説明

磁気式エンコーダ用磁気スケールおよびその製造方法

【課題】分解能を高く設定でき小型化が可能であり、製造工程が簡略である磁気式エンコーダ用磁気スケールを提供する。
【解決手段】非磁性体基板上に一定の形状の硬磁性体と、一定の形状の軟磁性体を交互に1個ずつ配置し、非磁性体基板の表面と垂直方向に硬磁性体を着磁して、磁気スケールを構成する。ストライプ形状の硬磁性体と軟磁性体を平面上に交互に1個ずつ平行なストライプパターンとして形成し、ストライプと直交する方向のリニアスケールを構成する。また、円盤状非磁性体の円盤面上に硬磁性体と軟磁性体を円盤の中心を通る直線状パターンとし等角度に交互に1個ずつ配して、円盤状の磁気スケールを構成する。硬磁性体部分を非磁性体基板の表面に垂直な同一方向に着磁することによって狭ピッチで磁界分布が急峻な磁気スケールを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の磁極が着磁された直線移動体、あるいは回転体を磁気スケールとし、その変位を磁気センサによって検出する方式の磁気式エンコーダ用の磁気スケールとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気式エンコーダは、従来、磁性体を含む樹脂を成形してなる磁気媒体に着磁して製作した磁極列を備えた磁気媒体を移動させ、磁気媒体の変位を磁気センサ11により検出する構成とするものであり、その例を図13および図14に示す。図13(a)は直線運動する非磁性体基板100上に形成された磁気媒体101の運動方向と平行に磁極を着磁して磁気スケールとし、磁気センサ111で直線運動を検出するものである。図13(b)は、磁気媒体101が回転する非磁性体円盤103の側面上に形成され、非磁性体円盤103円周の接線方向に着磁して磁気スケールとし、磁気センサ111で回転を検出するものである。(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
このような磁気式エンコーダは、一般に、磁気媒体の面内方向に着磁して磁気スケールを形成し、磁気スケールが移動することにより磁界の強弱を磁気センサにより電気信号に変換して位置検出を行う。直線運動を検出するものが図13(a)に示すリニアエンコーダであり、回転運動を検出するものが図13(b)に示すロータリエンコーダである。図13(a)のリニアエンコーダでは、磁気スケール110が直線運動することによって磁気センサ111の磁界検出面を垂直に通過する磁界強度が変化し、磁界強度の変動する回数を検出することにより、非磁性基板100が装着された移動体の移動量を検出する。
【0004】
従来のリニアエンコーダ用磁気スケール110について図14により説明する。樹脂中に磁性粉を含ませて磁気媒体としたいわゆるプラスチックマグネットを材料とした従来の磁気スケール110においては、スケールとして使用するプラスチックマグネットの表面にN極、S極の磁極が交番するように着磁する。すなわちN極−S極の磁極方向の磁区に隣接してS極−N極となる磁極方向の磁区が形成され、磁極の向きが交互に逆になるように着磁を行う。着磁ピッチについては、例えばN極から隣り合うN極までを一組として繰り返されるピッチを1ピッチとしている。現状でのプラスチックマグネットを材料とした磁気スケールの最小ピッチは、ほぼ100μmである。磁気センサは100μm程度のピッチの磁界変化を検出する必要があるため、磁気により電気抵抗が変化し、その電気抵抗の変化を電気信号として取り出す磁気抵抗効果センサが主に用いられる。磁気式エンコーダでは、得られる信号を分周して信号とし着磁ピッチ以下の位置信号を得る。
【0005】
一般的に精度の高いエンコーダについては、直線運動検出、回転検出の両方式とも従来、光学式が多用されているが、近年、機械加工設備や印刷機などの事務機器中で、加工オイル、印刷用インキなど液摘状の液体が飛散している環境で動作する精密位置制御用のエンコーダが必要になっている。光学式エンコーダでは、このような使用環境下では油やごみの付着によって位置検出エラー発生の恐れがあり、光学式に変わって磁気式が必要とされている。
