説明

磁束を測定するためのセンサ

サンプル材料の磁束を測定するためのセンサが提供される。当該センサは、ピックアップ信号を生成するための第1のピックアップコイル3aと、別のピックアップ信号を生成するための第2のピックアップコイル3bとを含む、第1および第2のピックアップコイル3a、3bは、背景磁界に対する実質的に等しい感度と、当該コイル内の中心位置からのずれに対する実質的に等しい感度とを有するように構成される。当該コイルは、サンプルによって生成される磁界に対して異なる感度を有する。当該センサを用いることにより、たとえば、パルス磁界を用いる完全なヒステリシスの測定機器のために、変動する背景磁界における磁気材料の磁気応答を測定することができる。この発明はまた、磁気モーメントのための計器と金属サンプル中の誘導電流の測定とに適用され、この場合、不所望な背景磁界が存在する状態で測定することが必要とされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
この発明は、磁束または磁気モーメントを測定するためのセンサに関し、磁束計または磁気モーメントのための計器に対する、または、金属サンプル中の誘導電流の測定に対する磁気材料のテストにおいて用いられる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
永久磁石材料は、しばしば、電気エネルギを機械エネルギに変換するための装置において用いられる。これらの装置においては、機械的な力は永久磁石の磁界の相互作用によって生成され、この磁界はコイルを通って流れる電流によって生成される。このような装置の典型的な例として挙げられる永久磁石モータにおいては、巻線を通って流れる電流が磁界を発生させ、この磁界が、永久磁石によって生成された磁界と相互作用してロータを駆動させる。別の例として挙げられる(ラウド)スピーカにおいては、巻線は永久磁石に対して自由に移動可能である。増幅された音声信号は当該巻線を通過し、結果として得られる磁界により、巻線およびラウドスピーカのコーンが音声信号を発生させる。こうして、永久磁石は、しばしば、反作用する外部磁界とともに用いられる。
【0003】
装置を安定させるために、装置内で用いられる永久磁石材料がその磁気状態を劣化させることなく外部磁界に耐え得ることを知っていることが望ましい。反作用する磁界の強度が高ければ、磁化方向が不安定になり、最終的に磁化が反転することとなる。外部磁界に耐える能力は、技術文献において、磁界Hの関数として単位体積当たりの磁気モーメント(磁化M)の1組の曲線で説明される。これらの曲線はヒステリシス曲線と称され、それらの曲線は、材料の磁気状態の回復力とその変化に対する弾性復元力とを説明している。
【0004】
典型的な応用例については、反作用する磁界と組合された磁化の挙動が重要となる。磁化対外部磁界のグラフにおいては、この重要な領域は第二象限に位置する。材料の磁化の反転を開始させるのに必要な磁界を説明するパラメータは、保磁場HcJである。図1は、永久磁石材料についての典型的なヒステリシス曲線の第二象限を示す。
【0005】
NdFeBおよびSmCoなどの強力な永久磁石材料の出現により、装置に変革がもたらされた。というのも、かなり少ない材料で磁界を生成することができ、これにより重量と体積とが節約できたからである。現在では、このような材料を用いて、保磁場が2MA/mを上回っている永久磁石材料を作成することができる。
【0006】
ヒステリシスグラフを作成するために、広範囲の強度にわたり磁界(すなわち、保磁場)を発生させることによって磁気材料をテストする必要がある。保磁場が2MA/mを上回っていれば、完全なヒステリシス曲線を測定することのできる磁界の生成には特別な技術が必要となる。従来の実験用の電磁石はテーブルトップサイズの鉄ヨークおよび磁極片を備えており、1.6MA/mの磁界を達成することができる。この数値を上回っていれば、磁界の生成には10kWを上回る電力が必要となり得る。超電導磁石により10MA/mの範囲の磁界を実現することができるが、これらは特別に極低温であることを必要とする。したがって、これらは、購入や稼働のコストが比較的高くなってしまう。キャパシタバンクなどのパルス電源から生成された磁界により、大きな電力を組込む必要がなくなる。というのも、エネルギ貯蔵電源から電力が得られるからである。結果として、貯蔵された利用可能なエネルギによってやがてパルスが制限されることとなる。現在では、研究施設におけるパルス磁界の導入は、50MA/m以上までの磁界に達する。実験用機器は
