説明

移動体通信端末試験装置及び移動体通信端末試験方法

【課題】基地局信号及び被試験信号の経路の切替えに結合器を用い、かつ測定対象の区間における基地局信号による被試験信号への干渉を防止する。
【解決手段】時分割複信方式に基づきダウンリンク用のサブフレームに基地局信号を割当て、所定のパワーで移動体通信端末に送信する送信部と、アップリンク用のサブフレームに割当てられた被試験信号を移動体通信端末から受信する受信部と、被試験信号のパワーを測定する測定部と、送信部からの基地局信号を受けて移動体通信端末に出力するとともに、移動体通信端末からの被試験信号を受けて受信部及び測定部に出力するように配置された結合器と、被試験信号のパワーを測定する測定期間を特定する測定期間設定部と、測定期間における基地局信号のパワーを所定のパワーよりも下げるように送信部を制御する通信制御部と、を備え、測定期間における被試験信号のパワーを測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基地局と同様の機能を有する試験装置であって、携帯電話機などの移動体通信端末からの送信パワーを測定し動作チェックする技術に関し、特に通信方式として時分割複信方式を用いる場合の送信パワーの試験の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
移移動体通信端末の送受信特性を試験する移動体通信端末試験装置が従来から知られている。この移動体通信端末試験装置は、移動体通信端末へ信号を送信する送信部と、移動体通信端末からの信号を受信する受信部とを有し、疑似基地局として動作することで、移動体通信端末と信号を送受信してこの移動体通信端末の試験を行っている。このような送受信特性を試験する試験装置の一例が特許文献1に開示されている。
【0003】
一方で、複数のユーザが同時に通話できる「多元接続(Multiple Access)」方式として、周波数利用効率に優れる「符号分割多元接続:CDMA(Code Division Multiple Access)」方式が実用化されている。特に国際電気通信連合(ITU)が定める世界標準規格IMT−2000の一方式である“W−CDMA(Wideband−Code Division Multiple Access)”と称する「広帯域・符号分割多元接続」方式があり、この接続方式を利用した移動体通信端末が実用化されている。
【0004】
このW−CDMAの次世代の通信規格として、LTE(Long Term Evolution)と呼ばれる移動体通信規格が策定されつつある。このLTEでは、通信方式として周波数分割複信(FDD:Frequency Division Duplex)方式と時分割複信(TDD:Time Division Duplex)方式とがサポートされている。この2つの方式のうち、TDD方式を採用しているものを「TD−LTE」と呼ぶ場合がある。TDDは、移動体通信端末から基地局への通信(UL:UpLink)と基地局から移動体通信端末への通信(DL:DownLink)を同じ周波数帯で行い、時間ごとに方向を切り替える通信方式である。これに対しFDDは、UL信号とDL信号に、それぞれ別の周波数を割当てる通信方式である。
【0005】
このLTEに関する通信方式やデータフォーマットは、3GPP(3rd. Generation Partnership Project)により検討され、国際標準規格として規格化されている。移動体通信端末や基地局装置はこの規格に準拠する必要があり、この規格への準拠性を検証するための移動体通信端末試験装置が提供されている。
【0006】
特に、TD−LTEの規格への準拠性を検証する試験方法は、「TS36.521−1」に規格化されている。この規格には、「RACH Time mask」と呼ばれる試験と、「General ON/OFF time mask」と呼ばれる試験が含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−46431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した移動体通信端末試験装置では、送信部から基地局信号(DL信号)をアンテナに送り、このアンテナから基地局信号を移動体通信端末に送信する。また、移動体通信端末から受信した被試験信号(UL信号)をアンテナで受け、アンテナで受けた被試験信号を受信部に送る。そのため、このような移動体通信端末試験装置では、送信部からアンテナに送る基地局信号が流れる経路と、アンテナから受信部に送る被試験信号が流れる経路とを切替える必要がある。
【0009】
TD−LTEのようにTDD方式を採用した通信の試験の場合、時分割で基地局信号と被試験信号を切替えて送受信を行うため、上記経路の切替えにスイッチを用いる構成が考えられる。しかしながら、前述のRACH Time mask試験では、基地局信号の送信期間中における被試験信号を測定する必要があり、スイッチを用いた構成でこの測定を行うことは困難である。
【0010】
また、上記スイッチの替わりに、方向性結合器や結合器を使用する構成が考えられる。しかしながら、方向性結合器を用いた場合、この方向性結合器を通過可能な基地局信号及び被試験信号の周波数帯域が限られる。そのため、安価な部品を用いてLTEのような広い周波数帯域を1つの試験装置でカバーすることが難しい。
【0011】
一方で、方向性結合器の替わりに結合器を用いることで、通過可能な基地局信号及び被試験信号の周波数帯域を広くカバーすることが可能になる。しかしながら、TDD方式の通信の試験では基地局信号及び被試験信号に同じ周波数を用いるため、基地局信号が被試験信号の経路にリークし被試験信号に干渉するという問題がある。そのため、測定対象の区間に基地局信号の割当て区間が含まれる場合、この基地局信号による干渉が測定結果に影響を及ぼす可能性がある。
【0012】
本発明は上記問題を解決するものであり、基地局信号及び被試験信号の経路の切替えに結合器を用い、かつ測定対象の区間における基地局信号による被試験信号への干渉を防止して、被試験信号を精度良く測定できる移動体通信端末試験装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、時分割複信方式に基づき信号のフレームを構成する、アップリンク用とダウンリンク用を含む複数のサブフレームのうち、ダウンリンク用のサブフレームに基地局信号を割当てるとともに、この割当てられた前記基地局信号を所定のパワーで移動体通信端末(2)に送信する送信部(11)と、前記複数のサブフレームのうちアップリンク用のサブフレームに割当てられた被試験信号を前記移動体通信端末から受信する受信部(13)と、前記被試験信号のパワーを測定する測定部(15)と、前記送信部からの前記基地局信号を受けて前記移動体通信端末に出力するとともに、前記移動体通信端末からの前記被試験信号を受けて前記受信部及び前記測定部に出力するように配置された結合器(12)と、前記アップリンク用のサブフレームに割当てられた前記被試験信号のパワーを測定する測定期間を特定する測定期間設定部(14)と、前記特定された測定期間における前記基地局信号のパワーを、前記所定のパワーよりも下げるように前記送信部を制御する通信制御部(10)と、を備え、前記測定期間における前記被試験信号のパワーを測定することを特徴とする移動体通信端末試験装置である。
