説明

石炭灰性状の評価方法及び評価システム

【課題】 石炭灰の品質管理に資することができる石炭灰性状の評価方法を提供する。
【解決手段】 石炭灰の密度、ブレーン値、フロー値比及び活性度指数を規定する影響項目を明らかにし、実測乃至データにより既知の石炭灰の粒径、灰組成、未燃分濃度及び灰分含有率を媒介として前記密度、ブレーン値、フロー値比及び活性度指数を所定の係数を含む仮の推算式として表わし、さらに前記各係数を決定することにより石炭灰の粒径、灰組成、未燃分濃度及び灰分含有率に基づき前記密度、ブレーン値、フロー値比及び活性度指数を推算する推算式を形成して対象となる石炭灰の性状を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は石炭灰性状の評価方法及び評価システムに関し、特に微粉炭焚きボイラで生成される石炭灰の品質管理を行う場合に適用して有用なものである。
【背景技術】
【0002】
微粉炭焚き火力発電所のボイラで生成される石炭灰は、現在、セメント用粘土代替材料や建材等へ有効利用されている。ところが、石炭灰のセメント用粘土代替材料等への利用量は、ほぼ限界に達してきている。そこで、石炭灰の新たな用途の拡大が重要な課題となってきている。石炭灰の新たな用途としては、セメント混和剤やコンクリート混和剤への拡大が有望視されている。
【0003】
一方、石炭灰を形成する微粉炭焚き火力発電所においては、様々な産地の石炭が利用されているため、石炭灰の性状も幅広く変化する。このため、上述の如く石炭灰の用途拡大を図るためには、用途に適した性状の石炭灰を供給できるように品質管理を行うことが肝要である。
【0004】
なお、石炭灰の一般的な品質管理に関する公知文献として、例えば特許文献1が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002―211968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
石炭灰の品質管理のためには石炭灰性状を知ることが重要であり、特にその用途としてコンクリート混和剤への適用を考える場合には、その品質管理基準であるコンクリート用フライアッシュJIS A 6201 の規格項目である密度、比表面積、フロー値比及び活性度指数を考慮することが好ましい。これらの性状は、分析装置で測定されているが、事前に予測できれば、品質管理に有用なデータを簡易且つ的確に提供することができ、速やかに用途に適した石炭灰であるか否かを判断できると考えられるからである。
【0007】
しかし、石炭灰の密度等が石炭灰の粒径に影響される等の事実は知られているが、石炭灰の密度、比表面積、フロー値比及び活性度指数と石炭灰性状を特定するパラメータメータとの定量的な関係は知られていない。
【0008】
かかる定量的な関係を知ることができれば特定の石炭灰に関してはその密度、比表面積、フロー値比及び活性度指数を推算することができる。
【0009】
本発明は、上述の点に鑑み、石炭灰の密度、比表面積、フロー値比、活性度指数等と石炭灰性状との定量的な関係を明らかにし、石炭灰の品質管理に資することができる石炭灰性状の評価方法及び評価システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する本発明は次の知見を基礎とするものである。すなわち、石炭灰の密度等は灰粒径に影響されることが知られており、既に測定された灰粒径分布を基に影響項目との相関により様々な石炭灰性状を推算できる可能性がある。また、灰粒径分布は市販の測定装置で簡易に測定でき、石炭灰性状及び強熱減量(以下、未燃分濃度ともいう)に関するデータは、通常、各微粉炭焚き火力発電所で管理データとして測定・保管している。
【0011】
そこで、本発明では、石炭灰性状、灰粒径及び未燃分濃度が既知であることを前提として、石炭灰の品質管理基準の規格項目である密度、比表面積、フロー値比及び活性度指数を推算対象とし、これらに関連する主要な影響項目を抽出するとともに、定量的な相関関係を検討した。
【0012】
かかる検討結果を基礎として上記目的を達成する本発明の第1の態様は、
各石炭灰成分の含有率及び各石炭灰成分の真密度に基づく仮想真密度と、所定の係数を含む各石炭灰成分の含有率とに基づく推算真密度で石炭灰の真密度を代替する一方、所定の係数を含む石炭灰の平均粒径に基づく見かけの空隙率で石炭灰の灰粒子の空隙率を代替して形成した石炭灰の密度を推算するための前記係数が未定の密度推算式に、
石炭灰の密度の実測値と、石炭灰性状から得られる各石炭灰成分の含有率と、各石炭灰成分の真密度と、石炭灰成分の含有率と、石炭灰の粒径分布の実測値から得られる平均粒径とを代入して前記係数を未知数とする方程式を作成し、この方程式を解くことにより前記係数を決定して前記石炭灰の密度を推算するための前記係数が決定された密度推算式を形成し、
さらに評価対象である石炭灰に関する石炭灰性状から得られる各石炭灰成分の含有率と、各石炭灰成分の真密度と、石炭灰成分の含有率と、石炭灰の粒径分布の実測値から得られる平均粒径とを前記係数が決定された密度推算式の対応項目に代入して前記石炭灰の密度を推算することを特徴とする石炭灰性状の評価方法にある。
【0013】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載する石炭灰性状の評価方法において、
石炭灰の粒径分布により求めた体積当たりの粒子表面積を石炭灰の密度で除して得る粒径基準比表面積と、所定の係数を含むとともに石炭灰中の未燃分濃度、石炭中の灰分含有率及び石炭灰の粒径に関連する表面積平均粒径に基づく見かけの形状係数とに基づき形成した前記係数が未定の比表面積推算式に、
石炭灰の比表面積の実測値と、石炭灰の粒径分布の実測値より求めた体積当たりの粒子表面積と、石炭灰の密度の推算値又は実測値と、石炭灰中の未燃分濃度の実測値と、前記石炭灰性状から求めた石炭中の灰分含有率と、石炭灰の粒径分布の実測値から求めた表面積平均粒径とを代入して前記係数を未知数とする方程式を作成し、この方程式を解くことにより前記係数を決定して前記石炭灰の比表面積を推算するための前記係数が決定された比表面積推算式を形成し、
さらに評価対象である石炭灰の粒径分布の実測値より求めた体積当たりの粒子表面積と、石炭灰の密度の推算値又は実測値と、石炭灰中の未燃分濃度の実測値と、前記石炭灰性状から求めた石炭中の灰分含有率と、石炭灰の粒径分布の実測値から求めた表面積平均粒径とを前記係数が決定された比表面積推算式の対応項目に代入して前記石炭灰の比表面積を推算することを特徴とする石炭灰性状の評価方法にある。
【0014】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様に記載する石炭灰性状の評価方法において、
所定の係数を含むとともに石炭灰中の未燃分濃度、石炭中の灰分含有率及び石炭灰の粒径に関連する表面積平均粒径に基づく見かけの形状係数と、所定の係数を含む前記未燃分濃度とに基づき形成した前記係数が未定のフロー値比推算式に、
石炭灰のフロー値比の実測値と、石炭灰中の未燃分濃度の実測値、前記石炭灰性状から求めた石炭中の灰分含有率及び石炭灰の粒径分布の実測値から求めた表面積平均粒径又は推算した見かけの形状係数とを代入して前記係数を未知数とする方程式を作成し、この方程式を解くことにより前記係数を決定して前記石炭灰のフロー値比を推算するための前記係数が決定されたフロー値比推算式を形成し、
さらに評価対象である石炭灰の未燃分濃度の実測値、前記石炭灰性状から求めた石炭中の灰分含有率及び石炭灰の粒径分布の実測値から求めた表面積平均粒径、又は推算した見かけの形状係数とを前記係数が決定されたフロー値比推算式の対応項目に代入して前記石炭灰のフロー値比を推算することを特徴とする石炭灰性状の評価方法にある。
【0015】
本発明の第4の態様は、第1乃至第3の態様の何れか一つに記載する石炭灰性状の評価方法において、
所定の係数を含む石炭灰の比表面積と、石炭灰中の未燃分濃度と、石炭灰中のアルカリ成分の含有率とに基づき形成した前記係数が未定の活性度指数推算式に、
石炭灰の活性度指数の実測値と、石炭灰の比表面積の実測値又は推算値と、石炭灰中の未燃分濃度の実測値とを代入して前記係数を未知数とする方程式を作成し、この方程式を解くことにより前記係数を決定して前記石炭灰の活性度指数を推算するための前記係数が決定された活性度指数推算式を形成し、
さらに評価対象である石炭灰の比表面積の推算値又は実測値と、石炭灰中の未燃分濃度の実測値とを前記係数が決定された活性度指数推算式の対応項目に代入して前記石炭灰の活性度指数を推算することを特徴とする石炭灰性状の評価方法にある。
【0016】
本発明の第5の態様は、第1乃至第4の態様の何れか一つに記載する石炭灰性状の評価方法において、密度は、係数kd、kd、kd、kdを決定した式(1)及び(2)を式(3)に代入して得られる密度推算式を用いて求めることを特徴とする石炭灰性状の評価方法にある。
【0017】
【数1】

