説明

移動農機

【課題】トレッドの調節幅が大きく、様々な圃場状況において広く使用可能な移動農機を提供する。
【解決手段】乗用管理機は、伸縮機構31により機体幅方向にフロントアクスルケース29及びリヤアクスルケースを移動させることによって、トレッド調節を可能に構成されており、これらフロントアクスルケース29及びリヤアクスルケースは、伸縮自在な入力軸41を回転自在に軸支している。入力軸41は、中空円筒状の固定筒軸41aと、固定筒軸41aにスプライン嵌合した可動軸41bとから構成されており、可動軸41bは機体幅方向にスライド可能に設けられている。左右の入力軸41に動力を分配する差動装置39は、伝動上流側のサイドギヤ軸40上に設けられており、それにより可動軸41bはトレッド調節の際、フロント及びリヤミッションケースの中央部Sまで差動装置39に干渉することなく、スライドすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば乗用管理機などの移動農機に関し、詳しくはそのトレッド調節機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アクスルケース(車軸ケース)に内装された入力軸(車軸、スライド軸)に差動装置を設け、これらアクスルケース及び入力軸を機体幅方向に伸縮させて、トレッドを調節する移動農機(作業車)が案出されている(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2003−94907号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、トレッド調節可能な移動農機は、圃場や作業内容によって様々なサイズ及び数の畝を跨いで中耕、培土もしくは収穫などの作業を行うため、そのトレッドの調節幅は大きい方が望ましいが、特許文献1記載のように、入力軸により左右の前輪もしくは後輪に動力を伝達する移動農機は、その軸上に差動装置を設けており、トレッド調節の際にこれら差動装置と入力軸とが干渉して、その幅分だけトレッドの調節幅が狭くなってしまっていた。
【0005】
そこで本発明は、入力軸よりも伝動上流側に差動装置を設けて動力を分配し、左右の入力軸へそれぞれ出力することによって、上記課題を解決した移動農機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、それぞれアクスルケース(29,30)に支持された左右一対の前輪(2,2)及び後輪(3,3)を備え、前記前輪(2,2)及び後輪(3,3)の少なくとも一方にエンジン(11)からの動力が差動装置(39,67)を介して伝達されると共に、機体(5)に対して前記アクスルケース(29,30)を機体幅方向に移動自在に構成して、前記前輪(2,2)及び後輪(3,3)のトレッド(W,N)を調節可能な移動農機(1)において、
前記差動装置(39,67)から左右に突出する左右のサイドギヤ軸(40,69)と、
これら左右のサイドギヤ軸(40,69)に平行に配置されると共に、伝動後流側で前記左右のサイドギヤ軸(40,69)にそれぞれ連動する、前記アクスルケース(29,30)に支持された左右の入力軸(41,71)と、を備え、
トレッド調節に際して前記左右の入力軸(41,71)が、前記アクスルケース(29,30)と共に前記差動装置(39,67)と干渉することなく機体幅方向に移動し得るように構成した、
ことを特徴とする移動農機にある。
【0007】
請求項2に係る発明は、前記エンジン(11)からの動力が、それぞれ前記差動装置(39,67)を介して前記前輪(2,2)及び後輪(3,3)に伝達され、
前記左右の入力軸(41,71)が、フロントアクスル及びリヤアクスルケース(29,30)にそれぞれ支持されてなる、
請求項1記載の移動農機にある。
【0008】
なお、括弧内の符号等は、図面と対照するためのものであるが、これにより特許請求の範囲に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明によると、サイドギヤ軸上に差動装置を設け、これら左右のサイドギヤ軸を介して伝動後流側の入力軸に動力伝達することによって、差動装置の幅分だけ余計に入力軸を機体左右方向に移動させることができ、トレッドの調節幅が大きくなると共に、最小トレッドも狭くすることができる。