、コンパクトな容量放電に基づいて25MA/mまでの磁界に達する。これを考慮すると、容量性のエネルギ貯蔵放電を用いることにより、極めて保磁的な材料の完全なヒステリシスを測定するのに必要な磁界を生成することが望ましい。
【0007】
サンプル材料の磁気モーメントを測定する公知の一方法は、ピックアップコイルを用いて、サンプルから出てくる磁束を測定することである。(たとえば、時間が経つにつれて積分される)ピックアップコイルにおいて誘導される電圧は磁気モーメントに比例している。最も一般的なピックアップコイルシステムのうちの1つは、ヘルムホルツ(Helmholtz)コイル対である。ヘルムホルツコイル対の幾何学的形態は特別な幾何学的形態であり、その応答はサンプル位置に対して感度がやや低い。すなわち、中心位置からのずれは4次数においてのみ見ることができる。典型的には、このずれは、応答が1%変化する前に、コイルの半径の半分ほどの大きさになり得る。より多くのコイルを用いるとより高い次数の補償が可能となる。ヘルムホルツコイルのサンプル位置に対する低い感度は、大きなサンプルサイズの測定や、粗いサンプルの位置決めに用いられる。
【0008】
ヘルムホルツコイルは、共通の軸を備えた一対の同一の円形コイルである。当該コイルの間隔は当該コイルの半径に等しい。その間隔がより狭いコイルの組は単一のコイルと同様の感度を有しており、その感度は中心において最大となり、軸から遠ざかると小さくなる。軸方向の距離の関数としての応答は、負の2次依存性を示す。間隔がより広いコイルの組については、その応答は2つの独立したコイルの応答に類似しており、各コイルの中心付近では最大ととなり、中間では最小となる。その中間から各コイルの中心に向かって遠ざかると感度が高まるので、その感度は正の2次依存性を示す。図2は、ヘルムホルツコイルの幾何学的形態を、当該コイルの半平面の断面図で概略的に示す。回転軸は左側に位置し、コイルは2つの正方形として示されている。応答の強度は、95%から105%の範囲にわたって0.5%の段階ごとのグレースケールで示されている。
【0009】
磁気モーメントを測定するための代替的な方法は、磁界の勾配中に配置された場合のサンプルに対する力を測定することである。別の方法としては、定位置においてサンプルによって生成された磁束密度(B場)を測定することである。この方法は幾何学的形態に依存している。
【0010】
ヘルムホルツコイル対を用いて磁気モーメントを測定する方法は、安定した背景磁界がある場合にのみ用いることができる。その幾何学的形態のために、ヘルムホルツコイル対は、コイルの中心における磁気サンプルの磁束に対するよりも、背景磁界の磁束に対しての方がはるかに優れたセンサとなる。したがって、背景磁界の変動により、ヘルムホルツコイル対またはいずれかのコイルにおいて寄生信号が生成される。しかしながら、上述のとおり、完全なヒステリシス曲線を生成するのに必要な高い保磁場では、背景磁界が一定にならない技術が必要とされる。
【0011】
変化する背景磁界における磁気モーメントを測定するために、誘導測定に基づいた任意の方法のための補償技術が必要とされる。補償は、応答の異なる2つのコイルの組の使用に基づくだろう。一方のコイルの組はサンプルの応答のうちのより多くを測定し、もう一方のコイルの組は背景磁界の応答のうちのより多くを測定する。サンプルの適切な信号は、最初のものから後者を減ずることによって再構築されなければならない。しかしながら、第1の組がヘルムホルツの幾何学的形態を有している場合、第2の組の信号はサンプルの位置に対して感度が高くなるだろう。両方の信号の差によって、位置に対する高い感度が示されることとなる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