【0018】
本発明の第6の態様は、第2乃至第4の態様の何れか一つに記載する石炭灰性状の評価方法において、比表面積は、係数ks、ks、ks、ksを決定した式(4)及び式(5)を式(6)に代入して得られる比表面積推算式を用いて求めることを特徴とする石炭灰性状の評価方法にある。
【0019】
【数2】

【0020】
本発明の第7の態様は、第3又は第4の態様に記載する石炭灰性状の評価方法において、フロー値比は、係数kf、kf、kfを決定した式(7)として得られるフロー値比推算式を用いて求めることを特徴とする石炭灰性状の評価方法にある。
【0021】
【数3】

【0022】
本発明の第8の態様は、第4の態様に記載する石炭灰性状の評価方法において、活性度指数は、式(8)を式(9)に代入するとともに係数ka、ka、ka、kaを決定して得られる活性度指数推算式を用いて求めることを特徴とする石炭灰性状の評価方法にある。
【0023】
【数4】

【0024】
本発明の第9の態様は、第1乃至第8の態様の何れか一つに記載する石炭灰性状の評価方法において、各係数は最小自乗法により決定したことを特徴とする石炭灰性状の評価方法にある。
【0025】
本発明の第10の態様は、
石炭灰の密度を推算するための密度推算式のデータを記憶している推算式記憶手段と、前記密度推算式に基づき前記密度の推算のための演算処理を行う密度推算手段を備えた演算処理手段とを有するとともに、
前記推算式記憶手段は、各石炭灰成分の含有率及び各石炭灰成分の真密度に基づく仮想真密度と、所定の係数を含む各石炭灰成分の含有率とに基づく推算真密度で石炭灰の真密度を代替する一方、所定の係数を含む石炭灰の平均粒径に基づく見かけの空隙率で石炭灰の灰粒子の空隙率を代替して形成した石炭灰の密度を推算するための前記係数が未定の密度推算式における前記係数を決定して形成した密度推算式のデータを記憶しており、
前記密度推算手段は、評価対象である石炭灰に関する石炭灰性状から得られる各石炭灰成分の含有率と、各石炭灰成分の真密度と、石炭灰成分の含有率と、石炭灰の粒径分布の実測値から得られる平均粒径とを前記密度推算式の対応項目に代入して前記石炭灰の密度を推算するものであることを特徴とする石炭灰性状の評価システムにある。
【0026】
本発明の第11の態様は、第10の態様に記載する石炭灰性状の評価システムにおいて、
前記推算式記憶手段は、石炭灰の比表面積を推算するための比表面積推算式のデータをさらに記憶するとともに、前記演算処理手段は前記比表面積推算式に基づき前記比表面積の推算のための演算処理を行う比表面積推算手段をさらに備えており、
前記比表面積推算式は、石炭灰の粒径分布により求めた体積当たりの粒子表面積を石炭灰の密度で除して得る粒径基準比表面積と、所定の係数を含むとともに石炭灰中の未燃分濃度、石炭中の灰分含有率及び石炭灰の粒径に関連する表面積平均粒径に基づく見かけの形状係数とに基づき形成した前記係数が未定の比表面積推算式における前記係数を決定して形成したものであり、
前記比表面積推算手段は、評価対象である石炭灰の粒径分布の実測値より求めた体積当たりの粒子表面積と、石炭灰の密度の推算値又は実測値と、石炭灰中の未燃分濃度の実測値と、前記石炭灰性状から求めた石炭中の灰分含有率と、石炭灰の粒径分布の実測値から求めた表面積平均粒径とを前記比表面積推算式の対応項目に代入して前記石炭灰の比表面積を推算するものであることを特徴とする石炭灰性状の評価システムにある。
【0027】
本発明の第12の態様は、第10又は第11の態様に記載する石炭灰性状の評価システムにおいて、
前記推算式記憶手段は、石炭灰のフロー値比を推算するためのフロー値比推算式のデータをさらに記憶するとともに、前記演算処理手段は前記フロー値比推算式に基づき前記フロー値比の推算のための演算処理を行うフロー値比推算手段をさらに備えており、
前記フロー値比推算式は、所定の係数を含むとともに石炭灰中の未燃分濃度、石炭中の灰分含有率及び石炭灰の粒径に関連する表面積平均粒径に基づく見かけの形状係数と、所定の係数を含む前記未燃分濃度とに基づき形成した前記係数が未定のフロー値比推算式における前記係数を決定して形成したものであり、
前記フロー値比推算手段は、評価対象である石炭灰の未燃分濃度の実測値、前記石炭灰性状から求めた石炭中の灰分含有率及び石炭灰の粒径分布の実測値から求めた表面積平均粒径、又は推算した見かけの形状係数及び前記未燃分濃度の実測値を前記フロー値比推算式の対応項目に代入して前記石炭灰のフロー値比を推算するものであることを特徴とする石炭灰性状の評価システムにある。
【0028】
本発明の第13の態様は、第10乃至第12の態様の何れか一つに記載する石炭灰性状の評価システムにおいて、
前記推算式記憶手段は、石炭灰の活性度指数を推算するための活性度指数推算式のデータをさらに記憶するとともに、前記演算処理手段は前記活性度指数推算式に基づき前記活性度指数の推算のための演算処理を行う活性度指数推算手段をさらに備えており、
前記活性度指数推算式は、所定の係数を含む石炭灰の比表面積と、石炭灰中の未燃分濃度と、石炭灰中のアルカリ成分の含有率とに基づき形成した前記係数が未定の活性度指数推算式における前記係数を決定して形成したものであり、
前記活性度指数推算手段は、評価対象である石炭灰の比表面積の推算値又は実測値と、石炭灰中の未燃分濃度の実測値とを前記活性度指数推算式の対応項目に代入して前記石炭灰の活性度指数を推算するものであることを特徴とする石炭灰性状の評価システムにある。
【0029】
本発明の第14の態様は、第10乃至第13の態様の何れか一つに記載する石炭灰性状の評価システムにおいて、密度推算式は、係数kd、kd、kd、kdを決定した式(1)及び(2)を式(3)に代入して得られるものであることを特徴とする石炭灰性状の評価システムにある。
【0030】
【数5】

【0031】
本発明の第15の態様は、第11乃至第13の態様の何れか一つに記載する石炭灰性状の評価システムにおいて、比表面積推算式は、係数ks、ks、ks、ksを決定した式(4)及び式(5)を式(6)に代入して得られるものであることを特徴とする石炭灰性状の評価システムにある。
【0032】
【数6】

【0033】
本発明の第16の態様は、第12又は第13の態様に記載する石炭灰性状の評価システムにおいて、フロー値比推算式は、係数kf、kf、kfを決定した式(7)として得られるものであることを特徴とする石炭灰性状の評価システムにある。
【0034】
【数7】

【0035】
本発明の第17の態様は、第13の態様に記載する石炭灰性状の評価システムにおいて、活性度指数推算式は、式(8)を式(9)に代入するとともに係数ka、ka、ka、kaを決定して得られるものであることを特徴とする石炭灰性状の評価システムにある。
【0036】
【数8】

