説明

移動用電動車両

【課題】 脚に障害を持つ人や脚力の衰えが見える高齢者が使用する移動用電動車両であって、搭乗者が脚を用いて駆動力を発生させる機能を有することによって機能回復訓練に効果を発揮するとともに、チェーンやギヤ等のトルク伝達機構を排除することによってその機構が簡単化されかつ重量が軽減され、そのうえ操縦が容易でかつ乗心地のよい移動用電動車両を提供することを目的とする。
【解決手段】 搭乗者が脚で操作するペダルと、前記ペダルに設けられたペダルの回転角度を検出するセンサと、車両の駆動輪に駆動力を与える駆動手段と、駆動手段を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は前記センサの検出信号に基づいて演算した駆動輪の回転角度および回転速度の指令値を前記駆動手段に出力して駆動手段を制御することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】ペダルの回転に連動して駆動輪を駆動する移動用電動車両であって、脚力機能の回復を目指す障害者や脚力の衰えが見える高齢者の機能回復訓練をしつつ所望の場所への移動が可能な移動用電動車両。
【0002】
【従来の技術】医療施設やケアハウス等においては、脚に障害を持つ人や脚力の衰えが見える高齢者を自力歩行できるようにする為の各種のリハビリ支援装置が備えられており、これらを使用することによって脚力の機能回復訓練を行うことができる。しかし、所定レベルまで回復して施設を退院し自宅に戻った場合には、屋内に手すりを設けてこれに伝いながら歩行訓練するのが主となり、充分な脚の機能回復訓練を継続的に行うことが困難である。
【0003】一方、障害者や高齢者の屋内および屋外での自力での移動には、車椅子を使用することが専らであり、機能回復訓練中の障害者や高齢者にとっては、脚に負担のかからない快適な移動手段となっている。特に近年、モータを駆動手段とする電動車椅子が出現しており、その結果障害者や高齢者が体力を必要とせずに、所望の場所に移動できる移動手段として歓迎されている。
【0004】しかし機能回復訓練の観点からすると、上記の電動車椅子を利用する際には障害を有する脚に全く負荷がかからないために脚力の低下に繋がるおそれがあり、脚の機能回復訓練中の障害者や高齢者にとっては、電動車椅子を多用することにより、機能回復訓練が充分な効果を発揮しないという問題がある。
【0005】上記問題点を解消するために、機能回復訓練中の障害者や高齢者が利用する車椅子において脚を使用することで脚の機能を維持する方法が考案されている。即ち、ペダルを備えた電動補助車椅子がこれであり、ペダルをこぐことにより車椅子の推進力の一部を負担することで、脚力の機能を維持するものである。
【0006】上記の電動補助方式の車椅子では、ペダルがある一定以上の負荷を必要するようになると電気モーターが働き、脚力の負荷が一定以上にならないようにしたものであり、負荷が軽いときには人力で運転し、坂道等の負荷がかかる場合には電気モータの駆動力に切り替えるかあるいは人力とモータの駆動力とを合成して駆動するようにしている。
【0007】ところで、この方式の電動補助車椅子では、人力と電気モーター2つの駆動力を用いているため、2つの駆動力の切り替えあるいは2つの駆動力の合成するための制御装置が複雑になり、また機構が複雑になるために構成部品も多くなり重量が重くなるという問題点を有する。また、機構が複雑になる結果価格も高くなるという問題点を有している。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】上記問題点に鑑み、脚に障害を持つ人や脚力の衰えが見える高齢者が使用する移動用電動車両であって、搭乗者が脚を用いて駆動力を発生させる機構を有することによって機能回復訓練に役立ち、かつ、チェーンやギヤ等のトルク伝達機構を排除することによってその機構が簡単化されかつ重量が軽減され、そのうえ操縦が容易でかつ乗心地のよい移動用電動車両を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明の移動用電動車両は、搭乗者が脚で操作するペダルと、前記ペダルに設けられたペダルの回転角度を検出するセンサと、車両の駆動輪に駆動力を与える駆動手段と、駆動手段を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は前記センサの検出信号に基づいて演算した駆動輪の回転角度および回転速度の指令値を前記駆動手段に出力して駆動手段を制御することを特徴としている。