これまで、背景補償が適切であり、かつヘルムホルツコイル対の位置に対する感度が低いセンサは開発されていない。
【0013】
この発明は、特に変動する背景磁界におけるサンプルの磁束または磁気モーメントの測定の精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明の概要
この発明の目的は、特に変動する背景磁界におけるサンプルの磁束または磁気モーメントの測定を向上させるための方法および装置を提供することである。
【0015】
この発明の第1の局面は、サンプル材料の磁気モーメントを測定するためのセンサを提供する。当該センサは、ピックアップ信号を生成するための2つ以上のピックアップコイルを含む。2つのコイルからの信号の組合せにより、背景磁界に対する低いかまたは有意に0の感度がもたらされる。背景磁界は、2つのコイルの構成と当該コイルからの信号の組合せとによって補償される。たとえば、背景磁界の影響に対する結果として得られる感度としては、ピックアップコイルのうちの1つからの個々の測定された信号の10%未満または1000分の1以下を得ることができる。さらに、このコイルの構成は、当該コイル内の中心位置からの測定されるべきサンプルのずれに対する低いかまたは有意に0の感度を有する。結果として得られる感度は、典型的には主ピックアップコイルの半径であるテストゾーンの半径/寸法の2分の1の中心部からの典型的なずれについて、個々の信号の20%未満、および、2%未満から1%までであり得る。サンプルによって生成される磁界に対する有意な感度も達成される。測定されたサンプルに関する信号は、すなわち、この発明の補償機構が存在しなかった場合、好ましくは、ピックアップコイルのうちの1つから得られる個々の信号の5%を上回りかつ50%以上までである。
【0016】
この発明はまた、サンプル材料の磁気モーメントまたはそれが生成する磁束を測定するためのセンサを提供し、当該センサは、ピックアップ信号を生成するための第1のピックアップコイルと、別のピックアップ信号を生成するための第2のピックアップコイルとを含み、当該第1および第2のピックアップコイルは、これらが、背景磁界に対する実質的に等しい感度と、当該コイル内における中心位置からのサンプルのずれに対する実質的に等しい感度と、サンプルによって生成される磁界に対する異なる感度とを有するように構成される。
【0017】
この種類のセンサは、位置決め感度に関して、ヘルムホルツコイル対と同じ利点および同様の感度を有する一方で、背景信号が補償されるという付加的な利点をも有する。これらの特性により、当該センサが、たとえばパルス磁界を用いた完全なヒステリシスの測定機器のために、変動する背景磁界における磁気材料の磁気応答の測定に十分に適したものにされる。たとえば、背景磁界は、0.25テスラ(Tesla)以上、1テスラ以上の大きさ、または5テスラ以上のパルス磁界であり得る。このような大きなパルス磁界が有する利点は、ヒステリシスループの周囲において非常に硬質な材料を駆動するために大きな磁界を獲得できることである。これらが有する不利点は、パルス磁界が、補償を必要とする大きなEMFを誘導し得ることである。この発明はまた、磁気モーメントのための磁束計または計器と、磁気サンプルにおける誘導電流の測定とに適用され、この場合、不要な背景磁界が存在している状態で測定を行なうことが必要とされている。
【0018】
この発明の第2の局面は、磁気材料のサンプルをテストするためのテスト装置を提供する。当該テスト装置は、テストゾーン内において変動する磁界を発生させるための発生器と、上述のタイプのセンサとを含み、少なくとも第1および第2のピックアップコイルが当該テストゾーン内に位置決めされている。
【0019】
この発明はまた、磁気材料のサンプルをテストするためのテスト装置を提供する。当該テスト装置は、
テストゾーンを含み、未知の磁気背景磁界と上述のセンサとが当該ゾーン内に位置決めされている。
【0020】
この発明はまた、磁気オープンループテスト構成、すなわち、磁気材料のサンプルをテストするためのテスト装置を提供する。当該テスト装置は、