【0006】
また、印刷機などの事務機器中においては機器の外形について小型化の要求が大きく、エンコーダを設置する容積を小さくすることが要求されている。光学式エンコーダにおいては、すでに外径10mm以下のロータリエンコーダが商品化されているが、磁気式エンコーダにおいても光学式と同様に小型のエンコーダが必要とされつつある。
【特許文献1】特開平10−300514号公報
【特許文献2】特開平10−170211号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来磁気式エンコーダにおいての着磁ピッチは、光学式エンコーダのピッチに比較すると着磁方法の制限から100μm以上の大きなものであった。図14に示す従来の磁気媒体101の表面に着磁する磁気スケール110の製造方法では、着磁ヘッド120を磁気媒体であるプラスチックマグネット101に近接して設置し相対的に移動させて、位置出しをしたうえ着磁を行う。プラスチックマグネット101に対して磁気ヨーク121を近接してプラスチックマグネット101の表面に磁気信号を書き込みリニアエンコーダ用磁気スケール110とする場合、N極とS極がプラスチックマグネット101の表面で交互に逆向きになるよう着磁を行う。このため着磁ピッチが小さい場合には、隣接した信号の着磁に際し重畳して書き込む現象が発生し、記録された磁気強度が著しく低下し分解能が悪くなる問題点がある。このため磁気式エンコーダの着磁ピッチは光学式エンコーダのスケールのピッチに比較すると一般的に大きい。磁気式エンコーダにおいて光学式エンコーダと同様のピッチが実現できれば、光学式と同様に高分解能とすることができるが、このためには磁気スケール自体の着磁方式を変更して従来と比較し分解能の高いものとする必用がある。
【0008】
精密な位置制御を必要とする機器中で設置に要する容積を小さくするためにも、磁気式エンコーダの小型化が要求されており、エンコーダ小型化のために着磁ピッチが小さな磁気スケールが開発されることが必要である。光学式と同様に直径10mm以下の外径を持つロータリエンコーダを実現し、1回転256パルスあるいは512パルスの出力を得るためには、ピッチが10μmから500μmの寸法の磁気スケールを製作することが必用である。
【0009】
また、従来の磁気媒体に着磁して製作した磁気スケールにおいては、磁気センサの感度を得るために磁気スケールと磁気センサ間の距離を数10μmと非常に小さくする必要がある。磁気スケールとセンサ間は、接触を避ける程度にできるだけ小さな間隔とし、かつこの間隔を一定に保つことが必用である。この距離を大きくできることが実用上必要であり、このため磁気スケールから発生する磁界強度が大きい必要がある。
【0010】
従来例製造工程の磁気スケール着磁工程においては、図14に示したようにプラスチックマグネット101の表面に着磁を行う。このため、プラスチックマグネット101を一定のピッチで送り磁気ヘッド120の磁気ヨーク121で着磁することが必用である。このために着磁装置に精度の高い送り機構が必用であり、また着磁工程に要する時間は、N極−S極、あるいはS極−N極、それぞれ1磁区毎の書き込み時間の累積時間が必要である。磁気ヘッドにより着磁する方式ではなく、一度に着磁可能な構造をあらかじめ製作できれば、着磁精度をあげることとともに、着磁工程に要する時間の短縮が可能となる。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、小型で分解能を充分に向上させることができ、かつ製造工程が簡単な磁気式エンコーダ用磁気スケールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以上のような課題を解決するために、本発明では、磁気媒体上に記録された磁気信号列として作用する磁気スケールと、この磁気媒体に対向して配置された磁気センサとを備え、この磁気媒体が磁気センサの感磁部直近を移動するよう配置された構成の磁気式エンコーダ用の磁気スケールにおいて、非磁性体基板上に複数個の一定形状の硬磁性体と、複数個の一定形状の軟磁性体を交互に1個おきに配列して、磁気信号列の記録体としたことを特徴とする。