【0010】
請求項2に係る発明によると、前輪及び後輪を駆動させる4輪駆動式の移動農機においても、差動装置と干渉することなく入力軸が機体幅方向に移動することができ、トレッドの調節幅が大きくなると共に、最小トレッドも狭くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明の実施形態に係る移動農機としての乗用管理機1について、図面に基づいて説明する。図1乃至図3に示すように、乗用管理機1は、左右一対からなる略々同径の前輪2,2及び後輪3,3に支持された機体5を有しており、その前方には運転操作部6が設けられている。また、機体5の後方にはアッパリンク7a及びロアリンク7bからなる昇降リンク7が設けられており、該昇降リンク7を介してロータリ作業機10が油圧シリンダ9によって昇降自在に取付けられている。
【0012】
上記機体5は、その前後方向中央部である前輪2及び後輪3の間に、エンジン11、燃料タンク12などの重量物を集中して配置していると共に、前輪2の上方には、運転者が着座する運転座席13が配置され、後輪3の上方には、油圧式無段変速装置(HST)16が配置されている。
【0013】
図2に示すように、上記重量物は、機体バランス向上のため、最も重量のあるエンジン11が機体幅方向においても中央になるように配設されており、該エンジン11の右側方では、燃料タンク12が機体フレーム17の下側に取付けられていると共に、バッテリー15が燃料タンク12の上方に取付けられている。また、エンジン11の左側からは、マフラー19が延設されている。
【0014】
一方、上述した運転操作部6には、運転座席13の他にステアリングハンドル20が設けられており、該ステアリングハンドル20は、ステアリングコラム21に覆われたステアリング軸24(図10参照)の上端部に取付けられている。図4に示すように、上記ステアリングハンドル20からの回転は、ステアリング軸24の下方に設けられた中間軸22を介してフロントミッションケース(走行系伝動装置)23へと入力されており、詳しくは後述するステアリング機構25を介して前輪2,2を操向している。
【0015】
次に乗用管理機1のフロントアクスル及びリヤアクスル周りの構造について説明をする。図4及び図7に示すように、フロントアクスル機構26及びリヤアクスル機構27は、それぞれ分割構成のフロントアクスルケース29、リヤアクスルケース30及びその機体外側に設けられた車軸支持ケース38,74を備え、伸縮機構(トレッド調節機構)31,32の伸縮に応じて、これら車軸支持ケース38,74及びアクスルケース29,30を機体左右幅方向に移動させることによって、前輪2,2及び後輪3,3のトレッドW,Nを調節可能に設けられている。
【0016】
図4乃至図6に示すように、上記フロントアクスル機構26はフロントミッション(ケース)23、伸縮機構31、フロントアクスルケース29及び前輪2,2を操向自在に支持している車軸支持ケース38などからなり、上記フロントアクスルケース29は、フロントミッションケース23の円筒部23aと、上部ケース36の横筒部36aとから構成され、上記車軸支持ケース38は、キングピン軸35を内装する上部ケース36の縦筒部36b及びファイナルケース34から構成されている。なお、フロントミッションケース23の円筒部23aと上部ケース36の横筒部36aとの間は、ジャバラ部材37によって覆われており、分離状態にあっても、これら円筒部23a及び横筒部36aに回転自在に支持されている入力軸41が外部に露出することはない。
【0017】
上記フロントミッションケ−ス23には、伝動軸43を介してリヤミッションケース(走行系伝動装置)33から分岐された動力が入力されており、該伝動軸43の先端に設けられたベベルギヤ43aは、走行伝動系及びトレッド調節伝動系へと動力を分配する分配軸45のギヤ45aと噛合している。分配軸45に設けられたギヤ45bは、差動装置39と噛合して走行伝動系に動力を伝達しており、ケース中央部に位置する該差動装置39からは左右にサイドギヤ軸40,40が突出している。
【0018】