テストゾーン内に位置決めされている上述のセンサを含み、当該テストゾーン周囲の領域には、サンプルによって生成される磁束を案内するための補助的な磁気材料が有意には存在しない。したがって、当該構成は、ピックアップコイルとサンプルとの間に有意なエアギャップを有するオープン磁気ループになり得る。
【0021】
当該コイル構成は、テストゾーンのための磁極片を用いずに作製することができる。当該コイルは、組合された信号が、サンプルの磁気モーメントに有意に依存し、サンプルの幾何学的形態からは有意に独立しているように構成される。
【0022】
この発明はまた、磁気材料のサンプルをテストするためのテスト装置を提供する。当該テスト装置は、テストゾーンにおける実質的に0.25テスラを上回る磁界のための発生器と、当該ゾーン内に位置決めされている上述のセンサとを含む。
【0023】
上述のテスト装置はいずれも、サンプル材料のヒステリシス曲線を得るよう動作可能なデータ分析機能を含み得る。
【0024】
ここで、この発明が添付の図面に関連して説明される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
この発明の実施例は、例示のためにのみ添付の図面を参照して説明される。
好ましい実施例の説明
この発明は、特定の実施例に関連しいくつかの図面を参照して説明されるが、これらには限定されず、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。添付の図面は概略的なものにすぎず、限定的なものではない。添付の図面においては、要素のうちのいくつかは、説明のためにその大きさが誇張されており、縮尺通りには描かれていない可能性がある。「含む("comprising")」という語は、この説明および添付の特許請求の範囲において用いられる場合、他の要素またはステップを除外するものではない。
【0026】
この発明は、主に、硬質の磁気材料、すなわちヒステリシスループに対する有意な区域を備えたもの、のテストに関連して説明される。また、これらの磁気材料は、有意な残留磁気と保磁力とを有するだろう。このような材料についての飽和磁界は、典型的には、0.25テスラを上回っており、たとえば0.5テスラ以上、たとえば1テスラ以上、たとえば5テスラ以上となるだろう。
【0027】
図3および図4は、背景磁界内における永久磁石材料のサンプルの磁気モーメントを測定するためのテスト装置の実施例を示す。図3は装置全体を示し、図4はテストゾーンおよびセンサコイルのより詳細な図を示す。サンプル材料の磁束を測定するためのセンサは、ピックアップ信号を生成するための2つ以上のピックアップコイル3aおよび3bを含む。ピックアップコイル3a、3bは、信号の線形結合が背景磁界に対するごくわずかな感度と、当該コイル内の中心位置からのずれに対するごくわずかな感度とを有するように構成される。当該コイルは、サンプルによって生成される磁界に対して有意な感度を有する。当該センサは、たとえばパルス磁界を用いる完全なヒステリシスの測定機器のために
、変動する背景磁界における磁気材料の磁気応答を測定するのに用いることができる。この発明はまた、磁気モーメントのための計器にも適用され、この場合、不要な背景磁界がある状態で測定を行なうことが必要とされている。
【0028】
大型のコイル4、たとえばソレノイドは、コイル4においてパルス磁界を発生させることのできるエネルギ貯蔵電源10に接続される。たとえば、当該磁界は、1テスラ以上または5テスラ以上の大きさのパルス磁界であり得る。この磁界は、背景磁界または保磁場と称される。使用の際に、コイル4内の区域は、パルス磁界に晒される。コイル4内には中空の円筒形の支持部2が位置決めされる。支持部2は、テストサンプル1を収容するのに十分な直径を有する。典型的には、これが永久磁石材料の長さとなるだろう。2つのコイル3a、3bは支持部2上に取付けられる。磁気構成は、サンプルとコイルとの間に有意な空隙が存在するという点でオープン磁気ループである。この構成は、テストゾーンのための磁極片を用いずに作製することができる。
【0029】