【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、評価対象である石炭灰の石炭灰性状、灰粒径及び未燃分濃度が既知であることを前提に、石炭灰の密度、比表面積、フロー値比及び活性度指数を規定する重要な影響項目を抽出し、各影響項目との量的な関係を所定の係数を含む相関式として表し、各相関式の係数を石炭灰に関する既存のデータで決定したので、前記相関式に基づき特定のボイラにおいて燃焼させる石炭による石炭灰の密度、比表面積、フロー値比及び活性度指数を的確に表す推算式を形成することができる。
【0038】
この結果、石炭灰性状、灰粒径及び未燃分濃度に基づき各推算式により密度を推算し、推算密度を用いて比表面積、フロー値比及び活性度指数を逐次推算することができ、石炭灰性状の評価に資するデータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施の形態における評価項目である密度、ブレーン値、フロー値比及び活性度指数とそれぞれの重要な影響項目との関係を示す説明図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る石炭灰性状の評価システムを示すブロック線図である。
【図3】本発明の基礎実験に用いた石炭燃焼特性実証試験測定装置の構成を示すブロック線図である。
【図4】密度の推算において、種々の石炭に関して各石炭灰の密度と粒径との関係を示す特性図である。
【図5】密度の推算において、石炭灰の密度と粒径との関係を示す特性図である。
【図6】密度の推算において、仮想の真密度に対する実測した密度の割合を示す密度比と、SiOとAlの含有率(SiO+Al)の関係を示す特性図である。
【図7】密度の推算において、密度比とAlに対するSiOの比率(SiO/Al)との関係を示す特性図である。
【図8】密度の推算において、推算式を用いた精度に関して、推算値と実測値との比較を示す特性図である。
【図9】ブレーン値と粒径基準比表面積との相関を示す特性図である。
【図10】ブレーン値の推算において、見かけの形状係数と表面積平均径の相関関係を示す特性図である。
【図11】ブレーン値の推算において、未燃分濃度と見かけの形状係数の関係を示す特性図である。
【図12】ブレーン値の推算において、灰分含有率と見かけの形状係数の関係を示す特性図である。
【図13】ブレーン値の推算において、見かけの形状係数の推算値と実測値の相関を示す特性図である。
【図14】ブレーン値の推算において、推算した見かけの形状係数と粒径基準比表面積との積として求められるブレーン値推算値と実測値との相関を示す特性図である。
【図15】ブレーン値の推算において、見かけの形状係数を経由せず推算式の各係数を求めた場合のブレーン値推算値と実測値との相関を示す特性図である。
【図16】フロー値比の推算において、見かけの形状係数とフロー値比との関係を示す特性図である。
【図17】フロー値比の推算において、フロー値比と未燃分濃度との関係を示す特性図である。
【図18】フロー値比の推算において、見かけの形状係数と灰中未燃分濃度を用いて求めた推算値と実測値との相関を示す特性図である。
【図19】活性度指数の推算において、ブレーン値と活性度指数の関係を示す特性図である。
【図20】活性度指数の推算において、活性度指数と未燃分濃度の関係を示す特性図である。
【図21】活性度指数の推算において、活性度指数とCaO、MgO、NaO、KOの総含有率(%−重量)との関係を示す特性図である。
【図22】活性度指数の推算において、活性度指数(28日)の推算値と実測値との相関を示す特性図である。
【図23】活性度指数の推算において、活性度指数(91日)の推算値と実測値との相関を示す特性図である。
【図24】活性度指数の推算において、活性度指数(28日)のデータより相関式の係数を求めて推算値と実測値との相関について調べた場合の推算値と実測値との相関を示す特性図である。
【図25】活性度指数の推算において、推算式により求めたブレーン値の推算値と実測値との相関を示す特性図である。
【図26】活性度指数の推算において、推算したブレーン値より見かけの形状係数を求め、これを基にフロー値比を推算した場合の、推算値と実測値との相関を示す特性図である。
【図27】活性度指数の推算において、推算したブレーン値により求めた活性度指数(28日)の推算値と実測値との相関を示す特性図である。
【図28】活性度指数の推算において、推算したブレーン値により求めた活性度指数(91日)の推算値と実測値との相関を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0041】
本形態は、評価対象である石炭灰の石炭灰性状、灰粒径及び未燃分濃度が既知であることを前提に、石炭灰の密度、比表面積(以下、ブレーン値と称する)、フロー値比及び活性度指数を所定の推算式により求めることで前記石炭灰の性状を評価するものである。すなわち、石炭灰の密度を規定する重要な影響項目が、石炭灰の灰粒径及び灰組成であるという知見を得、前記影響項目と前記密度との定量的な関係を所定の係数を媒介として所定の推算式により定量的に表わした。
【0042】
同様に、ブレーン値を規定する重要な影響項目が、石炭灰の灰粒径、石炭灰中の未燃分濃度、石炭中の灰分含有率である、フロー値比を規定する重要な影響項目が、石炭灰の灰粒子形状、石炭灰中の未燃分濃度である、活性度指数を規定する重要な影響項目が、ブレーン値、石炭灰中の未燃分濃度、塩基成分であるという知見を得、それぞれの影響項目と前記ブレーン値、フロー値比及び活性度指数との定量的な関係を所定の係数を媒介としてそれぞれ所定の推算式により定量的に表わした。
【0043】
本形態における評価項目である密度、ブレーン値、フロー値比及び活性度指数とそれぞれの重要な影響項目との関係を図1に示す。
【0044】
本形態では、図1に矢印で示すように、推算した密度を利用してブレーン値を推算するとともに、推算したブレーン値を利用してフロー値比及び活性度指数を推算する。
【0045】
そこで、先ず特定の石炭灰に関しその粒径分布及びJIS A 6201に規定されている強熱減量(灰中の未燃分濃度)、密度、ブレーン値、フロー値比、活性度指数を測定しておく。ここで、粒径分布は、光回折・散乱法を用いた装置により測定した。未燃分濃度、密度、ブレーン値、フロー値比及び活性度指数はJISに規定された方法により求めた。ブレーン値は、石炭灰層に空気を透過させた時の圧力損失より測定するブレーン法を用いて測定されたものであり、真の灰粒子の外表面積を示すものではない。また、本形態における推算式の形成に利用する石炭灰性状(灰組成等)は既知のデータを利用する。
【0046】
ここで、本形態における密度、ブレーン値、フロー値比及び活性度指数の具体的な推算式及びこれらを用いた評価方法について各項目毎に説明する。
【0047】
1.密度
石炭灰の密度を規定する重要な影響項目が石炭灰の灰粒径及び灰組成であることを利用して、これらの影響項目と前記密度との定量的な関係を所定の係数を媒介として定量的に表わすことにより式(10)を得る。
【0048】
【数9】

【0049】
上式(10)における推算真密度は、石炭灰性状により求まる各石炭灰成分の含有率及び各石炭灰成分の真密度を利用した石炭灰の仮想真密度と、所定の係数を含む各石炭灰成分の含有率との積により式(11)として得られる。
【0050】
【数10】

【0051】
ここで、灰成分は、組成分析での成分より、SiO(2.2)、3Al(3.1)、Fe(5.2)、CaO(3.4)、MgO(3.7)、P(2.4)、TiO(4.2)、NaO(2.3)、KO(2.4)を用いて近似した。括弧内は設定した真密度である。また、上式(11)において仮想真密度は、次式で求められる。
【0052】
【数11】

【0053】
一方、上式(10)における見かけの空隙率は、石炭灰粒子の粒径分布に基づく灰の体積平均粒径に所定の係数をかけることにより式(12)として得られる。
【0054】
【数12】

【0055】
この結果、式(11)で求めた推算真密度と式(12)で求めた見かけの空隙率を式(10)に代入することで所定の係数が不定ではあるが、石炭灰の密度を表わす仮の密度推算式を得る。
【0056】
かかる仮の密度推算式は、石炭灰の密度を与える理論式(後に詳述する)における石炭灰の真密度を式(11)の推算真密度で代替するとともに、空隙率を式(12)の見かけの空隙率で代替したものとなっている。
【0057】
本形態では、式(10)に式(11)、(12)を代入した仮の推算式の各係数kd、kd、kd、kdを決定することにより密度推算式を完成する。すなわち、石炭灰の密度の実測値と、石炭灰性状から得られる各石炭灰成分の含有率及び各石炭灰成分の真密度と、石炭灰の粒子分布の実測値とを前記仮の密度推算式に代入して前記係数kd、kd、kd、kdを未知数とする方程式を作成し、この方程式を解くことにより前記係数kd、kd、kd、kdを決定する。この係数kd、kd、kd、kdの決定に際しては最小自乗法を適用する。
【0058】
評価対象である石炭灰の密度は、係数kd、kd、kd、kdを決定することにより形成された密度推算式を用い、当該石炭灰に関する各灰成分の含有率、各灰成分の真密度、SiOの含有率、Alの含有率及び体積平均粒径を前記密度推算式の対応項目に代入して推算する。ここで、各灰成分の含有率、各灰成分の真密度、SiOの含有率、Alの含有率及び体積平均粒径は、当該石炭灰に関する石炭灰性状及び粒子分布の実測値に基づいて求める。
【0059】
2.ブレーン値
ブレーン値を規定する重要な影響項目が、石炭灰の灰粒径、石炭灰中の未燃分濃度、石炭中の灰分含有率であることを明らかにし、これらの影響項目と前記ブレーン値との定量的な関係を所定の係数を媒介として所定の推算式により定量的に表わすことにより式(13)を得る。
【0060】
【数13】

【0061】
上式(13)における粒径基準比表面積は、石炭灰の粒径分布により求めた体積当たりの表面積を石炭灰の密度で除して式(14)として得られる。
【0062】
【数14】

【0063】
ここで、体積当たりの粒子表面積は粒子分布より形状が球と仮定して算出している。
【0064】
一方、上式(13)における見かけの形状係数は、所定の係数を含むとともに石炭灰中の未燃分濃度、石炭中の灰分含有率及び石炭灰の粒径に関連する表面積平均粒径に基づく値として式(15)で得られる。
【0065】
【数15】

【0066】
この結果、式(14)で求めた粒径基準比表面積と式(15)で求めた見かけの形状係数を式(13)に代入することで所定の係数が不定ではあるが、石炭灰のブレーン値を表わす仮のブレーン値推算式を得る。
【0067】
本形態では、式(13)に式(14)、(15)を代入した仮のブレーン値推算式の各係数ks、ks、ks、ksを決定することによりブレーン値推算式を形成する。すなわち、石炭灰の比表面積の実測値と、石炭灰の粒径分布の実測値及び石炭灰の密度により求めた粒径基準比表面積と、石炭灰中の未燃分濃度の実測値、前記石炭灰性状から求めた石炭中の灰分含有率及び石炭灰の粒径分布の実測値により求めた表面積平均粒径を前記仮のブレーン値推算式に代入して前記係数ks、ks、ks、ksを未知数とする方程式を作成し、この方程式を解くことにより前記係数ks、ks、ks、ksを決定する。この係数ks、ks、ks、ksの決定に関しては最小自乗法を適用する。
【0068】
評価対象である石炭灰のブレーン値は、係数ks、ks、ks、ksを決定することにより形成されたブレーン値推算式を用い、当該石炭灰に関する体積当たりの粒子表面積、密度、未燃分濃度、灰分含有率及び表面積平均粒径を前記ブレーン値推算式の対応項目に代入して推算する。ここで、当該石炭灰の体積当たりの粒子表面積、密度、未燃分濃度、灰分含有率及び表面積平均粒径は、石炭灰性状、粒子分布の実測値、密度の推算値、未燃分濃度の実測値に基づいて求める。また、石炭灰の密度に関してはその実測値を利用することもできるが、上述の如く密度推算式を用いて密度を推算しているのでこの推算値を用いるのが合理的である。
【0069】
3.フロー値比
フロー値比を規定する重要な影響項目が、石炭灰の灰粒子形状、石炭灰中の未燃分濃度であることを明らかにし、これらの影響項目と前記フロー値比との定量的な関係を所定の係数を媒介として所定の推算式により定量的に表わすことにより式(16)を得る。
【0070】
【数16】

