説明

磁気検出センサおよび磁性体検出装置

【課題】従来の磁性体パターンに使用される磁気抵抗素子では一般に磁気検出パターンが大きく、磁気インクによって印刷された被検出パターンなどの磁性体を検出しようとする場合には分解能が充分ではなく、微細なパターンを検出可能な磁気検出センサを実現することが課題であった。
【解決手段】ホール素子チップ11および磁界を印加するコイル6が同一の基板1に搭載されている構造の磁気検出センサによって微細な磁性体パターンが検出可能となる。また、コイル6にはパルス状の電流を流すことによってS/N比の高い信号を得る、あるいは、パルス状の電流のレベルを変化させることにより磁性体による信号を得ることを特徴とする磁性体検出装置を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近接した磁性体に磁界を与えることにより磁性体により変化した磁束密度を磁性体検出素子により測定する方式の磁気検出センサおよび、磁性体検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体磁気抵抗素子を用いて、前記半導体磁気抵抗素子に永久磁石によりバイアス磁界を印加して前記半導体磁気抵抗素子の表面に近接する磁気印刷パターンを前記半導体磁気抵抗素子の抵抗変化の信号として読み取る磁気センサがある。近年、磁気印刷パターンがより微細化しかつ磁気印刷パターンの磁性体を含有するインクについても異なる磁化特性を持つ複数の種類の磁性体インクを使用するなど、磁気パターンがより複雑化する傾向がある。
【0003】
図3は、磁気印刷パターンを読み取る半導体磁気抵抗素子を用いた磁気センサ30の従来例1の断面図である。単結晶インジウムアンチモン(InSb)製の磁気抵抗素子31がケース35中に設置され、図3のケース上面39で磁気パターンの読み取りを行う。磁気抵抗素子31の背面に永久磁石32が設置され磁気抵抗素子31にバイアス磁界を印加している。磁気センサ30においては、磁気抵抗素子31の感磁パターンの幅は約0.5mmであるため、印刷された0.5mm以下の磁気パターンを読み取る場合には感磁パターンの幅が相対的に大きく、印刷された磁気パターン通りに素子の出力を得ることは困難であり、磁気パターンの平均化された信号が得られる。
【0004】
また図3に示す磁気センサ30では、異なる磁化特性を持つ磁性体をそれぞれ含有する二種類の磁性インクによる被検出パターンが0.5mm以下の幅で近接して印刷されている場合、磁気抵抗素子31の感磁パターンの面積が近接して印刷されている被検出パターンより大きく、磁気抵抗素子31の出力は二種類の磁性インクによる出力が平均化された出力となり、それぞれの磁性インクによる被検出パターンに対応した出力を得ることができない。これらの現象は半導体磁気抵抗素子を使用した磁気パターン読み取り装置の分解能が磁性インクの被検出パターンに対して充分な分解能を持っていないという問題として捉えられる。
【0005】
磁界検出素子の磁気検知パターンが磁性体インクの被検出パターンの幅以下であって、磁性体インクの被検出パターンに対応した電気信号により被検出パターンを検出できるようにしたいという強い要求がある。
【0006】
磁界検出素子の感磁パターンを小さくする手段として磁界検出素子として感磁パターンがより小さいホール素子を使用する方法がある。ホール素子の感磁パターンの幅は約10μmとすることができ、このパターン幅に近い分解能で磁気パターンを読み出すことが可能である。
【0007】
ホール素子の原理図を図5に示す。ホール素子の入出力の配線は、図5に示すように半導体薄板51のそれぞれ対向する2箇所に入力電極52および出力電極53を形成し入力電極52間に電圧Vcを印加して、半導体薄板51に垂直な方向の磁場強度Bに応じた出力電圧VHを出力電極53間において出力する。入力電極52間の電圧Vcを一定とすると出力電極53間の電圧VHは、磁場強度Bにほぼ比例したものとなる。ホール素子の感磁パターンの幅は半導体薄板の図5に示す幅wとなる。
【0008】
従来例2として図4のホール素子を使用した磁界強度センサの模式図を示す。磁界検出素子としてホール素子41が搭載されており、ホール素子41の出力側に磁界発生用コイル42が接続されており、磁界発生用コイル42には、ホール素子出力を増幅した電流を流すことが可能な増幅用のアンプ43が接続されている。アンプ43より磁界強度に応じて磁界をキャンセルする電流を磁界発生用コイル42に流す。この方法によれば、ホール素子の感度や温度特性によらない出力が得られるとされる。しかしこの従来例2は、印刷された磁気インクによる微細なパターンの磁化特性を測定することを目的としておらず、空間の平均値として磁界強度を測定することを目的としている。したがって磁界発生用コイル42は、ホール素子41の後方に設置されており磁界強度センサ40の検出部に磁性体を近づける場合については、想定されていない。