【0013】
本願出願人らは、従来のプラスチックマグネット上に形成される磁極を交互に逆にして着磁された磁石の磁界と異なり、着磁されている磁極は一方向のみでありながらスケール表面にはN極とS極が交互に並べられた磁界が形成されている新たな発想の磁気スケールを発明した。本発明は、硬磁性体と軟磁性体を交互に1個おきに配列した構造において、着磁された硬磁性体に隣接する軟磁性体に逆向きの磁界が形成される現象を利用しており、磁気センサのセンサ面を硬磁性体と軟磁性体表面の平面に対向させて設置することによって、磁界の変化を検出し磁気式エンコーダを構成するものである。
【0014】
本発明において、前記硬磁性体は、磁気スケールの表面に垂直な同一方向に着磁されて複数個配列されており、前記硬磁性体の間に設置された複数個の軟磁性体においては、隣接する硬磁性体に対してN極およびS極の位置が反転した磁界が発生する。この結果、N極およびS極の位置が交互に反転した磁性体列の配置が形成される。従って、かかる磁性体の配列に対して磁気センサのセンサ面を磁性体列の表面に対向させて配置して磁気式エンコーダを構成することができる。
【0015】
また、本発明では、磁気センサのセンサ面を硬磁性体および軟磁性体の磁極面に対して水平に近接して配置することが可能で、磁界強度の大きい部位にセンサ面を置き検出精度を向上することが可能である。
【0016】
本発明において、前記硬磁性体と前記軟磁性体の形状は、それぞれ幅が10μmから500μmの範囲の線状形状であることを特徴としている。
【0017】
本発明において、隣接する前記硬磁性体と前記軟磁性体間は、接触せず磁気的に空隙があることが好ましい。
【0018】
本発明において、前記硬磁性体は、例えば、Fe−Co系の磁性体、前記軟磁性体は、例えばFe−Ni系の磁性体で構成される。
【0019】
本発明において、硬磁性体の線状形状、あるいは軟磁性体の線状形状は、磁性体の内部をさらに細かく分割した平行線状パターンあるいは点状パターンの集合として構成された線状形状であってもよい。
【0020】
本発明の磁気式エンコーダ用磁気スケールの製造法は、めっきにより硬磁性体および軟磁性体を非磁性基板上に形成する工程、および硬磁性体を着磁する工程を含むことを特徴とする。
【0021】
本発明では、板状の非磁性体にフォトレジストを塗布、現像し、めっきを行う部位以外をフォトレジストでカバーする。めっき液は、Fe−Co系は硫酸コバルト、硫酸第一鉄を成分とするめっき液を用い、Fe−Ni系は市販のめっき液を用い電気めっきを行う。要求される磁気特性に応じてめっき液の組成比を調整することが好ましい。第1の磁性材のめっきが終了した時点で水洗しめっき液を除去した後、フォトレジストを除去する。再度フォトレジスト層を設け、めっきを行う部位以外をカバーしたうえ、第2の磁性材のめっきを行い磁性材が配列された構造を形成する。こののち、磁気スケールとして固定するための穴形状、あるいはシャフトを挿入固定する穴形状を形成したうえ、外形状を切り離す。切り離された磁気スケール素材に熱処理を加えたのち、めっきされた硬磁性体の厚み方向に着磁することで、磁気式エンコーダ用磁気スケールを得る。
【発明の効果】
【0022】