第1のコイル3aは巻線の第1の組3a(1)と巻線の第2の組3a(2)とを含み、これらは支持部2の軸5に沿って間隔をあけて配置されている。巻線の2つの組は互いに直列に接続される。第2のコイル3bはまた、巻線の第1の組3b(1)と巻線の第2の組3b(2)とを含み、これらは支持部2の軸5に沿って間隔をあけて配置されている。巻線の2つの組はまた互いに直列に接続される。巻線3bは、巻線3bが巻線3aよりもテストサンプル1から離れるように巻線3aの両側に取付けられる。図4に示されるコイルは断面が円形であるが、これは必須ではなく、断面は正方形などの他の形であってもよい。
【0030】
コイル3a、3bのこの構成により得られる効果は以下のとおりである。
・コイルが、テストシーケンス中にコイル4によって生成される背景磁界に対して等しい感度を有する。
【0031】
・コイルが、サンプル1によって生成される磁束を表わす信号に対して異なる感度を有する。
【0032】
・コイルが、コイルの配列の中心位置からのサンプル1のわずかなずれに対して等しい感度を有する。
【0033】
背景磁界に対する等しい感度についての要件は、各コイル3a、3bについての積(巻きの数×コイルの面積)を等しくすることによって、均一な背景磁界において満たすことができる。なお、サンプルまたは背景磁界に対する大きさまたは位置などのコイルの特性により、または、コイルの後に配置され図4において要素6として示される増幅器を用いることにより、コイルの感度が別のコイルの感度と等しくなり得る(かまたは異なり得る)ことに留意されたい。たとえば、増幅器6は、増幅後、特定の信号成分(たとえば背景磁界)がコイル3bからの信号中の同じ成分と同じ振幅で現れるようにコイル3aからの信号の振幅を増大させてもよい。
【0034】
各々のピックアップコイル3a、3bは、そのコイルを通過する磁束から生じる誘導電圧である信号を生成する。誘導電圧は、背景磁界による成分と、サンプル1によって生成される磁界による成分とを含むだろう。コイル3aおよび3bが背景磁界に対して等しい感度を有しているので、背景磁界によるコイル3a、3bからの信号中の成分は等しくなるはずである。コイル3bをコイル3aよりもサンプル1から遠くに位置決めすることにより、サンプル1によって生成される磁束による成分が信号3a、3bにおいて確実に異なることとなる。巻線3a、3bからの信号が互いから減算される。信号3bは信号3aから減算されてもよい。背景磁界による等しい(かまたはほぼ等しい)成分が互いに打消
し合うこととなる。支持部2内の中心位置からのサンプル1の位置のずれによって、コイル3a、3bからの信号に実質的に等しい成分が生成され、結果として、信号3a、3bの減算により、中心位置からずれているサンプルの影響が打消されることとなる。この減算の全体的な効果は、結果として得られる信号が背景磁界とサンプルの中心位置からのわずかなずれとに影響されなくなることである。
【0035】
コイル3aおよび3bの位置はいくつかの方法で決定することができる。最も単純な手順は、軸に沿った異なる位置におけるコイルにおいて生成された磁束を数値的に決定することである。背景磁界を補償するために、コイルにおける巻きの数の割合は、当該コイルにおける磁束に反比例しており、巻線の方向は逆になっている。実現可能なコイルの組については、サンプル位置に対する感度は、たとえば、磁界の計算に適した有限差分法または有限要素法によって数値的に算出される。このような一般的な方法は周知である。たとえば、「電界および磁界の分析および計算(″Analysis and Computation of Electric and Magnetic Fields″)」(ケイ・ジェイ・ビンズ(K. J. Binns)およびピー・ジェイ・ローレンソン(P. J. Lawrenson);ペルガモンプレス(Pergamon Press);1973)、「数値解析(″Numerical Analysis″)」(アール・エル・バーデン(R. L. Burden)およびジェイ・デー・フェアズ(J. D. Faires);第7版;ワズワース・ブルックス/コール(Wadsworth Brooks/Cole);2001)、「有限要素法(″The finite element Method″)」(オー・シー・ツィエンキービッツ(O. C. Zienkiewicz)およびアール・エル・テイラー(R. L. Taylor);第5版;バターワース・ハイネマン(Butterworth-Heinemann);2000)を参照されたい。