【0009】
また、従来例としてより磁界検出素子の磁性体の検出感度を上げるために、ホール素子に磁気バイアスを電磁石で加える例がある。特許文献2に示されるものであり従来例3とする。しかし、この従来例3は磁石と電磁石に挟まれた空間を磁性体が通過することを検出することを目的としており、移動する磁性体の両側に電磁石と永久磁石を配置し、電磁石を挟んで2個のホール素子を配置するという複雑な構成となっている。また、磁性体および磁界検出素子に磁気バイアスを加える永久磁石あるいはコイルも磁界検出素子の後方に設置してある。従来例3では、永久磁石と電磁石間の磁性体を通過する磁束を検出する構成であって、磁界検出素子に近接する微細な磁気パターンを直接検出する目的とはしていないため、磁気パターンの位置を把握するための大きさと構成とはなっていない。
【特許文献1】特開2001−91612号公報
【特許文献2】特開2002−267405号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の近接する磁性体を磁界の変化により検出するセンサでは、一般に磁界検出素子の感磁部分パターンが大きく、磁気測定結果を磁気分布として認識しようとする場合、磁気検出センサが被磁界検出部分のどの位置を検出しているのか、被測定物との相対的な位置を正確に把握することが難しい。被測定物と磁気測定センサの位置を正確に把握して、より正確な磁気分布データを得るためには、磁界検出素子の検出パターンが、測定されるべき磁性体を含む被検出パターンに対して充分小さくまた近接していることが必要である。
【0011】
バイアス磁界印加用コイルについては、限定した範囲のみに磁気を印加する必要があることからコイルも小さくする必要があり、またバイアス磁界印加用コイルについては磁界検出素子と被測定物の磁界検出部分とそれぞれに近接した構造とすることが課題であった。
【0012】
含有する磁性体の種類が異なる二つ以上の被検出パターンについては、それぞれの被検出パターンに含有する磁性体の磁化特性が異なることを明らかにできる検出方法を設定する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、磁気検出部とバイアス磁界印加用コイルが被検出パターンのできるだけ小さい面積の部分の磁気特性について測定が可能となる磁気検出センサおよびこの磁気検出センサを使用した磁性体検出装置を提供することを目的とする。上記目的を達成するための手段として、磁界検出素子およびコイルをできる限り近接して搭載しかつ被検出パターンに近接して置ける構造にすることによって、微細な磁性体パターンが読み出し可能な磁気検出センサおよび、このセンサを使用した磁性体検出装置を提供する。このための手段として磁界検出素子の感磁面の中心とコイルの円周方向の中心を一致させたうえ、コイルの中に磁界検出素子の感磁パターンが設置されるようコイルおよび磁界検出素子を搭載することにより磁気検出センサを構成する。
【0014】
磁界検出素子およびコイルは、同一基板上にコイルの磁界発生の中心線を基板と垂直方向に置き、コイルの磁界発生の中心線と磁界検出素子の感磁パターンの中心を一致させて磁界検出素子を設置することによりコイルと磁界検出素子の設置面積を最も小さくできる構成とした。コイルの長さ方向にも最も小さくかつ磁界検出素子に効率よく磁界を印加する構成とするため、コイルの内側に磁界検出素子の感磁パターンがある構成とした。
【0015】
また二つ以上の異なる磁気特性を持つ磁気パターンに対して、コイルに流す電流の大きさを変更して異なる大きさの磁界を与え、それぞれの磁界における磁界検出素子の出力を測定する。コイルに流す電流の変化に対して磁界検出素子の出力の変化を検出し、磁界検出素子の変化率を計算することによって磁気特性の異なる磁気パターンを検出する磁性体検出装置とすることができる。
【0016】
上記のコイルに流す電流の大きさを変更する方式として交流電流により磁界を与える。コイルに流す電流を交流とすることにより発熱量を抑えて直流より大きな電流を流すことができ直流磁界に比較して大きな磁界を与えることが可能となる。出力信号を大きくすることによって磁界検出素子の出力を精度良く測定することが可能となる。また磁界検出素子の出力を交流電流に同期させて信号を増幅してS/N比の大きい信号を得ることができる。この結果、磁性体パターンを精度良く読み取ることが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の磁気検出センサによれば、磁界検出素子およびコイルをできる限り近接して搭載しかつ被検出物に近接して磁界検出素子およびコイルして設置できることから微細な磁気パターンが読み出し可能となり、磁気パターンの分布データを精度良く得ることが可能となる。また被測定物として二つ以上の異なる磁気特性を持つ磁気パターンが近接して存在する場合、磁気特性の変化率を比較することによって異なる磁気特性を持つ磁気パターンを識別することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