上記左右のサイドギヤ軸40,40に設けられたギヤ40a,40aは、それぞれフロントミッションケース23の円筒部23a,23aに内装され、中空円筒状に形成された左右の固定筒軸41a,41aに設けられたギヤ42,42と噛合しており、これら固定筒軸41a,41aは、固定筒軸41a,41aにスプライン嵌合し、機体幅方向に移動自在に設けられた左右の可動軸41b,41bと共に、上記サイドギヤ軸40,40に対して平行に設けられた左右の入力軸41,41を形成している。
【0019】
上記可動軸41b,41bの先端部は、左右の上部ケース36,36の横筒部36a,36aにそれぞれ内装されており、その先端部に設けられたギヤ46はキングピン軸35に設けられたギヤ35aと噛合している。また、上記キングピン軸35の下端に設けられたギヤ35bは、ファイナルケース34に回転自在に軸支されている前車軸47のギヤ47aと噛合しており、前車軸47を介して前輪2へと動力が伝達されている。
【0020】
上述したように走行伝動系において、フロントミッションケース23は、差動装置39を入力軸41ではなく、その伝動上流側のサイドギヤ軸上に設けているため、対向して配置された左右の入力軸41,41間であるフロントミッションケース23の中央部Sには、何の部材も配設されていない一定の空間が形成されており、左右の可動軸41b,41bは、フロントミッションケース23の中央部Sまでスライド可能となっている。
【0021】
更に、フロントミッションケース23の中央部Sでは、フロントミッションケース23との間に隔壁44が形成されており、可動軸41b,41bと差動装置39とが接触しないように構成されている。
【0022】
一方、トレッド調節伝動系では、分配軸45のギヤ45cと、クラッチ軸55のギヤ55aとが噛合して動力が伝達されており、該クラッチ軸55にはトルクリミッタかつ、上述した伸縮機構31への動力を断接するクラッチである爪式クラッチ56が設けられている。該爪式クラッチ56は、クラッチ軸55にスプライン嵌合している爪クラッチ体57と、クラッチ軸55に遊嵌している爪付きギヤ59とから構成されており、該爪付きギヤ59は、伸縮機構31を形成する左右のネジ軸53,53に設けられたギヤ54と噛合している。
【0023】
上記伸縮機構31は、外周に雄ネジ53aが形成された左右一対のネジ軸53,53と、該ネジ軸53の雄ネジ53aと螺合する雌ネジ52aがその内周に形成された、中空円筒状の伸縮筒52,52とから構成されており、フロントミッションケース23から左右に突出して設けられた支持ケース23bにより伸縮自在に支持されている。また、伸縮筒52の機体外側端部にはフランジ部52bが構成されており、該フランジ部52bは、上部ケース36と一体に構成された押圧プレート51にボルトによって固定されている。
【0024】
更に、伸縮機構31は、上記伸縮筒52のフランジ部52bに設けられたストッパシャフト61と、上記支持ケース23bに設けられた一対のストッパプレート62,62とからなるストッパ機構60を有しており、これらストッパプレート62,62の内、機体外側のストッパプレート62に穿設されたガイド孔にはストッパシャフト61が挿通されていると共に、ストッパプレート62,62間に位置しているストッパシャフト61の先端部にはガイド孔よりも径大な外れ防止部材61aが取付けられている。そのため、伸縮機構31は、上記ストッパシャフト61の先端がストッパプレート62,62に当接することにより、伸縮の上限及び下限が規制されている。
【0025】
なお、上部ケース36の縦筒部36bとファイナルケース34との間にはコイルスプリング49が介在しており、該コイルスプリング49などによって前輪2からの衝撃を緩衝するフロントサスペンション50が構成されている。
【0026】
また、図7及び図8に示すように、リヤアクスル機構27も上記フロントアクスル機構26と略々同様に構成されており、リヤミッション(ケース)33の分配軸63には、油圧式無段変速装置16を介してエンジン11からの動力が入力されている。該分配軸63に設けられたギヤ63aは、分岐軸65のギヤ65a及びクラッチ軸66のギヤ66aと噛合しており、走行伝動系及びトレッド調節伝動系とに動力を分配している。
【0027】
上記分岐軸65に出力された動力は、差動装置67に伝達されると共に、伝動軸43を介して上述したフロントミッションケース23に分岐されており、該差動装置67から左右に突出するサイドギヤ軸69,69には、サイドブレーキとしての多板式ブレーキ機構70,70がそれぞれ設けられている。
【0028】