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の移動体通信端末試験装置であって、前記測定期間設定部は、前記移動体通信端末との呼接続を確立するために前記移動体通信端末から送信される第1の接続要求を前記受信部が受信したタイミングに基づいて、前記移動体通信端末からの第2の接続要求を受信するタイミングを特定し、前記第2の接続要求を受信するタイミングと、その前後のサブフレームに亘り所定の期間を前記測定期間として特定することを特徴とする。
また、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の移動体通信端末試験装置であって、前記通信制御部は、前記第1の接続要求に対し応答を行わないように前記送信部を制御することで、前記移動体通信端末に前記第2の接続要求を送信させることを特徴とする。
また、請求項4に記載の発明は、請求項2または請求項3に記載の移動体通信端末試験装置であって、前記第2の接続要求を含むサブフレームは、前記第2の接続要求の直前に位置するアップリンク用の伝送期間とダウンリンク用の伝送期間を分離する伝送ギャップと、前記伝送ギャップを挟んで前記第2の接続要求以前に位置するダウンリンク用のスロットを含み、前記第2の接続要求及び前記第2の接続要求の直後のサブフレームはアップリンク用の伝送期間に該当し、前記ダウンリンク用のスロット及び前記ダウンリンク用のスロットの直前に位置するサブフレームはダウンリンク用の伝送期間に該当し、前記通信制御部は、前記ダウンリンク用のスロット及び前記ダウンリンク用のスロットの直前に位置するサブフレームにおける前記基地局信号のパワーを、前記所定のパワーよりも下げるように前記送信部を制御することを特徴とする。
また、請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の移動体通信端末試験装置であって、前記通信制御部は、前記送信部に、前記移動体通信端末が被試験信号を送信する送信タイミングを示す制御情報を前記移動体通信端末へ送信させることで、前記移動体通信端末を前記制御情報に基づき動作させ、前記測定期間設定部は、前記送信タイミング及び前記フレームの構成に基づき前記被試験信号を受信する受信タイミングを特定し、前記受信タイミングを含む所定の期間を前記測定期間として特定することを特徴とする。
また、請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の移動体通信端末試験装置であって、前記送信タイミングは前記複数のサブフレームのうち前記アップリンク用のサブフレームであり、前記送信タイミングに該当するサブフレーム及び該サブフレームの直前のサブフレームはアップリンク用の伝送期間に該当し、前記送信タイミングに該当するサブフレームの直後のサブフレームはダウンリンク用の伝送期間に該当し、前記測定期間設定部は、前記送信タイミングに該当するサブフレームと、該サブフレームの前記直前及び直後のサブフレームを前記測定期間として特定し、前記通信制御部は、前記送信タイミングに該当するサブフレームの直後のサブフレームにおける前記基地局信号のパワーを、前記所定のパワーよりも下げるように前記送信部を制御することを特徴とする。
また、請求項7に記載の発明は、時分割複信方式に基づき信号のフレームを構成する、アップリンク用とダウンリンク用を含む複数のサブフレームのうち、ダウンリンク用のサブフレームに基地局信号を割当てるとともに、この割当てられた前記基地局信号を所定のパワーで移動体通信端末(2)に送信する送信部(11)と、前記複数のサブフレームのうちアップリンク用のサブフレームに割当てられた被試験信号を前記移動体通信端末から受信する受信部(13)と、前記被試験信号のパワーを測定する測定部(15)と、前記送信部からの前記基地局信号を受けて前記移動体通信端末に出力するとともに、前記移動体通信端末からの前記被試験信号を受けて前記受信部及び前記測定部に出力するように配置された結合器(12)と、を備えた移動体通信端末試験装置を用いた移動体通信端末試験方法であって、前記移動体通信端末が前記移動体通信端末試験装置との呼接続を確立するための接続要求を前記複数のサブフレームのうちいずれかのサブフレームに割当てる接続要求割当てステップと、前記移動体通信端末が、前記結合器を介して前記移動体通信端末試験装置に第1の接続要求を送信する第1の送信ステップと、前記移動体通信端末試験装置が、前記サブフレームへの割当てに基づき前記第1の接続要求を受信する第1の受信ステップと、前記移動体通信端末試験装置が、前記第1の接続要求を受信したタイミングに基づいて、前記移動体通信端末からの第2の接続要求を受信するタイミングを特定し、前記第2の接続要求を受信するタイミングを含む所定の期間を測定期間として特定する測定期間特定ステップと、前記移動体通信端末試験装置が、前記測定期間における前記基地局信号のパワーを、前記所定のパワーよりも下げて前記結合器を介して前記移動体通信端末に送信する第2の送信ステップと、前記移動体通信端末試験装置が前記第1の接続要求に対し応答を行わないことで、前記移動体通信端末が、前記測定期間以前の前記基地局信号のパワーに基づき前記第2の接続要求の送信パワーを決定し、決定した前記送信パワーに基づき前記第2の接続要求を、前記測定期間中に前記結合器を介して前記移動体通信端末試験装置に再送する第3の送信ステップと、前記移動体通信端末試験装置が、前記第2の接続要求を含む被試験信号のパワーを測定する測定ステップと、を備えたことを特徴とする移動体通信端末試験方法である。
また、請求項8に記載の発明は、時分割複信方式に基づき信号のフレームを構成する、アップリンク用とダウンリンク用を含む複数のサブフレームのうち、ダウンリンク用のサブフレームに基地局信号を割当てるとともに、この割当てられた前記基地局信号を所定のパワーで移動体通信端末(2)に送信する送信部(11)と、前記複数のサブフレームのうちアップリンク用のサブフレームに割当てられた被試験信号を前記移動体通信端末から受信する受信部(13)と、前記被試験信号のパワーを測定する測定部(15)と、前記送信部からの前記基地局信号を受けて前記移動体通信端末に出力するとともに、前記移動体通信端末からの前記被試験信号を受けて前記受信部及び前記測定部に出力するように配置された結合器(12)と、を備えた移動体通信端末試験装置を用いた移動体通信端末試験方法であって、前記移動体通信端末試験装置と前記移動体通信端末との呼接続が確立した状態で、前記移動体通信端末が前記被試験信号を送信する送信タイミングを、前記移動体通信端末試験装置が特定する送信タイミング特定ステップと、前記移動体通信端末試験装置が、前記送信タイミングに基づいて前記被試験信号を受信する受信タイミングを特定し、前記受信タイミングを含む所定の期間を前記測定期間として特定する測定期間特定ステップと、前記移動体通信端末試験装置が、前記測定期間における前記基地局信号のパワーを、前記所定のパワーよりも下げて前記結合器を介して前記移動体通信端末に送信する第1の送信ステップと、前記移動体通信端末が、前記測定期間中に、前記結合器を介して前記移動体通信端末試験装置に前記被試験信号を送信する第2の送信ステップと、前記移動体通信端末試験装置が、前記測定期間中に前記結合器を介して前記移動体通信端末から送信された前記被試験信号のパワーを測定する測定ステップと、を備えたことを特徴とする移動体通信端末試験方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る移動体通信端末試験装置は、TDD方式の試験において、測定対象の区間における基地局信号の出力を下げることで、この基地局信号による被試験信号への干渉を防止することが可能となる。これにより、被試験信号を精度良く測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】TD−LTEのフレーム構造を説明するための図である。
