装置の大型化を伴わずに、従来例と比べて大幅な高出力化を実現しており、省スペースと高い冷却能力の両立とを可能としたものであり、これを付設した真空炉全体としても装置の省スペース化を実現している。
【0017】
尚、本実施の形態において、圧力容器51は通常使用で少なくとも3Mpの高圧条件に充分に耐えうる設計圧力とすることが望ましく、その素材としては、第二種圧力容器構造規格に準拠する場合、JIS G 3101,JIS G 3106より、SM400B等が想定される。
【0018】
また、冷却ファン用電動機5は、図のように水冷方式を採用することにより、装置の過剰な大型化を伴わずに、長時間に亘って高出力を発揮しやすいものとなる。さらに、本実施の形態の冷却ファン用電動機5は、ロータ53及びステーターコア54からなるモータ駆動部で隔てられた圧力容器内の2つの空間部分56,57のうち、一方の空間部分56側に高圧ガスの注入口58が設けられているところ、注入した高圧ガスがもう一方の空間部分57側に容易に移動できるように連通路を複数箇所設けてある点も特徴部分となっている。
【0019】
即ち、図2のステーターコア54の側面図に示すように、その外周面においてその回転軸の軸線方法に沿うように複数の溝541,541,541,・・・が外周方向に並列して設けられており、ステーターコア54及びロータ53を有するモータ駆動部で隔てられた圧力容器51内の2つの空間部分56,57を連通させるようになっている。
【0020】
加えて、図1において円で囲んだA部分及びB部分の拡大図を示す図3(A)及び図3(B)を参照して、ロータ53を軸支するブラケット59a,59bには、ブラケット59a,59bで隔てられた2つの空間を連通させるための連通孔591,592が各々複数設けられている。
【0021】
そのため、注入口58を経由して冷却ファン用電動機5内に高圧ガスを注入する際、負荷側と反負荷側との間で圧力差が生じにくくなっており、圧力容器51内の部品が高圧ガスによる圧力差で変形・破損しにくいようになっているため、その高出力を長期間に亘って発揮しやすいものとなっている。
【0022】
更に加えて、本実施の形態の冷却ファン用電動機5は、内部圧力を3MPa程度まで上げた状態でロータを回転させることを想定していることから、回転部分と気体との抵抗が拡大することにより機械損が大きくなって、効率が低下することが懸念される。そのため、図4(A)に示す従来例におけるロータのエンドリング部分外周側には凹凸構造を有していたのに対し、図4(B)に示す本実施の形態ではロータ53のエンドリング外周面は凹凸のない滑面とされていることを特徴としている。
【0023】
これにより、駆動部における回転部分の高圧気体との抵抗を最小限として、高効率を実現できるようになっている。尚、これと同様に、従来例に存在していたロータコアのスリットをなくして表面を平滑なものとすれば、さらに高効率化が期待できる。
【0024】
以上、述べたように、高圧の冷却ガスを循環させて熱処理物品を冷却する方式の真空炉について、本発明により、真空炉全体としての大型化を伴うことなく高い冷却能力を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態を示す縦断面図。
【図2】図1の冷却ファン用電動機におけるステーターコアの側面図。
【図3】(A)は図1におけるA部分の拡大図、(B)は図1における部分の拡大図。
【図4】(A)は従来例のロータのエンドリング部分を示す部分拡大図。(B)は、図1の冷却ファン用電動機のロータのエンドリング部分を示す部分拡大図。
【図5】従来例の真空炉を示す縦断面図。
【図6】図5の真空炉の冷却ファン用電動機の縦断面図。
【符号の説明】
【0026】
2 加熱室、5 冷却ファン用電動機、10物品、51 圧力容器、53 ロータ、54 ステーターコア、56,57 空間部分、59a,59b ブラケット、541 溝、591,592 連通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱室をほぼ真空の状態にして物品の熱処理を行った後に大気圧よりも高圧の冷却ガスを導入して前記物品を冷却する方式の真空炉に付設され、所定のガスを導入して前記冷却ガスと同等の内部圧力とされる圧力容器とモータを備えており、前記冷却ガス循環用の冷却ファンを駆動させるための冷却ファン用電動機において、前記圧力容器が前記モータのステーターコア外側を覆う本体ケーシングを兼ねており、ロータ及び前記ステーターコアからなる前記モータの駆動部がそのまま前記圧力容器に内装されていることを特徴とする真空炉の冷却ファン用電動機。
【請求項2】
前記圧力容器に内装されたステーターコアの外周面に、前記駆動部で隔てられた前記圧力容器内の2つの空間部分を互いに連通させるための複数の溝が設けられていることを特徴とする請求項1に記載した真空炉の冷却ファン用電動機。
【請求項3】
前記ロータを軸支するブラケットに、前記ブラケットで隔てられた2つの空間を連通させるための連通孔が設けてあることを特徴とする請求項1または2に記載した真空炉の冷却ファン用電動機。
【請求項4】
前記ロータのエンドリング部外周面又は/及びロータコア外周側が、スリット又は凹凸のない滑面とされていることを特徴とする請求項1,2または3に記載した真空炉の冷却ファン用電動機。
【請求項5】
請求項1,2,3または4に記載した真空炉の冷却ファン用電動機は、水冷式であることを特徴とする真空炉の冷却ファン用電動機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−35362(P2010−35362A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−195636(P2008−195636)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(000005924)株式会社三井三池製作所 (43)
【Fターム(参考)】