説明

移植機

【課題】 機体の重心を植付作業及び機体旋回時に各々適した位置に変更可能にする。
【解決手段】 本発明の移植機1は、植付対象の植付溝M1内を走行する走行車輪3と、該植付溝M1に隣接する植付溝M2を走行する補助車輪装置2とにより支持された機体4を備える。機体4には、植付溝M1に苗を植え付ける植付部10と、走行車輪3及び植付部10を駆動する駆動部11と、植付部10の後方に延設されたハンドル12とが装備されている。前後方向では走行車輪3の車軸よりも後方へずれた位置にあるとともに、左右方向では走行車輪3の接地範囲Wの内側でかつ該範囲Wの中央よりも補助車輪装置側へずれた位置にある植付作業用位置G1と、前後方向では植付作業用位置G1の後方に位置するとともに、左右方向では走行車輪3における補助車輪装置側の側方に位置する機体旋回用位置G2との間で、機体4の重心を移動可能に構成された重心移動装置13を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植付対象の植付溝内を走行する走行車輪に支持されるとともに、該植付対象の植付溝の左右いずれか一方に隣接する植付溝を走行する補助車輪装置により補助的に支持された機体を備えた移植機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の移植機としては、特許文献1に記載された1条植え移植機を例示する。この移植機は、図6に示すように、ポット苗Pを植付溝Mの溝底に移植するものであり、植付溝Mの溝底を走行する一対の走行車輪103及び補助車輪装置102に走行自在に支持された機体104と、植付溝に苗を植え付ける植付部105と、走行車輪103及び該植付部105を駆動するエンジン(図示略)と、作業者が植付作業時又は機体旋回時に機体104を操向するためのハンドル106とを備えている。
【0003】
この種の移植機では、植付作業中における機体104の重量バランスが最適になるように、機体104の重心位置Gが次のように設定されている。即ち、重心位置Gは、前後方向では、走行車輪103の車軸よりも後方へずれた位置に設定されることにより、機体104の前方への倒れ込みを防止するとともに、膨軟な圃場面を走行する走行車輪103の前進反力によるハンドル106側の沈み込みを抑制(ハンドル106の持ち上げ重量で10kg程度)するようになっている。また、重心位置Gは、左右方向では、走行車輪103の接地範囲の内側でかつ該範囲の中央よりも補助車輪装置側へずれた位置に設定されることにより、機体104が反補助車輪装置側に横転しないようにするとともに、補助車輪装置102に大きな荷重をかけないようにしている。補助車輪装置102に大きな荷重をかけない理由は、圃場面の走行時に駆動していない補助車輪装置102にかかる荷重が大きすぎると補助車輪装置102の車輪110が土中に潜って抵抗になり機体104の直進性を阻害するためであるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−219711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、従来の移植機には、図6に二点鎖線で示すように枕地Eで機体104を旋回させるとき、次の課題がある。
(1)旋回時には、ハンドル106を持ち上げることにより植付部105の作溝手段などを土中より抜き出した前傾姿勢に移植機をする必要があるが、前後方向の重心位置Gが前述した設定になっているため、前傾姿勢では前後バランスが前寄りとなってしまいハンドル106が浮き上がってしまう。このため、作業者はハンドル106を押し下げながら機体104を旋回させる必要があり、操作がやり難いという課題がある。
(2)植付溝Mと異なり不整地であることが多い枕地Eでは、旋回中に機体104が左右に大きく揺れてしまうことがあるが、左右方向の重心位置Gが前述した設定になっているため、補助車輪装置102側が浮き上がり易く、反補助車輪装置側に機体104が横転する可能性があるという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の移植機は、
植付対象の植付溝内を走行する走行車輪に支持されるとともに、該植付対象の植付溝の左右いずれか一方に隣接する植付溝を走行する補助車輪装置により補助的に支持された機体を備え、
該機体には、前記植付対象の植付溝に苗を植え付ける植付部と、前記走行車輪及び該植付部を駆動する駆動部と、該植付部の後方に延設され、作業者が植付作業時又は機体旋回時に前記機体を操向するためのハンドルとが装備された移植機であって、
前後方向では前記走行車輪の車軸よりも後方へずれた位置にあるとともに、左右方向では前記走行車輪の接地範囲の内側でかつ該範囲の中央よりも補助車輪装置側へずれた位置にある植付作業用位置と、
前後方向では前記植付作業用位置の後方に位置するとともに、左右方向では前記走行車輪における前記補助車輪装置側の側方に位置する機体旋回用位置との間で、前記機体の重心を移動可能に構成された重心移動装置を備えている。
【0007】
前記走行車輪の接地範囲とは、走行車輪が複数の車輪からなっているときは、該複数の車輪全体での接地範囲をいう。
【0008】