本発明においては、硬磁性体と軟磁性体のパターンをフォトリソグラフィにより作製したレジストの開口部にめっきを行うため、フォトリソグラフィにより製作するマスクパターンの開口部幅の寸法が磁気スケールの磁性体の線状形状の幅となる。硬磁性体及び軟磁性体の線状形状パターンは、それぞれフォトリソグラフィによりパターンを形成したうえ、それぞれの磁性材料をめっきするため、磁気スケールのピッチ寸法は、マスクの開口部のピッチとしてそのまま反映され、マスク露光時に発生するマスク相互間の位置ずれを反映しない。したがって、従来のピッチ送りを行いつつ着磁をする製法に比較して、ピッチのばらつきの少ない磁気スケールを容易に製作することが可能である。フォトリソ用マスクパターンのピッチ寸法ばらつきの精度は、1μm以下に抑えることが可能であり1μm以下のピッチ精度の磁気スケールを製作することができる。
【0023】
また本発明では、硬磁性体及び軟磁性体のパターンを形成するのに、フォトリソグラフィによりパターンを形成したうえでそれぞれの磁性材料をめっきするため、パターンの作成可能な寸法が磁気スケールの大きさと等しいことになる。従って、従来のピッチ送りを行って着磁をする製法に比較して寸法が小さい磁気スケールを容易に製作することが可能である。フォトリソパターンにより作成できる開口部の最小幅は数μmであるため、数μm幅の磁性体パターンが可能であり、最小10μmピッチの磁気スケールを製作することが容易に可能である。
【0024】
上記の効果より、例えば直径10mmの外径を持つロータリエンコーダにおいて、非磁性基板円盤の直径8mmの円周上に256ピッチのパターンを作製する場合には、ピッチがほぼ100μmとなり、このピッチの磁性体パターンによる磁気スケールを製作することが充分可能である。本発明によれば超小型の磁気式エンコーダ用磁気スケールが製作可能である。
【0025】
本発明においては硬磁性体の線状形状、あるいは軟磁性体の線状形状を、単一で一様な形状とせず、複雑な形状として形成が可能である。たとえば、磁性体の内部をさらに細かく分割した平行線状パターンあるいは点状パターンの集合として構成された線状形状とすることができる。このパターンの形状を利用して、磁気特性を単一で一様な線状形状と異なる磁気特性を得ることができる。例えば平行線状パターンよりなる軟磁性体線状形状パターンは、一様な軟磁性体線状形状パターンと比較して、見掛け上の比透磁率を大きくできるという利点がある。
【0026】
本発明による製法は、従来の1個ずつ着磁方向を変えて磁気信号を書き込む工程に比較して、硬磁性体のみを1方向に着磁する工程で磁気スケールを形成できることを特徴とする。硬磁性体の線状形状を、表面にたいして垂直方向に一度着磁するだけで着磁工程とすることができるため、簡単な工程で位置精度の高い磁気スケールを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【実施例1】
【0028】
図1(a)、(b)は各々、本発明を適用したリニアエンコーダ用磁気スケールの構成を模式的に示す斜視図と断面図である。図2(a)、(b)は、本発明の実施の形態1に係る磁気式エンコーダにおける磁気スケールと磁気センサとの位置関係を示す説明図と、磁気センサの等価回路である。
【0029】
図1(a)、(b)に示すように、本形態の磁気スケール10は、線状形状の硬磁性体2と、線状形状軟磁性体3とからなる磁性体パターンの配列からなる磁気スケールであって、非磁性体基板1上に形成されている線状形状の硬磁性体2は、非磁性体基板1の平面と垂直な方向に着磁されている。図3では、非磁性体基板1側の面がS極になり、非磁性体基板1の反対側の面がN極になるよう着磁されている。
【0030】
本形態の磁気スケール10について有限要素法による磁気シミュレーションを行った。図5は、磁気シミュレーションの条件を説明する図であり、断面が幅200μm高さ300μmの線状形状の硬磁性体の間に100μmの間隔を置いて断面が幅200μm高さ300μmの線状形状の軟磁性体が置かれている場合の磁性体表面での磁場強度の計算を行った。図6は、シミュレーション結果を示すが、磁性体表面の位置における表面と垂直方向の磁場強度をグラフにしたものである。図6では、硬磁性体が400mTで着磁されており磁界が発生している場合に、硬磁性体の間に置かれた軟磁性体の上面では、磁束密度の絶対値が最も大きい場所で−77mTの磁界が発生している。すなわち硬磁性体パターンの間に置かれた軟磁性体上で磁極が逆転した磁界が発生しており、この磁束密度分布を磁気スケールの磁界信号として使用することが可能である。本形態の磁気リニアエンコーダにおいて、硬磁性体2上では、図3に示すように、磁場が垂直に上向きに、軟磁性体3上では、磁場が下向きになり、隣接する磁性体パターン間で磁界の向きが変化する回転磁界が形成されている。
