説明

硫化ナトリウム水溶液及び水銀処理液の製造方法、水銀処理液、水銀処理方法

【課題】 安価に硫化ナトリウム水溶液を製造することができる硫化ナトリウム水溶液の製造方法、安価に水銀処理液を製造することができる水銀処理液の製造方法、安価な水銀処理液及び安価に実施することができる水銀処理方法を提供する。
【解決手段】ナトリウムイオン含有水溶液に硫黄を溶解する工程を有する、硫化ナトリウム水溶液の製造方法。ナトリウムイオン含有水溶液に硫黄を溶解して製造される、水銀処理液。ナトリウムイオン含有水溶液に硫黄を溶解する工程を有する、水銀処理液の製造方法。ナトリウムイオン含有水溶液に硫黄を溶解して製造される硫化ナトリウム水溶液に水銀を接触させる工程を有する、水銀処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化ナトリウム水溶液及び水銀処理液の製造方法に関し、より詳細には、安価に硫化ナトリウム水溶液及び水銀処理液を製造することができる硫化ナトリウム水溶液及び水銀処理液の製造方法に関する。
また、本発明は、水銀処理液及び水銀処理方法に関し、より詳細には、安価な水銀処理液及び水銀処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫化ナトリウム(NaS)は、硫化染料の原料、脱硫剤、皮革の脱毛等に用いられる。
硫化ナトリウム(NaS)の製造は様々な方法により行われているが、例えば、次のような方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。即ち、「水酸化ナトリウム水溶液に硫化水素を飽和させて得られる硫化水素ナトリウムに、等モルの水酸化ナトリウムを作用させると、常温で九水和物(正方晶系、密度1.43g・cmー3)が析出する。これを水素気流中で加熱、脱水すると無水物となる。」といったような方法により硫化ナトリウム(NaS)は製造されてきた。
【0003】
【非特許文献1】大木道則・大沢利昭・田中元治・千原秀昭編,「化学辞典」,第1版(第4刷),株式会社東京化学同人,1994年10月1日(第4刷:1998年3月2日),p.1517
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したような従来の硫化ナトリウム(NaS)の製造方法は、製造工程が煩雑であり、いきおい製造コストを上昇させる問題があった。事実、市販の硫化ナトリウムの価格は高額であった(例えば、市販品の九水和物(NaS・9HO)の1級試薬500gは、数千円という高値であった。)。
そこで、本発明においては、安価に硫化ナトリウム水溶液を製造することができる硫化ナトリウム水溶液の製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明においては、安価に水銀処理液を製造することができる水銀処理液の製造方法、安価な水銀処理液及び安価に実施することができる水銀処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の硫化ナトリウム水溶液の製造方法(以下、「本硫化ナトリウム水溶液製造方法」という。)は、ナトリウムイオン含有水溶液に硫黄を溶解する工程を有する、硫化ナトリウム水溶液の製造方法である。
また、本硫化ナトリウム水溶液製造方法には、以下(1)及び(2)の態様が含まれる。
(1)溶解を加温条件下で行う、上記本硫化ナトリウム水溶液製造方法。
(2)ナトリウムイオン含有水溶液が水酸化ナトリウム水溶液である、上記本硫化ナトリウム水溶液製造方法。
【0006】
また、本発明者らは、硫化ナトリウムを含有する水溶液に水銀を接触させることで、該水溶液中に水銀を溶解させ、水銀を処理することができることを見いだした。即ち、硫化ナトリウムを含有する水溶液は、水銀処理液として用いることができる。
本発明の水銀処理液(以下、「本処理液」という。)は、ナトリウムイオン含有水溶液に硫黄を溶解して製造される、水銀処理液である。