【図2】TD−LTEのフレーム構成を説明するための図である。
【図3】RACH Time maskの試験内容を説明するための図である。
【図4】本実施形態に係る移動体通信端末試験装置のブロック図である。
【図5】第1の実施形態に係る移動体通信端末試験装置の制御タイミングを説明するための図である。
【図6】第1の実施形態に係る移動体通信端末試験装置のフローチャートである。
【図7】General On/Off time maskの試験内容を説明するための図である。
【図8】第2の実施形態に係る移動体通信端末試験装置の制御タイミングを説明するための図である。
【図9】第2の実施形態に係る移動体通信端末試験装置のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係る移動体通信端末試験装置は、試験の対象としての移動体通信端末、例えば携帯電話機の試験のため、世界標準規格3GPPの仕様、特にTS36.521−1規格に準拠した認証試験を実現する移動体通信端末試験装置である。本実施形態に係る移動体通信端末試験装置1は、移動体通信端末2から送信される信号(以降は「被試験信号」と呼ぶ)のパワーを測定することでTD−LTEの規格への準拠性を検証する。特に、本実施形態に係る移動体通信端末試験装置1は、RACH Time maskの試験を実施する。そこで、本実施形態に係る移動体通信端末試験装置について説明するにあたり、まず、「TD−LTEのフレーム構造」、及び「RACH Time maskの試験内容」について説明し、その後、本実施形態に係る移動体通信端末の構成及び動作について説明する。
【0017】
(TD−LTEのフレーム構造)
まず、TD−LTEのフレーム構造について図1及び図2を参照しながら説明する。TD−LTEにおける1つのフレームは、図1のFaに示す通り、2つのハーフフレームHF1及びHF2で構成される。1つのハーフフレームは、5つのサブフレームで構成される。具体的には図1のFbに示す通り、ハーフフレームHF1は、サブフレーム#0〜#4で構成され、ハーフフレームHF2は、サブフレーム#5〜#9で構成される。
【0018】
TD−LTEでは、図1のFcに示すようにサブフレーム#0〜#9を、アップリンク・サブフレーム(UL)、ダウンリンク・サブフレーム(DL)、及びスペシャル・サブフレームのいずれかに割当てる。スペシャル・サブフレームは、伝送ギャップ・ガード周期(GP)で分離された、ダウンリンク・パイロット時間スロット(DwPTS:Downlink Pilot Time Slot)と、アップリンク・パイロット時間スロット(UpPTS:Uplink Pilot Time Slot)とで構成される。
【0019】
アップリンク、ダウンリンク、及びスペシャル・サブフレームの割当ては、図2に示す7つの構成のいずれかで決まることが、TD−LTEの規格で定められている。図2のUplink−downlink configurationで示された0〜6は、構成を区別する番号を示している。また、Subframe Numberの0〜9は、サブフレームの番号#0〜#9に対応している。また、「DL」はダウンリンク・サブフレーム、「UL」はアップリンク・サブフレーム、「S」はスペシャル・サブフレームを示している。
【0020】
TD−LTEの規格では、図2に示した7つの構成のうちのいずれを選択した場合においても、サブフレーム#0及び#5は常にダウンリンク伝送となる。また、サブフレーム#1は常にスペシャル・フレームとなり、サブフレーム#2は常にアップリンク伝送となる。その他のサブフレームの組合せはフレーム構成によって変わる。TD−LTEの規格では、図2の1番のフレーム構成を用いて規格への準拠性を試験することが定義されている。すなわち、1番の構成を選択した場合、サブフレーム#0、#4、#5、#9はダウンリンク・サブフレーム、サブフレーム#2、#3、#7、#8はアップリンク・サブフレーム、サブフレーム#1、#6はスペシャル・サブフレームとなる。以降では、この1番のフレーム構成が選択されているものとして説明する。
【0021】
(RACH Time maskの試験内容)
この試験では、移動体通信端末試験装置1が疑似基地局として動作し、移動体通信端末2から送信されるPRACH(Pysical Random Access Channel)のパワーの測定を行う。なお、以降では疑似基地局を単に「基地局」と呼び、移動体通信端末試験装置が「基地局」として動作する場合、この「疑似基地局」を指すものとする。
【0022】
PRACHは、RACH(Random Access Channel)を伝送するためにULで使用される。RACHは、プリアンブルと呼ばれるデータの始まりに付加する区切り用の特殊ビット列からなる。このプリアンブルは複数回送出される場合がある。PRACHをフレームのどの位置に載せるかは、予め基地局である移動体通信端末試験装置1で指定される。なお、いつどのフレームで移動体通信端末2からPRACHが送信されてくるかは、基地局つまり移動体通信端末試験装置1は知ることができない。なお、PRACHの送信パワーはオープンループパワーコントロール(OLPC:Open Loop Power Control)で制御される。OLPCは、移動体通信端末側がパワーの制御を行う方式である。この方式では、基地局(つまり移動体通信端末試験装置1)が出力する信号のレベルを移動体通信端末2が測定する。移動体通信端末2は、この測定値に見合った送信パワーで信号を出力するように信号の送信パワーを制御する。
【0023】
移動体通信端末2と基地局(つまり移動体通信端末試験装置1)との接続を確立する呼接続の動作について、さらに具体的に説明する。まず移動体通信端末2は、PRACHによりRACHのプリアンブルを基地局に送信する。複数の移動体通信端末2が同時にPRACHを送信した場合は衝突が発生し、いずれか一方又は両方の移動体通信端末2がPRACHを再送する。PRACHを受信した基地局は、PRACHの送信元である移動体通信端末2に応答信号を送信する。以後、所定の手順が実行され移動体通信端末2と基地局との接続が確立される。
【0024】
ここで図3を参照しながら、RACH Time maskにおける試験の内容について説明する。RACH Time maskでは、図3に示すように、上記したPRACHを、サブフレーム#1のUpPTSに割当てることが規格で定められている。またこの規格では、サブフレーム#1のUpPTSの期間L2で被試験信号の送信パワーを測定することが定められている。またこの規格では、期間L2の前後1サブフレーム分の期間L1及びL3における移動体通信端末2からの信号のパワーを測定し、期間L1及びL3において、移動体通信端末2から信号が送信されていないことを確認することが定められている。