【0031】
シミュレーションに使用した軟磁性体は、透磁率が大きいFe−Ni合金(Fe22%、Ni78%)とし、初透磁率を30000とするヒステリシスカーブをもつ磁気特性データを使用した。硬磁性体は、サマリウムコバルト磁石を想定して、400mTの表面磁束となるよう着磁されているとした。
【0032】
図2(a)に示すように、磁性体パターンの配列からなる本形態の磁気スケール10は、磁気センサ11と対向して設置されており、磁気センサ11と磁気スケール10とが図の横手方向に相対移動することにより、その相対位置を検出する。例えば、工作機械などのエンコーダが実装される装置において、磁気センサ11あるいは磁気スケール10の一方を固定し、他方を装置の移動部分に配置しておけば、固定部に対する移動部の移動速度や移動距離を検出することができる。
【0033】
磁気センサ11には、磁気抵抗素子12および磁気抵抗素子13が基板18上に形成されており、増幅記などの回路素子、磁気抵抗素子12および磁気抵抗素子13と回路素子を接続するリード線などの電気配線が内蔵されており、磁気抵抗素子12の表面がセンサ面として機能する。基板18は、ガラス基板や、セラミックグレーズ基板であり、基板18の表面に形成してある磁気抵抗素子12および磁気抵抗素子13は、強磁性体Ni−Fe等の磁性体膜からなる抵抗パターンよりなる。基板18は、エンコーダの仕様に応じて、シリコン基板、フェライト基板なども使用される。図2に示されるように磁気センサの感磁部である磁気抵抗素子12および磁気抵抗素子13の抵抗値は、ほぼ等しく設定され、その中点電位を電極16より出力するよう構成されている。また磁気センサ11においては、基板18上に磁気抵抗素子12および磁気抵抗素子13が形成されている面の裏側をセンサ面とすることもある。
【0034】
図3によって磁気センサ11と磁気スケール10を組み合わせた場合の動作について説明する。磁気スケール10上の硬磁性体2と軟磁性体3によって、磁気スケール10の移動方向に沿ってN極とS極が交互に並ぶ線状形状パターンが形成されており、本実施例では、硬磁性体2の間隔すなわちN極とN極間を1ピッチとするとき磁気センサの対応する位置が移動方向で4分の1ピッチ分ずれている。
【0035】
図3に示すように硬磁性体2の直上に磁気抵抗素子12があり、軟磁性体3の直上よりずれた場所に磁気抵抗素子13がある場合には、磁気抵抗素子12の抵抗が小さくなり、磁気抵抗素子13の抵抗は磁界が印加されない状態のままで変化せず、相対的に磁気抵抗素子12の抵抗値より大きい。磁気抵抗素子12と磁気抵抗素子13の等価回路が図2(b)のように示されて、磁気抵抗素子12と磁気抵抗素子13の電極16の電位は、図3の状態では、電源電圧の2分の1より大きくなる。
【0036】
図3に示す状態の硬磁性体2の直上より磁気センサ11が移動し、硬磁性体2と軟磁性体3の間に磁気抵抗素子12が移動した場合には、磁気抵抗素子12の抵抗は磁界がかからない状態の抵抗に戻り、磁気抵抗素子13は、硬磁性体2の直上になり磁気抵抗素子13の抵抗が小さくなる。したがって、磁気スケールの移動につれて接続点16の電位は下がる。磁性体パターンと磁気センサの位置により電圧を測定することによって、磁気センサ11と磁気スケール10との移動量を電気信号に変換することができる。
【0037】
従って、本形態の磁気スケール10を使用した磁気式エンコーダでは、硬磁性体2と軟磁性体3が形成されているピッチと磁気センサの移動速度に応じて磁気センサ11より電気信号が出力され、その電気信号より磁気スケール10と磁気センサ11との相対移動速度や相対移動距離を検出することができる。