また、本処理液は、ナトリウムイオン含有水溶液が水酸化ナトリウム水溶液であってもよい。
【0007】
本発明の水銀処理液の製造方法(以下、「本処理液製造方法」という。)は、ナトリウムイオン含有水溶液に硫黄を溶解する工程を有する、水銀処理液の製造方法である。
また、本処理液製造方法には、以下(1)及び(2)の態様が含まれる。
(1)溶解を加温条件下で行う、上記本処理液製造方法。
(2)ナトリウムイオン含有水溶液が水酸化ナトリウム水溶液である、上記本処理液製造方法。
【0008】
本発明の水銀処理方法(以下、「本処理方法」という。)は、ナトリウムイオン含有水溶液に硫黄を溶解して製造される硫化ナトリウム水溶液に水銀を接触させる工程を有する、水銀処理方法である。前述のように、硫化ナトリウムを含有する水溶液に水銀を接触させることで、該水溶液中に水銀を溶解させ、水銀を処理することができる。
本処理方法には、以下(1)〜(3)の態様が含まれる。
(1)ナトリウムイオン含有水溶液が水酸化ナトリウム水溶液である、上記本処理方法。
(2)下記の(a)〜(d)の工程を有する、上記本処理方法。
・(a)硫化ナトリウム水溶液に水銀を接触させる工程、
・(b)(a)で生じた沈殿物を除去する工程、及び
・(c)(b)で沈殿物を除去した水溶液に硫黄を溶解して、水銀処理液を調製する工程、
・(d)(c)で調製した水銀処理液を用いて、(a)〜(c)をn回(nは0又は1以上の正数)繰り返す工程。
(3)蛍光管の水銀処理に用いられる、上記本処理方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本硫化ナトリウム水溶液製造方法では、ナトリウムイオン含有水溶液に硫黄を溶解させて硫化ナトリウム水溶液を製造する。
本硫化ナトリウム水溶液製造方法において用いる硫黄は、単体硫黄を用いることが好ましく、塊状、粒状、粉状等のような固体状の単体硫黄を用いることができる。固体状の単体硫黄については、個々の硫黄(粒子や塊)があまり大きいとナトリウムイオン含有水溶液と反応しにくいので、粒子の細かい粉末を用いてもよい。
【0010】
本硫化ナトリウム水溶液製造方法において用いるナトリウムイオン含有水溶液は、ナトリウムイオンを含有する水溶液であって、硫黄と接触した際に反応することができるものであればいかなるものであってもよく何ら限定されるものではないが、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を例示的に挙げることができ、とりわけ反応性の高さや入手の容易性等の点から水酸化ナトリウム(NaOH)を用いることが好ましい。
また、ナトリウムイオン含有水溶液中のナトリウムイオン濃度(mol/リットル)は適宜決定されればよいが、あまり該濃度が高いと反応が激しくなりすぎたりナトリウムイオン含有水溶液の取扱が困難になることがあり、逆に、あまり該濃度が低いと反応速度が小さくなりすぎる等の問題が生じうる。このため該濃度はこれら条件を満たすようにされることが好ましい。かかる点からは、該濃度の下限として、通常、好ましくは1mol/リットル以上とされ、より好ましくは1.5mol/リットル以上とされ、最も好ましくは2mol/リットル以上とされる。また、逆に、該濃度の上限として、通常、好ましくは5mol/リットル以下とされ、より好ましくは4mol/リットル以下とされ、最も好ましくは3mol/リットル以下とされる(従って、該濃度は、通常、好ましくは1〜5mol/リットルとされ、より好ましくは1.5〜4mol/リットルとされ、最も好ましくは2〜3mol/リットルとされる。)。
【0011】