【0010】とくに、本発明の移動用電動車両は、前記制御手段はペダルの回転方向と駆動輪の回転方向とを対応づけて駆動輪の回転角度および回転速度の指令値を出力するように制御されることを特徴としている。
【0011】また、本発明の移動用電動車両は、前記制御手段に駆動輪の回転速度をスムージングする機能、もしくは、ペダルの回転速度に対する駆動輪の回転速度比をペダルの回転速度に応じて変化させる機能を備えることを特徴としている。
【0012】また、本発明の移動用電動車両は、前記ペダルの回転部に負荷付与手段を備えることを特徴としている。
【0013】さらに、本発明の移動用電動車両は、前記センサにエンコーダを用いてもよく、あるいは前記駆動手段に電気モータを用いてもよい。
【0014】
【作用】本発明の移動用電動車両は、搭乗者が足で操作するペダルによって移動車両の移動量および移動速度を決定するように構成されており、ペダルと駆動輪とを機械的に連結する動力伝達機構を持たないにも関わらず、ペダルによって直接に駆動輪を駆動しているのと同様の効果が得られるように構成されている。
【0015】さらに、本発明の移動用電動車両は、前記制御手段に駆動輪の回転速度をスムージングする機能、もしくは、ペダルの回転速度に対する駆動輪の回転速度比をペダルの回転速度に応じて変化させる機能を備える。そのために、移動用電動車両の急激な加速や減速の発生がなく、また、低速域や高速域での搭乗者の操縦が容易である。
【0016】一方、ペダル部に搭乗者の脚力に応じた負荷を付与する機構を設けているので、搭乗者が移動車両を自身の脚力で駆動しているかの感覚で操縦することが可能であるために、障害者および高齢者が所望の場所に容易に移動することが可能であるとともに、機能回復訓練の効果をも併せ持つものである。
【0017】
【発明の実施の形態】図をもって本発明の実施例について説明する。いうまでもなく、この実施例で本発明が限定されるものではない。また、本実施例では安定性に優れているという理由から移動用電動車両が4輪を有する例を示すが、移動用電動車両の機構を簡単にするために車輪数が3輪の車両としてもよい。3輪の移動用電動車両の場合には、前側が1輪で後ろが2輪の構成とするか、あるいは、前が2輪で後ろが1輪の構成のいずれかの構成とすることができる。
【0018】図1は本実施例にかかる移動用電動車両1の外観を示す図であり、(a)は前方から見た正面図であり、(b)は側面図であり、(c)は移動用電動車両の後方から見た背面図である。
【0019】移動用電動車両1の機体フレーム2の前端部には1対の前輪3L、3R、後端部には一対の後輪4L、4Rが取り付けられている。後輪4L、4Rにはそれぞれ駆動モータ41L、41Rが連結され、後輪4L、4Rの各々は独立して駆動制御される。
【0020】機体フレーム2の中央部には搭乗者の座る搭乗席5が設けられており、搭乗席5の背もたれ部の上部には、介護者が保持するための把持部6を備える。
【0021】機体フレーム2前端部に設けられたハンドル指示部14には移動用電動車両1の進行方向を旋回するハンドル8が回動可能に保持されており、さらにハンドル8の回動角度を検出する旋回角度検出センサ71が設けられている。旋回角度検出センサ71によって検出された角度に応じて進行方向が決定され制御される。
【0022】機体フレーム2の前端部には、搭乗者の脚でこぐことができる位置にペダル7が設けられており、ペダル7の回転角度を検出する回転角度検出センサ15が機体フレーム2内部に設けられる。
【0023】ペダル7の回転部には、さらにペダル7を回転させる際に負荷がかかるように負荷付与手段9が連結される。この負荷付与手段9は機能回復訓練の程度に応じてその負荷の強弱を変化させるための調整手段10を備える。
【0024】例えば負荷付与手段9は、ペダル7の回転部に摩擦板を設けてこの摩擦板にペダル7の回転軸方向に弾性力を加えてペダル7を回転させる際に負荷がかかるように構成する。負荷付与手段9には調整ツマミ等の調整手段10を設けることによって、摩擦板にかかる力を調整してペダル7をこぐ際の負荷の大きさを調整する。
【0025】機体フレーム2の下部には、移動用電動車両1全体を制御する制御装置11、駆動モータ4のドライバ42および電源供給用のバッテリー13が取り付けられている。
【0026】図2は制御システムを説明するブロック図である。ペダル7の回転角度は回転角度センサ81によって検出され、その出力が制御部11に送られる。駆動輪4の回転角度および回転速度は、ペダル7の回転の回転角度および回転速度と所定の関係が維持されるように制御される。即ち、ペダル7の回転が遅い場合は駆動輪の回転は遅くなり、ペダル7の回転が早くなると駆動輪4は早くなる。また、ペダルの回転を逆回転にすれば、駆動輪4は逆回転し、ペダル7を一定の位置に停止した場合は駆動輪4は停止するように制御装置11によって制御される。