【0071】
式(16)においては所定の係数が不定ではあるが、石炭灰のフロー値比を表わす仮のフロー値比推算式を得る。ここで、見かけの形状係数及び未燃分濃度はブレーン値の推算の際に式(15)で求めてあり、未燃分濃度も求めてあるのでこれらを利用して各係数kf、kf、kfを未知数とする方程式を作成し、この方程式を解くことにより前記係数kf、kf、kfを決定する。この係数kf、kf、kfの決定に関しては最小自乗法を適用する。
【0072】
評価対象であるフロー値比は、係数kf、kf、kfを決定することにより形成されたフロー値比推算式を用い、当該石炭灰に関する見かけの形状係数及び未燃分濃度を前記フロー値比推算式の対応項目に代入して推算する。ここで、見かけの形状係数はブレーン値の推算の際に求めた推算値(式(15)参照)を、また未燃分濃度はブレーン値の推算の際に適用した実測値をそれぞれ用いることができる。
【0073】
4.活性度指数
活性度指数を規定する重要な影響項目が、ブレーン値、石炭灰中の未燃分濃度、塩基成分であることをそれぞれ明らかにし、これらの影響項目と前記活性度指数との定量的な関係を所定の係数を媒介として所定の推算式により定量的に表わすことにより式(17)を得る。
【0074】
【数17】

【0075】
上式(17)における灰アルカリ成分含有率は石炭灰性状に基づき次式(18)により求まる。
【0076】
【数18】

【0077】
この結果、式(18)で求めた灰アルカリ成分含有率を式(17)に代入することで所定の係数が不定ではあるが、石炭灰の活性度指数を表わす仮の活性度指数推算式を得る。ここで、ブレーン値は既に推算されており、また未燃分濃度もブレーン値の推算の際に求めてあるのでこれらを利用するとともに石炭灰性状から求まる灰中アルカリ成分含有率を利用して各係数ka、ka、ka、kaを未知数とする方程式を作成し、この方程式を解くことにより前記係数ka、ka、ka、kaを決定する。この係数ka、ka、ka、kaの決定に関しては最小自乗法を適用する。
【0078】
評価対象である石炭灰の活性度指数は、係数ka、ka、ka、kaを決定することにより形成された活性度指数推算式を用い、当該石炭灰に関するブレーン値、未燃分濃度及び灰中アルカリ成分含有率を前記活性度指数推算式の対応項目に代入して推算する。ここで、ブレーン値はその推算値(式(13)参照)を、また未燃分濃度はブレーン値の推算の際に適用した実測値をそれぞれ用いるとともに、灰中アルカリ成分含有率は石炭灰性状に基づいて求める。
【0079】
図2は本発明の実施の形態に係る石炭灰性状の評価システムを示すブロック線図である。同図に示すように、本形態に係る石炭灰性状の評価システム1は、演算処理部2と、推算式記憶部3と、入力装置4と出力装置5とを有している。ここで、演算処理部2は、密度推算部6、ブレーン値演推算部7、フロー値比推算部8及び活性度指数推算部9を有しており、推算式記憶部3に記憶されている各推算式に基づき所定の演算を行うことにより評価対象となっている石炭灰の密度、ブレーン値、フロー値比及び活性度指数を推算してそれぞれの推算値に関する情報を出力装置5に出力する。
【0080】
入力装置4からは、評価対象となっている石炭灰の石炭灰性状、灰粒径及び未燃分濃度に関する情報が演算処理部2に供給される。ここで、推算式記憶部3には、式(10)乃至(12)に示す密度の推算に関する式、式(13)乃至(15)に示すブレーン値の推算に関する式、式(16)に示すフロー値比の推算に関する式、式(17)及び(18)に示す活性度指数に関する式の情報がそれぞれ記憶されており、各推算部6乃至9での所定の推算処理のための推算式に関する情報を提供している。このとき、各式における係数kd乃至kd、ks乃至ks、kf乃至kf、ka乃至kaは前述の如き最小自乗法による演算により別途与えられている。
【0081】
そこで、密度推算部6は、式(10)乃至(12)に基づく所定の演算を行うことで石炭灰の密度を推算する。ブレーン値推算部7は、密度推算部6が推算した密度を利用して式(13)乃至(15)に基づく所定の演算を行うことで石炭灰のブレーン値を推算する。フロー値比推算部8は、ブレーン値推算部7が推算した見かけの形状係数を利用して式(16)に基づく所定の演算を行うことで石炭灰のフロー値比を推算する。活性度指数推算部9は、ブレーン値推算部7が推算したブレーン値を利用して式(17)乃至(18)に基づく所定の演算を行うことで石炭灰の活性度指数を推算する。
【0082】
かかる一連の情報処理はプログラムとして作成したものを演算処理部2に読み込んで実行可能としても良いし、また各機能ブロックとして実装した電子回路の処理で実行しても良い。
【0083】
上述の如き推算式は次のような試験及びこの試験結果の分析に基づく知見を基礎とするものである。そこで、本発明の基礎となった試験及びその分析結果に基づく推算式の導出過程に関して説明しておく。
【0084】
〔試験装置及び試験方法〕
<石炭燃焼特性実証試験装置>
本試験に使用した石炭燃焼特性実証試験装置(以下、実証試験装置と略称する)の構成を図3に示す。同図に示すように本実証試験装置は、微粉炭製造装置、火炉、脱硝装置、電気集じん器(EP)、脱硫装置及び除害設備(ガスクーラ、バグフィルタ及びアルカリ洗浄塔)から構成されている。微粉炭製造装置では、原炭ホッパに貯蔵された石炭を粉砕し、ビンに貯蔵する。試験時には、微粉炭が空気搬送され、燃焼用2次・3次空気及び二段燃焼用空気によって火炉内で燃焼する。
【0085】
火炉は縦型炉であり、上中下段の3本のバーナが設置されている。火炉への燃料の供給量は、バーナ1本当たり約100kg/h、火炉全体では約300kg/hとなる。本試験では微粉炭用低NOバーナ(CI−αWRバーナ)を使用した。
【0086】
燃焼後の排ガスは、エアヒータによって冷却後、アンモニア選択接触還元法(SCR 法)の脱硝装置に流入する。その後、排ガスの約1/3 量が2基の温度調節器を経た後、電気集じん装置及び湿式石灰石-石膏法脱硫装置に導く。
【0087】
一方、約2/3量の排ガスは、水冷式ガスクーラによって冷却し、バグフィルタによりダストを除去した後、脱硫装置から排出した約1/3量の排ガスと合流し、再度アルカリ洗浄塔で脱硫した後、煙突から排出する。
【0088】
<試験方法>
試験時では、まず、A重油の燃焼によって十分火炉を予熱した後、石炭へ切り替えた。その後、各装置の温度等が定常になったことを確認し、予熱時に生成した灰をすべて取り除いた。
【0089】
この後、設定した燃焼条件での測定を開始する。この時に生成した灰のみを試料とした。
【0090】
本試験において同一石炭銘柄での推定物性に及ぼす灰粒径や灰中未燃分濃度の影響を評価するため、微粉炭粒径を20〜70μm、二段燃焼率を0〜40%までに変化させた試験も実施した。生成灰試料に関しては、火炉の炉底に落ちる灰を除く、エアヒータ、温度調節器、電気集じん装置1〜4室、水冷式ガスクーラ、バグフィルタの各ホッパに捕集された灰を、各々捕集重量比で混合したものを用いた。
【0091】
<測定項目及び測定方法>
生成した石炭灰の測定項目は、灰の粒径分布及びJIS A 6201に規定されている灰中未燃分濃度、密度、ブレーン値、フロー値比及び活性度指数とした。
【0092】
粒径分布は、光回折・散乱法を用いた装置により測定した。灰中未燃分濃度、密度、ブレーン値、フロー値比及び活性度指数はJISに規定された方法により求めた。
【0093】
ブレーン値は、生成灰層に空気を透過させた時の圧力損失より測定するブレーン法を用いて測定されたものであり、真の灰粒子の外表面積を示すものではない。
【0094】
フロー値比及び活性度指数は、石炭灰のコンクリート混和材への適用を評価する指標である。ここで、フロー値比とは、石炭灰無添加の基準モルタルのフロー値に対する石炭灰を混和したモルタルのフロー値の比率(%)である。したがって、100%以上であれば基準モルタルより流動性が良くなることを示している。基準モルタルは、セメント450g、砂1,350g、水225gを練り合わせたもので、セメントの25%を石炭灰に置き換えたものが石炭灰混和モルタルである。フロー値は円筒状にしたモルタルに振動を与え、その広がりをはかったものである。活性度指数は、石炭灰無添加の基準モルタルの圧縮強度に対する石炭灰を混和したモルタルの圧縮強度の比率(%)を示したものである。活性度指数は、石炭灰混和モルタルを所定の条件で養成させ、基準モルタルの破壊強度の比率で表したものである。28日間所定の条件で養生した値と91日間養生した値の二種類が用いられている。フロー値と同様に100%以上であれば基準モルタルより固化性が良いことを示している。
【0095】
〔使用炭性状〕
<試験検討で用いた石炭の性状>
当該実証試験装置に使用した石炭の性状範囲を表1に示す。
【0096】
【表1】