左右のサイドギヤ軸69,69に伝達された動力は、左右の固定筒軸71a,71aへとそれぞれ伝達されており、中空円筒状に形成された固定筒軸71a,71aには、機体幅方向に移動自在に設けられた左右の可動軸71b,71bがスプライン嵌合している。これら固定軸71a,71a及び可動軸71b,71bによって左右の入力軸71,71が構成されており、リヤアクスルケース30に回転自在に支持されていると共に、サイドギヤ軸69に対して平行に配設されている。
【0029】
また、上記リヤアクスルケース30は、リヤミッションケース33の円筒部23aと、上部ケース72の横筒部72aとから構成されており、これら円筒部23aと横筒部72aとは、後輪3,3のトレッドW,Nに応じて分離可能に構成され、その間はジャバラ部材73によって覆われている。
【0030】
上記可動軸71bの先端部は、この上部ケース72の横筒部72aに回転自在に内装されており、上部ケース72内においてキングピン軸75へと動力を伝達している。このキングピン軸75は、上部ケース72の縦筒部72b及びファイナルケース76からなる車軸支持ケース74に回転自在に支持されていると共に、ファイナルケース76内において後車軸77へと動力伝達しており、該後車軸77を介して後輪3へと動力を出力している。
【0031】
上述したようにリヤミッションケース33もフロントミッションケース23と同様に、差動装置67をサイドギヤ軸上に設けており、対向して配置された左右の入力軸71,71間であるリヤミッションケース33の中央部Sには、一定空間が形成されているため、左右の可動軸71b,71bは、上記リヤミッションケース33の中央部Sまでスライド可能に構成されている。
【0032】
また、リヤミッションケース33の中央部Sでは、差動装置67との間に隔壁68が形成されており、可動軸71b,71bと、差動装置67とが接触しないように構成されている。
【0033】
一方、トレッド調節伝動系のクラッチ軸66には、トルクリミッタかつ、伸縮機構32への動力を断接するクラッチである爪式クラッチ79が設けられており、該爪式クラッチ79は、クラッチ軸66にスプライン嵌合している爪クラッチ体80と、クラッチ軸66に遊嵌している爪付きギヤ81とから構成されている。該爪付きギヤ81は、伸縮機構32を形成する左右のネジ軸82,82に設けられたギヤ82aと噛合しており、伸縮機構32へと動力を伝達している。
【0034】
上記伸縮機構32は、左右一対のネジ軸82,82の外周に設けられた雄ネジと、伸縮筒83,83の内周に設けられた雌ネジとが螺合して構成されており、伸縮筒83のフランジ部83aは、上部ケース72と一体に構成されている押圧プレート85にボルトによって固定されている。また、上記フランジ部83aにはストッパシャフト86が取付けられており、このストッパシャフト86の先端を支持ケース33bに設けられた一対のストッパプレート87,87間に配置することによって、ストッパ機構89が構成されている。
【0035】
なお、上述した伸縮機構31,32は、ネジ式ではなく、ラック&ピニオン、油圧、バネなどを使用したものでも良く、フロント及びリヤアクスルケース29,30に取りつけるものでも良い。
【0036】
次に、フロントアクスル及びリヤアクスルの爪式クラッチ56,79について説明する。
【0037】
上述したフロントアクスル及びリヤアクスルの爪式クラッチ56,79は、運転操作部6に設けられている前後連動操作レバー(不図示)を操作することによって断接されており、上記爪式クラッチ56,79の断接を操作するトレッド調節操作機構は、上記前後連動操作レバーと、フロントミッションケース23及びリヤミッションケース33にそれぞれ設けられたシフタ機構95とから構成されている。
【0038】
図9に示すように、上記シフタ機構95は、カム部材の回動により爪式クラッチ56,79を断接するシフタ106と、シフタ軸96と、該シフタ軸96を回動させるシフタアーム97と、支軸99を中心に回動自在な補助アーム100と、これらシフタアーム97及び補助アーム100の間に掛け渡されたスプリング101とから構成されており、図9(a),(b)に示すように、シフタアーム97の回動に応じてスプリング101が支点越えし、切断状態(図9(a)の状態)と係合状態(図9(b)の状態)とに切換え可能に構成されている。
【0039】