磁気検出センサの磁界検出素子およびコイルを印加する磁界の方向に対して中心を同一として近接しておき、コイルに交流電流を流すことによって、微細な磁気パターンが読み出し可能となる。また磁界検出素子に印加する磁界を磁界検出素子に近接して設置したコイルに二つ以上の大きさの異なる交流電流を流すことによって磁界検出素子の出力の変化率を得ることができる。以下、実施例によって説明する。
【実施例1】
【0019】
図1は、本発明の実施例1の磁気検出センサである。図1aが断面図、図1bが平面図である。磁界検出素子としてガラス基体2に形成したインジウムアンチモン(InSb)ホール素子チップ22をガラスエポキシ基板5に搭載してある。ガラス基体2上にホール素子動作層としてインジウムアンチモン(InSb)層2が形成されておりインジウムアンチモン(InSb)層3の一部に電極を取り出すための電極層3が形成されている。電極層5に接続された金ワイヤ4は、一方をガラスエポキシ基板1上の配線パターン8と接続され、入出力の導線が形成されている。磁界検出素子であるホール素子チップ22の底面は、エポキシ樹脂7を介してガラスエポキシ基板1上に固定されている。ホール素子のInSb層2が形成された表面は、保護のためエポキシ層7で覆われる。
【0020】
ガラスエポキシ基板1上に、コイル11が搭載されておりコイル11の基板に接する面とホール素子チップ22の搭載される面は、ガラスエポキシ基板の同一面上であり、コイルの円の中心とホール素子チップの感磁パターンの中心は、一致する構成となっている。したがってコイルの発生する磁界の中心線がホール素子の感磁パターンの中心を通過する構成とされている。また、ホール素子の感磁パターンは、ホール素子チップ22のガラスエポキシ基板面と対向する面に形成してあるため、コイル11の中にある。この構成によりコイル11とホール素子チップ22の距離は最小になっている。また、ホール素子およびコイルの搭載されたガラスエポキシ基板の面と対向する面に測定するべき磁性体を置く構成とすれば、ガラスエポキシ基板1の厚さおよびホール素子チップ22の厚さを加えた距離が、検出されるべき磁性体の面とホール素子チップ感磁面の距離となり、この構成において最短になる。
【0021】
この磁性体センサの動作について説明する。コイル11より発生する磁場はホール素子チップ22を通り、コイルの周辺を閉ループとする磁束回路を形成する。コイル前面に磁性体が近接して置かれた場合、磁性体の透磁率に応じて磁束回路が変形しホール素子チップに垂直に加わる磁束密度が変化する。磁性体の透磁率の大きさに比例して、ホール素子チップに加わる磁束密度は変わるためホール素子チップの出力は磁性体の透磁率に応じた出力となる。
【0022】
コイルに流す電流のレベルを変えて磁性体に加わる磁場の大きさを変更した場合、磁場の大きさの変化に応じて出力の変化分磁性体の種類によりが変わる。ひとつの電流のレベルでの磁界検出素子の出力と、これと異なる電流レベルでの磁界検出素子の出力差を、コイルに流す電流の変化分に対する変化率として捉えることができる。
【0023】
コイルに流す電流を交流とした場合、直流より発熱量を抑えることができるため交流のピークでは、直流より大きな電流を流すことができる。また、ホール素子の出力をコイルに流す交流の周波数と同期して増幅すればS/N比の大きい信号を得ることができる。コイルに流す交流のレベルを周期的に変えて流した場合には、磁性体に加わる磁場の大きさを周期的に変更することができ、これに対応して磁界検出素子の出力が周期的に変わるため、この出力の変化の仕方によってあらかじめ取得した磁性体に関するデータと比較することにより、磁性体の種類を特定することができる。
【0024】
上記のコイルに流す交流電流は、+−対称の交流のみではなく直流バイアスの加えられた+−非対称の交流であってもよい。
【0025】
実施例1は、磁界検出素子であるホール素子として、その材質をInSb(インジウムアンチモン)で作成した例であるが、その材質をGe(ゲルマニウム)、またはInAs(インジウム砒素)とすることも可能である。
【実施例2】
【0026】