この構成によれば、前記重心移動装置により、前記機体の重心を前記植付作業用位置に設定すると、従来の移植機と同様に、前記機体の重量バランスが植付作業用に最適化された位置になる。また、前記機体の重心を前記機体旋回用位置に設定すると、前記機体の重量バランスが次のように機体旋回用に適した位置になる。即ち、前記機体旋回用位置では、前後方向における重心が前記植付作業用位置の後方に位置するので、旋回中に前記機体を前傾姿勢にしても前記ハンドルの浮き上がりが抑制され、操作がし易くなる。また、前記機体旋回用位置では、左右方向における重心が前記走行車輪における前記補助車輪装置側の側方に位置するので、旋回中に前記機体が左右に大きく揺れても、前記補助車輪装置の浮き上がりが抑制され、反補助車輪装置側への機体の横転が防止される。
【0009】
前記移植機においては、
前記重心移動装置は、上下方向に延びる軸を介して回動可能に前記機体に支持された回動アームと、該回動アームの位置を固定する固定部と、該回動アームの先端部に取り付けられた錘とを備え、
前記回動アームが前記先端部を前記機体の略前方へ向けるように回動されるとともに前記固定部により位置が固定されることにより前記機体の重心が前記植付作業用位置となり、前記回動アームが前記先端部を前記機体の前記補助車輪装置側の略側方へ向けるように回動されるとともに前記固定部により位置が固定されることにより前記機体の重心位置が前記機体旋回用位置となるように構成された態様を例示する。
【0010】
この構成によれば、シンプルな構造かつ低コストで前記重心移動装置を実現できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る移植機によれば、機体の重心を植付作業時及び機体旋回時のそれぞれに適した位置に適宜変更することができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明を具体化した一実施形態に係る移植機の平面図である。
【図2】同移植機を補助車輪装置側から見た側面図である。
【図3】同移植機の要部を示す背面図である。
【図4】同移植機の重心移動装置を示す図であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図5】同移植機が枕地でUターンしている様子を示す平面図である。
【図6】従来の移植機が枕地でUターンしている様子を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1〜図5は本発明を具体化した一実施形態の移植機1を示している。この移植機1は、白ネギのポット苗Pを植付溝Mの溝底Bに移植するものであり、植付対象の植付溝(以下、「作業溝M1」という。)内を走行する走行車輪3,3に支持されるとともに、該作業溝M1の左右いずれか一方に隣接する植付溝(以下、「隣接溝M2」という。)を走行する補助車輪装置2により補助的に支持された機体4を備えている。機体4には、作業溝M1に苗を植え付ける植付部10と、走行車輪3及び該植付部10を駆動する駆動部11と、該植付部5の後方に延設され、作業者が植付作業時又は機体旋回時に機体4を操向するためのハンドル12と、該機体の重心を移動させる重心移動装置13とが装備されている。
【0014】
植付部10は、図2に示すように、ポット苗箱から取り出されたポット苗Pを搬送する苗搬送装置6と、溝底Bに細溝を形成する溝掘器7と、苗搬送装置6により搬送されてきたポット苗Pを受け取って溝掘器7の後方で前記細溝に植え付ける植付装置8と、該植付装置8の後方で前記細溝を埋め戻すための左右一対の土寄輪9とを備えている。
【0015】
補助車輪装置2は、機体4に基端側が支持されて隣接溝M2内へ延びる取付アーム20と、該取付アーム20の先端側に取り付けられた車輪支持部21と、該車輪支持部21に取り付けられ、隣接溝M2の溝底Bを走行する一対の車輪22とを備えている。取付アーム20は、作業溝M1と隣接溝M2との間隔に応じて、又は、枕地Eでの旋回時に該枕地Eの広さに応じて、機体4から側方へ延びる長さを調節可能に構成されている。
【0016】
重心移動装置13は、前後方向では走行車輪3の車軸3aよりも後方へずれた位置にあるとともに、左右方向では走行車輪3の接地範囲Wの内側でかつ該範囲Wの中央よりも補助車輪装置側へずれた位置にある植付作業用位置G1と、前後方向では植付作業用位置G1の後方に位置するとともに、左右方向では走行車輪3における補助車輪装置側の側方に位置する機体旋回用位置G2との間で、機体4の重心を移動可能に構成されている。具体的には、本例の重心移動装置13は、機体4における走行車輪3の前側に配設された上下方向に延びる軸15を介して回動可能に支持された回動アーム16と、該回動アーム16の位置を固定する固定部17と、該回動アーム16の先端部に取り付けられた錘18とを備えている。そして、回動アーム16が前記先端部を機体4の略前方へ向けるように回動されるとともに固定部17により位置が固定されることにより機体4の重心が植付作業用位置G1となり、回動アーム16が前記先端部を機体4の補助車輪装置側の略側方へ向けるように回動されるとともに固定部17により位置が固定されることにより機体4の重心位置が機体旋回用位置G2となるように構成されている。本例の固定部17は、図4に示すように、回動アーム16の回動範囲に渡って軸15の径方向へ張り出すように形成されるとともに回動アーム16を固定する各位置に固定穴19a,19aが設けられた固定用プレート19と、いずれかの固定穴19aに対して回動アーム16を固定するための固定ピン20とを備えており、回動アーム16に設けられた被固定穴16aをいずれかの固定穴19aに合わせ、被固定穴16a及び固定穴19aに固定ピン20を挿通させることにより、回動アーム16を固定するようになっている。