上記シフタアーム97及び補助アーム100は、略々長方形の板状部材であり、該シフタアーム97のボス部97aはシフタ軸96に設けられたキー96aと嵌合している。また、シフタアーム97のシフタ軸側端部には当接子97bが設けられ、他端部には上記前後連動操作レバーからの連結リンク102及びスプリング101の一端が取付けられている。
【0040】
一方、補助アーム100は、シフタアーム97の長手方向に対して、略々垂直に延設されており、そのボス部100aは、上記シフタ軸96を回転自在に支持しているホルダ103から側方に延びたブラケット105に突設された支軸99に回転自在に嵌合している。また、上記ボス部100aにはシフタアーム97の当接子97bと当接する当接子100bが取付けられており、これら当接子97b,100bによってシフタアーム97及び補助アーム100は互いに連動して回動する。
【0041】
更に、補助アーム100の支軸99とは逆側の端部にはスプリング101の他端が取付けられており、これによりスプリング101は、シフタアーム97側の取付け基部のみならず、他方の取付け基部も移動させることができ、少しの動きでも支点越えするように構成されている。
【0042】
上記シフタ軸96の下方には、カム部材106a及び取付け部材106bからなるシフタ106が設けられており、該カム部材106aは爪クラッチ体57,80の当接体57b,80bと当接している。爪クラッチ体57,80は、当接体57b,80bと、クラッチ軸55,66にスプライン嵌合している摺動体57a,80aとからなり、爪式クラッチ56,79は、上記シフタ106が回転して、爪クラッチ体57,80をスプリング107に抗して切断位置から係合位置へと移動させることにより、その係合が保持される構成となっている。
【0043】
次に、前輪2,2を操向するステアリング機構25について説明する。
【0044】
上記ステアリング機構25は、ステアリングハンドル20の回転に応じて前輪2,2を操向すると共に、トレッドW,Nの変更に際してその操向機構を作業者が調節する必要がないように構成されており、伸縮機構31と連動して伸縮する操向伝動軸90と、上部ケース36と連結して一体に構成された操向ケース91と、該操向ケース91に回転自在に内装された操向軸92と、該操向軸92とファイナルケース34のナックルアーム34aとを連結するリンク機構93などを備えている。
【0045】
図4及び図5に示すように、ステアリングハンドル20からの回転は、入力軸22によって、フロントミッションケース23に入力されており、ギヤ22a,94の噛合によって、操向伝動軸90を構成する操向固定筒軸90aへと出力される。
【0046】
操向伝動軸90は、フロントミッションケース23の機体幅方向全長に亘って回転自在に支持され、中空円筒状に形成された上記操向固定筒軸90aと、該操向固定筒軸90aにスプライン嵌合し、その左右両端からそれぞれ嵌挿される操向可動軸90b,90bとからなり、これら左右の操向可動軸90b,90bは機体幅方向に移動自在に構成されている。
【0047】
また、上記左右の操向可動軸90b,90bの機体外側端部は、それぞれ左右の操向ケース91,91に軸支されており、操向ケース91内において、その先端に設けられたギヤ95と、操向可動軸90bに対して機体上方に向って略々垂直に伸びる操向軸92の下端に設けられたギヤ92aとが噛合している。
【0048】
上記操向軸92は、機体上下方向に延設されていると共に、キングピン軸35と平行に配設されており、その上端には、リンク機構93を構成する操向アーム93aが設けられている。この操向アーム93aは、リンク93bによってファイナルケース34のナックルアーム34aと連結しており、操向軸92の回動と連繋して、ファイナルケース34をキングピン軸35を中心として回動させている。
【0049】
上記操向ケース91は、上部ケース36と一体に構成されているため、トレッド調整の際に伸縮機構31が伸縮すると、該上部ケース36及びファイナルケース34からなる車軸支持ケース38と連動して操向伝動軸90が伸縮し、機体幅方向に移動するように構成されており、これにより、上記ステアリング機構25は、操向ケース91の操向軸92と、ファイナルケース34との相対位置関係を常に略々一定に保っている。
【0050】
次に、乗用管理機1の動力伝達について説明する。