次いで、サンプル位置についての所望の補償を達成するためにピックアップコイルの幾何学な位置を繰返し変更することによって、コイルの最終的な位置が決定される。典型的には、コイルの位置を繰返し変更し、感度に関するパラメータの値を算出するよう、ソフトウェア検索ルーチンが書込まれる。まず最適化された位置を与え、次にさらなる微細な位置最適化をもたらすことによってより良い結果が得られるよう、ある構成が選択され得る。最初の好適なコイル位置は、ヘルムホルツコイルの距離をおいて配置された内側コイルと、ヘルムホルツコイルの2倍の距離をおいて配置された外側コイルとであり得る。この最初の状態から、当該位置が繰返し変化する。これらの繰返しの目的は、背景磁界が2つのコイルの構成と当該コイルからの信号の組合せとによって補償されるようにコイルを構成することである。たとえば、背景磁界の影響に対する結果として得られる感度としては、ピックアップコイルのうちの1つからの個々の測定された信号の10%未満または1000分の1以下を得ることができるように、上述の方法によってコイルが構成され得る。さらに、コイル内の中心位置からの測定すべきサンプルのずれに対する感度が低くなるかまたは有意に0になるように、コイル構成が位置決めされてもよい。結果として得られる感度は、典型的には主ピックアップコイルの半径であるテストゾーンの半径/寸法の2分の1の中心部からの典型的なずれについて、ピックアップコイルのうちの1つからの個々の信号の20%未満、2%未満および1%ほどの低さとなり得る。サンプルによって生成された磁界に対する有意な感度がまた、すなわち良好な信号とノイズとの比を得るために達成される。測定されたサンプルに関する信号は、すなわち、この発明の補償機構が存在していなかった場合、好ましくは、ピックアップコイルのうちの1つからの個々の信号の5%を上回りかつ50%以上までとなるように構成され得る。さらに、上述のすべての信号は、サンプルの幾何学的形態と無関係に測定され得る。測定構成がオープン磁気ループであるために、サンプルの正確な形状または寸法は重要ではなくなる。
【0036】
コイルの量を増やすと、より広い範囲にわたってサンプル位置を補償することができる。
【0037】
コイル3a、3bからの信号の減算はいくつかの方法で達成することができる。最も単純な形では、巻線は、1つの信号のセンスが別の信号のセンスの反対側にくるように接続
され得る。当該信号のセンスは、ドット記号を用いて従来の態様で図4に示される。これにより、信号が互いから直接減算されることとなる。代替的には、この減算は、信号を電気的に減算することによってアナログ領域において達成されてもよい。さらなる代替例においては、ブロック14におけるアナログ−デジタル変換器によって各信号を別個にサンプリングして、信号をデジタル表示する。次いで、デジタル信号が、数値的に減算されることによってデジタル領域で処理され得る。信号がいかに組合されるかに係らず、当該信号は、データ取得ブロック14においてサンプリングされ、次いで、データ処理関数16において処理されて、図1に示されるタイプのヒステリシス曲線が生成される。処理されたデータが貯蔵または他の装置に出力(20)され得る。制御関数16はまた、エネルギ貯蔵電源10の制御を協働させて、適切なときにパルス信号を生成する。ブロック12、14および16の処理が、好適なソフトウェアおよびインターフェイスを有する標準的なパーソナルコンピュータによって実行されて、コイル3a、3bからの個々の信号または信号3a、3bの組合せがサンプリングされ得る。
【0038】
図3には図示されていないが、サンプルホルダが支持部2内に付加的に設けられ、支持部2の中心軸と同軸に、好ましくはコイル3a、3bの配列内で中心に整列し得る。サンプルホルダは、予想される範囲の大きさのテストサンプルを収容するのに十分な大きさであるだろう。上述のとおり、当該センサは、コイル3a、3b内の中心位置からのテストサンプルのわずかなずれに対処し得るので、サンプルがサンプルホルダ内で中心に配置される必要はない。