【0097】
本試験では16銘柄の瀝青炭を用いた。性状に関しては、燃焼性及び未燃分濃度に影響を与える燃料比(固定炭素/揮発分)、生成灰粒径などに影響を与える灰分含有率、灰の溶融性や密度に影響を与える灰組成を幅広く設定し、微粉炭火力発電所で使用されている石炭をほぼ網羅できるように選定した。
【0098】
本試験結果の検討においては、基準条件での燃焼試験、微粉炭粒径変化試験、二段燃焼率変化試験及び混炭試験などを含む様々な試験研究から得られた試料を総合して用いており、42の灰試料を基に検討した。また、異なる銘柄を混合せず、単一の銘柄を燃焼する専焼時の石炭灰を主に用いた。
【0099】
〔試験結果及び考察〕
<推算物性に対する影響項目とその相関>
本試験結果の検討においては、簡易に測定できる生成灰の粒径分布、燃焼管理などに使われている灰中未燃分濃度及び石炭灰性状を基に生成灰の密度、ブレーン値、フロー値比及び活性度指数を推定することを目的としており、影響項目を明らかにし、相関式の構築を試みた。
【0100】
<密度>
(1)影響項目
石炭灰の粒径等、密度に対する影響項目について検討した。
【0101】
1)灰粒径
石炭灰の密度は、灰を構成する物質の密度(真密度)と灰中の空隙に影響される。一般的には、灰の粒径が大きくなるほど、密度が小さくなる傾向があることが指摘されている。本発明者等も石炭灰を分級し、その密度を測定した結果、粒径に影響していることが確認された。つまり、粒径が大きくなるほど空隙が多くなり、密度が低下することを示している。
【0102】
そこで、灰成分が同じとなる同一の石炭を用い、微粉炭粒径を変化させて、異なる平均粒径の灰を生成させて、灰粒径の影響を調べた。
【0103】
灰粒子は主に微粉炭粒子中の灰鉱物粒子が溶融結合して生成する。ここで、結合鉱物数が多いほど粒径が大きくなり、空隙もできやすくなると考えられ、粒子の体積と関係を持つ。そこで、指標として用いる平均粒径として式(19)に示す体積平均粒径Dv[μm]を用いた。
【0104】
【数19】

【0105】
密度と生成灰粒径の関係を図4に示す。同図を参照すれば、石炭銘柄によらず、灰の粒径が大きくなるほど密度は低下することがわかる。また、微粉炭粒径を変化させた場合、鉱物粒子の結合数の変化に加え、燃焼の影響が加わる。微粉炭粒径が小さいほど燃え易く、高温になるため空隙が低下する可能性がある。そこで、燃焼性の影響を調べるため、二段燃焼率の影響についても調べた。図4に灰粒径の影響と一緒に示した結果では、データのばらつきの中に含まれ、明瞭な影響は示されず、当所の燃焼試験装置では、灰粒径の影響に比べて、その影響は小さいと考えられる。
【0106】
さらに、実証試験装置での様々な石炭銘柄の灰データを基に、粒径と密度の関係を調べた。この結果、図5に示すように、ばらつきは大きいものの、粒径の影響が示され、粒径が密度に対する大きな影響項目であることを明確にできた。
【0107】
2)灰組成
灰の真密度に大きな影響を与える灰分組成について調べた。灰の密度に対して、空隙の影響と真密度の影響を完全に分離するのは困難である。ここでは、JISに規定されている石炭の灰組成分析値から真密度を想定して検討することとした。密度を推定する酸化物としては、SiO(2.2)、3Al(3.1)、Fe(5.2)、CaO(3.4)、MgO(3.7)、P(2.4)、TiO(4.2)、NaO(2.3)、KO(2.4)とし、SO等の他の物質は考慮せず、これらの総和が100%−重量となるようにした。また、カッコ内は、本検討で設定した酸化物の真密度(g/cm)である。さらに、アルミニウム成分が主にカオリナイトやイライトなどの粘土鉱物に存在することからムライト(3Al・2SiO)が生成するとして扱った。
【0108】
一方、含有量が多く密度に対する影響が強いと考えられるSiOに関しては、非晶質SiOや石英など様々な結晶形態を有し、密度も異なる。本検討においては、石炭灰で生成割合が多い非晶質SiOの値を用いた。
【0109】
仮想の真密度ρa[g/cm]は次式(20)より求められる。
【0110】
【数20】

【0111】
粒径の影響を除くため、粒径がほぼ同じ灰を用いて検討した。図6に、式(20)で推算した仮想の真密度に対する実測した密度の割合を示す密度比(−)と、SiOとAlの含有率(SiO+Al)(%−重量)の関係を示す。仮想の真密度が実際の灰の真密度と同じであれば、密度比は含有量によらず一定であることになるが、実際には明瞭な相関が見られた。
【0112】
図6に示す特性は、SiO+Alが増加するほど、密度比は大きくなることを示しており、仮想密度が正しいとすれば、空隙への影響となり、空隙が減少することになる。既往の研究によれば、SiO及びAlの含有率が増えれば、灰の融点及び溶融時の粘度は上昇し、内部に気泡が残り易くなって、中空粒子(セノスフェア)の割合が多くなることが示されている。このことから、空隙への影響は考えにくい。
【0113】
一方、真密度への影響に関しては、ムライトを除いて単一の酸化物として扱った。実際にはSiOを中心に様々な金属が固溶する非晶質の酸化物が生成することから、この影響が示された可能性がある。
【0114】
さらに、図7に示すようにAlに対するSiOの比率(Al/SiO)に関しても相関が認められた。そこで、本検討では、SiO及びAlの割合により酸化物形態が変化するとして、真密度への影響項目として取り扱うこととした。
【0115】
3)その他影響項目
その他の影響項目としては、灰中の空隙の生成に影響する、灰分の含有率、灰の溶融性、及び燃焼にかかわる燃料比などが考えられる。
【0116】
しかし、本検討では、上記項目に対しては明瞭に示されなかった。灰粒子の空隙への影響を明確にするためには、空隙を含まない灰粒子の真密度を把握することが必要である。
【0117】
また、灰の密度への影響として灰の真密度とは異なる密度を有する未燃分の影響も考えられるが、本検討の未燃分濃度範囲では、影響は示されなかった。
【0118】
(2)相関式の導出とその精度
灰の密度ρash [g/cm]は、灰を構成する物質の真密度ρt [g/cm] と灰粒子の空隙率ε[−]から理論式として次式(21)のように表わされる。
【0119】
【数21】

【0120】
次に、灰組成が真密度に影響し、灰粒径が空隙率に影響すると考える。また、各影響項目については、関数形は明確ではないが、影響項目との相関関係を見ると近似的に直線関係で代替できると考えられ、影響項目に対して1次の直線で近似することとした。次式(22)にその相関式を示す。
【0121】
【数22】

【0122】
この相関式の精度に関して、実証試験装置のデータに基づき最小自乗法を用いて得られた係数kdより、推算値と実測値の比較を行った。
【0123】
相関結果を図8に示す。同図に示す結果からは、±3%の幅で推算できることが示された。相関の強さを示すR−2乗値は0.76となり、強い相関を示した。
【0124】
<ブレーン値>
(1)影響項目
ブレーン値Sv[cm/g]は、測定方法上、真の灰粒子の表面積を示すものではないが、灰の比表面積を表す指標としては重要であり、このブレーン値に対する影響項目について調べた。
【0125】
1)灰粒径
ブレーン値は、灰の粒径と密接に相関があると考えられる。そこで、式(23)に示すように灰粒子が球であることを前提に灰の粒径分布より体積当りの表面積を求め、この値を測定した灰の密度で除することにより、比表面積Sp[cm/g](以降、粒径基準比表面積と呼ぶ)を求めた。
【0126】
【数23】

【0127】
ブレーン値と粒径基準比表面積との相関を図9に示す。同図に示す結果からは、相関が弱いことが示された。これは、灰粒子の形状が球とは大きく異なり、この影響が強く出ていると考えられる。そこで、粒径基準比表面積に対するブレーン値の割合となる見かけの形状係数を求め、式(24)で求められる表面積平均径Ds−ash [μm]との関連を調べた。
【0128】
【数24】