そして、本硫化ナトリウム水溶液製造方法において反応させるナトリウムイオン含有水溶液に含まれるナトリウムイオンのモル数Mnに対する硫黄のモル数Msの比(Ms/Mn)は、あまり大きいと硫黄が残留したり反応が激しくなりすぎる等の問題が生じる可能性があり、逆にあまり小さいとうまく反応が進まず硫化ナトリウム水溶液が十分製造できない問題が生じる可能性があることから、これら両方を満たす範囲にされることが好ましく、該比(Ms/Mn)の下限として、通常、好ましくは0.2以上とされ、より好ましくは0.3以上とされ、最も好ましくは0.4以上とされる。また、逆に、該比(Ms/Mn)の上限として、通常、好ましくは0.8以下とされ、より好ましくは0.7以下とされ、最も好ましくは0.6とされる(従って、該比(Ms/Mn)は、通常、好ましくは0.2〜0.8とされ、より好ましくは0.3〜0.7とされ、最も好ましくは0.4〜0.6とされる。とりわけ該比(Ms/Mn)は0.5とされることが好ましい。)。
【0012】
本硫化ナトリウム水溶液製造方法は、ナトリウムイオン含有水溶液への硫黄の溶解を加温条件下で行うようにしてもよい。
硫黄はナトリウムイオン含有水溶液に常温では溶解しにくいので、加温条件下にて両者を混合することで硫黄をナトリウムイオン含有水溶液に迅速に溶解及び反応させるようにしてもよい。なお、本発明にいう「加温」とは、該溶解が周囲温度(常温25℃)よりも高い温度で行われることを意味するが、ナトリウムイオン含有水溶液及び硫黄の少なくとも一方を人為的に加熱する場合のみならず、両者の反応熱等により該溶解が自然に周囲温度(常温25℃)よりも高い温度になる場合も含む。
該溶解が行われる温度(ナトリウムイオン含有水溶液の温度)は、あまり高いと反応が激しくなりすぎる等の問題が生じる可能性があり、あまり低いと前述のように硫黄の溶解及び反応がうまく進まないことから、これら両方を満足するようにされるのが好ましく、通常、下限として、好ましくは50℃以上とされ、より好ましくは75℃以上とされ、最も好ましくは95℃以上とされる。また、逆に、該溶解が行われる温度の上限として、通常、好ましくは120℃以下とされ、より好ましくは110℃以下とされ、最も好ましくは105℃とされる(従って、該溶解が行われる温度は、通常、好ましくは50〜120℃とされ、より好ましくは75〜110℃とされ、最も好ましくは95〜105℃とされる。とりわけ該温度は約100℃とされることが好ましい。)。
【0013】
本発明の水銀処理液(本処理液)は、ナトリウムイオン含有水溶液に硫黄を溶解して製造される、水銀処理液である。また、本処理液は、ナトリウムイオン含有水溶液が水酸化ナトリウム水溶液であってもよい。
上述のように、硫化ナトリウムを含有する水溶液に水銀(気体、液体、固体のいずれであってもよいが、本処理液による処理速度が大きいことからは気体又は液体であることが好ましい。)を接触させることで、該水溶液中に水銀を溶解(溶解後、HgSとして沈殿する。)させ、水銀を処理することができることから(反応式:Hg+NaS→HgS↓+2Na)、ナトリウムイオン含有水溶液に硫黄を溶解して製造される硫化ナトリウム含有水溶液を水銀処理液として用いることができる。本処理液に水銀を接触させることで、水銀を処理するが、本処理液中の硫化ナトリウム濃度はあまり低いとうまく水銀を処理することができず、本処理液中の硫化ナトリウム濃度はあまり高いと本処理液の取り扱いに注意が必要であるので、これら両方が満足される範囲の硫化ナトリウム濃度とされることが好ましく、通常、好ましくは0.5mol/リットル以上とされ、より好ましくは0.8mol/リットル以上とされ、最も好ましくは1mol/リットル以上とされる。また、逆に、本処理液中の硫化ナトリウム濃度の上限として、通常、好ましくは5mol/リットル以下とされ、より好ましくは3mol/リットル以下とされ、最も好ましくは2mol/リットルとされる(従って、本処理液中の硫化ナトリウム濃度は、通常、好ましくは0.5〜5mol/リットルとされ、より好ましくは0.8〜3mol/リットルとされ、最も好ましくは1〜2mol/リットルとされる。)。
本処理液においては、ナトリウムイオン含有水溶液が水酸化ナトリウム水溶液とされてもよく、こうすることで水酸化ナトリウム水溶液の反応性の高さや入手の容易性等の点から、本処理液を容易に調製することができる。