【0027】制御装置11は駆動輪4の回転速度を演算する際に、ペダル7から入力値が急激に変化した場合にスムージングをして駆動輪4の回転速度の指令値を出力する機能を備えている。スムージング機能を備えずペダル7の速度変化を忠実に伝達する制御手段であると、急激な速度変化がペダル7に加わった場合に移動用電動車両1は急激に速度が変わり、危険な状態に陥ることがある。スムージング機能によって急激な速度変化を制限することで安全な運転が確保できる。
【0028】また、制御装置11はペダル7と駆動輪4との回転速度比を前記ペダルの回転速度に応じて変化させて前記駆動輪4の回転速度の指令値を出力する機能を備えており、移動用電動車両1の操縦性能および乗心地を高めている。例えば、低速および高速域では回転速度比を小さくとり、中速域では大きくすることにより、低速域では微妙に速度を変えて操縦することが可能であり、中速域では、少し速くペダル7をこげば、容易に増速することができる。一方、高速域では回転速度比が抑えてあるので、過度に速度が上がるのを防ぎ、危険の発生が防止できる。
【0029】次ぎにハンドル8による移動用電動車両1の旋回制御について説明する。本実施例の移動用電動車両1は後輪駆動の4輪車であり、2つの後輪4L、4Rは各々独立して駆動されるので、2つの後輪4L、4Rの各々の回転量を制御することによって移動用電動車両1の旋回半径と旋回角度を制御することができる。したがって、旋回角度検出センサ16によって検出されたハンドル8の旋回角度に基づいて駆動輪の回転角度および回転速度が制御部11において演算され、その演算結果を各々の駆動モータコントローラ42に出力することによって移動用電動車両の旋回角度が制御される。駆動輪用の駆動モータ41L、41Rには、回転角度検出用のエンコーダが組み込まれており、位置指令および速度指令とモータの出力が一致するように各々のモータコントローラ42によって駆動輪4L、4Rの動きが制御される。
【0030】本実施例では移動用電動車両1を旋回させる手段にハンドル8および旋回角度検出センサ16を用いているが、必ずしもこれにかぎるものではなく、ジョイスティックやレバー等を設けておき、その出力に基づいて制御部において演算した出力を駆動輪に伝達することによって、移動用電動車両1が旋回するように構成してもよい。
【0031】次に移動用電動車両1の操作および動作について説明する。本実施例の移動用電動車両1においては、搭乗者がペダル7を前方向(図1 (b)における時計回り方向)に回転させると移動用電動車両1は前進し、後ろ方向(図1(b)における反時計回り方向)にペダル7を回転させると移動用電動車両1は後退する。ペダル7を一定の位置に保持すると移動用電動車両1は一定位置に停止する。また、ペダル7の回転速度が遅ければ、移動用電動車両1はゆっくりと移動し、ペダル7の回転速度が早いと移動用電動車両の移動速度は速くなる。即ちペダル7は移動用電動車両の移動距離制御装置であるとともに、速度制御装置を兼ねる役割を果たす。
【0032】したがって、ペダルの操作が移動用電動車両1を操縦する感覚とマッチして操縦しやすい構成となっている。また、ペダルを一定位置に維持すると、駆動モータは前進も後退もせず、一定の位置で停止するため、特別なブレーキ機構を必要としない。
【0033】移動用電動車両1を直進させる場合には、ハンドル8を中立に位置におくが、この時に後輪(駆動輪)の左右一対の駆動モータ41へはペダル7に動きに基づく同じ値の位置指令が出力されるために移動用電動車両1は直進する。いまハンドル8を右に旋回させた場合には左側の駆動輪の駆動用モータに右側よりも多く回転させる位置指令を出力することによって、移動用電動車両1を右側に旋回させる。同様にハンドル8を左側に旋回させると、移動用電動車両1は同様の原理で左側に旋回する。
【0034】本発明における移動用電動車両1のペダル7および後輪(駆動輪)4は上記に説明したように構成されているので、ペダルと駆動輪とは機械的に連結されていないにも関わらず、ペダルと駆動輪とがあたかもチェーン等で機械的に連結されているかのような感覚を搭乗者に与えるように構成され、またペダル7には負荷付与手段9が組み込まれているので、機能回復訓練中の障害者や高齢者が移動に使用できるとともに、機能回復訓練を併せて行うことができる。