【0025】
なお、本実施形態に係る移動体通信端末試験装置1は、移動体通信端末試験装置1から移動体通信端末2に送信される信号(以降では「基地局信号」と呼ぶ)及び被試験信号の経路の切替えに結合器を用いることを特徴としている。この場合、結合器を介して信号経路に干渉が生じる恐れがある。この様子を図3に示す。図3のFcは、信号のフレーム構成を示している。図3のFR1は、フレームFR1において、このフレームを構成する各サブフレームで出力される信号のパワーを示している。具体的には、FR1のDLは移動体通信端末試験装置1から移動体通信端末2に送信される基地局信号のパワーを示している。またFR1のULは、移動体通信端末2から移動体通信端末試験装置1に送信される被試験信号のパワーを示している。サブフレーム#0はダウンリンク・サブフレームに割当てられているため、PD1で示すように基地局信号が出力される。このとき結合器内において、移動体通信端末試験装置1から送信された基地局信号が、移動体通信端末試験装置1が被試験信号を受信する経路にPU1としてリークする。従って、測定期間内の期間L1において干渉が生じ、測定に影響を及ぼす恐れがある。そのため、本実施形態に係る移動体通信端末試験装置1では、この測定期間L1〜L3、特に期間L1における、信号PU1の干渉に伴う影響を防止することを目的としている。
【0026】
(構成)
次に、本実施形態に係る移動体通信端末試験装置1の構成について図4を参照しながら説明する。この移動体通信端末試験装置1は、基地局として動作する。移動体通信端末試験装置1は、移動体通信端末2に基地局信号を送信し、この移動体通信端末2から送信される被試験信号を受け、この被試験信号のパワーを測定する。
【0027】
移動体通信端末試験装置1は、送信部11と、結合器12と、受信部13と、測定期間設定部14と、測定部15と、通信制御部10とを備える。
【0028】
送信部11は、規格に定義された範囲の周波数帯域において、指定された周波数の搬送波を所定の変調方式により変調し、基地局信号として結合器12へ出力する。送信部11の動作は、後述する通信制御部10により制御される。
【0029】
結合器12は、端子12a、12b、及び12cを有する。結合器12は、送信部11から送信された基地局信号を端子12aで受け、この基地局信号を移動体通信端末2に端子12bを介して出力する。また結合器12は、移動体通信端末2から送信された被試験信号を端子12bで受け、この被試験信号を受信部13及び測定部15に端子12cを介して出力する。なお結合器12には、一般的にT分岐やΔ分岐として知られている結合器が用いられる。
【0030】
受信部13は、被試験端末である移動体通信端末2から被試験信号を受信し、指定された周波数の搬送波を所定の復調方式(送信部11で使用した変調方式に対応した復調方式)により復調する。特に本実施形態に係る受信部13は、移動体通信端末2からPRACHを受信すると、その受信タイミングを測定期間設定部14に通知する。
【0031】
通信制御部10は、実行する試験の規格で定められた試験の条件に基づき、移動体通信端末2が送信するPRACHを所定のタイミングに割当て、送信部11に基地局信号として送信させる。また、測定期間設定部14からの指示に基づき、移動体通信端末2からのPRACHに対する応答を、基地局信号として送信部11に送信させる。また、測定期間設定部14から基地局信号のパワーを下げるように指示されると、あわせて通知される期間において基地局信号のパワーを下げるように送信部11を制御する。この場合、通信制御部10は、PRACH2の受信タイミング(図3のL2)とその前後1サブフレームを含む期間(図3のL1及びL3)のうち、DLに割当てられた期間(図3のL1)における基地局信号のパワーを下げるように送信部11を制御する。なお測定部15からの指示を受けて、試験の実施にあたり変更された設定(例えば、変更されたPRACHの割当て)を変更前の状態に戻すように動作させてもよい。なお測定部15については後述する。
【0032】
測定期間設定部14は、移動体通信端末2からの被試験信号のパワーを測定する測定期間を、試験の規格に基づき特定し、測定部15及び通信制御部10に通知する。特に本実施形態に係る測定期間設定部14は、受信部13から通知されたPRACHの受信タイミングとあわせて、測定期間を特定することを特徴としている。本実施形態に係る測定期間設定部14の具体的な動作について、図5を参照しながら以下に具体的に説明する。図5は、測定期間設定部14による測定期間の特定に係る処理を説明するための図である。図5のFcは、信号のフレーム構成を示している。図5のFR1は、フレームFR1において、このフレームを構成する各サブフレームで出力される信号のパワーを示している。具体的には、FR1のDLは移動体通信端末試験装置1から移動体通信端末2に送信される基地局信号のパワーを示している。またFR1のULは、移動体通信端末2から移動体通信端末試験装置1に送信される被試験信号のパワーを示している。同様に図5のFR2は、フレームFR2において、このフレームを構成する各サブフレームで出力される信号のパワーを示しており、DLは基地局信号のパワーを示し、ULは被試験信号のパワーを示している。
【0033】
測定期間設定部14は、受信部13からPRACHの受信タイミングが通知されると、そのPRACHの受信が1回目の場合、まずこの1回目のPRACHに対し応答を行わないように通信制御部10に指示する。なお、通常の通信では、1回目のPRACHに対して応答が行われる。ここでは、1回目のPRACHが送信されたフレームを図5のフレームFR1とし、1回目のPRACHを「PRACH1」とする。この指示を受けて、通信制御部10は、PRACH1に対する応答を移動体通信端末2に送信しないように送信部11を制御する。これにより移動体通信端末2は、PRACH1に対し応答が無いため、予め決められた期間の後、移動体通信端末試験装置1にPRACHを再送する。なお以降では、移動体通信端末2により再送されるPRACHを「PRACH2」とする。
【0034】
次に測定期間設定部14は、PRACH1の受信タイミングに基づき、移動体通信端末2から再送されるPRACH2を受信するタイミングを特定する。移動体通信端末2が、PRACH1を送信してから、PRACH2を再送するまでの期間は、移動体通信端末2の種別により異なる。そのため、試験の条件として、この期間の値を移動体通信端末試験装置1に予めパラメータとして設定できるようになっている。これにより測定期間設定部14は、この条件とPRACH1の受信タイミングとに基づき、PRACH2を受信するタイミングを特定することが可能となる。
【0035】
測定期間設定部14は、PRACH2の受信タイミングを特定すると、PRACH2の受信タイミング(図5のL2)とその前後1サブフレームを含む期間(図5のL1及びL3)を測定期間として特定する。測定期間設定部14は、特定した測定期間とフレーム構成とを比較し、測定期間中における基地局信号の送信期間を特定する。この場合、測定期間設定部14は、測定期間L1〜L3を含むサブフレーム#0〜#2を特定し、そのうちDLが割り当てられたサブフレーム#1のDwPTS及びサブフレーム#0が測定期間中における基地局信号の送信期間であると特定する。