【0051】
図10に示すように、エンジン11の出力軸109には、2つプーリ109a,109bが固設されており、それぞれ油圧ポンプ110及び油圧式無段変速装置16の入力軸111,112に設けられたプーリ111a,112aとの間には、テンションクラッチプーリ113a,115aを介してベルト113,115が巻着されている。また、油圧式無段変速装置16に入力された動力は分配軸63によってリヤミッション(ケース)33へと出力され、後輪3,3へと伝達されている。
【0052】
また、上記リヤミッションケース33に入力された動力は、伝動軸43を介してフロントミッション(ケース)23へと分岐されており、該フロントミッション(ケース)23を介して前輪2,2へと動力が伝達されている。
【0053】
一方、上述した油圧ポンプ110の入力軸111にはロータリ作業機10へと動力を分岐するためのギヤ111bが設けられており、該ギヤ111bは、作業機クラッチ117を備えた作業機PTO軸116のギヤ116aと噛合している。上記作業機PTO軸116は作業機ギヤケース119へと入力しており、作業機ギヤケース119の入力軸120に遊嵌している正逆切換えギヤ121a,121bと噛合している。
【0054】
また、上記入力軸120にはそれぞれ歯数の異なったギヤ122a,122bが設けられており、ロータリ駆動軸123に遊嵌しているギヤ125a,125bとそれぞれ噛合している。作業機ギヤケース119は、遊嵌している上記正逆切換えギヤ121a,121bのどちらか一方を選択的に軸に係合させることによって、回転の正逆を操作すると共に、同様にロータリ駆動軸123のギヤ125a,125bの一方を選択的に係合させることによって、2段階に変速している。上記ロータリ駆動軸123には機体幅方向に移動自在に2つのロータリユニット129,129が設けられており、該ロータリ駆動軸123に入力された動力は、ロータリユニット129の伝動チェーン126を介してロータリ爪127へと伝動される。
【0055】
次に本発明の実施形態に係る乗用管理機1の作用について説明をする。
【0056】
作業者は、圃場の耕耘作業をする際、2つのロータリユニット129,129を接合して配置し、これら2つの接合したロータリユニット129,129を駆動させ、ロータリ爪127によって圃場を耕耘していく。
【0057】
一方、中耕、培土もしくは収穫などの圃場の畝A,Bのサイズに合わせてトレッドW,Nを変更しなければならない作業の場合、作業者はまず、運転操作部6にある前後連動操作レバー(不図示)を入側に操作する。前後連動操作レバーが入側に操作されると、図9に示すように、シフタアーム97が回動してスプリング101が支点越えし、シフタ機構95が係合状態(図9(b)の状態)へと切換わると共に、爪クラッチ体57,80がスプリング107の付勢力に抗して移動して、爪式クラッチ56,79が係合する。
【0058】
作業者は、爪式クラッチ56,79が係合して伸縮機構31,32へと動力が伝達されるようになると機体を前後に動かし、伸縮機構31,32を伸縮させて前輪2,2及び後輪3,3のトレッドW,Nを調整し、丁度いい位置で上記前後連動操作レバーを操作して爪式クラッチ56,79を切断する。この時、車軸支持ケース38の機体幅方向への移動と共に、操向伝動軸90が伸縮して操向ケース91も移動し、ステアリング機構25がトレッドW,Nに合わせて同時に調整される。
【0059】
なお、トレッド調節の際、機体を動かし過ぎると、ストッパ機構60,89が作動し、爪クラッチ体57,80が、爪付きギヤ59,81の爪の傾斜を乗り越えると共に、スプリング107の付勢力によって移動し、シフタ106を押圧してシフタ軸96を回動させる。このシフタ軸96の回動によりシフタアーム97が回動し、スプリング101を支点越えさせると共に、強制的にシフタ機構95を切断状態(図9(a)位置)にし、爪式クラッチ56,79を切断位置に保持する。
【0060】
作業者は、前輪2,2及び後輪3,3のトレッドW,N調節が終わると、次に2つのロータリユニット129,129をそれぞれ畝間の溝に合わせてそれぞれ配置し、ロータリ作業機10を駆動させると共に、機体5を畝に沿って走行させて、ロータリ爪127によって畝間の溝を浅く掘り起こし、除草をしたり、作物の株元に土を寄せたりする。
【0061】