【0014】
本処理液製造方法は、ナトリウムイオン含有水溶液に硫黄を溶解する工程を有する、水銀処理液の製造方法である。
本処理液製造方法において用いる硫黄は、上で説明した本硫化ナトリウム水溶液製造方法において用いる硫黄と同様のものを用いることができるので、ここでは説明を省略する。
本処理液製造方法において用いるナトリウムイオン含有水溶液も、上で説明した本硫化ナトリウム水溶液製造方法において用いるナトリウムイオン含有水溶液と同様のものを用いることができるので、ここでは説明を省略する。
そして、ナトリウムイオン含有水溶液中のナトリウムイオン濃度(mol/リットル)及びナトリウムイオン含有水溶液に含まれるナトリウムイオンのモル数Mnに対する硫黄のモル数Msの比(Ms/Mn)についても、上で説明した本硫化ナトリウム水溶液製造方法と同様であるのでここでは説明を省略する。
さらに、本処理液製造方法においても、ナトリウムイオン含有水溶液への硫黄の溶解を加温条件下で行うようにしてもよく、この「加温」の意義や溶解が行われる温度(ナトリウムイオン含有水溶液の温度)に関しても、上で説明した本硫化ナトリウム水溶液製造方法と同様であるのでここでは説明を省略する。
【0015】
本発明の水銀処理方法(本処理方法)は、ナトリウムイオン含有水溶液に硫黄を溶解して製造される硫化ナトリウム水溶液に水銀を接触させる工程を有する、水銀処理方法である。
上で説明したように、硫化ナトリウムを含有する水溶液(硫化ナトリウム水溶液)に水銀を接触させることで、該水溶液中に水銀を溶解(溶解後、HgSとして沈殿する。)させ、水銀を処理することができる(反応式:Hg+NaS→HgS↓+2Na)ので、ナトリウムイオン含有水溶液に硫黄を溶解して製造される硫化ナトリウム水溶液に水銀を接触させることで水銀を処理するようにしてもよい。
本処理方法に用いる硫化ナトリウム水溶液中に含まれる硫化ナトリウム濃度はあまり低いとうまく水銀を処理することができず、あまり高いと取り扱いに注意が必要であるので、これら両方が満足される範囲の硫化ナトリウム濃度とされることが好ましく、通常、上述の本処理液中の硫化ナトリウム濃度の範囲と同様であるので、ここでは説明を省略する。
また、水銀は、気体、液体、固体のいずれであってもよいが、硫化ナトリウムを含有する水溶液に接触した際の反応速度が大きく効率的に水銀を処理することからは気体又は液体であることが好ましい。なお、硫化ナトリウム水溶液に水銀を接触させる方法としては、硫化ナトリウム水溶液に水銀が接触し反応(反応式:Hg+NaS→HgS↓+2Na)が進むものであれば何ら限定されるものではないが、例えば、水銀蒸気が含まれる気体を硫化ナトリウム水溶液中に通過させる(例えば、バブリング)ようにしたり、水銀液体が付着した対象物(例えば、水銀液体が付着した部品を有する廃棄物を分解し該部品のみを取り出して、該取り出した部品を該対象物とするようにしてもよい。)を硫化ナトリウム水溶液中に浸漬したりすることを例示することができる。
硫化ナトリウムを含有する水溶液に水銀が接触すると、Hg+NaS→HgS↓+2Naのように反応し、水銀はHgSとして沈殿することで、水銀が処理(水銀が蒸気として飛散したり、液体として流出することを防止する。)される。
なお、本処理方法に用いる「ナトリウムイオン含有水溶液に硫黄を溶解して製造される硫化ナトリウム水溶液」の調製については、上述の本硫化ナトリウム水溶液製造方法と同様に行うことができるので、ここでは説明を省略する。
【0016】
本処理方法におけるナトリウムイオン含有水溶液は、水酸化ナトリウム水溶液であってもよい。
上述と同様、このようにすれば水酸化ナトリウム水溶液の反応性の高さや入手の容易性等の点から、本処理方法を容易に用いることができる。
【0017】
本処理方法では、次の(a)〜(d)の工程を有するようにしてもよい。即ち、(a)硫化ナトリウム水溶液に水銀を接触させる工程、(b)(a)で生じた沈殿物を除去する工程、及び(c)(b)で沈殿物を除去した水溶液に硫黄を溶解して、水銀処理液を調製する工程、(d)(c)で調製した水銀処理液を用いて、(a)〜(c)をn回(nは0又は1以上の正数)繰り返す工程。