【0039】
したがって、上述のセンサは、位置決めの感度に関してヘルムホルツコイル対と同じ利点を有しつつ、背景信号が補償されるというさらなる利点を有する。これらの特性により、当該センサが、たとえばパルス磁界を用いる完全なヒステリシス測定機器のために、背景磁界における磁気材料の磁気応答の測定に十分に適したものにされる。
【0040】
センサは、背景磁界における磁気材料の磁気応答を測定するのに特に有用であるが、磁束計として用いることもできる。図5を参照すると、当該装置は、図3に図示のとおり、支持部2、コイル3A、3Bの同じ構成と、同じ下流のデータ処理関数のうちの多くとを用いる。しかしながら、背景磁界25は、人工的に生成された磁界4によってではなく、(たとえば、テストサンプル1の)所望の磁束が測定されている背景環境によってもたらされる。当該センサはまた、概して金属サンプル1における誘導電流を測定するのに用いられてもよい。
【0041】
図6を参照すると、付加的なコイルを追加してさらなる利点を得ることができる。各々の付加的なコイルの組は、サンプルに対する異なる応答、背景磁界、2次のサンプル位置、4次のサンプル位置、背景磁界の軸方向の不均等性、背景磁界の放射状の不均等性、または、背景磁界の中心の2次および4次の位置を有する。コイルの各々の付加的な組があれば、1つの付加的なパラメータを補償することができる。
【0042】
この発明に従って、ピックアップコイルからの信号が組合される。典型的には、これは信号の線形結合であるだろう。一例として、(直列に接続されたいくつかの別個のコイルを含み得る)コイルiからの信号はSiである。
【0043】
【数1】

【0044】
ここで、Mは磁化であり、aiは応答性、Djは補償すべき影響、bijは、これらの
影響に対するそれぞれの応答性である。付加的なコイルを用いることにより、信号にはそれぞれの係数ciが追加され、補償すべき影響Djはキャンセルされる。
【0045】
【数2】

【0046】
上述のテスト装置のうちのいずれも、サンプル材料のヒステリシス曲線を得るよう動作可能なデータ分析機能を含み得る。この発明は、この明細書中に記載の実施例に限定されず、この発明の範囲から逸脱することなく変更および変形され得る。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】永久磁気材料についてのヒステリシス曲線の例を示す図である。
【図2】ヘルムホルツコイルの感度を示す図である。
【図3】磁界が存在する状態でサンプルの磁気モーメントを測定するための、この発明の実施例に従ったテスト装置全体を示す図である。
【図4】図3のセンサにおいて用いられるピックアップコイルをより詳細に示す図である。
【図5】磁束計として用いられる代替的な実施例を示す図である。
【図6】ピックアップコイルの付加的な組の使用を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル材料の磁気モーメントを測定するためのセンサであって、ピックアップ信号を生成するための2つ以上のピックアップコイルと、前記ピックアップ信号同士を組合せることにより、背景磁界に対する有意に0の感度、前記コイル内の中心位置からのサンプル材料のずれに対する有意に0の感度、および前記サンプル材料によって生成される磁界に対する有意な感度をもたらすための手段とを含む、センサ。
【請求項2】
前記ピックアップコイルおよび前記サンプル材料は磁気オープンループ構成で構成される、請求項1に記載のセンサ。
【請求項3】
背景磁界に対する前記組合された信号の結果として得られる感度は、前記ピックアップコイルのうちの1つからの信号の10%未満または1000分の1未満である、請求項1または2に記載のセンサ。
【請求項4】
前記サンプル材料の位置に対する前記組合された信号の結果として得られる感度は、前記センサのテストゾーンの半径の2分の1の中心部からの典型的な位置のずれについて、前記ピックアップコイルのうちの1つからの信号の20%未満、2%未満または1%未満である、請求項1から3のいずれかに記載のセンサ。