上記のように乗用管理機1を構成したことによって、トレッドW,Nを圃場の畝A,Bのサイズに合わせて変更することができる。特に、差動装置39,67を入力軸41,71上ではなく、伝動上流側のサイドギヤ軸40,69上に設けたことによって、可動軸41b,71bがフロント及びリヤミッションケース23,33の中央部Sまでスライドすることができ、トレッドW,Nの調節幅が大きくなると共に、最小トレッドNを狭くすることができる。
【0062】
また、ステアリング機構25の操向伝動軸90が伸縮機構31と連動して伸縮することによって、作業者はトレッドW,Nの調節に際し、ドラッグリンクに相当するリンク機構93の長さ調節などをする必要がない。更に、トレッドW,Nを調節しても操向ケース91(操向軸92)とファイナルケース34との相対位置関係が一定なため、トレッドW,N変更後でもタイヤの切れ角が常に一定であり、安定した良好なステアリング感覚を維持することができる。
【0063】
また、伸縮機構31,32の伸縮がストッパ機構60,89によって規制されると、シフタ機構95を切断位置にし、自動的に爪式クラッチ56,79を切断することによって、トルクリミッタとして作動する爪式クラッチ56,79の連続的なトルク飛びを無くすことができると共に、その際に生じる爪の衝突音や、磨耗を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本願発明に係る乗用管理機の側面図。
【図2】本願発明に係る乗用管理機の平面図。
【図3】本願発明に係る乗用管理機の正面図。
【図4】(a)本願発明に係る乗用型管理機のフロントミッションケースの断面図、(b)本願発明に係るステアリング機構の操向ケースの断面図、(c)本願発明に係る乗用管理機のフロントアクスル(トレッド幅広状態時)の展開図。
【図5】本願発明に係る乗用管理機のフロントアクスル(トレッド幅狭状態時)の拡大展開図。
【図6】本願発明に係る乗用管理機のフロントアクスルの平面図。
【図7】(a)本願発明に係る乗用型管理機のリヤミッションケースの断面図、(b)本願発明に係る乗用管理機のリヤアクスル(トレッド幅広状態時)の展開図。
【図8】本願発明に係る乗用管理機のリヤアクスル(トレッド幅狭状態時)の展開図。
【図9】(a)切断状態のシフタ機構を示す平面図、(b)係合状態のシフタ機構を示す平面図、(c)図9(b)の側面図。
【図10】本願発明に係る乗用管理機の伝動系統図。
【符号の説明】
【0065】
1 乗用管理機(移動農機)
2 前輪
3 後輪
5 機体
11 エンジン
29 フロントアクスルケース(アクスルケース)
30 リヤアクスルケース(アクスルケース)
39 差動装置
40 サイドギヤ軸
41 入力軸
67 差動装置
69 サイドギヤ軸
71 入力軸
W 幅広時のトレッド
N 幅狭時のトレッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれアクスルケースに支持された左右一対の前輪及び後輪を備え、前記前輪及び後輪の少なくとも一方にエンジンからの動力が差動装置を介して伝達されると共に、機体に対して前記アクスルケースを機体幅方向に移動自在に構成して、前記前輪及び後輪のトレッドを調節可能な移動農機において、
前記差動装置から左右に突出する左右のサイドギヤ軸と、
これら左右のサイドギヤ軸に平行に配置されると共に、伝動後流側で前記左右のサイドギヤ軸にそれぞれ連動する、前記アクスルケースに支持された左右の入力軸と、を備え、
トレッド調節に際して前記左右の入力軸が、前記アクスルケースと共に前記差動装置と干渉することなく機体幅方向に移動し得るように構成した、
ことを特徴とする移動農機。
【請求項2】
前記エンジンからの動力が、それぞれ前記差動装置を介して前記前輪及び後輪に伝達され、
前記左右の入力軸が、フロントアクスル及びリヤアクスルケースにそれぞれ支持されてなる、
請求項1記載の移動農機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−220595(P2009−220595A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−63951(P2008−63951)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】