【0038】
非磁性基板として長さ30mm幅14mm厚さ0.5mmの銅板を使用し、その上面に長さ10mm幅30μmの硬磁性体パターンと軟磁性体パターンを交互に60μmピッチで、めっきにより形成した。それぞれ同種の磁性体間のピッチは120μmとなる。硬磁性体はFe−Co合金のめっき、軟磁性体はFe−Ni合金のめっきによりそれぞれほぼアスペクト比1の正方形に近い断面を持つストライプ形状とした。Fe−Co合金の組成比は、Fe45%、Co55%であった。Fe−Ni合金は、組成比Fe20%、Ni80%であった。一様に0.75Tの磁束密度の磁界を印加してFe−Co合金の着磁を行った。
【実施例2】
【0039】
図4(a)、(b)は各々、本発明を適用したリニアエンコーダ用磁気スケールの構成を模式的に示す斜視図および断面図である。本発明の実施の形態2に係る磁気式エンコーダにおける磁気スケールと磁気センサとの位置関係は、実施例1と同様であり図2および図3によって説明される。
【0040】
図4(a)、(b)に示すように、本形態の磁気スケール10は、硬磁性体のパターン21と、軟磁性体パターン31とからなる磁性体パターンの配列からなる磁気スケールであって、非磁性体基板1上に形成されている。硬磁性体のパターン21は、非磁性体基板1の平面と垂直な方向に着磁されている。図4(b)では、非磁性基板1側の面にS極が、非磁性基板1に対抗する側の面にN極が着磁されている。
【0041】
図4(a)、(b)によって、軟磁性体パターン31の内部構造について説明する。非磁性基板1上に硬磁性体パターン21と軟磁性体パターン31が移動方向に沿って交互に並ぶ構造が形成されていることは実施例1と同様であるが、本実施例では、軟磁性パターン31が分割され微小なストライプパターンより形成されている。
【0042】
図2に示すように、磁性体パターンが配列された本形態の磁気スケール10は、磁気センサ11と対向して設置されており、磁気センサ11と磁気スケール10とが長手方向に相対移動することにより、その相対位置を検出する。
【0043】
図7および図9により本形態の磁気スケール10においての有限要素法による磁気シミュレーションの条件を説明する。図7および図9において、硬磁性体および軟磁性体の外形状と配置および、硬磁性体の着磁強度は図5と同一である。図7は、軟磁性体の線状形状が3つの薄い板状に分割されており、図9は軟磁性体の線状形状が6つの板状に分割された場合を示している。図7の磁性体表面に於ける磁場強度をグラフにしたものが図8であり、図9の磁性体表面に於ける磁場強度をグラフにしたものが図10である。図6の軟磁性体上面では、上下方向の磁束密度の絶対値が最も大きい場所で−77mTの磁界が発生しているのに対して、図8および図10では、−83mT、あるいは−110mTの値となっている。すなわち硬磁性体21の間に置かれた軟磁性体31上の磁界は、軟磁性体31内がさらに細かいストライプパターンに分割されることによって、見かけ上の透磁率があがり、軟磁性体線状形状上の磁場強度をあげることができる。
【0044】
硬磁性体21が着磁されて、図面上方向へ向く磁界を持つとき軟磁性体31には、図面下方向へ向く磁界が発生し、磁気スケール10の平面に垂直な方向の向きが変化する磁界が形成される。実施例1の磁場解析の結果図6と比較すると、図8あるいは図10では軟磁性体31を通過する、図面下方向の磁界が大きいことが分かる。
【0045】
従って、本形態の磁気スケール10を使用した磁気式エンコーダでは、磁気センサ11で検出できる出力を大きくでき、ノイズレベルの低い位置信号を得ることができる。
【実施例3】
【0046】
上記形態はいずれも、磁気式エンコーダをリニアエンコーダとして構成した例であったが、本発明による磁気スケールによってロータリエンコーダを構成できる。図11(a)、(b)は各々、本発明を適用したロータリエンコーダ用磁気スケールの構成を模式的に示す斜視図および断面図である。図12は、本発明の実施の形態3に係る磁気式ロータリエンコーダにおける磁気スケール10と磁気センサ11との平面的な位置関係を示す説明図である。