図2は、本発明の実施例2の磁気検出センサである。図2aが断面図、図2bが平面図である。磁界検出素子としてガラス基体2に形成したインジウムアンチモン(InSb)ホール素子チップ22をガラスエポキシ基板1中に搭載してある。ガラス基体2上にホール素子動作層としてインジウムアンチモン(InSb)層3が形成されておりインジウムアンチモン(InSb)層3の一部に電極を取り出すための電極層5が形成されている。電極層5に接続された金ワイヤ4は、一方をガラスエポキシ基板1上の配線パターン8と接続され、入出力の導線が形成されている。磁界検出素子のガラス基体1は、エポキシ樹脂6でガラスエポキシ基板1の穴中に固定される。ガラスエポキシ基板1中の穴は、ガラスエポキシ基板1を貫通している。ホール素子チップ22のガラス基体1は、側面および底面をエポキシ樹脂6を介してガラスエポキシ基板5に固定されている。
【0027】
ガラスエポキシ基板1に形成された貫通する孔の側面にホール素子配線側の孔が小さくなる段差12を形成し、孔中にコイル11が搭載されている。コイル11はホール素子の配線が形成された裏面より搭載される。コイルに接続される導線パターン9は、ホール素子導線パターン8が形成されたガラスエポキシ基板1の裏面に形成されている。ホール素子チップ22の感磁面は、コイル6内部にあるように設置し、コイル6の円の中心とホール素子チップのセンサパターンの中心は、一致するよう搭載される。この構成によりコイル8とホール素子チップ22の距離は最小になっている。ガラスエポキシ基板1のコイル11の搭載された面側に測定されるべき磁性体を置くと、測定されるべき磁性体の面とコイルあるいはホール素子チップとの間の距離はそれぞれガラスエポキシ基板1の厚さ以下となる。実施例1に比較して測定されるべき磁性体の面とコイルあるいはホール素子チップとの間の距離はそれぞれ小さい。磁性体ホール素子チップ22のInSb層2が形成された表面は、保護のためエポキシ層7で覆われる。
【0028】
このセンサの動作については、実施例1の場合と同様である。
【0029】
実施例2は、磁界検出素子であるホール素子として、その材質をInSb(インジウムアンチモン)で作成した例であるが、その材質をGe(ゲルマニウム)、またはInAs(インジウム砒素)とすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本磁気検出センサは、複雑でかつ微細な磁気パターンを検出するための磁性体検出プローブとして適用できる。
また本磁気検出センサを使用した磁性体検出装置は、磁気検出センサを移動して磁性体パターンによる磁気変化を電気信号として取り出すことができ磁気パターンを磁気強度の変化分として描画できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明による磁気検出センサの第1の実施例を示す構成図である。
【図2】本発明による磁気検出センサの第2の実施例を示す構成図である。
【図3】磁気抵抗素子を使用して磁気パターンを検出する従来例を示す構成図である。
【図4】ホール素子を使用した磁界強度センサの従来例を示す構成図である。
【図5】ホール素子の原理図である。
【符号の説明】
【0032】
1 ガラスエポキシ基板
2 ガラス基体
3 InSb層
4 Au線
5 電極層
6 樹脂
7 樹脂
8 導電パターン
9 コイル用導電パターン
11 コイル
12 段差
22 ホール素子チップ
30 磁気センサ
31 磁気抵抗素子
32 永久磁石
33 基板
34 外部接続用端子
35 ケース
37 ケース接地端子
38 注入樹脂
39 ケース上面
40 磁界強度センサ
41 ホール素子
42 磁界発生用コイル
43 アンプ
41 ホール素子
42 磁界発生用コイル
43 アンプ
51 半導体薄板
52 入力電極
53 出力電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部磁界により電気信号を出力する磁界検出素子と、前記磁界検出素子にバイアス磁界を印加する磁界発生用コイルとを有し、前記磁界発生用コイルと前記磁界検出素子は同一基板上に搭載されていて、かつ磁界検出素子は前記磁界発生用コイルの内側に設置されており、前記磁界発生用コイルから発生する磁界の中心と磁界検出素子の感磁面と垂直方向の中心が一致していることを特徴とする磁気検出センサ。
【請求項2】
上記磁界検出素子がホール素子であり、その材質をGe(ゲルマニウム)、またはInSb(インジウムアンチモン)、またはInAs(インジウム砒素)とすることを特徴とする請求項1記載の磁気検出センサ。
【請求項3】
前記磁気検出センサを使用する磁性体検出装置であって、前記磁界発生用コイルに交流電流を流すことを特徴とする磁性体検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−284466(P2006−284466A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−106986(P2005−106986)
【出願日】平成17年4月4日(2005.4.4)
【出願人】(000110985)ニッコーシ株式会社 (11)
【Fターム(参考)】