(a)工程では、上記した反応(反応式:Hg+NaS→HgS↓+2Na)により水銀が水溶液中にHgS↓として沈殿する。
(b)工程では、(a)で生じた沈殿物(即ち、HgS)を除去する。沈殿物の除去は、いかなる方法が用いられてもよく何ら制限されるものではないが、例えば濾過、静置分離、遠心分離等のような方法によって行われてもよい。沈殿物(即ち、HgS)が除去された液(以下、「沈殿除去液」という。)には、反応式:Hg+NaS→HgS↓+2Naのうちの2Naが存在している。
(c)工程では、(b)で沈殿物を除去した水溶液(沈殿除去液)に硫黄を溶解する。これにより沈殿除去液中の2Naと硫黄とが反応し、硫化ナトリウム(NaS)が生成するので水銀処理液を調製することができる。
(d)工程では、(c)で調製した水銀処理液を用いて、(a)〜(c)をn回(nは0又は1以上の正数)繰り返す。なお、nは0であってもよく、この場合には(d)工程は実際上存在しないことになる。
このようにすることで沈殿物(HgS)除去と沈殿除去液への硫黄溶解とを行うことで、硫化ナトリウムを含有する水溶液に水銀を接触させ水銀を処理する水銀処理を繰り返し行うことができるので、硫化ナトリウムを含有する水溶液を廃棄することなく繰り返し用いることができ、省資源及び公害防止に資することができる。
【0018】
本処理方法は、蛍光管の水銀処理に用いられてもよい。蛍光灯や水銀灯等に用いられている蛍光管には水銀が封入されており、蛍光管を廃棄する際、該封入されている水銀が周辺環境に散逸することで環境汚染を引き起こすことが問題になっている。
このため蛍光管を廃棄する際、蛍光管内部に封入されていた水銀を本処理方法により処理(HgS沈殿物とする)するようにすればかかる問題を防止又は減少させることができる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0020】
(1)製造例
水酸化ナトリウム(一級試薬、NaOH)500gを純水に溶解させ、全量を5リットルにした(NaOH2.5mol/リットル水溶液)。この5リットルの水酸化ナトリウム水溶液に硫黄粉末(一級)200gを投入した。
硫黄粉末200gが投入された水酸化ナトリウム水溶液(以下、「混合溶液」という。)を攪拌しつつ約100℃まで加熱した。混合溶液を約100℃に保ったまま攪拌を続けると、混合溶液中の硫黄粉末が徐々に溶解した。硫黄粉末の溶解につれて、混合溶液の色は(溶解前は無色)黄色から赤褐色に変わった。これにより混合溶液中に存するナトリウムイオン(Na)と硫黄粉末とが反応し、硫化ナトリウム(NaS)が生成した。この硫化ナトリウム(NaS)の生成は、Pb、Bi、Cu、Cd等との反応によりPbS、Bi、CuS、CdSが沈殿することにより確認され、また、硫化ナトリウム(NaS)の反応収率(硫黄粉末200gのモル数に対する生成した硫化ナトリウム(NaS)のモル数の割合により示す。)は、ほぼ100%であった。
混合溶液中の硫黄粉末が完全に溶解した後、混合溶液の加熱をやめ、室温下にて冷却した。このようにして得られた液体組成物を「製造組成物」という。
なお、製造組成物中から硫化ナトリウム(NaS)を分離(単離)するには、水分を蒸発等させ除去すればよい(必要があれば、水分を除去する前に濾過等をしてもよい。)。
【0021】
このように製造組成物として硫化ナトリウム水溶液(NaS)を製造すれば、極めて安価に硫化ナトリウム水溶液を製造することができる。例えば、本発明者が入手可能な水酸化ナトリウム(一級試薬)500gは約68円程度であり、硫黄粉末(一級)200gは約25円程度である。このため(1)製造例の製造組成物約5リットルの原材料費は約93円(68+25)である。