【0047】
図11(a)、(b)に示すように、本形態の磁気スケールは、硬磁性体2と、軟磁性体3とからなる磁性体パターンの配列からなる磁気スケールであって、非磁性体基板1上に形成されている。硬磁性体2は、非磁性体基板1の平面と垂直な方向に着磁されている。図11では、非磁性体基板1側の面にS極が、非磁性体基板1の反対側の面にN極が着磁されている。
【0048】
図12に示すように、円盤状の非磁性基板1上に形成された磁性体パターンの配列からなる本形態の磁気スケール10は、磁気センサ11と、対向して設置されており、磁気スケール10が回転し磁性体パターンが回転方向に移動することにより、その相対位置を検出する。例えば、工作機械などの実装装置において、磁気スケール10の中心を回転軸に固定し、磁気スケールが回転するよう配置すれば、対向して配置された磁気センサ11の電気出力により回転角や回転速度を検出することができる。
【0049】
磁気スケール10と磁気センサ11を組み合わせて場合の動作については、実施例1と同様であり説明を省略する。
【0050】
ロータリエンコーダ用の磁気スケールにおいても、実施例2と同様の軟磁性体の矩形線状パターンを分割して微小なストライプパターンより形成されている構成とすることも可能であるが、動作および効果は同様であり説明を省略する。
【産業上の利用可能性】
【0051】
従来の小型で高精度の磁気スケールとしては、プラスチックマグネットに着磁を行ったものが使用されている。本発明の磁気スケールによる磁気式エンコーダは、より小型化と高精度化が可能である。
【0052】
また、プラスチックマグネットを使用したものと比較して温度に対するスケールの安定性を高くすることが可能であり、非磁性基板の材質を膨張係数の小さい材質を選定することによって温度補正が不要なスケールを構成することが可能となる。温度による磁気スケールの位置ずれが、非磁性基板の熱膨張によって発生する。従来のプラスチックマグネットを材料とする磁気スケールの場合は、熱膨張が大きいため温度補償を行って使用されるが、非磁性基板としてセラミックあるいは石英ガラスを使用することによって、温度補償を必要としない磁気スケールとすることができる。
【0053】
また放射線損傷に対してもプラスチックスより耐性が高いため、放射線が使用される環境での精度を要求される位置制御に使用可能な磁気スケールとすることができる。従って放射線を使用する医療機器や、宇宙空間においての位置制御を精密に行うための磁気式エンコーダを作製することが可能となる。これらの用途には、光学式エンコーダは内部に半導体を材料とする受光素子が使用されており、放射線を起因とするノイズが大きいため使用できない。精度の高い磁気式エンコーダが要求される産業分野である。
【0054】
磁気式エンコーダの磁気媒体をめっきによって作成する本方法は、磁気媒体の薄型化、軽量化が図れるうえに、狭ピッチ化も可能である。ロータリエンコーダとして小型、軽量化でき、分解能を高くできる。本発明によれば、従来の光学式エンコーダが使用されなかった環境で使用可能な磁気式エンコーダが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】(a)、(b)は各々、本発明を適用したリニアエンコーダ用磁気スケールの構成を示す斜視図、および断面図である。(実施例1)
【図2】(a)、(b)は各々、本発明に係る磁気スケールと磁気センサとの位置関係を示す説明図と、磁気センサの等価回路である。(実施例1)
【図3】本発明に係る磁気式エンコーダにおいて、磁気スケールと磁気センサの位置関係を示す説明図である。(実施例2)
【図4】(a)、(b)は各々、本発明に係る本発明を適用したリニアエンコーダ用磁気スケールの構成を示す斜視図、および断面図である。(実施例2)