【0036】
測定期間設定部14は、特定した送信期間を通信制御部10に通知し、この送信期間において基地局信号のパワーを下げるように通信制御部10に指示する。この指示を受けて通信制御部10は、送信部11を制御して、PRACH2が送信されるフレームFR2の基地局信号PD2のうちPD2Aで示された、期間内の基地局信号の出力を下げる。これにより、基地局信号PD2の干渉により受信部13で検出される信号PU2のうち、測定期間L1〜L3に含まれるPU2Aで示された信号による干渉の影響を抑止することが可能となる。なお、基地局信号のパワーは、干渉の影響を抑止できるパワーまで下げることが望ましく、典型的には基地局信号の送信パワーを0にする(例えば、基地局信号の送信を停止する)。また、PD2Aで示された信号のみではなく、PD2全体のパワーを下げても干渉の影響を抑止することができる。しかしながら、PRACH2の送信パワーはOLPCにより制御される、そのため、PD2の期間のうち、移動体通信端末2がPRACH2の送信パワーを特定するために参照すべき期間は、送信パワーを下げずに基地局信号を送信させる必要がある。
【0037】
また、測定期間設定部14は、特定した測定期間を測定部15に通知し、この測定期間における測定の実行を測定部15に指示する。
【0038】
測定部15は、測定期間設定部14からの指示に基づき、結合器12を介し移動体通信端末2から送信された試験信号を受け、あわせて測定期間設定部14から指示された測定期間において被試験信号のパワーを測定する。また測定部15は、測定の完了後に通信制御部10に、試験の実施にあたり変更された設定を変更前の状態に戻すように指示するように動作させてもよい。
【0039】
(動作)
次に、本実施形態に係る移動体通信端末試験装置1の一連の動作について説明する。本実施形態に係る移動体通信端末試験装置は、移動体通信端末から最初に送信されるPRACHへの応答を行わず、その後にPRACH2を基準として移動体通信端末からの信号のパワーを測定することを特徴としている。つまり、移動体通信端末試験装置は、再送されたPRACHが載せられたUpPTSの期間と、その前後1サブフレーム分の期間における移動体通信端末からの信号のパワーを各期間で測定する。以下に、この移動体通信端末試験装置1の一連の動作について、図6に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0040】
(ステップS11)
試験が開始されると、通信制御部10は、試験の条件に基づき基地局信号の送信パワーを変更し、この送信パワーに基づき送信部11に基地局信号を送信させる。この基地局信号は、結合器12を介し移動体通信端末2で受信される。
【0041】
(ステップS21)
移動体通信端末2から送信される被試験信号は、OLPCの制御に基づき、送信部11から送信された基地局信号の送信パワーにより決定される。具体的には、移動体通信端末2は、送信部11から基地局信号を受信し、この基地局信号の送信パワーを測定する。移動体通信端末2は、この測定値に基づき被試験信号の送信パワーを特定する。
【0042】
(ステップS12)
次に、通信制御部10は、試験の条件に基づき移動体通信端末2が送信するPRACHを、サブフレーム#1のUpPTSに割当てる。この通信制御部10によるPRACHの割当てに係る制御情報は、送信部11から基地局信号として移動体通信端末2に送信される。なお、このステップS12が「接続要求割当てステップ」に相当する。
【0043】
(ステップS22)
移動体通信端末2は、送信部11から受信した基地局信号に含まれるPRACHの割当てに係る制御情報を読み出す。移動体通信端末2は、この制御情報に基づき、PRACHをサブフレーム#1のUpPTSに割当て、被試験信号として移動体通信端末試験装置1に送信する。なお、このステップS22が「第1の送信ステップ」に相当する。
【0044】
(ステップS13)
移動体通信端末2から送信された被試験信号は、結合器12を介し受信部13で受信される。受信部13は、1回目のPRACH、つまりPRACH1を受信すると、その受信タイミングを測定期間設定部14に通知する。測定期間設定部14は、受信部13からPRACH1の受信タイミングが通知されると、このPRACH1に対し応答を行わないように通信制御部10に指示する。この指示を受けて、通信制御部10は、PRACH1に対する応答を移動体通信端末2に送信しないように送信部11を制御する。
【0045】
(ステップS14)
次に測定期間設定部14は、PRACH1の受信タイミングに基づき、移動体通信端末2から再送されるPRACH2を受信するタイミングを特定する。移動体通信端末2が、PRACH1を送信してから、PRACH2を再送するまでの期間は、規格に基づき試験の条件として予め決められている。測定期間設定部14は、PRACH2の受信タイミングを特定すると、PRACH2の受信タイミング(図5のL2)とその前後1サブフレームを含む期間(図5のL1及びL3)を測定期間として特定する。なお、このステップS13及びS14が「測定期間特定ステップ」に相当する。
【0046】
(ステップS15)
測定期間設定部14は、特定した測定期間と、フレーム構成とを比較し、測定期間中における基地局信号の送信期間を特定する。この場合、測定期間設定部14は、測定期間L1〜L3を含むサブフレーム#0〜#2を特定し、そのうちDLが割り当てられたサブフレーム#1のDwPTS及びサブフレーム#0が測定期間中における基地局信号の送信期間であると特定する。
【0047】
測定期間設定部14は、特定した送信期間を通信制御部10に通知し、この送信期間において基地局信号のパワーを下げるように通信制御部10に指示する。これにより通信制御部10は、図5に示すように、送信部11を制御して、PRACH2が送信されるフレームFR2の基地局信号PD2のうちPD2Aで示された、測定期間L1〜L3内の基地局信号の出力を下げる。なお、このステップS15が「第2の送信ステップ」に相当する。
【0048】
(ステップS23)
移動体通信端末2は、移動体通信端末試験装置1からPRACH1に対する応答がないため、予め決められた期間の後、移動体通信端末試験装置1にPRACH、つまりPRACH2を再送する。再送されたPRACH2は、受信部13及び測定部15で受信される。なお、このステップS23が「第3の送信ステップ」に相当する。
【0049】
(ステップS16)
測定期間設定部14は、特定した測定期間を測定部15に通知し、この測定期間における測定の実行を測定部15に指示する。測定部15は、測定期間設定部14からの指示に基づき、移動体通信端末2から送信されたPRACH2を受信する。測定部15は、測定期間設定部14から指示された測定期間におけるPRACH2のパワーを測定する。また測定部15は、期間L1及びL3における移動体通信端末2からの信号のパワーを測定し、期間L1及びL3において、移動体通信端末2から信号が送信されていないことを確認する。このとき、測定期間設定部14の指示に基づき、測定期間に送信部11から送信される基地局信号の出力(図5のPD2A)が下げられるため、基地局信号の干渉の影響(図5のPU2A)を防止することが可能となる。なお測定完了後に、ステップS12で変更された接続要求の割当てを変更前の状態に戻すように、通信制御部10を動作させてもよい。なお、このステップS16が「測定ステップ」に相当する。