【0129】
図10に示すように、見かけの形状係数と表面積平均径は強い相関があり、灰粒径が大きくなるほど見かけの形状係数も大きくなることがわかる。つまり、粒径が大きくなるほど粒子が歪になることを示している。灰粒子の生成を考えると灰の密度と同様に、灰粒子が大きいほど結合する鉱物粒子の数が多く、粒子が歪になり易いことがあげられる。
以上、ブレーン値に対しては灰の粒径が強い影響項目であることが分かった。
【0130】
2)灰中未燃分濃度
未燃分を含む粒子は灰分も含んでいると考えられるため、灰中未燃分濃度は低いが、その影響は大きいと考えられる。そこで、灰の粒径がほぼ同じ範囲において、その影響を調べた。未燃分濃度と見かけの形状係数の関係を図11に示す。同図に示すように、見かけの形状係数は、灰中未燃分濃度が高くなるほど大きくなることが示され、強い影響項目であることが明らかになった。
【0131】
3)石炭中の灰分含有率
灰分含有率は、灰の粒径に影響を及ぼし、同じ微粉炭粒径であるとすれば、灰分含有率が増加すると鉱物粒子の結合数が増えて、灰の粒径は大きくなる。この結果、見かけの形状係数は大きくなる方向に働くと考えられる。この影響は、上述した灰粒径の影響に含まれて示されている。一方、灰粒径が同じものであれば、灰粒径の影響を除いた灰分含有率の影響が示される可能性がある。そこで、灰の粒径がほぼ同じものを選び、灰分含有率の影響を調べた。灰分含有率と見かけの形状係数の関係を図12に示す。同図には灰分含有率の影響は弱いが、灰分含有率が大きくなるに従って、見かけの形状係数も大きくなることが示され、灰分含有率を影響項目として、考慮する必要があることがわかった。
【0132】
灰分含有率の影響については、灰分含有率が大きくなると鉱物の結合割合も大きくなり、歪になりやすくなること、及び微粉炭中に可燃分を含まない灰分の大きな粒子(Exclude粒子)の割合が増えることなどが考えられる。
【0133】
4)その他の影響項目
その他の影響項目としては、微粉炭粒子中の鉱物組成に関連した灰の溶融性、及び燃焼にかかわる燃料比や燃焼条件の影響が考えられる。灰の溶融性に関しては、他の影響項目の影響が強く明瞭に影響を確認することはできなかった。一方、燃焼性にかかわる燃料比や燃焼条件に関しても同様に、燃料比が変化すれば未燃分濃度が変わり、その影響が強く示され、二段燃焼率を変えれば、未燃分と粒径が変化し、その影響が表れる。このように、燃焼性の影響のみを取り出して評価することはできなかった。
【0134】
(2)相関式の導出とその精度
ブレーン値は、粒子の形状に大きく影響されており、式(25)に示すように見かけの形状係数と粒径基準比表面積を用いて表わされる。
【0135】
【数25】

【0136】
また、上記検討より見かけの形状係数は、表面積平均径、灰中未燃分濃度及び灰分含有率の影響を受ける。表面積平均径については、密度との直線関係が明瞭ではないことから、べき乗関数で表わした。
【0137】
一方、灰中未燃分濃度及び灰分含有率については、本検討の範囲では直線的な相関が得られており、1次の関数とし、見かけの形状係数との相関式として式(26)を構築した。
【0138】
【数26】

【0139】
見かけの形状係数の推算値と実測値の相関を図13に示す。この結果から±15%の精度で推算できると共に、R−2乗値は、0.81と強い相関を示した。
【0140】
次に、推算した見かけの形状係数と粒径基準比表面積との積として求められるブレーン値推算値と実測値との相関を図14に示す。同図に示すように、推算されたブレーン値は、見かけの形状係数と同様の±15%の幅で推算できることが確認できた。また、R−2乗値は0.46と粒径基準比表面積の影響を受けて、見かけの形状係数のR−2乗値より低下した。
【0141】
さらに、見かけの形状係数を経由せず、式(27)により直接、各項目の係数を求め、推算値と実測値を比較した。
【0142】
【数27】

【0143】
この相関においても図15に示すように、見かけの形状係数を推算した場合と同様に、±15%の精度で推算できることが示された。また、R−2乗値は大きな差はない。この結果より、本検討では粒子表面積も含めた 式(27)で直接係数を求める方法を提案する。
【0144】
<フロー値比>
(1)影響項目
フロー値比は石炭灰を混和した場合のモルタルの流動性を示す指標であり、流動性が高いほど値は大きくなる。この影響項目について検討した。
【0145】
1)灰粒子形状
モルタルは、ペーストと細骨材(砂)で構成される。また、ペーストは、セメントや石炭灰などが混合した水スラリーである。このモルタルの流動性は粒子の形状に強く影響し、粒子が歪になるほど流動性は低下すると考えられる。そこで、見かけの形状係数とフロー値比の関係を調べた。見かけの形状係数とフロー値比の関係を図16に示す。同図に示すように、フロー値比は見かけの形状係数の増加に伴った減少し、粒子の形状が大きく影響することが確認でき、大きな影響項目であることが明らかになった。
【0146】
2)灰中未燃分濃度
ブレーン値に関する検討では、灰中未燃分は粒子の形状に影響することが示された。また、未燃分を含有する粒子は、形状が歪で多孔質であるため、流動に関与する水分を捕捉して、流動性を悪化させる可能性がある。既往の研究においても、未燃分を取り除くと、フロー値比が大きくなるとする例もある。そこで、形状の影響を除くため、見かけの形状係数がほぼ同じデータを選定して、未燃分濃度の影響について調べた。
【0147】
フロー値比と未燃分濃度の関係を図17に示す。同図に示すように、フロー値比は未燃分濃度の増加に従って小さくなることが確認でき、重要な影響項目であることが明らかになった。
【0148】
3)その他の影響項目
灰の粒径分布の影響が考えられる。モルタル中の固体粒子の充填構造を最密充填構造に近づけ、粒子間に入る水分をできるだけ少なくして、自由水を増やすことが、流動性の向上につながる。見かけの形状係数及び未燃分濃度がほぼ同じものを選定して、その相関を調べたが、明瞭な相関関係は得られなかった。また、灰粒子の粒径分布の影響を明確にするには、未燃分を除くと共に、セメント粒子や砂粒子の粒径分布を含めて検討する必要があると考える。
【0149】
(2)相関式の導出とその精度
フロー値比は、見かけの形状係数及び灰中未燃分濃度が大きくなると低下することが示された。この影響項目に関しても、本検討範囲では直線的な関係がみられ、影響項目に対して1次の関数として 式(28)で表わした。
【0150】
【数28】

【0151】
見かけの形状係数と灰中未燃分濃度を用いて求めた推算値と実測値の相関を図18に示す。この結果からフロー値比は±5%の精度で推算できることが示された。相関の強さを示すR−2乗値は0.66であった。
【0152】
<活性度指数>
(1)影響項目
石炭灰中のSiやAlが主成分の非晶質酸化物は、Si成分やAl成分をモルタルの細孔溶液に溶出させ易い性質を有する。この溶出した成分とセメント由来の水酸化カルシウム(Ca(OH))が反応し、水に難溶性のカルシウム・シリケート水和物などの水和物を作り、コンクリート強度を高める。この反応はポゾラン反応と呼ばれている。この固化の影響を評価する指標が活性度指数である。活性化指数への影響を厳密に評価するためには、非晶質物質の割合など反応メカニズムに伴う検討が必要であるが、本検討においては、既に記したように石炭灰性状、灰粒径及び未燃分濃度の範囲で影響項目について検討する。
【0153】
1)ブレーン値
石炭灰中の非晶質のSiO、AlからのSi、Al成分の溶出に関しては、灰粒子の表面積が大きく関与することが示されており、本試験においても確認を試みた。ブレーン値と活性度指数の関係を図19に示す。図19に示す結果から、ブレーン値は活性度指数に影響を与えていることが確認できる。
【0154】
2)灰中未燃分濃度
未燃分が多くなると固化反応に関与する灰分を減らすことが考えられる。また、明瞭ではないが、未燃分を取り除くと活性度指数が高くなる可能性があることを示唆した研究もある。そこで、ブレーン値の影響が無いように、ブレーン値がほぼ同程度のものを選定して、その影響を調べた。
【0155】
活性度指数と未燃分濃度の関係を図20に示す。活性度指数は、未燃分濃度が高くなると低下する傾向が示し、重要な影響項目であることが明らかになった。
【0156】
3)塩基成分
塩基成分は固化反応に関与する非晶質SiO及びAlの生成、並びにSi、Al成分の溶出に関与することが指摘されている。非晶質SiOの生成に関しては、Alに対するKOのモル比との相関があり、このモル比が高くなると非晶質SiOが増加することが報告されている。一方、溶出・固化に関しては、非晶質に含まれるCaOの量が多いほどポゾラン反応性を高めること、CaO、MgO、NaO、KOの含有量が多いほど、Siの溶出速度が高まることなどが報告されている。
【0157】
これらの指標と活性度指数との相関を調べたところ、図21に示すようにCaO、MgO、NaO、KOの総含有率(%−重量)との関係が最も明瞭に示された。
【0158】
4)その他の相関項目
既に述べたように固化反応には様々な物質が関与する。反応に対して重要となる非晶質SiO及びAlに関しては、灰組成や燃焼条件に影響されると考えられるが、本検討においては考慮していない。
【0159】
(2)相関式の導出とその精度
活性度指数は、モルタル固化に関する様々な影響項目があり、本検討における適用項目の範囲においては、ブレーン値、灰中未燃分濃度及びCaO、MgO、NaO、KOの総含有率に影響されることを明らかにした。ブレーン値、灰中未燃分濃度は活性度指数を低下させ、CaO、MgO、NaO、KOの総含有率は、上昇させる。これらの影響項目に関しても、本検討範囲では直線的な相関がみられ、近似的に、影響項目に対して1次の関数として式(29)で表わした。
【0160】
【数29】