一方、市販品の硫化ナトリウム(NaS・9HO)1級品500gは約2400円程度であるので、(1)製造例の製造組成物のように約2.5mol/リットルの硫化ナトリウム(NaS)水溶液を調製すれば約14400円(600.45g(2880円)×5)を要する。
即ち、約2.5mol/リットルの硫化ナトリウム(NaS)水溶液を市販の試薬を用いて調製すれば原材料費として約14400円要するところを、(1)製造例によれば約93円と大幅に削減することができる。
【0022】
(2)使用例
製造組成物を用いて水銀の吸収実験を行った。
製造組成物を容器に注入した。一端を該容器の製造組成物中に潜入させたノズルを経由して水銀蒸気を含んだ空気(未処理ガス)を、該容器の製造組成物中に吹き込んだ(バブリング)。これにより、製造組成物中の硫化ナトリウム(NaS)と、未処理ガス中の水銀(Hg)と、が反応することで、未処理ガス中の水銀(Hg)が硫化水銀HgSの沈殿として除去された。
反応式:Hg+NaS→HgS↓+2Na
この硫化水銀HgSは固体の沈殿として析出するので、濾過等の公知の方法で容易に除去されることができるが、ここでは濾過により沈殿物を除去した。このようにして沈殿物(硫化水銀HgS)を除去された液体(以下、「液部」という。)にはナトリウムイオン(Na)が存するので、以下の(3)再生例に述べるようにして再びNaSを製造することができる。
【0023】
(3)再生例
上記の(1)製造例における水酸化ナトリウム水溶液に替えて液部を用いた。具体的には、液部に硫黄粉末を投入した。なお、この液部に対する硫黄粉末の量は、液部中に存するナトリウムイオン(Na)量に応じた量とすればよいので、上記(2)使用例において、沈殿物(硫化水銀HgS)として系外に除去したSの量とした。
このように硫黄粉末が投入された液部(以下、「混合液部」という。)を攪拌しつつ約100℃まで加熱した。混合液部を約100℃に保ったまま攪拌を続けると、混合液部中の硫黄粉末が徐々に溶解した。これにより液部中に存するナトリウムイオン(Na)と硫黄粉末とが反応し、硫化ナトリウム(NaS)が生成した。なお、この硫化ナトリウム(NaS)の生成は、前述と同様、Pb、Bi、Cu、Cd等との反応によりPbS、Bi、CuS、CdSが沈殿することにより確認した。
混合液部中の硫黄粉末が完全に溶解した後、混合液部の加熱をやめ、室温下にて冷却することで、硫化ナトリウム(NaS)を含む液体組成物(以下、「再生組成物」という。)を得ることができた。かかる再生組成物は、上記(2)使用例において製造組成物の代わりに未処理ガス中の水銀(Hg)を吸収除去するのに用いることができる。再び、上記(2)使用例において未処理ガス中の水銀(Hg)を吸収除去するのに用いられた再生組成物は、上記と同様、硫化水銀HgSを除去し、ここで記載した(3)再生例に従って硫黄粉末を投入し攪拌しつつ加熱することで再びNaSを製造することができる。
【0024】
このように、製造組成物は、未処理ガス中の水銀(Hg)の吸収を行う吸収工程と、硫化水銀HgSの除去及び硫黄粉末との反応(攪拌・加熱を含む)である再生工程と、を交互に繰り返し行うことで、幾度も水銀を吸収除去するのに用いられることができる。
また、蛍光管を廃棄する際、蛍光管内部に封入されている水銀の散逸による環境汚染が問題になっているが、蛍光管を破壊する場所から発生する気体(水銀を含む)を吸引して(2)使用例のように製造組成物や再生組成物等で処理するようにしたり、破壊された蛍光管の破片に製造組成物や再生組成物等を接触させるようにすれば、廃棄される蛍光管から水銀が散逸することを防止又は減少させることができる。
なお、水銀(Hg)の吸収を行う吸収工程と、硫化水銀HgSの除去及び硫黄粉末との反応(攪拌・加熱を含む)である再生工程と、を交互に繰り返しつつ蛍光管を処理すれば、3000〜5000本もの蛍光管を処理することも可能になる。
【0025】