【0050】
以上、第1の実施形態に係る移動体通信端末試験装置では、1回目のPRACHに応答を行わず、再送されるPRACHを測定の対象としている。このとき移動体通信端末試験装置1は、測定期間であるPRACHの前後1サブフレーム、特にPRACHの前1サブフレームにおいて、基地局信号の送信パワーを一時的に下げる。これにより、基地局信号及び被試験信号の経路の切替えに結合器を用いた場合においても、基地局信号による被試験信号への干渉を防止することが可能となる。また、比較的安価な結合器を用いてFDD方式及びTDD方式の双方を試験可能な移動体通信端末試験装置を実現することが可能となるため、試験規格を満たした移動体通信端末試験装置を、スイッチや方向性結合器を用いた場合に比べてより安価に提供することが可能となる。
【0051】
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係る移動体通信端末試験装置は、第1の実施形態と同様に世界標準規格3GPPの仕様、特にTS36.521−1規格に準拠した認証試験を実現する移動体通信端末試験装置である。本実施形態に係る移動体通信端末試験装置1は、移動体通信端末2から送信される被試験信号のパワーを測定することでTD−LTEの規格への準拠性を検証する。特に、本実施形態に係る移動体通信端末試験装置は、General On/Off time maskの試験を実施する。そこで、本実施形態に係る移動体通信端末試験装置について説明するにあたり、まず「General On/Off time maskの試験内容」について説明し、その後、本実施形態に係る移動体通信端末の動作について第1の実施形態と異なる部分に着目し説明する。
【0052】
(General On/Off time maskの試験内容)
General On/Off time maskは、基地局と移動体通信端末2とが呼接続された状態を想定した試験規格である。呼接続された状態では、移動体通信端末2がどのサブフレームで信号を送信するかを基地局(つまり移動体通信端末試験装置1)が制御する。また移動体通信端末2から送信される信号の送信パワーはクローズドループパワーコントロール(CLPC:Closed Loop Power Control)で制御される。CLPCでは、基地局からの制御により、移動体通信端末2が自己の送信パワーを制御する。この試験では、移動体通信端末試験装置1が基地局として動作し、呼接続された状態で、移動体通信端末2から送信される信号のパワーを測定する。
【0053】
ここで図7を参照しながら、General On/Off time maskにおける試験の内容について説明する。General On/Off time maskでは、図7に示すように、サブフレーム#2及び#3にULを割当て、サブフレーム#4にDLを割当てる(これは、図2の1番のフレーム構成を選択することで設定される)。また、基地局からの制御に基づき、移動体通信端末2はサブフレーム#3を用いて被試験信号PU3を送信する。そのうえで、サブフレーム#2〜#4の期間L4〜L6における移動体通信端末2からの被試験信号のパワーを測定することが規約で定められている。
【0054】
なお、本実施形態に係る移動体通信端末試験装置1は、基地局信号及び被試験信号の経路の切替えに結合器を用いることを特徴としている。この場合、結合器を介して信号経路に干渉が生じる恐れがある。この様子を図7に示す。図7のFcは、信号のフレーム構成を示している。図7のFR3は、フレームFR3において、このフレームを構成する各サブフレームで出力される信号のパワーを示している。具体的には、FR3のDLは移動体通信端末試験装置1から移動体通信端末2に送信される基地局信号のパワーを示している。またFR3のULは、移動体通信端末2から移動体通信端末試験装置1に送信される被試験信号のパワーを示している。サブフレーム#4はダウンリンク・サブフレームに割当てられているため、PD4で示すように基地局信号が出力される。このとき結合器内において、移動体通信端末試験装置1から送信された基地局信号が、移動体通信端末試験装置1が被試験信号を受信する経路にPU4としてリークする。従って、測定期間内の期間L6において干渉が生じ、測定に影響を及ぼす可能性がある。そのため、本実施形態に係る移動体通信端末試験装置1では、この測定期間L4〜L6、特に期間L6における、信号PU4の干渉に伴う影響を防止することを目的としている。
【0055】
(構成)
次に、本実施形態に係る移動体通信端末試験装置1の構成について図4を参照しながら第1の実施形態に係る移動体通信端末試験装置と異なる構成に着目して説明する。本実施形態に係る移動体通信端末試験装置1は、呼接続が確立された状態で基地局として動作する。そのため、移動体通信端末2が被試験信号を送信するタイミングや、被試験信号の送信パワーは、移動体通信端末試験装置1から基地局信号として送信される制御情報に基づき制御される点で、第1の実施形態とは異なる。以降では、第1の実施形態に係る移動体通信端末試験装置1と異なる測定期間設定部14及び通信制御部10の構成に着目して説明する。
【0056】
通信制御部10は、実行する試験の規格で定められた試験の条件に基づき、送信部11に基地局信号を送信させる。具体的には、通信制御部10は、サブフレーム#2及び#3にULを割当て、サブフレーム#4にDLを割当てたうえで、サブフレーム#3を用いて被試験信号を送信するように移動体通信端末2を制御する制御情報を作成する。通信制御部10は、作成した制御情報は基地局信号として移動体通信端末2に送信するように、送信部11を制御する。
【0057】
また通信制御部10は、測定期間設定部14から基地局信号のパワーを下げるように指示されると、あわせて通知される期間において基地局信号のパワーを下げるように送信部11を制御する。この場合、通信制御部10は、サブフレーム#2〜#4の期間(図7のL4〜L6)のうち、DLに割当てられたサブフレーム#4(図7のL6)の期間における基地局信号のパワーを下げるように送信部11を制御する。
【0058】
測定期間設定部14は、移動体通信端末2からの被試験信号のパワーを測定する測定期間を、試験の規格に基づき特定し測定部15に通知する。特に本実施形態に係る測定期間設定部14は、General On/Off time maskの規格に基づき、サブフレーム#2〜#4の期間(図7のL4〜L6)を測定期間として特定する。本実施形態に係る測定期間設定部14の具体的な動作について、図8を参照しながら以下に具体的に説明する。図8は、測定期間設定部14による測定期間の特定に係る処理を説明するための図である。図8のFcは、信号のフレーム構成を示している。図5のFR3は、フレームFR3において、このフレームを構成する各サブフレームで出力される信号のパワーを示している。具体的には、FR3のDLは移動体通信端末試験装置1から移動体通信端末2に送信される基地局信号のパワーを示している。またFR3のULは、移動体通信端末2から移動体通信端末試験装置1に送信される被試験信号のパワーを示している。また図8のFR3Aは、フレームFR3において、試験期間中における基地局信号の送信パワーを下げた場合に、このフレームを構成する各サブフレームで出力される信号のパワーを示しており、DLは基地局信号のパワーを示し、ULは被試験信号のパワーを示している。