【0161】
活性度指数(28日)の推算値と実測値の相関を図22に示す。この結果から活性度指数は±5%の精度で推算できることが示された。相関の強さを示すR−2 乗値は0.58であった。
【0162】
次に活性度指数(91日)の推算値と実測値の相関を図23に示す。活性度指数(28日)と同様に±5%の精度で推算できることが示された。R−2乗値は0.57であり、活性度指数(28日)の0.58と同様の相関の強さを示した。
【0163】
また、灰のブレーン値及び未燃分濃度はボイラでの燃焼の影響を反映した物性値であり、CaO、MgO、NaO、KOの総含有率は灰の性状であることから、ボイラの種別に関係なく推算できる可能性がある。そこで、フロー値比と同様に実証試験装置と発電所ボイラを合わせた活性度指数(28日)のデータより相関式の係数を求め、推算値と実測値との相関について調べた。推算値と実測値の相関を図24に示す。同図に示すように、±5%程度の精度で、ほとんどのデータが収まることが確認できた。相関の強さを示すR−2乗値は0.80と低下するが、十分な相関はある。
【0164】
以上、灰の密度、ブレーン値、フロー値比及び活性度指数に影響を与える項目を明らかにし、それに基づいて相関式を構築した。この相関式において、密度は±3%、ブレーン値は±15%、フロー値比は±5%及び活性度指数は±5%の精度で推算できることが確認できた。
【0165】
<推算手法>
上記検討により、実測値に基づき、密度、ブレーン値、フロー値比及び活性度指数に対する影響項目を抽出し、上式(19)乃至(29)(本形態における式(10)乃至(18)に相当する)を導出した。
【0166】
そして、式(19)乃至(22)(本形態における式(10)乃至(12)に相当する)に基づき推算した密度を用いて式(23)乃至(27)(本形態における式(13)乃至(15)に相当する)により求めたブレーン値の推算値と実測値との相関を図25に示す。同図に示すように,この場合の相関精度はほぼ±15%内に収まり、R−2乗値は0.76と、図15に示した実測の密度を使った値に対して、ほとんど変化はなく、実測の密度を使った場合と同様に実測値を推算できることが確認できた。
【0167】
次に、推算したブレーン値より見かけの形状係数を求め、これを基に式(28)(本形態における式(16)に相当する)に基づきフロー値比を推算した。この場合の、推算値と実測値の相関を図26に示す。同図に示すように,この場合の相関精度に関しては、ほぼ±5%程度に収まることが確認できた。R−2乗値は0.66であった。
【0168】
最後に、推算したブレーン値を用いて式(28)及び(29)(本形態における式(17)及び(18)に相当する)により求めた活性度指数(28日)の推算値と実測値の相関を図27に示す。相関精度はほぼ±5%内に収まり、R−2乗値は0.58となった。
【0169】
次に活性度指数(91日)の同様の推算値と実測値の相関を図28に示す。同図に示すように、活性度指数(28日)と同様に、推算値は、±5%内に収まることが確認できた。R−2乗値は0.54と、活性度指数(28日)の実証試験装置の値(0.58)と同程度であり、十分相関があることが示された。
【0170】
以上、実証試験装置における相関式の係数が求められていることを前提とし、その推算精度について検討した。推算密度を用いてブレーン値を推算するなどの逐次計算を行っても、概ね密度±3%、ブレーン表面積±15%、フロー値比及び活性度指数±5%程度の精度で推定できることが確認できた。
【0171】
<まとめ>
上述の実験結果及びその検討結果より明らかになった各推算物性への影響項目は次の通りである。
【0172】
密度は、粒径が大きくなるほど低下し、粒径が大きくなると灰粒子内の空隙が大きくなり易いことが確認できた。一方、密度は、非晶質酸化物などの灰を構成する物質の真密度に影響される。
【0173】
この点を踏まえ、本発明では、密度推算式としてSiO及びAlの含有率及びSiO/Alを指標とした相関式を提案した。
【0174】
ブレーン値は、粒径基準比表面積に対するブレーン値の比率で表わされる「見かけの形状係数」を用いることにより、影響項目が明瞭になった。この見かけの形状係数は、粒径、未燃分濃度及び灰分含有率に影響され、これらの増加により形状が歪な粒子が増え、値は小さくなった。
【0175】
この点を踏まえ、本発明では、ブレーン値推算式として粒径基準比表面積と見かけの形状係数とを用いた相関式を提案した。
【0176】
フロー値比は、見かけの形状係数及び未燃分濃度に影響され、これらが大きくなるほど低下した。これは歪な粒子がモルタルの流動性を悪化させ、多孔質の未燃分が水分を吸収し、流動に関与する水分を減らすためと考えられる。
【0177】
この点を踏まえ、本発明では、フロー値比推算式として見かけの形状係数と未燃分濃度とを用いた相関式を提案した。
【0178】
活性度指数は、固化反応に関与する灰のブレーン値及び塩基成分(CaO+MgO+NaO+KO)含有率の増加に従って大きくなった。一方、未燃分濃度が増加するほど低下した。未燃分濃度が高くなると反応に関与しない炭素分が増えることによると考えられる。
【0179】
この点を踏まえ、本発明では、活性度指数推算式としてブレーン値と未燃分濃度と灰中アルカリ成分含有率とを用いた相関式を提案した。
【産業上の利用可能性】
【0180】
本発明は微粉炭焚きボイラで石炭灰が生成される電力業界や、生成される石炭灰を利用する建築、土木業界等で有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0181】
1 石炭灰性状の評価システム
2 演算処理部
3 推算式記憶部
6 密度推算部
7 ブレーン値推算部
8 フロー値比推算部
9 活性度指数推算部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
各石炭灰成分の含有率及び各石炭灰成分の真密度に基づく仮想真密度と、所定の係数を含む各石炭灰成分の含有率とに基づく推算真密度で石炭灰の真密度を代替する一方、所定の係数を含む石炭灰の平均粒径に基づく見かけの空隙率で石炭灰の灰粒子の空隙率を代替して形成した石炭灰の密度を推算するための前記係数が未定の密度推算式に、
石炭灰の密度の実測値と、石炭灰性状から得られる各石炭灰成分の含有率と、各石炭灰成分の真密度と、石炭灰成分の含有率と、石炭灰の粒径分布の実測値から得られる平均粒径とを代入して前記係数を未知数とする方程式を作成し、この方程式を解くことにより前記係数を決定して前記石炭灰の密度を推算するための前記係数が決定された密度推算式を形成し、
さらに評価対象である石炭灰に関する石炭灰性状から得られる各石炭灰成分の含有率と、各石炭灰成分の真密度と、石炭灰成分の含有率と、石炭灰の粒径分布の実測値から得られる平均粒径とを前記係数が決定された密度推算式の対応項目に代入して前記石炭灰の密度を推算することを特徴とする石炭灰性状の評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載する石炭灰性状の評価方法において、
石炭灰の粒径分布により求めた体積当たりの粒子表面積を石炭灰の密度で除して得る粒径基準比表面積と、所定の係数を含むとともに石炭灰中の未燃分濃度、石炭中の灰分含有率及び石炭灰の粒径に関連する表面積平均粒径に基づく見かけの形状係数とに基づき形成した前記係数が未定の比表面積推算式に、
石炭灰の比表面積の実測値と、石炭灰の粒径分布の実測値より求めた体積当たりの粒子表面積と、石炭灰の密度の推算値又は実測値と、石炭灰中の未燃分濃度の実測値と、前記石炭灰性状から求めた石炭中の灰分含有率と、石炭灰の粒径分布の実測値から求めた表面積平均粒径とを代入して前記係数を未知数とする方程式を作成し、この方程式を解くことにより前記係数を決定して前記石炭灰の比表面積を推算するための前記係数が決定された比表面積推算式を形成し、
さらに評価対象である石炭灰の粒径分布の実測値より求めた体積当たりの粒子表面積と、石炭灰の密度の推算値又は実測値と、石炭灰中の未燃分濃度の実測値と、前記石炭灰性状から求めた石炭中の灰分含有率と、石炭灰の粒径分布の実測値から求めた表面積平均粒径とを前記係数が決定された比表面積推算式の対応項目に代入して前記石炭灰の比表面積を推算することを特徴とする石炭灰性状の評価方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する石炭灰性状の評価方法において、
所定の係数を含むとともに石炭灰中の未燃分濃度、石炭中の灰分含有率及び石炭灰の粒径に関連する表面積平均粒径に基づく見かけの形状係数と、所定の係数を含む前記未燃分濃度とに基づき形成した前記係数が未定のフロー値比推算式に、
石炭灰のフロー値比の実測値と、石炭灰中の未燃分濃度の実測値、前記石炭灰性状から求めた石炭中の灰分含有率及び石炭灰の粒径分布の実測値から求めた表面積平均粒径又は推算した見かけの形状係数とを代入して前記係数を未知数とする方程式を作成し、この方程式を解くことにより前記係数を決定して前記石炭灰のフロー値比を推算するための前記係数が決定されたフロー値比推算式を形成し、
さらに評価対象である石炭灰の未燃分濃度の実測値、前記石炭灰性状から求めた石炭中の灰分含有率及び石炭灰の粒径分布の実測値から求めた表面積平均粒径、又は推算した見かけの形状係数とを前記係数が決定されたフロー値比推算式の対応項目に代入して前記石炭灰のフロー値比を推算することを特徴とする石炭灰性状の評価方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一つに記載する石炭灰性状の評価方法において、
所定の係数を含む石炭灰の比表面積と、石炭灰中の未燃分濃度と、石炭灰中のアルカリ成分の含有率とに基づき形成した前記係数が未定の活性度指数推算式に、
石炭灰の活性度指数の実測値と、石炭灰の比表面積の実測値又は推算値と、石炭灰中の未燃分濃度の実測値とを代入して前記係数を未知数とする方程式を作成し、この方程式を解くことにより前記係数を決定して前記石炭灰の活性度指数を推算するための前記係数が決定された活性度指数推算式を形成し、
さらに評価対象である石炭灰の比表面積の推算値又は実測値と、石炭灰中の未燃分濃度の実測値とを前記係数が決定された活性度指数推算式の対応項目に代入して前記石炭灰の活性度指数を推算することを特徴とする石炭灰性状の評価方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一つに記載する石炭灰性状の評価方法において、
密度は、係数kd、kd、kd、kdを決定した式(1)及び(2)を式(3)に代入して得られる密度推算式を用いて求めることを特徴とする石炭灰性状の評価方法。
【数1】