以上のように、(1)製造例は、ナトリウムイオン含有水溶液たる水酸化ナトリウム水溶液に硫黄を溶解する工程を有する、硫化ナトリウム水溶液(製造組成物)の製造方法である。また、(1)製造例は、ナトリウムイオン含有水溶液たる水酸化ナトリウム水溶液に硫黄を溶解する工程を有する、水銀処理液(製造組成物)の製造方法である。そして、(1)製造例においては、ナトリウムイオン含有水溶液たる水酸化ナトリウム水溶液への硫黄の溶解を約100℃の加温条件下で行う。
そして、(1)製造例の製造組成物は、ナトリウムイオン含有水溶液たる水酸化ナトリウム水溶液に硫黄を溶解して製造される、水銀処理液である。
【0026】
そして、(2)使用例は、硫化ナトリウムを含有する水溶液(製造組成物)に水銀(未処理ガス)を接触させる工程を有する、水銀処理方法である。そして、硫化ナトリウムを含有する水溶液(製造組成物)は、ナトリウムイオン含有水溶液たる水酸化ナトリウム水溶液に硫黄を溶解して製造される硫化ナトリウム水溶液である。
さらに、(2)使用例のバブリングは、(a)硫化ナトリウム水溶液(製造組成物)に水銀(未処理ガス)を接触させる工程であり、そして(2)使用例の濾過による沈殿物(硫化水銀HgS)除去は、(b)(a)で生じた沈殿物を除去する工程である。そして、(3)再生例の液部に硫黄粉末を溶解させることは、(c)(b)で沈殿物を除去した水溶液(液部)に硫黄を溶解して、水銀処理液を調製する工程である。さらに、未処理ガス中の水銀(Hg)の吸収を行う吸収工程と、硫化水銀HgSの除去及び硫黄粉末との反応(攪拌・加熱を含む)である再生工程と、を交互に繰り返し行うことは、(d)(c)で調製した水銀処理液を用いて、(a)〜(c)をn回(nは0又は1以上の正数)繰り返す工程である。
なお、(2)使用例は、蛍光管の水銀処理に用いられるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウムイオン含有水溶液に硫黄を溶解する工程を有する、硫化ナトリウム水溶液の製造方法。
【請求項2】
溶解を加温条件下で行う、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
ナトリウムイオン含有水溶液が水酸化ナトリウム水溶液である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
ナトリウムイオン含有水溶液に硫黄を溶解して製造される、水銀処理液。
【請求項5】
ナトリウムイオン含有水溶液が水酸化ナトリウム水溶液である、請求項4に記載の水銀処理液。
【請求項6】
ナトリウムイオン含有水溶液に硫黄を溶解する工程を有する、水銀処理液の製造方法。
【請求項7】
溶解を加温条件下で行う、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
ナトリウムイオン含有水溶液が水酸化ナトリウム水溶液である、請求項6又は7に記載の製造方法。
【請求項9】
ナトリウムイオン含有水溶液に硫黄を溶解して製造される硫化ナトリウム水溶液に水銀を接触させる工程を有する、水銀処理方法。
【請求項10】
ナトリウムイオン含有水溶液が水酸化ナトリウム水溶液である、請求項9に記載の水銀処理方法。
【請求項11】
下記の工程を有する、請求項9又は10に記載の水銀処理方法:
(a)硫化ナトリウム水溶液に水銀を接触させる工程、
(b)(a)で生じた沈殿物を除去する工程、及び
(c)(b)で沈殿物を除去した水溶液に硫黄を溶解して、水銀処理液を調製する工程、
(d)(c)で調製した水銀処理液を用いて、(a)〜(c)をn回(nは0又は1以上の正数)繰り返す工程。
【請求項12】
蛍光管の水銀処理に用いられる、請求項9乃至11のいずれか1に記載の水銀処理方法。

【公開番号】特開2006−327831(P2006−327831A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−148856(P2005−148856)
【出願日】平成17年5月23日(2005.5.23)
【出願人】(596078120)株式会社大森機械製作所 (1)
【出願人】(505188674)
【Fターム(参考)】