【請求項5】
前記サンプルによって生成される磁界に対する前記組合された信号の感度は、前記ピックアップコイルのうちの1つからの信号の5%を上回りかつ50%までである、請求項1から4のいずれかに記載のセンサ。
【請求項6】
前記コイルの面積と前記コイルの巻きの数との積は、前記ピックアップコイルの各々については実質的に等しい、請求項1から5のいずれかに記載のセンサ。
【請求項7】
前記ピックアップコイルは軸に沿って間隔をあけて配置される、請求項1から6のいずれかに記載のセンサ。
【請求項8】
前記ピックアップコイルは、前記軸に沿って互いから間隔をあけて配置された巻線の組を含み、1つのピックアップコイルの巻線が、他のピックアップコイルの巻線の外側に位置決めされている、請求項7に記載のセンサ。
【請求項9】
前記コイルのすべてが、前記軸に沿って互いと同軸に取付けられる、請求項7または8に記載のセンサ。
【請求項10】
前記コイルはすべて、面積が等しい、請求項7から9のいずれかに記載のセンサ。
【請求項11】
前記コイルは、前記組合された信号が前記サンプルの前記磁気モーメントに有意に依存し、前記サンプルの幾何学的形態から有意に独立しているように構成される、請求項1から10のいずれかに記載のセンサ。
【請求項12】
前記組合せ手段は、前記ピックアップ信号のうちの一方を前記ピックアップ信号のうちの他方から減算するよう動作可能である、請求項1から11のいずれかに記載のセンサ。
【請求項13】
前記組合せ手段は、1つのピックアップ信号のセンスが他のピックアップ信号のセンスの反対側にくるように第1および第2のピックアップコイルを接続する手段を含む、請求項12に記載のセンサ。
【請求項14】
前記組合せ手段は、アナログ領域において前記ピックアップ信号に作用する電気回路を含む、請求項12に記載のセンサ。
【請求項15】
前記ピックアップ信号をサンプリングしてデジタルデータ信号の対を作成するよう動作可能なアナログ−デジタル変換器をさらに含み、前記組合せ手段は前記デジタルデータ信号に作用するよう動作可能である、請求項12に記載のセンサ。
【請求項16】
ピックアップコイルの付加的な組をさらに含む、請求項1から15のいずれかに記載のセンサ。
【請求項17】
ある期間にわたって前記ピックアップ信号の組合せを積分するための積分器をさらに含む、請求項1から16のいずれかに記載のセンサ。
【請求項18】
磁気材料のサンプルをテストするためのテスト装置であって、
テストゾーン内で変動する磁界を発生させるための発生器と、
ピックアップコイルが前記テストゾーン内に位置決めされている、請求項1から17のいずれかに従ったセンサとを含む、テスト装置。
【請求項19】
前記発生器はパルス磁界を発生させる、請求項18に記載のテスト装置。
【請求項20】
前記サンプルのヒステリシス曲線を得るよう動作可能なデータ分析機能をさらに含む、請求項19に記載のテスト装置。
【請求項21】
請求項1から20のいずれかに従ったセンサを設計する方法であって、背景磁界の影響とサンプル位置の依存性とをなくすために、磁気的に誘導されたピックアップ信号の数値的なモデリングを用いてピックアップコイルの幾何学的構成が決定され、前記決定された幾何学的構成に従ってコイルを作製する、方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2008−519268(P2008−519268A)
【公表日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−539429(P2007−539429)
【出願日】平成17年11月9日(2005.11.9)
【国際出願番号】PCT/BE2005/000163
【国際公開番号】WO2006/050587
【国際公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(507149338)メティス・インストルメンツ・アンド・エクィップメント・ナムローゼ・フエンノートシャップ (1)
【氏名又は名称原語表記】METIS INSTRUMENTS & EQUIPMENT N.V.
【Fターム(参考)】