【0059】
測定期間設定部14は、特定した測定期間とフレーム構成とを比較し、測定期間中における基地局信号の送信期間を特定する。この場合、測定期間設定部14は、測定期間であるサブフレーム#2〜#4の期間のうち、DLが割り当てられたサブフレーム#4が測定期間中における基地局信号の送信期間であると特定する。測定期間設定部14は、特定した送信期間を通信制御部10に通知し、この送信期間において基地局信号のパワーを下げるように通信制御部10に指示する。この指示を受けて通信制御部10は、送信部11を制御して、図8のFR3Aに示すように、試験を実施するフレームにおける基地局信号PD4の出力を下げる。これにより、基地局信号PD4の干渉により受信部13で検出される、測定期間L4〜L6に含まれるPU4で示された信号による干渉の影響を抑止することが可能となる。なお、基地局信号のパワーは、干渉の影響を抑止できるパワーまで下げることが望ましく、典型的には基地局信号の送信パワーを0にする(例えば、基地局信号の送信を停止する)。また、上記ではPD4で示された信号のうち、期間L6の範囲の信号(サブフレーム#4の信号)のみのパワーを下げるように動作させてもよい。
【0060】
(動作)
次に、本実施形態に係る移動体通信端末試験装置1の一連の動作について説明する。本実施形態に係る移動体通信端末試験装置は、図7に示すようにサブフレーム#2及び#3にULを割当て、サブフレーム#4にDLを割当てる。また、基地局からの制御に基づき、移動体通信端末2はサブフレーム#3を用いて被試験信号PU3を送信する。そのうえで、サブフレーム#2〜#4の期間L4〜L6における移動体通信端末2からの被試験信号のパワーを各期間で測定する。以下に、この移動体通信端末試験装置1の一連の動作について、図9に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0061】
(ステップS31)
試験が開始されると、通信制御部10は、実行する試験の規格で定められた試験の条件に基づき送信スケジュールを変更し、送信部11に基地局信号を送信させる。具体的には、通信制御部10は、サブフレーム#2及び#3にULを割当て、サブフレーム#4にDLを割当てたうえで、規格に沿った送信パワーでサブフレーム#3を用いて被試験信号を送信するように移動体通信端末2を制御する制御情報を作成する。通信制御部10は、作成した制御情報は基地局信号として移動体通信端末2に送信するように、送信部11を制御する。この基地局信号は、結合器12を介し移動体通信端末2で受信される。なお、このステップS31が「送信タイミング特定ステップ」に相当する。
【0062】
(ステップS32)
次に測定期間設定部14は、移動体通信端末2からの被試験信号のパワーを測定する測定期間を、試験の規格に基づき特定する。測定期間設定部14は、特定した測定期間とフレーム構成とを比較し、測定期間中における基地局信号の送信期間を特定する。この場合、測定期間設定部14は、測定期間であるサブフレーム#2〜#4の期間のうち、DLが割り当てられたサブフレーム#4が測定期間中における基地局信号の送信期間であると特定する。測定期間設定部14は、特定した送信期間を通信制御部10に通知し、この送信期間において基地局信号のパワーを下げるように通信制御部10に指示する。この指示を受けて通信制御部10は、送信部11を制御して、試験を実施するフレームFR3における測定期間L4〜L6内の基地局信号PD4の出力を下げる。なお、このステップS31が「測定期間特定ステップ」及び「第1の送信ステップ」に相当する。
【0063】
(ステップS41)
移動体通信端末2は、送信部11から受信した基地局信号に含まれる制御情報を読み出す。移動体通信端末2は、この制御情報に基づき、フレームFR3のサブフレーム#3の送信パワーを制御する。
【0064】
(ステップS42)
移動体通信端末2は、制御情報に基づき変更した送信パワーで被試験信号を移動体通信端末試験装置1に送信する。なお、このステップS41及びS42が「第2の送信ステップ」に相当する。
【0065】
(ステップS33)
測定期間設定部14は、特定した測定期間を測定部15に通知し、この測定期間における測定の実行を測定部15に指示する。測定部15は、測定期間設定部14からの指示に基づき、移動体通信端末2から送信された被試験信号を受信する。測定部15は、測定期間設定部14から指示された測定期間において被試験信号のパワーを測定する。また測定部15は、期間L4及びL6における移動体通信端末2からの信号のパワーを測定し、期間L4及びL6において、移動体通信端末2から信号が送信されていないことを確認する。このとき、測定期間設定部14の指示に基づき、測定期間に送信部11から送信される基地局信号の出力(図8のPD4)が下げられるため、基地局信号の干渉の影響(図8のPU4)を防止することが可能となる。なお測定完了後に、ステップS31で変更された送信スケジュールを変更前の状態に戻すように、通信制御部10を動作させてもよい。なお、このステップS33が「測定ステップ」に相当する。
【0066】
以上、第2の実施形態に係る移動体通信端末試験装置では、General On/Off time maskにおいても、測定期間における基地局信号の送信パワーを一時的に下げる。これにより、基地局信号及び被試験信号の経路の切替えに結合器を用いた場合においても、基地局信号による被試験信号への干渉を防止することが可能となる。
【符号の説明】
【0067】
1 移動体通信端末試験装置
10 通信制御部
11 送信部
12 結合器
13 受信部
14 測定期間設定部
15 測定部
2 移動体通信端末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
時分割複信方式に基づき信号のフレームを構成する、アップリンク用とダウンリンク用を含む複数のサブフレームのうち、ダウンリンク用のサブフレームに基地局信号を割当てるとともに、この割当てられた前記基地局信号を所定のパワーで移動体通信端末(2)に送信する送信部(11)と、
前記複数のサブフレームのうちアップリンク用のサブフレームに割当てられた被試験信号を前記移動体通信端末から受信する受信部(13)と、
前記被試験信号のパワーを測定する測定部(15)と、
前記送信部からの前記基地局信号を受けて前記移動体通信端末に出力するとともに、前記移動体通信端末からの前記被試験信号を受けて前記受信部及び前記測定部に出力するように配置された結合器(12)と、
前記アップリンク用のサブフレームに割当てられた前記被試験信号のパワーを測定する測定期間を特定する測定期間設定部(14)と、
前記特定された測定期間における前記基地局信号のパワーを、前記所定のパワーよりも下げるように前記送信部を制御する通信制御部(10)と、
を備え、
前記測定期間における前記被試験信号のパワーを測定することを特徴とする移動体通信端末試験装置。
【請求項2】