【0035】一方、ペダル7の代わりにジョイスティックやレバー機構等の位置指令および速度指令装置を取り付けることによって、手で操作可能な電動車両に容易に転用することも可能である。
【0036】
【発明の効果】機能回復訓練中の障害者や高齢者が所望の場所に自力で移動するには、電動車椅子が多く利用されるが、障害を有する脚に全く負荷がかからないために脚力の低下に繋がるという問題がある。また、脚機能を使用して脚の機能を維持させることを目的として電動補助車椅子が提案されているが、人力と電気モーター2つの駆動力を用いているため、2つの駆動力の切り替えあるいは2つの駆動力の合成するための制御装置が複雑になり、また機構が複雑になるために構成部品も多くなり重量が重くなるという問題点を有する。また、機構が複雑になる結果価格も高くなるという問題点を有している。
【0037】本発明の移動用電動車両においては、ペダル部には、搭乗者の脚力に応じた負荷を付与する機構を設けることによって、搭乗者が移動用電動車両を自身の脚力で駆動しているかの感覚で操縦することが可能であるために、障害者および高齢者が所望の場所に容易に移動することが可能であるとともに、機能回復訓練の効果をも併せ持つものである。
【0038】また、本発明の移動用電動車両においては、搭乗者が足で操作するペダルによって移動車両の移動量および移動速度を決定するように構成されており、ペダルと駆動輪とを機械的に連結する動力伝達機構を持たずに、ペダルによって直接に駆動輪を駆動しているのと同様の効果が得られるように構成されており、機構を簡単化することによって、重量の軽減および低価格を達成している。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施の移動車両をしめす外観図である。
【図2】本実施の制御システムを説明するブロック図である。
【符号の説明】
1 電動車両
2 機体フレーム
3,3L,3R 前輪
4,4L,4R 後輪(駆動輪)
5 搭乗席
6 把持部
7 ペダル
8 ハンドル
9 負荷付与手段
10 負荷調整手段
11 制御部
12,12L,12R ドライバ
13 バッテリー
14 ハンドル保持部
15 回転角度検出センサ
16 旋回角度検出センサ
41,41L,41R モータ
42,42L,42R センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 搭乗者が脚で操作するペダルと、前記ペダルに設けられたペダルの回転角度を検出するセンサと、車両の駆動輪に駆動力を与える駆動手段と、前記駆動手段を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は前記センサの検出信号に基づいて演算した駆動輪の回転角度および回転速度の指令値を前記駆動手段に出力して前記駆動手段を制御することを特徴とする移動用電動車両。
【請求項2】 前記制御手段は、前記ペダルの回転方向と前記駆動輪の回転方向とを対応づけて前記駆動輪の回転角度および回転速度の指令値を出力することを特徴とする請求項1に記載の移動用電動車両。
【請求項3】 前記制御手段は、前記駆動輪の回転速度との推移をスムージングして前記駆動輪の回転速度の指令値を出力することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の移動用電動車両。
【請求項4】 前記制御手段は、前記ペダルと前記駆動輪との回転速度比を前記ペダルの回転速度に応じて変化させて前記駆動輪の回転速度の指令値を出力することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の移動用電動車両。
【請求項5】 前記ペダルの回転部に負荷付与手段を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の移動用電動車両。
【請求項6】 前記センサはエンコーダであることを特徴とする請求項1に記載の移動用電動車両。
【請求項7】 前記駆動手段は電気モータであることを特徴とする請求項1に記載の移動用電動車両。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2000−333311(P2000−333311A)
【公開日】平成12年11月30日(2000.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−175869
【出願日】平成11年5月20日(1999.5.20)
【出願人】(000107354)ジャパン・イー・エム株式会社 (1)
【Fターム(参考)】