【図5】本発明の磁気スケールにおける磁界強度のシミュレーションの説明図である。(実施例1)
【図6】本発明の実施例における磁界強度のシミュレーション結果である。(実施例1)
【図7】本発明の磁気スケールにおける磁界強度のシミュレーション条件の説明図である。(実施例2)
【図8】本発明の実施例における磁界強度のシミュレーション結果である。(実施例2)
【図9】本発明の磁気スケールにおける磁界強度のシミュレーション条件の説明図である。(実施例2)
【図10】本発明の実施例における磁界強度のシミュレーション結果である。(実施例2)
【図11】(a)、(b)は各々、本発明に係る磁気式ロータリエンコーダ用磁気スケールの構成を示す斜視図、および断面図である。(実施例3)
【図12】本発明に係る磁気式ロータリエンコーダにおける磁気スケールと磁気センサとの位置関係を示す説明図である。(実施例3)
【図13】(a)、(b)は各々、従来の磁気式エンコーダの説明図である。
【図14】従来の磁気式エンコーダの製造方法の説明図である。
【符号の説明】
【0056】
1、100 非磁性基板
2、21 硬磁性体
3、31 軟磁性体
10、110 磁気スケール
11、111 磁気センサ
12、 13 磁気抵抗素子
15、16、17 電極
18 基板
101 磁気記録媒体
103 非磁性体円盤
120 磁気ヘッド
121 磁気ヨーク


【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気媒体上に記録された磁気信号列として作用する磁気スケールと、この磁気媒体と対向して配置された磁気センサとを備え、この磁気媒体が磁気センサの感磁部直近を移動するよう配置された構成の磁気式エンコーダ用の磁気スケールであって、非磁性体基板上に複数個の一定形状の硬磁性体と、複数個の一定形状の軟磁性体を交互に1個おきに配列して、磁気信号列の記録体としたことを特徴とする磁気式エンコーダ用磁気スケール。
【請求項2】
請求項1に記載された磁気式エンコーダ用磁気スケールにおいて、硬磁性体および軟磁性体の形状として、それぞれ10μmから500μmの幅の線状形状であることを特徴とする磁気式エンコーダ用磁気スケール。
【請求項3】
請求項1に記載された磁気式エンコーダ用磁気スケールにおいて、硬磁性体としてFe−Co系の磁性体、軟磁性体としてFe−Ni系の磁性体で構成されたことを特徴とする磁気式エンコーダ用磁気スケール。
【請求項4】
請求項1および請求項2に記載された磁気式エンコーダ用磁気スケールであって、硬磁性体の線状形状、あるいは軟磁性体の線状形状が、磁性体の内部をさらに細かく分割した平行線状パターンあるいは点状パターンの集合として構成された線状形状であることを特徴とする磁気式エンコーダ用磁気スケール。
【請求項5】
請求項1から3に記載された磁気式エンコーダ用磁気スケールの製造法において、めっきにより磁性体を非磁性基板上に形成する工程、および硬磁性体を着磁する工程を含むことを特徴とする請求項1から3に記載の磁気式エンコーダ用磁気スケールの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−298729(P2008−298729A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−148090(P2007−148090)
【出願日】平成19年6月4日(2007.6.4)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度 独立行政法人科学技術振興機構 「UV−LIGAを用いた微細磁気構造をもつ磁性体めっきパターン形成による磁気スケールの開発」委託研究、産業活力再生特別措置法 第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000110985)ニッコーシ株式会社 (11)
【Fターム(参考)】