前記測定期間設定部は、前記移動体通信端末との呼接続を確立するために前記移動体通信端末から送信される第1の接続要求を前記受信部が受信したタイミングに基づいて、前記移動体通信端末からの第2の接続要求を受信するタイミングを特定し、前記第2の接続要求を受信するタイミングと、その前後のサブフレームに亘り所定の期間を前記測定期間として特定することを特徴とする請求項1に記載の移動体通信端末試験装置。
【請求項3】
前記通信制御部は、前記第1の接続要求に対し応答を行わないように前記送信部を制御することで、前記移動体通信端末に前記第2の接続要求を送信させることを特徴とする請求項2に記載の移動体通信端末試験装置。
【請求項4】
前記第2の接続要求を含むサブフレームは、前記第2の接続要求の直前に位置するアップリンク用の伝送期間とダウンリンク用の伝送期間を分離する伝送ギャップと、前記伝送ギャップを挟んで前記第2の接続要求以前に位置するダウンリンク用のスロットを含み、
前記第2の接続要求及び前記第2の接続要求の直後のサブフレームはアップリンク用の伝送期間に該当し、前記ダウンリンク用のスロット及び前記ダウンリンク用のスロットの直前に位置するサブフレームはダウンリンク用の伝送期間に該当し、
前記通信制御部は、前記ダウンリンク用のスロット及び前記ダウンリンク用のスロットの直前に位置するサブフレームにおける前記基地局信号のパワーを、前記所定のパワーよりも下げるように前記送信部を制御することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の移動体通信端末試験装置。
【請求項5】
前記通信制御部は、前記送信部に、前記移動体通信端末が被試験信号を送信する送信タイミングを示す制御情報を前記移動体通信端末へ送信させることで、前記移動体通信端末を前記制御情報に基づき動作させ、
前記測定期間設定部は、前記送信タイミング及び前記フレームの構成に基づき前記被試験信号を受信する受信タイミングを特定し、前記受信タイミングを含む所定の期間を前記測定期間として特定することを特徴とする請求項1に記載の移動体通信端末試験装置。
【請求項6】
前記送信タイミングは前記複数のサブフレームのうち前記アップリンク用のサブフレームであり、前記送信タイミングに該当するサブフレーム及び該サブフレームの直前のサブフレームはアップリンク用の伝送期間に該当し、前記送信タイミングに該当するサブフレームの直後のサブフレームはダウンリンク用の伝送期間に該当し、
前記測定期間設定部は、前記送信タイミングに該当するサブフレームと、該サブフレームの前記直前及び直後のサブフレームを前記測定期間として特定し、
前記通信制御部は、前記送信タイミングに該当するサブフレームの直後のサブフレームにおける前記基地局信号のパワーを、前記所定のパワーよりも下げるように前記送信部を制御することを特徴とする請求項5に記載の移動体通信端末試験装置。
【請求項7】
時分割複信方式に基づき信号のフレームを構成する、アップリンク用とダウンリンク用を含む複数のサブフレームのうち、ダウンリンク用のサブフレームに基地局信号を割当てるとともに、この割当てられた前記基地局信号を所定のパワーで移動体通信端末(2)に送信する送信部(11)と、前記複数のサブフレームのうちアップリンク用のサブフレームに割当てられた被試験信号を前記移動体通信端末から受信する受信部(13)と、前記被試験信号のパワーを測定する測定部(15)と、前記送信部からの前記基地局信号を受けて前記移動体通信端末に出力するとともに、前記移動体通信端末からの前記被試験信号を受けて前記受信部及び前記測定部に出力するように配置された結合器(12)と、を備えた移動体通信端末試験装置を用いた移動体通信端末試験方法であって、
前記移動体通信端末が前記移動体通信端末試験装置との呼接続を確立するための接続要求を前記複数のサブフレームのうちいずれかのサブフレームに割当てる接続要求割当てステップと、
前記移動体通信端末が、前記結合器を介して前記移動体通信端末試験装置に第1の接続要求を送信する第1の送信ステップと、
前記移動体通信端末試験装置が、前記サブフレームへの割当てに基づき前記第1の接続要求を受信する第1の受信ステップと、
前記移動体通信端末試験装置が、前記第1の接続要求を受信したタイミングに基づいて、前記移動体通信端末からの第2の接続要求を受信するタイミングを特定し、前記第2の接続要求を受信するタイミングを含む所定の期間を測定期間として特定する測定期間特定ステップと、
前記移動体通信端末試験装置が、前記測定期間における前記基地局信号のパワーを、前記所定のパワーよりも下げて前記結合器を介して前記移動体通信端末に送信する第2の送信ステップと、
前記移動体通信端末試験装置が前記第1の接続要求に対し応答を行わないことで、前記移動体通信端末が、前記測定期間以前の前記基地局信号のパワーに基づき前記第2の接続要求の送信パワーを決定し、決定した前記送信パワーに基づき前記第2の接続要求を、前記測定期間中に前記結合器を介して前記移動体通信端末試験装置に再送する第3の送信ステップと、
前記移動体通信端末試験装置が、前記第2の接続要求を含む被試験信号のパワーを測定する測定ステップと、
を備えたことを特徴とする移動体通信端末試験方法。
【請求項8】
時分割複信方式に基づき信号のフレームを構成する、アップリンク用とダウンリンク用を含む複数のサブフレームのうち、ダウンリンク用のサブフレームに基地局信号を割当てるとともに、この割当てられた前記基地局信号を所定のパワーで移動体通信端末(2)に送信する送信部(11)と、前記複数のサブフレームのうちアップリンク用のサブフレームに割当てられた被試験信号を前記移動体通信端末から受信する受信部(13)と、前記被試験信号のパワーを測定する測定部(15)と、前記送信部からの前記基地局信号を受けて前記移動体通信端末に出力するとともに、前記移動体通信端末からの前記被試験信号を受けて前記受信部及び前記測定部に出力するように配置された結合器(12)と、を備えた移動体通信端末試験装置を用いた移動体通信端末試験方法であって、
前記移動体通信端末試験装置と前記移動体通信端末との呼接続が確立した状態で、前記移動体通信端末が前記被試験信号を送信する送信タイミングを、前記移動体通信端末試験装置が特定する送信タイミング特定ステップと、
前記移動体通信端末試験装置が、前記送信タイミングに基づいて前記被試験信号を受信する受信タイミングを特定し、前記受信タイミングを含む所定の期間を前記測定期間として特定する測定期間特定ステップと、
前記移動体通信端末試験装置が、前記測定期間における前記基地局信号のパワーを、前記所定のパワーよりも下げて前記結合器を介して前記移動体通信端末に送信する第1の送信ステップと、
前記移動体通信端末が、前記測定期間中に、前記結合器を介して前記移動体通信端末試験装置に前記被試験信号を送信する第2の送信ステップと、
前記移動体通信端末試験装置が、前記測定期間中に前記結合器を介して前記移動体通信端末から送信された前記被試験信号のパワーを測定する測定ステップと、
を備えたことを特徴とする移動体通信端末試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−100127(P2012−100127A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246986(P2010−246986)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】