【0017】
次に、本発明の移植機1を枕地EにおいてUターンさせる方法を説明する。まず、図5に実線で示すように移植機1が作業溝M1において植付作業を行っているときは、重心移動装置13により機体4の重心を植付作業用位置G1に設定しておく。移植機1が作業溝M1の端部に到達すると、枕地Eの広さ(機体旋回用のスペース)に合わせて取付アーム20の突出長を適宜短く調節するとともに、重心移動装置13により機体4の重心を機体旋回用位置G2に設定する。次いで、同図に二点鎖線で示すように、機体4を旋回させる。機体4の旋回が終了すると、重心移動装置13による重心の設定と、取付アーム20の突出長を旋回前の状態に戻し、次の植付溝Mに対し植付作業を行う。
【0018】
以上のように構成された本発明の移植機1によれば、重心移動装置13により、機体4の重心を植付作業用位置G1に設定すると、従来の移植機と同様に、機体4の重量バランスが植付作業用に最適化された位置になる。また、機体4の重心を機体旋回用位置G2に設定すると、機体4の重量バランスが次のように機体旋回用に適した位置になる。即ち、機体旋回用位置G2では、前後方向における重心が植付作業用位置G1の後方に位置するので、旋回中に機体4を前傾姿勢にしてもハンドル12の浮き上がりが抑制され、操作がし易くなる。また、機体旋回用位置G2では、左右方向における重心が走行車輪3における補助車輪装置側の側方に位置するので、旋回中に機体4が左右に大きく揺れても、補助車輪装置2の浮き上がりが抑制され、反補助車輪装置側への機体4の横転が防止される。
【0019】
また、本例の重心移動装置13は、上下方向に延びる軸15を介して回動可能に機体4に支持された回動アーム16と、該回動アーム16の位置を固定する固定部17と、該回動アーム16の先端部に取り付けられた錘18とを備えた構成としているので、シンプルな構造かつ低コストで実現できる。
【0020】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
(1)重心移動装置13における回動アーム16の固定手段を、固定部17とは異なる構成に適宜変更すること。
(2)重心移動装置13の重心位置を切り替える(重心位置の移動及び固定)ように駆動する駆動手段を設けるとともに、該駆動手段の操作部をハンドル12の近傍に設けることにより、作業者がハンドル操作時の位置から移動することなく重心移動装置13を制御可能に構成すること。前記駆動手段としては、手動、電動、油圧等によるものを例示する。
【符号の説明】
【0021】
1 移植機
2 補助車輪装置
3 走行車輪
3a 車軸
4 機体
5 植付部
6 苗搬送装置
7 溝掘器
8 植付装置
9 土寄輪
10 植付部
11 駆動部
12 ハンドル
13 重心移動装置
15 軸
16 回動アーム
16a 被固定穴
17 固定部
18 錘
19 固定用プレート
19a 固定穴
19b 固定ピン
20 取付アーム
21 車輪支持部
22 車輪
B 溝底
E 枕地
G1 植付作業用位置
G2 機体旋回用位置
M 植付溝
M1 作業溝
M2 隣接溝
P ポット苗
W 走行車輪の接地範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植付対象の植付溝内を走行する走行車輪に支持されるとともに、該植付対象の植付溝の左右いずれか一方に隣接する植付溝を走行する補助車輪装置により補助的に支持された機体を備え、
該機体には、前記植付対象の植付溝に苗を植え付ける植付部と、前記走行車輪及び該植付部を駆動する駆動部と、該植付部の後方に延設され、作業者が植付作業時又は機体旋回時に前記機体を操向するためのハンドルとが装備された移植機であって、
前後方向では前記走行車輪の車軸よりも後方へずれた位置にあるとともに、左右方向では前記走行車輪の接地範囲の内側でかつ該範囲の中央よりも補助車輪装置側へずれた位置にある植付作業用位置と、
前後方向では前記植付作業用位置の後方に位置するとともに、左右方向では前記走行車輪における前記補助車輪装置側の側方に位置する機体旋回用位置との間で、前記機体の重心を移動可能に構成された重心移動装置を備えた移植機。
【請求項2】
前記重心移動装置は、上下方向に延びる軸を介して回動可能に前記機体に支持された回動アームと、該回動アームの位置を固定する固定部と、該回動アームの先端部に取り付けられた錘とを備え、
前記回動アームが前記先端部を前記機体の略前方へ向けるように回動されるとともに前記固定部により位置が固定されることにより前記機体の重心が前記植付作業用位置となり、前記回動アームが前記先端部を前記機体の前記補助車輪装置側の略側方へ向けるように回動されるとともに前記固定部により位置が固定されることにより前記機体の重心位置が前記機体旋回用位置となるように構成された請求項1記載の移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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