【請求項6】
請求項2乃至請求項4の何れか一つに記載する石炭灰性状の評価方法において、
比表面積は、係数ks、ks、ks、ksを決定した式(4)及び式(5)を式(6)に代入して得られる比表面積推算式を用いて求めることを特徴とする石炭灰性状の評価方法。
【数2】

【請求項7】
請求項3又は請求項4に記載する石炭灰性状の評価方法において、
フロー値比は、係数kf、kf、kfを決定した式(7)として得られるフロー値比推算式を用いて求めることを特徴とする石炭灰性状の評価方法。
【数3】

【請求項8】
請求項4に記載する石炭灰性状の評価方法において、
活性度指数は、式(8)を式(9)に代入するとともに係数ka、ka、ka、kaを決定して得られる活性度指数推算式を用いて求めることを特徴とする石炭灰性状の評価方法。
【数4】

【請求項9】
請求項1乃至請求項8の何れか一つに記載する石炭灰性状の評価方法において、
各係数は最小自乗法により決定したことを特徴とする石炭灰性状の評価方法。
【請求項10】
石炭灰の密度を推算するための密度推算式のデータを記憶している推算式記憶手段と、前記密度推算式に基づき前記密度の推算のための演算処理を行う密度推算手段を備えた演算処理手段とを有するとともに、
前記推算式記憶手段は、各石炭灰成分の含有率及び各石炭灰成分の真密度に基づく仮想真密度と、所定の係数を含む各石炭灰成分の含有率とに基づく推算真密度で石炭灰の真密度を代替する一方、所定の係数を含む石炭灰の平均粒径に基づく見かけの空隙率で石炭灰の灰粒子の空隙率を代替して形成した石炭灰の密度を推算するための前記係数が未定の密度推算式における前記係数を決定して形成した密度推算式のデータを記憶しており、
前記密度推算手段は、評価対象である石炭灰に関する石炭灰性状から得られる各石炭灰成分の含有率と、各石炭灰成分の真密度と、石炭灰成分の含有率と、石炭灰の粒径分布の実測値から得られる平均粒径とを前記密度推算式の対応項目に代入して前記石炭灰の密度を推算するものであることを特徴とする石炭灰性状の評価システム。
【請求項11】
請求項10に記載する石炭灰性状の評価システムにおいて、
前記推算式記憶手段は、石炭灰の比表面積を推算するための比表面積推算式のデータをさらに記憶するとともに、前記演算処理手段は前記比表面積推算式に基づき前記比表面積の推算のための演算処理を行う比表面積推算手段をさらに備えており、
前記比表面積推算式は、石炭灰の粒径分布により求めた体積当たりの粒子表面積を石炭灰の密度で除して得る粒径基準比表面積と、所定の係数を含むとともに石炭灰中の未燃分濃度、石炭中の灰分含有率及び石炭灰の粒径に関連する表面積平均粒径に基づく見かけの形状係数とに基づき形成した前記係数が未定の比表面積推算式における前記係数を決定して形成したものであり、
前記比表面積推算手段は、評価対象である石炭灰の粒径分布の実測値より求めた体積当たりの粒子表面積と、石炭灰の密度の推算値又は実測値と、石炭灰中の未燃分濃度の実測値と、前記石炭灰性状から求めた石炭中の灰分含有率と、石炭灰の粒径分布の実測値から求めた表面積平均粒径とを前記比表面積推算式の対応項目に代入して前記石炭灰の比表面積を推算するものであることを特徴とする石炭灰性状の評価システム。
【請求項12】
請求項10又は請求項11に記載する石炭灰性状の評価システムにおいて、
前記推算式記憶手段は、石炭灰のフロー値比を推算するためのフロー値比推算式のデータをさらに記憶するとともに、前記演算処理手段は前記フロー値比推算式に基づき前記フロー値比の推算のための演算処理を行うフロー値比推算手段をさらに備えており、
前記フロー値比推算式は、所定の係数を含むとともに石炭灰中の未燃分濃度、石炭中の灰分含有率及び石炭灰の粒径に関連する表面積平均粒径に基づく見かけの形状係数と、所定の係数を含む前記未燃分濃度とに基づき形成した前記係数が未定のフロー値比推算式における前記係数を決定して形成したものであり、
前記フロー値比推算手段は、評価対象である石炭灰の未燃分濃度の実測値、前記石炭灰性状から求めた石炭中の灰分含有率及び石炭灰の粒径分布の実測値から求めた表面積平均粒径、又は推算した見かけの形状係数及び前記未燃分濃度の実測値を前記フロー値比推算式の対応項目に代入して前記石炭灰のフロー値比を推算するものであることを特徴とする石炭灰性状の評価システム。
【請求項13】
請求項10乃至請求項12の何れか一つに記載する石炭灰性状の評価システムにおいて、
前記推算式記憶手段は、石炭灰の活性度指数を推算するための活性度指数推算式のデータをさらに記憶するとともに、前記演算処理手段は前記活性度指数推算式に基づき前記活性度指数の推算のための演算処理を行う活性度指数推算手段をさらに備えており、
前記活性度指数推算式は、所定の係数を含む石炭灰の比表面積と、石炭灰中の未燃分濃度と、石炭灰中のアルカリ成分の含有率とに基づき形成した前記係数が未定の活性度指数推算式における前記係数を決定して形成したものであり、
前記活性度指数推算手段は、評価対象である石炭灰の比表面積の推算値又は実測値と、石炭灰中の未燃分濃度の実測値とを前記活性度指数推算式の対応項目に代入して前記石炭灰の活性度指数を推算するものであることを特徴とする石炭灰性状の評価システム。
【請求項14】
請求項10乃至請求項13の何れか一つに記載する石炭灰性状の評価システムにおいて、
密度推算式は、係数kd、kd、kd、kdを決定した式(1)及び(2)を式(3)に代入して得られるものであることを特徴とする石炭灰性状の評価システム。
【数5】

【請求項15】
請求項11乃至請求項13の何れか一つに記載する石炭灰性状の評価システムにおいて、
比表面積推算式は、係数ks、ks、ks、ksを決定した式(4)及び式(5)を式(6)に代入して得られるものであることを特徴とする石炭灰性状の評価システム。
【数6】

【請求項16】
請求項12又は請求項13に記載する石炭灰性状の評価システムにおいて、
フロー値比推算式は、係数kf、kf、kfを決定した式(7)として得られるものであることを特徴とする石炭灰性状の評価システム。
【数7】

【請求項17】
請求項13に記載する石炭灰性状の評価システムにおいて、
活性度指数推算式は、式(8)を式(9)に代入するとともに係数ka、ka、ka、kaを決定して得られるものであることを特徴とする石炭灰性状の評価システム。
【数8】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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